(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129738
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20240919BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20240919BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/365
H01L21/368 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039133
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】志水 誠
(72)【発明者】
【氏名】志保 浩司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】塚本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勇次
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
4K030AA02
4K030AA11
4K030AA14
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4K030BA08
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4K030LA12
5F045AA03
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5F053PP03
5F053RR05
(57)【要約】
【課題】量産性に優れた成膜方法を提供する。
【解決手段】酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析において、480℃から520℃の範囲に発熱ピークを有する金属錯体を用いる成膜方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析において、480℃から520℃の範囲に発熱ピークを有する金属錯体を用いる成膜方法。
【請求項2】
前記金属錯体が、酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析において、23℃から400℃までの温度範囲において10%以上80%以下の質量減少があり、かつ400℃から600℃の温度範囲において発熱を伴う3%以上50%以下の質量減少がある請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記金属錯体が、2以上の異なる配位子を有する金属錯体及び同一の配位子と置換基とを有する金属錯体の少なくとも一方の金属錯体である請求項1に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記2以上の異なる配位子が、アセチルアセトナート由来の配位子、複素環構造を有する配位子及び下記式(1)で示される配位子からなる群から選ばれる少なくとも2種の配位子であり、前記同一の配位子と置換基とを有する金属錯体が下記式(2)で示される金属錯体である請求項3に記載の成膜方法。
【化1】
(式(1)中、点線は配位結合を示し、*1は金属との配位結合位を示す。*2は金属との結合位を示す。R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1から6のアルキル基を示す。
式(2)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から6のアルキル基、フェニル基、又はトリル基を示す。R
5はハロゲン原子、ホルミル基、アセトキシ基、スルホ基、メシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ホスホリル基、又は炭素数1から6のアルキル基を示す。Xは中心金属を示す。)
【請求項5】
前記2以上の異なる配位子を有する金属錯体が配位している中心金属、及び式(2)で示される金属錯体のXで示される中心金属が、周期律表のdブロック金属又は周期律表第13族金属を含有する請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記中心金属が、周期律表第9族金属又は第13族金属を含有する請求項4に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記中心金属がイリジウムである請求項4に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記イリジウムを中心金属とする金属錯体が下記式(3)又は下記式(4)で示される金属錯体である請求項7に記載の成膜方法。
【化2】
(式(4)中、R
5はハロゲン原子、ホルミル基、アセトキシ基、スルホ基、メシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ホスホリル基、又は炭素数1から6のアルキル基を示す。)
【請求項9】
前記金属錯体を原料として金属酸化物膜を形成する請求項1に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記金属酸化物膜が結晶性酸化物半導体を含む請求項9に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記金属錯体をコランダム構造を有する基体上へ供給する請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記基体の結晶成長面を含む少なくとも一部がガリウムを主成分として含む請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記金属錯体を含む液体を霧化又は液滴化する工程と、得られたミスト又は液滴を、キャリアガスで基体まで搬送する工程と、前記ミスト又は液滴を前記基体近傍で熱反応させて前記基体上に金属酸化物膜を形成する工程とを備える請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記金属錯体を含む液体を、基体上に塗工し乾燥させて、前記基体上に金属酸化物膜を形成する工程を備える請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記金属錯体は、液体の原料に含まれており、
前記原料は、さらにガリウムを含む請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記金属錯体は、液体の原料に含まれており、
前記原料は、さらにp型ドーパントを含む請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項17】
周期律表第9族の金属を含む金属錯体及び水を含む原料溶液から前記金属を含む膜を成膜する方法であって、
前記金属錯体の水への溶解度が0.01mol/L以上である成膜方法。
【請求項18】
前記金属がイリジウムである請求項17に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁体の金属酸化物、導電体の金属酸化物、及び半導体の金属酸化物(酸化物半導体ともいう)の薄膜が、半導体装置をはじめとする様々な製品に用いられている。特に高耐圧、低損失及び高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga2O3)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。
【0003】
近年においては、酸化ガリウム系のp型半導体が検討されており、例えば、特許文献1には、β-Ga2O3系結晶を、MgO(p型ドーパント源)を用いてFZ法により形成すると、p型導電性を示す基板が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、量産性に優れた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様においては、成膜方法は、酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析において、480℃から520℃の範囲に発熱ピークを有する金属錯体を用いる。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の別の一態様においては、成膜方法は、周期律表第9族の金属を含む金属錯体及び水を含む原料溶液から前記金属を含む膜を成膜する方法であって、前記金属錯体の水への溶解度が0.01mol/L以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の成膜方法は、量産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例において用いられる成膜装置(ミストCVD装置)の概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施例1で用いたイリジウム錯体のTG-DTAチャートである。
【
図3】
図3は、比較例1で用いたイリジウム錯体のTG-DTAチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の成膜方法は、金属膜を基体上に成膜する方法であって、特に金属酸化物膜を形成する方法である。さらに詳しくは、金属酸化物膜の形成に、金属錯体又は金属錯体水溶液を用いることを特徴とする。より具体的には例えば、金属錯体を溶解させた溶液を霧化法(ミストCVD法)及び塗布法のそれぞれの成膜方法を用いて、金属酸化物膜を形成する方法である。本発明の成膜方法は量産性に優れる。本明細書において、「量産性に優れる」とは、所望の厚みの膜を形成するために要する時間が短いことを意味する。
【0011】
本発明の成膜方法に用いる金属錯体又は金属錯体水溶液について以下に説明する。本明細書において「金属錯体」とは、中心金属と、中心金属に配位する配位子とを含む化合物を意味する。
【0012】
本発明において金属錯体は、酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析(TG-DTA)において、480℃から520℃の範囲に発熱ピークを有する。限定的な解釈を望むものではないが、金属錯体が上記特定の熱物性値を有することにより、成膜時に、成膜の妨げとなる金属錯体の昇華反応が抑制され、成膜に寄与する酸化反応が促進されることにより、優れた量産性を発揮するものと考えられる。さらに、半導体特性に優れるものとも考えられる。
【0013】
本発明において金属錯体は、酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析(TG-DTA)において、23℃から400℃までの温度範囲において10%以上80%以下の質量減少があり、かつ400℃から600℃の温度範囲において発熱を伴う3%以上50%以下の質量減少があることが好ましい。この場合、量産性により優れる。
【0014】
本発明において、上記金属錯体における中心金属の価数は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、1価であってもよいし、2価であってもよい。3価であってもよいし、4価であってもよい。本発明においては、前記中心金属が、周期律表のdブロック金属又は周期律表第13族金属を含有することが好ましく、周期律表第9族金属又は第13族金属を含むことがより好ましい。
【0015】
なお、「周期律表」は、国際純正応用化学連合(IUPAC)にて定められた周期律表を意味する。「dブロック」は、3d、4d、5d、及び6d軌道を満たす電子を有する元素をいう。
【0016】
「第9族金属」は、周期律表の第9族金属であればそれでよく、このような第9族金属としては、例えば、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)又はこれらの2種以上の金属等が挙げられる。また、「第13族金属」は、周期律表の第13族金属であれば特に限定されず、第13族金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)又はこれらの2種以上の金属等が挙げられるが、本発明においては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びインジウム(In)から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0017】
前記中心金属は、具体的には、ガリウム(Ga)、イリジウム(Ir)、インジウム(In)、ロジウム(Rh)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、レニウム(Re)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ヒ素(As)、Ge(ゲルマニウム)及びジルコニウム(Zr)から選ばれる金属を用いることができる。
【0018】
反応性、入手のしやすさ等の観点から、特にガリウム(Ga)、イリジウム(Ir)、インジウム(In)、ロジウム(Rh)が好ましく、さらに水溶液に対する溶解性等からイリジウム(Ir)が特に好ましい。
【0019】
前記金属錯体は、2以上の異なる配位子を有する金属錯体及び同一の配位子と置換基とを有する金属錯体の少なくとも一方の金属錯体であることが好ましい。
【0020】
本発明においては、2以上の異なる配位子が、アセチルアセトナート由来の配位子、複素環構造を有する配位子及び下記式(1)で示される配位子の群から選ばれる少なくとも2種の配位子である金属錯体、並びに前記同一の配位子と置換基とを有する金属錯体が下記式(2)で示される金属錯体の少なくとも一方を用いることができる。
【0021】
【0022】
上記式(1)中、点線は配位結合を示し、*1は金属との配位結合位を示す。*2は金属との結合位を示す。R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数1から6のアルキル基を示す。
【0023】
上記式(2)中、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から6のアルキル基、フェニル基、トリル基を示し、R5はハロゲン原子、ホルミル基、アセトキシ基、スルホ基、メシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ホスホリル基、又は炭素数1から6のアルキル基を示す。Xは中心金属を示す。
【0024】
複素環構造を有する配位子としては、例えばピリジン、2-メチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、2,6-ルチジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、3-(ジメチルアミノ)プロピルイミダゾール、ピラゾール,フラザン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、プリン、1H-インダゾール、キナゾリン、シンノリン、キノキサリン、フタラジン、プテリジン、フェナントリジン、2,6-ジ-t-ブチルピリジン、2,2’-ビピリジン、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、5,5’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、6,6’-t-ブチル-2,2’-ジピリジル、4,4’-ジフェニル-2,2’-ビピリジル、1,10-フェナントロリン、2,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン、5,6-ジメチル-1,10-フェナントロリン、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン等が挙げられる。
【0025】
上記の本発明で用いる金属錯体は、水溶液に対する高い溶解性を示しつつすぐれた熱安定性も示す。さらにこのような金属錯体を含む水溶液は長期保存において析出せず、高い品質安定性を示すことが可能となる。
【0026】
特に、上記式(1)で示される配位子を有する金属錯体は、三塩化イリジウム等のハロゲン化金属に、水溶性塩基性化合物、例えばアンモニア、トリメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)等の存在下で、アセチルアセトナートを反応のさせることで得ることができる。
【0027】
さらに前記金属錯体を含む水溶液のpHが4.0から7.5の範囲であることが好ましい。水溶液のpHが6より小さくなると、金属錯体の配位子交換が起こり、水溶液への溶解性が低下し、金属化合物の析出量が増える傾向にあり、水溶液のpHが7.5より大きくなると、金属錯体含有水溶液から形成される薄膜の形成性が乏しくなる傾向にある。
【0028】
また、本発明の金属錯体を含む水溶液は、実質的に有機溶媒を含まないことが好ましい。有機溶媒を含むことで、引火点が低下し、使用場所、使用方法等に制約が生じるためである。
【0029】
有機溶媒を含む場合、使用できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコ―ル等の水と任意に混和可能な有機溶媒が好ましい。有機溶媒の使用量は水溶液中の全溶媒量の10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0030】
特に前記金属はイリジウム(Ir)が好ましく、下記式(3)又は下記式(4)で示される金属錯体である。
【0031】
【0032】
上記式(4)中、R5は、ハロゲン原子、炭素数1から6のアルキル基、ホルミル基、アセトキシ基、スルホ基、メシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ホスホリル基を示す。これらの中で、特に化合物の合成時の化合物の安定性の観点から、特に塩素原子が好ましい。
【0033】
上記式(3)で示される金属錯体は、三塩化イリジウムを水溶液中で、アルカリ処理をして合成される。式(3)以外の金属錯体として下記式(3-1)及び(4-1)で示される化合物も含まれることが確認されている。そのため本発明で用いられる金属錯体水溶液には、下記式(3-1)又は(4-1)の少なくとも一方の金属錯体も含まれる。
【0034】
【0035】
本願発明の金属錯体は、水溶液中ではカウンターカチオンを有してもよい。これらのカウンターカチオンとしては水素イオン、アンモニウムイオンが挙げられ、特にアンモニウムイオンであることが好ましい。アンモニウムイオンは、金属錯体の合成において、アンモニア水等のアルカリ水溶液を用いて行う中和によって、金属錯体の対イオンとなる。塩酸等の酸水溶液を用いて中和する場合は、水素イオンが対イオンとなる。
【0036】
このようなカウンターカチオンを含む金属錯体として下記式(3-2)又は下記式(4-2)で示されるカウンターカチオンを有する金属錯体が挙げられる。
【0037】
【0038】
次に本発明の金属錯体を用いた成膜方法について説明する。成膜方法としては、霧化法(ミストCVD法)及び塗布法が挙げられる。
【0039】
<霧化法(ミストCVD法)>
【0040】
霧化法(ミストCVD法)は、例えば、
図1に示す成膜装置を用いる。霧化法(ミストCVD法)は、例えば前記金属錯体を含む原料溶液を霧化又は液滴化する工程(霧化・液滴化工程)と、得られたミスト又は液滴をキャリアガスで基体まで搬送する工程(搬送工程)と、前記ミスト又は液滴を前記基体近傍で熱反応させて前記基体上に金属酸化物膜を形成する工程(成膜工程)とを備える。ミストCVD法によれば、半導体特性及び表面平滑性に優れた金属酸化物膜を得ることができる。
【0041】
(霧化・液滴化工程)
霧化・液滴化工程では、前記金属錯体を含む溶液(原料溶液)を霧化又は液滴化する。前記原料溶液の霧化手段又は液滴化手段は、前記原料溶液を霧化又は液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段又は液滴化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミスト又は液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊するガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷が無いため、非常に好適である。ミスト粒径又は液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは、100nm~10μmである。
【0042】
(原料溶液)
原料溶液は、前記特定の熱物性値を有する金属錯体を含んでおり、霧化又は液滴化が可能であれば特に限定されず、また、無機材料を含んでいてもよいし、有機材料を含んでいてもよい。本発明においては、前記原料溶液が、金属を前記金属錯体以外の錯体の形態又は塩の形態で含んでいてもよい。他の錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。
【0043】
また、前記原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合することが好ましい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが上げられるが、中でもより良質な膜が得られるとの理由から、臭化水素酸又はヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H2O2)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、過酸化バリウム(BaO2)、過酸化ベンゾイル(C6H5CO)2O2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機化酸化物などが挙げられる。前記添加剤が塩酸である場合の前記原料溶液における塩酸の含有割合としては、1~20質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
【0044】
前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。金属錯体水溶液にドーパントを含ませることで、ドーピングを良好に行うことができる。前記ドーパントは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記ドーパントとしては、例えば、Mg、H、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Tl、Pb、N、P等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm3以下の低濃度にしてもよいし。また、さらに、本発明においては、ドーパントを約1×1020/cm3以上の高濃度で含有させてもよい。
【0045】
前記原料溶液の溶媒は水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むことが好ましく、水又は水とアルコールとの混合溶媒であることがより好ましく、水であることがさらに好ましい。
【0046】
(搬送工程)
搬送工程では、前記霧化・液滴化工程で得られたミスト又は液滴をキャリアガスで基体まで搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられるが、とりわけ酸素ガス及び/又はオゾンガスが好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上であってもよい。また、キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01L/分~20L/分であることが好ましく、0.1~10L/分であることがより好ましい。
【0047】
基体は、前記金属膜を支持できるものであれば特に限定されないが、コランダム構造を有していることが好ましい。前記基体の材料は、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。基体材料としては、例えば、サファイア、α型酸化ガリウムなどのコランダム構造を有する金属酸化物などが好適な例として挙げられる。前記基体の結晶成長面を含む少なくとも一部がガリウムを主成分として含むことが好ましい。「主成分」とは、原子比で、基体の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0048】
前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状(以下、「基板」ともいう。)、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0049】
前記基板としてはコランダム構造を有する基板が好ましい。具体的には例えば、サファイア基板やα型酸化ガリウム基板などが挙げられる。ここで、基板の主面は、c面から傾斜した面であることが好ましく、m面がより好ましい。
【0050】
(成膜工程)
成膜工程では、前記搬送工程により搬送されたミスト又は液滴を前記基体近傍で熱反応させて前記基体上に金属酸化物膜を形成する。前記熱反応により、金属酸化物の結晶又は混晶が形成されることにより、金属酸化物膜が形成される。熱反応温度の上限としては、900℃以下が好ましく、600℃未満がより好ましい。本発明の成膜方法では、600℃未満という比較的低温であっても金属酸化物膜を形成することができる。また、成膜工程は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下及び酸化雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下及び減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、酸化雰囲気下で行われることが好ましく、大気圧下で行われるのも好ましく、酸化雰囲気下でかつ大気圧下で行われることがより好ましい。なお、「酸化雰囲気」は、金属酸化物の結晶又は混晶が形成できる雰囲気であれば特に限定されず、酸素又は酸素含有化合物の存在下であればそれでよく、例えば、不活性ガス中に1%以上の酸素を含む雰囲気や、酸素を含むキャリアガスを用いたり、酸化剤を用いたりする場合を酸化雰囲気とすること等が挙げられる。また、膜厚は、成膜時間を調整することにより、設定することができる。本発明においては、好ましくは50nm以上であり、より好ましくは100nm以上であり、最も好ましくは1.0μm以上である。膜厚の上限は特に限定されないが、好ましくは1mmであり、より好ましくは100μmである。また、本発明においては、金属錯体にp型ドーパントを含めて本工程に付し、前記のコランダム構造を有する金属酸化物をp型ドーピングしてもよい。前記p型ドーパントとしては、例えば、Mg、H、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Tl、Pb、N、P等及びこれらの2種以上の元素などが挙げられる。本発明においては、前記p型ドーパントが、周期律表の第1族金属又は第2族金属であることが好ましく、第2族金属であることがより好ましく、マグネシウム(Mg)であることが最も好ましい。また、本発明においては、本工程で得られた金属酸化物膜をアニール処理してもよい。
【0051】
<塗布法>
塗布法は、金属錯体を含む液体を基体上に塗布し乾燥させることで金属酸化物膜を形成する。
【0052】
前記金属錯体を含む液体(塗布液)は、基体上に金属酸化物膜を形成させるための主たる化合物原料であり、前記液体における前記金属錯体の含有量は1~30質量%の範囲であることが好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。また、30質量%より多いと金属錯体が析出し易くなって塗布液の安定性が低下したり、得られる金属酸膜が厚くなり過ぎて亀裂(クラック)が発生したりする場合がある。
【0053】
必要に応じて、前記塗布液に少量の有機インジウム化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物のいずれか1つ以上を添加しても良い。さらに、前記塗布液には、必要に応じて有機バインダーを添加しても良い。有機バインダーを加えることで、基体に対する濡れ性が改善されると同時に、塗布液の粘度調整を行うことができる。上記有機バインダーは加熱処理時において燃焼や熱分解する材料が好ましく、このような材料として、セルロース誘導体、アクリル樹脂等が有効である。
【0054】
有機バインダーに用いられるセルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げられるが、これらの中でもヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と表記する場合がある)が好ましい。
【0055】
なお、上記各種セルロース誘導体やアクリル樹脂では、分子量が異なる多くの種類が市販されており、例えば、HPCでは、その分子量の大きさに応じて、高分子量タイプ、中分子量タイプ、低分子量タイプがあり、分子量が大きいほど、バインダーとして配合した前記金属錯体を含む金属錯体水溶液の粘度を高めることができる。分子量タイプの選定、及び配合量の決定は、前記塗布液の塗布性、及び塗布方法や塗布膜厚に応じ、随時最適化する必要がある。
【0056】
上記HPCを用いれば、通常、5質量%以下の含有量で十分な濡れ性が得られると同時に、大幅な粘度調整を行うことができる。またHPCの燃焼開始温度は300℃程度であり、加熱処理を300℃以上、好ましくは350℃以上の加熱温度で行えば燃焼するので、生成する導電性粒子の粒成長を阻害せず、導電性が良好な金属酸化物膜を作製することができる。HPCの含有量が5質量%より多くなると、ゲル状になって塗布液中に残留し易くなり、極めて多孔質の金属膜を形成して透明性や導電性が著しく損なわれる。
【0057】
ここで、セルロース誘導体として、例えばHPCの代わりにエチルセルロースを用いた場合には、通常、HPCを用いた場合よりも塗布液の粘度が低く設定できるが、高粘度塗布液が好適であるスクリーン印刷法等ではパターン印刷性が若干低下する。
【0058】
前記塗布液の溶媒は水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むことが好ましく、水又は水とアルコールとの混合溶媒であることがより好ましく、水であることがさらに好ましい。
【0059】
前記塗布液には、上述した水やアルコール以外の有機溶剤を加えることが可能である。塗布液を低粘度にしたり、塗布性を改善させるために配合する溶剤には、各種有機金属化合物とセルロース誘導体やアクリル樹脂を溶解させた溶液と相溶性があれば良く、上記以外の溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3-オキシプロピオン酸メチル、3-オキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸メチル、2-オキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸プロピル、2-メトキシプロピオン酸メチル、2-メトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシプロピオン酸プロピル、2-エトキシプロピオン酸メチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-エトキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸メチル、2-オキソブタン酸エチル等のエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM-AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE-AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体、ホルムアミド(FA)、N-メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1、3-オクチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ミネラルスピリッツ、ターピネオール等、及びこれらのいくつかの混合液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
前記塗布液の粘度は、上記有機バインダーの分子量や含有量、溶剤の種類によって調整することができるので、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等の各種塗布法のそれぞれに適した粘度に調整して対応することができる。
【0061】
高粘度(5000~50000mPa・s程度)の塗布液は、高分子量の有機バインダーを5質量%以下、好ましくは2~4質量%含有させることで作製でき、低粘度(5~500mPa・s程度)は、低分子量の有機バインダーを5質量%以下、好ましくは0.1~2質量%含有させ、かつ低粘度の希釈用溶剤で希釈することで作製できる。また、中粘度(500~5000mPa・s)の塗布液は、高粘度の塗布液と低粘度の塗布液を混合することで作製できる。
【0062】
塗布法は、より詳細には前記塗布液を基体上に塗布して塗布膜を形成する工程(塗布工程)と、その塗布膜を乾燥して乾燥塗布膜を形成する工程(乾燥工程)と、その乾燥塗布膜を露点温度の低い酸素含有雰囲気下で加熱処理して無機膜を形成する工程(加熱処理工程)とを備える。
【0063】
基体上への塗布方法としては、例えばインクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等の各種方法が挙げられる。
【0064】
これらの塗布は、クリーンルーム等のように清浄でかつ温度や湿度が管理された雰囲気下で行うことが好ましい。温度は室温(25℃程度)、湿度は40~60%RHが一般的である。
【0065】
前記基体としては、上述の霧化法(ミストCVD法)の項において説明している。
【0066】
乾燥工程では、塗布液を塗布した基体を、通常大気中80~180℃で1~30分間、好ましくは2~10分間保持して塗布膜の乾燥を行い、乾燥塗布膜を作製する。
【0067】
その乾燥条件(乾燥温度、乾燥時間)は、用いる基体の種類や塗布厚み等によって、適宜選択すればよく、上記乾燥条件に限定される訳ではない。ただし、生産性を考慮すれば、乾燥時間は、得られる乾燥塗布膜の膜質が悪化しない必要最低限度に短縮することが望ましい。
【0068】
また、乾燥温度は、用いる基体の耐熱温度以下であることが必要で、例えば、上記PENフィルムであれば(乾燥時間にもよるが)200℃程度以下に設定する必要がある。なお、必要に応じて大気中乾燥に代えて、減圧乾燥(到達圧力:通常1kPa以下)を適用することも可能である。この減圧乾燥では、塗布された溶剤が、減圧下で強制的に除去されて乾燥が進行するため、大気中乾燥に比べてより低温での乾燥が可能となるため、耐熱性や耐溶剤性に乏しい素材からなる基体を用いる場合に有用である。
【0069】
この作製した乾燥塗布膜は、塗布液から前述の有機溶剤が揮発除去されたものであって、上記有機金属化合物、(必要に応じて少量添加される、有機インジウム化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物)、有機バインダー等の有機系成分で構成されている。
【0070】
加熱処理工程では、乾燥工程で作製した乾燥塗布膜を露点温度の低い酸素含有雰囲気下で加熱処理して乾燥塗布膜中の上記有機金属化合物、あるいは少量添加の有機金属化合物を含んだ上記有機金属化合物、及び有機バインダー等の有機系成分を熱分解・燃焼(酸化)により無機化させて無機成分(金属酸化物が主成分)からなる緻密な無機膜(金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層としての金属酸化物膜)を形成するものである。
【0071】
すなわち、加熱処理工程の昇温過程で加熱温度が高くなってくると、乾燥塗布膜中の上記有機金属化合物(少量有機金属化合物を含有する物も含む)は徐々に熱分解・燃焼(酸化)されて、まずアモルファス状態(ここでは、X線回折で求めた結晶子サイズ=3nm未満の非常に微細な粒子の状態を称する)の金属酸化物への変換、所謂無機化が生じる。その後加熱温度が一層上昇して通常300~330℃の範囲を越えるか、あるいは300~330℃の範囲のままであっても加熱時間が長くなると上記金属酸化物の結晶化が起き、更に結晶成長して金属酸化物微粒子となり最終的な金属酸化物膜の構成要素となる。
【0072】
なお、この300~330℃の温度は、上記無機化や結晶化が生じやすい一般的な温度範囲を示すものであって、例えば、加熱時間が長い場合には、270℃程度でも上記記金属酸化物の無機化、結晶化、結晶成長が生じる場合もあるため、本発明の加熱処理工程の加熱温度が300℃以上に限定されるものではない。
【0073】
一方、有機バインダーも同様に、加熱処理工程の昇温過程で徐々に熱分解・燃焼(酸化)するが、主に二酸化炭素(CO2)に転化されて雰囲気中に揮散して膜中から消失(有機バインダーの種類にもよるが、例えば前述のHPCであれば約300~350℃でほぼ消失)していくため、最終的には金属酸化物膜中にはほとんど残留しない。なお、加熱処理工程の初期段階(昇温過程のある段階で、例えば室温から加熱して300℃まで到達した段階)までは有機バインダーが多く残留し、上記アモルファス状態の金属酸化物間に有機バインダーが均一に介在して結晶化を抑制しているが、更に加熱処理を進めると有機バインダー成分が徐々に消失していって上記金属酸化物の結晶化が起こるものと考えられる。
【0074】
以下、加熱処理工程をより詳細に説明する。
【0075】
本発明の乾燥塗布膜の加熱処理工程において、先ず露点温度の低い、即ち水蒸気含有量の少ない酸素含有雰囲気を昇温過程の雰囲気に適用することで、上記の通り加熱処理工程の初期段階に生じる無機化による金属酸化物の結晶化、並びに結晶成長が抑制されて、金属酸化物微粒子が緻密に充填した本発明の金属酸化物微粒子層の膜構造を得ることができる。なお、金属酸化物微粒子が緻密に充填するメカニズムに関しては、必ずしも明らかではないが、例えば、以下のように考えることができる。
【0076】
すなわち、少なくとも加熱処理工程の昇温過程で生じた無機化による金属酸化物の結晶化が起こる時点(加熱処理工程の初期段階;本発明では通常300~330℃程度)までは上記アモルファス状態の金属酸化物間に有機バインダーが均一に介在した膜構造が維持され、この膜構造が有機物質である有機バインダーの作用で柔軟性を有して基板と垂直方向への膜の収縮(緻密化)を可能とするため、露点温度の低い空気雰囲気下で昇温して加熱処理した場合は、有機バインダーが消失するぎりぎりの加熱温度まで(約300~350℃程度まで)金属酸化物の結晶化が抑制されて上記収縮可能な膜構造を取ることができ、膜の緻密化につながるものと推測される。
【0077】
本発明の別の一態様に係る成膜方法は、周期律表第9族の金属を含む金属錯体及び水を含む原料溶液から前記金属を含む膜を成膜する方法であって、前記金属錯体の水への溶解度が0.01mol/L以上である。
【0078】
限定的な解釈を望むものではないが、水への溶解度が高い特定の金属錯体を用いることで、成膜に使用する溶液の濃度を相対的に高くすることができるため、量産性に優れるものと考えられる。
【0079】
上記金属錯体が有する周期律表第9属の金属としては、上記で説明したものと同様である。
【0080】
上記金属錯体の水への溶解度としては、0.01mоl/L以上であり、0.03mоl/L以上がより好ましい。水への溶解度が高くなると、量産性により優れる傾向がある。
【0081】
成膜方法としては、上述した霧化法(ミストCVD法)及び塗布法と同様である。
【0082】
<金属酸化物膜>
上記の好適な形成方法によって得られた金属酸化物膜は、工業的に有用であり、また、電気特性に優れている。より具体的には、移動度が、通常、1.0cm2/V・s以上である。前記移動度は、ホール効果測定にて得られる移動度をいい、本発明においては、前記移動度が3.0cm2/Vs以上であることが好ましい。また、前記金属酸化物膜は、キャリア密度が、8.0×1020/cm3以上であるのも好ましい。ここで、前記キャリア密度は、ホール効果測定にて得られる半導体膜中のキャリア密度をいう。前記キャリア密度の下限は特に限定されないが、約1.0×1015/cm3以上が好ましく、約1.0×1017/cm3以上がより好ましい。本発明においては、ドーパントの種類や量又は混晶の材料やその含有率を調節することで、キャリア密度を1.0×1016/cm3~1.0×1020/cm3の範囲で容易に制御することができる。
【0083】
なお、前記金属酸化物膜が混晶を含む場合には、前記金属酸化物が、イリジウムと、周期律表の第2族金属、イリジウム以外の第9族金属又は第13族金属とを含有するのも好ましい。上記したような好ましい金属酸化物を用いることにより、バンドギャップが2.4eV以上、さらには4.5eV以上のものが得られたりするので、より広いバンドギャップやより優れた電気特性をp型酸化物半導体において発揮することができる。「第2族金属」は、周期律表の第2族金属であればそれでよく、第2族金属としては、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又はこれらの2種以上の金属等が挙げられる。
【0084】
上記のようにして得られた金属酸化物膜は、公知の手段を用いてp型半導体層として好適に用いられる。本発明においては、前記基体上にそのまま成膜してもよいが、前記基体上に、前記p型半導体層とは異なる半導体層(例えば、n型半導体層、n+型半導体層、n-型半導体層等)や絶縁体層(半絶縁体層も含む)、バッファ層等の他の層を積層したのち、前記基体上に他の層を介して成膜してもよい。半導体層や絶縁体層としては、例えば、前記第13族金属を含む半導体層や絶縁体層等が挙げられる。バッファ層としては、例えば、コランダム構造を含む半導体層、絶縁体層又は導電体層などが好適な例として挙げられる。前記のコランダム構造を含む半導体層としては、例えば、α-Fe2O3、α-Ga2O3、α-Al2O3などが挙げられる。前記バッファ層の積層手段は特に限定されず、前記p型酸化物半導体の形成手段と同様であってよい。
【0085】
なお、本発明においては、前記p型半導体層の成膜前又は成膜後に、n型半導体層を形成することが好ましい。より具体的には、前記半導体装置の製造方法において、少なくともp型半導体層とn型半導体層とを積層する工程を含むことが好ましい。n型半導体層の形成手段は特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、ミストCVD法が好ましい。前記n型半導体層は、酸化物半導体を主成分とすることが好ましく、周期律表の第13族金属(例えばAl、Ga、In、Tl等)を含む酸化物半導体を主成分とすることがより好ましい。また、前記n型半導体層は、結晶性酸化物半導体を主成分とするのも好ましく、Gaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とすることがより好ましく、コランダム構造を有し且つGaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とすることが最も好ましい。また、本発明においては、前記n型半導体の主成分である酸化物半導体と、前記p型酸化物半導体との格子定数差が、1.0%以下であるのも、良好なpn接合を形成することができるため、好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。
【0086】
ここで、「格子定数差」とは、前記n型半導体の主成分である酸化物半導体の格子定数から、前記p型酸化物半導体の格子定数を差し引いた値を、前記p型酸化物半導体の格子定数で除した数値の絶対値を100倍した数値(%)と定義される。前記格子定数差が1.0%以下である場合の例としては、p型酸化物半導体がコランダム構造を有する場合であって、n型半導体の主成分である酸化物半導体もコランダム構造を有する場合等が挙げられ、より好適には、p型酸化物半導体が、Ir2O3の単結晶又は混晶であって、n型半導体の主成分である酸化物半導体が、Ga2O3の単結晶又は混晶である場合等が挙げられる。なお、「主成分」とは、前記酸化物半導体が、原子比で、n型半導体層の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。また、本発明においては、前記p型酸化物半導体が、単結晶であってもよいし、多結晶等であってもよい。
【0087】
上記のようにして各種金属酸化物膜の形成方法によって得られる金属酸化物膜は、p型半導体層として半導体装置に用いることができ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。前記金属酸化物膜を半導体装置に用いることにより、ラフネス散乱を抑制することができ、半導体装置のチャネル移動度を優れたものとすることができる。また、半導体装置は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができ、本発明においては、横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に用いることができるが、中でも、縦型デバイスに用いることが好ましい。前記半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)又は発光ダイオードなどが挙げられる。
【実施例0088】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
[ミストCVD法による成膜]
本実施例では、ミストCVD法による成膜を行った。
【0090】
(実施例1)
1.製造装置
図1を用いて、実施例で用いたミストCVD装置(コールドウォール式)を説明する。ミストCVD装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)源2bと、キャリアガス(希釈)源2bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁3bと、前駆体溶液である原料溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の底面に取り付けられた超音波振動子6と、成膜室7と、ミスト発生源4から成膜室7までをつなぐ供給管9と、成膜室7内に設置されたホットプレート8と、熱反応後の霧化液滴4b及び排気ガスを排出する排気口11とを備えている。なお、ホットプレート8上には、基体10が設置されている。
【0091】
2.原料溶液の作製
下記式(3)及び下記式(4)で示されるイリジウム錯体を含む水溶液(イリジウム(Ir)濃度0.01mol/L)に塩酸を3質量%となるように加えた溶液と、ガリウムアセチルアセトナート(ガリウム(Ga)濃度0.01mol/L)水溶液に塩酸を3質量%となるように加えた溶液とを混合して水溶液を調製し、これを原料溶液とした。
【0092】
【0093】
3.成膜準備
上記2.で得られた原料溶液4aをミスト発生源4内に収容した。次に、基体10として、m面サファイア基板をホットプレート8上に設置し、ホットプレート8の温度を上げて基体10を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3a、3bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス源2a、キャリアガス(希釈)源2bからキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7内の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を1.0L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を1.0L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0094】
4.膜形成
次に、超音波振動子6を振動させ、その振動を、水5aを通じて原料溶液4aに伝播させることによって、原料溶液4aを霧化させて霧化液滴4bを生成させた。この霧化液滴4bが、キャリアガスによって、成膜室7に搬送され、大気圧下、温度500℃の基体10の表面で霧化液滴4bが熱反応して基体10上に膜が形成された。成膜時間を60分とした。膜厚は、130nmであった。
【0095】
上記4.にて得られた膜について、X線回析装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜は、α-(Ir,Ga)2O3膜であった。当該膜中の金属元素中のIr比率が9.1%であり、同Ga比率が90.9%であった。当該膜のバンドギャップは、約5.0eVと推定される。得られた膜につき、ホール効果測定を行って、p型半導体であることを確認した。また、CV測定結果からアクセプタ濃度評価を実施したところ、キャリア密度は、1×1019(cm-3)であった。また、下記の<量産性の評価>の評価結果は「B」であった。
【0096】
(実施例2)
上記式(3)で示されるイリジウム錯体を含む水溶液のイリジウム(Ir)濃度を0.03mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして膜を得た。膜厚は、380nmであった。得られた膜について、X線回析装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜は、α-(Ir,Ga)2O3膜であった。当該膜中の金属元素中のIr比率が10.5%であり、同Ga比率が89.5%であった。当該膜のバンドギャップは、約4.9eVと推定される。得られた膜につき、ホール効果測定を行って、p型半導体であることを確認した。また、CV測定結果からアクセプタ濃度評価を実施したところ、キャリア密度は、実施例1で得られた膜と同程度であった。また、下記の<量産性の評価>の評価結果は「A」であった。
【0097】
(比較例1)
下記式(3)及び下記式(4)で示されるイリジウム錯体に代えて下記式(5)で表されるイリジウム錯体(イリジウムアセチルアセトナート)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作しようとしたところ、イリジウムアセチルアセトナートが水に溶解せず、実施例1と同濃度(イリジウム濃度0.01mol/L)のイリジウムアセチルアセトナート水溶液を調製することができなかった。そこで、濃度を10分の1とした系で実験を行った。具体的には、イリジウムアセチルアセトナート(イリジウム(Ir)濃度0.001mol/L)水溶液に塩酸を3質量%となるように加えた溶液と、ガリウムアセチルアセトナート(ガリウム(Ga)濃度0.001mol/L)水溶液に塩酸を3質量%となるように加えた溶液とを混合して水溶液を調製し、これを原料溶液とした。原料溶液と成膜時間以外は、実施例1と同様に成膜した。得られた膜について、X線回析装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜は、α-(Ir,Ga)2O3膜であった。成膜時間は180分で、膜厚は90nmとなった。また、下記の<量産性の評価>の評価結果は「C」であった。
【0098】
【0099】
(実施例3)
上記式(3)で示されるイリジウム錯体を含む原料(イリジウム濃度0.05mol/L)と超純水とに、塩酸を3質量%となるように加えて水溶液を調整し、これを原料溶液とした。原料溶液以外は、実施例1と同様にして成膜を行った。膜厚は800nmとなった。
【0100】
実施例3にて得られた膜について、X線回析装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜は、α-Ir2O3膜であった。得られた膜につき、ホール効果測定を行って、p型半導体であることを確認した。また、下記の<量産性の評価>の評価結果は「A」であった。
【0101】
<量産性の評価>
ミストCVD法で成膜時間60分における成膜の進行状況を評価した。60分間でより厚い膜を形成できた場合、量産性が優れていると評価できる。60分の成膜反応後に得られた金属酸化物膜の膜厚を分光エリプソメーター(SEMILAB社製、型番SE-2000)を用いて測定した。
膜厚が250nm以上の範囲にあれば、優良であり「A」とした。
膜厚が100nm超250nm未満の範囲にあれば、良好であり「B」とした。
膜厚が100nm以下の範囲にあれば、成膜レートは不良であり「C」とした。
【0102】
<熱重量-示差熱分析(TG-DTA)>
上述の実施例及び比較例で用いたイリジウム錯体について、酸素雰囲気又は窒素雰囲気のそれぞれの雰囲気中で熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を行い、錯体の分解特性を検討した。この評価試験は、分析装置としてNETZSCH社製型番STA2500Regulusを用い、イリジウム錯体試料(サンプル重量10mg)をアルミナ製セルに充填し、昇温速度20℃/min、測定温度範囲室温~1000℃にて、重量変化を観察した。イリジウム錯体としては上記式(3)で示されるイリジウム錯体及び上記式(5)で示されるイリジウム錯体をそれぞれ用いた。TG-DTAの結果を
図2及び
図3に示す。
【0103】
図2において、上記式(3)で示されるイリジウム錯体の400℃における質量減少率は50~60%程度であるが、
図3において、上記式(5)で示されるイリジウム錯体の400℃における質量減少率は70%程度であった。400℃付近では昇華と酸化反応が同時に起こっていると考えられるが、上記式(5)で示されるイリジウム錯体では昇華が酸化反応より多く起こっていると考えられるため質量減少率が高くなったと考えられる。一方、上記式(3)で示されるイリジウム錯体は昇華と酸化反応とが同程度で起こっていると考えられ、かつ500℃付近で酸化による発熱ピークがあることから、質量減少率が上記式(5)で示されるイリジウム錯体に比較して低かったと考えられる。
【0104】
この結果は、昇華により気化してしまえば膜厚に寄与しないため、昇華の割合が少ないほどより厚い膜の形成が可能となることから、成膜速度の向上につながることを示唆する。また、
図2において、23℃の室温付近から400℃までの温度範囲において10%以上80%の質量減少があり、400から600℃の温度範囲において発熱を伴う3%以上50%以下の質量減少を有することが確認できる。発熱は酸化反応によると考えられる。一方、
図3では、400℃から600℃の温度範囲において質量減少がほとんど確認できない。これは400℃に至る前に昇華が進行し、これ以上の温度で質量減少に寄与する物質が消費されつくされたために、質量減少が確認できなかったのではないかと考えられる。以上により比較例で用いた上記式(5)で示されるイリジウム錯体は低温領域で熱分解反応が完遂してしまうが、上記式(3)で示されるイリジウム錯体は400℃から600℃の温度範囲においても熱分解反応は完遂しきらず、酸化反応が進行していることから、上記式(5)で示されるイリジウム錯体より耐熱性が高い化合物であると考えられる。
【0105】
[塗布法による成膜]
本実施例では、塗布法による成膜を行った。
【0106】
(実施例4)
1.塗布液の作製
実施例1で用いたイリジウム錯体を含む水溶液(イリジウム濃度0.01mol/L)を塗布液とした。
【0107】
2.金属酸化物膜の作成
上記塗布液を、25℃、大気圧下でサファイア基板上の全面にスピンコーティング(1000rpm×60sec)した後、大気中150℃で10分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約300nm)を得た。この塗布膜、大気中550℃で、6時間加熱処理することで、金属酸化物膜を得た。下記の<金属酸化物膜の表面粗さの評価>の評価結果は「A」であった。
【0108】
(比較例2)
比較例1で用いたイリジウムアセチルアセトナートを含む水溶液(イリジウム濃度0.001mol/L)を塗布液としたこと以外は、実施例4と同様に操作して金属酸化物膜を作製した。下記の<金属酸化物膜の表面粗さの評価>の評価結果は「C」であった。
【0109】
<金属酸化物膜の表面粗さの評価>
得られた膜について、AFM(走査原子間力顕微鏡 Bruker社製 型番Dimension Fastscan/Icon)を用いて表面粗さ(Ra)を観察した。以下の基準で判定した。
表面粗さの数値が1nm以上3nm未満の範囲にあれば、表面粗さは優良であり「A」とした。
表面粗さの数値が3nm以上5nm未満の範囲にあれば、表面粗さは良好であり「B」とした。
表面粗さの数値が5nm以上の範囲にあれば、表面粗さは不良であり「C」とした。
【0110】
実施例及び比較例の結果から、本発明の形成方法で得られた金属酸化物膜は、表面平滑性や結晶性等の膜質に優れているため、工業的に有用であり、また、移動度等の電気特性にも優れていることが分かる。
【0111】
<付記>
[項1]
酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析において、480℃から520℃の範囲に発熱ピークを有する金属錯体を用いる成膜方法。
[項2]
前記金属錯体が、酸素を含む雰囲気下、昇温速度20℃/minにおける熱重量-示差熱分析において、23℃から400℃までの温度範囲において10%以上80%以下の質量減少があり、かつ400℃から600℃の温度範囲において発熱を伴う3%以上50%以下の質量減少がある上記項1に記載の成膜方法。
[項3]
前記金属錯体が、2以上の異なる配位子を有する金属錯体及び同一の配位子と置換基とを有する金属錯体の少なくとも一方の金属錯体である上記項1又は上記項2に記載の成膜方法。
[項4]
前記2以上の異なる配位子が、アセチルアセトナート由来の配位子、複素環構造を有する配位子及び下記式(1)で示される配位子からなる群から選ばれる少なくとも2種の配位子であり、前記同一の配位子と置換基とを有する金属錯体が下記式(2)で示される金属錯体である上記項3に記載の成膜方法。
【化7】
(式(1)中、点線は配位結合を示し、*1は金属との配位結合位を示す。*2は金属との結合位を示す。R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1から6のアルキル基を示す。
式(2)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から6のアルキル基、フェニル基、又はトリル基を示す。R
5はハロゲン原子、ホルミル基、アセトキシ基、スルホ基、メシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ホスホリル基、又は炭素数1から6のアルキル基を示す。Xは中心金属を示す。)
[項5]
前記2以上の異なる配位子を有する金属錯体が配位している中心金属、及び式(2)で示される金属錯体のXで示される中心金属が、周期律表のdブロック金属又は周期律表第13族金属を含有する上記項4に記載の成膜方法。
[項6]
前記中心金属が、周期律表第9族金属又は第13族金属を含有する上記項4に記載の成膜方法。
[項7]
前記中心金属がイリジウムである上記項4から上記項6のいずれか1項に記載の成膜方法。
[項8]
前記イリジウムを中心金属とする金属錯体が下記式(3)又は下記式(4)で示される金属錯体である上記項7に記載の成膜方法。
【化8】
(式(4)中、R
5はハロゲン原子、ホルミル基、アセトキシ基、スルホ基、メシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ホスホリル基、又は炭素数1から6のアルキル基を示す。)
[項9]
前記金属錯体を原料として金属酸化物膜を形成する上記項1に記載の成膜方法。
[項10]
前記金属酸化物膜が結晶性酸化物半導体を含む上記項9に記載の成膜方法。
[項11]
前記金属錯体をコランダム構造を有する基体上へ供給する上記項1から上記項10のいずれか1項に記載の成膜方法。
[項12]
前記基体の結晶成長面を含む少なくとも一部がガリウムを主成分として含む上記項11に記載の成膜方法。
[項13]
前記金属錯体を含む液体を霧化又は液滴化する工程と、得られたミスト又は液滴を、キャリアガスで基体まで搬送する工程と、前記ミスト又は液滴を前記基体近傍で熱反応させて前記基体上に金属酸化物膜を形成する工程とを備える上記項1から上記項12のいずれか1項に記載の成膜方法。
[項14]
前記金属錯体を含む液体を、基体上に塗工し乾燥させて、前記基体上に金属酸化物膜を形成する工程を備える上記項1から上記項12のいずれか1項に記載の成膜方法。
[項15]
前記金属錯体は、液体の原料に含まれており、
前記原料は、さらにガリウムを含む上記項1から上記項14のいずれか1項に記載の成膜方法。
[項16]
前記金属錯体は、液体の原料に含まれており、
前記原料は、さらにp型ドーパントを含む上記項1から上記項15のいずれか1項に記載の成膜方法。
[項17]
周期律表第9族の金属を含む金属錯体及び水を含む原料溶液から前記金属を含む膜を成膜する方法であって、
前記金属錯体の水への溶解度が0.01mol/L以上である成膜方法。
[項18]
前記金属がイリジウムである上記項17に記載の成膜方法。