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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129630
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038958
(22)【出願日】2023-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度総務省、「基地局端末間の協調による動的ネットワーク制御に関する研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 智文
(72)【発明者】
【氏名】松野 宏己
(72)【発明者】
【氏名】大戸 琢也
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA01
5J020BA16
(57)【要約】
【課題】反射装置の近傍領域において反射装置によって反射されることで得られる電磁界の特性を評価する際の利便性を向上するための技術を提供すること。
【解決手段】
複数の反射素子を有する反射装置の性能を推定する情報処理方法は、複数の反射素子が配置される反射面から、それぞれが1つ以上の反射素子を含む複数のセクションを特定することと、複数のセクションのそれぞれについて散乱パターンを特定することと、特定したセクションごとの散乱パターンに基づいて、送信点から送信された電磁波が反射装置によって反射されることで所定の位置において得られる電磁界の強度を推定することと、を含む。複数の反射素子は、複数のセクションの何れか1つに含まれ、複数のセクションのうちの少なくとも1つは、2つ以上の反射素子を含む。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反射素子を有する反射装置の性能を推定する情報処理方法であって、
前記複数の反射素子が配置される反射面から、それぞれが1つ以上の反射素子を含む複数のセクションを特定することと、
前記複数のセクションのそれぞれについて散乱パターンを特定することと、
特定したセクションごとの散乱パターンに基づいて、送信点から送信された電磁波が前記反射装置によって反射されることで所定の位置において得られる電磁界の強度を推定することと、
を含み、
前記複数の反射素子は、前記複数のセクションの何れか1つに含まれ、
前記複数のセクションのうちの少なくとも1つは、2つ以上の反射素子を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項2】
前記反射面から前記複数のセクションを特定することは、
前記複数のセクションのそれぞれのサイズに関する条件を決定することと、
決定した条件を満たすように所定のセクションに含まれる1つ以上の反射素子を決定することと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記サイズに関する条件は、前記所定のセクションと前記所定の位置との位置関係に基づいて決定される前記所定のセクションのサイズの上限であることを特徴とする請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記複数のセクションのそれぞれは矩形状であり、
前記サイズに関する条件は、前記所定のセクションの長辺の長さの上限であることを特徴とする請求項3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記所定のセクションの長辺の長さの上限を決定することは、所定のセクションの長辺の長さをLとし、前記複数の反射素子の設計周波数における波長をλとした場合に、前記所定の位置が前記所定のセクションの中心点から2L2/λ以上の距離に位置するようにLを決定することを含むことを特徴とする請求項4に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記複数のセクションのそれぞれについて散乱パターンを特定することは、前記複数のセクションのそれぞれについて電磁界シミュレーションによって散乱パターンを計算することを含むことを特徴とする請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記複数のセクションのそれぞれについて散乱パターンを特定することは、前記複数のセクションのそれぞれの散乱パターンを測定することを含むことを特徴とする請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項8】
複数の所定の位置における電磁界強度に基づいて前記反射装置の散乱パターンを推定することをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項9】
複数の反射素子を有する反射装置の性能を推定する情報処理装置に備えられたコンピュータに、
前記複数の反射素子が配置される反射面から、それぞれが1つ以上の反射素子を含む複数のセクションを特定する第1特定工程と、
特定した前記複数のセクションのそれぞれについて散乱パターンを特定する第2特定工程と、
特定したセクションごとの散乱パターンに基づいて、送信点から送信された電磁波が前記反射装置によって反射されることで所定の位置において得られる電磁界の強度を推定する推定工程と、
を実行させ、
前記複数の反射素子は、前記複数のセクションの何れか1つに含まれ、
前記複数のセクションのうちの少なくとも1つは、2つ以上の反射素子を有することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、複数の反射素子を備えるIRS(Intelligent Reflecting Surface)などの反射装置が検討されている。反射装置には、複数の反射素子が設けられ、反射素子の反射位相を変化させることで、所定の方向に反射波を向けることが可能になる。このような反射装置の性能を評価するためには、反射装置によって形成される散乱パターンを推定する必要がある。反射装置からの距離が充分に離れ、波動のインピーダンスが自由空間インピーダンスに近付いた領域は遠方領域と呼ばれ、反射装置の散乱パターンが距離に応じて変化しない。一方、反射装置からの距離が近く、波動のインピーダンスが自由空間インピーダンスと大きく異なる領域は近傍領域と呼ばれ、反射装置の散乱パターンが距離に応じて変化する。このため、近傍領域では所定の位置ごとに散乱パターンを推定する必要がある。
ここで、近傍領域と遠方領域との境界は、反射装置のサイズに依存するため、反射装置が大規模化するに従って反射装置の近傍領域は拡大する。このため、反射装置を設置する際には、近傍領域における反射装置によって形成される電磁界の特性を評価することが求められている。
【0003】
非特許文献1には、反射装置に含まれる複数の反射素子を個別の反射装置として扱い、各反射素子の散乱パターンを合成して反射装置全体の近傍領域における電磁界強度を評価する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W. tang, Z. Chen, M. Chen, X. chen, and J. Dai, “Wireless Communications With Reconfigurable Intelligent Surface: Path Loss Modeling and Experimental Measurement.” IEEE Trans. Veh. Technol., VOL. 20, NO. 1, JANUARY 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、反射素子を個別の反射装置として扱うと、反射素子間の結合を考慮しないため、実際の電磁界強度との誤差が大きくなるという問題があった。また、反射装置に配置される反射素子の数が増えると、個別の反射素子の散乱パターンを評価し、合成するための計算量が大きくなるという問題があった。このように、反射装置の近傍領域において反射装置によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を評価する際の利便性が低いことが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、反射装置の近傍領域において反射装置によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を評価する際の利便性を向上させるための技術を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一態様による情報処理方法は、
複数の反射素子を有する反射装置の性能を推定する情報処理方法であって、
前記複数の反射素子が配置される反射面から、それぞれが1つ以上の反射素子を含む複数のセクションを特定することと、
前記複数のセクションのそれぞれについて散乱パターンを特定することと、
特定したセクションごとの散乱パターンに基づいて、送信点から送信された電磁波が前記反射装置によって反射されることで所定の位置において得られる電磁界の特性を推定することと、
を含み、
前記複数の反射素子は、前記複数のセクションの何れか1つに含まれ、
前記複数のセクションのうちの少なくとも1つは、2つ以上の反射素子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、反射装置の近傍領域において反射装置によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を評価する際の利便性を向上するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る反射装置の構成を示す図
図2】本実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成図
図3】本実施形態に係る情報処理装置のソフトウェア構成図
図4】本実施形態に係る情報処理装置が実行する処理の一例を示すフローチャート
図5】本実施形態に係る反射面の分割の一例を示す図
図6】反射面の分割の変形例を示す図
図7】反射面の分割の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る反射装置の構成図である。反射装置1は、無線装置である送信装置2から送出された電磁波を反射する反射板である。なお、本実施形態では、反射装置1は反射板であるものとして説明を行うが、透過板についても同様に本実施形態を適用することができる。
【0012】
反射装置1は、送信装置2から送信された高周波数帯の無線信号の信号強度が構造物や地形の影響によって遮蔽される、不感地帯と呼ばれる範囲に位置する受信装置3の受信信号強度を改善する目的で配置されうる。不感地帯に十分な信号強度の反射信号を到達させるために、反射装置1のサイズを大きくすることができる。送信装置2は送信点とも呼ばれ、受信装置3は受信点とも呼ばれる。
【0013】
反射装置1は、複数の反射素子10a~10N(以下、区別せず反射素子10と称する場合がある)を備える。図1の例では、36個の矩形状の反射素子が図示されている。一例では、反射装置1は、各反射素子が反射する信号の位相、振幅を調整可能なIRS(Intelligent Reflecting Surface)である。このような場合、反射素子10は、反射素子10によって反射される電磁波の位相(反射位相)や振幅(反射振幅)を制御するための位相調整素子11a~11N(以下、区別せず位相調整素子11と称する場合がある)や振幅調整素子12a~12N(以下、区別せず振幅調整素子12と称する場合がある)を備える。位相調整素子11および振幅調整素子12は、動的または静的に調整することで、反射素子10によって反射される電磁波の位相および振幅の少なくとも何れかを変化させることができる回路素子である。適応的に位相調整素子11および振幅調整素子12を調整する場合は、反射装置1は位相調整素子11および振幅調整素子12を制御するための1つ以上の制御回路(不図示)を有してもよい。反射素子10が配置される反射装置1の面を反射面13と呼ぶ。
【0014】
なお、図1の例では、反射素子10ごとに位相調整素子11および振幅調整素子12が設けられるものとして説明を行う。しかしながら、反射装置1は、複数の反射素子10によって反射される電磁波の位相、振幅をまとめて又は個別に制御する1つの位相調整素子11または1つの振幅調整素子12を有してもよい。また、少なくとも1つの反射素子10には、位相調整素子11および振幅調整素子12の少なくとも何れかが接続されなくてもよい。また、1つの反射素子10によって反射される電磁波の位相および振幅を調整する1つの調整素子が接続されてもよいし、1つの反射素子10の位相または振幅の調整のために複数の調整素子が配置されてもよい。
【0015】
反射装置1の反射面13のX方向におけるサイズをLxとし、Y方向におけるサイズをLyとし、LxとLyとの大きい方、すなわち反射面13の長辺の長さをLとすると、反射装置1の反射面の中心点から距離Dが2L2/λ未満の範囲は近傍領域と呼ばれ、距離Dが2L2/λ以上の範囲は遠方領域と呼ばれる。近傍領域では電磁波がビームとして直線状に伝搬し、遠方領域では電磁波が波状に拡散する。ここで、近傍領域では、反射面13からの距離に応じて散乱パターンが大きく変化する。このため、近傍領域では、反射面13が形成する電磁界の分布として遠方領域のように指向性などの散乱パターンを特定することができず、近傍領域において反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を推定することが困難であった。送信装置2から送信された電磁波を受け取る面積を大きくすることで反射信号強度を大きくすることができるため、反射面13が大型化されるにつれて、デバイスサイズに対応して近傍領域の範囲も広くなる。このため、サイズの大きな反射装置1の設置の際に、距離Dが2L2/λ未満の範囲に受信点が存在した場合の受信性能を見積もることができず、反射装置1の設置の際に受信性能が向上するエリアを見積もることが困難であった。一方、非特許文献1に記載されているように、反射装置1に含まれる反射素子ごとに散乱パターンなどの特性を推定し、散乱パターンを合成すると、素子間結合などに起因して反射素子の実際の特性と推定値との差が大きくなり、合成した散乱パターンも実際の特性と異なることが課題であった。
【0016】
以上の課題を解決するために、本実施形態では、反射装置1が有する複数の反射素子10を複数のセクションに分割し、それぞれのセクションの散乱パターンを測定または計算し、それぞれのセクションの散乱パターンの足し合わせによって反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を推定する。これによって、反射装置1にとっては近傍領域に該当する位置であっても、セクションにとっては遠方領域に該当する位置において、セクションの散乱パターンを合成して近傍領域における反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を推定することができる。
【0017】
また、上述したように、非特許文献1には、複数の反射素子を含む反射装置の特性の推定において、個別の反射素子の特性の組合せに基づいて反射装置によって反射された電磁波の受信点における電磁波強度を推定することが提案されている。しかしながら、この方法では、反射素子ごとに特性の測定やシミュレーション評価を行う必要があることに加え、反射素子間の結合を考慮していなかった。これに対して、本実施形態では、反射装置を1つ以上、例えば複数の反射素子が含まれるセクションに分割し、セクションごとに散乱パターンを特定し、特定したセクションの散乱パターンの組合せに基づいて反射装置によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を推定する。これによって、セクションに含まれる複数の素子の素子間結合を考慮することができ、反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性の推定値と測定値とのずれを小さくすることができる。
【0018】
以下の説明では、本実施形態を実現するための構造、機能、および処理について説明する。
【0019】
<ハードウェア構成>
図2は、本実施形態に係る情報処理装置の構成図である。情報処理装置100は、構成要素としてCPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、およびHDD(Hard Disk Drive)204を含む。これらの構成要素は、バス205を介して通信可能に接続される。
【0020】
CPU201は、情報処理装置100の全体の動作を制御する1つ以上のプロセッサ、プログラマブルロジック回路、またはマイクロプロセッサである。また、CPU201は、ROM202に記憶された制御プログラムを読み出してRAM203などと協働し、後述する反射装置1の散乱パターンの推定を行う。
【0021】
ROM202は、例えばフレキシブルディスク、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、DVD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、EEPROM、またはシリコンディスク等の、制御プログラムの記憶領域である。
【0022】
RAM203は、CPU201が各種プログラムを実行するためのワークエリア等として使用する揮発性のメモリである。HDD204は、反射装置1の構造データや各種プログラムを記憶する大容量記録媒体である。
【0023】
<ソフトウェア構成>
図3は、本実施形態に係る情報処理装置100の機能ブロックを示す。情報処理装置100は、CPU201がROM202やHDD204に記憶されたプログラムをRAM203に展開して実行することで、送受信点情報取得部301、反射装置情報管理部302、セクション分割部303、散乱パターン推定部304、合成部305として機能する。一例では、情報処理装置100はコンピュータである。
【0024】
送受信点情報取得部301は、送信点に配置される送信装置の第1の位置、および受信装置が存在しうる第2の位置に関する情報を含む送受信点情報を取得する。一例では、送受信点情報取得部301は、第1の位置と関連付けて送信装置の指向性や送信装置の姿勢に関する情報を取得しうる。また、送受信点情報取得部301は、第2の位置を、受信装置が配置されうる複数の位置、または位置の範囲として取得してもよく、第2の位置に対応付けて受信装置の指向性や姿勢に関する情報を取得してもよい。一例では、送受信点情報は、HDD204に格納されていてもよい。あるいは、ユーザ入力または外部装置から受信した信号に基づいて送受信点情報を判定してもよい。
【0025】
反射装置情報管理部302は、HDD204に格納された、反射装置1の反射面13のサイズに関する情報、反射素子10の配置、および反射装置1が設置されうる候補となる第3の位置に関する情報を管理する。また、反射装置情報管理部302は、第3の位置として反射装置1または反射面13の姿勢に関する情報を取得する。また、本実施形態では、反射装置1は、所定の送信点から送出された電磁波を所定の受信点に反射するよう位相調整素子11および振幅調整素子12のパラメータが設定された状態において、所定の位置に受信装置が移動した、または所定の位置に他の受信装置が存在する場合の、当該所定の位置において反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を推定するものとする。このため、反射装置情報管理部302は、あらかじめ設定され、HDD204などに記憶されている位相調整素子11および振幅調整素子12のパラメータを取得可能であるものとする。しかしながら、反射装置情報管理部302は、反射装置1から取得した信号またはユーザによって入力された情報に基づいて位相調整素子11および振幅調整素子12のパラメータを取得してもよい。
【0026】
セクション分割部303は、送受信点情報取得部301で取得した第1および第2の位置、並びに反射装置情報管理部302から取得した反射装置1に関する情報に基づいて、第2の位置において反射装置1の散乱パターンを推定するために、反射装置1を、それぞれが1つ以上の反射素子10を含むセクションに分割する。セクション分割部303の詳細については図4を参照して後述する。
【0027】
散乱パターン推定部304は、セクション分割部303で分割したセクションごとに、送信点からの電磁波の入射角、受信点への電磁波の反射角を特定して、セクションごとに散乱パターンなどの電磁波特性を推定する。本実施形態に係る散乱パターン推定部304は、セクションの遠方領域における電磁波特性として、散乱パターンを推定するものとして説明を行うが、反射波の位相、振幅に関する情報であればよく、所定の地点に受信装置が存在すると仮定した場合の受信信号強度、信号の遅延スプレッドなど所定の電磁波特性を推定してもよい。
【0028】
合成部305は、散乱パターン推定部304で推定したセクションごとの散乱パターンなどの特性を合成し、反射装置1の近傍領域において反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を推定する。本実施形態では、合成部305は、反射装置1の近傍領域に含まれる所定の位置における電磁界強度を推定するものとして説明を行うが、反射装置1の近傍領域に含まれる所定の位置の範囲における電磁界強度を推定して、散乱パターンを計算してもよい。
【0029】
<処理例>
図4を参照して、本実施形態に係る情報処理装置100が実行する、反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の特性を推定する処理の一例を説明する。図4に示す処理は、情報処理装置100のCPU201がプログラムを実行することで実現される。なお、図4に示す処理は、情報処理装置100の入力インタフェース(不図示)または通信インタフェース(不図示)を介して、情報処理装置100がユーザまたは外部装置から実行を指示された場合に実現される。
【0030】
情報処理装置100は、送受信点の位置を含む送受信点情報を取得する(S401)。本実施形態では、情報処理装置100は、情報処理装置100の入力インタフェース(不図示)または通信インタフェース(不図示)を介してユーザまたは外部装置から送受信点情報を取得する。送受信点の位置は、反射装置1に対する絶対的な位置であるものとする。なお、上述したように、情報処理装置100は、受信点の位置を、位置の範囲として取得してもよい。
【0031】
続いて、情報処理装置100は、反射装置1の位置およびサイズに関する情報を含む反射装置情報を取得する(S402)。情報処理装置100は、反射装置1の絶対位置をHDD204などに予め格納しているため、HDD204から反射装置1の絶対位置を取得することで、送受信点と反射装置1との位置関係を把握することができる。しかしながら、情報処理装置100は、入力インタフェース(不図示)または通信インタフェース(不図示)を介してユーザまたは外部装置から反射装置1の位置およびサイズを示す情報を取得してもよい。
【0032】
また、本実施形態では、情報処理装置100は、S401で送受信点の位置を、絶対位置として取得するものとして説明する。しかしながら、一例では、S401で情報処理装置100は送受信点の位置を反射装置1に対する相対的な位置として取得してもよく、この場合、S402の処理は省略されてもよい。
【0033】
続いて、情報処理装置100は、S401で取得した送受信点情報およびS402で取得した反射装置情報に基づいて、反射装置1に含まれる反射素子10を複数のセクションに分割する(S403)。本実施形態では、S403では、セクションのサイズに関する条件を決定し、それぞれのセクションに含まれる反射素子を判定することで反射面のセクションへの分割を行う。
【0034】
図5を参照して、反射素子10の分割数を決定する方法について説明する。
【0035】
反射装置1の反射面13は、反射素子10の数がN×Mであり、反射面13のサイズはL×LMであるものとする。図5に示す例では、N=M=6である。ここで、反射面13の長辺はLN、すなわちLN=Lであるものとする。この場合、反射装置1の近傍領域は、反射面13から距離が2L2/λ以内の範囲である。図5の例では、受信点の位置が、反射面13から距離が2L2/λ以内の範囲であるものとする。このため、情報処理装置100は、受信点が反射装置1の遠方領域に位置するように、N×Mの反射素子10を複数のセクションに分割する。
【0036】
例えば、情報処理装置100は、第1のセクション500に含まれる反射素子10の数n1(n1は整数かつn1≦N)を、Nの約数から選択する。ここで、セクション500は、反射面13のうち、n1×n1の反射素子10を含み、他の反射素子10の一部を含まない端部501を有するように設定される。図5の例では、n1×n1の反射素子10を含み、最も面積が小さくなる矩形であるようにセクション500の端部501が設定されるように図示している。しかしながら、一例では、n1×n1の反射素子10を含み、最も面積が小さくなる矩形に、所定のマージンを加えた領域を端部501としてもよい。情報処理装置100は、Nの約数iのうち、第1のセクション500の中心点502から受信点までの距離d1が2(l12/λ以下となるiをn1として選択する。ここで、l1は1番目のセクション500の長辺のサイズである。
【0037】
続いて、情報処理装置100は、第2~第4のセクション510~530に含まれる反射素子10の数を、第1のセクション500と同様に決定する。すなわち、j番目のセクション(j=1~4)について、セクション500~530の中心点から受信点までの距離djがそれぞれ2(lj2/λ以下となるようにセクション500~530に含まれる反射素子10の数を決定する。ここで、情報処理装置100が反射装置1を4つのセクションに分割する場合について説明しているが、分割する数は限定されない。以下の説明では、セクションの分割数をJとして説明する。
【0038】
なお、情報処理装置100は、反射装置1のすべての反射素子10がいずれかのセクションに属するようにセクションの分割を行う。また、1つの反射素子10が2つ以上のセクションに属しないようにセクションの分割を行う。
【0039】
なお、セクションごとに異なる形、面積であってもよい。例えば、図6に示すように、セクション600が4×4の反射素子10を含むようにし、セクション610が2×4の反射素子10を含み、セクション620が4×2の反射素子10を含み、セクション630が2×2の反射素子10を含むように分割してもよい。言い換えると、受信点が遠方領域に含まれるようにセクションの長辺の長さを決定すればよい。この場合、複数のセクションにのサイズに関する条件は、セクションの長辺の長さが、受信点がセクションの遠方領域に含まれるように決定された上限値以下となることである。
【0040】
このようにセクションの分割を行うことで、いずれのセクションからみても受信点が遠方領域に位置することになるため、後述する処理で反射装置1の近傍領域であっても、セクションの遠方領域における散乱パターンに基づいて電磁波特性を算出することができる。
【0041】
なお、S403では、反射面13の中心点から見て送信点および受信点までの距離Dが2(lj2/λとなるように分割数が決定されてもよい。
【0042】
別の例では、図5に示すように、反射素子10が等間隔に並べられる場合、S403では受信点が遠方領域に位置するようになる、1方向に並べられた反射素子の数を判定することを含む。例えば、1方向に4つの反射素子10を並べた場合の長さを有するセクションの近傍領域に受信点が含まれるか否かを判定し、近傍領域に含まれる場合には、3つの反射素子10を並べた場合の長さを有するセクションの近傍領域に受信点が含まれるか否かを判定することでセクションの長さを判定してもよい。
【0043】
続いて、セクションごとに、セクションの中心点から送信点、受信点までの距離及び角度を計算する(S404)。なお、S403でセクションごとの中心点から送受信点までの距離を計算している場合には、S404ではセクションごとの中心点から送受信点までの角度が計算されればよい。S404では、反射面13の中心点を基準とし、反射面13をXY平面とし、法線方向をZ方向とする座標系において、XY平面におけるj番目のセクションへの入射角および反射角をそれぞれ

とし、XZ平面におけるj番目のセクションへの入射角および反射角をそれぞれ

として特定する。
【0044】
続いて、セクションごとの散乱パターンを特定する(S405)。S405では、情報処理装置100は、送信点から送出されるビームがセクションの中心点に対して向けられた状態で、セクションが形成する散乱パターンを測定する、または電磁界シミュレーションによって計算することでセクションごとの散乱パターン503、511、521、531を特定する。なお、S405では散乱パターンに加え、反射利得、反射位相、および反射振幅の少なくとも何れかを取得してもよい。推定されたセクションごとの散乱パターンは、HDD204などの記憶装置に記憶され、S406で後述する散乱パターンの合成の際に読み出される。S405では、散乱パターンの推定を行うセクション以外のセクションを配置しないようにすることで、セクションのみの散乱パターンの推定を行う。また、S405では、複数の受信点について受信強度または受信信号の位相を測定または計算することで散乱パターンを判定してもよい。
【0045】
続いて、情報処理装置100は、各セクションについて測定または計算した散乱パターンを合成して、反射装置1全体の散乱パターンを推定する(S406)。例えば、所定の受信点において反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の強度は、以下の数式1で求められる。
【0046】
【数1】
【0047】
ここで、
【0048】
【数2】
【0049】
ここで、Gtxは送信装置の送信アンテナの利得であり、Grxは受信装置の受信アンテナの利得であり、GjはS405で取得した散乱パターンに基づいて計算されたj番目のセクションの利得である。また、lxjはj番目のセクションのX方向のサイズであり、lyjはj番目のセクションのY方向のサイズであり、λは設計周波数における波長であり、Aはセクションの反射係数の絶対値|Γj|によって規定される反射振幅であり、j番目のセクションに接続された位相調整素子11および振幅調整素子12のパラメータに基づいて判定される。また、
は送信アンテナがj番目のセクションへビームを向けた場合の放射パターンであり、
は受信アンテナがj番目のセクションへビームを向けた場合の放射パターンであり、Fj(θ、φ)はj番目のセクションの散乱パターンであり、それぞれ各度をパラメータとして有する。

は、それぞれj番目のセクションの中心点から送信点および受信点までの距離である。λφjは、j番目のセクションの反射位相であり、j番目のセクションに接続された位相調整素子11および振幅調整素子12のパラメータに基づいて判定される。
【0050】
これらのパラメータに基づいて、受信点において、送信装置2から送出された電磁波のうち、反射装置1によって反射された電磁波によって形成される電磁界の強度を、セクションごとの散乱パターンを合成して判定することができる。また、各セクションから遠方領域となる位置の範囲で、反射装置1から反射された電磁波の強度をの複数の受信点で推定することで、反射装置1の近傍領域であっても、反射装置1によって形成される信号強度を推定することができる。
【0051】
<変形例>
上述した実施形態では、矩形状の反射素子10を複数備える反射装置1を、矩形状の複数のセクションに分割する例について説明した。しかしながら、反射素子10の形状は矩形に限定されず、セクションの形状も矩形に限定されない。
【0052】
図7に本実施形態に係るセクションの変形例を示す。図7では、円状の反射素子を三角形状の複数のセクション701~703に分割する。図7では、図6と同様に、セクションごとに異なる数の反射素子10を有する。また、セクション602とセクション603とに示すように、異なる反射素子が含まれるのであれば、複数のセクションの一部が重複していてもよい。
【0053】
<その他の実施形態>
図1に示す反射面13は、同一サイズの反射素子10が等間隔に配置されているものとして説明した。しかしながら、反射素子10はそれぞれ異なるサイズであってもよいし、配置される間隔は適宜変更することができる。しかしながら、等間隔で配置される同一サイズの複数の反射素子10を有する反射素子であれば、例えば図5に示すように同じ数の反射素子を有するようにセクションの分割を行うことで、異なるセクションに対して同一の散乱パターンであると仮定することができる。このような場合、S405において、1つのセクションの散乱パターンを特定することで、特定した当該散乱パターンを他のセクションの散乱パターンにも使用することができる。これによって、すべてのセクションの散乱パターンを測定またはシミュレーションで計算する必要がないため、S405における処理負荷を軽減することができる。
【0054】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:反射装置、2:送信装置、3:受信装置、10:反射素子、11:位相調整素子、12:振幅調整素子、13:反射面、100:情報処理装置、301:送受信点情報取得部、302:反射装置情報管理部、303:セクション分割部、304:散乱パターン特定部、305:合成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7