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特開2024-129818歯科および外科手技中のエアロゾル発生を低減または排除するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129818
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】歯科および外科手技中のエアロゾル発生を低減または排除するための組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20240919BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240919BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240919BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20240919BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240919BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20240919BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08L71/02
C08L1/00
C08L101/00
C08K5/04
C08K3/01
C08K3/20
A61C13/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024037927
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】23161637
(32)【優先日】2023-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ケーラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス シェートリヒ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB011
4J002AB052
4J002AD012
4J002BE022
4J002CH021
4J002CH022
4J002DD056
4J002DD066
4J002DE027
4J002DE226
4J002DE236
4J002DG046
4J002DH046
4J002EC056
4J002EF066
4J002EV266
4J002EV316
4J002FD202
4J002FD206
4J002GB00
4J002HA01
(57)【要約】
【課題】歯科および外科手技中のエアロゾル発生を低減または排除するための組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも1つの液体担体または固体担体と、少なくとも1つのポリマーとを含む、歯科/外科灌注手技中のエアロゾル化を低減/排除するための組成物であって、少なくとも1つのポリマーが、少なくともヒドロキシアルキルセルロースポリマー、少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)ポリマーまたはそれらの混合物を含み、少なくとも1つのポリマーが液体担体に可溶性でない、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの液体担体または固体担体と、少なくとも1つのポリマーとを含む組成物であって、前記少なくとも1つのポリマーが、少なくともヒドロキシアルキルセルロースポリマー、少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)ポリマーまたはそれらの混合物を含み、前記少なくとも1つのポリマーが前記液体担体に可溶性でないことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
600,000~1200万g/mol、好ましくは300万~800万g/molの平均分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)、および/または300,000~450,000g/mol、好ましくは370,000~380,000g/molの平均分子量を有する少なくとも1つのヒドロキシプロピルセルロースもしくはヒドロキシエチルセルロースを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アルコール、好ましくはポリオール、脂肪酸、エーテルおよびDMSOから選択される液体担体、または糖、好ましくは単糖、二糖もしくは多糖、糖アルコール、好ましくはキシリトールもしくはソルビトール、クエン酸、酒石酸、固体低分子量ポリエチレングリコール、好ましくはPEG1000、ゼラチン、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、アラビアガム、サッカリン、シクラメート、塩、好ましくは(NHSO、KSO、NaSO、MgSO、NaCl、NaBr、MgCl、NaHPO、CaHPO、NaCOおよびNaHCOから選択される固体担体を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
200~600g/mol、好ましくは400g/molの平均分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)、グリセロールまたはそれらの混合物を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
各場合において、前記組成物の総質量に基づいて、
- 50~99重量%、好ましくは69~97重量%、より好ましくは90重量%の前記液体担体と、
- 1~50重量%、好ましくは3~31重量%、より好ましくは10重量%の少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロース、もしくは好ましくは600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と
を含むか、または、
- 1~80重量%、好ましくは9~50重量%の少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロース、もしくは好ましくは600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 20~99重量%、好ましくは50~91重量%の固体担体、好ましくはNaHCO
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
各場合において、前記組成物の総質量に基づいて、
- 36~71重量%、好ましくは50~70重量%、より好ましくは65重量%のグリセロールと、
- 14~28重量%、好ましくは19~27重量%、より好ましくは25重量%の、200~600g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 1~50重量%、好ましくは3~31重量%、より好ましくは10重量%の、600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と
を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
200~600g/molの平均分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)、および600,000~1200万g/molの分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)が、1:2~1:3、好ましくは1:2.6の重量比で存在する、請求項4~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
1またはそれを超える添加剤を更に含み、前記1またはそれを超える添加剤が、増粘剤、酸化防止剤または酸化防止剤共力剤、キレート剤、香味料、着色剤、抗微生物剤、防腐剤、バイオフィルム除去剤、歯石もしくは結石またはプラーク染色染料、湿潤剤/洗浄剤、およびそれらの組み合わせから好ましくは選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物と、水とを含む、水性組成物。
【請求項10】
100ppm~2000ppm、好ましくは100~1000ppm、より好ましくは200~500ppm、最も好ましくは200~400ppmの、600,000~1200万g/molの分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)を含む、請求項9に記載の水性組成物。
【請求項11】
歯科用器具に水性組成物を供給するためのシステムであって、
- 請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物を収容するリザーバと、
- 前記リザーバと流体連通する供給ラインであって、前記リザーバの前記組成物を水性組成物として歯科用器具に供給するように構成された供給ラインと
を備える、システム。
【請求項12】
医科または歯科灌注手技中のエアロゾル液滴の形成を低減または排除する方法で使用するための請求項9または10に記載の組成物であって、前記方法が、個体の処置領域を前記水性組成物で灌注することを含む、組成物。
【請求項13】
キットであって、別々の容器に、
(a)請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物と、
(b)100ppm~2000ppmの、600,000~1200万g/molの分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)を含む組成物を調製するために(a)と混合するのに十分な量の水性媒体と
を含む、キット。
【請求項14】
ホース、継手、ボトル、前記組成物を収容する入れ物を灌注システムとインタフェースさせるための物品、およびそれらの組み合わせから選択される1またはそれを超える使い捨て品目を更に含む、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
医科または歯科灌注手技中のエアロゾル液滴の形成を低減または排除するための、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1つのポリマーが、600,000~1200万g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)ポリマーであり、前記少なくとも1つの液体担体または固体担体が、グリセロール、400g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)、またはそれらの混合物から選択される液体担体である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1つの液体担体が、グリセロールである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)が、300万~800万g/molの平均分子量を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
1.0重量%未満の水を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物の総質量に基づいて、0~5重量%の1またはそれを超える添加剤を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
上記化合物から本質的になる、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1に記載の組成物を含む、単回使用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
回転式、レーザー式、動力式、および超音波式器具を含む歯科手技または外科手技は、手技の間にエアロゾル化される水灌注を利用する。エアロゾル(10-4~10μm)はウイルスを保有することが知られている(例えば、SARS、SARS-CoV-2)。生成されたエアロゾルおよび液滴は、これらの手技中に長距離にわたって運ばれる可能性がある。具体的には、特定の歯科/外科手技の実行中に、エアロゾル化は、手技における水の使用から生じ得る。エアロゾル液滴がウイルスまたは他の微生物を運ぶ可能性があるため、感染管理のために多大な時間およびコストを費やす必要があり得、そのため、特にSARS-CoV-2等の伝染性ウイルスを保有する患者が関与する歯科および他の外科手技を安全に実行するための戦略が必要である。
【0002】
さらに、歯科用回転式機器、動力式機器、および超音波式機器の取り扱い中に液滴およびエアロゾルが発生すると、特に拡大ルーペを使用する場合、オペレータの作業野の視認性が低下する可能性がある。エアロゾルおよび液滴はまた、眼鏡、ゴーグルおよびフェイスシールドの曇りにつながり、患者の身体および衣服ならびに近くの作業面を汚染する。
【背景技術】
【0003】
米国特許第7,566,448号B2は、高分子量ポリエチレンオキシド、酵素、酵素保護剤および1またはそれを超えるパーソナルケアまたは洗浄製品成分を含む、低減されたエアロゾル生成パーソナルケアおよび洗浄製品を開示している。高分子量ポリエチレンオキシドは、エアロゾル発生の可能性を低減するための曇り止め剤として働き、好ましくは400,000から700万g/molの分子量を有する。
【0004】
Plogら(Phys.Fluids 32,083111,2020)は、医学および歯科学で使用される回転式および超音波式器具によるエアロゾル粒子の形成、ならびに発生源を超えるエアロゾルの分散が、器具によって使用される水へのポリアクリル酸またはキサンタンガムの添加によって低減または完全に排除され得ることを見出した。
【0005】
国際公開第2021/242930号は、医科または歯科手技中のエアロゾル液滴の形成を低減または排除するための1またはそれを超えるポリマーの使用を開示している。ポリマーは、10-3~10ポアズの剪断粘度および10~10ポアズの伸長粘度を有する水性組成物の形態で使用される。ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)、キサンタンガム、ポリ(ビニルピロリドン)、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0006】
先行技術によれば、ポリマーは、歯科処置中のエアロゾル形成を低減させるために水に溶解される。有機ポリマー、特に高分子量ポリマーは、水に溶解することが困難であり、長い混合時間を必要とし、使用が困難である。一方、ポリ(エチレンオキシド)水溶液は、貯蔵によりエアロゾル形成を抑制する能力を失うことが分かった。この理由はまだ分かっていない。貯蔵安定性が低いため、水溶液をエンドユーザに送達することは望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,566,448号明細書
【特許文献2】国際公開第2021/242930号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、先行技術の欠点を有していない歯科および外科手技中のエアロゾル発生を低減または排除するのに適した組成物を提供することである。特に、安定であり、歯科医等のエンドユーザが容易に取り扱うことができる組成物を提供することが目的である。
【0009】
本出願は、例えば、以下を提供する:
1.少なくとも1つの液体担体または固体担体と、少なくとも1つのポリマーとを含む組成物であって、前記少なくとも1つのポリマーが、少なくともヒドロキシアルキルセルロースポリマー、少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)ポリマーまたはそれらの混合物を含み、前記少なくとも1つのポリマーが前記液体担体に可溶性でないことを特徴とする、組成物。
2.600,000~1200万g/mol、好ましくは300万~800万g/molの平均分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)、および/または300,000~450,000g/mol、好ましくは370,000~380,000g/molの平均分子量を有する少なくとも1つのヒドロキシプロピルセルロースもしくはヒドロキシエチルセルロースを含む、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
3.アルコール、好ましくはポリオール、脂肪酸、エーテルおよびDMSOから選択される液体担体、または糖、好ましくは単糖、二糖もしくは多糖、糖アルコール、好ましくはキシリトールもしくはソルビトール、クエン酸、酒石酸、固体低分子量ポリエチレングリコール、好ましくはPEG1000、ゼラチン、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、アラビアガム、サッカリン、シクラメート、塩、好ましくは(NHSO、KSO、NaSO、MgSO、NaCl、NaBr、MgCl、NaHPO、CaHPO、NaCOおよびNaHCOから選択される固体担体を含む、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
4.200~600g/mol、好ましくは400g/molの平均分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)、グリセロールまたはそれらの混合物を含む、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
5.各場合において、前記組成物の総質量に基づいて、
- 50~99重量%、好ましくは69~97重量%、より好ましくは90重量%の液体担体と、
- 1~50重量%、好ましくは3~31重量%、より好ましくは10重量%の少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロース、もしくは好ましくは600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と
を含むか、または、
- 1~80重量%、好ましくは9~50重量%の少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロース、もしくは好ましくは600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 20~99重量%、好ましくは50~91重量%の固体担体、好ましくはNaHCO
を含む、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
6.各場合において、前記組成物の総質量に基づいて、
- 36~71重量%、好ましくは50~70重量%、より好ましくは65重量%のグリセロールと、
- 14~28重量%、好ましくは19~27重量%、より好ましくは25重量%の、200~600g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 1~50重量%、好ましくは3~31重量%、より好ましくは10重量%の、600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と
を含む、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
7.200~600g/molの平均分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)、および600,000~1200万g/molの分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)が、1:2~1:3、好ましくは1:2.6の重量比で存在する、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
8.1またはそれを超える添加剤を更に含み、前記1またはそれを超える添加剤が、増粘剤、酸化防止剤または酸化防止剤共力剤、キレート剤、香味料、着色剤、抗微生物剤、防腐剤、バイオフィルム除去剤、歯石もしくは結石またはプラーク染色染料、湿潤剤/洗浄剤、およびそれらの組み合わせから好ましくは選択される、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
9.先行する項目のいずれか1項に記載の組成物と、水とを含む、水性組成物。
10.100ppm~2000ppm、好ましくは100~1000ppm、より好ましくは200~500ppm、最も好ましくは200~400ppmの、600,000~1200万g/molの分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)を含む、先行する項目のいずれか1項に記載の水性組成物。
11.歯科用器具に水性組成物を供給するためのシステムであって、
- 先行する項目のいずれか1項に記載の組成物を収容するリザーバと、
- 前記リザーバと流体連通する供給ラインであって、前記リザーバの前記組成物を水性組成物として歯科用器具に供給するように構成された前記供給ラインと
を備える、システム。
12.医科または歯科灌注手技中のエアロゾル液滴の形成を低減または排除する方法であって、先行する項目のいずれか1つに記載の水性組成物で個体の処置領域を灌注することを含む、方法。
13.キットであって、別々の容器に、
(a)先行する項目のいずれか1項に記載の組成物と、
(b)100ppm~2000ppmの、600,000~1200万g/molの分子量を有する前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)を含む組成物を調製するために(a)と混合するのに十分な量の水性媒体と
を含む、キット。
14.ホース、継手、ボトル、前記組成物を収容する入れ物を灌注システムとインタフェースさせるための物品、およびそれらの組み合わせから選択される1またはそれを超える使い捨て品目を更に含む、先行する項目のいずれか1項に記載のキット。
15.医科または歯科灌注手技中のエアロゾル液滴の形成を低減または排除するための、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物の使用。
16.前記少なくとも1つのポリマーが、600,000~1200万g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)ポリマーであり、前記少なくとも1つの液体担体または固体担体が、グリセロール、400g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)、またはそれらの混合物から選択される液体担体である、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
17.前記少なくとも1つの液体担体が、グリセロールである、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
18.前記少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)が、300万~800万g/molの平均分子量を有する、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
19.1.0重量%未満の水を含む、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
20.前記組成物の総質量に基づいて、0~5重量%の1またはそれを超える添加剤を含む、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
21.上記化合物から本質的になる、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
22.先行する項目のいずれか1項に記載の組成物を含む、単回使用容器。
23.医科または歯科灌注手技中のエアロゾル液滴の形成を低減または排除する方法で使用するための先行する項目のいずれか1項に記載の組成物であって、前記方法が、個体の処置領域を前記水性組成物で灌注することを含む、組成物。
24.医科または歯科灌注手技中のエアロゾル液滴の形成を低減または排除するための、先行する項目のいずれか1項に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
少なくとも1つの液体担体または固体担体と、少なくとも1つのポリマーとを含む、歯科/外科灌注手技中のエアロゾル化を低減/排除するための組成物であって、少なくとも1つのポリマーが、少なくともヒドロキシアルキルセルロースポリマー、少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)ポリマーまたはそれらの混合物を含み、少なくとも1つのポリマーが液体担体に可溶性でない、組成物。
【0011】
本発明によれば、この目的は、少なくとも1つの液体担体または固体担体と、少なくとも1つのポリマーとを含む組成物によって達成される。少なくとも1つのポリマーは、好ましくはヒドロキシアルキルセルロースポリマー、少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)ポリマーまたはそれらの混合物、より好ましくはポリ(エチレンオキシド)ポリマーである。少なくとも1つのポリマーは、好ましくは室温で固体であり、水溶性である。ポリマーは、好ましくは20~2000μmの平均粒径を有する。
【0012】
少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロースポリマーは、好ましくはヒドロキシプロピルセルロース、より好ましくはヒドロキシエチルセルロースである。ヒドロキシアルキルセルロースポリマーは、好ましくは300,000~450,000g/mol、より好ましくは370,000~380,000g/mol、最も好ましくは約380,000g/molの平均分子量を有する。
【0013】
少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)ポリマーは、好ましくは600,000~1200万g/mol、より好ましくは300万~800万g/mol、更により好ましくは700万~800万g/mol、最も好ましくは約800万g/molの平均分子量を有する。以下では、高分子量ポリ(エチレンオキシド)はPEOとも呼ばれる。ポリ(エチレンオキシド)ポリマーは、分岐または直鎖ポリマーであり得る。直鎖ポリマーが好ましい。PEOは、好ましくは20~2000μmの平均粒径を有する。
【0014】
本発明による組成物は、固体担体または好ましくは液体担体を含み得る。好ましい液体担体は、生体適合性液体、特にポリマーが可溶性でない液体である。液体担体は、室温(22℃)、好ましくは0℃で液体である化合物である。本発明との関連では、ポリマーが可溶性でない液体は、室温で組成物中に存在するポリマーの30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下しか溶解しない液体である。液体担体は、好ましくは水混和性である。
【0015】
好ましい液体担体は、アルコール、より好ましくはポリオール、脂肪酸、エーテル、例えばテトラヒドロフラン、およびDMSOである。好ましいポリオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、低分子量ポリ(エチレンオキシド)およびそれらの混合物である。好ましい低分子量ポリ(エチレンオキシド)は、200~600g/mol、好ましくは400g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)である。以下では、低分子量ポリ(エチレンオキシド)は、ポリエチレングリコール(PEG)とも呼ばれる。1個のヒドロキシル基を有する好ましいアルコールは、エタノール、プロパン-1-オール、プロパン-2-オール、および6~10個の炭素原子を有する脂肪アルコールである。特に好ましい液体担体は、グリセロール、PEG400、すなわち400g/molの平均分子量を有するポリエチレングリコール、およびそれらの混合物である。
【0016】
200~600g/molの平均分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)、および600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)は、好ましくは1:2~1:3、好ましくは1:2.6の重量比で使用される。
【0017】
好ましい固体担体は、水溶性糖、例えば単糖、好ましくはグルコース、二糖、好ましくはスクロース、多糖、糖アルコール、好ましくはキシリトールまたはソルビトール、クエン酸、酒石酸、固体低分子量ポリエチレングリコール、好ましくはPEG1000、ゼラチン、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、アラビアガム、サッカリンおよびシクラメートである。
【0018】
更に好ましい固体担体は、水溶性塩、例えば(NHSO、KSO、NaSO、MgSO、NaCl、NaBr、MgCl、NaHPO、CaHPO、NaCO、特にNaHCOである。塩基性塩は、固体有機酸、例えば酒石酸または好ましくはクエン酸と組み合わせることができる。PEO、塩基性固体担体および固体酸は、COの発生と共に水に急速に溶解する錠剤に圧縮することができる。
【0019】
本発明の代替実施形態によれば、ヒドロキシアルキルセルロースまたは好ましくは高分子ポリ(エチレンオキシド)ポリマーは、粉末状固体担体、好ましくはNaHCOと組み合わせて使用される固体粉末の形態(例えば、顆粒または他の形態)で使用される。
【0020】
例えば、ポリマーを水に溶解し、ポリマー溶液を粒子状固体担体に、好ましくは流動床乾燥機において塗布することによって、固体担体上にPEOまたはヒドロキシアルキルセルロースをコーティングすることも可能である。
【0021】
固体担体は、好ましくは、20~2000μmの平均粒径を有する。
【0022】
液体担体を含む組成物は、好ましくは、各場合において、組成物の総質量に基づいて、
- 50~99重量%、好ましくは69~97重量%、より好ましくは90重量%の液体担体、好ましくはグリセロールおよび/またはPEG400と、
- 1~50重量%、好ましくは3~31重量%、より好ましくは10重量%の少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロース、好ましくは600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と
を含む。
【0023】
各場合において、組成物の総質量に基づいて、
- 36~71重量%、好ましくは50~70重量%、より好ましくは65重量%のグリセロールと、
- 14~28重量%、好ましくは19~27重量%、より好ましくは25重量%の、200~600g/molの分子量を有する少なくとも1つの少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 1~50重量%、好ましくは3~31重量%、より好ましくは10重量%の、600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と
を含む組成物が特に好ましい。
【0024】
各場合において、組成物の総質量に基づいて、
- 36~71重量%、好ましくは40~70重量%、より好ましくは65重量%のグリセロールと、
- 14~35重量%、好ましくは19~35重量%、より好ましくは25重量%の、200~600g/molの分子量を有する少なくとも1つの少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 1~29重量%、好ましくは3~25重量%、より好ましくは10重量%の、600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と
を含む組成物が更に特に好ましい。
【0025】
固体担体を含む組成物は、好ましくは、各場合において、組成物の総質量に基づいて、
- 1~80重量%、好ましくは9~50重量%の、分子量600,000~1200万g/mol、好ましくは800万g/molを有する少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロースまたは好ましくは少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 20~99重量%、好ましくは50~91重量%の固体担体、好ましくはNaHCO
を含む。
【0026】
各場合において、組成物の総質量に基づいて、
- 約50重量%の、600,000から1200万g/mol、好ましくは800万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 約50重量%の固体担体、好ましくはNaHCO
を含む組成物が特に好ましい。
【0027】
組成物は、様々な添加剤を含み得る。添加剤の例としては、酸化防止剤または酸化防止剤共力剤、キレート剤、香味料、着色剤、抗微生物剤、防腐剤、バイオフィルム除去剤、歯石もしくは結石またはプラーク染色染料、湿潤剤/洗浄剤等、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい添加剤は増粘剤である。好ましい増粘剤は、沈降シリカおよびヒュームドシリカである。Aerosil 200のように、BET比表面積175~225m/g、平均粒径5~50nmを有するヒュームドシリカが特に好ましい。存在する場合、1またはそれを超える添加剤は、好ましくは0~5重量%、より好ましくは0~3.0重量%、最も好ましくは0~2.0重量%の総量で使用される。
【0028】
様々な実施形態において、組成物は、1またはそれを超える安定剤を更に含む。安定剤の非限定的な例としては、以下の表のものが挙げられる。
【0029】
【表1】
【0030】
好ましい防腐剤は、パラベン、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールである。
【0031】
液体担体を有する組成物および固体担体を有する組成物の両方が、好ましくは水を添加しない。それらは、組成物を調製するために使用される材料中に存在する微量の水を含み得る。好ましくは、組成物中の水の総量は1.0重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、最も好ましくは0.3重量%未満である。
【0032】
したがって、液体担体を含む特に好ましい組成物は、各場合において、組成物の総質量に基づいて、
- 50~99重量%、好ましくは69~97重量%、より好ましくは90重量%の液体担体、好ましくはグリセロールおよび/またはPEG400と、
- 1~50重量%、好ましくは3~31重量%、より好ましくは10重量%の少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロース、好ましくは600,000~1200万g/molの分子量を有する少なくとも1つのポリ(エチレンオキシド)と、
- 0~5重量%、好ましくは0~3.0重量%、より好ましくは0~2.0重量%の1またはそれを超える添加剤と、
- 0~0.5重量%、好ましくは0.001~0.5%、より好ましくは0.01~0.2重量%の1またはそれを超える安定剤と、
- 0~1.0重量%、好ましくは0~0.5重量%、最も好ましくは0~0.3重量%の水と
を含む。
【0033】
本発明によれば、液体担体または固体担体、少なくとも1つのポリマー、添加剤、安定剤および水の量が合計100重量%になる組成物が好ましい。
【0034】
使用のために、上で定義した組成物を、好ましくは水と混合する。驚くべきことに、液体担体または固体担体と組み合わせて高分子量ポリ(エチレンオキシド)を含む組成物は、担体を含まない組成物よりもはるかに容易に水に分散/溶解することができることが見出された。水を含有しない組成物は、以下では濃厚物とも呼ばれる。驚くべきことに、濃厚物は貯蔵中に安定である、すなわちエアロゾルの形成を防止するそれらの特性を失わないことも見出された。
【0035】
液体または固体濃厚物を水と混合することによって得られる水性組成物は、処置領域が水性組成物で頻繁に灌注される歯科手技または外科手技中の灌注に適している。組成物を使用するシステムおよび方法も提供される。組成物、システムおよび方法は、殺ウイルスおよび微生物の移入、例えばウイルスまたは細菌の移入の潜在的リスクがあり得る場合に特に有用である。本発明の水性組成物は、エアロゾル化を低減し、歯科および外科手術中の歯科医および患者への不便を回避する。
【0036】
一態様では、本発明は、処置領域の灌注のためのシステムを提供する。例えば、システムは、1もしくはそれを超えるポリマーを含む、1もしくはそれを超えるポリマーから本質的になる、または1もしくはそれを超えるポリマーからなる水性組成物を送達するように構成された歯科用ユニットで使用するための送水管を備え得る。組成物は、歯科手技中に慣用的に使用される圧力下で歯科処置領域に放出され得る。様々な実施形態では、システムは、ポリマーを含む水性組成物と、歯科処置領域に組成物を送達するための送水管とを備える歯科ユニットウォーターボトル(本明細書ではリザーバとも呼ばれる)を備え得る。システムは、歯科用ハンドピース等の、歯科処置領域への組成物の放出または流れを制御するための制御手段を更に備えてもよい。
【0037】
組成物およびシステムは、処置領域の灌注のための外科/歯科手技において使用され得る。例えば、回転式撹拌、超音波式撹拌、または動力式撹拌下での水による灌注に起因するエアロゾルの生成の可能性がある場合、組成物が使用され得る。発生時点でのエアロゾルの低減または排除は、ウイルスの空中伝播/エアロゾル伝播の防止に役立つであろう。手術室での常設または可動式の設置を必要とする独特かつ広範な防御手段の使用、外科または歯科手技に必要なコストおよび時間の増加を回避することができる。本発明の方法、組成物およびシステムを使用することは、患者、医療従事者および居合わせた人へのエアロゾル疾患伝播のリスクを低減するのに役立つ。さらに、歯科処置中のエアロゾルの低減は、オペレータの視界を改善し、より正確かつタイムリーな操作を可能にする。エアロゾルおよび液滴の形成の低減は、露出した身体部分または衣服が歯科手技からの浮遊残留物で汚染されるのを防ぐことによって、患者にとっても有益である。
【0038】
歯科は、患者の毎日の慣用的な処置において回転式、超音波式、動力式、およびレーザーベースの器具を使用する。これらは全て、歯の表面を冷却するため、および/または歯からデブリを洗い流すために、水灌注または空気/水シリンジの使用を必要とする。水灌注を提供する際には、関与する高い圧力差から、または移動部分の高速によって、豊富で連続的なエアロゾルが生成される。これらのエアロゾルは、患者の口および歯科医が働いている領域を越えて数フィートにわたって広がる場合がある。SARS-CoV-2ウイルスを含む複数のウイルス、および関連するCOVID-19のパンデミックが、米国およびその他の世界全体に拡散している。いくつかの研究は、SARS-CoV-2ウイルスが液滴(目に見える液滴)およびエアロゾル伝播の両方によって拡散することを実証している。歯科におけるエアロゾルの発生(ほとんどの歯科/美容外科および灌注処置の不可避の部分である)は、ウイルスを他の人々に長距離拡散させる可能性があることによって高リスクの状況を作り出す。
【0039】
他の管理および工学的方法と比較して、本明細書の組成物の利点には、以下の1またはそれを超える利点が含まれる:1)エアロゾル形成の直接的な緩和、2)手技への包含以外の人間の行動に依存しない顕著なまたは完全なエアロゾル排除、3)空気流(HVAC)または室内建設を含む工学的制御と比較して低コスト、4)そうでない場合に使用される水を灌注溶液が置き換える単純さ、5)患者間の滅菌を必要とする追加のハードウェアなし、6)室温で容易に保管、7)ケアコミュニティへの不十分なアクセスを支援するものを含む、全てではないにしてもほとんどの臨床現場に広く適応している、8)ローテク(low tech)=トレーニング不要、9)小規模な組織から大規模な組織まで拡張可能、10)風味付け/着色することができる、および11)連続的な人間の関与を必要としない。
【0040】
本明細書における原理のさらなる拡大は、水系灌注(例えば、整形外科手術または創傷部デブリードマン)を使用する他の手術分野における、エアロゾルの同様の低減を達成するための外科用灌注溶液(典型的には0.9%生理食塩水)におけるエアロゾルの低減である。灌注溶液は、エアロゾル発生を低減または完全に排除する。それは抗ウイルス性/細菌性ではなく、ウイルス/細菌を死滅させることも意図していない。したがって、臨床歯科は依然として、作業者の自然エアロゾル化(発話、咳、くしゃみ)を保護するために個人用保護具(PPE)を使用する必要がある。
【0041】
別の態様では、本開示は、エアロゾル化を低減させる医科または歯科または外科手技に使用するための組成物を提供する。組成物は、上記の化合物を含むか、好ましくは本質的にそれからなるか、または最も好ましくはそれからなる。組成物は、パーソナルケアまたは洗浄製品の形態をとらない。本発明による組成物は、1またはそれを超える添加剤を更に含んでもよい。
【0042】
組成物は、エアロゾル化された液滴の形成を低減させるか、または排除する。本明細書で使用される場合、「エアロゾル化された液滴の形成の低減」という用語または同様の用語は、液体(例えば、水)の灌注および/または機械的撹拌(例えば、歯科手技中等、歯に水灌注を提供する間等)中に生成されるエアロゾル化された液滴の数の減少を指す。例えば、歯洗浄手技中に発生する液滴の量を減らすことができる。エアロゾル化の低減は、エアロゾル形成、特に0.1μm~50μmのサイズ(直径)を有する液滴の形成の完全な抑制(例えば、排除)を含む、液滴形成の抑制をもたらし得る。エアロゾル化された液滴は、組成物、水、および/または唾液を含み得る。
【0043】
別段の記載がない限り、本明細書に示される全てのポリマーの平均分子量は、重量平均分子量Mwである。Mwは、好ましくは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定される。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、分子がそれらのサイズに基づいて、またはより正確にはそれらの流体力学的体積に基づいて分離される相対的な方法である。絶対分子量は、既知の標準物質による較正によって決定される。好ましくは、狭い分布のポリスチレン標準物質が較正標準物質として使用される。これらは市販されている。スチレン-ジビニルベンゼンカラムを分離媒体として使用し、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用する。スチレン-ジビニルベンゼンカラムは、有機可溶性合成ポリマーに適している。測定は、調査するポリマーの希薄溶液(0.05~0.2重量%)を用いて行う。
【0044】
あるいは、重量平均分子量は、凝固点降下(クライオスコープ法)、沸点上昇(エブリオスコープ法)または蒸気圧降下(蒸気圧浸透圧測定法)の既知の方法によって決定することができる。これらは、較正標準物質を必要としない絶対的な方法である。0.005~0.10mol/kgの濃度を有する4から6の希釈ポリマー溶液の濃度系列を調べ、次いで測定値を0mol/kgの濃度に外挿する。
【0045】
特に明記しない限り、全ての粒径は重量平均粒径であり、0.1μm~2000μmの範囲内の粒径は、静的光散乱によって、好ましくはLA-960静的レーザー散乱粒径分析器(Horiba、日本)を使用して測定される。ここでは、光源として、波長655nmのレーザーダイオードおよび波長405nmのLEDを用いる。異なる波長を有する2つの光源を使用することにより、1回の測定パスのみでサンプルの粒度分布全体を測定することが可能になり、測定は湿式測定として行われる。このために、0.1~0.5%の充填剤の水分散液を調製し、その散乱光をフローセル内で測定する。粒径および粒度分布を計算するための散乱光分析は、DIN/ISO 13320:2020によるミー理論に従って行われる。
【0046】
0.1μmより小さい粒径は、好ましくは動的光散乱(DLS)によって決定される。5nm~0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは、水粒子分散液の動的光散乱(DLS)によって、好ましくはMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、英国マルバーン)を用いて、波長633nmのHe-Neレーザーを用いて、25℃にて90°の散乱角で行う。
【0047】
0.1μmより小さい粒径は、SEMまたはTEM分光法によって決定することもできる。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、好ましくは、Philips CM30 TEMを用いて300kVの加速電圧で実行される。サンプルの調製のため、粒子分散液の液滴を、炭素でコーティングされた厚さ50Åの銅グリッド(メッシュサイズ300)に適用し、次いで溶媒を蒸発させる。
【0048】
本組成物の利点には、歯科手技等の下流の事象に影響を及ぼさず、その成分(例えば、PEO等)を迅速に洗い流すことができ、したがって処置領域に留まらないことが含まれる。本組成物によって引き起こされる有害な影響が(例えば、結合接着等において)ないことが、その後に行われる歯科手技にとって不可欠であり得る。
【0049】
さらなる態様では、本開示は、歯科ユニットボトルと、本明細書に記載の水性ポリマー組成物を含む組成物を個体の歯科処置領域に送達するように構成された送水管とを備える歯科ユニットシステムを提供し、その結果、歯科手技中に組成物が歯科処置領域に放出される際のエアロゾル粒子の発生が(例えば、水単独に対して)低減される。システムはまた、必要に応じて、歯科処置領域への組成物の放出を制御するためのハンドピースを備えてもよい。システムは、予め作製されたすぐに使用可能なエアロゾル化低減組成物を使用するように構成されてもよく、または濃厚組成物を収容するリザーバから処置領域における使用時点までの任意の時点で輸送中には濃厚であるエアロゾル化低減組成物を希釈するように構成されてもよい。これは、水槽(例えば、可動式歯科用スケーリングユニット)内の一般的に使用される水を本組成物の実施形態で置き換えることによって、水槽を備えた歯科用設備に対して行われ得る。一方、非可動式歯科設備(例えば、固定式超音波式スケーラ)を歯科用椅子に組み込み、主給水部(歯科ユニット送水管)に取り付けることができる。そのような設備は、液体供給システムの生物付着を防止する消毒剤を連続的に導入するためのポートを有し得る。このポートは、正しい量の本組成物の濃厚物を送水管に供給するために使用され得、この濃厚物は、液体供給システムを通ってハンドピースに向かう間に所望の濃度に希釈される。
【0050】
さらなる態様では、本開示は、歯科用器具(例えば、水シリンジ、空気/水シリンジ、超音波式スケーラ等)において低いエアロゾル化を有するシステムとして具現化されてもよい。システムは、本発明による組成物を収容するリザーバを有してもよい。供給ラインは、リザーバと流体連通している。供給ラインは、リザーバの組成物を最終濃度(すなわち、器具に送達される水性組成物の濃度)の水性組成物として歯科分布に供給するように構成される。高分子量ポリ(エチレンオキシド)の最終濃度は、好ましくは、水性組成物の総重量に対して100~1000ppmの範囲内である。システムの実施形態は、本明細書に開示される組成物のいずれかによる最終濃度に対して構成され得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、流体の流れの間に供給ラインの流体に添加される。例えば、組成物は、ベンチュリ効果を使用して流体流に引き込まれ得る。他の実施形態では、リザーバは、組成物が供給ラインに(例えば、自動的に、選択的に等)注入されるように加圧されてもよい。そのような実施形態では、組成物は、流体として供給ラインに送達され得る。
【0052】
そのような実施形態では、供給ラインからの流体の流れ(または流れの一部)をリザーバに導いて、その後の(下流の)患者での使用のために粉末混合物と混合/溶解してもよい。そのような実施形態はまた、液体組成物と共に使用されてもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、技術の組み合わせを使用してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、供給ラインからの流れの一部をリザーバに向け直して、濃厚物または粉末混合物を溶解および/または希釈し、その後、供給ラインの残りの流れに再導入してもよい。
【0054】
本発明はまた、外科灌注手技および歯科処置手技中に生成されるエアロゾル液滴の形成を低減または排除する方法を提供する。この方法は、本発明の水性灌注組成物を提供することと、周囲圧力または加圧形態で歯科処置領域等の外科領域に組成物を導入することとを含み、エアロゾル化は、ポリマーを含有しない水性組成物の使用によって生成されるエアロゾル化と比較して低減される。
【0055】
この方法は、灌注手技(例えば、歯科手技)中のエアロゾル粒子形成を低減または排除する。様々な例において、本方法は、個体の口腔をポリマーを含む水性組成物で灌注することを含む。歯科手技からおよび歯科手技中に生成されるエアロゾル化は、本発明による組成物の非存在下での水性媒体によるエアロゾル化よりも少ない。一実施形態では、組成物は、エアロゾル化が低い灌注組成物である。灌注組成物は、生体腔/表面の灌注、または歯科用もしくは外科用器具での使用に適している。本発明の組成物および方法は、歯科処置領域等の処置領域で使用される超音波式撹拌機、回転式撹拌機または動力式撹拌機の使用と共に使用することができる。本組成物および方法は、例えば浴槽が組成物を含有する超音波浴を使用する等、臨床現場に関連する外科用器具もしくは他の器具または表面の洗浄(例えば、滅菌)中のエアロゾル化を低減させるために使用され得る。
【0056】
本組成物は、すぐに使用できる水性組成物として提供されてもよく、または濃厚液体として、もしくは粉末として提供されてもよい。濃厚な液体または粉末は、使用時点またはその前の任意の時点もしくは時間に使用可能な組成物に調製され得る。
【0057】
様々な例において、組成物は、様々な形態(例えば、濃厚物として、または最終希釈物で)で歯科医または歯科衛生士に供給される。例としては、最終濃度のポリエチレンオキシドをスケーラの液体タンクに直接充填することができる場合、または希釈用のポリエチレンオキシドの濃厚物を、液体タンクを備えたスケーラユニットで使用する前に、もしくは歯科用椅子ユニットの供給ユニットで自動希釈するために(これまで使用されていた液体供給消毒濃厚物と同様に)充填することができる場合が挙げられる。必要に応じて、微生物汚染に対して缶内防腐剤(例えば、標準的なFDA承認防腐剤)を添加することができる。例えば、濃厚組成物は、0.01重量%(100ppm)~0.1重量%(1000ppm)よりも5~100倍濃厚な濃度を有する。
【0058】
濃厚な液体または粉末混合物は、好ましくは、得られる水性組成物が、100ppm~2000ppm、好ましくは100ppm~1000ppm、より好ましくは200~500ppm、最も好ましくは200~400ppmの、600,000~1200万g/mol、好ましくは800万g/molの分子量を有する少なくとも1つのヒドロキシアルキルセルロースおよび/またはポリ(エチレンオキシド)を含むように水と混合される。
【0059】
本発明の組成物は、好ましくは、一定量の水性組成物を調製するのに必要な量の粉末または好ましくは濃厚物を収容する単回使用容器の形態で提供される。好ましくは、単回使用容器は、1~4g、より好ましくは2~3g、最も好ましくは約2gの粉末または濃厚物を収容し、水で約1リットルに希釈されるように適合される。
【0060】
組成物は、灌注液が使用される様々な処置手技で使用され得る。例えば、組成物および方法は、外科手技または歯科手技を受けている個体に対して実施され得る。歯科手技の例としては、超音波式、回転式動力式洗浄、粒子摩耗研磨、窩洞形成、裂溝の伸展、根管形成、修復作業中の閉塞の調整、インプラント、医科手技(例えば、創傷の超音波デブリードマン、骨の水冷穿孔手技、灌注等)、空気または水噴霧による灌注を必要とする事象等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物は、歯科検査/処置室に見られるもの等、現在存在する灌注機器および送水管に組み込むことができる。様々な例において、組成物は、超音波浴中で使用され得る。様々な他の例において、組成物は冷却剤として使用されてもよい。
【0061】
ヒト医学において使用される上記の態様の全てが、獣医学的使用に同様に適用され得る。例えば、上記の態様のいずれかは、エアロゾルを生成する獣医学的ケアで使用される任意の外科手技に適用され得る。
【0062】
一態様では、本開示はキットを提供する。キットは、本発明の組成物を含んでもよく、または外科手技もしくは歯科手技のためのすぐに使用可能な容器に分注された本開示の組成物を含んでもよい。
【0063】
キットは、処置領域をすすぐ際に使用するための組成物を調製するために、本発明による組成物および適切な量の水等の水性媒体用の、別々の容器を含み得る。ポリマーを含有する水または容器は添加剤を含んでもよく、または添加剤は別々に提供されてもよい。例えば、キットは、ポリマー、滅菌水、および必要に応じて添加剤を含み得る。ポリマーは、濃厚な液体または粉末等の任意の形態で提供されてよい。キットは、例えば、ホース、継手、および本開示の組成物を送達するために使用され得る他の品目等の使い捨て品目を更に含み得る。キットは、組成物を調製および/または使用するための説明書を更に含み得る。キットは、入れ物(例えば、組成物を収容するボトルまたは他の容器)を灌注システムとインタフェースさせるための1またはそれを超える物品を更に含み得る。キットは、様々な使い捨て品目の組み合わせを含み得る。
【0064】
本明細書の原理に従って、いくつかの実施形態を構築することができる。以下の例示的な実施形態は、これらの原理を実証し、以下に列挙される他の実施例が、本明細書の原理に従う結果を達成することを実証するために提供される。
【実施例0065】
実施例1
以下の濃厚製剤を、下記の表に列挙される化合物を均一に混合することによって調製した。グリセロールおよびPEG400を混合容器に充填し、次いで、PEG8 Mioを撹拌しながら添加した。均一な懸濁液が得られるまで撹拌を0.5~1.5時間続けた。組成物をそれぞれ2gの組成物を含む単回用量容器に充填した。
【表2】
1)400g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)
2)800万g/molの平均モル質量を有するポリエチレンオキシド(Polyox WSR 308、AMERCHOL)、ふるい分け、200μm
3)ヒュームドシリカ、BET表面積175~225m/g、一次粒径12nm
【0066】
使用のために、約300~500mlの水を1リットルボトルに充填した。1つの単回用量容器からの懸濁液(2g)を添加し、ボトルを30秒間激しく振盪した。残りの水(1000mlになるまで)を添加し、ボトルを10分間放置した。ボトルを更に5秒間振盪し、次いで超音波式スケーラで使用した。
【0067】
実施例2
以下の濃厚製剤を実施例1と同様に調製し、各々が2gの組成物を含有する単回用量容器に充填した。
【表3】
1)400g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)
2)800万g/molの平均モル重量を有するポリエチレンオキシド(Polyox WSR 308、AMERCHOL)、ふるい分け、200μm
【0068】
1つの単回用量容器からの懸濁液(2g)を実施例1に記載のように水と混合し、次いで超音波式スケーラで使用した。
【0069】
実施例3~26
以下の濃厚物を実施例1と同様に調製した:
【表4-1】
【表4-2】
1)400g/molの平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)
2)800万g/molの平均モル重量を有するポリエチレンオキシド(Polyox WSR 308、AMERCHOL)、ふるい分け、200μm
3)ヒュームドシリカ、BET表面積175~225m/g、一次粒径12nm
4)平均分子量380,000g/mol
5)グレード5=優れている、グレード1=効果なし、n.d.=判定なし
【0070】
それらの安定性を決定するために、組成物を50℃で11週間貯蔵し、次いで、エアロゾル形成に対するそれらの効果を試験した。試験を、外部水槽を備えたEMS Piezon 250超音波式スケーラを使用して実施した。試験のために、500mlの水を1000mlの容器に添加した。試験する組成物を、PEOの濃度が0.2g/1000mlとなるような量で添加した。この混合物を30秒間激しく振盪した。次いで、更に500mlの水を添加し、溶液を10分間静置した。この溶液を再度5秒間振盪した後、スケーラの水槽に加えた。
【0071】
スケーラの灌注力を中間レベル(9のうち5位)に設定し、次いでスケーラを開始した。試験前に、1分間運転させてホースから残っている水を除去した。次いで、ハンドピースの先端から放出された冷却水の噴出を1分間観察し、噴出特性および飛沫形成を以下の基準を使用して評価した。
【表5】
【0072】
結果を上記表に示す。本発明による組成物は貯蔵安定性である、すなわちエアロゾル形成を抑制する特性を維持することは明らかである。
【外国語明細書】