IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンケン電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図1
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図2
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図3A
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図3B
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図3C
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図4A
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図4B
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図4C
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図5A
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図5B
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図5C
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図6
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図7
  • 特開-半導体素子、およびゲート駆動装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129629
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】半導体素子、およびゲート駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8238 20060101AFI20240919BHJP
   H01L 27/088 20060101ALI20240919BHJP
   H01L 21/76 20060101ALI20240919BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H01L27/092 A
H01L27/088 331A
H01L21/76 L
H02M1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038957
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健一郎
【テーマコード(参考)】
5F032
5F048
5H740
【Fターム(参考)】
5F032AA35
5F032AA44
5F032AA46
5F032BA01
5F032CA17
5F032CA18
5F032CA24
5F048AA03
5F048AC03
5F048BA02
5F048BA05
5F048BC03
5F048BE09
5F048BG13
5H740BA11
5H740BA12
5H740BC01
5H740BC02
5H740KK01
5H740MM12
(57)【要約】
【課題】アバランシェ降伏を抑制可能な半導体素子。
【解決手段】実施の形態に係る半導体素子1は、第1導電型の第1半導体領域10と、第1半導体領域上の第2導電型の第2半導体領域12と、第2半導体領域上であって、第2半導体領域よりも不純物濃度が低い第2導電型の第3半導体領域14と、第3半導体領域上の第1導電型の第4半導体領域18と、第4半導体領域上の第2導電型の第5半導体領域24と、第5半導体領域から離間し、第4半導体領域上の第2導電型の第6半導体領域28と、第5半導体領域から第6半導体領域に至る第4半導体領域上に設けられた絶縁ゲート構造を有するゲート電極26と、第2半導体領域と第3半導体領域を貫通する溝20とを備える。溝は、半導体素子を取り囲み、第1半導体領域に達しており、第1半導体領域における溝の深さは第2半導体領域との界面から広がる第1半導体領域に生じる空乏層の深さよりも深い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の上であって、前記第2半導体領域よりも不純物濃度が低い第2導電型の第3半導体領域と、
前記第3半導体領域の上の第1導電型の第4半導体領域と、
前記第4半導体領域の上の第2導電型の第5半導体領域と、
前記第5半導体領域から離間し、前記第4半導体領域の上の第2導電型の第6半導体領域と、
前記第5半導体領域から前記第6半導体領域に至る前記第4半導体領域の上に設けられた絶縁ゲート構造を有する第1ゲート電極と、
前記第2半導体領域と前記第3半導体領域を貫通する溝と
を備える、半導体素子。
【請求項2】
前記溝は第1半導体領域に達しており、前記第1半導体領域における前記溝の深さは前記第2半導体領域との界面から広がる前記第1半導体領域に生じる空乏層の深さよりも深い、請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記溝は、平面視において、前記第4半導体領域を取り囲む、請求項1に記載の半導体素子。
【請求項4】
更に、前記第3半導体領域の上の第2導電型の第7半導体領域と、
前記第7半導体領域の上の第1導電型の第8半導体領域と、
前記第8半導体領域から離間し、前記第7半導体領域の上の第1導電型の第9半導体領域と、
前記第8半導体領域から前記第9半導体領域に至る前記第7半導体領域の上に設けられた絶縁ゲート構造を有する第2ゲート電極と
を備え、
前記溝は、前記第4半導体領域と前記第7半導体領域との間も絶縁分離している、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体素子を含み、
ハイサイド側スイッチの制御端子に信号を出力する、ゲート駆動装置。
【請求項6】
前記ハイサイド側スイッチは、絶縁ゲートバイポーラ系半導体素子で構成されている、請求項5に記載のゲート駆動装置。
【請求項7】
前記絶縁ゲートバイポーラ系半導体素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、電子注入促進型絶縁ゲートトランジスタ、逆導通絶縁ゲートバイポーラトランジスタのいずれかを備える、請求項6に記載のゲート駆動装置。
【請求項8】
ブートストラップ回路のブートストラップキャパシタに並列接続されている、請求項5に記載のゲート駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子、およびゲート駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は小型化、大電流化、高速化の要求を受けて、搭載されるデバイスのさらなる高性能化が求められている。その中で高耐圧素子である絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor以下、IGBTと称する)は、民生、産業、自動車など多岐の分野にわたり採用されている。一方、3相交流ブラシレスモータは、エアコン、洗濯機、冷蔵庫など幅広く適用されている。このような3相交流ブラシレスモータ用のパワー半導体素子として、IGBTは幅広く適用されている。高電位側のIGBTを駆動するための高耐圧集積回路(HVIC:High Voltage Integrated Circuits)として相補型金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(CMOSFET:Complementary Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor以下、CMOSと称する)を適用する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-349296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高電位側のIGBTを駆動するためのHVICとしてCMOSを適用すると、アバランシェ降伏を起こすことがある。
【0005】
実施の形態が解決しようとする課題は、アバランシェ降伏を抑制可能な半導体素子、およびゲート駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施の形態に係る半導体素子は、第1導電型の第1半導体領域と、第1半導体領域上の第2導電型の第2半導体領域と、第2半導体領域上であって、第2半導体領域よりも不純物濃度が低い第2導電型の第3半導体領域と、第3半導体領域上の第1導電型の第4半導体領域と、第4半導体領域上の第2導電型の第5半導体領域と、第5半導体領域から離間し、第4半導体領域上の第2導電型の第6半導体領域と、第5半導体領域から第6半導体領域に至る第4半導体領域上に設けられた絶縁ゲート構造と、第2半導体領域と第3半導体領域を貫通する溝とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施の形態によれば、アバランシェ降伏を抑制可能な半導体素子、およびゲート駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る半導体素子の鳥瞰図。
図2】実施の形態に係る半導体素子の平面図。
図3A】IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合の比較例に係るCMOS半導体素子の断面図。
図3B】IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合の比較例に係るCMOS半導体素子の回路図。
図3C】ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合のIGBTインバータの回路図。
図4A】IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の比較例に係るCMOS半導体素子の断面図。
図4B】IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の比較例に係るCMOS半導体素子の回路図。
図4C】ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合のIGBTインバータの回路図。
図5A】IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の実施の形態に係るCMOS半導体素子の断面図。
図5B】IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の実施の形態に係るCMOS半導体素子の回路図。
図5C】IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合の実施の形態に係るCMOS半導体素子の断面図。
図6】実施形態に係るCMOS半導体素子により駆動されるモータ駆動装置の回路図。
図7】実施形態に係るCMOS半導体素子により構成されるゲート駆動装置(HVIC)のブロック図。
図8】実施形態に係るCMOS半導体素子により駆動されるゲート駆動装置(HVIC)のハイサイド出力ドライバ回路(HSD)のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部の長さの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0010】
また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(実施の形態)
図1は、実施の形態に係る半導体素子の鳥瞰図である。
【0012】
実施の形態に係る半導体素子1は、図1に示すように、第1導電型の第1半導体領域(P-sub)10と、第1半導体領域10上の第2導電型の第2半導体領域(NBL)12と、第2半導体領域12上であって、第2半導体領域12よりも不純物濃度が低い第2導電型の第3半導体領域(N-epi)14と、第3半導体領域14上の第1導電型の第4半導体領域(P-well)18と、第4半導体領域18上の第2導電型の第5半導体領域(N+ソース)24と、第5半導体領域24から離間し、第4半導体領域18上の第2導電型の第6半導体領域(N+ドレイン)28と、第5半導体領域24から第6半導体領域28に至る第4半導体領域18上に設けられた絶縁ゲート構造を有するゲート電極26と、第2半導体領域12と第3半導体領域14を貫通する溝(DTI:Deep Trench Isolation)20とを備える。
【0013】
ここで、溝20は第1半導体領域10に達しており、第1半導体領域10における溝の深さWTは、第2半導体領域12との界面から広がる第1半導体領域10に生じる空乏層の深さWDよりも深い。すなわち、WT>WDが成立する。これにより、空乏層が溝20を越えて隣の半導体素子の領域へ広がることを抑制できる。ここで、空乏層の深さWDは溝20と隣接する第1半導体領域10の側面に生じる空乏層の深さをいう。例えば、図1におけるPMOS下方の第1半導体領域10に生じる空乏層の深さである。また、溝20には、酸化膜や窒化膜などの絶縁層が充填されている。また、第3半導体領域14はエピタキシャル成長により形成される。第3半導体領域14に対して、第4半導体領域18は、拡散工程により形成される。
【0014】
さらに、実施の形態に係る半導体素子1は、図1に示すように、第1導電型の第1半導体領域10と、第1半導体領域10上の第2導電型の第2半導体領域12と、第2半導体領域12上であって、第2半導体領域12よりも不純物濃度が低い第2導電型の第3半導体領域14と、第3半導体領域14上の第2導電型の第7半導体領域(N-well)16と、第7半導体領域16上の第1導電型の第8半導体領域(P+ドレイン)32と、第8半導体領域32から離間し、第7半導体領域16上の第1導電型の第9半導体領域(P+ソース)36と、第8半導体領域32から第9半導体領域36に至る第7半導体領域16上に設けられた絶縁ゲート構造を有するゲート電極34と、第2半導体領域12と第3半導体領域14を貫通する溝20とを備える。
【0015】
さらに、溝20は、第4半導体領域18と第7半導体領域16との間も絶縁分離している。また、エピタキシャル成長により形成された第3半導体領域14に対して、第7半導体領域16は、拡散工程により形成される。
【0016】
また、第4半導体領域18内には、第5半導体領域24と、第6半導体領域28と、ゲート電極26とを有するNMOSが形成される。第4半導体領域18上の第1導電型の第10半導体領域30は、第4半導体領域18に接続されており、NMOSのバックゲートコンタクトを構成している。
【0017】
また、第7半導体領域16内には、第8半導体領域32と、第9半導体領域36と、ゲート電極34とを有するPMOSが形成される。また、第7半導体領域16上の第2導電型の第11半導体領域38は、第7半導体領域16に接続されており、PMOSのバックゲートコンタクトを構成している。
【0018】
図2は、実施の形態に係る半導体素子1の平面図である。溝20は第4半導体領域18を囲むように形成されており、溝20内にNMOSが形成されており、溝20の外側にPMOSが形成されている。NMOSの下にある第2半導体領域12はPMOSの下にある第2半導体領域12と溝20によって離間し、NMOSの下にある第3半導体領域14は溝20でPMOSの下にある第3半導体領域14と離間している。
【0019】
第5半導体領域24と第1導電型の第10半導体領域30は、電気的に共通に接続されてVU端子(CMOSのローレベル端子)に接続される。第9半導体領域36と第11半導体領域38は、電気的に共通に接続されてVUH端子(CMOSのハイレベル端子)に接続される。ゲート電極26とゲート電極34は、電気的に共通に接続されて入力端子VG(CMOSのゲート入力端子)に接続される。第6半導体領域(N+ドレイン)28と第8半導体領域(P+ドレイン)32、電気的に共通に接続されて出力端子VG(CMOSのゲート出力端子)に接続される。以上により、実施の形態に係るCMOS半導体素子が構成されている。
【0020】
(ディープトレンチの効果)
ディープトレンチの形成には、工程追加(1マスク工程、シリコンの深いエッチング、種々の成膜工程)が必要となり、プロセスコストは上昇する。しかしながら、素子の占有面積、素子間の分離領域の面積を縮小でき、結果的にチップコストを抑制可能である。また、寄生素子の動作を抑制でき、誤動作に対する許容範囲の拡大、電力効率などの点で、特性を改善することも可能となる。
【0021】
(比較例)
(比較例の動作:ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合)
図3Aは、IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合の比較例に係るCMOS半導体素子1Aの断面図である。図3Bは、IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合の比較例に係るCMOS半導体素子の回路図である。図3Cは、ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合のIGBTインバータの回路図である。以下、定格電圧800VのIGBTインバータを例として説明する。
【0022】
(ソース24Aの直下とその近傍)
ハイサイドIGBTをゲート駆動させるスイッチの電源電圧として、図3Cで示すようなブートストラップ回路を用い、ハイサイドIGBTをゲート駆動させるスイッチの電源電圧Vが25Vである場合を例に考える。ハイサイドIGBTゲート駆動の最終段でCMOSを用いた場合、ハイサイドのIGBT(QUH)がOFF、ローサイドのIGBT(QUL)がONのとき、NMOSのボディ領域のPウェル18AとNエピタキシャル層14A間には例えば、25V程度の逆バイアスが印加され、これらの界面から空乏層が広がる。定格電圧/降伏電圧の最大許容度を考えると、Pウェル18AとNエピタキシャル層14Aとの間に、40V程度の逆バイアスが印加される恐れがある。この逆バイアスにより形成される図3Aの点線で示す空乏層がソース拡散層のN+層24Aに接触すればパンチスルーを起こし、VUH端子とソース(24A)間にリーク電流が流れてしまう。また、リーク電流が流れなくても、N+層24Aを寄生のエミッタとし、その直下のPウェル18Aを寄生のベースとし、さらにその直下のNエピタキシャル層14A層を寄生のコレクタとした、寄生NPNバイポーラトランジスタの電流増幅率が極大化し、PMOSとの間で、N(24A)P(18A)N(14A)P(36A)の接合構造でラッチアップを起こしやすくなるという問題が生ずる。よって、空乏層はVU端子下のソース24Aに近づかないように、Pウェル18Aの底は十分深く形成する必要がある。しかし、この素子のために、他の半導体素子のPウェルよりも深いPウェル18Aを個別に形成すると、マスク工程が増加し、製造プロセスが長くなってしまう。
【0023】
(比較例の動作:ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合)
図4Aは、IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の比較例に係るCMOS半導体素子1Aの断面図である。図4Bは、IGBTインバータにおいて、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の比較例に係るCMOS半導体素子の回路図である。図4Cは、図3Cと同様の回路で、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合のIGBTインバータの回路図である。
【0024】
(ドレイン28Aとその近傍)
ハイサイドIGBTをゲート駆動させる最終段でCMOSを用いた場合、ハイサイドのIGBT(QUH)がON、ローサイドのIGBT(QUL)がOFFのとき、NMOSのボディ領域のPウェル18AとNエピタキシャル層14Aとの間、そしてドレイン拡散層となるドレイン28AとPウェル18Aとの間には、ともに25V程度の逆バイアスが印加され、図4Aの点線で示すように、これらの界面から広がる空乏層が生じている。定格電圧/降伏電圧の最大許容度を考えると、Pウェル18Aは、Nエピタシャル層14A及びドレイン28Aに対し、40V程度の逆バイアスに耐える構造とする必要がある。しかし、この素子のために、他の半導体素子のPウェルよりも深いPウェル18Aを個別に形成すると、マスク工程が増加し、製造プロセスが長くなってしまう。
【0025】
ハイサイドのIGBTQUHがON、ローサイドのIGBTQULがOFFのとき、VUH端子、VUG端子ともに825Vの電位となるが、VUH端子の電位は、ブートストラップ用の外付けブートストラップキャパシタCBで維持される。このブートストラップキャパシタCBは、ハイサイド系の他の制御回路にも電源を供給するため、放電量も多くなる。
【0026】
一方、VUG端子は、IGBTのゲート電極に接続されるため、比較的大きなキャパシタに接続されている。そのため、ブートストラップキャパシタCBの充電状態が低下しやすく、その場合、VUG>VUHの状態に陥る。この状態に陥ると、キャリア移動とその正帰還でラッチアップ状態に陥る危険性が高まる。すなわち、(A)PMOSのP+ドレイン32AからNエピタキシャル層14Aに正孔が注入される。(B)NMOSのPウェル18Aに電界に従い注入正孔が移動する。(C)注入正孔がPウェル18Aに入ってくることにより、Pウェル18A部分の電位がプラス方向へシフトする。(D)Pウェル18Aは、NMOSのソース24Aとの間で順バイアスとなるので、ソース24AからPウェル18Aに電子が注入される。(E)この注入電子は電界に従い、空乏層を貫通し、Nエピタキシャル層14Aに侵入する。(F)Nエピタキシャル層14Aに電子がはいることでNエピタキシャル層14Aの電位はマイナスにシフトする。(G)この結果、PMOSのP+ドレイン32AからNエピタキシャル層14Aに正孔が注入される動作(A)が強化される。この繰り返しでラッチアップ状態に陥る。
【0027】
(実施の形態の動作:ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合)
図5Aは、図4Cと同様のIGBTインバータの回路において、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の実施の形態に係るCMOS半導体素子1の断面図である。図5Bは、図4Cと同様のIGBTインバータの回路において、ハイサイドのIGBTがON、ローサイドのIGBTがOFFの場合の実施の形態に係るCMOS半導体素子の回路図である。図5Cは、図3Cと同様のIGBTインバータの回路において、ハイサイドのIGBTがOFF、ローサイドのIGBTがONの場合の実施の形態に係るCMOS半導体素子1の断面図である。図5Aにおいては、溝20は第1半導体領域10に達しており、第1半導体領域10における溝の深さWTは、第2半導体領域12との界面から広がる第1半導体領域10に生じる空乏層の深さWDよりも深い。すなわち、WT>WDが成立する。これにより、空乏層が溝20を越えて隣の半導体素子へ広がることを抑制できる。図5Cにおいても、溝20は第1半導体領域10に達しており、第1半導体領域10における溝の深さWTは、第2半導体領域12との界面から広がる第1半導体領域10に生じる空乏層の深さWD′よりも深い。すなわち、WT>WD′が成立する。また、WT>WD>WD′が成立する。
【0028】
実施の形態に係るCMOS半導体素子1では、第2半導体領域12まで分離するように深い溝20構造を設けている。溝20構造はNMOSのボディ拡散層である第4半導体領域18を取り囲み、NMOSの下の第3半導体領域14および第2半導体領域12とPMOSの下の第3半導体領域14および第2半導体領域12とを分離するように形成される。溝20構造は実施の形態に係るCMOS半導体素子1以外の他の素子間の分離でも使用してもよく、溝20と他の半導体素子間を分離する溝とを共通のプロセスとすることで、プロセス工程の増加を抑制することができる。
【0029】
深い溝20に囲まれた、NMOSの下の第3半導体領域14および第2半導体領域12は、表面方向は第4半導体領域18、深さ方向は第1半導体領域10で挟み込まれており、電気的には浮遊状態となる。第1半導体領域10は低電位(例えば、接地電位)であり、図5Aおよび図5BのVU端子にP領域である第10半導体領域30とN+ソース領域である第5半導体領域24とが接続しており、ハイサイドのIGBTがONしているので、VU端子の電位は800V程度となる。そこで、第2半導体領域12の電位はVU端子の電位から拡散電位(Built-in電位)分を引いた電位となり、第2半導体領域12と第1半導体領域10との界面から広がる空乏層が生じている。よって、溝20に囲まれた領域にあるNMOSの下の第3半導体領域14および第2半導体領域12の電位は、PMOSの下の第3半導体領域14および第2半導体領域12とは異なり、PMOSのVUH端子の電位の影響を受けない。またNMOSの第4半導体領域18と第3半導体領域14との界面から広がる空乏層は拡散電位による空乏層のみである。ゆえに、ハイサイドIGBTをゲート駆動させるスイッチの電源電圧Vが例えば25Vという比較的大きな値を印加しても、比較例に係るCMOS半導体素子を用いたIGBTインバータに比較して、実施の形態に係るCMOS半導体素子を用いたIGBTインバータでは、第4半導体領域18と第3半導体領域14との界面から広がる空乏層を十分に狭くできる。
【0030】
以上から、実施の形態に係るCMOS半導体素子では、パンチスルーを生じることがないため、アバランシェ降伏を抑制可能な半導体素子を提供することができる。
【0031】
実施の形態に係るCMOS半導体素子1では、第4半導体領域18と第6半導体領域28間の降伏電圧40Vを確保する必要はあるものの、第3半導体領域14と第4半導体領域18は拡散電位の電位差であるため、第4半導体領域18と第3半導体領域14との界面から広がる空乏層を十分に狭い。よって、図5Aの点線で示すような空乏層の広がりとなり、第4半導体領域18と第6半導体領域28との界面から広がる空乏層だけを考慮すればよい。つまり、比較例に係るCMOS半導体素子を用いたIGBTインバータに比較して、第4半導体領域18を深く形成する必要がない。
【0032】
また実施の形態に係るCMOS半導体素子1では、深い溝20構造を設けていため、正孔がPMOSのドレインとなる第8半導体領域32からNMOSの下の第3半導体領域14側に移動することが抑制されるので、上記の比較例に係るCMOS半導体素子の例で示したラッチアップに関しても基本的には発生しない。PMOSのドレインとなる第8半導体領域32から第3半導体領域14に注入した正孔は、第3半導体領域14を拡散して伝搬するうちに再結合し消滅する。仮に第2半導体領域12に到達することがあっても、第2半導体領域12は高濃度であり、ライフタイムが極端に短いためそこでほとんど消滅する。さらに、第2半導体素子を貫通して第1半導体領域10に到達しても、第1半導体領域10の電位0Vに対し、無視できるほどのプラス電位シフトを起こす程度である。
【0033】
(モータ駆動装置)
図6は、実施形態に係るCMOS半導体素子により駆動される三相交流モータ200の三相交流インバータ(モータ駆動装置)の回路図である。実施形態に係るCMOS半導体素子により駆動されるモータ駆動装置は、図6に示すように、ドライバ回路ブロック150と、パワー回路ブロック180を備える。
【0034】
ドライバ回路ブロック150は、U相のハイサイドゲート駆動装置(UHVIC)、V相のハイサイドゲート駆動装置(VHVIC)、W相のハイサイドゲート駆動装置(WHVIC)およびローサイドゲート駆動装置(LVIC)を備える。
【0035】
パワー回路ブロック180は、ハイサイドスイッチQUH、QVH、QWHと、ローサイドスイッチQUL、QVL、QWLのIGBTからなる3相交流インバータを備え、U相、V相、W相のインバータ出力がそれぞれ交流モータMに接続される。P端子とN端子間には直流電圧が印加される。ドライバ回路ブロック150からのゲート制御信号により、IGBTで構成された3相交流インバータが駆動されて、直流―交流変換された交流電力が、交流モータMに供給される。図6において、Vsu、Vsv、Vswは、U相、V相、W相のインバータのハイサイドスイッチQUH、QVH、QWHのソース(エミッタ)の電位検出端子である。
【0036】
(ゲート駆動装置)
図7は、実施形態に係るCMOS半導体素子により構成されるゲート駆動装置(HVIC)のブロック図である。ここで、ゲート駆動装置(HVIC)は、U相のハイサイドゲート駆動装置(UHVIC)、V相のハイサイドゲート駆動装置(VHVIC)、W相のハイサイドゲート駆動装置(WHVIC)において、共通の構成となっている。
【0037】
実施形態に係るCMOS半導体素子により構成されるゲート駆動装置は、図7に示すように、低電圧誤動作防止機能を備えるUVLO(Under Voltage Lock Out)回路51と、UVLO回路51に接続されたハイサイド入力論理回路(HSIL)54と、ハイサイド入力論理回路(HSIL)54の出力をレベルシフトするためのレベルシフト(LS)56と、レベルシフト(LS)56の出力を供給し、高電圧出力HOを出力するハイサイド出力ドライバ回路(HSD)58とを備える。ここで、ハイサイド出力ドライバ回路(HSD)58には、低電圧誤動作防止機能を備えるUVLO回路51が接続される。UVLO回路51、52は、低電圧誤動作防止機能を備え、入力電圧が動作電圧範囲よりも下がり、内部回路が異常状態となる前に動作を止めて保護する回路である。
【0038】
図7に示されたUVLO回路51、52、ハイサイド入力論理回路54、レベルシフト(LS)56およびハイサイド出力ドライバ回路58は、いずれも実施の形態に係る半導体素子であるNMOSやCMOSで構成されている。
【0039】
(ブートストラップ回路)
図8は、実施形態に係るCMOS半導体素子により構成されるゲート駆動装置のハイサイド出力ドライバ回路58のブロック図である。
【0040】
ハイサイド出力ドライバ回路58は、出力段のCMOS回路とRSフリップフロップ回路152とリレー回路155を備える。出力段のCMOS回路には並列に、ブートストラップキャパシタ156が接続されている。ブートストラップキャパシタ156はブートストラップダイオード154のカソードに接続され、ブートストラップダイオード154のアノードはブート用電源電圧Vに接続されている。ブートストラップキャパシタ156と、ブートストラップダイオード154と、ブート用電源電圧Vとによって、ブートストラップ回路が構成されている。ブートストラップ回路により、出力段のCMOS回路のVUH、VU間の電圧を高電圧に維持することが可能となる。
【0041】
ゲート駆動装置のハイサイド出力ドライバ回路58において、出力段のCMOS回路、RSフリップフロップ(F/F)回路152、およびリレー回路155は、いずれも実施形態に係る半導体素子によって構成されている。
【0042】
図8に示されるハイサイド出力ドライバ回路58は、モータ等のコイルを駆動するハイサイド側スイッチQUHをゲート駆動させるドライバ回路ブロック150のドライバICの主要な回路構成とその周辺回路を備える。ドライバICは、ハイサイドドライバHSとローサイドドライバLSからなる。
【0043】
ここで、実施形態に係るCMOS半導体素子により、ハイサイド側スイッチのゲートにはゲートの許容電圧内で、ノイズマージンも考慮し、十分にオン可能なゲート駆動電圧を印加することが可能である。例えばスイッチがIGBT、電子注入促進型絶縁ゲートトランジスタ(IEGT:Injection Enhanced Gate Transistor)や逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)などのIGBT系素子の場合、他のスイッチング素子に比べて閾値電圧が高いので、最大定格電圧は40V程度、実使用上は、0V(off)/20~25V(on)位が一般的な電圧値となる。そこで、ブートストラップダイオードDBのカソード側と電気的に接続した(ブートストラップキャパシタCBと並列接続した)各CMOS回路はノイズマージンを考慮し、例えば、動作電圧は20V以上であり、0V~40Vの最大定格電圧の高圧の電位となる。
【0044】
上記の応用例では、モータ駆動用の三相交流インバータブリッジ回路の例を説明したが、実施形態に係るCMOS半導体素子により構成されるブリッジ回路としては、単相インバータ(IGBT2個のハーフブリッジ回路)、IGBT4個のフルブリッジ回路も含まれる。
【0045】
(その他の実施形態)
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。例えば、NMOSの隣にPMOSが構成されたCMOS半導体素子を例に挙げたが、NMOSの隣にNMOSを構成したゲート駆動装置の実施例であっても、駆動方法を変更すれば本発明で開示したNMOSを各々で適応できることは明らかである。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…半導体素子
10…第1半導体領域(P-sub)
12…第2半導体領域(NBL)
14…第3半導体領域(N-epi)
16…第7半導体領域(N-well)
18…第4半導体領域(P-well)
20…溝(DTI)
24…第5半導体領域(N+ソース)
26、34…ゲート電極
28…第6半導体領域(N+ドレイン)
30…第10半導体領域
32…第8半導体領域
36…第9半導体領域(P+ソース)
38…第11半導体領域
51、52…UVLO回路
54…ハイサイド入力論理回路
56…レベルシフト
58…ハイサイド出力ドライバ回路
150…ドライバ回路ブロック
152…RSフリップフロップ
154…ブートストラップダイオード(DB)
155…リレー回路
156…ブートストラップキャパシタ(CB)
180…パワー回路ブロック
180U…U相インバータ
180V…V相インバータ
180W…W相インバータ
200…三相交流モータ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8