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特開2024-129627透磁率及び誘電率を測定するための測定装置及びハーモニック共振器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129627
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】透磁率及び誘電率を測定するための測定装置及びハーモニック共振器
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/26 20060101AFI20240919BHJP
   G01N 22/00 20060101ALI20240919BHJP
   H01P 5/103 20060101ALI20240919BHJP
   G01R 33/16 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G01R27/26 H
G01N22/00 Y
G01N22/00 J
H01P5/103 B
G01R33/16
G01R27/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038955
(22)【出願日】2023-03-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年11月7日に https://workshop.iee.or.jp/sbtk/cgi-bin/sbtk-showprogram.cgi?workshopid=SBW000082A3 及び https://www.bookpark.ne.jp/ieej/ にて発表。 (2)令和4年11月11日にマグネティックス研究会にて発表。 (3)令和4年11月30日~令和4年12月2日にマイクロウェーブ展2022にて発表。 (4)令和5年1月25日に https://www.ieice.org/jpn_r/event/kenkyukai/kenkyukai-giho.html にて発表。 (5)令和5年1月27日に環境電磁工学研究会にて発表。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)総務省令和4年度電波資源拡大のための研究開発「不要電波の高分解能計測・解析技術を活用したノイズ抑制技術の研究開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 正洋
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 安範
【テーマコード(参考)】
2G017
2G028
【Fターム(参考)】
2G017BA15
2G017BA18
2G017CA09
2G017CB03
2G017CB17
2G017CC02
2G028BC10
2G028BE10
2G028CG09
2G028CG10
2G028CG13
2G028CG14
2G028CG30
2G028DH11
2G028DH15
2G028FK01
2G028HN14
(57)【要約】
【課題】被測定物(電磁材料)の透磁率と誘電率を測定するための測定装置を提供する。
【解決手段】ハーモニック共振器摂動法を用いて電磁材料である被測定物の透磁率及び誘電率を測定するための測定装置は、両端に開口端面を有する管路を形成し且つ被測定物を当該管路内に挿入するための挿入孔が設けられた導波管と、導波管の管路と連通する孔を有し且つ導波管の両端側それぞれの開口端面に取り付けられる結合孔板と、電界アンテナを備え且つ結合孔板を介して導波管の両端側それぞれの開口端面と結合する電界アンテナ型同軸導波管変換器と、一端側の電界アンテナ型同軸導波管変換器に18GHzを超える高周波信号を印加し、導波管を伝搬した高周波信号を他端側の電界アンテナ型同軸導波管変換器を介して検知する信号計測器とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーモニック共振器摂動法を用いて電磁材料である被測定物の透磁率及び誘電率を測定するための測定装置において、
両端に開口端面を有する管路を形成し且つ前記被測定物を当該管路内に挿入するための挿入孔が設けられた導波管と、
前記導波管の管路と連通する孔を有し且つ前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面に取り付けられる結合孔板と、
電界アンテナを備え且つ前記結合孔板を介して前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面と結合する電界アンテナ型同軸導波管変換器と、
一端側の前記電界アンテナ型同軸導波管変換器に18GHzを超える高周波信号を印加し、前記導波管を伝搬した前記高周波信号を他端側の前記電界アンテナ型同軸導波管変換器を介して検知する信号計測器とを備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記結合孔板には、2以上の前記孔が設けられることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記結合孔板の前記孔は、前記導波管内の電磁界がTE10nモードとなるように、磁界と平行する向きに平行に一列に並んで、且つ中心から対称の位置に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記結合孔板の前記孔は、当該孔の面積S1とし、前記導波管の前記開口端面の面積S2としたとき、0.08≦S1/S2≦0.42を満たすように設けられることを特徴とする請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
ハーモニック共振器摂動法を用いて電磁材料である被測定物の透磁率及び誘電率を測定するためのハーモニック共振器において、
両端に開口端面を有する管路を形成し且つ前記被測定物を当該管路内に挿入するための挿入孔が設けられた導波管と、
前記導波管の管路と連通する孔を有し且つ前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面に取り付けられる結合孔板と、
電界アンテナを備え且つ前記結合孔板を介して前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面と結合する電界アンテナ型同軸導波管変換器とを備えることを特徴とするハーモニック共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁材料である被測定物の透磁率及び誘電率を測定するための測定装置及びそれに用いられるハーモニック共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁材料の透磁率及び誘電率を測定する手法として、ハーモニック共振器摂動法が知られている。ハーモニック共振器摂動法は、空洞共振器を用いて、共振の基本周波数に加えてその整数倍においても空洞共振器を共振させ、複数の周波数で複素比透磁率及び複素比誘電率を測定とする手法である(非特許文献1)。
【0003】
また、空洞共振器として方形導波管を用いた透磁率及び誘電率の測定手法として、例えば、特許文献1、2及び3に開示される装置による測定が知られている。
【0004】
特許文献1は、空洞共振器の入出力両端に入力導波管及び出力導波管を結合窓でそれぞれ接続したうえ、入力導波管から電磁波を入力するとともに、空洞共振器内に電磁波の進行方向と直交するように供試体を挿入し、共振周波数を測定する構成について開示している(例えば、特許文献1の図3参照。)。
【0005】
特許文献2は、矩形断面の空洞共振器が中央で切断され、その切断面には、同心的に空洞の断面を内包する大きさの円孔が穿たれた円板が挿入され、円板の側面から切り込まれた溝に試料が挿入され、空洞共振器の両端側には、同軸導波管変換器が接続され、そこに高周波電源と接続するアンテナが挿入される構成について開示している(例えば、特許文献2の第2図参照。)。
【0006】
また、特許文献3は、円筒形共振器を用いた誘電体の誘電率を測定する装置について開示している(例えば、特許文献3の図1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04-151569号公報
【特許文献2】特開昭58-195568号公報
【特許文献3】特開2019-015587号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】橋本修:「高周波領域における材料定数測定法」森北出版(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、28GHzを含む高周波帯における磁性体の利用に関心が高まっており、Ku-band(12GHz-18GHz)の周波数帯を超える、例えば5G移動通信システムに使用される28GHzを含む30GHzまでのノイズ抑制材料評価技術が求められている。
【0010】
ハーモニック共振器摂動法による測定においては、従来、その測定周波数範囲はKu-band(12GHz-18GHz)までであり、そのハーモニック共振器を含む測定装置の構成は、方形導波管、同軸ケーブルの中心導体の先に磁界アンテナであるループアンテナを取り付けたカップリングループ、及びカップリングループを導波管外部の同軸ケーブルに接続するアダプタを備えて構成されている。
【0011】
しかしながら、ハーモニック共振器摂動法による従来の測定装置においてループアンテナを含むカップリングループを用いると、導波管内に共振を発生させるための付加構造や部品が不要になるというメリットがあるが、測定周波数が高くなるほど、ループアンテナのループ直径をさらに小型化し、ループアンテナの取り付けの寸法精度を高める必要があり、現在では、測定可能な周波数は18GHzが上限となっている。
【0012】
本発明者は、Ku-band(12GHz-18GHz)を超える高周波帯において、ハーモニック共振器摂動法により電磁材料の透磁率及び誘電率を測定可能とする測定装置、特にそれに用いるハーモニック共振器の研究・開発を進め、今般、新規な測定装置の開発に至った。
【0013】
そこで、本発明の目的は、ハーモニック共振器摂動法により電磁材料の透磁率及び誘電率を測定するための新規な測定装置、及びそれに用いるハーモニック共振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明の測定装置の構成は、ハーモニック共振器摂動法を用いて電磁材料である被測定物の透磁率及び誘電率を測定するための測定装置において、両端に開口端面を有する管路を形成し且つ前記被測定物を当該管路内に挿入するための挿入孔が設けられた導波管と、前記導波管の管路と連通する孔を有し且つ前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面に取り付けられる結合孔板と、電界アンテナを備え且つ前記結合孔板を介して前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面と結合する電界アンテナ型同軸導波管変換器と、一端側の前記電界アンテナ型同軸導波管変換器に18GHzを超える高周波信号を印加し、前記導波管を伝搬した前記高周波信号を他端側の前記電界アンテナ型同軸導波管変換器を介して検知する信号計測器とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明のハーモニック共振器の構成は、ハーモニック共振器摂動法を用いて電磁材料である被測定物の透磁率及び誘電率を測定するためのハーモニック共振器において、両端に開口端面を有する管路を形成し且つ前記被測定物を当該管路内に挿入するための挿入孔が設けられた導波管と、前記導波管の管路と連通する孔を有し且つ前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面に取り付けられる結合孔板と、電界アンテナを備え且つ前記結合孔板を介して前記導波管の両端側それぞれの前記開口端面と結合する電界アンテナ型同軸導波管変換器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、これまでハーモニック共振器で主流であったループアンテナを用いず、電界アンテナと結合孔板との組み合わせからなるハーモニック共振器を形成することで、Ku-band(12GHz-18GHz)を超える高周波帯、すなわち18GHzを超える周波数帯において、ハーモニック共振器摂動法により測定対象の電磁材料の透磁率及び誘電率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態における測定装置の概略構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態における測定装置のハーモニック共振器10の構成例を示す図である。
図3】2つの孔を有する場合の結合孔板14の形状を示す概略正面図である。
図4】結合孔板14の孔14aの孔径Dと共振特性の関係を示すグラフである。
図5】結合孔板14の孔14aの孔径Dをパラメータとした共振ピーク値を示すグラフである。
図6】ハーモニック共振器摂動法による測定方法を説明する図である。
図7】試料「CIP(2)」についての複素比透磁率の測定グラフである。
図8】表1に示した4つの試料についての複素比透磁率の測定グラフである。
図9】ハーモニック共振器10の結合孔板14の孔14の面積S1と方形導波管12の面積S2との比S1/S2と共振ピークレベルの関係を示す測定グラフである。
図10】Ku-band(12GHz-18GHz)及びK/Ka-band(18GHz-38GHz)を含む周波数帯での共振周波数のピークレベルを示す測定グラフである。
図11図10で示した各ピークレベルで測定された複素比透磁率を示す測定グラフである。
図12図10で示した各ピークレベルで測定された複素比誘電率を示す測定グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態における透磁率及び誘電率を測定するための測定装置の構成例を示す図である。本発明の実施の形態の測定装置は、ハーモニック共振器10、ネットワークアナライザ20(信号計測器)および数値解析処理を実行する演算処理装置(例えばパソコンのようなコンピュータ装置)30を備えて構成される。
【0020】
ハーモニック共振器10は、その管路内に測定対象の電磁材料である試料(被測定物)1が挿入されて配置され、同軸ケーブル3を介してネットワークアナライザ(信号計測器)20に接続する。信号供給源であるネットワークアナライザ20により、高周波信号を供給して、試料1の周波数伝送特性であるSパラメータ(特に透過係数S21)を測定し、その信号データを演算処理装置(コンピュータ装置)30に取り込み、所定の数値解析処理により被測定物である電磁材料1の透磁率(複素比透磁率)及び誘電率(複素比誘電率)を求める。本実施の形態例においては、ネットワークアナライザ20は、18GHzを超える高周波信号をハーモニック共振器10に供給し、ハーモニック共振器10を伝搬する当該高周波信号を検出し、そのSパラメータ(特に透過係数S21)を測定する。
【0021】
演算処理装置30は、試料1の透磁率を求める透磁率演算手段及び誘電率を求める誘電率演算手段として機能し、ネットワークアナライザ20により測定されたSパラメータ(特に透過係数S21)に基づいて、試料(被測定物)の透磁率及び誘電率を算出する既知の演算処理プログラムを実行する。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態における測定装置のハーモニック共振器10の構成例を示す図である。図2(a)は、ハーモニック共振器の構成要素を分解した状態を正面から見た概略模式図であり、図2(b)は、ハーモニック共振器の内部も透視的に示す概略的な斜視図である。
【0023】
ハーモニック共振器10は、電磁波を伝送する方形導波管12と、この方形導波管12の両端側それぞれの開口の端面部に取り付けられる、孔を有する結合孔板14と、電界アンテナを備え且つこの結合孔板14を介して方形導波管12の両端側それぞれの開口と接続する電界アンテナ型同軸導波管変換器16とを有して構成される。
【0024】
方形導波管12は、矩形断面を有する中空管路構造体の空洞共振器であって、より具体的には、両端に開口を有する管路を形成し且つ試料1を当該管路内に挿入するための挿入孔12aが設けられている。挿入孔12aは、方形導波管12の長さ方向中央部分の4面に設けられ、好ましくは棒状の試料1は、横方向または縦方向から挿入孔12aに挿入され、方形導波管12を横切って挿入・貫通して配置される。挿入孔12aの孔径は例えば2mm程度である。
【0025】
電界アンテナ型同軸導波管変換器16は、電磁波の電界成分を検出する電界アンテナを備えた同軸導波管変換器であり、方形導波管12の両端において、結合孔板14を介して電磁的に結合し、その端子は同軸ケーブル3と接続する。
【0026】
電界アンテナは、空間を伝送する電磁波を検出する導線の先端が空間に開放された構造のアンテナであり、電磁波の磁界成分を検出する磁界アンテナの一つであるループアンテナと異なる種類のアンテナである。従来技術のハーモニック共振器において用いられるループアンテナは、同軸ケーブルで構成する場合、電磁波を検出する内部導体(芯線)をループさせて外部導体である接地線と接続させ、電磁波の磁界成分を検出する磁界アンテナであり、ループアンテナにより高周波信号を検出するには、ループ径をより小さくする必要があるところ、18GHzを超える高周波信号を検出可能とする小さなループ径のループアンテナの作成は困難であり、本実施の形態例の測定装置においては、従来より用いられていたループアンテナ(磁界アンテナ)ではなく、電界アンテナを備えた電界アンテナ型同軸導波管変換器16と上記結合孔板14を用いることにより、18GHzを超える高周波領域における試料1の透磁率及び誘電率測定を実現する。
【0027】
結合孔板14は、方形導波管12と電界アンテナ型同軸導波管変換器16の電磁結合を維持し、導波路内に定在波を生成するための非磁性材料の薄板状金属板である。結合孔板14は、方形導波管12の管路と連通する孔14aであって、方形導波管12の開口端面より小さい少なくとも1つの孔14aが穿たれ、好ましくは、方形導波管12を伝搬する電磁波の磁界の向きに平行に一列に並んだ2つの孔14aが設けられ、2つの孔14aは、中心から対称の位置に設けられている。孔14aの数は2を超える複数でもよく、好ましくは、4以上の偶数であって、2つの場合と同様に、中心から対称の位置、方形導波管12を伝搬する電磁波の磁界の向きに平行に一列に並んだ孔が配置される。結合孔板14は、方形導波管12の両端に同軸導波管変換器16で挟み込むように配置される。
【0028】
結合孔板は、金属等で形成されるが、磁性を有する金属でない方が好ましく、例えば、銅、アルミニウム等で形成される。
【0029】
図3は、2つの孔を有する場合の結合孔板14の形状を示す概略正面図である。結合孔板14は例えば0.3mm厚の銅板で形成することができる。方形導波管12内の電磁波の伝搬モードはTE10nモードとなり、方形導波管12の端面における電磁波の磁界の向きに平行に並んだ2つの孔14aが設けられる。なお、TE10nモードは、電磁波の進行方向(z方向)に電界成分がないモードであって、電界が方形導波管12の長辺方向すなわち幅方向(x方向)に1回、短辺方向すなわち高さ方向(y方向)に0回周期変化する最低次モードであり、方形導波管12の長さ方向(電磁波の進行方向(z方向))にn回の電界が形成される伝搬モードである。
【0030】
図3に示される2つの孔14aは、磁界の向きに平行に並んで形成され、その孔14aの孔径Dは、好ましくは、共振周波数の検出信号強度を-60dB~-5dB程度となるように調整され、さらに、それは、後述する通り、孔14aの面積S1(複数の孔14aの場合は、合計面積)と方形導波管12の開口端面の面積S2(方形導波管12の開口の高さh、幅wとするとS2=h×w)との面積比S1/S2として特定することができる。
【0031】
図4は、結合孔板14の孔14aの孔径Dと共振特性の関係を示すグラフであり、図5は、結合孔板14の孔14aの孔径Dをパラメータとした共振ピーク値を示すグラフである。図4においては、Ku-bandに含まれる15.1GHzにおける共振周波数の共振ピークレベル(実線)とQ値(Quality Factor)(破線)が示され、孔14aの孔径Dを大きくするほど、共振ピークレベルは大きくなることを示し、一方、孔14aの孔径Dがおおよそ4mmを超えると、Q値が低下する現象を確認することができる。また、図5においては、Ku-bandを含む周波数帯においては、孔14aの孔径Dが大きいほど、共振周波数の共振ピークレベルは大きくなることが確認される。この解析結果から、孔径Dの設計値は、共振ピークレベルとQ値がともに比較的高いレベルを有する4mm程度が最適な数値の一つであると推定できるが、18GHzを超える周波数帯を測定可能な範囲としての孔径Dの値は、後述する面積比S1/S2で特定することができる。
【0032】
以下、図2のハーモニック共振器を用いた測定装置により、ハーモニック共振器摂動法による試料の透磁率及び誘電率の測定例について説明する。
【0033】
図6は、ハーモニック共振器摂動法による測定方法を説明する図である。ハーモニック共振器摂動法は、ハーモニック共振器の挿入孔12aに測定対象となる試料を挿入した場合(with sample)と、挿入しない場合(without sample)について、Sパラメータの一つである透過係数S21の共振周波数を測定し、試料なしの共振ピーク周波数及びその半値幅を形成する周波数、さらにそれらの周波数に基づいたQ値(Quality Factor)と、試料ありの共振ピーク周波数及びその半値幅を形成する周波数、さらにそれらの周波数に基づいたQ値(Quality Factor)を求め、複素比透磁率及び複素比誘電率を既知の演算式に基づいて算出する。
【0034】
より具体的には、ネットワークアナライザ20から、ハーモニック共振器10の一方の同軸導波管変換器16の端子へ高周波信号を供給し、方形導波管12で高周波信号を伝搬させ、伝搬した高周波信号をもう一方の同軸導波管変換器16の端子から取り出し、ネットワークアナライザ20で透過係数S21として検出する。図6に示すように、試料なしの場合の共振周波数をf0、この周波数における透過係数S21が3dB低下する周波数をf"0及びf'0及び(f"0<f'0)とする。次に、試料ありの場合(棒状試料1を挿入孔12aに挿入すると)、電磁界の微小変化(摂動)により、共振周波数はfL、この周波数における透過係数S21が3dB低下する周波数はf"L及びf'L及び(f"L<f'L)となる。このとき、複素比透磁率の実部(μr')及び虚部(μr")、複素比誘電率の実部(εr')及び虚部(εr")は、以下の式(1)~(4)で与えられる。
【0035】
【数1】
【0036】
表1は、本測定に用いた試料の諸元を示す表である。試料は、いずれも磁性コンポジット材料であり、図6以降の測定グラフにおいて、試料を識別するために、左から「NiZn」、「CIP(1)」、「CIP(2)」、「センダスト」と表記する。
【0037】
【表1】
【0038】
図7は、試料「CIP(2)」についての複素比透磁率の測定グラフであって、図7(a)は複素比透磁率の実部(μr')の測定値、図7(b)はその虚部(μr")の測定値である。図7のグラフにおいては、方形導波管の両端面に取り付けられる同軸導波管変換器がループアンテナを備えたループアンテナ型同軸導波管変換器を有する従来のハーモニック共振器(以下、ループアンテナ型ハーモニック共振器と称する)を用いて測定したKu-bandを含むKu-band以下の周波数における複素比透磁率(黒丸実線)と、図2に示す電界アンテナ型同軸導波管変換器と結合孔板を有する本実施の形態におけるハーモニック共振器(以下、電界アンテナ型ハーモニック共振器と称する場合がある)16を用いて測定したKu-bandを含むKu-band以上の周波数における複素比透磁率(白丸実線)の値が示される。
【0039】
すなわち、ループアンテナ型ハーモニック共振器と電界アンテナ型ハーモニック共振器の両方により、Ku-bandにおける複素比透磁率を測定したものであって、図7の測定グラフから、Ku-bandにおいて、ループアンテナ型ハーモニック共振器と電界アンテナ型ハーモニック共振器の測定結果の傾向はほぼ一致し(誤差6%以内)、Ku-bandにおける電界アンテナ型ハーモニック共振器の測定値の妥当性が示され、Ku-bandから概ね連続的に変化する18GHzを超える高周波数領域における複素比透磁率も精度良く測定可能であることが明らかとなった。
【0040】
図8は、表1に示した4つの試料についての複素比透磁率の測定グラフであって、図8(a)は複素比透磁率の実部(μr')の測定値、図8(b)はその虚部(μr")の測定値、図8(c)は伝導ノイズ抑制性能に関するωμ"値である。図8中の黒丸実線はNiZn、白丸実線はCIP(1)、黒四角実線はCIP(2)、白四角実線はセンダストを示す。上記表1に示した各種試料の複素比透磁率を3.9GHz~38GHzの広帯域にわたって測定し、特に、本実施の形態における電界アンテナ型ハーモニック共振器を用いた測定装置により、Ku-bandより高周波帯、特に18GHzを超えるK/Ka-band(18GHz-38GHz)における複素比透磁率の測定が可能であることが確認された。
【0041】
図9は、ハーモニック共振器10の結合孔板14の孔14aの面積S1と方形導波管12の開口端面の面積S2との面積比S1/S2と共振ピークレベルの関係を示す解析値のグラフである。本実施の形態におけるハーモニック共振器10を用いた解析例では、点線で示されるKu-band(12GHz-18GHz)及び実線で示されるK/Ka-band(18GHz-38GHz)を含む周波数帯において、以下に述べる通り、共振ピークレベルが-8.215dB~-55.613dBの範囲内において、試料1(上記表1の「CIP(2)」)の透磁率及び誘電率を測定することができ、それに対応する孔14aの面積S1と方形導波管12の開口端面の面積S2との面積比S1/S2が0.08~0.42であることが明らかとなった。なお、孔14aの面積(2つの孔14aの合計面積)S1は、図3において、2つの孔14aの孔径をともにDとすると、S1=(D/2)2×π×2で表され、また、方形導波管12の開口端面の面積S2は、図3における方形導波管12の寸法に基づいて、S2=w×hで表される。
【0042】
図10は、Ku-band(12GHz-18GHz)及びK/Ka-band(18GHz-38GHz)を含む周波数帯での共振周波数のピークレベルを示す測定グラフであり、図中、黒色線はKu-band(12GHz-18GHz)におけるピークレベル、灰色線はK/Ka-band(18GHz-38GHz)におけるピークレベルを示し、また、図中の実線丸の部分は、Ku-band(12GHz-18GHz)における複素比透磁率を測定した下限ピークレベルKu(1)と上限ピークレベルKu(3)、及びK/Ka-band(18GHz-38GHz)における複素比透磁率を測定した下限ピークレベルK/Ka(1)と上限ピークレベルK/Ka(3)であり、図中の点線丸の部分は、Ku-band(12GHz-18GHz)における複素比誘電率を測定した下限ピークレベルKu(2)と上限ピークレベルKu(4)、及びK/Ka-band(18GHz-38GHz)における複素比誘電率を測定した下限ピークレベルK/Ka(2)と上限ピークレベルK/Ka(4)である。
【0043】
図11は、図10で示した各ピークレベルで測定された複素比透磁率を示す測定グラフであり、図11(a)は複素比透磁率の実部(μr')の測定値、図11(b)はその虚部(μr")の測定値である。図中、実線は、ループアンテナ型ハーモニック共振器を用いた12GHz以下の周波数帯における測定値、点線は、本実施例における電界アンテナ型ハーモニック共振器を用いたKu-bandにおける測定値、一点鎖線は、本実施例における電界アンテナ型ハーモニック共振器を用いたK/Ka-bandにおける測定値を示す。
【0044】
また、図12は、図10で示した各ピークレベルで測定された複素比誘電率を示す測定グラフであり、図12(a)は複素比誘電率の実部(εr')の測定値、図12(b)はその虚部(εr")の測定値である。図中、実線は、ループアンテナ型ハーモニック共振器を用いた12GHz以下の周波数帯における測定値、点線は、本実施例における電界アンテナ型ハーモニック共振器を用いたKu-bandにおける測定値、一点鎖線は、本実施例における電界アンテナ型ハーモニック共振器を用いたK/Ka-bandにおける測定値を示す。
【0045】
透磁率及び誘電率ともに、共振ピークレベル-8.215dB~-55.613dBにおいて測定可能であることが確認された。なお、図12に示す誘電率(複素比誘電率)については、Ku-band(12GHz-18GHz)とK/Ka-band(18GHz-38GHz)の測定値にバンド間段差が生じているが、例えば、国際標準IEC TR63307 ED1にて提案されているバンド間補正法により、複素比誘電率の測定値の補正を行うことができる。
【0046】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。例えば、本発明の測定装置に、被測定物の温度を調整する機構を加え、被測定物の透磁率及び誘電率の温度変化特性を測定するための測定装置としてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:電磁材料(試料)、3:同軸ケーブル、10:ハーモニック共振器、12:方形導波管、12a:挿入孔、14:結合孔板、14a:孔、16:電界アンテナ型同軸導波管変換器、20:ネットワークアナライザ(信号計測器)、30:演算処理装置
図1
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図12