(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129511
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】有機肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 17/70 20200101AFI20240919BHJP
C05F 17/00 20200101ALI20240919BHJP
C05F 3/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C05F17/70
C05F17/00
C05F3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038761
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】505193900
【氏名又は名称】クリタ分析センター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521102661
【氏名又は名称】一般社団法人SOFIX農業推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】相馬 顕紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晃教
(72)【発明者】
【氏名】谷口 仁美
(72)【発明者】
【氏名】久保 幹
(72)【発明者】
【氏名】川村 瑞穂
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061AA02
4H061CC36
4H061CC47
4H061FF30
4H061GG10
4H061GG19
4H061GG41
4H061HH07
4H061LL26
(57)【要約】
【課題】作物の生育に必要な成分品質を一定とすることができる有機肥料の製造方法を提供する。
【解決手段】家畜糞尿及び/又は植物性堆肥と未発酵有機資材とからなる肥料原料と、土壌中のバクテリアを活性化させるためのバクテリア活性化剤とを含む有機肥料の製造方法であって、前記肥料原料の分析を行う第1の分析工程と、前記第1の分析工程の分析結果に基づいて前記肥料原料とバクテリア活性化剤との配合比率を決定する工程と、この配合比率に基づき肥料原料とバクテリア活性化剤とを混合する混合工程とを有する、有機肥料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜糞尿及び/又は植物性堆肥と未発酵有機資材とからなる肥料原料と、土壌中のバクテリアを活性化させるためのバクテリア活性化剤とを含む有機肥料の製造方法であって、
前記肥料原料の分析を行う第1の分析工程と、
前記第1の分析工程の分析結果に基づいて前記肥料原料とバクテリア活性化剤との配合比率を決定する工程と、
この配合比率に基づき肥料原料とバクテリア活性化剤とを混合する混合工程と
を有する、有機肥料の製造方法。
【請求項2】
前記有機肥料の含水率が20重量%以下となるように水分調整を行う工程を有する、請求項1に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項3】
前記第1の分析工程が、前記肥料原料の品質指標値について分析を行うものであり、
この分析結果に基づいて各肥料原料及びバクテリア活性化剤の配合比率を決定する、請求項1の有機肥料の製造方法。
【請求項4】
前記肥料原料の品質指標値は、少なくとも硝酸態窒素、可給態リン酸、交換性カリウム、アンモニア態窒素、全炭素量、全窒素量、全リン量、全カリウム量及びC/N比である、請求項3の有機肥料の製造方法。
【請求項5】
製造された前記有機肥料を分析する第2の分析工程をさらに有し、この分析結果に基づき有機肥料の出荷の可否を判定する工程を有する、請求項1に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項6】
前記第2の分析工程が、有機肥料の品質指標値を分析する工程を含み、
分析により求められた値を予め設定した推奨値と対比し、対比結果に基づいて前記有機肥料の出荷の可否を判定する、請求項4に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項7】
前記有機肥料の品質指標値は、少なくとも硝酸態窒素、可給リン酸、交換性カリウム、アンモニア態窒素、全炭素量、全窒素量、全リン量、全カリウム量、C/N比、含水率、及び総細菌数を含む、請求項5又は6の有機肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機肥料の製造方法に係り、特に家畜糞尿及び/又は植物性堆肥と未発酵有機資材等を用いた有機肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜糞尿を用いた従来の堆肥は、家畜の種類、飼育目的、季節変動により組成が変化し、作物の生育に必要な成分品質が一定ではない。そのために、家畜に与える飼料により、配合原料に作物等の生育に必要な成分の過不足が生じることがある。また、その結果、収穫量が増加せず、かつ品質も変動することがある。
【0003】
特許文献1には、家畜糞尿及び/又は植物性廃棄物を混合し、発酵させる堆肥製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、家畜糞尿を用いた従来の堆肥は、家畜の飼育目的や飼育環境により品質が一定ではない。また、含水率の高い堆肥は、重量あたりの有効成分量が少なく、臭気も強いので取扱いにくい。また、作物の生育に対し、一つの堆肥で成分を満足させることは難しく、複数の堆肥や有機資材を施肥する必要がある。
【0006】
本発明は、作物の生育に必要な成分品質を一定とすることができる有機肥料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
[1] 家畜糞尿及び/又は植物性堆肥と未発酵有機資材とからなる肥料原料と、土壌中のバクテリアを活性化させるためのバクテリア活性化剤とを含む有機肥料の製造方法であって、
前記肥料原料の分析を行う第1の分析工程と、
前記第1の分析工程の分析結果に基づいて前記肥料原料とバクテリア活性化剤との配合比率を決定する工程と、
この配合比率に基づき肥料原料とバクテリア活性化剤とを混合する混合工程と
を有する、有機肥料の製造方法。
【0009】
[2] 前記有機肥料の含水率が20重量%以下となるように水分調整を行う工程を有する、[1]に記載の有機肥料の製造方法。
【0010】
[3] 前記第1の分析工程が、前記肥料原料の品質指標値について分析を行うものであり、
この分析結果に基づいて各肥料原料及びバクテリア活性化剤の配合比率を決定する、[1]の有機肥料の製造方法。
【0011】
[4] 前記肥料原料の品質指標値は、少なくとも硝酸態窒素、可給態リン酸、交換性カリウム、アンモニア態窒素、全炭素量、全窒素量、全リン量、全カリウム量及びC/N比である、[3]の有機肥料の製造方法。
【0012】
[5] 製造された前記有機肥料を分析する第2の分析工程をさらに有し、この分析結果に基づき有機肥料の出荷の可否を判定する工程を有する、[1]に記載の有機肥料の製造方法。
【0013】
[6] 前記第2の分析工程が、有機肥料の品質指標値を分析する工程を含み、
分析により求められた値を予め設定した推奨値と対比し、対比結果に基づいて前記有機肥料の出荷の可否を判定する、[4]に記載の有機肥料の製造方法。
【0014】
[7] 前記有機肥料の品質指標値は、少なくとも硝酸態窒素、可給リン酸、交換性カリウム、アンモニア態窒素、全炭素量、全窒素量、全リン量、全カリウム量、C/N比、含水率、及び総細菌数を含む、[5]又は[6]の有機肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法によると、作物の生育に必要な成分品質を一定とした堆肥を主成分とする有機肥料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の有機肥料の製造方法では、家畜糞尿及び/又は植物性堆肥と未発酵有機資材とからなる肥料原料と、土壌中のバクテリアを活性化させるためのバクテリア活性化剤とを混合する。
【0018】
[肥料原料]
家畜糞尿としては、家畜由来の糞尿であれば特に限定されないが、例えば馬糞尿、牛糞尿、豚糞尿、鶏糞尿、羊糞尿などが挙げられ、1種類の動物由来の糞尿又は2種類以上の動物由来の糞尿を混合したもののいずれであってもよい。
【0019】
植物性堆肥としては、バーク堆肥、生ゴミ堆肥、植物残渣堆肥などが用いられる。
【0020】
未発酵有機資材としては、大豆かす、油かす、魚粉、骨粉、米ぬか、木材チップ、バーク、稲わら、生ゴミ、植物残渣、炭、籾殻、灰などが用いられる。
【0021】
[バクテリア活性化剤]
バクテリア活性化剤としては、家畜糞尿及び/又は植物性廃棄物と、リン(P)とカリウム(K)の合計量と比較して窒素(N)の方が含有量が高い有機物を混合し原料混合物とする工程、及び該原料混合物を発酵させる工程で製造されたもの(特許文献1で提供されるもの)が好適である。
【0022】
特許文献1に記載されている通り、このバクテリア活性化剤を製造するための家畜糞尿としては、上記と同様のものが用いられる。植物性廃棄物としては、植物由来の廃棄物であれば特に限定されないが、例えばバーク、籾殻、おが屑、チップ(間伐材由来のチップなど)、わら、落ち葉、刈り草などが挙げられ、1種類の植物性廃棄物又は2種類以上の植物性廃棄物を混合したもののいずれであってもよい。
【0023】
リン(P)とカリウム(K)の合計量と比較して窒素(N)の方が含有量が高い有機物としては、大豆カス、油カス、魚粉、タンパク質、ペプチド、アミノ酸などが挙げられ、これらを1種単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0024】
バクテリア活性化剤の製造方法における混合工程では、家畜糞尿及び/又は植物性廃棄物と、リン(P)とカリウム(K)の合計量と比較して窒素(N)の方が含有量が高い有機物を混合し原料混合物とする。この混合物を発酵させることにより、バクテリア活性化剤が得られる。
【0025】
発酵は公知の方法により行うことができる。例えば、堆積し、発酵と切返しを繰り返して行う。
【0026】
発酵工程における発酵温度は、50℃以上、特に80~100℃であることが望ましい。また、原料混合物のpHは、5~9、好ましくは6~8に調整することが望ましい。このような温度やpHとすることで、微生物による発酵が活発に行われることが可能になる。また、発酵に適した原料混合物の水分量は、好ましくは50~80重量%、より好ましくは60~70重量%であり、このような適切な水分量とするために、適宜水の添加又は水の吸収により水分量の調節を行うことが望ましい。
【0027】
発酵を行う微生物については、原料混合物に元から存在する微生物により発酵を行っても良いが、原料混合物に有用微生物を添加することにより発酵を行っても良い。このような有用微生物としては、窒素、リン、及び/又はカリウムの循環活性を有する微生物、例えば、アンモニア酸化細菌等が挙げられる。
【0028】
発酵期間は、発酵温度や微生物の活性などにより変わってくるが、通常30~180日程度である。
【0029】
このようなバクテリア活性化剤としては、市販されているSOFIXエレメントが好適である。
【0030】
[有機肥料の製造工程]
本発明の有機肥料の製造方法では、上記の家畜糞尿及び/又は植物性堆肥と、未発酵有機資材と、バクテリア活性化剤とを製造工場に受け入れ、これらを混合して有機肥料を製造する。
【0031】
本発明では、受け入れた家畜糞尿、植物性堆肥及び未発酵有機資材について、それぞれ品質指標値の分析を行う(第1分析工程)。
【0032】
家畜糞尿、植物性堆肥、未発酵有機資材の品質指標値としては、硝酸態窒素、可給態リン酸、交換性カリウム、アンモニア態窒素、全炭素量、全窒素量、全リン量、全カリウム量及びC/N比のほか、含水率などが挙げられる。
【0033】
なお、家畜糞尿及び/又は植物性堆肥の品質指標値の推奨値は以下の通りである。
C/N比 20以下
全炭素 200,000mg/kg以上
全窒素 12,000mg/kg以上
全リン 6,000mg/kg以上
全カリウム 15,000mg/kg以上
硝酸態窒素 100mg/kg以下
アンモニア態窒素 200mg/kg以上
可供態水溶性リン酸 500mg/kg以上
交換性カリウム 5,000mg/kg以上
含水率 10重量%以下
【0034】
また、未発酵有機資材の品質指標値の推奨値は以下の通りである。
C/N比 25以下
全炭素 300,000mg/kg以上
全窒素 20,000mg/kg以上
全リン 9,000mg/kg以上
全カリウム 20,000mg/kg以上
硝酸態窒素 100mg/kg以下
アンモニア態窒素 100mg/kg以上
可供態水溶性リン酸 500mg/kg以上
交換性カリウム 5,000mg/kg以上
含水率 10重量%以下
【0035】
測定された指標値が推奨範囲を逸脱している場合、例えば家畜糞尿の含水率が推奨範囲よりも多いときには、家畜糞尿を乾燥処理して含水率を推奨範囲内とすることが好ましい。
【0036】
上記の各指標値に基づいて(好ましくは、測定された指標値と、各指標値について予め設定しておいた推奨値とを対比し、この対比結果に基づいて)、家畜糞尿及び/又は植物性堆肥と、未発酵有機資材と、バクテリア活性化剤との配合比率を決定し、この比率にて各々を混合して有機肥料とする。
【0037】
製造された有機肥料の含水率が20重量%超のときには、20重量%以下となるように水分調整を行うことが好ましい。水分調整方法としては、乾燥が好適である。
【0038】
[有機肥料の出荷可否の判定]
本発明の一態様では、混合工程を経て得られた有機肥料(製品)の品質指標値を分析する(第2の分析工程)。
【0039】
分析する品質指標値としては、硝酸態窒素、可給リン酸、交換性カリウム、アンモニア態窒素、全炭素量、全窒素量、全リン量、全カリウム量、C/N比、含水率、及び堆肥中の総細菌数などが挙げられる。
【0040】
製造された有機肥料の品質指標値の推奨値は以下の通りである。
C/N比 20以下
全炭素 200,000mg/kg以上
全窒素 12,000mg/kg以上
全リン 6,000mg/kg以上
全カリウム 15,000mg/kg以上
硝酸態窒素 100mg/kg以下
アンモニア態窒素 200mg/kg以上
可供態水溶性リン酸 500mg/kg以上
交換性カリウム 5,000mg/kg以上
含水率 10重量%以下
総細菌数 10.0cells/g-sample以上
【0041】
そして、これらの品質指標値が基準範囲内の値である場合には出荷してもよいとの判定を行う。
【0042】
この有機肥料の製造方法によると、次の結果が得られる。
・ 原料の有効成分のバラつきに合わせ配合量を調整するので、一定品質の有機肥料が製造される。
・ 原料の含水率を低下させて規定範囲内とすることにより、混合効率が向上すると共に製品品質が安定化する。
・ ミネラル過剰摂取が防止される。
・ 貯蔵時、運搬時、および使用時の悪臭が少ない。
【実施例0043】
[実施例1]
牛糞、鶏糞、大豆かす、及びSOFIXエレメントを購入し、牛糞、鶏糞、大豆かすの品質指標値として硝酸態窒素、可給態リン酸、交換性カリウム、アンモニア態窒素、全炭素量、全窒素量、全リン量、全カリウム量及びC/N比を分析した。
【0044】
牛糞の含水率が40重量%を超過しており、再乾燥を行って30重量%とした。
【0045】
分析結果に基づいて、配合比(重量比)を、牛糞3、鶏糞1、大豆かす1、及びSOFIXエレメント0.1と決定し、この比率にて混合して有機肥料を製造した。
【0046】
製造した有機肥料を分析した結果、製品判定基準(前記推奨値)をクリアしていることが認められたので、出荷許可の判定とした。
【0047】
[実施例2]
バーク堆肥、豚糞、魚粉、及びSOFIXエレメントを購入し、バーク堆肥、豚糞、魚粉の品質指標値(上記)を分析した。
【0048】
分析の結果、バーク堆肥の交換性カリウムが比較的低い値であったので、交換性カリウムを増やすために魚粉の配合量を増やすように配合比(重量比)をバーク堆肥4、豚糞2、魚粉1、及びSOFIXエレメント0.5と決定し、この比率にて混合した。
【0049】
製造した有機肥料を分析した結果、製品判定基準(前記推奨値)をクリアしていることが認められたので、出荷許可の判定とした。