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  • 特開-導電膜及び光電変換素子 図1
  • 特開-導電膜及び光電変換素子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129591
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】導電膜及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240919BHJP
   H10K 30/40 20230101ALN20240919BHJP
   H10K 30/81 20230101ALN20240919BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/81
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038906
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】大橋 直倫
(72)【発明者】
【氏名】小笹 稔
(72)【発明者】
【氏名】大川 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】坂口 茂樹
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA20
5F251BA11
5F251CB13
5F251CB27
5F251FA04
5F251FA07
5F251FA10
5F251FA13
5F251FA18
5F251FA21
5F251GA03
(57)【要約】
【課題】光電変換素子における導電膜として、真空蒸着に比べ、常圧下で短時間に正孔輸送層の上に形成できると共に、導電ペーストを用いた場合にも正孔輸送層への導電ペーストの溶剤による影響を抑制できる導電膜を提供する。
【解決手段】光電変換素子における導電膜は、光電変換素子の正孔輸送層の上に形成する、第1層及び第2層の2層で構成される導電膜であって、第1層は、正孔輸送層に接して設けられ、第1層は、高分子材料と、添加物として、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を含み、第2層は、導電性フィラーと、高分子材料とを含み、添加物は、高分子材料100重量部に対し、80~1400重量部含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子の正孔輸送層の上に形成する、第1層及び第2層の2層で構成される導電膜であって、
前記第1層は、前記正孔輸送層に接して設けられ、前記第1層は、高分子材料と、添加物として、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩とを含み、
前記第2層は、前記第1層の上に設けられ、前記第2層は、導電性フィラーと、高分子材料とを含み、
前記添加物は、前記高分子材料100重量部に対し、80~1400重量部含む、
導電膜。
【請求項2】
前記第1層に含まれる添加物は、正孔輸送層に含まれるドーパントである、請求項1に記載の導電膜。
【請求項3】
前記導電性フィラーは、カーボン系材料である、請求項1又は2に記載の導電膜。
【請求項4】
前記導電性フィラーは、カーボンナノチューブである。請求項3に記載の導電膜。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の導電膜を用いて形成した、光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電膜、該導電膜を備える電極、並びに該電極を備える光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として使用することができる、光エネルギーを電力に変換する光電変換素子が知られている(例えば、特許文献1参照。)。例えば、化学式ABX(Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、Xはハロゲンアニオン)により示されるペロブスカイト型結晶、および、その類似の構造体を光電変換材料として用いた、ペロブスカイト太陽電池の研究開発が進められている(例えば、特許文献2参照。)。太陽電池には、電流を流す為の導電膜が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6339037号公報
【特許文献2】WO2022/176335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のペロブスカイト太陽電池は、受光面側から順に、基板、第1電極、光電変換層、中間層、正孔輸送層、第2電極の順で備える。ペロブスカイト太陽電池の特徴として、有機系材料を含む光電変換層や中間層を塗布方法で形成できる点がある。特許文献2の実施例において、第2電極は、金属の真空蒸着によって導電膜を形成している。真空蒸着による導電膜形成は、低抵抗で薄い導電膜が形成可能であるが、例えば1m角のような大面積に形成する場合においては、長い時間を要する為、生産性の向上という点で改善の余地がある。
【0005】
一方、導電性ペーストを用いることで、金属の真空蒸着のような真空装置を必要とせず、かつ、真空蒸着に比べ短時間で導電膜が形成可能であるが、導電性ペーストに含まれる溶剤が、有機系材料を含む光電変換層や正孔輸送層を溶解し、光電変換性能が悪化する場合がある。
【0006】
そこで、本開示は、光電変換素子における導電膜として、真空蒸着に比べ、常圧下で短時間に正孔輸送層の上に形成できると共に、導電ペーストを用いた場合にも正孔輸送層への導電ペーストの溶剤による影響を抑制できる導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示に係る導電膜は、光電変換素子の正孔輸送層の上に形成する、第1層及び第2層の2層で構成される導電膜であって、第1層は、正孔輸送層に接して設けられ、第1層は、高分子材料と、添加物として、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩とを含み、第2層は、第1層の上に設けられ、第2層は、導電性フィラーと、高分子材料とを含み、添加物は、前記高分子材料100重量部に対し、80~1400重量部含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る導電膜によれば、常圧下で、短時間で光電変換素子に導電膜を成膜でき、かつ、導電性ペーストを用いた場合でも光電変換性能を損なわない光電変換素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る光電変換素子の断面構造を示す模式断面図である。
図2】実施例1~4及び比較例1~2の第2電極の第1層の構成を示す表1である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様に係る導電膜は、光電変換素子の正孔輸送層の上に形成する、第1層及び第2層の2層で構成される導電膜であって、第1層は、正孔輸送層に接して設けられ、第1層は、高分子材料と、添加物として、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩とを含み、第2層は、第1層の上に設けられ、第2層は、導電性フィラーと、高分子材料とを含み、添加物は、高分子材料100重量部に対し、80~1400重量部含む。
【0011】
第2の態様に係る導電膜は、上記第1の態様において、第1層に含まれる添加物は、正孔輸送層に含まれるドーパントであってもよい。
【0012】
第3の態様に係る導電膜は、上記第1又は第2の態様において、導電性フィラーは、カーボン系材料であってもよい。
【0013】
第4の態様に係る導電膜は、上記第3の態様において、導電性フィラーは、カーボンナノチューブであってもよい。
【0014】
第5の態様に係る光電変換素子は、上記第1から第4のいずれかの態様に係る導電膜を用いて形成している。
【0015】
以下、本実施の形態に係る導電膜及び光電変換素子の一実施の形態について説明する。
【0016】
(実施の形態1)
<光電変換素子>
図1は、実施の形態1に係る光電変換素子の断面構造を示す模式断面図である。
本実施の形態1に係る光電変換素子100は、受光面側から順に、基板3、第1電極4、電子輸送層5、多孔質層6、光電変換層7、正孔輸送層8、第2電極2の順で備える。ここで、第2電極2が本開示に係る導電膜に該当する。この導電膜である第2電極2は、第1層9及び第2層10の2層で構成される。第1層9は、正孔輸送層8に接して設けられ、第1層9は、高分子材料と、添加物として、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩とを含む。第2層10は、第1層9の上に設けられ、第2層10は、導電性フィラーと、高分子材料とを含み、添加物は、高分子材料100重量部に対し、80~1400重量部含む。
上記導電膜である第2電極2の第1層9が、添加物としてアンモニウム塩又はアルカリ金属塩を高分子材料100重量部に対し、80~1400重量部含むので、導電膜の形成時に溶剤によって生じる正孔輸送層8のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩の溶解を抑制する、又は、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を補うことができるものと考えられる。そこで、この導電膜を正孔輸送層8の上に設ける第2電極2として光電変換素子100に用いた場合にも光電変換性能を損なわない。
【0017】
以下、この光電変換素子100の各構成要素について、具体的に説明する。
【0018】
<基板>
基板3は、光電変換素子100において必須の構成要素ではなく、付随的な構成要素である。基板3は、光電変換素子の各層を保持する役割を果たす。基板3は、受光面として用いる場合には、透明な材料から形成することができる。基板3としては、例えば、ガラス基板またはプラスチック基板を用いることができる。プラスチック基板は、例えば、プラスチックフィルムであってもよい。また、第2電極2が透光性を有している場合には、基板側ではなく、第2電極2の側を受光面としてもよい。この場合には、基板3の材料は、透光性を有さない材料であってもよい。例えば、基板3の材料として、金属、セラミックス、または透光性の小さい樹脂材料を用いることができる。また、第1電極4が十分な強度を有している場合、第1電極4によって各層を保持することができるので、基板3は必須ではなく、基板3を設けなくてもよい。
【0019】
<第1電極>
第1電極4は、導電性を有するものであればよい。なお、光電変換素子が電子輸送層5を備えない場合、第1電極4は、光電変換層7とオーミック接触を形成しない材料から構成される。さらに、第1電極4は、光電変換層7からの正孔に対するブロック性を有する。光電変換層7からの正孔に対するブロック性とは、光電変換層7で発生した電子のみを通過させ、正孔を通過させない性質のことである。このような性質を有する材料とは、光電変換層7の価電子帯上端のエネルギーよりも、フェルミエネルギーが高い材料である。上記の材料は、光電変換層7のフェルミエネルギーよりも、フェルミエネルギーが高い材料であってもよい。具体的な材料としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0020】
一方、光電変換素子が、第1電極4および光電変換層7の間に電子輸送層5を備えている場合、第1電極4は、光電変換層7から移動する正孔をブロックする特性を有していなくてもよい。また、第1電極4は、光電変換層7との間でオーミック接触を形成可能な材料から構成されていてもよい。
【0021】
第1電極4は、透光性を有する。例えば、可視領域から近赤外領域の光を透過させてもよい。第1電極4は、例えば、透明であり導電性を有する、金属酸化物および/または金属窒化物を用いて形成することができる。このような材料としては、例えば、リチウム、マグネシウム、ニオブ、およびフッ素からなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化チタン、錫およびシリコンからなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化ガリウム、シリコンおよび酸素からなる群より選択される少なくとも1種をドープした窒化ガリウム、アンチモンおよびフッ素からなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化錫、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化亜鉛、インジウム-錫複合酸化物、または、これらの複合物が挙げられる。
【0022】
第1電極4は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成することができる。光が透過するパターンとしては、例えば、線状、波線状、格子状、多数の微細な貫通孔が規則的若しくは不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンが挙げられる。第1電極がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない電極材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、または、これらのいずれかを含む合金を挙げることができる。また、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0023】
第1電極4の光の透過率は、例えば50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。透過すべき光の波長は、光電変換層7の吸収波長に依存する。第1電極4の厚さは、例えば、1nm以上かつ1000nm以下である。
【0024】
<電子輸送層>
電子輸送層5は、半導体を含む。電子輸送層5は、バンドギャップが3.0eV以上の半導体であってもよい。バンドギャップが3.0eV以上の半導体で電子輸送層5を形成することにより、可視光および赤外光を光電変換層7まで透過させることができる。半導体の例としては、無機のn型半導体が挙げられる。
【0025】
無機のn型半導体としては、例えば、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物およびペロブスカイト型酸化物を用いることができる。金属元素の酸化物としては、例えば、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、およびCrの酸化物を用いることができる。より具体的な例としては、TiOまたはSnOが挙げられる。金属元素の窒化物としては、例えば、GaNが挙げられる。ペロブスカイト型酸化物の例としては、SrTiOまたはCaTiOが挙げられる。
【0026】
電子輸送層5は、バンドギャップが6.0eVよりも大きな物質によって形成されていてもよい。バンドギャップが6.0eVよりも大きな物質としては、フッ化リチウム、フッ化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物、酸化マグネシウムなどのアルカリ金属酸化物、二酸化ケイ素などが挙げられる。この場合、電子輸送層5の電子輸送性を確保するために、電子輸送層5は、例えば、10nm以下の厚さで構成される。
【0027】
電子輸送層5は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。
【0028】
<多孔質層>
多孔質層6は、電子輸送層5の上に、例えば塗布法によって形成される。光電変換素子が電子輸送層5を備えない場合は、多孔質層6は、第1電極4の上に形成される。多孔質層6によって導入された細孔構造は、光電変換層7を形成する際の土台となる。多孔質層6は、光電変換層7の光吸収、および光電変換層7から電子輸送層5への電子移動を阻害しない。
【0029】
多孔質層6は、多孔質体を含む。多孔質体としては、例えば、絶縁性または半導体の粒子が連なった多孔質体が挙げられる。絶縁性の粒子としては、例えば、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素の粒子を用いることができる。半導体粒子としては、例えば、無機半導体粒子を用いることができる。無機半導体としては、金属元素の酸化物、金属元素のペロブスカイト酸化物、金属元素の硫化物、または金属カルコゲナイドを用いることができる。金属元素の酸化物の例としては、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物が挙げられる。より具体的な例としては、TiOが挙げられる。金属元素のペロブスカイト酸化物の例としては、SrTiOまたはCaTiOが挙げられる。金属元素の硫化物の例としては、CdS、ZnS、In、PbS、MoS、WS、Sb、Bi、ZnCdS、またはCuSが挙げられる。金属カルコゲナイドの例としては、CsSe、InSe、WSe、HgS、PbSe、またはCdTeが挙げられる。
【0030】
多孔質層6の厚さは、0.01μm以上かつ10μm以下であってもよく、0.05μm以上かつ1μm以下であってもよい。
【0031】
多孔質層6の表面粗さについては、実効面積/投影面積で与えられる表面粗さ係数が10以上であってもよく、100以上であってもよい。投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、後ろにできる影の面積である。実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。実効面積は、物体の投影面積および厚さから求められる体積と、物体を構成する材料の比表面積および嵩密度とから計算することができる。比表面積は、例えば、窒素吸着法によって測定される。
【0032】
多孔質層6中の空隙は、光電変換層7と接する部分、電子輸送層5と接する部分まで繋がっている。すなわち、多孔質層6の空隙は、多孔質層6の一方の主面から、他方の主面まで繋がっている。これにより、光電変換層7の材料が多孔質層6の空隙を充填し、電子輸送層5の表面まで到達することができる。したがって、光電変換層7と電子輸送層5とは、直接接触しているため、電子の授受が可能である。
【0033】
多孔質層6によって光散乱が起こることにより、光電変換層7を通過する光の光路長が増大する効果も期待される。光路長が増大すると、光電変換層7中で発生する電子および正孔の量が増加すると予測される。
【0034】
<光電変換層>
光電変換層7は、ペロブスカイト化合物を含む。ペロブスカイト化合物は、化学式ABXにより表され得る。Aは1価のカチオンである。1価のカチオンの例としては、アルカリ金属カチオンおよび有機カチオンのような1価のカチオンが挙げられる。さらに具体的には、メチルアンモニウムカチオン(CHNH3+)、ホルムアミジニウムカチオン(HC(NH2+)、エチルアンモニウムカチオン(CHCHNH3+)、グアニジニウムカチオン(CH3+)、カリウムカチオン(K)、セシウムカチオン(Cs)、およびルビジウムカチオン(Rb)が挙げられる。Bは2価の鉛カチオン(Pb2+)および錫カチオン(Sn2+)である。Xはハロゲンアニオンなどの1価のアニオンである。A、B、およびXのそれぞれのサイトは、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。
【0035】
光電変換層7の厚みは、例えば50nm以上かつ10μm以下である。光電変換層7は、溶液による塗布法、印刷法、蒸着法などを用いて形成することができる。光電変換層7は、ペロブスカイト化合物を切り出すことによって形成されてもよい。
【0036】
光電変換層7は、化学式ABXにより表されるペロブスカイト化合物を主として含んでもよい。ここで、「光電変換層が、化学式ABXにより表されるペロブスカイト化合物を主として含む」とは、光電変換層7が、化学式ABXにより表されるペロブスカイト化合物を90質量%以上含むことである。光電変換層7は、化学式ABXにより表されるペロブスカイト化合物を95質量%以上含んでいてもよい。光電変換層7は、化学式ABXにより表されるペロブスカイト化合物からなってもよい。光電変換層7は、化学式ABXにより表されるペロブスカイト化合物を含んでいればよく、欠陥または不純物を含んでもよい。
【0037】
光電変換層7は、化学式ABXにより表されるペロブスカイト化合物とは異なる他の化合物をさらに含んでいてもよい。異なる他の化合物としては、例えば、Ruddlesden-Popper型の層状ペロブスカイト構造を持つ化合物、などが挙げられる。
【0038】
<正孔輸送層>
正孔輸送層8は、正孔輸送材料を含む。正孔輸送材料は、正孔を輸送する材料である。正孔輸送層8は、有機物、または無機半導体などの正孔輸送材料によって構成される。
【0039】
正孔輸送材料として用いられる代表的な有機物の例は、2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](以下、「PTAA」と省略することがある)、poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)、または銅フタロシアニン、である。
【0040】
正孔輸送材料として用いられる無機半導体は、p型の半導体である。無機半導体の例は、CuO、CuGaO、CuSCN、CuI、NiOx、MoOx、V、または酸化グラフェンのようなカーボン材料である。
【0041】
正孔輸送層8は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。例えば、光電変換層7のイオン化ポテンシャルに対して、正孔輸送層8のイオン化ポテンシャルが順々に小さくなるように複数の層が積層されることにより、正孔輸送特性が改善される。
【0042】
正孔輸送層8の厚さは、1nm以上かつ1000nm以下であってもよく、10nm以上かつ50nm以下であってもよい。この範囲内であれば、十分な正孔輸送特性を発現でき、低抵抗を維持できるので、高効率に光発電を行うことができる。
【0043】
正孔輸送層8の形成方法としては、塗布法、印刷法、蒸着法などを採用することができる。これは、光電変換層と同様である。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法が挙げられる。印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法が挙げられる。必要に応じて、複数の材料を混合して正孔輸送層8を作製し、加圧または焼成するなどしてもよい。正孔輸送層8の材料が有機の低分子体または無機半導体である場合には、真空蒸着法によって正孔輸送層8を作製することも可能である。
【0044】
正孔輸送層8は、ドーパント(支持電解質)を含む。このドーパントは、正孔輸送層8中の正孔を安定化させる効果を有する。
【0045】
ドーパントとしては、例えば、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ素カリウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0046】
<第2電極>
第2電極2は、第1層9及び第2層10との2層で構成され、導電性を有する。
【0047】
<第1層>
第2電極の第1層9は、高分子材料と、添加物として、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を含む。高分子材料は、絶縁性を有し、自立膜として機能する高分子材料であれば特に限定されない。例えば、セルロース系やポリビニル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系高分子が使用できる。
【0048】
第1層9の添加物であるアンモニウム塩又はアルカリ金属塩は、上記正孔輸送層8の構成で記載したドーパント(支持電解質)が用いられ、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ素カリウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。第1層9で用いるドーパントは、正孔輸送層8で用いるドーパントと同一の材料であることが望ましい。
【0049】
第1層9の厚みは、0.01μm以上かつ20μm以下であってもよく、0.1μm以上かつ5μm以下であってもよい。
【0050】
<第2層>
第2電極の第2層10は、導電性フィラーと、高分子材料を含む。
【0051】
第2層10の高分子材料も、第1層と同様に、絶縁性を有し、自立膜として機能する高分子材料であれば特に限定されない。セルロース系やポリビニル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系高分子が使用できる。
【0052】
第2層10の導電性フィラーは、金属や金属酸化物、カーボン等の導電材料が使用できる。第2電極2に透明性が必要な場合には、第2層10の導電性フィラーには、Ag等の金属ナノワイヤー、酸化インジウムスズ(ITO)、カーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンが用いられる。
【0053】
第2層10の厚みは、0.1μm以上かつ50μm以下であってもよく、1μm以上かつ10μm以下であってもよい。
【0054】
第1層9及び第2層10の形成方法としては、塗布法、印刷法などを採用することができる。これは、光電変換層7や正孔輸送層8と同様である。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法が挙げられる。印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法が挙げられる。必要に応じて、加圧または焼成するなどしてもよい。
なお、塗布法、印刷法による場合には、溶剤として、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-オクタノール、酢酸エチル、2-エチル-1-ヘキサノール、1,2-プロパンジオール、1,3プロパンジオールを使用できる。
第2電極2の第1層9が、添加物としてアンモニウム塩又はアルカリ金属塩を高分子材料100重量部に対し、80~1400重量部含むので、導電膜の形成時に溶剤によって生じる正孔輸送層8のドーパントであるアンモニウム塩又はアルカリ金属塩の溶解を抑制する、又は、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を補うことができるものと考えられる。そこで、この導電膜を正孔輸送層8の上に設ける第2電極2として用いた場合にも光電変換素子として光電変換性能を損なわないという効果を奏することができる。なお、この場合、用いる添加物であるアンモニウム塩又はアルカリ金属塩は、下層の正孔輸送層8で用いられているドーパントと同一であることが望ましい。
【0055】
(実施例)
本開示の実施例として、上述の第2電極2及び該第2電極2を含む光電変換素子100を作製し、その太陽電池としての初期特性を評価した。
実施例1から4及び比較例1から2の光電変換素子(太陽電池)の各構成は、以下の通りである。
・基板3:ガラス基板(厚さ:0.7mm)
・第1電極4:透明導電層 インジウム-錫複合酸化物層(厚さ:200nm)
・電子輸送層5:酸化チタン(TiO)(厚さ:10nm)
・多孔質層6:メソポーラス構造酸化チタン(TiO
・光電変換層7:HC(NHPbIを主として含む層(厚さ:500nm)
・正孔輸送層8:n-ブチルアンモニウムブロミド(greatcell Solar製)を含む層/PTAAを主として含む層(但し、添加剤として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業製)が含まれる)(厚さ:50nm)
・第2電極2:
第1層9:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとセルロースの複合体(厚さ:0.8μm)
第2層10:CNTとセルロースの複合体(厚さ:3μm)
【0056】
<光電変換素子(太陽電池)の作製>
(実施例1)
まず、第1電極4として機能する透明導電層を表面に有する基板を用意した。本実施例では、基板3として、0.7mmの厚みを有するガラス基板を用いた。第1電極4として、基板上にスパッタ法によりインジウム-錫複合酸化物層が形成された。
次に、電子輸送層5として、第1電極上にスパッタ法により、酸化チタンの層が形成された。
多孔質層6として、メソポーラス構造の酸化チタンを用いた。電子輸送層5上に、30NR-D(Great Cell Solar製)をスピンコートにより塗布したのち、500℃で30分間焼成することにより、メソポーラス構造の酸化チタンである多孔質層6が形成された。
【0057】
次に、光電変換材料の原料溶液がスピンコートにより塗布されて、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層7が形成された。当該原料溶液は、0.92mol/Lのヨウ化鉛(II)(東京化成工業製)、0.17mol/Lの臭化鉛(II)(東京化成工業製)、0.83mol/Lのヨウ化ホルムアミジニウム(GreatCell Solar製)、0.17mol/Lの臭化メチルアンモニウム(GreatCell Solar製)、0.05mol/Lのヨウ化セシウム(岩谷産業製)、および0.05mol/Lのヨウ化ルビジウム(岩谷産業製)を含む溶液であった。当該溶液の溶媒は、ジメチルスルホキシド(acros製)およびN,N-ジメチルホルムアミド(acros製)の混合物であった。当該原料溶液におけるジメチルスルホキシド(DMSO)およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の混合比(DMSO:DMF)は、体積比で1:4であった。
【0058】
次に、光電変換層7上に、正孔輸送材料の原料溶液をスピンコート法により塗布することにより、PTAAを含む正孔輸送層8を形成した。原料溶液の溶媒は、トルエン(acros製)であり、その溶液は10g/LのPTAAを含んでいた。また、正孔輸送層8は、ドーパント(支持電解質)として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含んでいた。
【0059】
次に、正孔輸送層8上に、第2電極の第1層9を以下の通りに形成した。第1層9の原料溶液は、高分子材料としてセルロース(キミカ製キミカCMC)1gと、添加物としてアルカリ金属塩であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業製)8gと、溶剤として2-プロパノール100gとを混合し、超音波バスで10分分散処理をすることで作製した。この原料溶液を、正孔輸送層8上にスピンコート法により塗布した後に、ホットプレート上で100℃、5分間アニールすることにより、第2電極の第1層9を形成した。
【0060】
さらに、第1層9の上に第2電極の第2層10を以下の通りに形成した。第2層の原料溶液は、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブ(CNT)1g(ナノシル製、NC-7000L)と、高分子材料としてセルロース(キミカ製キミカCMC)1gと、溶剤として2-プロパノール100gとを混合し、超音波ホモジナイザーにて2時間照射することで作製した。この原料溶液を第2電極の第1層9上にスピンコート法により塗布した後に、ホットプレート上で100℃、5分間アニールすることにより、第2電極の第2層10を形成した。このようにして、実施例1の太陽電池が得られた。
【0061】
また、実施例2から4、比較例1から3に関しては、第2電極の第2層に含まれるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの量が実施例1と異なるのみであり、その他は同じ原材料で同量添加し、成膜プロセスも同様で第2電極を作製した。
以上によって、光電変換素子を作製した。
【0062】
各実施例及び各比較例の第2電極の第1層の構成を図2の表1にまとめる。
【0063】
<光電変換効率の測定>
得られた実施例1から4、および、比較例1、2の太陽電池の光電変換効率を測定した。
太陽電池の光電変換効率の測定は、電気化学アナライザ(ALS440B、BAS製)およびキセノン光源(BPS X300BA、分光計器製)を用いて行った。測定前に、シリコンフォトダイオードを用いて光強度を1Sun(100mW/cm)に校正した。電圧の掃引速度は100mV/sで行った。測定開始前に、光照射および長時間の順バイアス印加のような事前調整は行わなかった。実効面積を固定し、散乱光の影響を減少させるために、開口部0.1cmの黒色マスクで太陽電池をマスクした状態で、マスク/基板側から光を照射した。光電変換効率の測定は、室温で、乾燥空気(<2%RH)下で行った。以上のようにして測定された実施例1から4、および、比較例1、2の太陽電池の初期効率が、表1に示される。
なお、光電変換効率が14%以上のものを合格〇、14%未満のものを不合格×として判定した。
【0064】
実施例1~4における光電変換素子では、第2電極の第1層9において、正孔輸送層8のドーパントであるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの配合量が高分子材料であるセルロース100重量部に対し、80~1400重量部含む。一方、比較例1、2では、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの配合量が高分子材料であるセルロース100重量部に対し、0重量部、50重量部と少ない。実施例1~4と比較例1,2との比較により、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの配合量が高分子材料であるセルロース100重量部に対し十分な量であることで、光電変換効率が優れた結果となった。上述の通り、第2電極の第1層を正孔輸送層上に塗布する際に溶剤の2-プロパノールが正孔輸送層8のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを溶解する。この場合にも、第1層の原料溶液の中に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを所定量含むことで、上記の2-プロパノールの正孔輸送層8中のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの溶解を抑制する、あるいは、補う働きがあると考えられる。なお、第1層に含まれるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの配合量がセルロース100重量部に対し、1400重量部以上でも、光電変換効率としては問題ないが、効率向上も見られない。そこで、コストも鑑み、適切な第1層に含まれるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの配合量は、高分子材料であるセルロース100重量部に対し、80~1400重量部であるとした。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示に係る導電膜は、第1層及び第2層の2層で構成され、第1層は、添加物として、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を含む。そこで、この導電膜を光電変換素子に用いた場合には、導電膜形成時の溶剤によって正孔輸送層のドーパントであるアンモニウム塩又はアルカリ金属塩を溶解した場合にも、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を補うことができ、光電変換素子における光電変換効率を損なうことがない。よって、塗布型で電極を形成することができる光電変換素子による太陽電池を構成でき、太陽電池の生産性と光電変換効率を両立することができるものであり、産業上の利用の可能性が極めて高いと言える。
【符号の説明】
【0066】
1 有機薄膜
2 第2電極
3 基板
4 第1電極
5 電子輸送層
6 多孔質層
7 光電変換層
8 正孔輸送層
9 第2電極の第1層
10 第2電極の第2層
100 光電変換素子
図1
図2