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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129486
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】トンネルの変位予測方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20240919BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
G01C15/00 104A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038719
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 勇
(57)【要約】
【課題】上半掘削による変位が収束する前に下半掘削に伴う変位が生じる場合であっても、実挙動に可及的に合致した変位進行による変位予測を行うことのできる、トンネルの変位予測方法を提供する。
【解決手段】トンネルの変位予測方法であり、着目断面における変位特性曲線を求める変位特性曲線設定工程(ステップS10)と、2次元の解析モデルを用いた数値解析により、上半トンネルと下半トンネルの掘削によって生じるそれぞれの変位量を求める上下半変位量算定工程(ステップS12)と、変位特性曲線設定工程の着目断面における変位量が、上下半変位量算定工程にて算定されている変位量と合うように変位特性曲線を補正する変位曲線作成工程(ステップS14)と、着目断面における上半トンネルの掘削と下半トンネルの掘削によるそれぞれの変位量を求め、双方の変位量を加算して着目断面の全変位量を算定する全変位量算定工程(ステップS16)とを有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位予測対象のトンネルを、上半トンネルを先行掘削し、下半トンネルを後行掘削する、ベンチカット工法にて施工する際に、トンネルの縦断方向における該上半トンネルもしくは該下半トンネルの切羽から任意の距離にある着目断面における変位を予測する、トンネルの変位予測方法であって、
着目断面における切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時における変位特性曲線を求める、変位特性曲線設定工程と、
前記変位予測対象のトンネルを解析対象とした2次元の解析モデルを用いた数値解析により、前記上半トンネルの掘削によって生じる、応力解放率を考慮した切羽到達時と掘削完了時のそれぞれの変位量と、前記下半トンネルの掘削によって生じる、応力解放率を考慮した切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量を求める、上下半変位量算定工程と、
前記変位特性曲線設定工程の前記着目断面における切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時の変位量が、前記上下半変位量算定工程にて算定されている、前記上半トンネルと前記下半トンネルのそれぞれの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量と合うように、前記変位特性曲線を補正することにより、前記上半トンネルの上半変位曲線と、前記下半トンネルの下半変位曲線を求める、変位曲線作成工程と、
前記上半変位曲線と前記下半変位曲線に基づいて、前記変位予測対象のトンネルの前記着目断面における、前記上半トンネルの掘削による変位量と前記下半トンネルの掘削による変位量を求め、前記上半トンネルと前記下半トンネルの切羽からの距離である切羽離れを考慮して、双方の該変位量を加算することにより該着目断面の全変位量を算定する、全変位量算定工程とを有することを特徴とする、トンネルの変位予測方法。
【請求項2】
前記変位特性曲線設定工程では、
所定の断面形状及び断面積のトンネルの3次元の解析モデルを用いた数値解析により、前記変位特性曲線を求めること、又は、3次元解析に基づく公知の地山の特性曲線を利用することを特徴とする、請求項1に記載のトンネルの変位予測方法。
【請求項3】
前記上下半変位量算定工程では、前記変位特性曲線設定工程にて求められている前記変位特性曲線を用いて、前記応力解放率を求めることを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネルの変位予測方法。
【請求項4】
前記上下半変位量算定工程では、前記上半トンネルと前記下半トンネルの切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの応力解放率α、βに関し、応力解放率αを30~50%に設定し、応力解放率βを100-α%に設定することを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネルの変位予測方法。
【請求項5】
前記上下半変位量算定工程では、前記変位予測対象のトンネルの施工区間において設定される設計断面に対して、事前の土質調査により特定されている地山の物性値を用いた2次元の解析モデルに基づき、前記上半トンネルの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時、次いで前記下半トンネルの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のステップ解析を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネルの変位予測方法。
【請求項6】
前記トンネルの施工の過程で実施される、変位計測工程をさらに有し、
前記変位曲線作成工程では、前記変位計測工程にて計測された計測データを反映して、前記上半変位曲線と前記下半変位曲線を修正することを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネルの変位予測方法。
【請求項7】
前記変位予測対象のトンネルの断面積と等価な断面積の円形断面のトンネルの直径をDとした際に、ベンチ長が5D以下のミニベンチもしくはショートベンチのベンチカット工法を用いたトンネルの施工の際に適用することを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネルの変位予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの変位予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、掘削に伴う壁面の変形量を、日々の計測方法である所謂A計測にて計測して記録することにより、安全管理を行っている。また、2次元解析や3次元解析により、掘削中の壁面の変位量を予測することが一般に行われている。
しかしながら、2次元解析では、上半トンネルの切羽と下半トンネルの切羽を同時に掘削する、所謂全断面掘削か、上半トンネルの切羽の掘削完了後に下半トンネルの掘削を行う、上半先進掘削(ロングベンチカット工法)の2通りでしか掘削の過程を表すことができない。いずれの掘削方法であっても、掘削された切羽が着目断面に到達する以前と以後において、地山の持っている応力をある割合にて解放することにより、掘削や変位が表現されている。
【0003】
ここで、ベンチカット工法によるトンネルの施工概要を、図1を参照して概説する。尚、図1では、トンネルの掘進方向に直交する断面形状が、馬蹄形を呈するトンネルの例を示している。図1に示すように、トンネルTの施工においては、上半トンネルを先進掘削することにより、掘進方向の前方に上半切羽K1が施工され、ベンチB離れた後方に、下半切羽K2が施工されている。
上半切羽K1と下半切羽K2の間の任意地点に着目断面Uがあるとした場合、着目断面Uと上半切羽K1との間が上半切羽離れS1となり、着目断面Uと下半切羽K2との間が下半切羽離れS2となる。
ここで、断面形状が馬蹄形のトンネルTの断面積と等価な断面積の円形断面のトンネルの直径(換算径)をDとした際に、ベンチBの長さ(ベンチ長)が5D以下の場合を、ミニベンチもしくはショートベンチと称し、ベンチBの長さが5Dを超える場合を、ロングベンチと称することができる。
図1に示すように、掘削断面が上半トンネルと下半トンネルに分かれているベンチカット工法において、2次元解析では上半トンネルの掘削(上半掘削)と下半トンネルの掘削(下半掘削)によるそれぞれの変位量は、それぞれに固有の異なるステップにて計算される。
【0004】
ところで、ベンチ長が短いミニベンチやショートベンチにおいては、上半掘削による変位が収束する前に、下半掘削に伴う変位が生じる場合が往々にしてある。このように、上半掘削による変位と下半掘削による変位を分離できない状況では、解析結果が実挙動と合致せず、2次元解析では変位進行を予測することができないといった課題がある。
【0005】
ここで、図2には、全断面掘削、ロングベンチのベンチカット工法、ミニベンチもしくはショートベンチのベンチカット工法の各施工方法に関し、着目断面における掘削の経過時間と変位量の関係を概念的に示している。
図2において、実線はロングベンチのベンチカット工法、一点鎖線はミニベンチもしくはショートベンチのベンチカット工法、点線は全断面掘削の場合の概念図である。図2に示すように、全断面掘削では、掘削後の短時間の間に変位が収束する。一方、ロングベンチのベンチカット工法では、上半掘削による変位が収束した後に、下半掘削による変位が生じることから、上半掘削による変位と下半掘削による変形を明確に分離することができる。
対して、ミニベンチもしくはショートベンチのベンチカット工法では、上半掘削による変位が収束する前に下半掘削による変位が生じることから、双方の変位を分離することができない。そのため、2次元解析では変位進行を予測することができないことになる。
【0006】
そこで、変位予測対象のトンネルの3次元モデルを用いて、掘削ステップを忠実に再現した3次元解析を実行することにより、解析中の上半切羽位置と下半切羽位置を任意に設定できることから、ベンチ長が短い場合でも変位進行の予測が可能になる。しかしながら、このような3次元解析では、2次元解析に比べて解析の準備と実行に多くの時間がかかるといった固有の課題がある。
【0007】
ここで、特許文献1には、トンネルの最終変位量予測方法が提案されている。この最終変位量予測方法は、任意に標準モデルとして設定した3次元有限要素法モデルによって、掘削進行状況を反映した3次元有限要素法シミュレーション解析を行い、地山種別及び支保構造並びに掘削工法別毎に、各計測ポイントの初期変位速度と地山剛性比αとの関係式、少なくとも最終変位量と地山剛性比αとの関係式を得る第1手順と、トンネルの掘削後に、切羽前面に設置した3Dレーザースキャナによる計測によって各計測ポイントの初期変位速度データを取得する第2手順と、第1手順によって得た初期変位速度と地山剛性比αとの関係式に当てはめ、掘削部位の地山剛性比α1を算出し、最終変位量と地山剛性比αとの関係式に基づいて、各計測ポイントの最終変位量を算出する第3手順とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-121487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のトンネルの最終変位量予測方法によれば、トンネル現場において容易に運用し得る山岳トンネルの変位量予測方法を提供できるとしているが、このトンネルの最終変位量予測方法は、上記するように、上半掘削による変位が収束する前に下半掘削に伴う変位が生じる場合に、実挙動に可及的に合致した変位進行による変位予測を実現する手段を開示するものではない。
【0010】
本発明は、解析に要する時間が長くなることを解消でき、上半掘削による変位が収束する前に下半掘削に伴う変位が生じる場合であっても、実挙動に可及的に合致した変位進行による変位予測を行うことのできる、トンネルの変位予測方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネルの変位予測方法の一態様は、
変位予測対象のトンネルを、上半トンネルを先行掘削し、下半トンネルを後行掘削する、ベンチカット工法にて施工する際に、トンネルの縦断方向における該上半トンネルもしくは該下半トンネルの切羽から任意の距離にある着目断面における変位を予測する、トンネルの変位予測方法であって、
着目断面における切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時における変位特性曲線を求める、変位特性曲線設定工程と、
前記変位予測対象のトンネルを解析対象とした2次元の解析モデルを用いた数値解析により、前記上半トンネルの掘削によって生じる、応力解放率を考慮した切羽到達時と掘削完了時のそれぞれの変位量と、前記下半トンネルの掘削によって生じる、応力解放率を考慮した切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量を求める、上下半変位量算定工程と、
前記変位特性曲線設定工程の前記着目断面における切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時の変位量が、前記上下半変位量算定工程にて算定されている、前記上半トンネルと前記下半トンネルのそれぞれの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量と合うように、前記変位特性曲線を補正することにより、前記上半トンネルの上半変位曲線と、前記下半トンネルの下半変位曲線を求める、変位曲線作成工程と、
前記上半変位曲線と前記下半変位曲線に基づいて、前記変位予測対象のトンネルの前記着目断面における、前記上半トンネルの掘削による変位量と前記下半トンネルの掘削による変位量を求め、前記上半トンネルと前記下半トンネルの切羽からの距離である切羽離れを考慮して、双方の該変位量を加算することにより該着目断面の全変位量を算定する、全変位量算定工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、ベンチカット工法にてトンネルを施工する際のトンネルの変位予測に関し、着目断面における切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時における変位特性曲線を予め求めておき、変位予測対象のトンネルに関する2次元の解析モデルを用いた数値解析により、上半トンネルと下半トンネルのそれぞれの掘削によって生じる、応力解放率を考慮した切羽到達時と掘削完了時のそれぞれの変位量を求め、変位特性曲線における着目断面の変位量と、上半トンネルと下半トンネルの数値解析による変位量が合うように変位特性曲線を補正して上半変位曲線と下半変位曲線を求め、これらの変位曲線に基づいて変位予測対象のトンネルの着目断面における上半掘削と下半掘削による変位量を求め、それぞれの変位量を加算して全変位量を算定することにより、実挙動に可及的に合致した変位進行による変位予測を行うことができる。また、変位予測対象のトンネルの3次元モデルを用いて、掘削ステップを忠実に再現した3次元解析を実行する場合と異なり、解析に要する時間が長くなることを解消できる。
ここで、変位曲線作成工程では、変位特性曲線における着目断面の変位量と、上半トンネルと下半トンネルの数値解析による変位量が合うように変位特性曲線を補正する方法として、双方の変位量が一致するように変位特性曲線を引き延ばす(ストレッチする)方法を一例として挙げることができる。
【0013】
また、本発明によるトンネルの変位予測方法の他の態様において、
前記変位特性曲線設定工程では、
所定の断面形状及び断面積のトンネルの3次元の解析モデルを用いた数値解析により、前記変位特性曲線を求めること、又は、3次元解析に基づく公知の地山の特性曲線を利用することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、所定の断面形状及び断面積(断面寸法)のトンネルの3次元の解析モデルを用いた数値解析にて変位特性曲線を求めること、もしくは、3次元解析に基づく公知の地山の特性曲線を変位特性曲線として利用することにより、この変位特性曲線を様々な形状及び断面積のトンネルに適用することができる。ここで、所定の断面形状には、馬蹄形や楕円形、円形(真円)等を挙げることができる。
【0015】
また、本発明によるトンネルの変位予測方法の他の態様において、
前記上下半変位量算定工程では、前記変位特性曲線設定工程にて求められている前記変位特性曲線を用いて、前記応力解放率を求めることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、変位特性曲線設定工程にて求められている変位特性曲線を用いて応力解放率を求めることにより、高い精度で応力解放率を設定することができる。
【0017】
また、本発明によるトンネルの変位予測方法の他の態様において、
前記上下半変位量算定工程では、前記上半トンネルと前記下半トンネルの切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの応力解放率α、βに関し、応力解放率αを30~50%に設定し、応力解放率βを100-α%に設定することを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、上半トンネルと下半トンネルの切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの応力解放率α、βに関して、応力解放率αを30~50%に設定し、応力解放率βを100-α%に設定することにより、解析によることなく、簡易的に応力解放率を設定することができる。
【0019】
また、本発明によるトンネルの変位予測方法の他の態様において、
前記上下半変位量算定工程では、前記変位予測対象のトンネルの施工区間において設定される設計断面に対して、事前の土質調査により特定されている地山の物性値を用いた2次元の解析モデルに基づき、前記上半トンネルの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時、次いで前記下半トンネルの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のステップ解析を行うことを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、事前の土質調査により特定されている地山の物性値を用いた2次元の解析モデルに基づくステップ解析により、上半トンネルと下半トンネルのそれぞれの掘削によって生じる、切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量を求めることにより、変位予測対象の断面を有するトンネルの上半トンネルと下半トンネルのそれぞれの掘削の際の変位量を高い精度で求めることができる。
【0021】
また、本発明によるトンネルの変位予測方法の他の態様は、
前記トンネルの施工の過程で実施される、変位計測工程をさらに有し、
前記変位曲線作成工程では、前記変位計測工程にて計測された計測データを反映して、前記上半変位曲線と前記下半変位曲線を修正することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、トンネルの施工の過程で実施される変位計測工程にて計測された計測データを反映して、上半変位曲線と下半変位曲線を修正することにより、計測データを反映したより精度の高いトンネルの変位予測を実現できる。
【0023】
また、本発明によるトンネルの変位予測方法の他の態様は、
前記変位予測対象のトンネルの断面積と等価な断面積の円形断面のトンネルの直径をDとした際に、ベンチ長が5D以下のミニベンチもしくはショートベンチのベンチカット工法を用いたトンネルの施工の際に適用することを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、ベンチ長が5D以下のミニベンチもしくはショートベンチのベンチカット工法を用いたトンネルの施工の際に適用されることにより、上半掘削による変位が収束する前に下半掘削に伴う変位が往々に生じる施工においても、実挙動に可及的に合致した変位進行による変位予測を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のトンネルの変位予測方法によれば、解析に要する時間が長くなることを解消でき、上半掘削による変位が収束する前に下半掘削に伴う変位が生じる場合であっても、実挙動に可及的に合致した変位進行による変位予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ベンチカット工法によるトンネルの施工概要を説明する図である。
図2】全断面掘削、ロングベンチのベンチカット工法、ミニベンチもしくはショートベンチのベンチカット工法の各施工方法に関し、着目断面における掘削の経過時間と変位量の関係を概念的に示す図である。
図3】実施形態に係るトンネルの変位予測方法の一例のフローチャートである。
図4】変位特性曲線の一例を示す図である。
図5】公知の地山の特性曲線の一例を示す図である。
図6】変位予測対象のトンネルを解析対象としたステップ解析を説明する図である。
図7】上半変位曲線の一例を示す図である。
図8】下半変位曲線の一例を示す図である。
図9A】変位特性曲線の補正方法の一例を示す図である。
図9B】変位特性曲線の補正方法の他の例を示す図である。
図10A】ロングベンチのベンチカット工法における、上半掘削に伴う変位量と下半掘削に伴う変位量の一例を説明する図である。
図10B】ロングベンチのベンチカット工法における、着目断面の全変位量の一例を説明する図である。
図11A】ショートベンチのベンチカット工法における、上半掘削に伴う変位量と下半掘削に伴う変位量の一例を説明する図である。
図11B】ショートベンチのベンチカット工法における、着目断面の全変位量の一例を説明する図である。
図12A】ショートベンチのベンチカット工法における、上半掘削に伴う変位量の具体例を示す図である。
図12B】ショートベンチのベンチカット工法における、下半掘削に伴う変位量の具体例を示す図である。
図13】上半切羽離れ、変位量、及びベンチ長を3軸とし、真円形状断面のトンネルのベンチ長が変化した際の複数の3次元掘削解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係るトンネルの変位予測方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[実施形態に係るトンネルの変位予測方法]
図1図3乃至図13を参照して、実施形態に係るトンネルの変位予測方法の一例について説明する。ここで、図3は、実施形態に係るトンネルの変位予測方法の一例のフローチャートである。また、図4は、変位特性曲線の一例を示す図であり、図5は、公知の地山の特性曲線の一例を示す図であり、図6は、変位予測対象のトンネルを解析対象としたステップ解析を説明する図である。さらに、図7は、上半変位曲線の一例を示す図であり、図8は、下半変位曲線の一例を示す図である。
【0029】
実施形態に係るトンネルの変位予測方法は、ベンチ長が短いミニベンチやショートベンチのベンチカット工法による施工において、上半掘削による変位が収束する前に下半掘削に伴う変位が生じる場合に、トンネルの掘進方向における任意の着目断面における変位予測(変位進行予測)を行う方法である。
【0030】
具体的には、図1において、断面形状が馬蹄形のトンネルTの断面積と等価な断面積の円形断面のトンネルの直径(換算径)をDとした際に、ベンチBの長さであるベンチ長が5D以下に設定されているトンネルの施工において、任意の着目断面U(上半切羽K1からの上半切羽離れS1と下半切羽K2からの下半切羽離れS2にある断面)における変位予測を行う方法である。
【0031】
図3に示すように、トンネルの変位予測方法は、変位特性曲線設定工程(ステップS10)、上下半変位量算定工程(ステップS12)、変位曲線作成工程(ステップS14)、全変位量算定工程(ステップS16)、及び変位計測工程(ステップS18)を有する。
【0032】
変位特性曲線設定工程(ステップS10)では、着目断面における切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時における変位特性曲線を求める。
【0033】
ここで、変位特性曲線を求める方法には、主として2つの方法がある。まず、第1の方法は、変位予測対象であるトンネルとは異なる、所定の断面形状及び断面積のトンネルの3次元の解析モデルをコンピュータ内で作成し、数値解析(素掘り掘削解析)を実行することにより、変位特性曲線を求める方法である。この方法では、変位予測対象のトンネルの断面形状及び断面積のトンネルの3次元の解析モデルを作成してもよいが、以下で説明するように、変位曲線作成工程において変位予測対象の断面形状及び断面積のトンネルのステップ解析に基づいて求められた変位量に合わせるようにして変位特性曲線を補正することから、任意の断面形状及び断面積のトンネルの解析モデルを作成してよい。
【0034】
任意の断面形状及び断面積の3次元の解析モデルを用いた数値解析により、図4に示すように変位特性曲線を作成する。ここで、横軸における、「切羽離れ/換算径」は、切羽離れを換算径で除して無次元化している。
【0035】
一方、変位特性曲線を求める第2の方法は、3次元解析に基づく公知の地山の特性曲線を利用する方法である。一例として、図5に示すように、「土木学会関西支部;三次元弾塑性有限要素法による山岳トンネルの逐次掘削解析、町田ら、p.366、2002」に記載される、地山の特性曲線を用いて変位特性曲線とすることができる。
【0036】
次に、上下半変位量算定工程(ステップS12)では、変位予測対象のトンネルを解析対象とした2次元の解析モデルを用いた数値解析を実行する。この数値解析により、上半トンネルの掘削によって生じる、応力解放率を考慮した切羽到達時と掘削完了時のそれぞれの変位量と、下半トンネルの掘削によって生じる、応力解放率を考慮した切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量を求める。
【0037】
上下半変位量算定工程では、変位特性曲線設定工程にて求められている変位特性曲線を用いて、図4に示す、上半掘削前の応力解放率aと、下半掘削前の応力解放率bを設定することができる。具体的には、上半掘削面積と上半切羽離れの関係から応力解放率aを設定し、下半掘削面積と下半切羽離れの関係から応力解放率bを設定することができる。
【0038】
一方、上半トンネルと下半トンネルの切羽到達前と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの応力解放率α、βの他の設定方法として、公知の文献に記載される数値を適用する方法もある。例えば、「試験研究所技術資料 第358号 トンネル数値解析マニュアル 平成10年10月 日本道路公団 試験研究所 道路研究部 トンネル研究室」によれば、素掘り時の応力解放率として、30%~50%が記載されている。そこで、この記載に基づき、応力解放率αを30~50%に設定し、応力解放率βを100-α%(従って、50%~70%)に設定することができる。
【0039】
図6に示すように、上下半変位量算定工程(ステップS12)では、変位予測対象のトンネルの施工区間において設定される設計断面に対して、事前の土質調査により特定されている地山の物性値を用いた2次元の解析モデルをコンピュータ内で作成し、ステップ0~4までのステップ解析を実行する。はじめに、ステップ0にて初期応力を設定し、初期応力の設定に際しては、鉛直方向応力Pvと水平方向応力Phを設定する。
【0040】
次に、ステップ1では、設定されている応力解放率aを用いて、上半切羽到達時の着目断面における変位量を算定する。次に、ステップ2では、応力解放率100-aを用いて、上半掘削完了時の着目断面における変位量を算定する。以上、ステップ1,2により、上半切羽掘削に伴う着目断面における変位量が算定される。
【0041】
次に、ステップ3では、設定されている応力解放率bを用いて、下半切羽到達時の着目断面における変位量を算定する。次に、ステップ4では、応力解放率100-bを用いて、下半掘削完了時の着目断面における変位量を算定する。以上、ステップ3,4により、下半切羽掘削に伴う着目断面における変位量が算定される。
【0042】
次に、変位曲線作成工程(ステップS14)では、変位特性曲線設定工程(ステップS10)の着目断面における切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時の変位量が、上下半変位量算定工程(ステップS12)にて算定されている、上半トンネルと下半トンネルのそれぞれの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量と合うように、変位特性曲線を補正する。この補正により、上半トンネルの上半変位曲線と、下半トンネルの下半変位曲線が求められる。
【0043】
具体的には、変位特性曲線の着目断面における切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時の変位量が、上下半変位量算定工程にて算定されている、上半トンネルの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量と合うように補正(引き延ばし、もしくはストレッチ)することにより、図7に示すように、上半掘削中の変位進行を推定可能な上半変位曲線f'(x1)が求められる。この上半変位曲線f'(x1)は、上半切羽の位置と換算径に関する関数となる。
【0044】
同様に、変位特性曲線の着目断面における切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時の変位量が、上下半変位量算定工程にて算定されている、下半トンネルの切羽到達時と切羽通過後の掘削完了時のそれぞれの変位量と合うように補正(引き延ばし、もしくはストレッチ)することにより、図8に示すように、下半掘削中の変位進行を推定可能な下半変位曲線g'(x2)が求められる。この下半変位曲線g'(x2)は、下半切羽の位置と換算径に関する関数となる。
【0045】
ここで、図9A図9Bを参照して、変位特性曲線の補正方法の一例を示す。まず、図9Aに示す補正方法は、起点(0,0)と終点(5,12)を結ぶ曲線を、起点(0,0)と終点(5,20)を結ぶ曲線となるように補正(ストレッチ)する方法である。補正前の起点と終点の間のf(x)の幅が12であったものが、f'(x)が20となるとき、xが0以上5以下の間のf'(x)も、起点からの増分割合が一定となるように、f'(x)=f(x)×20/12にて補正する。
【0046】
一方、図9Bに示す補正方法では、起点と終点の間のf(x)の幅が、f(5)-f(0)であったものが10になる。このとき、xが0以上5以下の間のf'(x)も、起点からの増分割合が一定となるように等倍する。
【0047】
図3に戻り、トンネルの施工の過程で、変位計測工程(ステップS18)を実施してもよい。変位曲線作成工程(ステップS14)では、変位計測工程(ステップS18)にて計測された計測データを反映して、上半変位曲線と下半変位曲線を修正することができる。
【0048】
全変位量算定工程(ステップS16)では、上半変位曲線と下半変位曲線に基づいて、変位予測対象のトンネルの縦断方向の着目断面における、上半トンネルの掘削による変位量と下半トンネルの掘削による変位量を求める。上半切羽K1からの上半切羽離れと、下半切羽K2からの下半切羽離れを考慮し、双方の変位量を加算することによって着目断面の全変位量を算定する。
【0049】
次に、図10図11を参照して、ロングベンチとショートベンチのそれぞれのベンチカット工法の場合における、上半掘削と下半掘削に伴う変位量、着目断面の全変位量の一例について説明する。ここで、図10Aは、ロングベンチのベンチカット工法における、上半掘削に伴う変位量と下半掘削に伴う変位量の一例を説明する図であり、図10Bは、ロングベンチのベンチカット工法における、着目断面の全変位量の一例を説明する図である。また、図11Aは、ショートベンチのベンチカット工法における、上半掘削に伴う変位量と下半掘削に伴う変位量の一例を説明する図であり、図11Bは、ショートベンチのベンチカット工法における、着目断面の全変位量の一例を説明する図である。
【0050】
まず、図10Aの左図と右図で示すように、上半掘削に伴う変位量と下半掘削に伴う変位量はいずれも、切羽離れが-20mの時点から変位が開始し、切羽離れが+20mの時点で変位が収束するものとする。
【0051】
図10Bに示すように、ベンチ長が40mであり、上半切羽と下半切羽を1mずつ同時に掘削するとした場合、上半切羽離れが+20mのときの下半切羽離れは-20m、上半切羽離れが+30mのときの下半切羽離れは-10m、上半切羽離れが+40mのときの下半切羽離れは±0mとなる。
【0052】
このように、ロングベンチのベンチカット工法では、上半掘削による変位が収束した後に下半掘削に伴う変位が生じ、上半掘削と下半掘削に伴う全変位量は、それぞれの変位曲線を足し合わせることにより求めることができる。
【0053】
一方、図11Aで示すように、ベンチ長が20mであり、上半切羽と下半切羽を1mずつ同時に掘削するとした場合、上半切羽離れが+20mのときの下半切羽離れは±0m、上半切羽離れが+30mのときの下半切羽離れは+10m、上半切羽離れが+40mのときの下半切羽離れは+20mとなる。
【0054】
図11Aで示す上半変位曲線と下半変位曲線を足し合わせると、図11Bに示すように、視覚的には、下半変位曲線を下方へずらして上半変位曲線と滑らかに連続させた曲線となる。
【0055】
このように、ショートベンチのベンチカット工法では、上半掘削による変位が収束する前に下半掘削による変位が生じ、上半掘削と下半掘削に伴う全変位量は、下半変位曲線をずらして上半変位曲線と滑らかに連続させることにより求めることができる。
【0056】
次に、図12を参照して、ショートベンチのベンチカット工法における、上半掘削と下半掘削に伴うそれぞれの変位量の具体例を示すとともに、全変位量の具体例について例示する。ここで、図12A図12Bはそれぞれ、ショートベンチのベンチカット工法における、上半掘削に伴う変位量と下半掘削に伴う変位量の具体例を示す図である。
【0057】
馬蹄形の断面形状のトンネルに関し、上半掘削面積が60m、下半掘削面積が40mである例を取り上げ、ある着目断面に対して上半切羽が3m前方にあり、下半切羽が3m後方にある状況での変位量を予測する。
【0058】
上半切羽の換算径は8.74mとなり、下半切羽の換算径は7.14mとなる。図12Aに示すように、上半切羽掘削に伴う変位量は、f'(3/8.74)=f'(0.34)、下半切羽掘削に伴う変位量は、g'(-3/7.14)=g'(-0.42)と推定される。
【0059】
よって、上半切羽位置と下半切羽位置の双方を考慮した合計の全変位量δは、これらを足し合わせて、δ=f'(0.34)+g'(-0.42)と推定される。
【0060】
実際の施工では、上半を一定長さ掘削後、下半を同程度の長さ掘削し、再度、上半の掘削と下半の掘削を繰り返し進めることが一般的であり、ある着目断面に対する上半切羽離れと下半切羽離れは、掘削が進むに従い変化し得る。しかしながら、図示例のトンネルの変位予測方法を適用することにより、掘削中の任意の時点における上半切羽と下半切羽のそれぞれの掘削に伴う変位量を、2次元解析の結果から予測することが可能になる。
【0061】
次に、図13を参照して、上半掘削による変位量と下半掘削による変位量を足し合わせることの妥当性について検証する。ここで、図13は、上半切羽離れ、変位量、及びベンチ長を3軸とし、真円形状断面のベンチ長が変化した際の複数の3次元掘削解析の結果を示す図である。例えば図中の丸で示した点は、「上半切羽離れが27m、ベンチ長が25m」であることから、下半切羽離れは27-25=2mであり、着目断面の2m前方に下半切羽が存在することを意味する。
【0062】
図中、「下半掘削に伴う変位」の曲線は、ベンチ長を35mで一定として行った、3次元解析における変位進行を表している。このケースでは、上半切羽と下半切羽が十分長く離れているため、着目断面から上半切羽が十分離れて上半掘削による変位が収束した後に、下半掘削による変位が開始されている。
【0063】
この変位曲線を上半掘削による部分と下半掘削による部分に分割し、ベンチ長を35mよりも短くした場合の変位進行を、それらの足し合わせによって推定したのが、図中の「上半・下半掘削に伴う変位」の曲線である。
【0064】
一方、図中の点線の曲線は、実際にベンチ長を35mよりも短くして行った3次元解析における変位進行を表しており、足し合わせによって推定された変位進行は、3次元解析結果と概ね重なっていることが確認されている。
【0065】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0066】
S10:変位特性曲線設定工程
S12:上下半変位量算定工程
S14:変位曲線作成工程
S16:全変位量算定工程
S18:変位計測工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13