IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

特開2024-129616電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法
<>
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図1
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図2
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図3
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図4
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図5
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図6
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図7
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図8
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図9
  • 特開-電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129616
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置、エネルギーシステム及び電気化学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1213 20160101AFI20240919BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20240919BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240919BHJP
   H01M 8/04014 20160101ALI20240919BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20240919BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20240919BHJP
   H01M 8/2432 20160101ALI20240919BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240919BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240919BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240919BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240919BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240919BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240919BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/1226
H01M8/04 Z
H01M8/04014
H01M8/0612
H01M8/124
H01M8/2432
H01M8/12 101
C25B9/23
C25B11/031
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B1/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038941
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】木下 清佳
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】窪田 亮眞
(72)【発明者】
【氏名】佐脇 航平
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4K011AA04
4K011AA11
4K011AA17
4K011BA03
4K011BA04
4K011DA01
4K011DA11
4K021AA01
4K021AA09
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
4K021DC15
4K021EA05
5H126AA02
5H126AA15
5H126BB06
5H126GG02
5H126JJ04
5H127AA07
5H127AC06
5H127BA37
5H127BA47
5H127EE15
(57)【要約】
【課題】昇降温に起因した電気化学素子を構成する層の膨張収縮による当該層の剥離を抑制でき、電極層の劣化も抑制できる電気化学素子を提供する。
【解決手段】電極層2と、電極層2の上に配置された固体電解質層4と、電極層2及び固体電解質層4の少なくともいずれか一方の上に配置された機能層3,5と、を有し、機能層3,5は、積層方向視における周縁部たるリム部3a,5aが非リム部3b,5bよりも多孔質である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層と、前記電極層の上に配置された固体電解質層と、前記電極層及び前記固体電解質層の少なくともいずれか一方の上に配置された機能層と、を有し、
前記機能層は、積層方向視における周縁部たるリム部が非リム部よりも多孔質である電気化学素子。
【請求項2】
前記電極層の上に前記機能層としての中間層が配置され、前記中間層の上に前記固体電解質層が配置されており、
前記中間層は、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下であり、非リム部の気孔率が3.5%以上10%以下である請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記固体電解質層の上に前記機能層としての反応防止層が配置されており、
前記反応防止層は、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下であり、非リム部の気孔率が3.0%以上10%以下である請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記機能層の非リム部の気孔率に対するリム部の気孔率の比が1.5以上4.5以下である請求項2又は3に記載の電気化学素子。
【請求項5】
金属支持体と、
前記固体電解質層の上に配置された対極電極層と、を更に備え、
前記電極層は、前記金属支持体の上に配置されている請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の電気化学素子が複数積層した状態で配置される電気化学モジュール。
【請求項7】
請求項5に記載の電気化学素子を備え、前記電気化学素子で発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
請求項5に記載の電気化学素子を備え、前記電気化学素子で電解反応を生じさせる固体酸化物形電解セル。
【請求項9】
請求項5に記載の電気化学素子、又は、請求項6に記載の電気化学モジュールと、
前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールに供給する還元性成分を生成する、或いは、前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールで生成する還元性成分を含有するガスを変換する燃料変換器と、を少なくとも有する電気化学装置。
【請求項10】
請求項5に記載の電気化学素子、又は、請求項6に記載の電気化学モジュールと、
前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールから電力を取り出す、或いは、前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールに電力を流通する電力変換器と、を少なくとも有する電気化学装置。
【請求項11】
請求項9に記載の電気化学装置と、
前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部と、を少なくとも有するエネルギーシステム。
【請求項12】
電極層と、前記電極層の上に配置された固体電解質層と、前記電極層及び前記固体電解質層の少なくともいずれか一方の上に配置された機能層と、を有する電気化学素子の製造方法であって、
前記電極層及び前記固体電解質層の少なくともいずれか一方の上に、積層方向視における周縁部たるリム部が非リム部よりも多孔質である前記機能層を形成する機能層形成ステップを含む、電気化学素子の製造方法。
【請求項13】
前記電極層を形成する電極層形成ステップと、
前記機能層形成ステップとして、前記電極層の上に中間層を形成する中間層形成ステップと、
前記中間層の上に前記固体電解質層を形成する電解質層形成ステップと、を含み、
前記中間層形成ステップにおいて、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下となり、非リム部の気孔率が3.5%以上10%以下となるように、前記中間層を形成する、請求項12に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項14】
前記固体電解質層を形成する電解質層形成ステップと、
前記機能層形成ステップとして、前記固体電解質層の上に反応防止層を形成する反応防止層形成ステップと、を含み、
前記反応防止層形成ステップにおいて、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下となり、非リム部の気孔率が3.0%以上10%以下となるように、前記反応防止層を形成する、請求項12に記載の電気化学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極層と、電極層の上に配置された固体電解質層と、電極層及び固体電解質層の少なくともいずれか一方の上に配置された機能層とを有した電気化学素子、並びに、当該電気化学素子の製造方法、当該電気化学素子を備えた電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置及びエネルギーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属支持型や電解質支持型、電極支持型の固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、セラミックからなる電極層や電解質層が積層された構造を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属基板の上にセラミックのアノード層が形成され、その上にセラミックからなる電解質層や中間層が積層されて構成された固体酸化物形燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2011-524844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、固体酸化物形燃料電池は、製造時や使用時における昇降温によって金属支持体やセラミックス各層の熱膨張係数の差に起因して生じる応力によって、セラミックス層の積層方向視における周縁部(リム部)で剥離が生じ易いという問題がある。
【0006】
また、金属支持型の固体酸化物形燃料電池においては、金属支持体上に形成された電極層にガスを供給する必要がある。そこで、例えば、金属支持体として金属板を使用する場合には、金属支持体に複数の貫通孔が形成された領域(穿孔領域)が設けられる。通常、金属支持体上に形成された電極層のリム部は、積層方向視において金属支持体の穿孔領域の外側に形成されている。そのため、当該電極層を燃料極層として固体酸化物形燃料電池を運転した場合、燃料極層で発生した水蒸気が放出され難く、リム部が劣化し易い。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、昇降温に起因した電気化学素子を構成する層の膨張収縮による当該層の剥離を抑制でき、電極層の劣化も抑制できる電気化学素子、並びに、当該電気化学素子の製造方法、当該電気化学素子を備えた電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、電気化学装置及びエネルギーシステムの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る電気化学素子の特徴構成は、
電極層と、前記電極層の上に配置された固体電解質層と、前記電極層及び前記固体電解質層の少なくともいずれか一方の上に配置された機能層と、を有し、
前記機能層は、積層方向視における周縁部たるリム部が非リム部よりも多孔質である点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、電極層の上に配置された機能層や、固体電解質層の上に配置された機能層のリム部が非リム部よりも多孔質である。そのため、製造時や使用時の昇降温に伴って電気化学素子を構成する各層が膨張収縮し、電極層と機能層との間や固体電解質層と機能層との間に応力が生じたとしても、各機能層のリム部によって応力が吸収緩和され、機能層の剥離が抑えられる。
また、上記特徴構成によれば、電気化学素子の使用態様によって電極層で水蒸気が発生する場合であっても、当該電極層上の機能層のリム部が多孔質であることで、電極層で発生した水蒸気が機能層に放出される。したがって、電極層のリム部の劣化が抑えられる。
つまり、上記特徴構成によれば、昇降温に起因した電気化学素子を構成する層の膨張収縮による当該層の剥離を抑制でき、電極層の劣化も抑制できる。
【0010】
本発明に係る電気化学素子の更なる特徴構成は、
前記電極層の上に前記機能層としての中間層が配置され、前記中間層の上に前記固体電解質層が配置されており、
前記中間層は、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下であり、非リム部の気孔率が3.5%以上10%以下である点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、機能層としての中間層のリム部の気孔率が15.5%以上26%以下、且つ、非リム部の気孔率3.5%以上10%以下であることで、中間層の剥離抑制及び電極層のリム部の劣化抑制という効果を得つつ、電気化学素子の強度、耐久性を高めることができる。なお、中間層のリム部の気孔率が15.5%未満であると、中間層の剥離抑制及び電極層のリム部の劣化抑制という効果を十分に得られなくなる虞があり、26%を超えると、中間層のリム部の強度や耐久性が低くなりすぎて、電気化学素子の強度(信頼性)や耐久性に関する要求を満たし難くなる虞がある。また、中間層の非リム部の気孔率が3.5%未満であると、中間層作製時に強い荷重をかける必要があるため下層の電極層が破壊される虞があり、10%を超えると、中間層全体としての強度や耐久性が低くなりすぎて、電気化学素子の強度(信頼性)や耐久性に関する要求を満たし難くなる虞がある。
【0012】
本発明に係る電気化学素子の更なる特徴構成は、
前記固体電解質層の上に前記機能層としての反応防止層が配置されており、
前記反応防止層は、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下であり、非リム部の気孔率が3.0%以上10%以下である点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、機能層としての反応防止層のリム部の気孔率が15.5%以上26%以下、且つ、非リム部の気孔率が3.0%以上10%以下であることで、電解質層からの反応防止層の剥離を抑制しつつ、電気化学素子の強度、耐久性を高めることができる。なお、反応防止層のリム部の気孔率が15.5%未満であると、反応防止層の剥離抑制という効果を十分に得られなくなる虞があり、26%を超えると、反応防止層のリム部の強度や耐久性が低くなりすぎて、電気化学素子の強度(信頼性)や耐久性に関する要求を満たし難くなる虞がある。また、反応防止層の非リム部の気孔率が3.5%未満であると、反応防止層作製時に強い荷重をかける必要があるため下層の電極層が破壊される虞があり、10%を超えると、反応防止層全体としての強度や耐久性が低くなりすぎて、電気化学素子の強度(信頼性)や耐久性に関する要求を満たし難くなる虞がある。
【0014】
本発明に係る電気化学素子の更なる特徴構成は、
前記機能層の非リム部の気孔率に対するリム部の気孔率の比が1.5以上4.5以下である点にある。
【0015】
非リム部の気孔率に対するリム部の気孔率の比が1.5未満であると、機能層のリム部を多孔質にしたことによる効果、すなわち、機能層の剥離抑制及び電極層のリム部の劣化抑制という効果を十分に得られなくなる虞がある。一方で、当該比が4.5を超えると、機能層のリム部の強度や耐久性が低くなりすぎて、電気化学素子の強度(信頼性)や耐久性に関する要求を満たし難くなる虞がある。上記特徴構成によれば、機能層の剥離抑制及び電極層のリム部の劣化抑制という効果を十分に得つつ、電気化学素子の強度、耐久性を高めることができる。
【0016】
本発明に係る電気化学素子の更なる特徴構成は、
金属支持体と、
前記固体電解質層の上に配置された対極電極層と、を更に備え、
前記電極層は、前記金属支持体の上に配置されている点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、電気化学素子は、強度に優れた金属支持体上に電極層や固体電解質層、機能層、対極電極層などの電気化学反応部の構成要素が形成されたものとなる。よって、電極層や固体電解質層、機能層、対極電極層などの電気化学反応部の構成要素を薄層化、薄膜化することが可能となる。したがって、電気化学素子の材料コストを低減しつつ、当該電気化学素子について高い性能と耐久性を確保することが可能となる。
【0018】
本発明に係る電気化学モジュールの特徴構成は、
上記電気化学素子が複数集合した状態で配置される点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、電気化学素子が複数集合した状態で配置されることで、材料コストと加工コストを抑制しつつ、コンパクトで高性能な、強度と信頼性に優れた電気化学モジュールが実現できる。そして、例えば、電気化学モジュールを燃料電池として動作させる場合には、大きな発電出力を得ることも可能となる。
【0020】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池の特徴構成は、
上記電気化学素子を備え、前記電気化学素子で発電反応を生じさせる点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば、強度(信頼性)や耐久性、性能に優れた電気化学素子を備えた固体酸化物形燃料電池として発電反応を行うことができる。したがって、高信頼性、高耐久性を備えた高性能な固体酸化物形燃料電池を得ることができる。
【0022】
本発明に係る固体酸化物形電解セルの特徴構成は、
上記電気化学素子を備え、前記電気化学素子で電解反応を生じさせる点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、強度(信頼性)や耐久性、性能に優れた電気化学素子を備えた固体酸化物形電解セルとして電解反応によるガスの生成を行うことができる。したがって、高信頼性、高耐久性を備えた高性能な固体酸化物形電解セルを得ることができる。
【0024】
本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、
上記電気化学素子或いは上記電気化学モジュールと、
前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールに供給する還元性成分を生成する、或いは、前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールで生成する還元性成分を含有するガスを変換する燃料変換器と、を少なくとも有する点にある。
【0025】
上記特徴構成によれば、電気化学素子又は電気化学モジュールを燃料電池として動作させる場合、都市ガス等の既存の原燃料供給インフラを用いて供給される天然ガス等を基に、改質器などの燃料変換器により水素を生成するように構成でき、耐久性・信頼性及び性能に優れた電気化学素子又は電気化学モジュールを備えた電気化学装置を実現できる。また、電気化学モジュールから流通される未利用の燃料ガスをリサイクルするシステムを構築し易くなるため、高効率な電気化学装置を実現できる。
一方、電気化学素子又は電気化学モジュールを電解セルとして動作させる場合は、電極層に水蒸気や二酸化炭素を含有するガスが流通され、電極層と対極電極層との間に電圧が印加される。そうすると、電極層において電子eと水HOや二酸化炭素分子COが反応して、水素Hや一酸化炭素COと酸素イオンO2-となる。発生した酸素イオンO2-は、電解質層を通って対極電極層へ移動する。そして、対極電極層において、酸素イオンO2-が電子を放出して酸素Oとなる。以上の反応により、水蒸気を含有するガスが流通する場合には、水HOが水素Hと酸素Oとに分解され、二酸化炭素分子COを含有するガスが流通する場合には、一酸化炭素COと酸素Oとに電気分解される。
したがって、水蒸気と二酸化炭素分子COとを含有するガスが流通される場合は、上記電気分解により電気化学素子又は電気化学モジュールで生成した水素及び一酸化炭素等から炭化水素などの種々の化合物を合成する燃料変換器を設けることができる。これにより、燃料変換器が生成した炭化水素等を電気化学素子又は電気化学モジュールに流通する、或いは本システム・装置外に取り出して別途燃料や化学原料として利用することが可能となる。
【0026】
本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、
上記電気化学素子或いは上記電気化学モジュールと、
前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールから電力を取り出す、或いは、前記電気化学素子又は前記電気化学モジュールに電力を流通する電力変換器と、を少なくとも有する点にある。
【0027】
上記特徴構成によれば、電力変換器は、電気化学素子又は電気化学モジュールが発電した電力を取り出し、或いは、電気化学素子又は電気化学モジュールに電力を流通することができる。これにより、上記のように電気化学素子又は電気化学モジュールは、燃料電池として作用し、或いは、電解セルとして作用する。したがって、上記特徴構成によれば、燃料等の化学的エネルギーを電気エネルギーに変換する、或いは、電気エネルギーを燃料等の化学的エネルギーに変換する効率が向上した電気化学装置を実現できる。なお、例えば、電力変換器としてインバータを用いる場合、燃料電池として動作させる際は、インバータによって昇圧したり、直流を交流に変換したりすることができるため、電気化学素子又は電気化学モジュールで得られる電気出力を利用しやすくなるので好ましい。また、電解セルとして動作させる際は、交流電源から直流を得て、電気化学素子又は電気化学モジュールへ直流の電力供給できる電気化学装置を構築できるので好ましい。
【0028】
上記電気化学装置と、
前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部と、を少なくとも有する点にある。
【0029】
上記特徴構成によれば、耐久性・信頼性及び性能に優れ、かつエネルギー効率にも優れたエネルギーシステムを実現できる。また、電気化学装置から排出される未利用の燃料ガスの燃焼熱を利用して発電する発電システムと組み合わせてエネルギー効率に優れたハイブリッドシステムを実現することも可能である。
【0030】
本発明に係る電気化学素子の製造方法の特徴構成は、
電極層と、前記電極層の上に配置された固体電解質層と、前記電極層及び前記固体電解質層の少なくともいずれか一方の上に配置された機能層と、を有する電気化学素子の製造方法であって、
前記電極層及び前記固体電解質層の少なくともいずれか一方の上に、積層方向視における周縁部たるリム部が非リム部よりも多孔質である前記機能層を形成する機能層形成ステップを含む点にある。
【0031】
上記特徴構成によれば、電極層や固体電解質層の上にリム部が非リム部よりも多孔質である機能層を有し、昇降温に起因した電気化学素子を構成する層の膨張収縮による当該層の剥離が抑制され、電極層の劣化も抑制された電気化学素子を製造できる。
【0032】
本発明に係る電気化学素子の製造方法の更なる特徴構成は、
前記電極層を形成する電極層形成ステップと、
前記機能層形成ステップとして、前記電極層の上に中間層を形成する中間層形成ステップと、
前記中間層の上に前記固体電解質層を形成する電解質層形成ステップと、を含み、
前記中間層形成ステップにおいて、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下となり、非リム部の気孔率が3.5%以上10%以下となるように、前記中間層を形成する点にある。
【0033】
上記特徴構成によれば、中間層の剥離抑制及び電極層のリム部の劣化抑制という効果を奏し、且つ、高信頼性(高強度)、高耐久性を備えた電気化学素子を製造できる。
【0034】
本発明に係る電気化学素子の製造方法の更なる特徴構成は、
前記固体電解質層を形成する電解質層形成ステップと、
前記機能層形成ステップとして、前記固体電解質層の上に反応防止層を形成する反応防止層形成ステップと、を含み、
前記反応防止層形成ステップにおいて、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下となり、非リム部の気孔率が3.0%以上10%以下となるように、前記反応防止層を形成する点にある。
【0035】
上記特徴構成によれば、電解質層からの反応防止層の剥離が抑制され、且つ、高信頼性(高強度)、高耐久性を備えた電気化学素子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】一実施形態に係る電気化学素子の概略構成を示す図である。
図2】一実施形態に係る電気化学素子を示す上面図である。
図3】一実施形態に係る電気化学素子を示す上面図である。
図4】ロール加圧成形の手順を説明するための模式図である。
図5】一実施形態に係る電気化学モジュールの概略構成を示す図である。
図6】一実施形態に係る電気化学装置及びエネルギーシステムの概略構成を示す図である。
図7】実施例1の電気化学素子における積層方向中央部及び周縁部の断面SEM画像である。
図8】実施例2の電気化学素子における積層方向中央部及び周縁部の断面SEM画像である。
図9】別実施形態に係る電気化学装置及びエネルギーシステムの概略構成を示す図である。
図10】別実施形態に係る電気化学モジュールの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、一実施形態に係る電気化学素子、当該電気化学素子の製造方法、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)、電気化学モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステムについて説明する。本実施形態において、電気化学素子は、水素を含む燃料ガスと空気(酸化剤ガス)の供給を受けて発電する固体酸化物形燃料電池の構成要素として用いる。なお、以下において、層の位置関係などを表す際に、例えば、電解質層から見て対極電極層の側を「上」又は「上側」、電極層の側を「下」又は「下側」という場合がある。また、金属支持体における電極層が形成されている側の面を「表側の面」、反対側の面を「裏側の面」という場合がある。
【0038】
〔電気化学素子E〕
図1は、一実施形態に係る電気化学素子Eの概略構成を示す図である。図1に示すように、電気化学素子Eは、金属支持体1と、電極層2と、電極層2の上に形成された中間層3と、中間層3の上に形成された電解質層4と、電解質層4の上に形成された反応防止層5と、反応防止層5の上に形成された対極電極層6とを有した、いわゆる金属支持型電気化学素子である。なお、本実施形態において、中間層3及び反応防止層5は「機能層」に相当し、電解質層4は「固体電解質層」に相当する。つまり、本実施形態においては、電極層2の上に機能層としての中間層3が配置され、電解質層4の上に機能層としての反応防止層5が配置されている。
【0039】
〔金属支持体1〕
金属支持体1は、電極層2、中間層3、電解質層4、反応防止層5及び対極電極層6を支持して電気化学素子Eの強度を保つ。つまり、金属支持体1は、電気化学素子Eの構成要素を支持する支持体としての役割を担う。
【0040】
金属支持体1の材料としては、電子伝導性、耐熱性、耐酸化性及び耐腐食性に優れた材料が用いられる。例えば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、ニッケル基合金などが用いられる。特に、クロムを含む合金が好適に用いられる。本実施形態では、金属支持体1は、Crを18質量%以上25質量%以下含有するFe-Cr系合金を用いているが、Mnを0.05質量%以上含有するFe-Cr系合金、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Ti及びZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金であると特に好適である。
なお、金属支持体1がフェライト系ステンレス材から構成されると、安価で強度が高い電気化学素子を実現できるので好ましい。
【0041】
金属支持体1は全体として板状である。金属支持体1は、支持体として電気化学素子Eを形成するのに充分な強度を有すれば良く、その厚さは、強度を確保するという観点で、例えば、0.1mm以上であると好ましく、0.15mm以上であるとより好ましく、0.2mm以上であると更に好ましい。また、その厚さは、コストを抑制するという観点で、例えば、2mm以下であると好ましく、1mm以下であるとより好ましく、0.5mm以下であると更に好ましい。そして、金属支持体1は、電極層2が設けられる面(表側の面)から裏側の面へ貫通する複数の貫通孔1aを有する。本実施形態において、金属支持体1は、金属板の表側の面と裏側の面とを貫通するように、パンチング加工やエッチング加工、レーザー加工などの、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工(孔加工)などにより、複数の貫通孔1aを設けた金属板である。これにより、金属支持体1の裏側の面から電極層2側への燃料ガス及び空気の供給をスムーズにできるので高性能な電気化学素子Eを実現できる。
なお、板状の金属支持体1を曲げたりして、例えば箱状、円筒状などの形状に変形させて使用することも可能である。
【0042】
金属支持体1の表面には、拡散防止層としての金属酸化物層1bが設けられる。金属酸化物層1bは、金属支持体1の外部に露出した面だけでなく、電極層2との接触面(界面)及び貫通孔1aの内側の面にも設けられる。この金属酸化物層1bにより、金属支持体1と電極層2との間の元素相互拡散を抑制できる。例えば、金属支持体1としてクロムを含有するフェライト系ステンレスを用いた場合は、金属酸化物層1bが主にクロム酸化物となる。そして、金属支持体1のクロム原子等が電極層2や電解質層4へ拡散することを、クロム酸化物を主成分とする金属酸化物層1bが抑制する。金属酸化物層1bの厚さは、拡散防止性能の高さと電気抵抗の低さを両立させることのできる厚みであれば良く、最大厚さが3μm以下であることが好ましい。なお、サブミクロンオーダーであることがより好ましく、具体的には、平均的な厚さが0.3μm以上0.7μm以下程度であることがより好ましい。また、最小厚さは約0.1μm以上であることがより好ましい。また、最大厚さが約1.1μm以下であることが好ましい。
【0043】
なお、金属酸化物層1bは、種々の手法により形成され得るが、金属支持体1の表面を酸化させて金属酸化物とする手法が好適に利用される。また、金属支持体1の表面に、金属酸化物層1bをスパッタリング法やPLD法等のPVD法、CVD法、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)などにより形成しても良いし、メッキと酸化処理によって形成しても良い。更に、金属酸化物層1bは導電性の高いスピネル相などを含んでも良い。
【0044】
〔電極層2〕
電極層2は、図1に示すように、金属支持体1の貫通孔1aが形成された領域(穿孔領域)を覆うように金属支持体1の表面に薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。また、金属支持体1の穿孔領域は、その全体が電極層2に覆われている。つまり、貫通孔1aは、金属支持体1における電極層2が形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔1aは、電極層2に面して設けられている。
【0045】
電極層2の材料としては、ニッケル系化合物、セリア系酸化物、ジルコニア系酸化物、ペロブスカイト系複合酸化物から選択される少なくとも1つ又はこれらを組み合わせて用いることができる。例えば、NiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いることができる。これらの例では、GDC、YSZ、CeOを複合材の骨材と呼ぶことができる。以上の材料を用いて構成される電極層2は、アノードとして機能する。これらの材料を用いることで、ナノ複合構造が形成され、電極層2が十分な電極性能を備えたものとなる。
【0046】
なお、電極層2は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば、1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な電極層2が得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0047】
電極層2は、気体透過性を持たせるため、その内部及び表面に複数の細孔を有する。即ち、電極層2は、多孔質な層として形成される。電極層2の気孔率は、三次元的なガスの拡散パスを形成するという観点から、5%以上であることが好ましく、5%以上60%以下であることがより好ましい。また、電極層2は、例えば、その緻密度が40%より大きく95%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。なお、緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-気孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。
【0048】
〔中間層3〕
次に、中間層3について、図1及び図2を参照しつつ以下説明する。なお、図2は、電気化学素子Eを示す上面図であるが、同図では電解質層4、反応防止層5及び対極電極層6について図示を省略している。
【0049】
図1及び図2に示すように中間層3は、電極層2を覆った状態で、電極層2の上に薄層の状態で形成されている。このように、中間層3は、多孔質である電極層2の上に緻密な電解質層4を形成するために、両者を連続的に接続させ、電気化学素子Eの製造時や運転時にかかる各種応力を緩和する緩衝効果を有する層として、両者の間に配置される。なお、薄層とする場合は、その厚さを例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な中間層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。
【0050】
図1及び図2に示すように、中間層3は、積層方向視における周縁部たるリム部3aと当該リム部3a以外の部位である非リム部3bとを有している。本実施形態において、中間層3のリム部3aは、少なくとも一部が積層方向視において電極層2と重複し、非リム部3bは、全体が積層方向視において電極層2と重複する。具体的に、本実施形態における中間層3のリム部3aは、金属支持体1の表面に形成された部分と積層方向視において電極層2のリム部と重複する部分(電極層2のリム部の表面に形成された部分)とからなる枠状の部位である。また、中間層3の非リム部3bは、電極層2の表面に形成され、リム部3aの枠内に位置する部分である。
【0051】
中間層3は、リム部3aが非リム部3bよりも多孔質である。このように、リム部3aが非リム部3bよりも多孔質であることにより、中間層3の剥離や電極層2の劣化を抑制できる。
【0052】
具体的に説明すると、電気化学素子Eの製造時や使用時における昇降温に伴って当該電気化学素子Eを構成する電極層2や中間層3、電解質層4などが膨張収縮し、これら各層の熱膨張係数の違いによって電極層2と中間層3との間や中間層3と電解質層4との間に応力が生じる。その際、中間層3のリム部3aが非リム部3bよりも多孔質であることにより、中間層3のリム部3aによって上記応力が吸収緩和され、中間層3の剥離が抑制される。
【0053】
また、本実施形態では、後述するように電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池の発電セルとして用いた際に、電極層2が燃料極となり、発電反応に伴って当該電極層2では水蒸気が発生する。上記のように、中間層3のリム部3aが非リム部3bよりも多孔質であることにより、金属支持体1の貫通孔1aから水蒸気が放出され難い電極層2のリム部からも中間層3のリム部3aに水蒸気が放出されるため、電極層2の劣化を抑制できる。
【0054】
なお、中間層3の剥離抑制及び電極層2のリム部の劣化抑制という効果を十分に得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めるという観点から、中間層3は、非リム部3bの気孔率に対するリム部3aの気孔率の比(リム部3aの気孔率/非リム部3bの気孔率)が1.2以上4.5以下であることが好ましく、1.3以上4.0以下であることがより好ましく、1.5以上3.3以下であることが更に好ましい。
【0055】
また、上記と同様に、中間層3の剥離抑制及び電極層2のリム部の劣化抑制という効果を十分に得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めるという観点から、中間層3は、リム部3aの気孔率が15.5%以上26%以下であり、非リム部3bの気孔率が3.5%以上10%以下であると好ましい。なお、リム部3aの気孔率は、13%以上22%以下であることがより好ましく、14%以上20%以下であることが更に好ましい。一方、非リム部3bの気孔率は、3.5%以上11.5%以下であることがより好ましく、4.0%以上10.0%以下であることが更に好ましい。
【0056】
また、上記と同様に、中間層3の剥離抑制及び電極層2のリム部の劣化抑制という効果を十分に得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めるという観点から、積層方向視におけるリム部3aの面積と非リム部3bの面積との比は、5以上15以下であると好ましく、6以上10以下であることがより好ましく、6.5以上8.5以下であることが更に好ましい。
【0057】
また、中間層3全体としては、気孔率が電解質層4に比べて大きくなるように形成される。これによって中間層3は、金属支持体1上に多孔質な電極層2と緻密な電解質層4が形成された場合であっても、各層間で、各種の応力を吸収、緩和し易く、電気化学素子E全体としての性能、信頼性、安定性を高め易い。
【0058】
中間層3の材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0059】
なお、中間層3は、酸素イオン(酸化物イオン)伝導体や、酸素イオン(酸化物イオン)及び電子の双方の伝導性を有する混合伝導体であると好ましい。このような性質を有する中間層3は、電気化学素子Eへの適用に適している。
【0060】
詳細については後述するが、中間層3は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これら低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば、1100℃より高い高温域での焼成を用いずに中間層3が得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、金属支持体1と電極層2との元素相互拡散を抑制でき、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0061】
〔電解質層4〕
図1に示すように、電解質層4は、中間層3の上に薄層の状態で形成される。なお、電解質層4の厚さは、例えば10μm以下であることが好ましい。本実施形態において、電解質層4は、中間層3の上と金属支持体1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層4を金属支持体1に接合することで、電気化学素子Eを全体として堅牢性に優れたものとすることができる。
【0062】
また、電解質層4は、金属支持体1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域よりも大きな領域に設けられる。つまり、貫通孔1aは、金属支持体1における電解質層4が形成された領域の内側に形成されている。これにより、電解質層4の周囲において、電極層2及び中間層3からのガスのリークを抑制することができる。説明すると、電気化学素子EをSOFCの構成要素として用いる場合、SOFCの作動時には、金属支持体1の裏側から貫通孔1aを通じて電極層2へガスが供給される。電解質層4が金属支持体1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。
【0063】
電解質層4の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等の酸素イオンを伝導する電解質材料や、ペロブスカイト型酸化物等の水素イオンを伝導する電解質材料を用いることができる。特に、ジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。電解質層4をジルコニア系セラミックスとすると、電気化学素子Eを用いたSOFCの稼働温度をセリア系セラミックスや種々の水素イオン伝導性材料に比べて高くすることができる。例えば、本実施形態のように、電気化学素子EをSOFCに用いる場合、電解質層4の材料としてYSZのような650℃程度以上の高温域でも高い電解質性能を発揮できる材料を用い、システムの原燃料に都市ガスやLPG等の炭化水素系の原燃料を用い、原燃料を水蒸気改質等によってSOFCのアノードガスとするシステム構成とすると、SOFCのセルスタックで生じる熱を原燃料ガスの改質に用いる高効率なSOFCシステムを構築することができる。なお、本実施形態において、電解質層4は安定化ジルコニアを含有している。
【0064】
電解質層4は、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば、1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4が得られる。そのため、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、スプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4が低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0065】
電解質層4は、アノードガスやカソードガスのガスリークを遮蔽し、且つ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層4の緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層4は、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層4が、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層の一部に含まれていると、電解質層が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層を形成しやすくできるからである。
【0066】
〔反応防止層5〕
次に、反応防止層5について、図1及び図3を参照しつつ以下説明する。なお、図3は、電気化学素子Eを示す上面図であるが、同図では中間層3及び対極電極層6について図示を省略している。
【0067】
図1及び図3に示すように、反応防止層5は、電解質層4の上に薄層の状態で形成されている。反応防止層5を薄層とする場合には、その厚さを例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは3μm~15μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。
【0068】
図1及び図3に示すように、反応防止層5は、積層方向視における周縁部たるリム部5aと当該リム部5a以外の部位である非リム部5bとを有している。本実施形態において、反応防止層5のリム部5aは、全体が積層方向視において電解質層4と重複し、少なくとも一部が積層方向視において電極層2と重複する。一方、反応防止層5の非リム部5bは、全体が積層方向視において電極層2及び電解質層4と重複する。具体的に、本実施形態における反応防止層5のリム部5aは、電解質層4の表面のうち積層方向視で電極層2と重複しない箇所に形成された部分と積層方向視で電極層2のリム部と重複する箇所に形成された部分とからなる枠状の部位である。また、反応防止層5の非リム部5bは、電解質層4の表面に形成され、リム部5aの枠内に位置する部分である。
【0069】
反応防止層5は、リム部5aが非リム部5bよりも多孔質である。このように、反応防止層5のリム部5aが非リム部5bよりも多孔質であることにより、反応防止層5の剥離を抑制できる。
【0070】
具体的に説明すると、電気化学素子Eの製造時や使用時における昇降温に伴って当該電気化学素子Eを構成する電解質層4や反応防止層5、対極電極層6などが膨張収縮し、これら各層の熱膨張係数の違いによって電解質層4と反応防止層5との間や反応防止層5と対極電極層6との間に応力が生じる。その際、反応防止層5のリム部5aが非リム部5bよりも多孔質であることにより、反応防止層5のリム部5aによって上記応力が吸収緩和され、反応防止層5の剥離が抑制される。
【0071】
なお、反応防止層5の剥離抑制という効果を得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めるという観点から、反応防止層5は、非リム部5bの気孔率に対するリム部5aの気孔率の比(リム部5aの気孔率/非リム部5bの気孔率)が1.2以上4.5以下であることが好ましく、1.3以上4.0以下であることがより好ましく、1.5以上3.3以下であることが更に好ましい。
【0072】
また、上記と同様に、反応防止層5の剥離抑制という効果を得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めるという観点から、反応防止層5は、リム部5aの気孔率が15.5%以上26%以下であり、非リム部5bの気孔率が3.0%以上10%以下であると好ましい。なお、リム部5aの気孔率は、13%以上22%以下であることがより好ましく、14%以上20%以下であることが更に好ましい。一方、非リム部5bの気孔率は、3.5%以上11.5%以下であることがより好ましく、4.0%以上10.0%以下であることが更に好ましい。
【0073】
また、上記と同様に、反応防止層5の剥離抑制という効果を得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めるという観点から、積層方向視におけるリム部5aの面積と非リム部5bの面積との比は、5以上15以下であると好ましく、6以上10以下であることがより好ましく、6.5以上8.5以下であることが更に好ましい。
【0074】
反応防止層5の材料としては、電解質層4の成分と対極電極層6の成分との間の反応を防止できる材料であれば良いが、例えばセリア系材料等が用いられる。また、反応防止層5の材料として、Sm、Gd及びYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有する材料が好適に用いられる。なお、Sm、Gd及びYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有し、これら元素の含有率の合計が1.0質量%以上10質量%以下であるとよい。反応防止層5を電解質層4と対極電極層6との間に導入することにより、対極電極層6の構成材料と電解質層4の構成材料との反応が効果的に抑制され、電気化学素子Eの性能の長期安定性を向上できる。
【0075】
なお、反応防止層5は、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有することが好ましい。また、酸素イオン(酸化物イオン)及び電子の双方の伝導性を有する混合伝導体であると更に好ましい。このような性質を有する反応防止層5は、電気化学素子Eへの適用に適している。
【0076】
詳細については後述するが、反応防止層5は、中間層3と同様に、低温焼成やスプレーコーティング法、PVD法、CVD法などの方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。なお、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0077】
〔対極電極層6〕
対極電極層6は、反応防止層5の上に薄層の状態で形成することができる。なお、対極電極層6の厚さは、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な対極電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。
【0078】
対極電極層6の材料としては、例えば、LSCF、LSM等の複合酸化物、セリア系酸化物及びこれらの混合物を用いることができる。特に、対極電極層6が、La、Sr、Sm、Mn、Co及びFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成される対極電極層6は、カソードとして機能する。
【0079】
なお、対極電極層6の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1と電極層2との元素拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば、1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PDV法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0080】
〔電気化学素子の製造方法〕
次に、電気化学素子Eの製造方法について説明する。本実施形態に係る電気化学素子Eの製造方法は、電極層形成ステップ、中間層形成ステップ、電解質層形成ステップ、反応防止層形成ステップ及び対極電極層形成ステップを含む。なお、本実施形態において、中間層形成ステップ及び反応防止層形成ステップが「機能層形成ステップ」に相当する。
【0081】
〔電極層形成ステップ〕
電極層形成ステップでは、金属支持体1上に電極層2が薄層の状態で形成される。電極層2の形成は、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0082】
電極層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず、電極層2の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属支持体1の表側の面に塗布する(電極層積層工程)。次に、電極層2を圧縮成形し(電極層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(電極層焼成工程)。電極層2の圧縮成形は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing ;冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing;ゴム型等方圧加圧)成形などにより行うことができる。また、電極層平滑化工程と電極層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。なお、電極層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0083】
また、本実施形態において、電極層形成ステップでの電極層焼成工程を行った際に、金属支持体1の表面に金属酸化物層1b(拡散防止層)が形成される。なお、電極層形成ステップでの電極層焼成工程を行う前に、別途、拡散防止層を形成する工程を行うようにしてもよい。
【0084】
〔中間層形成ステップ〕
中間層形成ステップでは、電極層2を覆う形態で、電極層2の上に中間層3が薄層の状態で形成される。中間層3の形成は、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0085】
中間層形成ステップを低温焼成法で行う場合、本実施形態では、以下のように行う。まず、中間層3の材料粉末とバインダーと溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作製し、電極層2を覆うように電極層2の表側の面及び金属支持体1の表側の面に塗布し(中間層積層工程)、400℃以上500℃以下で仮焼成する(中間層仮焼成工程)。そして、仮焼成後の中間層3を圧縮成形し(中間層平滑化工程)、1100℃以下で焼成(本焼成)する(中間層焼成工程)。
【0086】
本実施形態においては、中間層平滑化工程における中間層3の圧縮成形をロール加圧成形により行う。図4は、中間層平滑化工程の手順を説明するための模式図である。以下、図4を参照しつつ、中間層平滑化工程の手順を説明する。
【0087】
図4に示すように、中間層平滑化工程では、上プレスロールR1及び下プレスロールR2を備えたロール加圧成形機を用い、所定の加工条件(送り出し速度0.2~5.0m/minや加圧力線圧200~500kN/m)の下で、上プレスロールR1と下プレスロールR2との間に対象物(本実施形態では電極層2、仮焼成後の中間層3が表面に形成された金属支持体1)を進入させる。そして、仮焼成後の中間層3のリム部3aや非リム部3bを加圧しながらロール間に対象物を通過させ、仮焼成後の中間層3全体を圧縮する。なお、上下のプレスロールR1,R2による加圧は、送り出し方向を変えずに、或いは、送り出し方向を90°変えて複数回行うことが好ましい。
【0088】
ここで、金属支持体1の上に電極層2が形成され、当該電極層2を覆うように仮焼成後の中間層3が形成されている場合、上プレスロールR1と下プレスロールR2との間を通過する際に、中間層3のリム部3a(積層方向視における周縁部)に対して作用する加圧力よりも中間層3の非リム部3bに作用する加圧力の方が強くなる。その結果、中間層3のリム部3aは、非リム部3bよりも気孔率が高くなる。
【0089】
このように、中間層3の圧縮成形をロール加圧成形により行うことで、リム部3aが非リム部3bよりも多孔質な中間層3を形成することができる。
【0090】
なお、中間層仮焼成工程は、後工程での中間層の圧縮成形をロール加圧成形により可能にすべく、塗布した中間層ペーストの一部を焼結させる目的で行われるものである。したがって、中間層3の仮焼成は、ロール加圧成形による圧縮成形が可能な状態の中間層3が形成される条件であれば、特に限定されるものではないが、例えば、中間層3の仮焼成は、300℃以上700℃以下の温度で行うと好適である。また、中間層3の仮焼成は、400℃以上600℃以下で行うとより好ましく、500℃以下で行うと更に好ましい。これは、ロール加圧成形による圧縮成形が可能な状態の中間層3をより形成し易くなるからである。
【0091】
また、中間層平滑化工程のロール加圧成形の加工条件は、リム部3aが非リム部3bよりも多孔質な中間層3が形成され、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下、非リム部の気孔率が3.5%以上10%以下となるように適宜設定すればよいが、例えば、送り出し速度は、0.2m/min以上5.0m/min以下とすると好適である。また、送り出し速度は、0.5m/min以上3.0m/min以下とすることがより好ましく、0.7m/min以上2.0m/min以下とすることが更に好ましい。また、加圧力については、例えば、200kN/m以上500kN/m以下とすると好適であり、220kN/m以上450kN/m以下とするとより好ましく、250kN/m以上400kN/m以下とすることが更に好ましい。
【0092】
中間層焼成工程での中間層3の本焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で焼成を行うと好適である。また、中間層3の本焼成は、1050℃以下で行うとより好ましく、1000℃以下で行うと更に好ましい。これは、中間層3の焼成温度を低下させる程に、金属支持体1の損傷、劣化をより抑制しつつ、電気化学素子Eを形成できるからである。
【0093】
〔電解質層形成ステップ〕
電解質層形成ステップでは、電極層2及び中間層3を覆った状態で、電解質層4が中間層3の上に薄層の状態で形成される。電解質層4の形成は、上述した低温域で使用可能な成膜方法を用いることができるが、スプレーコーティング法を用いることが好ましい。特に、緻密で気密性及びガスバリア性能の高い、良質な電解質層4を1100℃以下の温度域で形成する上では、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジション法、パウダージェットデポジション法、パーティクルジェットデポジション法のいずれかを用いることがより好ましい。本実施形態では、エアロゾルデポジション法を用いて電解質層4を形成する。具体的には、エアロゾル化した電解質層4の材料粉末(本実施形態ではYSZやSSZなどの安定化ジルコニアの微粉末)を金属支持体1上の中間層3に向けて噴射し、電解質層4を形成する。
【0094】
〔反応防止層形成ステップ〕
反応防止層形成ステップでは、電解質層4の上に反応防止層5が薄層の状態で形成される。反応防止層5の形成は、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0095】
反応防止層形成ステップを低温焼成法で行う場合、本実施形態では、以下のように行う。まず、反応防止層5の材料粉末とバインダーと溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作製し、電解質層4の表面に塗布し(反応防止層積層工程)、400℃以上500℃以下で仮焼成する(反応防止層仮焼成工程)。そして、仮焼成後の反応防止層5を圧縮成形し(反応防止層平滑化工程)、1100℃以下で焼成(本焼成)する(反応防止層焼成工程)。
【0096】
本実施形態において、反応防止層平滑化工程における反応防止層5の圧縮成形についても中間層平滑化工程における中間層3の圧縮形成と同様にロール加圧成形により行う。詳細な説明については省略するが、反応防止層平滑化工程では、対象物(本実施形態では電極層2、中間層3、電解質層4、仮焼成後の反応防止層5が表面に形成された金属支持体1)をロール間に通過させ、仮焼成後の反応防止層5全体を圧縮する作業を一又は複数回行う。
【0097】
このように、反応防止層5の圧縮成形をロール加圧成形により行うことで、リム部5aが非リム部5bよりも多孔質な反応防止層5を形成することができる。
【0098】
なお、反応防止層仮焼成工程は、後工程での反応防止層5の圧縮成形をロール加圧成形により可能にすべく、塗布した反応防止層ペーストの一部を焼結させる目的で行われるものである。したがって、反応防止層5の仮焼成は、ロール加圧成形による圧縮成形が可能な状態の反応防止層5が形成される条件であれば、特に限定されるものではないが、例えば、反応防止層5の仮焼成は、300℃以上700℃以下の温度で行うと好適である。また、反応防止層5の仮焼成は、400℃以上600℃以下で行うとより好ましく、500℃以下で行うと更に好ましい。これは、ロール加圧成形による圧縮成形が可能な状態の反応防止層5をより形成し易くなるからである。
【0099】
また、反応防止層平滑化工程のロール加圧成形の加工条件は、リム部5aが非リム部5bよりも多孔質な反応防止層5が形成され、リム部の気孔率が15.5%以上26%以下、非リム部の気孔率が3.0%以上10%以下となるように適宜設定すればよいが、例えば、送り出し速度は、0.2m/min以上5.0m/min以下とすると好適である。また、送り出し速度は、0.5m/min以上3.0m/min以下とすることがより好ましく、0.7m/min以上2.0m/min以下とすることが更に好ましい。また、加圧力については、例えば、200kN/m以上500kN/m以下とすると好適であり、220kN/m以上450kN/m以下とするとより好ましく、250kN/m以上400kN/m以下とすることが更に好ましい。
【0100】
反応防止層焼成工程での反応防止層5の本焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で焼成を行うと好適である。また、反応防止層5の本焼成は、1050℃以下で行うとより好ましく、1000℃以下で行うと更に好ましい。これは、反応防止層5の焼成温度を低下させる程に、金属支持体1の損傷、劣化をより抑制しつつ、電気化学素子Eを形成できるからである。
【0101】
〔対極電極層形成ステップ〕
対極電極層形成ステップでは、対極電極層6が反応防止層5の上に薄層の状態で形成される。対極電極層6の形成は、上述した成膜方法を用いることができるが、金属支持体1の劣化を抑制すべく、1100℃以下の低温域で使用可能な成膜方法を用いることが好ましい。
【0102】
以上のようにして、リム部3aが非リム部3bよりも多孔質(気孔率の高い)な中間層3と、リム部5aが非リム部5bよりも多孔質(気孔率の高い)な反応防止層5を有した電気化学素子Eを製造できる。
【0103】
〔固体酸化物形燃料電池〕
電気化学素子Eを上記のような構成とすることで、当該電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池の発電セルとして用いることができる。つまり、電気化学素子Eで発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池を実現できる。
【0104】
例えば、金属支持体1の裏側の面から貫通孔1aを通じて第一ガスとしての水素を含む燃料ガスを電極層2へ流通し、対極電極層6へ第二ガスとしての空気を流通し、所定の作動温度(例えば、500℃以上900℃以下)に維持する。そうすると、電解質層4に酸素イオンを伝導する電解質材料を用いた場合には、対極電極層6において空気に含まれる酸素Oが電子eと反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層4を通って電極層2へ移動する。電極層2においては、流通された燃料ガスに含まれる水素Hが酸素イオンO2-と反応し、水HOと電子eが生成される。
【0105】
電解質層4に水素イオンを伝導する電解質材料を用いた場合には、電極層2において流通された燃料ガスに含まれる水素Hが電子eを放出して水素イオンHが生成される。その水素イオンHが電解質層4を通って対極電極層6へ移動する。対極電極層6において空気に含まれる酸素Oと水素イオンH、電子eが反応し水HOが生成される。
【0106】
以上の反応により、電極層2と対極電極層6との間に電気化学出力として起電力が発生する。この場合、電極層2は燃料電池の燃料極(アノード)として機能し、対極電極層6は空気極(カソード)として機能する。
【0107】
なお、定格運転時に650℃以上の温度域で運転可能な固体酸化物形燃料電池であると、都市ガス等の炭化水素系ガスを原燃料とする燃料システムにおいて、原燃料を水素に変換する際に必要となる熱を燃料電池の排熱で賄うことが可能なシステムを構築できるため、燃料電池システムの発電効率を高めることができるのでより好ましい。また、定格運転時に900℃以下の温度域で運転される固体酸化物形燃料電池であると、電気化学素子EからのCr揮発の抑制効果が高められるのでより好ましく、定格運転時に850℃以下の温度域で運転される固体酸化物形燃料電池であると、Cr揮発の抑制効果を更に高められるので更に好ましい。
【0108】
〔電気化学モジュールM〕
次に、図5を参照して、電気化学モジュールMについて説明する。図5は、一実施形態に係る電気化学モジュールMの概略構成を示す図である。
【0109】
図5に示すように、電気化学モジュールMは、金属支持体1と金属支持体1の裏面に取り付けられたU字部材9とで筒状支持体が形成された状態の電気化学素子Eを備えている。そして、この電気化学素子Eが集電部材26を挟んで複数積層(複数集合)されて電気化学モジュールMが構成されている。なお、本実施形態では、集電部材26が、電気化学素子Eの対極電極層6とU字部材9とに接合され、両者を電気的に接続しているが、電気化学素子Eの対極電極層6とU字部材9とを直接電気的に接続する構成としてもよい。
【0110】
また、電気化学モジュールMは、ガスマニホールド17、終端部材及び電流引出し部を有する。複数積層された電気化学素子Eは、筒状支持体の一方の開口端部がガスマニホールド17に接続されて、ガスマニホールド17から気体の供給を受ける。供給された気体は、筒状支持体の内部を通流し、金属支持体1の貫通孔1aを通って電極層2に供給される。
【0111】
〔電気化学装置及びエネルギーシステム〕
次に、図6を参照して、上記電気化学モジュールMを用いて構築した電気化学装置Y及びエネルギーシステムZについて説明する。なお、図6は、一実施形態に係る電気化学装置及びエネルギーシステムの概略構成を示す図である。
【0112】
図6に示すように、エネルギーシステムZは、電気化学装置Yと、電気化学装置Yから流通される熱を再利用する排熱利用部としての熱交換器53とを有する。
【0113】
本実施形態において、電気化学装置Yは、電気化学モジュールMと、脱硫器31及び改質器34からなる燃料変換器と、電気化学モジュールMに対して燃料変換器で生成された還元成分を含有する燃料ガスを供給する燃料供給路46と、電気化学モジュールMから電力を取り出す出力部としての電力変換器の一種であるインバータ38とを有する。
【0114】
より具体的に言えば、電気化学装置Yは、脱硫器31や改質水タンク32、気化器33、改質器34、ブロア35、燃焼部36、インバータ38、制御部39、電気化学モジュールM、収納容器40等を有する。
【0115】
脱硫器31は、都市ガス等の炭化水素系の原燃料に含まれる硫黄化合物成分を除去(脱硫)する。原燃料中に硫黄化合物が含有される場合、脱硫器31を備えることにより、硫黄化合物による改質器34あるいは電気化学素子Eに対する影響を抑制することができる。気化器33は、改質水タンク32から供給される改質水から水蒸気を生成する。改質器34は、気化器33にて生成された水蒸気を用いて脱硫器31にて脱硫された原燃料を水蒸気改質して、水素を含む改質ガスを生成する。
【0116】
電気化学モジュールMは、改質器34から供給された改質ガスと、ブロア35から供給された空気とを用いて、電気化学反応させて発電する。燃焼部36は、電気化学モジュールMから排出される反応排ガスと空気とを混合させて、反応排ガス中の可燃成分を燃焼させる。
【0117】
電気化学モジュールMは、複数の電気化学素子Eとガスマニホールド17とを有する。複数の電気化学素子Eは互いに電気的に接続された状態で並列して配置され、電気化学素子Eの一方の端部(下端部)がガスマニホールド17に固定されている。電気化学素子Eは、ガスマニホールド17を通じて供給される改質ガスと、ブロア35から供給される空気とを電気化学反応させて発電する。
【0118】
インバータ38は、電気化学モジュールMの出力電力を調整して、商用系統(図示省略)から受電する電力と同じ電圧及び同じ周波数にする。制御部39は、電気化学装置Y及びエネルギーシステムZの運転を制御する。
【0119】
気化器33、改質器34、電気化学モジュールM及び燃焼部36は、収納容器40内に収納される。そして、改質器34は、燃焼部36での反応排ガスの燃焼により発生する燃焼熱を用いて原燃料の改質処理を行う。
【0120】
原燃料は、昇圧ポンプ41の作動により原燃料供給路42を通して脱硫器31に供給される。改質水タンク32内の改質水は、改質水ポンプ43の作動により改質水供給路44を通して気化器33に供給される。そして、原燃料供給路42は、脱硫器31よりも下流側の部位で、改質水供給路44に合流されており、収納容器40外にて合流された改質水と原燃料とが収納容器40内に備えられた気化器33に供給される。
【0121】
改質水は、気化器33にて気化されて水蒸気となる。気化器33にて生成された水蒸気を含む原燃料は、水蒸気含有原燃料供給路45を通して改質器34に供給される。改質器34にて原燃料が水蒸気改質され、水素ガスを主成分とする改質ガス(還元性成分を有する第一ガス)が生成される。改質器34にて生成された改質ガスは、燃料供給路46を通して電気化学モジュールMのガスマニホールド17に供給される。
【0122】
ガスマニホールド17に供給された改質ガスは、複数の電気化学素子Eに対して分配され、電気化学素子Eとガスマニホールド17との接続部である下端から電気化学素子Eに供給される。改質ガス中の主に水素(還元性成分)が、電気化学素子Eにて電気化学反応に使用される。反応に用いられなかった残余の水素ガスを含む反応排ガスが、電気化学素子Eの上端から燃焼部36に排出される。
【0123】
反応排ガスは、燃焼部36で燃焼され、燃焼排ガスとなって燃焼排ガス排出口50から収納容器40の外部に排出される。燃焼排ガス排出口50には、燃焼触媒部51(例えば、白金系触媒)が配置され、燃焼排ガスに含有される一酸化炭素や水素等の還元性成分が燃焼除去される。燃焼排ガス排出口50から排出された燃焼排ガスは、燃焼排ガス排出路52により熱交換器53に送られる。
【0124】
熱交換器53は、燃焼部36における燃焼で生じた燃焼排ガスと、供給される冷水とを熱交換させ、温水を生成する。すなわち、熱交換器53は、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部として動作する。
【0125】
なお、排熱利用部の代わりに、電気化学モジュールMから(燃焼されずに)排出される反応排ガスを利用する反応排ガス利用部を設けてもよい。反応排ガスには、電気化学素子Eにて反応に用いられなかった残余の水素ガスが含まれる。反応排ガス利用部では、残余の水素ガスを利用して、燃焼による熱利用や、燃料電池等による発電が行われ、エネルギーの有効利用がなされる。
【0126】
〔実施例〕
以下、実施例について説明する。
【0127】
〔実施例1〕
実施例1として、金属支持体1の上に下から順に燃料極層(電極層2)、中間層3、電解質層4、反応防止層5、空気極層(対極電極層6)を形成した電気化学素子を作製した。以下、具体的な作製手順について説明する。
【0128】
まず、60質量%のNiO粉末と40質量%のGDC粉末とを混合し、有機バインダーと有機溶媒とを加えて電極層ペーストを作製した。厚さ0.3mm、40mm角の正方形の金属支持体1の上に30mm角で塗布して電極層2を積層した。その後、金属支持体1に対して、焼成温度1100℃で1時間焼成処理を行った。
【0129】
次に、GDCの微粉末に有機バインダーと有機溶媒とを加えて中間層ペーストを作製した。電極層2を覆うように、金属支持体1上に34mm角で中間層ペーストを塗布して中間層3を積層した。その後、焼成温度400℃~500℃、大気雰囲気下で1~2時間仮焼成処理を行って有機バインダーの除去を行った。しかる後、ロール径100mmのロールプレス装置を用いてロール加圧成形を行った。ロール加圧成形では、中間層3を積層した金属支持体1をフィルムで挟み込み、送り出し速度0.2~5.0m/min、加圧力200~500kN/mの条件で加圧した。ロール加圧成形後、金属支持体1に対して、焼成温度1100℃で1~2時間焼成処理(本焼成)を行った。
【0130】
続いて、モード径0.7μm程度の8YSZ(イットリア安定化ジルコニア)粉末をドライエアでエアロゾル化して中間層3を覆うように噴き付けることで電解質層4を形成した。
【0131】
次に、GDCの微粉末に有機バインダーと有機溶媒とを加えて反応防止層ペーストを作製した。電解質層4上に34mm角で反応防止層ペーストを塗布して反応防止層5を積層した。その後、焼成温度400℃~500℃、大気雰囲気下で1~2時間仮焼成処理を行って有機バインダーの除去を行った。しかる後、ロール径100mmのロールプレス装置を用いてロール加圧成形を行った。ロール加圧成形では、反応防止層5を積層した金属支持体1をフィルムで挟み込み、送り出し速度0.2~5.0m/min、加圧力200~500kN/mの条件で加圧した。ロール加圧成形後、金属支持体1に対して、焼成温度1100℃で1~2時間焼成処理(本焼成)を行った。
【0132】
その後、GDC粉末とLSCF粉末とを混合し、有機バインダーと有機溶媒とを加えて対極電極層ペーストを作製した。反応防止層5上に対極電極層ペーストを塗布して対極電極層6を積層した。その後、金属支持体1に対して、焼成温度1100℃で1時間焼成処理を行い、電気化学素子Eを得た。
【0133】
〔実施例2〕
実施例2として、金属支持体1の上に下から順に燃料極層(電極層2)、中間層3、電解質層4を形成した電気化学素子を作製した。なお、作製手順は、実施例1と同様の方法で電解質層4まで積層した。
【0134】
図7は、実施例1の電気化学素子Eにおける積層方向中央部及び周縁部の断面SEM画像であり、図8は、実施例2の電気化学素子Eにおける積層方向中央部及び周縁部の断面SEM画像である。なお、各図中の気孔率は、以下の手順で算出した。各図中のSEM画像から中間層3及び反応防止層5を解析部分として選択し、選択した解析部分に関する画像について、空隙とそれ以外の部分とを可能な限り区別し得る画像となるように、画像処理ソフト「Image J」を使用してコントラストを調整し、空隙と認識できるコントラストが濃い黒い部分が全て選択されるコントラスト値を閾値として2値化処理し、空隙を特定した。そして、各解析部分に関する画像について、空隙に対応する総ピクセル数を各解析部分に関する画像全体の総ピクセル数で除することで得られる値をそれぞれ中間層3及び反応防止層5の気孔率とした。
【0135】
図7に示すように、実施例1の電気化学素子Eでは、積層方向中央部における中間層3の気孔率が9.58%、反応防止層5の気孔率が9.50%である。これに対して、積層方向周縁部における中間層3の気孔率は14.98%、反応防止層5の気孔率は19.77%である。つまり、実施例1の電気化学素子Eは、中間層3及び反応防止層5における各リム部3a,5a(周縁部)が非リム部3b,5b(周縁部)よりも多孔質となっている。また、実施例1の電気化学素子Eは、中間層3の非リム部3bの気孔率に対するリム部3aの気孔率の比、反応防止層5の非リム部5bの気孔率に対するリム部5aの気孔率の比が共に1.5以上4.5以下である。
【0136】
このように、中間層3や反応防止層5におけるリム部3a,5aが非リム部3b,5bよりも多孔質になっていることで、製造時や使用時の昇降温に伴って電気化学素子Eを構成する各層が膨張収縮し、電極層2と中間層3との間や電解質層4と反応防止層5との間に応力が生じたとしても、中間層3や反応防止層5のリム部3a,5aによって応力が吸収緩和され、これらの層の剥離が抑えられる。また、電気化学素子Eを燃料電池のセルとして使用した場合に、電極層2で発生した水蒸気が中間層3に放出されるため、電極層2のリム部の劣化が抑えられる。
【0137】
また、中間層3の非リム部3bの気孔率に対するリム部3aの気孔率の比や、反応防止層5の非リム部5bの気孔率に対するリム部5aの気孔率の比が1.5以上4.5以下であることで、機能層の剥離抑制及び電極層2のリム部の劣化抑制という効果を十分に得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めることができる。
【0138】
また、図8に示すように、実施例2の電気化学素子Eでは、中間層3の気孔率が積層方向中央部では4.82%であるのに対し、積層方向周縁部では15.76%である。つまり、実施例2の電気化学素子Eは、中間層3の非リム部3bの気孔率に対するリム部3aの気孔率の比が1.5以上4.5以下である。また、実施例2の電気化学素子Eは、中間層3のリム部3aの気孔率が15.5%以上26%以下の範囲内であり、且つ、非リム部3bの気孔率が3.5%以上10%以下の範囲内である。
【0139】
実施例2の電気化学素子Eのように、中間層3のみが、その非リム部の気孔率に対するリム部の気孔率の比が所定範囲内であったり、リム部と非リム部の気孔率がともに所定範囲内であっても、機能層の剥離抑制及び電極層2のリム部の劣化抑制という効果を十分に得つつ、電気化学素子Eの強度、耐久性を高めることができる。
【0140】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、機能層として中間層3及び反応防止層5の双方が形成され、両層がいずれも非リム部3b,5bよりもリム部3a,5aが多孔質である態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。機能層として中間層3及び反応防止層5のいずれか一方のみが形成された態様であってもよいし、中間層3及び反応防止層5が形成され、いずれか一方のみが非リム部3b,5bよりもリム部3a,5aが多孔質である態様であってもよい。
【0141】
〔2〕上記実施形態では、中間層3のリム部3aが金属支持体1の表面に形成された部分と積層方向視において電極層2のリム部と重複する部分(電極層2のリム部の表面に形成された部分)とからなる枠状の部位である態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、中間層3のリム部3aが金属支持体1の表面に形成された部分のみからなる枠状の部位である態様であってもよい。このような態様であっても、中間層3の剥離や電極層2の劣化を抑制できる。
【0142】
〔3〕上記実施形態では、中間層形成工程及び反応防止層形成工程において、ロール加圧成形により圧縮成形する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。中間層形成工程及び反応防止層形成工程は、非リム部よりもリム部が多孔質である中間層及び反応防止層を形成できれば、どのような態様であってもよい。ロール加圧成形を行う態様以外の態様としては、一軸プレス時にリム部分にザグリを入れることでリム部分にかかる荷重を低減させる方法や、非リム部分に原料の粒子径を小さくしたペーストを使用し、リム部分には原料の粒子径を大きくしたペーストを使用する方法等を例示できる。
【0143】
〔4〕上記実施形態では、電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池に用いる態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。電気化学素子Eを固体酸化物形電解セルや、固体酸化物を利用した酸素センサ等に利用する態様であってもよい。
電気化学素子Eを電解セルとして動作させる場合、電極層2に水蒸気や二酸化炭素を含有するガスを流通し、電極層2と対極電極層6との間に電圧を印加する。そうすると、電極層2において電子eと水HOや二酸化炭素分子COとが反応し、水素Hや一酸化炭素COと酸素イオンO2-となる。酸素イオンO2-は、電解質層4を通って対極電極層6へ移動する。そして、対極電極層6において酸素イオンO2-が電子を放出して酸素Oとなる。以上の反応により、水HOが水素Hと酸素Oとに電気分解される。二酸化炭素分子COを含有するガスが流通される場合は一酸化炭素COと酸素Oとに電気分解される。
図9には、電気化学素子Eを上述した電解反応によるガスの生成を行う電解セルとして動作させる場合の電気化学装置Y1及びエネルギーシステムZ1の一例を示した。同図に示すように、エネルギーシステムZ1は、電気化学装置Y1と、電気化学装置Y1から流通される熱を再利用する排熱利用部としての2つの熱交換器90,92とを有する。
この実施形態において、電気化学装置Y1は、電気化学モジュールMと、電気化学モジュールMで生成された水素などを基に炭化水素を合成する燃料変換器91と、電気化学モジュールMに電力を流通する電力変換器93とを有する。
この電気化学装置Y1において、電気化学モジュールMは、複数の電気化学素子Eと2つのガスマニホールド17,171とを有する。複数の電気化学素子Eは、互いに電気的に接続された状態で並列して配置される。電気化学素子Eは、一方の端部(下端部)がガスマニホールド17に固定されており、他方の端部(上端部)がガスマニホールド171に固定されている。電気化学素子Eの一方の端部におけるガスマニホールド17は、水蒸気及び二酸化炭素の供給を受ける。そして、電気化学素子Eで上述の反応により生成した水素及び一酸化炭素等が、他方の端部と連通するガスマニホールド171によって収集される。
また、この実施形態においては、熱交換器90を、燃料変換器91で起きる反応によって生ずる反応熱と水とを熱交換させ気化する排熱利用部として動作させるとともに、熱交換器92を、電気化学素子Eによって生ずる排熱と水蒸気及び二酸化炭素とを熱交換させ予熱する排熱利用部として動作させる構成とすることで、エネルギー効率を高められるようになっている。
また、電力変換器93は、電気化学モジュールMの電気化学素子Eに電力を流通する。これにより、電気化学素子Eは、電解セルとして作用する。
よって、上記構成によれば、電気エネルギーを燃料等の化学的エネルギーに変換する効率を向上できる電気化学装置Y1及びエネルギーシステムZ1を実現できる。
【0144】
〔5〕上記実施形態では、電気化学素子Eを電気化学モジュールMとして複数組み合わせて用いる態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。電気化学素子Eを単独で用いる態様であってもよい。
【0145】
〔6〕上記実施形態では、電極層2に水素ガスを流通して燃料極(アノード)とし、対極電極層6に空気を流通して空気極(カソード)とし、固体酸化物形燃料電池の発電セルとして用いる態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。電極層2の材料として、例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用い、対極電極層6の材料として、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用い、電極層2を空気極とし、対極電極層6を燃料極とする態様であってもよい。
【0146】
〔7〕上記実施形態では、電気化学モジュールMが、金属支持体1と金属支持体1の裏面に取り付けられたU字部材9とで筒状支持体が形成された状態の電気化学素子Eを備える態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、図10に示すように、電気化学素子Eをセル間接続部材71を間に挟んで積層することで、電気化学モジュールMを構成する態様であってもよい。
この場合、セル間接続部材71は、導電性を有し、且つ気体透過性を有さない板状の部材であり、表面と裏面とに互いに直交する溝72が形成されている。なお、セル間接続部材71は、ステンレス等の金属や、金属酸化物を用いることができる。
そして、このセル間接続部材71を間に挟んで電気化学素子Eを積層すると、溝72を通じて気体を電気化学素子Eに供給できる。詳しくは、一方の面に形成された溝72が第一気体流路72aとなり、電気化学素子Eの表側、即ち、対極電極層6に気体を供給する。また、他方の面に形成された溝72が第二気体流路72bとなり、電気化学素子Eの裏側、即ち、金属支持体1の裏側の面から貫通孔1aを通じて電極層2へ気体を供給する。
このように構成した電気化学モジュールMを固体酸化物形燃料電池の発電セルとして動作させる場合は、第一気体流路72aに空気を供給し、第二気体流路72bに水素を供給する。そうすると電気化学素子Eにて発電反応が進行し、起電力・電流が発生する。発生した電力は、積層された電気化学素子Eの両端のセル間接続部材71から、電気化学モジュールMの外部に取り出される。
なお、溝72は、セル間接続部材71の表面に形成されるものと裏面に形成されるものとが互いに並行であってもよい。
【0147】
〔8〕上記実施形態では、電気化学素子Eを主に平板型や円筒平板型の固体酸化物形燃料電池に用いる態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。電気化学素子Eを円筒型の固体酸化物形燃料電池などの素子に利用する態様であってもよい。
【0148】
〔9〕上記実施形態では、電気化学装置Yが、複数の電気化学素子Eを有する電気化学モジュールMを備える態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、電気化学装置が一つの電気化学素子Eを備える態様であってもよい。
【0149】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0150】
1 :金属支持体
2 :電極層
3 :中間層(機能層)
3a :リム部
3b :非リム部
4 :電解質層
5 :反応防止層(機能層)
5a :リム部
5b :非リム部
6 :対極電極層
31 :脱硫器(燃料変換器)
34 :改質器(燃料変換器)
38 :インバータ(電力変換器)
53 :熱交換器(排熱利用部)
90,92:熱交換器(排熱利用部)
91 :燃料変換器
93 :電力変換器
E :電気化学素子
M :電気化学モジュール
Y,Y1:電気化学装置
Z,Z1:エネルギーシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10