(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129605
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】橋梁上部構造
(51)【国際特許分類】
E01D 2/02 20060101AFI20240919BHJP
E01D 19/04 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
E01D2/02
E01D19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038926
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕明
(72)【発明者】
【氏名】志賀 弘明
(72)【発明者】
【氏名】土肥 かおり
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA08
2D059AA31
2D059GG21
2D059GG39
2D059GG56
2D059GG59
(57)【要約】
【課題】橋梁の端部領域であっても他の部材との衝突による損傷や破損が生じにくく、また、橋梁の端部領域における支承等の部材の交換や修復がしやすい橋梁上部構造を提供する。
【解決手段】橋梁80の上部構造10であって、複数の主桁12と、第1のウェブ14Aおよび該第1のウェブ14Aに対向する第2のウェブ14Bならびに上フランジ14Cおよび下フランジ14Dを有してなる金属製の箱断面部材で構成された横梁構造14と、を有し、横梁構造14の第1のウェブ14Aに複数の主桁12の一端部がそれぞれ連結され、横梁構造14の下フランジ14Dに、橋梁80の下部構造82に配置された支承84が連結されており、横梁構造14の第2のウェブ14Bおよび横梁構造14の下フランジ14Dには、引張強度が400N/mm
2以上の金属が最外層に用いられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の上部構造であって、
複数の主桁と、
第1のウェブおよび該第1のウェブに対向する第2のウェブならびに上フランジおよび下フランジを有してなる金属製の箱断面部材で構成された横梁構造と、
を有し、
前記横梁構造の前記第1のウェブに前記複数の主桁の一端部がそれぞれ連結され、前記横梁構造の前記下フランジに、前記橋梁の下部構造に配置された支承が連結されており、
前記横梁構造の前記第2のウェブおよび前記横梁構造の前記下フランジには、引張強度が400N/mm2以上の金属が最外層に用いられていることを特徴とする橋梁上部構造。
【請求項2】
前記横梁構造の前記第2のウェブには、合せ材を備えた第1のクラッド鋼が用いられていて、該第1のクラッド鋼の前記合せ材は前記第2のウェブの最外層に配置されており、前記横梁構造の前記下フランジには、合せ材を備えた第2のクラッド鋼が用いられていて、該第2のクラッド鋼の前記合せ材は前記下フランジの最外層に配置されており、
前記第1のクラッド鋼の前記合せ材および前記第2のクラッド鋼の前記合せ材が、引張強度が400N/mm2以上の前記金属であることを特徴とする請求項1に記載の橋梁上部構造。
【請求項3】
前記第1のクラッド鋼の前記合せ材および前記第2のクラッド鋼の前記合せ材は、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項2に記載の橋梁上部構造。
【請求項4】
前記横梁構造と前記主桁との間には仕口部が設けられていて、前記主桁は前記仕口部を介して前記横梁構造に連結されており、
前記仕口部の部位のうち、前記支承が配置された前記下部構造の鉛直方向上方に位置していて前記下部構造に面している鉛直上方部位の下面に、引張強度が400N/mm2以上の金属が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の橋梁上部構造。
【請求項5】
合せ材を備えたクラッド鋼が前記鉛直上方部位の下面に設けられており、前記クラッド鋼の前記合せ材が前記鉛直上方部位の下面に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の橋梁上部構造。
【請求項6】
前記クラッド鋼の前記合せ材は、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項5に記載の橋梁上部構造。
【請求項7】
前記支承が配置された前記下部構造は、橋台であることを特徴とする請求項1に記載の橋梁上部構造。
【請求項8】
前記支承が配置された前記下部構造は、橋脚であることを特徴とする請求項1に記載の橋梁上部構造。
【請求項9】
前記主桁はI形鋼であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の橋梁上部構造。
【請求項10】
前記主桁は箱桁であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の橋梁上部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁上部構造に関し、詳細には、大地震時においても損傷が発生しにくい橋梁上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製の上部構造を有してなる鋼橋においては、腐食を防止すべく、鋼製の上部構造の表面に塗装等の防食被覆がなされている。例えば、特許文献1には、鋼構造物の最も表層側の層として塩害抑制層を形成し、かつ、該塩害抑制層を、ウレタン結合及びポリシロキサン結合を有するふっ素樹脂と、架橋剤と、が含有される撥水性塗料によって形成することにより、塩害に対する鋼構造物の耐久性を向上させることができる防食塗膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震のような巨大地震が起きた場合、構造物、特に、橋梁の端部では、橋梁の上部構造を下方から支える支承やその支承との接触部位などで損傷や破損が発生しやすいと考えられ、又、これまであまり考慮されていなかった橋台等の他の部材との衝突による損傷や破損もあり得る。
【0005】
特許文献1にはそのような損傷や破損、それらへの対策などは示されていない。
【0006】
また、このような橋梁の端部では、スペースの観点などから修復や交換の作業がしにくいといった問題があるが、上記のような巨大地震が起こった場合を考えると、落橋等の致命的な損傷を防ぐだけでなく、橋梁としての機能回復を速やかに行える復旧性能を確保することが重要であると本発明者は考察した。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、橋梁の端部領域であっても他の部材との衝突による損傷や破損が生じにくく、また、橋梁の端部領域における支承等の部材の交換や修復がしやすい橋梁上部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下のような橋梁上部構造である。
【0009】
即ち、本発明に係る橋梁上部構造の第1の態様は、橋梁の上部構造であって、複数の主桁と、第1のウェブおよび該第1のウェブに対向する第2のウェブならびに上フランジおよび下フランジを有してなる金属製の箱断面部材で構成された横梁構造と、を有し、前記横梁構造の前記第1のウェブに前記複数の主桁の一端部がそれぞれ連結され、前記横梁構造の前記下フランジに、前記橋梁の下部構造に配置された支承が連結されており、前記横梁構造の前記第2のウェブおよび前記横梁構造の前記下フランジには、引張強度が400N/mm2以上の金属が最外層に用いられていることを特徴とする橋梁上部構造である。
【0010】
ここで、前記横梁構造の前記第2のウェブおよび前記横梁構造の前記下フランジの最外層とは、前記箱断面部材で構成された前記横梁構造の内空部とは反対側の面の側(外部に面した面の側)の表面を含む層のことである。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0011】
また、「前記横梁構造の前記第1のウェブに前記複数の主桁の一端部がそれぞれ連結され」とは、前記主桁の一端部が直接的に前記横梁構造の前記第1のウェブに連結される場合だけでなく、前記主桁の一端部が他の部材を介して前記横梁構造の前記第1のウェブに連結される場合も含むものとする。
【0012】
また、本願において、支承とは、橋梁の上部構造の荷重を橋梁の下部構造に伝達する役割を有する部材のことである。また、「前記橋梁の下部構造に配置された支承」には、当該支承が前記橋梁の下部構造に直接的に接して配置された場合だけでなく、当該支承が他の部材を介して前記橋梁の下部構造に配置された場合も含む。
【0013】
本発明に係る橋梁上部構造の第2の態様は、前記第1の態様において、前記横梁構造の前記第2のウェブには、合せ材を備えた第1のクラッド鋼が用いられていて、該第1のクラッド鋼の前記合せ材は前記第2のウェブの最外層に配置されており、前記横梁構造の前記下フランジには、合せ材を備えた第2のクラッド鋼が用いられていて、該第2のクラッド鋼の前記合せ材は前記下フランジの最外層に配置されており、前記第1のクラッド鋼の前記合せ材および前記第2のクラッド鋼の前記合せ材が、引張強度が400N/mm2以上の前記金属である、ように構成されている態様である。
【0014】
本発明に係る橋梁上部構造の第3の態様は、前記第2の態様において、前記第1のクラッド鋼の前記合せ材および前記第2のクラッド鋼の前記合せ材は、ステンレス鋼である、ように構成されている態様である。
【0015】
本発明に係る橋梁上部構造の第4の態様は、前記第1~前記第3の態様のいずれかの態様において、前記横梁構造と前記主桁との間には仕口部が設けられていて、前記主桁は前記仕口部を介して前記横梁構造に連結されており、前記仕口部の部位のうち、前記支承が配置された前記下部構造の鉛直方向上方に位置していて前記下部構造に面している鉛直上方部位の下面に、引張強度が400N/mm2以上の金属が設けられている、ように構成されている態様である。
【0016】
本発明に係る橋梁上部構造の第5の態様は、前記第4の態様において、合せ材を備えたクラッド鋼が前記鉛直上方部位の下面に設けられており、前記クラッド鋼の前記合せ材が前記鉛直上方部位の下面に配置されている、ように構成されている態様である。
【0017】
本発明に係る部材据付装置の第6の態様は、前記第5の態様において、前記クラッド鋼の前記合せ材は、ステンレス鋼である、ように構成されている態様である。
【0018】
本発明に係る部材据付装置の第7の態様は、前記第1~前記第6の態様のいずれかの態様において、前記支承が配置された前記下部構造は、橋台である、ように構成されている態様である。
【0019】
本発明に係る部材据付装置の第8の態様は、前記第1~前記第6の態様のいずれかの態様において、前記支承が配置された前記下部構造は、橋脚である、ように構成されている態様である。
【0020】
本発明に係る部材据付装置の第9の態様は、前記第1~前記第8の態様のいずれかの態様において、前記主桁はI形鋼である、ように構成されている態様である。
【0021】
本発明に係る部材据付装置の第10の態様は、前記第1~前記第8の態様のいずれかの態様において、前記主桁は箱桁である、ように構成されている態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、橋梁の端部領域であっても他の部材との衝突による損傷や破損が生じにくく、また、橋梁の端部領域における支承等の部材の交換や修復がしやすい橋梁上部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10および橋梁上部構造10を用いて構成した橋梁80を模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図
【
図2】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10の一端側を斜め上方から見た斜視図
【
図3】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10の一端側を斜め下方から見た斜視図
【
図4】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10を水平方向に切断して上方から見た断面図(
図5のIV-IV線断面図)
【
図8】
図7の断面図において横梁構造14および仕口部16の部位を拡大して模式的に示す拡大断面図
【
図9】本発明の第2実施形態に係る橋梁上部構造10A、および2つの橋梁上部構造10Aを用いて構成された橋梁80Aを模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図
【
図10】本発明の第3実施形態に係る橋梁上部構造10B、および橋梁上部構造10Bを用いて構成された橋梁80Bを模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図
【
図11】本発明の第4実施形態に係る橋梁上部構造40および橋梁上部構造40を用いて構成した橋梁90を模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図
【
図12】本発明の第4実施形態に係る橋梁上部構造40の一端側を斜め上方から見た斜視図
【
図13】本発明の第4実施形態に係る橋梁上部構造40を水平方向に切断して上方から見た断面図(
図14のXIII-XIII線断面図)
【
図19】
図13のXIX-XIX線断面において鋼箱桁42の部位を拡大して模式的に示す拡大断面図
【
図20】
図18の断面図において横梁構造44および仕口部46の部位を拡大して模式的に示す拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10および橋梁上部構造10を用いて構成した橋梁80を模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図であり、
図2は本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10の一端側を斜め上方から見た斜視図であり、
図3は本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10の一端側を斜め下方から見た斜視図であり、
図4は本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10を水平方向に切断して上方から見た断面図(
図5のIV-IV線断面図)であり、
図5は
図4のV-V線断面図であり、
図6は
図4のVI-VI線断面図であり、
図7は
図4のVII-VII線断面図であり、
図8は
図7の断面図から横梁構造14および仕口部16の部位を抽出して拡大して模式的に示す拡大断面図である。なお、
図1では、仕口部16の記載は省略しており、
図4では、対傾構20および横構22の記載は省略している。また、
図1において、符号24Aは橋梁上部構造10の上方に位置する床版を示し、符号24Xは橋梁上部構造10に接続する道路の床版を示し、符号26は床版24Aと床版24Xとの間の伸縮装置を示している。
【0026】
本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10は、
図1~
図3等に示すように橋梁80の上部構造であり、4つの鋼I桁12と、4つの鋼I桁12の両端部に配置された2つの横梁構造14と、を有してなる。2つの横梁構造14は、それぞれ、橋台82の天端82Aの上方に支承84を介して配置されている。4つの鋼I桁12の両端部は、仕口部16を介して横梁構造14にそれぞれ連結されている。なお、仕口部16は機能的には鋼I桁12の一部と考えられるが、本願においては、仕口部16は鋼I桁12とは別の部材として取り扱って説明する。
【0027】
鋼I桁12は、
図2および
図6等に示すように、断面がI形の鋼材で構成されており、上フランジ12Aと、下フランジ12Bと、ウェブ12Cと、を有してなり、上フランジ12A、下フランジ12B及びウェブ12Cはいずれも普通鋼で構成されている。4つの鋼I桁12の両端部が、横梁構造14の第1のウェブ14Aに仕口部16を介してそれぞれ連結されている。また、鋼I桁12のウェブには垂直補剛材12Dおよび水平補剛材12Eが設けられていて補剛がなされている。隣り合う鋼I桁12同士の間には、対傾構20や横構22が設けられている。鋼I桁12の上方には、床版、舗装、地覆、高欄等の床版等24が設けられている。
【0028】
横梁構造14は、
図2および
図3等に示すように、第1のウェブ14Aと、第2のウェブ14Bと、上フランジ14Cと、下フランジ14Dと、を有してなる金属製の箱断面部材であり、橋台82の天端82Aの上方に支承84を介して配置されている。横梁構造14の橋軸直角方向の両端部にはエンドプレート14Eが設けられている。支承84は、橋台82の天端82Aに配置されていて、横梁構造14の下フランジ14Dに連結されており、橋梁上部構造10の荷重を橋台82に伝達する。
図2において、符号14A1、14D1、14F1は補剛材を示し、符号14A2は扉付きマンホールを示し、符号14Fはダイアフラムを示し、
図4において、符号14B1は補剛材を示す。
【0029】
図8に示すように、横梁構造14において、第2のウェブ14Bおよび下フランジ14Dはクラッド鋼板60で構成されており、第1のウェブ14Aおよび上フランジ14Cは普通鋼板で構成されている。エンドプレート14E(
図2~
図5参照)は普通鋼板で構成されている。クラッド鋼板60は、母材60Aと合せ材60Bとが冶金的に接合した複合鋼材である。第2のウェブ14Bおよび下フランジ14Dにおいて、箱断面構造の横梁構造14の内空部とは反対側の面の側(本願において外面側と表記することがある。)にクラッド鋼板60の合せ材60Bが位置し、横梁構造14の内空部に面した側(本願において内面側と表記することがある。)にクラッド鋼板60の母材60Aが位置している。第2のウェブ14Bと下フランジ14Dにおいて最外層に位置する合せ材60Bは、引張強度が400N/mm
2以上の金属であり、また、当該合せ材60Bの表面には塗装や溶射層は設けられていない。母材60Aは普通鋼である。
【0030】
図2、
図4および
図7に示すように、横梁構造14の第1のウェブ14Aには、鋼I桁12を横梁構造14に連結する役割を有する仕口部16が設けられていて、4つの鋼I桁12の両端部は、添接板18を用いたボルト接合によって仕口部16にそれぞれ連結されている。仕口部16は、上フランジ仕口部16Aと、下フランジ仕口部16Bと、ウェブ仕口部16Cと、を有してなり、仕口部16の上フランジ仕口部16Aおよび下フランジ仕口部16Bには、それぞれ突出円弧部16A1、16B1(
図2~
図4等参照)が設けられていて、仕口部16の上フランジ仕口部16Aおよび下フランジ仕口部16Bが横梁構造14と連結する部位の幅は、鋼I桁12の上フランジ12Aおよび下フランジ12Bの幅よりも広くなっており、仕口部16の上フランジ仕口部16Aおよび下フランジ仕口部16Bが鋼I桁12と連結する部位の幅は、鋼I桁12の上フランジ12Aおよび下フランジ12Bの幅と同一になっている。仕口部16を介して鋼I桁12を横梁構造14に連結させることで応力集中を緩和させて、鋼I桁12と横梁構造14との間の応力伝達をスムーズに行わせることができるようにしている。
【0031】
図3および
図4等に示すように、横梁構造14の下フランジ14Dと、仕口部16の下フランジ仕口部16Bの突出円弧部16B1とは、1枚のクラッド鋼板を切削加工して一体的に作製されている。仕口部16の下フランジ仕口部16Bは、
図7に示すように、突出円弧部16B1と、連結鋼板16B2と、板継ぎ溶接部16B3と、から構成されており、仕口部16の下フランジ仕口部16Bの突出円弧部16B1には、板継ぎ溶接部16B3を介して連結鋼板16B2が連結されている。板継ぎ溶接部16B3においては完全溶け込み突き合わせ溶接とすることが好ましい。連結鋼板16B2は普通鋼板である。
【0032】
図3および
図7等に示すように、仕口部16の下フランジ仕口部16Bと、鋼I桁12の下フランジ12Bとは、普通鋼板である添接板18を介してボルト接合されている。下フランジ仕口部16Bの部位のうち、添接板18と接触する部位は普通鋼板である連結鋼板16B2であり、添接板18を介したボルト接合を行っても異種金属接触腐食は起こらない。
【0033】
また、
図7では、橋台82の天端橋軸方向端部82Cから鉛直方向上方に2点鎖線を描いているが、
図7から明らかなように、仕口部16の部位のうち、橋台82に面していて橋台82の鉛直方向上方に位置する部位の下面は、クラッド鋼板60で構成されている突出円弧部16B1の下面であり、突出円弧部16B1の下面にはクラッド鋼板60の合せ材60Bが位置している。
【0034】
図2等に示すように、横梁構造14の上フランジ14Cと、仕口部16の上フランジ仕口部16Aは、1枚の普通鋼板を切削加工して一体的に作製されている。
図7に示すように、仕口部16の上フランジ仕口部16Aと、鋼I桁12の上フランジ12Aとは、普通鋼板である添接板18を介してボルト接合されている。
【0035】
仕口部16のウェブ仕口部16Cは普通鋼板で形成されており、
図4および
図7等に示すように、横梁構造14の第1のウェブ14A(普通鋼板)の外面にウェブ仕口部16C(普通鋼板)を直角に突き当てて溶接を行って取り付けている。この溶接は完全溶け込み溶接となるように行うことが好ましい。仕口部16のウェブ仕口部16Cと、鋼I桁12のウェブ12Cとは、普通鋼板である添接板18を介してボルト接合されている(
図7等参照)。
【0036】
横梁構造14の第2のウェブ14Bと下フランジ14Dとは、
図8に示すように、溶接部14Pにおいて、第2のウェブ14Bと下フランジ14Dとがなす角が直角となるように溶接がなされている。横梁構造14の第2のウェブ14Bと上フランジ14Cとは、
図8に示すように、溶接部14Qにおいて、第2のウェブ14Bの母材60A(普通鋼)に上フランジ14C(普通鋼)を直角に突き当てて溶接がなされている。
【0037】
本第1実施形態に係る橋梁上部構造10においては、クラッド鋼板60の合せ材60Bとしてステンレス鋼を用いているが、合せ材60Bはステンレス鋼に限定されるわけではなく、引張強度が400N/mm2以上の金属であれば用いることができ、例えば、チタンやニッケル及びニッケル合金等を使用することもできる。合せ材60Bとしては、例えば、ステンレス鋼、チタン、並びにニッケル及びニッケル合金等を使用することが好ましいが、コスト面のことも考慮すると、合せ材60Bとしてはステンレス鋼を使用することが特に好ましい。
【0038】
本第1実施形態に係る橋梁上部構造10においては、横梁構造14の第2のウェブ14Bおよび下フランジ14Dにおいて、外面側にクラッド鋼板60の合せ材(ステンレス鋼)60Bが位置しており、かつ、合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きい。したがって、大地震時等に第2のウェブ14Bが橋台82の天端立ち上がり面82Bと衝突しても、天端立ち上がり面82Bと衝突する合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、横梁構造14自体も損傷しにくい。また、大地震時等に仮に横梁構造14が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下したとしても、橋台82の天端82Aと衝突する合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、横梁構造14自体も損傷しにくい。したがって、大地震時等の際に、本第1実施形態に係る橋梁上部構造10の横梁構造14が橋台82の天端立ち上がり面82Bと衝突したとしても、復旧作業は不要であるか、簡易な応急処置のみで済み、また、横梁構造14が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下したとしても、復旧作業を迅速に行うことができる。
【0039】
また、前述したように、仕口部16の部位のうち、橋台82に面していて橋台82の鉛直方向上方に位置する部位の下面は、クラッド鋼板60で構成されている突出円弧部16B1の下面であり、突出円弧部16B1の下面にはクラッド鋼板60の合せ材60Bが位置している。前述したように、合せ材60Bは、引張強度が400N/mm2以上の金属である。大地震時等に仮に横梁構造14が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下して、仕口部16の突出円弧部16B1の下面が橋台82の天端82Aと衝突したとしても、突出円弧部16B1の下面には合せ材60Bが配置されており、橋台82の天端82Aと衝突する合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、仕口部16の突出円弧部16B1も損傷しにくい。したがって、大地震時等の際に、横梁構造14が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下したとしても、仕口部16が損傷したことによって復旧作業を遅延させるということは考えにくい。
【0040】
また、横梁構造14は箱断面部材で構成されており、耐力および剛性のどちらも大きい構造であるため、本第1実施形態に係る橋梁上部構造10は主桁である鋼I桁12を4本備えているにもかかわらず、
図3~
図5に示すように、支承84の数を2つに減らすことができる。通常の橋梁においては、主桁1本ごとに支承が原則として必要となり、本第1実施形態に係る橋梁上部構造10のように主桁を4本備える橋梁においては、通常の場合、4本の主桁それぞれに支承が必要となり、4つの支承が必要となる。
【0041】
また、本第1実施形態に係る橋梁上部構造10においては、支承84は横梁構造14に取り付けられており、支承84が取り付けられる対象の部材が横梁構造であるがゆえに、支承84を配置する位置をフレキシブルに変更することができ、支承84の配置位置は鋼I桁12の位置に対応する位置に配置することは必ずしも必要ではない。
【0042】
また、大地震等により横梁構造14が支承84から外れて、橋台82の天端82Aに落下したとしても、横梁構造14であるがゆえにジャッキアップする位置を多く確保しやすく、大地震等により横梁構造14が支承84から外れても、復旧作業を行いやすい。
【0043】
なお、本第1実施形態に係る橋梁上部構造10の横梁構造14において、第2のウェブ14Bと下フランジ14Dとを同一のクラッド鋼板60で構成するようにしたが、第2のウェブ14Bに用いるクラッド鋼板と下フランジ14Dに用いるクラッド鋼板とを同一のクラッド鋼板にしなくてもよく、異なるクラッド鋼板を用いて第2のウェブ14Bと下フランジ14Dとを構成するようにしてもよい。
【0044】
(2)第2実施形態
本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10およびそれを用いて構成した橋梁80においては、
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る橋梁上部構造10の両端部に位置する横梁構造14は、対向する橋台82の天端82Aの上方にそれぞれ配置していたが、横梁構造14を配置できる位置は橋台の上方に限定されるわけではなく、横梁構造14を橋脚の上方に配置することも可能であり、本発明の第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aでは横梁構造14を橋台の上方だけでなく、橋脚の上方にも配置している。
【0045】
図9は、本発明の第2実施形態に係る橋梁上部構造10A、および2つの橋梁上部構造10Aを用いて構成された橋梁80Aを模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図である。
図9に示すように、橋梁80Aは2つの橋台82の間の中間部に橋脚86を備えており、横梁構造14は橋台82の上方および橋脚86の上方に配置されており、橋梁80Aは橋梁上部構造10Aを2つの径間にそれぞれ配置して構成されている。本第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aの構成自体は、第1実施形態に係る橋梁上部構造10と同様であるので、橋梁上部構造10Aの各部材等についての説明は、第1実施形態に係る橋梁上部構造10の各部材等についての説明で原則として代えることとする。なお、
図9では、鋼I桁12と横梁構造14とを連結する仕口部の記載は省略している。また、
図9において、符号24A1は橋梁上部構造10Aの上方に位置する床版を示し、符号24X1は橋梁上部構造10Aに接続する道路の床版を示している。
【0046】
図9に示すように、橋梁80Aを構成する2つの橋梁上部構造10Aは橋脚86上で分断されており、橋脚86の上方には、左右2つの橋梁上部構造10Aの横梁構造14がそれぞれ配置されており、2つの横梁構造14が所定の間隔aを空けて橋脚86上に配置されている。このため、橋梁80Aでは、橋脚86上において間隔aを空けて配置されている2つの横梁構造14を架け渡すように伸縮装置26が設けられており、床版24A1同士を連結させるようにしている。
【0047】
本第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aにおいては、橋脚86上で間隔aを空けて対向する横梁構造14の第2のウェブ14Bおよび横梁構造14の下フランジ14Dにおいて、外面側にクラッド鋼板60の合せ材(ステンレス鋼)60Bが位置しており、合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きい。したがって、対向する横梁構造14の第2のウェブ14B同士が大地震時等に衝突しても、衝突する合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、横梁構造14は損傷しにくい。また、大地震時等に仮に横梁構造14が支承84から外れて、橋脚86の天端86A上に落下したとしても、横梁構造14の下フランジ14Dの外面側の面(下フランジ14Dの下面)には合せ材(ステンレス鋼)60Bが位置しており、橋脚86の天端86Aと衝突する合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、横梁構造14は損傷しにくい。したがって、大地震時等の際に、本第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aの対向する第2のウェブ14B同士が衝突したとしても、復旧作業は不要であるか、簡易な応急処置のみで済み、また、横梁構造14が支承84から外れて、橋脚86の天端86A上に落下したとしても、復旧作業を迅速に行うことができる。
【0048】
なお、橋台82の上方に位置する横梁構造14の作用効果は、第1実施形態に係る橋梁上部構造10と同様であるので、説明は省略する。
【0049】
(3)第3実施形態
本発明の第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aおよびそれを用いて構成した橋梁80Aにおいては、2つの横梁構造14が所定の間隔aを空けて橋脚86上に配置されていたが、本発明の第3実施形態に係る橋梁上部構造10Bでは、橋脚86上に配置する横梁構造を横梁構造14Xの1つのみにし、横梁構造14Xの対向するウェブ14XAそれぞれに、鋼I桁12を、仕口部を介して連結するようにしている。横梁構造14Xは、この点が横梁構造14と異なっている。
【0050】
図10は、本発明の第3実施形態に係る橋梁上部構造10B、および橋梁上部構造10Bを用いて構成された橋梁80Bを模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図である。
図10に示すように、橋梁80Bは2つの橋台82の間の中間部に橋脚86を備えており、橋梁上部構造10Bは両端部に横梁構造14を橋台82の上方にそれぞれ備え、橋梁上部構造10Bは中央部に横梁構造14Xを橋脚86の上方に備えている。これ以外の点については、本第3実施形態に係る橋梁上部構造10Bの構成は、第1実施形態に係る橋梁上部構造10と同様であるので、橋梁上部構造10Bの各部材等についての説明は、第1実施形態に係る橋梁上部構造10の各部材等についての説明で原則として代えることとする。なお、
図10では、鋼I桁12と横梁構造14とを連結する仕口部および鋼I桁12と横梁構造14Xとを連結する仕口部の記載は省略している。また、
図10において、符号24A2は橋梁上部構造10Bの上方に位置する床版を示し、符号24X2は橋梁上部構造10Bに接続する道路の床版を示している。
【0051】
本第3実施形態では、橋梁80Bを構成する橋梁上部構造10Bは橋脚86上で分断されていないため、第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aを用いて構成した橋梁80Aのように、橋脚86の上方において伸縮装置26を配置することは不要であり、床版24A2は2径間にわたって連続的に設けている。
【0052】
また、第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aおよびそれを用いて構成した橋梁80Aにおいては、2つの横梁構造14が所定の間隔aを空けて橋脚86上に配置されていたため、対向する第2のウェブ14B同士が大地震等の際に衝突する可能性があったが、本第3実施形態では、橋梁80Bを構成する橋梁上部構造10Bは橋脚86上で分断されておらず、橋脚86上には1つの横梁構造14Xが配置されているだけであるので、第2実施形態に係る橋梁上部構造10Aにおいて考えられ得る第2のウェブ14B同士の衝突のようなことは生じ得ない。したがって、本第3実施形態に係る橋梁上部構造10Bの横梁構造14Xのウェブ14XAは、大地震等の際においても他の部材と衝突するようなことは想定できない。
【0053】
一方、本第3実施形態に係る橋梁上部構造10Bにおいて、横梁構造14Xの下フランジ14XDについては、クラッド鋼板60(その合せ材60Bは引張強度が400N/mm2以上であるステンレス鋼)を用いており、外面側にクラッド鋼板60の合せ材(ステンレス鋼)60Bが位置するように構成している。合せ材60Bの引張強度は400N/mm2以上と大きい。したがって、大地震時等に仮に横梁構造14Xが支承84から外れて、橋脚86の天端86A上に落下したとしても、横梁構造14Xは損傷しにくい。したがって、横梁構造14Xが支承84から外れて、橋脚86の天端86A上に落下したとしても、復旧作業を迅速に行うことができる。
【0054】
なお、橋台82の上方に位置する横梁構造14の作用効果は、第1実施形態に係る橋梁上部構造10と同様であるので、説明は省略する。
【0055】
(4)第4実施形態
本発明の第1~3実施形態に係る橋梁上部構造10、10A、10Bにおいて用いた主桁は鋼I桁12であったが、本発明の第4施形態に係る橋梁上部構造40において用いている主桁は鋼箱桁42であり、この点が第1~3実施形態に係る橋梁上部構造10、10A、10Bとは異なる。以下、本第4施形態について説明するが、第1~3実施形態の説明の際に説明した部材や部位で、機能や役割が実質的に同一である部材や部位には同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0056】
図11は、本発明の第4実施形態に係る橋梁上部構造40および橋梁上部構造40を用いて構成した橋梁90を模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図であり、
図12は本発明の第4実施形態に係る橋梁上部構造10の一端側を斜め上方から見た斜視図であり、
図13は本発明の第4実施形態に係る橋梁上部構造10を水平方向に切断して上方から見た断面図(
図14のXIII-XIII線断面図)であり、
図14は
図13のXIV-XIV線断面図であり、
図15は
図13のXV-XV線矢視図であり、
図16は
図13のXVI-XVI線断面図であり、
図17は
図13のXVII-XVII線矢視図であり、
図18は
図13のXVIII-XVIII線断面図であり、
図19は
図13のXIX-XIX線断面において鋼箱桁42の部位を拡大して模式的に示す拡大断面図であり、
図20は
図18の断面図において横梁構造44および仕口部46の部位を拡大して模式的に示す拡大断面図である。なお、
図11では、仕口部46の記載は省略しており、
図13では、支承84を隠れ線(破線)で描くべきところ実線で記載しており、また、横桁50および遮蔽パネル52の記載は省略している。また、
図16および
図18では切断線の近傍の部材以外の部材は描いておらず、
図16では、ダイアフラム44Fの記載は省略しており、
図18では、補剛材42D1、46D1およびそれらを連結する添接板48の記載は省略しているが、
図16および
図18において、鋼箱桁42の内側ウェブ42Bと仕口部46の内側ウェブ仕口部46Bとの板継ぎ溶接部46B1は、破線で記載している。
図17は、鋼箱桁42の外側ウェブ42Aを取り外した状態を記載している。
【0057】
本発明の第4実施形態に係る橋梁上部構造40は、
図11および
図12に示すように橋梁90の上部構造であり、主桁である2つの鋼箱桁42と、2つの鋼箱桁42の両端部に配置された2つの横梁構造44と、を有してなる。2つの横梁構造44は、それぞれ、橋台82の上方に支承84を介して配置されている。2つの鋼箱桁42の両端部は、仕口部46を介して横梁構造44にそれぞれ連結されている。なお、仕口部46は機能的には主桁である鋼箱桁42の一部と考えられるが、本願においては、仕口部46は主桁である鋼箱桁42とは別の部材として取り扱って説明する。
【0058】
鋼箱桁42は、
図12および
図19に示すように、外側ウェブ42Aと、内側ウェブ42Bと、上フランジ42Cと、下フランジ42Dと、を有してなる金属製の箱断面部材である。2つの鋼箱桁42の両端が横梁構造44の第1のウェブ44Aに仕口部46を介してそれぞれ連結されている。
図12に示すように、2つの鋼箱桁42同士の間には、対向する内側ウェブ42B同士を連結する横桁50が設けられており、また、2つの鋼箱桁42の下フランジ42Dの内側端部42D2(
図13および
図19参照)同士の間には遮蔽パネル52が設けられている。また、鋼箱桁42の上方には、床版、舗装、地覆、高欄等の床版等24が設けられている。
【0059】
図19に示すように、鋼箱桁42の外側ウェブ42Aおよび下フランジ42Dはクラッド鋼板62で構成されており、鋼箱桁42の内側ウェブ42Bおよび上フランジ42Cは普通鋼板で構成されている。クラッド鋼板62は、母材62Aと合せ材62Bとが冶金的に接合した複合鋼材である。鋼箱桁42の外側ウェブ42Aと下フランジ42Dは、1枚のクラッド鋼板62を曲げ加工して一体的に作製されている。外側ウェブ42Aと下フランジ42Dにおいて、箱断面構造の鋼箱桁42の内空部とは反対側の面の側(本願において外面側と表記することがある。)にクラッド鋼板62の合せ材62Bが位置し、鋼箱桁42の内空部に面した側(本願において内面側と表記することがある。)にクラッド鋼板62の母材62Aが位置している。母材62Aは普通鋼である。本第4実施形態に係る橋梁上部構造40の鋼箱桁42においては、クラッド鋼板62の合せ材62Bとしてステンレス鋼を用いているが、合せ材62Bはステンレス鋼に限定されるわけではなく、引張強度が400N/mm
2以上の金属であれば用いることができ、例えば、チタンやニッケル及びニッケル合金等を使用することもできる。合せ材62Bは、ステンレス鋼、チタン、並びにニッケル及びニッケル合金等を使用することが好ましいが、コスト面のことも考慮すると、合せ材60Bとしてはステンレス鋼を使用することが特に好ましい。なお、本第4実施形態に係る橋梁上部構造40では、前述したように、鋼箱桁42の外側ウェブ42Aと下フランジ42Dは、1枚のクラッド鋼板62を曲げ加工して一体的に作製するようにしたが、鋼箱桁42の外側ウェブ42Aと下フランジ42Dを別々のクラッド鋼板を用いて構成し、外側ウェブ42Aと下フランジ42Dとを溶接によって接合するように構成してもよい。
【0060】
横梁構造44は、
図12等に示すように、第1のウェブ44Aと、第2のウェブ44Bと、上フランジ44Cと、下フランジ44Dと、を有してなる金属製の箱断面部材であり、橋台82の上方に支承84を介して配置されている。横梁構造44の橋軸直角方向の両端部にはエンドプレート44Eが設けられている。支承84は、橋台82の天端82Aに配置されていて、横梁構造44の下フランジ44Dに連結されている。
図12において、符号44A3はマンホールを示す。
【0061】
図20等に示すように、横梁構造44において、第2のウェブ44B、下フランジ44D及びエンドプレート44E(
図17参照)はクラッド鋼板64で構成されており、第1のウェブ44A及び上フランジ44Cは普通鋼板で構成されている。クラッド鋼板64は、母材64Aと合せ材64Bとが冶金的に接合した複合鋼材である。横梁構造44の下フランジ44Dとエンドプレート44Eは、1枚のクラッド鋼板64を曲げ加工して一体的に作製されている。第2のウェブ44B、下フランジ44D及びエンドプレート44Eにおいて、箱断面構造の横梁構造44の内空部とは反対側の面の側(本願において外面側と表記することがある。)にクラッド鋼板64の合せ材64Bが位置し、横梁構造44の内空部に面した側(本願において内面側と表記することがある。)にクラッド鋼板64の母材64Aが位置している。第2のウェブ44B、下フランジ44D及びエンドプレート44Eにおいて最外層に位置する合せ材64Bは、引張強度が400N/mm
2以上の金属である。母材64Aは普通鋼である。なお、本第4実施形態に係る橋梁上部構造40では、前述したように、横梁構造44の下フランジ44Dとエンドプレート44Eは、1枚のクラッド鋼板64を曲げ加工して一体的に作製するようにしたが、横梁構造44の下フランジ44Dとエンドプレート44Eを別々のクラッド鋼板を用いて構成し、下フランジ44Dとエンドプレート44Eとを溶接によって接合するように構成してもよい。
【0062】
横梁構造44の第2のウェブ44Bと下フランジ44Dとは、
図20に示すように、溶接部44Pにおいて、第2のウェブ44Bと下フランジ44Dとがなす角が直角となるように溶接がなされている。横梁構造44の第2のウェブ44Bと上フランジ44Cとは、
図20に示すように、溶接部44Qにおいて、第2のウェブ44Bの母材64A(普通鋼)に上フランジ44C(普通鋼)を直角に突き当てて溶接がなされている。
【0063】
横梁構造44の第1のウェブ44Aには、仕口部46が設けられていて、2つの鋼箱桁42の両端部は、板継ぎ溶接によって仕口部46にそれぞれ連結されている。仕口部46は、
図12、
図13、
図16~
図18、
図20に示すように、外側ウェブ仕口部46Aと、内側ウェブ仕口部46Bと、上フランジ仕口部46Cと、下フランジ仕口部46Dと、を有してなり、鋼箱桁42を横梁構造44に連結する役割を有し、仕口部46の断面形状は鋼箱桁42の断面形状と対応する形状になっている。外側ウェブ仕口部46Aおよび下フランジ仕口部46Dは、横梁構造44のエンドプレート44Eおよび下フランジ44Dと一体的に1枚のクラッド鋼板64を曲げ加工して形成されており、
図20等に示すように、外側ウェブ仕口部46Aおよび下フランジ仕口部46Dの外面側にはクラッド鋼板64の合せ材64Bが位置し、外側ウェブ仕口部46Aおよび下フランジ仕口部46Dの内面側にはクラッド鋼板64の母材64Aが位置している。なお、本第4実施形態に係る橋梁上部構造40では、前述したように、仕口部46の外側ウェブ仕口部46Aと下フランジ仕口部46Dは、1枚のクラッド鋼板64を曲げ加工して一体的に作製するようにしたが、仕口部46の外側ウェブ仕口部46Aと下フランジ仕口部46Dを別々のクラッド鋼板を用いて構成し、外側ウェブ仕口部46Aと下フランジ仕口部46Dとを溶接によって接合するように構成してもよい。
【0064】
図16~
図18では、橋台82の天端橋軸方向端部82Cから鉛直方向上方に2点鎖線を描いているが、
図16~
図18から明らかなように、仕口部46の部位のうち、橋台82に面していて橋台82の鉛直方向上方に位置する部位の下面は、クラッド鋼板64で構成されている下フランジ仕口部46Dの下面であり、下フランジ仕口部46Dの下面にはクラッド鋼板64の合せ材64Bが位置している。
【0065】
上フランジ仕口部46Cは、横梁構造44の上フランジ44Cと一体的に1枚の普通鋼板を切削加工して形成されている。内側ウェブ仕口部46Bは普通鋼板で形成されており、横梁構造44の第1のウェブ44A(普通鋼板)の外面に内側ウェブ仕口部46Bを直角に突き当てて溶接を行って取り付けている。
【0066】
鋼箱桁42の外側ウェブ42Aは外側ウェブ仕口部46Aに板継ぎ溶接され、鋼箱桁42の内側ウェブ42Bは内側ウェブ仕口部46Bに板継ぎ溶接され、鋼箱桁42の上フランジ42Cは上フランジ仕口部46Cに板継ぎ溶接され、鋼箱桁42の下フランジ42Dは下フランジ仕口部46Dに板継ぎ溶接されている。これらの板継ぎ溶接は完全溶け込み突き合わせ溶接とすることが好ましい。
【0067】
ただし、
図16に示すように、鋼箱桁42の上フランジ42Cの内面側に設けられた補剛材42C1と仕口部46の上フランジ仕口部46Cの内面側に設けられた補剛材46C1とは、添接板48を介してボルト接合されており、また、鋼箱桁42の下フランジ42Dの内面側に設けられた補剛材42D1と、仕口部46の下フランジ仕口部46Dの内面側に設けられた補剛材46D1とは、添接板48を介してボルト接合されている。補剛材42C1、42D1、46C1、46D1および添接板48はいずれも普通鋼である。また、
図12~14、
図16および
図18等に示す、補剛材44A1、44A2、44B1、44B2、44C1、44C2、44D1、44D2およびダイアフラム44Fは、いずれも横梁構造44の内側に設けられており、いずれも普通鋼である。
【0068】
本第4実施形態に係る橋梁上部構造40においては、横梁構造44の第2のウェブ44B、下フランジ44D及びエンドプレート44Eに用いるクラッド鋼板64の合せ材64Bとしてステンレス鋼を用いているが、合せ材64Bはステンレス鋼に限定されるわけではなく、引張強度が400N/mm2以上の金属であれば用いることができ、例えば、チタンやニッケル及びニッケル合金等を使用することもできる。合せ材64Bは、例えば、ステンレス鋼、チタン、並びにニッケル及びニッケル合金等を使用することが好ましいが、コスト面のことも考慮すると、合せ材64Bとしてはステンレス鋼を使用することが特に好ましい。
【0069】
本第4実施形態に係る橋梁上部構造40においては、横梁構造44の第2のウェブ44B、下フランジ44Dおよびエンドプレート44Eにおいて、外面側にクラッド鋼板64の合せ材(ステンレス鋼)64Bが位置しており、その合せ材64Bの引張強度は400N/mm2以上と大きい。したがって、大地震時等に第2のウェブ44Bが橋台82の天端立ち上がり面82Bと衝突しても、天端立ち上がり面82Bと衝突する合せ材64Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、横梁構造44は損傷しにくい。また、大地震時等に仮に横梁構造44が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下したとしても、横梁構造44の下フランジ44Dの外面側の面(下フランジ44Dの下面)には合せ材64Bが配置されており、橋台82の天端82Aと衝突する合せ材64Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、横梁構造44は損傷しにくい。したがって、大地震時等の際に、本第4実施形態に係る橋梁上部構造40の横梁構造44が橋台82の天端立ち上がり面82Bと衝突したとしても、復旧作業は不要であるか、簡易な応急処置のみで済み、また、横梁構造44が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下したとしても、復旧作業を迅速に行うことができる。
【0070】
また、前述したように、仕口部46の部位のうち、橋台82に面していて橋台82の鉛直方向上方に位置する部位の下面は、クラッド鋼板64で構成されている下フランジ仕口部46Dの下面であり、下フランジ仕口部46Dの下面にはクラッド鋼板64の合せ材64Bが位置している。前述したように、合せ材64Bは、引張強度が400N/mm2以上の金属である。大地震時等に仮に横梁構造44が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下して、仕口部46の下フランジ仕口部46Dの下面が橋台82の天端82Aと衝突したとしても、下フランジ仕口部46Dの下面には合せ材64Bが配置されており、橋台82の天端82Aと衝突する合せ材64Bの引張強度は400N/mm2以上と大きいので、仕口部46の下フランジ仕口部46Dは損傷しにくい。したがって、大地震時等の際に、横梁構造44が支承84から外れて、橋台82の天端82A上に落下したとしても、仕口部46が損傷したことによって復旧作業を遅延させるということは考えにくい。
【0071】
また、本第4実施形態に係る橋梁上部構造40においては、支承84は横梁構造44に取り付けられており、支承84が取り付けられる対象の部材が横梁構造であるがゆえに、支承84を配置する位置をフレキシブルに変更することができ、支承84の配置位置は鋼箱桁42の位置に対応する位置に配置することは必ずしも必要ではない。
【0072】
また、大地震等により横梁構造44が支承84から外れて、橋台82の天端82Aに落下したとしても、横梁構造44であるがゆえにジャッキアップする位置を多く確保しやすく、大地震等により横梁構造44が支承84から外れても、復旧作業を行いやすい。
【0073】
また、本第4実施形態に係る橋梁上部構造40においても、第2および第3実施形態に係る橋梁上部構造10A、10Bのように、横梁構造を橋脚86上方に配置させて構成することも可能である。
【0074】
なお、本第4実施形態に係る橋梁上部構造40の横梁構造44において、第2のウェブ44Bに用いるクラッド鋼板と、下フランジ44D及びエンドプレート44Eに用いるクラッド鋼板とを、どちらもクラッド鋼板64にするようにしたが、第2のウェブ44Bに用いるクラッド鋼板と、下フランジ44D及びエンドプレート44Eに用いるクラッド鋼板とを、同一のクラッド鋼板にしなくてもよく、異なるクラッド鋼板を用いるようにしてもよい。
【0075】
(5)補足
以上説明したように、第1~3実施形態に係る橋梁上部構造10、10A、10Bの主桁は断面形状がI形である鋼I桁12であり、第4実施形態に係る橋梁上部構造40の主桁は断面形状が箱形である鋼箱桁42であり、主桁の断面形状が異なっている。しかしながら、第1、2実施形態に係る橋梁上部構造10、10Aが備える横梁構造14、第3実施形態に係る橋梁上部構造10Bが備える横梁構造14、14Xおよび第4実施形態に係る橋梁上部構造40が備える横梁構造44は、箱形の構造であり、第1~4実施形態に係る橋梁上部構造10、10A、10B、40のいずれにおいても、主桁の端部は、箱形の構造である横梁構造の面状部材であるウェブの外面に取り付けられるので、主桁の断面形状が変わってもフレキシブルに対応することができる。
【0076】
なお、以上説明した第1~4実施形態に係る橋梁上部構造10、10A、10B、40において用いたクラッド鋼板に替えて、ライニング材を取り付けた普通鋼板を用いることも可能である。この場合、ライニング材が最外層となるように、当該ライニング材を取り付けた普通鋼板を配置する。ライニング材としては、ステンレス鋼板を用いることが可能であり、また、炭素繊維やアラミド繊維等用いた繊維強化樹脂を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0077】
10、10A、10B、40…橋梁上部構造
12…鋼I桁
12A…上フランジ
12B…下フランジ
12C…ウェブ
12D…垂直補剛材
12E…水平補剛材
14、14X…横梁構造
14A…第1のウェブ
14B…第2のウェブ
14C…上フランジ
14D…下フランジ
14E…エンドプレート
14F…ダイアフラム
14P、14Q…溶接部
14XA…ウェブ
14XD…下フランジ
14A1、14B1、14D1、14F1…補剛材
14A2…扉付きマンホール
16…仕口部
16A…上フランジ仕口部
16B…下フランジ仕口部
16C…ウェブ仕口部
16A1、16B1…突出円弧部
16B2…連結鋼板
16B3…板継ぎ溶接部
18、48…添接板
20…対傾構
22…横構
24…床版等
24A、24A1、24A2、24X、24X1、24X2…床版
26…伸縮装置
42…鋼箱桁
42A…外側ウェブ
42B…内側ウェブ
42C…上フランジ
42D…下フランジ
42D2…内側端部
42C1、42D1…補剛材
44…横梁構造
44A…第1のウェブ
44B…第2のウェブ
44C…上フランジ
44D…下フランジ
44E…エンドプレート
44F…ダイアフラム
44P、44Q…溶接部
44A1、44A2、44B1、44B2、44C1、44C2、44D1、44D2…補剛材
44A3…マンホール
46…仕口部
46A…外側ウェブ仕口部
46B…内側ウェブ仕口部
46C…上フランジ仕口部
46D…下フランジ仕口部
46B1…板継ぎ溶接部
46C1、46D1…補剛材
50…横桁
52…遮蔽パネル
60、62、64…クラッド鋼板
60A、62A、64A…母材
60B、62B、64B…合せ材
80、80A、80B、90…橋梁
82…橋台
82A…天端
82B…天端立ち上がり面
82C…天端橋軸方向端部
84…支承
86…橋脚
a…間隔