(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129541
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20240919BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240919BHJP
H01L 33/14 20100101ALI20240919BHJP
【FI】
H01S5/343 610
H01L33/32
H01L33/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038829
(22)【出願日】2023-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム/ワットクラス深紫外半導体レーザーの研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】岩山 章
(72)【発明者】
【氏名】近藤 涼輔
(72)【発明者】
【氏名】難波江 宏一
(72)【発明者】
【氏名】三好 晃平
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AF22
5F173AG17
5F173AH22
5F173AR25
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA60
(57)【要約】
【課題】従来よりもキャリア注入効率を高めた、AlGaN系の窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】半導体発光素子は、Alを含む窒化物半導体からなるn型の第一半導体層と、第一半導体層の上層に形成されたAlを含む窒化物半導体からなる活性層と、活性層の上層に形成された活性層よりもAlの組成の高い窒化物半導体からなる電子ブロック層と、電子ブロック層の上層に形成された、電子ブロック層よりもAl組成の低い窒化物半導体からなるp型の第二半導体層とを備える。電子ブロック層の厚みは、2nm以上5nm未満である。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む窒化物半導体からなる、n型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された、Alを含む窒化物半導体からなる活性層と、
前記活性層の上層に形成された、前記活性層よりもAlの組成の高い窒化物半導体からなる電子ブロック層と、
前記電子ブロック層の上層に形成された、前記電子ブロック層よりもAl組成の低い窒化物半導体からなるp型の第二半導体層とを備え、
前記電子ブロック層の厚みが、2nm以上5nm未満であることを特徴とする、半導体発光素子。
【請求項2】
前記電子ブロック層は、AlとGaを含み、90%以上のAl組成を示す窒化物半導体であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記電子ブロック層の前記活性層に近い側の面に接触する半導体層は、Al組成が75%以下の窒化物半導体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第二半導体層は、前記電子ブロック層に最も近い側の位置において、62%以上80%未満のAl組成を示すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
半導体層の積層方向に関して、前記第一半導体層と前記活性層との間に配置された、Alを含む窒化物半導体からなる第一ガイド層と、
前記積層方向に関して、前記活性層と前記電子ブロック層との間に配置された、Alを含む窒化物半導体からなる第二ガイド層とを備え、
前記第二ガイド層は、前記電子ブロック層の底面に接触するように配置されており、前記積層方向に関して前記電子ブロック層に近づくに連れてAl組成が実質的に上昇するような傾斜組成を示し、前記電子ブロック層と接触する箇所においてAl組成が75%以下であることを特徴とする、請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記積層方向に関する厚みとAl組成の変化を示すグラフ上において、前記第二ガイド層の初端のAl組成の値と、前記電子ブロック層のAl組成の値とを結ぶ直線を規定した場合に、前記第二ガイド層は、前記直線よりもAl組成の低い範囲内において、前記電子ブロック層に近づくに連れてAl組成が実質的に上昇するような傾斜組成を示すことを特徴とする、請求項5に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記活性層は、井戸層と前記井戸層よりもバンドギャップエネルギーの高い障壁層とを含み、
前記井戸層及び前記障壁層は、主発光波長が280nm以上350nm未満となるように材料が選択された窒化物半導体からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体発光素子に関し、特に発光波長が400nm未満の紫外領域における半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いたレーザダイオード(以下、適宜「LD」と略記する。)に関する近年の研究開発により、高出力化や発振波長の長波長化(青色~緑色領域)が進展している。詳細には、例えば光出力5W超の波長455nmの青色LDや、光出力1W超の波長532nmの緑色LDが実現されている。
【0003】
近年では、LDの発光波長の更なる短波長化を目指して開発が進められている。特にAlGaNはAl組成を制御することによって、理論上、210nm~365nm程度の光を得ることができることから、高品質なAlGaNを半導体層に利用した発光素子の開発が進められている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、量子井戸構造を有する活性層と、光閉じ込めのためのガイド層と、高Al組成のAlGaNからなる電子ブロック層を有してなる、LD素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究したところ、上記特許文献1に開示された素子においては、活性層内におけるキャリア注入効率が低く留まっており、発光効率を向上させる余地があることを見出した。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、特にAlGaN系の窒化物半導体発光素子において、従来よりもキャリア注入効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体発光素子は、Alを含む窒化物半導体からなる、n型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された、Alを含む窒化物半導体からなる活性層と、
前記活性層の上層に形成された、前記活性層よりもAlの組成の高い窒化物半導体からなる電子ブロック層と、
前記電子ブロック層の上層に形成された、前記電子ブロック層よりもAl組成の低い窒化物半導体からなるp型の第二半導体層とを備え、
前記電子ブロック層の厚みが、2nm以上5nm未満であることを特徴とする。
【0009】
本明細書において、「ある層Q1の上層に別の層Q2が形成されている」という表現は、層Q1の面上に直接層Q2が形成されている場合はもちろん、層Q1の面上に別の層を介して層Q2が形成されている場合も含む意図である。また、前記表現は、半導体発光素子の配置位置を回転させれば、層Q1の上方に層Q2が位置する場合を包含する概念であり、半導体発光素子がどの向きに設置されているかによって、「上」方向が限定されるものではない。
【0010】
本発明者らの鋭意研究の結果、従来の半導体発光素子においては、半導体層の積層方向に関して、高Al組成の電子ブロック層の、活性層側の位置において、Al組成が電子ブロック層に向かって徐々に増大する層(以下、適宜「プリング層」という。)が存在することを突き止めた。
【0011】
半導体層の積層方向に関して、電子ブロック層の直前の位置に配置された半導体層と電子ブロック層とのAl組成の差が小さくなると、両者の界面における伝導帯バンド不連続量(ΔEc)が小さくなる。この結果、電子ブロック層が有する電子に対する障壁高さが低下する。このことは、n型層側から注入された電子のうち、電子ブロック層を乗り越えてp型層側に流出する量が増加し、活性層内で再結合する割合(キャリア注入効率)が低下する結果を引き起こす。
【0012】
これに対し、上記の構成によれば、半導体層の積層方向に関して、電子ブロック層の活性層側の位置に形成されるプリング層の厚みが抑制でき、電子ブロック層とその直前に隣接する層との間のAl組成の差を、従来よりも大きく確保できる。これにより、電子が電子ブロック層を乗り越えてp型層側に流出する量が抑制され、キャリア注入効率が向上し、ひいては発光効率が向上する。詳細は、「発明を実施するための形態」の項で後述される。
【0013】
電子ブロック層の厚みは、好ましくは2nm以上5nm未満であり、より好ましくは2nm~4nmであり、特に好ましくは、2.5nm~3.5nmである。
【0014】
前記電子ブロック層は、AlとGaを含み、90%以上のAl組成を示す窒化物半導体であるものとしても構わない。
【0015】
上記構成によれば、活性層内におけるキャリア注入効率をより高めることが可能となる。
【0016】
前記電子ブロック層のAl組成は、好ましくは90%~100%であり、より好ましくは92%~98%であり、特に好ましくは、94%~96%である。
【0017】
なお、前記電子ブロック層は、典型的にはAlGaNであるが、0.5%以下等の極めて低い組成でInを含むAlInGaNであっても構わない。また、組成に影響しない範囲で微量に不純物を含むものとしても構わない。
【0018】
前記電子ブロック層の前記活性層に近い側の面に接触する半導体層は、Al組成が75%以下の窒化物半導体であるものとしても構わない。
【0019】
上記構成によれば、電子ブロック層の活性層に近い側に隣接する半導体層と電子ブロック層との界面で、電子の移動に対する高い障壁を形成することが可能となる。
【0020】
前記電子ブロック層の前記活性層に近い側の面に接触する半導体層のAl組成は、好ましくは活性層を構成する障壁層のAl組成以上、75%以下である。また、半導体発光素子が半導体レーザ素子である場合、前記電子ブロック層の前記活性層に近い側の面に接触する半導体層のAl組成は、好ましくは活性層を構成するバリア層のAl組成以上、75%以下であり、より好ましくは後述する第二ガイド層のAl組成以上55%以下であり、特に好ましくは、第二ガイド層のAl組成と同じである。
【0021】
前記第二半導体層は、前記電子ブロック層に最も近い側の位置において、62%以上82%以下のAl組成を示すものとしても構わない。
【0022】
第二半導体層の電子ブロック層に最も近い側の位置におけるAl組成が上記の範囲内であれば、キャリア注入効率をより高くすることが可能である。第二半導体層の電子ブロック層に最も近い側の位置におけるAl組成は、より好ましくは67%~80%であり、特に好ましくは、70%~77%である。
【0023】
前記半導体発光素子は、半導体レーザ素子(LD素子)であっても構わないし、LED素子であっても構わない。
【0024】
前者の場合、前記半導体発光素子は、
半導体層の積層方向に関して、前記第一半導体層と前記活性層との間に配置された、Alを含む窒化物半導体からなる第一ガイド層と、
前記積層方向に関して、前記活性層と前記電子ブロック層との間に配置された、Alを含む窒化物半導体からなる第二ガイド層とを備え、
前記第二ガイド層は、前記電子ブロック層の底面に接触するように配置されており、前記積層方向に関して前記電子ブロック層に近づくに連れてAl組成が実質的に上昇するような傾斜組成を示し、前記電子ブロック層と接触する箇所においてAl組成が75%以下であるものとして構わない。
【0025】
上記構造の下では、第二ガイド層が、電子ブロック層の活性層に近い側の面に接触する半導体層に対応するものとして構わない。
【0026】
また、前記積層方向に関する厚みとAl組成の変化を示すグラフ上において、前記第二ガイド層の初端のAl組成の値と、前記電子ブロック層のAl組成の値とを結ぶ直線を規定した場合に、前記第二ガイド層は、前記直線よりもAl組成の低い範囲内において、前記電子ブロック層に近づくに連れてAl組成が実質的に上昇するような傾斜組成を示すものとしても構わない。
【0027】
前記活性層は、井戸層と前記井戸層よりもバンドギャップエネルギーの高い障壁層とを含み、
前記井戸層及び前記障壁層は、主発光波長が280nm以上350nm未満となるように材料が選択された窒化物半導体からなるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0028】
本発明の半導体発光素子によれば、従来よりもキャリア注入効率が向上する結果、発光効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の半導体発光素子の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】検証に利用されたウェハの構造を模式的に示す断面図である。
【
図3A】参考例としての検証用ウェハを製造する際のAl組成の成長プロファイルを示すグラフである。
【
図3B】実施例としての検証用ウェハを製造する際のAl組成の成長プロファイルを示すグラフである。
【
図4】参考例としての検証用ウェハをEDX装置を用いて分析した結果を示すグラフである。
【
図5A】参考例と実施例の各検証用ウェハのEDX分析結果の一部拡大図である。
【
図5B】参考例と実施例の各検証用ウェハのEDX分析結果の一部拡大図である。
【
図6A】参考例の検証用ウェハの電子ブロック層近傍のTEM像である。
【
図6B】実施例の検証用ウェハの電子ブロック層近傍のTEM像である。
【
図7】
図5Aに示したEDX分析結果に基づいて、LDシミュレータを用いてキャリア注入効率ηiをシミュレーションした結果を示すグラフである。
【
図8】プリング層が存在しない場合の下での、電子ブロック層の厚みとキャリア注入効率ηiとの関係を示す、シミュレーション結果である。
【
図9】電子ブロック層のAl組成がキャリア注入効率ηiに与える影響を検証する際に用いられたAl組成プロファイルである。
【
図10】電子ブロック層のAl組成とキャリア注入効率ηiとの関係を示す、シミュレーション結果である。
【
図11】p型クラッド層の初端のAl組成がキャリア注入効率ηiに与える影響を検証する際に用いられたAl組成プロファイルである。
【
図12】p型クラッド層の初端のAl組成とキャリア注入効率ηiとの関係を示す、シミュレーション結果である。
【
図13】プリング層の終端のAl組成がキャリア注入効率ηiに与える影響を検証する際に用いられたAl組成プロファイルである。
【
図14】プリング層の終端のAl組成とキャリア注入効率ηiとの関係を示す、シミュレーション結果である。
【
図15】プリング層の厚み及び終端のAl組成がキャリア注入効率ηiに与える影響を検証する際に用いられたAl組成プロファイルである。
【
図16】プリング層の厚み及び終端のAl組成とキャリア注入効率ηiとの関係を示す、シミュレーション結果である。
【
図17】本発明の半導体発光素子の別実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る半導体発光素子の実施形態につき、図面を参照して説明する。以下の各図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0031】
本明細書において、「AlGaN」という記述は、AlとGaとNの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。
【0032】
[構造]
図1は、本発明の半導体発光素子の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示す半導体発光素子1は、半導体レーザ素子である。
【0033】
半導体発光素子1は、基板11と、下地層13と、n型クラッド層21と、n側ガイド層22と、活性層23と、p側ガイド層24と、電子ブロック層25と、p型クラッド層(26,27)と、p型コンタクト層28とを備える。また、半導体発光素子1は、給電のためのn側電極31及びp側電極32と、前記それぞれの電極(31,32)に対して給電線を接触させるためのパッド電極(35,36)とを備える。また、
図1に示す半導体発光素子1は、外部からの水蒸気や埃等の進入を抑制すると共に、短絡を防止する目的で絶縁層41が設けられている。
【0034】
半導体発光素子1は、主発光波長が280nm以上350nm未満である。なお、本明細書において「主発光波長」とは、発光スペクトル上において最大の発光強度を示す強度値に対して50%以上を示す波長範囲を示し、典型的にはピーク波長である。
【0035】
半導体発光素子1は、電子ブロック層25の厚みが5nm未満である点が、従来の構成と異なっている。以下、各層について詳述する。
【0036】
基板11は、サファイアからなる。本実施形態では、基板11が各半導体層を成長させるための成長基板を兼ねている。しかし、本発明において、基板11の材料は限定されない。
【0037】
下地層13は、その後に積層される、活性層23を含む各半導体層の結晶品質を向上させる目的で設けられた層である。下地層13は、単層でも多層でも構わないが、一例として、AlN層と、ナノピラーAlN層と、格子歪緩和用AlGaN層とを含む多層構造である。下地層13は、例えば以下の方法で形成される。
【0038】
サファイアからなる基板11上にスパッタリング法で厚み0.45μm程度でAlN層が成膜された後、N2雰囲気で1700℃程度の高温下でアニールされる。その後、MOCVD法で厚み1.55μm程度のAlN層を成長させた後、ナノインプリント法とドライエッチング法を用いて高さ1μm程度、外径450nmΦ程度のナノピラーが形成される。その後、ウエハ上に、MOCVD法で例えばAl0.68Ga0.32Nからなる格子歪緩和層が厚み5μm程度で積層される。
【0039】
本発明において下地層13の構造は任意である。例えば、下地層13が、MOCVD法で積層されたAlN層及びAlGaN層によって形成されていても構わない。また、下地層13が省略されても構わない。
【0040】
n型クラッド層21は、n型にドープされたAlGaNで形成される。典型的な例としては、n型クラッド層21は、厚みが4μm程度のAl0.62Ga0.38Nである。ドーパントとしては、例えばSi、Ge、又はO等が利用可能であり、好ましくはSiである。
【0041】
n型クラッド層21の膜厚は、0.1μm~10μmであり、好ましくは、0.5μm~5μmである。n型クラッド層21のn型不純物濃度は、1×1017/cm3~3×1019/cm3であり、好ましくは、5×1017/cm3~1×1019/cm3である。また、n型クラッド層21のAl組成比率は、0%より大きく、80%以下であり、好ましくは、50%~70%である。
【0042】
典型的な一例として、n型クラッド層21は、膜厚4μm、n型不純物濃度6×1018/cm3のAl0.62Ga0.38Nである。
【0043】
本実施形態において、n型クラッド層21が「第一半導体層」に対応する。
【0044】
n側ガイド層22及びp側ガイド層24は、活性層23内で生成された光を閉じ込めて発振に導くために設けられた層である。n側ガイド層22及びp側ガイド層24は、光閉じ込め機能が実現される限りにおいて、組成及び厚みは任意である。典型的な一例は、n側ガイド層22及びp側ガイド層24は、いずれも膜厚150nmのアンドープAl0.45Ga0.55Nである。
【0045】
n側ガイド層22及びp側ガイド層24の膜厚は、好ましくは20nm~300nmであり、より好ましくは50nm~200nmである。また、n側ガイド層22及びp側ガイド層24のAl組成比率は、好ましくは、n型クラッド層21よりも低く、より詳細には、30%~60%である。
【0046】
本実施形態において、n側ガイド層22が「第一ガイド層」に対応し、p側ガイド層24が「第二ガイド層」に対応する。
【0047】
活性層23は、窒化物半導体からなり、n型クラッド層21の上層、且つn側ガイド層22の上層に配置されている。活性層23は、量子井戸構造を有し、多重量子井戸構造でも単一量子井戸構造でも構わないが、好ましくは多重量子井戸構造である。
【0048】
活性層23を構成する材料によって、半導体発光素子1の発光波長が決定される。上述したように、本実施形態において、半導体発光素子1の主発光波長は280nm以上350nm未満である。この波長帯の光を発する半導体発光素子1を実現する観点から、活性層23は、例えば、Al組成比率が20%~40%のAlGaN(例えば、Al0.35Ga0.65N)からなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きく、Al組成比率が30%~50%のAlGaN(例えば、Al0.45Ga0.55N)からなる障壁層とが、2周期繰り返されて形成される。井戸層の膜厚は例えば4nmであり、障壁層の膜厚は例えば8nmである。ただし、活性層23を構成する材料、膜厚及び周期数は、適宜設定される。
【0049】
電子ブロック層25は、活性層23の上層に配置されている。なお、本実施形態では、電子ブロック層25は、活性層23の上層であって、且つp側ガイド層24の上層に配置されている。
【0050】
電子ブロック層25は、当該電子ブロック層25の活性層23に近い側の面に接触する層(
図1の例ではp側ガイド層24)と電子ブロック層25との界面において、高いエネルギー障壁を形成して、活性層23側から流れてきた電子がp側(p型コンタクト層28側)に流出するのを抑制する目的で設けられている。かかる観点から、電子ブロック層25は、電子ブロック層25の活性層23に近い側の面に接触する層と比較して、バンドギャップエネルギーが高い材料で形成されている。より詳細には、電子ブロック層25は、活性層23やp側ガイド層24よりも、Al組成の高い窒化物半導体からなる。
【0051】
本実施形態では、電子ブロック層25は90%以上のAl組成を示すAlGaNからなる。また、本実施形態では、電子ブロック層25の厚みは極めて薄く、5nm未満である。電子ブロック層25の厚みの下限値は、2nm以上であるのが好ましく、2.5nm以上であるのがより好ましい。典型的な一例は、電子ブロック層25は、膜厚3nmのアンドープAl0.92Ga0.55Nである。
【0052】
電子ブロック層25の機能に鑑みると、上述したように、電子ブロック層25の活性層23に近い側の面に接触する層(
図1の例ではp側ガイド層24)と電子ブロック層25との界面で、高いエネルギー障壁が形成される必要がある。このため、電子ブロック層25と、活性層23に近い側において電子ブロック層25に隣接する層(ここではp側ガイド層24)とでは、半導体層に含まれるAl組成に大きな相違がある。本発明者らの鋭意研究の結果、隣接する2層のAl組成の大きな相違に起因して、活性層23に近い側において電子ブロック層25に隣接する層は、電子ブロック層25に近づくに連れて、Al組成が徐々に上昇する傾斜組成を示すことが確認された。この領域を、本明細書では「プリング層」と表現することがある。この点については、追って詳細に説明される。
【0053】
半導体発光素子1は、電子ブロック層25の上層に、p型クラッド層(26,27)を備えている。
【0054】
上述したように、半導体発光素子1は、主発光波長が280nm以上350nm未満という、深紫外域に属する比較的短波長の光を発する素子である。このような短波長の光を発する半導体発光素子1を実現するためには、青色光や紫色光を生成する素子と比べて高いAl組成を示す半導体層を利用する必要がある。高いAl組成を示す半導体層は、Mg等のドーパントを導入してp型化を実現するのが難しい。
【0055】
一方で、Al組成の異なるヘテロ界面に発生する分極現象を利用することにより、正孔を発生させることが可能である。この分極現象を利用する観点から、本実施形態の半導体発光素子1において、p型クラッド層(26,27)は、いずれもAl組成を連続的に変化させた傾斜組成層として形成し、これによってクラッド層全体に正孔を分散させることを可能にしている。このようなドーピング方法は、分散分極ドーピング(DPD)として知られている。
【0056】
具体的には、p型クラッド層26は、電子ブロック層25から遠ざかるに伴ってAl組成が徐々に低下する、膜厚320nmのAlGaN層からなる。本実施形態において、p型クラッド層26の、電子ブロック層25に最も近い側に位置する領域のAl組成(初端のAl組成)は、62%以上80%未満とするのが好ましい。このp型クラッド層26の初端のAl組成についての好ましい条件については、後述される。
【0057】
p型クラッド層26の膜厚は、100nm~500nmが好ましく、200nm~400nmがより好ましい。また、p型クラッド層26の電子ブロック層25から最も遠い側に位置する領域のAl組成(終端のAl組成)は、p型クラッド層26側での光吸収損失を抑制する観点から、30%~50%程度とするのが好ましい。つまり、本実施形態の半導体発光素子1において、p型クラッド層26とp型クラッド層27の積層体構造を採用している理由としては、以下の2点が挙げられる。第一は、活性層23に近いp型クラッド層26中のAl組成をできるだけ高く保つことでp型クラッド層26への光強度分布の染み出しを抑制し、p型クラッド層26中での光吸収損失の影響を低減する点にある。第二は、p型クラッド層27の上層に配置されたp型コンタクト層28において、Al組成が極めて低い値(典型的にはほぼゼロ)になることから、Al組成の変化の傾きをある程度抑制することで、電気抵抗への影響を低減する点にある。
【0058】
かかる観点から、p型クラッド層としては、Al組成の傾斜の態様が異なる、3層以上の積層体としても構わない。
【0059】
p型クラッド層27は、初端のAl組成が、p型クラッド層26の終端のAl組成と同等であり、終端のAl組成が、p型コンタクト層28のAl組成と同等であるように、Al組成に傾斜を有するAlGaNである。一例として、p型クラッド層27は、初端のAl組成が30%~50%、終端のAl組成が0%~5%の、AlGaNである。なお、Al組成が0%のAlGaNはGaNと同義である。
【0060】
p型クラッド層27の膜厚は、例えば30nm~150nmであり、好ましくは50nm~100nmである。
【0061】
一例として、p型クラッド層26は、初端のAl組成が77%、終端のAl組成が45%を示す、膜厚320nmのAlGaNであり、p型クラッド層27は、初端のAl組成が45%、終端のAl組成が約0%を示す、膜厚75nmのAlGaNである。
【0062】
本実施形態において、p型クラッド層26が「第二半導体層」に対応する。
【0063】
p型コンタクト層28は、p型クラッド層(26,27)の上層に配置されている。p型コンタクト層28は、例えばMg等のp型不純物がドープされている。p型コンタクト層28は、例えばp型のGaN又は極めてAl組成の低い(2%以下の)AlGaNである。p型コンタクト層28のp型不純物濃度は、5×1018/cm3~1×1021/cm3であり、好ましくは、1×1019/cm3~1×1020/cm3である。p型コンタクト層28の膜厚は2nm~30nmであり、好ましくは5nm~20nmである。
【0064】
一例として、p型コンタクト層28は、p型不純物濃度が5×1019/cm3、膜厚10nmのp型GaNで形成される。
【0065】
n側電極31は、n型クラッド層21の上層に配置されており、例えば、V/Al/Ti/Au、Cr/Pt/Au、Cr/Au、Ti/Au、Ti/Al/Ti/Au、Ni/Au、Ni/Al/Ni/Ti/Pt/Au等で形成される。p側電極32は、p型コンタクト層28の上層に配置されており、例えば、Ni/Pt/Au、Ni/Au、Pt/Au、Pd/Au、Pd/Pt/Au等で形成される。
【0066】
パッド電極(35,36)は、ボンディングワイヤを接続するための領域を形成し、例えばTi/Au、Ti/Pt/Au等で形成される。
【0067】
絶縁層41は、半導体層の一部上面及び側面を覆い、半導体発光素子1の保護及び短絡の防止機能の目的で設けられている。絶縁層41は、例えば、SiO2、Al2O3、SiN等で形成される。
【0068】
[検証]
以下、半導体発光素子1の詳細について、実験結果及びシミュレーション結果を参照して説明する。
【0069】
上述したように、電子ブロック層25は、電子の移動障壁を実現する観点から、活性層23に近い側に隣接する層との間でAl組成の差を大きくするのが好ましいと考えられる。かかる観点から、Al組成のプロファイルを設定し、この設定の下でエピタキシャル成長させた検証用ウェハ(2,2a)を製造した(
図2参照)。
【0070】
図3Aは、参考例としての検証用ウェハ2aを製造する際のAl組成の成長プロファイルを示すグラフである。
図3Aに示すように、参考例の検証用ウェハ2aが備える電子ブロック層25aは、膜厚が5nmとなるように、成長プロファイルが設定された。また、電子ブロック層25aに対して、活性層23から離れる側に隣接するp型クラッド層26aの初端のAl組成が82%となるように、成長プロファイルが設定された。
【0071】
図3Bは、実施例としての検証用ウェハ2を製造する際のAl組成の成長プロファイルを示すグラフである。
図3Bに示すように、実施例の検証用ウェハ2が備える電子ブロック層25は、参考例よりも膜厚が薄い、3nmとなるように、成長プロファイルが設定された。また、電子ブロック層25に対して、活性層23から離れる側に隣接するp型クラッド層26の初端のAl組成は、参考例よりも低い77%となるように、成長プロファイルが設定された。
【0072】
図4は、
図3Aに示す成長プロファイルの下でMOCVD法を用いて各半導体層をエピタキシャル成長させて得られた、参考例の検証用ウェハ2aをEDX(エネルギー分散型蛍光X線分析)装置を用いて分析した結果を示すグラフである。
図4によれば、
図3Aの成長プロファイルとは異なり、p側ガイド層24a内において電子ブロック層25aに近づくに連れてAl組成が実質的に上昇するような傾斜層(プリング層5a)が、厚み25nm程度にわたって形成されていることが確認される。
【0073】
図5Aは、参考例の検証用ウェハ2a及び実施例の検証用ウェハ2のそれぞれのEDX分析結果について、p側ガイド層(24,24a)及び電子ブロック層(25,25a)の領域を拡大して表示したものである。
図5Bは、
図5Aと同一のグラフであるが、説明の都合上、別図として再掲したものである。
【0074】
図5Aによれば、参考例の場合、p側ガイド層24a側から、Al組成がピーク値を示す電子ブロック層25aの近傍に近づくに連れて、Al組成の値がなだらかなカーブを描きながら上昇していることが確認される。一方、実施例の場合、Al組成がピーク値を示す電子ブロック層25aの直前において、Al組成が急峻に上昇していることが確認される。より詳細には、参考例の場合、電子ブロック層25aの直前の位置と電子ブロック層25aとの界面におけるAl組成の差は10%以下に留まっている一方、実施例の場合、電子ブロック層25の直前の位置と電子ブロック層25との界面におけるAl組成の差は20%以上に拡大できていることが分かる。
【0075】
上の事実は、p側ガイド層(24,24a)のAl組成の設定値(例えば初端のAl組成値)と、電子ブロック層25a内のAl組成のピーク値とを結ぶ直線P1を設定し(
図5A参照)、この直線P1を基準としてAl組成の変化の態様を比較することで、より明瞭に理解される。参考例の場合、p側ガイド層24a側から、Al組成がピーク値を示す電子ブロック層25aの近傍に近づくに連れて、直線P1に交差する領域を有しながらAl組成の値が上昇している。これに対し、実施例の場合、p側ガイド層24a側から、Al組成がピーク値を示す電子ブロック層25の近傍に近づくに連れて、直線P1よりも低い値を推移しながらAl組成の値が上昇している。このことは、実施例の方が、参考例よりも、電子ブロック層(25,25a)の初端の直前において、Al組成が急峻に立ち上がっていることを表すものである。
【0076】
この結果から、実施例においては、電子ブロック層25が電子の移動に対する障壁として十分な機能を発揮する一方、参考例においては、電子ブロック層25aを電子が乗り越えやすい状況であることが理解される。
【0077】
図5Bは、
図5Aと同一のグラフにおいて、電子ブロック層(25,25a)の前段でAl組成が傾斜を示している層(プリング層)の厚みを付記したものである。
図5Bによれば、参考例においては、プリング層5aの厚みが24nm程度である一方、実施例においては、プリング層5の厚みが18nmに留まっている。このことから、実施例の検証用ウェハ2によれば、比較例の検証用ウェハ2aと比べて、Al組成が傾斜を示すプリング層5の厚みを抑制できた結果、電子ブロック層25の直前において、Al組成を急峻に立ち上がらせることができたものと推察される。
【0078】
図6Aは、参考例の検証用ウェハ2aの電子ブロック層25a近傍のTEM像である。
図6Bは、実施例の検証用ウェハ2の電子ブロック層25近傍のTEM像である。なお、
図6A内において「EBL」と表記しているのは、電子ブロック層25aを指しており、
図6B内において「EBL」と表記しているのは、電子ブロック層25を指している。
【0079】
図6A及び
図6BのTEM像からも、実施例のプリング層5は、参考例のプリング層5aよりも薄くできていることが確認される。
【0080】
図7は、
図5Aに示したEDX分析結果に基づいて、LDシミュレータを用いてキャリア注入効率ηiをシミュレーションした結果を示すグラフである。
図7によれば、参考例の素子と比べて、実施例の素子によれば、電流密度10kA/cm
2の電流を注入したときのキャリア注入効率が2.3倍に改善することが確認された。
【0081】
図4~
図7の結果に鑑みれば、キャリア注入効率ηiを上昇させる観点からは、プリング層5の厚みを薄くすることが重要であり、そのためには、電子ブロック層25の厚みを薄くすることが重要であると推定される。
【0082】
図8は、プリング層5が存在しない場合を前提条件として、電子ブロック層25の厚みを変化させたときのキャリア注入効率ηiの変化の態様を、LDシミュレータを用いてシミュレーションした結果を示すグラフである。電子ブロック層25のAl組成に関しては、100%(1.00)、95%(0.95)、90%(0.9)の3パターンについてシミュレーションが行われた。
【0083】
図8によれば、電子ブロック層25の厚みが薄くなるとキャリア注入効率ηiが低下する傾向を示すものの、電子ブロック層25のAl組成が90%以上である場合には、電子ブロック層25の厚みが2nm以上であれば、ほぼ安定的に高いキャリア注入効率ηiを示し、電子ブロック層25の厚みが3nm以上であれば、キャリア注入効率ηiにほぼ影響が生じないことが確認された。
【0084】
電子ブロック層25は、活性層23内で再結合されずに流出した電子が、p層側(p型クラッド層26側)に流れ出るのを抑制し、再び活性層23側に導く目的で設けられている。かかる観点から、従来、電子ブロック層については、障壁としての機能を効果的に生じさせる観点から、格子不整合歪等による結晶欠陥の発生等が問題にならない範囲で膜厚を厚くすることは検討されるものの、5nmという極めて薄い膜厚から更に薄くすることについては考慮されてこなかった。しかしながら、本発明者らの鋭意研究の結果、上述したように、膜厚5nmの電子ブロック層25aを有する参考例の素子の場合、Al組成が傾斜を示すプリング層5aの厚みが厚くなり、結果として、電子ブロック層25aの前段に隣接する層との間において、Al組成の差を大きくできず、電子の移動に対する障壁としての機能が低下するという新たな知見を見出した。つまり、本実施形態の半導体発光素子1は、キャリア注入効率ηiの低下につながらない範囲内において、電子ブロック層25の厚みを従来よりも薄くすることで、結果的にキャリア注入効率ηiを向上させることができるという、顕著な効果を奏するものである。
【0085】
次に、電子ブロック層25のAl組成がキャリア注入効率ηiに与える影響について検証を行った。具体的には、
図9のプロファイルに示すように、電子ブロック層25の厚みは3nm、p型クラッド層26の初端のAl組成は77%で固定した状態で、電子ブロック層25のAl組成の値X1を、80%~95%(0.8~0.95)の範囲内で変化させた場合のキャリア注入効率ηiに与える影響について、
図7と同様にLDシミュレータを用いてシミュレーション分析を行った。この結果を、
図10に示す。
【0086】
図10によれば、電子ブロック層25のAl組成が高くなるに連れてキャリア注入効率ηiが上昇することが確認された。特に、電子ブロック層25のAl組成が90%(0.9)以上であれば、十分に高いキャリア注入効率ηiが得られることが確認された。一方で、電子ブロック層25のAl組成が85%である場合、及び80%である場合については、Al組成が90%である場合と比べて、キャリア注入効率ηiが大きく低下することが確認された。以上により、電子ブロック層25のAl組成は90%以上とするのが好ましいことが分かる。
【0087】
次に、電子ブロック層25の終端側に隣接するp型クラッド層26の、初端のAl組成がキャリア注入効率ηiに与える影響について検証を行った。具体的には、
図11のプロファイルに示すように、電子ブロック層25の厚みは3nm、電子ブロック層25のAl組成は95%に固定した状態で、p型クラッド層26の初端のAl組成の値X2を、57%~82%(0.57~0.82)の範囲内で変化させた場合のキャリア注入効率ηiに与える影響について、
図7と同様にLDシミュレータを用いてシミュレーション分析を行った。この結果を、
図12に示す。
【0088】
図12によれば、p型クラッド層26の初端のAl組成を72%(0.72)とした場合に、キャリア注入効率ηiが最も高い値を示した。また、p型クラッド層26の初端のAl組成が62%~80%(0.62~0.80)の範囲内であれば、キャリア注入効率ηiを高い値で維持できることが確認された。
【0089】
次に、電子ブロック層25の前段側に不可避的に形成されるプリング層5の、Al組成の傾斜度が、キャリア注入効率ηiに与える影響について検証を行った。具体的には、
図13のプロファイルに示すように、電子ブロック層25の厚みは3nm、電子ブロック層25のAl組成は95%、p型クラッド層26の初端のAl組成は77%にそれぞれ固定した状態で、プリング層5の終端のAl組成の値X3を、45%~95%(0.45~0.95)の範囲内で変化させた場合のキャリア注入効率ηiに与える影響について、
図7と同様にLDシミュレータを用いてシミュレーション分析を行った。この結果を、
図14に示す。
【0090】
なお、プリング層5の終端のAl組成の値X3が45%である場合とは、p側ガイド層24内においてAl組成に傾斜が存在しないことを意味しており、言い換えれば、全くプリング層5が存在していない、理想的な状態に対応する。
【0091】
図14によれば、プリング層5の終端のAl組成が45%、すなわちプリング層5が存在しない理想的な場合にキャリア注入効率ηiが最も高く、プリング層5の終端のAl組成が上昇するに連れてキャリア注入効率ηiが低下することが分かる。特に、プリング層5の終端のAl組成が75%を超えると、キャリア注入効率ηiの低下傾向が大きくなることが確認される。この結果より、プリング層5の終端のAl組成は、75%以下に抑制するのが好ましく、65%以下に抑制するのがより好ましいことが分かる。
【0092】
図5Aに示した参考例の素子によれば、プリング層5の終端のAl組成が80%程度を示しており、
図7によれば、この参考例の素子のキャリア注入効率ηiは低い結果を示した。一方、
図5Aに示した実施例の素子によれば、プリング層5の終端のAl組成は70%を下回っており、
図7によれば、この実施例の素子のキャリア注入効率ηiは高い結果を示した。参考例の素子と実施例の素子との対比結果は、
図14に示したシミュレーション結果と整合するものである。
【0093】
更に、プリング層5内のAl組成の傾斜の態様が、キャリア注入効率ηiに与える影響について検証を行うべく、プリング層5の厚み(Y1)と、プリング層5の終端のAl組成の値(X3)を変化させて、シミュレーションを行った。具体的には、
図15のプロファイルに示すように、電子ブロック層25の厚みは3nm、電子ブロック層25のAl組成は95%、p型クラッド層26の初端のAl組成は77%にそれぞれ固定した状態で、プリング層5の終端のAl組成の値X3を、45%~95%(0.45~0.95)の範囲内で変化させた場合のキャリア注入効率ηiに与える影響について、プリング層5の厚み(Y1)を6nm、12nm、18nm、24nmの4種類の場合について、
図7と同様にLDシミュレータを用いてシミュレーション分析を行った。この結果を、
図16に示す。
【0094】
図16によれば、プリング層5の終端のAl組成の値(X3)が55%~85%の範囲内においては、プリング層5の終端のAl組成が増加するに伴って、キャリア注入効率ηiがほぼ線形的に低下することが確認される。また、プリング層5の厚み(Y1)の値が大きくなるに連れて、プリング層5の終端のAl組成の増加に伴うキャリア注入効率ηiの低下傾向が大きくなることが確認された。例えば、電流密度10kA/cm
2の電流を注入したときのキャリア注入効率ηiの値を約20%以上にするためには、プリング層5の厚みを12nm以下にするか、又は、プリング層5の終端のAl組成の値を75%以下にするのが好適であることが分かる。更に、前記キャリア注入効率ηiの値を約28%以上にするためには、プリング層5の厚みを6nm以下にするか、又は、プリング層5の終端のAl組成の値を65%以下にするのが好適であることが分かる。
【0095】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0096】
〈1〉
図17に示すように、半導体発光素子1は、LEDであっても構わない。
図17に示す半導体発光素子1は、
図1に示す半導体発光素子1とは異なり、ガイド層(22,24)を有しない。この場合、電子ブロック層25の前段に形成された、活性層23内の末端の障壁層と、電子ブロック層25との間においてプリング層(5,5a)が形成される可能性があるため、上記と同様の議論が可能である。
【0097】
〈2〉本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
1 :半導体発光素子
2,2a :検証用ウェハ
5,5a :プリング層
11 :基板
13 :下地層
21 :n型クラッド層
22 :n側ガイド層
23 :活性層
24,24a :p側ガイド層
25,25a :電子ブロック層
26,26a :p型クラッド層
27 :p型クラッド層
28 :p型コンタクト層
31 :n側電極
32 :p側電極
41 :絶縁層