IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エンジニアリングシステム株式会社の特許一覧

特開2024-129569吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム
<>
  • 特開-吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム 図1
  • 特開-吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム 図2
  • 特開-吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム 図3
  • 特開-吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム 図4
  • 特開-吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム 図5
  • 特開-吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129569
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
A61N5/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038873
(22)【出願日】2023-03-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】591189812
【氏名又は名称】エンジニアリングシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】左治木 修
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AL03
4C082AP11
(57)【要約】
【課題】医療機関における実際の運用に沿った吸引式患者固定具のリークを検出するシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】圧力センサーと表示装置を備え、吸引式患者固定具内部の圧力を継続して測定可能な吸引式患者固定具リークモニタリングシステムを構築した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力センサーと表示装置を備え、
吸引式患者固定具内部の圧力を継続して測定することを特徴とする吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
【請求項2】
制御部を備えていることを特徴とする請求項1記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
【請求項3】
少なくとも1つの圧力センサーと、圧力センサーと同数のセンサー接続部、及び表示部を備えていることを特徴とする請求項2記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
【請求項4】
セットアップ時から継続して圧力を測定し、
所定時間内のリファレンスとの差が所定の値よりも大きい場合には吸引式患者固定具の変形が生じるリスクがあると予測する請求項2又は3記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
【請求項5】
樹脂製であることを特徴とする請求項1記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
【請求項6】
固定具収納棚と一体となっている請求項2又は3記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
【請求項7】
電磁バルブに接続された吸引ポンプを備え、
圧力センサーで測定された圧力値は制御部に送信され、
圧力値が所定の値を超えた場合には制御部に接続された電磁バルブの流路が開放され、
吸引ポンプによって固定具内の圧力値が所定値以下になるまで吸引されることを特徴とする請求項4記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
CT、MRIなどの画像診断や放射線治療などの医療行為の際に、被験者あるいは患者の体位保持及び再現を目的とした吸引式患者固定具における空気のリークをモニターする機器及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像診断を行う際には、明瞭な画像を取得するために、被験者の体位を固定し保持する必要がある。また、放射線治療を行う際には、施術中に患者が適切な体位を保持するように、患者の特定の部位を位置決め固定し、治療期間中再現する必要がある。長期にわたる放射線治療の間、患者の体位を位置決めしたように毎回再現することは治療効果を得るうえでも、有害事象の減少のうえでも重要である。
【0003】
放射線治療は、腫瘍の形に合わせてリニアックの照射野の形をコンピュータ制御によって変化させ、腫瘍に放射線を集中して照射する強度変調放射線治療(Intensity modulated radiation therapy:IMRT)や回転型強度変調放射線治療(volumetric modulated arc therapy:VMAT)を行う施設が増加している。IMRTやVMATは、計画標的体積(planning target volume)や危険臓器(organ at risk:OAR)の形状に合わせた急峻な線量分布を形成可能な照射技術であり、それら照射技術の使用によってOARの線量低減や有害事象の減少が報告されている。
【0004】
放射線治療は、がんの部位、正常組織の部位を考慮して、線量分布を計算し治療計画を立てて行われる。通常、週5日間、何週かにわたって治療を行うことになるが、毎回の照射の際に、正確に照射部位に放射線を照射する必要がある。特に、IMRTやVMATで形成される線量分布は線量勾配が急峻であるため、照射野が少しでもずれると腫瘍に放射線が照射されず、周囲の正常部位に放射線が照射されることになる。そのため、IMRTやVMATでは、適切な位置に照射を行うことがより重要になってくる。
【0005】
定位置に放射線を照射するために、患者に一定の体位を再現してもらい放射線照射の準備をすることを患者セットアップ、あるいは単にセットアップという。小さなセットアップエラーが大きな線量変化をもたらすことがあるため、治療期間中、照射時の体位が常に同じになるように再現する必要がある。数週間にわたる治療期間中、照射時の体位を一定にするために、吸引式患者固定具が多くの施設で利用されている。
【0006】
従来より種々のタイプの固定具が用いられているが、例えば、ガスバリア性を有する樹脂フィルムを袋状に加工し、その内部に発砲樹脂ビーズを封入した吸引式患者固定具がある(特許文献1)。この固定具は、ポンプ等に接続可能なコネクタバルブを有し、その流路を通じて袋内部の空気を吸引することで、患者の体位に合わせた任意の形状に形成することができるとともに、数週間にわたる治療期間であってもその形状を維持することができる。
【0007】
吸引式患者固定具に微小な穿孔がある場合、吸引によって一時は形状が保たれるが、徐々に空気が流入し、陰圧が低下することにより軟化し形状の変化が生じる場合がある。非特許文献1には、前立腺癌に対する放射線治療において、水硬化性ポリウレタン樹脂製の患者固定具と吸引式患者固定具のinter-fractional setup errorを比較している。治療回数20回目以降では固定具の違いによって2.5mmのセットアップエラーが発生し、このセットアップエラーは吸引式患者固定具のリークが原因であると結論付けている。吸引式患者固定具のリークによるセットアップエラーを検出するために、吸引式患者固定具リーク検出器が開発されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-080155号公報
【特許文献2】特開2022-092179号公報
【非特許文献1】Inui S., et al.,2018, J. Med. Phys. Vol. 43(4), pp.230-235.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2のリーク検出器は、吸引式患者固定具を使用する際に、医師や放射線技師などの医療者である使用者が、都度リーク確認作業を行うことが前提とされている。しかし、使用者が治療開始直前にリーク確認作業により、リークを検出した場合には、吸引式患者固定具を再度患者に合わせてセットアップしたり、照射部位のシミュレーションを再度行う必要が生じる。そのため、予定した時間に治療を開始することができないといったトラブルが生じていた。医療機関における実際の運用に照らし合わせれば、トラブル防止及びトラブル発生後の善後策のため、常に圧力値を監視することが望ましい。具体的には、リークが発生したタイミング、あるいは患者の体位を保持する上で必要な圧力閾値を下回ったタイミングで使用者が認識できることが望ましく、さらに、必要な圧力閾値を下回るタイミングを予測できることがより望ましい。しかしながら、現在までそのような装置やシステムは存在していない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の吸引式患者固定具の圧力値を監視するシステムに関する。
(1)圧力センサーと表示装置を備え、吸引式患者固定具内部の圧力を継続して測定することを特徴とする吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
本システムは、継続して吸引式患者固定具の内部の圧力を測定するシステムである。医療従事者は、表示装置に表示された圧力値を確認することにより吸引式患者固定具が患者の体位を維持するうえで必要な圧力を下回った場合には、即座にこれを検知することができる。
【0011】
(2)制御部を備えていることを特徴とする(1)記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
圧力センサーによって得られた圧力値は、電気信号として制御部に伝送される。制御部は記録媒体を備え、内部圧力の変化を記録することができる。また、圧が適切に維持されているかを判定し、判定結果が表示部に反映されるように信号を送信する。
【0012】
(3)少なくとも1つの圧力センサーと、圧力センサーと同数のセンサー接続部、及び表示部を備えていることを特徴とする(2)記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
医療機関では、放射線治療期間中患者毎に成型された固定具を保存している。複数の固定具を接続可能とすることにより、複数の患者の治療を行っている場合にも、1つのシステムで対応することが可能となる。また、医療機関によっては、放射線治療等を行う場所が離れて存在するために集約して管理することが困難な場合がある。そのような場合には、単一の吸引式患者固定具の圧力を測定するシステムである方が対応しやすい場合がある。また、単一の吸引式固定具の圧力を測定するシステムでは、バッテリーを使用することも可能であり、コンパクトな設計とすることができ、容易に持ち運ぶことができる。本システムは、各医療機関に合った種々の態様で提供することができる。
【0013】
(4)セットアップ時から継続して圧力を測定し、所定時間内のリファレンスとの差が所定の値よりも大きい場合には吸引式患者固定具の変形が生じるリスクがあると予測する(2)、又は(3)記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
本システムは、患者体位をセットアップした時点から、継続して圧力測定を行うシステムである。圧力の経時変化を測定し、所定時間内のリファレンスとの差が一定以上であった場合には、患者の体位保持に必要な圧力閾値を下回るリスクがあることを予測することができるため、早期にリスクを検知し、医療従事者に知らせることが可能となる。
【0014】
(5)樹脂製であることを特徴とする(1)記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
樹脂製であることから、金属の持ち込みが禁忌であるMRI室においても、リークモニタリングシステムを付けた状態で固定具を使用することができる。治療、診断の際に、取り外す必要がなく、常時モニタリングを行いながら固定具を使用することができる。
【0015】
(6)固定具収納棚と一体となっている(2)又は(3)記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
医療機関では、治療期間中、患者の固定具は圧を維持したまま保管する必要がある。収納棚と一体型のモニタリングシステムは、複数の患者の固定具をモニタリングしながら収納することが可能であり、医療機関のニーズに沿ったものである。
【0016】
(7)電磁バルブに接続された吸引ポンプを備え、圧力センサーで測定された圧力値は制御部に送信され、圧力値が所定の値を超えた場合には制御部に接続された電磁バルブの流路が開放され、吸引ポンプによって固定具内の圧力値が所定値以下になるまで吸引されることを特徴とする(4)記載の吸引式患者固定具リークモニタリングシステム。
従来は、治療期間中に吸引式固定具が軟化した場合には、再度セットアップを行う必要があった。自動補正機能付きの吸引式患者固定具は、固定具の形状が維持されているうちに、吸引ポンプにより吸引を行うので、常にセットアップ時の形態を維持できる。したがって、治療効果を向上し、有害事象の減少につながる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態1の吸引式患者固定具用モニタリングシステム、及び使用態様を示す図。
図2】実施形態2の吸引式患者固定具用モニタリングシステム、及び使用態様を示す図。
図3】実施形態3の吸引式患者固定具用モニタリングシステム、及び使用態様を示す図。
図4】実施形態4の吸引式患者固定具用モニタリングシステムを示す図。(A)は吸引式患者固定具用モニタリングシステムの正面図(左)及び斜視図(右)を、(B)は使用時の態様を、(C)は使用時の断面図を示す。
図5】(A)実施形態5の吸引式患者固定具用モニタリングシステム、及び使用態様を示す図。(B)制御ボックス内の構造及び吸引式患者固定具との接続を模式的に示す図。
図6】吸引式患者固定具の圧力変化、及びリーク予測について模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を示しながら、実施形態を説明するが、各構成要素は実施形態に限定されるものではなく、同様の機能を果たすものであれば、相互互換的に適用できることは言うまでもない。また、以下の図面では同一の機能を有する構成には同一の符号を付す。また、患者、あるいは被験者を対象と称することもある。
【0019】
[実施形態1]複数の吸引式患者固定具をモニターできるシステム
吸引式患者固定具A(以下、吸引式患者固定具を単に固定具と言うこともある。)には、ポンプにより対象の形状に合わせて空気を吸引する固定具側コネクタa’が備えられている。実施形態1の吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム1(以下、リークモニタリングシステムと言うこともある。)は、固定具側コネクタa’に接続可能なコネクタaに直接接続された圧力センサー2、及び表示部が制御部と一体になった表示/制御装置3を備えている(図1)。
【0020】
対象の形状に合わせて空気が吸引された吸引式患者固定具Aは、吸引時にポンプに繋げる固定具側コネクタa’とリークモニタリングシステム側コネクタaを介して圧力センサー2に繋げることができる。圧力センサー2に繋げることによって、コネクタの流路が開放され、吸引式患者固定具Aの内部圧力が圧力センサー2によって測定可能となる。表示/制御装置3は、筐体内部に制御部基板が設けられるとともに、表面に吸引式患者固定具の圧力状況を示す表示部が備えられている。圧力センサー2は附属するケーブルによって制御/表示装置3のセンサー接続部11に接続され、モニター開始スイッチ12を押すことによって圧力測定が開始される。圧力センサーによって得られた吸引式患者固定具の内部圧力は電気信号として制御部に伝送され、記録される。表示部13は点灯するLEDの色によって、圧が適切に維持されているか否かを使用者に伝えるように構成されている。例えば、後述するように、圧力が設定された閾値を上回った場合、すなわちリークが生じている場合には赤、閾値よりも低く、吸引式患者固定具が患者の体位を保持し得る場合には、緑色のランプが点灯するようにしておけば、使用者は表示部13を見ることによって、即座に固定具が使用可能かの判断を行うことができる。
【0021】
ここでは、表示部と制御部が一体となった表示/制御装置3を示しているが、制御部と表示部は分離した構成としてもよい。表示部は、点灯するLEDの色の違いにより警告を発するだけではなく、点滅する等、使用者の注意を引き付ける表示方法を取ることができる。さらに、圧を数値で表示窓に表示したり、閾値を上回る場合には、表示窓のバックライトが点滅する等、種々の表示方法、注意喚起方法を取ることができる。また、光による警告の他、ブザー等の警告音によって、使用者に注意喚起することもできる。ここでは、圧力センサーを最大3チャンネル接続可能な表示/制御装置3を例示しているが、より多くのセンサー接続部を備えた構成としてもよい。また、圧力センサーを有線で表示/制御装置に接続する方式を例示しているが、Wi-Fi、Bluetoothといった無線通信手段を用いることもできる。
【0022】
放射線治療等に使用する場合には、コネクタaを吸引式固定具から外すことにより、固定具側コネクタa’のロック機構が作用し、外部との流通が遮断され内部の真空が維持される。固定具は治療終了後に再度コネクタを介してモニタリングシステムに繋げ、センサー接続部に接続することによって、継続して制御装置により制御される。
【0023】
[実施形態2]圧力センサー、及び表示/制御装置が一体型のシステム
コネクタa、圧力センサー、表示/制御装置が一体となった吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム1を示す(図2)。実施形態2のリークモニタリングシステム1は、筐体14の内部に、圧力センサー、制御部基板、駆動用のバッテリーを備えた構成となっている。モニタリングシステム側コネクタaと、固定具側コネクタa’が接続され、コネクタの流路が開放され、吸引式患者固定具Aの内部圧力が筐体14内部の圧力センサーによって測定可能となる(図2下、使用形態参照)。
【0024】
固定具Aの筐体14上部には、モニター開始スイッチ12と表示部13が設けられている。モニター開始スイッチを押すことによって、圧力センサーが駆動され、モニタリングが開始される。表示部はここでは実施形態1と同様に点灯するLEDライトの色が変わることでリークを知らせる構成としているが、光の点滅、あるいは、表示窓を設けて圧力センサーで測定された値をそのまま表示してもよい。併せて警告音を出してリークが検出されたことを使用者に知らせる構成とすることもできる。
【0025】
一体型の吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム1は、画像診断や放射線治療を行う場所が医療機関内で離れているために、固定具を保管・収納するスペースが離れており集約して管理することが難しい場合にも固定具を個別に管理することができるため非常に便利である。
【0026】
[実施形態3]固定具収納棚と一体型のシステム
吸引式患者固定具Aを収納する固定具収納棚15と一体型となった吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム1を示す(図3)。本実施形態では、表示装置、制御装置が別体として構成されている。表示装置4は収納棚の棚板の下部に配置されている。表示装置には、実施形態1、2と同様の機能を果たすモニター開始スイッチ12や表示部13が設けられている。制御装置はここでは図示していないが、収納棚の棚板の下部に設けても、背板部に設けてもよい。あるいは、固定具収納棚とは独立して設け、無線によって接続し制御を行ってもよい。
【0027】
リークモニタリングシステム1の圧力センサー2はケーブルによって、収納棚の支柱16に接続されている。固定具のコネクタと、圧力センサー側のコネクタを接続することによって、固定具内部の圧力を測定することができる。圧力センサーで測定された圧力値は、制御装置に伝送され、圧力が適切に維持されているか判定される。
【0028】
患者の放射線治療期間中は、固定具の圧を解除せずに保管する必要があるため、固定具収納棚と一体型となっている実施形態3のリークモニタリングシステム1は、収納とリークチェックが同時に行えるという点で非常に便利である。
【0029】
[実施形態4]樹脂製のシステム
実施形態4のモニタリングシステム1は、構成部品には金属を使用せず、全て樹脂製のものを使用している。また、バネ17によって圧力を測定し、電気を使用せずにモニターできるように構成されている(図4(A))。モニタリングシステム1は、固定具Aのコネクタに、モニタリングシステム側のコネクタaを接続して使用する(図4(B))。モニタリングシステム1のコネクタaに連接されているシリンダー状の筐体14の内壁は、Oリング18が填め込まれたピストン19と気密に接触している。ピストン19の固定具側にはバネ17が設けられているので、固定具内の圧力とバネの力の均衡状態によって、ピストン位置が上下する(図4(C))。筐体14は、中のピストン位置が見えるように透明になっており、ピストンの位置が固定具内の圧力値に対応するように設定された圧力値表記がある。筐体に表示されている圧力値を読むことによって、固定具内の圧力状態を確認することができる(図4(A))。
【0030】
具体的には、固定具内の圧力が低ければ低いほど、ピストンは固定具の方に引っ張られる(図4(C)、陰圧が強い状態)。一方、固定具内の圧力が大気圧に近くなれば、ピストンはバネの力によって押し上げられる(図4(C)、陰圧が弱い状態)。固定具にリークがあれば、バネは押し上げられる。使用者は圧力値を確認することによって、固定具の圧が適切に維持されているかを判断することができる。
【0031】
実施形態4の構成では、電気を用いず、全ての部品を樹脂製とすることができるため、診断、治療時の放射線の透過を阻害せず、かつ、金属の持ち込みが禁忌であるMRI室においても使用することができる。
【0032】
[実施形態5]圧力を自動補正可能なシステム
実施形態5のモニタリングシステム1は、圧力を自動で補正可能なシステムである。固定具Aのコネクタに接続された空気流路20は、制御ボックス21まで接続されている(図5(A))。制御ボックス21内には、圧力センサー及び制御部が内蔵されているだけではなく、吸引ポンプと流路を開閉する電磁バルブが備えられている(図5(B))。圧力センサーによって測定された圧力値は、制御部に送信され所定の圧力値に真空が低下した場合にポンプが作動され、圧力値が維持できるように自動で補正を行うことができるようにプログラムされている。
【0033】
本実施形態のモニタリングシステムは、固定具をモニタリングしている間、常に圧力を一定以下に維持することができる。リークが非常に緩やかに生じる場合には、治療に用いるわずかな時間であれば、制御ボックスに接続されていなくても、十分固定具の形状を維持することができる。すなわち、放射線治療時には、モニタリングシステムから外して使用し、治療が終了したら次の治療時までモニタリングシステムに接続して収納しておけば、固定具の形状はセットアップ時と同じ形状に維持することができる。
【0034】
次に、吸引式患者固定具用リークモニタリングシステムの通知機能について説明する。吸引式患者固定具がその形状を維持し、問題なく使用できる範囲は、-100kPa~-20kPaである。圧力センサーの測定値が-20kPa以下である場合には、表示部のLEDは緑色が点灯するようにプログラムされている。-20kPaより高く、-15kPa以下の圧力値の場合には、固定具に小さな変形が生じるおそれがある圧力範囲と考えられるから、黄色のLEDが点灯するようにプログラムされている。さらにリークが進み、-15kPaより高い圧力値となった場合には、大きな変形を生じるおそれがあることから、赤いLEDが点灯するとともに、ブザーが鳴動するようにプログラムされている。
【0035】
使用者はLEDの色が緑色であれば、固定具の形状が維持されており、治療に支障がないことを確認することができる。また、黄色のLEDが点灯している場合には、治療前に再度セットアップを行うなど、次の治療に支障がないように対応することができる。さらに、固定具が大きな変形を生じているおそれがある場合には、LEDの点滅と、ブザーの鳴動の両方による通知機能によって、使用者の注意を喚起することができる。
【0036】
次に、リークモニタリングシステムの予測機能について説明する。図6は吸引式患者固定具の圧力値の経時変化を模式的に示したグラフである。一定時間経過後は、ほとんど変化が生じないリークがない「正常」の固定具に対し、陰圧が急速に解除される「リークB」、緩やかに解除される「リークA」といった3つのパターンを模式的に示している。図6上図の点線で囲んだ短い時間の部分を拡大して図6下図に示している。
【0037】
リークBのように、急激に陰圧が解除される場合には、使用者は固定具の異常にすぐに気がつくことができるため、当該異常が検知された固定具の使用を取りやめ、再度セットアップを行うことにより、大きなトラブルとなることは少ない。一方、「リークA」のように、緩やかに陰圧が解除されていく場合には、使用者が異常に気づきにくく、放射線の照射位置がずれるなどの問題が生じる場合がある。
【0038】
固定具は、吸引後30分~3時間程度といった比較的短時間のうちに圧力変化勾配に差が生じると言われていることから(特許文献2)、以下のようにしてリークを予測することが可能となる。リーク予測のパラメータとして、単位時間あたりの圧力値の変化(グラフの傾き)を用い、これが正常な固定具に比べて3%以上差がある場合には、リークありと認定すればよい。具体的には、正常な固定具をリファレンス(ref)とし、その圧力値y=f(x)refと、測定対象の固定具(obj)の圧力値y=f(x)objから、それぞれ傾きを求め、それぞれの傾きであるf(x)refdy/dx[Pa/s]、f(x)objdy/dx[Pa/s]の値を比較すれば良い。対象として測定した固定具が、リファレンスに比べて3%以上急峻な傾きを示すようであれば、固定具にリークがあると判断することができ、当該固定具に代えて別の固定具で再度セットアップを行い、治療に使用すれば、安心して使用を継続することができる。リファレンスは固定具購入時等、リークが生じていない固定具を用いて吸引を行い、リファレンスとして制御部に経時変化を記憶させておけばよい。また、3%の差は、固定具による差などの誤差を考慮した数値であるが、使用している固定具に関し、経時的な変化に関する情報の蓄積等によりさらに精度を上げ、リーク検出に適切な閾値を設定することができる。
【0039】
以上、本実施形態の吸引式患者固定具リークモニタリングシステムを用いれば、使用期間中にリークが生じたとしても、治療開始前にリークを検知することが可能であるため、治療の効果に影響を及ぼすような大きなトラブルを避けることができる。また、リーク予測を行うことも可能となることから、早期にリークを予測することができる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・吸引式患者固定具用リークモニタリングシステム、2・・・圧力センサー、3・・・表示/制御装置、4・・・表示装置、11・・・センサー接続部、12・・・モニター開始スイッチ、13・・・表示部、14・・・筐体、15・・・固定具収納棚、16・・・支柱、17・・・バネ、18・・・Oリング、19・・・ピストン、20・・・空気流路、21・・・制御ボックス、A・・・吸引式患者固定具、a、a’・・・コネクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6