(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129824
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】設備の保守支援方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
G05B23/02 R
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088224
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2023038339の分割
【原出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠二
(72)【発明者】
【氏名】渋川 直紀
(72)【発明者】
【氏名】平野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 健司
(72)【発明者】
【氏名】藁科 正彦
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英樹
(72)【発明者】
【氏名】塚田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】柏瀬 翔一
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA02
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB03
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF12
3C223FF22
3C223FF23
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF52
3C223FF53
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】設備の過去の運転データや故障履歴を用いることなく、設備に生じた異常事象の原因を究明し対策を提示できること。
【解決手段】要素機器2から構成される設備1について、要素機器をモデル化した要素機器モデル6を有するデジタルモデル5を作成し、設備に異常事象が発生した場合に、デジタルモデルを用いて、要素機器の設計図書、仕様書等を用い要素機器モデルの特性値を変数として行う設備の正常事象のシミュレーションと、異常事象発生時の設備の挙動等に基づいて要素機器モデルの特性値を変数として行う設備の異常事象のシミュレーションとを行い、異常事象のシミュレーションでは、異常事象の挙動と近いシミュレーション結果になるように要素機器モデルの特性値を決定し、正常事象と異常事象のシミュレーション結果から得られる要素機器モデルの特性値を比較して、異常状態の要素機器モデルを判定し、異常事象の原因となった要素機器を特定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に関連しながら入力に対して出力を出す複数の要素機器から構成される設備について、最小値と最大値の範囲で設定され制御される特性値をもつ前記要素機器をモデル化した要素機器モデルを複数有するデジタルモデルを予め作成し、
前記設備に異常事象が発生した場合に、前記デジタルモデルを用いて、前記要素機器の設計図書、仕様書及びカタログの少なくとも1つを含む情報を用い前記要素機器モデルの特性値を変数として行う前記設備の正常事象のシミュレーションと、異常事象発生時の前記設備の挙動及び前記要素機器の故障に関する情報に基づいて前記要素機器モデルの特性値を変数として行う前記設備の異常事象のシミュレーションとを行い、
異常事象のシミュレーションでは、前記設備に異常事象が発生した場合の挙動と近いシミュレーション結果になるように前記要素機器モデルの特性値を決定し、
正常事象と異常事象のそれぞれのシミュレーション結果から得られる前記要素機器モデルの特性値を比較し、これらの特性値が相違する前記要素機器モデルを異常状態にある前記要素機器モデルであると判定し、この判定した前記要素機器モデルに対応する前記要素機器を異常事象の原因となった前記要素機器であると特定することを特徴とする設備の保守支援方法。
【請求項2】
前記設備の正常事象のシミュレーションは、前記設備に異常事象が発生する前の運転履歴の情報を用いないで行うことを特徴とする請求項1に記載の設備の保守支援方法。
【請求項3】
前記設備における要素機器の故障に関する情報を前記要素機器毎に格納するデータベースを準備し、
前記設備の異常事象のシミュレーションを、前記データベースに格納された故障に関する情報を反映させて、要素機器モデルの特性値を変数として行うことを特徴とする請求項1に記載の設備の保守支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、設備の保守支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品製造のための設備を持つ工場等の施設は、発電所や変電所など機械設備や電気設備を所有している。これらの多くの施設では、設備を安定して運転できるように保守管理を行っている。長期間の安定運転が求められる上述の機械設備や電気設備では、設備の状態を継続的に計測して監視し、異常事象が発生する前に予兆を検知した場合には、速やかに対策を講じる予知保全等の技術が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6984786号公報
【特許文献2】特許第6264473号公報
【特許文献3】特許第6856443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異常が発生した場合に、異常発生前後の設備の設定情報を比較し、変化内容を抽出し表示して処置または支援を行ったり(特許文献1)、過去のデータをもとに故障箇所や原因を特定し、点検計画を策定したりすること(特許文献2)が提案されている。また、予め設備の正常及び異常の挙動を保存したデータベースと、機器の数学または物理モデルに異常条件を設定して作成した模擬異常データのデータベースとを作成し、異常診断を行うと共に比較する診断システム(特許文献3)が提案されている。
【0005】
また、前述の予知保全のためには、異常事象(故障)の予兆をとらえるために多くの計測装置が必要になる。予兆が適切にとらえられなければ異常事象が発生してしまう。異常事象が発生した場合、過去の運転データや故障履歴が十分に存在しなかったり、設備の異常挙動のデータベースが存在しなかったりしたときには、原因解明に多大な時間を要する恐れがある。
【0006】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、設備の過去の運転データや故障履歴を用いることなく、設備に生じた異常事象の原因を究明し、その対策を提示することができる設備の保守支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態における設備の保守支援方法は、相互に関連しながら入力に対して出力を出す複数の要素機器から構成される設備について、最小値と最大値の範囲で設定され制御される特性値をもつ前記要素機器をモデル化した要素機器モデルを複数有するデジタルモデルを予め作成し、前記設備に異常事象が発生した場合に、前記デジタルモデルを用いて、前記要素機器の設計図書、仕様書及びカタログの少なくとも1つを含む情報を用い前記要素機器モデルの特性値を変数として行う前記設備の正常事象のシミュレーションと、異常事象発生時の前記設備の挙動及び前記要素機器の故障に関する情報に基づいて前記要素機器モデルの特性値を変数として行う前記設備の異常事象のシミュレーションとを行い、異常事象のシミュレーションでは、前記設備に異常事象が発生した場合の挙動と近いシミュレーション結果になるように前記要素機器モデルの特性値を決定し、正常事象と異常事象のそれぞれのシミュレーション結果から得られる前記要素機器モデルの特性値を比較し、これらの特性値が相違する前記要素機器モデルを異常状態にある前記要素機器モデルであると判定し、この判定した前記要素機器モデルに対応する前記要素機器を異常事象の原因となった前記要素機器であると特定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、設備の過去の運転データや故障履歴を用いることなく、設備に生じた異常事象の原因を究明し、その対策を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る設備の保守支援方法を実施する際における保守対象の設備とそのデジタルモデルを概略して示し、(A)が上記設備の構成を示すブロック図、(B)が上記デジタルモデルの構成を示すブロック図。
【
図2】第2実施形態に係る設備の保守支援方法を実施する際における保守対象の設備とそのデジタルモデルを概略して示し、(A)が上記設備の構成を示すブロック図、(B)が上記デジタルモデルの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
【0011】
[A]第1実施形態(
図1)
図1は、第1実施形態に係る設備の保守支援方法を実施する際における保守対象の設備とそのデジタルモデルを概略して示し、(A)が上記設備の構成を示すブロック図、(B)が上記デジタルモデルの構成を示すブロック図である。
【0012】
図1(A)に示すように、保守対象の設備1は少なくとも1個、例えば1個以上の要素機器2(要素機器2A、2B、2C)を有して構成される。各要素機器2は、相互に関連しながら入力に対して出力を出す。この入出力は、電気信号の入力に対する出力、部品の入力に対する製品の出力のほか、液体や気体などの流体の入力に対する出力としての発電など、様々な形態を取り得る。
【0013】
各要素機器2は、ヒータであれば熱出力、バルブであれば開度、ポンプであれば吐出流量や吐出圧力といった特性値をもつ。この特性値は、最小値と最大値の範囲で設定され制御されることで、要素機器2が目的に合う出力を得るようになっている。要素機器2の特性値は一種類とは限らず、例えばポンプの場合には吐出圧力と吐出流量のように、1つの要素機器が複数の特性値を持つこともある。
【0014】
また、各要素機器2は配管や電線などの接続部材4により接続されて系統3を構成する。各要素機器2または接続部材4における温度、圧力、電流、電圧などのプロセス値がモニタリングされることで、系統3の状態を監視することが可能になる。設備1や系統3の状態が正常である場合には、各要素機器2の特性値は仕様範囲内の所定の値に設定される。
【0015】
図1(B)に示すように、設備1のデジタルモデル5は、設備1を構成する要素機器2(要素機器2A、2B、2C)をモデル化した要素機器モデル6(要素機器モデル6A、6B、6C)と、接続部材4をモデル化した接続部材モデル7とを有するものであり、予め作成される。このデジタルモデル5は要素機器モデル6を少なくとも1つ、例えば1つ以上(要素機器モデル6A、6B、6C)有する。また、デジタルモデル5は、要素機器モデル6を接続部材モデル7が接続した系統モデル8を有する。このようなデジタルモデル5では、要素機器モデル6の特性値は、実際の要素機器2の仕様の範囲を超えて任意に設定可能である。
【0016】
次に、設備1に異常事象が発生した際に、デジタルモデル5を用いて行う設備1の保守支援方法について説明する。
設備1に異常事象が発生した場合には、設備1の出力または系統3のプロセス値が通常と異なる値を示す。そこで、まず、設備1に異常事象が発生した場合に、デジタルモデル5を用いて、要素機器モデル6の特性値を変数として変化させて、設備1の正常事象と異常事象のシミュレーションを行う。
【0017】
設備1の正常事象のシミュレーション(即ち、設備1の正常事象を模擬(再現)するシミュレーション)は、設備1に異常事象が発生する前の設備1の運転履歴の情報を用いないで行う。つまり、設備1の正常事象のシミュレーションは、時系列情報を含まず、要素機器2の設計図書、仕様書及びカタログの少なくとも1つを含む情報を用いて、要素機器モデル6の特性値を変数として変化させて行う。
【0018】
設備1の異常事象のシミュレーション(即ち、設備1の異常事象を模擬(再現)するシミュレーション)は、設備1に異常事象が発生する前の設備1の運転履歴や要素機器2の過去の故障履歴の情報を用いることなく、異常事象発生時の設備1の挙動を用いて、要素機器モデル6の特性値を変数として変化させて行う。この異常事象のシミュレーションでは、デジタルモデル5の出力や系統モデル8のプロセス値のシミュレーション結果が、異常事象発生時の設備1の挙動(設備1の出力、系統3のプロセス値)と近い状態になるように、要素機器モデル6の特性値を決定する。また、上述の異常事象のシミュレーションでは、1つの要素機器モデル6の特性値を変化させるだけでなく、複数の要素機器モデル6の特性値を変化させることで、例えば複雑な異常事象に対応することが可能である。
【0019】
次に、上述のようにして求めた正常事象と異常事象のそれぞれのシミュレーション結果から得られる要素機器モデル6の特性値を比較する。このとき、異常事象のシミュレーション結果から得られる要素機器モデル6の特性値が、正常事象のシミュレーション結果から得られる要素機器モデル6の特性値と相違する場合には、この特性値が相違した要素機器モデル6が異常(故障)状態にある要素機器モデルであると判定する。そして、異常(故障)状態にあると判定した要素機器モデル6に対応する要素機器2を、設備1の異常事象の原因となった要素機器2であると特定する。従って、この特定した要素機器2の交換、またはこの要素機器2の設定値を調整するなどの対策を提示することが可能になる。
【0020】
また、デジタルモデル5を用いて行う設備1の保守支援方法では、例えば設備1の要素機器2の交換が必要であるが、その要素機器2と同一機種の入手が困難な場合に、次のような保守支援を行う。
【0021】
つまり、設備1のデジタルモデル5が有する要素機器モデル6のうち、1または複数の要素機器モデル6を、仕様が異なる別の要素機器モデルに置き換えまたはバイパスラインにてバイパスして、デジタルモデル5を変更する。そして、この変更したデジタルモデル5を用いて設備1の正常事象のシミュレーションを行い、デジタルモデル5が正常に動作するか否かを当該シミュレーションにより確認する。これにより、設備1の異常(故障)状態の要素機器2を仕様が異なる別の要素機器2に置き換えたり、異常(故障)状態の要素機器2をバイパスラインにてバイパスさせたりする等の対策を提示することが可能になる。
【0022】
以上のように構成されたことから、この第1実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)本第1実施形態によれば、要素機器2をモデル化した要素機器モデル6を有する設備1のデジタルモデル5を用いて、設備1の正常事象と異常事象のシミュレーションを行い、これらの正常事象と異常事象のそれぞれのシミュレーション結果から得られる要素機器モデル6の特性値を比較することで、異常(故障)状態にある要素機器モデル6を判定して、異常事象の原因となった要素機器2を特定している。この結果、設備1の過去の運転データや故障履歴を用いることなく、設備1に生じた異常事象の原因を究明し、その対策を提示することができる。このため、異常事象が発生した設備1の分解点検に伴う費用及び時間を削減することができる。
【0023】
(2)設備1のデジタルモデル5が有する要素機器モデル6のうち、1または複数の要素機器モデル6を、仕様が異なる別の要素機器モデル6に置き換えまたはバイパスラインにてバイパスしてデジタルモデル5を変更し、この変更したデジタルモデル5を用いて設備1の正常事象のシミュレーションを行い、デジタルモデル5が正常に動作するか否かを確認している。このため、交換が必要であるが同一機種の入手が困難な要素機器2に対して、この要素機器2を別の要素機器2に置き換えたり、バイパスしたりする対策を提案することができる。これにより、恒久的ではないが、暫定的な提案を迅速に提示することができる。
【0024】
[B]第2の実施形態(
図2)
図2は、第2実施形態に係る設備の保守支援方法を実施する際における保守対象の設備とそのデジタルモデルを概略して示し、(A)が上記設備の構成を示すブロック図、(B)が上記デジタルモデルの構成を示すブロック図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0025】
本第2実施形態の設備の保守支援方法が第1実施形態と異なる点は、データベース11に格納された設備1における要素機器2の故障に関する情報を反映させて、設備1の異常事象のシミュレーションを行う点である。
【0026】
データベース11は、設備1を構成する要素機器2の故障に関する情報を要素機器2毎に格納したものであり、予め作成され準備される。上述の要素機器2の故障に関する情報としては、要素機器2の故障確率や耐用期間、故障が生じた場合の要素機器2の挙動などの要素機器2の情報である。この要素機器2の故障に関する情報は、保守対象の設備1の要素機器2により得られた情報である必要はなく、同一機種の要素機器2についての一般的な故障確率や耐用期間、または他の設備を構成する要素機器2で発生した故障の情報であってもよい。
【0027】
デジタルモデル5の要素機器モデル6の特性値を変数として変化させて行う設備1の異常事象のシミュレーションは、本第2実施形態では、データベース11に格納された要素機器2の故障に関する情報を反映させて行う。例えば、デジタルモデル5において特性値を変化させる要素機器モデル6の選定に際して、データベース11に格納された故障確率の高い要素機器2に対応する要素機器モデル6や、耐用期間の短い要素機器2に対応する要素機器モデル6を優先して選定する。また、データベース11に格納された「故障が生じた場合の要素機器2の挙動」を再現するように、その要素機器2に対応する要素機器モデル6をデジタルモデル5において優先して選択する。
【0028】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
【0029】
(3)設備1の異常事象のシミュレーションを、データベース11に格納された要素機器2の故障に関する情報を反映させて、即ちデータベース11に故障に関する情報が格納されている要素機器2に対応する要素機器モデル6を優先して、その特性値を変化させて行っている。このため、設備1における要素機器2の大量に存在する故障の組み合わせの中から、故障に関して可能性が高い要素機器2の組み合わせを迅速に選定して異常事象のシミュレーションを実施することができる。その結果、設備1において異常事象の原因となった要素機器2を速やかに特定し、その対策を提示することができる。
【0030】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1…設備、2…要素機器、5…デジタルモデル、6…要素機器モデル、11…データベース