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特開2024-129640巻線界磁型モータの制御方法、及び、巻線界磁型モータの制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129640
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】巻線界磁型モータの制御方法、及び、巻線界磁型モータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/028 20160101AFI20240919BHJP
   H02P 29/62 20160101ALI20240919BHJP
【FI】
H02P29/028
H02P29/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038972
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水口 尊博
(72)【発明者】
【氏名】正治 満博
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔
(72)【発明者】
【氏名】中川路 周作
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501CC04
5H501DD10
5H501EE08
5H501GG05
5H501HB08
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL35
5H501LL39
5H501MM09
5H501MM11
(57)【要約】
【課題】過熱保護時に出力トルクを補償し、要求された出力トルクを得られやすくした巻線界磁型モータの制御方法、及び、巻線界磁型モータの制御装置を提供する。
【解決手段】電機子と電機子を制御する制御器(インバータ15)によって構成される電機子系が過熱状態であるか否かを判定し、また、界磁と界磁を制御する制御器(界磁電流出力器16)によって構成される界磁系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、電機子系または界磁系のうちいずれか一方が過熱状態であると判定した場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力(例えばvd-fin ,vq-fin )を制限するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力(例えばvf-fin )を増加させる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子巻線を有する電機子と、界磁巻線を有する界磁と、を備える巻線界磁型モータの制御方法であって、
前記電機子と前記電機子を制御する制御器によって構成される電機子系が過熱状態であるか否かを判定し、
前記界磁と前記界磁を制御する制御器によって構成される界磁系が過熱状態であるか否かを判定し、
前記電機子系または前記界磁系のうちいずれか一方が過熱状態であると判定した場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力を制限するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させる、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
過熱状態である前記一方の系における供給電力の減少に応じて、過熱状態でない前記他方の系に対する供給電力を増加させる、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
前記界磁巻線に流れる電流である界磁電流を取得し、
前記電機子巻線に流れる電流である電機子電流を取得し、
前記界磁電流及び前記電機子電流に基づいて、過熱状態でない前記他方の系に対する供給電力を決定する、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
前記電機子系が過熱状態であり、前記界磁系が過熱状態でないと判定した場合、
前記電機子電流を制限し、
前記界磁電流と、制限後の前記電機子電流と、に基づいて、出力トルクの推定値である推定トルクを演算し、
要求トルクと、前記要求トルクに応じて決定する前記界磁電流と、前記推定トルクと、に基づいて、前記界磁系に対する供給電力を決定する、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項5】
請求項3に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
前記界磁系が過熱状態であり、前記電機子系が過熱状態でないと判定した場合、
前記界磁電流を制限し、
要求トルク、前記電機子電流、及び、制限後の前記界磁電流に基づいて、前記電機子系に対する供給電力を決定する、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
過熱状態であると判定し、供給電力の制限を開始する温度である制限開始温度は、前記電機子系と前記界磁系とで異なり、
前記電機子系と前記界磁系のうち相対的に応答が早い系の前記制限開始温度を、相対的に応答が遅い系の前記制限開始温度よりも低い値に設定する、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
過熱状態であると判定し、供給電力の制限を開始する温度である制限開始温度は、前記電機子系と前記界磁系のうち相対的に応答が早い系において可変であり、
前記応答が早い系の温度の時間変化率が予め定める所定閾値以上であるときに、前記応答が早い系の前記制限開始温度を、前記電機子系と前記界磁系のうち相対的に応答が遅い系の前記制限開始温度よりも低い値に設定し、
前記応答が早い系の温度の時間変化率が前記所定閾値未満であるときに、前記応答が早い系の前記制限開始温度を、前記応答が遅い系の前記制限開始温度と等しい値に設定する、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
温度変化に対する供給電力の制限率は、前記電機子系と前記界磁系で異なり、
前記電機子系と前記界磁系のうち応答が相対的に早い系の前記制限率を、相対的に応答が遅い系の前記制限率よりも小さい値に設定する、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の巻線界磁型モータの制御方法であって、
温度変化に対する供給電力の制限率は、前記電機子系と前記界磁系のうち相対的に応答が早い系において可変であり、
前記応答が早い系の温度の時間変化率が予め定める所定閾値以上であるときに、前記応答が早い系の前記制限率を、前記電機子系と前記界磁系のうち相対的に応答が遅い系の前記制限率よりも低く設定し、
前記応答が早い系の温度の時間変化率が前記所定閾値未満であるときに、前記応答が早い系の前記制限率を、前記応答が遅い系の前記制限率と等しい値に設定する、
巻線界磁型モータの制御方法。
【請求項10】
電機子巻線を有する電機子と、界磁巻線を有する界磁と、を備える巻線界磁型モータの制御装置であって、
前記電機子と前記電機子を制御する制御器によって構成される電機子系が過熱状態であるか否かを判定し、
前記界磁と前記界磁を制御する制御器によって構成される界磁系が過熱状態であるか否かを判定し、
前記電機子系または前記界磁系のうちいずれか一方が過熱状態であると判定した場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力を制限するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させる、
巻線界磁型モータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線界磁型モータの制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータ及びモータコントロールユニットの推定温度が予定の過熱保護温度以上になったときにモータに供給する電流を制限し、モータ及びモータコントロールユニットを過熱から保護する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-098625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータやインバータの過熱保護は、モータやインバータの温度に基づいてモータへの電力供給を制限することによって行われる。しかし、モータへの供給電力が制限されると、モータの出力トルクが小さくなる。すなわち、過熱保護時には、モータの出力トルクが小さくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、特に巻線界磁型モータの制御に関し、過熱保護時に出力トルクを補償し、要求された出力トルクを得られやすくした巻線界磁型モータの制御方法、及び、巻線界磁型モータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、界磁巻線を有する界磁と、電機子巻線を有する電機子と、を備える巻線界磁型モータの制御方法である。この巻線界磁型モータの制御方法では、電機子と電機子を制御する制御器によって構成される電機子系が過熱状態であるか否かを判定し、界磁と界磁を制御する制御器によって構成される界磁系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、電機子系または界磁系のうちいずれか一方が過熱状態であると判定した場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力を制限するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、過熱保護時に出力トルクを補償し、要求された出力トルクを得られやすくした巻線界磁型モータの制御方法、及び、巻線界磁型モータの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、巻線界磁型モータの制御装置を示すブロック図である。
図2図2は、電圧指令値演算部の構成を示すブロック図である。
図3図3は、電機子側トルク制限率演算部の構成を示すブロック図である。
図4図4は、電機子側トルク指令値演算部の構成を示すブロック図である。
図5図5は、第2電機子電流制御部の構成を示すブロック図である。
図6図6は、第2界磁電流制御部の構成を示すブロック図である。
図7図7は、過熱保護制御の作用を示すフローチャートである。
図8図8は、出力トルク等を示すタイムチャートである。
図9図9は、第2実施形態におけるトルク制限率の設定を示す説明図である。
図10図10は、出力トルク等を示すタイムチャートである。
図11図11は、第3実施形態における電機子側トルク制限率演算部の構成を示すブロック図である。
図12図12は、第3実施形態における電機子側トルク制限率の設定を示す説明図である。
図13図13は、電機子側トルク制限率の演算に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、巻線界磁型モータ10の制御装置100を示すブロック図である。巻線界磁型モータ10及びその制御装置100は、例えば、ハイブリッド自動車または電気自動車等の電動車両で用いられる。
【0011】
制御対象である巻線界磁型モータ10は、界磁巻線を有する界磁(界磁子)と、電機子巻線を有する電機子と、を含む回転電機である。界磁は、界磁巻線に電流(以下、界磁電流という)を流すことにより、界磁磁束を生じさせる。電機子は、電機子巻線に電流(以下、電機子電流という)を流すことにより生じる磁束を、界磁磁束と相互作用させることによって、巻線界磁型モータ10の出力軸にトルクを生じさせる。本実施形態では、巻線界磁型モータ10は三相同期電動機である。本実施形態では、回転子が界磁であり、回転子が有する巻線(回転子巻線)が界磁巻線である。そして、固定子が電機子であり、固定子が有する巻線(固定子巻線)が電機子巻線である。界磁、界磁巻線、電機子、及び、電機子巻線の図示は省略する。
【0012】
図1に示すように、巻線界磁型モータ10の制御装置100は、電流指令値演算部11、電圧指令値演算部12、座標変換部13、PWM変換器14、インバータ15、界磁電流出力器16、及び、直流電源17を備える。
【0013】
電流指令値演算部11は、トルク指令値T、巻線界磁型モータ10の回転数N、及び、直流電源17が出力する直流電圧Vdcに基づいて、d軸電流指令値i 、q軸電流指令値i 、及び、界磁電流指令値i を演算する。
【0014】
トルク指令値Tは、巻線界磁型モータ10に対する要求トルクを表す指令値である。トルク指令値Tは、例えば、巻線界磁型モータ10及び制御装置100を搭載する車両のアクセル操作量(アクセル開度)等に基づいて決定される。本実施形態では、制御装置100は、図示しない上位のコントローラからトルク指令値Tを取得するものとする。
【0015】
d軸電流指令値i 及びq軸電流指令値i (以下、dq軸電流指令値i ,i という)は、dq軸座標系における電機子電流(dq軸電流i,i)についての指令値である。dq軸座標系は、巻線界磁型モータ10の電気角速度ωで回転する直交二軸直流座標系である。dq軸電流指令値i ,i は、特定の回転数N及び特定の直流電圧Vdcの状態において、トルク指令値T(要求トルク)を実現させるdq軸電流i,iを表す。
【0016】
界磁電流指令値i は、界磁電流iについての指令値である。界磁電流指令値if*は、特定の回転数N及び特定の直流電圧Vdcの状態において、トルク指令値T(要求トルク)を実現させる界磁電流iを表す。
【0017】
本実施形態では、電流指令値演算部11は、トルク指令値T、回転数N、及び、直流電圧Vdcと、dq軸電流指令値i ,i 及び界磁電流指令値i と、を実験またはシミュレーション等によって予め対応付けた電流指令値マップ(図示しない)を有する。このため、電流指令値演算部11は、電流指令値マップを参照することにより、トルク指令値T、回転数N、及び、直流電圧Vdcに対応するdq軸指令値i ,i 及び界磁電流指令値i を演算する。なお、以下では、dq軸電流指令値i ,i 及び界磁電流指令値i を併せて、電流指令値iという場合がある。
【0018】
電圧指令値演算部12は、dq軸電流指令値i ,i 及び界磁電流指令値i 等に基づいて、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin 及び最終界磁電圧指令値vf-fin を演算する。具体的には、電圧指令値演算部12は、トルク指令値T、回転数N、dq軸電流指令値i ,i 、界磁電流指令値i 、dq軸電流i,i、界磁電流i、電機子系の温度、及び、界磁系の温度に基づいて、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin 及び最終界磁電圧指令値vf-fin を演算する。
【0019】
dq軸電流i,iは電機子電流の検出値または推定値であり、界磁電流iは界磁電流の検出値または推定値である。本実施形態では、dq軸電流i,i及び界磁電流iはいずれも検出値である。
【0020】
電機子系とは、巻線界磁型モータ10の電機子、及び、電機子を制御する制御器によって構成される系である。電機子系の温度とは、電機子の温度(以下、電機子温度Γmot-sという)、電機子を制御する制御器の温度(以下、電機子制御器温度Γinv-sという)、または、これらの両方である。以下では、dq軸電圧指令値及び界磁電圧指令値の演算に、電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sの両方が用いられる。
【0021】
電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sは、検出値または推定値である。本実施形態では、電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sは、いずれも、図示しない温度センサを用いて、必要に応じた任意のタイミングで検出される。なお、本実施形態では、電機子温度Γmot-sは、電機子(電機子巻線)の耐熱上限温度で正規化した正規化温度[%]である。同様に、電機子制御器温度Γinv-sは、インバータ15等の耐熱上限温度で正規化した正規化温度[%]である。
【0022】
本実施形態では、電機子系は、例えば、電機子(固定子)とインバータ15によって構成される。電機子温度Γmot-sは、電機子巻線(固定子巻線)の温度である。電機子制御器温度Γinv-sは、インバータ15の温度、すなわちインバータ15を構成するパワーモジュール(スイッチング素子)やドライバ基板等の温度、または、それらの代表値等である。
【0023】
界磁系とは、巻線界磁型モータ10の界磁、及び、界磁を制御する制御器によって構成される系である。界磁系の温度とは、界磁の温度(以下、界磁温度Γmot-rという)、界磁を制御する制御器の温度(以下、界磁制御器温度Γinv-rという)、または、これらの両方である。以下では、dq軸電圧指令値及び界磁電圧指令値の演算に、界磁温度Γmot-r及び界磁制御器温度Γinv-rの両方が用いられる。
【0024】
界磁温度Γmot-r及び界磁制御器温度Γinv-rは、検出値または推定値である。本実施形態では、界磁温度Γmot-r及び界磁制御器温度Γinv-rは、いずれも、図示しない温度センサを用いて、必要に応じた任意のタイミングで検出される。なお、本実施形態では、界磁温度Γmot-rは、界磁(界磁巻線)の耐熱上限温度で正規化した正規化温度[%]である。同様に、界磁制御器温度Γinv-rは、界磁電流出力器16等の耐熱上限温度で正規化した正規化温度[%]である。
【0025】
本実施形態では、界磁系は、例えば、界磁(回転子)と界磁電流出力器16によって構成される。界磁温度Γmot-rは、界磁巻線(回転子巻線)の温度である。界磁制御器温度Γinv-rは、界磁電流出力器16の全体の温度、界磁電流出力器16が含む素子の温度、または、それらの代表値等である。
【0026】
なお、以下では、前述の電機子温度Γmot-sと上記の界磁温度Γmot-rとを併せて、モータ温度Γmotという場合がある。また、前述の電機子制御器温度Γinv-sと上記の界磁制御器温度Γinv-rとを併せて、制御器温度Γinvという場合がある。
【0027】
dq軸電流i,i、すなわちd軸電流i及びq軸電流iは、dq軸表示における電機子巻線に流れる電流の検出値または推定値である。同様に、界磁電流iは、界磁巻線に流れる電流の検出値または推定値である。本実施形態では、dq軸電流i,i及び界磁電流iは検出値である。
【0028】
最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin は、電機子巻線に印加する電圧についての最終的な指令値であり、最終d軸電圧指令値vd-fin と最終q軸電圧指令値vq-fin とからなる。制御装置100は、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin にしたがって電機子巻線に電圧を印加することにより、電機子巻線に対する供給電力、すなわち電機子電流及び電機子電圧を制御する。電機子電流は、dq軸電流i,iあるいは三相電流i,i,iである。電機子電圧は、dq軸電圧v,vあるいは三相電圧v,v,vである。
【0029】
最終界磁電圧指令値vf-fin は、界磁巻線に印加する電圧についての最終的な指令値である。制御装置100は、最終界磁電圧指令値vf-fin にしたがって界磁巻線に電圧を印加することにより、界磁巻線に対する供給電力、すなわち界磁電流i及び界磁電圧vを制御する。
【0030】
本実施形態においては、電圧指令値演算部12は、上記のように最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin 及び最終界磁電圧指令値vf-fin を演算するときに、電機子系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、電圧指令値演算部12は、電機子系が過熱状態であると判定したときには、電機子系に対する供給電力(特に電機子電流)を制限する。すなわち、電機子系が過熱状態である場合、電圧指令値演算部12は、トルク指令値T(要求トルク)に応じて最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin を定めるときと比較して、電機子電流を抑制して電機子系における発熱が抑えられるように、制限された最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin を演算する。これにより、電機子系は、過熱から保護される。
【0031】
同様に、電圧指令値演算部12は、上記のように最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin 及び最終界磁電圧指令値vf-fin を演算するときに、界磁系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、電圧指令値演算部12は、界磁系が過熱状態であると判定したときには、界磁系に対する供給電力(特に界磁電流i)を制限する。すなわち、界磁系が過熱状態である場合、電圧指令値演算部12は、トルク指令値T(要求トルク)に応じて最終界磁電圧指令値v を定めるときと比較して、界磁電流を抑制して界磁系における発熱が抑えられるように、制限された最終界磁電圧指令値vf-fin を演算する。これにより、界磁系は、過熱から保護される。
【0032】
以下では、過熱から保護するために電機子系または界磁系に対する供給電力を制限する制御を過熱保護制御という。
【0033】
電圧指令値演算部12は、上記のように、電機子系と界磁系で別個独立に過熱状態であるか否かを判定し、電機子系と界磁系でそれぞれに過熱保護制御を実行する。そして、特に本実施形態では、電圧指令値演算部12は、電機子系または界磁系のうちいずれか一方が過熱状態であると判定した場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力を制限するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させることにより、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償する。
【0034】
すなわち、電圧指令値演算部12は、電機子系が過熱状態であるときには、電機子系に対する供給電力を制限することによって電機子系を過熱から保護するとともに、過熱状態でない界磁系に対する供給電力を増加させる。これにより、電圧指令値演算部12は、電機子系について過熱保護制御を行うときに、この過熱保護制御によって低下する巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償する。同様に、電圧指令値演算部12は、界磁系が過熱状態であるときには、界磁系に対する供給電力を制限することによって界磁系を過熱から保護するとともに、過熱状態でない電機子系に対する供給電力を増加させる。これにより、電圧指令値演算部12は、界磁系について過熱保護制御を行うときに、この過熱保護制御によって低下する巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償する。
【0035】
電圧指令値演算部12の具体的構成等については、詳細を後述する。
【0036】
座標変換部13は、dq軸座標系から三相交流座標系への座標変換処理により、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin からUVW各相の電圧指令値(以下、三相電圧指令値v ,v ,v という)を演算する。具体的には、座標変換部13は、下記の式(1)にしたがって、巻線界磁型モータ10の電気角θを用いて、三相電圧指令値v ,v ,v を演算する。
【0037】
【数1】
【0038】
PWM変換器14は、三相電圧指令値v ,v ,v に基づいて、インバータ15に入力するPWM(Pulse Width Modulation)信号Duu 、Dul ,Duv ,Dvl ,Dwu ,Dwl を生成する。また、本実施形態では、PWM変換器14は、最終界磁電圧指令値v に基づいて、界磁電流出力器16に入力するPWM信号Dfu ,Dfl を生成する。
【0039】
インバータ15は、電機子を制御する制御器である。インバータ15は、PWM信号Duu 、Dul ,Duv ,Dvl ,Dwu ,Dwl にしたがってパワーモジュールを駆動することにより、直流電源17が出力する直流電圧Vdcを三相電圧v,v,vに変換する。そして、インバータ15は、UVW各相の電機子巻線に三相電圧v,v,vを印加することにより、巻線界磁型モータ10の電機子の動作を制御する。インバータ15は、巻線界磁型モータ10の電機子とともに、電機子系を構成する。
【0040】
界磁電流出力器16は、界磁を制御する制御器である。界磁電流出力器16は、本実施形態においてはインバータである。このため、界磁電流出力器16は、PWM信号Dfu ,Dfl にしたがってパワーモジュールを駆動することにより、直流電源17が出力する直流電圧Vdcを界磁電圧vに変換する。そして、界磁電流出力器16は、界磁巻線に界磁電圧vを印加することにより、直流電源17から界磁巻線に界磁電流iを出力させる。これにより、巻線界磁型モータ10の界磁磁束が制御される。界磁電流出力器16は、巻線界磁型モータ10の界磁とともに、界磁系を構成する。
【0041】
直流電源17は、例えば、リチウムイオンバッテリ等である。直流電源17が出力する直流電圧Vdcは、図示しない電圧センサによって任意のタイミングで検出され得る。
【0042】
上記の他、本実施形態では、巻線界磁型モータ10の制御装置100は、回転子位置センサ21、電機子電流センサ22、界磁電流センサ23、座標変換部24、及び、回転数演算部25を備える。
【0043】
回転子位置センサ21は、巻線界磁型モータ10の回転子の位置を検出する。具体的には、回転子位置センサ21は、巻線界磁型モータ10の電気角θを検出する。
【0044】
電機子電流センサ22は、直流電源17からインバータ15を介して電機子巻線に供給される三相電流i,i,iのうち、少なくとも二相の電流を検出する。本実施形態では、電機子電流センサ22は、U相電流i及びV相電流iを検出する。W相電流iは、下記の式(2)にしたがって演算により求められる。
【0045】
【数2】
【0046】
界磁電流センサ23は、直流電源17から界磁電流出力器16を介して界磁巻線に供給される界磁電流iを検出する。
【0047】
座標変換部24は、三相交流座標系からdq軸座標系への座標変換処理により、三相電流i,i,iからdq軸電流i,iを演算する。具体的には、座標変換部24は、下記の式(3)にしたがって、電気角θを用いて、dq軸電流i,iを演算する。なお、本実施形態では、前述のように、電機子電流センサ22がW相電流iを検出しないので、W相電流iは演算によって求められる。
【0048】
【数3】
【0049】
回転数演算部25は、電気角θに基づいて、巻線界磁型モータ10の電気角速度ωを演算する。下記の式(4)に示すように、電気角速度ωは、電気角θの所定時間当たりの変換量である。さらに、回転数演算部25は、下記の式(5)に示すように、電気角速度ωを、巻線界磁型モータ10の極対数pで除算することにより、巻線界磁型モータ10の回転数N[rpm]を演算する。
【0050】
【数4】
【0051】
図2は、電圧指令値演算部12の構成を示すブロック図である。図2に示すように、電圧指令値演算部12は、電機子電圧指令値演算部31と、界磁電圧指令値演算部32と、を備える。
【0052】
電機子電圧指令値演算部31は、トルク指令値T、回転数N、dq軸電流指令値i ,i 、dq軸電流i,i、界磁電流i、電機子温度Γmot-s、及び、電機子制御器温度Γinv-sに基づいて、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin を演算する。具体的には、電機子電圧指令値演算部31は、電機子側トルク制限率演算部41、電機子側トルク指令値演算部42、第1電機子電流制御部43、第2電機子電流制御部44、及び、電機子電圧指令値選択部45を備える。
【0053】
電機子側トルク制限率演算部41は、電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sに基づいて、電機子側トルク制限率Tlim-sを演算する。
【0054】
電機子側トルク制限率Tlim-sは、電機子系を構成する各部のいずれもが耐熱温度を超えないようにするために、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin の演算においてトルク指令値T(要求トルク)に課すべき制限の程度を表す。特に本実施形態では、電機子側トルク制限率Tlim-sは、電機子系が過熱状態であるときに、電機子系に対する供給電力(電機子電流)を制限するためのパラメータとして機能する。また、本実施形態では、電機子側トルク制限率Tlim-sはパーセンテージで表される。具体的には、電機子系の過熱保護のためにトルク指令値Tに対する制限(以下、トルク制限という)が必要でない通常の制御状態においては、電機子側トルク制限率Tlim-sは100%に設定される。一方、電機子系の過熱保護のためにトルク制限が必要なときには、電機子側トルク制限率Tlim-sは100%未満に設定される。
【0055】
すなわち、電機子側トルク制限率演算部41は、電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sに基づいて、電機子系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、この判定結果に応じて、電機子側トルク制限率演算部41は電機子側トルク制限率Tlim-sを設定する。
【0056】
また、電機子側トルク制限率演算部41は、電機子側トルク制限率Tlim-sに応じて、電機子側トルク制限フラグFLGを設定する。電機子側トルク制限フラグFLGは、電機子系を過熱から保護する必要があるか否かを表す。
【0057】
電機子側トルク制限フラグFLGは、例えば、「Hi」または「Lo」の2値で設定される。本実施形態では、電機子側トルク制限率演算部41は、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%であるときに、電機子側トルク制限フラグFLGを、電機子系については過熱保護制御の必要がないことを示す「Lo」に設定する。そして、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%未満であるときに、電機子側トルク制限率演算部41は、電機子側トルク制限フラグFLGを、電機子系の過熱保護を行う必要があることを示す「Hi」に設定する。
【0058】
電圧指令値演算部12は、上記のように、電機子側トルク制限率Tlim-sの演算によって、または、電機子側トルク制限フラグFLGの設定によって、電機子系が過熱状態であるか否かを判定している。
【0059】
電機子側トルク指令値演算部42は、トルク指令値T、回転数N、及び、電機子側トルク制限率Tlim-sに基づいて、制限後電機子トルク指令値Tlim-s を演算する。制限後電機子トルク指令値Tlim-s は、電機子系の過熱保護のために、電機子側トルク制限率Tlim-sにしたがって制限したトルク指令値である。
【0060】
第1電機子電流制御部43は、dq軸電流指令値i ,i とdq軸電流i,iに基づいて、第1d軸電圧指令値vd1 及び第1q軸電圧指令値vq1 (以下、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 という)を演算する。第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 は、実電流であるdq軸電流i,iを、dq軸電流指令値i ,i に追従させるd軸電圧v及びq軸電圧vについての指令値である。
【0061】
前述のように、dq軸電流指令値i ,i は、トルク指令値T(要求トルク)を実現させるdq軸電流i,iを表す。このため、dq軸電流i,iをdq軸電流指令値i ,i に追従させる第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 は、トルク指令値T(要求トルク)を実現させるdq軸電圧v,vを表す。すなわち、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 は、過熱保護を要しない通常の制御状態におけるdq軸電圧指令値である。
【0062】
第1電機子電流制御部43は、下記の式(6)にしたがって、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 を演算する。すなわち、第1電機子電流制御部43は、dq軸電流指令値i ,i とdq軸電流i,iの偏差を演算し、この偏差に応じた電流フィードバック制御により、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 を演算する。なお、式(6)において、「Kdp」はd軸比例ゲインであり、「Kdi」はd軸積分ゲインである。同様に、「Kqp」はq軸比例ゲインであり、「Kqi」はq軸積分ゲインである。これらの各ゲインは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0063】
【数5】
【0064】
第2電機子電流制御部44は、制限後電機子トルク指令値Tlim-s 、dq軸電流i,i、及び、界磁電流iに基づいて、第2d軸電圧指令値vd2 及び第2q軸電圧指令値vq2 (以下、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 という)を演算する。
【0065】
第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、原則として、電機子系の過熱保護のために低減したd軸電流i及び/またはq軸電流iを実現するdq軸電圧v,vを表す。具体的には、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%未満であって、制限後電機子トルク指令値Tlim-s がトルク指令値Tよりも低減されているときには、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、過熱保護制御用のdq軸電圧v,vを表す。
【0066】
一方、電機子系では過熱保護の必要がなく、界磁系の過熱保護制御が行われるときには、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、界磁系の過熱保護制御によって減少する出力トルクTを補償するdq軸電圧v,vを表す。具体的には、電機子系の過熱保護制御が必要でなく、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%であるときには、制限後電機子トルク指令値Tlim-s はトルク指令値Tと等しい。そして、界磁系で過熱保護制御が行われると界磁電流iが減少するので、出力トルクTが減少する。このとき、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、減少した界磁電流iに応じて、界磁系の過熱保護制御が行われない場合よりもd軸電流iまたはq軸電流i(特にq軸電流i)が増加するように決定される。したがって、電機子系では過熱保護制御を行わず、界磁系で過熱保護制御が行われるときには、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、界磁系に対する供給電力の減少に応じて電機子系に対する供給電力を増加させることよって出力トルクTを補償するトルク補償用のdq軸電圧v,vを表す。
【0067】
電機子電圧指令値選択部45は、電機子側トルク制限フラグFLG及び界磁側トルク制限フラグFLGに基づき、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 または第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 のいずれかを選択して最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin として出力する。界磁側トルク制限フラグFLGは、界磁系を過熱から保護する必要があるかを表すフラグであり、後述するように界磁側トルク制限率演算部51によって設定される。
【0068】
電機子電圧指令値選択部45は、電機子側トルク制限フラグFLGが「Hi」であり、電機子系の過熱保護を行う必要があるときに、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を選択する。電機子側トルク制限フラグFLGsが「Lo」であり、電機子系の過熱保護を行う必要がないときには、電機子電圧指令値選択部45は、界磁側トルク制限フラグFLGにしたがって、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 または第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 のいずれかを選択する。具体的には、界磁側トルク制限フラグFLGが「Lo」であり、界磁系においても過熱保護を行う必要がないときには、電機子電圧指令値選択部45は、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 を選択する。一方、界磁側トルク制限フラグFLGが「Hi」であり、界磁系の過熱保護を行う必要があるときには、電機子電圧指令値選択部45は、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を選択する。
【0069】
すなわち、電機子系及び界磁系のどちらにおいても過熱保護を行う必要がないときには、電機子電圧指令値選択部45は、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 を最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin として出力する。また、電機子系の過熱保護を行う必要があるときには、電機子電圧指令値選択部45は、過熱保護制御用の第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin として出力する。そして、電機子系の過熱保護を行う必要がない場合でも、界磁系の過熱保護を行う必要があるときには、電機子電圧指令値選択部45は、トルク補償用の第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin として出力する。
【0070】
界磁電圧指令値演算部32は、トルク指令値T、回転数N、界磁電流指令値i 、dq軸電流i,i、界磁電流i、界磁温度Γmot-r、及び、界磁制御器温度Γinv-rに基づいて、最終界磁電圧指令値vf-fin を演算する。具体的には、界磁電圧指令値演算部32は、界磁側トルク制限率演算部51、界磁側トルク指令値演算部52、第1界磁電流制御部53、第2界磁電流制御部54、推定トルク演算部55、及び、界磁電圧指令値選択部56を備える。
【0071】
界磁側トルク制限率演算部51は、界磁温度Γmot-r及び界磁制御器温度Γinv-rに基づいて、界磁側トルク制限率Tlim-rを演算する。
【0072】
界磁側トルク制限率Tlim-rは、界磁系を構成する各部のいずれもが耐熱温度を超えないようにするために、最終界磁電圧指令値vf-fin の演算においてトルク指令値T(要求トルク)に課すべき制限の程度を表す。特に本実施形態では、界磁側トルク制限率Tlim-rは、界磁系が過熱状態であるときに、界磁系に対する供給電力(界磁電流i)を制限するためのパラメータとして機能する。また、本実施形態では、界磁側トルク制限率Tlim-rはパーセンテージで表される。具体的には、界磁系の過熱保護のためにトルク制限が必要でない通常の制御状態においては、界磁側トルク制限率Tlim-rは100%に設定される。一方、界磁系の過熱保護のためにトルク制限が必要なときには、界磁側トルク制限率Tlim-rは100%未満に設定される。
【0073】
すなわち、界磁側トルク制限率演算部51は、界磁温度Γmot-r及び界磁制御器温度Γinv-rに基づいて、界磁系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、この判定結果に応じて、界磁側トルク制限率演算部51は界磁側トルク制限率Tlim-rを設定する。以下では、前述の電機子側トルク制限率Tlim-sと上記の界磁側トルク制限率Tlim-rとを併せて、トルク制限率Tlimという場合がある。
【0074】
また、界磁側トルク制限率演算部51は、界磁側トルク制限率Tlim-rに応じて、界磁側トルク制限フラグFLGを設定する。界磁側トルク制限フラグFLGは、界磁系を過熱から保護する必要があるか否かを表す。
【0075】
界磁側トルク制限フラグFLGは、例えば、「Hi」または「Lo」の2値で設定さえる。本実施形態では、界磁側トルク制限率演算部51は、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%であるときに、界磁側トルク制限フラグFLGを、界磁系については過熱保護制御の必要がないことを示す「Lo」に設定する。そして、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%未満であるときに、界磁側トルク制限率演算部51は、界磁側トルク制限フラグFLGを、界磁系の過熱保護を行う必要があることを示す「Hi」に設定する。
【0076】
電圧指令値演算部12は、この界磁側トルク制限率Tlim-rの演算によって、または、界磁側トルク制限フラグFLGの設定によって、界磁側が過熱状態であるか否かを判定している。
【0077】
界磁側トルク指令値演算部52は、トルク指令値T、回転数N、及び、界磁側トルク制限率Tlim-rに基づいて、制限後界磁トルク指令値Tlim-r を演算する。制限後界磁トルク指令値Tlim-r は、界磁系の過熱保護のために、界磁側トルク制限率Tlim-rにしたがって制限したトルク指令値である。
【0078】
第1界磁電流制御部53は、界磁電流指令値i と界磁電流iに基づいて、第1界磁電圧指令値vf1 を演算する。第1界磁電圧指令値vf1 は、実電流である界磁電流iを、界磁電流指令値i に追従させる界磁電圧vについての指令値である。
【0079】
前述のように、界磁電流指令値i は、トルク指令値T(要求トルク)を実現させる界磁電流iを表す。このため、界磁電流iを界磁電流指令値i に追従させる第1界磁電圧指令値vf1 は、トルク指令値T(要求トルク)を実現させる界磁電圧vを表す。すなわち、第1界磁電圧指令値vf1 は、過熱保護を要しない通常の制御状態における界磁電圧指令値である。
【0080】
第1界磁電流制御部53は、下記の式(7)にしたがって、第1界磁電圧指令値vf1 を演算する。すなわち、第1界磁電流制御部53は、界磁電流指令値i と界磁電流iの偏差を演算し、この偏差に応じた電流フィードバック制御により、第1界磁電圧指令値vf1 を演算する。なお、式(7)において「Kfp」は界磁比例ゲインであり、「Kfi」は界磁積分ゲインである。これらの各ゲインは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0081】
【数6】
【0082】
第2界磁電流制御部54は、制限後界磁トルク指令値Tlim-r 、界磁電流指令値i 、及び、推定トルクTestに基づいて、第2界磁電圧指令値vf2 を演算する。推定トルクTestは、後述するように、推定トルク演算部55によって、dq軸電流i,i及び界磁電流iに基づいて演算される。したがって、第2界磁電流制御部54は、実質的に、制限後界磁トルク指令値Tlim-r 、界磁電流指令値i 、dq軸電流i,i、及び、界磁電流iに基づいて、第2界磁電圧指令値vf2 を演算する。
【0083】
第2界磁電圧指令値vf2 は、原則として、界磁系の過熱保護のために低減した界磁電流iを実現する界磁電圧vを表す。具体的には、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%未満であって、制限後界磁トルク指令値Tlim-r がトルク指令値Tよりも低減されているときには、第2界磁電圧指令値vf2 は、過熱保護制御用の界磁電圧vを表す。
【0084】
一方、界磁系では過熱保護の必要がなく、電機子系の過熱保護制御が行われるときには、第2界磁電圧指令値vf2 は、電機子系の過熱保護制御によって減少する出力トルクTを補償する界磁電圧vを表す。具体的には、界磁系の過熱保護制御が必要でなく、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%であるときには、制限後界磁トルク指令値Tlim-r はトルク指令値Tと等しい。そして、電機子系で過熱保護制御が行われると電機子電流が減少するので、出力トルクTが減少する。このとき、第2界磁電圧指令値vf2 は、減少した電機子電流に応じて、電機子系の過熱保護制御が行われない場合よりも界磁電流iが増加するように決定される。したがって、界磁系では過熱保護制御を行わず、電機子系で過熱保護制御が行われるときには、第2界磁電圧指令値vf2 は、電機子系に対する供給電力の減少に応じて界磁系に対する供給電力を増加させることによって出力トルクTを補償するトルク補償用の界磁電圧vを表す。
【0085】
推定トルク演算部55は、dq軸電流i,i及び界磁電流iに基づいて、推定トルクTestを演算する。推定トルクTestは、巻線界磁型モータ10の出力トルクTの推定値である。本実施形態では、推定トルク演算部55は、dq軸電流i,i及び界磁電流iと、推定トルクTestと、を実験またはシミュレーション等によって予め対応付けた推定トルクマップを有する。このため、推定トルク演算部55は、推定トルクマップを参照することにより、dq軸電流i,i及び界磁電流iに対応する推定トルクTestを演算する。
【0086】
界磁電圧指令値選択部56は、界磁電圧指令値選択部56は、界磁側トルク制限フラグFLG及び電機子側トルク制限フラグFLGに基づき、第1界磁電圧指令値vf1 または第2界磁電圧指令値vf2 のいずれかを選択して最終界磁電圧指令値vf-fin として出力する。
【0087】
界磁電圧指令値選択部56は、界磁側トルク制限フラグFLGが「Hi」であり、界磁系の過熱保護を行う必要があるときに、第2界磁電圧指令値vf2 を選択する。界磁側トルク制限フラグFLGが「Lo」であり、界磁系の過熱保護を行う必要がないときには、界磁電圧指令値選択部56は、電機子側トルク制限フラグFLGにしたがって、第1界磁電圧指令値vf1 または第2界磁電圧指令値vf2 のいずれかを選択する。具体的には、電機子側トルク制限フラグFLGsが「Lo」であり、電機子系においても過熱保護を行う必要がないときには、界磁電圧指令値選択部56は、第1界磁電圧指令値vf1 を選択する。一方、電機子側トルク制限フラグFLGが「Hi」であり、電機子系の過熱保護を行う必要があるときには、界磁電圧指令値選択部56は、第2界磁電圧指令値vf2 を選択する。
【0088】
すなわち、界磁系及び電機子系のどちらにおいても過熱保護を行う必要がないときには、界磁電圧指令値選択部56は、第1界磁電圧指令値vf1 を最終界磁電圧指令値vf-fin として出力する。また、界磁系の過熱保護を行う必要があるときには、界磁電圧指令値選択部56は、過熱保護用の第2界磁電圧指令値vf2 を最終界磁電圧指令値vf-fin として出力する。そして、界磁系の過熱保護を行う必要がない場合でも、電機子系の過熱保護を行う必要があるときには、界磁電圧指令値選択部56は、トルク補償用の第2界磁電圧指令値vf2 を最終界磁電圧指令値vf-fin として出力する。
【0089】
図3は、電機子側トルク制限率演算部41の構成を示すブロック図である。図4に示すように、電機子側トルク制限率演算部41は、第1制限率演算部61、第2制限率演算部62、及び、最小値選択部63を備える。
【0090】
第1制限率演算部61は、電機子温度Γmot-sに基づくトルク制限率(以下、第1制限率Tlim-mot-sという)を演算する。本実施形態では、第1制限率演算部61は、電機子温度Γmot-sと、第1制限率Tlim-mot-s[%]と、を予め対応付けた第1制限率テーブルを有する。このため、第1制限率演算部61は、第1制限率テーブルを参照することにより、電機子温度Γmot-sに対応する第1制限率Tlim-mot-sを演算する。
【0091】
より具体的には、第1制限率演算部61は、第1制限率テーブルを参照することにより、実質的に、正規化温度である電機子温度Γmot-s[%]を予め定める閾値γ[%]と比較する。そして、第1制限率演算部61は、電機子温度Γmot-sが閾値γ以下であるときには、第1制限率Tlim-mot-sを100%に設定する。一方、電機子温度Γmot-sが閾値γよりも大きいときには、第1制限率演算部61は、電機子温度Γmot-sに応じて、第1制限率Tlim-mot-sを低下させる。また、電機子(電機子巻線)の耐熱上限温度に到達し、電機子温度Γmot-sが100%となったときには、第1制限率演算部61は、第1制限率Tlim-mot-sを0%に設定する。
【0092】
なお、閾値γは、安全等を考慮して、適合により予め設定される。閾値γは、正規化温度について設定されるので、電機子制御器温度Γinv-s等、過熱保護のために監視すべき対象の正規化温度について共通に設定され得る。本実施形態では、閾値γは、原則として、過熱保護のために監視すべき対象の正規化温度について共通に設定される。
【0093】
第2制限率演算部62は、電機子制御器温度Γinv-sに基づくトルク制限率(以下、第2制限率Tlim-inv-sという)を演算する。本実施形態では、第2制限率演算部62は、正規化温度である電機子制御器温度Γinv-s[%]と、第2制限率Tlim-inv-sと、を予め対応付けた第2制限率テーブルを有する。このため、第2制限率演算部62は、第2制限率テーブルを参照することにより、電機子制御器温度Γinv-sに対応する第2制限率Tlim-inv-sを演算する。
【0094】
より具体的には、第2制限率演算部62は、第2制限率テーブルを参照することにより、実質的に、正規化温度である電機子制御器温度Γinv-sを閾値γと比較する。そして、第2制限率演算部62は、電機子制御器温度Γinv-sが閾値γ以下であるときには、第2制限率Tlim-inv-sを100%に設定する。一方、電機子制御器温度Γinv-sが閾値γよりも大きいときには、第2制限率演算部62は、電機子制御器温度Γinv-sに応じて、第2制限率Tlim-inv-sを低下させる。また、電機子制御器(インバータ15等)が耐熱上限温度に達し、電機子制御器温度Γinv-sが100%になったときには、第2制限率演算部62は、第2制限率Tlim-inv-sを0%に設定する。
【0095】
最小値選択部63は、第1制限率Tlim-mot-sと第2制限率Tlim-inv-sを比較し、より値が小さい方を電機子側トルク制限率Tlim-sとして出力する。
【0096】
ここでは、電機子側トルク制限率演算部41の構成を説明したが、界磁側トルク制限率演算部51もこれと同様に構成される。すなわち、界磁側トルク制限率演算部51は、閾値γとの比較により、界磁温度Γmot-rに基づくトルク制限率(第1制限率Tlim-mot-r)と界磁制御器温度Γinv-rに基づくトルク制限率(第2制限率Tlim-inv-r)を演算する。そして、界磁側トルク制限率演算部51は、これらの各トルク制限率のうち、より値が小さい方を、最終的な界磁側トルク制限率Tlim-rとして出力する。
【0097】
図4は、電機子側トルク指令値演算部42の構成を示すブロック図である。図4に示すように、電機子側トルク指令値演算部42は、トルク範囲演算部66、リミットトルク演算部67、及び、リミット処理部68を備える。
【0098】
トルク範囲演算部66は、回転数Nの状態にある巻線界磁型モータ10が出力可能なトルクの範囲を演算する。具体的には、トルク範囲演算部66は、回転数Nに基づいて、巻線界磁型モータ10が出力可能なトルクの最大値(以下、最大トルクTmaxという)と最小値(以下、最小トルクTminという)を演算する。
【0099】
リミットトルク演算部67は、最大トルクTmax及び最小トルクTminと、電機子側トルク制限率Tlim-sと、に基づいて、上限トルクTlim-max-sと下限トルクTlim-min-sを演算する。上限トルクTlim-max-sは、電機子側トルク制限率Tlim-sに応じた制限の下で出力可能なトルクの最大値である。下限トルクTlim-min-sは、電機子側トルク制限率Tlim-sに応じた制限の下で出力可能なトルクの最小値である。リミットトルク演算部67は、最大トルクTmaxに電機子側トルク制限率Tlim-sを乗じることにより、上限トルクTlim-max-sを演算する。同様に、リミットトルク演算部67は、最小トルクTminに電機子側トルク制限率Tlim-sを乗じることにより、下限トルクTlim-min-sを演算する。
【0100】
リミット処理部68は、トルク指令値Tに、上限トルクTlim-max-s及び下限トルクTlim-min-sに基づくリミット処理を施すことにより、制限後電機子トルク指令値Tlim-s を演算する。具体的には、リミット処理部68は、下記の式(8)にしたがって、トルク指令値Tにリミット処理を施す。これにより、トルク指令値Tが下限トルクTlim-min-s以上かつ上限トルクTlim-max-s以下であるときには、トルク指令値Tが制限後電機子トルク指令値Tlim-s として出力される。トルク指令値Tが上限トルクTlim-max-sを超えるときには、上限トルクTlim-max-sが制限後電機子トルク指令値Tlim-s として出力される。また、トルク指令値Tが下限トルクTlim-min-sを下回るときには、下限トルクTlim-min-sが制限後電機子トルク指令値Tlim-s として出力される。
【0101】
【数7】
【0102】
ここでは、電機子側トルク指令値演算部42の構成を説明したが、界磁側トルク指令値演算部52もこれと同様に構成される。すなわち、界磁側トルク指令値演算部52は、回転数Nに応じて定まる最大トルクTmax及び最小トルクTminに、界磁側トルク制限率Tlim-rを乗算することにより、上限トルクTlim-max-r及び下限トルクTlim-min-rを演算する。そして、界磁側トルク指令値演算部52は、トルク指令値Tに対して、上限トルクTlim-max-r及び下限トルクTlim-min-rに応じたリミット処理を施すことにより、制限後界磁トルク指令値Tlim-r を演算する。
【0103】
図5は、第2電機子電流制御部44の構成を示すブロック図である。図5に示すように、第2電機子電流制御部44は、dq軸電流マップ71、PI制御器72、及び、PI制御器73を備える。
【0104】
dq軸電流マップ71は、制限後電機子トルク指令値Tlim-s 及び界磁電流iと、第2d軸電流指令値id2 及び第2q軸電流指令値iq2 (以下、第2dq軸電流指令値id2 ,iq2 という)と、を実験またはシミュレーション等によって予め対応付けたマップである。第2dq軸電流指令値id2 ,iq2 は、特定の界磁電流iの下で、制限後電機子トルク指令値Tlim-s に対応する出力トルクTを得るための電機子電流についての指令値である。第2電機子電流制御部44は、dq軸電流マップ71を参照することにより、制限後電機子トルク指令値Tlim-s 及び界磁電流iに対応する第2dq軸電流指令値id2 ,iq2 を演算する。
【0105】
PI制御器72は、第2d軸電流指令値id2 と実電流であるd軸電流iとの偏差に応じた電流フィードバック制御(PI(Proportional Integral)制御)により、第2d軸電圧指令値vd2 を演算する。このd軸用のPI制御における比例ゲイン及び積分ゲインは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0106】
PI制御器73は、第2q軸電流指令値iq2 と実電流であるq軸電流iとの偏差に応じた電流フィードバック制御(PI制御)により、第2q軸電圧指令値vq2 を演算する。このq軸用のPI制御における比例ゲイン及び積分ゲインは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0107】
上記のように、第2電機子電流制御部44は、巻線界磁型モータ10の出力トルクTが制限後電機子トルク指令値Tlim-s となるように、電流フィードバック制御によって、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を演算する。このため、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%未満であって、制限後電機子トルク指令値Tlim-s がトルク指令値Tよりも低減されているときには、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、トルク指令値Tに基づく第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 を用いる場合よりも電機子電流を低減するように決定される。これにより電機子系における発熱が低減するので、電機子系が過熱から保護される。
【0108】
また、第2電機子電流制御部44は、上述のように、dq軸電流i,iだけでなく、界磁電流iに基づいて、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を演算する。このため、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%であって、制限後電機子トルク指令値Tlim-s がトルク指令値Tと等しく、実質的に電機子系の過熱保護制御が行われないときには、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、特定の界磁電流iの下でトルク指令値Tに対応する出力トルクTが得られるように決定される。より具体的には、界磁系の過熱保護制御が行われるときには界磁電流iが低減されるが、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、この低減された界磁電流iの下でトルク指令値Tに対応する出力トルクTが得られるように決定される。すなわち、電機子系の過熱保護制御が行われず、かつ、界磁系の過熱保護制御が行われるときには、第2電機子電流制御部44は、トルク指令値Tに対応する出力トルクTが得られるように、出力トルクTを補償する第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を演算する。
【0109】
図6は、第2界磁電流制御部54の構成を示すブロック図である。図6に示すように、第2界磁電流制御部54は、PI制御器74及びPI制御器75を備える。
【0110】
PI制御器74は、制限後界磁トルク指令値Tlim-r と推定トルクTestとの偏差Terrに基づくPI制御により、フィードバック界磁電流指令値if-fb を演算する。このPI制御における比例ゲイン及び積分ゲインは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。フィードバック界磁電流指令値if-fb は、出力トルクT(推定トルクTest)を制限後界磁トルク指令値Tlim-r に追従させるために、界磁電流指令値i に施すべき補正の量を表す指令値である。このため、本実施形態では、第2界磁電流制御部54は、界磁電流指令値i にフィードバック界磁電流指令値if-fb を加算することにより、第2界磁電流指令値if2 を演算する。第2界磁電流指令値if2 は、制限後界磁トルク指令値Tlim-r に対応する出力トルクを得るための界磁電流iについての指令値である。
【0111】
PI制御器75は、第2界磁電流指令値if2*と実電流である界磁電流iとの偏差に応じた電流フィードバック制御(PI制御)により、第2界磁電圧指令値vf2 を演算する。このPI制御における比例ゲイン及び積分ゲインは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0112】
上記のように、第2界磁電流制御部54は、巻線界磁型モータ10の出力トルクTが制限後界磁トルク指令値Tlim-r となるように、電流フィードバック制御によって、第2界磁電圧指令値vf2 を演算する。このため、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%未満であって、制限後界磁トルク指令値Tlim-r がトルク指令値Tよりも低減されているときには、第2界磁電圧指令値vf2 は、トルク指令値Tに基づく第1界磁電圧指令値vf1 を用いる場合よりも界磁電流iを低減するように決定される。これにより界磁系における発熱が低減されるので、界磁系が過熱から保護される。
【0113】
また、第2界磁電流制御部54は、上述のように、界磁電流iだけでなく、推定トルクTestに基づいて、第2界磁電圧指令値vf2を演算する。推定トルクTestは、前述のとおり、dq軸電流i,i及び界磁電流iに基づいて演算される。このため、第2界磁電流制御部54は、界磁電流iだけでなく、電機子電流(dq軸電流i,i)に基づいて、第2界磁電圧指令値vf2 を演算する。このため、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%であって、制限後界磁トルク指令値Tlim-r がトルク指令値Tと等しく、実質的に界磁系の過熱保護制御が行われないときには、第2界磁電圧指令値vf2 は、特定の電機子電流(dq軸電流i,i)の下で、トルク指令値Tに対応する出力トルクTが得られるように決定される。より具体的には、電機子系の過熱保護制御が行われるときには、電機子電流(dq軸電流i,i)が低減されるが、第2界磁電圧指令値vf2 は、この低減された電機子電流(dq軸電流i,i)の下でトルク指令値Tに対応する出力トルクTが得られるように決定される。すなわち、界磁系の過熱保護制御が行われず、かつ、電機子系の過熱保護制御が行われるときには、第2界磁電流制御部54は、トルク指令値Tに対応する出力トルクTが得られるように、出力トルクTを補償する第2界磁電圧指令値vf2 を演算する。
【0114】
以下、上記のように構成される制御装置100の過熱保護制御に係る作用について説明する。
【0115】
図7は、過熱保護制御の作用を示すフローチャートである。図7に示すように、ステップS10では、電圧指令値演算部12が電機子温度Γmot-s、電機子制御器温度Γinv-s、界磁温度Γmot-r、及び、界磁制御器温度Γinv-rを取得する。
【0116】
ステップS11では、電機子側トルク制限率演算部41が電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sに基づいて電機子側トルク制限率Tlim-sを演算する。このとき、電機子側トルク制限率演算部41は、電機子側トルク制限率Tlim-sに応じて電機子側トルク制限フラグFLGを設定する。
【0117】
また、同ステップS11では、界磁側トルク制限率演算部51が界磁温度Γmot-r及び界磁制御器温度Γinv-rに基づいて界磁側トルク制限率Tlim-rを演算する。そして、界磁側トルク制限率演算部51は、界磁側トルク制限率Tlim-rに応じて界磁側トルク制限フラグFLGを設定する。
【0118】
ステップS12では、電機子側トルク指令値演算部42が電機子側トルク制限率Tlim-s等に基づいて制限後電機子トルク指令値Tlim-s を演算する。また、界磁側トルク指令値演算部52が界磁側トルク制限率Tlim-r等に基づいて制限後界磁トルク指令値Tlim-r を演算する。
【0119】
ステップS13では、第1電機子電流制御部43がトルク指令値T(要求トルク)を実現させる第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 を演算する。また、第2電機子電流制御部44は、制限後電機子トルク指令値Tlim-s 、dq軸電流i,i、及び、界磁電流iに基づいて、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を演算する。
【0120】
ステップS14では、第1界磁電流制御部53がトルク指令値T(要求トルク)を実現させる第1界磁電圧指令値vf1 を演算する。また、第2界磁電流制御部54は、制限後界磁トルク指令値Tlim-r 、界磁電流指令値i 、及び、推定トルクTestに基づいて、第2界磁電圧指令値vf2 を演算する。
【0121】
ステップS15では、電圧指令値演算部12は、電機子系が過熱状態であるか否かを判定する。具体的には、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%未満であって、電機子側トルク制限フラグFLGが「Hi」に設定されたときには、電機子系が過熱状態であるため、ステップS16に進む。
【0122】
ステップS16では、電機子側トルク制限フラグFLGが「Hi」に設定されているので、電機子電圧指令値選択部45は、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を選択し、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin として出力する。このとき、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、dq軸電流i,iを低減させるdq軸電圧v,vを表す。また、ステップS17では、電機子側トルク制限フラグFLGが「Hi」に設定されているので、界磁電圧指令値選択部56は、第2界磁電圧指令値vf2 を選択し、最終界磁電圧指令値vf-fin として出力する。このとき、第2界磁電圧指令値vf2 は、界磁電流iを増加させる界磁電圧vを表す。
【0123】
したがって、電機子系が過熱状態であるときには、dq軸電流i,iが低減され、これと同時に、dq軸電流i,iの減少に応じて界磁電流iが増加する。その結果、電機子系が過熱から保護され、かつ、巻線界磁型モータ10の出力トルクTはトルク指令値Tに対応する出力トルクTとなるように補償される。
【0124】
一方、ステップS15において、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%であって、電機子側トルク制限フラグFLGsが「Lo」に設定されたときには、電機子系は過熱状態でないので、ステップS18に進む。
【0125】
ステップS18では、電圧指令値演算部12は、界磁系が過熱状態であるか否かを判定する。具体的には、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%未満であって、界磁側トルク制限フラグFLGが「Hi」に設定されたときには、界磁系が過熱状態であるため、ステップS19に進む。
【0126】
ステップS19では、界磁側トルク制限フラグFLGが「Hi」に設定されているので、界磁電圧指令値選択部56は、第2界磁電圧指令値vf2 を選択し、最終界磁電圧指令値vf-fin として出力する。このとき、第2界磁電圧指令値vf2 は、界磁電流iを減少させる界磁電圧vを表す。また、ステップS20では、界磁側トルク制限フラグFLGが「Hi」に設定されているので、電機子電圧指令値選択部45は、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 を選択し、最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin として出力する。このとき、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 は、dq軸電流i,iを増加させるdq軸電圧v,vを表す。
【0127】
したがって、界磁系が過熱状態であるときには、界磁電流iが低減され、これと同時に、界磁電流iの減少に応じてdq軸電流i,iが増加する。その結果、界磁系が過熱から保護され、かつ、巻線界磁型モータ10の出力トルクTはトルク指令値Tに対応する出力トルクTとなるように補償される。
【0128】
一方、ステップS18において、界磁側トルク制限率Tlim-rが100%であって、界磁側トルク制限フラグFLGが「Lo」に設定されたときには、界磁系も過熱状態でないので、ステップS21に進む。
【0129】
ステップS21では、電機子側トルク制限フラグFLG及び界磁側トルク制限フラグFLGがいずれも「Lo」に設定されており、電機子系も界磁系も過熱状態でない通常の制御状態である。このため、電機子電圧指令値選択部45は、第1dq軸電圧指令値vd1 ,vq1 を選択して最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin として出力する。また、界磁電圧指令値選択部56は、第1界磁電圧指令値vf を選択して最終界磁電圧指令値vf-fin として出力する。これにより、巻線界磁型モータ10は、トルク指令値T(要求トルク)に対応する出力トルクTを出力する。
【0130】
なお、ここでは、電機子系と界磁系のいずれか一方が過熱状態である場合、及び、電機子系と界磁系のいずれもが過熱状態でない場合、について説明したが、電機子系と界磁系の両方が過熱状態であるときも、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 が最終電機子電圧指令値vd-fin ,vq-fin となり、かつ、第2界磁電圧指令値vf2 は、が最終界磁電圧指令値vf-fin となる。このとき、第2dq軸電圧指令値vd2 ,vq2 はdq軸電流i,iを減少させるdq軸電圧v,vを表し、かつ、第2界磁電圧指令値vf2 は界磁電流iを減少させる界磁電圧vを表す。このため、dq軸電流i,i及び界磁電流iのいずれもが低減される。したがって、巻線界磁型モータ10の出力トルクTは補償されないが、電機子系及び界磁系はいずれも過熱から保護される。
【0131】
図8は、出力トルクT等を表すタイムチャートである。図8では、一例として、時刻tまでの間、出力トルクTは所定のトルクTが維持されており、その後、時刻tから時刻tにかけて、出力トルクTを所定のトルクTまで上昇させるシーンについて説明する。
【0132】
図8(A)~(D)は第1比較例における出力トルクT等を表す。第1比較例は、電機子系または界磁系のいずれか一方の系において過熱保護制御を実行するときに、過熱保護制御を実行する必要がない他方の系の電流を増加させず、単に一方の系において過熱保護制御を行う例である。ここでは、電機子系において過熱保護制御が行われる例を示す。具体的には、図8(A)は、トルク制限率Tlimを示す。図8(B)は、モータ温度Γmotを示す。図8(C)は、電流指令値iのうち、実質的に巻線界磁型モータ10の出力トルクTを決定づけるq軸電流指令値i と、界磁電流指令値i と、を示す。図8(D)は、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを示す。
【0133】
図8(E)~(F)は第1実施形態における出力トルクT等を表す。第1実施形態は、前述のとおり、電機子系または界磁系のいずれか一方の系において過熱保護制御を実行するときに、過熱保護制御を実行する必要がない他方の系の電流を増加させる例である。具体的には、図8(E)は、モータ温度Γmotを示す。図8(F)は、モータ温度Γmotを示す。図8(G)は、電流指令値iのうち、q軸電流指令値i と界磁電流指令値i を示す。図8(H)は、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを示す。
【0134】
まず、第1比較例の制御では、図8(D)に示すように、時刻tから時刻tにかけて出力トルクTを上昇させるときに、図8(B)に示すように、電機子温度Γmot-s及び界磁温度Γmot-rが上昇し、時刻tに電機子温度Γmot-sが閾値γを超えたとする。但し、時刻t以降も界磁温度Γmot-rは閾値γ未満である。
【0135】
このとき、図8(A)に示すように、時刻t以後、界磁側トルク制限率Tlim-rは100%に維持されるが、電機子側トルク制限率Tlim-sは100%未満に低減される。すなわち、時刻tから、界磁系では過熱保護を行わない通常の制御が継続されつつ、電機子系について過熱保護制御が実行される。
【0136】
したがって、図8(C)に示すように、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%未満に低減されたことに応じて、例えばq軸電流指令値i が低下する。その結果、電機子系は、過熱から保護される。
【0137】
このとき、第1比較例では、界磁電流指令値i は、電機子系の過熱保護制御が行われているか否かにかかわらず、単に要求トルク(トルク指令値T)を実現するように決定される。このため、図8(D)に示すように、第1比較例では、時刻tから電機子系の過熱保護制御が開始されると、出力トルクTは、電機子側トルク制限率Tlim-sの低減に応じて低下する。したがって、第1比較例の制御では、電機子温度Γmot-sが閾値γ以上であって、電機子系の過熱保護制御が継続される限り、出力トルクTは、上昇後の要求トルクであるトルクTより小さい。
【0138】
第1実施形態の制御においても、図8(H)に示すように、時刻tから時刻tにかけて出力トルクTを上昇させるときに、図8(B)に示すように、電機子温度Γmot-s及び界磁温度Γmot-rが上昇し、時刻tに電機子温度Γmot-sが閾値γを超えたとする。但し、時刻t以降も界磁温度Γmot-rは閾値γ未満である。
【0139】
図8(E)に示すように、時刻t以後、界磁側トルク制限率Tlim-rは100%に維持されるが、電機子側トルク制限率Tlim-sは100%未満に低減される。すなわち、時刻tから、界磁系では過熱保護を行わない通常の制御が継続されつつ、電機子系について過熱保護制御が実行される。したがって、図8(G)に示すように、電機子側トルク制限率Tlim-sが100%未満に低減されたことに応じて、例えばq軸電流指令値i が低下する。その結果、電機子系は過熱から保護される。これらも第1比較例と同様である。
【0140】
しかし、第1実施形態の制御では、q軸電流指令値i が低減されると、その減少に応じて界磁電流指令値i が増加される。ここでは、図8(G)に示すように、時刻tから時刻tにかけて界磁電流指令値i が増加する。その結果、図8(F)に示すように界磁温度Γmot-rが上昇するものの、図8(H)に示すように、出力トルクTは、電機子系の過熱保護制御が開始された時刻t以降においても、上昇後の要求トルクであるトルクTが維持される。したがって、第1実施形態の制御では、電機子温度Γmot-sが閾値γ以上となって、電機子系の過熱保護制御が開始された場合でも、電機子電流の減少に応じて、界磁電流i(界磁電流指令値i )を増加させることにより、出力トルクTが補償される。
【0141】
なお、図8では、電機子温度Γmot-sが閾値γを超える例について説明したが、これに限らない。界磁温度Γmot-rが閾値γを超える場合についてもこれと同様である。この場合は、界磁系の過熱保護のために界磁電流i(界磁電流指令値i )が低減されるので、その減少に応じて電機子電流が増加される。すなわち、界磁系の過熱保護制御が開始された場合でも、界磁電流iの減少に応じて、電機子電流を増加させることにより、出力トルクTが補償される。
【0142】
図8では、電機子温度Γmot-sが閾値γ1を超える例を説明したが、電機子制御器温度Γinv-sが閾値γを超える場合、あるいは、電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sが閾値γを超える場合についても、これと同様である。さらに、界磁温度Γmot-r、界磁制御器温度Γinv-r、または、これらの両方が閾値γを超える場合も、これと同様である。
【0143】
このように、電機子系または界磁系のうちいずれか一方が過熱状態である場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力を制限する過熱保護制御を実行するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させれば、出力トルクTが補償される。すなわち、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを減少させずに、一方の系で過熱保護制御を行うことができる。
【0144】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、電機子系の温度である電機子温度Γmot-s及び電機子制御器温度Γinv-sと、界磁子系の温度である界磁温度Γmot-r及び界磁制御器温度Γinv-rと、について共通の閾値γを設定している。これは、電機子系の電流応答と、界磁系の電流応答と、に実質的に差異がないときに特に好適である。しかし、電機子系と界磁系の電流応答に無視できない差異があるときには、以下に説明する第2実施形態のように構成することが好ましい。
【0145】
図9は、第2実施形態におけるトルク制限率Tlimの設定を示す説明図である。ここでは、界磁系の電流応答が電機子系よりも遅いものとする。図9(A)は、第2実施形態における電機子側の第1制限率Tlim-mot-sを示す。図9(B)は、第2実施形態における界磁側の第1制限率Tlim-mot-rを示す。
【0146】
図9(B)に示すように、相対的に電流応答が遅い界磁側の第1制限率Tlim-mot-rは、第1実施形態と同様に、閾値γから界磁温度Γmot-rに応じて低下するように設定される。一方、図9(A)に示すように、相対的に電流応答が早い電機子側の第1制限率Tlim-mot-sは、第1実施形態とは異なり、閾値γとは異なる閾値γから電機子温度Γmot-sに応じて低下するように設定される。
【0147】
そして、閾値γは、安全等を考慮して設定される閾値γよりも小さい値に設定される。すなわち、相対的に電流応答が早い電機子側において第1制限率Tlim-mot-sの低下が始まる温度(閾値γ)は、相対的に電流応答が遅い界磁側において第1制限率Tlim-mot-rの低下が始まる温度(閾値γ)よりも低い値に設定される。換言すれば、電機子系と界磁系で電流応答が異なるときには、電機子系と界磁系で、過熱保護のために供給電力の制限が開始される温度(以下、制限開始温度という)を異なる値に設定し、相対的に電流応答が早い系の制限開始温度は、相対的に応答が遅い系の制限開始温度よりも低い値に設定される。
【0148】
また、上記閾値γ,γの設定により、図9にハッチング三角形で示すように、相対的に電流応答が早い電機子側の第1制限率Tlim-mot-sは、温度上昇に対して、相対的に電流応答が遅い界磁側の第1制限率Tlim-mot-rよりも緩やかに低減される。換言すれば、機子系と界磁系で電流応答が異なるときには、温度変化に対する供給電力の制限率(グラフの傾き)は電機子系と界磁系で異なる相対に設定し、相対的に電流応答が早い系の制限率は、相対的に電流応答が遅い系の制限率よりも小さい値に設定される。
【0149】
なお、相対的に電流応答が早い電機子系の制限開始温度を表す閾値γは、実験またはシミュレーション等に基づき、相対的に電流応答が遅い界磁系との電流応答の早さの具体的な相違等に応じて予め定められる。
【0150】
図10は、出力トルクT等を示すタイムチャートである。図10では、一例として、時刻tまでの間、出力トルクTは所定のトルクTが維持されており、その後、時刻tから時刻tにかけて、出力トルクTを所定のトルクTまで上昇させるシーンについて説明する。
【0151】
図10(A)~(D)は第2比較例における出力トルクT等を表す。第2比較例は、電機子系と界磁系で電流応答に差異がある巻線界磁型モータ10において、制限開始温度である閾値γを電機子系と界磁系で共通に設定し、第1実施形態の過熱保護及び出力トルクTの補償に係る制御を行う例である。ここでは、電機子系において過熱保護制御が行われる例を示す。具体的には、図10(A)は、トルク制限率Tlimを示す。図10(B)は、モータ温度Γmotを示す。図10(C)は、電流指令値iのうち、q軸電流指令値i と界磁電流指令値i を示す。図10(D)は、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを示す。
【0152】
図10(E)~(F)は第2実施形態における出力トルクT等を表す。第2実施形態は、前述のとおり、電機子系と界磁系で電流応答に差異がある巻線界磁型モータ10において、制限開始温度である閾値γ,γ、及び、温度変化に対する制限率を、電機子系と界磁系で異なる値に設定し、第1実施形態の過熱保護及び出力トルクTの補償に係る制御を行う例である。具体的には、図10(E)は、モータ温度Γmotを示す。図10(F)は、モータ温度Γmotを示す。図10(G)は、電流指令値iのうち、q軸電流指令値i と界磁電流指令値i を示す。図10(H)は、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを示す。
【0153】
まず、第2比較例において、図10(D)に示すように、時刻tから時刻tにかけて出力トルクTを上昇させるときに、図10(B)に示すように、時刻tにおいて電機子温度Γmot-sが閾値γを超えたとする。このとき、図10(A)に示すように、時刻t以後、界磁側トルク制限率Tlim-rは100%に維持されるが、電機子側トルク制限率Tlim-sは100%未満に低減される。すなわち、時刻tから、界磁系では過熱保護を行わない通常の制御が継続されつつ、電機子系について過熱保護制御が実行される。その結果、図10(C)に示すように、時刻tから時刻tにかけて、q軸電流指令値i が低下するので、これに応じて界磁電流指令値i が増加される。
【0154】
このとき、界磁系の電流応答が早く、界磁電流iが、界磁電流指令値i にしたがって、q軸電流iの減少に追従して増加することができれば、第1実施形態のとおり、出力トルクTが補償される。しかし、第2比較例のように、界磁系の電流応答が遅い場合、q軸電流指令値i の減少に応じて界磁電流指令値i を増加させても、図10(C)に示すように、界磁系の電流応答の遅れによって、増加した界磁電流指令値i と実際の界磁電流iが乖離する。その結果、図10(D)に矢印で示すように、出力トルクTに、アンダーシュートに類似するトルク変動(トルク不足)が生じる。
【0155】
一方、第2実施形態の制御においても、図10(H)に示すように、時刻tから時刻tにかけて出力トルクTを上昇させるときに、図10(F)に示すように、電機子温度Γmot-sし、制限開始温度を超える。但し、第2実施形態の制御では、電流応答の早い電機子系の制限開始温度は、閾値γではなく、閾値γに低下されている。このため、電機子温度Γmot-sが制限開始温度(閾値γ)を超える時刻は、閾値γを超える時刻tよりも早まり、時刻t′となる。これにより、電機子系の過熱保護制御が開始されるタイミングが時刻t′となる。すなわち、図10(E)に示すように電機子側トルク制限率Tlim-sが100%未満になる時刻、及び、図10(G)に示すようにq軸電流指令値i が低減され始まる時刻は、いずれも時刻t′に早まる。
【0156】
これにより、図10(G)に示すように、q軸電流指令値i の減少、及び、これに応じた界磁電流指令値i の増加が緩やかになる。これにより、界磁電流指令値i の増加速度(グラフの傾き)は、応答が遅い界磁系が追従可能な増加速度となる。その結果、図10(H)に示すように、第2実施形態の制御では、第2比較例で生じるようなトルク変動が低減され、出力トルクTが特に正確に補償される。
【0157】
なお、第2実施形態では界磁系の電流応答が電機子系よりも遅い場合について説明したが、これとは逆に、電機子系の電流応答が界磁系よりも遅い場合についても同様である。この場合、電流応答が遅い電機子系の制限開始温度が閾値γに設定され、電流応答が早い界磁系の制限開始温度が閾値γに設定される。また、相対的に電流応答が早い界磁系における制限率は、相対的に電流応答が遅い電機子系における制限率よりも小さい値に設定される。また、ここでは、電機子側及び界磁側の各第1制限率Tlim-mot-s,Tlim-mot-rを対比して説明したが、電機子側及び界磁側の各第2制限率Tlim-inv-s,Tlim-inv-rについてもこれと同様である。
【0158】
また、上記第2実施形態では、電機子系と界磁系で制限開始温度(閾値γ,γ)を異なる温度に設定することにより、温度変化に対する供給電力の制限率を変更しているが、これに限らない。例えば、電機子系と界磁系で制限開始温度(閾値γ,γ)を実質的に等しい温度に設定する場合に、相対的に電流応答が早い系の制限率(例えば電機子系の第1制限率Tlim-mot-s)を、温度上昇に対して、相対的に電流応答が遅い系の制限率(例えば界磁系の第1制限率Tlim-mot-r)よりも緩やかに変化させてもよい。この場合も、温度上昇に対し、電流応答が早い系における制限率を緩やかにすることで、相対的に遅い系の電流応答が追従しやすくなる。このため、上記第2実施形態のように、電機子系と界磁系で電流応答に差異があっても、トルク変動を低減し、出力トルクTが特に正確に補償される。
【0159】
[第3実施形態]
上記第2実施形態では、電機子系と界磁系で電流応答が異なるときに、相対的に応答が早い系の制限開始温度(閾値γ)を、相対的に応答が遅い系の制限開始温度(閾値γ)よりも低い値に設定しているが、以下に説明する第3実施形態のように、相対的に応答が早い系の制限開始温度は、より柔軟に設定され得る。第3実施形態では、界磁系の電流応答は電機子系よりも遅い例について説明する。
【0160】
図11は、第3実施形態における電機子側トルク制限率演算部41の構成を示すブロック図である。図11に示すように、第3実施形態の電機子側トルク制限率演算部41は、第1温度変化率演算部81及び第2温度変化率演算部82を備える。そして、第1制限率演算部61及び第2制限率演算部62は、制限開始温度が可変となっている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0161】
第1温度変化率演算部81は、単位時間あたりの電機子温度Γmot-sの変化率(以下、第1時間変化率δΓmot-sという)を演算する。本実施形態では、第1温度変化率演算部81は、例えば、予め定められた制御周期あたりの電機子温度Γmot-sの変化率を演算する。
【0162】
同様に、第2温度変化率演算部82は、単位時間あたりの電機子制御器温度Γinv-sの変化率(以下、第2時間変化率δΓinv-sという)を演算する。
【0163】
そして、第3実施形態では、第1制限率演算部61は、第1時間変化率δΓmot-sに基づいて、過熱保護のための制限開始温度を閾値γと閾値γとで切り替える。また、これにより、第1制限率演算部61は、温度変化に応じた供給電力(電機子電流)の制限率を切り替える。これらの切り替えは、例えば、制限開始温度を閾値γとし、電機子温度Γmot-sと、第1制限率Tlim-mot-sと、を予め対応付けた制限率テーブルと、制限開始温度を閾値γとし、電機子温度Γmot-sと、第1制限率Tlim-mot-sと、を予め対応付けた制限率テーブルと、を予め用意しておき、参照する制限率テーブルを変更することによって行われる。
【0164】
同様に、第2制限率演算部62は、第2時間変化率δΓinv-sに基づいて、過熱保護のための制限開始温度を閾値γと閾値γとで切り替える。また、これにより、第2制限率演算部62は、温度変化に応じた供給電力(電機子電流)の制限率を切り替える。これらの切り替えは、例えば、制限開始温度を閾値γとし、電機子制御器温度Γinv-sと、第2制限率Tlim-inv-sと、を予め対応付けた制限率テーブルと、制限開始温度を閾値γとし、電機子制御器温度Γinv-sと、第2制限率Tlim-inv-sと、を予め対応付けた制限率テーブルと、を予め用意しておき、参照する制限率テーブルを変更することによって行われる。
【0165】
図12は、第3実施形態における電機子側トルク制限率Tlim-sの演算を示す説明図である。図12では、電機子温度Γmot-sに基づく第1制限率Tlim-mot-sの演算について例示する。
【0166】
図12に示すように、第3実施形態の第1制限率演算部61は、閾値γから第1制限率Tlim-mot-sを低下させる第1制限率線83にしたがって、または、閾値γから第1制限率Tlim-mot-sを低下させる第2制限率線84にしたがって、電機子温度Γmot-sに基づく第1制限率Tlim-mot-sを演算する。そして、第1制限率演算部61は、第1時間変化率δΓmot-sに基づいて、第1制限率線83と第2制限率線84のどちらにしたがって第1制限率Tlim-mot-sを演算するかを決定する。具体的には、第1制限率演算部61は、第1時間変化率δΓmot-sを、実験またはシミュレーション等によって予め定める閾値Δmotと比較する。そして、第1時間変化率δΓmot-sが閾値Δmotより小さく、電機子温度Γmot-sの時間変化率が小さいと判定したときには、第1制限率演算部61は、第1制限率線83にしたがって、第1制限率Tlim-mot-sを演算する。一方、第1時間変化率ΔΓmot-sが閾値Δmot以上であり、電機子温度Γmot-sの時間変化率が大きいと判定したときには、第2制限率線84にしたがって、第1制限率Tlim-mot-sを演算する。
【0167】
ここでは、第1制限率演算部61における電機子温度Γmot-sに基づく第1制限率Tlim-mot-sの演算について説明したが、第2制限率演算部62における電機子制御器温度Γinv-sに基づく第2制限率Tlim-mot-sの演算についても同様である。第2時間変化率δΓinv-sと比較すべき閾値Δinvは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。閾値Δinvは、例えば、第1時間変化率δΓmot-sと比較すべき閾値Δmotと同じ値に設定される。
【0168】
図13は、電機子側トルク制限率Tlim-sの演算に係るフローチャートである。図13では、特に、電機子温度Γmot-sに基づく第1制限率Tlim-mot-sの演算部分について説明するが、電機子制御器温度Γinv-sに基づく第2制限率Tlim-mot-rの演算部分についても同様である。
【0169】
図13に示すように、ステップS30では、電機子側トルク制限率演算部41が、電機子温度Γmot-sを取得する。ステップS31では、第1温度変化率演算部81が、電機子温度Γmot-sの前回値と今回値に基づいて、第1時間変化率δΓmot-sを演算する。ステップS32では、第1制限率演算部61が、第1時間変化率δΓmot-sを閾値Δmotと比較することにより、電機子温度Γmot-sの時間変化率が大きいか否かを判定する。
【0170】
ステップS32において、第1時間変化率δΓmot-sが閾値Δmot以上であり、電機子温度Γmot-sの時間変化率が大きいと判定されたときには、ステップS33に進む。
【0171】
ステップS33では、第1制限率演算部61は電機子温度Γmot-sを閾値γと比較する。ステップS33において、電機子温度Γmot-sが閾値γよりも大きいときには、ステップS34に進み、第2制限率線84にしたがって、電機子温度Γmot-sに応じて第1制限率Tlim-mot-sを低下させる。また、ステップS33において、電機子温度Γmot-sが閾値γ以下であるときには、ステップS35に進み、電機子温度Γmot-sに依らず、第1制限率Tlim-mot-sを100%に設定する。
【0172】
一方、ステップS32において、第1時間変化率δΓmot-sが閾値Δmot未満であり、電機子温度Γmot-sの時間変化率が小さいと判定されたときには、ステップS36に進む。
【0173】
ステップS36では、第1制限率演算部61は電機子温度Γmot-sを閾値γと比較する。ステップS36において、電機子温度Γmot-sが閾値γよりも大きいときには、ステップS37に進み、第1制限率線83にしたがって、電機子温度Γmot-sに応じて第1制限率Tlim-mot-sを低下させる。また、ステップS36において、電機子温度Γmot-sが閾値γ以下であるときには、ステップS38に進み、電機子温度Γmot-sに依らず、第1制限率Tlim-mot-sを100%に設定する。
【0174】
上記のように、第3実施形態では、電流応答が早い電機子系の温度(Γmot-s,Γinv-s)の時間変化率(δΓmot-s,δΓinv-s)が予め定める閾値(Δmot,Δinv)以上であって、電機子系の温度の時間変化率が大きいときには、制限開始温度が、安全等を考慮して設定される閾値γよりも小さい閾値γに設定される。また、第1制限率線83及び第2制限率線84の傾きで示されるとおり、電流応答が早い電機子系では、温度変化に対する供給電力の制限率が可変である。そして、電機子系の温度の時間変化率が大きいときには、第2制限率線84を用いることにより、温度変化に対する供給電力の制限率が低減され、緩やかになる。
【0175】
このように、電流応答が早い電機子系の温度の時間変化率が大きいシーンでは、電機子電流の減少が大きいので、電機子電流の減少に応じて増加させる界磁電流指令値i に、実際の界磁電流iが追従できない。このため、第2実施形態で説明したようにトルク変動が生じる。しかし、上記のように、制限開始温度や、温度変化に対する供給電力の制限率を可変とし、電機子系の温度の時間変化率が大きいときに、制限開始温度を閾値γとする第2制限率線84を用いれば、界磁電流指令値i の増加は、実際の界磁電流iが追従し得るものに緩和される。このため、電流応答が早い電機子系の過熱保護制御を実行するときに、界磁系の電流応答遅れによるトルク変動を抑制しつつ、出力トルクTを補償することができる。
【0176】
一方、第3実施形態では、電流応答が早い電機子系の温度(Γmot-s,Γinv-s)の時間変化率(δΓmot-s,δΓinv-s)が閾値(Δmot,Δinv)未満であって、電機子系の温度の時間変化率が小さいときには、制限開始温度が、安全等を考慮して設定される閾値γに設定される。また、電機子系の温度の時間変化率が小さいときには、第1制限率線83を用いることにより、温度変化に対する供給電力の制限率は、電流応答が遅い界磁系と等しくなる。
【0177】
このように、電流応答が早い電機子系の温度の時間変化率が小さいシーンでは、電機子電流の減少が小さい。このため、電機子電流の減少に応じて増加させる界磁電流指令値i に、実際の界磁電流iが追従可能である。したがって、電機子系の温度の時間変化率が小さいときには、制限開始温度を閾値γとする第1制限率線83にしたがって、比較的急峻に制限率を変化させても、界磁系の応答遅れに起因したトルク変化を生じさせることなく、出力トルクTを補償することができる。また、第1制限率線83にしたがって、電機子系に適切なタイミングで過熱保護制御が実行されるので、そもそも過熱保護制御による出力トルクTの低下が生じ難くなる。
【0178】
上記第3実施形態では、界磁系の電流応答は電機子系よりも遅い例について説明したが、電機子系の電流応答が界磁系よりも遅い場合には、界磁系の制御を上記第3実施形態と同様に構成すればよい。すなわち、界磁側トルク制限率演算部51を、上記第3実施形態の電機子側トルク制限率演算部41と同様に構成すればよい。
【0179】
また、上記第3実施形態では、第1時間変化率δΓmot-sに応じて、参照すべき制限率線を第1制限率線83と第2制限率線84とで切り替えているが、これに限らない。第1時間変化率δΓmot-sの大きさに応じて、制限率線が、第1制限率線83から第2制限率線84に(あるいは第2制限率線84から第1制限率線83に)、徐々に遷移するようにしてもよい。この場合、制限開始温度は、第1時間変化率δΓmot-sの大きさに応じて、閾値γから閾値γに(あるいは閾値γから閾値γに)、徐々に遷移する。また、温度変化に対する供給電力の制限率(制限率線の傾き)も、第1時間変化率δΓmot-sの大きさに応じて、徐々に遷移する。
【0180】
以上のように、上記第1~第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法は、電機子巻線を有する電機子と、界磁巻線を有する界磁と、を備える巻線界磁型モータ10の制御方法である。この巻線界磁型モータ10の制御方法では、電機子と電機子を制御する制御器(インバータ15)によって構成される電機子系が過熱状態であるか否かを判定し、また、界磁と界磁を制御する制御器(界磁電流出力器16)によって構成される界磁系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、電機子系または界磁系のうちいずれか一方が過熱状態であると判定した場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力(例えばvd-fin ,vq-fin )を制限するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力(例えばvf-fin )を増加させる。
【0181】
電機子系または界磁系のうち、過熱状態である一方の系に対する供給電力を制限する過熱保護制御を実行すると、通常は、巻線界磁型モータ10の出力トルクTが低下し、要求トルクを実現できない。しかし、上記のように、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させることにより、一方の系で過熱保護制御を実行する場合でも、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償し、要求トルクを実現することができる。
【0182】
上記第1~第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、過熱状態である一方の系における供給電力の減少に応じて、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させる。
【0183】
このように、電機子系または界磁系のうち、過熱状態である一方の系における供給電力の減少に応じて、他方の系の供給電力を増加させることにより、特に、適切かつ正確に、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償することができる。
【0184】
上記第1~第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、具体的に、界磁巻線に流れる電流である界磁電流(i)を取得し、電機子巻線に流れる電流である電機子電流(i,i)を取得し、界磁電流及び電機子電流に基づいて、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を決定する。
【0185】
このように、実際の界磁電流(i)及び電機子電流(i,i)に基づくフィードバック制御によって、過熱状態でない系に対する供給電力を決定すると、過熱状態である一方の系の供給電力の減少に応じて、適切かつ正確に、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させることができる。その結果、特に、適切かつ正確に、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償することができる。
【0186】
上記第1~第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、電機子系が過熱状態であり、界磁系が過熱状態でないと判定した場合、電機子電流(i,i)を制限する。そして、界磁電流(i)と、制限後の電機子電流(i,i)と、に基づいて、出力トルクの推定値である推定トルク(Test)を演算し、要求トルク(T)と、要求トルクに応じて決定する界磁電流(i )と、推定トルク(Test)と、に基づいて、界磁系に対する供給電力を決定する。
【0187】
このように、電機子系が過熱状態であるときには、推定トルク(Test)を演算し、この推定トルク(Test)に基づいて界磁系に対する供給電力を決定すると、電機子電流(i,i)の減少に応じて適切かつ適切に出力トルクTを補償するように、界磁系に対する供給電力を決定することができる。したがって、電機子系が過熱状態であるときに、特に、適切かつ正確に、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償することができる。
【0188】
上記第1~第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、界磁系が過熱状態であり、電機子系が過熱状態でないと判定した場合、界磁電流(i)を制限する。そして、要求トルク(T)、電機子電流(i,i)、及び、制限後の界磁電流(i)に基づいて、電機子系に対する供給電力を決定する。
【0189】
このように、界磁系が過熱状態であるときには、過熱保護のために制限された界磁電流(i)をフィードバックすることによって、界磁電流(i)の減少に応じて適切かつ適切に出力トルクTを補償するように、電機子系に対する供給電力を決定することができる。したがって、界磁系が過熱状態であるときに、特に、適切かつ正確に、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償することができる。
【0190】
上記第2実施形態及び第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、過熱状態であると判定し、供給電力の制限を開始する温度である制限開始温度は、電機子系と界磁系とで異なる。そして、電機子系と界磁系のうち相対的に応答が早い系の制限開始温度を、相対的に応答が遅い系の制限開始温度(γ)よりも低い値(γ)に設定する。
【0191】
このように、電機子系と界磁系で応答が異なるときに、応答が早い系の制限開始温度を、応答が遅い系の制限開始温度(γ)よりも低い値(γ)に設定すると、応答が早い系の過熱保護制御を実行するときに、応答が遅い系における供給電力の増加を追従させることができる。その結果、電機子系と界磁系の応答に差異があっても、応答遅延に起因したトルク変化を生じさせずに、適切かつ正確に、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償することができる。
【0192】
特に、上記第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、過熱状態であると判定し、供給電力の制限を開始する温度である制限開始温度は、電機子系と界磁系のうち相対的に応答が早い系において可変である。そして、応答が早い系の温度の時間変化率が予め定める所定閾値(ΔmotあるいはΔinv)以上であるときに、応答が早い系の制限開始温度を、電機子系と界磁系のうち相対的に応答が遅い系の制限開始温度(γ)よりも低い値(γ)に設定する。また、応答が早い系の温度の時間変化率が所定閾値(ΔmotあるいはΔinv)未満であるときに、応答が早い系の制限開始温度を、応答が遅い系の制限開始温度と等しい値(γ)に設定する。
【0193】
このように、電機子系と界磁系で応答が異なるときに、応答が早い系の制限開始温度を、その温度の時間変化率に応じて変更可能とすると、応答が早い系の温度の時間変化率が大きいときには、応答が遅い系に対する供給電力の増加を追従させることができる。そして、応答が早い系の温度の時間変化率が小さいときには、適切なタイミングで過熱保護制御が実行し、そもそも過熱保護制御による出力トルクTの低下が生じ難くすることができる。
【0194】
上記第2実施形態及び第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、温度変化に対する供給電力の制限率は、電機子系と界磁系で異なる。そして、電機子系と界磁系のうち応答が相対的に早い系の制限率を、相対的に応答が遅い系の制限率よりも小さい値に設定する。
【0195】
このように、電機子系と界磁系で応答が異なるときに、応答が早い系の温度変化に対する供給電力の制限率を、応答が遅い系の温度変化に対する供給電力の制限率よりも小さい値に設定すると、応答が早い系の過熱保護制御を実行するときに、応答が遅い系における供給電力の増加を追従させることができる。その結果、電機子系と界磁系の応答に差異があっても、応答遅延に起因したトルク変化を生じさせずに、適切かつ正確に、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償することができる。
【0196】
特に、上記第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御方法では、温度変化に対する供給電力の制限率は、電機子系と界磁系のうち相対的に応答が早い系において可変である。そして、応答が早い系の温度の時間変化率が予め定める所定閾値(ΔmotあるいはΔinv)以上であるときに、応答が早い系の制限率を、電機子系と界磁系のうち相対的に応答が遅い系の制限率よりも低く設定する。また、応答が早い系の温度の時間変化率が所定閾値(ΔmotあるいはΔinv)未満であるときに、応答が早い系の制限率を、応答が遅い系の前記制限率と等しい値に設定する。
【0197】
このように、電機子系と界磁系で応答が異なるときに、応答が早い系の温度変化に対する供給電力の制限率を、温度の時間変化率に応じて変更可能とすると、応答が早い系の温度の時間変化率が大きいときには、応答が遅い系に対する供給電力の増加を追従させることができる。そして、応答が早い系の温度の時間変化率が小さいときには、適切なタイミングで過熱保護制御が実行し、そもそも過熱保護制御による出力トルクTの低下が生じ難くすることができる。
【0198】
上記第1~第3実施形態に係る巻線界磁型モータの制御装置は、電機子巻線を有する電機子と、界磁巻線を有する界磁と、を備える巻線界磁型モータ10の制御装置100である。この制御装置100は、電機子と電機子を制御する制御器(インバータ15)によって構成される電機子系が過熱状態であるか否かを判定し、界磁と界磁を制御する制御器(界磁電流出力器16)によって構成される界磁系が過熱状態であるか否かを判定する。そして、制御装置100は、電機子系または界磁系のうちいずれか一方が過熱状態であると判定した場合、過熱状態である一方の系に対する供給電力を制限するとともに、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させる。
【0199】
このように、過熱状態でない他方の系に対する供給電力を増加させることにより、制御装置100は、一方の系で過熱保護制御を実行する場合でも、巻線界磁型モータ10の出力トルクTを補償し、要求トルクを実現させることができる。
【0200】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態等で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。例えば、上記各実施形態等では、電機子系及び界磁系の各過熱保護制御において、トルク制限率Tlimを介して、電機子系に対する供給電力、及び、界磁系に対する供給電力を低減させてしているが、これに限らない。トルク制限率Tlim以外のパラメータを用いて、または、電機子系及び界磁系の各過熱保護制御に係るその他のパラメータを補正することにより、電機子系に対する供給電力、及び、界磁系に対する供給電力を調整してもよい。
【符号の説明】
【0201】
10:巻線界磁型モータ,11:電流指令値演算部,12:電圧指令値演算部,13:座標変換部,14:PWM変換器,15:インバータ,16:界磁電流出力器,17:直流電源,21:回転子位置センサ,22:電機子電流センサ,23:界磁電流センサ,24:座標変換部,25:回転数演算部,31:電機子電圧指令値演算部,32:界磁電圧指令値演算部,41:電機子側トルク制限率演算部,42:電機子側トルク指令値演算部,43:第1電機子電流制御部,44:第2電機子電流制御部,45:電機子電圧指令値選択部,51:界磁側トルク制限率演算部,52:界磁側トルク指令値演算部,53:第1界磁電流制御部,54:第2界磁電流制御部,55:推定トルク演算部,56:界磁電圧指令値選択部,61:第1制限率演算部,62:第2制限率演算部,63:最小値選択部,66:トルク範囲演算部,67:リミットトルク演算部,68:リミット処理部,71:dq軸電流マップ,72:PI制御器,73:PI制御器,74:PI制御器,75:PI制御器,81:第1温度変化率演算部,82:第2温度変化率演算部,83:第1制限率線,84:第2制限率線,100:制御装置
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