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  • 特開-ダンパおよびフロントフォーク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129779
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ダンパおよびフロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/348 20060101AFI20240919BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20240919BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
F16F9/348
F16F9/32 K
B62K25/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183632
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2023039067
(32)【優先日】2023-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】カヤバモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】野口 寛洋
【テーマコード(参考)】
3D014
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DE02
3D014DE08
3J069AA46
3J069CC11
3J069EE10
3J069EE31
3J069EE64
(57)【要約】
【課題】高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制できるフロントフォークを提供する。
【解決手段】フロントフォークFは、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とを有する伸縮体1と、伸縮体1内に収容されるダンパDとを備え、ダンパDは、シリンダ10と、シリンダ10内に挿入される軸部材13と、軸部材13に固定されて軸方向への撓みが許容されるリーフバルブ14と、軸部材13に取り付けられてシリンダ10内を2つの作動室(R2,L)とに区画するとともに、作動室(R2,L)同士を連通するポート15eと、リーフバルブ14の外周に対向する対向座部15bとを有する弁座部材15とを備え、弁座部材15は、外周に装着されてシリンダ10の内周に密着する弾性のシールリング15cを有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に挿入される軸部材と、
環状であって内周側が前記軸部材に固定されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブと、
環状であって、前記軸部材に取り付けられて前記シリンダ内を2つの作動室に区画するとともに、前記作動室同士を連通するポートと、内周に前記リーフバルブの外周に対向する対向座部とを有する弁座部材とを備え、
前記弁座部材は、外周に装着されて前記シリンダの内周に密着する弾性のシールリングを有する
ことを特徴とするダンパ。
【請求項2】
車体側チューブと前記車体側チューブに対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブとを有する伸縮体と、
前記伸縮体内に収容されて前記伸縮体とともに伸縮して減衰力を発生するダンパとを備え、
前記ダンパは、シリンダと、前記シリンダ内に挿入される軸部材と、環状であって内周側が前記軸部材に固定されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブと、環状であって、前記軸部材に取り付けられて前記シリンダ内を2つの作動室に区画するとともに、前記作動室同士を連通するポートと、内周にリーフバルブの外周に対向する対向座部とを有する弁座部材とを備え、
前記弁座部材は、外周に装着されて前記シリンダの内周に密着する弾性のシールリングを有する
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項3】
前記弁座部材の外径は、前記弁座部材が前記シリンダ内で径方向への変位が許容される径に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記ダンパは、
前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに前記車体側チューブに連結されるピストンロッドと、
前記シリンダ内に移動可能に挿入されて前記ピストンロッドに連結されるとともに前記シリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンとを有し、
前記シリンダは、前記車輪側チューブに連結され、
前記弁座部材は、前記シリンダ内を前記圧側室と前記伸縮体内であって前記シリンダ外の液溜室内に連通される液室との前記2つの作動室に区画する
ことを特徴とする請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記弁座部材の前記ポートを介して前記圧側室と前記液溜室とを連通する通路は、前記リーフバルブのみによって開閉される
ことを特徴とする請求項4に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記弁座部材における前記対向座部に対して前記弁座部材における前記シールリングの装着部位は、軸方向でずれている
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のフロントフォーク。
【請求項7】
前記弁座部材における前記対向座部に対して前記弁座部材における前記シールリングの装着部位は、軸方向で前記圧側室側にずれている
ことを特徴とする請求項4または5に記載のフロントフォーク。
【請求項8】
前記弁座部材は、
筒状であって前記シリンダの外周に対向して、内周に前記対向座部を具備するとともに外周に前記シールリングが装着される筒部と、
環状であって前記軸部材の外周に嵌合するとともに前記筒部の内周に接続されるとともに前記ポートを有する隔壁部とを有し、
前記隔壁部は、前記対向座部に対して軸方向で前記圧側室側にずれている
ことを特徴とする請求項4または5に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパおよびフロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
フロントフォークは、二輪車或いは三輪車といった鞍乗型車両の前輪を車体に懸架する懸架装置に利用されており、たとえば、アウターチューブとアウターチューブ内に軸方向へ摺動可能に挿入されるインナーチューブとを有する伸縮体と、伸縮体内に収容されてアウターチューブとインナーチューブとの間に介装されて伸縮時に減衰力を発生するダンパとを備えている。このようなフロントフォークは、走行時に伸縮する際にダンパが減衰力を発生して車体の振動を抑制して車両における乗心地を向上させる。
【0003】
鞍乗型車両では、四輪自動車に比較すると、発進時や制動時、悪路走行時に車体に対して前輪が大きく変位するため、フロントフォーク内に設けられたダンパが高速でストロークすることがあり、ダンパ内の減衰バルブを通過する作動油量が多くなって減衰力が過剰となる場合がある。
【0004】
ストローク速度が低い場合に減衰係数を大きくして、ストローク速度が高くなると減衰係数を小さくして減衰力過多を抑制しつつ車体の振動を抑制可能な減衰バルブとしては、四輪自動車に利用されているものがある。この減衰バルブは、たとえば、環状であって内周がピストンロッドに固定されて外周側の撓みが許容されるリーフバルブと、ピストンロッドに固定される環状のバルブケースとを備えており、バルブケースにメインバルブに連通されるポートと、筒状であってポートの外周から立ち上がりシリンダとの間に環状隙間を形成して内周にリーフバルブの外周に非接触で対向する対向座部と設けている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
前述の減衰バルブは、ダンパのストローク速度が低速域にある場合、リーフバルブが然程撓まず対向座部との間の流路面積を極小さくするように制限するので、ストローク速度に応じて急激に立ち上がり、対してストローク速度が高速になるとリーフバルブが撓んで流路面積を大きくしてそれ以上の減衰力の増加を抑制するような減衰力特性を発揮する。よって、このような四輪自動車に利用されている減衰バルブをフロントフォークのダンパにおける減衰バルブとして利用すれば鞍乗型車両における乗心地の向上を期待し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-183918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した通り、鞍乗型車両に利用されるフロントフォークでは、ダンパが高速でストロークすることから減衰バルブを通過する作動油量が多いため、リーフバルブが撓んで対向座部から軸方向に離間した際に流路面積を大きくする必要がある。
【0008】
ところが、従来の減衰バルブは、ピストンロッドに固定されるバルブケースの筒部がシリンダに干渉しないように充分大きな隙間を空けて対向する構造を採っており、筒部の内周に設けられる対向座部の内径を大きくできないため、リーフバルブが撓んで対向座部から軸方向に離間した際に流路面積を大きく確保するのが難しい。
【0009】
よって、従来の減衰バルブをそのままフロントフォークのダンパに適用してもダンパが高速でストロークする際に過大な減衰力を発生してしまい鞍乗型車両における乗心地を向上するのが難しい。
【0010】
そこで、本発明は、高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制できるダンパおよびフロントフォークの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のダンパは、シリンダと、シリンダ内に挿入される軸部材と、環状であって内周側が軸部材に固定されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブと、環状であって、軸部材に取り付けられてシリンダ内を2つの作動室に区画するとともに、作動室同士を連通するポートと、内周にリーフバルブの外周に対向する対向座部とを有する弁座部材とを備え、弁座部材は、外周に装着されてシリンダの内周に密着する弾性のシールリングを有している。
【0012】
また、上記課題を解決するため、本発明のフロントフォークは、車体側チューブと車体側チューブに対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブとを有する伸縮体と、伸縮体内に収容されて伸縮体とともに伸縮して減衰力を発生するダンパとを備え、ダンパは、シリンダと、シリンダ内に挿入される軸部材と、環状であって内周側が軸部材に固定されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブと、環状であって軸部材に取り付けられてシリンダ内を2つの作動室に区画するとともに、作動室同士を連通するポートと、内周にリーフバルブの外周に対向する対向座部とを有する弁座部材とを備え、弁座部材は、外周に装着されてシリンダの内周に密着する弾性のシールリングを有する。
【0013】
このように構成されたダンパおよびフロントフォークでは、シールリングで弁座部材とシリンダとの間をシールできるので、弁座部材の内径とリーフバルブの外径を大きくでき、リーフバルブが撓んで環状弁座に対して軸方向へずれて開弁する際に、大きな流路面積を確保することができる。
【0014】
さらに、フロントフォークにおける弁座部材の外径は、弁座部材がシリンダ内で径方向への変位が許容される径に設定されてもよい。このように構成されたフロントフォークでは、シリンダと弁座部材との間に径方向で遊びがあるため、軸部材に調心される弁座部材をシリンダ内に収容してもシールリングの弾発力を受ける以外に嵌め合いによって弁座部材がシリンダから大きな荷重を受けることがない。よって、シールリングで弁座部材とシリンダとの間をシールしつつ、弁座部材の内径とリーフバルブの外径を大きくしても、リーフバルブと対向座部とが軸ずれせずに済む。また、シリンダと弁座部材との間に径方向で遊びがあるため、軸部材をシリンダに挿入する作業において、弁座部材がシリンダの内周をかじることがないので良好な作業性を保証し得る。
【0015】
また、フロントフォークにおいて、ダンパは、シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに車体側チューブに連結されるピストンロッドと、シリンダ内に移動可能に挿入されてピストンロッドに連結されるとともにシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンとを備え、シリンダが車輪側チューブに連結され、弁座部材がシリンダ内を圧側室と伸縮体内であってシリンダ外の液溜室内に連通される液室との2つの作動室に区画してもよい。
【0016】
このように構成されたフロントフォークによれば、リーフバルブをフロントフォークの収縮作動時には減衰力発生用のバルブとして利用できるとともにフロントフォークの伸長作動時にはチェックバルブとしても利用できるので、他にバルブを設置する必要が無くなり、製造コストを安価にできるとともにフロントフォークを軽量化できる。
【0017】
そしてまた、フロントフォークにおいて、弁座部材のポートを介して圧側室と液溜室とを連通する通路は、リーフバルブのみによって開閉されてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、通路に対してリーフバルブに直列されるバルブが皆無であるから、フロントフォークが適用される鞍乗型車両がグラベルやダートと称される未舗装路(オフロード)を走行中に大きな段差に乗り上げた時のように、フロントフォークが非常な高速で収縮する場合であっても、リーフバルブが大きく撓んで開弁して通路における流路面積を大きく確保でき、ダンパが過剰な減衰力を発生することがなく、フロントフォークが速やかに収縮して衝撃を緩和し車両における乗心地を向上できる。
【0018】
さらに、フロントフォークにおいて、弁座部材における対向座部に対して弁座部材におけるシールリングの装着部位が軸方向でずれていてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、弁座部材において、シールリングを外周に装着するためにシリンダに対向して厚肉にしなければならない装着部位を軸方向に避けて対向座部を形成する部位を設ければよいので、装着部位の内周に対向座部を設ける場合に比較して、対向座部の内径を大きくしてリーフバルブと対向座部との間の流路面積を確保しやすくなる。
【0019】
また、フロントフォークにおいて、弁座部材における対向座部に対して弁座部材におけるシールリングの装着部位が軸方向で圧側室側にずれていてもよい。このように構成されたフロントフォークでは、弁座部材が圧側室と液室とをシリンダ内に区画する場合、ダンパが収縮作動する際にリーフバルブがシールリングを外周に装着するためにシリンダに対向して厚肉にしなければならい装着部位とは反対側の液室側に撓むので、リーフバルブが装着部位に干渉せずに済む。よって、このように構成されたフロントフォークによれば、収縮作動時において、リーフバルブが装着部位から干渉されないので、リーフバルブと対向座部との間の流路面積を大きく確保しやすくなる。
【0020】
そして、フロントフォークにおいて、弁座部材は、筒状であってシリンダの外周に対向して、内周に対向座部を具備するとともに外周にシールリングが装着される筒部と、環状であって軸部材の外周に嵌合するとともに筒部の内周に接続されるとともにポートを有する隔壁部とを備え、隔壁部は、対向座部に対して軸方向で圧側室側にずれていてもよい。このように構成されたフロントフォークでは、弁座部材が圧側室と液室とをシリンダ内に区画する場合、ダンパが収縮作動する際にリーフバルブが圧側室と液室との間に配置される隔壁部とは反対側の液室側に撓むので、リーフバルブが隔壁部に干渉せずに済む。よって、このように構成されたフロントフォークによれば、収縮作動時において、リーフバルブが隔壁部から干渉されないので、リーフバルブと対向座部との間の流路面積を大きく確保しやすくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のダンパおよびフロントフォークによれば、高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態のダンパおよびフロントフォークの縦断面図である。
図2】本発明の一実施の形態のダンパおよびフロントフォークの一部拡大断面図である。
図3】本発明の一実施の形態のダンパおよびフロントフォークにおける減衰力特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態におけるフロントフォークFは、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とを有して伸縮可能な伸縮体1と、伸縮体1内に収容されて車体側チューブ2と車輪側チューブ3との間に介装されるダンパDとを備えて構成されており、図示はしないが、二輪車や三輪車といった鞍乗型車両の車体と前輪との間に介装されて車体と前輪との振動を抑制するものである。
【0024】
フロントフォークFは、前述したように、伸縮体1と伸縮体内に収容されるダンパDとを備えている。伸縮体1は、車体側チューブ2と、車体側チューブ2に対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブ3とを備えて伸縮可能となっている。また、伸縮体1は、車体側チューブ2の上端を閉塞するキャップ4と、車輪側チューブ3の下端を閉塞するとともに前記前輪の車軸を保持するアクスルブラケット5と備えており、内部が密閉状態となっている。
【0025】
車輪側チューブ3は、車体側チューブ2の下方から車体側チューブ2内に挿入されており、車体側チューブ2に対して軸方向へ相対移動できる。なお、車体側チューブ2の下端の内周には、車輪側チューブ3の外周に摺接する環状のブッシュ7と環状のシール部材8とが設けられており、車輪側チューブ3の上端外周には車体側チューブ2の内周に摺接する環状のブッシュ9が装着されている。よって、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とは、ブッシュ7,9によって互いに軸ぶれせずに軸方向へ移動できる。
【0026】
車体側チューブ2の上端の内周には、キャップ4が螺子結合されており、車体側チューブ2の上端はキャップ4によって閉塞されている。キャップ4は、筒状であって、車体側チューブ2の上端の開口部の内周に螺子結合される大径部4aと、大径部4aの図1中下端から下方へ延びて外径が大径部4aよりも小径である小径部4bとを備えている。また、キャップ4の大径部4aの内周には、アジャスタ6が螺着されている。アジャスタ6は、キャップ4に対して回転操作されるとキャップ4に対して図1中上下方向へ移動できる。
【0027】
車輪側チューブ3の下端は、図外の前記前輪の車軸を保持するアクスルブラケット5によって閉塞されており、アクスルブラケット5によって伸縮体1が前記前輪に連結される。そして、このように構成された伸縮体1内は、シール部材8によって外方から密閉された空間となっている。アクスルブラケット5は、車輪側チューブ3の下端の外周に螺子締結される筒部5aと、筒部5aの側方に連なって図外の前記車軸が挿通される孔5bと、筒部5aの内周に軸方向に間隔を空けて設けられた段部5cと環状凸部5dとを備えている。なお、図示はしないが、アクスルブラケット5には、ブレーキキャリパ等の装着を可能とする取り付け部が設けられてもよい。アクスルブラケット5の筒部5aの図1中で上方側の段部5cより上方側には螺子溝が形成されており、当該螺子溝に車輪側チューブ3の下端外周が螺着されて、アクスルブラケット5と車輪側チューブ3とが締結される。
【0028】
なお、本実施の形態のフロントフォークFでは、伸縮体1は、車体側チューブ2内に車輪側チューブ3を挿入した倒立型として構成されているが、車体側チューブ2を車輪側チューブ3内に挿入した正立型として構成されてもよい。
【0029】
ダンパDは、伸縮体1内に収容される。本実施の形態のダンパDは、車輪側チューブ3にアクスルブラケット5を介して連結されるシリンダ10と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されてシリンダ10内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されて上端がキャップ4を介して車体側チューブ2に連結されるとともに下方側がピストン11に連結されるピストンロッド12と、シリンダ10の車輪側チューブ側端となる図1中下端からシリンダ10内に挿入される軸部材としてのボトムキャップ13と、ボトムキャップ13に取り付けられたリーフバルブ14と弁座部材15とを備えている。
【0030】
なお、ダンパDの外側の空間には、液体と気体が充填されており、当該空間は液体を貯留するための液溜室Rとなっている。
【0031】
以下、ダンパDの各部について説明する。シリンダ10は、伸縮体1におけるアクスルブラケット5に固定される軸部材としてのボトムキャップ13に螺子締結されており、ボトムキャップ13を介してアクスルブラケット5に連結されている。シリンダ10は、下端の側部に開口してシリンダ10内と液溜室Rとを連通する透孔10aを備えている。また、シリンダ10の上端開口端には、環状のロッドガイド20が装着されている。ロッドガイド20は、環状であってシリンダ10の上端の内周に螺合されて内周に挿通されるピストンロッド12の外周に摺接するガイド部20aと、ガイド部20aの上端から上方へ向けて突出する筒状のケース部20bとを備えている。なお、シリンダ10内および液溜室Rに充填される液体は、たとえば、作動油とされるが、作動油以外の液体とされてもよい。
【0032】
なお、ロッドガイド20のケース部20bの図1中上端とキャップ4との間には、懸架ばね21が介装されている。懸架ばね21は、車体側チューブ2と車輪側チューブ3とを軸方向で離間させる方向、つまり、伸縮体1を伸長させる方向へ付勢しており、フロントフォークFが鞍乗型車両の車体と前輪との間に介装される車体を弾性的に支持する。
【0033】
ピストンロッド12は、円筒状のピストンロッド本体22と、筒状であってピストンロッド本体22の下端に連結されてピストン11を保持するピストン保持ロッド23とを備えている。そして、ピストンロッド12は、上端がキャップ4における小径部4bの内周に螺子結合されて連結されており、下端側がロッドガイド20の内周を通してシリンダ10内に挿入されている。ピストンロッド12は、ロッドガイド20とピストン11によってシリンダ10に対して径方向への移動が規制された状態でピストン11とともに軸方向となる図1中上下方向へ相対移動できる。
【0034】
図1に示すように、ピストンロッド12おけるピストン保持ロッド23は、筒状であってピストンロッド本体22の下端外周に螺子結合される外径が大径な大径筒部23aと、ピストン11が外周に装着される外径が小径な小径筒部23bとを備えている。また、ピストン保持ロッド23は、大径筒部23aの内外を連通する孔23cを備えており、内部と孔23cを通じて伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰力調整通路DPを形成している。さらに、ピストン保持ロッド23内には、上下方向へ移動可能であって上下方向への移動に伴って減衰力調整通路DPの流路面積を変更するニードル24が収容されている。
【0035】
ピストンロッド本体22内には、キャップ4に螺着されたアジャスタ6とニードル24と間に介装されるコントロールロッド25が軸方向へ移動可能に挿入されている。よって、アジャスタ6を回転操作して図1中上下方向へ変位させると、アジャスタ6の変位がコントロールロッド25を介してニードル24に伝達され、ニードル24をピストン保持ロッド23内で図1中上下方向へ移動させて減衰力調整通路DPの流路面積を調整できる。
【0036】
また、ピストンロッド本体22の外周には、ダンパDが最収縮する際にロッドガイド20のケース部20b内に侵入する環状のロックピース26が設けられている。ケース部20bとロックピース26とは液圧クッション装置を構成しており、液圧クッション装置は、ケース部20b内にロックピース26が侵入すると、ケース部20b内の圧力を上昇させてダンパDのそれ以上の収縮を抑制する。
【0037】
ピストン11は、環状であって、ピストンロッド12のピストン保持ロッド23の図1中下方となる先端に設けられた小径筒部23bの外周に嵌合しており、大径筒部23aの下端と小径筒部23bの図1中下端に螺子結合されるピストンナット27とによって挟持されて小径筒部23bに固定されている。また、ピストン11は、シリンダ10の内周に接しており、シリンダ10内をそれぞれ液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画している。さらに、ピストン11は、伸側室R1と圧側室R2とを並列に連通する伸側減衰通路11aと圧側通路11bとを備えている。
【0038】
ピストン11の圧側室側端となる図1中下端には、伸側減衰通路11aの出口端を開閉するとともに伸側減衰通路11aを伸側室R1から圧側室R2へ向けて通過する液体の流れのみを許容しつつ当該流れに抵抗を与える伸側減衰バルブ16が重ねられている。伸側減衰バルブ16は、複数の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周がピストン11とともに小径筒部23bとピストンナット27との間で挟持されて小径筒部23bに固定されており、外周側の撓みが許容されている。よって、伸側減衰バルブ16は、伸側減衰通路11aを介して作用する伸側室R1の圧力を受けて撓むと伸側減衰通路11aを開放するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える一方、外周をピストン11に当接した状態では伸側減衰通路11aを遮断する。よって、伸側減衰バルブ16は、伸側減衰通路11aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。
【0039】
ピストン11の伸側室側端となる図1中上端には、圧側通路11bの出口端を開閉するとともに圧側通路11bを圧側室R2から伸側室R1へ向けて通過する液体の流れのみを許容する圧側チェックバルブ17が設けられている。圧側チェックバルブ17は、ピストン保持ロッド23の小径筒部23bの外周に軸方向へ移動可能に装着された環状板と、環状板をピストン11へ向けて付勢するばねとを備えて構成されており、ピストン11に対して遠近できる。そして、圧側チェックバルブ17は、ピストン11から離間すると圧側通路11bを開放し、ピストン11に着座すると圧側通路11bを遮断する。よって、圧側チェックバルブ17は、圧側通路11bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。なお、圧側のバルブは、前述したところでは圧側チェックバルブ17とされているが、通過する液体の流れに抵抗を与える減衰バルブであってもよい。
【0040】
シリンダ10をアクスルブラケット5に固定するボトムキャップ13は、軸部材として機能しており、筒状であって、先端側となる図2中上端側からリーフバルブ14および弁座部材15を保持する小径部13aと、小径部13aの図2中下端に連なり外径が小径部13aよりも大径な中径部13bと、中径部13bの図2中下端に連なり外径が中径部13bよりも大径な大径部13cと、大径部13cの図2中下端外周に設けられたフランジ部13dとを備えている。
【0041】
ボトムキャップ13は、アクスルブラケット5の筒部5aの下端開口端側からアクスルブラケット5内に挿入される。ボトムキャップ13がアクスルブラケット5内に最大限に挿入されると、大径部13cがアクスルブラケット5の筒部5aの下端内周に設けた環状凸部5dの内周に嵌合され、フランジ部13dが環状凸部5dに軸方向で当接する。
【0042】
また、小径部13aの先端側の外周には、螺子部13a1が形成されており、大径部13cの図2中上端部の外周にも、螺子部13c1が形成されている。大径部13cの上端側は、シリンダ10の下端の内周に挿入されるとともに、大径部13cの螺子部13c1にシリンダ10の下端内周が螺着される。シリンダ10が大径部13cの螺子部13c1に螺着されると、ボトムキャップ13の小径部13a、中径部13bおよび大径部13cの上端部がシリンダ10内に収容され、シリンダ10の下端とボトムキャップ13のフランジ部13dとがアクスルブラケット5の環状凸部5dを挟持するので、シリンダ10、ボトムキャップ13がアクスルブラケット5に固定されて車輪側チューブ3に連結される。
【0043】
なお、中径部13bには、中径部13bの内外を連通するとともにシリンダ10に設けられた透孔10aに連通される通孔13b1が設けられており、ボトムキャップ13内、通孔13b1およびシリンダ10の透孔10aを通じて、圧側室R2がシリンダ10外の液溜室Rに連通されている。また、ボトムキャップ13の内周には、先端に円錐状の弁体を備えたニードル18が螺着されている。ニードル18は、回転操作によってボトムキャップ13内を軸方向へ移動でき、ボトムキャップ13の内周に設けられた環状弁座13eに対して遠近して環状弁座13eとの間の流路面積の大きさを調整できる。
【0044】
ボトムキャップ13のシリンダ10内に挿入される小径部13aの外周には、環状のバルブストッパ30、環状の間座31、環状のリーフバルブ14、環状の間座32と、環状の弁座部材15とが順番に組み付けられており、バルブストッパ30、間座31、リーフバルブ14、間座32および弁座部材15は、小径部13aの螺子部13a1に螺着されるナット33とボトムキャップ13の小径部13aと中径部13bとの境に形成される段部とで挟持されてボトムキャップ13に固定される。このようにボトムキャップ13は、シリンダ10内に挿入されてリーフバルブ14と弁座部材15とを保持する軸部材として機能している。
【0045】
リーフバルブ14は、図2に示すように、環状であって内周側が間座31,32によって挟まれてボトムキャップ13の小径部13aの外周に不動に装着されており、内周側を固定端とするとともに外周側を自由端として、自由端である外周の撓みが許容されている。本実施の形態のリーフバルブ14は、三枚の弾性を有する環状板14a,14b,14cを積層して構成されており、環状板14a,14b,14cのうちの中央の環状板14bの外径は、上下両端に位置する環状板14a,14cの外径よりも大きく、弁座部材15における環状の対向座部15bの内径よりも僅かに小さい。なお、リーフバルブ14を構成する環状板の枚数は、ダンパDで得たい減衰力に応じて任意に設定でき、複数でなくとも単数とされてもよい。
【0046】
リーフバルブ14の図2中の上下には、ボトムキャップ13の小径部13aの外周に移動不能に装着される環状の間座31,32が積層されている。本実施の形態では、リーフバルブ14は、内周がリーフバルブ14の各環状板14a,14b,14cの外径よりも小径の間座31,32によって挟持されているので、間座31,32の外周縁を支点として外周側が図2中上下方向へ弾性変形して撓むことができる。なお、間座31は、1枚の環状板で構成されているが、複数枚の環状板で構成されてもよいし、間座32は、図示したところでは、複数枚の環状板で構成されているが1つのリングで構成されてもよい。
【0047】
また、間座31の反圧側室側に配置されるバルブストッパ30の外径は、間座31の外径よりも大きく、リーフバルブ14の各環状板14a,14b,14cのうち図2中最下方の環状板14cの外径よりも小さい。そして、バルブストッパ30は、リーフバルブ14が図2中で下方側へ向けて所定量以上撓むとリーフバルブ14に当接してリーフバルブ14の撓みを規制する。
【0048】
弁座部材15は、筒状であってシリンダ10の外周に対向して、内周に対向座部15bを有するとともに外周にシールリング15cが装着される筒部15aと、環状であって小径部13aの外周に嵌合するとともに筒部15aの内周に接続されるとともにポート15eを有する隔壁部15dとを備えている。弁座部材15は、軸部材としてのボトムキャップ13における小径部13aの外周に装着されており、筒部15aの外周に装着されたシールリング15cをシリンダ10の内周であって透孔10aよりも図2中上方に密着させてシリンダ10内を作動室としての圧側室R2と圧側室R2よりも図2中下方であって透孔10aを介して液溜室Rに連通される作動室としての液室Lとに区画している。
【0049】
筒部15aは、図2中上方の圧側室側に肉厚が厚く外周にシールリング15cが装着される環状溝15gを有する厚肉部15fと、厚肉部15fよりも肉厚が薄く外周を厚肉部15fの外周と面一にする薄肉部15hと、薄肉部15hの内周から径方向内側へ向けて突出する環状の対向座部15bとを備えている。筒部15aの外周の環状溝15g内の挿入されるシールリング15cは、シリンダ10の内径よりも大きな外径を有しており弁座部材15をシリンダ10内に挿入すると縮径されてシリンダ10に密着してシリンダ10と筒部15aとの間をシールする。また、筒部15aの外径がシリンダ10の内径よりも少し小さくなっていて、弁座部材15とシリンダ10との間に径方向に遊びがあるため、弁座部材15をシリンダ10内に挿入すると弁座部材15がシリンダ10に対して径方向へ遊び分だけ変位できる。このように弁座部材15の外径は、弁座部材15がシリンダ10内で径方向への変位が許容される径に設定されている。
【0050】
また、前述したように、弁座部材15の筒部15aにおける対向座部15bと筒部15aに対するシールリング15cの装着部位とが、軸方向でずれており、シールリング15cを筒部15aに装着しても、対向座部15bの内径を大きく確保でき、シールリング15cの設置によって対向座部15bの内径が小さくなるのを防止できる。なお、本実施の形態では、弁座部材15の筒部15aにおける対向座部15bに対してシールリング15cの筒部15aに対する装着部位は、軸方向で圧側室R2側にずれている。
【0051】
隔壁部15dは、筒部15aにおける厚肉部15fの薄肉部15h側端の内周に接続されており、また、対向座部15bは、薄肉部15hの反厚肉部側端の内周に設けられている。そして、隔壁部15dは、圧側室R2と液室Lとを連通するポート15eを備えている。よって、圧側室R2は、ポート15e、液室Lおよび透孔10aを介して液溜室Rに連通されている。このように、ポート15eを介して圧側室R2と液溜室Rとを連通する通路Aが設けられている。
【0052】
そして、前述のように弁座部材15が構成されると、リーフバルブ14の反隔壁部側となる液室L側にはリーフバルブ14の外周に軸方向で対向する部材がなくバルブストッパ30によって制限されるのを除いてリーフバルブ14は自由に撓むことができる。また、このように弁座部材15が構成されると、対向座部15bと隔壁部15dとが軸方向に少なくともリーフバルブ14が充分に撓むことができるスペースを確保できるだけずれた位置に配置されるために、リーフバルブ14が隔壁部15d側へ撓んでも隔壁部15dによって撓みが阻害されない。なお、隔壁部15dが筒部15aにおける厚肉部15fの薄肉部15h側端の内周に接続されると、厚肉部15fの内周側に小径部13aに螺着されるナット33を収容できるので、隔壁部15dが筒部15aにおける厚肉部15fの反薄肉部側端の内周に接続される場合に比較してリーフバルブ14、弁座部材15、バルブストッパ30、間座31,32とを小径部13aを組付けたバルブ組立体の全長を短くし得る。ただし、弁座部材15の構造は、隔壁部15dが対向座部15bに対してリーフバルブ14の撓みを阻害しないように筒部15aに接続される限りにおいて適宜設計変更でき、図示した構造に限定されない。
【0053】
弁座部材15は、リーフバルブ14、バルブストッパ30および間座31,32とともにボトムキャップ13の小径部13aの外周に組み付けられると、リーフバルブ14は、軸方向中央の環状板14bの自由端の外周面を弁座部材15における対向座部15bの内周面に正対させて、対向座部15bとの間に所定の僅かな環状隙間Pをあけて対向する。
【0054】
そして、ダンパDが伸縮せず停止した状態では、リーフバルブ14は、撓まずに環状板14bの外周面を対向座部15bの内周面に正対させて、対向座部15bとの間に所定の環状隙間Pをあけて対向する。そして、本実施の形態のダンパDでは、正対する環状板14bと対向座部15bとの間にできる環状隙間Pは非常に狭くなっている。このように、リーフバルブ14は、撓まずに環状板14bの外周面を対向座部15bの内周面に正対させると、閉弁してポート15eの流路面積を最小にする。
【0055】
他方、ダンパDが動き出す(伸縮する)と、リーフバルブ14は撓み、リーフバルブ14の撓み量は伸縮速度の増加に応じて大きくなる。ダンパDの伸長速度が動き出しのような伸縮速度が0(ゼロ)に近い場合、リーフバルブ14の撓み量が非常に小さく、微低速域から低速域の間でリーフバルブ14が対向座部15bの内周面から対向し得なくなる程度に撓んでリーフバルブ14は開弁する。さらに、ダンパDの伸長速度が低速域、または高速域にある場合にはリーフバルブ14の外周部が間座32の外周を撓みの支点にして上側へと大きく撓む。反対に、ダンパDの収縮速度が低速域、または高速域にある場合にはリーフバルブ14の外周部が間座31の外周を撓みの支点にして下側へと大きく撓んで対向座部15bから離間して開弁する。本実施の形態では、ポート15eを介して圧側室R2と液溜室Rとを連通する通路Aは、リーフバルブ14のみによって開閉される。
【0056】
なお、環状板14bが対向座部15bの内周面に正対した状態で環状隙間Pが略0になるようにすれば、ダンパDが動き出して直ぐに圧側室R2と液室Lとに差圧が生じるため、ダンパDの伸縮の切り換わりにおいてダンパDが速やかに減衰力を発生できる。
【0057】
また、リーフバルブ14の下側に位置するバルブストッパ30は、ダンパDの収縮作動時にポート15eを流れる液体の流量が多くなってリーフバルブ14が大きく撓むと環状板14cの図2中下端に当接してリーフバルブ14のそれ以上の図2中下方への撓みを規制してリーフバルブ14を保護する。
【0058】
本実施の形態のフロントフォークFは、以上のように構成されており、以下、フロントフォークFの作動について説明する。フロントフォークFの伸長作動時には、伸縮体1の伸長に伴ってダンパDも伸長する。ダンパDが伸長するとシリンダ10内でピストン11が図1中上方へ移動して、伸側室R1を縮小させて圧側室R2を拡大させる。縮小される伸側室R1内の液体は、伸側減衰バルブ16を押し開いて伸側減衰通路11aを介して拡大される圧側室R2へ移動する。そして、伸側減衰バルブ16が当該液体の流れに対して抵抗を与えるので、伸側室R1内の圧力が圧側室R2内の圧力よりも高くなってダンパDは伸縮体1の伸長を妨げる伸側減衰力を発生する。なお、本実施の形態におけるフロントフォークFでは、伸側減衰通路11aを迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰力調整通路DPに流路面積を変更するニードル24が設けられており、ニードル24が減衰力調整通路DPを開放している場合、ダンパDの伸長作動時に伸側室R1内の液体は、伸側減衰通路11aの他にも減衰力調整通路DPを通過して圧側室R2へ移動する。よって、減衰力調整通路DPの流路面積を変更することによってダンパDが伸長作動時に発生する減衰力を高低調整し得る。また、フロントフォークFの伸長作動時には、シリンダ10内からピストンロッド12が退出して圧側室R2内で液体が不足するため、リーフバルブ14が図2中上方側へ撓んで開弁して液溜室Rから圧側室R2内に不足分の液体が供給される。
【0059】
他方、フロントフォークFの収縮作動時には、伸縮体1の収縮に伴ってダンパDも収縮する。ダンパDが収縮するとシリンダ10内でピストン11が図1中下方へ移動して、圧側室R2を縮小させて伸側室R1を拡大させる。縮小される圧側室R2内の液体は、圧側チェックバルブ17を押し開いて圧側通路11bを介して拡大される伸側室R1へ移動する。よって、圧側チェックバルブ17は、液体の流れに殆ど抵抗を与えないので、ダンパDの収縮作動時には伸側室R1内の圧力と圧側室R2内の圧力とがほぼ等しくなる。また、フロントフォークFの収縮作動時には、シリンダ10内にピストンロッド12が侵入してシリンダ10内で液体が過剰となるため、リーフバルブ14が図2中下方へ撓んで開弁して圧側室R2から液室Lを介して液溜室Rへ過剰分の液体が排出される。そして、リーフバルブ14が圧側室R2から液溜室Rへ向かう液体の流れに対して抵抗を与えるので、伸側室R1内の圧力と圧側室R2内の圧力とがほぼ等しくなる状態を保ちつつともに上昇する。ピストン11の圧側室R2側の受圧面積は、伸側室R1側の受圧面積より大きいため、ダンパDは、伸側室R1内の圧力と圧側室R2内の圧力とが上昇すると、伸縮体1の収縮を妨げる圧側の減衰力を発生する。
【0060】
フロントフォークFの収縮作動時においてダンパDのピストン速度が0に近い微低速域にある場合、ピストンロッド12のシリンダ10内への侵入によって圧側室R2内の圧力が上昇するものの液室Lの圧力との差圧がリーフバルブ14の開弁圧に達しないためリーフバルブ14は撓んでも外周面を対向座部15bの内周の軸方向幅の範囲に対向させて閉弁状態となってリーフバルブ14と対向座部15bとの間の環状隙間Pの流路面積を極小さく維持する。さらに、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が増加して微低速域から低速域にまで変化する間に、圧側室R2の圧力と液室Lの圧力との差圧がリーフバルブ14の開弁圧を超えるのでリーフバルブ14は、外周を対向座部15bの内周の軸方向幅の範囲から図2中下方へ外れるようにして撓んで開弁し、リーフバルブ14と対向座部15bとの間の環状隙間Pの流路面積を大きくする。
【0061】
そのため、フロントフォークFの収縮作動時において、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が0近傍では、ダンパDがピストン速度に応じて発生する減衰力の特性である減衰力特性は、図3に示すように、減衰係数がピストン速度の増加に伴って非常に大きく立ち上がる特性となる。その後、ピストン速度が増加して低速域になるとリーフバルブ14の開弁によって、ダンパDの減衰力特性は、減衰係数が小さくなる特性となる。さらに、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が増加して中速域に達し、ポート15eを通過して圧側室R2から液溜室Rへ向かう液体の流量が増加するが、リーフバルブ14が下方へ大きく撓んで環状隙間Pの流路面積をさらに大きくするため、ダンパDの減衰力特性は、図3に示すように、減衰係数を小さくしたまま維持するような特性となる。そしてさらに、ダンパDの収縮作動時のピストン速度が増加して高速域に達すると、リーフバルブ14が大きく撓んでバルブストッパ30に当接してそれ以上の下方への撓みが抑制されるため、ダンパDの減衰力特性は、図3に示すように、減衰係数を大きくする特性となる。
【0062】
なお、本実施の形態のフロントフォークFでは、ポート15eを介する通路Aを迂回してポート15eを介さずボトムキャップ13内を通じて圧側室R2と液室Lとが連通され、ボトムキャップ13内に流路面積を変更するニードル18が設けられており、ニードル18がボトムキャップ13内の通路を開放している場合、ダンパDの収縮作動時に圧側室R2内の液体は、ポート15eの他にもボトムキャップ13内を通過して液室Lへ移動する。よって、ボトムキャップ13内の流路面積を変更することによってダンパDが収縮作動時に発生する減衰力を高低調整し得る。
【0063】
以上、本実施の形態のダンパDは、シリンダ10と、シリンダ10内に挿入されるボトムキャップ(軸部材)13と、環状であって内周側がボトムキャップ(軸部材)13に固定されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブ14と、環状であってボトムキャップ(軸部材)13に取り付けられてシリンダ10内を圧側室(作動室)R2と液室(作動室)Lとに区画するとともに、圧側室(作動室)R2と液室(作動室)Lとを連通するポート15eと、内周にリーフバルブ14の外周に対向する対向座部15bとを有する弁座部材15とを備え、弁座部材15は、外周に装着されてシリンダ10の内周に密着する弾性のシールリング15cを有している。
【0064】
また、本実施の形態のフロントフォークFは、車体側チューブ2と車体側チューブ2に対して軸方向へ移動可能な車輪側チューブ3とを有する伸縮体1と、伸縮体1内に収容されて伸縮体1とともに伸縮して減衰力を発生するダンパDとを備え、ダンパDは、シリンダ10と、シリンダ10内に挿入されるボトムキャップ(軸部材)13と、環状であって内周側がボトムキャップ(軸部材)13に固定されて外周側の軸方向への撓みが許容されるリーフバルブ14と、環状であってボトムキャップ(軸部材)13に取り付けられてシリンダ10内を圧側室(作動室)R2と液室(作動室)Lとに区画するとともに、圧側室(作動室)R2と液室(作動室)Lとを連通するポート15eと、内周にリーフバルブ14の外周に対向する対向座部15bとを有する弁座部材15とを備え、弁座部材15は、外周に装着されてシリンダ10の内周に密着する弾性のシールリング15cを有する。
【0065】
このように構成されたダンパDおよびフロントフォークFでは、シールリング15cで弁座部材15とシリンダ10との間をシールできるので、弁座部材15の内径とリーフバルブ14の外径を大きくでき、リーフバルブ14が撓んで対向座部15bに対して軸方向へずれて開弁する際に、大きな流路面積を確保することができる。
【0066】
このように、シリンダ径を大きくとれないダンパDや、伸縮体1内の狭いスペースにダンパDを収容する関係で、構造的にシリンダ10の径を大きくできないフロントフォークFであっても、リーフバルブ14と対向座部15bとの間の流路面積を大きく確保できるので、ダンパDが高速でストロークしてリーフバルブ14と対向座部15bとの間を通過する液体の流量が多くなってもリーフバルブ14が与える抵抗が過剰となるのを抑制できる。よって、本実施の形態のダンパDおよびフロントフォークFによれば、高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制でき、鞍乗型車両における乗心地を向上できる。
【0067】
なお、弁座部材15は、シールリング15c以外の外周をシリンダ10の内周に当接させてもよいが、本実施の形態のフロントフォークFでは、弁座部材15の外径は、弁座部材15がシリンダ10内で径方向への変位が許容される径に設定されている。このように構成されたフロントフォークFでは、シリンダ10と弁座部材15との間に径方向で遊びがあるため、ボトムキャップ(軸部材)13に調心される弁座部材15をシリンダ10内に収容してもシールリング15cの弾発力を受ける以外に嵌め合いによって弁座部材15がシリンダ10から大きな荷重を受けることがない。よって、シールリング15cで弁座部材15とシリンダ10との間をシールしつつ、弁座部材15の内径とリーフバルブ14の外径を大きくしても、リーフバルブ14と対向座部15bとが軸ずれせずに済む。また、シリンダ10と弁座部材15との間に径方向で遊びがあるため、ボトムキャップ(軸部材)13をシリンダ10に挿入する作業において、弁座部材15がシリンダ10の内周をかじることがないので良好な作業性を保証し得る。
【0068】
さらに、本実施の形態のフロントフォークFでは、ダンパDが、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに車体側チューブ2に連結されるピストンロッド12と、シリンダ10内に移動可能に挿入されてピストンロッド12に連結されるとともにシリンダ10内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11とを備え、シリンダ10が車輪側チューブ3に連結され、弁座部材15がシリンダ10内を圧側室R2と伸縮体1内であってシリンダ10外の液溜室R内に連通される液室Lとの2つの作動室に区画している。
【0069】
このように構成されたフロントフォークFでは、ダンパDの収縮作動時に圧側室R2から液室Lを介して液溜室Rへ液体が通過する際にリーフバルブ14で抵抗を与える。そして、フロントフォークFが高速で収縮作動する場合、ピストンロッド12がシリンダ10内に侵入してリーフバルブ14と対向座部15bとの間を大流量の液体が通過することになるが、リーフバルブ14と対向座部15bとの間の流路面積を大きく確保できるので、圧側減衰力が過大になるのを抑制でき鞍乗型車両の搭乗者にごつごつ感を知覚させずに良好な乗心地を実現できる。また、本実施の形態のフロントフォークFでは、リーフバルブ14が対向座部15bに対して軸方向の両方へ撓むことができるため、フロントフォークFの伸長作動時にもリーフバルブ14が圧側室R2側へ向けて撓んで開弁してピストンロッド12がシリンダ10内から退出する体積分の液体を液溜室Rから圧側室R2内へ供給できる。リーフバルブ14は、対向座部15bに非接触で対向しており撓んで対向座部15bから軸方向へ大きくずれると、弁座に直接着座するバルブと比較して、流路面積を大きくでき通過する液体の流れに与える抵抗を小さくできるから、フロントフォークFの伸長作動時に液溜室Rから圧側室R2へ向かう液体の流れを許容するチェックバルブとしても利用できる。よって、このように構成されたフロントフォークFによれば、リーフバルブ14をフロントフォークFの収縮作動時には減衰力発生用のバルブとして利用できるとともにフロントフォークFの伸長作動時にはチェックバルブとしても利用できるので、他にバルブを設置する必要が無くなり、製造コストを安価にできるとともにフロントフォークFを軽量化できる。
【0070】
さらに、本実施の形態のフロントフォークFでは、弁座部材15のポート15eを介して圧側室R2と液溜室Rとを連通する通路Aがリーフバルブ14のみによって開閉されている。このように構成されたフロントフォークFによれば、通路Aに対してリーフバルブ14に直列されるバルブが皆無であるから、フロントフォークFが適用される図示しない鞍乗型車両がグラベルやダートと称される未舗装路(オフロード)を走行中に大きな段差に乗り上げた時のように、フロントフォークFが非常な高速で収縮する場合であっても、リーフバルブ14が大きく撓んで開弁して通路Aにおける流路面積を大きく確保でき、ダンパDが過剰な減衰力を発生することがなく、フロントフォークFが速やかに収縮して衝撃を緩和し車両における乗心地を向上できる。
【0071】
本実施の形態のフロントフォークFでは、リーフバルブ14の液室L側への撓みを規制するバルブストッパ30を設けているので、ダンパDの収縮作動時におけるピストン速度が高速域になった際にリーフバルブ14の撓みを規制して減衰係数を大きくするような減衰力特性を得て、フロントフォークFの最収縮による底付きの防止とリーフバルブ14の保護が可能であるが、不要な場合にはバルブストッパ30を省略してもよい。
【0072】
なお、本実施の形態のフロントフォークFは、弁座部材15が作動室を圧側室R2と液室Lとして両者を区画しており、リーフバルブ14により圧側室R2と液室Lとを交流する液体の流れに抵抗を与えているが、リーフバルブ14と弁座部材15とを、ピストン11とともに、あるいは、ピストン11の代わりにピストンロッド12に取り付けて作動室を伸側室R1と圧側室R2として、リーフバルブ14により伸側室R1と圧側室R2とを交流する液体の流れに抵抗を与えてもよい。この場合も、弁座部材15における対向座部15bの内径とリーフバルブ14の外径を大きくして、対向座部15bとリーフバルブ14との間の流路面積を大きく確保できるから、高速でストロークしても減衰力が過大になるのを抑制でき、鞍乗型車両における乗心地を向上できる。この場合、シリンダ10内に挿入されるピストンロッド12が軸部材となって、リーフバルブ14と弁座部材15とを保持する。
【0073】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、シリンダ10が車輪側チューブ3に連結されるとともにピストンロッド12が車体側チューブ2に連結されているが、シリンダ10が車体側チューブ2に連結されるとともにピストンロッド12が車輪側チューブ3に連結されていてもよい。
【0074】
さらに、本実施の形態のフロントフォークFでは、弁座部材15における対向座部15bに対して弁座部材15におけるシールリング15cの装着部位が軸方向でずれている。このように構成されたフロントフォークFによれば、弁座部材15において、シールリング15cを外周に装着するためにシリンダ10に対向して厚肉にしなければならい前記装着部位(筒部15aにおける厚肉部15f)を軸方向に避けて対向座部15bを形成する部位(筒部15aにおける薄肉部15h)を設ければよいので、装着部位(筒部15aにおける厚肉部15f)の内周に対向座部15bを設ける場合と比較して、対向座部15bの内径を大きくしてリーフバルブ14と対向座部15bとの間の流路面積を確保しやすくなる。
【0075】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、弁座部材15における対向座部15bに対して弁座部材15におけるシールリング15cの装着部位(筒部15aにおける厚肉部15f)は、軸方向で圧側室R2側にずれている。このように構成されたフロントフォークFでは、弁座部材15が圧側室R2と液室Lとをシリンダ10内に区画する場合、ダンパDが収縮作動する際にリーフバルブ14がシールリング15cを外周に装着するためにシリンダ10に対向して厚肉にしなければならない前記装着部位(筒部15aにおける厚肉部15f)とは反対側の液室L側に撓むので、リーフバルブ14が前記装着部位(筒部15aにおける厚肉部15f)に干渉せずに済む。よって、このように構成されたフロントフォークFによれば、収縮作動時において、リーフバルブ14が前記装着部位(筒部15aにおける厚肉部15f)から干渉されないので、リーフバルブ14と対向座部15bとの間の流路面積を大きく確保しやすくなる。
【0076】
そして、本実施の形態のフロントフォークFでは、弁座部材15は、筒状であってシリンダ10の外周に対向して、内周に対向座部15bを具備するとともに外周にシールリング15cが装着される筒部15aと、環状であってボトムキャップ(軸部材)13の外周に嵌合するとともに筒部15aの内周に接続されるとともにポート15eを有する隔壁部15dとを備え、隔壁部15dは、対向座部15bに対して軸方向で圧側室R2側にずれている。このように構成されたフロントフォークFでは、弁座部材15が圧側室R2と液室Lとをシリンダ10内に区画する場合、ダンパDが収縮作動する際にリーフバルブ14が圧側室R2と液室Lとの間に配置される隔壁部15dとは反対側の液室L側に撓むので、リーフバルブ14が隔壁部15dに干渉せずに済む。よって、このように構成されたフロントフォークFによれば、収縮作動時において、リーフバルブ14が隔壁部15dから干渉されないので、リーフバルブ14と対向座部15bとの間の流路面積を大きく確保しやすくなる。
【0077】
なお、本実施の形態のフロントフォークFでは、軸部材がボトムキャップ13とされているが、前述した通り、軸部材をピストンロッド12としてリーフバルブ14と弁座部材15とをピストンロッド12に取り付けてもよいし、軸部材はシリンダ10の端部を閉塞するボトムキャップ13とは別部品で構成されてボトムキャップ13に取り付けられてもよいし、ボトムキャップ13とは別個独立に設けられてもよい。つまり、軸部材は、シリンダ10内に挿入されてリーフバルブ14と弁座部材15とが装着される部材であればよい。
【0078】
また、前述したダンパDの具体的な構成は、一例であって、特許請求の範囲から逸脱しない限り、適宜設計変更可能である。さらに、このように本実施の形態のフロントフォークFにおけるダンパDの減衰力特性を説明する上で、ピストン速度を微低速域、低速域、中速域および高速域に区分しているが、速度域を区分する速度については設計者が任意に設定できる。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1・・・伸縮体、2・・・車体側チューブ、3・・・車輪側チューブ、10・・・シリンダ、11・・・ピストン、12・・・ピストンロッド、13・・・ボトムキャップ(軸部材)、14・・・リーフバルブ、15・・・弁座部材、15a・・・筒部、15b・・・対向座部、15c・・・シールリング、15d・・・隔壁部、15e・・・ポート、15f・・・厚肉部(装着部位)、
F・・・フロントフォーク、D・・・ダンパ、L・・・液室(作動室)、R・・・液溜室、R2・・・圧側室(作動室)
図1
図2
図3