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特開2024-129543電極構造体及び電極構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129543
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】電極構造体及び電極構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/045 20060101AFI20240919BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H01G9/045
H01G9/00 290D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038832
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】是洞 孝裕
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い静電容量を備え、基材であるアルミニウム箔と誘電体層との密着性と誘電体層中の弁金属酸化物粒子同士の密着性とに優れ、且つ、逆電圧が印加された際の耐久性に優れた電極構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電極構造体1は、アルミニウム箔11の少なくとも一方面に、複数の弁金属酸化物粒子121が三次元網目構造を形成して積層された誘電体層12を備え、前記アルミニウム箔と前記誘電体層との間で前記アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層13とを備える。前記弁金属酸化物粒子同士及び前記アルミニウム箔と前記弁金属酸化物粒子とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部122によって接合されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の少なくとも一方面に、複数の弁金属酸化物粒子が三次元網目構造を形成して積層された誘電体層を備え、
前記アルミニウム箔と前記誘電体層との間で前記アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層とを備え、
前記弁金属酸化物粒子同士、及び、前記アルミニウム箔と前記弁金属酸化物粒子とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部によって接合されている、
ことを特徴とする電極構造体。
【請求項2】
前記接合部に含まれる前記弁金属酸化物は、TiOx(xは0<x<2を示す。)で示される低次酸化チタンを少なくとも1種以上含む、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項3】
前記弁金属酸化物粒子はチタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、シリコン、及び、アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属の酸化物粒子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電極構造体。
【請求項4】
前記弁金属酸化物粒子は酸化チタン粒子である、請求項1又は2に記載の電極構造体。
【請求項5】
(1)弁金属酸化物粒子、弁金属を含む有機金属化合物、及び、樹脂バインダーを含有する混合物層をアルミニウム箔の表面上に形成する工程1、
(2)炭化水素含有物質を含む空間に前記混合物層が形成された前記アルミニウム箔を配置した状態で加熱する工程2
を有することを特徴とする、電極構造体の製造方法。
【請求項6】
前記工程2の加熱は、450℃以上660℃未満の温度範囲で行われる、請求項5に記載の電極構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極構造体及び電極構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高誘電率を有する誘電体材料は、コンデンサ、半導体素子、発光素子等の電子材料に広く用いられている。これらの中でも、アルミニウム電解コンデンサは、安価で高容量を得ることができるため、エネルギー分野で広く用いられている。
【0003】
コンデンサは二つの電極、すなわち陽極と陰極とを備えている。電解コンデンサの陽極材料としては、表面に絶縁酸化被膜を生成することが可能なアルミニウム、タンタル等の弁金属(バルブ金属ともいう)が用いられる。ここで、バルブ金属とは、陽極酸化により、酸化被膜で覆われる金属のことをいい、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン等が挙げられる。
【0004】
また、陰極材料としては、電解液、無機半導体、有機導電性物質又は金属薄膜のいずれかが用いられている。陰極材料が電解液の場合には、陰極端子として表面積を拡大したアルミニウム箔が使用されている。なお、電解コンデンサの真の陰極は電解液等であるが、便宜上アルミニウム箔等の陰極端子は陰極箔等ともよばれている。
【0005】
また、導電性高分子を電解質として用いた導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ、導電性高分子と電解液を用いた導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ等のコンデンサは、優れたESR(等価直列抵抗)、温度特性、安全性等の特性を示すことができるため、近年市場を拡大しつつある。このような導電性高分子を電解質として用いたコンデンサの陰極箔には、高い静電容量、耐圧性、低ESRの特性が要求される。
【0006】
上述の特性を示す陰極として用いられる電極構造体として、たとえば、下記特許文献1及び特許文献2に記載の電極構造体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/055121パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/109783パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
急激な充放電を頻繁に繰り返すストロボ発光用や溶接機用、回路電圧が大きく変動する制御回路用等の用途に用いられるコンデンサでは、陰極箔に逆電圧が印加される場合がある。逆電圧に対する耐久性が十分でない陰極箔を使用した場合、陰極箔での酸化被膜の形成による容量低下やガス発生による内圧上昇、陰極箔に用いられる電極材の破壊等が発生する。このため、用途によっては陰極箔に逆電圧が印加された場合の耐久性が必要となる。
【0009】
特許文献1には、電極構造体の基材であるアルミニウム材と誘電体層の密着性を改善するために、バルブ金属を含む誘電体前駆物質をアルミニウム材の表面上に形成した後、炭化水素雰囲気中で加熱することにより、アルミニウム材の表面上にバルブ金属を含む誘電体層と、アルミニウム材と誘電体層との間に、アルミニウム及び炭素を含む介在層とを形成して、アルミニウム材と誘電体層との密着性を高める方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、上記の方法においては、誘電体層の形成方法として、いわゆるゾルゲル法が好適に採用されているが、静電容量を向上させるために誘電体層の厚みを厚くするとクラック等の欠陥が発生し、アルミニウム材と誘電体層との密着性や誘電体層中の弁金属酸化物粒子同士の密着性が大幅に低下するという問題がある。このため、上記の方法ではアルミニウム材の表面に形成可能な誘電体層の厚みに制限があり、結果として得られる静電容量に限界がある。
【0011】
特許文献2には、基材であるアルミニウム材と、アルミニウム材の表面上に形成された誘電体層と、アルミニウム材と誘電体層の間に形成された介在層を備え、誘電体層は有機物層の形成されたバルブ金属を含む誘電体粒子を含む電極構造体が開示されている。上記電極構造体は静電容量やESRといった特性は十分であるものの密着性が不十分であるため、コンデンサの陰極箔として用いて逆電圧を印加した場合、電解液と介在層に含まれるアルミニウム材表面および基材のアルミニウム材表面とが反応し、アルミニウム酸化被膜が形成され、また水素ガスが発生するため、アルミニウム材から誘電体層が剥離してしまうという問題がある。
【0012】
本発明は、高い静電容量を備え、基材であるアルミニウム箔と誘電体層との密着性、及び、誘電体層中の弁金属酸化物粒子同士の密着性に優れ、且つ、逆電圧が印加された際の耐久性に優れた電極構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム箔の少なくとも一方面に、複数の弁金属酸化物粒子が三次元網目構造を形成して積層された誘電体層を備え、前記アルミニウム箔と前記誘電体層との間で前記アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層とを備え、前記弁金属酸化物粒子同士、及び、前記アルミニウム箔と前記弁金属酸化物粒子とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部によって接合されている構成を備える電極構造体によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記の電極構造体及び電極構造体の製造方法に関する。
1.アルミニウム箔の少なくとも一方面に、複数の弁金属酸化物粒子が三次元網目構造を形成して積層された誘電体層を備え、
前記アルミニウム箔と前記誘電体層との間で前記アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層とを備え、
前記弁金属酸化物粒子同士、及び、前記アルミニウム箔と前記弁金属酸化物粒子とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部によって接合されている、
ことを特徴とする電極構造体。
2.前記接合部に含まれる前記弁金属酸化物は、TiOx(xは0<x<2を示す。)で示される低次酸化チタンを少なくとも1種以上含む、項1に記載の電極構造体。
3.前記弁金属酸化物粒子はチタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、シリコン、及び、アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属の酸化物粒子であることを特徴とする、項1又は2に記載の電極構造体。
4.前記弁金属酸化物粒子は酸化チタン粒子である、項1又は2に記載の電極構造体。
5.(1)弁金属酸化物粒子、弁金属を含む有機金属化合物、及び、樹脂バインダーを含有する混合物層をアルミニウム箔の表面上に形成する工程1、
(2)炭化水素含有物質を含む空間に前記混合物層が形成された前記アルミニウム箔を配置した状態で加熱する工程2
を有することを特徴とする、電極構造体の製造方法。
6.前記工程2の加熱は、450℃以上660℃未満の温度範囲で行われる、項5に記載の電極構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電極構造体は、高い静電容量を備え、基材であるアルミニウム箔と誘電体層との密着性、及び、誘電体層中の弁金属酸化物粒子同士の密着性に優れ、且つ、逆電圧が印加された場合であっても優れた耐久性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の電極構造体の構成を示す模式図である。
図2】実施例2の電極構造体の介在層の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】実施例4の電極構造体の表面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真である。
図4】比較例1の電極構造体の表面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真である。
図5】実施例4の電極構造体の断面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真である。
図6】比較例1の電極構造体の断面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.電極構造体
本発明の電極構造体は、アルミニウム箔の少なくとも一方面に、複数の弁金属酸化物粒子が三次元網目構造を形成して積層された誘電体層を備え、前記アルミニウム箔と前記誘電体層との間で前記アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層とを備え、前記弁金属酸化物粒子同士、及び、前記アルミニウム箔と前記弁金属酸化物粒子とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部によって接合されている電極構造体である。上記特徴を有する本発明の電極構造体は、アルミニウム箔と誘電体層との間でアルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層とを備えており、且つ、前記弁金属酸化物粒子同士、及び、前記アルミニウム箔と前記弁金属酸化物粒子とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部によって接合されているので、基材であるアルミニウム箔と誘電体層との密着性、及び、誘電体層間中の弁金属酸化物粒子同士の密着性に優れており、且つ、逆電圧が印加された場合であっても優れた耐久性を示すことができる。また、本発明の電極構造体は、誘電体層が複数の弁金属酸化物粒子が三次元網目構造を形成して積層されており、且つ、上記接合部が弁金属酸化物及び炭素材料を含むことにより、高い静電容量を備えることができる。すなわち、本発明の電極構造体は、上記全ての構成があいまって、高い静電容量を備え、基材であるアルミニウム箔と誘電体層との密着性、及び、誘電体層中の弁金属酸化物粒子同士の密着性に優れ、且つ、逆電圧が印加された場合であっても優れた耐久性を示すことができる。
【0018】
本発明の電極構造体の構成について、図を用いて説明する。図1は、本発明の電極構造体の構成を示す模式図である。図1では、本発明の電極構造体1は、アルミニウム箔11の少なくとも一方面に、複数の弁金属酸化物粒子121が三次元網目構造を形成して積層された誘電体層12を備えており、アルミニウム箔11と誘電体層12との間でアルミニウム箔11の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層13とを備え、弁金属酸化物粒子121同士、及び、アルミニウム箔11と弁金属酸化物粒子11とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部122によって接合されている。
【0019】
以下、本発明の電極構造体を構成する各部材について説明する。
【0020】
(アルミニウム箔)
アルミニウム箔としては特に限定されず、純アルミニウム又はアルミニウム合金の箔、すなわち、純アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を用いることができる。これらの中でも、純アルミニウム箔を使用することが好ましい。
【0021】
純アルミニウム箔のアルミニウム含有量は、99.30質量%以上であることが好ましく、99.85質量%以上であることがより好ましい。
【0022】
アルミニウム合金箔を形成するアルミニウム合金は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を必要範囲内において、アルミニウムに添加したアルミニウム合金であってもよいし、上記元素を不可避的不純物的に含むアルミニウム合金であってもよい。
【0023】
アルミニウム合金中の上記金属元素の含有量は、5000質量ppm以下が好ましく、1000質量ppm以下がより好ましい。金属元素の含有量が上記範囲内であることにより、介在層をアルミニウム箔の表面に均一に形成することができ、アルミニウム箔と誘電体層との間の密着力をより向上させることができる
【0024】
アルミニウム箔の厚みは特に限定されず、5μm以上200μm以下が好ましく、7μm以上100μm以下がより好ましく、9μm以上50μm以下がさらに好ましい。アルミニウム箔の厚みが上記範囲内であると、アルミニウム箔の表面に、弁金属酸化物粒子、有機金属化合物、及び、樹脂バインダーを含む混合物を塗工する際のハンドリングがより向上し、且つ、コンデンサ電極として使用した際に体積当たりの容量がより向上する。
【0025】
(誘電体層)
本発明の電極構造体を構成する誘電体層は、複数の弁金属酸化物粒子が三次元網目構造を形成して、上記アルミニウム箔の少なくとも一方面に積層されて、形成されている。また、誘導体層内では、弁金属酸化物粒子同士、及び、上記アルミニウム箔と弁金属酸化物粒子とは、弁金属酸化物及び炭素材料を含む接合部によって接合されている。
【0026】
本発明において、三次元網目構造は、弁金属酸化物粒子が接合部により接合されて立体的に配置された構造であれば特に限定されず、弁金属酸化物粒子がランダムに接合されていてもよく、すなわち、規則的に並んでいなくてもよい。また、弁金属酸化物粒子が立体的に配置されて網目構造となっていればよく、弁金属酸化物粒子間に接合部が充填されている構造も包含するが、本発明の電極構造体をコンデンサ電極として用いた際に静電容量がより高くなる観点から、弁金属酸化物粒子間に接合部が満充填されていないことが好ましい。
【0027】
<弁金属酸化物粒子>
弁金属酸化物粒子に含まれる弁金属は特に限定されず、チタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、シリコン、アルミニウム等が挙げられる。これらの中で、も酸化チタン、チタン酸バリウム等のチタンを含む弁金属酸化物が比誘電率がより向上する点で好ましく、特に酸化チタンを含む弁金属酸化物が好適に用いられる。
【0028】
弁金属酸化物に含まれる上記酸化チタンとしては特に限定されず、例えば、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の二酸化チタン、TiOx(xは0<x<2を示す。)で示される低次酸化チタンが挙げられる。これらのなかでも低次酸化チタンであることがより好ましい。
【0029】
弁金属酸化物粒子の粒子径は特に限定されず、4nm以上50nm以下が好ましい。粒子径が4nm以上であると、塗工液を調整する際に分散しやすく、粒子径が50nm以下であると、所定の静電容量を確保するために誘電体層の表面積を大きすることが可能となる。
【0030】
粒子の粒子径は、粉末X線回折法で測定できる。なお、本明細書において、粒子の粒子径は粉末X線回折法で測定される粒子径である。また、粒子の粒子径は動的光散乱法、誘導回折格子法、透過型電子顕微鏡法等の方法によっても測定することができる。
【0031】
弁金属酸化物粒子の形状は特に限定されず、球状、紡錘状、柱状、針状、不定形状、鱗片状、繊維状等のいずれも好適に使用できるが、工業的生産には球状または紡錘状が特に好ましい。
【0032】
(接合部)
接合部は誘電体層中の弁金属酸化物粒子同士、及び、アルミニウム箔と弁金属酸化物粒子とを接合させている。接合部がアルミニウム箔と弁金属酸化物粒子とを接合させることにより、アルミニウム箔と誘電体層との間で高い密着性を示すことができ、且つ、弁金属酸化物粒子同士を接合させることにより、誘電体層中において高い粒子間密着性を示すことができる。
【0033】
接合部は弁金属酸化物粒子全体を被覆するように存在してもよいし、弁金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部に存在していてもよい。また、アルミニウム箔と誘電体層との間で、アルミニウム箔表面全体を被覆するように存在しても良いし、アルミニウム箔表面の少なくとも一部に存在してもよい。接合部は、本発明の電極構造体をコンデンサ電極として用いた際に静電容量がより高くなる観点から、接合部が誘電体層の三次元網目構造全体を埋めない構成、すなわち、三次元網目構造の隙間を塞いでいない構成とすることが好ましい。
【0034】
誘電体層中の接合部と弁金属酸化物粒子との比率は、重量基準で2.5:97.5~35:65であることが好ましい。接合部の比率の下限が上記範囲であると、接合部が十分であるため密着性がより向上し、逆電圧を印加した際の剥離がより一層抑制される。また、接合部の比率の上限が上記範囲であると、誘電体層の三次元網目構造の隙間の閉塞が抑制され、電極構造体表面から連通する細孔の減少が抑制されるため、有効な表面積がより十分となるので、コンデンサ電極とした際の静電容量がより向上する。
【0035】
本発明において、接合部は弁金属酸化物及び炭素材料を含む。弁金属酸化物としては、有機金属化合物(金属アルコキシド)由来の弁金属酸化物であることが好ましく、例えば、チタン、タンタル、ハフニウム、ニオブ、アルミニウムの酸化物が例示される。より好ましくはチタンの酸化物であり、より好ましくはTiOx(xは0<x<2を示す。)で示される低次酸化チタンを1種以上含むことが好ましい。
【0036】
TiOx(xは0<x<2を示す。)で示される低次酸化チタンとしては、一酸化チタン、三酸化二チタン、五酸化三チタン、七酸化四チタン等が挙げられるが、これらに限定されない。弁金属酸化物として、上記低次酸化チタンを用いると、接合部と弁金属酸化物粒子との接合力がより向上するので誘電体層全体の強度がより向上し、更に、アルミニウム箔との接合力が向上するので、誘電体層とアルミニウム箔との密着性をより向上させることができる。更に、上記低次酸化チタンは導電性を有しており、誘電体層の導電性がより向上するため、電極構造体をコンデンサの陰極箔に用いた際のインピーダンスをより低減でき、ESR特性をより向上させることができる。
【0037】
接合部は、更に、炭素材料を含む。接合部が炭素材料を含むことにより、接合部の柔軟性が向上して誘電体層のクラックを抑制でき、誘電体層をより厚くすることができる。さらに炭素材料によって接合部の導電性が向上し、電極構造体をコンデンサの陰極箔に用いた際のインピーダンスをより低減でき、ESR特性をより向上させることができる。
【0038】
炭素材料としては特に限定されず、例えば、カーボンブラック、グラファイト、活性炭等の粒子をそのまま使用してもよく、樹脂バインダー、コールタール等の炭素前駆体を加熱工程によって炭化させたアモルファスカーボン等のアモルファスカーボン類を使用してもよい。接合部の柔軟性をより向上させる観点から、アモルファスカーボン類を含むことが好ましい。
【0039】
誘電体層の厚みは0.3μm以上10μm以下が好ましい。0.3μm以下であると静電容量が十分でなく、10μm以上であると密着力が低下し、誘電体層がアルミニウム箔表面から剥離する、あるいは弁金属酸化物粒子同士が剥離し三次元網目構造が崩れるおそれがある。
【0040】
(介在層)
本発明の電極構造体は、アルミニウム箔と誘電体層との間でアルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層とを備える。介在層は、アルミニウムと炭素を含み、アルミニウムの炭化物を含むことが好ましい。
【0041】
介在層は、アルミニウム箔と誘電体層との間の密着力を向上させるとともに、アルミニウム箔と誘電体層との間の電気抵抗を低減させることができる。また、介在層から誘電体層に向かって伸びるように存在する繊維状、フィラメント状、板状、壁状、鱗片状等の形態のアルミニウム炭化物を備えることも好ましい。しかしながら、電極構造体をコンデンサの陰極箔とし、逆電圧を印加した際に、アルミニウム箔表面の介在層との境界が起点となりガスが発生し、アルミニウム酸化被膜の形成が生じることがあるため、逆電圧を印加した際の密着性の観点からは介在層の存在だけでは十分ではない。
【0042】
(電極構造体の製造方法)
本発明の電極構造体の製造方法は、
(1)弁金属酸化物粒子、弁金属を含む有機金属化合物、及び、樹脂バインダーを含有する混合物層をアルミニウム箔の表面上に形成する工程1、
(2)炭化水素含有物質を含む空間に前記混合物層が形成された前記アルミニウム箔を配置した状態で加熱する工程2
を有する製造方法である。以下、各工程ごとに説明する。
【0043】
(工程1)
工程1は、弁金属酸化物粒子、弁金属を含む有機金属化合物、及び、樹脂バインダーを含有する混合物層をアルミニウム箔の表面上に形成する工程である。すなわち、工程1は、混合物層形成工程である。以下、工程1について説明する。
【0044】
<弁金属酸化物粒子>
工程1により形成される混合物層は、弁金属酸化物粒子を含む。
【0045】
弁金属酸化物粒子は、チタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、シリコン、アルミニウム等の弁金属の酸化物が挙げられる。これらの中で、も酸化チタン、チタン酸バリウム等のチタンを含む弁金属酸化物が比誘電率がより向上する点で好ましく、特に酸化チタンを含む弁金属酸化物が好適に用いられる。
【0046】
弁金属酸化物に含まれる上記酸化チタンとしては特に限定されず、例えば、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の二酸化チタン、TiOx(xは0<x<2を示す。)で示される低次酸化チタンが挙げられる。これらのなかでも低次酸化チタンであることがより好ましい。
【0047】
弁金属酸化物粒子の粒子径は特に限定されず、4nm以上50nm以下が好ましい。粒子径が4nm以上であると、混合物層を形成するための塗工液を調整する際に分散しやすく、粒子径が50nm以下であると、製造される電極構造体の誘電体の表面積を大きくすることができ、所定の静電容量を確保することが容易となる。
【0048】
混合物層中の上記弁金属酸化物粒子の含有量は、混合物層を100質量%として、20~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。含有量を上記範囲とすることにより、製造される電極構造体のアルミニウム箔と誘電体層との密着性、及び、誘電体層中の密着性がより一層向上する。
【0049】
<弁金属を含む有機金属化合物>
有機金属化合物に含まれる弁金属は特に限定されず、例えば、チタン、タンタル、ハフニウム、ニオブ、アルミニウム等が挙げられる。
【0050】
弁金属を含む有機金属化合物としては、有機チタン化合物、有機タンタル化合物、有機ハフニウム化合物、有機ニオブ化合物、有機アルミニウム化合物等が挙げられ、弁金属を含む金属アルコキシドが好ましく、より好ましくは、チタンアルコキシド及びそのキレート体、ペルオキソチタン酸及びその塩等が挙げられる。
【0051】
混合物層中の上記弁金属酸化物粒子と、弁金属を含む有機金属化合物との配合比(質量比)は、弁金属酸化物換算で98:2~30:70が好ましく、95:5~40:60がより好ましく、92.5:7.5~50:50が更に好ましく、90:10~60:40が特に好ましい。配合比が上記範囲であることにより、製造される電極構造体のアルミニウム箔と誘電体層との密着性、及び、誘電体層中の密着性がより一層向上する。
【0052】
<樹脂バインダー>
上記混合物層は、樹脂バインダーを含有する。混合物層が樹脂バインダーを含有することにより、後述する工程2(加熱工程)で加熱されて、接合部中で炭素材料となる。すなわち、樹脂バインダーは、工程2で熱分解して炭化し、アモルファスカーボン等の炭素材料に変化して弁金属を含む接合部に残存する。混合物層が樹脂バインダーを含有することにより、加熱工程である工程2に供される前の混合物層の柔軟性を向上させることができ、且つ、製造される電極構造体の混合物層とアルミニウム箔との密着性を向上させることができる。
【0053】
樹脂バインダーとして用いられる樹脂は特に限定されず、公知のものが使用できる。このような樹脂としては、例えば、カルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂;ワックス、タール、にかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂又はワックスが好適に使用できる。混合物層の塗工厚みを十分としつつ、工程2(加熱工程)の後に接合部内に炭素材料を含有させるためには、混合物層の柔軟性が向上し、アルミニウム箔との密着性が良好で、さらに熱分解によって炭化し、アモルファスカーボン等として残存し易いものが好ましく、具体的にはポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0054】
混合物層中の樹脂バインダーの含有量は、混合物層を100質量%として、5~50質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましい。
【0055】
上記混合物層は、弁金属酸化物粒子、弁金属を含む有機金属化合物、及び、樹脂バインダーを含有していれば、添加剤及び溶剤を含有していてもよい。
【0056】
<添加剤>
添加剤としては特に限定されず、通常電極構造体に用いられる添加剤が挙げられる。このような添加剤としては、混合物層を形成するための混合物の塗工性を向上させるレベリング剤、消泡剤、チクソ剤、誘電体粒子の分散性を向上させる分散剤、有機金属化合物の安定性を向上させるキレート剤等が挙げられる。
【0057】
<溶剤>
溶剤としては特に限定されず、有機金属化合物、樹脂バインダーの親溶剤が好ましい。当該親溶剤としては、有機金属化合物がゲル化、析出せず、樹脂バインダーが溶解しやすい溶剤が挙げられ、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-へプタン、n-オクタン等の脂肪族系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;水等が挙げられる。
【0058】
工程1において、混合物層の厚みは、0.3μm以上10μm以下が好ましい。また、混合物層をアルミニウム箔の両面に形成する場合は、片面の混合物層の厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0059】
アルミニウム箔の表面上に混合物層を形成する形成方法としては特に限定されず、混合物層を形成するための混合物を、例えばダイコート、グラビアコート、ダイレクトコート、バーコート、ローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法により塗布する方法、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷方法により印刷する方法等が挙げられる。
【0060】
上記説明した工程1により、アルミニウム箔の表面上に混合物層が形成される。
【0061】
(工程2)
工程2は、炭化水素含有物質を含む空間に混合物層が形成されたアルミニウム箔を配置した状態で加熱する工程である。すなわち、工程2は、加熱工程である。以下、工程2について説明する。
【0062】
工程2において、炭化水素含有物質は特に限定されず、例えば、メタン、エタン、プロパン、n‐ブタン、イソブタンおよびペンタン等のパラフィン系炭化水素;エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等のオレフィン系炭化水素;アセチレン等のアセチレン系炭化水素;またはこれらの炭化水素の誘導体が挙げられる。これらの炭化水素の中でも、メタン、エタン、プロパン等のパラフィン系炭化水素は、加熱の際にガス状になる点で好ましく、メタン、エタン、プロパンのうち、いずれか一種の炭化水素がより好ましく、メタンが更に好ましい。
【0063】
当該混合物層が表面に形成されたアルミニウム箔を配置する空間に導入される炭化水素含有物質の重量比率は、特に限定されないが、通常はアルミニウム箔100質量部に対して炭素換算で0.1質量部以上50質量部以下の範囲内にするのが好ましい。
【0064】
工程2における加熱温度は、通常は450℃以上660℃未満の範囲内が好ましい。加熱温度を450℃以上とすることにより、アルミニウムと炭素を含む介在層中に結晶化したアルミニウムの炭化物を十分に含有させることができる。ただし、本発明の製造方法において、工程2における加熱温度を450℃未満とすることを排除するものではなく、少なくとも300℃を超える温度であればよい。
【0065】
工程2における加熱時間は、加熱温度等にもよるが、一般的には1時間以上100時間以下の範囲内である。
【0066】
工程2において、加熱温度が400℃以上になる場合は、加熱雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下とすることが好ましい。加熱温度が400℃以上の条件下で加熱雰囲気中の酸素濃度が1.0体積%を超えると、アルミニウム箔の表面の酸化被膜が肥大し、アルミニウム箔の表面における界面電気抵抗が増大して電極構造体の内部抵抗値が増大するおそれがある。また、接合部の弁金属酸化物の酸化度に影響し、接合部の電気抵抗が増大して電極構造体の内部抵抗値が増大するおそれがある。さらに、接合部に含まれる炭素材料が酸化分解して接合部の電気抵抗が増大するとともに接合部の柔軟性が低下して誘電体層にクラックが生じるおそれがある。加熱温度が400℃以上になる場合の加熱雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下とすることにより、上述の電極構造体の内部抵抗値が増大、及び、誘電体層のクラックを抑制することができる。
【0067】
以上説明した工程2により、炭化水素含有物質を含む空間に混合物層が形成されたアルミニウム箔が配置された状態で加熱され、本発明の電極構造体を製造することができる。
【0068】
(前加熱工程)
本発明の製造方法は、上記工程2に先立って、混合物層が表面に形成されたアルミニウム箔を、酸素の存在する雰囲気中で加熱する前加熱工程を有していてもよい。本発明の製造方法が前加熱工程を有することにより、樹脂バインダーを適度に分解させ、加熱工程後に接合部中に残存する炭素材料の量を調整することができる。また、前加熱工程を有することにより、有機金属化合物の脱水、縮合反応が促進され、接合部の強度がより向上し、誘電体層とアルミニウム箔との密着性をより一層向上させることができる。
【0069】
前加熱工程において雰囲気中の酸素の濃度は特に限定されないが、当該アルミニウム箔を配置した空間に酸素が存在するようにすればよく、酸素を2~50体積%含む空間であることが好ましい。この脱脂工程は、通常は空気中で行なえばよい。
【0070】
前加熱工程における加熱温度は100℃以上350℃以下が好ましく、また、加熱時間は1分以上100時間以下が好ましい。
【実施例0071】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0072】
なお、実施例及び比較例で用いた、接合部を形成するための原料は以下のとおりである。
【0073】
弁金属酸化物粒子:
・AMT-100:酸化チタン粒子(テイカ株式会社、一次粒子径6nm、アナターゼ型)
・STR-100N:酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製、一次粒子径15nm、ルチル型)
・AMT-600:酸化チタン粒子(テイカ株式会社製、一次粒子径30nm、アナターゼ型)
【0074】
有機金属化合物:
・TC-300:チタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製)
・PTA-85:ペルオキソチタン酸水溶液(日本光触媒センター株式会社製)
・TC-401:チタンテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル株式会社製)
【0075】
樹脂バインダー:
・PVA:ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 クラレポバール3-88)
・PVB:ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製 エスレックB BX-L)
【0076】
(実施例1)
弁金属酸化物粒子として一次粒子径15nmの酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製 STR-100N)と、有機金属化合物としてチタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-300)を酸化チタン換算比で表1に記載の比率とし、酸化チタン粒子(STR-100N)に対して質量比で25%となるようポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 クラレポバール3-88)水溶液を混合して分散させた水性塗工液を調製した。得られた塗工液を厚み30μmのAl箔(1085材 軟質)の両面に片面ずつ塗工し、片面塗工毎に空気中で180℃×3分間乾燥させた。乾燥後の付着量は片面1.5g/m2であった。次いで、乾燥後のAl箔を空気中で200℃×15時間加熱した。次いで、メタンガス雰囲気で615℃×12時間加熱することにより、実施例1の電極構造体を作製した。
【0077】
(実施例2~6)
弁金属酸化物粒子、並びに、接合部を形成するための有機金属化合物及び樹脂バインダーをそれぞれ表1に示す配合に変更した以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。
【0078】
(実施例7)
一次粒子径15nmの酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製 STR-100N)と、有機金属化合物としてペルオキソチタン酸水溶液(日本光触媒センター株式会社製 PTA-85)を酸化チタン換算比で表1に記載の比率とし、酸化チタン粒子に対して質量比で25%となるようポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 クラレポバール3-88)水溶液を混合して分散させた水性塗工液を調製した。得られた塗工液を厚み30μmのAl箔(1085材 軟質)の両面に片面ずつ塗工し、片面塗工毎に空気中にて180℃×3分間乾燥させた。乾燥後の付着量は片面1.5g/m2であった。次いで、乾燥後のAl箔を空気中で200℃×15時間加熱した。次いで、メタンガス雰囲気で615℃×12時間加熱することにより、電極構造体を作製した。
【0079】
(実施例8)
一次粒子径30nmの酸化チタン粒子(テイカ株式会社製 AMT-600)と、有機金属化合物としてチタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-300)を酸化チタン換算比で表1に記載の比率とし、酸化チタン粒子に対して質量比で20%となるようポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 クラレポバール3-88)水溶液を混合して分散させた水性塗工液を調整した以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。
【0080】
(実施例9)
一次粒子径6nmの酸化チタン粒子(テイカ株式会社製 AMT-100)と、有機金属化合物としてチタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-300)を酸化チタン換算比で表1に記載の比率とし、酸化チタン粒子に対して質量比で40%となるようポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 クラレポバール3-88)水溶液を混合して分散させた水性塗工液を調整した以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。
【0081】
(実施例10)
一次粒子径15nmの酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製 STR-100N)と、有機金属化合物としてチタンテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-401)を酸化チタン換算比で表1配合量となるよう混合し、酸化チタン粒子(STR-100N)に対して質量比で30%となるようポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製 エスレックB BX-L)n-ブタノール溶液を混合して分散させた油性塗工液を調整した。得られた塗工液を厚み30μmのAl箔(1085材 軟質)の両面に片面ずつ塗工し、片面塗工毎に空気中で180℃×3分間乾燥させた。乾燥後の付着量は片面1.5g/m2であった。次いで、乾燥後のAl箔を空気中で200℃×15時間加熱した。次いで、メタンガス雰囲気で615℃×12時間加熱することにより、電極構造体を作製した。
【0082】
(比較例1)
一次粒子径が15nmの酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製 STR-100N)を単独で用い、酸化チタン粒子に対して質量比で25%となるようポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 クラレポバール3-88)水溶液を混合して分散させた水性塗工液を調整した以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。
【0083】
(比較例2)
有機金属化合物としてのチタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-300)を単独で塗工液として用いた以外は実施例1と同様にして、電極構造体を製造した作製した。作製された電極構造体は、チタニア層に多数のクラックが発生し、密着性が不十分であった。
【0084】
(比較例3)
有機金属化合物としてのチタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-300)を単独で塗工液として用い、乾燥後の付着量を片面0.5g/m2、メタンガス雰囲気での加熱を600℃×12時間とした以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。
【0085】
(比較例4)
一次粒子径が15nmの酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製 STR-100N)と、有機金属化合物としてチタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-300)とを酸化チタン換算比で表1に示す比率で水に分散させた水性塗工液を用いた以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。作製された電極構造体は、チタニア層に多数のクラックが発生し、密着性が不十分であった。
【0086】
(比較例5)
有機金属化合物としてのペルオキソチタン酸水溶液(日本光触媒センター株式会社製 PTA-85)を単独で塗工液として用いた以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。作製された電極構造体はチタニア層に多数のクラックが発生し、密着性が不十分であった。
【0087】
(比較例6)
一次粒子径が15nmの酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製 STR-100N)に対して質量比で30%となるようポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製 エスレックB BX-L)n-ブタノール溶液を混合して分散させた油性塗工液を用いた以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。
【0088】
(比較例7)
有機金属化合物としてのチタンテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-401)を単独で塗工液として用いた以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。作製された電極構造体はチタニア層に多数のクラックが発生し、密着性が不十分であった。
【0089】
(比較例8)
有機金属化合物としてのチタンテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル株式会社製 TC-401)を単独で塗工液として用い、乾燥後の付着量を片面0.5g/m2、メタンガス雰囲気での加熱を600℃×12時間とした以外は実施例1と同様にして、電極構造体を作製した。
【0090】
作製された電極構造体について、以下の方法により特性を評価し、観察した。
【0091】
<静電容量>
静電容量を測定するための試料作製と静電容量の測定方法は、電子情報技術産業協会(JEITA)規格EIAJ RC-2364Aに定める、陰極はく及びごく低圧用陽極化成はくの測定方法に基づいて行った。
【0092】
<耐逆電圧性(電圧印加後の密着性)>
・電圧印加
作製された電極構造体を10mm×100mmの短冊状にカットし、SUS容器に入れた15wt%アジピン酸アンモニウム水溶液中に浸漬面積が10mm×50mmとなるように浸漬した。作用極を各電極構造体、対極と参照極をSUS容器として電気化学測定システム(北斗電工製 HZ-3000)を用いて2V、3V、4Vの電圧を5分間印加した。
・密着性評価
テーピング法によって評価した。具体的には、電圧印加後のサンプルを純水で洗浄、乾燥後、浸漬部分の表面に、粘着テープ(積水化学工業株式会社製、商品名「セキスイセロテープNo252」)を押し当てた後、粘着テープを引き剥がして誘電体層の剥離状況を確認した。下記評価基準に従って評価した。
〇:誘電体層が殆ど剥離せず、すなわち、粘着テープに殆ど付着しなかった。
△:誘電体層の表面が僅かに剥離した。
×:誘電体層が凝集剥離するか、又は、Al箔界面から完全に剥離した。
【0093】
<裏面観察(介在層の観察)>
実施例2で製造された電極構造体の介在層を観察するために、ブロム-メタノール混合溶液を用いてアルミニウム箔を溶解し、残存した介在層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって直接観察した。写真を図2に示す。すなわち、図2は、電極構造体においてアルミニウム箔を除去して露出された介在層の表面を、介在層から誘電体層に向かって電極構造体の裏面を観察した写真である。図2において、写真の倍率は、上から順に1000倍、3000倍、10000倍である。図2に示すように、アルミニウム箔と誘電体層との間には、板状の結晶化物である介在層が確認された。また、X線マイクロアナライザー(EPMA)およびX線回折にて、上記の板状の結晶化物が炭化アルミニウムであることを確認した。
【0094】
<表面・断面観察>
実施例4及び比較例1で作製された電極構造体の表面および断面を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)によって観察した。写真を図3図6に示す。なお、図3は実施例4の電極構造体の表面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真、図4は比較例1の電極構造体の表面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真、図5は実施例4の電極構造体の断面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真、図6は比較例1の電極構造体の断面の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真である。図3図6から、実施例4では弁金属酸化物粒子である酸化チタン同士を固着する様に緻密な誘電体層が形成されており、誘電体層とAl箔との界面にも緻密な層が存在していることが分かる。
【0095】
配合及び結果を表1及び表2に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
表2の結果から、比較例1及び比較例6が2Vの電圧印加で誘電体層の密着性が大幅に低下したのに対し、実施例1~10では電圧を印加しても殆ど剥離しないか、4Vで表層が僅かに剥離する程度であり、耐逆電圧性が大きく向上していることが分かった。
【0099】
また、比較例3及び比較例8は、実施例1~10と対比して静電容量が非常に低いことが分かった。
【符号の説明】
【0100】
1:電極構造体
11:アルミニウム箔
12:誘電体層
121:弁金属酸化物粒子
122:接合部
13:介在層
131:繊維状のアルミニウム炭化物
図1
図2
図3
図4
図5
図6