(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129597
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】発電システム及び昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H02P 9/00 20060101AFI20240919BHJP
B08B 3/10 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H02P9/00 Z ZAB
B08B3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038912
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高祖 永太朗
【テーマコード(参考)】
3B201
5H590
【Fターム(参考)】
3B201AA47
3B201AB51
3B201BB01
3B201BB82
3B201BB92
3B201CD43
5H590CA01
5H590CD05
5H590CE01
5H590FC26
5H590HA04
5H590HB03
(57)【要約】
【課題】運転休止中の発電機用の昇圧変圧器の課電自然循環洗浄を効率的に実施することができる発電システム及び昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法を提供する。
【解決手段】発電機1と、一次側3aが発電機1に接続され、二次側3bが送電線2a,2bに接続される昇圧変圧器3と、昇圧変圧器3の一次側3aと発電機1との間に設けられた電力線接続部8と、を備える。昇圧変圧器3は、発電機1の運転休止中において電力線接続部8が開放され、昇圧変圧器3の二次側3bに接続された送電線2a(又は送電線2b)から課電される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機と、
一次側が前記発電機に接続され、二次側が送電線に接続される昇圧変圧器と、
前記昇圧変圧器の一次側と前記発電機との間に設けられた電力線接続部と、
を備え、
前記昇圧変圧器は、
前記発電機の運転休止中において前記電力線接続部が開放され、前記昇圧変圧器の二次側に接続された前記送電線から課電される、
発電システム。
【請求項2】
前記発電機の運転休止中において前記昇圧変圧器の一次側に接続される地絡過電圧保護継電器をさらに備える、
請求項1に記載の発電システム。
【請求項3】
前記昇圧変圧器の二次側と前記送電線との間に設けられた遮断器をさらに備え、
前記遮断器は、前記電力線接続部が開放された後に投入される、
請求項2に記載の発電システム。
【請求項4】
前記送電線と前記遮断器との間に設けられた断路器をさらに備え、
前記断路器は、前記遮断器が遮断された状態で開路され、
前記遮断器は、前記断路器が閉路された状態で投入される、
請求項3に記載の発電システム。
【請求項5】
一次側が発電機に接続され、二次側が送電線に接続される昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法であって、
前記発電機の運転休止中において、当該発電機と前記昇圧変圧器との間に設けられた電力線接続部を開放し、前記昇圧変圧器の二次側に接続された前記送電線から課電する、
昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法。
【請求項6】
前記発電機の運転休止中において前記昇圧変圧器の一次側に地絡過電圧保護継電器が接続される、
請求項5に記載の昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法。
【請求項7】
前記電力線接続部を開放した後、前記昇圧変圧器の二次側と前記送電線との間に設けられた遮断器を投入する、
請求項6に記載の昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法。
【請求項8】
前記電力線接続部を開放した後、前記送電線と前記遮断器との間に設けられた断路器を閉路した後に、前記遮断器を投入する、
請求項7に記載の昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電システム及び昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば火力発電所において、発電機の出力電圧は、昇圧変圧器を用いて送電線の電圧に昇圧される。従来、昇圧変圧器の絶縁物質としてポリ塩化ビフェニル(以下「PCB」とも称する)が用いられており、変圧器中の絶縁油に微量のPCBが混入している場合がある。PCBは、人の健康及び生活環境に係る被害が生じるおそれがある物質とされており、昇圧変圧器のような大型変圧器内部の微量PCB汚染油を抜き出し、PCBを含まない新しい絶縁油を充填して一定期間課電する課電自然循環洗浄等による無害化を実施することが義務付けられている。
【0003】
課電自然循環洗浄の手順は、「課電自然循環洗浄法」として、PCBを含まない新油に入れ替えて90日間(又は120日間)課電通電することが経済産業省の環境管理推進室によって定められている。例えば、洗浄対象機器内部の洗浄油を加熱して、効率的にPCBの洗浄を行うことができるPCBの洗浄技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
経済産業省及び環境省により制定、施行された「PCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」において、低濃度PCB廃棄物の処分期間は、2027年3月31日と定められている。また、「課電自然循環洗浄法」では、洗浄対象の大型変圧器を電路から外すことなく課電自然循環洗浄を実施することが求められている。しかしながら、当面運転再開の見込みがない発電機に接続された昇圧変圧器の課電自然循環洗浄を実施するために、現在運転休止中の発電機を運転することは不効率である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、運転休止中の発電機用の昇圧変圧器の課電自然循環洗浄を効率的に実施することができる発電システム及び昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、一態様に係る発電システムは、発電機と、一次側が前記発電機に接続され、二次側が送電線に接続される昇圧変圧器と、前記昇圧変圧器の一次側と前記発電機との間に設けられた電力線接続部と、を備え、前記昇圧変圧器は、前記発電機の運転休止中において前記電力線接続部が開放され、前記昇圧変圧器の二次側に接続された前記送電線から課電される。
【0008】
望ましい態様として、前記発電機の運転休止中において前記昇圧変圧器の一次側に接続される地絡過電圧保護継電器をさらに備える。
【0009】
望ましい態様として、前記昇圧変圧器の二次側と前記送電線との間に設けられた遮断器をさらに備え、前記遮断器は、前記電力線接続部が開放された後に投入される。
【0010】
望ましい態様として、前記送電線と前記遮断器との間に設けられた断路器をさらに備え、前記断路器は、前記遮断器が遮断された状態で開路され、前記遮断器は、前記断路器が閉路された状態で投入される。
【0011】
上記の目的を達成するため、一態様に係る昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法は、一次側が発電機に接続され、二次側が送電線に接続される昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法であって、前記発電機の運転休止中において、当該発電機と前記昇圧変圧器との間に設けられた電力線接続部を開放し、前記昇圧変圧器の二次側に接続された前記送電線から課電する。
【0012】
望ましい態様として、前記発電機の運転休止中において前記昇圧変圧器の一次側に地絡過電圧保護継電器が接続される。
【0013】
望ましい態様として、前記電力線接続部を開放した後、前記昇圧変圧器の二次側と前記送電線との間に設けられた遮断器を投入する。
【0014】
望ましい態様として、前記電力線接続部を開放した後、前記送電線と前記遮断器との間に設けられた断路器を閉路した後に、前記遮断器を投入する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、運転休止中の発電機用の昇圧変圧器の課電自然循環洗浄を効率的に実施することができる発電システム及び昇圧変圧器の課電自然循環洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る発電システムにおいて、発電機の通常運転を行う際の接続構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る発電システムにおいて、昇圧変圧器の課電自然循環洗浄を実施する際の接続構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る昇圧変圧器の課電自然循環洗浄手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
図1は、実施形態に係る発電システムにおいて、発電機の通常運転を行う際の接続構成の一例を示す図である。本開示において、発電システム100は、例えば火力発電システムである。
【0019】
実施形態に係る発電システム100において、発電機1は、例えば、火力発電所の低圧タービンによって駆動される三相交流発電機である。また、送電線2a,2bは、発電機1によって発電された三相交流電力が昇圧変圧器3によって昇圧された三相交流電力を送電する。発電機1の三相出力電圧は、例えば、13[kV]である。昇圧変圧器3は、一次側3aの発電機1の三相出力電力を、例えば110[kV]の三相電圧に昇圧して、二次側3bの送電線2a,2bに供給する。なお、
図1では、送電線2a,2bを発電システム100における送電対象としたが、これに限定されず、発電システム100において送電対象となる送電線の数は1つであっても良いし、3以上の複数であっても良い。
【0020】
送電線2aには、遮断器4及び断路器5aを介して、昇圧変圧器3により昇圧された三相交流電力が供給される。送電線2bには、遮断器4及び断路器5bを介して、昇圧変圧器3により昇圧された三相交流電力が供給される。なお、断路器5a,5bは、遮断器4が遮断された状態で開閉される。
【0021】
図1に示す例では、発電機1の中性点が抵抗接地され、接地電位に対する中性点電位を検知して、送電系統を保護する中性点地絡継電器6が設けられている。中性点電位が過電圧となると、遮断器4がトリップされて送電線2a,2bへの電力供給が停止する。
【0022】
また、
図1に示す例では、発電機1の中性点電流と昇圧変圧器3の二次側電流との比率を検知して、送電系統を保護する比率差動継電器7が設けられている。発電機1の中性点電流と昇圧変圧器3の二次側電流との比率が異常値となると、遮断器4がトリップされて送電線2a,2bへの電力供給が停止する。
【0023】
発電機1と昇圧変圧器3との間には、三相交流電力を送電する電力線を物理的に接続する電力線接続部8が設けられている。本開示において、
図1に示す構成の発電システム100では、発電機1の運転を停止した運転休止中において、昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施する際に電力線接続部8を物理的に開放し、発電機1と昇圧変圧器3とを電気的に切り離す。なお、発電機1の運転休止中において、送電線2a,2bには、他の発電システム(不図示)から電力供給される。
【0024】
本開示では、発電機1の運転を停止した運転休止中において、昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施することを想定している。昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄は、昇圧変圧器3内のPCB汚染された絶縁油を抜油してPCBを含まない絶縁油を充填し、元油のPCB濃度に応じた日数(90日又は120日)課電する。この課電自然循環洗浄において、「課電」とは、負荷の有無に関わらず対象機器の定格電圧に応じた公称電圧を印加することをいう。本開示では、発電機1の運転休止中において、送電線2a(又は送電線2b)から昇圧変圧器3の二次側3bに電圧(ここでは、110[kV])を課電する。これにより、昇圧変圧器3の一次側3aの電圧は、昇圧変圧器3の巻線比に応じた電圧(ここでは、13[kV])となる。
【0025】
このとき、昇圧変圧器3の一次側3aに発電機1が接続されていると、昇圧変圧器3の一次側3aに生じた電圧によって発電機1が駆動される。このような発電機1の運転状態は「モータリング運転」と呼ばれる。例えば、発電機1が火力発電所の蒸気タービン発電機である場合、モータリング運転により低圧タービンの排気温度の上昇を招く場合がある。
【0026】
このため、本開示では、発電機1の運転休止中において、送電線2a(又は送電線2b)から課電して昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施する際に、電力線接続部8を開放する。これにより、昇圧変圧器3の一次側と発電機1とが電気的に切り離され、発電機1のモータリング運転を回避することができる。
【0027】
なお、本開示における昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄では、昇圧変圧器3の一次側3aに電気負荷が接続されていないが、昇圧変圧器3の変圧動作によって銅損や鉄損が生じて昇圧変圧器3の内部部材が発熱し、絶縁油の対流が生じる。これにより、昇圧変圧器3の内部部材からPCB汚染された絶縁油がしみ出し、絶縁油のPCB濃度が平均化する。そして、所定日数(90日又は120日)課電することで、昇圧変圧器3の洗浄処理が完了する。
【0028】
図2は、実施形態に係る発電システムにおいて、昇圧変圧器の課電自然循環洗浄を実施する際の接続構成の一例を示す図である。
図3は、実施形態に係る昇圧変圧器の課電自然循環洗浄手順の一例を示すフローチャートである。
【0029】
本開示では、
図2に示すように、昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施する際の送電線保護のため、昇圧変圧器3の一次側3aに地絡過電圧継電器9を追設している。
【0030】
図3では、発電機1を運転休止状態に移行させるプロセスを含めている。発電機1の運転休止に際し、中性点地絡継電器6及び比率差動継電器7による送電線2a,2bの保護を無効化する(
図2参照)。
【0031】
まず、遮断器4をトリップして送電線2a,2bへの送電を遮断する(ステップS101)。その後、断路器5a,5bを開路して(ステップS102)、発電機1の運転を停止させる(ステップS103)。これにより、発電機1は、運転休止状態となる。
【0032】
上述したように、本開示では、発電機1の運転休止状態において昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施する。具体的に、発電機1の運転休止状態において、昇圧変圧器3内のPCB汚染された絶縁油を抜油してPCBを含まない絶縁油を充填すると共に(ステップS104)、電力線接続部8を物理的に開放する(ステップS105)。これにより、昇圧変圧器3の一次側と発電機1とが電気的に切り離され、昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施する際の発電機1のモータリング運転を回避することができる。
【0033】
また、
図2に示すように、昇圧変圧器3の一次側3aに地絡過電圧継電器9を追設する(ステップS106)。これにより、昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄中において昇圧変圧器3の一次側3aの地絡が発生すると、遮断器4がトリップされて送電線2a,2bから昇圧変圧器3への電力供給が停止し、昇圧変圧器3が保護される。
【0034】
そして、断路器5a(又は断路器5b)を閉路し(ステップS107)、遮断器4を投入する(ステップS108)。これにより、昇圧変圧器3の二次側3bに送電線2a(又は送電線2b)からの電力が供給され、昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄が開始される。
【0035】
なお、昇圧変圧器3の二次側3bへの電力は、送電線2a又は送電線2bから排他的に供給される。すなわち、断路器5aが閉路されて送電線2aから電力が供給されている際には、断路器5bが開路される。また、断路器5bが閉路されて送電線2aから電力が供給されている際には、断路器5bが開路される。
【0036】
上述したように、本実施形態に係る発電システム100及び昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄方法では、発電機1の運転休止中において、昇圧変圧器3の一次側3aと発電機1とが電力線接続部8を物理的に開放することによって電気的に切り離される。そして、昇圧変圧器3の二次側3bに送電線2a(又は送電線2b)から電力を供給して昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施する。これにより、発電機1を稼働させることなく、昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施することができる。また、課電自然循環洗浄中における発電機1のモータリング運転を回避することができる。
【0037】
また、発電機1の運転休止中において、昇圧変圧器3の一次側3aに地絡過電圧継電器9を設け、昇圧変圧器3の二次側3bに送電線2a(又は送電線2b)から電力を供給して昇圧変圧器3の課電自然循環洗浄を実施する。これにより、課電自然循環洗浄中における送電線2a(又は送電線2b)の保護が可能となる。
【0038】
なお、本開示の発電システム100において、発電機1を再稼働する場合には、地絡過電圧継電器9による送電線2a,2bの保護を無効化し、遮断器4を遮断、断路器5a(又は断路器5b)を開路した上で、電力線接続部8を接続して昇圧変圧器3の一次側と発電機1との電気的接続を回復し、中性点地絡継電器6及び比率差動継電器7による送電線2a,2bの保護を有効化して、断路器5a,5bを閉路、遮断器4を投入する。これにより、発電システム100による送電線2a,2bへの電力供給を再開することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 発電機
2a,2b 送電線
3 昇圧変圧器
3a 一次側
3b 二次側
4 遮断器
5a,5b 断路器
6 中性点地絡継電器
7 比率差動継電器
8 電力線接続部
9 地絡過電圧継電器
100 発電システム