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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129711
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】表皮材
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20240919BHJP
   D06N 7/00 20060101ALI20240919BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B32B5/24
D06N7/00
D04B21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039079
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲田 しずか
(72)【発明者】
【氏名】松本 晴貴
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4L002
【Fターム(参考)】
4F055AA21
4F055BA12
4F055CA12
4F055EA04
4F055EA22
4F055EA23
4F055FA20
4F055GA02
4F055GA11
4F055GA32
4F100AA37A
4F100AK01B
4F100AK51B
4F100BA02
4F100BA41A
4F100DG01A
4F100DG07A
4F100DG13A
4F100GB33
4F100JJ06B
4F100JK20B
4F100YY00A
4F100YY00B
4L002AA00
4L002AB02
4L002AC03
4L002AC07
4L002CA00
4L002DA00
4L002EA00
4L002FA06
(57)【要約】
【課題】シートヒーターの熱が表皮層に伝わる伝熱性及び熱効率が良好であり、初期の伝熱性に優れた表皮材を提供する。
【解決手段】表皮層及び基布を有し、前記基布は、繊維をカーボン材料で被覆した導電性繊維糸から構成される発熱部を有する基布である表皮材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮層及び基布を有し、
前記基布は、繊維をカーボン材料で被覆した導電性繊維糸から構成される発熱部を有する基布である表皮材。
【請求項2】
前記基布は、編布であり、編布を構成する糸のうち、少なくとも1本が前記導電性繊維糸である請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記基布を構成する編布のウェールの値が20/inch~60/inchの範囲にあり、コースの値が25/inch~100/inchの範囲にある請求項2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記表皮層は樹脂を含有し、厚みが10μm~800μmである請求項1又は請求項2に記載の表皮材。
【請求項5】
前記基布は、前記発熱部の両端に、導電性材料を含む電極体を有する請求項1又は請求項2に記載の表皮材。
【請求項6】
前記表皮材は、温度20℃の雰囲気下、前記発熱部に12Vの電圧を印加し、2分経過した後の表面温度が32℃以上である請求項5に記載の表皮材。
【請求項7】
前記表皮材は、もみ試験前の電気抵抗値に対する、もみ試験後の電気抵抗値の変化率が2.5%未満である請求項6に記載の表皮材。
【請求項8】
前記表皮材は、延伸疲労試験前の電気抵抗値に対する、延伸疲労試験後の電気抵抗値の変化率が3.9%未満である請求項7に記載の表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の座席には、天然皮革や繊維製シートに代えて、耐久性に優れる合成樹脂表皮材が多用されている。
近年、車両のシートには、着座時の快適性を向上させ、且つ、車両の車内全体における暖房をより効率的に行うため、シートヒーターが設けられることがある。
例えば、車両の着座部を構成するクッションパッドとカバークッションとの間に、乗員検知センサとシートヒーターと断熱材とを備える車両用シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の前記カバークッションは、クッション層と、クッション層の周囲を覆う表皮層とを備えており、乗員検知センサによる検知を阻害することなく、暖房の即効性を高めることが課題とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-87754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の如き車両用シートでは、シートヒーターと、使用者と接触するカバークッションの表皮層との間には、複数の部材が介在し、それらの部材が熱伝達を阻害するため、暖房の即効性が十分ではないという問題があり、着座時の速やかな快適性を得るには、なお改良の余地がある。
【0005】
本発明の一実施形態の課題は、シートヒーターの熱が使用者と接触する表皮層に伝わる伝熱性及び熱効率が良好であり、初期の伝熱性に優れた表皮材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段は、以下に示す実施形態を含む。
<1> 表皮層及び基布を有し、前記基布は、繊維をカーボン材料で被覆した導電性繊維糸から構成される発熱部を有する基布である表皮材。
【0007】
<2> 前記基布は、編布であり、編布を構成する糸のうち、少なくとも1本が前記導電性繊維糸である<1>に記載の表皮材。
<3> 前記基布を構成する編布のウェールの値が20/inch~60/inchの範囲にあり、コースの値が25/inch~100/inchの範囲にある<2>に記載の表皮材。
<4> 前記表皮層は樹脂を含有し、厚みが10μm~800μmである<1>~<3>のいずれか1つに記載の表皮材。
<5> 前記基布は、前記発熱部の両端に、導電性材料を含む電極体を有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の表皮材。
【0008】
<6> 前記表皮材は、温度20℃の雰囲気下、前記発熱部に12Vの電圧を印加し、2分経過した後の表面温度が32℃以上である<1>~<5>のいずれか1つに記載の表皮材。
【0009】
<7> 前記表皮材は、もみ試験前の電気抵抗値に対する、もみ試験後の電気抵抗値の変化率が2.5%未満である<1>~<6>のいずれか1つに記載の表皮材。もみ試験の詳細は後述する。
【0010】
<8> 前記表皮材は、延伸疲労試験前の電気抵抗値に対する、延伸疲労試験後の電気抵抗値の変化率が3.9%未満である<1>~<7>のいずれか1つに記載の表皮材。延伸疲労試験の詳細は後述する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、シートヒーターの熱が使用者と接触する表皮層に伝わる伝熱性及び熱効率が良好であり、初期の伝熱性に優れた表皮材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の表皮材の一実施形態を示す概略断面図である。
図2】市販されている導電性金属であるニクロム線ヒーターを有する比較例2の表皮材を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「質量部」と「重量部」は同じ意味で用いられる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
以下、本開示の表皮材について詳細に説明する。なお、以下、本開示の表皮材を、具体例を挙げて説明するが、本開示はその趣旨を損なわない限り、種々の変型例で実施することができる。
【0015】
〔表皮材〕
本開示の表皮材は、表皮層及び基布を有し、前記基布は、繊維をカーボン材料で被覆した導電性繊維糸から構成される発熱部を有する。
【0016】
以下、本開示の表皮材について、図面を参照しながら説明する。本開示における各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。なお、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。
図1は、本開示の表皮材の一実施形態を示す概略断面図である。
図1に示す表皮材10は、基布12と表皮層16とを有し、基布12と表皮層16との間には、基布12と表皮層16との接着性を向上させるための接着層14を有する。接着層14は任意の層である。基布12は、繊維をカーボン材料で被覆した導電性繊維糸から構成される発熱部を有する。
即ち、基布12を構成する繊維糸の少なくとも1種として導電性繊維糸を含むことで、基布12自体が発熱部を有する。図1に示す実施形態では、基布12は、表皮層16の近傍に設けられ、基布12と表皮層16との間には、任意の層である接着層14が介在するのみである。このため、基布12が有する発熱部で発生した熱は速やかに表皮層16に到達し、表皮材10の表面の温度が効率よく上昇する。
【0017】
基布12を構成する糸として、発熱性を有する導電性繊維糸を用いることで、基布としての感触を損なうことなく、発熱部が機能する。このため、発熱部を有する基布12と表皮層16との間にクッション層などを設けなくても、感触が良好となる。
表皮材10の表面と、発熱部を有する基布12との間には、表皮層16を有し、任意の層である接着層14、所望により設けられる後述の表面処理層を介したとしても、伝熱性を妨げるものではなく、伝熱性を阻害する他の部材に妨げられることなく、使用者と接触する表皮層に伝わる伝熱性及び熱効率が良好となると考えられる。
【0018】
(表皮層)
本開示の表皮材は、少なくとも1層の表皮層を有する。表皮層は、樹脂を含有し、厚みが10μm~800μmであることが好ましい。
【0019】
-樹脂-
表皮層は樹脂を含有することが好ましく、樹脂としては、合成樹脂が挙げられる。表皮層が含有する樹脂には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
表皮層に含まれる樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系エラストマー樹脂等が挙げられる。なかでも、耐久性がより良好となるという観点から、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル等が好ましく挙げられる。
表皮層に含まれるウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。なかでも、表皮層が長期耐久性を達成しやすいという観点からは、ウレタン樹脂として、ポリカーボネート系ポリウレタンがより好ましい。
【0020】
表皮層がウレタン樹脂を含む場合のウレタン樹脂としては、JIS K 6253(1997年)に準じて測定した硬さが、100%モジュラスで98N/cm~3500N/cmのウレタン樹脂が好ましく、196N/cm~588N/cmのウレタン樹脂がより好ましい。
なお、ウレタン樹脂の硬さ(100%モジュラス)を調整する方法としては、例えば、柔らかくしたい場合には、ソフトセグメントとなるポリオール成分比率を増加、又はポリオールの分子量を大きくし、硬くしたい場合には、ハードセグメントとなるウレタン結合、ウレア結合を増加させ、またヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)等の架橋剤を添加してエネルギーを付与し、架橋構造を形成する方法等が挙げられる。
【0021】
表皮層には、樹脂に加え、表皮層の外観を向上する、感触を向上する等の種々の目的で、本開示の効果を損なわない限りにおいて公知の添加剤を加えてもよい。
表皮層に用い得る添加剤としては、着色剤、架橋剤、架橋促進剤、成膜助剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
【0022】
-着色剤-
表皮層は、着色剤を含有することができる。着色剤を含有することで、表皮層に所望の色相を付与することができ、車両用シートの意匠性を向上することができる。
着色剤には特に制限はなく、顔料、染料等から目的に応じて、適宜選択して用いることができる。
着色剤としては、チタン白(二酸化チタン)、亜鉛華、群青、コバルトブルー、弁柄、朱、黄鉛、チタン黄、カーボンブラック等の無機顔料、キナクリドン、パーマネントレッド4R、イソインドリノン、ハンザイエローA、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料又は染料、アルミニウム及び真鍮等金属の箔粉からなる群より選択される金属顔料、二酸化チタン被覆雲母及び塩基性炭酸鉛の箔粉からなる群より選択される真珠光沢(パール)顔料等が挙げられる。なかでも、耐久性、及び耐光性がより良好であるという観点からは、着色剤としては顔料が好ましい。
表皮層が着色剤として顔料を含む場合には、顔料の均一分散性を向上させる観点から、界面活性剤、高分子分散剤等の顔料分散剤を併用してもよい。
【0023】
表皮材が、顔料を含む場合の含有量は、表皮層を構成する全固形分に対する質量比で0.5質量%~4.5質量%が好ましく、0.8質量%~3.0質量%がより好ましい。
【0024】
-着色剤以外の添加剤-
表皮層が含み得る着色剤以外の添加剤としては、例えば、リン系、ハロゲン系、無機金属系等の公知の難燃剤が挙げられる。表皮層が難燃剤を含有することで表皮層の難燃性向上が図れる。
【0025】
-表皮層の形成-
表皮層の形成は、公知の方法で行うことができる。
表皮層は、合成樹脂、着色剤、溶剤、及びその他の所望により含有される添加剤を含む表皮層形成用組成物を調製し、得られた表皮層形成用組成物を成形することで形成することができる。
【0026】
例えば、表皮層が樹脂として、ウレタン樹脂を含む場合、ウレタン樹脂を含む表皮層形成用組成物を、公知の塗布法により成膜して表皮層を形成することができる。塗布法としては、ナイフコーター法等が挙げられる。
表皮層は、離型紙上に表皮層形成用組成物を付与して形成してもよい。ここで、離型紙としては、絞型転写用離型紙、平滑な離型紙のいずれも使用することができ、絞型転写用離型紙を用いることで、表皮層の表面に絞模様と称される凹凸模様を形成することができる。
【0027】
例えば、表皮層が樹脂として、ポリ塩化ビニル樹脂を含む場合、ポリ塩化ビニル樹脂を含む表皮層形成用組成物を、カレンダー法、ペースト加工法、溶融押出法等の公知の成膜方法で成膜することにより表皮層を形成することができる。
【0028】
-表皮層の厚み-
表皮層の厚みは、表皮材の使用目的に応じて適宜選択される。表皮層の厚みは、耐久性、基布の隠蔽性、風合い等の観点から選択される。表皮層は樹脂を含有し、厚みは既述のように、10μm~800μmの範囲とすることができる。
例えば、表皮層が樹脂としてポリウレタンを含む場合、乾燥後の膜厚として、10μm~100μmが好ましく、20μm~60μmであることがより好ましい。また、表皮層が樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂を含む場合、乾燥後の膜厚として、100μm~800μmが好ましく、150μm~450μmであることがより好ましい。
表皮層を2層以上有する場合、表皮層の厚みは複数の表皮層の総厚みを指す。
表皮材における後述の各層の厚みは、表皮材を面方向に垂直に切断した切断面を観察することで測定することができる。本開示では、切断面において無作為に選択した表皮層の5箇所の厚みを測定し、算術平均した値を、表皮層の厚みとする。その他の層の厚みも同様に測定することができる。
従って、本開示において表皮材における各層の厚みは、各層の乾燥後の厚みを指す。
【0029】
(基布)
本開示の表皮材は、基布を有し、基布が、繊維をカーボン材料で被覆した導電性繊維糸から構成される発熱部を有する。
基布は、発熱部を構成する導電性繊維糸を用いること以外、表皮材に適用される必要な強度と柔軟性を有し、得られる表皮材が所定の耐久性と柔軟性とを有する基布であれば特に制限はない。
基布に用いられる繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール等の合成繊維、綿、麻等の天然繊維、ポリエステル、レーヨン、ポリノジック、キュプラ等の再生繊維等が挙げられ、目的に応じて選択すればよい。
基布を構成するこれら繊維の糸は、モノフィラメント糸であってもよく、マルチフィラメント糸であってもよい。得られる基布の風合いの観点から、基布はマルチフィラメント糸により構成されることが好ましい。
【0030】
-導電性繊維糸-
本開示における基布は、伝熱性、昇温性を達成するため、導電性繊維糸からなる発熱部を有する。導電性繊維糸は、基布において発熱体として機能する。
本開示における導電性繊維糸は、繊維をカーボン材料で被覆した繊維糸を指す。導電性繊維糸の製造に用いられるカーボン材料は、導電性の観点から、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等が好ましい。一態様において、カーボン材料はカーボンナノチューブであることが好ましい。
カーボン材料を被覆する基材となる繊維は、モノフィラメント糸でも、マルチフィラメント糸でもよく、得られる基布の風合いの観点からマルチフィラメント糸が好ましい。繊維にカーボン材料を被覆することで、導電性を有する繊維糸が得られる。
【0031】
基布における発熱部の発熱を効率よく得るという観点からは、導電性繊維糸は、コアとなる繊維の全表面の70%以上がカーボン材料で覆われている繊維糸が好ましく、全表面の90%以上が被覆されている繊維糸であることがより好ましい。
コアとなる繊維がモノフィラメント糸である場合には、カーボン材料を、繊維に常法により被覆すればよく、マルチフィラメント糸の場合、カーボン材料をマルチフィラメント糸に被覆してもよく、マルチフィラメント糸を構成する長繊維を予めカーボン材料で被覆した後、複数の長繊維からなるマルチフィラメント糸を製造してもよい。
繊維をカーボン材料で被覆した導電性繊維糸は、繊維と、カーボン材料を分散媒に分散してなるカーボン被覆層形成用の分散液とを用いて製造してもよく、市販の導電性繊維糸を用いてもよい。
【0032】
-基布の構成-
本開示における基布は、発熱部を有する以外に特に制限はなく、織布、及び、編布のいずれであってもよい。
柔軟性及び安定性がより良好であり、基布に含まれる導電性繊維糸の配置の自由度が高いという観点からは編布が好ましい。
編布としては、縦編みであるトリコット編布、ダブルラッセル編布、丸編みである鹿の子編布、モクロディ編布、横編みであるニット編布等が挙げられる。なかでも、複数の糸を含んで編成され、導電性繊維糸を効果的に配置し得るという観点から、モクロディ編布が好ましい。
編布としては、複数の糸を用いて編成される編布が好ましく、編布は、二次元編布、三次元立体編布等の立体構造を有する編布であってもよい。基布として、複数の糸を用いて構成される編布を適用することにより、導電性繊維糸を、例えば、基布の表面に偏在させる、基布の中央部に配置させる等の構成を容易にとることができ、且つ、基布のクッション性がより良好となるため好ましい。
基布の製造に際し、基布を構成する繊維の少なくとも一本が導電性繊維糸であることで、導電性繊維糸に電圧を印加すると繊維糸が発熱し、導電性繊維糸の存在する箇所が基布における発熱部となる。
基布を構成する全繊維糸における導電性繊維糸の占める割合は、15%~60%が好ましく、30%~50%がより好ましい。基布における導電性繊維糸の割合が上記範囲において発熱性、感触等がより良好となる。
基布を構成する編布としては、例えば、フロント糸、ミドル糸、バック糸の三本の繊維糸を編成して得られる基布であって、三本の繊維糸うち、少なくとも一本が導電性繊維糸である態様をとることができ、導電性繊維糸は二本であってもよい。
例えば、フロント糸を2本用いる編布において、フロント糸のうち1本が導電性繊維糸である場合、編布の編成条件にもよるが、編布を構成する糸のうち、約17%を導電性繊維糸が占めることになる。
基布が、フロント糸、ミドル糸、バック糸の三本の繊維糸から構成される場合、フロント糸又はバック糸の少なくともいずれかが導電性繊維糸であることが好ましく、伝熱性、昇温性そして経済性の観点から、フロント糸及びバック糸の双方が導電性繊維糸であることがより好ましい。
【0033】
導電性繊維糸の繊度は、電気抵抗率と強度のバランスの観点から、40d(d:デニール、以下同様)~400dの範囲で あることが好ましく、加工性がより良好であるという観点から、60d~300dの範囲であることがより好ましい。
基布が編布である場合、基布を構成する編布の繊維密度において、ウェール(以下、Wと略記する)の値が20/inch(インチ=2.54cm)~60/inchの範囲にあり、コース(以下、Cと略記する)の値が25/inch~100/inchの範囲にあることが好ましい。
即ち、基布の編み方向、即ち、長さ方向であるWでは、2.54cm当たり20個~60個の編み目が存在し、編み方向(長さ方向)に直交する幅方向であるCでは、2.54cm当たり25個~100個の編み目が存在することが好ましい。W及びCの編み目数は常法により測定することができる。
【0034】
基布の単位面積当たりの重さ(目付量)は、発熱効率の点から、50g/m~350g/mの範囲であることが好ましく、50g/m~250g/mの範囲であることがより好ましい。
【0035】
基布の厚みは、表皮材の使用目的に応じて適宜選択することができる。
表皮材として十分な強度を有し、風合いが良好であるという観点から、基布の厚みは300μm~1200μmの範囲であることが好ましく、350μm~900μmの範囲であることがより好ましい。
【0036】
-電極体-
基布が有する発熱部の両端に、導電性材料を含む電極体が設置されていてもよい。
電極体は通電する素材であれば特に制限はなく、例えば、銅、ニッケル、クロム等の電気伝導性が良好な金属、それらの金属を組み合わせたニクロム等の合金、カーボン、導電性ポリマー等が挙げられ、これらより適宜選択して電極体として使用することができる。ニッケルとクロムを中心とする合金であるニクロム線は、電気抵抗値が大きいため、通電により、ニクロム線自体も発熱する。
電極体は、いずれかの位置で導電性繊維糸と接続して配置され、電極体へ電圧印加することで、導電性繊維糸が発熱し、導電性繊維糸からなる発熱部を有する基布が面状に発熱し、表皮層に熱が伝わり、例えば、本開示の表皮層を有する車両用シート等の表面が暖められて快適な環境を醸成する。
【0037】
(その他の層)
本開示の表皮材は、表皮層及び基布に加え、その他の層をさらに有していてもよい。その他の層としては、接着層、表面処理層等が挙げられる。
【0038】
(接着層)
本開示の表皮材は、表皮層と基布との間に接着層を有していてもよい。接着層を設けることで、基布と表皮層、或いは、基布と、基布に隣接して形成される任意の層との密着性をより向上することができる。
接着層を構成する接着剤としては、特に制限はなく、ポリウレタン系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、ポリ塩化ビニリデン樹脂系接着剤等が挙げられる。
なかでも、表皮層又は後述の中間層との親和性がより良好であるという観点から、接着剤としては、ポリウレタン系接着剤が好ましい。
ポリウレタン系接着剤としては、より具体的には、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物から選ばれる接着剤等が挙げられる。
【0039】
接着層の形成には、公知の塗布法が適用できる。
接着層の厚みは、接着層と隣接する各層同士との接着性、及び風合いの観点から、3μm~100μmが好ましく、20μm~80μmがより好ましい。
【0040】
(表面処理層)
本開示の表皮材は、表皮層の基布側とは反対側に表面処理層を有していてもよい。
表面処理層は、樹脂を含んで形成され、隣接する層、例えば、表皮層等に含まれる材料に応じて、適宜選択すればよい。
表面処理層の形成に用いられる樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。
表皮材の耐摩耗性及び風合いをより向上させ得るという観点から、表面処理層は、ポリウレタンを主成分として含むことが望ましい。ここで、主成分とは、表面処理層に含まれる樹脂の全量に対し、ポリウレタンを60質量%以上含むことを意味する。
表面処理層は、樹脂を溶媒に溶解させてなる表面処理層形成用組成物、ディスパージョン樹脂を含む表面処理層形成用組成物等を、表皮層の表面に塗布することで形成することができる。
表皮層の表面に、さらに、表面処理層を形成することで、表皮層の外観及び耐摩耗性がより良化する。
表面処理層には、架橋剤、有機フィラー、滑剤、難燃剤等を含有させることができる。例えば、表面処理層に有機フィラー、滑剤等を含有することで、表皮材に滑らかな感触が付与され、耐摩耗性がさらに向上する。
表皮材の耐摩耗性及び風合いの向上効果を十分得られるという観点から、表面処理層の厚みは、1μm~15μmの範囲であることが好ましく、2μm~10μmの範囲がより好ましい。
【0041】
(表皮材の製造方法)
本開示の表皮材の製造方法には特に制限はなく、公知の方法で製造することができる。
例えば、まず、表皮層を既述の方法で形成し、その後、所望により、任意の層である接着層を設けて積層体を得る。そして、準備された発熱部を有する基布に、積層体の接着層側を接触させ、加圧密着させて表皮材を得る方法が挙げられる。
【0042】
任意の層である接着層は、表皮層又は基布の表面に、既述の接着層を形成するための組成物を付与することで形成される。表皮層表面に接着層を形成するための組成物を付与する方法は、塗布法でも転写法でもよい。
積層体と基布とを加圧密着させる際、加熱処理を行なってもよく、加圧密着後に加熱処理を行なってもよい。
基布と、接着層と表皮層とを含む積層体の加熱は、公知の方法により行なうことができる。加熱手段には特に制限はなく、熱ロールを用いた加熱、温風加熱、加熱乾燥炉内での加熱等、公知の加熱手段を用いればよい。
加熱処理を行う場合、加熱処理により、接着層、及び表皮層が硬化した後、表皮層の表面より離型紙を剥離することによって表皮材が得られる。
【0043】
(表皮材の好ましい物性)
本開示の表皮材は、伝熱性が良好であることが好ましく、さらに、耐久性に優れることが好ましい。
【0044】
(伝熱性)
本開示の表皮材は、伝熱性の目安として、温度20℃の雰囲気下、前記発熱部に12Vの電圧を印加し、2分経過した後の表面温度が32℃以上であることが好ましい。
【0045】
(耐久性)
本開示の表皮材は、耐久性に優れることが好ましい。
より具体的には、表皮材は、もみ試験前の電気抵抗値に対する、もみ試験後の電気抵抗値の変化率が2.5%未満であることが好ましい。もみ試験としては、以下に示すもみ試験を実施するものとする。
-もみ試験-
表皮材を導電性繊維糸が編まれている方向を長さ方向として、長さ100mm、幅30mmの大きさに切り取り、試験片を作製する。
2枚の試験片の基布面を内側にして重ね合わせ、スコット形もみ試験機のつかみ具で試験片の両端をそれぞれ挟む。
荷重が9.8Nになるまで試験片間の間隔を狭め、もみ操作を以下の条件で実施する。
もみ回数:15000回
もみのサイクル:120回/min
もみのストローク:50mm
【0046】
一般に、もみ試験を行うと、基布の繊維糸が損傷する傾向があり、導電性繊維糸が損傷すると電気抵抗値が変化する。電気抵抗値の変化は、発熱部の性能に影響を与えるため、もみ試験前後の電気抵抗値の変化率は小さいほど耐久性が良好であると評価する。本発明者らに検討によれば、もみ試験による電気抵抗値の変化率が2.5%未満であれば、実用上問題のないレベルであると評価される。
【0047】
また、耐久性の目安として、表皮材は、延伸疲労試験前の電気抵抗値に対する、延伸疲労試験後の電気抵抗値の変化率が3.9%未満であることが好ましい。延伸疲労試験としては、以下に示す延伸疲労試験を実施するものとする。
-横方向の延伸疲労試験-
表皮材を導電性繊維糸が編まれている方向を長さ方向として、長さ100mm、幅50mmの大きさに切り取り、試験片を作製する。
試験片の両端をTTD型延伸疲労試験機に取り付ける。
取り付けた試験片に対して、長さ方向と平行な横方向左右に29.4Nの荷重を掛け、左右に一回ずつ29.4Nの荷重を掛ける作業を一回の操作とし、2500回繰り返し延伸疲労試験を実施する。
【0048】
車両用シートなどの表面に用いられる表皮材は、運転者などが乗車することで延伸され、その後、下車すると延伸が解除され、延伸疲労に対し、性能が一定に保たれることが耐久性の目安となる。
一般に、延伸疲労試験を行うと、もみ試験と同様に、基布の繊維糸が損傷する傾向があり、導電性繊維糸が損傷すると電気抵抗値が変化する。電気抵抗値の変化は、発熱部の性能に影響を与えるため、もみ試験前後の電気抵抗値の変化率は小さいほど耐久性が良好であると評価する。本発明者らに検討によれば、延伸疲労試験による電気抵抗値の変化率が3.9%未満であれば、実用上問題のないレベルであると評価される。
【0049】
本開示の表皮材は、伝熱性が良好であり、所定の電圧を印加した場合、速やかに熱が表皮材の表面に伝わり、快適な環境を与えることができるため、車両用シート等の表面材として好適である。
【実施例0050】
以下、実施例を挙げて本開示の表皮材及びその製造方法を具体的に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
(1.表皮層の形成)
下記組成の表皮層形成用組成物を十分に混合し、表皮層形成用組成物を得た。得られた表皮層形成用組成物を、離型紙の表面に、ナイフコート塗工装置を用いて、ウェット塗布量が250g/mとなる量で塗布し、離型紙上に、表皮層形成用組成物層を形成した。表皮層形成用組成物の全固形分は約13質量%であった。
【0052】
-表皮層形成用組成物-
1液型樹脂(固形分20質量%のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)
100質量部
ジメチルホルムアミド(DMF:溶剤) 20質量部
メチルエチルケトン(MEK:溶剤) 15質量部
イソプロピルアルコール(IPA:溶剤) 5質量部
着色剤(顔料:カーボンブラック) 15質量部
【0053】
離型紙上に形成された表皮層形成用組成物層を、90℃で3分間、熱風乾燥機を用いて塗膜を乾燥して、離型紙上に表皮層を形成した。表皮層の乾燥後の膜厚は33μmであった。
【0054】
(2.接着層の形成)
下記成分を充分に混合し、接着層形成用組成物を調製した。接着層形成用組成物に含まれる全固形分は約38質量%であった。
(接着層形成用組成物)
2液型樹脂固形分40質量%のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 100質量部
イソシアネート系硬化剤 5質量部
【0055】
前工程で得た表皮層上に、接着層形成用組成物をウェット塗布量150g/mとなるように塗布して、接着層形成用組成物層を形成し、熱風乾燥機を用いて120℃で2分間加熱し、乾燥後の膜厚が57μmの接着層を形成した。
【0056】
(3.基布の準備)
-導電性繊維糸-
ポリエステル繊維に、カーボンナノチューブを含む被覆液を用いてカーボン材料被覆層を形成し、導電性繊維糸を得た。得られた導電性繊維糸を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)にて観察したところ、ポリエステル繊維表面の70%がカーボン材料で被覆されていた。
得られた導電性繊維糸の太さは250dであった。
【0057】
-基布の編成-
フロント糸、ミドル糸、バック糸によって編成された編布をモクロディ編みにて編成した。フロント糸、ミドル糸、バック糸のうち、フロント糸を、導電繊性維糸とした。ミドル糸、及びバック糸として、ポリエステル繊維(マルチフィラメント糸、太さ240d)を用いた。
編成された編布の繊維密度はW:24/inch、C:28/inchであり、基布の厚みは330μmであった。
【0058】
(4.表皮層と基布との積層)
先に得た表皮層と接着層との積層体の接着層と、前工程で得た基布とを貼り合せた。
ローラータイプで、加熱温度150℃、速度2m/minにて加熱圧着し、基布、接着層、表皮層及び離型紙をこの順で有する積層体を得た。
【0059】
(5.離型紙の剥離)
基布と密着させた積層体を50℃で48時間熟成後、離型紙を剥離して、基布上に、接着層、及び表皮層をこの順で有する実施例1の表皮材を得た。
【0060】
〔実施例2〕
実施例1で用いた基布の繊維密度を、W:54/inch、C:52/inchとし、基布の厚みを920μmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例2の表皮材を得た。
【0061】
〔実施例3〕
実施例1で用いた基布の繊維密度を、W:54/inch、C:72/inchとし、基布の厚みを950μmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例3の表皮材を得た。
【0062】
〔実施例4〕
実施例1で用いた基布において、導電性繊維糸をフロント糸及びバック糸として用い、基布の繊維密度を、W:44/inch、C:32/inchとし、基布の厚みを940μmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例4の表皮材を得た。
【0063】
〔実施例5〕
実施例1において、表皮層形成用組成物の塗布量を変更することで、表皮層の膜厚を20μmにした以外は、実施例1と同様にして、実施例5の表皮材を得た。
【0064】
〔実施例6〕
実施例1において、表皮層形成用組成物の塗布量を変更することで、表皮層の膜厚を90μmにした以外は、実施例1と同様にして、実施例6の表皮材を得た。
【0065】
〔実施例7〕
(1.表皮層の形成)
下記組成の表皮層形成用組成物を十分に混合し、表皮層形成用組成物を得た。得られた表皮層形成用組成物を、離型紙の表面に、ナイフコート塗工装置を用いて、ウェット塗布量が470g/mとなる量で塗布し、離型紙上に、表皮層形成用組成物層を形成した。表皮層形成用組成物の全固形分は約100質量%であった。
【0066】
-表皮層形成用組成物-
ポリ塩化ビニル樹脂 100質量部
可塑剤(フタル酸ジアルキル) 90質量部
安定剤(Ba-Zn系複合安定剤) 2質量部
着色剤(顔料:カーボンブラック) 5質量部
【0067】
離型紙上に形成された表皮層形成用組成物層を、100℃で2分間、熱風乾燥機を用いて塗膜を乾燥して、離型紙上に表皮層を形成した。表皮層の乾燥後の膜厚は700μmであった。
【0068】
(2.基布の準備)
-基布の編成-
実施例1に用いたものと同じ導電性繊維糸を、フロント糸及びバック糸に用い、編成された編布の繊維密度をW:44/inch、C:32/inchとし、基布の厚みを940μmとした。
表皮層は、前記ポリ塩化ビニル樹脂を含む表皮層形成用組成物を用いて作製した。
表皮層を、ポリ塩化ビニル樹脂を含むものに変え、基布として前記基布を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の表皮材を得た。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1で用いた基布に変えて、導電性繊維糸を含まず、ポリエステル繊維のみで編成した厚み1200μmの基布を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の表皮材を得た。従って、比較例1の基布は、発熱部を含まない基布である。
【0070】
〔比較例2〕
比較例2の表皮材は、基布に発熱部を有さず、フォーム層にヒーターを有する構成の表皮材とした。比較例2の表皮材は、以下のとおりに作製した。
【0071】
実施例1で用いた基布において、導電性繊維糸を含まず、ポリエステル繊維のみで編成した厚み1200μmの基布を準備した。
実施例1と同様にして、基布と接着層と表皮層との積層体を形成した。
【0072】
次に、厚み5mmのポリウレタン系樹脂発泡体を、第1のフォーム層として準備した。準備した第1のフォーム層の表面を600℃に加熱して溶解させ、溶融面と、前記で得た積層体の基布側とを密着させ、第1のフォーム層、基布、接着層及び表皮層をこの順に有する積層体を形成した。
【0073】
次に、第2のフォーム層として、トヨタ自動車(株)製の純正パーツ、品番87530-78020を準備した。発熱部として、導電性金属である「ニクロム線」を使用した。第2のフォーム層の厚みは3270μmである。
準備した第2のフォーム層に、前記で得た第1のフォーム層を有する積層体を積層し、ニクロム線発熱体を有する比較例2の表皮材を得た。
【0074】
図2は、比較例2の表皮材の概略断面図である。図2に示す比較例2の表皮材は、ニクロム線発熱体を有する第2のフォーム層22、第1のフォーム層20、基布(発熱部を有さない)18、接着層14及び表皮層16をこの順に有する。第2のフォーム層22において、ニクロム線は白抜き部分として表記した。
接着層14及び表皮層16の構成は、実施例1と同様である。
【0075】
<表皮材の評価>
実施例及び比較例のそれぞれの表皮材について、以下の項目を評価した。
結果を表1に示す。
【0076】
(1.伝熱性)
昇温試験開始から2分経過後の昇温温度評価を伝熱性とした。
(1-1.発熱表皮材(以下「面状ヒーター」という)の作製)
評価対象の表皮材の基布の両端部に、電極体を構成する「銅線」を縫い付けた。
縫い付けた電極体としての銅線上に、カーボンナノチューブを含んだバインダーを塗工し、乾燥した。
銅線電極へ電圧を印加することにより、表皮材全体が面状に発熱する「面状ヒーター」を作製した。
【0077】
(1-2.測定機器の準備)
-電源-
コンセントから供給される交流電流を直流電流に変換する必要があるため、コンセントから直流安定化電源に接続し、直流電流を獲得した。
出力は定電圧電源方式であり、電源負荷が変化しても出力電圧が12V一定になるよう、制御を行う。電源をONすることで、面状ヒーターの昇温が開始される。
直流安定化電源にはモニタがあり、電流、電力が表示されるため、抵抗値は電圧(12V一定)/昇温2分時の電流値から算出した。
【0078】
-熱電対とデータロガー-
熱電対を用いた電位差測定により、作製した面状ヒーターの表面温度を測定した。
熱電対からのデータを収集するため、熱電対をデータ収集機(データロガー)に取り付ける。熱電対先端を作製した面状ヒーター上に取り付け、その際、テフロン(登録商標)テープを用いて固定した。
【0079】
-サーモグラフィー-
熱電対と合わせて、赤外線測定により、作製した面状ヒーターの表面温度を測定した。
面状ヒーターに焦点を合わせ、撮影することで面状ヒーター全体の昇温データを取得した。昇温温度は、面状ヒーターの6箇所を測定し、その平均値として算出した。
【0080】
(1-3.昇温試験)
昇温試験を行う部屋の雰囲気温度を20℃に設定した。
面状ヒーターに12Vの電圧を印加して、昇温試験を開始し、電圧の印加開始から2分経過後の昇温温度を記録し、この温度を伝熱性の評価の目安とした。即ち、2分後の面状ヒーターの温度が高いほど、伝熱性が良好と評価した。
電圧の印加開始2分経過後の温度が32℃以上であれば、実用上問題のない伝熱性である(Aランク)と評価し、32℃未満であれば、問題のあるレベル(Bランク)と評価した。
【0081】
(2.最大到達温度)
1.伝熱性の評価と同様にして、電圧の印加を、印加開始後15分間継続した。15分間の昇温試験時の最大到達温度を記録した。
電圧の印加条件を12V、9V及び6Vとし、それぞれの最大到達温度を記録した。いずれも、Aランクが実用上問題のないレベルであると評価した。
-評価基準(12V)-
A:最大到達温度が46℃以上である。
B:最大到達温度が46℃未満である。

-評価基準(9V)-
A:最大到達温度が36℃以上である。
B:最大到達温度が36℃未満である。

-評価基準(6V)-
A:最大到達温度が26℃以上である。
B:最大到達温度が26℃未満である。
【0082】
(3.耐久性)
2.最大到達温度の試験において、最大到達温度を記録した時点での電気抵抗値(a)を算出した。
その後、以下に示すもみ試験、及び、延伸疲労試験を行い、試験後の電気抵抗値(b)を測定し、測定値から、下記式(1)に従って算出された電気抵抗値変化率を、耐久性の目安とした。

式(1) 電気抵抗値変化率(%)=〔(b-a)/a〕×100

電気抵抗値の変化率が低いほど耐久性が良好であると評価した。
【0083】
(3-1.もみ試験)
表皮材を導電性繊維糸が編まれている方向を長さ方向として、長さ100mm、幅30mmの大きさに切り取り、試験片を作製した。
2枚の試験片の基布面を内側にして重ね合わせ、スコット形もみ試験機のつかみ具で試験片の両端をそれぞれ挟む。
荷重が9.8Nになるまで試験片間の間隔を狭め、もみ操作を以下の条件で実施した。
もみ回数:15000回
もみのサイクル:120回/min
もみのストローク:50mm
もみ試験前の電気抵抗値をa、もみ試験後の電気抵抗値をbとして、上記式(1)に従って算出された電気抵抗値変化率から以下の基準で評価した。

-評価基準-
A:電気抵抗値変化率が2.5%未満である。
B:電気抵抗値変化率が2.5%以上である。
【0084】
(3-2.延伸疲労試験)
表皮材を導電性繊維糸が編まれている方向を長さ方向として、長さ100mm、幅50mmの大きさに切り取り、試験片を作製した。
試験片の両端をTTD型延伸疲労試験機((株)大栄科学精器製作所製)に取り付けた。
取り付けた試験片に対して、前記長さ方向と平行な横方向左右に29.4Nの荷重を掛け、左右に一回ずつ29.4Nの荷重を掛ける作業を一回の操作とし、2500回繰り返し延伸疲労試験を実施した。
延伸疲労試験前の電気抵抗値をa、延伸疲労試験後の電気抵抗値をbとして、上記式(1)に従って算出された電気抵抗値変化率から以下の基準で評価した。

-評価基準-
A:電気抵抗値変化率が3.9%未満である。
B:電気抵抗値変化率が3.9%以上である。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に明らかなように、実施例1~実施例7の表皮材は、伝熱性、及び最大到達温度が良好であり、実用上問題のないレベルであり、短時間で昇温し、快適な環境を与えることが分かる。さらに、耐久性についても、実用上問題のないレベルであり、例えば、車両用シート等の耐久性を必要とする用途にも対応可能であることが分かる。
即ち、基布の編成においてフロント糸に導電性繊維糸を用いるのみで、十分な性能が得られることが確認された。さらに、実施例4及び実施例7の評価結果より、フロント糸とバック糸に導電性繊維糸を用いることで、伝熱性及び最大到達温度がより良好となる。実施例7の評価結果より、表皮層に塩化ビニル樹脂を用いた場合、表皮層の膜厚が厚くても良好な効果が達成できることがわかる。
【符号の説明】
【0087】
10 表皮材
12 基布
14 接着層
16 表皮層
18 基布(発熱部を有しない)
20 第1のフォーム層
22 第2のフォーム層
図1
図2