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特開2024-129728抗ウイルス剤、樹脂成形物、コーティング用塗料及び液状分散物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129728
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤、樹脂成形物、コーティング用塗料及び液状分散物
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20240919BHJP
   C03C 3/16 20060101ALI20240919BHJP
   C03C 3/17 20060101ALI20240919BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20240919BHJP
   C03C 12/00 20060101ALI20240919BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240919BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20240919BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240919BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240919BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240919BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
C03C3/16
C03C3/17
C03C3/062
C03C12/00
A01P3/00
A01N59/16 Z
C09D5/14
C09D201/00
C08L101/00
C08K3/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039115
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 康平
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 恵
(72)【発明者】
【氏名】山田 喜直
【テーマコード(参考)】
4G062
4H011
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4G062AA10
4G062BB01
4G062BB09
4G062CC10
4G062DA01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DA04
4G062DB01
4G062DB02
4G062DB03
4G062DC01
4G062DD05
4G062DD06
4G062DE05
4G062DF01
4G062EA01
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4G062EC01
4G062ED01
4G062ED02
4G062ED03
4G062ED04
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EE04
4G062EF01
4G062EF02
4G062EF03
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4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
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4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
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4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
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4G062GB01
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4G062GD01
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4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
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4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM13
4G062MM17
4G062MM18
4G062NN34
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA02
4J002AA011
4J002AA021
4J002BB001
4J002BC021
4J002BC061
4J002BD031
4J002BG021
4J002BN151
4J002CC001
4J002CD001
4J002CF051
4J002CG011
4J002CK021
4J002DE086
4J002DE106
4J002DH016
4J002DJ016
4J002DL006
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD060
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD130
4J002FD160
4J002FD170
4J002FD186
4J002FD206
4J002GB00
4J002GC00
4J002GH01
4J002GK00
4J002GL00
4J002GN00
4J002HA06
4J038HA216
4J038HA486
4J038KA20
4J038NA27
(57)【要約】
【課題】銀及び銅の少なくとも一方を含有しなくても優れた抗ウイルス効果と、粉末安定性とを有し、単一相のガラスを含む抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】本開示の抗ウイルス剤は、単一相のガラスを含む。前記ガラスは、前記ガラスの総量に対して、ZnOを30モル%~50モル%、Pを35モル%~60モル%、Alを0モル%~3モル%、SiOを0モル%~20モル%、及びMgOとCaOとSrOとを合計で0モル%~20モル%含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一相のガラスを含み、
前記ガラスが、前記ガラスの総量に対して、
ZnOを30モル%~50モル%、
を35モル%~60モル%、
Alを0モル%~3モル%、
SiOを0モル%~20モル%、及び
MgOとCaOとSrOとを合計で0モル%~20モル%
含有する、抗ウイルス剤。
【請求項2】
メジアン径が、0.1μm~20μmである、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の抗ウイルス剤を含む、樹脂成形物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の抗ウイルス剤を含む、コーティング用塗料。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の抗ウイルス剤を含む、液状分散物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗ウイルス剤、樹脂成形物、コーティング用塗料及び液状分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウイルスの世界的普及を背景に、抗ウイルスに対するニーズが高まっている。抗ウイルス性物質としては、アルコールや次亜塩素酸といった即効性の高い薬剤が知られている。しかしながら、これら薬剤は、一般に、一時的な効果しかなく、熱分解をしやすい。そのため、これら薬剤を付着させた抗ウイルス製品では、薬剤の持続的な効果は望めない。
【0003】
一方、長期間の抗ウイルス効果を付与する有機化合物及び無機化合物は、各種報告されており、これらは総じて「抗ウイルス剤」と呼ばれる。
【0004】
抗ウイルス剤としては、銀や銅を抗ウイルス性有効成分として含む抗ウイルス剤(以下、「銀系抗ウイルス剤」ともいう)が主流である。しかしながら、銀系抗ウイルス剤は、樹脂製品の本来の特性を損なわせるおそれがある。例えば、銀系抗ウイルス剤を樹脂製品にコーティングしたり、樹脂製品の内部に配合すると、熱や紫外線暴露等の影響で、樹脂製品には、変質、劣化、変色等が発生するおそれがある。
【0005】
複数種の金属酸化物を取り込める無機担体としてガラスが着目されているが、銀や銅を含まないものは抗ウイルス性が低いという問題があった。特許文献1は、亜鉛含有溶解性ガラスを、ZnO換算で1.4質量%~7.0質量%含有する抗ウイルス塗膜を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-177747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の亜鉛含有溶解性ガラスは樹脂加工製品を変色させるリスクは低いものの、銀や銅を含有するガラスと比較して抗ウイルス性が低く、抗ウイルス効果を十分発揮させようとすると樹脂への配合量を多くする必要があった。
【0008】
本出願人らはインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性について検討したところ、特許文献1に開示の抗ウイルス剤の抗ウイルス活性を更に改善する余地があることがわかった。
また、ガラスからなる抗ウイルス剤において、ガラスに分相が発生すると、各種成分がガラス中で局在化し、ガラスの溶解性が不均一になる。また、抗ウイルス性能のバラつきやガラス自体の着色が発生するおそれがある。
更に、上述したように、銀系抗ウイルス剤は、樹脂製品の本来の特性を損なわせるおそれがある。
そのため、銀及び銅の少なくとも一方を含有しなくても優れた抗ウイルス効果と、粉末安定性とを有し、単一相のガラスを含む抗ウイルス剤が求められている。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑みたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、銀及び銅の少なくとも一方を含有しなくても優れた抗ウイルス効果と、粉末安定性とを有し、単一相のガラスを含む抗ウイルス剤、樹脂成形物、コーティング用塗料及び液状分散物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
【0011】
<1> 単一相のガラスを含み、
前記ガラスが、前記ガラスの総量に対して、ZnOを30モル%~50モル%、Pを35モル%~60モル%、Alを0モル%~3モル%、SiOを0モル%~20モル%、及びMgOとCaOとSrOとを合計で0モル%~20モル%
含有する、抗ウイルス剤。
<2> メジアン径が、0.1μm~20μmである、前記<1>に記載の抗ウイルス剤。
<3> 前記<1>又は<2>に記載の抗ウイルス剤を含む、樹脂成形物。
<4> 前記<1>又は<2>に記載の抗ウイルス剤を含む、コーティング用塗料。
<5> 前記<1>又は<2>に記載の抗ウイルス剤を含む、液状分散物。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、銀及び銅の少なくとも一方を含有しなくても優れた抗ウイルス効果と、粉末安定性とを有し、単一相のガラスを含む抗ウイルス剤、樹脂成形物、コーティング用塗料及び液状分散物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。
【0014】
(1)抗ウイルス剤
本開示の抗ウイルス剤は、単一相のガラスを含む。前記ガラスは、前記ガラスの総量に対して、ZnO(酸化亜鉛)を30モル%~50モル%、P(五酸化二リン)を35モル%~60モル%、Al(酸化アルミニウム)を0モル%~3モル%、SiO(二酸化ケイ素)を0モル%~20モル%、及びMgO(酸化マグネシウム)とCaO(酸化カルシウム)とSrO(酸化ストロンチウム)とを合計で0モル%~20モル%含有する。
【0015】
本開示において、「ガラス」とは、非結晶質(すなわち、無定形)の固体物質で、主成分が単一相のガラスである。「単一相のガラス」とは、分相が発生していないガラスを示す。「分相」とは、単一相のガラスが、二つ以上のガラス相に分かれていることを示す。分相を有するガラスの外観は、ガラス中の分散相の粒子が光を拡散反射、散乱することで白色を呈する。
【0016】
本開示の抗ウイルス剤は、上記の構成を有するので、銀及び銅の少なくとも一方を含有しなくても優れた抗ウイルス効果と、粉末安定性とを有し、単一相のガラスからなる。
【0017】
抗ウイルス剤は、単一相のガラスを主成分とする。そのため、抗ウイルス剤は、分相が発生したガラスよりも各種成分がガラス中で良好に分散しており、ガラスの溶解性が均一になる。また、抗ウイルス性能が安定しており、ガラス自体の着色も抑制されている。
【0018】
(1.1)組成
ガラスは、上述した組成を有する。ガラスの組成の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0019】
(1.1.1)ZnO
ガラスは、ZnOを含有する。ZnOは、抗ウイルス剤に抗ウイルス性能を付与する成分である。
ZnOの含有量は、ガラスの総量に対して、30モル%~50モル%である。ZnOの含有量が50モル%超であると、ガラスに分相が発生し、単一相のガラスが得られないおそれがある。ZnOの含有量が30モル%未満であると、抗ウイルス剤の抗ウイルス性が不十分ではないおそれがある。
ZnOの含有量は、抗ウイルス性有効成分の溶解量の観点から、好ましくは34モル%~46モル%、より好ましくは35モル%~45モル%、さらに好ましくは36モル%~43モル%である。
【0020】
(1.1.2)P
ガラスは、Pを含有する。ガラス中のP成分はガラスの骨格を形成する成分である。
の含有量は、ガラスの総量に対して、35モル%~60モル%である。Pの含有量が60モル%超であるとより、ガラスの潮解性が非常に高くなり、抗ウイルス剤は、粉砕が困難な凝集物となるおそれがある。Pの含有量が35モル%未満であると、ガラスの溶解性が低下し、抗ウイルス剤の抗ウイルス効果が十分ではないおそれがある。
の含有量は、ガラスの溶解性促進の観点から、好ましくは37モル%~57モル%、より好ましくは42モル%~54モル%、さらに好ましくは46モル%~51モル%である。
【0021】
(1.1.3)Al
ガラスは、Alを含有してもよいし、含有しなくてもよい。ガラス中のAl成分はガラスの骨格を形成する成分である。一般にPの含有量が比較的高いガラスは吸湿性が高い。ガラスがAlを含有することで、ガラスの吸湿性は低下し、凝集しにくい安定なガラスの骨格が形成され得る。
Alの含有量は、ガラスの総量に対して、0モル%~3モル%である。Alの含有量が3モル%超であると、ガラスの溶解性は低下し、抗ウイルス剤の抗ウイルス効果が十分ではないおそれがある。
Alの含有量は、ガラスの溶解性コントロールの観点から、好ましくは0モル%~2モル%、より好ましくは0モル%~1モル%、さらに好ましくは0モル%~0.5モル%である。ガラスの耐久性の観点からはAlが存在することが好ましく、含有量は、ガラスの総量に対して0.05モル%以上であることが好ましい。
【0022】
(1.1.4)SiO
ガラスは、SiOを含有してもよいし、含有しなくてもよい。ガラス中のSiO成分は、ガラスの骨格を形成する成分である。ガラスがSiOを含有することで、リン酸塩ガラスの溶解性が適度に促進され、抗ウイルス性有効成分である亜鉛イオンの放出量が増えて、抗ウイルス剤の抗ウイルス効果は向上し得る。
SiOの含有量は、ガラスの総量に対して、0モル%~20モル%である。SiOの含有量が20モル%超であると、ガラスに分相が発生し、単一相のガラスが得られないおそれがある。
SiOの含有量は、0モル%超20モル%以下が好ましく、ガラスの溶解性促進の観点から、好ましくは4モル%~20モル%、より好ましくは6モル%~19モル%、さらに好ましくは8モル%~18モル%である。
【0023】
(1.1.5)MgO、CaO及びSrO
ガラスは、MgO、CaO及びSrOのいずれか1種を含有してもよいし、複数種を含有していてもよい。MgO、CaO、及びSrOといったアルカリ土類金属の酸化物は、ガラス化可能な溶融温度範囲を調整する機能を有する。本開示のようにZnOの含有量およびPの含有量が比較的多いガラスでは、ガラス化可能な溶融温度範囲が狭くなる傾向がある。抗ウイルス剤がMgO、CaO及びSrOのいずれか1種を含有することで、ガラス化可能な溶融温度範囲が広がり、抗ウイルス剤が製造されやすくなる。
MgOとCaOとSrOとの合計の含有量は、0モル%~20モル%である。MgOとCaOとSrOとの合計の含有量が20モル%超であると、ガラスに分相が発生し、単一相のガラスが得られないおそれがある。また、MgO、CaO及びSrOのうち、CaO又はSrOを上記含有量で含有することが好ましく、CaOを上記含有量で含有することがより好ましい。
MgOとCaOとSrOとの合計の含有量は、ガラスの溶解性コントロールの観点から、好ましくは0モル%~15モル%、より好ましくは0モル%~10モル%、さらに好ましくは0モル%~7モル%である。
【0024】
(1.1.6)その他のガラス形成成分
ガラスは、本開示の組成範囲内であれば、所望により、その他のガラス形成成分を更に含んでもよいし、含まなくてもよい。その他のガラス形成成分としては、F(フッ素)、修飾成分等が挙げられる。Fは酸素の代わりにリン部分に結合することが可能であり、ガラスの溶解性は向上する。修飾成分としては、LiO(酸化リチウム)、Na(ナトリウム)、KO(酸化カリウム)等が挙げられる。修飾成分は、ガラスの溶融性や成形性を向上させることができる。ガラスが修飾成分を含む場合、修飾成分の含有量は、ガラスの総量に対して、10モル%以下であることが好ましい。修飾成分の含有量が10モル%以下であれば、ガラスの耐水性及び本開示のガラスの特徴を損なわれることなく、ガラスの溶融性や成形性を向上させることができる。
【0025】
(1.1.7)より好ましい組成
ガラスは、ガラスの総量に対して、ZnOを36モル%~43モル%、Pを45モル%~51モル%、Alを0モル%~0.5モル%、SiOを8モル%~18モル%、及びMgOとCaOとSrOとを合計で0モル%~7モル%含有することが好ましい。これにより、抗ウイルス剤の抗ウイルス効果は特に優れる。
【0026】
(1.2)形状
抗ウイルス剤の形状は、特に限定されず、様々な材質や形態への加工に適用させる観点から、粉末状であることが好ましい。粉末状の抗ウイルス剤は、後述する樹脂成形物、コーティング用塗料、及び液状分散物に好適に用いられる。
【0027】
抗ウイルス剤のメジアン径は、特に限定されず、好ましくは0.01μm~50μm、より好ましくは0.1μm~20μmである。
抗ウイルス剤のメジアン径が0.01μm~50μmであれば、下記の効果が発揮される。すなわち、粉末状の抗ウイルス剤は凝集し難いため、抗ウイルス剤の取り扱いが容易になる。更に、コーティング組成物に抗ウイルス剤を配合させた場合、コーティング組成物中の抗ウイルス剤の分散性は優れる。そのため、繊維の表面にコーティング組成物を塗布した場合、皮膜付き繊維の風合いを損ねることがない。更に、樹脂組成物に抗ウイルス剤を配合させて、樹脂組成物から紡糸して繊維を作製した場合、糸切れが発生しにくくなる。
抗ウイルス剤のメジアン径が0.1μm~20μmであれば、下記の効果が発揮される。すなわち、抗ウイルス剤の取り扱いがより容易になる。更に、コーティング組成物に抗ウイルス剤を配合させた場合、コーティング組成物中の抗ウイルス剤の分散性はより優れる。そのため、繊維の表面にコーティング組成物を塗布した場合、皮膜付き繊維の風合いをより損ねることがない。更に、樹脂組成物に抗ウイルス剤を配合させて、樹脂組成物から紡糸して繊維を作製した場合、糸切れがより発生しにくくなる。
「抗ウイルス剤のメジアン径」とは、レーザー光回折散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定した抗ウイルス剤の体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50体積%に相当する粒径を示す。抗ウイルス剤のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0028】
(1.3)使用態様
抗ウイルス剤の使用形態は、特に制限がなく、抗ウイルス剤を単独で使用することもでき、用途に応じて、適宜、他の成分と混合したり、他の材料と複合化させたりすることができる。抗ウイルス剤は、人が接触する可能性のある材料であってもよい。
粉末状の抗ウイルス剤の使用態様は、例えば、樹脂組成物、コーティング用分散液、粒子、繊維、紙、フィルム、エアゾール等が挙げられる。有機無機複合材料は、必要に応じて、各種の添加剤(例えば、消臭剤、抗菌剤、抗カビ剤、防炎剤、防食、肥料等)、建材等の材料(例えば、コンクリート、ガラス、木材、石材等)等と併用されてもよい。
【0029】
(2)樹脂成形物
本開示の樹脂成形物は、本開示の抗ウイルス剤を含む。これにより、製品に、抗ウイルス剤を含むコーティング用塗料を塗装しなくても、樹脂成形物は、優れた抗ウイルス効果を有する。
【0030】
樹脂成形物は、樹脂組成物を成形加工してなる。樹脂組成物は、抗ウイルス剤及び樹脂を含み、必要に応じて、充填材、難燃剤、表面処理剤及び配合剤の少なくとも1種を更に含んでもよいし、含まなくてもしなくてもよい。
【0031】
樹脂組成物に使用可能な樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独で使用されてもよく、併用されてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重体(ABS樹脂)、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリアセタール、フッ素系樹脂、ポリサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリケトン等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
樹脂組成物に使用可能な充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、無機物、ミネラル、セルロース繊維等が挙げられる。
樹脂組成物に使用可能な難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、ノンハロゲン系難燃剤等が挙げられる。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、脂肪族系臭素化合物、芳香族系臭素化合物、塩素系化合物等が挙げられる。ノンハロゲン系難燃剤としては、例えば、りん系難燃剤、無機系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤等が挙げられる。
樹脂組成物に使用可能な表面処理剤としては、カップリング剤、シリコーンオイル等が挙げられる。カップリング剤としては、例えば、ビニルシラン(例えば、ビニルトリエトキシシランやビニルトリメトキシシラン等)、(メタ)アクリロキシシラン(例えば、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシランやγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等)、グリシドキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシチタン、アルミニウムエチラート等が挙げられる。シリコーンオイルとしては、例えば、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、反応性シリコーン、非反応性シリコーン等が挙げられる。
樹脂組成物に使用可能な配合剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0032】
抗ウイルス剤の含有量は、樹脂組成物の用途に応じて適宜選択され、樹脂組成物の総量に対して、好ましくは0.1質量%~10質量%、より好ましくは0.2質量%~5質量%、さらに好ましくは0.5質量%~3質量%である。
【0033】
樹脂組成物の成形加工法は、樹脂成形品の種類等に応じて、適宜選択され、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、スタンバブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、積層成形、カレンダー成形、発泡成形、注型成形、粉末成形、ペースト成形等が挙げられる。
【0034】
樹脂成形物としては、繊維製品、フィルム、板、立体構造体(例えば、袋、容器、筐体、住宅建材、自動車部品等)等が挙げられる。繊維製品としては、例えば、衣料用品、寝具類等が挙げられる。衣料用品としては、例えば、ストッキング、下着、パンツ、ブラジャー、ガードル、スパッツ、ジャンパー、ダウンジャケット、セーター、カーディガン、ズボン、ベスト、帽子、手袋、靴下、ワンピース、靴、サンダル、作業着、制服、白衣、パジャマ、マフラー、ネックウォーマー、肌着、Tシャツ、Yシャツ、スーツ、礼服、ネクタイ、マスク、腹巻、帯、着物、足袋、スポーツウェア、ジャージ、バンダナ、トレーナー、スウェット及びリストバンド等が挙げられる。寝具類としては、例えば、例えば、枕、布団、枕カバー、布団カバー、シーツ、毛布、タオルケット、敷きパット、布団収納袋、タオル、ハンカチ、ガウン、及びスリッパ等が挙げられる。
【0035】
(3)コーティング用塗料
本開示のコーティング用塗料は、本開示の抗ウイルス剤を含む。コーティング用塗料は、コーティング用塗料が塗装された物品に優れた抗ウイルス効果を付与することができる。コーティング用塗料は、後加工処方として好適に用いられる。
【0036】
コーティング用塗料は、必要に応じて、バインダー、分散剤、及び添加剤の少なくとも1種を更に含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0037】
コーティング用塗料に使用可能なバインダーとしては、天然樹脂、天然樹脂誘導体、フェノール樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、クマロン・インデン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、環化ゴム、塩素化ゴム、アルキド樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルプラチラール、塩素化ポリプロピレン、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース誘導体等が挙げられる。これらのバインダーは単独で使用されてもよく、併用されてもよい。
コーティング用塗料に使用可能な分散剤としては、特に限定されず、高分子型分散剤(例えば、ポリカルボン酸系、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等)、界面活性剤型分散剤(例えば、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等)、無機型分散剤(例えば、ポリリン酸塩系等)、水、アルコール溶液、石灰、ソーダ灰、ケイ酸ソーダ、デンプン、ニカワ、ゼラチン、タンニン等が挙げられる。これらの分散剤は単独で使用されてもよく、併用されてもよい。
コーティング用塗料に使用可能な添加剤としては、顔料(例えば、酸化亜鉛、酸化チタン等)、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、滑剤(例えば、金属石鹸等)、増粘剤、防湿剤及び増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防黴剤、抗菌剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤等が挙げられる。これらの添加剤は単独で使用されてもよく、併用されてもよい。
【0038】
抗ウイルス剤の含有量は、コーティング用塗料の用途に応じて適宜選択され、コーティング用塗料の総量に対して、好ましくは0.1質量%~10質量%、より好ましくは0.2質量%~5質量%、さらに好ましくは0.5質量%~3質量%である。
抗ウイルス剤のメジアン径は、コーティング用塗料中の抗ウイルス剤の分散安定性を向上させる等の観点から、0.1μm~20μmであることが好ましい。
【0039】
コーティング用塗料は、抗ウイルス性が必要とされる種々の分野の製品の表面への皮膜の形成に有用である。分散剤の塗布方法は、特に限定されず、塗布、又は浸漬等が挙げられる。製品としては、電化製品、台所製品、繊維製品(例えば、織布、不織布、編物等)、住宅建材製品、トイレタリー製品、紙製品、玩具、皮革製品、文具等が挙げられる。
【0040】
(4)液状分散物
本開示の液状分散物は、本開示の抗ウイルス剤を含む。液状分散物は、液状分散物が塗装された物品に優れた抗ウイルス効果を付与することができる。液状分散物は、後加工処方として好適に用いられる。
【0041】
液状分散物は、必要に応じて、バインダー、分散剤、及び添加剤の少なくとも1種を更に含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0042】
液状分散物に使用可能なバインダーとしては、天然樹脂、天然樹脂誘導体、フェノール樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、クマロン・インデン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、環化ゴム、塩素化ゴム、アルキド樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルプラチラール、塩素化ポリプロピレン、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース誘導体等が挙げられる。これらのバインダーは単独で使用されてもよく、併用されてもよい。
液状分散物に使用可能な分散剤としては、特に限定されず、高分子型分散剤(例えば、ポリカルボン酸系、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等)、界面活性剤型分散剤(例えば、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等)、無機型分散剤(例えば、ポリリン酸塩系等)、水、アルコール溶液、石灰、ソーダ灰、ケイ酸ソーダ、デンプン、ニカワ、ゼラチン、タンニン等が挙げられる。これらの分散剤は単独で使用されてもよく、併用されてもよい。
液状分散物に使用可能な添加剤としては、顔料(例えば、酸化亜鉛、酸化チタン等)、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、滑剤(例えば、金属石鹸等)、増粘剤、防湿剤及び増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防黴剤、抗菌剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤等が挙げられる。これらの添加剤は単独で使用されてもよく、併用されてもよい。
【0043】
抗ウイルス剤の含有量は、液状分散物の用途に応じて適宜選択され、液状分散物の総量に対して、好ましくは0.1質量%~30質量%、より好ましくは0.5質量%~20質量%である。
抗ウイルス剤のメジアン径は、液状分散物中の抗ウイルス剤の分散安定性を向上させる等の観点から、0.1μm~20μmであることが好ましい。
【0044】
液状分散物は、抗ウイルス性が必要とされる種々の分野の製品の表面への皮膜の形成に有用である。液状分散物の塗装方法は、特に限定されず、吹き付け等が挙げられる。製品としては、電化製品、台所製品、繊維製品(例えば、織布、不織布、編物等)、住宅建材製品、トイレタリー製品、紙製品、玩具、皮革製品、文具等が挙げられる。
【実施例0045】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[1]実施例1~実施例11、比較例1~6
表1に示す組成となるように原料を調合して、原料調合物を得た。原料調合物を1000℃~1200℃で加熱溶融し、冷却して、生成物を得た。生成物をボ-ルミルにて乾式粉砕して、粉末状の抗ウイルス剤を得た。ただし、比較例3のみ潮解性が高く、粉砕ができなかった。
【0047】
[1.1]組成分析
蛍光X線分析装置(株式会社リガク製)を用いて、蛍光X線分析(XRF)により抗ウイルス剤の定性分析を行い、検量線(FP)法により、Zn、P、Al、Si、Mg、Ca、Sr及びBaの各々の含有量(半定量値)を求めた。なお、抗ウイルス剤中、すべてのZnはZnOであると仮定し、すべてのPはPであると仮定し、すべてのAlはAlであると仮定し、すべてのSiはSiOであると仮定し、すべてのMgはMgOであると仮定し、すべてのCaはCaOであると仮定し、すべてのSrはSrOであると仮定し、すべてのBaはBaOであると仮定して、含有量(半定量値)を算出した。
【0048】
[1.2]ガラス化評価
粉砕前のガラス片を目視で観察し、下記の基準で、抗ウイルス剤のガラス化評価を行った。評価結果を表1に示す。許容可能なガラス化評価の結果は、「A1」である。
【0049】
A1:粉砕前のガラス片の外観が白濁していなかった。
B1:粉砕前のガラス片の外観が白濁していた。
【0050】
「A1」は、抗ウイルス剤の主成分が単一相のガラスであると評価できる。「B1」は、抗ウイルス剤が単一相のガラスではないと評価できる。比較例4~比較例6の抗ウイルス剤では、ガラスの分相の発生を確認した。
【0051】
[1.3]粉末安定性評価
生成物をボ-ルミルにて乾式粉砕した時点から6時間、抗ウイルス剤を室内(温度:23℃、湿度:75%)で保管し、保管後の抗ウイルス剤を目視で観察して、下記の基準で、抗ウイルス剤の粉末安定性評価を行った。評価結果を表1に示す。許容可能な粉末安定性評価の結果は、「A2」である。
【0052】
A2:保管後の抗ウイルス剤は、凝集していなかった(すなわち、粉末状のままであった)。
B2:保管後の抗ウイルス剤は、潮解して、凝集固化していた。
【0053】
「A2」は、抗ウイルス剤が粉末安定性を有すると評価できる。「B2」は、抗ウイルス剤が粉末安定性を有しないと評価できる。
【0054】
[1.4]メジアン径の測定
粉末安定性評価が「A2」であった保管後の抗ウイルス剤の粒度分布(体積基準)を、レーザー回折式装置(Malvern Panalytical社製の「マスターサイザー 2000」))を用いて測定した。粒度分布(体積基準)の測定には、分散媒として水が用いられ、分散剤は用いられなかった。粒度分布(体積基準)の微粒子側からの累積50体積%に相当する粒径(粒度分布D50)を、抗ウイルス剤のメジアン径とした。測定結果を表1に示す。
【0055】
[2]抗ウイルス性評価
粉末安定性評価が「A2」であった抗ウイルス剤(実施例1~実施例11、比較例1~比較例2、比較例4~比較例6)について、下記の2種類の抗ウイルス性評価を行った。
【0056】
[2.1]抗ウイルス性評価(水)
[2.1.1]抗ウイルス剤溶出液のウイルス感染価
粉末状の抗ウイルス剤(以下、「ガラス」ともいう)に精製水を加えて0.6mg/mLに調整し、25度で10分間攪拌した。その後、0.4μmのメンブレンフィルターでろ過を行った。これにより、精製水に溶けなかったガラスと、精製水に中にガラス溶けたガラス溶出液(以下、「ろ液」ともいう)とを分離した。
900μLのろ液に対して、100μLのA型インフルエンザウイルス液(以下、「第1ウイルス液」ともいう)を加えて、25℃で2時間静置して、混合液を得た。第1ウイルス液のウイルス感染価は、1×10PFU/mL~5×10PFU/mLであった。
混合液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供し、抗ウイルス剤溶出液のウイルス感染価を計測した。
【0057】
[2.1.2]精製水のウイルス感染価
900μLの精製水に対して、100μLの上記第1ウイルス液を加えて、25℃で2時間静置して、混合液を得た。混合液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供し、精製水のウイルス感染価を計測した。
【0058】
[2.1.3]評価
ウイルス感染価の計測値に基づき、下記の基準で、抗ウイルス性評価(水)を行った。評価結果を表1に示す。許容可能な抗ウイルス性評価(水)の結果は、「+++」、「++」又は「+」である。
【0059】
+++:Log(精製水のウイルス感染価)-Log(抗ウイルス剤溶出液のウイルス感染価)が3以上である。
++ :Log(精製水のウイルス感染価)-Log(抗ウイルス剤溶出液のウイルス感染価)が2以上3未満である。
+ :Log(精製水のウイルス感染価)-Log(抗ウイルス剤溶出液のウイルス感染価)が1以上2未満である。
- :Log(精製水のウイルス感染価)-Log(抗ウイルス剤溶出液のウイルス感染価)が1未満である。
【0060】
抗ウイルス性評価(水)では、「+++」、「++」及び「+」は、この順に抗ウイルス性が優れる。
【0061】
[2.2]抗ウイルス性評価(樹脂)
[2.2.1]抗ウイルス剤樹脂プレートのウイルス感染価
粉末状の抗ウイルス剤と、ABS樹脂又はPET樹脂とを混合して、樹脂組成物を得た。ABS樹脂として、テクノポリマー株式会社製の商品名「テクノポリマー130」を用いた。PET樹脂として、ユニチカ株式会社製の商品名「ユニチカMA-2101M」を用いた。抗ウイルス剤の配合量は、樹脂組成物の総量に対して、2質量%であった。
樹脂組成物を射出成形機(名機製作所株式会社製の「M-50AII-DM」)に投入し、射出成形して、抗ウイルス剤樹脂プレートを得た。射出成形の成形温度は、ABS樹脂を用いた場合は240℃、PET樹脂を用いた場合は270℃であった。抗ウイルス剤樹脂プレートのサイズは、5cm×5cm×1mmであった。
【0062】
抗ウイルス剤樹脂プレートの表面に、A型インフルエンザウイルス液(以下、「第2ウイルス液」ともいう)を滴下した。第2ウイルス液のウイルス感染価は、1×10PFU/mL~5×10PFU/mLであった。
抗ウイルス剤樹脂プレートの表面に滴下された第2ウイルス液の液部分を、ポリエチレンフィルムで被覆して、25℃で24時間静置した。ポリエチレンフィルムのサイズは、4cm×4cmであった。
その後、抗ウイルス剤樹脂プレートの表面に滴下された第2ウイルス液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供して、抗ウイルス剤樹脂プレートのウイルス感染価を計測した。
【0063】
[2.2.2]ブランク樹脂プレートのウイルス感染価
抗ウイルス剤を用いないことの他は、上記の抗ウイルス剤樹脂プレートの作製方法と同様にして、ブランク樹脂プレートを得た。ブランク樹脂プレートは、ABS樹脂又はPET樹脂からなる。
【0064】
ブランク樹脂プレートの表面に、第2ウイルス液を滴下した。
ブランク樹脂プレートの表面上の第2ウイルス液の液部分を、上記ポリエチレンフィルムで被覆して、25℃で24時間静置した。
その後、ブランク樹脂プレートの表面に滴下された第2ウイルス液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供して、ブランク樹脂プレートのウイルス感染価を計測した。
【0065】
[2.2.3]評価
ウイルス感染価の計測値に基づき、下記の基準で、抗ウイルス性評価(樹脂)を行った。評価結果を表1に示す。許容可能な抗ウイルス性評価(樹脂)の結果は、「+++」、「++」又は「+」である。
【0066】
+++:Log(ブランク樹脂プレートのウイルス感染価)-Log(抗ウイルス加工プレートのウイルス感染価)が、3以上である。
++ :Log(ブランク樹脂プレートのウイルス感染価)-Log(抗ウイルス加工プレートのウイルス感染価)が、2以上3未満である。
+ :Log(ブランク樹脂プレートのウイルス感染価)-Log(抗ウイルス加工プレートのウイルス感染価)が、1以上2未満である。
- :Log(ブランク樹脂プレートのウイルス感染価)-Log(抗ウイルス加工プレートのウイルス感染価)が、1未満である。
【0067】
抗ウイルス性評価(樹脂)では、「+++」、「++」及び「+」は、この順に抗ウイルス性が優れる。
【0068】
【表1】
【0069】
[3]結果
[3.1]比較例1~比較例6
比較例1では、Alの含有量が0モル%~3モル%の範囲外であった。比較例2では、ZnOの含有量が30モル%~50モル%の範囲外であった。そのため、比較例1及び比較例2では抗ウイルス性有効成分である亜鉛イオンの溶出量が低く、抗ウイルス性評価(水)及び抗ウイルス性評価(樹脂)は、「-」であった。つまり、比較例1及び比較例2の抗ウイルス剤の抗ウイルス効果は優れていなかった。
【0070】
比較例3では、Pの含有量が35モル%~60モル%の範囲外であった。そのため、比較例3の粉末安定性評価は、「B2」であった。つまり、比較例3の抗ウイルス剤は、粉末安定性を有しておらず、潮解性が高いため粉砕できなかった。
【0071】
比較例4では、SiOの含有量が0モル%~20モル%の範囲外であった。比較例5では、ZnOの含有量が30モル%~50モル%の範囲外であった。比較例6では、MgOとCaOとSrOとの合計の含有量が0モル%~20モル%の範囲外であった。そのため、比較例4~比較例6のガラス化評価は、「B1」であった。つまり、比較例4~比較例6では、ガラスに明らかな分相が存在し、抗ウイルス性能が低くなる傾向があった。
【0072】
以上の結果より、比較例1~比較例6の抗ウイルス剤は、銀及び銅の少なくとも一方を含有しなくても優れた抗ウイルス効果と、粉末安定性とを有し、単一相のガラスを含む抗ウイルス剤ではないことがわかった。
【0073】
[3.2]実施例1~実施例11
実施例1~実施例11の抗ウイルス剤は、単一相のガラスを含み、ガラスは、ZnOを30モル%~50モル%、Pを35モル%~60モル%、Alを0モル%~3モル%、SiOを0モル%~20モル%、及びMgOとCaOとSrOとを合計で0モル%~20モル%含有していた。そのため、ガラス化評価は「A1」、粉末安定性評価は「A2」、抗ウイルス性評価(水)及び抗ウイルス性評価(樹脂)は「+++」、「++」又は「+」であった。その結果、実施例1~実施例11の抗ウイルス剤は、銀及び銅の少なくとも一方を含有しなくても優れた抗ウイルス効果と、粉末安定性とを有し、単一相のガラスを含む抗ウイルス剤であることがわかった。