(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129532
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽用組成物、その製造方法、および電磁波遮蔽用塗膜
(51)【国際特許分類】
C08L 101/06 20060101AFI20240919BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240919BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08L101/06
C08K3/04
H05K9/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038812
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】谷口 竜治
【テーマコード(参考)】
4J002
5E321
【Fターム(参考)】
4J002AA051
4J002BD151
4J002BE041
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD206
4J002GQ00
5E321BB57
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】電磁波遮蔽特性と耐久性に優れ、平滑な電磁波遮蔽用塗膜を形成できる電磁波遮蔽用組成物を提供する。
【解決手段】カーボン材料および高分子スルホン酸を含む、電磁波遮蔽用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン材料および高分子スルホン酸を含む、電磁波遮蔽用組成物。
【請求項2】
膜厚3.0~8.5μmで製膜した塗膜において、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上である、請求項1に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項3】
カーボン材料の固形分100重量部に対し、高分子スルホン酸の固形分が50~8,000重量部であり、全固形分率が10重量%以下である、請求項1または2に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項4】
前記高分子スルホン酸が、パーフルオロスルホン酸ポリマーである、請求項1または2に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項5】
前記高分子スルホン酸が、重量平均分子量1,000~2,000,000のポリスチレンスルホン酸である、請求項1または2に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項6】
前記カーボン材料が、グラフェン、フラーレンおよびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項7】
分散質の平均粒子径が200~50,000nmである、請求項1または2に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項8】
さらにバインダーを含む、請求項1または2に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項9】
カーボン材料と高分子スルホン酸との混合物を1時間以内で攪拌する前分散工程、および、
前分散工程で得られた混合物を振動ミル、遊星ミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ジェットミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、および高圧ホモジナイザーからなる群から選択される装置で分散する本分散工程を含む、
電磁波遮蔽用組成物の製造方法。
【請求項10】
カーボン材料を含む電磁波遮蔽用塗膜であって、
膜厚3.0~8.5μmで製膜したときに、
18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上であり、かつ、
ISO25178に準拠した突出山部高さSpkが0.40μm以下である、
電磁波遮蔽用塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波遮蔽用組成物、その製造方法、および電磁波遮蔽用塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
通信、医療から、家庭での調理に至るまで、種々の周波数帯域の電磁波が幅広く活用されている。その一方で、意図しない電磁波は、電子機器の誤作動や情報漏洩の原因となるため、外部からの電磁波の影響や、不要な電磁波の放出を低減するために、電子機器には電磁波遮蔽構造が設けられている。近年、高速・大容量通信を実現するために、GHz周波数帯域の電磁波を利用する通信技術開発が加速しており、特に、第5世代移動通信システム(5G)や自動車センサーでは、ミリ波以上の高周波数帯域での電磁波が多用されるようになり、高周波数帯域を広範囲に遮蔽する電磁波遮蔽構造が求められている。
【0003】
従来の電磁波遮蔽構造としては銅などの導電性金属を含む成型体やシートが用いられているが、カーボンナノチューブなどのカーボン材料を電磁波遮蔽に用いることも検討されている。カーボン材料は導電性と耐久性に優れるが、アスペクト比が大きく、配位不飽和な構造を有しているため分子間相互作用が強く凝集しやすい。カーボン材料が凝集した状態では製膜時の均一性が低く、本来の電磁波遮蔽特性を発揮できない。
【0004】
特許文献1~2は、カーボン材料を分散剤により分散させたうえで基材上に塗布し、電磁波遮蔽用塗膜を形成することを記載しているが、これらは上記の課題の解決には十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-203969号公報
【特許文献2】国際公開2021/199477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電磁波遮蔽特性と耐久性に優れ、平滑な電磁波遮蔽用塗膜を形成できる電磁波遮蔽用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カーボン材料および高分子スルホン酸を含む電磁波遮蔽用組成物が、電磁波遮蔽特性と耐久性に優れ、平滑な電磁波遮蔽用塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、カーボン材料および高分子スルホン酸を含む、電磁波遮蔽用組成物に関する。
【0009】
電磁波遮蔽用組成物は、膜厚3.0~8.5μmで製膜した塗膜において、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上であることが好ましい。
【0010】
電磁波遮蔽用組成物において、カーボン材料の固形分100重量部に対し、高分子スルホン酸の固形分が50~8,000重量部であり、全固形分率が10重量%以下であることが好ましい。
【0011】
前記高分子スルホン酸が、パーフルオロスルホン酸ポリマーであることが好ましい。
【0012】
前記高分子スルホン酸が、重量平均分子量1,000~2,000,000のポリスチレンスルホン酸であることが好ましい。
【0013】
前記カーボン材料が、グラフェン、フラーレンおよびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
電磁波遮蔽用組成物は、分散質の平均粒子径が200~50,000nmであることが好ましい。
【0015】
電磁波遮蔽用組成物は、さらにバインダーを含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明は、カーボン材料と高分子スルホン酸との混合物を1時間以内で攪拌する前分散工程、および、前分散工程で得られた混合物を振動ミル、遊星ミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ジェットミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、および高圧ホモジナイザーからなる群から選択される装置で分散する本分散工程を含む電磁波遮蔽用組成物の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、カーボン材料を含む電磁波遮蔽用塗膜であって、膜厚3.0~8.5μmで製膜したときに、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上であり、かつ、ISO25178に準拠した突出山部高さSpkが0.40μm以下である電磁波遮蔽用塗膜に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電磁波遮蔽用組成物を使用することにより、電磁波遮蔽特性、耐久性、および平滑な電磁波遮蔽用塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<<電磁波遮蔽用組成物>>
本発明の電磁波遮蔽用組成物は、カーボン材料および高分子スルホン酸を含むことを特徴とする。
【0020】
<カーボン材料>
カーボン材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、カーボンナノファイバー等が挙げられる。
【0021】
カーボンナノチューブの種類は特に限定されず、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)等の各種公知技術により製造されたカーボンナノチューブを適宜選択して用いることができる。単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブおよびこれらを任意の割合で含む混合物のいずれも使用可能である。導電性に優れる点から、単層カーボンナノチューブであることが好ましい。
【0022】
カーボンナノチューブの長さは、0.1~2000μmが好ましく、0.5~1000μmがより好ましく、0.5~500μmがさらに好ましい。この範囲内では、カーボンナノチューブの凝集、切断、破壊を抑制でき、導電経路を形成しやすい傾向がある。
【0023】
カーボンナノチューブの直径は、0.1~50nmが好ましく、0.3~20nmがより好ましく、0.5~10nmがさらに好ましい。この範囲内では、電磁波遮蔽特性に必要な、導電性を維持しやすい傾向がある。0.1nm未満のカーボンナノチューブは製造することが困難である。
【0024】
グラフェンは、平均粒子径が50~4000nmが好ましく、100~2000nmがより好ましい。
【0025】
カーボンナノ材料の導電率は、300~5000S/cmが好ましく、500~2000S/cmがより好ましい。上記範囲内では、組成物の電磁波遮蔽特性に優れる傾向がある。
【0026】
電磁波遮蔽用組成物において、カーボン材料の配合量は固形分中5~99重量%が好ましく、10~70重量%がより好ましく、25~40重量%がさらに好ましい。
【0027】
<高分子スルホン酸>
高分子スルホン酸は、カーボン材料の分散性を向上すること、および/またはカーボン材料をドープすることにより、組成物の導電性を向上し、その結果、電磁波遮蔽特性を向上すると推測されるが、本発明の範囲はこれらの機構に限定されない。高分子スルホン酸は、主骨格の側鎖にスルホン酸を有する高分子化合物、すなわちスルホン酸基含有ポリマーであれば特に限定されず、例えば、スルホン酸を有するフッ素系ポリマー、スルホン酸を有する炭化水素系ポリマーが挙げられる。
【0028】
スルホン酸を有するフッ素系ポリマーとしては、パーフルオロスルホン酸ポリマー、部分フッ素化スルホン酸ポリマーが挙げられる。
【0029】
パーフルオロスルホン酸ポリマーとしては、パーフルオロアルキル基や、パーフルオロポリエーテル基等のパーフルオロユニットと、スルホン酸基が含まれるポリマーであれば特に限定されないが、例えば、パーフルオロフッ化スルホニルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンとの共重合体等が挙げられ、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロエーテル側鎖を有するものが好ましく、ペンダント側鎖のないものがさらに好ましい。また、一部のフッ素が水素に置換されていてもよいし、一部に架橋可能な側鎖が導入されていてもよい。
【0030】
パーフルオロスルホン酸ポリマーの製品名としては、ナフィオン(NAFION(登録商標)、デュポン製)、アクイヴィオン(AQUIVION(登録商標)、Solvay Specialty Polymers製)が挙げられる。
【0031】
スルホン酸を有する炭化水素系ポリマーとしては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、スルホエチル化コーンスターチなどのスルホン化多糖類、ポリエステルスルホン酸、ポリイミドスルホン酸、ポリビニリデンフルオライドスルホン酸、ポリエーテルスルホン酸、ポリフェニレンスルフィドスルホン酸、ポリフェニレンオキシドスルホン酸、ポリエチレンナフタレートスルホン酸、ポリピロールスルホン酸、芳香族スルホン酸ポリマー、ビスフェノールフルオレン型スルホン酸が挙げられる。また、これらのスルホン酸を有する炭化水素系ポリマーは、構造中にスルホン酸を有する炭化水素系ポリマーであれば特に限定されず、例えば、ビニルスルホン酸類とビニルカルボン酸類との共重合体や、主鎖の繰り返し単位にスルホン酸基が導入されたπ共役系高分子であってもよい。
【0032】
高分子スルホン酸は、単一共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、マルチブロック共重合体のいずれであってもよい。また、高分子スルホン酸は、ポリピロール、ポリチオフェンなどのπ共役系高分子と複合体を形成していてもよく、このとき、ポリチオフェンとしてはポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。
【0033】
以上に挙げたスルホン酸を有する炭化水素系ポリマーの中でも、ポリスチレンスルホン酸、主鎖の繰り返し単位にスルホン酸基が導入されたπ共役系高分子、ポリスチレンスルホン酸とπ共役系高分子との複合体が好ましい。
【0034】
高分子スルホン酸の重量平均分子量は、1,000~2,000,000が好ましく、5,000~1,000,000がより好ましく、10,000~1,000,000がさらに好ましい。高分子スルホン酸としてポリスチレンスルホン酸を用いる場合には、その重量平均分子量は、1,000~2,000,000が好ましく、10,000~200,000が好ましく、75,000~100,000がより好ましい。
【0035】
高分子スルホン酸において、スルホン酸基1モルあたりの高分子スルホン酸の質量(等価質量)は500~1500g/molが好ましく、650~1200g/molがより好ましく、700~1000g/molがさらに好ましい。
【0036】
カーボン材料の固形分100重量部に対し、高分子スルホン酸の固形分は50~8,000重量部であることが好ましく、50~6,000重量部であることがより好ましく、50~1,500重量部であることがさらに好ましく、100~800重量部であることが特に好ましい。上記範囲内では、電磁波遮蔽特性に優れる傾向がある。
【0037】
電磁波遮蔽用組成物は、カーボン材料および高分子スルホン酸、並びに必要に応じて後述の任意成分を含めた全成分の固形分率が10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下がさらに好ましく、2重量%以下が特に好ましい。上記範囲内であると、電磁波遮蔽特性を発現するのに必要な、均一な塗膜を形成しやすい傾向がある。固形分率の下限は特に限定されないが、一般的に0.01重量%以上である。電磁波遮蔽用組成物は、カーボン材料の固形分100重量部に対し、高分子スルホン酸の固形分が50~8,000重量部であり、全固形分率が10重量%以下であることが特に好ましい。全成分の固形分率は、後述する溶媒の配合量により調節することができる。
【0038】
電磁波遮蔽用組成物では、カーボン材料が良好に分散していることが好ましい。カーボン材料の分散性は、電磁波遮蔽用組成物における、分散質の平均粒子径、沈殿の有無により評価できる。
【0039】
電磁波遮蔽用組成物中のカーボン材料および高分子スルホン酸からなる分散質の平均粒子径は200~50,000nmが好ましく、200~20,000nmがより好ましく、200~1,500nmがさらに好ましい。平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0040】
電磁波遮蔽用組成物では、エタノールにより全固形分が0.0025重量%となるように希釈し、1時間静置した後に、目視で視認可能な沈殿物が生じないことが好ましい。
【0041】
本発明の電磁波遮蔽用組成物を基材上に塗布し、塗膜を形成したときに、優れた電磁波遮蔽特性を示す。具体的には、膜厚3.0~8.5μmで製膜した塗膜において、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上であることが好ましく、30dB以上であることがより好ましく、35dB以上であることがさらに好ましい。電磁波遮蔽特性の上限は特に限定されないが、一般的に100dB以下である。塗膜の形成、および電磁波遮蔽特性の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0042】
電磁波遮蔽には、主に、電磁波の反射によるものと、電磁波の吸収によるものが挙げられる。本発明の電磁波遮蔽用組成物からなる塗膜は、電磁波の反射により電磁波を遮蔽すると推測されるが、本発明の範囲はこれらの機構に限定されない。
【0043】
<任意成分>
電磁波遮蔽用組成物は、カーボン材料、高分子スルホン酸に加えて、バインダー、溶媒、レベリング剤、分散剤、架橋剤、触媒、水溶性酸化防止剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤、中和剤、増粘剤、無機フィラー等を含有していてもよい。
【0044】
バインダーは、樹脂バインダーであれば特に限定されないが、例えばアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。バインダーは、カーボン材料との配合を容易にするため、水分散性樹脂であることが好ましい。また、バインダーは、樹脂に親水性の官能基が付与された結果分散化されたものであってもよいし、乳化剤により強制的に分散化されたものであってもよい。
【0045】
アクリル系樹脂としては、例えば(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂等が挙げられる。これらのアクリル系樹脂は、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基などの酸基を有する重合性単量体を構成モノマーとして含む重合体であってもよく、例えば、酸基を有する重合性単量体の単独又は共重合体、酸基を有する重合性単量体と共重合性単量体との共重合体等が挙げられる。
【0046】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体を主たる構成モノマー(例えば、50モル%以上)として含んでいれば共重合性単量体と重合していてもよく、この場合、(メタ)アクリル系単量体及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、酸基を有する(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド等]又はその共重合体、酸基を有していてもよい(メタ)アクリル系単量体と、酸基を有する他の重合性単量体[他の重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニル芳香族スルホン酸等]及び/又は共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル単量体等]との共重合体、酸基を有する他の重合体単量体と(メタ)アクリル系共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等]との共重合体、ロジン変性ウレタンアクリレート、特殊変性アクリル樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートエマルジョン等が挙げられる。
【0047】
これらの(メタ)アクリル系樹脂の中では、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル重合体(アクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体等)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体(アクリル酸-メタクリル酸メチル-スチレン共重合体等)等が好ましい。
【0048】
ポリエステル系樹脂としては、2以上のカルボキシル基を分子内に有する化合物と、2以上のヒドロキシル基を有する化合物とを重縮合して得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0049】
ポリウレタン系樹脂としては、イソシアネート基を有する化合物とヒドロキシル基を有する化合物を共重合させて得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、エステル・エーテル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン、アクリル系ポリウレタン等が挙げられる。これらのポリウレタン樹脂は、ポリ(オキシエチレン)ポリオールなどのノニオン系親水性極性基、-COOM、-SO3 M(Mはアルカリ金属、アンモニウム基、有機アミンを示す。)などのアニオン系親水性極性基、4級アンモニウム塩などのカチオン系親水性極性基が導入されていてもよい。
【0050】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、ポリ-1-ブテン、塩素化ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、シクロペンテン、シクロヘキセン、及びノルボルネンなどのα-オレフィンコモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体であってもよいし、カルボン酸基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、スルフィノ基(-SO2H)、ホスホノ基(-PO2H)、ビニルアルコール鎖、ビニルピロリドン鎖、エーテル鎖などの親水性極性基が導入されていてもよい。
【0051】
シリコーン系樹脂としては、下記式(I)により表されるアルコキシシランのモノマー同士が縮合することで形成される、シロキサン結合(Si-O-Si)を1分子内に1個以上有するアルコキシシランオリゴマーが挙げられる。アルコキシシランオリゴマーの構造は特に限定されず、直鎖状であってもよく、分岐状でもよい。また、アルコキシシランオリゴマーは、式(I)により表される化合物を単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
SiR4(I)
(式中、Rは、水素、水酸基、炭素数1~4のアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基である。但し、4つのRのうち少なくとも1個は炭素数1~4のアルコキシ基又は水酸基である。)
【0052】
バインダーの含有量は、電磁波遮蔽用組成物の固形分中、10~99重量%が好ましく、10~75重量%がより好ましく、15~50重量%がさらに好ましい。また、バインダーの含有量は、カーボン材料と高分子スルホン酸の合計量100重量部に対して10~5000重量部が好ましく、10~1000重量部がより好ましく、10~100重量部がさらに好ましい。この範囲内では、電磁波遮蔽用塗膜に十分な強度と電磁波遮蔽特性を持たせることができる。
【0053】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエーテルアセテート類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン(o-、m-、あるいはp-キシレン)、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類:酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル、オルト酢酸メチル、オルトギ酸エチル等のエステル類:N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン等のアミド化合物;トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、等のヒドロキシル基含有化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホ基を有する化合物;ハロゲン類、イソホロン、プロピレンカーボネート、アセチルアセトン、アセトニトリル等の有機溶剤、水が挙げられる。また、水とこれらの有機溶剤との混合溶媒(含水有機溶剤)、2種以上の有機溶剤の混合溶媒等が挙げられる。水と有機溶剤との混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶剤の配合量は1~99重量%が好ましく、20~50重量%がより好ましい。カーボン材料の分散安定性と、基材への塗布性の点からは、これらの中でも、水、アルコール類、グリコールエーテル類、水とアルコール類の混合溶媒、または、水とグリコールエーテル類の混合溶媒が好ましい。アルコールの中では、エタノール、2-プロパノールが好ましい。また、塗布性向上のために、エチレングリコール類、プロピレングリコール類、アミド化合物等を添加することも有効である。
【0054】
なお、本明細書においては、電磁波遮蔽用組成物の全ての成分を完全に溶解させるもの(即ち、「溶媒」)と、不溶成分を分散させるもの(即ち、「分散媒」)とを特に区別せずに、いずれも「溶媒」と記載する。
【0055】
電磁波遮蔽用組成物は、基材に対する親和性を高めるために、レベリング剤を含有することが好ましい。レベリング剤を添加することにより、電磁波遮蔽用塗膜を形成する際にハジキやムラが生じることを抑制することができる。
【0056】
レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、ポリエーテル系レベリング剤、ポリエステル系レベリング剤、アクリル系レベリング剤が挙げられる。
【0057】
シリコーン系レベリング剤としては、ポリシロキサン;アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の反応性基を導入した反応性ポリシロキサン;アルキル基、エステル基、アラルキル基、フェニル基、ポリエーテル基等の非反応性を導入した非反応性ポリシロキサンが挙げられる。
【0058】
フッ素系レベリング剤としては、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロブタンスルホン酸、含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、パーフルオロアルキル基・リン酸基含有リン酸エステル等が挙げられる。
【0059】
ポリエーテル系レベリング剤としては、セルロースエーテル;プルラン;ポリエチレングリコール:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン等のシリコーン変性ポリエーテル;ポリグリセリン;ポリエーテルポリオール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレート等のアルキルエーテル誘導体、アルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。
【0060】
ポリエステル系レベリング剤としては、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0061】
アクリル系レベリング剤としては、シリコーンとアクリルからなるアクリル系共重合物等が挙げられる。
【0062】
レベリング剤の含有量は、電磁波遮蔽用組成物の固形分中0.01~40重量%であることが好ましく、0.1~20重量%であることがより好ましく、1~10重量%であることがさらに好ましい。電磁波遮蔽用組成物の含有量が上記範囲内であると、基材塗布性や分散安定性、導電層とした際の膜強度が良好となる。
【0063】
電磁波遮蔽用組成物に分散剤を添加することにより、カーボン材料、高分子スルホン酸、およびその他の成分の分散安定性を向上できる。分散剤としては、例えば、陽イオン性分散剤、陰イオン性分散剤、両イオン性分散剤、非イオン性分散剤、高分子系分散剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、分散剤としては、HLB値が12以上のものが好ましく、14以上のものがより好ましい。なお、本明細書におけるHLB値は、以下の数式により算出することができる:
グリフィン法:HLB値=[(親水部分の分子量)÷(全体の分子量)]×20
【0064】
陽イオン分散剤としては、例えば、ステアリルアミンアセテート等の炭素数8~22のアルキル基を有するアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0065】
陰イオン分散剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の炭素数8~18のアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の炭素数8~18のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の炭素数8~18のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩等のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などが挙げられる。
【0066】
両イオン性分散剤としては、例えば、炭素数8~22のアルキル基を有するアルキルベタイン、炭素数8~18のアルキル基を有するアルキルアミンオキサイドなどが挙げられる。
【0067】
非イオン性分散剤としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドから構成されるブロック共重合体、炭素数1~20のアルキル基を有するアルキルフェノールポリエチレングリコールエーテル、炭素数2~4のアルキレン基を有するポリカルボキシレートエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0068】
高分子系分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシセルロース、炭素数の1~8のアルキル基を有するヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、デンプン、ゼラチン、アクリル系コポリマー、ポリカルボン酸又はその誘導体、ポリスチレンスルホン酸又はその塩などの高分子系分散剤などが挙げられる。
【0069】
分散剤の添加量は、カーボン材料100重量部に対して1~10000重量部が好ましく、20~4000重量部がより好ましい。
【0070】
架橋剤としては、例えばメラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系、エポキシ系、イソシアネート系、アクリレート系等の架橋剤が挙げられる。架橋剤の含有量は、電磁波遮蔽用組成物中30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。電磁波遮蔽用組成物が熱硬化性のバインダー及び架橋剤を含有する場合、熱硬化性のバインダーを架橋させるための触媒としては、特に限定されず、例えば、酸触媒や塩基触媒、光重合開始剤や熱重合開始剤等が挙げられる。
【0071】
電磁波遮蔽用組成物に水溶性酸化防止剤を配合することにより、電磁波遮蔽用塗膜の耐熱性、耐湿熱性を向上させることができる。水溶性酸化防止剤としては、還元性の水溶性酸化防止剤、非還元性の水溶性酸化防止剤等が挙げられる。電磁波遮蔽用組成物が水溶性酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、電磁波遮蔽用組成物の固形分中1~20重量%が好ましく、5~10重量%がより好ましい。
【0072】
無機フィラーとしては、コロイダルシリカ、中空シリカ、フュームドシリカ等のシリカ、及びチタニア、ジルコニア等の金属酸化物の他、熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂をシリカで被覆したコアシェル型のアクリル-シリカ複合体、メラミン樹脂をシリカで被覆したコアシェル型のメラミン-シリカ複合体、シリカを熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂で被覆したコアシェル型のアクリル-シリカ複合体、シリカをメラミン樹脂で被覆したコアシェル型のメラミン-シリカ複合体、熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂により小さなシリカを担持させたアクリル-シリカ複合体のような有機無機複合体等が挙げられる。電磁波遮蔽用組成物が無機フィラーを含有する場合、その含有量は固形分中0.1~30重量%が好ましく、0.2~10重量%がより好ましい。
【0073】
<<電磁波遮蔽用組成物の製造方法>>
電磁波遮蔽用組成物は、カーボン材料、および高分子スルホン酸を含むかぎり、その製造方法は限定されず、各成分を任意の順序で混合すればよいが、カーボン材料と高分子スルホン酸との混合物を1時間以内で攪拌する前分散工程、および、前分散工程で得られた混合物を振動ミル、遊星ミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ジェットミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、および高圧ホモジナイザーからなる群から選択される装置で分散する本分散工程を含む方法により製造することが好ましい。
【0074】
前分散工程では、カーボン材料と高分子スルホン酸との混合物を1時間以内で攪拌する。混合物中のカーボン材料、および高分子スルホン酸の含有量は、電磁波遮蔽用組成物中の含有量として前述した範囲とすることが好ましい。
【0075】
前分散工程での撹拌処理は、本分散工程よりも強度の低い条件での分散処理であり、撹拌体の高速回転により、カーボン材料の凝集を緩める効果がある。前分散工程を行うことにより、その後の本分散工程でカーボン材料の分散をより効率的に行える。前分散工程での撹拌速度は5,000~50,000rpmが好ましい。撹拌処理を行う時間は1時間以内が好ましく、30分間以内がより好ましく、10分間以内がさらに好ましく、5分間以内が特に好ましい。
【0076】
本分散工程では、前分散工程で得られた混合物を、所定の装置で分散する。分散装置としては振動ミル、遊星ミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ジェットミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーが挙げられ、高い電磁波遮蔽特性を発揮し得る組成物を得るためには、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーが好ましい。これらの装置を使用してカーボン材料と高分子スルホン酸とを相互作用させることによって、高分子スルホン酸によるカーボン材料のドープを促進させ、溶媒中にカーボン材料が良好に分散した電磁波遮蔽用組成物を得ることができる。
【0077】
本分散工程での分散時のpH条件は0.5~6.0が好ましく、1.0~3.0がより好ましく、1.5~2.5がさらに好ましい。温度条件は0~40℃が好ましく、5~30℃がより好ましい。分散時間は0.02~2時間が好ましく、0.2~1時間がより好ましい。
【0078】
前分散工程、および本分散工程における溶媒としては、電磁波遮蔽用組成物に含まれる溶媒として前述した物質を使用することができ、その中でも水、アルコールが好ましい。前分散工程、および本分散工程における固形分率は0.05~20重量%が好ましく、0.25~8重量%がより好ましい。
【0079】
必要に応じて、カーボン材料の分散処理後に、遠心分離処理やフィルター処理により、分散液に残存する凝集体等を除去してもよい。
【0080】
電磁波遮蔽用組成物がバインダーやレベリング剤などの任意成分を含む場合には、本分散工程を行った後に、バインダーやレベリング剤などの任意成分を混合することが好ましい。
【0081】
<<電磁波遮蔽用塗膜>>
本発明の電磁波遮蔽用塗膜は、カーボン材料を含む電磁波遮蔽用塗膜であって、膜厚3.0~8.5μmで製膜したときに、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上であり、かつ、ISO25178に準拠した突出山部高さSpkが0.40μm以下であることを特徴とする。
【0082】
電磁波遮蔽特性は、膜厚3.0~8.5μmで製膜した塗膜において、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上であり、30dB以上であることが好ましく、35dB以上であることがより好ましい。電磁波遮蔽特性の上限は特に限定されないが、一般的に100dB以下である。塗膜の形成、および電磁波遮蔽特性の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0083】
電磁波遮蔽用塗膜の面粗さは、膜厚3.0~8.5μmで製膜した塗膜において、ISO25178に準拠した突出山部高さSpkが0.40μm以下であり、0.35μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。突出山部高さSpkの下限は特に限定されない。電磁波遮蔽用塗膜の面粗さがこの範囲のときには、塗膜面が均一であるため、電磁波遮蔽特性の面内ばらつきが小さくなる傾向がある。突出山部高さSpkの測定は、ISO25178に準拠した方法により行うことができる。
【0084】
電磁波遮蔽用塗膜は、前記電磁波遮蔽用組成物を基材の少なくとも一つの面上に塗布した後、加熱処理することにより得ることができる。基材の材質としては、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、銅やアルミに代表される金属等が挙げられる。
【0085】
基材の形状は特に限定されないが、形状自由度の大きい電磁波遮蔽用シートを得るために、フィルム状であることが好ましい。基材フィルムの厚みは、特に限定されないが、1~10000μmであることが好ましく、5~5000μmであることがより好ましい。
【0086】
電磁波遮蔽用塗膜は、電磁波遮蔽用組成物を基材に直接塗布して形成してもよいし、プライマー層等の別の層を予め基材上に設けた後で、当該層の上に塗布して形成してもよい。
【0087】
電磁波遮蔽用組成物を基材の少なくとも1面に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、スリットコート法、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、タンポ印刷法等を用いることができる。電磁波遮蔽用組成物を基材の少なくとも一つの面上に塗布する前に、必要に応じて、あらかじめ基材の表面に表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、イトロ処理、火炎処理等が挙げられる。
【0088】
電磁波遮蔽用塗膜を形成する際の加熱処理は、特に限定されず公知の方法により行えばよく、例えば、送風オーブン、赤外線オーブン、真空オーブン等を用いて行えばよい。電磁波遮蔽用組成物が溶媒を含有する場合、溶媒は、加熱処理により除去される。加熱処理の温度条件は、60~200℃が好ましく、80~180℃がより好ましい。加熱処理の処理時間は、特に限定されないが、0.1~20分間が好ましく、1~5分間がより好ましい。
【0089】
電磁波遮蔽用塗膜の厚みは0.01~100μmが好ましく、0.1~50μmがより好ましく、0.5~20μmがさらに好ましい。電磁波遮蔽用塗膜の膜厚は、電磁波遮蔽用組成物の固形分と基材への塗布量から算出される。
【0090】
電磁波遮蔽用塗膜中のカーボン材料の含有量は、1~50mg/m2が好ましく、3~25mg/m2がより好ましい。以上の範囲内とすることにより、塗膜に十分な電磁波遮蔽特性を付与することができ、かつ、塗膜の強度および成膜性も維持できる。
【0091】
電磁波遮蔽用塗膜は、高温および水に対する耐久性に優れる。電磁波遮蔽用塗膜を、温度85度、湿度85%の条件で1000時間保存する耐久性試験を行ったとき、耐久性試験の前後での電磁波遮蔽特性(40GHz)が25dB以上であることが好ましく、30dB以上であることがより好ましい。
【0092】
<<電磁波遮蔽用積層体>>
電磁波遮蔽用積層体は、基材、および、前記基材の少なくとも一つの面上に存在する電磁波遮蔽用塗膜を含む。電磁波遮蔽用積層体は、さらに、誘電体層、粘着層、保護層、加飾層などを有していてもよい。
【0093】
誘電体層は、電磁波遮蔽用塗膜の、基材と接する面とは反対側の面に存在することが好ましい。誘電体層は、誘電損失を生じ電磁波を吸収できればその構成は特に限定されないが、ポリウレタン、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂;ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムなどのゴム材料;カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、カーボンナノファイバーなどのカーボン材料、酸化チタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ガラス、シリコーンゴムを含む組成物により形成されることが好ましい。
【0094】
粘着層は、基材の、電磁波遮蔽用塗膜が存在する面とは反対側の面に存在することが好ましい。粘着層膜の膜厚は1~500μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。
【0095】
粘着層の形成方法としては、従来公知の方法を使用することができ、例えば、粘着剤を含有する粘着剤組成物を基材に塗布し、架橋又は加熱乾燥する方法、架橋又は加熱乾燥させた粘着層を基材に転写する方法等が挙げられる。粘着剤組成物の塗布方法としては、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法が挙げられる。粘着剤としては、アクリルモノマー、エポキシモノマー、オキセタンモノマー、及びこれらの重合物が挙げられる。粘着剤組成物は、粘着剤に加えて、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、ヒドラジド系架橋剤、メラミン樹脂、アリシジン誘導体、金属キレート化合物等の架橋剤を含むことが好ましい。
【0096】
保護層は、機械的衝撃や空気中の湿度によって電磁波遮蔽特性が低下することを防ぐ。保護層の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)などが挙げられる。保護層の厚みは1~100μmが好ましい。
【0097】
加飾層は、電磁波遮蔽用積層体の外観の改善や、電子回路などの内部構造を隠すために用いられる。加飾層の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)などの樹脂、アルミニウム、金、白金、銅、銀、亜鉛などの金属が挙げられる。加飾層は、顔料や染料を含んでいてもよい。加飾層の厚みは0.01~10μmが好ましい。
【0098】
本発明の電磁波遮蔽用組成物は、電磁波遮蔽特性、耐久性に優れるため、半導体パッケージ、導電性ガスケット、シールドフィルム、シールドケースや、通信機器、センサー、衣服、建築物の内装・外装などにおける電磁波遮蔽用途に好適に使用できる。
【実施例0099】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0100】
(1)使用材料
(1-1)カーボン材料
・カーボンナノチューブ分散体(ゼオンナノテクノロジー株式会社社製、ZEONANO SG101)
【0101】
(1-2)高分子スルホン酸
・パーフルオロスルホン酸ポリマー(シグマ―アルドリッチ製、アクイヴィオン(登録商標)D72-25BS、固形分25重量%、スルホン酸基の等価質量720g/mol)
・パーフルオロスルホン酸ポリマー(シグマ―アルドリッチ製、20%ナフィオン(登録商標)分散溶液D-2021、固形分20重量%、スルホン酸基の等価質量1100g/mol)
・ポリスチレンスルホン酸(メルク社製、ポリ(4-スチレンスルホン酸)溶液)
・PEDOT/PSS水分散体(ヘレウス製、PH1000)
・自己ドープ型PEDOT水分散体(東ソー製、SELFTRON H)
【0102】
(1-3)分散剤
・非イオン性ポリマー分散剤(BASF社製、Pluronic F108)
・ポリアクリル酸系分散剤(富士フイルム和光純薬社製、ポリアクリル酸 5000)
【0103】
(1-4)バインダー樹脂
・アクリル樹脂分散体(東亞合成株式会社製、ジュリマーFC-80、固形分率30%)
・ポリエステル系樹脂(互応化学社製、プラスコートRZ―105、固形分率30%)
・ポリウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、スーパーフレックス200、固形分率35%)
【0104】
(1-5)レベリング剤
・フッ素系化合物(デュポン株式会社製、CAPSTONE FS-3100)
・ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製、BYK―333)
【0105】
(2)電磁波遮蔽用組成物の製造(実施例1~15、比較例1~3)
表1に記載した固形分重量比で、カーボン材料、高分子スルホン酸、分散剤、バインダー樹脂、溶媒を混合し、前分散および本分散を行うことにより、電磁波遮蔽用組成物を製造した。溶媒である水の量は、表1記載の固形分率となるように調整した。後述する方法で電磁波遮蔽用組成物を評価した。その結果を表1に示す。
【0106】
なお、前分散では、マグネチックスターラーを用いて室温で2分間分散を行った。本分散の超音波処理はhielscher社製、HP50Hにて50W、周波数30kHzで30分間処理を行った。本分散の高圧ホモジナイザーによる処理はスギノマシン社製スターバーストミニを用いて80Mpaで20回分散処理を行った。
【0107】
(3)電磁波遮蔽用銅箔(比較例4)
後述する方法で電磁波シールド用電解銅箔CF(田金属箔粉工業株式会社)の特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0108】
【0109】
比較例1は分散剤として非イオン性ポリマーを使用した結果、組成物の分散性は良好であったが、塗膜の電磁波遮蔽特性は不十分であった。比較例2はPEDOT/PSS水分散体を含むため塗膜の電磁波遮蔽特性は良好であったが、耐久性試験後の電磁波遮蔽特性(40GHz)が低かった。比較例3は分散剤としてポリアクリル酸を使用した結果、組成物に沈殿が生じ、粒径は測定不能であり、塗膜の凹凸が大きかった。比較例4では耐久性試験後の電磁波遮蔽特性は良好であったが、銅箔が変色した。実施例1~15では組成物の分散性は良好であった。塗膜は電磁波遮蔽特性と耐久性に優れ、凹凸は小さかった。
【0110】
(4)電磁波遮蔽用組成物の評価方法
(4-1)粒径
電磁波遮蔽用組成物にレーザー光を照射し、粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定した。検出された粒子に起因する散乱強度分布を正規分布に当てはめて、平均粒子径を算出するためのキュムラント解析法により粒子のZ平均粒子径を求めた。実施例および比較例では、マルバーン社製、ゼータサイザーULTLA、およびこれに搭載されたデータ解析ソフトにより測定データを解析した。
【0111】
(4-2)分散性
電磁波遮蔽用組成物を、エタノールにより全固形分が0.0025重量%となるように希釈した。希釈分散液を1時間静置した後に目視観察し、沈殿物が認められないときに分散性が良好であると判断した。
【0112】
(5)電磁波遮蔽用塗膜の評価方法
(5-1)電磁波遮蔽特性(dB)
電磁波遮蔽用組成物を、PET基材にワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で20分間乾燥させることにより、膜厚3~8.5μmの塗膜を有する試験片を作成した。各サンプルの電波遮蔽性能を、18GHz、40GHzではキーサイト製のベクトルネットワークアナライザーP5027Bおよび導波管サンプルホルダWSF-P、WSF-R(EMラボ社製)を、110GHzではベクトルネットワークアナライザN5227Aを使用して、測定した。
【0113】
(5-2)耐久性
上記(5-1)で製造した電磁波遮蔽用塗膜を、温度85度、湿度85%の条件で1000時間保存する耐久性試験を行った。耐久性試験後の電磁波遮蔽特性(40GHz)を測定し、下記の基準で評価した。
〇:耐久性試験後の電磁波遮蔽特性が30dB以上
△:耐久性試験後の電磁波遮蔽特性が25dB以上30dB未満
×:耐久性試験後の電磁波遮蔽特性が25dB未満
【0114】
また、耐久性試験前と比較した、耐久性試験後の外観変化を目視により確認し、以下の基準で評価した。
○:変化なし
×:変色
【0115】
(5-3)塗膜の突出山部高さSpk
上記(5-1)で製造した電磁波遮蔽用塗膜の突出山部高さSpkを、ISO25178に準拠し、形状解析レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、VK-X1000)で測定した。
【0116】
本開示(1)はカーボン材料および高分子スルホン酸を含む、電磁波遮蔽用組成物である。
【0117】
本開示(2)は膜厚3.0~8.5μmで製膜した塗膜において、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上である、本開示(1)に記載の電磁波遮蔽用組成物である。
【0118】
本開示(3)はカーボン材料の固形分100重量部に対し、高分子スルホン酸の固形分が50~8,000重量部であり、全固形分率が10重量%以下である、本開示(1)または(2)に記載の電磁波遮蔽用組成物である。
【0119】
本開示(4)は前記高分子スルホン酸が、パーフルオロスルホン酸ポリマーである、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の電磁波遮蔽用組成物である。
【0120】
本開示(5)は前記高分子スルホン酸が、重量平均分子量1,000~2,000,000のポリスチレンスルホン酸である、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の電磁波遮蔽用組成物である。
【0121】
本開示(6)は前記カーボン材料が、グラフェン、フラーレンおよびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1つである、本開示(1)~(5)のいずれかに記載の電磁波遮蔽用組成物である。
【0122】
本開示(7)は分散質の平均粒子径が200~50,000nmである、本開示(1)~(8)のいずれかに記載の電磁波遮蔽用組成物である。
【0123】
本開示(8)はさらにバインダーを含む、本開示(1)~(7)のいずれかに記載の電磁波遮蔽用組成物である。
【0124】
本開示(9)はカーボン材料と高分子スルホン酸との混合物を1時間以内で攪拌する前分散工程、および、前分散工程で得られた混合物を振動ミル、遊星ミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ジェットミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、および高圧ホモジナイザーからなる群から選択される装置で分散する本分散工程を含む、電磁波遮蔽用組成物の製造方法である。
【0125】
本開示(10)はカーボン材料を含む電磁波遮蔽用塗膜であって、膜厚3.0~8.5μmで製膜したときに、18~110GHzの周波数帯における電磁波遮蔽特性が25dB以上であり、かつ、ISO25178に準拠した突出山部高さSpkが0.40μm以下である、電磁波遮蔽用塗膜である。