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特開2024-129809複合材、複合材の製造方法、端子及び端子の製造方法
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  • 特開-複合材、複合材の製造方法、端子及び端子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129809
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】複合材、複合材の製造方法、端子及び端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20240919BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20240919BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20240919BHJP
   C25D 3/46 20060101ALI20240919BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20240919BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/16
C25D15/02 F
C25D3/46
H01R43/16
H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033609
(22)【出願日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2023039015
(32)【優先日】2023-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】木脇 広大
(72)【発明者】
【氏名】菅原 章
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕貴
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
5E063
【Fターム(参考)】
4K023AA24
4K023BA29
4K023CA01
4K023DA02
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA10
4K024AB09
4K024AB12
4K024BA09
4K024BB10
4K024BC01
4K024CA02
4K024CA04
4K024CA06
4K024CA12
4K024DA09
4K024GA03
4K024GA08
4K024GA16
5E063GA01
5E063XA04
(57)【要約】
【課題】実用上十分な耐摩耗性を備え、しかも曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制された複合材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】金属硫化物粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の算術平均粗さRaを複合皮膜の厚さ(μm)で除した値Xが0.14以下である、複合材を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硫化物粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)を複合皮膜の厚さ(μm)で除した値Xが0.14以下である、複合材。
【請求項2】
前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、硫化モリブデン、硫化タングステン及び硫化スズからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが62nm以下である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項4】
前記複合皮膜の表面をエネルギー分散型X線分析により測定して求められる、前記複合皮膜の表面における金属硫化物粒子の質量割合が1~50質量%である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項5】
前記素材が銅又は銅合金で構成されている、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項6】
前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、MoS及びWSからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項7】
前記複合皮膜の厚さが0.5~45μmである、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項8】
前記複合皮膜中の前記金属硫化物粒子の含有量が0.5~30質量%である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項9】
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが62nm以下であり、前記値Xが0.088以下である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項10】
前記複合皮膜中の金属硫化物粒子の含有量が2.5~10質量%であり、前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が硫化モリブデンである、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項11】
金属硫化物粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、該金属硫化物粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法。
【請求項12】
前記素材が銅又は銅合金で構成されている、請求項11に記載の複合材の製造方法。
【請求項13】
前記銀めっき液が下記一般式(I)で表される化合物Aを含有する、請求項11又は12に記載の複合材の製造方法:
【化1】
(式(I)において、mは1~5の整数であり、
は、カルボキシル基であり、
は、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
は、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、
及びRはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【請求項14】
前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、硫化モリブデン、硫化タングステン及び硫化スズからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項11又は12に記載の複合材の製造方法。
【請求項15】
前記金属硫化物粒子のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)が、0.5~15μmである、請求項11又は12に記載の複合材の製造方法。
【請求項16】
前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、MoS及びWSからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項11又は12に記載の複合材の製造方法。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の複合材がその構成材料として用いられた、端子。
【請求項18】
請求項1又は2に記載の複合材を端子の形状に加工する、端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材上に所定の複合皮膜が形成されてなる複合材およびその製造方法等に関し、特に、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として使用される複合材およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として、摺動過程における加熱によるCu(銅)やCu合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを施した銀(Ag)めっき材が使用されている。
【0003】
しかし、銀めっきは軟質で摩耗し易く、一般に摩擦係数が高いため、摺動により剥離し易いという問題がある。この問題を解消するため、耐摩耗性、潤滑性などに優れた黒鉛やカーボンブラックなどの炭素粒子のうち、黒鉛粒子を銀マトリクス中に分散させた複合材の皮膜を電気めっきにより導体素材上に形成して耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。なお特許文献3には、炭素粒子のほか、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素又はフッ化黒鉛からなる粒子も耐摩耗性の向上に有効であるとの一般記載がある。
【0004】
また別の耐摩耗性に優れた複合材として、特許文献4には、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材にアンチモンを含有する銀めっき層が形成された端子材であって、前記銀めっき層の平均結晶粒径が0.1μm以上2.0μm以下であるなどの特徴を有するコネクタ用端子材が開示されている。
【0005】
以上説明した複合材よりも更に耐摩耗性に優れたものとして、特許文献5には、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが40nm以下であるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-7445号公報
【特許文献2】特開2007-16250号公報
【特許文献3】特許2018-1023347号公報
【特許文献4】特許2020-105551号公報
【特許文献5】国際公開第2021/261066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献5に開示された複合材では、複合皮膜の表面に銀で構成されると考えられる多くのコブ状電着組織が発生している。当該コブは周囲の組織(複合皮膜を構成する銀マトリクス)との結合が弱く、外部からの応力によって容易に脱落してしまうため、複合材のユーザーの使用時(曲げ加工時など)に、コンタミとして設備を汚す可能性もある。
【0008】
本発明は上述の状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、実用上十分な耐摩耗性を備え、しかも曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制された複合材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、金属硫化物粒子を含む銀めっき液を使用して素材に電気めっきを行うと、コブの生成が抑制された、凸部の少ない複合皮膜が形成され、その複合皮膜を有する複合材により上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
[1]金属硫化物粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)を複合皮膜の厚さ(μm)で除した値Xが0.14以下である、複合材。
【0012】
[2]前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、硫化モリブデン、硫化タングステン及び硫化スズからなる群より選ばれる少なくとも一種である、[1]に記載の複合材。
【0013】
[3]前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが62nm以下である、[1]又は[2]に記載の複合材。
【0014】
[4]前記複合皮膜の表面をエネルギー分散型X線分析により測定して求められる、前記複合皮膜の表面における金属硫化物粒子の質量割合が1.0~50質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合材。
【0015】
[5]前記素材が銅又は銅合金で構成されている、[1]~[4]のいずれかに記載の複合材。
【0016】
[6]前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、MoS及びWSからなる群より選ばれる少なくとも一種である、[1]~[5]のいずれかに記載の複合材。
【0017】
[7]前記複合皮膜の厚さが0.5~45μmである、[1]~[6]のいずれかに記載の複合材。
【0018】
[8]前記複合皮膜中の前記金属硫化物粒子の含有量が0.5~30質量%である、[1]~[7]のいずれかに記載の複合材。
【0019】
[9]前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが62nm以下であり、前記値Xが0.088以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の複合材。
【0020】
[10]前記複合皮膜中の金属硫化物粒子の含有量が2.5~10質量%であり、前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が硫化モリブデンである、[1]~[9]のいずれかに記載の複合材。
【0021】
[11]金属硫化物粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、該金属硫化物粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法。
【0022】
[12]前記素材が銅又は銅合金で構成されている、[11]に記載の複合材の製造方法。
【0023】
[13]前記銀めっき液が下記一般式(I)で表される化合物Aを含有する、[11]又は[12]に記載の複合材の製造方法:
【化1】
(式(I)において、mは1~5の整数であり、
は、カルボキシル基であり、
は、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
は、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、
及びRはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【0024】
[14]前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、硫化モリブデン、硫化タングステン及び硫化スズからなる群より選ばれる少なくとも一種である、[11]~[13]のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【0025】
[15]前記金属硫化物粒子のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)が、0.5~15μmである、[11]~[14]のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【0026】
[16]前記金属硫化物粒子を構成する金属硫化物が、MoS及びWSからなる群より選ばれる少なくとも一種である、[11]~[15]のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【0027】
[17][1]~[10]のいずれかに記載の複合材がその構成材料として用いられた、端子。
【0028】
[18][1]~[10]のいずれかに記載の複合材を端子の形状に加工する、端子の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、実用上十分な耐摩耗性を備え、しかも曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制された複合材およびその製造方法、並びにその関連技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例における、曲げ加工時の銀の脱落評価試験を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[複合材の製造方法]
本発明の複合材の製造方法の実施の形態は、金属硫化物粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、銀層中に金属硫化物粒子を含有する複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法である。以下、この複合材の製造方法の各構成について説明する。
【0032】
<<素材>>
その上に複合皮膜を形成する素材の構成材料としては、銀めっき可能であり、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料に求められる導電性を有するものが好適であり、更にコストの観点から、構成材料としてCu(銅)及びCu合金が好適である。前記Cu合金としては、導電性と耐摩耗性の両立などの観点から、Cuと、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),P(リン),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Co(コバルト),Zn(亜鉛),Be(ベリリウム),Pb(鉛),Te(テルル),Ag(銀),Zr(ジルコニウム),Cr(クロム),Al(アルミニウム),Ti(チタン),B(ホウ素),Li(リチウム)及びBi(ビスマス)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である(Cuの量は好ましくは99.95質量%以下である)。
【0033】
素材は後述する通り好ましくは(複合皮膜が形成された複合材として)端子の用途に用いられるが、素材自体がそういった用途の形状をしている場合もあるし、素材は平らな形状(平板形状など)で、複合材となった後に用途の形状に成形される場合もある。本発明の効果が奏される観点からは、素材は平板形状などの平らな形状であることが好ましい。
【0034】
<<下地層の形成>>
本発明の複合材の製造方法では、素材に対して下地層を形成して、その下地層に対して後述する電気めっきを施してもよい。下地層は、素材の銅がめっき表面に拡散して酸化し、複合材の導電性が劣化することを防止する目的や、複合皮膜の密着性改善の目的で形成される。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。なお下地層は、Cu,Ni,Sn、Ag又はこれらの合金のそれぞれからなる単一層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層であってもよく、下地層の形成は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、その一部でもよい。
【0035】
下地層の形成方法は特に限定されず、前記の構成金属のイオンを含むめっき液を用いて、公知の方法により、電気めっきを行ったり、目的とする合金層を構成する各金属からなる層を順に積層形成した後リフロー(熱処理)することで、形成することができる。
【0036】
<<Agストライクめっき>>
素材上に複合皮膜を形成する前に、Agストライクめっきにより非常に薄い中間層を形成して、素材と複合皮膜との密着性を高めることが好ましい。なお、下地層を素材上に形成する場合は、下地層上にAgストライクめっきを行う。Agストライクめっきの実施方法としては、本発明の効果を損なわない限り、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。
【0037】
<<電気めっき>>
本発明の複合材の製造方法では、特定の銀めっき液中で、以上説明した素材に対して電気めっきを行うことで、素材上に、銀層中に金属硫化物粒子を含有する複合皮膜を形成する。
【0038】
<銀めっき液>
銀めっき液は、銀イオン及び金属硫化物粒子を含有し、好ましくは特定の化合物Aを含有する。
【0039】
(銀イオン)
銀めっき液は銀イオンを含む。この銀めっき液中の銀の濃度は、複合皮膜の形成速度の観点や、複合皮膜の外観ムラ抑制の観点から5~150g/Lであることが好ましく、10~120g/Lであることがさらに好ましく、20~100g/Lであることが最も好ましい。
【0040】
(金属硫化物粒子)
次に、銀めっき液は金属硫化物粒子を含有する。銀めっき液が金属硫化物粒子を含んでいると、電気めっきにより素材上へ複合皮膜(銀めっき膜)が形成される際に、銀マトリクス中に当該粒子が巻き込まれる。この金属硫化物粒子は層状剥離していく物質で、複合皮膜が金属硫化物粒子を含むと、複合材の耐摩耗性が高まる。なお層状剥離する金属硫化物は微量であり、これは汚染の原因とはならない。
【0041】
さらに、特許文献5のように炭素粒子を採用して特定のめっき液を使って銀めっきを実施すると、上述のようにコブ状の電着組織を形成してしまう。しかし本発明のように金属硫化物粒子を使用して銀めっきを実施すると、めっきにおける銀マトリクスの形成に何らかの変化がおこるのか、コブ状の電着組織の形成が抑制され、算術平均粗さRaや、算術平均粗さRaを複合皮膜の厚さで除した値Xが小さい複合皮膜が形成される。この複合皮膜は、曲げ加工した際の銀の脱落が極めて起こりにくい。なお、コブ状の電着組織が形成されるメカニズムとして、炭素粒子の一部に通電して当該粒子上に銀が析出し、この銀が成長してコブとなることが考えられる。金属硫化物粒子は炭素粒子に比べて電気抵抗が高いため金属硫化物粒子への通電が起こりにくく、その結果コブ状の電着組織の形成が起こりにくいものと考えられる。
【0042】
耐摩耗性の観点から金属硫化物粒子を構成する金属硫化物としては、硫化モリブデン、硫化タングステン及び硫化スズからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。電気めっきにより銀マトリクス中に巻き込まれやすいという点もあわせると、金属硫化物粒子は、MoS及びWSからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0043】
金属硫化物粒子の、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)は、銀めっき膜への巻き込みやすさや銀めっき膜の耐摩耗性の観点から0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましく、特に耐摩耗性の観点から3.5~10μmであることが特に好ましい。更に、金属硫化物粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。
【0044】
また、この金属硫化物粒子を酸化処理又は塩基化処理することにより、当該粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去してもよい。このような親油性有機物として、アルカンやアルケンなどの脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの芳香族炭化水素が含まれる。金属硫化物粒子の酸化処理又は塩基化処理により、当該粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、これにより前記粒子を本発明で使用する銀めっき液中により均一に分散させ、また金属硫化物粒子の銀めっき中への巻き込み量を高めることができる。また、後述する銀めっき液における化合物Aが好適に機能すると考えられる。その結果、硬度が高く、摩擦係数の低い複合皮膜を形成することができる。更に、D50が3.5~10μmである硫化モリブデン粒子に対して酸化処理又は塩基化処理、特に好ましくは塩基化処理を行って銀めっきを実施すると、耐摩耗性に特に優れた複合皮膜を形成することができる。
【0045】
前記酸化処理の手法としては、湿式酸化処理が挙げられる。湿式酸化処理の方法としては、金属硫化物粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができる。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。
【0046】
前記塩基化処理の手法としては、湿式塩基化処理が挙げられる。湿式塩基化処理の方法としては、金属硫化物粒子をアルカリ性の水溶液と接触させる方法が挙げられ、その具体的方法としては、金属硫化物粒子を水中に懸濁させた後に適量のアルカリ物質を添加する方法などを使用することができる。アルカリ物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム及び水酸化リチウムなどが挙げられる。塩基化処理は、金属硫化物粒子が懸濁した水のpHが12以上になるように、アルカリ物質を添加して実施することが、耐摩耗性に優れた複合皮膜を形成する観点から好ましい。塩基化処理により金属硫化物粒子の表面に親水性基(例えばヒドロキシル基)が導入されることも、銀めっき液中での分散性に寄与していると考えられる。
【0047】
また、銀めっき液中の金属硫化物粒子の量は、銀めっき液を使用して複合皮膜を素材上に形成して得られる複合材の耐摩耗性の観点と、複合皮膜中に導入できる粒子の量には限度があることから、10~200g/Lであることが好ましく、25~150g/Lであることがさらに好ましく、50~120g/Lであることが最も好ましい。
【0048】
(化合物A)
次に、本発明の複合材の製造方法で使用する銀めっき液は、好ましくは下記一般式(I)で表される化合物Aを含んでいる。
【化2】
式(I)において、mは1~5の整数であり、Rは、カルボキシル基であり、Rは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rは、水素又は任意の置換基であり、R及びRはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。前記2価の基の例としては、-CH-CH-O-、-CH-CH-CH-O-、(-CH-CH-O-)が挙げられる(nは2以上の整数である)。
【0049】
化合物Aは、析出した銀の表面に吸着して銀の結晶が成長することを抑えることで、電気めっきにより形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを小さくするものと考えられる。これにより、複合皮膜の硬度が高い、それゆえ耐摩耗性に優れた複合材が得られる。
【0050】
また上記一般式(I)において、mが2以上の場合、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、mが3以下の場合、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよい。Rについて、前記「任意の置換基」としては、炭素数1~10のアルキル基、アルキルアリール基、アセチル基、ニトロ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルコキシル基が挙げられる。
【0051】
銀めっき液中の化合物Aの濃度は、複合皮膜の外観ムラ抑制や、形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを適切に制御する観点から2~250g/Lであることが好ましく、3~200g/Lであることがより好ましい。
【0052】
(錯化剤)
本発明で使用する銀めっき液は、好ましくは錯化剤を含有する。錯化剤は銀めっき液中の銀イオンを錯体化して、そのイオンとしての安定性を高める。この作用により、銀のめっき液を構成する溶媒への溶解度が高まる。
【0053】
錯化剤としては従来公知のものを特に制限なく使用可能であるが、形成される錯体の安定性の観点からスルホン酸基を有する化合物が好ましい。スルホン酸基を有する化合物としては、炭素数1~12のアルキルスルホン酸、炭素数1~12のアルカノールスルホン酸及びヒドロキシアリールスルホン酸が挙げられる。これらの化合物の具体例としては、メタンスルホン酸、2-プロパノールスルホン酸及びフェノールスルホン酸が挙げられる。
【0054】
銀めっき液中の錯化剤の量は、銀イオンの安定化の観点から、30~200g/Lであることが好ましく、50~120g/Lであることがより好ましい。
【0055】
(他の添加剤)
他の添加剤として、例えば本発明に使用する銀めっき液は、光沢剤、硬化剤、電導度塩を含有してもよい。
【0056】
(溶媒)
銀めっき液を構成する溶媒は、主に水である。水は、(錯体化した)銀イオンの溶解性、めっき液が含むその他の成分の溶解性や、環境への負荷が小さいことから好ましい。また、溶媒として、水とアルコールの混合溶媒を使用してもよい。
【0057】
<電気めっき条件>
次に、以上説明した銀めっき液を用いた電気めっきの諸条件について説明する。例えば以下に説明する電気めっきにより、素材上に金属銀が析出するとともに、その際銀マトリクス中に上述した金属硫化物粒子が巻き込まれ、複合皮膜が形成される。なお素材上に下地層を形成した場合はその上に、銀ストライクメッキを実施した場合にはストライクめっき層の上に複合皮膜が形成される。
【0058】
(カソード及びアノード)
電気めっきする対象である素材がカソードである。溶解して銀イオンを提供する、例えば銀電極板がアノードである。
【0059】
(電流密度)
銀めっき液(めっき浴)にカソード及びアノードを浸漬し、電流を流して銀めっきする。ここでの電流密度は、複合皮膜の形成速度の観点及び複合皮膜の外観のムラ抑制の観点から、0.3~10A/dmが好ましく、0.5~8A/dmがより好ましく、0.8~6A/dmが更に好ましい。
【0060】
(温度・撹拌・めっき時間・めっき対象部位)
電気めっきを行う際のめっき浴(銀めっき液)の温度(めっき温度)は、めっきの生産効率および液の過度な蒸発を防ぐ観点から15~50℃であることが好ましく、20~45℃であることがより好ましい。この際のめっき浴の撹拌は、均一なめっきの実施の観点から、200~550rpmであることが好ましく、350~500rpmであることがより好ましい。銀めっきの時間(電流をかける時間)は、目的とする複合皮膜の厚さに応じて適宜調整することができるが、代表的には25~4500秒の範囲である。まためっきする対象部位は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、素材の表層の一部でもよい。
【0061】
なお、耐摩耗性及び曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落抑制の点で優れた複合皮膜を形成するためには、銀めっき時間を2000秒以下とすることが好ましい。
【0062】
<<複合皮膜表面の金属硫化物粒子の一部除去処理>>
以上説明した電気めっきにより、素材上に複合皮膜が形成される。この複合皮膜表面には、銀マトリクスに巻き込まれて(埋まって)おり脱落しにくい金属硫化物粒子と、巻き込まれたというよりも表面に付着しており、脱落しやすい金属硫化物粒子が存在している。後者は複合材の曲げ加工時などに設備を汚染しうる。そこでこのような金属硫化物粒子を洗浄して除去することが好ましい。洗浄方法の一つは、複合皮膜の表面を超音波洗浄する処理である。超音波洗浄は、20~100kHzで1~300秒間行われることが好ましい。また別の洗浄方法としては電解洗浄処理が挙げられる。この場合、電解洗浄が1~30A/dmで10~300秒間行われることが好ましい。
【0063】
[複合材]
以下、本発明の複合材の実施の形態について説明する。当該複合材は、銀層中に金属硫化物粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材である。この複合材は、例えば本発明の複合材の製造方法により製造することができる。以下、この複合材の各構成について説明する。
【0064】
<<素材>>
前記素材は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明した素材と同様である。すなわち素材の構成材料としてはCu(銅)及びCu合金が好適であり、前記Cu合金としては、導電性と耐摩耗性の両立などの観点から、Cuと、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),P(リン),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Co(コバルト),Zn(亜鉛)及び,Be(ベリリウム),Pb(鉛),Te(テルル),Ag(銀),Zr(ジルコニウム),Cr(クロム),Al(アルミニウム),Ti(チタン),B(ホウ素),Li(リチウム)及びBi(ビスマス)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。
【0065】
<<複合皮膜>>
素材上に形成された複合皮膜は、金属硫化物粒子を含有する銀層で構成される。この銀層においては、銀からなるマトリクス中に金属硫化物粒子が(好ましくは略均等に)分散している。なお複合皮膜を形成する前にAgストライクめっきを行っている場合は、素材(又は後述する下地層)と複合皮膜の間にこのストライクめっきによる中間層が存在するが、非常に薄くて複合皮膜と区別できない場合も多い。また複合皮膜は素材の表層全体の上に形成されていてもよいし、表層の一部上に形成されていてもよい。
【0066】
<金属硫化物粒子>
前記金属硫化物粒子は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明した金属硫化物粒子と同様である。すなわち当該粒子を構成する金属硫化物としては、硫化モリブデン、硫化タングステン及び硫化スズからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、MoS及びWSが特に好ましく、金属硫化物粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。
【0067】
また金属硫化物粒子の平均一次粒子径は、複合材の耐摩耗性の観点から、0.5~15μmであることが好ましく、3~10μmであることがより好ましい。なお平均一次粒子径とは、粒子の長径の平均値であり、長径とは、複合材の複合皮膜中の金属硫化物粒子を適切な観察倍率で観察した画像(平面)における、粒子内にひくことのできる最も長さの長い線分の長さとする。また長径は、50個以上の粒子について求めるものとする。
【0068】
また、複合皮膜に金属硫化物粒子が存在することは、X線回折(XRD)分析で判別可能である。より具体的には、複合皮膜の表面について、JISH7805:2005に準拠し、X線回析装置を用いてX線回折測定を行う。X線解析ソフトウェア(例えば株式会社リガク製のPDXL)を用いて、測定されたピークをMoSなどの金属硫化物のJCPDSカード(各結晶の回折ピークや格子面間隔、格子状数などの情報が記載されている)に記載されているX線回折パターンと照らし合わせ、Agのピークに加えてMoSなどの金属硫化物と同定されるピークを確認する。これにより、複合皮膜に金属硫化物粒子が存在することを確認することができる。
【0069】
<複合皮膜の算術平均粗さRaと複合皮膜の厚さ>
本発明の複合皮膜はコブが少ない表面形態をしており、その算術平均粗さRa(μm)を複合皮膜の厚さ(μm)で除した値Xは、0.14以下である。本発明者らの検討により、前記コブは複合皮膜の厚さが大きくなるほど形成されやすく、大きさも大きくなることがわかってきた。また曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落のしやすさについては、表面形態を表すRa自体よりも、前記値Xが有効な指標となることもわかってきた。曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落を抑制する観点から、また値Xが非常に小さな複合皮膜を有する複合材の製造は困難であることから、前記値Xは好ましくは0.01~0.12であり、より好ましくは0.02~0.11である。
【0070】
本発明の複合材の複合皮膜の算術平均粗さRaは、耐摩耗性の観点から好ましくは0.1~3.0μmであり、より好ましくは0.1~2.1μmである。Raの測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0071】
本発明の複合材の複合皮膜の厚さは特に制限されないが、耐摩耗性や導電性の点で、最低限の厚さがあることが好ましい。また厚さが大きすぎても複合皮膜の効果は飽和し、原料コストが高まる。以上の観点から、複合皮膜の厚さは0.5~45μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましく、1~25μmであることが更に好ましい。曲げ加工時の銀脱落の抑制の点をあわせると、1~10μmであることが最も好ましい。複合皮膜の厚さの測定方法の詳細については、実施例で説明する。なお、前述のようにAgストライクめっきを行っている場合は、素材(又は後述する下地層)と複合皮膜の間にこのストライクめっきによる中間層が存在するが、複合皮膜と区別できない場合は、中間層の厚さも複合皮膜の厚さに含めるものとする。
【0072】
<結晶子サイズ及びビッカース硬度>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜における銀の結晶子サイズは、好ましくは62nm以下である。このように結晶子サイズが小さいことで、ホール・ペッチの関係(一般に、金属材料は結晶粒が小さいほど強度が増す)から複合皮膜の硬度が高く、硬度が高いことで複合皮膜が削れにくくなり複合材の耐摩耗性がより高くなる傾向にある。また結晶子サイズの小型化には限度がある。これらの点から、結晶子サイズはより好ましくは6~60nmであり、特に好ましくは10~60nmである。結晶子サイズは35~58nmに管理してもよい。耐摩耗性と曲げ加工時の銀脱落の抑制を両立する観点からは、銀の結晶子サイズが62nm以下であり、かつ値Xが0.088以下であることが特に好ましい。
【0073】
なお本発明において銀の結晶子サイズとしては、XRD分析で強度が最大の結晶面の結晶子サイズを採用する。結晶子サイズの更に詳細な測定方法については、実施例で説明する。
【0074】
以上のように複合皮膜は好ましくは結晶子サイズが小さいため硬度が高く、具体的には、そのビッカース硬度Hvは、好ましくは100以上であり、より好ましくは110~230である。ビッカース硬度Hvの測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0075】
<金属硫化物粒子の複合皮膜表面における質量割合及び複合皮膜中の含有量>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜は上記の通り金属硫化物粒子を含有しており、複合皮膜表面における前記粒子の質量割合は、複合材の耐摩耗性及び導電性の観点から、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは2~35質量%であり、更に好ましくは3~25質量%である。本発明の複合材の製造方法の説明にて説明した通り、複合皮膜の表面には、付着しているだけで脱落しやすい金属硫化物粒子が存在している場合がある。この場合には、<<複合皮膜表面の金属硫化物粒子の一部除去処理>>の項にて説明したのと同様の超音波洗浄処理を施してから複合皮膜表面の金属硫化物粒子の質量割合を求めるものとする。複合皮膜表面の金属硫化物粒子の質量割合はエネルギー分散型X線分析により求められるが、この測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0076】
また、金属硫化物粒子を含んでいる複合皮膜中の金属硫化物粒子の含有量は、耐摩耗性と導電性のバランスの観点から、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは0.8~30質量%であり、更に好ましくは1~20質量%であり、特に好ましくは1.5~10質量%である。なお耐摩耗性の観点からは、金属硫化物が硫化モリブデンであり、前記複合皮膜中の含有量が2.5~10質量%であることが特に好ましい。前記含有量の測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0077】
<銀と金属硫化物の含有量の合計>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜の元素組成については、典型的には実質的には銀と金属硫化物(金属及び硫黄)とからなる。具体的には、複合皮膜中のこれらの元素の含有量の合計は、99質量%以上であり、より好ましくは99.5質量%以上である。
【0078】
<<下地層>>
素材と複合皮膜の間に、種々の目的で下地層が形成されていてもよい。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。例えば素材中の銅が複合皮膜表面に拡散して導電性が劣化することを防止する目的では、Niからなる下地層を形成することが好ましい。素材が黄銅などの亜鉛を含む銅合金で、素材中の亜鉛が複合皮膜表面に拡散することを防止する目的では、Cuからなる下地層を形成することが好ましい。複合皮膜の素材への密着性改善の目的では、Agからなる下地層を形成することが好ましい。下地層の厚さは特に限定されないが、その機能発揮とコストの観点から、0.1~2μmであることが好ましく、0.2~1.5μmであることがより好ましい。また、電気・電子部品の端子にはCu下地やNi下地を含むSnめっきまたはリフローSnめっきを施した(素材側からCu下地、Ni下地、Sn下地の積層構造の)材料が使用されることが多く、本発明においてもこのような積層構造の下地層を形成してもよい。したがって本発明において、複合皮膜の下地にCu,Ni,Sn、Ag又はこれらの合金のそれぞれからなる単一層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層があってもよく、また例えば素材の電気接点部に本発明で規定する複合皮膜を形成し(下地層は形成してもしなくてもよい)、電線加締め部にリフローSnめっき下地層を形成する(複合皮膜は形成しない)など、場所によって異なる層を形成してもよい。
【0079】
<<耐摩耗性>>
本発明の複合材の実施の形態は耐摩耗性に優れる。具体的には、後述する実施例における、平板状試験片及びインデント付き試験片を用いた方法で耐摩耗性を評価したときに、1000回の往復摺動操作を行った時点において、平板状試験片において素材の露出がみられず、好ましくは2500回の往復摺動操作を行った時点において、平板状試験片において素材の露出がみられず、特に好ましくは10000回の往復摺動操作を行った時点において、平板状試験片において素材の露出がみられない。また、当該試験により求めた、複合皮膜が1μm減少するのに要する往復摺動回数が好ましくは300回以上であり、より好ましくは600回以上であり、特に好ましくは900回以上である(通常3000回以下である)。
【0080】
<<曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落>>
以上説明した通り、本発明の複合材の実施の形態は上記値X(Ra/複合皮膜の厚さ)が0.14以下と小さく、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制されている。具体的には、後述する実施例における曲げ加工による銀の脱落評価試験にて、ピーリングを行ったカーボンテープについてエネルギー分散型X線分析装置を用いてEDS分析を行ったとき、検出された元素(Ag,金属硫化物を構成する元素(Mo、Sなど)及びC等)の合計を100質量%としたとき、Agの割合は好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以下であり、最も好ましくは1.2質量%以下である。なお前記Agの割合を0にすることは困難であり、通常0.1質量%以上である。
【0081】
[端子]
本発明の複合材の実施の形態は実用上十分な耐摩耗性を備えるとともに曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制されているので、端子、特にスイッチやコネクタなどの、その使用において摺動がなされる電気接点部品における端子の構成材料として好適である。平板形状など、端子の形状となっていない本発明の複合材に対して、打ち抜き加工などのせん断加工や曲げ加工を施して端子の形状に加工することで、端子を製造することができる。
【実施例0082】
以下、本発明による複合材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
<金属硫化物粒子の準備>
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)が5μmの、鱗片形状のMoS粒子(モリパウダーPA、住鉱潤滑剤株式会社製)を用意した。なお前記D50はMoS粒子のメーカー公称値である。
【0083】
[実施例1]
<Agストライクめっき>
厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB109EH)から、横1.0cm×縦4.0cmの試験片を切り出した。この試験片を素材として、当該素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を酸化イリジウムコーティングした)チタンメッシュ電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてメタンスルホン酸を含むスルホン酸系Agストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-ST、銀濃度3g/L、メタンスルホン酸濃度42g/L、温度25℃)中において、電流密度5A/dmで90秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った。なお、Agストライクめっきは素材の表層全体に対して行った。
【0084】
<Ag-MoSめっき>
錯化剤としてメタンスルホン酸を含む、銀濃度30g/L、メタンスルホン酸濃度60g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB(一般式(I)に該当する化合物Aを含み、溶媒は主に水である))に、金属硫化物粒子として上記のMoS粒子を添加して、濃度100g/Lの金属硫化物粒子と濃度30g/Lの銀と濃度60g/Lのメタンスルホン酸と濃度4.2g/Lの化合物Aを含む金属硫化物粒子含有スルホン酸系銀めっき液を用意した。
【0085】
次に、上記のAgストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記の金属硫化物粒子含有スルホン酸系銀めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度1A/dmで855秒間電気めっきを行い、銀層中に金属硫化物粒子を含有する複合皮膜(Ag-MoSめっき皮膜)が素材上に形成されてなる複合材を得た。なお複合皮膜は素材の表層全体上に形成した。この複合皮膜は、実質的に銀と金属硫化物粒子とからなる。
【0086】
<超音波洗浄処理>
得られた複合材の複合被膜表面に対して、超音波洗浄器(AS ONE製のVS-100III、出力100W、槽内寸法:縦140mm×横240mm×深さ100mm、使用液体は純水、水温は20℃)を使用して、28kHzで4分間の超音波洗浄処理を実施した。
【0087】
以上の複合材の製造条件等を、後述する実施例2~7並びに比較例1及び2の製造条件等とともに、後記表1にまとめた。
【0088】
得られた複合材(超音波洗浄処理済のもの)について、以下の評価を行った。
<複合皮膜の厚さ>
複合材の複合皮膜(1cm×4cmの面における中央部分の直径0.2mmの円形の範囲)の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT110A)で測定したところ、5.1μmであった。なお複合皮膜の膜厚は、複合皮膜をAg皮膜と見なし、検出されたAgの蛍光X線強度から求めた。
【0089】
<複合皮膜の算術平均粗さRa>
上記複合皮膜の表面をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製のVKX-110)により倍率1000倍で撮影した画像について、解析アプリケーション(株式会社キーエンス製のVK-HIXAバージョン3.8.0.0)により、JIS B0601(2001年)に基づいて(複合皮膜の観察面全体における)表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さRaを算出したところ、0.3μmであった。従って、複合皮膜の算術平均粗さRaを上記複合皮膜の厚さ(μm)で除した値Xは、0.059であった。
【0090】
<複合皮膜中の金属硫化物粒子又は炭素粒子の含有量>
上記複合皮膜の表面について、JISH7805:2005に準拠し、X線回析装置(ブルカージャパン株式会社製のD2Phaser2nd Generation)を用いてX線回折測定(Cu Kα線管球、管電圧:30kV、管電流:10mA、ステップ幅:0.02°、走査範囲:2θ=10°~155°、スキャンスピード:5°/分、測定時間:約30分間)を行った。X線解析ソフトウェア(株式会社リガク製のPDXL)を用いて、測定されたピークをMoSのJCPDSカード(各結晶の回折ピークや格子面間隔、格子状数などの情報が記載されている)に記載されているX線回折パターンと照らし合わせたところ、Agのピークに加えてMoSと同定されるピークが確認できた。なお後述する実施例5では、MoSのかわりにWSのJCPDSカードのX線回折パターンと照らし合わせ、Agのピークに加えてWSと同定されるピークが確認された。
【0091】
そして、複合皮膜中におけるAg、Mo(実施例5ではW)の含有量(質量%)をICP-OES(アジレント・テクノロジー株式会社、Agilent 5800 ICP-OES分光分析計)(プラズマ分光分析法)にて求めた。具体的には以下の通りである。
【0092】
複合材(素材とめっき膜で構成元素が異なっている)を0.5g秤量し、硝酸5mLを加えて150~200℃で10~20分間加熱溶解した。溶解液を室温まで放冷し、MCEメンブレンフィルター(0.45μmメッシュ、フィルター直径47mm)でろ過し、ろ液を純水で100mLに定容した(試験液A)。またろ過残渣については硝酸5mLと硫酸+水の混合液(体積比で1:1)4mLとを添加し、200~250℃で加熱して前記残渣を溶解させた。溶解液を室温まで放冷し、純水で100mLに定容した(試験液B)。
【0093】
以上で得られた試験液A及びBについて、ICP-OESを実施して、上記複合材の試料に含まれていた各元素の量を求めた。検出された元素のうち、AgとMoに着眼し、これらの合計におけるMoの量をもとにMoS含有量を計算で求めた(実施例5の場合はWS含有量を求めた)。具体的には、複合皮膜中におけるAgの含有量をX(質量%)、MoS含有量をY(質量%)としたとき、複合皮膜中のMoS含有量を、計算式Y/(X+Y)(質量%)により求めた。
【0094】
なお、後述する比較例1及び2では、炭素粒子を構成するCの含有量(Z質量%)は微量炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA-810W)(赤外線吸収法)で求める。そして、複合皮膜中の炭素粒子の含有量を、Agの含有量(X質量%)を用いてZ/(X+Z)(質量%)で算出した。
【0095】
<複合皮膜表面の金属硫化物粒子又は炭素粒子の量>
電子顕微鏡である卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のTM4000 Plus)を用いて加速電圧15kVで1000倍に拡大して複合皮膜の表面を観察し、この観察領域(1視野)において、上記卓上顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製のAztecOne)を用いてEDS分析を行った。これにより複合皮膜におけるAg量やMo量を求めた(後述する実施例5ではW量を、比較例1及び2ではC量を求めた)。
【0096】
その後、Mo量をもとにMoS量を計算で求めた(実施例5の場合はWS含有量を求めた)。そして、複合皮膜の表面におけるAgの量をS(質量%)、MoSの量をT(質量%)としたとき、複合皮膜表面におけるMoSの量を、計算式T/(S+T)(質量%)により求めた。
【0097】
<複合皮膜の銀の結晶子サイズ>
複合皮膜の表面について、JISH7805:2005に準拠し、X線回析装置(ブルカージャパン株式会社製のD2Phaser2nd Generation)を用いてX線回折測定(Cu Kα線管球、管電圧:30kV、管電流:10mA、ステップ幅:0.02°、走査範囲:2θ=10°~155°、スキャンスピード:5°/分、測定時間:約30分間、111面のピーク:2θ=37.9~38.7°、220面のピーク:2θ=64.5~65.8°)を行った。検出された銀のピーク強度が最高である最強線ピークから、X線解析ソフトウェア(株式会社リガク製のPDXL)を用いて半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を求め、Scherrerの式から銀の最強線である面の結晶子サイズを計算した。実施例1では最強線ピークは220面のピークで結晶子サイズは51.6nmだった。
【0098】
なお、Scherrerの式は以下の通りである。
D=K・λ/(β・cosθ)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数、0.9とした
λ:X線の波長、CuKα線なので1.54Å
β:半値全幅(FWHM)(rad)
θ:測定角度(deg)
【0099】
<複合皮膜表面のビッカース硬度Hv>
複合皮膜表面のビッカース硬度Hvについて、微小硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM221)を使用して、荷重0.01Nを複合材の平らな部分に10秒間加えて、JIS Z2244に従って複合皮膜表面のビッカース硬度Hvを測定し、3回の測定の平均値を採用した。結果、ビッカース硬度Hvは146だった。
【0100】
<耐摩耗性及び摩擦係数の評価>
実施例1で使用したのと同じCu-Ni-Sn-P合金板材に対して後述する比較例1と同様のめっき処理(AgSbめっき)を施しためっき材から横1.0cm×縦4.0cmの試験片を切り出し、これに対して内径1.0mmのインデント(半球形状に押し出す)加工を施した。なお、インデント付き試験片における複合皮膜(AgSbめっき皮膜)の厚さは40~60μmだった。
【0101】
摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製のCRS-G2050-DWA)により、上記実施例1で得られた複合材(平板状試験片)に、前記インデント付き試験片(圧子)の凸部が平板状試験片にあたるようにして、圧子を一定の加重(5N)で試験片に押し当てながら、往復摺動動作(摺動距離10mm(つまり1往復で20mm)、摺動速度10mm/s)を継続した。
【0102】
摩擦係数については、摺動開始から摺動距離5mmまで摺動荷重を測定した。そして摺動距離2mm~3mmの間の摺動荷重データを平均して、摩擦係数(摺動荷重の平均F/5N)を求めた。結果、摩擦係数は0.21だった。
【0103】
耐摩耗性については、上記の往復摺動操作を継続して、1000回及び2500回の往復摺動操作を行った時点において、平板状試験片の摩耗状態を確認した。具体的には、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-1000)により平板状試験片の摺動痕の中心部を倍率200倍で観察し、摺動痕から(茶色の合金板材である)素材が露出しているかどうかを確認した。
【0104】
また、前記の往復摺動操作を1000回行った時点での、複合皮膜の膜厚の減少量を求め、これから、複合皮膜が往復摺動操作によって1μm厚みが減少するのに要する回数を求めた。なお後述する比較例2については、1000回往復摺動する前に素材が露出したので、その時点での回数(550回)から、前記の1μm厚みが減少するのに要する回数を求めた。
【0105】
<曲げ加工による銀の脱落>
得られた複合材から長手方向がTD(圧延方向に対して垂直な方向)で幅方向がLD(圧延方向)になるように幅10mm 長手30mmの曲げ加工試験片を切り出し、曲げ加工試験片についてLDを曲げ軸(BadWay曲げ(B.W.曲げ))にして、JIS H3130に準拠した90°W曲げ試験を曲げ半径R=0.2mmで行った。
【0106】
当該90°W曲げ試験を、図1を参照しながら説明する。図1は上型治具と下型治具とに挟まれて、山部と谷部とが生まれた試験片を示す模式的な断面図である。なお上型治具と下型治具とで試験片を挟んで折り曲げた際、折れ曲がった試験片に対して上下の治具によりさらに荷重をかけることのないよう、上下の治具にかかる荷重をモニターした。
【0107】
この試験後における試験片の上型治具と接触した面に対して、カーボンテープ(日新EM株式会社製 SEM用カーボン両面テープ7322:巾12mm)を使用して、当該テープを貼り付け、そして手動で鉛直上向き方向に引っ張って剥がすピーリングを行った。なおカーボンテープが、試験片の幅方向両側で1mmずつはみ出るように貼り付けた。
【0108】
前記ピーリング後のカーボンテープにおける、試験片の上型治具と接触した面において、試験片の谷部となる曲げ加工部に対応する箇所の幅方向中央位置を起点に、山部となる曲げ加工部に対応する箇所の幅方向中央位置に向かって長手方向1mm進んだ位置について、電子顕微鏡である卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のTM4000 Plus)を用いて加速電圧15kVで100倍に拡大して観察を行った。
【0109】
そして、このカーボンテープにおける観察箇所領域(1視野)において、上記卓上顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製のAztecOne)を用いてEDS分析を行った。結果、C、O、Ag、Mo、Sが検出され、これらの合計100質量%におけるAgの量は0.87質量%だった。本明細書では、この数値を曲げ加工時の銀の脱落の指標とする。
【0110】
以上の評価結果は、後述する実施例2~7並びに比較例1及び2の評価結果とともに後記表2にまとめた。
【0111】
[実施例2]
<Ag-MoSめっき>におけるめっき時間を510秒に変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、金属硫化物粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは220面のピークであった。
【0112】
[実施例3]
<Ag-MoSめっき>におけるめっき時間を3600秒に変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、金属硫化物粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは220面のピークであった。
【0113】
[実施例4]
<Ag-MoSめっき>における電流密度を3A/dm、めっき時間を270秒に変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、金属硫化物粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは220面のピークであった。
【0114】
[実施例5]
金属硫化物粒子としてWS粒子(WS Powder、平均粒子径(D50)5.9μm(公称値)、株式会社高純度化学研究所製)を使用した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、金属硫化物粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは220面のピークであった。
【0115】
[実施例6]
実施例1のスルホン酸系銀めっき液の代わりに、錯化剤としてメタンスルホン酸を60g/Lの濃度で含む銀濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-PL(一般式(1)に該当する化合物を含まず、溶媒は水))を使用し、これに実施例1と同様のMoS粒子を添加して、得られた金属硫化物粒子含有スルホン酸系銀めっき液を使用した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。
【0116】
得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、金属硫化物粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは111面のピークであった。
【0117】
[実施例7]
<Ag-MoSめっき>におけるMoS粒子として、実施例4で使用したMoS粒子について以下に説明する塩基化処理を実施したものを使用した以外は、実施例4と同様にして複合材を作成した。
【0118】
<塩基化処理>
スルホン酸系銀めっき液に浸漬させる前のMoS粒子に塩基化処理を施した。塩基化処理の方法について、ホットスターラー及び強攪拌装置を用いて、MoS粒子100gを純水1.75Lに添加した液を400rpmで攪拌し、50℃程度になるまで昇温した。その後前記MoS粒子を投入した純水に、5gのKOHを溶かした水溶液を加えて容量2Lとし、5分間攪拌保持した。得られた混合液のpHは12未満であった。当該混合液に、1gのKOHを純水0.05Lに溶かした水溶液を添加して前記と同様に5分間撹拌保持してpH測定することを、混合液のpHが12以上になるまで繰り返した。pHが12以上になったら、吸引ろ過機を用いて前記混合液をろ過し、残渣に純水を加えて攪拌、ろ過する作業を、ろ過液の電導度が10μS/cm以下になるまで繰り返した。そしてろ過液の電導度が10μS/cm以下に達したら、ろ過した残渣のMoSをスルホン酸系銀めっき液に添加した。
【0119】
本実施例7で得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、金属硫化物粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。耐摩耗性については摺動10000回での素地の露出の確認も行った。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは220面のピークであった。
【0120】
[比較例1]
金属硫化物粒子にかえて平均粒子径5.0μmの鱗片形状黒鉛粒子(PAG-3000 日本黒鉛工業株式会社製)を酸化処理したものを使用し、当該黒鉛粒子を、実施例1で使用したスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB)に50g/Lの濃度になる量で添加し、<Ag-MoSめっき>において、前記で得られた炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を使用し、電流密度を3A/dm、めっき時間を1000秒に変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。なお前記平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300(LOW-WET MT3000II Mode))を用いて測定した、体積基準の累積値が50%の粒子径である。
【0121】
また前記酸化処理は以下のとおりである。前記鱗片形状黒鉛粒子80gを1.4Lの純水中に添加し、この混合液を攪拌しながら50℃に昇温させた。次に、この混合液に酸化剤として0.1モル/Lの過硫酸カリウム水溶液0.6Lを徐々に滴下した後、2時間攪拌することで酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行い、得られた固形物に対して水洗を行った。
【0122】
得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、炭素粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは111面のピークであった。
【0123】
[比較例2]
実施例1のスルホン酸系銀めっき液の代わりに、錯化剤としてメタンスルホン酸を60g/Lの濃度で含む銀濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-PL(一般式(1)に該当する化合物を含まず、溶媒は水))を使用し、これに、体積基準の累積値が50%の粒径が1.8μmの鱗片形状黒鉛粒子(UTC―48J 日本黒鉛工業株式会社製)を比較例1と同様にして酸化処理して得られた黒鉛粒子を50g/Lの濃度になるように添加して、<Ag-MoSめっき>において、得られた炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を使用したこと、及びめっき時間を270秒にしたこと以外は比較例1と同様にして複合材を作成した。
【0124】
得られた複合材について、実施例1と同様に、表面粗さRa、複合皮膜の厚さ、結晶子サイズ、炭素粒子の含有量および表面における量、ビッカース硬度、摩擦係数及び耐摩耗性、並びに曲げ加工による銀脱落を評価した。以上の評価結果を後記表2にまとめた。また、XRD測定にて、最強線ピークは111面のピークであった。
【0125】
以上の実施例1~7並びに比較例1及び2の複合材の製造条件等を下記表1に、評価結果を下記表2にまとめる。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
図1