(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129626
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
F16D 23/12 20060101AFI20240919BHJP
F16D 48/06 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
F16D23/12 A
F16D28/00 A
F16D48/06 102
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038954
(22)【出願日】2023-03-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 真也
【テーマコード(参考)】
3J056
3J057
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056AA62
3J056BA06
3J056BB21
3J056DA02
3J056DA04
3J056DA12
3J056DA23
3J056DA24
3J056GA13
3J057AA02
3J057BB04
3J057GA12
3J057GA51
3J057GA80
3J057GE07
3J057HH06
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】アクチュエータによる操作と手動操作との重複する操作量を比較的簡単な構成でキャンセル可能な技術を提供すること。
【解決手段】クラッチ装置と、前記クラッチ装置のレリーズ操作部材に第一の連結部材を介して連結された電動アクチュエータと、前記レリーズ操作部材に第二の連結部材を介して操作者の操作を伝達するクラッチ操作子とを備えた鞍乗型車両であって、前記レリーズ操作部材は各連結部材が連結される連結部を有し、前記連結部は、前記第一の連結部材の第一の係合部を保持し、前記クラッチ操作子に対する操作による前記レリーズ操作部材の回動に対して前記第一の係合部の相対変位を許容するスロットと、前記第二の連結部材の第二の係合部を保持し、前記電動アクチュエータによる前記レリーズ操作部材の回動に対して、前記第二の係合部の相対変位を許容するスロットを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機(108)が出力する駆動力の伝達経路に配置され、前記駆動力の伝達を断接可能なクラッチ装置(120)と、
前記クラッチ装置(120)のレリーズ操作部材(128)に第一の連結部材(31a)を介して連結され、前記レリーズ操作部材(128)を回動させる電動アクチュエータ(10)と、
操作者が操作可能に設けられ、前記クラッチ装置(120)の前記レリーズ操作部材(128)に第二の連結部材(32a)を介して前記操作者の操作を伝達して前記レリーズ操作部材(128)を回動させるクラッチ操作子(113L)と、
を備えた鞍乗型車両(100)であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、前記第一の連結部材(31a)及び前記第二の連結部材(32a)が連結される連結部(128b)を有し、
前記連結部(128b)は、
前記第一の連結部材(31a)の第一の係合部(31c)を保持し、かつ、前記クラッチ操作子(113L)に対する操作による前記レリーズ操作部材(128)の回動に対して、前記第一の係合部(31c)の相対変位を許容する空間(172a)を形成する第一のスロット(SL1)と、
前記第二の連結部材(32a)の第二の係合部(32c)を保持し、かつ、前記電動アクチュエータ(10)による前記レリーズ操作部材(128)の回動に対して、前記第二の係合部(32c)の相対変位を許容する空間(172b)を形成する第二のスロット(SL2)と、を備える、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、回動自在に支持された軸部(128a)を備え、
前記第一のスロット(SL1)と前記第二のスロット(SL2)とは、前記軸部(128a)の軸方向に並ぶように配置される、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項3】
請求項2に記載の鞍乗型車両であって、
前記軸部(128a)の径方向(RD)に見て、前記第一のスロット(SL1)又は前記第二のスロット(SL2)の少なくともいずれか一方の一部が、前記軸部(128a)に重なっている、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項4】
請求項2に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、
前記軸部(128a)を形成する軸部材(16)と、
前記軸部材(16)とは別の部材であって、前記連結部(128b)を形成するレバー部材(17)と、を備え、
前記レバー部材(17)は、
前記軸部材(16)に固定される固定部(170)を有し、
前記軸方向で、前記固定部(170)は、前記第一のスロット(SL1 )よりも前記第二のスロット(SL2)に近い位置に設けられている、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項5】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、回動自在に支持された軸部(128a)を備え、
前記連結部(128b)は、前記軸部(128a)の一方の端部に配置され、
前記軸部(128a)の他方の端部には、前記軸部(128a)の回動量を検知するセンサ(9)が設けられ、
前記電動アクチュエータ(10)は、前記センサ(9)の検知結果に基づいて制御される、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項6】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、回動自在に支持された軸部(128a)を備え、
前記鞍乗型車両(100)の車幅方向(D2)で、前記第一のスロット(SL1)及び前記第二のスロット(SL2)は、前記軸部(128a)よりも内側に配置されている、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチ装置の断接を自動化する技術が提案されている。特許文献1には、鞍乗型車両の原動機(エンジン)の出力の伝達を断接するクラッチ装置をアクチュエータにより自動制御可能な装置が開示されている。特許文献1のクラッチ装置は、クラッチレバーを用いた手動操作にも対応可能な構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッチ装置に対する操作系統が、アクチュエータによる操作と手動操作との二系統ある場合、重複する操作量をキャンセルする必要がある。特許文献1の構造は、操作系統毎に、ケーブルが接続されるアームと、これらのアームを動作させるカム機構とを備えている。部品点数が多く構造が複雑化するという課題がある。構造の複雑化は、手動操作の操作性に影響を与える場合もある。
【0005】
本発明の目的は、アクチュエータによる操作と手動操作との重複する操作量を比較的簡単な構成でキャンセル可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
原動機(108)が出力する駆動力の伝達経路に配置され、前記駆動力の伝達を断接可能なクラッチ装置(120)と、
前記クラッチ装置(120)のレリーズ操作部材(128)に第一の連結部材(31a)を介して連結され、前記レリーズ操作部材(128)を回動させる電動アクチュエータ(10)と、
操作者が操作可能に設けられ、前記クラッチ装置(120)の前記レリーズ操作部材(128)に第二の連結部材(32a)を介して前記操作者の操作を伝達して前記レリーズ操作部材(128)を回動させるクラッチ操作子(113L)と、
を備えた鞍乗型車両(100)であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、前記第一の連結部材(31a)及び前記第二の連結部材(32a)が連結される連結部(128b)を有し、
前記連結部(128b)は、
前記第一の連結部材(31a)の第一の係合部(31c)を保持し、かつ、前記クラッチ操作子(113L)に対する操作による前記レリーズ操作部材(128)の回動に対して、前記第一の係合部(31c)の相対変位を許容する空間(172a)を形成する第一のスロット(SL1)と、
前記第二の連結部材(32a)の第二の係合部(32c)を保持し、かつ、前記電動アクチュエータ(10)による前記レリーズ操作部材(128)の回動に対して、前記第二の係合部(32c)の相対変位を許容する空間(172b)を形成する第二のスロット(SL2)と、を備える、
ことを特徴とする鞍乗型車両が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アクチュエータによる操作と手動操作との重複する操作量を比較的簡単な構成でキャンセル可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図6】(A)は軸方向を基準としたレバー部材の側面図、(B)は軸方向を基準としたレバー部材の平面図。
【
図9】
図3の制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
【
図10】
図3の制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
【
図11】
図3の制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
【
図12】
図3の制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<鞍乗型車両の概略>
図1及び
図2は本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両(以下、単に車両と呼ぶ)100の右側面図及び正面図である。車両100は、前輪FWと後輪RWとを各一輪備えた自動二輪車である。図中、矢印D1は車両100の前後方向を示し、矢印D2は幅方向(左右方向)を示す。Frは前側、Rrは後側を示す。Rは前進時の右側、Lは前進時の左側を示す。
【0011】
車両100は、その骨格をなす車体フレーム101を備える。車体フレーム101の前端には前輪操向部102が支持され、後端にはスイングアーム107が揺動自在に支持されている。前輪操向部102は、前輪FWを支持する左右一対のフロントフォーク103と、一対のフロントフォーク103の上部に取り付けられる操向ハンドル104とを含む。
【0012】
操向ハンドル104の右グリップ112Rは車両100の加速を操作者(ライダ)が指示可能な操作子(アクセルグリップ)である。右グリップ112Rに隣接して、前輪FWに対するライダの制動操作を受け付ける操作子(ブレーキレバー)113Rが回動自在に設けられている。操向ハンドル104の左グリップ112Lに隣接して、クラッチ装置120に対するライダの断接操作を受け付ける操作子(クラッチレバー)113Lが回動自在に設けられている。
【0013】
スイングアーム107は、その前端が車体フレーム101に揺動自在に支持され、その後端には後輪RWが支持されている。前輪FWと後輪RWとの間の領域において、車体フレーム101には原動機108と変速機109とが支持されている。原動機108は、本実施形態の場合、内燃機関であり、特に、並列四気筒の4ストローク・DOHC・水冷エンジンである。原動機108の排気ガスは排気管110、消音器111を含む排気通路を介して排出される。
【0014】
原動機108が出力する駆動力の伝達経路にはクラッチ装置120が配置されている。本実施形態の場合、クラッチ装置120は原動機108と変速機109との間に配置されており、変速機109に対する原動機108の駆動力の伝達を断接する。
【0015】
原動機108の駆動力は変速機109及び不図示のチェーン伝動機構を介して後輪RWに伝達される。原動機108の上方には、燃料タンク105が配置されており、燃料タンク105の後方にはライダが着座するシート106が配置されている。
【0016】
変速機109は原動機108の出力を変速する、マニュアル式で常時噛み合い式の変速機である。変速機109は、操作子115L(ギアチェンジペダル)に対するライダのシフト操作に応じて、複数のギア比(例えば一速~六速のギア比)と、ニュートラルとのいずれかの状態に切り替えられる。操作子115Lは、ライダが操作可能に左側のステップ114Lに隣接して設けられている。ライダは左側のステップ114Lに左足を置いて、操作子115Lを左足で操作することができる。
【0017】
操作子115Rは、ライダが操作可能に右側のステップ114Rに隣接して設けられているブレーキペダルである。ライダは右側のステップ114Rに右足を置いて、操作子115Rを右足で操作することで、後輪RWの制動操作を行うことができる。ステップ116R、116Lは同乗者用のステップである。
【0018】
クラッチ装置120は、本実施形態の場合、湿式多板コイルスプリング式のクラッチであり、その断接は電動アクチュエータ10により自動化されている。電動アクチュエータ10は車両100の前部で前輪操向部102の後方に配置されている。シート106の下方には制御ユニット2が配置されている。制御ユニット2は電動アクチュエータ10等の制御を行う。
【0019】
<制御装置>
図3は、クラッチ装置120を制御する制御装置1のブロック図である。制御装置1は、制御ユニット2を含む。制御ユニット2は、処理部21と、記憶部22と、インタフェース部23とを含む。処理部21はCPUに代表されるプロセッサであり、記憶部22に記憶されたプログラムを実行する。記憶部22は半導体メモリ等の記憶デバイスであり、処理部21が実行するプログラムや処理に使用されるデータ等が格納される。インタフェース部23は処理部21と、制御ユニット2の外部のデバイスとのデータの入出力を行う。処理部21は、後述するとおり、各種のセンサ3~9の検知結果に基づいて電動アクチュエータ10を駆動し、クラッチ装置120のクラッチ容量を変化させる制御を実行する。
【0020】
スロットル開度センサ3は、原動機108の各燃焼室への空気の流入量を調整するスロットル弁の開度を検知するセンサであり、例えば、スロットル軸の回転量を検知するロータリエンコーダである。エンジン回転数センサ4は原動機108の回転数を検知するセンサであり、例えば、原動機108のクランク角を検知する磁気式のクランク角センサである。
【0021】
シフトポジションセンサ5は、変速機109の状態(例えば、一速~六速のいずれか、又は、ニュートラル)を検知するセンサであり、例えば、変速機109のシフトドラム(不図示)の回転角を検知するセンサである。車速センサ6は車両100の車速を検知するセンサであり、例えば、前輪FWの回転量を検知するセンサである。シフト操作センサ7は、操作子115Lに対するライダのシフト操作を検知するセンサであり、例えば操作子115Lの回動中心軸に作用する荷重を検知するトルクセンサである。
【0022】
入力部40は、ライダからの入力を受け付ける装置であり、例えば、スイッチ、タッチパネル等である。ライダは、各種の設定の選択等を入力部40から入力することができ、これにより制御ユニット2の処理部21はライダの選択等を認識する。表示部41はライダに情報を表示する装置であり、例えば、LED等のインジケータや、液晶表示装置等である。入力部40や表示部41は例えばハンドル104に搭載することができる。
【0023】
ここで、
図3に加えて
図4及び
図5を参照して操作量センサ8、回動量センサ9、電動アクチュエータ10及び伝達機構18を説明する。
図4はクラッチ装置120及び関連する構成の説明図である。
図5は伝達機構18の動作説明図である。
【0024】
クラッチ装置120は、原動機108のクランクシャフト(不図示)から原動機108の駆動力が入力される入力ギア122を備える。クラッチアウタ121は回転中心線X1の周りに入力ギア122と一体的に回転する。回転中心線X1は変速機109のメインシャフト109aの回転中心線(軸線)である。メインシャフト109aはクラッチセンタ123に結合されており、クラッチセンタ123と一体的に回転する。クラッチアウタ121とクラッチセンタ123との間には、円板状の複数のクラッチ板125が回転中心線X1の方向に積層されている。
【0025】
複数のクラッチ板125は、クラッチアウタ121と一体的に回転するクラッチ板と、クラッチセンタ123と一体的に回転するクラッチ板とが積層方向に交互に配置されており、これら複数のクラッチ板125の摩擦係合によってクラッチアウタ121とクラッチセンタ123との間の駆動伝達、すなわち、変速機109に対する原動機108の駆動力の伝達を行う。
【0026】
複数のクラッチ板125は、プレッシャプレート124を介してクラッチスプリング126の付勢力によりその積層方向に押圧され、摩擦係合する。クラッチスプリング126は回転中心線X1の周りに複数配置されている。
【0027】
クラッチ装置120は、レリーズ機構として、リフタシャフト127及びレリーズ操作部材128を備える。リフタシャフト127は、円筒形状のメインシャフト109aに端部が挿入され、回転中心線X1の方向であるD3方向にプレッシャプレート124と共に往復移動可能に設けられている。レリーズ操作部材128は、リフタシャフト127の軸方向(D3方向)と直交する方向に延びる軸部材であり、外部入力によりクラッチ装置120の駆動伝達を遮断するための部材である。
【0028】
レリーズ操作部材128は、クラッチカバー120aに、その軸線周り(回動中心線X2周り)に回動自在に支持されており、その上端部及び下端部がクラッチカバー120aの外部に露出している。レリーズ操作部材128は、クラッチカバー120aに回動自在に支持された軸部128aと、連結部128bとを有する。連結部128bは軸部128aの一方の端部に設けられており、本実施形態の場合軸部128aの下端部に設けられている。
【0029】
軸部128aの軸方向中央部には偏心カム部128cが形成されている。偏心カム部128cは、クラッチカバー120aの内側において、リフタシャフト127の端部の係合部127aと係合する。レリーズ操作部材128を所定の方向に回動させると、偏心カム部128cと係合部127aとの係合によって、リフタシャフト127を、複数のクラッチ板125の摩擦係合解除方向(
図4でD3方向右側)に移動させることができる。レリーズ操作部材128の回動量(作動角)とリフタシャフト127のD3方向の移動量は比例する。レリーズ操作部材128の回動により、複数のクラッチ板125の摩擦係合力を変化させてクラッチ装置120のクラッチ容量を変化させ、また、駆動伝達を遮断することができる。
【0030】
連結部128bには、連結部材31aを介して電動アクチュエータ10が連結され、また、連結部材32aを介して操作子113Lが連結される。本実施形態の場合、連結部材31aはケーブル31のインナケーブルであり、以下の説明においてインナケーブル31aと呼ぶ場合がある。また、本実施形態の場合、連結部材32aはケーブル32のインナケーブルであり、以下の説明においてインナケーブル32aと呼ぶ場合がある。
【0031】
電動アクチュエータ10はその駆動により、レリーズ操作部材128を回動中心線X2周りに回動させる。ライダが操作子113Lを操作することにより、この操作がレリーズ操作部材128に伝達されてレリーズ操作部材128を回動中心線X2周りに回動させる。すなわち、本実施形態では、レリーズ操作部材128を操作子113Lに対するライダの手動操作と、電動アクチュエータ10による自動操作との双方で操作可能となっている。言い換えると、車両100では、クラッチ装置120を介した駆動伝達を、操作子113Lに対するライダの手動操作に応じて断接可能であると共に、電動アクチュエータ10を用いて自動制御可能でもある。連結部128bとクラッチカバー120aとの間にはレリーズ操作部材128を初期位置に付勢するリターンスプリング129が設けられている。
【0032】
電動アクチュエータ10は、本実施形態の場合、ロッド13がD4方向に往復移動する電動シリンダである。電動アクチュエータ10は、電動モータである駆動源11と、駆動源11の出力軸の回転運動をロッド13の直線運動に変換する変換機構部12と、を含む。変換機構部12は例えばボールねじ機構や送りねじ機構等の変換機構を内蔵する。ロッド13には保持具14を介してインナケーブル31aが連結されている。
【0033】
電動アクチュエータ10の駆動により、インナケーブル31aを引っ張ると、その操作入力がレリーズ操作部材128に伝達され、レリーズ操作部材128を回動させてクラッチ装置120のクラッチ容量を低下させることができる。逆にインナケーブル31aを戻す(送り出す)とクラッチスプリング126の付勢によりレリーズ操作部材128がその初期位置の側に戻ってクラッチ容量が増大する。このため、制御ユニット2は、駆動源11を制御することで電動アクチュエータ10を駆動してレリーズ操作部材128を回動(回動)させ、クラッチ装置120のクラッチ容量を変更することができる。
【0034】
なお、本実施形態では電動アクチュエータ10として電動シリンダを例示したがこれに限られない。例えば、電動アクチュエータ10はインナケーブル31aの巻き取り、巻き戻しが可能なドラムを備えた電動ドラム等であってもよい。
【0035】
ケーブル31及び32は、全体として湾曲可能な可撓性を有し、かつ、インナケーブル31a及び32aと、インナケーブル31a及び32aが挿通するアウタケーブル31b及び32bとを有する。
【0036】
インナケーブル31a及び32aは弾性変形可能な線材であり、例えば金属製のワイヤである。インナケーブル31a及び32aの両端部には、円柱形状の係合部31c及び32cがそれぞれ固定されている。インナケーブル31a及び32aの一方の係合部31c、32cは連結部128bのスロットSL1及びSL2に保持される。アウタケーブル31b及び32bは湾曲可能な可撓性を有する管であり、アウタケーブル31b及び32bの、レリーズ操作部材128側の端部は、それぞれ、キャッチャ19に保持されている。
【0037】
連結部128bは、インナケーブル31a及び32aを介して操作子113Lや電動アクチュエータ10の操作入力をレリーズ操作部材128に伝達する部分である。スロットSL1及びSL2は、軸部128aよりもD2方向で内側(左側)に配置されている。スロットSL1及びSL2が軸部128aよりもD2方向で外側(右側)に配置された構成と比較して、D2方向において、クラッチレリーズ機構のコンパクト化を図れる。
【0038】
連結部128bは、また、レリーズ操作部材128に対する、操作子113Lを介した手動操作と電動アクチュエータ10による操作のうち、重複する操作分をキャンセルするキャンセル機能も備えている。本実施形態の場合、レリーズ操作部材128は、軸部128aを形成する軸部材16と、連結部128bを形成するレバー部材17との二部材で構成されている。
【0039】
図5(A)~
図6(B)を参照してレバー部材17の構造について説明する。
図5(A)及び
図5(B)は視線方向が異なるレバー部材17の斜視図である。
図6(A)は回動中心線X2を基準としてこれを上下方向に向けた場合のレバー部材17の側面図であり、
図6(B)は回動中心線X2を基準としてこれを上下方向に向けた場合のレバー部材17の平面図である。
【0040】
レバー部材17は、軸部材16の下端部に固定される固定部170と、スロットSL1及びSL2が形成されたスロット形成部171とを一体的に備えている。固定部170とスロット形成部171との間の部分には、リターンスプリング129の一端が係止される凹部176が形成されている。固定部170は回動中心線X2の方向を板厚方向とする板状の部分であり、軸部材16の下端部が挿入される貫通穴170aが形成されている。
【0041】
スロット形成部171は、回動中心線X2から、その径方向(RD方向)に離間した部位であり、回動中心線X2の方向で固定部170よりも肉厚な部分である。
【0042】
スロットSL1は、インナケーブル31aの係合部31cを保持する。スロットSL1は、回動中心線X2の方向に深さを有する有底の穴部172aと、穴部172aの側方(RD方向)に開口したスリット173aと、穴部172aとスリット173aとの間のスリット174aとを有する。インナケーブル31aのスロットSL1に対する装着にあたっては、まず、係合部31cを穴部172aに挿入する。インナケーブル31aをスリット174aを通過させてスリット173aに導くことにより、その装着が完了する。言い換えると、係合部31cが穴部172aに保持されつつ、インナケーブル31aを穴部172aの外部に導出した状態となる。
【0043】
穴部172aは、回動中心線X2方向に見ると長穴形状を有しており、かつ、回動中心線X2を中心とした円弧形状を有している。穴部172aの一方端部の内壁面175aは係合部31cと係合する係合面を形成し、穴部172aの他方端部の側は、レリーズ操作部材128の回動に対して、係合部31cの相対変位を許容する、係合部31cの逃げ空間SP1を形成している。
【0044】
スロットSL2は基本的にスロットSL1と同じ構造である。すなわち、スロットSL2は、インナケーブル32aの係合部32cを保持する。スロットSL2は、回動中心線X2の方向に深さを有する有底の穴部172bと、穴部172bの側方(RD方向)に開口したスリット173bと、穴部172bとスリット173bとの間のスリット174bとを有する。インナケーブル32aのスロットSL2に対する装着にあたっては、まず、係合部32cを穴部172bに挿入する。インナケーブル32aをスリット174bを通過させてスリット173bに導くことにより、その装着が完了する。言い換えると、係合部32cが穴部172bに保持されつつ、インナケーブル32aを穴部172bの外部に導出した状態となる。
【0045】
穴部172bは、回動中心線X2方向に見ると長穴形状を有しており、かつ、回動中心線X2を中心として僅かに湾曲した円弧形状を有している。穴部172bの一方端部の内壁面175bは係合部32cと係合する係合面を形成し、穴部172bの他方端部の側は、レリーズ操作部材128の回動に対して、係合部32cの相対変位を許容する、係合部32cの逃げ空間SP2を形成している。
【0046】
本実施形態の場合、スロットSL1とスロットSL2は、回動中心線X2の方向に並ぶように配置されており、回動中心線X2の方向に見ると互いに重なっている。RD方向或いはD2方向において、クラッチレリーズ機構のコンパクト化を図れる。
【0047】
図6(A)に示すようにRD方向に見ると、軸部128aとスロットSL2の全部とが重なっている。回動中心線X2の方向においてクラッチレリーズ機構のコンパクト化を図れる。なお、RD方向に見ると、軸部128aとスロットSL2の一部とが重なってもよい。また、軸部128aとスロットSL1の全部又は一部が重なってもよい。
【0048】
係合部31c及び32cの保持スペースや、レバー部材17の剛性確保のため、スロットSL1とスロットSL2とは回動中心線X2の方向で離間させる必要がある。本実施形態では、回動中心線X2の方向で、固定部170をスロットSL1とスロットSL2との間の中央に設けられておらず、スロットSL1よりもスロットSL2に近い位置にオフセットして設けられている。
【0049】
具体的には
図6(A)に示すように、回動中心線X2の方向で固定部170の中心線CT0と、スロットSL1の中心線CT1との距離がL11であり、中心線CT0とスロットSL2の中心線CT2との距離がL12であり、距離L12<距離L11の関係にある。本実施形態のように、中心線CT0と中心線CT1又はCT2とが回動中心線X2の方向にずれていると、レリーズ操作部材128を回動させる際、レバー部材17にねじれが作用する。
【0050】
具体的に述べると、インナケーブル31aが電動アクチュエータ10によって操作されると、スロットSL1の係合面175aにインナケーブル31aの方向に負荷が作用する。このとき、距離L11の長さに応じたモーメントがレバー部材17に作用する。同様に、操作子113Lに対するライダの操作によりインナケーブル32aが操作されると、スロットSL2の係合面175bにインナケーブル32aの方向に負荷が作用する。
【0051】
このとき、距離L12の長さに応じたモーメントがレバー部材17に作用する。本実施形態の場合、距離L12<距離L11の関係にあり、モーメントの大きさは操作子113Lに対するライダの操作があった場合の方が、電動アクチュエータ10が作動した場合よりも小さい。ライダの操作の際には、相対的にレバー部材17のねじれが少なく、操作感を向上できる。一方、スロットSL1の側にはリブ177を設けて剛性を向上している。電動アクチュエータ10によるレリーズ操作部材128の操作精度を向上することができる。
【0052】
以上の構成からなるレバー部材17、つまり連結部128bの動作について
図7(A)~
図7(C)を参照して説明する。
図7(A)~
図7(C)は連結部128bの動作を示す模式図であり、
図6(B)のA-A線断面に相当する模式図である。
【0053】
図7(A)は初期状態を示している。インナケーブル31aの係合部31cは穴部172aのうち、係合面175aの側に位置し、また、インナケーブル32aの係合部32cも穴部172bのうち、係合面175bの側に位置している。この状態ではレリーズ操作部材128は初期位置に位置し、クラッチ装置120は接続状態にある。また、この状態は電動アクチュエータ10はインナケーブル31aを引いておらず、また、操作子113Lに対する操作入力もない状態である。
【0054】
この状態から電動アクチュエータ10を駆動すると、
図7(B)に示すように、インナケーブル31aが引っ張られてレリーズ操作部材128を初期位置から回動させる。操作子113Lに対する操作入力がないため、インナケーブル32aの係合部32c自体の位置は変わらない。係合部32cに対して穴部172bが相対変位し、係合部32cは逃げ空間SP2に位置する。
【0055】
仮に
図7(B)の状態において操作子113Lが操作されたとしても、係合部32cが係合面173bに係合していないので、レリーズ操作部材128を回動させることはない。言い換えると、
図7(B)の状態では、レリーズ操作部材128の最大回動量は、電動アクチュエータ10による操作により既に生じており、これに重複する操作子113Lに対する操作はキャンセルされたことになる。
【0056】
図7(C)は
図7(A)の初期状態から操作子113Lが操作されてインナケーブル32aが引っ張られた状態を示す。レリーズ操作部材128が初期位置から回動される。電動アクチュエータ10による操作入力がないため、インナケーブル31aの係合部31c自体の位置は変わらない。係合部31cに対して穴部172aが相対変位し、係合部31cは逃げ空間SP1に位置する。
【0057】
仮に
図7(C)の状態において電動アクチュエータ10を駆動したとしても、係合部31cが係合面173aに係合していないので、レリーズ操作部材128を回動させることはない。言い換えると、
図7(C)の状態では、レリーズ操作部材128の最大回動量は、操作子113Lによる操作により既に生じており、これに重複する電動アクチュエータ10の操作はキャンセルされたことになる。
【0058】
このようなキャンセル機構を設けたことで、操作子113Lに対する操作入力と、電動アクチュエータ10による操作入力が加重されることはなく、レリーズ操作部材128の回動量が倍になることを回避できる。しかも、レバー部材17にスロットSL1、SL2を形成するという比較的簡易な構成でキャンセル機構を実現できる。
【0059】
図4を参照する。操作量センサ8は、インナケーブル31aに対する電動アクチュエータ10の操作量を検知するセンサであり、本実施形態の場合、駆動源11の回転量を検知するロータリエンコーダである。本実施形態の場合、操作量センサ8の検知結果をロッド13のD4方向の移動量に換算し、これをインナケーブル31aに対する電動アクチュエータ10の操作量L1とする。換言すると、操作量L1はインナケーブル31aの電動アクチュエータ10側の端部の移動量である。
図4の例ではロッド13の初期位置(最大突出位置)から、ロッド13を引き込む方向の移動量を操作量L1としている。
【0060】
回動量センサ9は、レリーズ操作部材128の回動量を検知するセンサであり、本実施形態の場合、回動量センサ9は、レリーズ操作部材128の回動中心線X2周りの回動量(作動角)を検知する角度センサである。回動量センサ9はブラケット18を介してクラッチカバー120aに支持されており、レリーズ操作部材128の上端部が回動量センサ9に連結されている。レリーズ操作部材128の一端部(上端部)に回動量センサ9を配置し、他端部(下端部)に連結部128b(レバー部材17)を設けているので、回動量センサ9と連結部128bの各配置スペースを十分に確保できる。また、回動量センサ9がレリーズ操作部材128に直接接続されているので、その回動量を精度よく検知できる。回動量の検知結果を電動アクチュエータ10の制御に用いることで、電動アクチュエータ10を精度よく制御することができる。
【0061】
<クラッチ容量の自動制御>
本実施形態では、クラッチ装置120の断接に関し、操作子113Lを用いたライダによる手動操作のモード(手動操作モード)と、電動アクチュエータ10を用いた自動制御のモード(自動制御モード)とをライダが選択可能である。これらのモードの選択は、入力部40に対するライダの選択操作により行うことができる。
【0062】
自動制御モードでは、車両100の発進時や、変速機109のシフトチェンジ時に、駆動伝達の遮断状態から接続状態にクラッチ装置120のクラッチ容量を制御する。電動アクチュエータ10を使用した、クラッチ装置120のクラッチ容量(クラッチ押付荷重/クラッチスプリング荷重)に関する制御について説明する。
【0063】
本実施形態のクラッチ装置120は、通常時、クラッチスプリング126の付勢により接続状態(クラッチ容量が100%)とされ、レリーズ操作部材128の回動によるリフタシャフト127の移動によりクラッチ容量の低下(半クラッチ状態)及び遮断状態(クラッチ容量が0%)の実現が可能である。したがってクラッチ容量は、レリーズ操作部材128の回動中心線X2の周りのトルク(又は回動量)と相関がある。
【0064】
一方、インナケーブル31aは弾性体であるため、引っ張り荷重に対して弾性領域内で荷重に比例して伸びる。フックの法則に基づき、インナケーブル31aの伸び量は、レリーズ操作部材128の回動中心線X2の周りのトルク、すなわち、クラッチ容量と相関がある。インナケーブル31aの伸び量をL3とすると、L3=操作量L1-係数×回動量L2、で得られる。係数は回動量L2をインナケーブル31aのレリーズ操作部材128の側の端部の移動量に変換する係数であり、例えば、レリーズ操作部材128からの径方向の連結部128bの長さに基づき設定される。操作量L1、回動量L2は、操作量センサ8、回動量センサ9で検知可能である。したがって、操作量センサ8、回動量センサ9の検知結果に基づき、クラッチ装置120のクラッチ容量を変化させる制御が可能となる。
【0065】
電動アクチュエータ10の制御に用いる、伸び量L3とクラッチ容量との相関を示す特性情報は、事前の学習動作により得ることができる。
図8は学習動作により得たテストデータEXPと、テストデータEXPから得られる特性情報SIの例を示す。
【0066】
学習動作では少なくともクラッチ容量の変化の範囲(0~100%)に相当する範囲で、電動アクチュエータ10を駆動する。例えば、クラッチ装置120のトルク容量が100%である状態(レリーズ操作部材128がフリーの状態であればよい)で、ロッド13をその初期位置から引込方向にフルストロークさせ、続いて初期位置に戻すことで、クラッチ容量が0%~100%の範囲を包含するように電動アクチュエータ10を駆動する。電動アクチュエータ10の駆動中の操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果から伸び量L3を演算し、
図8のテストデータEXPを得る。
【0067】
テストデータEXPは、横軸を回動量L2(インナケーブル31aの引っ張り荷重に相当)、縦軸を伸び量L3としており、破線はインナケーブル31aを引っ張っている段階のデータ、実線は引っ張りを戻している段階のデータを示している。
【0068】
このデータから、作動開始ポイントSP及びタッチポイントTCが特定される。作動開始ポイントSPはクラッチ装置120が接続状態から半クラッチ状態に移行するポイントである。作動開始ポイントは機構の遊び等によって変動する。タッチポイントTCはクラッチ装置120が接続状態から半クラッチ状態に移行するポイントであり、クラッチ板125の摩耗等により変動する。
【0069】
作動開始ポイントSP及びタッチポイントTCは、いずれも、テストデータEXPにおいて、傾きが変化する変曲点から特定される。例えば、タッチポイントTCにおいては、回動量L2に対して、伸び量L3の変化が鈍化する。
【0070】
特性情報SIは、作動開始ポイントSPとタッチポイントTCと、それらのポイント間での回動量L2とクラッチ容量との相関関係を示す。特性情報SIは例えば記憶部22に記憶される。
【0071】
以上の特性情報SIにより、クラッチ容量を変化させる制御においては、目標とするクラッチ容量に対応する回動量L2を実現するように、回動量センサ9の検知結果を監視しつつ、駆動源11のフィードバック制御を行えばよい。
【0072】
<制御ユニットの処理例>
クラッチ装置120に制御に関する制御ユニット2の処理例について説明する。まず、特性情報SIの更新について説明する。車両100の使用による機構の摩耗等によって伸び量L3とクラッチ容量との相関は変動し得る。そこで、特性情報SIは車両100の出荷時にメーカによって設定されるだけでなく、ライダの使用に応じて随時自動的に更新されることが望ましい。
【0073】
本実施形態では、車両100の制御系の起動時(イグニションONに代表される電源ON時)に特性情報SIを生成・更新する処理を実行する。
図9は電源ON時に制御ユニット2の処理部21が実行する処理例を示すフローチャートである。S1では初期処理を行う。ここでは制御装置1の動作確認や、可動部の初期位置への移動等を行う。この初期処理において
図9を参照して後述する特性情報SIの生成・更新処理も行う。S1の初期処理で動作確認等が正常に完了した場合、S2へ進み、原動機108の始動許可を設定する。ライダがスタータボタン(不図示)を操作すると原動機10が始動する。
【0074】
図10を参照してS1の初期処理に含まれる、特性情報SIの生成・更新処理について説明する。S11~S14では
図8に例示したテストデータEXPを得るための学習動作に関する処理を行う。S11では駆動源11の駆動を開始する。ここでは、上記のとおり、クラッチ容量が0%~100%の範囲を包含するように電動アクチュエータ10のロッド13をその初期位置から引込方向にフルストロークさせ、続いて初期位置に戻す動作を開始する。S12では操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果を取得する。
【0075】
S13では電動アクチュエータ10のロッド13の往復が終了したか(初期位置に戻ったか)を判定し、終了していない場合はS12へ戻って操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果の取得とロッド13の移動を継続する。ロッド13の往復が終了した場合はS14へ進み、駆動源11の駆動と操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果の取得を終了する。
【0076】
S15では、操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果から特性情報SIを生成する。ここで、例えば、学習動作中にロッド13の移動や、レリーズ操作部材128の回動を妨げる、或いは、抵抗する異物が存在した場合、特性情報SIの精度が低下する。また、学習動作中に操作子113Lを操作した場合も特性情報SIの精度が低下する。精度の低い特性情報SIの更新を排除すべく、S16ではS15で生成した特性情報SIと基準データとを比較し、特性情報SIが正常なデータか否かを判定する。基準データは、例えば、クラッチ容量に対する伸び量L3の正常値の範囲を特定可能なデータであり、比較専用のデータであってもよいし、記憶部22に格納されている現在の特性情報SI(更新前の特性情報SI)であってもよい。学習動作を実行する場合は、操作子113Lに対してライダが操作を行わないように、表示部41にライダに対して操作を行わないように促す案内表示を行ってもよい。
【0077】
S17では、S16での比較の結果、正常であればS18へ進み、異常であればS19へ進む。S18では記憶部22に格納されている現在の特性情報SIを、S15で今回生成した特性情報SIで更新する。S19では更新しない。
【0078】
以上により特性情報SIの生成・更新処理が終了する。なお、S11~S14の処理を複数セット行い、操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果の平均値を用いて特性情報SIを生成してもよい。
【0079】
図11は、自動制御モードにおいて、特性情報SIを利用したクラッチ装置120のクラッチ容量の自動制御例を示すフローチャートであり、制御ユニット2の処理部21が実行する処理例を示す。図示の処理はクラッチ装置120が接続状態の場合に実行される処理例を示している。
【0080】
S21ではシフト操作センサ7の検知結果を取得する。S22ではS21で取得した検知結果に基づき、操作子113Lに対してライダがシフト操作を行ったか否かを判定し、シフト操作を行ったと判定した場合はS23へ進む。S23ではクラッチ装置120が遮断状態となるように電動アクチュエータ10を駆動する。ここでは、特性情報SIを記憶部22から読み出して、回動量センサ9の検知結果に基づく回動量L2が、タッチポイントTCに相当する回動量L2よりも大きくなるまで電動アクチュエータ10を駆動することで、確実にクラッチ装置120を遮断状態に移行できる。
【0081】
S24~S25は、シフト操作後、クラッチ装置120を接続状態に移行する処理に関する。S24では車両100の運転状態を検知する。ここでは、スロットル開度センサ3、エンジン回転数センサ4、シフトポジションセンサ5及び車速センサ6の検知結果を取得する。S25ではS24で取得した検知結果に基づいてクラッチ装置120のクラッチ容量の目標値が設定される。S26では、S25で設定したクラッチ容量の目標値を達成するように電動アクチュエータ10(駆動源11)の駆動制御を行う。ここでは、特性情報SIを記憶部22から読み出して、回動量センサ9の検知結果を監視して回動量L2が、S25で設定したクラッチ容量の目標値に対応する回動量L2となるように駆動源11のフィードバック制御を行う。
【0082】
S27ではクラッチ装置120を接続状態に移行済み(クラッチ容量が100%か)否かを判定し、移行済みでない場合はS24へ戻って同様の処理を繰り返す。移行済みであれば処理を終了する。以上の処理により、ライダのシフトチェンジの際にクラッチ装置120の断接を自動制御することができ、セミオートマチックの変速システムを実現することができる。
【0083】
図12は、自動制御モードにおけるライダの手動操作の介入に関する処理の例を示しており、例えば、S26の電動アクチュエータ10の駆動制御中に並列的に繰り返し実行される。クラッチ装置120の自動制御中に、操作子113Lを介したライダの手動操作が介入した場合、本実施形態では自動制御モードを終了して手動操作モードに切り替える。ライダの手動操作が介入した場合、電動アクチュエータ10の操作量L1に対してレリーズ操作部材128の回動量L2が通常よりも大きくなる。よって、操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果からライダの手動操作の介入を判定することができる。
【0084】
S31では、操作量センサ8及び回動量センサ9の検知結果を取得する。S32ではS31で取得した検知結果から伸び量L3を演算する。S33では、回動量センサ9で検知された回動量L2と、S32で演算した伸び量L3とが整合するか否かを判定する。この判定においては、例えば、
図8のテストデータEXPを用いて行うことができ、この判定のためにテストデータEXPを記憶部22に格納しておいてもよい。そして、例えば、テストデータEXP上、S32で演算した伸び量L3に対応する回動量L2と、S31で検知した回動量L2との差分が閾値を超えている場合に、ライダの手動操作の介入があったと判定することができる。
【0085】
S33の判定において、整合していると判定した場合はライダの手動操作の介入はなかったと判定して処理を終了し、整合していないと判定した場合はライダの手動操作の介入があったと判定してS34へ進む。S34では、自動制御モードを中止し、クラッチ装置120の制御モードを自動制御モードから手動操作モードへ切り替える制御を行う。
【0086】
自動制御モードから手動操作モードへ急激に切り替わると、操作子113Lの操作負担が急激に重くなってライダに違和感を与える場合がある。切替制御では、例えば操作量L1が徐々に減少するように電動アクチュエータ10を駆動する。また、制御モードの切り替えを表示部41を用いた表示によってライダに報知してもよい。
【0087】
以上のとおり、本実施形態では、インナケーブル31aを介して電動アクチュエータ10でレリーズ操作部材128を操作する構成を取ることで、従来のマニュアル式のクラッチ装置120をほとんどそのまま活用し、クラッチ装置120の外部の電動アクチュエータ10やセンサ8及び9等の追加で制御装置2を構成できる。したがって、比較的簡便な構成でクラッチ装置120の自動制御を実現することができる。
【0088】
<実施形態のまとめ>
上記実施形態は、以下の各項目の鞍乗型車両を少なくとも開示する。
【0089】
項目1.
原動機(108)が出力する駆動力の伝達経路に配置され、前記駆動力の伝達を断接可能なクラッチ装置(120)と、
前記クラッチ装置(120)のレリーズ操作部材(128)に第一の連結部材(31a)を介して連結され、前記レリーズ操作部材(128)を回動させる電動アクチュエータ(10)と、
操作者が操作可能に設けられ、前記クラッチ装置(120)の前記レリーズ操作部材(128)に第二の連結部材(32a)を介して前記操作者の操作を伝達して前記レリーズ操作部材(128)を回動させるクラッチ操作子(113L)と、
を備えた鞍乗型車両(100)であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、前記第一の連結部材(31a)及び前記第二の連結部材(32a)が連結される連結部(128b)を有し、
前記連結部(128b)は、
前記第一の連結部材(31a)の第一の係合部(31c)を保持し、かつ、前記クラッチ操作子(113L)に対する操作による前記レリーズ操作部材(128)の回動に対して、前記第一の係合部(31c)の相対変位を許容する空間(172a)を形成する第一のスロット(SL1)と、
前記第二の連結部材(32a)の第二の係合部(32c)を保持し、かつ、前記電動アクチュエータ(10)による前記レリーズ操作部材(128)の回動に対して、前記第二の係合部(32c)の相対変位を許容する空間(172b)を形成する第二のスロット(SL2)と、を備える、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
この実施形態によれば、アクチュエータによる操作と手動操作との重複する操作量を比較的簡単な構成でキャンセル可能な技術を提供することができる。
【0090】
項目2.
項目1に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、回動自在に支持された軸部(128a)を備え、
前記第一のスロット(SL1)と前記第二のスロット(SL2)とは、前記軸部(128a)の軸方向に並ぶように配置される、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
この実施形態によれば、クラッチレリーズ機構のコンパクト化を図れる。
【0091】
項目3.
項目2に記載の鞍乗型車両であって、
前記軸部(128a)の径方向(RD)に見て、前記第一のスロット(SL1)又は前記第二のスロット(SL2)の少なくともいずれか一方の一部が、前記軸部(128a)に重なっている、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
この実施形態によれば、クラッチレリーズ機構のコンパクト化を図れる。
【0092】
項目4.
項目2に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、
前記軸部(128a)を形成する軸部材(16)と、
前記軸部材(16)とは別の部材であって、前記連結部(128b)を形成するレバー部材(17)と、を備え、
前記レバー部材(17)は、
前記軸部材(16)に固定される固定部(170)を有し、
前記軸方向で、前記固定部(170)は、前記第一のスロット(SL1)よりも前記第二のスロット(SL2)に近い位置に設けられている、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
この実施形態によれば、手動操作時の前記レバー部材のねじれを抑制し、操作者の操作感を向上できる。
【0093】
項目5.
項目1に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、回動自在に支持された軸部(128a)を備え、
前記連結部(128b)は、前記軸部(128a)の一方の端部に配置され、
前記軸部(128a)の他方の端部には、前記軸部(128a)の回動量を検知するセンサ(9)が設けられ、
前記電動アクチュエータ(10)は、前記センサ(9)の検知結果に基づいて制御される、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
この実施形態によれば、前記連結部及び前記センサの配置スペースを確保することができ、かつ、前記センサの検知結果を利用して前記レリーズ操作部材の回動量を精度よく検知できる。このため、電動アクチュエータを精度よく制御することができる。
【0094】
項目6.
項目1に記載の鞍乗型車両であって、
前記レリーズ操作部材(128)は、回動自在に支持された軸部(128a)を備え、
前記鞍乗型車両(100)の車幅方向(D2)で、前記第一のスロット(SL1)及び前記第二のスロット(SL2)は、前記軸部(128a)よりも内側に配置されている、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
この実施形態によれば、車幅方向で前記鞍乗型車両のコンパクト化を図ることができる。
【0095】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
10 電動アクチュエータ、100 鞍乗型車両、120 クラッチ装置、113L クラッチ操作子、128 レリーズ操作部材、SL1 スロット、SL2 スロット