(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129773
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】リサイクルされたリチウムイオン電池からのドープされたカソード材料前駆体
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240919BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240919BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240919BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240919BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C01G53/00 A
C22B7/00 C
C22B3/04
C22B3/44 101Z
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023144066
(22)【出願日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】18/120,776
(32)【優先日】2023-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522346431
【氏名又は名称】アセンド エレメンツ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ヤドン
(72)【発明者】
【氏名】デン,ハイシア
(72)【発明者】
【氏名】グラッツ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ミストリー,ディレン
(72)【発明者】
【氏名】パルマ,アニル
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE02
4G048AE05
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001BA22
4K001DB03
4K001DB22
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】 リサイクルされたリチウムイオン電池からのドープされたカソード材料前駆体を提供する。
【解決手段】 電池リサイクルプロセスは、消耗されたLiイオン電池からの電荷材料金属を含むリサイクル流を集め、及びリサイクルシーケンス内の共沈段階でドーピング物質を使用して、同等の又は改善されたサイクル寿命を有するリサイクル電池電荷材料と、より少ないクラック欠陥を有するリサイクル電荷材料前駆体とを生成する。共沈プロセスでは、混合された電荷材料金属の溶液が製造され、電荷材料金属の比率がリサイクル電池の仕様に基づいて調整され、及び比較的少量のドーピング塩が添加される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルされたリチウムイオン電池の流れから、ドープされたカソード材料前駆体を製造する方法であって、
前記リサイクルされたリチウムイオン電池の流れからブラックマスを浸出させて、ある比率の金属元素を含む浸出液を得ることと、
前記金属元素の前記比率を、追加の金属塩を用いて、選択された比率に調整することと、
1種以上のドーパント塩を前記浸出液に添加することと、
前記浸出液から前記金属元素及びドーパント塩を共沈させて、前記選択された比率の金属元素を有する、前記ドープされたカソード材料前駆体を形成することと
を含む方法。
【請求項2】
前記ドーパント塩は、Mg、Ca、Al、Fe、Nb、Cu、Cr、Zn及びZrからなる群から選択されるドーパント金属を含む塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ドープされたカソード材料前駆体は、0.5~5000ppmの前記ドーパント金属を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ドーパント塩は、Mg塩又はAl塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ドーパント塩は、硝酸アルミニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ドープされたカソード材料前駆体は、1~100ppmのAlを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属元素は、ニッケル、マンガン及びコバルトの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金属元素は、ニッケル、マンガン及びコバルトである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ドープされたカソード材料前駆体は、60%超のニッケルを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ドープされたカソード材料前駆体は、60%未満のニッケルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ドープされたカソード材料前駆体は、10%のニッケル~50%のニッケルを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ドープされたカソード材料前駆体は、共沈前に前記浸出液に前記ドーパント塩を添加せずに調製された比較のカソード材料前駆体よりも少ないクラックを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ドープされたカソード材料前駆体の10%未満は、クラックを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ドープされたカソード材料前駆体の5%未満は、クラックを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ドープされたカソード材料前駆体の1%未満は、クラックを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記ドープされたカソード材料前駆体は、共沈前に前記浸出液に前記ドーパント塩を添加せずに調製された比較のカソード材料前駆体のBET値よりも低いBET値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ドープされたカソード材料前駆体の前記BET値は、前記比較のカソード材料前駆体の前記BET値よりも2~3倍低い、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
リサイクルされたリチウムイオン電池の流れから調製されるドープされたカソード材料前駆体であって、
前記リサイクルされたリチウムイオン電池の流れからブラックマスを浸出させることによって得られる、ある比率の金属元素と、
前記金属元素の前記比率を、選択された比率に調整するために提供される追加の金属塩と、
共沈前に提供される1種以上のドーパント塩と
の共沈混合物を含む、ドープされたカソード材料前駆体。
【請求項19】
前記ドーパント塩は、Mg、Ca、Al、Fe、Nb、Cu、Cr、Zn及びZrからなる群から選択されるドーパント金属を含む塩である、請求項18に記載のドープされたカソード材料前駆体。
【請求項20】
0.5~5000ppmの前記ドーパント金属を含む、請求項19に記載のドープされたカソード材料前駆体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
リチウムイオン(Liイオン)電池は、急加速のために電気モーターが必要とされる電気自動車(EV)及び電動工具などの高放電用途における二次(充電式)電池のための好ましい化学物質である。Liイオン電池は、集電体(典型的には銅又はアルミニウムの平面シート)に塗布又は堆積された電荷材料と、導電性粉末と、バインダーとを含む。電荷材料は、典型的には、黒鉛又は炭素であるアノード電荷材料と、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、鉄及びリンなど、所定の比率の金属を含むカソード電荷材料とを含み、Liイオンセルのいわゆる「電池化学組成」を規定する。好ましい電池化学組成は、ベンダー及び用途によって異なり、Liイオン電池のリサイクルの取り組みは、典型的には、リサイクルされた電荷材料製品における電池化学組成の所定のモル比に従う。構成製品の純度は、リサイクルされたセルの品質及び性能に大きく関係し、多くの場合、純度99.5%を意味するいわゆる「電池グレード」の材料に依存する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
概要
電池のリサイクルプロセスでは、消耗されたLiイオン電池からの電荷材料金属を含むリサイクル流が集められて、リサイクルシーケンスの共沈段階でドーピング物質を使用して、より少ないクラック欠陥を有するリサイクル電池電荷材料前駆体と、同等の又は改善されたサイクル寿命を有するリサイクル電池電荷材料とを生成する。共沈プロセスでは、混合された電荷材料金属の溶液は、リサイクル電池の仕様に基づく電荷材料金属の比率を有し、及び比較的少量のドーパント塩を含むように調整される。ドープされた電荷材料前駆体は、pH調整、電荷材料金属とドーパント塩との共沈からもたらされ、これは、その後、リチウムと共に焼結されて、所定の化学組成(比率)を有するリサイクル電池のためのドープされたカソード活性電荷材料を形成する。性能特性を向上させるために、焼結前に追加のドーピング塩を添加することもできる。
【0003】
本明細書に記載の構成は、一部には、EV及び他の産業向けのLiイオン電池のリサイクルが、消耗されたカソード電荷材料(カソード材料)の形態で電荷材料金属を大量に生成するという観察に基づいている。残念ながら、電池をリサイクルする従来のアプローチは、これらのリサイクルされるカソード材料の履歴及び品質が未知であるため、得られるカソード材料前駆体及びそれから調製されるカソード材料の性能にばらつきが生じ得るという欠点がある。例えば、クラックなどのカソード材料前駆体の表面特性及びカソード材料のサイクル寿命は、それらを製造するためのリサイクル材料の供給源及び特性によって変動し得る。
【0004】
したがって、本明細書の構成は、電荷材料をドーピング物質と共に共沈及び焼結するためにドーピング物質、特にドーパント塩をリサイクル電池電荷材料に添加することにより、サイクル寿命及び表面クラックを含む性能問題を実質的に克服する。ドーピング物質は、典型的には、共沈前に浸出液に少量添加される別の金属塩であり、リサイクルされる電池電荷材料の金属と異なる金属を含む。典型的なドーパント塩は、マグネシウム又はアルミニウムを含み、これらは、驚くべきことに、カソード材料前駆体の表面形態を改善し、カソード材料のサイクル寿命、すなわち電池が再充電され得る回数も改善することが見出された。
【0005】
更に詳細には、本明細書の構成は、リサイクルされたリチウムイオン電池の流れからブラックマスを浸出させることによって得られる、少なくとも1種のドーパント塩と、選択された又は所定の比率の金属元素との共沈混合物に基づいて、リサイクルされたリチウムイオン電池の流れから調製されるドープされたカソード材料前駆体を生成する。共沈反応により、ドーパントを含む粒状形態の電荷材料(典型的には水酸化物形態)が得られ、これは、新しい/リサイクルされた電池の製造において利用可能なカソード活物質(CAM)の形成のための前駆体(pCAM、前駆体カソード活物質)として使用することができる。共沈前に、金属元素の比率を、選択された比率に調整するために追加の金属塩が提供され、所望の性能の改善を得るために1種以上のドーパント塩が個別に(前若しくは後に)又は比率の調整中に添加される。析出した混合物に追加のドーパント塩が添加され得る。前駆体から、リチウム塩を組み込む焼結プロセスを使用して、対応するCAMを生成することができる。このようにして、ドープされたカソード活物質前駆体及びドープされたカソード活物質は、リサイクルされたリチウムイオン電池の流れから調製され、比率が調整された金属塩と、1種以上のドーパント塩と、リチウム塩との焼結された組み合わせを含む。
【0006】
図面の簡単な説明
前述した特徴及び他の特徴は、添付の図面に示される、本明細書に開示の特定の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。添付の図面において、異なる図面全体を通して同様の参照文字が同じ部分を指す。図面は、必ずしも縮尺通りではなく、本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本明細書の構成における使用に適したリサイクル環境のコンテキスト図である。
【
図2】
図1のリサイクルプロセスにおいて電荷材料の性能を向上させるためにドーパントを導入するためのフローチャートである。
【
図3】
図2のプロセスから得られる電荷材料前駆体粒子の表面形態を示す走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図4】
図2のプロセスから得られる電荷材料前駆体粒子の表面形態を示す走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図5】
図2のフローチャートに従ってドーピングを行った結果得られた充電サイクルの改善のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
以下では、NMC電池などの電池をリサイクルする方法及びアプローチの例を示す。Liイオン電池は、カソード材料を形成するために使用される金属イオンの種類及び比率を既定する、いわゆる電池化学組成を採用している。アノード材料は、ほとんどの場合、炭素又は黒鉛に基づく配合物である。本明細書における構成は、一例としてNMC電池化学組成を採用している。しかしながら、開示されるアプローチは、任意の適切な電池化学組成を用いて実施することができる。具体的な比率は、リサイクルされた電荷材料の製造業者又は受領者によって設定され、電荷材料及び電荷材料前駆体は、製造業者の所定の仕様を満たすように生成することができる。
【0009】
図1は、本明細書の構成における使用に適したリサイクル環境のコンテキスト図である。
図1を参照すると、リサイクルシナリオ100は、典型的には、EVからのLiイオン電池102を配置することから始まる。Liイオン電池102は、電荷材料が十分な充電を受け入れる能力が大幅に低下するまでの充電サイクル数が有限である。これに、車両の故障、衝突による損傷などにより早期に寿命が終了した電池が加わる。この集合的な寿命後のリサイクル流は、使用済みセルと電荷材料とを含む、消耗された電池の豊富な供給に寄与する。電池は、放電され、物理的に破砕、細断及び微粉砕することによって粒状のブラックマス104に撹拌され、このブラックマスは、電荷材料及び任意の付随するケーシング並びに銅及びアルミニウムの集電体を含む。カソード材料金属塩のカソード材料と、炭素及び黒鉛のアノード材料との両方を含むブラックマスは、溶解した電荷材料金属の浸出液106を形成するために使用される。
【0010】
浸出液には、硫酸浸出による硫酸塩などのNi、Mn及びCoの塩が含まれるが、他の電荷材料金属及び/又は浸出酸を採用することもできる。浸出液106は、流入するリサイクル流の構成組成に基づくNi、Mn及びCoのモル比を有する。モル比は、硫酸塩などの追加のNi、Mn及びCoの塩(典型的には新鮮な材料のバージン又は対照の形態)で調整され、目標比に調整された溶液108が得られる。
【0011】
1つ以上の槽110における共沈反応は、調整の結果得られる望ましい比率で電荷材料金属(電荷材料)を析出させるために、浸出液のpHを調整することから始まる。水酸化ナトリウム又は他の強塩基は、NMCを、典型的には水酸化物として、濾過によって分離可能な粒状形態で溶液から沈殿させる。浸出液のpH調整によって析出したこの粒状形態は、新しいリサイクル電池の目標電池化学組成のための望ましいモル比を有するpCAM(カソード活物質前駆体)を規定する。炉112内で炭酸リチウム又は他のリチウム塩と共に焼結すると、リサイクルLiイオン電池のためのカソード活物質114(CAM)が形成される。構成例では、カソード活物質LiNixMnyCozO2は、NixMnyCoz(OH)2及びLi2CO3を焼結することによって合成され、ここで、x、y及びzは、Ni、Mn及びCoのそれぞれのモル比を表す。一般的な化学組成としては、Ni、Mn、Coの等モル成分を表すNMC111、NMC811、NMC622及びNMC532が挙げられるが、浸出液106~108の比率調整及び焼結によって任意の適切なモル比を達成することができる。その後、リサイクルされたカソード材料は、カソード材料としてリサイクル流に戻して合わせることができる。
【0012】
図2は、
図1のリサイクルプロセスにおいて性能が向上した電荷材料を得るためにドーパントを導入するためのフローチャート200である。ドーパントは、共沈110のための浸出液に添加される比較的少量の塩を含む。任意選択的に、焼結112のためのリチウム混合物中に追加のドーパントを導入することもできる。
【0013】
図1及び
図2を参照すると、リサイクルされたリチウムイオン電池の流れから、ドープされたカソード材料を製造する方法は、ステップ202において、リサイクルされたリチウムイオン電池の流れからブラックマスを浸出させて、ある比率の金属元素を含む浸出液を得ることを含む。濾過などにより不純物を除去した後、ステップ204に示されているように、浸出液は、ニッケル、マンガン及びコバルトを含む金属元素の実質的に純粋な組成物である。リサイクル電池の流れの供給源に応じて、他のカソード材料金属も溶解している可能性がある。アノード材料は、一般的に、202における浸出後に溶解せず、これは、実質的に純粋な浸出液が抜き出されるときに除去することができる。残留アノード材料の別個のリサイクルを行うこともできる。ステップ206に示されているように、金属元素の比率は、選択されたカソード材料比率に対応する追加の金属塩を用いて、選択された比率に調整され、これは、多くの場合、目標とするリサイクル電池の化学組成に対応する。
【0014】
1種以上のドーピング剤も浸出液に添加される。ステップ208に関して、ドーピングは、性能向上を達成するために、多くの材料、通常、水溶性塩を様々な濃度で用いて行うことができる。これらは、共沈前に浸出液に添加される。
【0015】
その結果、ステップ214に開示されているように、ドーパント塩の添加に続いて、選択された比率の金属元素を有する、ドープされたカソード材料前駆体を形成するために浸出液から金属元素が共沈される。共沈は、ドーピング塩を含む調整された比率において、混合された電荷材料を溶液から抜き出すためにpHを調整する(上げる)ことを含む。
【0016】
例示的な構成では、ステップ210に示されているように、ドーパント塩は、Mg、Ca、Al、Fe、Nb、Cu、Cr、Zn及びZrからなる群から選択されるドーパント金属を含む塩である。この結果、ステップ212に示されているように、0.5~5000ppmのドーパント金属を含むドープされたカソード材料前駆体が得られる。上述したように、リチウム塩(典型的には炭酸リチウム)と共に焼結する前に、任意選択的に追加のドーパント塩が共沈混合物に添加され得る。
【0017】
特定のドーピング塩のドーパント濃度(ppm)の具体例を下の表Iに示す。
【0018】
【0019】
驚くべきことに、共沈前に低レベルの様々な種類のドーパント塩を配合すると、大幅に改善された特性を有するドープされたカソード材料前駆体が形成されることが見出された。特に、浸出液のドーピングは、カソード材料前駆体を形成する際に存在する内部粒子応力を緩和し、その結果、物理的特性及び表面特性が大幅に改善された前駆体粒子が得られると考えられる。粒子形態の利点としては、共沈前に浸出液にドーパント塩を添加せずに調製した比較のカソード材料前駆体よりもクラックが少ないことが挙げられる。
【0020】
クラックの量は、当技術分野で公知の任意の方法を使用して評価することができる。例えば、ドープされたカソード材料前駆体は、共沈前に浸出液にドーパント塩を添加せずに調製された比較のカソード材料前駆体のBET表面積値よりも低いBET値を有することが見出されている。ドープされたカソード材料前駆体のBET値は、比較のカソード材料前駆体のBET値よりも2~3倍低くなり得る。
【0021】
表面形態は、顕微鏡によっても評価することもできる。具体的な評価結果を
図3及び
図4に示す。これらは、
図2に記載のドーパント法から得られる電荷材料前駆体粒子の表面形態を示すSEM(走査型電子顕微鏡写真)画像である。
図3は、共沈プロセス中の様々な時間における、ドープされていない電荷材料粒子の対照群を示す。比較として、
図4は、共沈前にドーパント塩が添加された、本開示のドープされた電荷材料前駆体粒子の形成を示す。この具体例では、プロセスは、共沈前に硝酸アルミニウム塩を硫酸ニッケルマンガンコバルト溶液に添加することを含む。
【0022】
示されているように、表面クラックは、大幅に減少する。これは、粒子成長中にドーパント塩によってもたらされる内部応力解放の結果であると考えられ、その結果、粒子のクラックが防止される。
図4では、単結晶形態の明瞭な連続した粒子表面を見ることができ、
図3で分かる目に見えるクラックから大幅に改善されている。その結果、ドープされたカソード材料前駆体粒子は、単一の前駆体粒子内の目に見えるクラックが少ないことが判明した。加えて、ほとんどの形成された前駆体粒子は、目に見えるクラックを有していなかったことが判明した。好ましくは、得られるドープされたカソード材料前駆体粒子の10%未満、より好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満がクラックを有する。
【0023】
特定の構成では、高ニッケルカソード材料は、特にドーピングプロセスの恩恵を受けることが見出されたため、ドープされたカソード材料前駆体は、60%超のニッケルを含む。これには、NMC622及びNMC811が含まれる。NMC532のような、ドープされたカソード材料が10%~50%のニッケルなどの60%以下のニッケルである場合のように、ニッケルがより少ない他の構成も利益を得ることができる。
【0024】
更に、ドープされたpCAMは、焼結されたCAMをもたらす格子構造を改善し、それにより充電サイクル性能を改善することも見出された。例えば、ステップ216に示されているように、ドープされたカソード材料前駆体とリチウム塩とを組み合わせて混合物を形成することができ、次いで、ステップ218に示されているように、混合物を焼結することで、ここでドープされたカソード活物質が形成される。焼結後、ドープされたカソード活物質は、ステップ220に示されているように、採取及び/又は評価されるために受け取られる。
【0025】
図5は、
図2のフローチャートに従ってドーピングを行った結果得られた充電サイクルの改善のグラフ500である。
図5において、容量維持率は、充電指数によって示される、多数の充電/放電サイクル後に残っている満充電のパーセント割合を指す。驚くべきことに、ドープされた電荷材料前駆体を形成するための共沈反応前にドーパント塩を含有させると、それから調製されるドープされた電荷材料のサイクル寿命も大幅に改善されることが見出された。例えば、200ppmのオーダーの比較的少量のMgをドーピングすると、サイクル性能が改善され、約1240サイクル後に満充電容量の90%超を維持し、約5000サイクル後に満充電容量の80%を維持した。他のドーピング塩も、同様の性能又は改善された性能を得るために採用することができる。
【0026】
特定の構成では、ドーパント塩は、Mg塩又はAl塩である。例えば、特定の構成は、1~100ppmのAlドーパント塩を有するドープされたカソード材料前駆体である。更に別の構成では、ドーパント塩は、Li塩であり、ドープされたカソード材料前駆体は、0.01ppm未満のLiを有する。Liドーパントは、共沈前の浸出段階で添加され、析出した材料の焼結のために添加される炭酸リチウムと混同すべきではないことに留意されたい。
【0027】
本明細書で定義されるシステム及び方法を、特にその実施形態を参照して示し、説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更形態がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。
【符号の説明】
【0028】
100 リサイクルシナリオ
102 Liイオン電池
104 ブラックマス
106 浸出液
107 浸出液
108 浸出液
110 槽
112 炉
114 カソード活物質
200 フローチャート
【外国語明細書】