(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129503
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】サーミスタ素子及び電磁波センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 17/28 20060101AFI20240919BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20240919BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H01C17/28
H01C7/04
G01J1/02 C
G01J1/02 R
G01J1/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038746
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】木本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】青木 進
(72)【発明者】
【氏名】原 晋治
(72)【発明者】
【氏名】小久保 眞生子
【テーマコード(参考)】
2G065
5E032
5E034
【Fターム(参考)】
2G065AA11
2G065AB02
2G065BA12
2G065BA14
2G065BA34
2G065BA38
2G065CA13
2G065CA27
2G065DA18
5E032BA15
5E032BB10
5E032CC08
5E032CC11
5E032CC14
5E034BA09
5E034BB08
5E034BC01
5E034DA07
5E034DC03
5E034DC05
5E034DC09
(57)【要約】
【課題】電極膜の亀裂の生じにくいサーミスタ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】サーミスタ素子11の製造方法は、金属酸化物からなるサーミスタ膜17を形成することと、サーミスタ膜17の上にサーミスタ膜17と接する第1の電極膜19を形成することと、第1の電極膜19が形成されたサーミスタ膜17に、酸素含有雰囲気中でアニール処理を施すことと、アニール処理が施された後、第1の電極膜19の上に第1の電極膜19と接する第2の電極膜20を形成することと、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなるサーミスタ膜を形成することと、
前記サーミスタ膜の上に前記サーミスタ膜と接する第1の電極膜を形成することと、
前記第1の電極膜が形成された前記サーミスタ膜に、酸素含有雰囲気中でアニール処理を施すことと、
前記アニール処理が施された後、前記第1の電極膜の上に前記第1の電極膜と接する第2の電極膜を形成することと、
を有する、サーミスタ素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の電極膜は金属で形成される、請求項1に記載のサーミスタ素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の電極膜は金属及び金属窒化物の少なくとも一方で形成される、請求項1に記載のサーミスタ素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の電極膜の膜厚は前記第2の電極膜の膜厚より小さい、請求項1に記載のサーミスタ素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のサーミスタ素子の製造方法を有する電磁波センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーミスタ素子及び電磁波センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線などの電磁波を検知する電磁波センサが知られている。特許文献1には、サーミスタ素子を有する電磁波センサが記載されている。サーミスタ素子は、金属酸化物からなるサーミスタ膜と、サーミスタ膜に電気的に接続された電極膜と、を有している。特許文献1には、サーミスタ膜と電極膜とが形成された後、酸素中で熱(アニール)処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたアニール処理を行うことで、成膜時においてサーミスタ膜に不足する可能性のある酸素をサーミスタ膜に取り込ませることができる。アニール処理の際サーミスタ膜は電極膜で覆われているため、電極膜は酸素が電極膜を透過するように薄く形成することが好ましい。しかし、薄い電極膜は、例えばサーミスタ素子が後工程で高温環境下に置かれた際に凝集を生じやすい。電極膜の凝集は電極膜の亀裂を引き起こし、電極膜の抵抗のばらつきや断線の原因となる。
【0005】
本発明は、電極膜の亀裂の生じにくいサーミスタ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、サーミスタ素子の製造方法は、金属酸化物からなるサーミスタ膜を形成することと、サーミスタ膜の上にサーミスタ膜と接する第1の電極膜を形成することと、第1の電極膜が形成されたサーミスタ膜に、酸素含有雰囲気中でアニール処理を施すことと、アニール処理が施された後、第1の電極膜の上に第1の電極膜と接する第2の電極膜を形成することと、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電極膜の亀裂の生じにくいサーミスタ素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る赤外線センサの分解斜視図である。
【
図3】
図1に示す電磁波センサのサーミスタ素子の概略断面図である。
【
図4】
図1に示す電磁波センサのサーミスタ素子の製造工程を示す概略図である。
【
図5】比較例のサーミスタ素子の概略断面図である。
【
図6】サーミスタ素子の製造工程の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照して、本発明のサーミスタ素子及び電磁波センサの製造方法のいくつかの実施形態について説明する。以下の説明及び図面において、X方向及びY方向は第1の基板2及び第2の基板3の主面と平行な向きであり、X方向はサーミスタ素子11のアレイの行方向に対応し、Y方向はサーミスタ素子11のアレイの列方向に対応している。主面とは、第1の基板2及び第2の基板3の互いに対向する面である。X方向とY方向は互いに直交している。Z方向はX方向及びY方向と直交する方向であり、第1の基板2及び第2の基板3の主面と垂直な方向である。
【0010】
以下の実施形態では、サーミスタ素子が2次元のアレイ状に配列した赤外線センサを対象とする。赤外線センサは電磁波センサの一例である。赤外線センサは主に長波長赤外線を検知する。長波長赤外線の波長は概ね8~14μmである。このような赤外線センサは主に赤外線カメラの撮像素子として利用される。赤外線カメラは暗所での暗視スコープ、暗視ゴーグルとして利用できるほか、人や物の温度測定などに利用可能である。また、複数のサーミスタ素子が1次元状に配列した赤外線センサは、各種の温度ないし温度分布を測定するセンサとして利用することができる。説明は省略するが、複数のサーミスタ素子が1次元状に配列した赤外線センサも本発明の範囲に含まれる。検出する電磁波は赤外線に限定されず、例えば波長100μm~1mmのテラヘルツ波であってもよい。
【0011】
(赤外線センサ1の構成)
図1は赤外線センサ1の概略的な部分斜視図を示している。
図1では後述する第1及び第2の配線部13X,13Yの図示を省略している。赤外線センサ1は互いに対向して配置された第1の基板2及び第2の基板3と、第1の基板2と第2の基板3とを接続する側壁(図示せず)と、を有している。第1の基板2と第2の基板3と側壁とによって密閉された内部空間4が形成されている。内部空間4は負圧ないしは真空にされている。これによって、内部空間4での気体の対流が防止または抑制され、サーミスタ素子11への熱的影響を軽減することができる。内部空間4には複数のサーミスタ素子11が設けられている。複数のサーミスタ素子11は、X方向に延びる複数の行とY方向に延びる複数の列からなる2次元の格子状のアレイをなし、各行はX方向に一定の間隔で配列された複数のサーミスタ素子11で構成され、各列はY方向に一定の間隔で配列された複数のサーミスタ素子11で構成されている。アレイを構成する複数のサーミスタ素子11のそれぞれはこのアレイにおける一つのセルないし画素を構成する。アレイの行列数としては例えば640行×480列、1024行×768列などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
第1の基板2にはROIC(Readout IC)などの素子5が形成されている。
図3に示すように、第2の基板3は、シリコン基板31と、シリコン基板31の第1の基板2に対向する面に設けられた絶縁層32と、絶縁層32に覆われたリード6(
図1参照)と、を有している。絶縁層32のサーミスタ素子11と対向する部位に赤外線の入射部33が形成されている。第1の基板2と第2の基板3は複数の電気接続部材7によって接続されている。電気接続部材7は円形断面のピラー状の形状をした導体で、例えばメッキによって作成することができる。素子5は第1の基板2の内部配線(図示せず)を介して電気接続部材7に接続されている。リード6は電気接続部材7をサーミスタ素子11に接続し、サーミスタ素子11にセンス電流を供給する。リード6は銅などの導体から形成されている。リード6はサーミスタ素子11の行毎及び列毎に設けられ、格子状に形成されている。すなわち、リード6は行方向(X方向)に延びる行リード6Xと、列方向(Y方向)に延びる列リード6Yとからなっている。行リード6Xは対応する行に含まれるサーミスタ素子11を順次接続し、列リード6Yは対応する列に含まれるサーミスタ素子11を順次接続する。行リード6Xと列リード6Yは互いに直接的には導通しないで交差するように、Z方向の異なる位置を延びている。電気接続部材7は行リード6Xに接続された電気接続部材7Xと、列リード6Yに接続され接続された電気接続部材7Yと、から構成されている。
【0013】
(サーミスタ素子11の構成)
図2はサーミスタ素子11の斜視図であり、
図3は
図2のA-A線に沿ったサーミスタ素子11の断面図である。
図3では、第1及び第2の導電性支柱14X,14Yとその上に配置される第1及び第2の配線部13X,13Y等も併せて示している。便宜上、
図2、3(及び
図4~6)は
図1と上下を逆にして示している。また、
図3(及び
図4~6)ではZ方向の寸法を
図2より引き伸ばして表示している。サーミスタ素子11は、後述するサーミスタ膜17を有する本体部12と、本体部12に接続された第1及び第2の配線部13X,13Yと、第1及び第2の導電性支柱14X,14Yと、を有している。第1及び第2の配線部13X,13Yは導電体からなり、第1及び第2の導電性支柱14X,14Yとの接続部を除き、第1及び第2の配線部13X,13Yの両面が誘電体層23,24で被覆されている。
図1を併せて参照すると、第1の導電性支柱14Xは一端が行リード6Xに接続され、他端が第1の配線部13Xに接続されている。第2の導電性支柱14Yは一端が列リード6Yに接続され、他端が第2の配線部13Yに接続されている。第1の配線部13Xと第2の配線部13Yは同じ形状と構成を有し、第1の導電性支柱14Xと第2の導電性支柱14YはZ方向の寸法が互いに若干異なるが、ほぼ同じ形状と構成を有している。また、第1の配線部13Xと第2の配線部13Yは素子5などからの熱の影響を低減するためミアンダ形状を有しているが、第1及び第2の配線部13X,13Yの形状は限定されない。
【0014】
図3を参照すると、本体部12は、サーミスタ膜17と、サーミスタ膜17の第2の基板3と対向する面に接する第1及び第2の下部電極膜16X,16Yと、第1の下部電極膜16Xの第2の基板3と対向する面に接する第1の端子膜15Xと、第2の下部電極膜16Yの第2の基板3と対向する面に接する第2の端子膜15Yと、サーミスタ膜17の第1の基板2と対向する面に接する上部電極膜18と、を有している。サーミスタ膜17、第1及び第2の下部電極膜16X,16Y、第1及び第2の端子膜15X,15Y及び上部電極膜18のそれぞれの少なくとも一部は誘電体層21で覆われている。第1の端子膜15Xは第1の配線部13Xと一体形成することができ、第1の導電性支柱14Xの側とは反対側の端部の近傍で第1の下部電極膜16Xと電気的に接続されている。第2の端子膜15Yは第2の配線部13Yと一体形成することができ、第2の導電性支柱14Yの側とは反対側の端部の近傍で第2の下部電極膜16Yと電気的に接続されている。サーミスタ膜17は第1及び第2の下部電極膜16X,16Yと電気的に接続されている。サーミスタ膜17の形状は例えば正方形または長方形であるが、これらに限られず任意の形状であってよい。上部電極膜18はサーミスタ膜17の第1の基板2と対向する面の少なくとも一部を覆っている。第1の下部電極膜16Xは、第1の端子膜15Xに接する部分とそれ以外の部分とでZ方向の位置のレベル差が設けられ、第2の下部電極膜16Yは、第2の端子膜15Yに接する部分とそれ以外の部分とでZ方向の位置のレベル差が設けられている。第1及び第2の下部電極膜16X,16Yの上に積層されるサーミスタ膜17と上部電極膜18についても、同様の位置に同様のレベル差が設けられている。
【0015】
サーミスタ膜17は金属酸化物からなり、例えば、スピネル型結晶構造の金属酸化物、酸化バナジウム、酸化チタン、またはイットリウム-バリウム-銅酸化物の膜である。スピネル型結晶構造の金属酸化物の例としては、Mnを構成元素として有するスピネル型結晶構造の金属酸化物が挙げられる。より具体的には、Mn及びCoを構成元素として有するスピネル型結晶構造の金属酸化物や、Mn及びNiを構成元素として有するスピネル型結晶構造の金属酸化物が挙げられる。これらの構成元素は、スピネル型結晶構造のAサイト及びBサイトの何れか一方または両方の少なくとも一部に位置する。また、これらのスピネル型結晶構造の金属酸化物は、これらの構成元素の他に、例えば、Co、 Ni、Cu、Fe、Zr、Ti、V、Cr、Sc、Y、Nb、Moなどの遷移金属元素及びZn、Alから選ばれる少なくとも1つの元素を添加元素として含んでいてもよい。これらのスピネル型結晶構造の金属酸化物において、これらの添加元素は、スピネル型結晶構造のAサイト及びBサイトの何れか一方または両方の少なくとも一部に置換固溶していてもよいし、Aサイト及びBサイトに置換固溶せずAサイト及びBサイトとは異なる箇所に位置していてもよい。第1及び第2の下部電極膜16X,16Yと第1及び第2の端子膜15X,15Yはチタン、タンタル、タングステン、アルミニウム、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、または窒化ジルコニウムなどの導電体で形成される。第1及び第2の配線部13X,13Yについても同様である。誘電体層21は窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素などで形成され、電磁波吸収体として機能する。上部電極膜18の構成及び材料については後述する。
【0016】
このように構成された赤外線センサ1は例えば以下のように作動する。第2の基板3の入射部33を通って赤外線センサ1に入射した赤外線はサーミスタ素子11のアレイに入射する。入射した赤外線が誘電体層21やサーミスタ膜17に吸収されることによりサーミスタ膜17の温度が変化して、サーミスタ膜17の抵抗が変化する。センス電流が電気接続部材7X、選択された行リード6X、行リード6Xに接続された導電性支柱14X、導電性支柱14Xに接続されたサーミスタ素子11、列リード6Yに接続された導電性支柱14Y、列リード6Y、電気接続部材7Yを順次流れる。サーミスタ素子11の内部では、センス電流は第1の端子膜15X、第1の下部電極膜16X、サーミスタ膜17、上部電極膜18、サーミスタ膜17、第2の下部電極膜16Y、第2の端子膜15Yを順に流れる。選択された行リード6Xに接続された各サーミスタ膜17の抵抗変化は電圧の変化として第1の基板2のROICにより取り出される。ROICはこの電圧信号を輝度温度に変換する。行リード6XはROICによって順次選択され、選択された行リード6Xに接続されたサーミスタ膜17から取り出された抵抗変化が順次輝度温度に変換される。このようにしてすべてのサーミスタ素子11が走査され、1画面分の撮像データが得られる。
【0017】
上部電極膜18はサーミスタ膜17に接する第1の上部電極膜(第1の電極膜)19と、第1の上部電極膜19に接する第2の上部電極膜(第2の電極膜)20と、を有している。第1の上部電極膜19と第2の上部電極膜20はいずれも導電性物質で形成されている。本実施形態では、第1の上部電極膜19と第2の上部電極膜20はそれぞれ単層の膜であるが、第1の上部電極膜19と第2の上部電極膜20の少なくともいずれかは複数の層からなる積層体であってもよい。第1の上部電極膜19と第2の上部電極膜20の少なくともいずれかが積層体で形成される場合、積層体を形成する各層は導電性物質で形成される。
【0018】
(サーミスタ素子11及び赤外線センサ1の製造方法)
図3,4を参照して、サーミスタ素子11及び赤外線センサ1の製造方法について説明する。ここでは主にサーミスタ素子11の本体部12の製造方法について説明する。
図4では第1の基板2と第2の基板3と第1及び第2の導電性支柱14X,14Yの図示を省略している。また、以下に述べる導電性膜22、第1及び第2の下部電極膜16X,16Y、サーミスタ膜17、第1及び第2の上部電極膜19,20はスパッタリングなどの一般的な手法で形成することができる。サーミスタ素子11の製造はウエハ工程で行われるため、第2の基板3はウエハの形態を有している。第1の基板2もウエハの形態を有している。
【0019】
まず、
図3に示す第2の基板3を作成する。前述のように、第2の基板3はシリコン基板31と絶縁層32とを有し、絶縁層32のサーミスタ素子11と対向すべき部位に赤外線の入射部33が形成される。次に、絶縁層32の上に第1及び第2の導電性支柱14X,14Yを形成する。次に、
図4(a)に示すように、導電性膜22を形成する。導電性膜22は後工程で第1及び第2の配線部13X,13Y並びに第1及び第2の端子膜15X,15Yとなる膜である。従って、導電性膜22は第1及び第2の導電性支柱14X,14Yに接するように設けられる。導電性膜22は第1及び第2の導電性支柱14X,14Yとの接続部でZ方向にレベル差が設けられている。また、導電性膜22はサーミスタ素子11の中央部となる部分と対向する部位Aで分離されている。
【0020】
次に、導電性膜22の第1の端子膜15Xとなる部分の上に導電性膜22と接する第1の下部電極膜16Xを作成する。同様に、導電性膜22の第2の端子膜15Yとなる部分の上に導電性膜22と接する第2の下部電極膜16Yを作成する。予め導電性膜22を誘電体層21で覆い、誘電体層21を部分的に除去して導電性膜22の一部を露出させておく。このため前述のように、第1の下部電極膜16Xは、導電性膜22の第1の端子膜15Xとなる部分に接する部分とそれ以外の部分とでZ方向の位置のレベル差が設けられ、第2の下部電極膜16Yは、導電性膜22の第2の端子膜15Yとなる部分に接する部分とそれ以外の部分とでZ方向の位置のレベル差が設けられる。
【0021】
次に、
図4(b)に示すように、誘電体層21と第1及び第2の下部電極膜16X,16Yの上にサーミスタ膜17を形成する。サーミスタ膜17は誘電体層21並びに第1及び第2の下部電極膜16X,16Yと接するように設けられる。さらに、サーミスタ膜17の上にサーミスタ膜17と接する第1の上部電極膜19を形成する。
【0022】
次に、
図4(c)に示すように、サーミスタ膜17と第1の上部電極膜19をパターニングによって所定の形状に形成する。その後、第1の上部電極膜19が形成されたサーミスタ膜17に、酸素含有雰囲気中でアニール処理を施す。酸素含有雰囲気は例えば大気である。アニール処理は、例えば250℃で1時間程度行うことができる。スパッタリング等の真空成膜の方法で成膜された金属酸化物からなるサーミスタ膜17は、成膜直後の状態では酸素が不足し所望の抵抗が得られないことがある。酸素含有雰囲気中でのアニール処理を行うことで、サーミスタ膜17に酸素を補給し、サーミスタ膜17の所望の抵抗を確保することができる。
【0023】
アニール処理が施された後、
図4(d)に示すように、第1の上部電極膜19の上に第1の上部電極膜19と接する第2の上部電極膜20を形成する。その後、
図4(e)に示すように、第2の上部電極膜20をパターニングによって所定の形状に形成する。
【0024】
次に、
図4(f)に示すように、サーミスタ膜17と第1の上部電極膜19と第2の上部電極膜20を誘電体層21で覆う。その後、導電性膜22と誘電体層21をパターニングによって所定の形状に形成し第1及び第2の配線部13X,13Yを形成する。次に、第1の基板2と第2の基板3とを側壁となる部材を介して高温環境下で接合する。第1の基板2と第2の基板3の接合には半田が用いられることが多く、一般的には第1の基板2と第2の基板3は350℃程度の高温環境下に所定時間おかれる。以上の工程によって、サーミスタ素子11を有する赤外線センサ1が製造される。
【0025】
(本実施形態の効果)
本実施形態の効果を説明するため、比較例のサーミスタ素子111とその製造方法について説明する。
図5は比較例のサーミスタ素子111の断面図であり、
図3に対応している。比較例のサーミスタ素子111の上部電極膜118は単層の金属膜であり、上部電極膜118はアニール処理が施される前にサーミスタ膜17の上に形成される。比較例の製造プロセスは、
図4(d)における第2の上部電極膜20の形成と
図4(e)における第2の上部電極膜20のパターニングが省略されることを除き、
図4に示す製造プロセスと同様である。
【0026】
アニール処理はサーミスタ膜17に酸素を補給する目的で行われるため、上部電極膜118はできるだけ薄く形成することが好ましい。これによって上部電極膜118の酸素透過性が高まり、アニール処理の際、上部電極膜118を通してより多くの酸素をサーミスタ膜17に供給することができる。しかし、上述した第1の基板2と第2の基板3を接合する工程のように、上部電極膜118が高温環境に晒された際、上部電極膜118の凝集が生じ、その凝集は上部電極膜118の亀裂を生じさせ、それに伴い上部電極膜118の抵抗変化や断線を招く可能性がある。上部電極膜118を厚く形成すれば凝集に伴う亀裂は生じにくくなるが、アニール処理によるサーミスタ膜17への酸素補給が有効に行われなくなる可能性がある。
【0027】
本実施形態ではアニール処理の後に第2の上部電極膜20を形成する。第1の上部電極膜19は酸素透過性を確保するため薄く形成することができ、第2の上部電極膜20は高い酸素透過性を確保する必要がないため厚く形成することができる。このため、第1の上部電極膜19と第2の上部電極膜20とからなる上部電極膜18は厚い膜厚を確保することが容易である。膜厚の厚い上部電極膜18は高温環境に晒された際も凝集に伴う亀裂が生じにくい。
【0028】
また、本実施形態では第1の上部電極膜19を比較例の上部電極膜118より薄くすることができる。比較例では、上部電極膜118の凝集による亀裂発生の抑制と、アニール処理によるサーミスタ膜17への酸素補給とのバランスを取る必要がある。本実施形態では第2の上部電極膜20によって上部電極膜18の亀裂の発生が抑制されるため、第1の上部電極膜19をサーミスタ膜17への酸素補給を高めるように薄く形成することが可能である。
【0029】
第1の上部電極膜19は第2の上部電極膜20を形成する際のサーミスタ膜17の保護膜としても機能する。一般に、露出したサーミスタ膜の上に直接真空成膜を行うと、露出したサーミスタ膜17から酸素が離脱することがある。このような現象はサーミスタ膜が成膜される膜で覆われていくとともに生じなくなるが、十分な厚さの膜が形成されていない段階ではサーミスタ膜の酸素が徐々に失われていく。サーミスタ膜からの酸素離脱はサーミスタ膜が所望の抵抗値を得ることを困難とし、サーミスタ膜への酸素補給を目的として行ったアニール処理の効果を損なうことにもつながる。
【0030】
本実施形態では、第2の上部電極膜20の形成の際、サーミスタ膜17は第1の上部電極膜19で保護される。このため、第2の上部電極膜20の形成の際、サーミスタ膜17からの酸素離脱が生じにくい。一方、第1の上部電極膜19はサーミスタ膜17の上に直接形成されるため、第1の上部電極膜19を成膜する際にはサーミスタ膜17からの酸素離脱が生じ得る。しかし、その後の酸素含有雰囲気中でのアニール処理で、第1の上部電極膜19を通して酸素が補給されるため、酸素離脱の影響は軽減される。特に、上述のように第1の上部電極膜19は薄く形成することができるため、第1の上部電極膜19を通した酸素補給は効率的に行われる。
【0031】
このように、第1の上部電極膜19を形成した後アニール処理を行い、その後第2の上部電極膜20を形成することによって、上部電極膜18の凝集による亀裂が生じにくくなる。特に、第2の上部電極膜20を第1の上部電極膜19より厚く形成することで、サーミスタ膜17からの酸素離脱が抑制されるとともに、上部電極膜18の抵抗のばらつきも低減する。また、第1の上部電極膜19を第2の上部電極膜20より薄く形成することで、第1の上部電極膜19の酸素透過性を第2の上部電極膜20の酸素透過性より高くし、これによって、アニール処理の際のサーミスタ膜17への酸素補給を効率的に行うことができる。一例では、第1の上部電極膜19の膜厚は10nm以上30nm以下、第2の上部電極膜20の膜厚は40nm以上100nm以下とすることができる。
【0032】
第1及び第2の上部電極膜19,20の材料としては金属と金属窒化物を使用することができる。金属の例としてPt、Ti、Ta、Au,Pd,Ru、Ag、Rh、Ir、Osが挙げられ、金属窒化物の例としてTaN、TiN、Cr2N、ZrNが挙げられる。一般に金属は金属窒化物より酸素透過性が高い。従って、第1の上部電極膜19を金属で構成すると、アニール処理の際のサーミスタ膜17への酸素補給を効率的に行うことができる。第1の上部電極膜19を金属窒化物で構成してもよいが、その場合は、第1の上部電極膜19は薄く形成するとよい。一方、第2の上部電極膜20は金属で構成されてもよく、金属窒化物を含む構成でもよい。つまり、第2の上部電極膜20は金属及び金属窒化物の少なくとも一方で形成される。例えば、第2の上部電極膜20が単層である場合は第2の上部電極膜20全体を金属窒化物で構成してもよく、第2の上部電極膜20が積層膜である場合は積層膜を構成する少なくとも一つの膜を金属窒化物で構成してもよい。金属窒化物は金属より酸素透過性が低いため、第2の上部電極膜20を金属窒化物を含む構成とすることで、サーミスタ膜17からの酸素離脱をより効果的に抑制することができる。
【0033】
(変形例)
図6はサーミスタ素子11の製造方法の変形例を示す図である。変形例の製造方法によれば、サーミスタ素子11を製造する工程は
図4(a)、4(b)、
図6、
図4(e)、4(f)の順に行われる。
図4(b)に示す工程の後にアニール処理を行い、その後、
図6に示すように,第1の上部電極膜19の上に第2の上部電極膜20を形成する。その後、サーミスタ膜17と第1及び第2の上部電極膜19,20をパターニングによって所定の形状に形成し、
図4(e)に示す状態を得る。その後の工程は上記の実施形態と同様である。変形例はパターニングの工程が1回でよいため製造方法の簡略化が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 赤外線センサ
11 サーミスタ素子
17 サーミスタ膜
19 第1の上部電極膜(第1の電極膜)
20 第2の上部電極膜(第2の電極膜)