(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129703
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
F16F 9/348 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
F16F9/348
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039068
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】カヤバモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】野口 寛洋
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA46
3J069EE10
3J069EE16
3J069EE25
3J069EE54
(57)【要約】
【課題】高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制できるフロントフォークを提供する。
【解決手段】フロントフォークFは、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とを有する伸縮体1と、伸縮体1内に収容されるダンパDとを備え、ダンパDは、シリンダ10と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッド12と、シリンダ10内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、シリンダ10内に挿入される軸部材13と、環状であって内周側が軸部材13の外周に装着されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブ14と、シリンダ10の内周であって圧側室R2と伸縮体1内であってシリンダ10外の液溜室R内に連通される液室Lとの間に設けられてシリンダ10の内側へ向けて突出するとともにリーフバルブ14の外周に対向する環状の対向座部15とを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと前記車体側チューブに対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブとを有する伸縮体と、
前記伸縮体内に収容されて前記伸縮体とともに伸縮して減衰力を発生するダンパとを備え、
前記ダンパは、
前記車体側チューブと前記車輪側チューブとの一方に連結されるシリンダと、
前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに前記車体側チューブと前記車輪側チューブとの他方に連結されるピストンロッドと、
前記シリンダ内に移動可能に挿入されて前記ピストンロッドに連結されるとともに前記シリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、
前記シリンダ内に挿入される軸部材と、
環状であって前記軸部材の外周に装着されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブと、
前記シリンダの内周であって前記圧側室と前記伸縮体内であって前記シリンダ外の液溜室内に連通される液室との間に設けられて前記シリンダの内側へ向けて突出するとともに前記リーフバルブの外周に対向する環状の対向座部とを備えた
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記リーフバルブは、
環状であって前記軸部材の外周に装着されるスペーサと、
環状であって前記軸部材の外周に装着されて前記スペーサを軸方向に挟んで互いに軸方向で対向する一対の保持環と、
環状であって外径が前記保持環の外径よりも大きく内径が前記スペーサの外径よりも大きいとともに、前記各保持環間に介装されて外周が前記対向座部に対向する環状弁体とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記環状弁体は、重ねられた複数枚の環状板で形成される
ことを特徴とする請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記対向座部は、
前記リーフバルブの外周面に対向する環状の対向面と、
前記対向面の軸方向両側にそれぞれ設けられた傾斜面とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記シリンダの内周に装着される対向部材を備え、
前記対向座部は、前記対向部材に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
フロントフォークは、二輪車或いは三輪車といった鞍乗型車両の前輪を車体に懸架する懸架装置に利用されており、たとえば、アウターチューブとアウターチューブ内に軸方向へ摺動可能に挿入されるインナーチューブとを有する伸縮体と、伸縮体内に収容されてアウターチューブとインナーチューブとの間に介装されて伸縮時に減衰力を発生するダンパとを備えている。このようなフロントフォークは、走行時に伸縮する際にダンパが減衰力を発生して車体の振動を抑制して車両における乗心地を向上させる。
【0003】
鞍乗型車両では、四輪自動車に比較すると、発進時や制動時、悪路走行時に車体に対して前輪が大きく変位するため、フロントフォーク内に設けられたダンパが高速でストロークすることがあり、ダンパ内の減衰バルブを通過する作動油量が多くなって減衰力が過剰となる場合がある。
【0004】
ストローク速度が低い場合に減衰係数を大きくして、ストローク速度が高くなると減衰係数を小さくして減衰力過多を抑制しつつ車体の振動を抑制可能な減衰バルブとしては、四輪自動車に利用されているものがある。この減衰バルブは、たとえば、環状であって内周がピストンロッドに固定されて外周側の撓みが許容されるリーフバルブと、ピストンロッドに固定される環状のバルブケースとを備えており、バルブケースにメインバルブに連通されるポートと、筒状であってポートの外周から立ち上がりシリンダとの間に環状隙間を形成して内周にリーフバルブの外周に非接触で対向する対向座部と設けている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
前述の減衰バルブは、ダンパのストローク速度が低速域にある場合、リーフバルブが然程撓まず対向座部との間の流路面積を極小さくするように制限するので、ストローク速度に応じて急激に立ち上がり、対してストローク速度が高速になるとリーフバルブが撓んで流路面積を大きくしてそれ以上の減衰力の増加を抑制するような減衰力特性を発揮する。よって、このような四輪自動車に利用されている減衰バルブをフロントフォークのダンパにおける減衰バルブとして利用すれば鞍乗型車両における乗心地の向上を期待し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した通り、鞍乗型車両に利用されるフロントフォークでは、ダンパが高速でストロークすることから減衰バルブを通過する作動油量が多いため、リーフバルブが撓んで対向座部から軸方向に離間した際に流路面積を大きくする必要がある。
【0008】
ところが、従来の減衰バルブは、ピストンロッドに固定されるバルブケースの筒部がシリンダに干渉しないように充分大きな隙間を空けて対向する構造を採っており、筒部の内周に設けられる対向座部の内径を大きくできないため、リーフバルブが撓んで対向座部から軸方向に離間した際に流路面積を大きく確保するのが難しい。
【0009】
よって、従来の減衰バルブをそのままフロントフォークのダンパに適用してもダンパが高速でストロークする際に過大な減衰力を発生してしまい鞍乗型車両における乗心地を向上するのが難しい。
【0010】
そこで、本発明は、高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制できるフロントフォークの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のフロントフォークは、車体側チューブと車体側チューブに対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブとを有する伸縮体と、伸縮体内に収容されて伸縮体とともに伸縮して減衰力を発生するダンパとを備え、ダンパは、車輪側チューブに連結されるシリンダと、シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに車体側チューブに連結されるピストンロッドと、シリンダ内に移動可能に挿入されてピストンロッドに連結されるとともにシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に挿入される軸部材と、環状であって内周側が軸部材の外周に装着されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブと、シリンダの内周であって圧側室と伸縮体内であってシリンダ外の液溜室内に連通される液室との間に設けられてシリンダの内側へ向けて突出するとともにリーフバルブの外周に対向する環状の対向座部とを備えている。
【0012】
このように構成されたフロントフォークでは、対向座部がシリンダの内周に設けられており、対向座部の内径とリーフバルブの内径を大きくでき、リーフバルブの開弁時にリーフバルブと対向座部と間に大きな流路面積を確保できる。
【0013】
また、フロントフォークにおけるリーフバルブは、環状であって軸部材の外周に装着されるスペーサと、環状であって軸部材の外周に装着されてスペーサを軸方向に挟んで互いに軸方向で対向する一対の保持環と、環状であって外径が保持環の外径よりも大きく内径がスペーサの外径よりも大きいとともに、各保持環間に介装されて外周が対向座部に対向する環状弁体とを備えてもよい。
【0014】
このように構成されたフロントフォークでは、環状弁体が径方向へ移動可能であるので、シリンダ内にリーフバルブを取り付けた軸部材を挿入する際に、対向座部に対して環状弁体がずれていても、環状弁体を対向座部と同心になるように位置決めできるので、フロントフォークの組立作業が容易になる。また、このように構成されたフロントフォークによれば、保持環の撓み剛性の設定により、フロントフォークの伸長作動時にリーフバルブが液体の流れに与える抵抗と収縮作動時にリーフバルブが液体の流れに与える抵抗とを独立に設定できる。
【0015】
さらに、フロントフォークにおける環状弁体が重ねられた複数枚の環状板で形成されてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、環状弁体が複数枚の環状板で形成されているので環状弁体の強度を向上でき、製造コストが安価となるとともに誤組立を抑制できる。
【0016】
また、フロントフォークにおける対向座部がリーフバルブの外周面に対向する環状の対向面と、対向面の軸方向両側にそれぞれ設けられた傾斜面とを有してもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、容易に組立できるとともに、常時狙い通りの減衰力を発生できる。
【0017】
そして、フロントフォークは、シリンダの内周に装着される対向部材を備え、対向座部が対向部材に設けられてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、対向座部のシリンダへの設置が容易で加工コストも安価となり、軸部材の設計変更によってリーフバルブの設置位置が変更されてもシリンダの仕様を変更する必要が無くなるので、部品点数も削減される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフロントフォークによれば、高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態のフロントフォークの縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態のフロントフォークの一部拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態のフロントフォークにおけるダンパの減衰力特性を示した図である。
【
図4】本発明の一実施の形態の一変形例におけるフロントフォークの一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態におけるフロントフォークFは、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とを有して伸縮可能な伸縮体1と、伸縮体1内に収容されて車体側チューブ2と車輪側チューブ3との間に介装されるダンパDとを備えて構成されており、図示はしないが、二輪車や三輪車といった鞍乗型車両の車体と前輪との間に介装されて車体と前輪との振動を抑制するものである。
【0021】
フロントフォークFは、前述したように、伸縮体1と伸縮体内に収容されるダンパDとを備えている。伸縮体1は、車体側チューブ2と、車体側チューブ2に対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブ3とを備えて伸縮可能となっている。また、伸縮体1は、車体側チューブ2の上端を閉塞するキャップ4と、車輪側チューブ3の下端を閉塞するとともに前記前輪の車軸を保持するアクスルブラケット5と備えており、内部が密閉状態となっている。
【0022】
車輪側チューブ3は、車体側チューブ2の下方から車体側チューブ2内に挿入されており、車体側チューブ2に対して軸方向へ相対移動できる。なお、車体側チューブ2の下端の内周には、車輪側チューブ3の外周に摺接する環状のブッシュ7と環状のシール部材8とが設けられており、車輪側チューブ3の上端外周には車体側チューブ2の内周に摺接する環状のブッシュ9が装着されている。よって、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とは、ブッシュ7,9によって互いに軸ぶれせずに軸方向へ移動できる。
【0023】
車体側チューブ2の上端の内周には、キャップ4が螺子結合されており、車体側チューブ2の上端はキャップ4によって閉塞されている。キャップ4は、筒状であって、車体側チューブ2の上端の開口部の内周に螺子結合される大径部4aと、大径部4aの
図1中下端から下方へ延びて外径が大径部4aよりも小径である小径部4bとを備えている。また、キャップ4の大径部4aの内周には、アジャスタ6が螺着されている。アジャスタ6は、キャップ4に対して回転操作されるとキャップ4に対して
図1中上下方向へ移動できる。
【0024】
車輪側チューブ3の下端は、図外の前記前輪の車軸を保持するアクスルブラケット5によって閉塞されており、アクスルブラケット5によって伸縮体1が前記前輪に連結される。そして、このように構成された伸縮体1内は、シール部材8によって外方から密閉された空間となっている。アクスルブラケット5は、車輪側チューブ3の下端の外周に螺子締結される筒部5aと、筒部5aの側方に連なって図外の前記車軸が挿通される孔5bと、筒部5aの内周に間隔を空けて設けられた段部5cと環状凸部5dとを備えている。なお、図示はしないが、アクスルブラケット5には、ブレーキキャリパ等の装着を可能とする取り付け部が設けられてもよい。アクスルブラケット5の筒部5aの
図1中で上方側の段部5cより上方側には螺子溝が形成されており、当該螺子溝に車輪側チューブ3の下端外周が螺着されて、アクスルブラケット5と車輪側チューブ3とが締結される。
【0025】
なお、本実施の形態のフロントフォークFでは、伸縮体1は、車体側チューブ2内に車輪側チューブ3を挿入した倒立型として構成されているが、車体側チューブ2を車輪側チューブ3内に挿入した正立型として構成されてもよい。
【0026】
ダンパDは、伸縮体1内に収容される。本実施の形態のダンパDは、車輪側チューブ3にアクスルブラケット5を介して連結されるシリンダ10と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されてシリンダ10内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されて上端がキャップ4を介して車体側チューブ2に連結されるとともに下方側がピストン11に連結されるピストンロッド12と、シリンダ10の車輪側チューブ側端となる
図1中下端からシリンダ10内に挿入される軸部材としてのボトムキャップ13と、ボトムキャップ13に取り付けられたリーフバルブ14と、シリンダ10の内周に設けられた対向座部15とを備えている。
【0027】
なお、ダンパDの外側の空間には、液体と気体が充填されており、当該空間は液体を貯留するための液溜室Rとなっている。また、キャップ4と
している。
【0028】
以下、ダンパDの各部について説明する。シリンダ10は、伸縮体1におけるアクスルブラケット5に固定される軸部材としてのボトムキャップ13に螺子締結されており、ボトムキャップ13を介してアクスルブラケット5に連結されている。シリンダ10は、下端の側部に開口してシリンダ10内と液溜室Rとを連通する透孔10aを備えている。また、シリンダ10の上端開口端には、環状のロッドガイド20が装着されている。ロッドガイド20は、環状であってシリンダ10の上端の内周に螺合されて内周に挿通されるピストンロッド12の外周に摺接するガイド部20aと、ガイド部20aの上端から上方へ向けて突出する筒状のケース部20bとを備えている。なお、シリンダ10内および液溜室Rに充填される液体は、たとえば、作動油とされるが、作動油以外の液体とされてもよい。
【0029】
なお、ロッドガイド20のケース部20bの
図1中上端とキャップ4との間には、懸架ばね21が介装されている。懸架ばね21は、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とを軸方向で離間させる方向、つまり、伸縮体1を伸長させる方向へ付勢しており、フロントフォークFが鞍乗型車両の車体と前輪との間に介装される車体を弾性的に支持する。
【0030】
ピストンロッド12は、円筒状のピストンロッド本体22と、筒状であってピストンロッド本体22の下端に連結されてピストン11を保持するピストン保持ロッド23とを備えている。そして、ピストンロッド12は、上端がキャップ4における小径部4bの内周に螺子結合されて連結されており、下端側がロッドガイド20の内周を通してシリンダ10内に挿入されている。ピストンロッド12は、ロッドガイド20とピストン11によってシリンダ10に対して径方向への移動が規制された状態でピストン11とともに軸方向となる
図1中上下方向へ相対移動できる。
【0031】
図1に示すように、ピストンロッド12おけるピストン保持ロッド23は、筒状であってピストンロッド本体22の下端外周に螺子結合される外径が大径な大径筒部23aと、ピストン11が外周に装着される外径が小径な小径筒部23bとを備えている。また、ピストン保持ロッド23は、大径筒部23aの内外を連通する孔23cを備えており、内部と孔23cを通じて伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰力調整通路DPを形成している。さらに、ピストン保持ロッド23内には、上下方向へ移動可能であって上下方向への移動に伴って減衰力調整通路DPの流路面積を変更するニードル24が収容されている。
【0032】
ピストンロッド本体22内には、キャップ4に螺着されたアジャスタ6とニードル24と間に介装されるコントロールロッド25が軸方向へ移動可能に挿入されている。よって、アジャスタ6を回転操作して
図1中上下方向へ変位させると、アジャスタ6の変位がコントロールロッド25を介してニードル24に伝達され、ニードル24をピストン保持ロッド23内で
図1中上下方向へ移動させて減衰力調整通路DPの流路面積を調整できる。
【0033】
また、ピストンロッド本体22の外周には、ダンパDが最収縮する際にロッドガイド20のケース部20b内に侵入する環状のロックピース26が設けられている。ケース部20bとロックピース26とは液圧クッション装置を構成しており、液圧クッション装置は、ケース部20b内にロックピース26が侵入すると、ケース部20b内の圧力を上昇させてダンパDのそれ以上の収縮を抑制する。
【0034】
ピストン11は、環状であって、ピストンロッド12のピストン保持ロッド23の
図1中下方となる先端に設けられた小径筒部23bの外周に嵌合しており、大径筒部23aの下端と小径筒部23bの
図1中下端に螺子結合されるピストンナット27とによって挟持されて小径筒部23bに固定されている。また、ピストン11は、シリンダ10の内周に接しており、シリンダ10内をそれぞれ液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画している。さらに、ピストン11は、伸側室R1と圧側室R2とを並列に連通する伸側減衰通路11aと圧側通路11bとを備えている。
【0035】
ピストン11の圧側室側端となる
図1中下端には、伸側減衰通路11aの出口端を開閉するとともに伸側減衰通路11aを伸側室R1から圧側室R2へ向けて通過する液体の流れのみを許容しつつ当該流れに抵抗を与える伸側減衰バルブ16が重ねられている。伸側減衰バルブ16は、複数の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周がピストン11とともに小径筒部23bとピストンナット27との間で挟持されて小径筒部23bに固定されており、外周側の撓みが許容されている。よって、伸側減衰バルブ16は、伸側減衰通路11aを介して作用する伸側室R1の圧力を受けて撓むと伸側減衰通路11aを開放するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える一方、外周をピストン11に当接した状態では伸側減衰通路11aを遮断する。よって、伸側減衰バルブ16は、伸側減衰通路11aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。
【0036】
ピストン11の伸側室側端となる
図1中上端には、圧側通路11bの出口端を開閉するとともに圧側通路11bを圧側室R2から伸側室R1へ向けて通過する液体の流れのみを許容する圧側チェックバルブ17が設けられている。圧側チェックバルブ17は、ピストン保持ロッド23の小径筒部23bの外周に軸方向へ移動可能に装着された環状板と、環状板をピストン11へ向けて付勢するばねとを備えて構成されており、ピストン11に対して遠近できる。そして、圧側チェックバルブ17は、ピストン11から離間すると圧側通路11bを開放し、ピストン11に着座すると圧側通路11bを遮断する。よって、圧側チェックバルブ17は、圧側通路11bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。なお、圧側のバルブは、前述したところでは圧側チェックバルブ17とされているが、通過する液体の流れに抵抗を与える減衰バルブであってもよい。
【0037】
シリンダ10をアクスルブラケット5に固定するボトムキャップ13は、軸部材として機能しており、筒状であって、先端側となる
図2中上端側からリーフバルブ14および対向座部15を保持する小径部13aと、小径部13aの
図2中下端に連なり外径が小径部13aよりも大径な中径部13bと、中径部13bの
図2中下端に連なり外径が中径部13bよりも大径な大径部13cと、大径部13cの
図2中下端外周に設けられたフランジ部13dとを備えている。
【0038】
ボトムキャップ13は、アクスルブラケット5の筒部5aの下端開口端側からアクスルブラケット5内に挿入される。ボトムキャップ13がアクスルブラケット5内に最大限に挿入されると、大径部13cがアクスルブラケット5の筒部5aの下端内周に設けた環状凸部5dの内周に嵌合され、フランジ部13dが環状凸部5dに軸方向で当接する。
【0039】
また、小径部13aの先端側の外周には、螺子部13a1が形成されており、大径部13cの
図2中上端部の外周にも、螺子部13c1が形成されている。大径部13cの上端側は、シリンダ10の下端の内周に挿入されるとともに、大径部13cの螺子部13c1にシリンダ10の下端内周が螺着される。シリンダ10が大径部13cの螺子部13c1に螺着されると、ボトムキャップ13の小径部13a、中径部13bおよび大径部13cの上端部がシリンダ10内に収容され、シリンダ10の下端とボトムキャップ13のフランジ部13dとがアクスルブラケット5の環状凸部5dを挟持するので、シリンダ10、ボトムキャップ13がアクスルブラケット5に固定されて車輪側チューブ3に連結される。
【0040】
なお、中径部13bには、中径部13bの内外を連通するとともにシリンダ10に設けられた透孔10aに連通される通孔13b1が設けられており、ボトムキャップ13内、通孔13b1およびシリンダ10の透孔10aを通じて、圧側室R2がシリンダ10外の液溜室Rに連通されている。また、ボトムキャップ13の内周には、先端に円錐状の弁体を備えたニードル18が螺着されている。ニードル18は、回転操作によってボトムキャップ13内を軸方向へ移動でき、ボトムキャップ13の内周に設けられた環状弁座13eに対して遠近して環状弁座13eとの間の流路面積の大きさを調整できる。
【0041】
ボトムキャップ13のシリンダ10内に挿入される小径部13aの外周には、環状のバルブストッパ30、環状の間座31、環状のリーフバルブ14、環状の間座32と、環状のバルブストッパ33とが順番に組み付けられており、バルブストッパ30、間座31、リーフバルブ14、間座32およびバルブストッパ33は、小径部13aの螺子部13a1に螺着されるナット34とボトムキャップ13の小径部13aと中径部13bとの境に形成される段部とで挟持されてボトムキャップ13に固定される。このようにボトムキャップ13は、シリンダ10内に挿入されてリーフバルブ14を保持する軸部材として機能している。
【0042】
リーフバルブ14は、
図2に示すように、環状であって内周側が間座31,32によって挟まれてボトムキャップ13の小径部13aの外周に不動に装着されており、内周側を固定端とするとともに外周側を自由端として、自由端である外周の撓みが許容されている。本実施の形態のリーフバルブ14は、環状であって小径部13aの外周に装着されるスペーサ14aと、環状であって小径部13aの外周に装着されてスペーサ14aを軸方向に挟んで互いに軸方向で対向する一対の保持環14b,14cと、環状であって外径が保持環14b,14cの外径よりも大きく内径がスペーサ14aの外径よりも大きいとともに、複数枚の環状板を重ねて形成されて各保持環14b,14c間に介装される環状弁体14dとを備えている。
【0043】
スペーサ14aは、外径が保持環14b,14cの外径よりも小径であって、保持環14b,14c、間座31,32およびバルブストッパ30,33とともに軸部材としてのボトムキャップ13における小径部13aの外周にナット34によって不動に装着されている。保持環14b,14cは、弾性を備えるとともに環状であって内径が小径部13aの外周に嵌合可能な径とされており、内周がナット34によって小径部13aの外周に固定されて外周側の撓みが許容されている。また、保持環14b,14cの外径は、ともに等しくスペーサ14aおよび間座31,32の外径よりも大径とされており、保持環14bは、
図2中上下に重ねられた間座31およびスペーサ14aの外周縁を支点に外周側を撓ませることができ、保持環14cは、
図2中上下に重ねられた間座32およびスペーサ14aの外周縁を支点に外周側を撓ませることができる。
【0044】
また、環状弁体14dは、本実施の形態のフロントフォークFでは、2枚の弾性を有する環状板14d1,14d2を重ねて形成され、
図2中上下の保持環14b,14c間に介装されている。環状板14d1,14d2は、ともに内径と外径を共通にしており、保持環14b,14cの外径よりも大きな外径を有するとともに、保持環14b,14cの外径よりも小さくかつスペーサ14aの外径よりも大きな内径を有している。よって、環状弁体14dは、保持環14bと保持環14cとの間に介装されると、内周面とスペーサ14aの外周面との間に隙間が生じるために、保持環14b,14c間で径方向へ移動することができる。なお、リーフバルブ14における環状弁体14dを構成する環状板の枚数は、ダンパDで得たい減衰力に応じて任意に設定でき、3枚以上であってもよいし1枚とされてもよい。
【0045】
リーフバルブ14の
図2中の上下には、ボトムキャップ13の小径部13aの外周に移動不能に装着される環状の間座31,32が積層されている。本実施の形態では、リーフバルブ14は、内周がリーフバルブ14の保持環14b,14cの外径よりも小径の間座31,32によって挟持されているので、保持環14b,14cおよび環状弁体14dとが間座31,32の外周縁を支点として外周側が
図2中上下方向へ弾性変形して撓むことができる。なお、間座31,32は、図示したところでは、それぞれ1枚の環状板で構成されているが、複数枚の環状板で構成されてもよい。また、間座31の反リーフバルブ14側に配置されるバルブストッパ30の外径は、間座31の外径およびリーフバルブ14の保持環14bの外径よりも大きく、環状弁体14dの外径よりも小さい。そして、バルブストッパ30は、リーフバルブ14が
図2中で下方側へ向けて所定量以上撓むとリーフバルブ14の環状弁体14dに当接してリーフバルブ14の撓みを規制する。さらに、間座32の反リーフバルブ14側に配置されるバルブストッパ33の外径は、間座32の外径およびリーフバルブ14の保持環14cの外径よりも大きく、環状弁体14dの外径よりも小さい。そして、バルブストッパ33は、リーフバルブ14が
図2中で上方側へ向けて所定量以上撓むとリーフバルブ14の環状弁体14dに当接してリーフバルブ14の撓みを規制する。
【0046】
対向座部15は、シリンダ10の内周に設けられており、リーフバルブ14が組み付けられた軸部材としてのボトムキャップ13をシリンダ10に前述の通りに組み付けると、リーフバルブ14における環状弁体14dの外周面に対して所定の僅かな環状隙間Pをあけて対向する。
【0047】
シリンダ10は、
図2中で下端部に内径が上方よりも大径な大径部10bを備えており、対向座部15は、大径部10bの内周であって透孔10aよりも上方側となるピストン11側に設けられている。対向座部15は、シリンダ10の大径部10bからシリンダ10の内方へ向けて周方向に沿って突出する環状の突条とされており、リーフバルブ14の環状弁体14dの外周面に対向する対向面15aと、対向面15aの軸方向両側にそれぞれ設けられた傾斜面としてのテーパ面15b,15cと備えている。対向面15aの内径は、シリンダ10の大径部10bよりも小径となっており、本実施の形態ではシリンダ10のピストン11のストローク範囲における内径と同じ径となっているが、シリンダ10のピストン11のストローク範囲における内径よりも大径であっても小径であってもよい。なお、対向面15aの内径がシリンダ10のピストン11のストローク範囲における内径よりも大径であるとリーフバルブ14が撓んだ際の対向座部15との間の流路面積を大きく確保できるので好ましい。
【0048】
なお、対向面15aの軸方向幅は、リーフバルブ14の外周が所定量以上撓むと環状弁体14dの外周面と対向しなくなる幅に設定されており、その限りにおいて、リーフバルブ14の最外周の外周面、この場合、環状弁体14dの外周面の軸方向幅よりも狭くても広くてもよい。そして、リーフバルブ14が撓んでリーフバルブ14の外周面が対向面15aと軸方向でずれることにより、対向面15aとリーフバルブ14との間の隙間を大きくなって流路面積が拡大されるようになっている。
【0049】
対向座部15のシリンダ10側の基端の軸方向幅は、対向面15aの軸方向幅よりも広く、対向面15aの
図2中上下には対向面15aに連続してテーパ面15b,15cが形成されている。テーパ面15b,15cは、対向座部15の先端に向かうほど先細りとなるように対向面15aおよびシリンダ10の内周面に対して傾斜している。
【0050】
このように構成された対向座部15は、対向座部15を残すようにしてシリンダ10の下端側の内周であって対向座部15の軸方向の上下を切削する加工によって形成することができる。このように対向座部15をシリンダ10と一部品で形成する場合、対向座部15の内径をシリンダ10の上方側の内径以上にすると、シリンダ10の下端部の内周のみを切削加工するだけで対向座部15を形成できる。切削加工によって対向座部15をシリンダ10と一部品で形成する場合、対向座部15の内径をシリンダ10のピストン11のストローク範囲における内径よりも小径にする場合、対向座部15を残してシリンダ10の全長に渡って内周を切削する必要があり材料歩留まりが悪くなるため、対向座部15の内径をシリンダ10の上方側の内径以上にするとフロントフォークFの材料および加工におけるコストを低減でき、対向座部15の内径を大きくできるため流路面積を大きく確保しやすくなる。なお、対向座部15をシリンダ10に一体に設けるのに切削加工を用いる場合を説明したが、対向座部15をシリンダ10に設ける加工方法はこれに限定されず、シリンダ10の外周を環状に加締める等の塑性加工によって対向座部15を設けることもできる。
【0051】
このように対向座部15を内周に持つシリンダ10に対してリーフバルブ14を保持したボトムキャップ13を組付けると、前述したように、対向座部15の対向面15aに対してリーフバルブ14の最外周面である環状弁体14dの外周面が僅かな環状隙間Pを介して正対し、対向座部15とリーフバルブ14とによってシリンダ10の
図2中で圧側室R2の下方に液室Lが区画される。
【0052】
シリンダ10へのボトムキャップ13の組付には、リーフバルブ14が取り付けられたボトムキャップ13をシリンダ10の下端側からシリンダ10内に挿入することになる。ここで、リーフバルブ14における環状弁体14dが保持環14b,14cに介装されて径方向へ移動でき、対向座部15が軸方向の下方側にテーパ面15cを備えているので、環状弁体14dがボトムキャップ13のシリンダ10内への挿入の際にテーパ面15cに倣って対向面15aに調心される。よって、シリンダ10に対してリーフバルブ14が取り付けられたボトムキャップ13を挿入する作業が容易となるとともに、シリンダ10内にボトムキャップ13を挿入すると環状弁体14dが対向座部15によって自動的に調心されて対向座部15に対して径方向にて適切な位置に位置決められる。
【0053】
そして、ダンパDが伸縮せず停止した状態では、リーフバルブ14は、撓まずに環状板14d1,14d2の外周面を対向座部15の対向面15aに正対させて、対向座部15との間に所定の環状隙間Pをあけて対向する。そして、本実施の形態のダンパDでは、正対する環状板14d1,14d2と対向座部15との間にできる環状隙間Pは非常に狭くなっている。
【0054】
他方、ダンパDが動き出す(伸縮する)と、圧側室R2の圧力或いは液室Lの圧力を受けて、環状弁体14dおよび保持環14b,14cとが撓む。このようにリーフバルブ14が撓むと対向座部15との間の流路面積が大きくなる。そして、このリーフバルブ14の撓み量は伸縮速度の増加に応じて大きくなる。ダンパDの伸長速度が動き出しのような伸縮速度が0(ゼロ)に近い場合、リーフバルブ14の撓み量が非常に小さく、微低速域から低速域の間でリーフバルブ14が対向座部15の内周面から対向し得なくなる程度に撓んでリーフバルブ14は開弁する。さらに、ダンパDの伸長速度が低速域、または高速域にある場合にはリーフバルブ14の外周部が間座32の外周を撓みの支点にして上側へと大きく撓む。反対に、ダンパDの収縮速度が低速域、または高速域にある場合にはリーフバルブ14の外周部が間座31の外周を撓みの支点にして下側へと大きく撓んで対向座部15から離間して開弁する。
【0055】
なお、環状板14d1,14d2が対向座部15の対向面15aに正対した状態で環状隙間Pが略0になるようにすれば、ダンパDが動き出して直ぐに圧側室R2と液室Lとに差圧が生じるため、ダンパDの伸縮の切り換わりにおいてダンパDが速やかに減衰力を発生できる。
【0056】
また、リーフバルブ14の
図2中下方に位置するバルブストッパ30は、ダンパDの収縮作動時に圧側室R2から液室Lへ向かって流れる液体の流量が多くなってリーフバルブ14が大きく撓むと環状弁体14dの
図2中下端に当接してリーフバルブ14のそれ以上の
図2中下方への撓みを規制してリーフバルブ14を保護する。さらに、リーフバルブ14の
図2中上方に位置するバルブストッパ33は、ダンパDの伸長作動時に液室Lから圧側室R2へ向かって流れる液体の流量が多くなってリーフバルブ14が大きく撓むと環状弁体14dの
図2中上端に当接してリーフバルブ14のそれ以上の
図2中上方への撓みを規制してリーフバルブ14を保護する。
【0057】
本実施の形態のフロントフォークFは、以上のように構成されており、以下、フロントフォークFの作動について説明する。フロントフォークFの伸長作動時には、伸縮体1の伸長に伴ってダンパDも伸長する。ダンパDが伸長するとシリンダ10内でピストン11が
図1中上方へ移動して、伸側室R1を縮小させて圧側室R2を拡大させる。縮小される伸側室R1内の液体は、伸側減衰バルブ16を押し開いて伸側減衰通路11aを介して拡大される圧側室R2へ移動する。そして、伸側減衰バルブ16が当該液体の流れに対して抵抗を与えるので、伸側室R1内の圧力が圧側室R2内の圧力よりも高くなってダンパDは伸縮体1の伸長を妨げる伸側減衰力を発生する。また、フロントフォークFの伸長作動時には、シリンダ10内からピストンロッド12が退出して圧側室R2内で液体が不足するため、リーフバルブ14が
図2中上方側へ撓んで開弁して液溜室Rから圧側室R2内に不足分の液体が供給される。なお、本実施の形態におけるフロントフォークFでは、伸側減衰通路11aを迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰力調整通路DPに流路面積を変更するニードル24が設けられており、ニードル24が減衰力調整通路DPを開放している場合、ダンパDの伸長作動時に伸側室R1内の液体は、伸側減衰通路11aの他にも減衰力調整通路DPを通過して圧側室R2へ移動する。よって、減衰力調整通路DPの流路面積を変更することによってダンパDが伸長作動時に発生する減衰力を高低調整し得る。
【0058】
他方、フロントフォークFの収縮作動時には、伸縮体1の収縮に伴ってダンパDも収縮する。ダンパDが収縮するとシリンダ10内でピストン11が
図1中下方へ移動して、圧側室R2を縮小させて伸側室R1を拡大させる。縮小される圧側室R2内の液体は、圧側チェックバルブ17を押し開いて圧側通路11bを介して拡大される伸側室R1へ移動する。よって、圧側チェックバルブ17は、液体の流れに殆ど抵抗を与えないので、ダンパDの収縮作動時には伸側室R1内の圧力と圧側室R2内の圧力とがほぼ等しくなる。また、フロントフォークFの収縮作動時には、シリンダ10内にピストンロッド12が侵入してシリンダ10内で液体が過剰となるため、リーフバルブ14が
図2中下方へ撓んで開弁して圧側室R2から液室Lを介して液溜室Rへ過剰分の液体が排出される。そして、リーフバルブ14が圧側室R2から液溜室Rへ向かう液体の流れに対して抵抗を与えるので、伸側室R1内の圧力と圧側室R2内の圧力とがほぼ等しくなる状態を保ちつつともに上昇する。ピストン11の圧側室R2側の受圧面積は、伸側室R1側の受圧面積より大きいため、ダンパDは、伸側室R1内の圧力と圧側室R2内の圧力とが上昇すると、伸縮体1の収縮を妨げる圧側の減衰力を発生する。
【0059】
なお、リーフバルブ14が撓んだ際に環状弁体14dが径方向へずれてしまって対向座部15に対向する位置に戻る際に、環状弁体14dが対向座部15のテーパ面15b,15cに乗り上げても、環状弁体14dがテーパ面15b,15cに倣って滑って径方向へ移動して調心されて、環状弁体14dの外周面を対向座部15の対向面15aの内周面に対向させる元の位置に自動的に戻る。
【0060】
フロントフォークFの収縮作動時においてダンパDのピストン速度が0に近い微低速域にある場合、ピストンロッド12のシリンダ10内への侵入によって圧側室R2内の圧力が上昇するものの液室Lの圧力との差圧がリーフバルブ14の開弁圧に達しないためリーフバルブ14は撓んでも外周面を対向座部15の対向面15aの軸方向幅の範囲に対向させて閉弁状態となってリーフバルブ14と対向座部15との間の環状隙間Pの流路面積を極小さく維持する。さらに、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が増加して微低速域から低速域にまで変化する間に、圧側室R2の圧力と液室Lの圧力との差圧がリーフバルブ14の開弁圧を超えるのでリーフバルブ14は、外周を対向座部15の内周の軸方向幅の範囲から
図2中下方へ外れるようにして撓んで開弁し、リーフバルブ14と対向座部15との間の環状隙間Pの流路面積を大きくする。
【0061】
そのため、フロントフォークFの収縮作動時において、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が0近傍では、ダンパDがピストン速度に応じて発生する減衰力の特性である減衰力特性は、
図3に示すように、減衰係数がピストン速度の増加に伴って非常に大きく立ち上がる特性となる。その後、ピストン速度が増加して低速域になるとリーフバルブ14の開弁によって、ダンパDの減衰力特性は、減衰係数が小さくなる特性となる。さらに、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が増加して中速域に達し、ポート15eを通過して圧側室R2から液溜室Rへ向かう液体の流量が増加するが、リーフバルブ14が下方へ大きく撓んで環状隙間Pの流路面積をさらに大きくするため、ダンパDの減衰力特性は、
図3に示すように、減衰係数を小さくしたまま維持するような特性となる。そしてさらに、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が増加して高速域に達すると、リーフバルブ14が大きく撓んでバルブストッパ30に当接してそれ以上の下方への撓みが抑制されるため、ダンパDの減衰力特性は、
図3に示すように、減衰係数を大きくする特性となる。
【0062】
なお、本実施の形態のフロントフォークFでは、リーフバルブ14と対向座部15との間の流路を迂回してボトムキャップ13内を通じて圧側室R2と液室Lとが連通され、ボトムキャップ13内に流路面積を変更するニードル18が設けられており、ニードル18が減衰力調整通路DPを開放している場合、ダンパDの収縮作動時に圧側室R2内の液体は、リーフバルブ14と対向座部15との間の流路の他にもボトムキャップ13内を通過して液室Lへ移動する。よって、ボトムキャップ13内の流路面積を変更することによってダンパDが収縮作動時に発生する減衰力を高低調整し得る。
【0063】
以上、本実施の形態のフロントフォークFは、車体側チューブ2と車体側チューブ2に対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブ3とを有する伸縮体1と、伸縮体1内に収容されて伸縮体1とともに伸縮して減衰力を発生するダンパDとを備え、ダンパDは、車輪側チューブ3に連結されるシリンダ10と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに車体側チューブ2に連結されるピストンロッド12と、シリンダ10内に移動可能に挿入されてピストンロッド12に連結されるとともにシリンダ10内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、シリンダ10内に挿入されるボトムキャップ(軸部材)13と、環状であって内周側がボトムキャップ(軸部材)13の外周に装着されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブ14と、シリンダ10の内周であって圧側室R2と伸縮体1内であってシリンダ10外の液溜室R内に連通される液室Lとの間に設けられてシリンダ10の内側へ向けて突出するとともにリーフバルブ14の外周に対向する環状の対向座部15とを備えている。
【0064】
このように構成されたフロントフォークFでは、対向座部15がシリンダ10の内周に設けられており、対向座部15の内径とリーフバルブ14の内径を大きくでき、リーフバルブ14の開弁時にリーフバルブ14と対向座部15と間に大きな流路面積を確保できる。
【0065】
このように、伸縮体1内の狭いスペースにダンパDを収容する関係で、構造的にシリンダ10の径を大きくできないフロントフォークFであっても、リーフバルブ14と対向座部15との間の流路面積を大きく確保できるので、ダンパDが高速でストロークしてリーフバルブ14と対向座部15との間を通過する液体の流量が多くなってもリーフバルブ14が与える抵抗が過剰となるのを抑制できる。よって、本実施の形態のフロントフォークFによれば、高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制でき、鞍乗型車両における乗心地を向上できる。
【0066】
また、このように構成されたフロントフォークFでは、ダンパDの収縮作動時に圧側室R2から液室Lを介して液溜室Rへ液体が通過する際にリーフバルブ14で抵抗を与える。そして、フロントフォークFが高速で収縮作動する場合、ピストンロッド12がシリンダ10内に侵入してリーフバルブ14と対向座部15との間を大流量の液体が通過することになるが、リーフバルブ14と対向座部15との間の流路面積を大きく確保できるので、圧側減衰力が過大になるのを抑制でき鞍乗型車両の搭乗者にごつごつ感を知覚させずに良好な乗心地を実現できる。また、本実施の形態のフロントフォークFでは、リーフバルブ14が対向座部15に対して軸方向の両方へ撓むことができるため、フロントフォークFの伸長作動時にもリーフバルブ14が圧側室R2側へ向けて撓んで開弁してピストンロッド12がシリンダ10内から退出する体積分の液体を液溜室Rから圧側室R2内へ供給できる。リーフバルブ14は、対向座部15に非接触で対向しており撓んで対向座部15から軸方向へ大きくずれると、弁座に直接着座するバルブに比較して、流路面積を大きくでき通過する液体の流れに与える抵抗を小さくできるから、フロントフォークFの伸長作動時に液溜室Rから圧側室R2へ向かう液体の流れを許容するチェックバルブとしても利用できる。よって、このように構成されたフロントフォークFによれば、リーフバルブ14をフロントフォークFの収縮作動時には減衰力発生用のバルブとして利用できるとともにフロントフォークFの伸長作動時にはチェックバルブとしても利用できるので、他にバルブを設置する必要が無くなり、製造コストを安価にできるとともにフロントフォークFを軽量化できる。
【0067】
本実施の形態のフロントフォークFでは、リーフバルブ14の液室L側への撓みを規制するバルブストッパ30を設けているので、ダンパDの収縮作動時におけるピストン速度が高速域になった際にリーフバルブ14の撓みを規制して減衰係数を大きくするような減衰力特性を得て、フロントフォークFの最収縮による底付きの防止とリーフバルブ14の保護が可能であるが、不要な場合にはバルブストッパ30を省略してもよい。
【0068】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、リーフバルブ14は、環状であってボトムキャップ(軸部材)13の外周に装着されるスペーサ14aと、環状であってボトムキャップ(軸部材)13の外周に装着されてスペーサ14aを軸方向に挟んで互いに軸方向で対向する一対の保持環14b,14cと、環状であって外径が保持環14b,14cの外径よりも大きく内径がスペーサ14aの外径よりも大きいとともに、各保持環14b,14c間に介装されて外周が対向座部15に対向する環状弁体14dとを備えている。
【0069】
このように構成されたフロントフォークFでは、環状弁体14dが径方向へ移動可能であるので、シリンダ10内にリーフバルブ14を取り付けたボトムキャップ(軸部材)13を挿入する際に、対向座部15に対して環状弁体14dがずれていても、環状弁体14dを対向座部15と同心になるように位置決めできるので、フロントフォークFの組立作業が容易になる。また、保持環14bの撓み剛性は、リーフバルブ14が間座31を支点として
図2中下方へ撓む場合のリーフバルブ14の撓み剛性に影響し、保持環14cの撓み剛性は、リーフバルブ14が間座32を支点として
図2中上方へ撓む場合のリーフバルブ14の撓み剛性に影響するので、保持環14bと保持環14cとの撓み剛性を異なるものとすれば、リーフバルブ14の撓む方向毎に任意に撓み剛性を設定できる。よって、このように構成されたフロントフォークFによれば、保持環14b,14cの撓み剛性の設定により、フロントフォークFが伸長作動時にリーフバルブ14が液体の流れる抵抗と収縮作動時にリーフバルブ14が液体の流れる抵抗とを独立に設定できる。なお、保持環14b,14cは、それぞれ1枚の環状板で構成されているが、複数枚の環状板で構成されもよく、それぞれの撓み剛性の設定によって環状板の厚さと環状板の積層枚数が互いに異なっていてもよい。
【0070】
そして、本実施の形態のフロントフォークFでは、環状弁体14dが重ねられた複数枚の環状板14d1,14d2で形成されている。このように構成されたフロントフォークFによれば、環状弁体14dが複数枚の環状板14d1,14d2で形成されているので環状弁体14dの強度を向上させ得るとともに、リーフバルブ14で発生する減衰力のチューニングを環状板14d1,14d2の積層枚数で簡単に調整でき、一枚の厚さの異なる環状板を保有して求める減衰力特性毎に多数の環状板の中から最適な環状板を選択して組み立てる場合に比較して、製造コストが安価となるとともに誤組立を抑制できる。
【0071】
さらに、本実施の形態のフロントフォークFでは、対向座部15がリーフバルブ14の外周面に対向する環状の対向面15aと、対向面15aの軸方向両側にそれぞれ設けられたテーパ面(傾斜面)15b,15cとを有している。このように構成されたフロントフォークFによれば、リーフバルブ14が撓んだ際に環状弁体14dが径方向へずれてしまって対向座部15に対向する位置に戻る際に、環状弁体14dが対向座部15のテーパ面(傾斜面)15b,15cに乗り上げても、環状弁体14dがテーパ面(傾斜面)15b,15cに倣って滑って径方向へ移動して調心されて、環状弁体14dの外周面を対向座部15の対向面15aの内周面に対向させる元の位置に自動的に戻る。また、シリンダ10内にリーフバルブ14が取り付けられたボトムキャップ(軸部材)13を挿入していくと、環状弁体14dが径方向へ移動可能であるので、対向座部15のテーパ面(傾斜面)15cに倣って自動的に調心されて、環状弁体14dの外周面が対向座部15の対向面15aの内周面に対向する位置に環状弁体14dを容易に位置決めできる。よって、このように構成されたフロントフォークFによれば、容易に組立できるとともに、常時狙い通りの減衰力を発生できる。なお、前述したところでは、対向面15aの軸方向両側にテーパ面15b,15cを設けているが、環状弁体14dの調心が可能であればテーパ面15b,15c以外にも湾曲面であってもよいから、対向面15aの軸方向両側に環状弁体14dの調心が可能な傾斜面を設ければよい。
【0072】
なお、前述したところでは、シリンダ10に対向座部15を一部品として一体に設けた例について説明したが、
図4に示すように、シリンダ10の内周に対向座部36を備えた対向部材としてのリング35を装着してもよい。リング(対向部材)35は、環状の対向面36aと、対向面36aの軸方向の両端に設けられたテーパ面(傾斜面)36b,36cとを備えた対向座部36と、対向座部36の外周に設けられてシリンダ10の内周に固定される環状の定着部37とを備えている。定着部37は、外周に周方向に沿って外周側へ突出してシリンダ10の内周に設けられた環状溝10c内に挿入される突条37aを備え、シリンダ10の内周に固定される。なお、リング(対向部材)35は、合成樹脂で形成されて、シリンダ10内に縮径しつつ侵入して突条37aが環状溝10c内に挿入されるとシリンダ10に固定されるものでもよいし、金属で形成されてシリンダ10の外周を加締めることによって突条37aがシリンダ10の内周に環状溝10cを形成しつつ環状溝10c内に入り込むことによってシリンダ10に固定されてもよい。
【0073】
図4に示したフロントフォークFのように、シリンダ10の内周に装着されるリング(対向部材)35を備え、対向座部36がリング(対向部材)35に設けられていると、対向座部36のシリンダ10への設置が容易で加工コストも安価となり、軸部材の設計変更によってリーフバルブ14の設置位置が変更されてもシリンダ10の仕様を変更する必要が無くなるので、部品点数も削減される。なお、対向部材は、対向座部36を備えていればリング35以外であってもよい。
【0074】
なお、前述したところでは、リーフバルブ14は、スペーサ14a、保持環14b,14cおよび環状弁体14dとで構成されているが、軸部材としてボトムキャップ13の小径部13aの外周に内周が不動に固定される1枚或いは複数枚の環状板で構成されてもよい。
【0075】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、軸部材がボトムキャップ13とされているが、軸部材はシリンダ10の端部を閉塞するボトムキャップ13とは別部品で構成されてボトムキャップ13に取り付けられてもよいし、ボトムキャップ13とは別個独立に設けられてもよい。つまり、軸部材は、シリンダ10内に挿入されてリーフバルブ14が装着される部材であればよい。
【0076】
さらに、本実施の形態のフロントフォークFでは、シリンダ10が車輪側チューブ3に連結されるとともにピストンロッド12が車体側チューブ2に連結されているが、シリンダ10が車体側チューブ2に連結されるとともにピストンロッド12が車輪側チューブ3に連結されていてもよい。
【0077】
また、前述したダンパDの具体的な構成は、一例であって、特許請求の範囲から逸脱しない限り、適宜設計変更可能である。さらに、このように本実施の形態のフロントフォークFにおけるダンパDの減衰力特性を説明する上で、ピストン速度を微低速域、低速域、中速域および高速域に区分しているが、速度域を区分する速度については設計者が任意に設定できる。
【0078】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・伸縮体、2・・・車体側チューブ、3・・・車輪側チューブ、10・・・シリンダ、11・・・ピストン、12・・・ピストンロッド、13・・・ボトムキャップ(軸部材)、14・・・リーフバルブ、14a・・・スペーサ、14b,14c・・・保持環、14d・・・環状弁体、14d1,14d2・・・環状板、15,36・・・対向座部、15a,36a・・・対向面、15b,15c,36b,36c・・・テーパ面(傾斜面)、35・・・リング(対向部材)、F・・・フロントフォーク、D・・・ダンパ、L・・・液室、R・・・液溜室、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室(作動室)