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特開2024-129743光硬化性組成物、立体造形物、及び歯科用製品
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  • 特開-光硬化性組成物、立体造形物、及び歯科用製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129743
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】光硬化性組成物、立体造形物、及び歯科用製品
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/50 20060101AFI20240919BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240919BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240919BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20240919BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20240919BHJP
【FI】
C08F2/50
B33Y70/00
B33Y80/00
A61K6/887
A61K6/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039139
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 万依
(72)【発明者】
【氏名】奥村 真帆
(72)【発明者】
【氏名】酒巻 俊一
【テーマコード(参考)】
4C089
4J011
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089BD01
4C089BD02
4C089CA03
4C089CA10
4J011PA13
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA03
4J011QA12
4J011QA14
4J011QA46
4J011SA61
4J011SA84
4J011TA06
4J011UA01
4J011VA05
4J011WA08
(57)【要約】
【課題】摩耗しにくく、かつ、口腔内で立体造形物に力が加わった際に、割れにくい立体造形物、又は当該立体造形物を介して負荷がかかる対象物が割れにくい立体造形物を作製可能な光硬化性組成物、この光硬化性組成物から得られる立体造形物及び歯科用製品を提供する。
【解決手段】光重合性成分と、光重合開始剤と、を含有する光硬化性組成物であって、さらにフィラーを含有し、前記光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A1を形成し、前記硬化層A1を厚み方向に積層させることにより、ISO 527-2に準拠されたダンベル型試験片形状の造形物A1を形成し、前記造形物A1に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形により、ダンベル型試験片形状の試験片A1を作製した場合に、前記試験片A1の破断伸度が6.5%以上である、光硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性成分と、光重合開始剤と、を含有する光硬化性組成物であって、
さらにフィラーを含有し、
前記光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A1を形成し、前記硬化層A1を厚み方向に積層させることにより、ISO 527-2に準拠されたダンベル型試験片形状の造形物A1を形成し、前記造形物A1に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形により、ダンベル型試験片形状の試験片A1を作製した場合に、前記試験片A1の破断伸度が6.5%以上である、光硬化性組成物。
【請求項2】
前記光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A2を形成し、前記硬化層A2を厚み方向に積層させることにより、長さ25mm、幅2mm、厚み2mmの矩形棒形状の造形物A2を形成し、前記造形物A2に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形により、長さ25mm、幅2mm、厚み2mmの矩形棒形状の試験片A2を作製した場合に、前記試験片A2の曲げ弾性率が3000MPa以上であり、かつ、前記試験片A2の曲げ強度が80MPa以上である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
試験片A1の破断伸度が12.0%未満である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記フィラーが、シリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミノシリケート粒子、アルミナ粒子、及びチタニア粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
前記フィラーが、平均粒径が5nm以上100nm未満であるフィラーを含む、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
前記フィラーの含有量が、前記光硬化性組成物に対して1.0質量%~35質量%である、請求項5に記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
前記光重合性成分が、(メタ)アクリルモノマーを含む、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
前記(メタ)アクリルモノマーが、単官能(メタ)アクリルモノマー及び二官能(メタ)アクリルモノマーを含む、請求項7に記載の光硬化性組成物。
【請求項9】
前記単官能(メタ)アクリルモノマーの含有量が、(メタ)アクリルモノマーの全質量に対して20質量%~80質量%である、請求項8に記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
前記二官能(メタ)アクリルモノマーの含有量が、(メタ)アクリルモノマーの全質量に対して20質量%~80質量%である、請求項8に記載の光硬化性組成物。
【請求項11】
E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、300mPa・s~6000mPa・sである、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項12】
光造形用の光硬化性組成物である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項13】
光造形による歯科用製品の製造に用いられる、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項14】
光造形による人工歯の製造に用いられる、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項15】
請求項1~請求項14のいずれか1項に記載の光硬化性組成物の硬化物である、立体造形物。
【請求項16】
請求項15に記載の立体造形物を含む、歯科用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光硬化性組成物、立体造形物、及び歯科用製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用補綴物、口腔内で使用される器具などの歯科用製品に関する検討がなされている。例えば、これら歯科用製品の造形の効率の観点で、3Dプリンターを用いた光造形により歯科用製品等の立体造形物を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4160311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光硬化性組成物を用い、光造形により製造された立体造形物は、口腔内で使用される際に、摩耗する場合があり、立体造形物の口腔内での使用における耐摩耗性を向上させるために、フィラーを添加することがある。
一方、立体造形物を口腔内で使用される人工歯とし、その人工歯をさらに義歯床に嵌めて歯科用製品として使用する場合がある。このような場合において、人工歯にフィラーに添加することでその耐摩耗性を向上させることができる。しかし、人工歯に力が加わった際に、人工歯、義歯床等が割れやすくなる場合がある。すなわち、人工歯等の立体造形物にフィラーを添加することで、口腔内でその立体造形物に力が加わった際に立体造形物、当該立体造形物を介して負荷がかかる対象物などが割れやすくなるという問題がある。
【0005】
本開示の一態様の目的は、摩耗しにくく、かつ、口腔内で立体造形物に力が加わった際に、割れにくい立体造形物、又は当該立体造形物を介して負荷がかかる対象物が割れにくい立体造形物を作製可能な光硬化性組成物、この光硬化性組成物から得られる立体造形物及び歯科用製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 光重合性成分と、光重合開始剤と、を含有する光硬化性組成物であって、
さらにフィラーを含有し、
前記光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A1を形成し、前記硬化層A1を厚み方向に積層させることにより、ISO 527-2に準拠されたダンベル型試験片形状の造形物A1を形成し、前記造形物A1に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形により、ダンベル型試験片形状の試験片A1を作製した場合に、前記試験片A1の破断伸度が6.5%以上である、光硬化性組成物。
<2> 前記光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A2を形成し、前記硬化層A2を厚み方向に積層させることにより、長さ25mm、幅2mm、厚み2mmの矩形棒形状の造形物A2を形成し、前記造形物A2に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形により、長さ25mm、幅2mm、厚み2mmの矩形棒形状の試験片A2を作製した場合に、前記試験片A2の曲げ弾性率が3000MPa以上であり、かつ、前記試験片A2の曲げ強度が80MPa以上である、<1>に記載の光硬化性組成物。
<3> 試験片A1の破断伸度が12.0%未満である、<1>に記載の光硬化性組成物。
<4> 前記フィラーが、シリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミノシリケート粒子、アルミナ粒子、及びチタニア粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、<1>に記載の光硬化性組成物。
<5> 前記フィラーが、平均粒径が5nm以上100nm未満であるフィラーを含む、<1>又は<2>に記載の光硬化性組成物。
<6> 前記フィラーの含有量が、前記光硬化性組成物に対して1.0質量%~35質量%である、<5>に記載の光硬化性組成物。
<7> 前記光重合性成分が、(メタ)アクリルモノマーを含む、<1>に記載の光硬化性組成物。
<8> 前記(メタ)アクリルモノマーが、単官能(メタ)アクリルモノマー及び二官能(メタ)アクリルモノマーを含む、<7>に記載の光硬化性組成物。
<9> 前記単官能(メタ)アクリルモノマーの含有量が、(メタ)アクリルモノマーの全質量に対して20質量%~80質量%である、<8>に記載の光硬化性組成物。
<10> 前記二官能(メタ)アクリルモノマーの含有量が、(メタ)アクリルモノマーの全質量に対して20質量%~80質量%である、<8>に記載の光硬化性組成物。
<11> E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、300mPa・s~6000mPa・sである、<1>に記載の光硬化性組成物。
<12> 光造形用の光硬化性組成物である、<1>に記載の光硬化性組成物。
<13> 光造形による歯科用製品の製造に用いられる、<1>に記載の光硬化性組成物。
<14> 光造形による人工歯の製造に用いられる、<1>に記載の光硬化性組成物。
<15> <1>~<14>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物の硬化物である、立体造形物。
<16> <15>に記載の立体造形物を含む、歯科用製品。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、摩耗しにくく、かつ、口腔内で立体造形物に力が加わった際に、割れにくい立体造形物、又は当該立体造形物を介して負荷がかかる対象物が割れにくい立体造形物を作製可能な光硬化性組成物、この光硬化性組成物から得られる立体造形物及び歯科用製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】上顎義歯床の4点曲げ試験の方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「光」は、紫外線、可視光線等の活性エネルギー線を包含する概念である。
【0010】
本開示において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル又はメタクリルを意味する。
【0011】
〔光硬化性組成物〕
本開示の光硬化性組成物は、光重合性成分と、光重合開始剤と、を含有する光硬化性組成物であって、さらにフィラーを含有し、前記光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A1を形成し、前記硬化層A1を厚み方向に積層させることにより、ISO 527-2に準拠されたダンベル型試験片形状の造形物A1を形成し、前記造形物A1に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形により、ダンベル型試験片形状の試験片A1を作製した場合に、前記試験片A1の破断伸度が6.5%以上である。
【0012】
本開示の光硬化性組成物によれば、フィラーを含み、かつこの光硬化性組成物の硬化物である試験片A1の破断伸度が6.5%以上である。これにより、摩耗しにくく、かつ、口腔内で立体造形物に力が加わった際に、割れにくい立体造形物、又は当該立体造形物を介して負荷がかかる対象物が割れにくい立体造形物を作製可能である。
以下、上述した従来の問題の一例、及び、本開示の光硬化性組成物による効果の一例について説明する。
【0013】
光造形として、液槽方式の光造形(即ち、液槽を用いる光造形)が知られている。
液槽方式の光造形では、液槽内に収容された光硬化性組成物(即ち、液体状態の未硬化の光硬化性組成物。以下同じ。)の一部を光照射によって硬化させて硬化層を形成し、この操作を繰り返すことで硬化層を積層させ、これにより立体造形物を得る。液槽方式の光造形は、液槽を用いる点で、インクジェット方式の光造形とは異なる。
液槽方式の光造形は、DLP(Digital Light Processing)方式の光造形及びSLA(Stereolithography)方式の光造形に大別される。DLP方式では、液槽内の光硬化性組成物に対し、面状の光を照射する。SLA方式では、液槽内の光硬化性組成物に対し、レーザー光を走査する。
【0014】
DLP方式の光造形の一例では、例えば、
鉛直方向に移動可能なビルドテーブルと、
ビルドテーブルの下方(重力方向側。以下同じ。)に配置され、光透過性部を含み、光硬化性組成物が収容されるトレー(即ち、液槽)と、
トレーの下方に配置され、トレー内の光硬化性組成物に対し、トレーの光透過性部を介して面状の光を照射するための光源(例えば、LED光源)と、
を備える3Dプリンター(例えば、Kulzer社製の「Cara Print4.0」、Asiga社製の「Max UV」、等)が用いられる。
この一例では、まず、ビルドテーブルとトレーとの間に一層分のギャップを設け、このギャップを、光硬化性組成物で満たす。次に、ギャップに満たされた光硬化性組成物に対し、下方から、トレーの光透過性部を介して面状の光を照射し、光が照射された領域を硬化させることにより、一層目の硬化層を形成する。次に、ビルドテーブルとトレーとのギャップを次の一層分広げ、生じた空間を光硬化性組成物で満たす。次に、空間に満たされた光硬化性組成物に対し、一層目の硬化と同様にして光を照射し、二層目の硬化層を形成する。以上の操作を繰り返すことにより、硬化層を積層させ、立体造形物を製造する。この一例において、製造された立体造形物に対し、さらに光を照射することにより、立体造形物をさらに硬化させてもよい。
【0015】
<用途>
本開示の光硬化性組成物の用途には特に制限はない。
本開示の光硬化性組成物は、光造形用の光硬化性組成物であることが好ましい。
【0016】
本開示の光硬化性組成物は、液槽方式(例えば、DLP方式又はSLA方式、好ましくはDLP方式)の光造形用の光硬化性組成物であることがより好ましい。
【0017】
また、本開示の光硬化性組成物は、摩耗しにくく、かつ口腔内で立体造形物を使用する際に立体造形物等(立体造形物及び立体造形物を介して負荷がかかる対象物)が割れにくい立体造形物を作製可能であるため、歯科用製品の製造に用いられる光硬化性組成物であることが好ましい。
歯科用製品としては、義歯(即ち人工歯)、義歯床、歯科用補綴物、口腔内で使用する医療器具、歯科用模型、消失鋳造用模型、等が挙げられる。中でも、人工歯は、摩耗しにくいこと、それ自体割れにくいこと、人工歯を介して負荷がかかる義歯床が割れにくいことが望まれる。そのため、本開示の光硬化性組成物は、光造形による人工歯の製造に用いられることが好ましい。
歯科用補綴物としては、インレー、クラウン、ブリッジ、テンポラリークラウン、テンポラリーブリッジ等が挙げられる。
口腔内で使用する医療器具としては、マウスピース、マウスガード、歯列矯正器具、咬合用スプリント、印象採得用トレイ、手術用ガイド等が挙げられる。
歯科用模型としては、歯顎モデル等が挙げられる。
【0018】
<試験片A1の破断伸度>
上述した通り、本開示の光硬化性組成物の硬化物である試験片A1の破断伸度は、6.5%以上である。
上述した通り、試験片A1の破断伸度が6.5%以上であることにより、摩耗しにくく、かつ、口腔内で立体造形物に力が加わった際に、割れにくい立体造形物、又は当該立体造形物を介して負荷がかかる対象物が割れにくい立体造形物を作製可能である。
試験片A1の破断伸度は、立体造形物等の割れにくさの観点から、7.0%以上であることが好ましく、7.5%以上であることがより好ましく、8.0%以上であることがさらに好ましい。
試験片A1の破断伸度は、立体造形物の摩耗のしにくさの観点から、12.0%未満であることが好ましく、11.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましい。
試験片A1について、フィラーの平均粒径を小さくすると破断伸度を低く調整できる傾向にあり、フィラーの平均粒径を大きくすると破断伸度を高く調整できる傾向にある。また、フィラーの含有量を多くすると破断伸度を低く調整できる傾向にあり、フィラーの含有量を少なくすると破断伸度を高く調整できる傾向にある。
【0019】
(試験片A1)
試験片A1は、ISO 527-2に準拠されたダンベル型試験片形状の試験片である。
試験片A1は、本開示の光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A1を形成し、前記硬化層A1を厚み方向に積層させることにより、ISO 527-2に準拠されたダンベル型試験片形状の造形物A1を形成し、前記造形物A1に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形によって作製される。
試験片A1は、例えば、前述したDLP方式の光造形の一例に従って作製できる。
後述の実施例では、DLP方式の3Dプリンターである、Kulzer社製「Cara Print4.0」を用い、試験片A1を作製した。
【0020】
<試験片A2の曲げ弾性率>
本開示の光硬化性組成物に対し波長405nmの可視光を照射量12mJ/cmにて照射して厚み100μmの硬化層A2を形成し、前記硬化層A2を厚み方向に積層させることにより、長さ25mm、幅2mm、厚み2mmの矩形棒形状の造形物A2を形成し、前記造形物A2に対し、波長365nmの紫外線を照射量10J/cmにて照射する条件の光造形により、長さ25mm、幅2mm、厚み2mmの矩形棒形状の試験片A2を作製した場合、試験片A2の曲げ弾性率は、3000MPa以上であることが好ましい。
試験片A2の曲げ弾性率が3000MPa以上である場合には、本開示の光硬化性組成物を用いて製造される立体造形物(例えば、歯科用製品)の曲げ弾性率により優れ、特に、人工歯用途に適している。
試験片A2の曲げ弾性率は、3500MPa以上であることが好ましく、4000MPa以上であることがより好ましい。
試験片A2の曲げ弾性率の上限には特に制限はなく、例えば、6000MPa等が挙げられる。
【0021】
ここで、本開示の光硬化性組成物を用いて立体造形物を製造する際の製造条件は、必ずしも、試験片A2の作製条件と同じである必要はない。立体造形物の製造条件と試験片A2の作製条件とが異なる場合であっても、試験片A2の曲げ弾性率と、立体造形物の曲げ弾性率と、の間には相関がある。
即ち、試験片A2の曲げ弾性率は、本開示の光硬化性組成物を用いて製造される立体造形物の曲げ弾性率の指標である。
【0022】
(試験片A2)
試験片A2は、例えば、前述したDLP方式の光造形の一例に従って作製できる。
後述の実施例では、DLP方式の3Dプリンターである、Kulzer社製「Cara Print4.0」を用い、試験片A2を作製した。
【0023】
(曲げ弾性率)
試験片A2の曲げ弾性率は、以下のようにして測定する。
試験片A2を、37±1℃の精製水中に24±2時間浸漬させる。
その後、試験片A2を精製水から取り出し、取り出した試験片A2の曲げ弾性率を、ISO10477:2004に準拠し、試験速度1±0.3mm/分の条件にて測定する。
後述の実施例では、曲げ弾性率の測定装置として、万能試験機((株)インテスコ製)を用いた。
【0024】
<試験片A2の曲げ強度>
本開示の光硬化性組成物は、上記試験片A2を作製した場合に、試験片A2の曲げ強度が、80MPa以上であることが好ましい。
試験片A2の曲げ強度が80MPa以上である場合には、本開示の光硬化性組成物を用いて製造される立体造形物(例えば、歯科用製品)の曲げ強度により優れ、特に、人工歯用途に適している。
試験片A2の曲げ強度は、100MPa以上であることが好ましく、110MPa以上であることがより好ましく、120MPa以上であることがさらに好ましい。
試験片A2の曲げ強度の上限には特に制限はなく、上限としては、例えば、170MPa、160MPa、150MPa等が挙げられる。
【0025】
ここで、本開示の光硬化性組成物を用いて立体造形物を製造する際の製造条件は、必ずしも、試験片A2の作製条件と同じである必要はない。立体造形物の製造条件と試験片A2の作製条件とが異なる場合であっても、試験片A2の曲げ強度と、立体造形物の曲げ強度と、の間には相関がある。
即ち、試験片A2の曲げ強度は、本開示の光硬化性組成物を用いて製造される立体造形物の曲げ強度の指標である。
【0026】
(曲げ強度)
試験片A2の曲げ強度は、以下のようにして測定する。
試験片A2を、37±1℃の精製水中に24±2時間浸漬させる。
その後、試験片A2を精製水から取り出し、取り出した試験片A2の曲げ強度を、ISO10477:2004に準拠し、試験速度1±0.3mm/分の条件にて測定する。
後述の実施例では、曲げ強度の測定装置として、万能試験機((株)インテスコ製)を用いた。
【0027】
(光重合性成分)
本開示の光硬化性組成物は、光重合性成分を少なくとも1種含有する。
光重合性成分としては、エチレン性二重結合を含む化合物が挙げられる。
エチレン性二重結合を含む化合物としては、(メタ)アクリルモノマー、スチレン、スチレン誘導体、(メタ)アクリロニトリル、等が挙げられる。
【0028】
光重合性成分としては、国際公開第2019/189652号の段落0030~段落0059に記載の光重合性成分を用いてもよい。
【0029】
光重合性成分は、(メタ)アクリルモノマーを少なくとも1種含むことが好ましい。
この場合、光重合性成分全体に占める(メタ)アクリルモノマーの合計の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
(メタ)アクリルモノマーとしては、分子中に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を含むモノマーであればよく、その他には特に制限はない。
(メタ)アクリルモノマーとしては、単官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であっても二官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に2つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であっても多官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であってもよい。
【0031】
(メタ)アクリルモノマーは、分子中に、芳香族構造(例えば、ビスフェノールA構造、フェノキシフェニル構造等)、脂環式構造、及びウレタン結合のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。
かかる好ましい態様の(メタ)アクリルモノマーは、さらに、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0032】
(メタ)アクリルモノマーの分子量は、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましく、1500以下であることがさらに好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらに好ましい。
(メタ)アクリルモノマーの分子量の下限は、分子中に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を含むモノマーである限り、特に制限はない。(メタ)アクリルモノマーの分子量の下限は、例えば86であり、好ましくは100であり、より好ましくは200であり、さらに好ましくは300である。
【0033】
光硬化性組成物の粘度低減の観点から、本開示の光硬化性組成物に含有され得る(メタ)アクリルモノマーは、単官能(メタ)アクリルモノマー及び二官能(メタ)アクリルモノマーの少なくとも一方を含むことが好ましく、単官能(メタ)アクリルモノマー及び二官能(メタ)アクリルモノマーの両方を含むことがより好ましい。
この場合、光硬化性組成物の粘度低減の観点から、本開示の光硬化性組成物に含有され得る(メタ)アクリルモノマーの全量に対する、単官能(メタ)アクリルモノマー及び二官能(メタ)アクリルモノマーの総合計量は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。単官能(メタ)アクリルモノマー及び二官能(メタ)アクリルモノマーの総合計量の上限は特に限定されず、100質量%以下であればよい。
【0034】
単官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、ラウリル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ドデシル-1-ヘキサデカニル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-コハク酸、2-[[(ブチルアミノ)カルボニル]オキシ]エチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0035】
この場合、本開示の光硬化性組成物に含有され得る(メタ)アクリルモノマーの全量に対する、単官能(メタ)アクリルモノマーの合計量は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリルモノマーの全量に対する、単官能(メタ)アクリルモノマーの合計量は、例えば、80質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、45質量%以下であってもよい。
【0036】
二官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスカルバミン酸ビス(2-(メタ)アクリロキシエチル)N,N’-1,9-ノニレン((メタ)アクリル酸ジウレタン)、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコージ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
光硬化性組成物の硬化をより促進させる観点から、本開示の光硬化性組成物に含有され得る(メタ)アクリルモノマーは、二官能(メタ)アクリルモノマーを含むことが好ましい。
この場合、本開示の光硬化性組成物に含有され得る(メタ)アクリルモノマーの全量に対する、二官能(メタ)アクリルモノマーの合計量は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、55質量%以上であることが特に好ましい。(メタ)アクリルモノマーの全量に対する、二官能(メタ)アクリルモノマーの合計量は、例えば、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよく、65質量%以下であってもよい。
【0038】
光硬化性組成物の硬化をより促進させる観点から、本開示の光硬化性組成物に含有され得る(メタ)アクリルモノマーは、
分子中に、芳香環構造(例えば、ビスフェノールA構造等)及び脂環式構造の少なくとも一方を含む二官能の(メタ)アクリルモノマーであるモノマーM1、並びに/又は、
分子中に、ウレタン結合を含む二官能の(メタ)アクリルモノマーであるモノマーM2
を含むことがより好ましい。
この場合、本開示の光硬化性組成物に含有され得る(メタ)アクリルモノマーの全量に対するモノマーM1及びモノマーM2の合計量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリルモノマーの全量に対する、モノマーM1及びモノマーM2の合計量は、例えば、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
【0039】
本開示の光硬化性組成物に含まれる光重合性成分の含有量は特に制限されない。
光重合性成分の含有量は、立体造形物の摩耗のしにくさ及び立体造形物等の割れにくさの観点から、光硬化性組成物に対し、65質量%~99質量%であることが好ましく、70質量%~95質量%であることがより好ましく、75質量%~90質量%であることがさらに好ましく、80質量%~90質量%であることが特に好ましい。
【0040】
(光重合開始剤)
本開示の光硬化性組成物は、光重合開始剤を少なくとも1種含有する。
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、オキシムエステル化合物、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、α-アシロキシムエステル化合物、フェニルグリオキシレート化合物、ベンジル化合物、アゾ化合物、ジフェニルスルフィド化合物、鉄-フタロシアニン化合物、ベンソインエーテル化合物、アントラキノン化合物等が挙げられる。
【0041】
反応性の観点からは、光重合開始剤は、アルキルフェノン化合物及びアシルホスフィンオキサイド化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
光重合開始剤は、
アシルホスフィンオキサイド化合物(例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、等)を含むことが好ましく、
2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドを含むことがより好ましい。
【0042】
本開示の光硬化性組成物に含まれる光重合開始剤の量は、光重合性成分100質量部に対して0.1質量部~20質量部であることが好ましく、0.2質量部~10質量部であることがより好ましく、0.3質量部~5質量部であることがさらに好ましく、0.3質量部~3質量部であることがさらに好ましい。
【0043】
(フィラー)
本開示の光硬化性組成物は、さらに、フィラーを少なくとも1種含有する。
本開示の光硬化性組成物がフィラーを含有することで、摩耗しにくい立体造形物が得られる。
フィラーとしては、無機粒子が好ましく、無機酸化物粒子がより好ましい。
フィラーとしては、シリカ粒子(即ち、酸化ケイ素粒子)、ジルコニア粒子(即ち、酸化ジルコニウム粒子)、アルミノシリケート粒子、アルミナ粒子(即ち、酸化アルミニウム粒子)、及びチタニア粒子(即ち、酸化チタン粒子)からなる群から選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
フィラーは、シリカ粒子を含むことが特に好ましい。
【0044】
フィラーの平均粒径は特に制限はなく、例えば、5nm~500nmであってもよく、5nm~200nmであってもよく、5nm~100nmであってもよい。
フィラーの平均粒径は、耐摩耗性が向上する観点から、40nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。フィラーの平均粒径は、立体造形物等が割れにくくなる観点から、100nm未満が好ましく、80nm以下がより好ましい。
【0045】
本開示において、フィラーの平均粒径は、数平均一次粒子径を意味し、具体的には以下のようにして測定された値を意味する。
本開示の光硬化性組成物について光造形により硬化物(例えば、上述の試験片A1)を得た後、硬化物について断面を切り出す。得られた断面のTEM写真を撮影し、無作為に100個の粒径を選別し、これらの円相当径を求め、得られた円相当径を算術平均(数平均)する。
【0046】
本開示の光硬化性組成物に含まれるフィラーの含有量は特に制限されない。
フィラーの含有量は、立体造形物の摩耗のしにくさ及び立体造形物等の割れにくさの観点から、光硬化性組成物に対し、1質量%~35質量%であることが好ましく、5質量%~30質量%であることがより好ましく、10質量%~25質量%であることがさらに好ましく、10質量%~20質量%であることが特に好ましい。
【0047】
フィラーは、目的に応じて、シランカップリング剤等の表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。表面処理剤により、例えば、耐摩耗性等を、フィラーを含む光硬化性組成物の硬化物に付与することができる。
表面処理剤としては、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤を用いることができる。
シランカップリング剤としては、例えば、メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12)、メタクリルオキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリルオキシ基と珪素原子との間の炭素数:3~12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等の有機珪素化合物が挙げられる。
【0048】
(その他の成分)
本開示の光硬化性組成物は、必要に応じ、上述した成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、色材、改質剤、安定剤、酸化防止剤、溶剤等が挙げられる。
【0049】
<光硬化性組成物の好ましい粘度>
本開示の光硬化性組成物は、E型粘度計により25℃及び50rpmの条件で測定される粘度(以下、単に「粘度」ともいう)が、300mPa・s~6000mPa・sであることが好ましい。
ここで、rpmは、revolutions per minute(回転毎分)を意味する。
粘度が300mPa・s~6000mPa・sである場合には、光造形によって立体造形物を製造する際の光硬化性組成物の取り扱い性に優れる。
粘度は、400mPa・s~5000mPa・sであってもよく、500mPa・s~4000mPa・sであってもよい。
【0050】
〔立体造形物〕
本開示の立体造形物は、上述した本開示の光硬化性組成物の硬化物である。
このため、本開示の立体造形物は、摩耗しにくく、かつ、口腔内で立体造形物に力が加わった際に立体造形物等がわれにくい。
本開示の立体造形物は、凹部及び空間の少なくとも一方を有する立体造形物であることが好ましい。
凹部及び空間については、それぞれ前述したとおりである。
【0051】
〔歯科用製品〕
本開示の歯科用製品は、上述した本開示の立体造形物(好ましくは、凹部又は空間を有する立体造形物)を含む。
このため、本開示の歯科用製品は、摩耗しにくく、かつ口腔内にて割れにくい。
歯科用製品の具体例は前述したとおりである。
【実施例0052】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
【0053】
<光硬化性組成物の調製>
後述の表1に示す材料を3本ロールミルにて混練し、実施例1~3及び比較例1~2における各光硬化性組成物を調製した。
【0054】
後述の表1に示す材料(光重合性成分、光重合開始剤、及びフィラー)の詳細は、下記の通りである。
後述の表1中、各実施例及び各比較例における各成分の欄に示す数値は、光重合性成分の合計100質量部に対する、各成分の質量部を示す。
【0055】
(光重合性成分)
Ebecryl 4859(表1中のUDMA): ウレタンジメタクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社、構造を以下に示す)
【0056】
【化1】
【0057】
POBA:3-フェノキシベンジルアクリレート(共栄社株式会社、構造を以下に示す)
【0058】
【化2】
【0059】
(光重合開始剤)
819:アシルホスフィンオキサイド化合物(詳細には、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド)(Omnirad 819、IGM Resins B.V.社、構造を以下に示す)
【0060】
【化3】
【0061】
(フィラー)
アドマナノYA050C-SM1(シリカ粒子、平均粒径50nm、(株)アドマテックス)
【0062】
(光硬化性組成物の粘度)
実施例1~3の光硬化性組成物の粘度を、E型粘度計により、25℃、50rpmの条件で測定したところ、全て300mPa・s~6000mPa・sの範囲内であった。
【0063】
〔実施例1~3、比較例1~2〕
(試験片の引張強度、及び破断伸度の測定)
硬化物の引張強度及び破断伸度を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
まず、光硬化性組成物に対して、DLP方式の3Dプリンター(Kulzer社、Cara Print4.0)を用いて可視光を照射することで、光硬化性組成物をISO 527-2に準拠されたダンベル型試験片の形状に試験片A1を造形して造形物A1(積層幅100μm)を得た。
上記3Dプリンターを用いた可視光の照射では、各層に対して波長405nmの可視光を12mJ/cmで照射した。
上記で得られた造形物に対し、波長365nmの紫外線を10J/cmの条件にて照射して造形物を本硬化させることにより硬化物を得た。得られた硬化物を破断伸度の測定対象とした。
測定対象の硬化物の引張強度及び破断伸度を、ISO 527-2に準拠し、引張り試験装置を用いて引張り速度2mm/分の条件で測定した。引張強度の測定装置として万能試験機((株)インテスコ製)を用いた。
【0064】
(試験片の曲げ強度、曲げ弾性率の測定)
実施例及び比較例で調製した硬化性組成物を用いて得られた硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
DLP方式の3Dプリンター(Kulzer社、Cara Print4.0)を用い、測定対象の硬化性組成物を用いて25mm×2mm×2mmの試験片を、積層幅100μmとし、各層に波長405nmの可視光を12mJ/cm2照射する条件で造形した。得られた試験片に対し、波長365nmの紫外線を10J/cmの条件で照射して硬化性組成物を本硬化させることにより、試験片の硬化物を得た。
得られた試験片A2を、37±1℃の精製水中に24±2時間浸漬させた。
その後、試験片A2を精製水から取り出し、取り出した試験片A2の曲げ強度を、ISO10477:2004に準拠し、試験速度1.0mm/分の条件にて測定した。
曲げ強度の測定装置として、万能試験機((株)インテスコ製)を用いた。
【0065】
(デンチャー形状での4点曲げ試験)
実際の咀しゃく時における咬合では、左右臼歯による曲げ荷重が義歯床に作用することから、義歯の曲げ強度の評価方法として上顎義歯床を対象に4点曲げ試験が採用されている。この試験は臨床結果ともよく対応していることが知られている。
まず、光硬化性組成物に対して、DLP方式の3Dプリンター(Kulzer社、Cara Print4.0)を用いて可視光を照射することで、光硬化性組成物を義歯床の形状と人工歯の形状とにそれぞれ造形して造形物(積層幅100μm)を得た。
上記3Dプリンターを用いた可視光の照射では、各層に対して波長405nmの可視光を10mJ/cm~15mJ/cmの範囲内で照射した。
上記で得られた義歯床と人工歯とを接着剤にて仮接着させ、波長365nmの紫外線を10J/cmの条件にて照射して造形物を本硬化させることにより硬化物を得た。得られた硬化物を測定対象とした。
図1に上顎義歯床の4点曲げ試験の方法を示す。義歯床の臼歯部歯槽堤における所定位置に金属板を取り付けた。具体的には、治具を作製し上記義歯を造形後、義歯床のひずみ分布には影響がなく、試験体の形状が一定の寸法となるように常温重合レジンにより治具を取付けて治具付きの義歯を作製した。
上記で作製した治具付きの義歯の最大荷重を、支点間距離140mm、荷重点間距離100mm、試験速度1.0mm/分の条件にて測定した。
最大荷重の測定装置として、万能試験機((株)島津製作所製)を用いた。
最大荷重の評価基準は以下の通りである。
-最大荷重の評価基準-
AAA:650N以上
AA:500N以上650N未満
A:450N以上500N未満
B:350N以上450N未満
C:350N未満
【0066】
(試験片の摩耗特性)
実施例及び比較例で調製した硬化性組成物を用いて得られた硬化物の摩耗特性を下記の方法により測定した。摩耗量を表1に示す。
DLP方式の3Dプリンター(Kulzer社、Cara Print4.0)を用い、測定対象の硬化性組成物を用いて20mm×50mm×2mmの試験片を、積層幅100μmとし、各層に波長405nmの可視光を12mJ/cm照射する条件で造形した。得られた試験片に対し、波長365nmの紫外線を10J/cmの条件で照射して硬化性組成物を本硬化させることにより、試験片の硬化物A3を得た。硬化物表面は、研磨機(耐水研磨紙#800を使用)で平滑にした。
摩耗試験は東京技研(株)製6連摩耗試験機を用いて行った。削り子として半球状のアルミナビーズを用いた。荷重400gをかけた状態で硬化物A3表面上でアルミナビーズを動かし、摩耗媒体として、ポピーシードと水からなる懸濁液(ポピーシード20g/水40g)を用いた。200,000サイクル後、試験片の摩耗量をレーザー顕微鏡で深さプロファイルから体積として算出した。
摩耗量の評価基準は以下の通りである。
-摩耗量の評価基準-
AA:0.40mm以上0.60mm未満
A:0.60mm以上0.70mm未満
B:0.70mm以上0.80mm未満
C:0.80mm以上1.00mm未満
【0067】
【表1】
【0068】
表1中、「モノマーA」、「モノマーB」及び「光重合開始剤」の欄における括弧内の数値(部)は、モノマーAとモノマーBとの合計100質量部に対する、各々の成分の質量部を示し、「フィラー」の欄における「充填量/質量%」は、光重合性組成物全体の質量に対する組成物中のフィラーの質量%を示す。
【0069】
表1に示すように、実施例1~3の光硬化性組成物を用いて得られた硬化物では、4点曲げ試験評価及び耐摩耗性試験の結果が良好であった。
図1