(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129730
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】熱伝導性グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 107/02 20060101AFI20240919BHJP
C10M 107/34 20060101ALI20240919BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20240919BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240919BHJP
C10N 10/06 20060101ALN20240919BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240919BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20240919BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240919BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
C10M107/02
C10M107/34
C10M105/32
C10N10:04
C10N10:06
C10N50:10
C10N20:06 Z
C10N30:00 Z
C10N40:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039119
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺内 隆二
(72)【発明者】
【氏名】木村 光伸
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA13C
4H104AA17C
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB32A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BH03A
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104EA08C
4H104FA02
4H104FA03
4H104LA20
4H104PA50
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】高熱伝導性を有し、塗布性に優れ、かつポンプアウト現象の発生を抑制する熱伝導性グリース組成物の提供。
【解決手段】基油と、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを含む熱伝導性フィラーと、炭酸カルシウム粒子と、を含有する熱伝導性グリース組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを含む熱伝導性フィラーと、
炭酸カルシウム粒子と、
を含有する熱伝導性グリース組成物。
【請求項2】
前記炭酸カルシウム粒子の含有量が、前記熱伝導性フィラーの含有量に対して、0.1質量%以上1質量%以下である請求項1に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項3】
前記炭酸カルシウム粒子の体積平均粒子径が10nm以上200nm以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項4】
前記窒化アルミニウムの含有量が、前記酸化亜鉛の含有量よりも多い、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーが、体積平均粒子径0.15μm以上2μm未満である熱伝導性フィラーA及び体積平均粒子径2μm以上40μm以下である熱伝導性フィラーBを含み、前記熱伝導性フィラーAが酸化亜鉛を含み、前記熱伝導性フィラーBが窒化アルミニウムを含む、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーBの含有量に対する、前記熱伝導性フィラーAの含有量の比が、質量基準で、0.20以上0.80以下である、請求項5に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項7】
更に、分散剤を含有する、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項8】
前記分散剤が、ヒドロキシ基を有するポリアルキレングリコール化合物を含む、請求項7に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項9】
前記熱伝導性フィラーの合計含有量が、熱伝導性グリース組成物の全量に対して、90質量%以上98質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項10】
前記基油が、ポリアルファオレフィン及び有機酸エステルを含む、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等に使用される半導体部品の中には、コンピュータのCPUや電源制御用のパワー半導体のように使用中に発熱をともなう部品がある。これらの半導体部品を熱から保護し、正常に機能させるためには、発生した熱をヒートシンク等の放熱部品へ伝導させ放熱する方法がある。熱伝導性グリース組成物は、半導体部品等の発熱をともなう部品と、放熱部品と、を密着させるように両者の間に塗布され、熱の伝導を高めるために用いられる。
【0003】
熱伝導性グリース組成物としては、例えば、特許文献1には、「(A)熱伝導率が200W/(m・K)以上で平均粒径5~50μmの金属粉末、(B)新モース硬度が6以上で平均粒径5~50μmの粗粒無機充填剤、(C)平均粒径0.15~2μmの細粒無機充填剤、(D)基油、及び(E)(ポリ)グリセリルエーテル、並びにアルケニルコハク酸イミド及びそのホウ素誘導体から選ばれる1種以上の表面改質剤を含有する高熱伝導性コンパウンドであって、(A)、(B)及び(C)の合計含有量がコンパウンド全量中88~97質量%の範囲であり、かつ(A)と(B)の合計含有量と(C)の含有量の質量比が20:80~85:15の範囲であり、(D)の含有量がコンパウンド全量中12質量%未満であり、さらに(E)の含有量がコンパウンド全量中それぞれ0.08~4質量%である割合となるように(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)成分が配合されたものであることを特徴とする高熱伝導性コンパウンド。」が提案されている。
【0004】
また、熱伝導性グリース組成物には、熱伝導率を向上させるべく各種の熱伝導性材料から選択された熱伝導性フィラーが用いられている。熱伝導性材料としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウムなどの金属酸化物や、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの窒化物、アルミニウムや銅、銀などの金属粉末が使用されている。このような熱伝導性材料の中でも窒化アルミニウムは、高い熱伝導性を有する熱伝導性材料として知られており、種々の改良が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-210437号公報
【特許文献2】特開2017-014445号公報
【特許文献3】国際公開第2014/123247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器の小型化、高密度化に伴い、高い熱伝導率を有する熱伝導性グリース組成物に対する要求がある。熱伝導性グリース組成物を高熱伝導化する手段としては、例えば、熱伝導性フィラーの高充填、又は、熱伝導率の高いフィラーを用いることが考えられる。
【0007】
しかし、熱伝導性フィラーの高充填は、熱伝導性グリース組成物の粘度を上昇させ、塗布性を低下させる原因となり得る。塗布性の低下は、熱伝導性グリース組成物の薄膜塗布を困難とし、延いては熱抵抗を悪化させ得る。一方、熱伝導率の高いフィラーとしては、金属フィラー、金属窒化物(例えば、窒化アルミニウム)等が挙げられるが、熱伝導率の高いフィラーは、概して、熱伝導性グリース組成物に汎用される樹脂成分との相溶性に劣る。そのため、熱伝導率の高いフィラーの含有により、熱伝導性グリース組成物の粘度が上昇してしまうことがあり、この場合も塗布性を低下させる原因となり得る。
【0008】
また、熱伝導性グリース組成物は、冷熱衝撃などで熱伝導性グリース組成物がずれてしまい(ポンプアウト現象)放熱が十分できないことがある。そうすると、半導体部品等の発熱をともなう部品が誤作動を起こしてしまうことがある。ポンプアウト現象の発生を抑制する手段として、例えば、シリコーン系高分子化合物の配合なども考えられるが、熱伝導性グリース組成物の粘度が上昇してしまうことがあり、この場合も、熱伝導性フィラーの高充填化を妨げ、熱伝導性グリース組成物の塗布性を低下させる原因となり得る。
【0009】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、高熱伝導性を有し、塗布性に優れ、かつポンプアウト現象の発生を抑制する熱伝導性グリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 基油と、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを含む熱伝導性フィラーと、炭酸カルシウム粒子と、を含有する熱伝導性グリース組成物。
<2> 炭酸カルシウム粒子の含有量が、熱伝導性フィラーの含有量に対して、0.1質量%以上1質量%以下である、<1>に記載の熱伝導性グリース組成物。
<3> 炭酸カルシウム粒子の体積平均粒子径が10nm以上200nm以下である<1>又は<2に記載の熱伝導性グリース組成物。
<4> 窒化アルミニウムの含有量が、酸化亜鉛の含有量よりも多い、<1>~<3>のいずれか1つに記載の熱伝導性グリース組成物。
<5> 熱伝導性フィラーが、体積平均粒子径0.15μm以上2μm未満である熱伝導性フィラーA及び体積平均粒子径2μm以上40μm以下である熱伝導性フィラーBを含み、<熱伝導性フィラーAが酸化亜鉛を含み、熱伝導性フィラーBが窒化アルミニウムを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の熱伝導性グリース組成物。
<6> 熱伝導性フィラーBの含有量に対する、熱伝導性フィラーAの含有量の比が、質量基準で、0.20以上0.80以下である、<5>に記載の熱伝導性グリース組成物。
<7> 更に、分散剤を含有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の熱伝導性グリース組成物。
<8> 分散剤が、ヒドロキシ基を有するポリアルキレングリコール化合物を含む、<7>に記載の熱伝導性グリース組成物。
<9> 熱伝導性フィラーの合計含有量が、熱伝導性グリース組成物の全量に対して、90質量%以上97質量%以下である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の熱伝導性グリース組成物。
<10> 基油が、ポリアルファオレフィン及び有機酸エステルを含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の熱伝導性グリース組成物。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、高熱伝導性を有し、塗布性に優れ、かつポンプアウト現象の発生を抑制する熱伝導性グリース組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0014】
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0015】
本開示における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶剤PFP(ペンタフルオロフェノール)/クロロホルム=1/2(質量比)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
【0016】
<熱伝導性グリース組成物>
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、基油と、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを含む熱伝導性フィラーと、炭酸カルシウム粒子と、を含有する。
【0017】
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、上記構成により、高熱伝導性を有し、塗布性に優れ、かつポンプアウト現象の発生を抑制する。ポンプアウト現象とは、冷熱衝撃を受けることで、ある位置に配置された熱伝導性グリース組成物の位置にずれが生じる現象をいう。
【0018】
本開示に係る熱伝導性グリース組成物が、このような効果を発揮する理由については、明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。
【0019】
窒化アルミニウムは熱伝導性に優れた材料であるが、窒化アルミニウムを熱伝導性フィラーとして熱伝導性グリース組成物に単独で高含有量で含有させた場合、グリース組成物の塗布性を顕著に低下させる或いは組成物がグリース化しない場合がある。また、グリース化した場合であってもポンプアウト現象の発生抑制に劣る。ここで、グリース化とは、基油と熱伝導性フィラーとを含有する組成物が、常温(25℃)において、外力により粘性変形を示すペースト状になることを言う。
【0020】
一方、本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを含む熱伝導性フィラーと、炭酸カルシウム粒子と、を含有することで、基油、熱伝導性フィラー及び炭酸カルシウム粒子の相互作用により、熱伝導性グリース組成物の熱伝導性が向上し、かつ、適切な増粘状態が発現することから、良好な塗布性と、ポンプアウト現象の発生を抑制が発揮されるものと推察される。
【0021】
(基油)
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、基油を含有する。
基油としては、特に限定されず、例えば、鉱油、合成炭化水素油、有機酸エステル、リン酸エステル、シリコーン油、フッ素油などが挙げられる。
基油は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0022】
鉱油としては、例えば、原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製、水素化脱蝋などの精製法を適宜組合せて精製したものが挙げられる。加えて、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋又は水素化脱蝋などの処理を施した高度に精製されたパラフィン系鉱油等が挙げられる。
【0023】
合成炭化水素油としては、例えば、ポリアルファオレフィン等が挙げられる。
ポリアルファオレフィンとしては、エチレン;プロピレン;ブテン;これらの誘導体などを原料として製造されたアルファオレフィン;等を、単独又は2種以上混合して重合したものが挙げられる。
ポリアルファオレフィンとしては、炭素数6以上18以下のアルファオレフィンの重合体であることが好ましい。
ポリアルファオレフィンとしては、1-デセンの重合体、及び1-ドデセンの重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0024】
有機酸エステルとしては、例えば、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル等が挙げられる。
モノエステルとしては、一塩基酸と、アルコールと、のエステルが挙げられる。
一塩基酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸などの脂肪酸;アクリル酸;メタクリル酸;等が挙げられる。
モノエステルの合成に用いられるアルコールとしては、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、メタノール、エタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ラウリルアルコールなどが挙げられる。
【0025】
ジエステルとしては、二塩基酸と、アルコールと、のエステルが挙げられる。
二塩基酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。
ジエステルの合成に用いるアルコールとしては、1価のアルコールであってもよく、1分子内に水酸基を2つ以上有する多価アルコールであってもよい。
ジエステルの合成に用いるアルコールとしては、モノエステルの合成に用いられるアルコールと同一のアルコールが適用可能である。
【0026】
ポリオールエステルとしては、ポリオールと、飽和脂肪酸と、のエステルが挙げられる。
ポリオールとしては、2価アルコール、ヒドロキシ基を基準としてβ位の炭素上に水素原子が存在していないポリオールなどが挙げられる。
2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、2-ブチル-2-エチルプロパンジオール、2,4-ジエチル-ペンタンジオー
ルなどが挙げられる。
ヒドロキシ基を基準としてβ位の炭素上に水素原子が存在していないポリオールとしては、具体的には、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
飽和脂肪酸としては特に限定されず、例えば、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸等が挙げられる。
【0027】
リン酸エステルとしては、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が挙げられる。
シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のポリシロキサン;変性シリコーン;などが挙げられる。
フッ素油としては、パーフルオロポリエーテルなどが挙げられる。
【0028】
基油は、高熱伝導性と塗布性との良好なバランス、及び、ポンプアウト現象の発生を抑制する観点から、基油は、ポリアルファオレフィン及び有機酸エステルを含むことが好ましい。また、低分子シロキサンガスを含む基油を適用は、低分子シロキサンガスによる接点障害を生じる場合があるが、ポリアルファオレフィン及び有機酸エステルの適用は、低分子シロキサンガスによる接点障害を防止できる観点からも好ましい。
【0029】
ポリアルファオレフィンの含有量は、ポリアルファオレフィン及び有機酸エステルの合計の含有量に対して、70質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上99質量%以下であることがより好ましく、85質量%以上99質量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
基油の含有量としては、熱伝導性グリース組成物の全量に対して、2.0質量%以上8.5質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上8.0質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以上7.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
高熱伝導性、塗布性及びポンプアウト現象の発生を抑制する観点から、基油は、40℃における動粘度(40℃動粘度とも称する)が10mm2/s以上600mm2/s以下であることが好ましく、20mm2/s以上450mm2/s以下であることがより好ましい。
40℃動粘度は、JIS K 2283:2000動粘度試験方法に基づいて測定した値である。
【0032】
(熱伝導性フィラー)
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、熱伝導性フィラーを含有する。熱伝導性フィラーは、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを含む。熱伝導性フィラーが、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを含むことにより、本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、熱伝導性及び塗布性の両方に優れる。熱伝導性と塗布性との両立の観点から、窒化アルミニウムの含有量が、酸化亜鉛の含有量よりも多いことが好ましい。
【0033】
本開示において、熱伝導性フィラーとは、熱伝導率が5W/(m・K)以上のフィラーである。熱伝導性フィラーの熱伝導率はレーザーフラッシュ法(JIS R1611:2010)によって測定される値である。
【0034】
熱伝導性フィラーの形状は、特に制限されない。熱伝導性フィラーは、粒状、破砕状、球状などいずれの形状であってもよい。熱伝導性フィラーの一態様は、球状であることも好ましい。
【0035】
熱伝導性フィラーの体積平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.15μm以上45μm以下であることがより好ましく、0.15μm以上40μm以下であることが更に好ましい。
【0036】
本開示において、熱伝導性フィラーの体積平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により、JIS Z 8825:2013(対応国際規格:ISO13320)に準拠して測定する。
具体的には、熱伝導性フィラーを含む試料に対して、レーザ回折散乱式粒度測定装置を
使用し、熱伝導性フィラーの体積分布を測定する。得られた測定値(体積分布)に基づき、試料に含まれる熱伝導性フィラーの体積平均粒径を求めることができる。
測定装置の例としては、レーザ回折散乱式粒度測定装置としては、(株)島津製作所製、製品名;ナノ粒子径分布測定装置 SALD-7500nanoを用いることができる。
【0037】
・酸化亜鉛
酸化亜鉛は、特に制限されず、熱伝導性フィラーとして通常用いられる酸化亜鉛が挙げられる。熱伝導性フィラーが含む酸化亜鉛は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0038】
酸化亜鉛の粒径としては、熱伝導性及び塗布性を両立する観点から、体積平均粒子径が0.15μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上1.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上1.2μm以下であることが更に好ましい。
【0039】
・窒化アルミニウム
窒化アルミニウムは、特に制限されず、熱伝導性フィラーとして通常用いられる窒化アルミニウムが挙げられる。熱伝導性フィラーが含む窒化アルムニウムは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0040】
窒化アルミニウムの粒径としては、高熱伝導性と塗布性とを両立する観点から、体積平均粒子径が5μm以上40μm以下であることが好ましく、6μm以上30μm以下であることがより好ましく、7.5μm以上25μm以下であることが更に好ましい。
【0041】
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、本開示に係る効果が発揮される範囲において、酸化亜鉛及び窒化アルミニウム以外の他の熱伝導性フィラーを含有してもよい。他の熱伝導性フィラーの材質は特に限定されないが、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化ホウ素、カーボン、炭化ケイ素、シリカ等が挙げられる。
【0042】
熱伝導性フィラーは、表面処理された熱伝導性フィラーであってもよい。表面処理された熱伝導性フィラーは、熱伝導性フィラー以外の他の含有成分との親和性の向上に寄与しうる。
【0043】
熱伝導性フィラーに対する表面処理は、特に制限されず、物理的処理であっても、化学的処理であってもよく、熱伝導性フィラーを構成する粒子の表面を処理可能な公知の処理を適用することができる。
表面処理としては、表面処理剤を用いた処理であることが好ましい。
【0044】
表面処理剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、カルボン酸系カップリング剤、リン酸系カップリング剤、脂肪酸、高分子化合物、界面活性剤、及び、油脂が挙げられる。
【0045】
熱伝導性フィラーは、分散性の観点からは、表面処理剤としてシラン系カップリング剤を用いて表面処理されていてもよい。
【0046】
熱伝導性フィラーの合計含有量は、熱伝導性グリース組成物の全量に対して、80質量%以上98質量%以下であることが好ましく、85質量%以上97質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上97質量%以下であることが更に好ましい。
【0047】
高熱伝導性及び塗布性を両立する観点から、熱伝導性フィラーは、体積平均粒子径の異なる2種以上の熱伝導性フィラーを含むことが好ましい。
【0048】
熱伝導性フィラーの一態様は、高熱伝導性及び塗布性を両立する観点から、体積平均粒子径0.15μm以上2μm未満である熱伝導性フィラーA及び体積平均粒子径2μm以上40μm以下である熱伝導性フィラーBを含み、熱伝導性フィラーAが酸化亜鉛を含み、熱伝導性フィラーBが窒化アルミニウムを含むことが好ましい。
【0049】
熱伝導性フィラーA及び熱伝導性フィラーBは、それぞれ、1種のみであってもよいし、異なる体積平均粒子径を有する熱伝導性フィラーを2種以上含んでいてもよい。
【0050】
-熱伝導性フィラーA-
熱伝導性フィラーAは、体積平均粒子径0.15μm以上2μm未満である熱伝導性フィラーであり、酸化亜鉛を含む。熱伝導性フィラーAは、表面処理されていてもよい。
【0051】
熱伝導性フィラーAは、酸化亜鉛以外の熱伝導性フィラーを含んでいてもよいが、高熱伝導性と塗布性とを両立する観点から、熱伝導性フィラーAの全てが酸化亜鉛であることが好ましい。
【0052】
熱伝導性及び塗布性を両立する観点から、熱伝導性フィラーAの体積平均粒子径は、0.15μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.20μm以上1.5μm以下であることがより好ましく、0.30μm以上1.2μm以下であることが更に好ましい。
熱伝導性フィラーAが2種以上含まれる場合、2種以上の熱伝導性フィラーAの各々が、上記の体積平均粒子径の範囲であることが好ましい。
【0053】
熱伝導性フィラーAの体積平均粒子径の測定手順は、既述の通りである。
【0054】
-熱伝導性フィラーB-
熱伝導性フィラーBは、体積平均粒子径2μm以上40μm以下である熱伝導性フィラーであり、窒化アルミニウムを含む。熱伝導性フィラーBは、表面処理されていてもよい。
【0055】
熱伝導性フィラーBは、窒化アルミニウム以外の熱伝導性フィラーを含んでいてもよいが、高熱伝導性の観点から、熱伝導性フィラーBの全てが窒化アルミニウムであることが好ましい。
【0056】
熱伝導性と塗布性とを両立する観点から、熱伝導性フィラーBの体積平均粒子径は、5μm以上40μm以下であることが好ましく、6μm以上30μm以下であることがより好ましく、7.5μm以上25μm以下であることが更に好ましい。
熱伝導性フィラーBが2種以上含まれる場合、2種以上の熱伝導性フィラーBの各々が、上記の体積平均粒子径の範囲であることが好ましい。
【0057】
熱伝導性フィラーBの体積平均粒子径の測定手順は既述の通りである。
【0058】
-熱伝導性フィラーA及び熱伝導性フィラーBの好ましい態様-
熱伝導性と塗布性とを両立する観点から、熱伝導性フィラーBの含有量に対する、熱伝導性フィラーAの含有量の比(熱伝導性フィラーAの含有量/熱伝導性フィラーBの含有量)は、質量基準で、0.20以上0.80以下が好ましく、0.25以上0.7以下がより好ましく、0.30以上0.60以下が更に好ましい。
【0059】
熱伝導性フィラーA及び熱伝導性フィラーBの合計の含有量は、熱伝導性フィラーの全量に対して、80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。すなわち、本開示に係る熱伝導性グリース組成物が含有する熱伝導性フィラーは、熱伝導性フィラーA及び熱伝導性フィラーBからなることが好ましい。
【0060】
(炭酸カルシウム粒子)
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、炭酸カルシウム粒子を含有する。
炭酸カルシウム粒子とは、炭酸カルシウムを主成分(すなわち、粒子に対する含有量が90質量%以上)とする粒子をいう。
【0061】
ポンプアウト現象の発生を抑制する観点から、炭酸カルシウム粒子の体積平均粒子径は、10nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であることがより好ましく、25nm以上100nm以下であることが更に好ましい。
【0062】
炭酸カルシウム粒子の体積平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により、JIS Z 8825:2013(対応国際規格:ISO13320)に準拠して測定する。
具体的には、炭酸カルシウム粒子を含む試料に対して、レーザ回折散乱式粒度測定装置を使用し、炭酸カルシウム粒子の体積分布を測定する。得られた測定値(体積分布)に基づき、試料に含まれる炭酸カルシウム粒子の体積平均粒径を求めることができる。
測定装置の例としては、レーザ回折散乱式粒度測定装置としては、(株)島津製作所製、製品名;ナノ粒子径分布測定装置 SALD-7500nanoを用いることができる。
【0063】
炭酸カルシウム粒子は、表面処理された炭酸カルシウム粒子であってもよい。表面処理された炭酸カルシウム粒子は、炭酸カルシウム粒子以外の他の含有成分との親和性の向上に寄与しうる。
【0064】
炭酸カルシウム粒子に対する表面処理は、特に制限されず、物理的処理であっても、化学的処理であってもよく、炭酸カルシウム粒子の表面を処理可能な公知の処理を適用することができる。
表面処理としては、表面処理剤を用いた処理であることが好ましい。
【0065】
表面処理剤としては、例えば、ロジン系化合物、脂肪酸などが挙げられる。
ロジン系化合物としては、変性ロジン、重合ロジンなどが挙げられる。
変性ロジンとは、天然ロジンを変性したものをいい、例えば、天然ロジンを高圧化でニッケル触媒、白金触媒、パラジウム触媒等の貴金属触媒等を使用して水素添加して、分子内の二重結合を消失又は減少させた水添ロジン;天然ロジンを貴金属触媒又はハロゲン触媒の存在下に高温加熱することにより分子内の不安定な共役二重結合を消失させた不均化ロジン;が挙げられる。
重合ロジンとは、天然ロジン又は変性ロジン同士を反応させたものであり、これらの2量化物、3量化物等をいう。
【0066】
炭酸カルシウム粒子は、分散性の観点、及びポンプアウト現象の発生を抑制する観点から、表面処理剤としてロジン系化合物を用いて表面処理されていることが好ましい。
【0067】
ポンプアウト現象の発生を抑制する観点から、炭酸カルシウム粒子の含有量は、熱伝導性フィラーの含有量に対して、0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.8質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.7質量%以下であることが更に好ましい。
【0068】
炭酸カルシウム粒子の含有量を、熱伝導性フィラーの含有量に対して、0.1質量%以上とすることで、ポンプアウト現象の発生をより抑制しやすくなる。
炭酸カルシウム粒子の含有量を、熱伝導性フィラーの含有量に対して、1質量%以下とすることで、熱伝導性が向上しやすくなる。
【0069】
(分散剤)
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、分散剤を含有することが好ましい。
分散剤としては、種々の分散剤が利用でき、親油性を発現する部分と、炭酸カルシウム粒子及び熱伝導性フィラーに吸着する官能基と、を有する化合物であることが好ましい。
分散剤としては、具体的には、カルボン酸化合物、ポリアルキレングリコール化合物などが挙げられる。
【0070】
カルボン酸化合物は、分子内に少なくとも1つのカルボキシ基を有する化合物である。カルボン酸化合物としては、脂肪酸、ポリカルボン酸(一分子内に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物)等が挙げられる。
【0071】
カルボン酸化合物の分子量は、100以上2000以下であることが好ましく、150以上1500以下であることがより好ましく、200以上1000以下であることが更に好ましい。
【0072】
カルボン酸化合物の分子量に分子量分布がある場合、カルボン酸化合物の分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。測定条件及び装置は以下のとおりである。
測定装置:Shodex GPC-101
カラム:Shodex GPC LF-804(カラムの本数:3本)
検出器:RI(示差屈折検出器)
温度40℃
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1mL/min
試料濃度:1.0mass%/vol%
試料注入量:100μL
【0073】
カルボン酸化合物の一態様である脂肪酸としては、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸が挙げられる。飽和脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、及びリグノセリン酸が挙げられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、カプロレイン酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ゾーマリン酸、ペテロセリン酸、ペテロセライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、パセニン酸、コドイン酸、ゴンドイン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、セラコレイン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、及びアラキドン酸が挙げられる。分散性及び耐熱性の観点からは、分散剤として用いる脂肪酸としては、エルカ酸、及び、オレイン酸が好ましく、エルカ酸がより好ましい。
【0074】
カルボン酸化合物の別の態様としては、クローダジャパン社製の、ハイパーマーKD-4(重量平均分子量:1700)、ハイパーマーKD-9(重量平均分子量:760)、ハイパーマーKD-12(重量平均分子量:490)、ハイパーマーKD-16(重量平均分子量:370)等が挙げられる。
【0075】
ポリアルキレングリコール化合物とは、エーテル結合の繰り返し構造を有する高分子化合物であり、例えば環状エーテルの開環重合等によって製造されるものをいう。ポリアルキレングリコール化合物としては、ヒドロキシ基を有するポリアルキレングリコール化合物が好ましい。
【0076】
ヒドロキシ基を有するポリアルキレングリコール化合物は粘着性が高い傾向にある。そのため、熱伝導性フィラー表面に吸着した表面改質剤が被着体に粘着するため、熱可塑性フィラーの分散性を高め、かつポンプアウト現象の発生の抑制にも寄与する。
【0077】
ヒドロキシ基を有するポリアルキレングリコール化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテル化物などが挙げられる。
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられる。
【0078】
ポリアルキレングリコールのエーテル化物としては、ポリアルキレングリコールと、炭化水素基と、がエーテル結合により結合した化合物が挙げられる。
ポリアルキレングリコールのエーテル化物に含まれる炭化水素基の炭素数は、例えば、12以上65以下が挙げられる。
炭化水素基の構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。
【0079】
ポリアルキレングリコールのエーテル化物としては、具体的には、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノセチルエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールなどが挙げられ、分散性及びポンプアウト現象の発生を良好に抑制する観点から、ポリオキシエチレンラノリンアルコールが好ましい。
【0080】
分散剤の含有量は、熱伝導性グリース組成物の全量に対して、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0081】
分散剤は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。熱伝導性グリース組成物が2種以上の分散剤を含有する場合、上記の含有量は、分散剤の合計含有量を指す。
【0082】
(その他の添加剤)
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、基油、熱伝導性フィラー、炭酸カルシウム粒子、及び分散剤以外のその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、酸化防止剤、錆止め剤、腐食防止剤、増粘剤、増ちょう剤、清浄剤などが挙げられる。
【0083】
(熱伝導性グリース組成物の物性値)
-熱伝導率-
本開示に係る熱伝導性グリース組成物の熱伝導率は、高熱伝導性の観点から、4.0W/(m・K)以上であることが好ましく、4.5W/(m・K)以上であることがより好ましく、5.0W/(m・K)以上であることが更に好ましい。
【0084】
熱伝導率はISO22007-2に準拠して測定する。
熱伝導率の測定装置は、例えば、京都電子工業(株)製TPS2500Sが使用可能である。
【0085】
-せん断粘度-
本開示に係る熱伝導性グリース組成物のせん断粘度は、塗布性の観点から、測定温度25℃、せん断速度10[1/s]の条件で測定したせん断粘度が、1000Pa・s以下であることが好ましく、50Pa・s以上900Pa・s以下であることがより好ましく、100Pa・s以上800Pa・s以下であることが更に好ましく、100Pa・s以上700Pa・s以下であることが特に好ましい。
【0086】
本開示において、せん断粘度は、測定温度25℃、所定のせん断速度の条件とし、粘弾性測定装置を用いて測定する。粘弾性測定装置としては、例えば、製品名:MCR102e、アントンパール社製を用いることができる。
【0087】
(用途)
本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、高熱伝導性及び塗布性に優れるものであり、様々な発熱体と放熱体との隙間に適用可能である。
発熱体としては、半導体部品等が挙げられ、放熱体としてはヒートシンク等が挙げられる。
【0088】
(熱伝導性グリース組成物の製造方法)
熱伝導性グリース組成物の製造方法としては、特に限定されず、基油、熱伝導性フィラー、及び、炭酸カルシウム粒子に、好ましくは分散剤を加え、必要に応じて、その他の添加剤を適宜混合すればよい。基油、熱伝導性フィラー及び炭酸カルシウム粒子、分散剤及びその他の添加剤の混合順序は、特に制限されるものではなく、基油に各成分を順次混合してもよい。
【実施例0089】
以下に実施例について説明するが、本開示に係る熱伝導性グリース組成物は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
<実施例1~4、比較例1~6>
基油、熱伝導性フィラー、分散剤及びその他の添加剤(酸化防止剤及びポンプアウト防止剤)を下記表1に示す配合割合(質量%)で混合した。
なお、表1に示す組成欄中の空欄は、該当する成分を配合していないことを示す。
【0091】
実施例1~4では、表1に示す組成を有する熱伝導性グリース組成物が調製された。なお、比較例2~3は、グリース化しなかった。そのため、比較例2~3については、下記の性能評価を実施しなかった。
【0092】
<評価>
上記により得られた実施例の各熱伝導性グリース組成物、及び、比較例1、4~6の熱伝導性グリース組成物をそれぞれ用いて、下記の性能評価を行った。
【0093】
(熱伝導率)
熱伝導率は、ISO22007-2に準拠して測定した。
熱伝導率の測定装置は、京都電子工業(株)製TPS2500Sを使用した。熱伝導率が、4.0W/(m・K)以上であることは、熱伝導性グリース組成物が高熱伝導性を有することを意味する。
【0094】
(塗布性評価)
塗布性は、粘弾性測定装置(製品名:MCR102e、アントンパール社製)を用いて、測定温度25℃、せん断速度10[1/s]の条件で測定したせん断粘度により評価した。せん断粘度が、700Pa・s以上であることは、熱伝導性グリース組成物が塗布性に優れることを意味する。
10[1/s]の条件で測定したせん断粘度が、1000Pa・s以下であることは、熱伝導性グリース組成物が塗布性に優れることを意味しており、700Pa・s以下であることは、熱伝導性グリース組成物が塗布性に特に優れることを意味する。
【0095】
(ポンプアウト性評価)
ポンプアウト性評価として、評価A及び評価Bの2評価を実施した。
アルミ板(品名:A5052P、縦80mm×横60mm×厚さ1mm)とスライドガラス(縦76mm×横26mm×厚さ1.2mm~1.5mm)との間に、スペーサーを設置し、間にグリースを任意量塗布して挟み込むことで試験片とした。スペーサーの厚さは、評価Aでは0.2mmとし、評価Bでは1.0mmとした。
【0096】
試験片調製の際、グリースの量は、アルミ板とスライドガラスとの間に挟み込んだ際に、直径15mmの円形となるようにした。また、アルミ板及びスライドガラスは、縦方向を同一の方向になるように揃えた。
評価A及び評価Bのそれぞれにおいて、試験片の縦方向を鉛直方向とし、-40℃と85℃と、に交互に温度変化を繰り返す、冷熱衝撃試験を行った。冷熱衝撃試験は、-40℃条件下で30分間冷却した後、85℃の環境に移して、85℃条件下で30分間加熱する操作を1サイクルとし、合計500サイクル実施した。冷熱衝撃試験はエスペック社製の冷熱衝撃装置TSE-11-Aを使用した。
500サイクル経過後に、グリースの元の位置からの移動距離(mm)を計測し、ポンプアウト性の評価を実施した。
測定した移動距離を基に、以下の評価基準によってポンプアウト性を評価した。なお、移動距離が小さいほどポンプアウト現象の発生が抑制されていることを示す。
【0097】
-評価基準-
A:移動距離が5mm未満である。
B:移動距離が5mm以上10mm未満である。
C:移動距離が10mm以上20mm未満である。
D:移動距離が20mm以上
【0098】
以上の結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
表1中のフィラーA及びフィラーBは、熱伝導性フィラーA及び熱伝導性フィラーBに対応する。
表1中の各成分の詳細について以下に記載する。
【0101】
(基油)
-ポリアルファオレフィン-
・ポリアルファオレフィン1;品名:DURASYN-168、INEOS Oligomeres社製、ポリアルファオレフィン(1-デセンの重合体)、40℃動粘度:46.4mm2/s
・ポリアルファオレフィン2;品名:DURASYIN-170INEOS、 Oligomeres社製、ポリアルファオレフィン(1-デセンの重合体)、40℃動粘度:65.3mm2/s
・ポリアルファオレフィン3;品名:INEOS Oligomeres社製、DURASYN-180R、40℃動粘度:935mm2/s
-有機酸エステル-
・ラウリルメタクリレート;品名:ライトエステルL、共栄社化学社製、ラウリルメタクリレート
【0102】
(熱伝導性フィラー)
-酸化亜鉛-
・酸化亜鉛1;品名:酸化亜鉛1種、堺化学社製、酸化亜鉛粒子、体積平均粒子径0.6μm
-窒化アルミニウム-
・窒化アルミニウム1;品名:AN-HF07LG-HTZ、MARUWA社製、窒化アルミニウム(AlN)粒子、体積平均粒子径7.0μm
・窒化アルミニウム2;品名:ANF-A-05-F-WR2、MARUWA社製、窒化アルミニウム(AlN)粒子、リン酸処理、体積平均粒子径5.52μm
・窒化アルミニウム3;品名:ANF-S-30-WR2、MARUWA社製、窒化アルミニウム(AlN)粒子、リン酸処理、体積平均粒子径38.31μm
・窒化アルミニウム4;品名:HF-20h、トクヤマ社製、窒化アルミニウム(AlN)粒子、体積平均粒子径17.8μm
・窒化アルミニウム5;品名:HF-20、トクヤマ社製、窒化アルミニウム(AlN)粒子、体積平均粒子径17.8μm
【0103】
(炭酸カルシウム粒子)
・炭酸Ca粒子1:品名:白艶華0、白石工業社製、ロジン系化合物で表面処理された炭酸カルシウム粒子、体積平均粒子径30nm
【0104】
(分散剤)
・分散剤1;品名:ハイパーマーKD-9、クローダジャパン社製、カルボン酸化合物、ポリカルボン酸、重量平均分子量:760
・分散剤2;品名:エルカ酸、日油社製、カルボン酸化合物、エルカ酸
・分散剤3;品名:ポリコール15、クローダジャパン社製、ポリオキシエチレンラノリンアルコール
【0105】
(その他の添加剤)
・酸化防止剤:BASFジャパン社製、Irganox L57、N-フェニルベンゼン
アミンと2,4,4-トリメチルペンテンの反応生成物
【0106】
上記結果から、本実施例の熱伝導性グリース組成物は、高熱伝導性を有し、塗布性に優れ、かつポンプアウト現象の発生が抑制されていることがわかる。