(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129754
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】熱電変換モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/01 20230101AFI20240919BHJP
H10N 10/853 20230101ALI20240919BHJP
H10N 10/854 20230101ALI20240919BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20240919BHJP
【FI】
H10N10/01
H10N10/853
H10N10/854
H10N10/17 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039160
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】398032289
【氏名又は名称】株式会社テックスイージー
(74)【代理人】
【識別番号】100111084
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 義昭
(72)【発明者】
【氏名】羅 偉唐
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆秀
(57)【要約】
【課題】マグネシウムアンチモン系熱電素子を備えた熱電変換モジュールの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシウムアンチモン系熱電材料を焼結した焼結体310の端面に、溶射を行うことで、電極を接合するための電極接合層320を形成し、電極接合層320が形成された焼結体310を加工して、端面に電極接合層320を有する熱電素子110を形成し、得られた熱電素子110の電極接合層320に、熱電素子同士を電気的に接続するための電極を接合する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱電素子と、前記複数の熱電素子を電気的に接続するための複数の電極と、前記複数の熱電素子及び前記複数の電極を挟むように配置された一対の絶縁基板とを備えた熱電変換モジュールの製造方法であって、
マグネシウムアンチモン系熱電材料の焼結体の端面に、溶射により電極接合層を形成する電極接合層形成工程と、
前記電極接合層が形成された焼結体から、端面に電極接合層を有する熱電素子を得る素子形成工程と、
前記素子形成工程で得られた熱電素子の電極接合層と前記電極とを接合する接合工程と
を備えたことを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記電極接合層形成工程は、金属を溶射することにより前記電極接合層を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記金属は、銅である
ことを特徴とする請求項2に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記電極接合層の厚みは、100~200μm程度である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記絶縁基板の一方の面に、前記電極を形成する電極形成工程を更に備え、
前記接合工程は、前記絶縁基板に形成された電極と、前記熱電素子の電極接合層とを接合する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項6】
両端面に前記電極接合層を有する複数の熱電素子と、前記電極が形成された一対の絶縁基板とを組み立てる組み立て工程を更に備え、
前記接合工程は、前記一対の絶縁基板に形成された電極と、前記熱電素子の両端の電極接合層とを同時に接合する
ことを特徴とする請求項5に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記焼結体は、複数の熱電素子を切り出すことが可能な大きさを有しており、
前記素子形成工程は、前記電極接合層が形成された前記焼結体を切断して、端面に電極接合層を有する熱電素子を複数得る
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記電極接合層形成工程は、Mg3Sb2系熱電材料で構成されるn型焼結体及びMgAgSb系熱電材料で構成されるp型焼結体のそれぞれに対して、電極接合層を形成し、
前記素子形成工程は、前記電極接合層が形成された前記n型焼結体から、端面に電極接合層を有するn型熱電素子を得ると共に、前記電極接合層が形成された前記p型焼結体から、端面に電極接合層を有するp型熱電素子を得る
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱電発電用や電子冷却用の熱電変換モジュールが知られている。このような熱電変換モジュールは、一般に、複数の熱電素子(n型半導体素子及びp型半導体素子)と、複数の熱電素子を電気的に接続するための複数の金属電極と、複数の熱電素子及び複数の金属電極を挟持する一対の絶縁基板(例えば、セラミック基板)とによって構成されている。
【0003】
一方、従来より、マグネシウム(Mg)及びアンチモン(Sb)を主成分とするマグネシウムアンチモン系熱電材料が知られており、マグネシウムアンチモン系熱電材料を使用した熱電素子(マグネシウムアンチモン系熱電素子)は、室温周辺で、比較的高い熱電性能(発電性能)を有することが知られている。
【0004】
しかしながら、マグネシウムアンチモン系熱電材料の原料となるマグネシウム(Mg)は、一般に、ろう付やめっきが困難であり、そのようなマグネシウム(Mg)を主成分とするマグネシウムアンチモン系熱電素子については、金属電極との接合が課題となっている。
【0005】
加えて、マグネシウムアンチモン系熱電材料の一種であるMgAgSb系熱電材料については、400℃以上の温度領域でその特性が変化してしまい、熱電性能が維持できないことが報告されており、この点からも、一般に、融点が450℃以上のろうを使用するろう付については使用することができない。
【0006】
なお、特開2017-11109号公報には、複数の熱電素子と、前記複数の熱電素子を電気的に接続するための複数の電極と、前記複数の熱電素子及び前記複数の電極を挟むように配置された一対の絶縁基板とを備えた熱電変換モジュールの製造方法であって、前記絶縁基板の表面に、前記電極用のパターンを活性金属ろうで形成する電極パターン形成工程と、前記複数の熱電素子と、前記電極用のパターンが形成された一対の絶縁基板とを組み立てる組み立て工程と、前記組み立て工程で組み立てられた熱電変換モジュールを加熱してろう付するろう付工程とを備えたことを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、マグネシウムアンチモン系熱電素子を備えた熱電変換モジュールの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱電変換モジュールの製造方法は、複数の熱電素子と、前記複数の熱電素子を電気的に接続するための複数の電極と、前記複数の熱電素子及び前記複数の電極を挟むように配置された一対の絶縁基板とを備えた熱電変換モジュールの製造方法であって、マグネシウムアンチモン系熱電材料の焼結体の端面に、溶射により電極接合層を形成する電極接合層形成工程と、前記電極接合層が形成された焼結体から、端面に電極接合層を有する熱電素子を得る素子形成工程と、前記素子形成工程で得られた熱電素子の電極接合層と前記電極とを接合する接合工程とを備えたことを特徴とする。
【0010】
この場合において、前記電極接合層形成工程は、金属(例えば、銅)を溶射することにより前記電極接合層を形成するようにしてもよい。また、前記電極接合層の厚みは、100~200μm程度であるようにしてもよい。
【0011】
また、以上の場合において、前記絶縁基板の一方の面に、前記電極を形成する電極形成工程を更に備え、前記接合工程は、前記絶縁基板に形成された電極と、前記熱電素子の電極接合層とを接合するようにしてもよい。
【0012】
また、この場合において、両端面に前記電極接合層を有する複数の熱電素子と、前記電極が形成された一対の絶縁基板とを組み立てる組み立て工程を更に備え、前記接合工程は、前記一対の絶縁基板に形成された電極と、前記熱電素子の両端の電極接合層とを同時に接合するようにしてもよい。
【0013】
また、以上の場合において、前記焼結体は、複数の熱電素子を切り出すことが可能な大きさを有しており、前記素子形成工程は、前記電極接合層が形成された前記焼結体を切断して、端面に電極接合層を有する熱電素子を複数得るようにしてもよい。
【0014】
また、以上の場合において、前記電極接合層形成工程は、Mg3Sb2系熱電材料で構成されるn型焼結体及びMgAgSb系熱電材料で構成されるp型焼結体のそれぞれに対して、電極接合層を形成し、前記素子形成工程は、前記電極接合層が形成された前記n型焼結体から、端面に電極接合層を有するn型熱電素子を得ると共に、前記電極接合層が形成された前記p型焼結体から、端面に電極接合層を有するp型熱電素子を得るようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マグネシウムアンチモン系熱電素子を備えた熱電変換モジュールの新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】熱電変換モジュールの構成例を説明するための図である。
【
図2】本発明によるマグネシウムアンチモン系熱電素子の製造方法を説明するための図(その1)である。
【
図3】本発明によるマグネシウムアンチモン系熱電素子の製造方法を説明するための図(その2)である。
【
図4】本発明による熱電変換モジュールの製造方法を説明するための図(その1)である。
【
図5】本発明による熱電変換モジュールの製造方法を説明するための図(その2)である。
【
図6】実施例の焼結工程において使用された焼結治具の構成を説明するための断面図である。
【
図7】n型焼結体のX線回折パターンを示す図である。
【
図8】p型焼結体のX線回折パターンを示す図である。
【
図9】実施例において、アルミナ基板に形成した電極の構成を説明するための図である。
【
図10】実施例1の電圧-電流特性の測定結果を示す図である。
【
図11】実施例2の電圧-電流特性の測定結果を示す図である。
【
図12】実施例3の電圧-電流特性の測定結果を示す図である。
【
図13】実施例1のn型焼結体の断面の走査型電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【
図14】実施例2のn型焼結体の断面の走査型電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【
図15】実施例3のn型焼結体の断面の走査型電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
本発明による熱電変換モジュールの製造方法は、マグネシウムアンチモン系熱電材料の焼結体で構成される熱電素子(マグネシウムアンチモン系熱電素子)を備えた熱電変換モジュールを製造するものであって、熱電素子(焼結体)の端面に、電極との接合を可能にするための層(電極接合層)を溶射により形成することで、熱電素子と電極との接合を可能にするものである。
【0019】
なお、ここでのマグネシウムアンチモン系熱電材料には、マグネシウム(Mg)及びアンチモン(Sb)を主成分とするMg3Sb2系熱電材料と、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)及びアンチモン(Sb)を主成分とするMgAgSb系熱電材料の両方が含まれる。
【0020】
まず、本発明による製造方法によって製造される熱電変換モジュールの構成について説明する。
【0021】
図1は、本発明による製造方法によって製造される熱電変換モジュールの構成例を説明するための図である。同図(a)は平面図を示し、同図(b)は正面図を示し、同図(c)は右側面図を示す。
【0022】
同図に示すように、本発明による製造方法によって製造される熱電変換モジュール100は、複数の熱電素子110(111,112)と、複数の熱電素子110を電気的に接続するための複数の電極120(121,122)と、複数の熱電素子110及び複数の電極120を挟むように配置された一対の絶縁基板131,132とを備える。
【0023】
同図に示した熱電変換モジュール100は、例えば、一対の絶縁基板131,132の間に温度差が与えられると、ゼーベック効果により、起電力を生じさせる熱電発電用の熱電変換モジュールとして使用される。
【0024】
複数の熱電素子110は、複数のn型熱電素子(n型半導体素子)111と、複数のp型熱電素子(p型半導体素子)112とによって構成されており、隣接する一対のn型熱電素子111及びp型熱電素子112の一端が一方側(同図(c)における左側)の電極121で電気的に接続されることで、複数のπ型熱電素子が構成されている。そして、板状に並べられた複数のπ型熱電素子は、他方側(同図(c)における右側)の電極122によって、電気的には直列に、熱的には並列に接続されている。
【0025】
本実施形態においては、n型熱電素子111は、Mg3Sb2系熱電材料の焼結体で構成され、p型熱電素子112は、MgAgSb系熱電材料の焼結体によって構成される。
【0026】
また、熱電素子111,112の両端面には、所定の厚み(例えば、100~200μm)の電極接合層(金属層)が形成されている。なお、同図においては、電極接合層については図示を省略している。
【0027】
複数の電極120は、複数の熱電素子110を電気的に直列に接続するものであって、金属(本実施形態においては、ニッケル)によって構成されている。本実施形態においては、複数の電極120は、無電解ニッケルめっきによって、一対の絶縁基板131,132の内側面(熱電素子110に対向する面)に形成される。
【0028】
一対の絶縁基板131,132は、複数の熱電素子110及び複数の電極120を挟むように配置されて、熱電変換モジュールの高温面(加熱面)及び低温面(放熱面)を構成するものである。本実施形態においては、絶縁基板131,132は、セラミックス、より具体的には、酸化アルミニウム(Al2O3)によって構成される。また、前述したように、一対の絶縁基板131,132の内側面には、無電解ニッケルめっきによって複数の電極120が形成されている。
【0029】
次に、以上のような構成を有する熱電変換モジュール100の製造方法について説明する。
【0030】
まず、熱電変換モジュール100が備える熱電素子110の製造方法について説明する。
【0031】
図2及び
図3は、本発明によるマグネシウムアンチモン系熱電素子の製造方法を説明するための図である。
図2は、製造工程の流れを説明するためのフローチャートであり、
図3は、電極接合層形成工程(溶射工程)及び素子形成工程(加工工程)を説明するための図である。
【0032】
図2に示すように、まず、原料の秤量を行う(S1)。例えば、Mg
3Sb
2系熱電素子を製造する場合は、主原料となるマグネシウム(Mg)粉末及びアンチモン(Sb)粉末の秤量を行い、MgAgSb系熱電素子を製造する場合は、主原料となるマグネシウム(Mg)粉末、銀(Ag)粉末及びアンチモン(Sb)粉末の秤量を行う。なお、ドーパントを添加する場合は、ドーパントの秤量も行う。
【0033】
次に、秤量工程S1において秤量された原料粉末が均一になるように、原料粉末の混合を行う(S2)。例えば、混合機等を使用して、原料粉末の混合を行う。
【0034】
次に、混合工程S2で均一に混合された原料粉末に対して、熱処理を行うことで、マグネシウムアンチモン系熱電材料を合成する(S3)。例えば、原料粉末を半密閉可能な容器(例えば、炭素製容器)内に収容した上で、電気炉内に入れて、アルゴン(Ar)雰囲気中、900℃程度の温度に、Mg3Sb2系熱電材料の場合は30分間程度保持し、MgAgSb系熱電材料の場合は6時間程度保持することで、マグネシウムアンチモン系熱電材料を合成する。
【0035】
次に、合成工程S3で合成されたマグネシウムアンチモン系熱電材料を粉砕する(S4)。例えば、自動乳鉢やボールミル等によって、所望の粒径(例えば、90μm以下)になるように粉砕する。
【0036】
次に、粉砕工程S4で粉砕されたマグネシウムアンチモン系熱電材料の焼結を行う(S5)。本実施形態においては、放電プラズマ焼結法(SPS)による加圧焼結を行う。例えば、真空(10-5Pa程度)中、Mg3Sb2系熱電材料の場合は、焼結圧力50MPa程度、焼結温度850℃程度、焼結時間10分程度、また、MgAgSb系熱電材料の場合は、焼結圧力50MPa程度、焼結温度450℃程度、焼結時間10分程度、という条件で、SPSによる加圧焼結を行う。
【0037】
次に、焼結工程S5で得られた焼結体の端面(電極が接合される面)に対して、溶射を行うことで、電極を接合するための電極接合層を形成する(S6)。例えば、
図3(a)に示すように、焼結体310の両端面(上面及び底面)に対して、フレーム溶射法により金属(例えば、銅、ニッケル、モリブデン等)を溶射することにより、100~200μm程度の厚みの電極接合層(金属層)320を形成する。
【0038】
次に、電極接合層形成工程S6で端面に電極接合層が形成された焼結体を加工して、所望の形状を有する熱電素子を形成する(S7)。例えば、
図3(b)に示すように、電極接合層320が形成された焼結体310をワイヤーカッター等の切断装置で切断して、複数の直方体状素子330を形成する。なお、この際、各熱電素子330がその両端面に電極接合層320を有するように切断加工が行われる。
【0039】
以上のようにして、本発明による熱電変換モジュールの製造方法に使用される熱電素子が製造される。なお、上記工程S1~S7については、n型熱電素子及びp型熱電素子それぞれについて行われる。
【0040】
次に、以上のようにして製造された熱電素子を使用して熱電変換モジュールを作製する方法について説明する。
【0041】
図4及び
図5は、本発明による熱電変換モジュールの製造方法を説明するための図である。
図4(a)及び
図5(a)は平面図を示し、
図4(b)及び
図5(b)は正面図を示す。
【0042】
まず、熱電変換モジュール100の高温面及び低温面を構成する一対の絶縁基板131,132を用意し、
図4に示すように、各絶縁基板131,132の一方の面(組み立てられた際に、熱電素子110と対向する面)に、熱電素子同士を電気的に接続するための電極120を形成する(電極形成工程)。電極の形成は、例えば、電極形成領域以外の領域をマスクした上で、無電解ニッケルめっきをすることによって行われる。
【0043】
次に、
図5に示すように、両端面に電極接合層320を有する複数の熱電素子330を、電極120が形成された一方の絶縁基板132上の所定位置に載置し、更にその上に、
図1に示すように、電極120が形成された他方の絶縁基板131を載置して、熱電変換モジュール100を組み立てる(組み立て工程)。なお、各部材を載置する前に、熱電素子330と電極120との接触面(例えば、熱電素子330が接合される電極部分)に、はんだペーストを塗布しておく。
【0044】
次に、熱電変換モジュール100が組み立てられた状態において、熱電素子と電極との接合を行う(接合工程)。本実施形態においては、リフローはんだ付けによって、熱電素子330の両端部(電極接合層320)と上下の電極120との接合を同時に行う。
【0045】
以上のような工程を経ることにより、
図1に示したような熱電変換モジュール100が作製されることになる。
【0046】
以上説明したように、本発明による熱電変換モジュールの製造方法においては、マグネシウムアンチモン系熱電素子の端面に、溶射法により、電極接合層を形成するようにしているので、マグネシウムアンチモン系熱電素子と電極との接合が容易に行えるようになっている。
【0047】
また、上述した実施形態においては、複数の熱電素子を切り出すことが可能なサイズを有する焼結体を作製した上で、当該焼結体の端面に、溶射法により電極接合層を形成し、その後、複数の熱電素子を切り出すようにしているので、溶射による電極接合層の形成が容易に行えるようになっている。
【0048】
また、上述した実施形態においては、一対の絶縁基板それぞれの一方の面(熱電素子と対向する面)に、電極を形成した上で、熱電素子と電極との接合を一度に行うようにしているので、製造工程を簡略することが可能となっている。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、当然のことながら、本発明の実施形態は上記のものに限られない。例えば、上述した実施形態においては、合成工程S3で、熱処理(液相-固相反応法)によりマグネシウムアンチモン系熱電材料を合成するようにしていたが、他の合成方法、例えば、固相-固相反応法やメカニカルアロイング法により合成を行うことも考えられる。
【0050】
また、上述した実施形態においては、焼結工程S5で、放電プラズマ焼結法(SPS)による加圧焼結を行うようにしているが、他の焼結法、例えば、ホットプレス法(HP)や熱間等方圧加圧法(HIP)による加圧焼結や、常圧焼結を行うことも考えられる。
【0051】
また、上述した実施形態においては、電極を無電解ニッケルめっきによって絶縁基板上に形成するようにしていたが、電極として、帯状の金属板を使用することも考えられる。
【0052】
また、上述した実施形態においては、熱電変換モジュール100は、熱電発電用の熱電変換モジュールとしていたが、本発明による熱電変換モジュールの製造方法を、電子冷却用の熱電変換モジュール(ペルチェモジュール)の製造に使用することもできる。
【実施例0053】
次に、本発明による熱電変換モジュールの製造方法の実施例について説明する。
【0054】
まず、以下のようにして、マグネシウムアンチモン系熱電材料で構成されるn型焼結体及びp型焼結体を作製した。
【0055】
《n型焼結体》
まず、仕込み組成がMg3.2Sb1.5Bi0.49Te0.01Cu0.01となるように、純度99.5%、平均粒径180μmのマグネシウム(Mg)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9%、平均粒径180μmのアンチモン(Sb)粉末(上海充複納米科技有限公司製)、純度99.9%、平均粒径180μmのビスマス(Bi)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9%、平均粒径45μmのテルル(Te)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、及び、純度99.9%、平均粒径5μmの銅(Cu)粉末(株式会社高純度化学研究所製)の秤量を行った。具体的には、Mg:10g,Sb:23.5g,Bi:13g,Te:0.164g,Cu:0.08g,総量46.744gとなるように秤量を行った。
【0056】
なお、ここでは、ビスマス(Bi)及びテルル(Te)についてはドーパントとして、銅(Cu)については特性を向上させるための成分として添加している。
【0057】
次に、原料粉末が均一になるように乳鉢内で混合し、均一に混合された原料粉末を、半密閉可能な蓋付き炭素製容器内に収容した上で、電気炉内に入れ、アルゴン雰囲気中、900℃に30分間保持することによって、Mg3Sb2系熱電材料(Mg3Sb2合金のインゴット)を得た。
【0058】
次に、得られたインゴットを、乳鉢で1mm以下に粗粉砕した上で、自動乳鉢(常州中実三水機械科技有限公司製、TYM120)によって、粒径90μm以下となるように微粉砕を行った。
【0059】
次に、得られたMg
3Sb
2系熱電材料粉末を、
図6に示すように、焼結治具内に充填した。
【0060】
より具体的には、まず、厚み0.2mmのカーボンシート(株式会社エヌジェーエス製)を所定形状に切断することで、円筒状カーボンペーパー621並びに上側及び下側の円板状カーボンペーパー(30φ)622,623を用意した。次に、円筒状カーボンペーパー621を、30.4φのカーボンダイス611内に設置した上で、下カーボンパンチ613を挿入した。次に、下側の円板状カーボンペーパー623を、下カーボンパンチ613上に設置した上で、Mg3Sb2系熱電材料粉末601を充填した。次に、上側の円板状カーボンペーパー622を、Mg3Sb2系熱電材料601の上に設置した上で、上カーボンパンチ612を挿入した。
【0061】
以上のようにして用意した焼結治具600を、放電プラズマ焼結装置(株式会社シンターランド製、LABOX-1575)内に入れて、10-5Paの真空中で、、焼結温度850℃、焼結圧力50MPa、焼結時間10分の条件で焼結を行い、円板状(30φ厚さ3mm)のn型焼結体を得た。
【0062】
《p型焼結体》
まず、仕込み組成がMgAg0.97Sb0.99となるように、純度99.5%、平均粒径180μmのマグネシウム(Mg)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9%、平均粒径75~150μmの銀(Ag)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、及び、純度99.9%、平均粒径180μmのアンチモン(Sb)粉末(上海充複納米科技有限公司製)の秤量を行った。具体的には、Mg:4.64g,Sb:23.04g,Ag:20g,総量47.68gとなるように秤量を行った。
【0063】
次に、原料粉末が均一になるように乳鉢内で混合し、均一に混合された原料粉末を、半密閉可能な蓋付き炭素製容器内に収容した上で、電気炉内に入れ、アルゴン雰囲気中、900℃に6時間保持することによって、MgAgSb系熱電材料(MgAgSb合金のインゴット)を得た。
【0064】
次に、得られたインゴットを、乳鉢で1mm以下に粗粉砕した上で、自動乳鉢(常州中実三水機械科技有限公司製、TYM120)によって、粒径90μm以下となるように微粉砕を行った。
【0065】
次に、得られたMgAgSb系熱電材料粉末を、前述したn型焼結体の場合と同様に、焼結治具内に充填した上で、放電プラズマ焼結装置(株式会社シンターランド製、LABOX-1575)内に入れて、10-5Paの真空中で、焼結温度450℃、焼結圧力50MPa、焼結時間10分の条件で焼結を行った。
【0066】
その後、室温まで炉冷した後、結晶構造を熱電特性の高い低温相に変化させるため、大気中、300℃。336時間の条件でアニーリング熱処理を行い、その後、炉冷して、円板状(30φ厚さ3mm)のp型焼結体を得た。
【0067】
次に、以上のようにして得られたn型焼結体及びp型焼結体について、X線回折装置(株式会社リガク製、MiniFlex)を使ってXRD分析を行った。
【0068】
図7及び
図8はそれぞれ、n型焼結体及びp型焼結体のX線回折パターンを示す図である。なお、
図7では、JCPDSカードデータから転記したMg
3Sb
2のX線回折パターンを、
図8では、JCPDSカードデータから転記したα-MgAgSbのX線回折パターンを併せて示している。
【0069】
図7及び
図8に示すように、n型焼結体及びp型焼結体のピーク位置は、JCPDSカードデータのものと概ね対応しており、n型焼結体及びp型焼結体はそれぞれ、概ね、Mg
3Sb
2及びMgAgSbの単相になっていることが確認できた。
【0070】
次に、以上のようにして得られたn型焼結体及びp型焼結体を使用して、n型熱電素子及びp型熱電素子を作製した上で、それらのn型熱電素子及びp型熱電素子を備えた熱電変換モジュールを作製した。
【0071】
具体的には、以下のようにして、上記n型焼結体及びp型焼結体で構成されるn型熱電素子及びp型熱電子を、電極接合層を構成する材料を変えて、複数種作製した上で、それらのn型熱電素子及びp型熱電素子を備えた熱電変換モジュールを複数種作製した。
【0072】
《実施例1》
まず、上記n型焼結体及びp型焼結体それぞれの両端面(上面及び底面)に対して、フレーム溶射法により銅(Cu)を溶射することにより、100μmの厚みの銅層(電極接合層)を形成した。
【0073】
次に、両端面に銅層が形成されたn型焼結体及びp型焼結体それぞれを、ワイヤーソー(メイワフォーシス株式会社製、DWS3400)を使用して切断し、2.5mm×2.5mm×3mmの直方体状焼結体片を複数切り出して、それぞれをn型熱電素子及びp型熱電素子とした。
【0074】
次に、以下のようにして、得られたn型熱電素子及びp型熱電素子をそれぞれ2個ずつ使用して、熱電変換モジュールを作製した。
【0075】
まず、絶縁基板としてのアルミナ基板(18mm×20mm×1mm)の一方の面(熱電素子に対向する面)に、無電解ニッケルめっきにより、厚さ10μmの電極を形成した。
【0076】
図9は、アルミナ基板に形成した電極の構成を説明するための図である。なお、同図において、二点鎖線901は、熱電素子が載置(接合)される位置(熱電素子載置位置)を示している。
【0077】
同図に示すように、各アルミナ基板931,932の一方の面(組み立てられた際に、熱電素子と対向する面)に、熱電素子同士を電気的に接続するための電極920を形成した。電極の形成は、電極形成領域以外の領域をマスクした上で、無電解ニッケルめっきをすることによって行った。
【0078】
次に、電極が形成された一方のアルミナ基板上の所定位置(熱電素子載置位置)に、はんだペースト(株式会社日本スペリア社製、SN97C)を塗布した上で、上記n型熱電素子及びp型熱電素子を載置した。
【0079】
次に、n型熱電素子及びp型熱電素子を載置したアルミナ基板をホットプレート上に載置した上で、214℃になるまで加熱し、当該温度に達した時点で加熱を停止することで、各熱電素子の一方の端部(電極接合層)と電極との接合を行った。
【0080】
続けて、各熱電素子の他方の端部と、他方のアルミナ基板上に形成された電極との接合についても、上記と同様にして行った。
【0081】
最後に、出力端となる電極部分に、銅単線のリード線をはんだ付けで接続して、最終的な熱電変換モジュールとした。
【0082】
《実施例2》
まず、上記n型焼結体及びp型焼結体それぞれの両端面(上面及び底面)に対して、フレーム溶射法によりニッケル(Ni)を溶射することにより、100μmの厚みのニッケル層(電極接合層)を形成した。
【0083】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。
【0084】
《実施例3》
まず、上記n型焼結体及びp型焼結体それぞれの両端面(上面及び底面)に対して、フレーム溶射法によりモリブデン(Mo)を溶射することにより、100μmの厚みのモリブデン層(電極接合層)を形成した。
【0085】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電変換モジュールを作製した。
【0086】
次に、以下のようにして、作製した各熱電変換モジュールの評価を行った。
【0087】
まず、作製した各熱電変換モジュールに可変抵抗器を接続し、熱電変換モジュールの一方の面(高温面)をホットプレート上に載置して、60、100及び150℃の各温度に加熱した上で、可変抵抗器の抵抗値を適宜変更しながら、ナノボルトメーターを用いて、電圧-電流特性(V-I)の測定を行った。
【0088】
図10~
図12は、電圧-電流特性の測定結果を示す図である。
図10は、実施例1の測定結果を示し、
図11は、実施例2の測定結果を示し、
図12は、実施例3の測定結果を示している。各図において、三角(▲)は、加熱温度60℃の時の測定値を示し、四角(■)は、加熱温度100℃の時の測定値を示し、丸(●)は、加熱温度150℃の時の測定値を示している。また、各図には、測定結果から算出した電力値についてもプロットすると共に、右上に、測定結果から算出した温度差(ΔT)、内部抵抗(R)及び最大出力電力(P
max)を示している。
【0089】
図10~
図12に示すように、実施例1~3の比較では、実施例1の熱電変換モジュールが、最も内部抵抗が低くなっており、良好な接合が行われていることが確認できた。すなわち、電極接合層については、ニッケルやモリブデンよりも、銅で形成した方が、内部抵抗が小さくなることが確認できた。
【0090】
また、最大出力電力についても、実施例1の熱電変換モジュールが最も大きくなっている。すなわち、電極接合層については、ニッケルやモリブデンよりも、銅で形成した方が、最大出力電力が大きくなることが確認できた。
【0091】
また、上記各熱電変換モジュールを作製する過程において、溶射により電極接合層を形成した各n型焼結体の断面(電極接合層と焼結体との境界部分)を、走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、TM3030Plus)により観察及び元素分析を行った。
【0092】
図13~
図15はそれぞれ、実施例1~3のn型焼結体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【0093】
図13~
図15に示すように、実施例1~3のn型焼結体のいずれにおいても、電極接合層と焼結体とが良好に接合されていることが確認できた。
【0094】
また、EDXによる分析結果によると、電極接合層と焼結体との境界から焼結体側に20μmの位置での電極接合層の各材料元素の存在濃度は、実施例1の銅が20%、実施例2のニッケルが2%、実施例3のモリブデンが0%となっており、いずれの材料についても、必要以上の拡散が行われていないことが確認できた。
【0095】
更に、電極接合層の材料が相対的に最も拡散していた実施例1の焼結体について、剥離試験を行った。
【0096】
具体的には、焼結体の底面を下側引張治具に固定すると共に、電極接合層の上面にアタッチメントを介して上側引張治具を固定した上で、上側引張治具を上方に引き上げる剥離試験を行った。その結果、剥離強度は、5回の平均で、n型焼結体が11.6MPa、p型焼結体が11.7MPaとなり、10MPa以上の強度を有していることが確認できた。
【0097】
このように、電極接合層の材料が相対的に最も拡散している実施例1の電極接合層(銅層)についても、充分な接合強度を有していることが確認できた。
【0098】
以上の結果から、銅で形成した電極接合層を有するマグネシウムアンチモン系熱電素子を備えた熱電変換モジュールは、高い熱電変換性能を示し、良好に使用できることがわかった。
複数の熱電素子と、前記複数の熱電素子を電気的に接続するための複数の電極と、前記複数の熱電素子及び前記複数の電極を挟むように配置された一対の絶縁基板とを備えた熱電変換モジュールの製造方法であって、
マグネシウムアンチモン系熱電材料の焼結体の端面に、溶射により電極接合層を形成する電極接合層形成工程と、
前記電極接合層が形成された焼結体から、端面に電極接合層を有する熱電素子を得る素子形成工程と、
前記素子形成工程で得られた熱電素子の電極接合層と前記電極とを接合する接合工程と
を備え、
前記電極接合層の厚みは、100~200μm程度である
ことを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
複数の熱電素子と、前記複数の熱電素子を電気的に接続するための複数の電極と、前記複数の熱電素子及び前記複数の電極を挟むように配置された一対の絶縁基板とを備えた熱電変換モジュールの製造方法であって、
マグネシウムアンチモン系熱電材料の焼結体の端面に、溶射により電極接合層を形成する電極接合層形成工程と、
前記電極接合層が形成された焼結体から、端面に電極接合層を有する熱電素子を得る素子形成工程と、
前記素子形成工程で得られた熱電素子の電極接合層と前記電極とを接合する接合工程と
を備え、
前記電極接合層形成工程は、銅を溶射することにより前記電極接合層を形成し、
前記電極接合層の厚みは、100~200μmである
ことを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。