(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129696
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】測距センサ装置および電子機器
(51)【国際特許分類】
G01S 7/484 20060101AFI20240919BHJP
G01S 7/497 20060101ALI20240919BHJP
G01S 17/08 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G01S7/484
G01S7/497
G01S17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039052
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】319006047
【氏名又は名称】シャープセミコンダクターイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高津 憩
(72)【発明者】
【氏名】藤本 聡郎
(72)【発明者】
【氏名】岩森 光司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 教和
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AC07
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA20
5J084BA36
5J084BA40
5J084BB02
5J084CA01
5J084CA11
5J084CA31
5J084CA32
5J084DA01
5J084DA07
5J084DA09
5J084EA04
(57)【要約】
【課題】測距センサ装置における距離の測定誤差を低減する。
【解決手段】測距センサ装置(1)は、対象物にレーザ光を出射する発光素子(2)と、対象物からの反射光が入射する第1受光素子(3)と、発光素子(2)の出射時点から第1受光素子(3)の入射時点までの期間に基づき、対象物までの距離を測定する測定部(5)と、発光素子(2)の駆動を制御する駆動制御部(22)であって、発光素子(2)の駆動電流を制限する駆動制御部(22)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザ光を出射する発光素子と、
前記対象物からの反射光が入射する受光素子と、
前記発光素子の出射時点から前記受光素子の入射時点までの期間に基づき、前記対象物までの距離を測定する測定部と、
前記発光素子の駆動を制御する駆動制御部であって、前記発光素子の駆動電流を制限する駆動制御部とを備える、測距センサ装置。
【請求項2】
前記駆動制御部は、前記測定部が測定した距離が設定値よりも小さい場合、前記駆動電流を制限する、請求項1に記載の測距センサ装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記受光素子からの受光信号の時間分布のうち、基準値よりも低い受光信号の時間分布を除外した時間分布を用いて、前記入射時点を決定する、請求項1に記載の測距センサ装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記受光素子からの受光信号の時間分布のうち、前記受光信号の領域を制限した時間分布用いて、前記入射時点を決定する、請求項1に記載の測距センサ装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記受光素子からの受光信号の量が設定範囲内である場合、前記対象物が非鏡面体であるとして、前記距離を測定する、請求項1に記載の測距センサ装置。
【請求項6】
前記受光素子は複数個であり、
前記測定部は、複数の前記受光素子からの複数の受光信号の量の比較結果に基づいて、前記対象物が鏡面体および非鏡面体の何れであるかを判断し、該判断に基づいて前記距離を測定する、請求項1に記載の測距センサ装置。
【請求項7】
前記発光素子は、垂直共振器型面発光レーザである、請求項1に記載の測距センサ装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか1項に記載の測距センサ装置を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測距センサ装置および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物に向けて発光し、該対象物からの反射光を受光して、発光してから受光するまでの期間に基づき上記対象物までの距離を測定する測距センサ装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のレーザ距離計は、半導体レーザ素子から強度変調して発振されたレーザ光を対象物に投光し、該レーザ光の反射光を色フィルタおよびレンズを介して受光センサにて検出する。上記レーザ距離計は、上記受光センサにて検出した光と、上記レーザ光との位相差を用いて上記対象物までの距離を測定する。
【0003】
例えば、
図26は、特許文献2に記載の光センサの概要を示す断面図である。
図26に示すように、光センサ1000には、例えば半導体からなる基板1001上に発光素子1002、第1受光素子1003、および第2受光素子1004が設けられている。上記発光素子1002は、例えばVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)などの面発光型半導体レーザ素子からなり、検知物1010に向けて光の一部1037を出射する。
【0004】
上記第1受光素子1003および第2受光素子1004は、例えばSPAD(シングフォトンアバランシェダイオード)等である。第1受光素子1003は、発光素子1002から出射された光の一部1037が検知物1010にて反射した反射光1038を受光する検出用の受光素子1003である。第2受光素子1004は、発光素子1002から出射された光(直接光)の一部1039を検出基準として受光するモニタ用の受光素子1004である。上記光センサ1000は、第2受光素子1004が直接光の一部1039を受光した時点から、受光素子1003が反射光1038を受光した時点までの期間を測定する事により、検知物1010までの距離を算出する。
【0005】
また、レーザ光は、単一のモードで発振するシングルモードと、複数のモードで発振するマルチモードとがある。シングルモードのレーザ光は、単一の波長のレーザ光である。マルチモードのレーザ光は、複数の波長のレーザ光である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7-29488号公報
【特許文献2】特開2019-133961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シングルモードのレーザ光はレーザ光の直進成分である一方、マルチモードのレーザ光は周囲光となる成分である。このため、上記のような装置による距離測定において、以下のような課題が生じる。
【0008】
すなわち、対象物の表面が鏡面である場合、シングルモードのレーザ光のみが受光素子に入射する。一方、対象物の表面が凹凸面(または非鏡面とも称する)である場合、上記表面(非鏡面)にて散乱反射が発生する。散乱反射が発生すると、レーザ光の直進成分であるシングルモードのレーザ光と、周囲光となるマルチモードのレーザ光が混在して受光素子に入射する。故に、対象物の表面が鏡面である場合と、上記表面が非鏡面である場合とでは、距離の測定値に誤差が生じる。
【0009】
本開示の一態様は、上記測距センサ装置における距離の測定値の誤差を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る測距センサ装置は、対象物にレーザ光を出射する発光素子と、前記対象物からの反射光が入射する受光素子と、前記発光素子の出射時点から前記受光素子の入射時点までの期間に基づき、前記対象物までの距離を測定する測定部と、前記発光素子の駆動を制御する駆動制御部であって、前記発光素子の駆動電流を制限する駆動制御部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、測距センサ装置における距離の測定値の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る測距センサ装置の概要を示す模式断面図である。
【
図2】上記測距センサ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】面発光型半導体レーザ素子から出射されるレーザ光を示す断面図である。
【
図4】上記測距センサ装置から出射した光が、対象物である鏡面体にて鏡面反射され、上記測距センサ装置に入射する様子を示す概要図である。
【
図5】上記測距センサ装置から出射した光が、対象物である非鏡面体にて拡散反射され、上記測距センサ装置に入射する様子を示す概要図である。
【
図6】上記測距センサ装置の発光素子が出射するレーザ光の波長および相対的光度の時間変化を示すグラフである。
【
図7】上記発光素子に関して、駆動電流と上記レーザ光の出力との関係を示すグラフである。
【
図8】上記レーザ光のサイドモード抑圧比と、上記測距センサ装置の測定部が算出した測定値の誤差との関係を示すグラフである。
【
図9】上記測距センサ装置の変形例の概略構成を示すブロック図である。
【
図10】対象物との距離と該距離の測定値の誤差との関係を示すグラフである。
【
図11】上記測距センサ装置における対象物との距離の測定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】本開示の別の実施形態に係る測距センサ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図13】上記測距センサ装置におけるヒストグラムカウンタにて作成されるヒストグラムの一例を示すグラフである。
【
図14】上記測距センサ装置における距離演算部が対象物との距離を演算するために利用するヒストグラムを示すグラフである。
【
図15】上記距離演算部における処理の流れを示すフローチャートである。
【
図16】上記測距センサ装置の変形例における距離演算部が上記距離を演算するために利用するヒストグラムを示すグラフである。
【
図17】上記変形例における距離演算部の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図18】本開示のさらに別の実施形態に係る測距センサ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図19】上記測距センサ装置におけるヒストグラムカウンタが作成したヒストグラムの別の例を示すグラフである。
【
図20】上記ヒストグラムカウンタが作成したヒストグラムのさらに別の例を示すグラフである。
【
図21】上記測距センサ装置における対象物との距離の測定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図22】本開示のさらに別の実施形態に係る測距センサ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図23】鏡面体からの反射光が上記測距センサ装置における2つの第1受光素子に入射する一例を示す概要図である。
【
図24】非鏡面体からの反射光が上記2つの第1受光素子に入射する一例を示す概要図である。
【
図25】上記測距センサ装置における対象物との距離の測定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図26】従来の光センサの概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。
【0014】
〔実施形態1〕
本開示の一実施形態について、
図1~
図7を参照して説明する。
【0015】
(測距センサ装置の概要)
図1は、本実施形態に係る測距センサ装置1の概要を示す模式断面図である。本実施形態の測距センサ装置1はToF(Time of Flight)センサである。測距センサ装置1は、掃除ロボットなど、対象物との距離に応じて動作が制御される任意の電子機器に利用される。
【0016】
図1に示すように、測距センサ装置1は、発光素子2、リファレンス用光学フィルタKS、リターン用光学フィルタKR、集光レンズCL、遮光壁SH、第1受光素子3、および第2受光素子4を含む。発光素子2はパルス状のレーザ光を出射する。上記レーザ光の一部は、リファレンス用光学フィルタKSを介して第2受光素子4に入射する。上記レーザ光の残りは、対象物OBJの表面で反射し、集光レンズCLおよびリターン用光学フィルタKRを介して第1受光素子3に入射する。従って、第1受光素子3は、上記レーザ光のリターン光を受光する素子である。第2受光素子4は、上記リターン光に対して基準となるリファレンス光を受光する素子である。
【0017】
発光素子2は、レーザ光源と、該レーザ光源を駆動する駆動回路とを含む。上記レーザ光源は、例えばVCSEL(垂直共振器型面発光レーザ)などの面発光型半導体レーザ素子である。上記レーザ光は、可視光でもよいし、赤外線でもよい。
【0018】
第1受光素子3は、入射したリターン光を電気信号(リターン信号)に変換する光電素子を含む。第2第1受光素子3は、入射したリファレンス光を電気信号(リファレンス信号)に変換する光電素子を含む。該光電素子は、例えばSPAD(シングフォトンアバランシェダイオード)等である。上記光電素子は、1個であってもよいし、複数個であってもよい。上記光電素子は、1次元上に配列されたラインセンサであってもよいし、2次元上に配列されたイメージセンサであってもよい。
【0019】
図2は、測距センサ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図2に示すように、測距センサ装置1は、さらに、測定部5および制御部6を含む。
【0020】
測定部5は、第1受光素子3および第2受光素子4からの信号に基づいて、測距センサ装置1から対象物OBJまでの距離を測定する。測定部5は、TDC(Time-to-Digital Converter)11およびヒストグラムカウンタ12を含む。
【0021】
TDC11は、第1受光素子3からのリターン信号と、第2受光素子4からのリファレンス信号とのエッジ間の時間差を測定し、測定した時間差をデジタル信号として出力する。第2受光素子4からのリファレンス信号のエッジが、発光素子2の出射時点に対応し、第1受光素子3からのリターン信号のエッジが、第1受光素子3の入射時点に対応する。ヒストグラムカウンタ12は、TDC11からのデジタル信号に基づき、上記時間差をヒストグラム化する。
【0022】
制御部6は、測距センサ装置1の各部の動作を制御する。制御部6は、例えば、CPU(Central Processing Unit)や専用プロセッサなどの演算処理部などを含んでもよい。制御部6は、PLA(Programmable Logic Array)を含んでもよい。制御部6は、距離演算部21(測定部)および駆動制御部22を含む。
【0023】
距離演算部21は、ヒストグラムカウンタ12による時間差のヒストグラム(時間分布)に基づき対象物OBJとの距離の測定値を算出する。例えば、距離演算部21は、上記時間差のヒストグラムの重心位置を算出し、該重心位置に基づいて上記距離の測定値を算出してもよい。距離演算部21が算出した距離の測定値は、アイ・ツー・シーインターラプト(I2C)によって測距センサ装置1の外部に出力される。
【0024】
駆動制御部22は、発光素子2の駆動を制御する。具体的には、駆動制御部22は、設定されたタイミングおよび出力で発光素子2がパルス状のレーザ光を出射するように、発光素子2を制御する。
【0025】
(レーザ光について)
図3は、VCSELなどの面発光型半導体レーザ素子から出射されるレーザ光を示す断面図である。上記レーザ光Lは、駆動電流IFを増加すると、
図3の上段に示すシングルモードから、
図3の下段に示すマルチモードに遷移する。シングルモードの場合、レーザ光Lは、基本波のレーザ光L1(以下、「シングルモード光L1」と称する。)を含む。従って、シングルモードのレーザ光Lの波長分布は、ピークが1つである。一方、マルチモードの場合、レーザ光Lは、シングルモード光L1と高調波のレーザ光L2(以下、「マルチモード光L2」と称する。)とを含む。従って、マルチモードのレーザ光Lの波長分布は、ピークが複数である。
【0026】
また、
図3の下段に示すように、マルチモードの場合、レーザ光Lの中心部がシングルモード光L1であり、レーザ光Lの外周部がマルチモード光L2である。
【0027】
(対象物にて鏡面反射する場合)
図4は、測距センサ装置1から出射した光が、対象物である鏡面体Mにて鏡面反射され、測距センサ装置1に入射する様子を示す概要図である。なお、
図4は、光学シミュレーションによる結果であり、第1受光素子3に入射する光を実線で示している。
【0028】
図4から理解されるように、発光素子2から出射されるレーザ光Lのうち、シングルモード光L1は、鏡面体Mにて鏡面反射して、第1受光素子3に入射する。一方、マルチモード光L2は、レーザ光Lの外周部に位置するため、鏡面体Mにて鏡面反射すると、第1受光素子3に入射しない。従って、測定部5で生成されるヒストグラムには、シングルモード光L1のみが含まれる。その結果、測距センサ装置1から鏡面体Mまでの距離を精度よく測定することができる。
【0029】
(対象物にて拡散反射する場合)
図5は、測距センサ装置1から出射した光が、対象物である非鏡面体NMにて拡散反射され、上記測距センサ装置に入射する様子を示す概要図である。なお、
図5は、光学シミュレーションによる結果であり、第1受光素子3に入射する光の線のみを示している。
【0030】
図5から理解されるように、対象物が非鏡面体NMである場合、発光素子2から出射されるレーザ光Lのうち、シングルモード光L1およびマルチモード光L2の両方が第1受光素子3に入射する。従って、測定部5で生成されるヒストグラムには、シングルモード光L1だけでなく、マルチモード光L2もが含まれることになる。これにより、対象物が非鏡面体NMである場合、対象物が鏡面体Mである場合に比べて、上記ヒストグラムのバラツキは大きくなり、その結果、測距センサ装置1から非鏡面体Mまでの距離の誤差は大きくなる。
【0031】
従来のToFセンサによる距離測定において、発光素子から対象物を経て受光素子に到達するまでの光路長のバラツキによって、対象物との距離の測定値に誤差が生じる課題があった。対象物が非鏡面体である場合、すなわち、対象物が凹凸面を有する場合、対象物に対して直接の反射によるシングルパスの反射光と、複数の反射によるマルチパスの反射光と、が受光素子に到達する。一方、対象物が鏡面体である場合、発光素子から対象物に対して直接の反射によるシングルパスのみが受光素子に到達する。従って、マルチパスの有無によって、距離の測定値に差が生じる。
【0032】
しかしながら、本願発明者らは、実際に測定を行うと、上記マルチパスの反射光が原因と考えられる上記測定値の差以上の差が発生していることに気付いた。本願発明者らは、この原因を調査し、以下のように特定した。
【0033】
図6は、測距センサ装置1の第1受光素子3に入射するレーザ光Lの波長および相対的光度の時間変化を示すグラフである。
図6の例では、レーザ光Lの駆動電流IFは15mAである。
図6のグラフでは、波長が939.1nm以上であるシングルモード光L1が約0.75ns出射されている。また、シングルモード光L1の出射が開始されてから約0.5ns遅延して、波長が939.1nmよりも短いマルチモード光L2の出射が開始されている。
【0034】
この遅延により、マルチモード光L2を含むレーザ光Lは、マルチモード光L2を含まないレーザ光Lに比べて、上記出射時点から上記入射時点までの期間のバラツキが大きくなる。従って、マルチモード光L2を含むレーザ光Lは、マルチモード光L2を含まないレーザ光Lに比べて、上記ヒストグラムのバラツキが大きくなり、その結果、測距センサ装置1から対象物OBJまでの距離の測定値の誤差は大きくなる。
【0035】
上記光路長による距離の測定値の誤差は、数mm程度である一方、マルチモード光L2が含まれることによる距離の測定値の誤差は、例えば、10cm程度である。具体例を示すと、シングルモード光L1に対するマルチモード光L2の遅延が1nsである場合、上記距離の測定値の誤差は約15cmである。また、シングルモード光L1に対するマルチモード光L2の遅延が0.75nsである場合、上記距離の測定値の誤差は約11.25cmである。
【0036】
図7は、発光素子2に関して、駆動電流IFとレーザ光Lの出力との関係を示すグラフである。
図7に示すように、駆動電流IFが0から増加するにつれて、上記出力が上昇している。このとき、レーザ光Lはシングルモード光L1のみを含む。駆動電流IFが或る閾値THに到達すると、上記出力が一定となる。このとき、レーザ光Lには、マルチモード光L2が出現し始める。駆動電流IFが閾値THを過ぎると、出力が一旦低下し、再び上昇している。このとき、レーザ光Lにおけるマルチモード光L2の割合が増加する。従って、閾値THは、レーザ光Lにおけるマルチモード光L2の割合が少ない電流値であると言える。
【0037】
そこで、本実施形態の測距センサ装置1では、駆動制御部22は、発光素子2の駆動電流を閾値TH以下に制限する。この場合、レーザ光Lにおけるマルチモード光L2の割合は、少ないか、或いはゼロである。これにより、上記出射時点から上記入射時点までの期間のバラツキを低減することができる。従って、上記ヒストグラムのバラツキを低減することができ、その結果、距離演算部21が算出した距離の測定値の誤差を低減することができる。
【0038】
(実施形態1の変形例1)
図8は、レーザ光Lのサイドモード抑圧比(SMSR:Side Mode Suppression Ratio)と、距離演算部21が算出した測定値の誤差(真値からのずれ)との関係を示すグラフである。SMSRは、レーザ光Lにおいて、スペクトル強度が最大であるピーク(主モード)と、2番目に大きいピーク(サイドモード)との強度比を示す。上記主モードがシングルモード光L1に対応し、上記サイドモードがマルチモード光L2に対応する。
【0039】
図8に示すように、駆動電流IFが低下するにつれて、SMSRが増加し、かつ、上記測定値の誤差が小さくなる。従って、駆動制御部22は、SMSRが17dBm以上となるように、すなわち駆動電流IFを8mA以下に制限してもよい。また、駆動電流IFの閾値THは、駆動電流IFを増加し続ける場合に、SMSRの減少率が小さくなり始めた時点における駆動電流IFの値としてもよい。このように、レーザ光Lにおけるマルチモード光L2の割合が少なくなるような駆動電流IFは、種々の方法で決定することができる。なお、レーザ光Lにおけるマルチモード光L2の割合が少ないということは、SMSRより決定することができる。例えば、SMSR=15dBm以上であれば、上記割合が少ないと判断してもよい。
【0040】
なお、
図8のグラフは、測距センサ装置1と対象物との距離が3cmである場合のデータを用いている。また、
図8のグラフは、使用するレーザの特性によって変化する。従って、SMSRの下限値と、駆動電流IFの上限値とは、測定する距離ごと調整してもよいし、発光素子2ごとに調整してもよい。
【0041】
(実施形態1の変形例2)
本実施形態の別の変形例について、
図9~
図11を参照して説明する。
【0042】
図9は、本変形例に係る測距センサ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図9に示す測距センサ装置1は、
図1~
図7に示す測距センサ装置1に比べて、距離演算部21に代えて距離演算部21aが設けられている点と、駆動制御部22に代えて駆動制御部22aが設けられている点とが異なり、その他の構成は同様である。
【0043】
図10は、対象物との距離と該距離の測定値の誤差(真値とのずれ)との関係を示すグラフである。
図10のグラフでは、縦軸は、上記測定値の誤差を、真値に対する割合(%)で示している。また、
図10のグラフでは、実線は、駆動電流IFが15mAである場合を示し、破線は、駆動電流IFが31mAである場合を示している。
【0044】
図10に示すように、対象物との距離が35mm以下である場合、駆動電流IFが15mAである場合の方が、駆動電流IFが35mAである場合よりも上記距離の測定値の誤差が少ない。一方、対象物との距離が35mmよりも長い場合、駆動電流IFが15mAである場合と、駆動電流IFが35mAである場合とで、上記距離の測定値の誤差が変わらない。
【0045】
これは、以下の理由が考えられる。すなわち、マルチモード光L2の存在による測定値の誤差は、対象物との距離に依存しない。また、対象物との距離が長くなると、測定値が大きくなり、従って、マルチモード光L2を含むレーザ光Lで測定しても、測定値に対する上記誤差の割合が小さくなる。
【0046】
また、
図10に示すように、駆動電流IFが15mAである場合、測定可能な上記距離の上限が70mmである。一方、駆動電流IFが35mAである場合、駆動電流IFが15mAである場合に比べて、発光素子2からのレーザ光の出力が約2倍となり、測定可能な上記距離の上限が100mmまで伸びる。
【0047】
そこで、本変形例では、距離演算部21aは、測距センサ装置1から対象物までの距離の検出値を駆動制御部22aに送出する。なお、上記距離の検出値は、上記距離を示す任意の値でよく、例えば、上記時間差のヒストグラムの重心位置であってもよいし、上記距離の測定値であってもよいし、該測定値に補正される前の値であってもよい。
【0048】
駆動制御部22aは、距離演算部21aからの上記検出値が設定値より小さい場合、レーザ光Lにおけるマルチモード光L2の割合が少ない電流値に駆動電流IFを制限する。一方、駆動制御部22aは、上記検出値が設定値より大きい場合、駆動電流IFの制限を行わない。さらに、駆動制御部22aは、駆動電流IFの変更を行わない場合、駆動電流IFが適正であるとして、その旨を距離演算部21aに通知する。距離演算部21aは、駆動制御部22aからの通知を受け取ると、上記距離の測定値を外部に出力する。
【0049】
これにより、測定可能な距離を長くすることができる。また、測定値が大きくなるにつれて、マルチモード光L2の存在による測定値の誤差の、該測定値に対する割合が低減される。その結果、測定精度を維持しつつ、測定可能な距離を増加することができる。なお、上記距離の検出値は、駆動制御部22aが駆動電流IFを制限するか否かを判断するために利用できるような精度であればよい。従って、上記距離の検出値は、上記距離の測定値の大まかな値であってもよいし、上記時間差のヒストグラムの大まかな重心位置であってもよい。
【0050】
図11は、上記構成の測距センサ装置1における対象物との距離の測定処理の流れを示すフローチャートである。なお、駆動制御部22aは、初期設定では、駆動電流IFの制限を行わない。これにより、発光素子2は、マルチモード光L2を含むレーザ光Lを出射する。
図11に示すように、まず、距離演算部21aは、対象物との距離の検出値を算出する(S11)。次に、駆動制御部22aは、上記検出値が(設定値-α)よりも大きいか否かを判断する(S12)。ここで、αは適当な定数である。上記検出値が(設定値-α)よりも大きい場合(S12にてYES)、ステップS17に進む。
【0051】
一方、上記検出値が(設定値-α)以下である場合(S12にてNO)、駆動制御部22aは、対象物との距離が近いと判断して、駆動電流IFを制限する(S13)。これにより、発光素子2は、マルチモード光L2の割合が少ないレーザ光Lを出射する。次に、距離演算部21aは、対象物との距離の検出値を算出する(S14)。
【0052】
次に、駆動制御部22aは、上記検出値が(設定値+α)よりも小さいか否かを判断する(S15)。上記検出値が(設定値+α)よりも小さい場合(S15にてYES)、ステップS17に進む。一方、上記検出値が(設定値+α)以上である場合(S15にてNO)、駆動制御部22aは、対象物との距離が遠いと判断して、駆動電流IFの制限を解除する(S16)。その後、ステップS11に戻って、上記処理を繰り返す。
【0053】
ステップS17では、距離演算部21aは、駆動制御部22aによる駆動電流IFの制御は適正であると判断して、上記距離の測定値を測距センサ装置1の外部に出力する。これにより、対象物との距離の測定値が外部に出力される。なお、上記αは、検出値が設定値付近である場合に、駆動制御部22aが、駆動電流IFの制限の実行および解除を頻繁に繰り返すことを防止するために設けられている。
図10の例では、上記設定値は35mmとなり、上記αは5mmとなる。
【0054】
〔実施形態2〕
本開示の別の実施形態について、
図12~
図14を参照して説明する。
【0055】
図12は、本実施形態に係る測距センサ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図12に示す測距センサ装置1は、
図1~
図7に示す測距センサ装置1に比べて、制御部6の距離演算部21に代えて、距離演算部21bが設けられている点が異なり、その他の構成は同様である。
【0056】
図13は、ヒストグラムカウンタ12にて作成されるヒストグラムの一例を示すグラフである。
図13の例では、マルチモード光L2を含むレーザ光Lを発光素子2が出射した場合を示している。
【0057】
図13に示すように、シングルモード光L1に関するヒストグラムTD1における後半部分に、マルチモード光L2に関するヒストグラムTD2の前半部分が重なっている。このため、
図13に示すヒストグラムの重心位置は、ヒストグラムTD1の重心位置から、後方にずれることになる。なお、一定の信号量を常時含むヒストグラムTDnは、ノイズ信号のヒストグラムである。
【0058】
そこで、本実施形態では、距離演算部21bは、基準値よりも高い信号量(度数)を有するヒストグラムを用いて、対象物までの距離の測定値を演算する。上記基準値は、例えば、マルチモード光L2のヒストグラムTD2のピーク値よりも大きい値である。上記基準値は、例えば、低反射率の対象物を利用して決定されてもよい。また、上記基準値は、例えば、シングルモード光L1のヒストグラムTD1のピーク値の1/2であってもよい。また、上記低反射率は、例えば5%であってよい。
【0059】
図14は、本実施形態における距離演算部21bが上記距離を演算するために利用するヒストグラムを示すグラフである。
図14に示すヒストグラムTD3は、マルチモード光L2に関するヒストグラムTD2が除外されていることが理解できる。従って、ヒストグラムのバラツキの広がりを低減できる。その結果、距離の測定値の誤差を低減することができる。
【0060】
図15は、上記構成の測距センサ装置1における距離演算部21bの処理の流れを示すフローチャートである。
図15に示すように、距離演算部21bは、まず、ヒストグラムカウンタ12が作成したヒストグラム(
図13参照)を取得する(S21)。次に、距離演算部21bは、上記ヒストグラムのうち、基準値よりも高い信号量(度数)を有するヒストグラムを用いて、対象物までの距離の測定値を演算する(S22)。そして、距離演算部21bは、上記距離の測定値を外部に出力する(S23)。その後、距離演算部21bにおける処理を終了する。
【0061】
(実施形態2の変形例)
本変形例では、距離演算部21bは、ヒストグラムカウンタ12が作成したヒストグラムのうち、信号領域を制限することで、マルチモード光L2のヒストグラムTD2を削除することができる。上記信号領域を制限する具体例としては、ヒストグラムカウンタ12で生成されたヒストグラムが7BINであった場合、該7BINを5BINに減らすこと等が挙げられる。
【0062】
図16は、本変形例における距離演算部21bが上記距離を演算するために利用するヒストグラムを示すグラフである。
図16に示すヒストグラムTD4は、マルチモード光L2に関するヒストグラムTD2の大部分が除外されていることが理解できる。従って、ヒストグラムのバラツキの広がりを低減できる。その結果、距離の測定値の誤差を低減することができる。
【0063】
図17は、上記変形例における距離演算部21bの処理の流れを示すフローチャートである。
図17に示すように、距離演算部21bは、まず、ヒストグラムカウンタ12が作成したヒストグラム(
図13参照)を取得する(S21)。次に、距離演算部21bは、上記ヒストグラムのうち、信号量が最大であるヒストグラムを中心とする幾つかのヒストグラムを用いて、対象物までの距離の測定値を演算する(S24)。そして、距離演算部21bは、上記距離の測定値を外部に出力する(S23)。その後、距離演算部21bにおける処理を終了する。
【0064】
〔実施形態3〕
本開示の別の実施形態について、
図18~
図20を参照して説明する。
【0065】
図18は、本実施形態に係る測距センサ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図18に示す測距センサ装置1は、
図1~
図7に示す測距センサ装置1に比べて、距離演算部21に代えて距離演算部21cが設けられている点と、駆動制御部22に代えて駆動制御部22cが設けられている点とが異なり、その他の構成は同様である。
【0066】
図19は、ヒストグラムカウンタ12が作成したヒストグラムの別の例を示すグラフである。
図19の例では、対象物が鏡面体Mであり、かつ、測距センサ装置1と鏡面体Mとが対向している場合を示している。
図19の例では、シングルモード光L1に関するヒストグラムTD1は、対象物が非鏡面体NMである場合に比べて、著しく大きい。
【0067】
図20は、ヒストグラムカウンタ12が作成したヒストグラムのさらに別の例を示すヒストグラムである。
図20の例では、対象物が鏡面体Mであり、かつ、測距センサ装置1と鏡面体Mとが対向していない場合、すなわち、測距センサ装置1における鏡面体Mの側の表面と鏡面体Mにおける測距センサ装置1の側の表面とが非平行である場合を示している。
図20の例では、シングルモード光L1に関するヒストグラムTD1は、
図19の例に比べて著しく小さい。
【0068】
そこで、本実施形態では、距離演算部21cは、ヒストグラムカウンタ12から取得したヒストグラムの信号量のピーク値(最大値)が設定範囲内に含まれるか否かに基づいて、対象物が鏡面体Mであるのか、若しくは非鏡面体NMであるのかを判定する。上記ヒストグラムの信号量のピーク値が設定範囲内である場合、対象物が非鏡面体NMであると判定する一方、上記ピーク値が設定範囲外である場合、対象物が鏡面体Mであると判定する。上記設定範囲の上限は、例えば、
図19に示すヒストグラムの信号量のピーク値(5000)である。上記設定範囲の下限は、例えば、
図20に示すヒストグラムの信号量のピーク値(100)である。
【0069】
図21は、上記構成の測距センサ装置1における対象物との距離の測定処理の流れを示すフローチャートである。なお、本実施形態では、測定部5および距離演算部21cは、対象物が非鏡面体NMであることを想定して、上記距離を測定している。このため、対象物が鏡面体Mであることが想定される場合、測定部5および距離演算部21cの少なくとも一方は、上記距離の測定値を求めるための補正が必要である。なお、測定部5および距離演算部21cは、対象物が鏡面体Mであることを想定して、上記距離を測定してもよい。その場合、後の処理で、対象物が非鏡面体NMであると判断したのであれば、測定部5および距離演算部21cの少なくとも一方は、上記距離の測定値を求めるための補正が必要である。
【0070】
図21に示すように、まず、駆動制御部22cは、駆動電流IFの制限を解除する(S31)。これにより、発光素子2は、マルチモード光L2を含むレーザ光Lを出射する。次に、距離演算部21cは、ヒストグラムカウンタ12から信号領域のヒストグラムの信号量を取得する(S32)。次に、距離演算部21cは、対象物との距離の検出値を算出する(S33)。なお、上記検出値は、実施形態1の変形例2における検出値と同様である。
【0071】
次に、距離演算部21cは、上記距離の検出値が(設定値-α)よりも大きいか否かを判断する(S34)。ここで、αは、上述したような適当な定数である。上記距離の検出値が(設定値-α)よりも大きい場合(S34にてYES)、距離演算部21cは、上記ヒストグラムの信号量のピーク値が設定範囲内であるか否かを判定する(S35)。
【0072】
上記信号量のピーク値が設定範囲内である場合(S35にてYES)、距離演算部21cは、対象物との距離の測定値を算出する(S36)。このとき、距離演算部21cは、対象物が非鏡面体NMであることを想定することが好ましい。この場合、上記距離の測定値を求めるための補正を行わなくてよい。従って、例えば、距離演算部21cは、ステップS32にて取得したヒストグラムの信号量を用いて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21cは、ステップS33にて算出した検出値を上記測定値としてもよい。その後、ステップS45に進む。
【0073】
一方、上記信号量のピーク値が設定範囲外である場合(S35にてNO)、測定部5および距離演算部21cは、対象物との距離の測定値を算出する(S37)。このとき、距離演算部21cは、対象物が鏡面体Mであることを想定することが好ましく、上記距離の測定値を求めるための補正を行うことが好ましい。従って、例えば、測定部5および距離演算部21cは、上記測定値の算出に必要な各種パラメータを適宜変更し、その後、第1受光素子3および第2受光素子4からの信号に基づいて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21cは、ステップS33にて算出した検出値を補正し、補正した値を測定値としてもよい。その後、ステップS45に進む。
【0074】
ステップS34において、上記距離の検出値が(設定値-α)以下である場合(S34にてNO)、駆動制御部22cは、対象物との距離が近いと判断して、駆動電流IFを制限する(S38)。これにより、発光素子2は、マルチモード光L2の割合が少ないレーザ光Lを出射する。次に、距離演算部21cは、ヒストグラムカウンタ12から信号領域のヒストグラムの信号量を取得する。(S39)。次に、距離演算部21cは、対象物との距離の検出値を算出する(S40)。
【0075】
次に、距離演算部21cは、上記距離の検出値が(設定値+α)よりも小さいか否かを判断する(S41)。上記距離の検出値が(設定値+α)以上である場合(S41にてNO)、ステップS31に戻る。
【0076】
一方、上記距離の検出値が(設定値+α)よりも小さい場合(S41にてYES)、距離演算部21cは、上記ヒストグラムの信号量のピーク値が設定範囲内であるか否かを判定する(S42)。上記信号量のピーク値が設定範囲内である場合(S42にてYES)、距離演算部21cは、対象物との距離の測定値を算出する(S43)。このとき、距離演算部21cは、対象物が非鏡面体NMであることを想定することが好ましい。この場合、上記距離の測定値を求めるための補正を行わなくてよい。従って、例えば、距離演算部21cは、ステップS39にて取得したヒストグラムの信号量を用いて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21cは、ステップS40にて算出した検出値を上記測定値としてもよい。その後、ステップS45に進む。
【0077】
一方、上記信号量のピーク値が設定範囲外である場合(S42にてNO)、距離演算部21cは、対象物との距離の測定値を算出する(S44)。このとき、距離演算部21cは、対象物が鏡面体Mであることを想定することが好ましく、上記距離の測定値を求めるための補正を行うことが好ましい。従って、例えば、測定部5および距離演算部21cは、上記測定値の算出に必要な各種パラメータを適宜変更し、その後、第1受光素子3および第2受光素子4からの信号に基づいて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21cは、ステップS40にて算出した検出値を補正し、補正した値を測定値としてもよい。その後、ステップS45に進む。
【0078】
ステップS45において、距離演算部21cは、上記距離の測定値を測距センサ装置1の外部に出力する。その後、上記処理を終了する。
【0079】
(特記事項)
なお、受光信号の量は、上記光路長の2乗に反比例する。従って、上記設定範囲は、測定した距離に応じて変更してもよい。また、本実施形態では、ヒストグラムの信号量のピーク値が設定範囲内であるか否かを判断しているが、ヒストグラムの信号量の合計値が設定範囲内であるか否かを判断してもよい。
【0080】
〔実施形態4〕
本開示の別の実施形態について、
図22~
図25を参照して説明する。
【0081】
図22は、本実施形態に係る測距センサ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図22に示す測距センサ装置1は、
図1~
図7に示す測距センサ装置1に比べて、複数の第1受光素子3が設けられている点と、距離演算部21に代えて距離演算部21dが設けられている点と、駆動制御部22に代えて駆動制御部22dが設けられている点とが異なり、その他の構成は同様である。本実施形態では、第1受光素子3aおよび第1受光素子3bが隣接して設けられている。なお、第1受光素子3aおよび第1受光素子3bは、測距センサ装置1に備えられる発光素子2から出射されるレーザ光源を受光できる位置にあれば良く、必ずしも両者が隣接する必要は無い。第1受光素子3aは、発光素子2に近い側に設けられ、第1受光素子3bは、発光素子2から遠い側に設けられている。
【0082】
図2および
図3を参照すると、鏡面体Mから第1受光素子3に入射する反射光の方向と、非鏡面体NMから第1受光素子3に入射する主要な反射光の方向とが異なることが理解できる。
【0083】
図23は、鏡面体Mからの反射光が第1受光素子3aおよび第1受光素子3bに入射する一例を示す概要図である。
図24は、非鏡面体NMからの反射光が2つの第1受光素子3に入射する一例を示す概要図である。
図23に示すように、対象物が鏡面体Mである場合、第1受光素子3aよりも第1受光素子3bの方が、鏡面体Mからの反射光が多く入射する。一方、
図24に示すように、対象物が非鏡面体NMである場合、第1受光素子3bよりも第1受光素子3aの方が、鏡面体Mからの反射光が多く入射する。
【0084】
そこで、本実施形態では、距離演算部21dは、第1受光素子3aからの受光信号の量と第1受光素子3bからの受光信号の量とを比較する。具体的には、距離演算部21dは、第1受光素子3aに関するヒストグラムの量Aと、第1受光素子3bに関するヒストグラムの量Bとを比較する。第1受光素子3aに関するヒストグラムの量Aが第1受光素子3bに関するヒストグラムの量Bよりも多い場合、距離演算部21dは、対象物が非鏡面体NMであると判定する。また、第1受光素子3bに関するヒストグラムの量Bが第1受光素子3aに関するヒストグラムの量Aよりも多い場合、距離演算部21dは、対象物が鏡面体Mと判定する。
【0085】
図25は、上記構成の測距センサ装置1における対象物との距離の測定処理の流れを示すフローチャートである。なお、本実施形態では、測定部5および距離演算部21dは、対象物が非鏡面体NMであることを想定して、上記距離を測定している。このため、対象物が鏡面体Mであることが想定される場合、測定部5および距離演算部21dの少なくとも一方は、上記距離の測定値を求めるための補正が必要である。なお、測定部5および距離演算部21dは、対象物が鏡面体Mであることを想定して、上記距離を測定してもよい。その場合、後の処理で、対象物が非鏡面体NMであると判断したのであれば、測定部5および距離演算部21dの少なくとも一方は、上記距離の測定値を求めるための補正が必要である。
【0086】
図25に示すように、まず、駆動制御部22dは、駆動電流IFの制限を解除する(S51)。これにより、発光素子2は、マルチモード光L2を含むレーザ光Lを出射する。次に、距離演算部21dは、発光素子2に近い第1受光素子3aのヒストグラムの信号量Aと、発光素子2から遠い第1受光素子3bのヒストグラムの信号量Bとを、ヒストグラムカウンタ12から取得する(S52)。次に、距離演算部21dは、対象物との距離の検出値を算出する(S53)。なお、上記検出値は、実施形態1の変形例2における検出値と同様である。
【0087】
次に、距離演算部21dは、上記距離の検出値が(設定値-α)よりも大きいか否かを判断する(S54)。ここで、αは、上述したような適当な定数である。上記距離の検出値が(設定値-α)よりも大きい場合(S54にてYES)、距離演算部21dは、上記信号量Aが上記信号量Bよりも多いか否かを判定する(S55)。
【0088】
上記信号量Aが上記信号量Bよりも多い場合(S55にてYES)、距離演算部21dは、対象物との距離の測定値を算出する(S56)。このとき、距離演算部21dは、対象物が非鏡面体NMであることを想定することが好ましい。この場合、上記距離の測定値を求めるための補正を行わなくてよい。従って、例えば、距離演算部21dは、ステップS52にて取得したヒストグラムの信号量を用いて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21dは、ステップS53にて算出した検出値を上記測定値としてもよい。その後、ステップS65に進む。
【0089】
一方、上記信号量Bが上記信号量A以上である場合(S55にてNO)、距離演算部21dは、対象物との距離の測定値を算出する(S57)。このとき、距離演算部21dは、対象物が鏡面体Mであることを想定することが好ましく、上記距離の測定値を求めるための補正を行うことが好ましい。従って、例えば、測定部5および距離演算部21dは、上記測定値の算出に必要な各種パラメータを適宜変更し、その後、第1受光素子3および第2受光素子4からの信号に基づいて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21dは、ステップS53にて算出した検出値を補正し、補正した値を測定値としてもよい。その後、ステップS65に進む。
【0090】
ステップS54において、上記距離の検出値が(設定値-α)以下である場合(S54にてNO)、駆動制御部22dは、対象物との距離が近いと判断して、駆動電流IFを制限する(S58)。これにより、発光素子2は、マルチモード光L2の割合が少ないレーザ光Lを出射する。次に、距離演算部21dは、上記信号量Aと上記信号量Bとをヒストグラムカウンタ12から取得する(S59)。次に、距離演算部21dは、対象物との距離の検出値を算出する(S60)。
【0091】
次に、距離演算部21dは、上記距離の検出値が(設定値+α)よりも小さいか否かを判断する(S61)。上記距離の検出値が(設定値+α)以上である場合(S61にてNO)、ステップS51に戻る。
【0092】
一方、上記距離の検出値が(設定値+α)よりも小さい場合(S61にてYES)、距離演算部21dは、上記信号量Aが上記信号量Bよりも多いか否かを判定する。(S62)。第1受光素子3aの信号量Aが、第1受光素子3bの信号量Bよりも多い場合(S62にてYES)、距離演算部21dは、対象物との距離の測定値を算出する(S63)。このとき、距離演算部21dは、対象物が非鏡面体NMであることを想定することが好ましい。この場合、上記距離の測定値を求めるための補正を行わなくてよい。従って、例えば、距離演算部21dは、ステップS59にて取得したヒストグラムの信号量を用いて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21dは、ステップS60にて算出した検出値を上記測定値としてもよい。その後、ステップS65に進む。
【0093】
一方、上記信号量Bが上記信号量A以上である場合(S62にてNO)、距離演算部21dは、対象物との距離の測定値を算出する(S64)。このとき、距離演算部21dは、対象物が鏡面体Mであることを想定することが好ましく、上記距離の測定値を求めるための補正を行うことが好ましい。従って、例えば、測定部5および距離演算部21dは、上記測定値の算出に必要な各種パラメータを適宜変更し、その後、第1受光素子3および第2受光素子4からの信号に基づいて、上記距離の測定値を算出してもよい。或いは、上記検出値が、上記測定値に補正される前の値である場合、距離演算部21dは、ステップS60にて算出した検出値を補正し、補正した値を測定値としてもよい。その後、ステップS65に進む。
【0094】
ステップS65において、距離演算部21dは、上記距離の測定値を測距センサ装置1の外部に出力する。その後、上記処理を終了する。
【0095】
(特記事項)
なお、上記実施形態では、第1受光素子3が2個であるが、3個以上であってもよい。
【0096】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る測距センサ装置1は、対象物にレーザ光を出射する発光素子2と、前記対象物からの反射光が入射する受光素子(第1受光素子3)と、前記発光素子2の出射時点から前記受光素子の入射時点までの期間に基づき、前記対象物までの距離を測定する測定部5と、前記発光素子2の駆動を制御する駆動制御部であって、前記発光素子の駆動電流を制限する駆動制御部22とを備える。
【0097】
上記の構成によれば、駆動制御部は、レーザ光のうち、マルチモードのレーザ光の割合が少ない電流値以下に駆動電流を制限できる。この場合、前記マルチモードのレーザ光の割合は、少ないか、或いはゼロである。これにより、上記出射時点から上記入射時点までの期間のバラツキを低減することができる。その結果、前記距離の測定値の誤差を低減することができる。
【0098】
本開示の態様2に係る測距センサ装置1は、上記態様1において、前記駆動制御部22は、前記測定部5が測定した距離が設定値よりも小さい場合、前記駆動電流を制限してもよい。
【0099】
上記の構成によれば、前記測定した距離が設定値よりも大きい場合、前記駆動電流の制限が行われないことにより、測定可能な距離を長くすることができる。また、マルチモードのレーザ光を受光した場合における前記測定した距離の誤差は、前記測定した距離にさほど依存しない。従って、前記測定した距離が長くなるにつれて、前記距離に対する前記誤差の割合が低減される。その結果、測定精度を維持しつつ、測定可能な距離を増加することができる。
【0100】
本開示の態様3に係る測距センサ装置1は、上記態様1または2において、前記駆動制御部22は、前記測定部5は、前記受光素子からの受光信号の時間分布のうち、基準値よりも低い受光信号の時間分布を除外した時間分布を用いて、前記入射時点を決定してもよい。この場合、前記マルチモードのレーザ光による受光信号の時間分布が除外される。従って、受光信号の時間分布のバラツキの広がりを低減できる。その結果、距離の測定値の誤差を低減することができる。
【0101】
本開示の態様4に係る測距センサ装置1は、上記態様1または2において、前記測定部は、前記受光素子からの受光信号の時間分布のうち、前記受光信号の領域を制限した時間分布用いて、前記入射時点を決定してもよい。この場合、前記マルチモードのレーザ光による受光信号の時間分布が除外される。従って、受光信号の時間分布のバラツキの広がりを低減できる。その結果、距離の測定値の誤差を低減することができる。
【0102】
本開示の態様5に係る測距センサ装置1は、上記態様1から4において、前記測定部5は、前記受光素子からの受光信号の量が設定範囲内である場合、前記対象物が非鏡面体であるとして、前記距離を測定してもよい。
【0103】
本開示の態様6に係る測距センサ装置1は、上記態様1から5において、前記受光素子は複数個であり、前記測定部5は、複数の前記受光素子からの複数の受光信号の量の比較結果に基づいて、前記対象物が鏡面体および非鏡面体の何れであるかを判断し、該判断に基づいて前記距離を測定してもよい。この場合、前記駆動電流の低減頻度を低減することができる。
【0104】
本開示の態様7に係る測距センサ装置1は、上記態様1から6において、前記発光素子2は、垂直共振器型面発光レーザであってもよい。
【0105】
本開示の態様8に係る電子機器は、上記態様1から7における測距センサ装置1を備える。この場合、上記態様1~7と同様の効果を奏する。
【0106】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 測距センサ装置
2 発光素子
3、3a、3b 第1受光素子(受光素子)
4 第2受光素子
5 測定部
6 制御部
11 TDC
12 ヒストグラムカウンタ
21、21a、21b、21c、21d 距離演算部(測定部)
22、22a、22b、22c、22d 駆動制御部
L1 シングルモード光
L2 マルチモード光