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特開2024-129563有価金属含有廃棄物中の有価金属の回収方法
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  • 特開-有価金属含有廃棄物中の有価金属の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129563
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】有価金属含有廃棄物中の有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240919BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20240919BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20240919BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20240919BHJP
【FI】
C22B7/00 Z
B09B3/35 ZAB
B09B5/00 Z
B09B101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038860
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩希
(72)【発明者】
【氏名】武藤 恭宗
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004AA28
4D004AA36
4D004BA05
4D004CA04
4D004CA08
4D004CA09
4D004CA40
4D004CA42
4D004CB13
4D004CB44
4D004CC13
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA11
4D004DA20
4K001AA01
4K001AA02
4K001AA04
4K001AA08
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA30
4K001AA41
4K001BA14
4K001BA22
4K001BA24
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA04
4K001CA06
4K001CA09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有価金属含有廃棄物から有価金属を効率よく回収する方法を提供すること。
【解決手段】工程A及び工程Bを含む第1の粉砕工程と、工程Bで所定時間後に排出されたミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する磁力選別工程と、非磁着物を篩選別して篩上と篩下とに分離する篩選別工程と、篩下をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する第2の粉砕工程と、ミル排石を回収する回収工程を備える、有価金属含有廃棄物からの有価金属の回収方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程A及び工程Bを含む第1の粉砕工程と、
(工程A)有価金属含有廃棄物と、石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される1以上のセメント原料とを含む混合物をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程
(工程B)前記ミル排石と前記混合物とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離し、該非金属と前記混合物とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、該ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離した後、該非金属と前記混合物とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、該ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離する処理を所定時間繰り返し行う工程であって、前記ミル排石の使用量が前記混合物100質量部に対して10~100質量部である工程
工程Bで所定時間後に排出されたミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する磁力選別工程と、
非磁着物を篩選別して篩上と篩下とに分離する篩選別工程と、
篩下をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する第2の粉砕工程と、
ミル排石を回収する回収工程
を備える、有価金属含有廃棄物からの有価金属の回収方法。
【請求項2】
第2の粉砕工程において、ローラーミルのミル回転数及びローラーミルに導入する風量を制御する、請求項1記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
ローラーミルのミル回転数が150rpm以上であり、ローラーミルに導入する風量が50m3/h以上である、請求項2記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
第1の粉砕工程前に、粗粉砕工程、粒度調整工程、磁力選別工程、渦電流選別工程及び水洗工程から選択される1以上の予備処理工程を含む、請求項1記載の有価金属の回収方法。
【請求項5】
第1の粉砕工程前に、有価金属含有廃棄物及びセメント原料の水分含有量を低下させる水分調整工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属含有廃棄物中の有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却灰、廃プラスチック、シュレッダーダスト等の廃棄物の有効利用が検討されている。例えば、都市ゴミ焼却灰を含む廃棄物を竪型ローラーミルで粉砕し、セメント原料を含む第1粉砕物と、第1粉砕物よりも大きいサイズを有する第2粉砕物とに分離し、第2粉砕物から渦電流選別によって第2粉砕物よりも金属含有量が低い選別原料を得、当該選別原料を前記原料の一部として竪型ローラーミルで粉砕することで、竪型ローラーミル及びその下流側の製造設備の負荷を十分に低減しつつ、金属含有量が少ないセメント原料を回収できることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-80509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した廃棄物には、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、亜鉛、鉄、アルミニウム、クロム等の有価金属が含まれているため、資源の有効活用の観点から、これら有価金属を再利用することが望ましい。上記した従来技術によれば、渦電流選別で比較的大きい金属を回収することができるが、竪型ローラーミルは通常処理量が多く、発生する排石量も多いことから、渦電流選別では細粒の金属を回収することは難しい。また、ミル排石の循環を繰り返し行った場合、金属が過度に粉砕されてミル精粉側に移行するため、金属の回収が困難になる。
本発明の課題は、有価金属含有廃棄物から有価金属を効率よく回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、金属の回収を目的に検討した結果、次の方法により上記した課題を解決できることを見出した。即ち、(1)有価金属含有廃棄物と特定のセメント原料を含む混合物をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、(2)ミル排石を原料の一部として前記混合物とともにローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離し、(3)非金属を原料の一部として前記混合物とともにローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離し、(4)上記(3)の処理を所定時間繰り返し行う。そして、(5)ローラーミルへの前記混合物の供給を停止し、排出されたミル排石を磁力選別して非磁着物を回収し、非磁着物を篩選別して篩上と篩下とに分離し、篩下をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離することで、ミル排石に有価金属を濃縮できるため、有価金属含有廃棄物から有価金属を効率よく回収できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔5〕を提供するものである。
〔1〕下記の工程A及び工程Bを含む第1の粉砕工程と、
(工程A)有価金属含有廃棄物と、石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される1以上のセメント原料とを含む混合物をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程
(工程B)前記ミル排石と前記混合物とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離し、該非金属と前記混合物とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、該ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離した後、該非金属と前記混合物とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、該ミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離する処理を所定時間繰り返し行う工程であって、前記ミル排石の使用量が前記混合物100質量部に対して10~100質量部である工程
工程Bで所定時間後に排出されたミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する磁力選別工程と、
非磁着物を篩選別して篩上と篩下とに分離する篩選別工程と、
篩下をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する第2の粉砕工程と、
ミル排石を回収する回収工程
を備える、有価金属含有廃棄物からの有価金属の回収方法。
〔2〕第2の粉砕工程において、ローラーミルのミル回転数及びローラーミルに導入する風量を制御する、前記〔1〕記載の有価金属の回収方法。
〔3〕ローラーミルのミル回転数が150rpm以上であり、ローラーミルに導入する風量が50m3/h以上である、前記〔2〕記載の有価金属の回収方法。
〔4〕第1の粉砕工程前に、粗粉砕工程、粒度調整工程、磁力選別工程、渦電流選別工程及び水洗工程から選択される1以上の予備処理工程を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の有価金属の回収方法。
〔5〕第1の粉砕工程前に、有価金属含有廃棄物及びセメント原料の水分含有量を低下させる水分調整工程を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の有価金属の回収方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有価金属含有廃棄物から有価金属を効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の有価金属含有廃棄物中の有価金属の回収方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の有価金属含有廃棄物からの有価金属の回収方法(以下、単に「回収方法」とも称する)について詳細に説明する。図1に、本発明に係る回収方法の好適な一実施形態のフローチャートを示す。
【0010】
従来、有価金属含有廃棄物等を原料とし、それをローラーミルで粉砕してミル排石を回収し、そのミル排石をローラーミルで繰り返し粉砕(循環粉砕)する技術は知られていたが、原料の構成成分によって粉砕特性が大きく異なるため、ミル排石に有価金属を濃縮させることが困難であった。しかるところ、本発明は、この循環粉砕に磁力選別及び/又は渦電流選別を組合わせて所定時間繰り返し行った後、所定時間後に排出されたミル排石を磁力選別及び篩選別に供して所定の選別物を回収したうえで、その選別物をローラーミルで2次粉砕すること特徴とするものである。即ち、本発明に係る回収方法は、第1の粉砕工程、磁力選別工程、篩選別工程及び第2の粉砕工程を含む工程に供するものである。
【0011】
本発明で使用する原料は、有価金属含有廃棄物及びセメント原料を含むものである。
(有価金属含有廃棄物)
有価金属含有廃棄物(以下、単に「廃棄物」とも称する。)としては、例えば、焼却灰を挙げることができる。焼却灰には、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、亜鉛、鉄、アルミニウム、クロム等の有価金属が通常含まれている。
焼却灰としては、例えば、都市ゴミ、産業廃棄物、下水汚泥等を焼却炉で焼却した際に炉底に溜まる焼却主灰(ボトムアッシュ)、ストーカ式焼却炉の火格子の隙間から落下した落じん灰が好適に使用される。なお、焼却主灰には焼却した際の排ガス中の煤塵である焼却飛灰(フライアッシュ)が含まれていてもよい。産業廃棄物としては、例えば、廃自動車、廃家電、自動販売機、OA機器等のシュレッダーダスト、建築廃プラスチック、農業廃プラスチック、漁業廃プラスチック、海洋廃プラスチック等の廃プラスチックを挙げることができる。
【0012】
(セメント原料)
セメント原料としては、石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される1以上を含むものであればよい。「石灰石」としては、主に天然の石灰石であるが、鋳物砂も包含される。「珪石」としては、天然の珪石の他に、鋳物砂がある。「粘土類」としては、例えば、建設発生土、上水汚泥、下水汚泥を挙げることができる。建設発生土としては、例えば、建設工事や土木工事に伴い副次的に発生する土砂や汚泥を挙げることができる。上水汚泥及び下水汚泥としては、例えば、汚泥単味のほか、これに生石灰又は石灰石を加えて乾粉化したものを挙げることができる。また、「鉱さい」とは、スラグの総称であり、例えば、高炉スラグ、製鋼スラグ、非鉄金属スラグを挙げることができる。
【0013】
混合物の調製は、一方を他方に投入して混合しても、両者を同時に投入して混合してもよく、混合順序は問わない。
混合物中の廃棄物の含有量は、有価金属の回収効率の観点から、乾燥質量で、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が更に好ましく、そして20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「乾燥質量」は、水分含有量が10質量%以下であるときの質量をいう。
【0014】
本発明においては、廃棄物から効率よく有価金属を回収することを目的に、図1に示されるように、第1の粉砕工程前において、廃棄物、セメント原料、又は廃棄物及びセメント原料を含む混合物(以下、「廃棄物等」とも称する)について予備処理工程に供することできる。
【0015】
<予備処理工程>
本工程は、粗粉砕工程、粒度調整工程、磁力選別工程、渦電流選別工程及び水洗工程から選択される1以上を含むものである。2以上行う場合、各工程を任意の順序で行うことが可能であり、一の工程を複数回行っても構わない。
【0016】
(粗粉砕工程)
本工程は、廃棄物等を所定値以下の粒径に粗粉砕する工程である。これにより、廃棄物を解砕し、廃棄物に付着した有価金属を剥離することができる。
粗粉砕には、破砕機を使用することができる。破砕機としては、例えば、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ロータリークラッシャーを挙げることができるが、これらに限定されない。粗粉砕は、2回以上行ってもよい。2回以上行う場合には、同一又は異なる破砕機を使用することができる。
粗粉砕後の廃棄物等の粒径は、生産効率の観点から、最大粒径が、好ましくは40mm以下であり、更に好ましくは30mm以下である。ここでいう「最大粒径」とは、粗粉砕物のうち、最も大きな粗粉砕物を採取し、当該粗粉砕物の径が最大となる箇所を測定した値をいう。
【0017】
(粒度調整工程〕
本工程は、廃棄物等を篩選別する工程である。これにより、粗大物や金属を除去してローラーミル内部の摩耗、破損、振動等による負荷低減するとともに、ローラーミルの操業条件に適合する大きさに調整することができる。
粒度調整には、篩選別機を使用することができる。篩選別機は特に限定されず、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、振動式、面内運動式、回転式及び固定式のいずれでもよい。
また、廃棄物等を破砕機で粗粉砕した場合、破砕機に所望する篩目のスクリーンを装着するか、あるいはスクリーンを装着しない場合には、固定歯、回転歯、内壁等を所望するクリアランスに調整してもよい。
粒度調整後の廃棄物等は、最大粒径が、篩目の目詰まり防止の観点から、8mm以上が好ましく、またローラーミル内部の摩耗、破損、振動等による負荷低減の観点から、30mm以下が好ましい。ここでいう「最大粒径」とは、試料がすべて通過する篩の最小の篩目で表した粒径をいう。
【0018】
(磁力選別工程)
本工程は、廃棄物等を磁力選別する工程である。焼却灰や建設発生土等には、釘、ボルト、針金、座金、ベアリング等の鉄、ステンレス鋼等の磁性金属が含まれているため、磁力選別により有価金属として磁性金属を回収することで、ローラーミル内部の摩耗、破損、振動等による負荷を低減することができる。
磁力選別は、磁力選別機を使用することができる。磁力選別機は特に限定されず、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、ドラム式、プーリー式及び吊下げ式のいずれでもよい。
磁力選別機の表面磁束密度は、磁着物除去の観点から、好ましくは100~3000ガウスであり、より好ましくは150~2000ガウスであり、更に好ましくは200~1000ガウスである。
なお、本工程は、後述する水分調整工程後に行っても構わない。
【0019】
(渦電流選別)
本工程は、廃棄物等を渦電流選別する工程である。焼却灰等にはアルミニウム、金、銅、亜鉛等の非磁性金属が含まれているため、渦電流選別により有価金属として非磁性金属を回収することで、ローラーミル内部の摩耗、破損、振動等による負荷を低減することができる。
渦電流選別は、渦電流選別機を使用することができる。渦電流選別機は特に限定されず、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、回転磁石式、直行ベルトコンベヤ式及び回転円筒式のいずれでもよい。
回転磁石体の回転数は、ローラーミル内部の負荷低減の観点から、1500rpm以上が好ましく、そして5000rpm以下が好ましい。
【0020】
(水洗工程)
本工程は、廃棄物等を水洗する工程である。これにより、廃棄物中の塩素含有量を低減することができる。
水洗方法は、廃棄物等と水とを接触させることができれば特に限定されないが、例えば、廃棄物等を水槽に入れ攪拌する方法、廃棄物等を水に浸漬させる方法、廃棄物等に水を散布する方法を挙げることができる。
水としては、例えば、JIS A 5308付属書Cに規定される上水道水、該上水道水以外の水(例えば、河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水)を挙げることができる。
水の使用量は、廃棄物等に対して、0.5~5質量倍が好ましく、0.75~4質量倍がより好ましく、1~3質量倍が更に好ましい。なお、水の温度は適宜選択可能であるが、通常常温(20℃±15℃)である。
水洗後、水洗物を、例えば、脱水機を用いて上澄みと沈殿物とに分離し、沈殿物を回収すればよい。脱水機は、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、分離板型、円筒型、デカンター型等の遠心分離機、フィルタープレス、ベルトフィルターのいずれでもよい。また、水洗物を篩選別し、水分が多い篩下のみを脱水機で脱水しても構わない。なお、遠心分離の条件は、適宜選択することができる。
【0021】
予備処理工程は、使用する原料の種類に応じて適宜選択可能であるが、有価金属の回収効率の観点から、粗粉砕工程、粒度調整工程、磁力選別工程及び磁力選別工程から選択される1以上が好ましく、粗粉砕工程、粒度調整工程及び磁力選別工程から選択される1以上がより好ましい。また、セメント原料として粘土類を使用する場合には、混合物を調製する前に廃棄物及び粘土類をそれぞれ予備処理工程に供することができる。例えば、廃棄物を粗粉砕工程、磁力選別工程、粒度調整工程及び水洗工程から選択される1以上に供した後、これに磁力選別工程に供した粘土類を投入し混合してもよい。
【0022】
(水分調整工程)
本発明に係る回収方法においては、図1に示されるように、第1の粉砕工程前に、廃棄物及びセメント原料を含む混合物の水分含有量を低下させることができる。これにより、ローラーミル内での付着が発生し難く、また粉砕により発生した微粉を気流で回収しやすくなるため、ローラーミルでの粉砕を均一化するとともに、安定して操業することができる。なお、廃棄物及びセメント原料それぞれについて水分調整を行ってから、混合物を調製しても構わない。
【0023】
水分含有量の調整方法は、所望の水分含有量に調整できれば特に限定されないが、例えば、酸化カルシウムによる改質、土間乾燥、加熱乾燥を挙げることができる。中でも、セメント製造工程から排出される排ガスを抽気して加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥する場合の温度は、好ましくは20~300℃であり、更に好ましくは75~110℃である。
水分調整後の混合物の水分含有量は、ローラーミル内での付着防止、微粉の効率的回収の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。なお、水分含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わない。ここで、本明細書において「水分含有量」とは、試料1kgを105℃で恒量になるまで乾燥し、質量減少量から算出した値をいう。
【0024】
<第1の粉砕工程>
第1の粉砕工程は、図1に示されるように、工程Aと工程Bから構成され、工程Aを行った後、工程Bを行う。
(工程A)
工程Aは、廃棄物及びセメント原料を含む混合物をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程である。ここで、本明細書において「精粉」とは、粉砕時に気流によって排出される微粉をいい、また「排石」とは、粉砕により気流で排出される粉体とならない粒状、塊状の固体をいう。
【0025】
ローラーミルとしては、複数個のローラと回転するテーブルとの間で混合物を圧縮、剪断しながら粉砕し、粉砕された微粉を気流にて選択的に排出する機構を備える装置であれば特に限定されない。例えば、工業用の竪型ローラーミルを挙げることができる。竪型ローラーミルにおいては、混合物が上部のセパレータで分級され、ミル精粉を得ると共に、粒径の大きい被粉砕物は再びローラとテーブルで粉砕される。テーブルの周囲にはダムリングが設けられ、ダムリングを超えて落下して排出されるのがミル排石である。
【0026】
本工程においては、例えば、廃棄物及びセメント原料を原料供給部に搬送し、原料供給部によって廃棄物及びセメント原料をローラーミルに供給して粉砕する。これにより、気流に乗ってローラーミルから排出されるミル精粉と、ローラーミルの下部の排出部より排出されるミル排石とに分離される。ミル排石は、ミル精粉よりも粒径が大きいうえ、有価金属を多く含んでいる。そのため、ローラーミルから排出されたミル排石は、循環経路を介して原料供給部に搬送される。他方、ミル精粉は、吸引ファンに導かれた気体とともにサイクロンで捕集され、セメント原料中間体として回収される。
【0027】
処理量は、廃棄物の種類や製造スケール等により適宜設定可能であるが、有価金属の回収効率の観点から、好ましくは15~400t/hであり、より好ましくは50~300t/hであり、更に好ましくは150~250t/hである。
【0028】
(工程B)
工程Bは、工程Aで得られたミル排石を原料の一部として使用し、上記した混合物とともにローラーミルに再投入し粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、分離されたミル排石を磁力選別及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離する。そして、分離された非金属を原料の一部として更に使用し、上記した混合物とともにローラーミルに再投入し粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、分離されたミル排石を及び/又は渦電流選別して金属と非金属とに分離する処理を所定時間繰り返し行う。このように、ミル排石から磁力選別及び/又は渦電流選別により分離された非金属を原料の一部として使用し、上記した混合物とともに、ローラーミルによる粉砕と所定の物理選別とを組み合わせて所定時間繰り返し処理することで、金、銅等の貴金属がミル排石に濃縮され、鉄、クロム等を含む磁性金属は物理選別により金属として分離される。これにより、ミル精粉側への金属の移行が抑制されるため、ミル精粉として高品位のセメント原料中間体を回収することができる。
【0029】
本工程においては、例えば、工程Aでローラーミルから排出されたミル排石を循環経路を介して原料供給部に戻し、原料供給部によってミル排石を上記した混合物とともにローラーミルに供給して粉砕することで、気流に乗ってローラーミルから排出されるミル精粉と、ローラーミルの下部の排出部より排出されるミル排石とに分離する。次いで、ミル精粉をセメント原料中間体として回収する一方、分離されたミル排石を磁力選別部/渦電流選別部に搬送し、ミル排石を磁力選別部/渦電流選別部によって金属と非金属とに分離する。以降において、非金属を循環経路を介して原料供給部に戻し、原料供給部によって非金属を上記した混合物とともにローラーミルに供給し粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉をセメント原料中間体として回収する一方、分離されたミル排石を磁力選別部/渦電流選別部に搬送し、磁力選別部/渦電流選別部によって非金属と金属とに分離する処理を所定時間繰り返し行う。
【0030】
工程Bにおいて、ミル排石の使用量は、混合物100質量部に対して10~100質量部であるが、有価金属の濃縮の観点から、30~100質量部が好ましく、50~100質量部がより好ましく、70~100質量部が更に好ましい。なお、ミル排石及び混合物の使用量は、乾燥質量を基準とする。また、ミル排石及び混合物の使用量は、ローラーミルの容量に応じて適宜設定することができる。
【0031】
磁力選別及び渦電流選別は、任意の順序で行うことができるが、金属の効率的除去の観点から、磁力選別により分離された非金属を渦電流選別することが好ましい。
磁力選別には磁力選別機を使用することが可能であり、また渦電流選別には渦電流選別機を使用することができる。磁力選別機及び渦電流選別機の具体的構成は、予備処理工程において説明したとおりである。
【0032】
処理時間は特に限定されず、製造スケール等により適宜設定可能であるが、長すぎると有価金属のミル精粉側への散逸量が増加し、また短すぎると運転切り替えの頻度が増え操作が煩雑になるとともに、粉砕量が低下することから、1~20日が好ましく、1~15日がより好ましく、1~10日が更に好ましく、2~5日がより更に好ましい。
【0033】
<磁力選別工程>
本工程は、工程Bで所定時間後に排出されたミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する工程である。これにより、有価金属が濃縮された非磁着物を回収することができる。
磁力選別には、工業用の磁力選別機を使用することが可能である。磁力選別機の具体例は、予備処理工程において説明したとおりであり、特に限定されない。
磁力選別では、例えば、内側に永久磁石が配置されたドラム上に重産物を供給し、ミル排石に含まれる磁着物がドラム表面に吸着され、ドラムの回転により運ばれ、磁着物排出口から排出される。他方、ミル排石に含まれる非磁着物は、ドラムの回転によりドラム表面より離反、落下し、非磁着物排出口から排出される。
【0034】
磁力選別機の表面磁束密度は、非磁着物と磁着物との分離促進の観点から、500~10000ガウスが好ましく、1000~5000ガウスが更に好ましい。
【0035】
<篩選別工程>
本工程は、非磁着物を篩選別して篩上と篩下とに分離する工程である。これにより、篩下として金属が少ない選別物が回収されるため、後述する第2の粉砕工程においてローラーミル内部の摩耗、破損、振動等による負荷低減することができる。
篩選別には、篩選別機を使用することができる。篩選別機は特に限定されず、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、振動式、面内運動式、回転式及び固定式のいずれでもよい。
篩目は、ローラーミル内部の負荷低減の観点から、45mm以下が好ましく、40mm以下がより好ましく、35mm以下が更に好ましく、そして5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましく、15mm以上が更に好ましい。
【0036】
<第2の粉砕工程>
本工程は、篩選別工程で分離された篩下をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程である。
本発明者らは、第2の粉砕工程におけるローラーミルのミル回転数が粉砕程度に影響し、またローラーミルに導入する風量が粉砕物の選別に影響するとの知見を得た。即ち、篩下を粉砕する際に、ローラーミルのミル回転数が高すぎると、有価金属が微粉となりミル精粉側に移行しミル排石に有価金属を濃縮し難くなり、他方回転数が低すぎると、粉砕が進まず石灰石等がミル排石に混入しやすくなる。また、ローラーミルに導入する風量が少なすぎると、粉砕された石灰石等がミル排石に混入しやすくなり、他方風量が多すぎると、比重の重い有価金属がミル精粉に混入しやすくなる。これらの知見に基づき、本発明者らは、篩下をローラーミルで粉砕する際に、適切なミル回転数及び風量に制御することが、有価金属含有廃棄物から有価金属を効率よく回収するうえで重要であることを見出した。
【0037】
本工程は、上記において説明した工程Aと同様の操作により行うことができるが、例えば、分級機が配設された竪型ローラーミルを用いる場合、分級機の空気の流入口に配設された固定羽根(固定ベーン)の角度を調整して、流入口から分級機に空気が流入する領域(空気が通過し得る領域)の断面積を調整することによって、風量を制御することができる。
【0038】
ローラーミルに導入する風量は、ミル排石へのセメント原料中間体の混入抑制、ミル精粉への有価金属混入抑制の観点から、50m3/h以上が好ましく、60m3/h以上がより好ましく、70m3/h以上が更に好ましく、そして100m3/h以下が好ましく、90m3/h以下がより好ましく、80m3/h以下が更に好ましい。
ローラーミルのミル回転数は、ミル排石へのセメント原料中間体の混入抑制、ミル精粉への有価金属混入抑制の観点から、150rpm以上が好ましく、175rpm以上がより好ましく、185rpm以上が更に好ましく、そして200rpm以下が好ましく、195rpm以下がより好ましく、190rpm以下が更に好ましい。
【0039】
粉砕時間は廃棄物の種類や製造スケール等により適宜設定可能であるが、有価金属の回収効率の観点から、通常1~10t/hであり、好ましくは2~5t/hである。
【0040】
<回収工程>
本工程は、第2の粉砕工程で排出されたミル排石を回収する工程である。これにより、有価金属、とりわけ金、銅等の貴金属の濃縮物を回収することができる。また、気流に乗って排出されたミル精粉は、金属の混入が抑えられた高品位のセメント原料中間体として有効活用することができる。
【0041】
このようにして、有価金属含有廃棄物中から有価金属を効率よく回収することができる。また、ミル精粉は金属の混入が抑えられているため、本発明はセメント原料中間体の回収方法としても有用である。
【実施例0042】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
1.実施例で使用した原料
(1)有価金属含有廃棄物:都市ごみ焼却主灰
(2)セメント原料 :粘土類、珪石、石灰石及び鉱さい
【0044】
2.分析方法
(1)かさ密度の分析
5Lの容器に充填される試料量を測定し、1m3当たりの質量(t)を算出した。
【0045】
(2)金の分析
マット融解による前処理を行った試料を100μm以下に粉砕し、JIS M 8111に準拠して分析を行った。
【0046】
実施例1
<予備処理工程>
焼却主灰と粘土類とを混合し、乾燥機にて水分含有量4質量%以下まで乾燥して乾燥物を得た。
【0047】
<第1の粉砕工程>
(工程A)
乾燥質量割合で、14質量%の乾燥物と、5質量%の珪石、2質量%の石灰石及び79質量%の鉱さいを原料供給部の搬送上で合流させて混合物を調製した。混合物中の焼却主灰の割合は、乾燥質量で4質量%であった。次いで、混合物を竪型ローラーミルに投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉をセパレータに通過させてサイクロンで回収し、堅型ローラーミルの下部からミル排石を回収した。なお、ミル精粉は、セメント原料中間体として使用される。
【0048】
(工程B)
工程Aで回収したミル排石と、工程Aで調製した混合物とを竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料中間体として回収し、堅型ローラーミルの下部からミル排石を回収した。次いで、回収したミル排石を吊下げ型磁力選別機(有効磁束密度300G)にて磁着物と非磁着物とに分離し、磁性金属の一部を磁着物として回収した。以降、回収した非磁着物を、工程Aで調製した混合物とともに竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料中間体として回収し、堅型ローラーミルの下部からミル排石を回収した後、ミル排石を吊下げ型磁力選別機(有効磁束密度300G)にて磁着物と非磁着物とに分離する処理を3日間繰り返し行った。なお、ミル排石の使用量は、いずれも混合物100質量部に対して99質量部であった。
【0049】
<磁力選別工程>
工程Bで3日後に回収したミル排石を、表面磁束密度が1000ガウスの磁力選別機により磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離した。
【0050】
<篩選別工程>
磁力選別工程において回収した非磁着物を、目開き20mmの篩にて篩上と篩下とに分離した。
【0051】
<第2の粉砕工程>
篩選別工程において回収した篩下を、竪型ローラーミル(RM22G、コトブキ社)を用いて粉砕し、ミル排石を回収した。なお、粉砕は、ローラーミル内の回転数を190rpm、内部風量を75m3/minに設定して行った。また、ミル精粉はセパレーター(LS-22G、コトブキ社)にて回収した。
【0052】
実施例2
第2の粉砕工程において、内部風量を70m3/minに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりミル排石とミル精粉を回収した。
【0053】
実施例3
第2の粉砕工程において、内部風量を65m3/minに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりミル排石とミル精粉を回収した。
【0054】
実施例4
第2の粉砕工程において、内部風量を60m3/minに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりミル排石とミル精粉を回収した。
【0055】
実施例1~4で採用した製造条件と、第2の粉砕工程により回収されたミル排石とミル精粉の分析結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例5
第2の粉砕工程において、ローラーミル内の回転数を180rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりミル排石を回収した。
【0058】
実施例6
第2の粉砕工程において、ローラーミル内の回転数を170rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりミル排石を回収した。
【0059】
実施例7
第2の粉砕工程において、ローラーミル内の回転数を160rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりミル排石を回収した。
【0060】
実施例5~7で採用した製造条件と、第2の粉砕工程により回収されたミル排石とミル精粉の分析結果を、実施例1の結果とともに表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表1、2から、ミル内の風量の増加に伴い、ミル排石のかさ密度が増加することがわかる。中でも、ミル回転数190rpm、風量75m3/minの条件で第2の粉砕工程を行うと、ミル排石のかさ密度が最も高いことから、金属の濃縮が最も高いことがわかる。
【0063】
比較例1
工程Bで3日後に回収したミル排石を、磁力選別工程及び篩選別工程に供した後、第2の粉砕工程に供しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作により、篩選別工程において篩下を回収した。
【0064】
実施例1~7の第2の粉砕工程で回収されたミル排石、比較例1で回収された篩下について、金回収量の分析を行った。その結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3から、実施例で得られたミル排石は、比較例で得られた篩下に対して約2倍程度の金が濃縮されていることがわかる。
図1