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特開2024-129793離型用ポリエステルフィルム、薄膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129793
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】離型用ポリエステルフィルム、薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240919BHJP
   B32B 27/36 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012639
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023038375
(32)【優先日】2023-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南部 孝太
(72)【発明者】
【氏名】田中 ひとみ
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA46
4F071AA81
4F071AF01Y
4F071AF04Y
4F071AF11Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC14
4F071BC16
4F100AA08
4F100AK41
4F100AK42
4F100AK45
4F100CA23
4F100DD07
4F100EJ38
4F100GB90
4F100JA07
4F100JK14
4F100JL14
4F100YY00
(57)【要約】
【課題】塗工と剥離が繰り返されてもフィルム表面へのダメージや汚染が少ない離型用ポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】
ポリエステルからなる層を最表層(この最表層のポリエステルからなる層を「層A」という)に有し、該層Aは、ヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であり、該層Aの表面における上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mm以上、400個以下/0.2mmである離型用ポリエステルフィルムとする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルからなる層を最表層(以下、かかる最表層のポリエステルからなる層を「層A」と称する)に有するフィルムであって、該層Aは、ヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であり、該層Aの表面における上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mm以上、400個/0.2mm以下である離型用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
面配向係数fnが0.155~0.175である請求項1に記載の離型用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
層Aの表面の接触角が67度以上83度以下である請求項1に記載の離型用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
層Aを構成するポリエステルの数平均分子量が7000以上11000以下である請求項1に記載の離型用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
層Aの表面の中心面平均粗さSRaが5.0μm以上15.0μm以下である請求項1に記載の離型用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
層Aの質量を100質量%としたとき、層Aには再生ポリエステルが30質量%以上100質量%以下含有されている請求項1に記載の離型用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
繰り返し使用可能な請求項1に記載の離型用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
薄膜形成用組成物をポリエステルフィルムの表面に直接に塗布する工程、塗布された薄膜形成用組成物に物理的または化学的な処理を行って自己支持性を具備せしめる工程、前記処理後の塗布物を前記ポリエステルフィルムから剥離する工程、を少なくとも有する薄膜の製造方法であって、前記のポリエステルフィルムは、塗布される側の表面においてヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であり、かつ、該表面の上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mm以上400個/0.2mm以下であることを特徴とする、薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記のポリエステルフィルムの面配向係数fnが0.155~0.175であることを特徴とする請求項8に記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記薄膜形成用組成物が、ポリカーボネートのハロゲン系溶媒溶液であることを特徴とする、請求項8または9に記載の薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し使用に最適な離型性を有するポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、中でも二軸配向ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、耐薬品性などに優れ、包装材料、電気絶縁材料、金属蒸着材料、磁気記録材料、表示材料、転写材料、窓貼り材料、ディスプレイ材料などの様々な用途で使用されている。近年では、離型や工程紙の用途として、ドライフィルムレジスト(DFR)基材用や積層セラミックコンデンサのセラミックグリーンシート製造工程用、液晶偏光板や位相差フィルム等の光学部材の製造工程用に使用されている。
【0003】
ポリエステルフィルムは、離型用や工程紙用フィルムとして有用であるが、得られる薄膜等の成形品の品位への影響の観点から、一度使用すると再使用できない場合や、再使用が可能だとしても、繰り返して使用するには、その回数に限度がある場合があり、使用できなくなったフィルムは廃棄されるため、環境に負荷がかかっている。
【0004】
そのため、ポリエステル樹脂において、環境配慮型材料として、使用済みのポリエステルフィルムを再溶融したリサイクル樹脂やペットボトルからなるリサイクル樹脂、バイオマス由来の原料を用いたポリエステル樹脂の利用が進められている(例えば、特許文献1)。また、ポリエステルフィルムの表面に易溶解層を積層させて使用後のポリエステルフィルムが原料としてリサイクル品位を高める検討も進められている(例えば、特許文献2)。
【0005】
しかし、リサイクル樹脂の使用は、本来のポリエステルフィルムの特性を損なう場合があり、離型用や工程紙用フィルムとしての機能を損ない、再使用の繰り返し回数が少なくなってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-115862号公報
【特許文献2】特開2023-23947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景から、離型用や工程紙用として用いられるポリエステルフィルムは、繰り返し使用が可能であることが求められている。また、ポリエステルフィルムに含まれるリサイクル樹脂の使用が可能なフィルムが求められている。そこで、本発明では、繰り返し使用に適した離型性を有するポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムの表層の分子鎖末端と表面突起を管理することで、繰り返し使用が可能な離型性を備えることができることを見出した。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0009】
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、ポリエステルからなる層を最表層(以下、かかる最表層のポリエステルからなる層を「層A」と称することがある)に有し、下記(1)および(2)を満たすことを特徴とする。また、より好ましい態様として少なくとも下記(3)~(7)のいずれかまたはその内の幾つかを満たす態様があげられる。
(1)層Aのヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であること。
(2)層Aの表面における上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mm以上400個/0.2mm以下であること。
(3)前記離型用ポリエステルフィルムの面配向係数fnが0.155以上0.175以下であること。
(4)層Aの表面の接触角が67度以上83度以下であること。
(5)層Aを構成するポリエステルの数平均分子量が7000以上11000以下であること。
(6)層Aの表面の中心面平均粗さSRaが5.0μm以上15.0μm以下であること。
(7)層Aの質量を100質量%としたとき、層Aには再生ポリエステルが30質量%以上100質量%以下含有されていること。
【0010】
また、本発明の離型用ポリエステルフィルムを用いた薄膜の製造方法として、(8)を満たすことを特徴とし、より好ましい態様として(9)~(10)のいずれかまたはその内の幾つかを満たす態様があげられる。
(8)薄膜形成用組成物をポリエステルフィルムの表面に直接に塗布する工程、塗布された薄膜形成用組成物に物理的または化学的な処理を行って自己支持性を具備せしめる工程、前記処理後の塗布物を前記ポリエステルフィルムから剥離する工程、を少なくとも有する薄膜の製造方法であって、前記のポリエステルフィルムは、塗布される側の表面においてヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であり、かつ、該表面の上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mm以上400個以下/0.2mmであること。
(9)前記のポリエステルフィルムの面配向係数fnが0.155以上0.175以下であること。
(10)前記薄膜形成用塗布物が、ポリカーボネートのハロゲン系溶媒溶液であること。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繰り返し使用に適した離型性を有するポリエステルフィルムを提供することができる。特に、位相差フィルムとして用いられるポリカーボネートフィルムの溶液製膜時の支持体として好適な離型用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら制限されず、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムに用いられるポリエステルは、ジカルボン酸またはその誘導体とグリコールまたはその誘導体とを重合して得られる熱可塑性の樹脂である。ポリエステルに用いられるジカルボン酸またはその誘導体としては、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホンジカルボン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸や、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、ならびにそれらのエステル形成性誘導体が使用できる。また、グリコールまたはその誘導体としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコールや、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族グリコール、ならびにそれらのエステル形成性誘導体が使用できる。
【0014】
これらのジカルボン酸成分、ジオール成分の中でも、耐溶剤性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルベート、スピログリコールが好ましく用いられる。耐溶剤性、耐熱性に加え、製造コストの観点からは、テレフタル酸とエチレングリコールの組合せが最も好ましい。
【0015】
ポリエチレンテレフタレートを用いる場合、ポリエステル樹脂の50質量%以上、好ましくは55質量%以上をポリエチレンテレフタレートが占めることが好ましく、50質量%以上を占めることで、機械強度、耐熱性、耐薬品品性において有利である。
【0016】
離型用ポリエステルフィルム
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、単層構成であっても、2層以上の積層構成であってもよいが、2つの表面のうち少なくとも1面の表面を構成する層(層A)として、次の要件を満たしている必要がある。
【0017】
・ヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であること
・層Aの表面において、上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mm以上400個以下/0.2mmであること
なお、フィルムの表裏両面において当該面をなす層が上記の要件を充たしていても良く、その場合、何れの面を目的とする用途(例えば、離型用途や工程紙用途)に供しても良いが、以下において説明する、好ましく層Aが備えるべき特性をさらに備えた面の側を以て目的とする用途に供することが好ましい。
【0018】
上記の範囲とすることで、離型用に必要なポリエステルフィルムと密着性と離型性のバランスを確保し、また、突起の個数を上記範囲とすることで、ポリエステルフィルムから剥離する際の起点となり、剥離がスムースに行うことができ、繰り返し使用に好適に用いることができる。ヒドロキシル基末端量は60当量/トン以上85当量/トン以下であることがより好ましい。
【0019】
層Aのヒドロキシル基末端量が55当量/トンを下回る場合、ポリエステルフィルムと成形体の間の密着性が大きくなり、剥離に不具合が生じる場合がある。特にポリカーボネートフィルムの薄膜製造において、剥離時に残渣が表面に付きやすく、繰り返し使用の回数が低下してしまう場合がある。層Aのヒドロキシル基末端量が90当量/トンを上回る場合、ポリエステルフィルムと成形体の間の離型性が大きくなり、薄膜等の形成に不具合が生じる場合がある。
【0020】
層Aのヒドロキシル基末端量を調整する方法としては、層Aを構成するポリエステルの分子量や原材料比を調整して末端量を調整する方法や、原料チップを水飽和させる方法などがあげられる。
【0021】
また、リサイクル樹脂は、再生化の過程で、劣化が進み、分子量が低下する場合があるが、リサイクル樹脂を使用する際は、高分子量のPET樹脂と組み合わせ、ヒドロキシル基末端量の係る範囲に調整することができる。
【0022】
層Aの表面における上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mmを下回る場合、ポリエステルフィルムと該フィルム上に形成された薄膜等の成形体との間の密着性が大きくなり、特に形成用組成物の残渣が表面に堆積してくると離型性を維持できなくなり、繰り返し使用の回数が低下してしまう場合がある。層Aの表面の突起の個数が400個/0.2mmを上回る場合、ポリエステルフィルムと薄膜等の成形体との間の離型性が大きくなり、薄膜形成に不具合が生じる場合がある。
【0023】
層Aの表面における上下間隔が5nm以上の突起を制御し、上述の範囲とするためには、ポリエステルフィルム中に粒子を含有させる方法、ポリエステルフィルムの結晶化度を制御する方法、ポリエステルフィルム延伸時の延伸ロールやニップロールによってフィルムに加わる圧力を制御する方法、およびこれらの方法を組み合わせることが好適に用いられる。粒子を含有させる手法を用いる場合、フィルム添加用の公知の粒子であればよく、例えば、内部粒子、無機粒子、有機粒子があげられ、ポリエステルフィルムに含有させる粒子の粒径、粒子の含有量で調整できる。
【0024】
無機粒子としては、例えば、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミ、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミ、マイカ、カオリン、クレー、有機粒子としては、スチレン、シリコーン、アクリル酸類、メタクリル酸類、ポリエステル類、ジビニル化合物を構成成分とする粒子を使用することができる。さらに、無機粒子および有機粒子は2種以上を併用してもよい。平均粒子径は0.1μm~3.0μmであることが好ましく、粒子含有量は、A層全体の質量を100質量%としたとき、0.01質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、面配向係数fnが0.155以上0.175以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.158以上0.172以下である。
【0026】
面配向係数fnをかかる範囲内とすることにより、層Aを構成するポリエステル樹脂は配向状態になり機械的強度や耐薬品性を維持することが可能となるため、繰り返し使用が可能なポリエステルフィルムを得ることができる。
【0027】
面配向係数が0.155未満であると、機械的強度が低下したり、配向ムラに起因するフィルムの平面性の悪化が起きたりする。また被離型物である薄膜をフィルム表面から剥離する際、フィルムの凝集破壊が起こり、陥没欠陥となる場合がある。また、面配向係数fnが0.175を超えると、機械的強度が高くなりすぎ、二次加工をしたときに、ひび割れ等の不具合が発生する。
【0028】
面配向係数fnはフィルムの延伸倍率、二軸延伸後の熱処理温度、熱処理時間によって調整可能である。よって、本発明の離型用ポリエステルフィルムは、延伸フィルムであることが好ましい。さらには、ポリエステルフィルムの従来の特長である機械強度、耐熱性、耐薬品性などを十分に発揮するために、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0029】
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、層Aの表面における接触角が67度以上83度以下であることが好ましい。より好ましくは70度以上80度以下である。接触角が67度を下回ると密着性が高くなり、被離型物である薄膜が剥がれにくい場合や剥離する際に剥離した薄膜の成分がフィルム側に残存してしまい、繰り返し使用の回数を低下させてしまう場合がある。接触角が83度を上回ると、離型性が高くなり、薄膜形成に不具合が起こる場合がある。
【0030】
接触角を上記の範囲とすることは、ヒドロキシル基末端量と突起数の調整することが簡便である。
【0031】
本発明の離型用ポリエステルフィルムの層Aを構成するポリエステルの数平均分子量は7000以上、11000以下であることが好ましい。数平均分子量が7000未満であると、フィルムの機械強度が下がり、工程紙や離型用フィルムとして用いたときの搬送性に不具合が生じる場合や、分子鎖末端量が増えることから、密着性が上がり、フィルム表面に残渣物が付着しやくなり、繰り返してのフィルムの利用回数を低下させてしまう場合がある。数平均分子量が11000を超えると、分子鎖末端量が減るので、離型性があがることで薄膜形成に不具合が起こる場合や、溶融粘度が高くなり、フィルム製造自体が困難となる場合がある。
【0032】
層Aの表面の中心面平均粗さSRaは、5.0μm以上15.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは6.0μm以上14.0μm以下である。中心面平均粗さSRaが5.0μmを下回ると、フィルムの滑り性が悪化し、巻取加工時にエアが抜けにくくなり、シワが発生する場合がある。また被離型物である薄膜がはがれにくい場合や剥離する際に剥離した薄膜の成分がフィルム側に残存してしまい、繰り返し使用の回数を低下させてしまう場合がある。この中心面平均粗さSRaが15.0μmを超える場合、離型性が高くなり、薄膜形成に不具合が起こる場合がある。本発明の離型用ポリエステルフィルムの層Aは、離型フィルムとして用いるときは被塗布物がとして流延される予定の面であるので、、より平滑であることが好ましく、この層による表面とは反対側の表面の中心面平均粗さSRaよりも平滑な面であることが好ましい。
【0033】
なお、中心面平均粗さSRaは、JISB0601(1994)の算術平均粗さRaの測定を線から面の測定に拡張したものであり、その具体的な測定方法は実施例の項に説明したとおりである。
【0034】
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、層Aに再生ポリエステルを、層Aの質量100質量%に対して、30質量%以上100質量%以下含有することが好ましい。再生ポリエステル樹脂の含有量が30質量%未満の場合、環境負荷低減の効果が低くなる。
【0035】
再生ポリエステル樹脂は、既存技術の中では、PETの物理的再生(メカニカルリサイクル)によって得られるのが最も一般的である。まず、洗浄された再生PET樹脂をチップ状に細断し、押出機に投入し、高温で溶融押し出す、PET再生ペレットを製造する。その他、再生ポリエステル材を化学的再生(ケミカルリサイクル)し、造粒を行うことにより、再生ポリエステル樹脂を得ることもできる。
【0036】
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、層Aのみで構成されたものであっても、層A以外の他の層が積層された2層以上の積層構成であっても良い。層A以外の層を用いる場合は、当該他の層に粒子を含んでもよいし、含まなくてもよい。粒子を含む場合は、フィルム添加用の公知の粒子であればよく、例えば、内部粒子、無機粒子、有機粒子を使用できる。フィルムの透明性を損なわない程度に、粒子の選択、含有量を調整することが好ましい、特に限定されないが、無機粒子であれば1質量%以下とするのが好ましい。
【0037】
本発明の離型用ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されないが、25μmから150μmが離型用フィルムとして好適に使用できる。層Aの厚みの比率は、フィルム全体の厚みを100%としたとき、5%以上100%以下が好ましい。層Aの厚み比率が小さい場合は、層A以外の層に再生ポリエステルを含有することで、リサイクル樹脂の含有率を高めることができる。
【0038】
本発明の離型用ポリエステルフィルムを製造する方法について、一例を説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。なお、ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる例を挙げて説明する。
【0039】
(1)PET樹脂組成物の製造
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモンを触媒として、常法により重合を行うことで得ることができる。
【0040】
また、PETに粒子を含有させる方法としては、例えば、エチレングリコールに粒子を所定の割合にてスラリーの形で分散させ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加することをあげられる。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成した際に得られる水ゾルやアルコールゾルを乾燥させることなくポリエステル重合完結前の任意段階で添加すると粒子の分散性が良好であり、また、粒子の水スラリーを所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の二軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も有効な手法である。これらの方法により、粒子を含有したPET樹脂組成物を製造する。
【0041】
再生ポリエステル樹脂は、回収されたポリエステルフィルムを原料としてリサイクル(再生利用)し、製造する。該製造工程の前段で、後述するペレット製造工程によりポリエステルをペレット化し、該ペレットを用いて製造することができる。
【0042】
(再生ポリエステル製のペレット製造工程)
回収されたポリエステルフィルムは、ペレット製造工程により、ペレットに加工されることが好ましい。回収されたポリエステルフィルムは裁断し、フレーク状で使用することもできるが、ペレット化することで取り扱い性が格段に向上する。ペレットは、取り扱いの点で有利であるだけでなく、保管、その後の加工等も行いやすいというメリットもある。
【0043】
(2)二軸延伸ポリエステルフィルムの製造
上述のようにして得られたPET樹脂組成物のペレットを減圧下で乾燥した後、押出機の溶融部が250~300℃の温度、好ましくは270~290℃に加熱された押出機に投入する。単層の場合は、11台の押出機にPET樹脂組成物を投入し、共押出法により複数層を積層する場合は、複数の押出機にそれぞれのPET樹脂組成物を投入し、溶融してから合流させて、続いてTダイ型口金から吐出させ、20~70℃の冷却ドラム上に静電荷を印加させながら密着急冷固化させ、未延伸シートを得る。次に、この未延伸シートを二軸延伸する。
【0044】
延伸方法としては、走行方向(MD)と幅方向(TD)の延伸をそれぞれ個別に順次実施するいわゆる逐次二軸延伸法、MDとTDを同時に延伸する方法いわゆる同時二軸延伸法またはそれらを組み合わせた方法を用いることができる。延伸速度を高くしやすく、生産性が上げることができる逐次二軸延伸が好ましく、ここでは逐次二軸延伸法を用いた例で説明する。
【0045】
二軸延伸ポリエステルフィルムは一般に、未延伸状態のシートをMDおよびTDに各々2.5~5.0倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより得ることができる。
【0046】
本発明の離型用ポリエステルフィルムの延伸倍率は、MD、TDともに3.0倍以上4.5倍以下であることが好ましい。さらに、MDの延伸倍率とTDの延伸倍率の積(面倍率)が11.0以上15.0以下であることが好ましい。上記範囲とすることで、面配向度を係る範囲に調整することができる。
【0047】
未延伸シートを加熱ロール群で加熱した後、上記範囲の延伸倍率にて、延伸温度を70℃以上130℃以下、より好ましくは80℃以上110℃以下とし、MDに延伸する。その後20℃以上50℃以下の冷却ロール群で冷却する。
【0048】
TDの延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。MDに延伸した後のフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、上記範囲の延伸倍率にて、延伸温度を70℃以上130℃以下、より好ましくは80℃以上110℃以下とし、TDに延伸する。
【0049】
次に、この延伸したフィルムを緊張下で熱処理を行う。熱処理温度は160℃以上280℃以下の範囲が好ましい。この際、該熱処理温度でMDとTDに0%以上10%以下の範囲で弛緩処理することが熱的寸法安定性の点で好ましい。熱処理後はフィルムを室温まで冷却し、二軸延伸フィルムを得る。
【0050】
フィルムの厚み、各層の厚みは、フィルム製造において、押出機の吐出量や延伸倍率を変化させることによって、調整することができる。吐出量が小さくなるほど、また、延伸倍率が大きくなるほど、フィルムの厚みは薄くなる。
【0051】
(3)薄膜の製造方法
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、薄膜形成用組成物、すなわち後記の工程を経て薄膜となる材料が含まれた組成物、をポリエステルフィルムの表面に直接に塗布する工程、該塗布物に物理的または化学的な処理を行って自己支持性を具備せしめる工程、前記処理後の薄膜形成用組成物を前記ポリエステルフィルムから剥離する工程、を少なくとも有し、薄膜形成用塗布物から薄膜を得ることができる。
【0052】
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、表層、すなわち層Aは、ヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であるため、薄膜形成用組成物とポリエステルフィルムとの密着性と剥離性が両立しやすい。また、本発明の離型用ポリエステルフィルムは、前記層Aの上下間隔が5nm以上の突起の個数が200個/0.2mm以上400個以下/0.2mmであることにより、前述した樹脂との剥離起点となり、剥離性に優れる。そのため、ポリエステルフィルムの表面に改めて離型層等の離型を促進するための別なる層を設ける必要はなく、直接、本発明の離型用ポリエステルフィルムに対象物とする薄膜形成用組成物を塗布することができる。また、薄膜形成用組成物は、液体としてポリエステルフィルム上に流延させるために、対象とする樹脂を他の溶媒に溶かし溶液化する。また、さらに溶液化させた塗布液を攪拌させたり、分散剤をあらかじめ添加させて、樹脂の分散性を高めることも好ましい。
【0053】
このようにして得られた塗布物を、ポリエステルフィルム上に塗布し、物理的または化学的な処理を行って自己支持性を具備させることができる。物理的な方法としては、例えば、塗布物の熱硬化温度以上で加熱する方法、化学的な方法としては、紫外線照射を行い塗布物を硬化し、自己支持性を具備させた膜を得る。
【0054】
次に、該自己支持性を具備させた膜をポリエステルフィルムから剥離し、薄膜を得ることができる。薄膜の厚みとしては、10μm以上200μm程度である。
【0055】
樹脂膜を得る場合の薄膜を構成する樹脂としては、ポリエステルフィルムの表面に溶液状態で流延できる樹脂であれば特段に限定されるものではないが、例えば、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリカーボネート、液晶ポリマーがあげられる。さらに、該樹脂の極性が低いと、本発明のポリエステルフィルムとの密着剥離性に優れるため、ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂を溶液化する方法としては、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロベンゼン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒を用いて溶液とする方法があげられ、溶液キャスト法に適した溶液安定性の観点から塩化メチレンを主成分とする溶液が好ましい。なお、安定的に塗布が可能であり、薄膜として形成可能であれば、溶液に樹脂以外の成分が含まれていても良い。
【0056】
(4)ポリエステルフィルムの再利用方法
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、上記の(3)で剥離した後のポリエステルフィルムを繰り返し、薄膜の製造工程に用いることが可能であり、薄膜としての品位としても品位が劣化する度合いは極めて小さい。
【0057】
上述したとおり、本発明の離型用ポリエステルフィルムの表層は、ヒドロキシル基末端量が55当量/トン以上90当量/トン以下であり、表面の突起の個数が200個/0.2mm以上400個以下/0.2mmであり、フィルム上に形成された薄膜との密着性、剥離性にすぐれるため、再度利用することができる。一度、ポリエステルフィルムを利用し、残渣が突起間に堆積したとしても、該物性を満たすことで、フィルム上に形成された薄膜との密着性、剥離性にすぐれるため、再度利用することができる。
【0058】
また、本発明のポリエステルフィルムの面配向係数fnが0.155以上0.175以下であると、ポリエステルフィルムが利用される際の加工時における強度に優れるため、一度、薄膜形成用組成物を塗布し、薄膜を形成し、薄膜を剥離した後の本発明のポリエステルフィルムを繰り返して利用することができる。
【0059】
さらに、本発明の離型用ポリエステルフィルムを再利用するに際し、薄膜を剥離した後、使用済みのポリエステルフィルムを洗浄工程に供することもできる。特に、面配向係数fnが0.155以上0.175以下であるフィルムの場合は、洗浄薬剤液に対する耐薬品性に優れ、使用済みのポリエステルフィルムを再利用しやすい。また、本発明のポリエステルフィルムは、リサイクル原料を含有させることができるため、該面配向係数fnであれば、加工時の強度やリサイクル時の耐薬品性にも対応が可能である。
【実施例0060】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定して解釈されるものではない。まず、本発明で使用した評価方法を下記に示す。
【0061】
[評価方法]
(1)ヒドロキシル基末端量
フィルムまたは樹脂を細かく粉砕し、15mgを秤量した。0.1mlのヘキサフルオロイソプロパノールール(HFIP)-dに完全に溶解させた後、重クロロホルム0.6mlで希釈した。さらに、HFIPの水酸基ピークをシフトさせるために、ピリジン-dを30μl添加し、H-NMR(BBO-5mmプローブ)で測定した。
【0062】
なお、層A以外の層が積層されている場合は、層A側の表面から試料を採取して測定できる。
【0063】
(2)突起個数(ピークカウント数)
触針法の高精細微細形状測定器を用いて、下記条件にて層Aの側の表面のピークカウント数を測定した。スライスレベル条件設定を上下間隔固定とし、中心ピッチレベルを0nm、上下レベル間隔を5nmとし、測定を行った。
測定装置:3次元微細形状測定器(小坂研究所製 型式ET-4000A)
解析機器:3次元表面粗さ解析システム(小坂研究所製 型式TDA-31)
触針:先端半径0.5μmR、径2μm、ダイヤモンド製
針圧:100μN
測定方向:フィルム長手方向
X測定長:0.5mm
X送り速さ:0.1mm/s(測定速度)
Y送りピッチ:5μm(測定間隔)
Yライン数:81本
Z倍率:20000倍
低域カットオフ(うねりカットオフ値):0.25 mm
高域カットオフ(粗さカットオフ値):R+W mm
ここで、カットオフ値R+Wとはカットオフしないことを意味する。
【0064】
位相特性(フィルタ方式):2CRノーマル型
総サンプル点数上限:90601
極性:ノーマル
レベリング:最小二乗法
基準面積:0.2mm
【0065】
(3)面配向係数fn
アッベ屈折率計を用いて、フィルムをガラス面に密着させ、次いでナトリウムD線(589.3nm)を光源として、長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(Nx、Ny、Nz)を測定し、下記式より測定層の面配向係数fnを求めた。
・面配向係数fn=(Nx+Ny)/2-Nz。
【0066】
(4)接触角
フィルムを10cm角に切り出し、層Aに対応するフィルムの表面の中心位置で測定する。測定液として、水を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA-D型)を用いて層Aの表面に対する静的接触角を求めた。
【0067】
(5)数平均分子量
試料3mgに、HFIP:クロロホルム(1:1)0.5mlを加えて溶解させ、不溶物をメンブレンフィルター0.45μmでろ過し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析を行った。測定機器、条件は以下のとおりである。
【0068】
なお、層A以外の層が積層されている場合は、フィルムの表面から試料を採取して測定できる。
GPC:HLC-8020 東ソー製
検出器:UV-8010 東ソー製
カラム:TSK-gelGMHHR・M×2 東ソー製
移動相:HPLC用クロロホルム流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(254nm)
注入量:200μl
較正曲線用試料:PMMA。
【0069】
(6)中心面平均粗さSRa
触針法の高精細微細形状測定器を用いて、フィルムの両面をそれぞれの面について、任意の箇所で3か所下記の条件で測定し、得られた値をそれぞれの面毎に平均値を求め、中心面平均粗さSRaとした。測定機器、条件は以下のとおりである。
測定装置:3次元微細形状測定器(小坂研究所製 型式ET-4000AK)
触針:先端半径0.5μmR、径2μm、ダイヤモンド製
針圧:100μN
測定方向:フィルム長手方向
X測定長:0.5mm
X送り速さ:0.1mm/s(測定速度)
Y送りピッチ:5μm(測定間隔)
Yライン数:80本
Z倍率:20000倍
低域カットオフ(うねりカットオフ値):0.25mm
高域カットオフ(粗さカットオフ値):R+Wmm
ここで、カットオフ値R+Wとはカットオフしないことを意味する。
【0070】
(7)製膜性、加工性の評価(シワ発生)
フィルムロールからフィルムを2m巻き出し、フリーテンション(フィルムの自重により垂直方向に垂らした状態)の荷重を付加し、シワの有無を確認した。なお、シワの確認は、750Luxの照明でフィルムを照らしながら、フィルムロール5周分に相当する長さをすべて目視することにて行い、シワの判定は下記の基準で評価した。
【0071】
<基準1>
目視でシワが観察されない:〇
目視でシワが観察される:×。
【0072】
(8)繰り返し性の評価(接触角変化)
溶媒として塩化メチレンを用いて、ポリカーボネート樹脂の20質量%溶液を調合した。試料とするフィルムを10cm角に切り出し、これを支持体として、上記樹脂溶液をフィルム全面に塗布し、乾燥を行い、積層体を得る。この得られた積層体からポリカーボネート薄膜を剥離した。剥離し終えたフィルムを再度支持体として用いて、前記ポリカーボネート樹脂を剥離した面と同じ面に、前述と同じ手順で積層体を制作し、ポリカーボネート薄膜の剥離を行った。
【0073】
この作業を全体で20回繰り返したのち、ポリカーボネート薄膜を剥離したフィルムの剥離面の接触角を(4)と同じ方法で測定した。初期接触角と20回繰り返し剥離後の接触角の変化量を算出し、下記の基準で評価した。なお、いずれも○、△、×の順またはA、B、Cの順で優れている。
【0074】
<基準2>
20回繰り返し剥離後の接触角が85°未満:〇
20回繰り返し剥離後の接触角が85°以上90°未満:△
20回繰り返し剥離後の接触角が90°以上:×。
【0075】
<基準3>
接触角の変化量が10°未満:○
接触角の変化量が10°以上20°未満:△
接触角の変化量が20°以上:×。
【0076】
<総合評価1>
基準2および基準3が共に○:A
基準2および基準3の少なくとも一方が×:C
AとC以外:B
(9)製膜性、加工性、繰り返し性の総合評価
上記(7)製膜性、加工性の評価(シワ発生)、および(8)繰り返し性の評価(接触角変化)の結果から製膜性、加工性、繰り返し性の総合評価を行った。
【0077】
<総合評価2>
上記の基準1と基準2、及び基準3がいずれも○:A
上記の基準1と基準2、及び基準3が1つ以上△:B
上記の基準1と基準2、及び基準3が1つ以上×:C
上記の基準1が×:D。
【0078】
以下の実施例および比較例で用いたポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法は次の通りである。
【0079】
(PET樹脂1)テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩を触媒として、常法により重合を行い、PET樹脂1を得た。得られたPET樹脂1のヒドロキシル基末端量69当量/トン、数平均分子量は10032であった。
【0080】
(PET樹脂2)
重合度を変更した以外は、PET樹脂1と同様にして、ヒドロキシル基末端量が52当量/トン、数平均分子量が12141のPET樹脂2を得た。
【0081】
(PET樹脂組成物3)
エステル交換後に平均粒径0.6μmの炭酸カルシウムを添加する以外は、PET樹脂1と同様にして、炭酸カルシウム粒子を3質量%含有するPET樹脂組成物3を得た。ヒドロキシル基末端量89当量/トン、数平均分子量は8131であった。
【0082】
(PET樹脂組成物4)
280℃に加熱された同方向回転タイプのベント式2軸混練押出機に、上述のPET樹脂1を80質量部と粒径0.3μmの架橋ポリスチレン粒子(スチレン・アクリレート共重合体)の10質量%水スラリーを20質量部(架橋ポリスチレン粒子として2質量部)供給し、ベント孔を1kPa以下の減圧度に保持し水分を除去し、架橋ポリスチレン粒子を2質量%含有するPET樹脂組成物4を得た。ヒドロキシル基末端量94当量/トン、数平均分子量は7245であった。
【0083】
(実施例1)
PET樹脂1を92.0質量%、PET樹脂組成物3を2.0質量%、およびPET樹脂組成物4を6.0質量%の混合ペレットを、180℃の温度で3時間、真空乾燥した後、押出機1台に供給し、280℃で加熱しながら、溶融押出し、Tダイ型口金から吐出させた。吐出した溶融樹脂を表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させ、未延伸のPETシートを得た。次いで、得られた未延伸シートを、表面温度80℃の複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間でMDに3.3倍に延伸した。このようにMDに延伸したシートを、テンターを用いてTDに100℃の温度で4.1倍に延伸し、続いて温度220℃で熱処理を行い、引き続き、220℃の弛緩処理ゾーンでTDに3%弛緩処理を行った後、室温まで冷却し、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。なお、表中、層Aとして示している層は、中心面平均粗さSRaが小さい方の側の面を構成する最外層である。
【0084】
(再生PET樹脂組成物)
実施例1で製造したポリエステルフィルムを回収し、原料として再生利用した。すなわち、実施例1のポリエステルフィルムを裁断し、フレーク状にしたのち、乾燥し、二軸ベント押出機にて溶融押出し、ペレット化した。再生PET樹脂組成物(以下、「再生PET樹脂組成物1」という)のヒドロキシル基末端量は88当量/トン、数平均分子量は8159であった。
【0085】
(実施例2)
PET樹脂1を2.7質量%、PET樹脂組成物3を0.3質量%、PET樹脂組成物4を2.0質量%、再生PET樹脂組成物1を95.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.5倍、TDの延伸倍率を4.2倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0086】
(実施例3)
PET樹脂1を20.0質量%、再生PET樹脂組成物1を80.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.4倍、TDの延伸倍率を4.2倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0087】
(実施例4)
PET樹脂2を33.5質量%、PET樹脂組成物3を0.5質量%、PET樹脂組成物4を1.0質量%、再生PET樹脂組成物1を65.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.2倍、TDの延伸倍率を4.0倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0088】
(実施例5)
PET樹脂2を59.6質量%、PET樹脂組成物3を1.2質量%、PET樹脂組成物4を4.2質量%、再生PET樹脂組成物1を35.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.2倍、TDの延伸倍率を3.7倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0089】
(実施例6)
PET樹脂2を75.9質量%、PET樹脂組成物3を0.9質量%、PET樹脂組成物4を3.2質量%、再生PET樹脂組成物1を20.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.2倍、TDの延伸倍率を3.6倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0090】
(実施例7)
PET樹脂2を57.0質量%、PET樹脂組成物3を0.8質量%、PET樹脂組成物4を2.2質量%、再生PET樹脂組成物1を40.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.1倍、TDの延伸倍率を3.6倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0091】
(実施例8)
PET樹脂2を55.0質量%、PET樹脂組成物3を0.5質量%、再生PET樹脂組成物1を44.5質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.3倍、TDの延伸倍率を4.0倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0092】
(比較例1)
PET樹脂1を2.0質量%、PET樹脂組成物3を0.8質量%、PET樹脂組成物4を2.2質量%、再生PET樹脂組成物1を95.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.5倍、TDの延伸倍率を4.5倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0093】
(比較例2)
PET樹脂1を15.1質量%、PET樹脂組成物3を1.3質量%、PET樹脂組成物4を3.6質量%、再生PET樹脂組成物1を80.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.4倍、TDの延伸倍率を4.4倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0094】
(比較例3)
PET樹脂2を87.0質量%、PET樹脂組成物3を0.8質量%、PET樹脂組成物4を2.2質量%、再生PET樹脂組成物1を10.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.0倍、TDの延伸倍率を3.5倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0095】
(比較例4)
PET樹脂2を94.1質量%、PET樹脂組成物3を1.2質量%、PET樹脂組成物4を4.7質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.1倍、TDの延伸倍率を3.6倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0096】
(比較例5)
PET樹脂2を97.0質量%、PET樹脂組成物3を0.8質量%、PET樹脂組成物4を2.2質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.2倍、TDの延伸倍率を4.0倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0097】
(比較例6)
PET樹脂2を95.8質量%、PET樹脂組成物3を1.2質量%、再生PET樹脂組成物1を3.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.1倍、TDの延伸倍率を3.4倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0098】
(比較例7)
PET樹脂2を35.8質量%、PET樹脂組成物3を1.2質量%、PET樹脂組成物4を8.0質量%、再生PET樹脂組成物1を55.0質量%の混合ペレットとし、MDの延伸倍率を3.6倍、TDの延伸倍率を4.3倍にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが100μmのポリエステルフィルムを得た。
【0099】
実施例1~8、比較例1~7で得たポリエステルフィルムの特性評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1-1】
【0101】
【表1-2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の離型用ポリエステルフィルムは、離型紙、工程紙として利用可能である。