(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129701
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】補修材の負圧注入工法および装置
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
E04G23/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039064
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】502206186
【氏名又は名称】有限会社 ダイヤモンド技建
(74)【代理人】
【識別番号】100133271
【弁理士】
【氏名又は名称】東 和博
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 晋也
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 茂
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176AA02
2E176AA05
2E176BB12
2E176BB14
2E176BB19
2E176BB20
(57)【要約】
【課題】従来の補修材の加圧注入工法やピンニング工法における課題を解消し得る、補修材の負圧注入工法および装置を提供する。
【解決手段】建物や部材に生じたクラック4の表面に沿ってクラック4の表面全体を塞ぐように密着シール材7を密着させ、クラック4の1つの箇所を注入孔5として補修材14入りのシリンダ13をセットし、クラック4の別の箇所を吸引孔6として真空ポンプ18に接続された吸引パイプ12をセットし、シリンダ13内の補修材14を注入孔5に低圧で注入しながら真空ポンプ18を作動させて吸引孔6から空気を吸引し、これによりクラック4内部を負圧にして注入した補修材14をクラック4内部に行き渡らせ、補修する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物や部材に生じたひび割れの表面に沿って当該ひび割れの表面全体を塞ぐように密着シール材を密着させる工程と、前記ひび割れの1つの箇所を注入孔として補修材入りのシリンダをセットする工程と、前記ひび割れの別の箇所を吸引孔として真空ポンプに接続された吸引パイプをセットする工程と、前記シリンダ内の補修材を前記注入孔に低圧で注入しながら真空ポンプを作動させて前記吸引孔から空気を吸引し、これによりひび割れ内部を負圧にして、注入した補修材をひび割れ内部に行き渡らせる工程を含むことを特徴とする補修材の負圧注入工法。
【請求項2】
補修材の注入圧力が0.01~0.3MPaの低圧であることを特徴とする請求項1記載の補修材の負圧注入工法。
【請求項3】
真空ポンプによる吸引圧力が-0.01~-0.7MPaの負圧であることを特徴とする請求項1記載の補修材の負圧注入工法。
【請求項4】
建物や部材に一の面から反対の面にかけて内部を貫通するように生じた貫通ひび割れのそれぞれの表面に沿って当該貫通ひび割れの表面全体を塞ぐように密着シール材を密着させる工程と、前記貫通ひび割れの一の面における1つの箇所を注入孔として補修材入りのシリンダをセットする工程と、前記貫通ひび割れの反対の面における1つの箇所を吸引孔として真空ポンプに接続された吸引パイプをセットする工程と、前記シリンダ内の補修材を前記注入孔に低圧で注入しながら真空ポンプを作動させて前記吸引孔から空気を吸引し、これによりひび割れ内部を負圧にして、注入した補修材をひび割れ内部に行き渡らせる工程を含むことを特徴とする補修材の負圧注入工法。
【請求項5】
建物や部材に生じたひび割れの1箇所に座金を介して注入孔としてセットされる補修材入りのシリンダと、前記ひび割れの別の1箇所に座金を介して吸引孔としてセットされる吸引パイプと、当該吸引パイプに接続された真空ポンプと、前記ひび割れの注入孔となる箇所および吸引口となる箇所を除く残りのひび割れの表面を覆うように密着される1又は複数の密着シール材を有することを特徴とする補修材の負圧注入装置。
【請求項6】
建物や部材に生じた複数のひび割れのそれぞれの1箇所に座金を介して注入孔としてセットされる補修材入りの複数のシリンダと、前記複数のひび割れのそれぞれの別の1箇所に座金を介して吸引孔としてセットされる複数の吸引パイプと、当該複数の吸引パイプに接続された真空ポンプと、前記複数のひび割れの注入孔となる箇所および吸引口となる箇所を除く残りのひび割れの表面を覆うように密着される1又は複数の密着シール材を有することを特徴とする補修材の負圧注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁に生じるクラックなどのひび割れに補修材を注入してひび割れを補修するための補修材の負圧注入工法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の外壁の表面にクラックなどのひび割れが生じた場合、その補修工法としては、従来より、(1)クラックに沿って一定間隔に注入口となる座金とシリンダを取り付け、クラックの隙間はシーリング材で塞ぎ、シリンダ内に補修材(エポキシ樹脂)を注入し、時間をかけてシリンダ内の補修材を低圧でクラックに注入し、補修材が硬化したらシリンダと座金、シーリング材を撤去する加圧注入工法、(2)アンカーピンを併用し、補修材の注入後、アンカーピンを挿入するピンニング工法等が知られている(特許文献1~特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-215773号公報
【特許文献2】特開2002-339578号公報
【特許文献3】特開2007-2442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、(1)の加圧注入工法は、シリンダ内からクラック内に注入される補修材がクラック表面の隙間から漏れ出ることがないようにクラックの隙間を塞ぐシーリング材を十分な密着強度でクラック表面に貼り付ける必要があり、クラック内の補修材の硬化後、シーリング材を撤去しようとすると、表面の塗装面まで一緒に剥がれるという課題があった。塗装面が剥がれると、当該部分を後から補修する必要が生じ、また、その場合、塗装面の補修跡が周囲の塗装面との間で色違いとして残ってしまうという別の課題もあった。(2)のピンニング工法はアンカーピンを併用するためアンカーピン用の孔を外壁に穿孔するため仕上げ後の美観を損ねるという課題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたもので、従来の補修材の加圧注入工法やピンニング工法における課題を解消し得る、補修材の負圧注入工法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る補修材の負圧注入工法は、建物や部材に生じたひび割れの表面に沿って当該ひび割れの表面全体を塞ぐように密着シール材を密着させる工程と、前記ひび割れの1つの箇所を注入孔として補修材入りのシリンダをセットする工程と、前記ひび割れの別の箇所を吸引孔として真空ポンプに接続された吸引パイプをセットする工程と、前記シリンダ内の補修材を前記注入孔に低圧で注入しながら真空ポンプを作動させて前記吸引孔から空気を吸引し、これによりひび割れ内部を負圧にして、注入した補修材をひび割れ内部に行き渡らせる工程を含む、ことを第1の特徴とする。
【0007】
本発明は、注入孔にセットしたシリンダから補修材をひび割れ内部に低圧で注入すると同時に吸引孔から真空ポンプによりひび割れ内部を真空吸引することで補修材をひび割れ内部に確実に行き渡らせることができる。ひび割れ表面を塞ぐ密着シール材は、従来のようにひび割れ表面に強く貼り付けなくても、真空ポンプの作動によりひび割れ表面に確実に密着し、補修材をひび割れ内部に確実に行き渡らせる。
【0008】
一方、ひび割れ内部の補修材の硬化後、真空ポンプを停止すると、ひび割れ表面を塞ぐシール材は容易に撤去することができ、撤去の際にひび割れ表面の塗装面を一緒に剥がすことがない。
【0009】
本発明に係る補修材の負圧注入工法は、補修材の注入圧力が0.01~0.3MPaの低圧であることを第2の特徴とする。
【0010】
補修材を0.01~0.3MPaの低圧で注入することにより、ひび割れの拡大やタイルの剥離を防ぐことができる。0.01MPa未満であれば補修材をひび割れ内部に確実に注入することが難しく、0.3MPaを超えるとひび割れの拡大やタイルの剥離のおそれがある。
【0011】
本発明に係る補修材の負圧注入工法は、真空ポンプによる吸引圧力が-0.01~-0.7MPaであることを第3の特徴とする。
【0012】
ひび割れ内部の空気を-0.01~-0.7MPaの負圧で吸引することにより、ひび割れ内部に低圧注入した補修材を速やかにひび割れ内部の全面に行き渡らせることができる。-0.01MPaを下回ると吸引力が不足し、補修材を速やかにひび割れ内部の全面に行き渡らせることが難しく、負圧が-0.7MPaあれば低圧注入した補修材をひび割れ内部の全体に行き渡らせるには十分である。
【0013】
本発明に係る補修材の負圧注入工法は、建物や部材に一の面から反対の面にかけて内部を貫通するように生じた貫通ひび割れのそれぞれの表面に沿って当該貫通ひび割れの表面全体を塞ぐように密着シール材を密着させる工程と、前記貫通ひび割れの一の面における1つの箇所を注入孔として補修材入りのシリンダをセットする工程と、前記貫通ひび割れの反対の面における1つの箇所を吸引孔として真空ポンプに接続された吸引パイプをセットする工程と、前記シリンダ内の補修材を前記注入孔に低圧で注入しながら真空ポンプを作動させて前記吸引孔から空気を吸引し、これによりひび割れ内部を負圧にして、注入した補修材をひび割れ内部に行き渡らせる工程を含む、ことを第4の特徴とする。
【0014】
本発明に係る補修材の負圧注入装置は、建物や部材に生じたひび割れの表面に沿って当該ひび割れの表面全体を塞ぐように密着される1又は複数の密着シール材と、前記ひび割れの1箇所に座金を介して注入孔としてセットされる補修材入りのシリンダと、前記ひび割れの別の1箇所に座金を介して吸引孔としてセットされる吸引パイプと、当該吸引パイプに接続された真空ポンプとを有することを第1の特徴とする。
【0015】
本発明に係る補修材の負圧注入装置は、建物や部材に生じた複数のひび割れの表面に沿ってそれぞれのひび割れの表面全体を塞ぐように密着される複数の密着シール材と、前記複数のひび割れのそれぞれの1箇所に座金を介して注入孔としてセットされる補修材入りの複数のシリンダと、前記複数のひび割れのそれぞれの別の1箇所に座金を介して吸引孔としてセットされる複数の吸引パイプと、当該複数の吸引パイプに接続された真空ポンプを有することを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係る補修材の負圧注入工法によれば、建物や部材に生じたひび割れ内部への補修材の低圧注入と真空吸引により、ひび割れ内部に補修材を十分に行き渡らせて硬化させることができ、補修材の硬化後は、真空吸引の停止によりひび割れ表面から密着シール材を容易に撤去することができ、従来に見られたような塗装面の剥離を防ぐことができる。塗装面の剥離がないので再塗装の手間がなく、補修後の仕上げ品質が向上し、また、補修費用の低廉化を図ることができる。
【0017】
本発明に係る補修材の負圧注入工法によれば、建物や部材の全体あるいは広範囲に存在する複数のひび割れの補修工事を同時並行で進めることができ、ひび割れの補修工事を短期間で終わらせることができる。
【0018】
本発明に係る補修材の負圧注入装置によれば、装置の簡素化を図り、装置の設置費用、施工費用を安く上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】建物にひび割れが生じている状態を示す図で(A)は正面図、(B)は水平断面図、
【
図2】本発明の工法に使用される装置を取り付けた様子を示す正面図、
【
図3】本発明の工法に使用される密着シール材の構造を示す断面図、
【
図4】本発明の工法に使用される補修材用の注入器と吸引ホースを取り付けた状態を示す縦断面図、
【
図5】本発明の工法に使用される補修材用の注入器を示す図で(A)は取り付け図、(B)は補修材を低圧注入する様子を示す説明図、
【
図6】本発明の第2実施形態を示すもので、複数のひび割れの補修を同時に行う様子を示す説明図、
【
図7】本発明の第3実施形態を示すもので、コンクリート柱に生じた縦方向に延びる貫通ひび割れの補修を行う様子を示しており、(A)は正面図、(B)は背面図、
【
図8】
図7におけるひび割れの補修の様子を示す縦断面図、
【
図9】本発明の第4実施形態を示すもので、コンクリート製柱に生じた横方向に延びるひび割れの補修を行う様子を示す説明図、
【
図10】本発明の第5実施形態を示すもので、木製部材に生じたひび割れの補修を行う様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1ないし
図5は本発明の一実施形態を示すもので、図中、符号1は建物Kの躯体、符号2はモルタル、符号3は塗装面を示している。
【0021】
まず、建物の外壁について説明すると、
図1(A)の正面図に示すように、建物Tの外壁には、乾燥収縮や経年劣化等により、縦に延びる線状のクラック4が生じている。クラック4は、
図1(B)の水平断面図に示すように、建物Tのモルタル2および塗装面3から躯体1の内部に延びている。
図1(B)の断面は、
図1(A)のA-A矢視断面を示している。
【0022】
クラック4は、主に幅0.3mm超の構造クラックが中心であり、躯体1の内部に亀裂が進展する場合が多く、表面から反対側の背面までクラックが貫通する貫通クラックも含まれる。クラック4は、縦方向に延びて生じる場合に限らず、斜め方向、横方向に延びる場合も生じ得る。本工法は、主に構造クラックを対象とするが、幅0.3mm以下の細いクラック(ヘアクラック)にも適用可能である。
【0023】
図1のクラック4に対し、本発明の工法を用いて、補修材を注入するには、以下の手順で行う。
【0024】
まず、
図1を参照して、クラック4の幅および長さを確認し、クラック4の表面を清掃後、クラック4の2箇所に注入孔5(
図4参照)と吸引孔6(
図4参照)の位置を決める。
【0025】
次ぎに、注入孔5の位置と吸引孔6の位置を決めたら、クラック4の表面に沿って、
図2に示すようにクラック4を塞ぐようにして帯状の密着シール材7を貼り付ける。帯状の密着シール材7は、
図3に示すように、裏面(密着面)に粘着剤8が塗布されており、粘着剤8によってクラック4を跨いで建物の躯体1の塗装面3の上に密着する。クラック4が複数ある場合は、複数のクラック4に対し、密着シール材7を貼付ける。
【0026】
密着シール材7は、例えば養生テープが用いられる。
【0027】
次に、注入孔5と吸引孔6の位置に合わせて、
図4に示すように、座金9、10をクラック4の異なる箇所に取り付ける。座金9、10がそのまま取り付けできない場合、注入孔5と吸引孔6の位置をドリル等により穿孔し、穿孔後の注入孔5と吸引孔6に座金9、10を取り付ける。
図4に示す断面は、
図2におけるB-B線断面、すなわちクラック4の縦断面を示している。
【0028】
次に、
図4に示すように、注入孔5の座金9に対して補修材注入用の注入器11をセットし、吸引孔6の座金10に対しては吸引ホース12の一端を接続する。
【0029】
クラック4が複数ある場合は、それぞれのクラック4に座金9、10を取り付け、各座金9、10に注入器11および吸引ホース12をセットおよび接続する。
【0030】
図2は、1個の注入器11が取り付けられる例が示されているが、
図4は、複数個(3個)の注入器11が取り付けられる例が示されている。このように、1つのクラック4に対し、状況に応じて注入器11は1または複数取り付けられる。
【0031】
図5(A)に示すように、注入器11のシリンダ13内には補修材(エポキシ樹脂)14が予め充填されており、加圧ゴム15により作動する低圧ピストン16がストッパ17により後方待機位置に停止されている。これらシリンダ13、加圧ゴム15、低圧ピストン16、ストッパ17は注入器11を構成する。
【0032】
次に、注入孔5および吸引孔6に注入器11および吸引ホース12をセットしたら、全ての吸引ホース12の各他端を真空ポンプ18側に接続する。具体的には、真空ポンプ18には複数の吸引ホース12の他端を同時に接続できる合流部19が設けられ、この合流部19の各取付口20に各吸引ホース12の他端を接続する。なお、真空ポンプ18と合流部19との間には負圧計21が設けられている。
【0033】
以上の準備作業が完了したら、
図5(B)に示すように、全ての注入器11の各シリンダ13からストッパ17を外して加圧ゴム15の加圧により低圧ピストン16を前進させ、内部の補修材14の注入を開始する。
【0034】
補修材14の注入圧力は加圧ゴム15により低圧(約0.005MPa(約0.05kgf/cm2))に保持されており、注入孔5からクラック4内部に低圧、低速でゆっくりと確実に注入される。
【0035】
補修材14の注入と同時に、真空ポンプ18を作動させ、
図2および
図4に示すように、全ての吸引ホース12を通して各吸引孔6から各クラック4内部の空気を一斉に吸引し、各クラック4内部を負圧状態にする。この時の真空ポンプ18による吸引圧力は、補修材14の注入圧力に合わせて、約-0.03~-0.7MPaに保持される。
【0036】
各クラック4内部は負圧状態に保持されるので、注入孔5から注入された補修材14は、クラック4内部を通り一定時間をかけて各クラック4内部の全面に行き渡る。
【0037】
各クラック4の表面を覆う密着シール材7は、クラック4内部が負圧状態に保持されており、クラック4表面へ吸着され、真空ポンプ18の作動中、常時十分な密着強度が得られている。
【0038】
各クラック4内部の全面に補修材14が確実に行き渡ったことを打診音、吸引パイプへの補修材14の流入等で確認して、真空ポンプ18を停止する。そして、各吸引孔6から全ての吸引ホース12および座金10を撤去し、また、一定時間後(補修材14の硬化後)に各注入孔5から全ての注入器11および座金9を撤去し、密着シール材7を撤去し、クラック4の表面を平滑に仕上げる。
【0039】
以上の手順によりクラックの補修作業が完了し、その後一定期間養生させ、養生期間経過後に清掃して作業を終了する。
【0040】
図6は、本発明の第2実施形態を示すもので、建物の躯体1に対し、縦方向に複数のクラック4が生じている。
【0041】
この場合も、複数のクラック4のそれぞれに密着シール材7を密着状態に貼付けるとともに、複数のクラック4の注入孔および吸引孔(ともに図示せず)の位置に座金9、10を取り付け、各座金9に注入器11をセットし、各座金10に吸引ホース12を接続し、補修材14の注入と同時に、真空ポンプ18を作動させ、これにより複数のクラック4のそれぞれの内部に補修材14を行き渡らせることができる。
【0042】
図7および
図8は、本発明の第3実施形態を示すもので、建物のコンクリート製柱22の正面から反対側の背面にかけて貫通するクラック4が生じている。
【0043】
本実施形態では、
図7(A)に示すように、コンクリート製柱22の正面にクラック4の表面に沿って密着シール材7が貼り付けられ、クラック4の表面の複数箇所に座金9および注入器11がセットされている。
【0044】
また、
図7(B)に示すように、柱23の反対側の背面にクラック4の表面に沿って密着シール材7が貼り付けられ、クラック4の表面の1箇所に座金10および吸引ホース12が取付けられ、吸引ホース12に真空ポンプ18が接続されている。
【0045】
そして、
図8を参照して、真空ポンプ18を作動させると、クラック4内部は負圧状態に保持され、注入器11から補修材14が、負圧により吸引されて、クラック4内部を通り一定時間をかけてクラック4内部の全面に行き渡り、補修が行われる。なお、
図8の断面は
図7(A)におけるC-C線断面、すなわちクラック4の縦断面を示している。
【0046】
図9は、本発明の第4実施形態を示すもので、建物のコンクリート製柱22の正面から隣接する側面にかけてコンクリートの打ち継ぎラインによるクラック4’が生じている。コンクリートを打ち継ぎする際は新旧コンクリートが一体化しないため(コールドジョイント)、境目に亀裂となるクラック(隙間)が生じる場合がある。
【0047】
本実施形態では、
図9に示すように、コンクリート製柱22の正面から両側面にかけて生じた横方向へのクラック4’を覆う広幅の密着シール材7’が、コンクリート柱の周方向に巻回され、クラック4’の異なる箇所に座金9および注入器11、座金10および吸引ホース12が取付けられ、吸引ホース12に真空ポンプ18が接続されている。
【0048】
本実施形態においても、真空ポンプ18を作動させると、クラック4’内部は負圧状態に保持され、注入器11から補修材14が、負圧により吸引されて、クラック4’内部を通り一定時間をかけてクラック4’内部の全面に行き渡り、補修が行われる。
【0049】
図10は、本発明の第5実施形態を示すもので、建物に使用する部材23にひび割れ4’’が生じている。建物に使用する部材23は、柱部材、梁部材、土台、中間材、床材などの構造部材、内装材、家具材などが含まれる。素材はコンクリート製、木製、樹脂製、FRP製などがある。
【0050】
本実施形態では、
図10に示すように、貫通するひび割れ4’’を覆うように部材23の表面に密着シール材7’’が全面に巻回および密着されており、ひび割れ4’’の一箇所に座金9および注入器11がセットされ、ひび割れ4’’の別の箇所に座金10および吸引ホース12が取付けられ、吸引ホース12に真空ポンプ18が接続されている。
【0051】
そして、真空ポンプ18を作動させると、ひび割れ4’’内部は負圧状態に保持され、注入器11から補修材14が、負圧により吸引されて、ひび割れ4’’内部を通り一定時間をかけてひび割れ4’’内部の全面に行き渡り、補修が行われる。
【0052】
これら各実施形態によれば、建物の外壁に生じる複数のクラック4、コンクリート製柱22に生じるクラック4’あるいは部材23に生じるひび割れ4’’に対し、補修材注入用の注入器11と負圧吸引用の真空ポンプ18等を用いて、複数のクラック4、クラック4’、ひび割れ4’’の内部全面に補修材14を確実に行き渡らせて補修を確実に行うことができる。
【0053】
広範囲に渡る複数のクラック4に対して、1台(場合によっては複数台)の真空ポンプ18によって一度に補修材14を注入充填して、複数のクラック4の補修工事を同時並行で進めることができ、補修工事を短期間で終わらせることができる。
【0054】
補修作業の完了後は、真空ポンプ18の停止により、密着シール材7のモルタル2や塗装面3への真空吸着作用がなくなり、塗装面3から密着シール材7を容易に撤去することができる。撤去の際、従来のように塗装面3が一緒に剥がれることがない。
【0055】
上記実施形態では、建物の躯体1の外面にモルタル2および塗装面3が施工された例について説明したが、建物はこれに限らない。建物の外面にモルタルのみ施工されたもの、コンクリート打ちっぱなしの構造、モルタルの表面にタイルや石板を貼り付けた構造なども本発明の適用範囲に含まれる。
【0056】
本工法が適用できる建物は、オフィスビル、マンション、病院、学校、公共建築物、住宅、工場施設などを含む。本工法は橋梁やダムなどの土木建造物、道路法面などにも適用可能である。また、本工法は木造やコンクリート製品、あるいは木製の美術品の修復にも適用可能である。
【0057】
本工法に用いられる補修材は、エポキシ樹脂に限らず、ウレタン樹脂も含まれる。接着剤の用途やアルカリ付与剤も含まれる。他のフィラーが含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る補修材の負圧注入工法と装置は、建物や部材、土木建造物に発生するひび割れに補修材を注入して補修する工法と装置として、利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 建物の躯体
2 モルタル
3 塗装面
4,4’クラック(ひび割れ)
4’’ひび割れ
5 注入孔
6 吸引孔
7,7’,7’’密着シール材
8 粘着剤
9,10 座金
11 注入器
12 吸引ホース
13 シリンダ
14 補修材(エポキシ樹脂)
15 加圧ゴム
16 低圧ピストン
17 ストッパ
18 真空ポンプ
19 合流部
20 取付口
21 負圧計
22 コンクリート柱
23 部材
K 建物