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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129510
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20240919BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G01N27/41 325G
G01N27/41 325D
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038760
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】599161580
【氏名又は名称】株式会社デンソートリム
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 和輝
(57)【要約】
【課題】大気室へ大気が循環しやすくする。
【解決手段】ガスセンサのセンサ素子は、拡散抵抗部を介して被測定ガスを導入するガス室と、大気通路を介して大気を導入する大気室と、この大気室とガス室との間に配置される固体電解質体部と、この固体電解質体部のガス室側に設けられるガス電極と、固体電解質体部の大気室側に設けられる大気電極とを有する。大気通路を、大気室に大気カバー内の大気を導入する大気導入通路と、大気室内の大気を大気カバーへ導出する大気導出通路とに分離している。これにより、大気室への大気の導入と大気室からの大気の導出をスムーズに行うことができる。特に、大気カバーの配置される雰囲気では大気は所定の風速を持って流れていることが多いので、この風速を利用して、大気室に大気を循環させる。即ち、風上側の大気が大気導入通路より大気室に流入する。そして、大気室の大気は大気導出通路より、風下側に流出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス空間に固定されるハウジングと、
このハウジングの前記被測定ガス空間側に配置され、ガス通過口を有するガスカバーと、
前記ハウジングの大気側に配置され、複数の大気通過口を有する大気カバーと、
前記ハウジング内に、インシュレータを介して配置され、一端が前記ガスカバーに露出し、他端が前記大気カバーに露出するセンサ素子とを備え、
前記センサ素子は、拡散抵抗部を介して被測定ガスを導入するガス室と、大気通路を介して大気を導入する大気室と、この大気室と前記ガス室との間に配置される固体電解質体部と、この固体電解質体部の前記ガス室側に設けられるガス電極と、前記固体電解質体部の前記大気室側に設けられる大気電極とを有し、
前記大気通路は、第1方向の端部が前記大気室に連通し前記第1方向とは反対方向となる第2方向の端部が前記大気カバーに連通して、前記大気カバー内の大気を前記大気室に導入する大気導入通路と、前記第1方向の端部が前記大気室に連通し前記第2方向の端部が前記大気カバーに連通して、前記大気室内の大気を前記大気カバーへ導出する大気導出通路とを有する
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記大気通路の前記大気導入通路と前記大気導出通路とは、前記大気室と一体にセラミックの焼成で形成される
ことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記大気カバーは、複数の前記大気通過口と前記センサ素子の前記大気通路との間に大気通路室を構成し、
この大気通路室内には、複数の前記大気通過口の内大気導入側となる前記大気通過口と前記大気導入通路の前記第2方向の端部との間と、前記大気導出通路の前記第2方向の端部と複数の前記大気通過口の内大気導出側となる前記大気通過口との間とを仕切る仕切壁が配置される
ことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記仕切壁は、前記大気室及び前記大気通路と一体にセラミックの焼成で形成される
ことを特徴とする請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記大気カバーの前記大気通過口の近傍に、前記大気カバーを閉じるブッシュを更に配置し、
前記仕切壁は、このブッシュに形成される
ことを特徴とする請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記大気カバーは、複数の前記大気通過口と前記センサ素子の前記大気通路との間に大気通路室を構成し、
この大気通路室内には、複数の前記大気通過口の内大気導入側となる前記大気通過口と前記大気導入通路の前記第2方向の端部との間とを連通する大気導入管と、前記大気導出通路の前記第2方向の端部と複数の前記大気通過口の内大気導出側となる前記大気通過口との間とを連通する大気導出管とが配置される
ことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記センサ素子は、前記大気通路の前記第2方向の端部の近傍であって、前記大気導入通路の前記第2方向の端部及び前記大気導出通路の前記第2方向の端部以外の部位に、更に前記第2方向に延びる導風部を設け、
この導風部は、前記大気室と一体にセラミックの焼成で形成される
ことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の記載はガスセンサに関し、例えばエンジンの排気管に配置されて排気ガス中の酸素濃度の検出等に用いて有用である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガスセンサが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-85733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にはガスセンサの構成が記載されており、ガスセンサはガス室と大気室との間に固体電解質体を配置している。ここで、排気ガス中の酸素濃度等を正しく検出する為には、ガスセンサ内部で大気室に排気ガスが混入しないようにすることが重要である。その為にも、大気室には新鮮な大気が循環していることが望ましい。しかしながら、特許文献1では、大気室に位置する大気の循環に関して特別な検討は行っていない。本開示は、この点に鑑み、大気室へ大気が循環しやすくすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1は、被測定ガス空間に固定されるハウジングと、このハウジングの被測定ガス空間側に配置されガス通過口を有するガスカバーと、ハウジングの大気側に配置され複数の大気通過口を有する大気カバーと、ハウジング内にインシュレータを介して配置され一端がガスカバーに露出し他端が大気カバーに露出するセンサ素子とを備えるガスセンサである。
【0006】
そして、本開示の第1のガスセンサのセンサ素子は、拡散抵抗部を介して被測定ガスを導入するガス室と、大気通路を介して大気を導入する大気室と、この大気室とガス室との間に配置される固体電解質体部と、この固体電解質体部のガス室側に設けられるガス電極と、固体電解質体部の大気室側に設けられる大気電極とを有している。
【0007】
更に、本開示の第1のガスセンサの大気通路は、第1方向の端部が大気室に連通し第2方向の端部が大気カバーに連通して、大気カバー内の大気を大気室に導入する大気導入通路と、第1方向の端部が大気室に連通し第2方向の端部が大気カバーに連通して、大気室内の大気を大気カバーへ導出する大気導出通路とを有している。
【0008】
本開示の第1のガスセンサでは、大気通路を、大気室に大気カバー内の大気を導入する大気導入通路と、大気室内の大気を大気カバーへ導出する大気導出通路とに分離している。これにより、大気室への大気の導入と大気室からの大気の導出をスムーズに行うことができる。特に、大気カバーの配置される雰囲気では大気は所定の風速を持って流れていることが多いので、この風速を利用して、大気室に大気を循環させる。即ち、風上側の大気が大気導入通路より大気室に流入する。そして、大気室の大気は大気導出通路より、風下側に流出する。
【0009】
本開示の第2のガスセンサは、大気通路の大気導入路と導出通路とは、大気室と一体にセラミックの焼成で形成されている。より具体的には、大気通路を大気導入通路と大気導出通路に分離する分離壁をセラミックで一体焼成している。大気通路を大気導入路と導出通路とに分離するので、大気通路の構成が複雑となるが、本開示の第2のガスセンサは、大気通路を複雑化しても、製造工程まで複雑化することは無い。
【0010】
本開示の第3のガスセンサの大気カバーは、複数の大気通過口とセンサ素子の大気通路との間に大気通路室を構成している。そして、この大気通路室内には、複数の大気通過口の内大気導入側となる大気通過口と大気通路の他端に位置する大気導入通路との間と、大気通路の他端に位置する大気導出通路と複数の大気通過口の内大気導出側となる大気通過口との間とを仕切る仕切壁を配置している。
【0011】
大気カバーの大気通過口と大気通路との間に配置される大気通路室も、更に仕切ることで、大気室に、新鮮な大気を流すことができる。同時に、大気導出通路と風下側となる大気導出側の大気通過口とを結んで、大気室からの大気の導出をスムーズにする。かつ、大気通路室内で、大気室に導入する大気と大気室から導出した大気とが混ざりあうのを防止できる。
【0012】
本開示の第4のガスセンサでは、仕切壁を、大気室及び大気通路と一体にセラミックの焼成で形成している。仕切壁をセンサ素子と一体に形成することで、仕切壁を設けるために複数の特別な工程を追加する必要がなくなる。
【0013】
本開示の第5のガスセンサでは、大気カバーの大気通過口の近傍に、大気カバーを閉じるブッシュを更に配置している。そして、仕切壁は、このブッシュに形成している。本開示の第5のガスセンサでも、仕切壁を形成するのに特別な工程を複数新たに追加する必要がなくなる。
【0014】
本開示の第6のガスセンサの大気カバーも、複数の大気通過口とセンサ素子の大気通路との間に大気通路室を構成している。そして、この大気通路室内には、複数の大気通過口の内大気導入側となる大気通過口と大気通路の他端に位置する大気導入通路との間とを連通する大気導入管と、大気通路の他端に位置する大気導出通路と複数の大気通過口の内大気導出側となる大気通過口との間とを連通する大気導出管とを配置している。大気導入管を設けることで、風上側の大気通過口からの空気を大気通路の大気導入通路に確実に導入することができる。かつ、大気導出通路の大気を風下側の大気通過口へ確実に導くことも可能となる。
【0015】
本開示の第7のガスセンサのセンサ素子は、大気通路の第2方向の端部の近傍であって、大気導入通路の第2方向の端部及び大気導出通路の第2方向の端部以外の部位に、更に第2方向に延びる導風部を設けている。かつ、この導風部を大気室と一体にセラミックの焼成で形成している。導風部を形成することで、導風部は、大気導入通路や大気導出通路より大気通過口に近い位置となり、大気カバー内の大気を導風部に沿って流れるようにすることができる。その為、大気カバー内の大気の流れが導風部に沿ったものとなり、大気導入通路と大気導出通路との間に圧力差を生じさせやすくしている。これによって、大気導入通路と大気導出通路とを大気が流れやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、第1実施例のガスセンサの断面図である。
図2図2は、ガスセンサのセンサ素子を分解して示す斜視図である。
図3図3は、センサ素子の断面図である。
図4図4は、第2実施例のガスセンサを示す断面図である。
図5図5は、第2実施例のガスセンサの変形例を示す断面図である。
図6図6は、第3実施例のガスセンサを示す断面図である。
図7図7は、第4実施例のガスセンサを分解して示す斜視図である。
図8図8は、第2実施例のガスセンサのセンサ素子を分解して示す斜視図である。
図9図9は、第3実施例のガスセンサのセンサ素子と大気導入管及び大気導出管を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の第1実施例を図に基づいて説明する。図1には、ガスセンサ10を断面図示している。このガスセンサ10は、例えば、内燃機関の排気ガス中の酸素濃度を検知するのに用いることができる。ガスセンサ10は、金属製のハウジング100を備え、ハウジング100は外周に形成されたネジ部101により図示しない排気管に固定される。この固定を容易にするため、ハウジング100の外周には六角のナット部102が形成されている。
【0018】
ハウジング100の排気管側には、金属製のガスカバー110が溶接により固定されている。本例では排気管が被測定ガス空間に対応し、ガスカバー110内の被測定ガス空間111も被測定ガス空間に含まれる。本例のガスカバー110は外周管112と内周管115を備える二重管構造をしている。外周管112及び内周管115は、共に被測定ガス空間111と連通するガス通過口を設けている。外周管112には、側面ガス通過口114と端面ガス通過口113が形成されている。なお、端面とは、図1の第1方向の面を指している。同様に、内周管115には、側面ガス通過口116と端面ガス通過口117が形成されている。
【0019】
ハウジング100の内周部には、ガラス材料製のインシュレータ120が配置されている。インシュレータ120は、内部に配置されるセンサ素子200を絶縁保持するための部材である。センサ素子200の構成に関しては、後述する。
【0020】
ハウジング100の大気側には、金属製の大気カバー130が溶接によって固定されている。この大気カバー130内にも、センサ素子200を絶縁保持する第2インシュレータ121が配置されている。第2インシュレータ121は、保持金具123を保持している。そして、保持金具123はセンサ素子200を挟持するので、第2インシュレータ121は、保持金具123によりセンサ素子200を保持している。また、保持金具123は、センサ素子200のリード線301を保持するリード線保持部124も一体に形成している。従って、リード線保持部124も第2インシュレータ121により保持されている。その為、第2インシュレータ121は、保持金具123のリード線保持部124を介して、センサ素子200のリード線301を保持することとなる。
【0021】
大気カバー130は一端(図1の第1方向)及び他端(図1の第2方向)が共に開口した円筒形状をしている。そして、一端はハウジング100によって閉じている。他端には、第2大気カバー131がカシメ固定されている。第2大気カバー131には、大気通過口132が周方向に等間隔離れて、4カ所に開口形成されている。また、第2大気カバー131には、フィルタ133が配置されている。このフィルタ133は、大気中の水を撥水する機能と、大気中の被毒物質を吸着する機能とを備えている。
【0022】
第2大気カバー131も一旦及び他端が開口する円筒形状をしており、第2大気カバー131の一端は、上述のように、大気カバー130の他端と連続している。尤も、大気カバー130により大気通過口132が塞がれることはない。第2大気カバー131の他端は、ゴム材料製のブッシュ140により閉じられて、ブッシュ140と第2大気カバー131及び大気カバー130により大気通路室134の空間を形成している。勿論、大気通過口132はブッシュ140によっても塞がれることはない。なお、第2大気カバー131を大気カバー130と一体成形することも可能であり、本開示では第2大気カバー131を含めて大気カバー130とする。
【0023】
上述のように、大気カバー130内には、大気通過口132とセンサ素子200との間に、大気通路室134が構成されている。従って、大気通過口132より流入した大気はこの大気通路室134を介してセンサ素子200に供給される。逆に、センサ素子200内の大気は、この大気通路室134を経て大気通過口132から流出する。ただ、大気通路室134それ自体は、大気カバー130内に形成される空間であるので、大気通路室134のみでは、センサ素子200内の大気を循環させるのに不十分である。大気の流れについては、後述する。
【0024】
次に、センサ素子200の構成を、図2及び図3を用いて説明する。センサ素子200は、複数の層が積層されて構成される。この積層方向は、図1に於いては第3方向と第4方向が対応する。センサ素子200の第3方向と第4方向の高さは2ミリメートル程度である。そして、センサ素子200の積層方向と直交する幅方向(図2及び図3の第5方向と第6方向)の長さは、5ミリメートル程度となっている。また、センサ素子200の軸方向(図1の第1方向と第2方向)の長さは、45ミリメートル程度である。
【0025】
なお、図2及び図3においても第3方向と第4方向を示しているが、図2図3で積層する方向を図1で示す方向と逆としても良い。図2図3の第4方向の端部には、ヒータ保持層210が配置される。ヒータ保持層210は酸化アルミニウム等の絶縁性があり、かつ、強度のあるセラミック材料を焼成して形成している。このヒータ保持層210にはヒータ部211とリード部212がプリントされている。ヒータ部211は後述するガス電極や大気電極と重なる位置に配置され、図2の形状では蛇行形状となっている。ヒータ部211とリード部212とは同じ材料で構成されるが、単位長さ当たりの抵抗値はヒータ部211が大きく、発熱は主にヒータ部211で行われる。リード部212はリード線301と電気接続して、ヒータ部211に給電するのに用いられる。
【0026】
このヒータ保持層210の第3方向側には、大気室層220が配置される。この大気室層220も酸化アルミニウム等の絶縁性と強度に優れたセラミックの焼成で形成される。大気室層220の内、ガス電極や大気電極と重なる位置には大気室221が形成されている。なお、重なる位置とは、第1方向と第2方向及び第5方向と第6方向に重なる位置で、第3方向と第4方向に積層される位置である。大気室221の第3方向と第4方向の高さは1ミリメートル程度で、第5方向と第6方向の幅は2ミリメートル程度である。大気室層220には、この大気室221と大気通路室134とを結び、大気通路室134からの大気を大気室221に導入する大気導入通路222が形成されている。また、大気室層220には、大気室221と大気通路室134とを結び、大気室221の大気を大気通路室134へ導出する大気導出通路223も形成されている。換言すれば、大気室層220には、大気導入通路222と大気導出通路223とを分離する分離壁224が形成されている。従って、大気室層220には、大気導入通路222、大気室221、大気導出通路223がU字状に形成されている。大気導入通路222と大気導出通路223との第5方向及び第6方向の幅は、1ミリメートル程度である。また、分離壁224の第5方向及び第6方向の幅は、0.5ミリメートル程度である。そして、分離壁224は大気室層220と同じ酸化アルミニウム等のセラミックの焼成で形成されている。
【0027】
大気室層220の第3方向側には、固体電解質体層230が配置されている。この固体電解質体層230は、酸化アルミニウム等の絶縁性と強度を備えるセラミック材料でできた基部231と、この基部231の保持穴に配置された固体電解質体部232を有している。固体電解質体部232は、ジルコニア系酸化物からなり、ジルコニアを主成分とし(50質量%以上含有し)、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素によってジルコニアの一部を置換させた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアからなる。固体電解質体部232を構成するジルコニアの一部は、イットリア、スカンジア又はカルシアによって置換することができる。
【0028】
固体電解質体層230の大気室層220側(第4方向側)には、大気電極層240が配置されている。なお、図2においては、大気電極層240は大気室層220の裏面に張り付いた状態で記載している。大気電極層240には、固体電解質体部232と接する部位に大気電極241が配置されている。大気電極241の第2方向には大気電極リード部242が配置されている。大気電極241及び大気電極リード部242は大気電極層240にプリントされている。大気電極241は、酸素に対する触媒活性を示す貴金属としての白金、及び固体電解質体部232との共材としてのジルコニア系酸化物を含有している。大気電極リード部242はアルミニウム合金等の導電性材料でできている。
【0029】
固体電解質体層230の第3方向には、ガス電極層250が配置されている。このガス電極層250は、概ね大気電極層240と同様である。酸化アルミニウム等の基盤の上にガス電極251とガス電極リード部252がプリントされている。ガス電極251は、白金製の電極材とジルコニア系酸化物の共材を含んでいる。ガス電極リード部252はアルミニウム等の導電性材料である。
【0030】
ガス電極層250の第3方向には、ガス室層260が配置されている。ガス室層260の内部にはガス室261が形成されている。ガス室層260は、酸化アルミニウム等の絶縁性と強度を備えるセラミック材料でできたガス室基部262と、拡散抵抗部263とを有する。拡散抵抗部263はガス室261と被測定ガス空間111との間に介在する。拡散抵抗部263は、酸化アルミニウム等の多孔質の金属酸化物によって形成されている。ガス室261に導入される被測定ガスの拡散速度(流量)は、この拡散抵抗部263における気孔を、被測定ガスが透過する際に制限を受けることによって決定される。
【0031】
センサ素子200の最も第3方向側には、遮蔽層270が配置されている。この遮蔽層270も、酸化アルミニウム等の絶縁性と強度に優れたセラミックの焼成で形成されている。なお、各相は別々に焼成形成されているのではなく、シート状のセラミック材料を積層して、一体として焼成形成している。
【0032】
次に、上記構成よりなるセンサ素子200による酸素濃度の検出を説明する。まず、センサ素子200を空燃比センサ(A/Fセンサ)として用いる例を示す。空燃比センサは、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が多い燃料リッチの状態から、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が少ない燃料リーンの状態まで定量的に連続して空燃比を検出する。
【0033】
空燃比センサにおいて、燃料リーン側の空燃比を検出する際には、被測定ガスに含まれる酸素が、イオンとなって固体電解質体部232を移動する際の電流を検出する。即ち、ガス電極251から、固体電解質体部232を介して大気電極241へ移動する際に生じる電流を検出する。また、空燃比センサにおいて、燃料リッチ側の空燃比を検出する際には、大気電極241から固体電解質体部232を介してガス電極251へイオンとなった酸素が移動するので、その電流を検出する。これは、被測定ガスに含まれる炭化水素、一酸化炭素、水素等の未燃ガスが酸素と反応するため、未燃ガスと酸素とを反応させる際に生じる電流を検出する。
【0034】
センサ素子200は、NOx(窒素酸化物)等の特定ガス成分の濃度を検出するセンサとして用いることもできる。NOxセンサにおいては、ガス電極251に接触する被測定ガスの流れの上流側に、電圧の印加によってガス電極251から大気電極241へ酸素をポンピングするポンプ電極が配置される。そして、大気電極241はポンプ電極に対して固体電解質体部232を介して対向する位置にも形成される。
【0035】
ただ、いずれのセンサとして用いる場合であっても、センサ素子200が被測定ガスの酸素濃度を正しく検出するためには、大気室221に清浄な大気が存在していることを前提としている。大気室221に存在する大気室221に移動が無く、長期間に亘って大気が大気室221内に滞留したのでは、固体電解質体部232を介して、被測定ガスの成分が大気室221に流れる可能性もある。
【0036】
そこで、本例では、大気室221と大気カバー130の大気通路室134との間を繋ぐ大気通路を分離壁224で分離して、大気導入通路222と大気導出通路223とに分けている。換言すれば、大気導入通路222と大気導出通路223とは、間に大気室221を挟んで連通して、大気循環通路を形成している。そして、夫々の温度は、排気管の内部であって、比較的高い温度雰囲気に配置される大気室221の温度は高くなっている。一方、大気導入通路222と大気導出通路223は、第2方向の端部が比較的低い温度雰囲気の大気通過口132に繋がる大気通路室134に接続されている。従って、一連の大気循環通路内において大気温度に差が生じている。
【0037】
大気の換気量は圧力差によって定まり、圧力差は、温度差と風力とによって生じる。大気通路室134内の大気に温度分布は少ないが、上述のように、大気通路室134と大気室221との間には温度差がある。また、大気通路室134内の大気にはある程度の風速がある。これは、ガスセンサ10の配置されるエンジンルーム内には車両の走行に伴う車速風や、ラジエーターファンやエンジン冷却ファン等により生じる冷却風が存在するからである。
【0038】
その為、大気通路を大気導入通路222と大気導出通路223とに分離すれば、圧力差を利用して、大気通路室134と大気室221との間に大気の循環を生じさせることができる。ここで、大気の循環は常に一方側の通路から他方側の通路に大気が流れることまでは想定していない。大気通路室134内の圧力差に応じて、圧力の高い側の通路が大気導入通路222となって、その通路から大気室221に大気が流れる。そして、大気室221の大気は圧力の低い側の通路に流出し、その通路が大気導出通路223となる。従って、本例では、大気通路室134から大気室221に向けて大気を流す側の通路が大気導入通路222となる。同様に、大気室221から大気通路室134に向けて大気を流す通路が大気導出通路223となる。
【0039】
内燃機関が冷えている状態から運転を開始するコールドスタート(冷間始動)時では、内燃機関を始動し車が動き始めると大気導入通路222に正圧、大気導出通路223に負圧がかかる。これにより、大気室221の大気が循環し始める。その後、ヒータ部211の温度が上昇すると、その温度上昇を受けて大気室221の大気温度も上昇し圧力が上昇する。この大気室221の温度上昇によっても、既に大気は循環しているので、大気の流れは継続する。
【0040】
また、内燃機関が既に温まっている状態から運転を開始するホットスタート(熱間始動)時には、大気室221の温度が高く圧力が高い状態となっている。一方で、大気導入通路222及び大気導出通路223の温度は相対的に低いので、圧力も大気室221に比べて低くなっている。また、大気導入通路222と大気導出通路223との間には、圧力差は生じていない。この状態で、内燃機関を始動して車が動き始めると、大気導入通路222に正圧が掛かり、大気導出通路223に負圧が掛かる。これにより、大気導入通路222と大気導出通路223とのに圧力差生じる。この圧力差によって大気室221の大気が循環し始め、ホットスタートでも機能が維持される。そして、大気循環の機能は、大気室221と大気導入通路222及び大気導出通路223との温度差によって影響を受けることは無い。
【0041】
例えば、大気通過口132の大気の温度を摂氏20度、風速を毎秒17メートルと想定する。この場合、分離壁224を設けなければ、大気室221を流れる大気の流速は毎秒10.5ミリメートルとなる。それに対し、分離壁224を設けて大気導入通路222と大気導出通路223を形成すれば、大気室221を流れる大気の流速は毎秒30ミリメートルとなる。即ち、大気導入通路222及び大気導出通路223を設けることで、換気量を3倍に増やすことができる。
【0042】
なお、大気通路室134内の大気の流れは大きな値ではない場合が多い。従って、換気を行う為の圧力差も大きな値とはならない場合が多い。ただ、重要な点は、大気室221内の大気を滞留させないことである。小さな圧力差であっても、圧力差が生じ、その圧力差を利用できるように、大気導入通路222と大気導出通路223とが分離していれば、大気室221内の大気の滞留を緩和することができる。換言すれば、大気通路室134内の大気に圧力差があっても、一本の大気通路で大気通路室134と大気室221とを連通したのでは、大気室221内での大気の滞留は、抑制しにくくなる。
【0043】
特に、本例では、大気室層220に単に分離壁224を設けるのみで、大気導入通路222と大気導出通路223とを形成することができている。そして、分離壁224は、大気室層220を形成するペースト状のセラミックで一体に構成すれば、セラミックの焼成で同時に分離壁224も形成される。従って、大気導入通路222と大気導出通路223の形成のために、特に製造工程を複雑にすることもない。
【0044】
次に本開示の第2実施例を、図4を用いて説明する。第1実施例では、大気通路室134内の大気の流れを、積極的に大気導入通路222に取り込んだり、大気導出通路223から取り出したりするための特別な構成を設けていなかった。製造工程に大幅な変更をもたらすことなく、大気通路室134内の大気の流れを利用するようにしていた。それに対し、第2実施例では、図4に示すように、大気通路室134内に仕切壁300を配置している。仕切壁300はセンサ素子200から第2方向に延びて、図4の例では、大気通過口132の近くまで延びている。
【0045】
上述のように、ガスセンサ10の配置されるエンジンルームでは車速風やファンによる冷却風が生じており、4つ設けられた大気通過口132のあるものは、大気を大気通路室134内に導入する側となる。また、複数の大気通過口132のあるものは、大気通路室134内の大気を外部に導出する側となる。その為、大気導入側となる大気通過口132と大気導入通路222との間と、大気導出通路223と大気導出側となる大気通過口132との間を仕切壁300が仕切ることで、大気の圧力差をより効率的に利用することができる。図4の例では、仕切壁300は酸化アルミニウム等の材料で、センサ素子200と一体に形成している。より具体的には、図8に示すように、ヒータ保持層210に保持層壁部213を形成し、大気室層220に大気層壁部225を形成し、固体電解質体層230に電解質層壁部234を形成する。これらの保持層壁部213、大気層壁部225及び電解質層壁部234は、共に酸化アルミニウムであり、第1方向と第2方向、及び第5方向と第6方向で重なっている。且つ、第3方向と第4方向で積層されている。そして、センサ素子200の焼成時に仕切壁300も同時に焼成する。
【0046】
図5は、第2実施例の変形例である。図5の例では、仕切壁300はブッシュ140と一体に形成している。ブッシュ140はゴム材料でできているので、仕切壁300も同様のゴム材料製である。図5の例の仕切壁300は、ブッシュ140の端面から第1方向に延びている。ただ、仕切壁300はブッシュ140と一体形成する必要は無い。セラミック材料等で仕切壁300を形成し、ブッシュ140には連結用のスリットを形成しても良い。この場合、仕切壁300をスリットに挿入することで、仕切壁300の固定を行う。

図6は、第3実施例を示している。第3実施例では、仕切壁300に代えて大気導入管401と大気導出管402を、大気通路室134内に配置している。大気導入管401の一方は、複数の大気通過口132の内、大気を大気通路室134内に導入する側となる大気通過口132の近くに開口している。そして、大気導入管401の他方は、図9に示すように、センサ素子200の大気導入通路222に接続している。また、大気導出管402の一方は、複数の大気通過口132の内、大気通路室134内の大気を外部に導出する側となる大気通過口132の近くに開口している。そして、大気導出管402の他方も、図9に示すように、大気導出通路223に接続している。なお、大気導入管401と大気導出管402は、大気導入通路222と大気導出通路223と同様、大気が入り込む方の管が大気導入管401となる。そして、大気が大気通過口132より流れ出る側の管は、大気導出管402となる。また、図6図9に比べてセンサ素子200の第5方向と第6方向の幅が狭く記載されているが、実際には、センサ素子200の幅は、図9の幅と同様である。
【0047】
図7は、本開示の第4実施例を示している。第4実施例では、大気室層220に隣接する固体電解質体層230に、導風部233を形成している。この導風部233は、固体電解質体層230の基部231と一体に構成されている。且つ、導風部233は、大気導入通路222と大気導出通路223との第2方向の端部より、更に第2方向に延びて形成している。
【0048】
上述の第1実施例では、大気通路室134内の大気の流れを利用するための特別な構成は設けていなかった。その為、大気通路室134内の大気を大気室221に導きにくくなることが考えられる。逆に、第2実施例では仕切壁300を設け、第3実施例では大気導入管401と大気導出管402を設けていた。大気を大気室221に導くには有効であるが、構成が複雑となってしまう。
【0049】
第4実施例は、導風部233を設けると言う容易な構成で、大気通路室134内の大気に圧力差を生じさせやすくしている。そして、圧力差を生じさせることで、大気導入通路222と大気導出通路223とを大気が流れやすくし、それにより、大気室221での大気の滞留を抑制することができる。即ち、導風部233は大気導入通路222や大気導出通路223より大気通過口132に近い部位に存在しているので、大気通路室134内の大気を導風部233に沿って流れるようにすることができる。この導風部233に沿った大気の流れによって、大気は大気導入通路222に流れ込みやすくなる。これにより、第1実施例の効果を更に引き出すことが可能である。
【0050】
しかも、導風部233は、固体電解質体層230の酸化アルミニウム等製の基部231と一体に構成できるので、導風部233を形成するために製造工程を大きく変更する必要もない。加えて、導風部233を設けることで、センサ素子200の強度を向上させることもできる。なお、導風部233は、大気導入通路222と大気導出通路223との第2方向の端部の近くから第2方向に延びていればよく、必ずしも固体電解質体層230に形成する必要は無い。ヒータ保持層210に導風部233を形成しても良い。
【0051】
なお、上述した例では、ガスセンサ10を内燃機関の排気ガスの測定用に用いたが、本開示のガスセンサ10の用途は内燃機関用には限定されない。燃焼器等各種の機器に用いることができる。更に、上述したのは本開示の望ましい例であるが、本開示は種々に変更可能である。例えば、センサ素子200の形状を積層板形状としたのは一例であり、センサ素子200の形状は他に変更できる。また、上述の例で説明した大きさも一例であり、ガスセンサ10に求められる性能に応じて、素材や大きさは適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 ガスセンサ
100 ハウジング
110 ガスカバー
120 インシュレータ
130 大気カバー
132 大気通過口
200 センサ素子
221 大気室
222 大気導入通路
223 大気導出通路
232 固体電解質体部
241 大気電極
251 ガス電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9