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特開2024-129499温度測定装置、温度測定プログラム及び温度測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129499
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】温度測定装置、温度測定プログラム及び温度測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/42 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
G01K7/42 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038740
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】大泉 晶
(57)【要約】
【課題】温度測定に関して様々な状況を考慮して被測定物の温度を短時間で推定できる温度測定装置等を提供する。
【解決手段】被測定物の温度を推定する温度測定装置であって、温度の測定手段を被測定物に接触させた測定開始から所定期間経過までに離散的に測定された複数の測定値に基づいて、多項回帰式を用いて被測定物の推定温度を算出する算出手段、を備える。所定期間は、少なくとも測定手段による被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間である。多項回帰式は、被対象物における測定手段による複数の測定値のデータと被測定対象物の温度のデータとを含む教師データで学習された学習モデルを用いて決定される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の温度を推定する温度測定装置であって、
温度の測定手段を前記被測定物に接触させた測定開始から所定期間経過までに離散的に測定された複数の測定値に基づいて、多項回帰式を用いて該被測定物の推定温度を算出する算出手段、
を備え、
前記所定期間は、少なくとも前記測定手段による前記被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間であり、
前記多項回帰式は、前記被対象物における前記測定手段による前記複数の測定値のデータと該被測定対象物の温度のデータとを含む教師データで学習された学習モデルを用いて決定されたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
前記複数の測定値は、前記測定開始から所定期間経過までの間において、測定開始時の測定値を含めて一定時間毎に測定された測定値であることを特徴とする請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記被測定物の識別情報を取得する取得手段を、さらに備え、
前記算出手段は、前記識別情報に対応する前記多項回帰式を記憶手段から取得し、前記被測定物の推定温度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
被測定物の温度を推定する温度測定装置のコンピュータを、
温度の測定手段を前記被測定物に接触させた測定開始から所定期間経過までに離散的に測定された複数の測定値に基づいて、多項回帰式を用いて該被測定物の推定温度を算出する算出手段、
として機能させ、
前記所定期間は、少なくとも前記測定手段による前記被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間であり、
前記多項回帰式は、前記被対象物における前記測定手段による前記複数の測定値のデータと該被測定対象物の温度のデータとを含む教師データで学習された学習モデルを用いて決定されたことを特徴とする温度測定プログラム。
【請求項5】
被測定物の温度を推定する温度測定システムであって、
前記被測定物に接触して該被測定物の温度を測定する測定手段、
前記測定手段を前記被測定物に接触させた測定開始から所定期間経過までに離散的に測定された複数の測定値に基づいて、多項回帰式を用いて該被測定物の推定温度を算出する算出手段、
を備え、
前記所定期間は、少なくとも前記測定手段による前記被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間であり、
前記多項回帰式は、前記被対象物における前記測定手段による前記複数の測定値のデータと該被測定対象物の温度のデータとを含む教師データで学習された学習モデルを用いて決定されたことを特徴とする温度測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定物の温度を推定する温度測定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気プラントなどでは、蒸気などを輸送するための配管系を構成する配管(輸送管)、スチームトラップなどのトラップ類等について定期的に保守・点検が行われている。具体的には、作業者が、診断対象物(測定対象物)の設置されている各場所へ行き、温度(表面温度)等を測定して異常がないか診断を行っている。
【0003】
温度の測定に関しては、温度予測(推定)を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。引用文献1では、皮膚発汗などによる熱抵抗を考慮して温度予測する方法が記載されている。このような温度予測によって、温度測定に要する時間も短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-093930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の温度予測する方法では、熱抵抗は考慮されているものの、温度測定における様々な状況に対応して温度予測を短時間で行うことが困難である。様々な状況としては、例えば、接触式の温度測定の場合、被測定物に測定センサを押し当てる際の押し当て方、回し方、ゆらぎ方などの状況が該当する。
【0006】
この発明は、温度測定に関して様々な状況を考慮して被測定物の温度を短時間で推定できる温度測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される温度測定装置は、被測定物の温度を推定する温度測定装置であって、温度の測定手段を被測定物に接触させた測定開始から所定期間経過までに離散的に測定された複数の測定値に基づいて、多項回帰式を用いて被測定物の推定温度を算出する算出手段、を備える。所定期間は、少なくとも測定手段による被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間である。多項回帰式は、被対象物における測定手段による複数の測定値のデータと被測定対象物の温度のデータとを含む教師データで学習された学習モデルを用いて決定される。
【0008】
上記複数の測定値は、測定開始から所定期間経過までの間において、測定開始時の測定値を含めて一定時間毎に測定された測定値としてもよい。
【0009】
被測定物の識別情報を取得する取得手段を、さらに備え、算出手段は、識別情報に対応する多項回帰式を記憶手段から取得し、被測定物の推定温度を算出するようにしてもよい。
【0010】
本発明の第2の側面によって提供される温度測定プログラムは、被測定物の温度を推定する温度測定装置のコンピュータを、温度の測定手段を被測定物に接触させた測定開始から所定期間経過までに離散的に測定された複数の測定値に基づいて、多項回帰式を用いて被測定物の推定温度を算出する算出手段、として機能させる。所定期間は、少なくとも測定手段による被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間である。多項回帰式は、被対象物における測定手段による複数の測定値のデータと被測定対象物の温度のデータとを含む教師データで学習された学習モデルを用いて決定される。
【0011】
本発明の第3の側面によって提供される温度測定システムは、測定物の温度を推定する温度測定システムであって、被測定物に接触して被測定物の温度を測定する測定手段、測定手段を被測定物に接触させた測定開始から所定期間経過までに離散的に測定された複数の測定値に基づいて、多項回帰式を用いて被測定物の推定温度を算出する算出手段、を備える。所定期間は、少なくとも測定手段による被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間である。多項回帰式は、被対象物における測定手段による複数の測定値のデータと被測定対象物の温度のデータとを含む教師データで学習された学習モデルを用いて決定される。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、様々な状況に基づく教師データを用いて学習された学習モデルによって決定された多項回帰式を用いて被測定物の温度が算出されるので、温度測定を行う作業者に関わらず、推定精度を良好に維持できる。また、被対象物の温度(最終到達温度)の測定に必要な時間よりも短い時間で温度推定でき、温度を測定するための作業時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施形態に係る温度測定システムの構成図である。
図2】この発明の実施形態に係る診断機の外観図である。
図3】この発明の実施形態に係るプロセス機器の一例を示す概略図である。
図4】プロセス機器の測定開始から、時間経過に伴う温度測定部の測定値の変化(温度上昇)を示すグラフである。
図5】この発明の実施形態に係る推定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照してこの発明の実施形態に係る温度測定システム(温度測定装置、温度測定プログラム)について説明する。なお、この発明の構成は、実施形態に限定されるものではない。また、以下で説明するフローを構成する各種処理の順序は、処理内容に矛盾等が生じない範囲で順不同である。
【0015】
図1は、この発明の実施形態に係る温度測定システム100の概略図である。温度測定システム100は、診断機10、端末装置(管理端末)20及びサーバ装置30等を有している。診断機10及び端末装置20は、例えば、ブルートゥース(登録商標)(Bluetooth(登録商標))等の通信方式によって、通信可能範囲において無線通信が可能である。端末装置20及びサーバ装置30は、インターネット等の通信ネットワークNを介して通信可能に接続されている。
【0016】
温度測定システム100は、被測定物の温度(表面温度)を推定する。本実施形態では、検査員等が診断機10(温度測定部11)を用いて測定した測定値に基づいて被測定物の実温度が推定される。すなわち、温度測定部11が最終到達温度(温度測定部11が被測定物の測定点と同じ温度)に達した状態を測定するのではなく、最終到達温度に達する前に温度測定部11が測定した測定値に基づいて、被測定物の推定温度が算出される。詳細は後述する。
【0017】
被測定物は、例えばプロセス機器である。プロセス機器とは、プロセス流体の流通を制御する機器であると定義する。具体的には、開閉弁、制御弁、安全弁、破裂板などが該当する。これらの例のうち、開閉弁及び制御弁は、グローブ弁、ゲート弁、ボール弁等の公知の方式の弁として実装される。
【0018】
プロセス流体とは、化学プラントを流通する原料、中間体、製品及び廃棄物の少なくとも一つを含む流体であると定義する。すなわち、プロセス流体とは、反応工程における反応物質や分離工程における分離対象の混合物などに対して直接に供給される物質、またはこれらの工程から直接に排出される物質に係る流体をいう。したがって、化学プラントにおいて用いられる流体であっても、化学プラントにおける生産活動において補助的に使用される流体(計装エアー、蒸気、冷媒、作動油など)は、プロセス流体の範疇に含めない。
【0019】
プロセス流体の例として、水素、硫化水素、飽和炭化水素(メタン、エタン、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタンなど)、不飽和炭化水素(エチレン、プロピレン、1-ブテン、シス-2-ブテン、トランス-2-ブテン、1-ペンテン、シス-2-ペンテン、トランス-2-ペンテン、2-メチル-1-ブテンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエンなど)などが挙げられる。ただし、プロセス流体は、上記の例に限定されない。また、プロセス流体は、混合物であってもよい。
【0020】
〈診断機の構成〉
図2は、診断機10の外観図である。診断機10は、温度測定装置として機能し、検査対象機器であるプロセス機器(被測定物)の推定温度の算出を行う。診断機10は、温度測定部11、演算部12、記憶部13、RFIDタグリーダ14及び通信部15等を有する。なお、診断機10は、プロセス機器のプロセス流体の漏洩量の算出を行う機能等も有するが詳細説明は省略する。
【0021】
温度測定部11は、プロセス機器の温度を測定する測定手段である。温度測定部11は、図2に示すように、棒状の探針10aの先端に設けられている。探針10aをプロセス機器に接触させることで(例えば図3参照)、温度測定部11による温度測定が実施可能となる。温度測定部11には、公知の温度測定素子(例えば、熱電対、測温抵抗体)が含まれる。
【0022】
温度測定部11は、測定開始から所定期間が経過するまで、離散的に温度の測定を実施する。より具体的には、温度測定部11は、測定開始から所定期間が経過するまで、一定時間毎に温度の測定値を取得する(測定開始時の測定値を含む)。
【0023】
所定期間は、少なくとも温度測定部11による被測定物の測定値が最終到達温度に達するよりも短い期間が設定される。すなわち、温度測定部11の温度測定素子の温度が測定点と同じ温度に到達するまでにかかる時間(応答時間)よりも短い期間が設定される。
【0024】
例えば、図4に示すように、本実施形態で用いられる温度測定部11(温度測定素子)の場合、熱伝導性の影響等の原因で安定する(最終到達温度に達する)までに約29秒間を要する。すなわち、応答時間としては約29秒間となる。図4は、診断機10の探針10a(温度測定部11)を、プロセス機器(図3で例示したバルブV)に接触させた(押し当て後の)測定開始から、時間経過に伴う温度測定部11の測定値の変化(温度上昇)を示すグラフである。図4の「#1」~「#3」は、温度測定部11の測定開始時の測定値(温度)が異なる状態で、同一のプロセス機器(測定点)に対して測定した結果を示す。なお、「#1」~「#3」の測定時におけるプロセス機器(測定点)の温度は同一である。
【0025】
本実施形態では、所定期間を温度上昇(変化)の大きい期間の5秒間とし、一定時間を1ミリ秒間とする。すなわち、温度測定部11は、測定開始から5秒間が経過するまで、測定開始時の測定値を含めて1ミリ秒間毎に温度の測定を実施する。
【0026】
温度測定部11によって測定された測定値は、データとして記憶部13に記憶される。記憶部13は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ等)である。
【0027】
演算部12は、温度測定部11によって測定された測定値に基づいてプロセス機器の温度(推定温度)を算出する算出手段である。演算部12は、CPU、メモリ(RAM)等を含む。算出方法については後述する。
【0028】
RFIDタグリーダ14は、各プロセス機器に取り付けられたRFIDタグから、当該プロセス機器の管理番号(識別情報)を読み取る取得手段である。読み取られた管理番号により、検査対象(被測定物)のプロセス機器が特定される。
【0029】
通信部15は、ブルートゥース(登録商標)(Bluetooth(登録商標))等に対応する通信回路を有し、各種の情報を、端末装置(通信部24)と送受信する。例えば、測定された温度の測定データ、及び、演算部12により演算処理された演算処理データ(例えば推定温度などの診断結果)を端末装置20(通信部24)に送信する。
【0030】
なお、ブルートゥース(登録商標)による通信方式を適用しているが、特にこれに限定されるものではない。端末装置20と通信可能であれば、Wi-Fi等の種々の通信方式を適用可能である。
【0031】
また、診断機10は、入力を受付可能な入力ボタン16、及び、検査員に対して情報を表示可能な液晶ディスプレイ17を有する。入力ボタン16は、液晶ディスプレイ17に表示される情報を切り替える操作などの入力を受け付ける。液晶ディスプレイ17には、測定された温度の測定値、推定温度等の演算部12による演算処理(算出処理)の結果、及び、作業に必要な種々の情報が表示される。
【0032】
〈端末装置の構成〉
端末装置20は、例えば、携帯可能なタブレット型コンピュータである。端末装置20は、検査員が診断機10とともに携帯し、検査対象機器であるプロセス機器(被測定物)の診断結果報告画面などの各種情報(例えば温度)を表示する。端末装置20は、タッチパネル21、記憶部22、演算部23及び通信部24等を有する。
【0033】
タッチパネル21は、液晶パネル等の表示部及びタッチパッドの入力部等から構成される。タッチパネル21は、検査員に対する入出力インターフェースとして機能する。また、タッチパネル21は、プロセス機器の診断結果報告画面を表示する。記憶部22には、診断機10から受信した各種データに加えて、診断対象の各プロセス機器に係る各種の情報が記憶される。記憶部22は、半導体メモリ(例えばフラッシュメモリ)である。
【0034】
演算部23は、記憶部22に記憶された各種データ及び各種情報に基づいて、タッチパネル21に表示する診断結果報告画面を生成する。診断結果報告画面には、プロセス機器に関する各種情報が含まれる。検査員は、診断結果報告画面において、温度(推定温度)等の各種情報を視認できる。演算部23は、CPU、メモリ(RAM)等を含む。
【0035】
通信部24は、ブルートゥース(登録商標)(Bluetooth(登録商標))及びWi-Fi等に対応する通信回路を有する。通信部24は、診断機10(通信部15)と各種の情報を送受信する。端末装置20は、受信したデータを、記憶部22に記憶する。また、通信部24は、ネットワークNを介してサーバ装置30(通信部33)と各種の情報を送受信する。
【0036】
〈サーバ装置の構成〉
サーバ装置30は、通信部33を介して端末装置20(通信部24)と各種の情報を送受信し、温度等のプロセス機器の各種の情報を記憶・管理する。サーバ装置30は、記憶部31、演算部32及び通信部33等を有する。
【0037】
記憶部31は、ハードディスク等の大容量記憶装置である。記憶部31は、プロセス機器の各種の情報を記憶する。本実施形態では、温度測定システム100において、サーバ装置30の記憶部31に記憶された情報がマスターデータとしての位置づけを有する。プロセス機器の各種の情報は、プロセス機器の管理番号に対応付けて記憶されている。
【0038】
演算部32は、記憶部31に記憶された各種の情報を更新する。例えば、新たにプロセス機器の診断結果を受信した場合、該当するプロセス機器の情報に、新たな診断結果を追加する。演算部32は、CPU、メモリ(RAM)等を含む。
【0039】
通信部33は、Wi-Fi等に対応する通信回路を有する。通信部33は、ネットワークNを介して端末装置20(通信部24)と各種の情報を送受信する。
【0040】
なお、サーバ装置30に対しては、端末装置20以外の他の端末装置(不図示)からもアクセスでき、記憶部31に記憶された各種の情報を、他の端末装置からも閲覧できる。例えば、検査員が診断機10及び端末装置20を用いてプロセス機器の診断作業(温度測定等)を行い、その診断結果をサーバ装置30に記憶させると、当該プロセス機器の管理者が診断結果を他の端末装置から閲覧できる。
【0041】
〈温度測定システムの運転方法〉
診断作業において、検査員は、診断機10および端末装置20を携帯しつつ移動し、プラント内に設置された各プロセス機器を一つずつ診断していく。以下、診断作業に関して、主として、温度の測定(推定)に必要な作業について説明する。
【0042】
検査員は、診断対象機器であるプロセス機器に到達すると、最初に、診断機10のRFIDタグリーダ14により、診断対象機器に取り付けられたRFIDタグを読み取る。これにより、演算部12は、診断対象機器の管理番号を取得する。
【0043】
取得された管理番号は、端末装置20に送信される。端末装置20の演算部23は、診断機10から受信した管理番号をキーとして、診断対象機器に関するデータが端末装置20の記憶部22に存在するか否かを検索する。該当するデータが存在する場合は、タッチパネル21に、診断対象機器に関する診断結果報告画面が表示される。
【0044】
また、演算部12が診断対象機器の管理番号を取得すると、液晶ディスプレイ17に、診断対象機器の測定を行うべき旨の指示が表示される。
【0045】
検査員が、診断機10の探針10aを診断対象機器の本体に押し当てる(接触させる)ことで診断が開始(温度測定開始)される。また、上述したように、少なくとも測定開始から所定期間(5秒間)、診断機10の探針10aを診断対象機器の本体に押し当てる。例えば、診断対象機器としてバルブVの診断を行う場合、図3に示すように、診断機10の探針10aをバルブVの一次側に押し当てればよい。これにより、温度測定部11による温度の測定が行われ、測定結果(測定値)が記憶部13に記憶される。
【0046】
本実施形態では、上述したように、一度の診断(温度測定)において、測定開始から所定期間(5秒間)の測定が、1ミリ秒間毎に実施される。すなわち、測定開始時の測定値を含め、測定開始からの5秒間で合計5000の測定値が取得される。各測定値は、例えば、時系列順に記憶部13に記憶される。
【0047】
上記温度の測定結果を取得した場合、演算部12は、推定処理の実行を開始する。図5は、推定処理のフローチャートを示す。推定処理では、主として、診断対象機器の温度の推定が行われる。
【0048】
演算部12は、管理番号に基づいて、診断対象機器用の多項回帰式を記憶部13から取得する(ステップS10)。多項回帰式は、プロセス機器の管理番号に対応付けて記憶部13に記憶されている。本実施形態の多項回帰式は、測定開始からの温度上昇と最終到達温度との関係を多項回帰分析により求めた回帰式である。多項回帰式の詳細については後述する。なお、図3で例示したバルブVの場合、後述する多項回帰式(1)が取得される。
【0049】
次に、演算部12は、算出処理を実行する(ステップS11)。算出処理では、多項回帰式を用いて推定温度が算出される。算出処理において、演算部12は、測定結果(取得された5000の各測定値)を独立変数として、多項回帰式から診断対象機器の推定温度を算出する。
【0050】
次に、演算部12は、算出した推定温度を診断対象機器の温度として記憶部13に記憶する決定処理を実行し(ステップS12)、判定処理を終了する。
【0051】
判定処理が終了すると、診断機10は、温度の測定結果及び推定温度等の診断結果を、端末装置20に送信する。端末装置20は、これらの情報を受信し、診断結果を受信した日時を診断日として記憶部22に記憶する。また、演算部23がこれらの情報を取得し、推定温度等が含まれるように診断結果報告画面を更新する。
【0052】
また、端末装置20は、記憶部22に記憶された診断結果等の各種の情報を、適宜サーバ装置30に送信する。サーバ装置30は、取得した診断結果等をマスターデータとして記憶部31に記憶する。
【0053】
〈多項回帰式〉
上述したように、本実施形態の多項回帰式は、測定開始からの温度上昇と最終到達温度との関係を多項回帰分析により求めた回帰式である。
【0054】
多項回帰式は、プロセス機器で想定される温度範囲内での推定温度の算出が対象である。すなわち、多項回帰式は、想定される温度範囲で最適化されている。例えば、図3で例示したバルブVの場合、想定される温度範囲は、0(℃)以上~450(℃)以下の範囲である。温度範囲は、プロセス機器の種別等によって異なる。
【0055】
〈多項回帰式の生成〉
本実施形態では、推定温度の算出に用いられる多項回帰式は、学習モデルを用いて決定される。例えば、教師データを用いて学習モデルを学習させることで、多項回帰式の次元、回帰係数が決定される。
【0056】
本実施形態では、プロセス機器の想定される温度範囲において、学習モデルを用いて多項回帰式を決定する。例えば、図3で例示したバルブVの場合、想定される温度範囲{0(℃)以上、450(℃)以下}において、学習モデルを用いて多項回帰式が決定される。
【0057】
本実施形態では、サーバ装置30の記憶部31に学習モデルのプログラムモジュールが記憶され、サーバ装置30の演算部32が学習モデルとして機能する。
【0058】
学習モデルは、例えば、入力層、中間層及び出力層等から構成されるニューラルネットワーク(Neural Network)である。入力層には、被測定物の測定開始から所定期間経過まで離散的に測定した複数の温度の測定値のデータが時系列順に入力される。出力層は、上述の全ての複数の温度の測定値のデータが入力層に入力されると推定温度を出力する。中間層では、多項回帰式を用いて推定温度が出力層から出力されるように、各種パラメータ(重み等)が設定されている。
【0059】
教師データには、被対象物に対して温度測定部による離散的に温度測定された複数の測定値のデータと、これら複数の測定値が測定された時の被対象物の温度(実温度)のデータとが含まれる。例えば、被測定物の想定される温度範囲において、被測定物の温度毎(例えば5℃毎に異なる温度)に、上述の教師データを用意する。また、被測定物の同一温度において、複数の教師データを用意する。
【0060】
教師データは、例えば、作業者が、被測定物に対する教師データ用の測定作業を実施することで用意すればよい。具体的には、作業者は、最初に、上記診断機10と同様の構成の診断機の探針を被測定物に接触させ、測定開始から所定期間(5秒間)が経過するまで一定時間(1ミリ秒間)毎に温度を測定する。これにより、測定開始時の測定値を含め、一定時間毎の複数の測定値のデータが取得される。その後、作業者は、校正された温度計を診断機の探針と同じ測定点に接触させ、被測定物の温度(実温度)を測定する。したがって、上記作業者による1回の教師データ用の測定作業で、離散的に温度測定された複数の測定値のデータと、これら複数の測定値が測定された時の被対象物の温度のデータとが取得される。なお、これらの測定結果を1の教師データとして、例えば、被測定物の管理番号に対応付けて、端末装置20を介してサーバ装置30の記憶部31に追加的に記憶していけばよい。そして、作業者は、例えば、被測定物の温度毎(例えば5℃毎に異なる温度)に、温度測定(教師データ用の測定作業)を行えばよい。
【0061】
なお、被測定物の温度(実温度)についても、校正された温度計に代えて、上記診断機10と同様の構成の診断機を用いて測定してもよい。この場合、例えば、作業者は、教師データ用の測定作業において、測定開始から5秒間が経過するまで、測定開始時の測定値を含めて1ミリ秒間毎に温度を測定する。さらに、作業者は、5秒間が経過した後も探針の被測定物への接触を継続し、30秒経過後に被測定物の温度も診断機に測定させる。
【0062】
また、上述の教師データ用の温度測定を、複数の作業者に実施させる。作業者によって、被測定物への探針10aの押し当て方なども異なるので、作業者による測定結果のばらつきも教師データに反映されることになる。
【0063】
なお、本実施形態の教師データは、実際に測定されたデータが用いられるが、シミュレータによって生成されたデータを用いてもよい。
【0064】
次に、上述の教師データを用いて、学習モデルに学習処理を実行させる。学習処理では、教師データのうち、離散的に測定した測定値のデータが時系列順に入力され、推定温度が出力される。
【0065】
そして、学習モデルは、取得した推定温度を、正解値(被対象物の温度)と比較し、中間層の重み等のパラメータを最適化する。具体的には、多項回帰式の次元、回帰係数が最適化されていく。全ての教師データによる学習処理が終了した場合、学習モデルの学習が終了する。これにより、学習モデルにおいて多項回帰式が最適化された状態となる。この最適化された多項回帰式が、診断機10(記憶部13)に記憶される。
【0066】
図示しないが、上記多項回帰式を用いての推定温度は、実際に測定された温度と比較しても誤差が少なく精度が高い。実際に測定された温度とは、温度測定素子が最終到達温度に到達する時間において、温度測定素子によって測定された実温度(測定値)である。
【0067】
例えば、図3で例示したバルブVの場合、上述の学習モデルによる学習の実行によって下記の多項回帰式(1)が得られる。バルブVの場合、学習モデルによる学習によって、多項回帰式(1)の「M」、「ωmd」が決定される。例えば、バルブVではM=1となる。
【0068】
【数1】
【0069】
なお、Mの値は、学習モデルではなく人為的に決定してもよい。この場合、例えば、学習モデルには、M=1,2,3・・・の数値別に学習処理を実施させる。そして、学習処理後のMの数値別の多項回帰式のうちから、推定温度の精度の良い多項回帰式を人為的に選択すればよい。
【0070】
バルブVに関して、上記多項回帰式を用いての推定温度と、実温度(最終到達温度)とを比較すると誤差は低く、推定温度の精度が高い。
【0071】
なお、本実施形態では、多項回帰式の決定(最適化)のために学習モデルが用いられ、診断機10による推定温度の算出には学習モデルは用いられていないが、用いてもよい。例えば、診断機10において、上述の多項回帰式用に学習済の学習モデルを機能させ、図4に示す算出処理において学習モデルを用いて推定温度を算出(出力)させればよい。
【0072】
また、本実施形態では、教師データを用いて学習モデルが生成されるが、教師データを用いないモデルであってもよい。例えば、強化学習によって学習モデルが生成されるようにしてもよい。
【0073】
また、学習モデルには、CNN(Convolution Neural Network)、SVM(Support Vector Machine)、決定木など、種々の学習アルゴリズムに基づくモデル等を適用してもよい。
【0074】
また、サーバ装置30が学習モデルの学習を実行しなくてもよい。他の端末装置を用いて実行してもよい。
【0075】
以上のように、様々な状況に基づく教師データを用いて学習された学習モデルによって決定された多項回帰式を用いて被測定物の温度が算出されるので、温度測定を行う作業者に関わらず、推定精度を良好に維持できる。また、被対象物の温度(最終到達温度)の測定に必要な時間よりも短い時間で温度推定でき、温度を測定するための作業時間を短縮することができる。
【0076】
なお、上述の実施形態では、所定期間を5秒間とし、一定時間を1ミリ秒間としているが、これに限定されるものではない。所定期間は、温度測定部(温度測定素子)の測定開始からの温度上昇の変化等の解析結果を考慮して決定すればよい。また、一定時間は、上記所定期間の長さ、温度測定部11(温度測定素子)の測定能力等を考慮して決定すればよい。
【0077】
上述の実施形態では、診断機(温度測定装置)は、被測定物の推定温度を算出する機能を有するが、被測定物の温度(最終到達温度)を測定する機能を有していてもよい。この場合、例えば、作業者が、いずれの機能を実行するかを選択すればよい。また、例えば、診断機によって最初に算出された推定温度が被測定物の正常温度の範囲外であった場合、診断機は自動的に被測定物の温度(最終到達温度)を測定するようにしてもよい。この場合、診断機の被測定物への接触が継続されるように、接触を継続するべき旨を報知する(例えば、液晶ディスプレイにメッセージ表示させる)ことが望ましい。また、診断機は、被測定物の正常温度の範囲のデータを記憶しておけばよい。
【0078】
さらに、例えば、被測定物への接触時間に応じて、被測定物の推定温度を算出する機能、及び、被測定物の温度(最終到達温度)を測定する機能のいずれを実行するかを診断機(温度測定装置又は温度測定システム)が決定してもよい。診断機は、例えば、温度以外にも、ロセス機器(被測定物)のプロセス流体の漏洩量も判定する機能を有する。診断作業において、診断機が、温度測定に加え、漏洩量の判定等の別の測定(診断)も実行する場合、他の診断で必要な接触時間に応じて、いずれを実行するかを決定すればよい。例えば、必要な接触時間が30秒未満の他の診断が温度測定とともに実行される場合、被測定物の推定温度が算出される。一方、必要な接触時間が30秒以上の他の診断が温度測定とともに実行される場合、被測定物の温度(最終到達温度)が測定される。
【0079】
上述の実施形態では、被測定物としてプロセス機器について説明したが、特にこれに限定されるものではない。例えば身体などを被測定物としてもよい。
【0080】
上述の実施形態では、診断機が推定温度を算出しているが、特にこれに限定されるものではない。端末装置又はサーバ装置が算出してもよい。この場合、診断機は、温度の測定結果(測定値)を、算出を行う装置に送信すればよい。
【0081】
上述の実施形態では、検査員が携帯した診断機を用いて温度の測定をしていたが、温度の測定装置をプロセス機器に設置して、定期的に診断結果をサーバ装置に送信するようにしてもよい。
【0082】
上述の実施形態では、診断機と端末装置とが区別されていたが、端末装置が診断機として機能してもよい。
【0083】
上述の実施形態では、プロセス機器のそれぞれについて、多項回帰式が設けられているが、プロセス機器の種別毎に設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
プロセス機器等の被測定物の温度を推定するのに有用である。
【符号の説明】
【0085】
10 診断機(温度測定装置)
11 温度測定部(測定手段)
12 演算部(算出手段)
14 RFIDタグリーダ(取得手段)
20 端末装置
30 サーバ装置
32 演算部(学習モデル)
100 温度測定システム
図1
図2
図3
図4
図5