(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129825
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】調整可能なシースデバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 25/06 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
A61M25/06 550
【審査請求】有
【請求項の数】33
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024091128
(22)【出願日】2024-06-05
(62)【分割の表示】P 2021540343の分割
【原出願日】2019-09-20
(31)【優先権主張番号】2018903540
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(71)【出願人】
【識別番号】521117702
【氏名又は名称】スリー ピークス メディカル ピーティーワイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】THREE PEAKS MEDICAL PTY LTD
【住所又は居所原語表記】C/- Madigan Accounting and Advisory,27 Beulah Road,Norwood,South Australia 5067 (AU)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100160831
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 元
(72)【発明者】
【氏名】ワースリー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ニコルソン,ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ベルチャー,サイモン
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267AA15
4C267BB06
4C267BB31
4C267CC08
4C267GG03
4C267GG04
4C267GG06
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG10
4C267GG11
4C267GG22
4C267GG23
4C267HH16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】体内に挿入して様々な医療デバイスに血管内への進入を提供するための調整可能なシースデバイス200に関する。
【解決手段】医療デバイスがシースを通過するときに血管内で拡張可能であると共に、医療デバイスをシースから除去するときにほぼ元の大きさに戻るように収縮可能な、動的に拡張可能なシースを含む。シースは、硬質カラー210と、連続するエラストマ外側層及び拡張可能内側層を備えた細長スリーブ220とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内への医療デバイスの導入から血管の管腔面を保護するための伸縮式シースであって、
内部に延在する通路を画定する内面を有した硬質カラーを備え、
前記硬質カラーは、前記硬質カラーに取り付けられて周方向に伸縮可能な細長スリーブを有し、前記細長スリーブは、近位開口部及び遠位開口部を有して、前記近位開口部と前記遠位開口部との間に管腔路を画定し、
前記細長スリーブは、連続するエラストマ外側層と、少なくとも部分的に不連続な拡張可能内側層とを含む2つの別個の層を備え、前記拡張可能内側層の不連続部分は、強制的に巻かれるときに、環状に外向きの抗力を生じるような特性が与えられた硬質ポリマシートを備え、前記硬質ポリマシートは、前記連続するエラストマ外側層が形成する管腔内に巻かれて長手方向に延設され、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置されたときに、前記拡張可能内側層の少なくとも一部を形成し、
前記硬質カラーは、周方向に伸縮可能な前記細長スリーブの前記近位開口部で、前記細長スリーブに取り付けられる、
伸縮式シース。
【請求項2】
前記拡張可能内側層は、前記近位開口部で終端する実質的に円筒状の連続部分と、前記遠位開口部で終端する不連続な硬質ポリマシート部分とを備え、前記不連続な硬質ポリマシート部分が、前記連続するエラストマ外側層によって形成された管腔内に巻かれて長手方向に延設され、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置される、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項3】
前記不連続な硬質ポリマシート部分は、弛緩状態で重なりを有した状態で巻かれ、前記細長スリーブの長手方向軸線の周りに螺旋状に巻かれるように構成される、請求項2に記載の伸縮式シース。
【請求項4】
前記不連続な硬質ポリマシート部分の縁部は、前記細長スリーブの長手方向軸線の周りに螺旋状に巻かれる、請求項3に記載の伸縮式シース。
【請求項5】
前記不連続な硬質ポリマシート部分は、遠位部分が巻かれる回数に約0.5~約1.5を加えた回数にほぼ等しい回数、前記伸縮式シースの長手方向軸線の周りに巻かれる、請求項4に記載の伸縮式シース。
【請求項6】
前記硬質ポリマシートは、少なくとも3つの縁部を備え、少なくとも1つの縁部が斜めの切断部で終端する、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項7】
前記硬質ポリマシートは、少なくとも3つの縁部を備え、少なくとも2つの実質的に対向する縁部が、前記遠位開口部を画定する点または縁部で交差し、2つの縁部のうちの少なくとも1つが、斜めの切断によって形成される、請求項6に記載の伸縮式シース。
【請求項8】
前記連続するエラストマ外側層と前記拡張可能内側層とは、互いに対して移動可能であり、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と前記拡張可能内側層の外面とは、互いに対して移動可能である、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項9】
前記細長スリーブは、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と前記拡張可能内側層の外面との間に、摩擦係数を低減するための、シリコーン、グリセリン油、PTFE、または親水性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含む潤滑層または表面処理を備える、請求項8に記載の伸縮式シース。
【請求項10】
前記拡張可能内側層は、前記実質的に円筒状の連続部分と前記不連続な硬質ポリマシート部分との間に切り込みまたは切り欠きを備えた実質的に均一な硬質ポリマ材料から一体的に形成される、請求項9に記載の伸縮式シース。
【請求項11】
前記細長スリーブは、前記近位開口部と前記遠位開口部との間で、少なくとも部分的に長手方向に沿って先細になっている、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項12】
前記遠位開口部を画定する前記細長スリーブの縁部は、前記近位開口部の円周を画定する前記細長スリーブの縁部よりも少なくとも約20%小さい円周を有する、請求項11に記載の伸縮式シース。
【請求項13】
前記遠位開口部を画定する前記細長スリーブの縁部は、前記近位開口部の円周を画定する前記細長スリーブの縁部よりも少なくとも約25%小さい円周を有する、請求項12に記載の伸縮式シース。
【請求項14】
前記硬質ポリマシートは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、これらのコポリマ、またはそれ以外の生体適合性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含む材料から形成される、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項15】
前記連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料からなり、前記連続するエラストマ外側層は、前記エラストマ材料の伸張時に拡張し、前記エラストマ材料の弛緩時に収縮することができ、前記エラストマ材料は、収縮すると、最初の円周の約135%以下の円周に戻ることができる、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項16】
前記連続するエラストマ外側層は、前記エラストマ材料の伸張時に、拡張していない円周の約1.35倍以上に拡張可能である、請求項15に記載の伸縮式シース。
【請求項17】
前記連続するエラストマ外側層は、シリコーン材料またはシリコーン複合材料から形成され、約0.2mm以下の厚さを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項18】
前記連続するエラストマ外側層は、約0.1mmの厚さを備える、請求項16に記載の伸縮式シース。
【請求項19】
前記細長スリーブの管腔路内に設けられ、前記細長スリーブの遠位端から突出する硬質イントロデューサを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項20】
前記細長スリーブは、放射線不透過性マーカを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項21】
請求項1に記載の伸縮式シースを使用する方法であって、
請求項1に記載の伸縮式シースを得るステップと、
前記伸縮式シースの管腔路に硬質イントロデューサを通すステップと、
前記伸縮式シースを血管内に導入するステップとを備える、
方法。
【請求項22】
請求項1に記載の伸縮式シースを製造する方法であって、
請求項1に記載の硬質カラー、エラストマ外側層、及び拡張可能内側層を得るステップと、
前記拡張可能内側層を、前記近位開口部で前記硬質カラーに取り付けるステップと、
前記拡張可能内側層を、前記エラストマ外側層の内側に配置するステップとを備える、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野は、概ね、体内に挿入して様々な医療デバイスに血管内への進入を提供するための調整可能なシースデバイスに関する。これには、全ての動脈及び血管系への進入、腹腔及び胸腔の処置、脳脊髄の処置、泌尿生殖器及び婦人科の処置、並びに上部消化管及び結腸直腸の処置が含まれるが、これらに限定されない。本発明の具現化により、全般的に、医療デバイスがシースを通過するときに血管内で拡張可能であると共に、医療デバイスをシースから除去するときにほぼ元の大きさに戻るように収縮可能な、動的に拡張可能なシースを提供する。
【背景技術】
【0002】
血管用イントロデューサシースは、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)、並びに血管形成術及びステント留置といった血管内処置に一般的なものであって、ワイヤ、バルーン、及び圧力トランスデューサといった着脱可能なデバイスを導入するための、並びに機械式大動脈弁及びステントといった埋め込み可能なデバイスを導入して配置するための、血管系への進入を容易にするものである。
【0003】
血管用イントロデューサシースは、単一の中空で環状のカフ、即ちスリーブからなるのが一般的であり、このイントロデューサシースが挿入され、操作されて、患者の血管系内に配置されると、このスリーブを介し、デバイスを通過させることが可能となる。スリーブは、環状のカラーで一端が終端しており、このカラーは、患者の皮膚の上に置かれ、血管への開口部内に配置される。このカラーは、血管への開口部の周りに一時的なシールを形成するのが一般的であり、患者の血管系内に向け、デバイス及び流体をスリーブの空洞に通すことが可能とするような、1つ以上の入口を備えることがある。
【0004】
また、血管用イントロデューサシースは、特にデバイスが血管の管腔に対して大きい場合に、血管系への医療デバイスの挿入によって生じ得る物理的損傷から血管を保護するように構成される。例えば、TAVRの処置は、大腿動脈を介して行われるのが一般的であり、この大腿動脈は、高齢の患者では、デバイス自体よりも直径が小さい場合が多い。このことは、しばしば、動脈壁とデバイスとの間の剪断力による動脈の損傷を引き起こす。
【0005】
血管内デバイスの安全で妨害のない通過が可能となる十分な大きさになるまで、血管開口部または血管を拡げるために、直径が増大する一連のイントロデューサシースの挿入及び除去が、血管内処置中に一般的に行われている。患者の血管系の大きさに応じ、小さい直径のイントロデューサシースの導入から処置が始められ、開口部及びイントロデューサシースが、着脱可能な、または埋め込み可能なデバイスの送り込みが可能な十分な大きさになるまで、直径を次第に増加させる。
【0006】
例えば、経カテーテル大動脈弁の導入及び送り込みには、一般的に、経カテーテル大動脈弁置換システムを送り込むために必要な大きさに応じ、多くの場合14~20フレンチの間の直径である特定の大きさのシース及びイントロデューサの挿入の前に、動脈への進入部位及び血管系を拡張させるための、より小さい直径のイントロデューサの挿入が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
各イントロデューサシースの挿入及び除去は、全体的な処置時間を増加させ、血管壁への損傷の危険性を増大させる。器具の無菌性を維持し、手術室内で無菌処置を採用する試みがなされているものの、血管内開口の存在と患者への異物の導入だけでも、感染のリスクがもたらされ、このようなリスクは、処置の対象物の数及び処置時間の増加につれて増大する。更に、失血及び患者へのストレスは、処置時間及び患者への物体の導入に伴って増大する。イントロデューサシースが患者に挿入され、患者の血管内に挿入される際に、イントロデューサシースが患者の血管系を通って進行すると、血管の管腔面の擦過による血管損傷や、更には血管自体の破裂が、血管の開口部における重大なリスクとなる。
【0008】
血管内処置中に複数のシースを導入する必要性を最小限に抑える拡張式のイントロデューサシースを設計開発しようとする過去の試みは、ほとんど成功していない。拡張式のシースは、小さい直径に収縮しているときに挿入され、血管内に配置されると拡張され、除去前に再び収縮させて、その直径を減少させるように構成される。但し、多くは、シースの長手方向に延びる拡張部分を有した結合複合材料から生成されている。これらのデバイスは複合シース材の一部分のみが拡張可能であるため、最小限に拡張するものであって、多くの場合、より大きな第2または第3のイントロデューサシースを患者に導入する必要性を減らすほど十分には拡張しない。このような複合構造の構成は、拡張部分が血管系を通って無理に押し進められたときに潰れることにより、血管内のイントロデューサシースの「リッジング」、即ち座屈をもたらすような構造の脆弱化が導入されているので、デバイスの破損がしばしば生じる。更に、拡張式のシースは、一般的に、その元の直径まで収縮することができず、それらの除去の際に、血管または血管の開口部に、しばしば損傷を引き起こす。
【0009】
例えば、大腿動脈の開口部を介して患者の体内に配置する場合、イントロデューサシースは、湾曲した、または複雑な血管経路の部分をイントロデューサまたはデバイスが通過することによって生じ得る損傷または外傷から、患者の周辺の血管系を保護する上で、重要な役割を果たす。しかしながら、イントロデューサシースの多くは、これらの湾曲した複雑な血管系の部分を進行するには硬すぎ、その結果、挿入及び配置の際にねじれて座屈し、故障する可能性があるため、多くの手術の際には、依然としてシースなしの手法が頻繁に実施されている。医師は、デバイス自体が、血管の湾曲部分における管腔面に引っ掛かったり傷をつけたりする傾向があるため、腸骨大腿骨系のような複雑な領域を通過するときのシースの安全性と、シースを用いないデバイスとの間でのトレードオフを行う必要がある。
【0010】
より侵襲的でリスクの高い心臓切開手術に代わる実行可能な代替法をもたらすTAVRのような処置では、周辺の血管系を通るガイドワイヤ、イントロデューサ、及び機械式弁自体の安全な通過が、これらの重要な矯正手術の適用可能性を、そうでなければ適合できないような患者群にまで拡大する上で不可欠である。
【0011】
高齢者のような多くの患者群にとって、大動脈弁の機能的欠陥を修正するための伝統的な心臓手術は、リスクが非常に高すぎる。TAVRは、これらの患者にとって、より安全な代替法を提供する。しかしながら、最新の医療技術と概ね最善となる手法とを用い、オーストラリアで実施されたTAVRの処置は、依然として、患者の5.5%が主要血管合併症を患い、8.5%が大出血を伴い、1.6%が脳卒中を、1.6%が心筋梗塞を患うこととなった。TAVRにおけるこれらの血管損傷で可能性のある原因には、患者の血管径、アテローム性動脈硬化症の存在、導入及び回収されたシースの直径、並びにシースの剛性、及びシースのよじれやすさまたは座屈しやすさの度合を含むシースの特性が含まれる。
【0012】
従って、TAVRの際の、これらの血管損傷の領域のいずれか1つに対処することで、TAVRの処置の安全性が向上し、現在は大動脈置換術に適応できないような更に広範な患者群にまで処置を可能とすることが期待される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
様々な観点において、本発明の態様は、血管内への医療デバイスの導入から血管の管腔面を保護するための伸縮式シースに関し、当該伸縮式シースは、内部に延在する通路を画定する内面を有した硬質カラーを備え、前記硬質カラーは、前記硬質カラーに取り付けられて周方向に伸縮可能な細長スリーブを有し、前記細長スリーブは、近位開口部及び遠位開口部を有して、前記近位開口部と前記遠位開口部との間に管腔路を画定し、前記細長スリーブは、連続するエラストマ外側層と、少なくとも部分的に不連続な拡張可能内側層とを含む2つの別個の層を備え、前記拡張可能内側層の不連続部分は、強制的に巻かれるときに、環状に外向きの抗力を生じるような特性が与えられた硬質ポリマシートを備え、前記硬質ポリマシートは、前記連続するエラストマ外側層が形成する管腔内に巻かれて長手方向に延設され、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置されたときに、前記拡張可能内側層の少なくとも一部を形成し、前記硬質カラーは、周方向に伸縮可能な前記細長スリーブの前記近位開口部で、周方向に伸縮可能な前記細長スリーブに取り付けられる。
【0014】
このように構成された態様は、医療デバイスがシースを通過するときに、血管内で拡張することができると共に、医療デバイスがシースから取り外されるときに、収縮してほぼ元の大きさに戻ることができるような動的に拡張可能なシースを提供する。
【0015】
このような機能は、独特の構成概念から達成され、それによって、エラストマ外側層は細長スリーブの拡張に対し、細長スリーブを収縮させるような対抗圧力を加え、拡張可能内側層は、細長スリーブの収縮に対し少量の対抗圧力を加え、拡張可能内側層内に通路を形成するが、エラストマ外側層の対抗圧力は、拡張可能内側層の対抗圧力よりも大きい。このような構成により、医療デバイスが細長スリーブを通過するときに、細長スリーブの受動的な収縮が生じる。この構成は、伸縮式の外側層または単一の伸縮層を有する従来のイントロデューサシースと著しく異なるものであり、このような層は、一般に、半径方向に均等に伸縮することができず、そのため、シースの座屈を引き起こし、またはシースの安全な除去を可能にするほど十分に元の大きさに近付くまで収縮することができない。
【0016】
イントロデューサシースは、血管路のネットワークを進んでいくのに十分な曲げ性、ねじれ及び座屈を防止するのに十分な剛性、並びに周方向に拡張したときや、意に反して屈曲またはねじれたときに、元に戻るのに十分な弾性を含む特性の均衡を与えるものでなければならないことが十分に理解される。本発明の構成概念は、物理的特性の相補性を提供可能にするものである。細長スリーブの各層は、異なる物理的特性を与え、いずれか単一の材料では提供され得ない物理的特性の相補性を提供する。即ち、本発明の態様の拡張可能内側層が剛性を提供する一方、エラストマ外側層が弾性を提供し、両者は、患者の血管系を進んでいくのに十分な程度の曲げ性を提供する。
【0017】
更に、拡張可能内側層の長手方向に沿った継ぎ目の配向、及び/または拡張可能内側層の重ね合わせの程度を変更し、シースの弾性及び可撓性を調整して最適化することもできる。
【0018】
更に、本発明の態様に係る多層の構成概念は、エラストマ外側層及び拡張可能内側層を形成するための材料のより広範な選択を可能にすることによって、当業者が伸縮式シースの物理的特性を最適化するためのより良い機会を提供可能とし、または当業者が伸縮式シースの所望の物理的特性を見出す機会を提供することができる。
【0019】
適切な材料の選択も、拡張可能なシースまたは細長スリーブの所望の形状に適合するものでなければならない。個々の形状は、特定の態様において必要となるような機能特性を与えるものとしてもよい。
【0020】
例えば、挿入を容易にするため、本発明の態様は、近位開口部と遠位開口部との間で、少なくとも部分的に長手方向に沿って先細にされた細長スリーブを備えてもよい。先細の程度は、特定の用途、例えば、弁が患者の大腿動脈よりもかなり大きくなる可能性が十分あるTAVR処置のために欠かせないものとなる場合があり、先細の程度は、血管の開口部への伸縮式シースの進入のしやすさが増すようにするのが好ましく、この場合、先細状のスリーブの挿入によって、血管の開口部及び血管自体が穏やかに引き伸ばされて拡大されるようにしてもよく、デバイスの進入が、スリーブの大きい方の開口部への挿入によって容易になるようにしてもよい。更に、先細の形状は、先細状ではない拡張可能なシースよりも少ない導入の力で、シースを拡張できるようにするものであってもよい。
【0021】
従って、遠位開口部を画定するスリーブ縁部は、近位開口部の円周を画定するスリーブ縁部よりも少なくとも約20%小さい円周を有するのが好ましい。或いは、より具体的には、遠位開口部を画定するスリーブ縁部は、近位開口部の円周を画定するスリーブ縁部よりも少なくとも約25%小さい円周を有するのが好ましい。TAVRなどの多くの適用の場合は、近位開口部の円周の少なくとも約35%の円周を有する遠位開口部が好ましい。実際には、遠位開口部の好ましい円周が、近位開口部の円周の約35%~40%の範囲にある。
【0022】
先細状のような形状は、エラストマ外側層または拡張可能内側層のうちの1つだけを成形することによって達成するようにしてもよい。例えば、拡張可能内側層は、先細ではない円筒状となるように成形してもよく、細長スリーブの先細形状は、先細状のエラストマ外側層によって与えられる。更に、拡張可能内側層の先細形状は、硬質ポリマシースを先細状に巻くことによって達成してもよい。
【0023】
特定の態様の伸縮式シースの構成は、近位開口部で終端する実質的に円筒状の部分を備えた細長スリーブを備えてもよい。具体的には、拡張可能内側層が、近位開口部で終端する実質的に円筒状の連続部分と、遠位開口部で終端する不連続の硬質ポリマシート部分とを備え、不連続の硬質ポリマシート部分が、連続するエラストマ外側層によって形成された管腔内に巻かれて長手方向に延設され、連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置されるようにしてもよい。
【0024】
好ましい態様において、近位開口部で終端する実質的に円筒状の部分は、血管開口部への強力なシールを助長するような大きさとされる。拡張可能内側層の、このような非先細部分は、軸線方向のシーム、即ち継ぎ目を備えていてもよく、不連続な先細部分と一体的に形成してもよい。好ましくは、巻かれた硬質ポリマシートの不連続な先細部分の重ね合わせは、近位端から遠位端に向かって増大し、細長スリーブの長手方向に沿って螺旋状縁部を形成する。傾斜した縁部は、拡張可能内側層の滑らかな伸縮を助長するようにしてもよい。
【0025】
更に、螺旋状に巻かれた硬質ポリマシートの巻き回数は、硬質ポリマシートの長手方向剛性が、シースの長手方向に沿って弱化、即ち低減されるため、径方向の伸縮に対する抵抗に加え、シースの曲げ性を介して、その特性を変化させる。
【0026】
拡張可能内側層は、細長スリーブの物理的特性、具体的には、細長スリーブの曲げ性、ねじれに対する抵抗、または弾性を改善または変更するために、切り欠き、スリット、及びそれ以外の部分を備えていてもよい。
【0027】
拡張可能内側層は、実質的に円筒状の連続部分と不連続な硬質ポリマシート部分との間に切り込みまたは切り欠きを備えた実質的に均一な硬質ポリマ材料から一体的に形成してもよい。不連続の硬質ポリマシート部分は、弛緩状態で重なりを有した状態で巻かれ、細長スリーブの長手方向軸線周りに螺旋状に巻かれるように構成されてもよい。
【0028】
螺旋状に巻くことは、一般的には不連続な硬質ポリマシート部分の伸縮を容易にすることになるので好ましい。また、これは、導入の際の、低減された捩れやすさと、最も典型的な可撓性との、特性の最良の組み合わせを有したものとなる。
【0029】
具体的には、不連続な硬質ポリマシート部分の縁部が、細長スリーブの長手方向軸線の周りに螺旋状に巻かれるようにしてもよい。不連続な硬質ポリマシート部分は、遠位部分が巻かれる回数に約0.5~約1.5を加えた回数にほぼ等しい回数、シースの長手方向軸線の周りに巻かれるのが好ましい。より具体的には、この巻き回数が、遠位部分が巻かれる回数に約1を加えた数にほぼ等しい。
【0030】
細長スリーブの長手方向軸線の周りに不連続の硬質ポリマシート部分を巻く際の、細長スリーブの長手方向軸線の周りの巻き回数、及び不連続の硬質ポリマシート部分自体の重なりの程度は、いずれも、個別に、または一緒に、シースの性能特性を変化させ得る。シースの長手方向に沿った軸方向剛性は、不連続な硬質ポリマシート部分の重なりの程度が増大するにつれて増加するが、剛性は細長スリーブの長手方向軸線の周りの不連続な硬質ポリマシート部分自体の巻き回数が増加するにつれて減少し得る。
【0031】
シースの長手方向軸線周りに、不連続な硬質ポリマシート部分を巻く回数は、遠位部分を巻く回数に約2を加えた回数にほぼ等しい回数まで増加させてもよい。これは、医療デバイスがシートを通過する際の、シートの環状の抵抗を調整し得るものであり、結果として、患者の血管系の管腔壁を保護するのを補助し得るものである。これとは逆に、遠位部分が巻かれる回数に約0.5を加えた回数にほぼ等しい回数まで巻く回数を減少させることで、硬質ポリマシートの重なりの程度を減少させ、硬質ポリマシートの長手方向の剛性の程度を減じることにより、シースの可撓性を調整するようにしてもよい。
【0032】
切り込みまたは切り欠きの形状は、種々の形状、例えば、円形、三角形、卵形、またはT字状から選択してもよいし、細長スリーブの所望の物理的特性に基づいて選択してもよい。
【0033】
拡張可能内側層は、その長手方向に沿って一連の小さな切り欠きを備えていてもよく、これは、細長スリーブの曲げ性を改善し得るものである。例えば、これには、一連の切り込みまたは一連のスリットを含めてもよい。
【0034】
これに代わる態様において、拡張可能内側層は、連続した薄い帯板から形成されてもよい。帯板は、縁部から突出して長手方向に並ぶ一連のコイル体を更に備えていてもよく、このコイル体は、連続した薄い帯板上に巻き戻される。巻かれたコイル体は、代表的には1mmと10mmとの間の長さであり、コイル体間の間隔は、0.1mmから10mmである。特定の実施形態において、各コイル体の直径は、連続した帯板の長手方向に沿って一定であってもよく、または長手方向に沿って変化する直径とすることによって、少なくとも遠位端のコイル体が近位端のコイル体よりも小さい直径となるようにしてもよい。
【0035】
本発明の態様の硬質ポリマシートは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、これらのコポリマ、またはそれ以外の生体適合性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含む材料から形成してもよい。硬質ポリマシートは、ポリプロピレンから形成されるのが好ましい。
【0036】
特定の材料が採用される場合、重なり合う部分の縁部が互いに当接し、その位置に固定される可能性があるので、拡張可能内側層の不連続部分は、拡張した状態で動かなくなりやすくなる場合がある。このような問題を回避するため、このような縁部に丸みをつけ、縁部を鈍らせ、または直角ではない角度で縁部を切るようにしてもよい。
【0037】
硬質ポリマシートの構成は、少なくとも3つの縁部を備えていてもよく、このとき、少なくとも1つの縁部は、斜めの切断部で終端する。更に、少なくとも2つの実質的に対向する縁部は、遠位開口部を画定する末端または縁部で交差するようにしてもよく、これら2つの縁部のうちの少なくとも1つは、斜めの切断によって形成される。
【0038】
別の実施形態において、拡張可能内側層は、螺旋状に巻かれた連続する帯板またはワイヤから形成されてもよい。この拡張可能内側層は、寸法「W」の厚みの帯板またはワイヤによって特徴付けられてもよく、この場合は、「W」と「2W」との間の螺旋ピッチで巻かれる。
【0039】
螺旋状の帯板のピッチは、長さのそれぞれを分割の軸方向長さとすると、当該長さの約0.5倍から2倍の間であるのが好ましい。より具体的には、好ましい螺旋のピッチが、長さの0.9倍~1.1倍である。
【0040】
螺旋状ワイヤは、チタン、チタン合金、もしくはステンレス鋼、またはポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはそれ以外の生体適合性材料といったポリマ材料から構成されてもよい。螺旋状ワイヤは、細長スリーブの長手方向に沿って先細にしてもよい。
【0041】
従来技術は、2つ以上の層が互いに結合されている多層シースを開示するものである。その具現化されたものの構成に固有の特徴は、各層の物理的特性の組み合わせが、層を一体に結合したときに失われることである。
【0042】
このため、本発明の好ましい態様では、連続するエラストマ外側層と拡張可能内側層とが、互いに対して移動可能である。連続するエラストマ外側層の管腔面と拡張可能内側層の外面とは、互いに対して移動可能であるのが好ましく、低い摩擦係数を有するのが好ましい。許容可能な摩擦係数は当業者には周知であり、従って、十分に低い固有摩擦係数を有した材料の選択は、そのような当業者に周知のことである。
【0043】
但し、内側層と外側層とは、近位端で互いに対して固定されてもよく、これは溶接、接着、またはクランプによる直接の相対的取り付けを介したものであってもよいし、止血弁または同様のデバイスへの両方の管の取り付けを介して達成してもよい。これにより、これらの層は、互いに対して移動可能としながら、所望の位置に保持されることが確実になされる。
【0044】
具体的には、内側層の近位端は、拡張可能内側層の外面の領域を硬質カラーの内面に接着することによって、当該硬質カラーに取り付けてもよい。エラストマ外側層は、弛緩状態の近位側の円周を、硬質カラーの外周の大きさ以下の大きさとすることで、硬質カラーの外面に一旦配置されると、適所に保持されるようにしてもよい。
【0045】
特定の態様において、細長スリーブは、連続するエラストマ外側層の管腔面と拡張可能内側層の外面との間に、潤滑層または表面処理を備えていてもよい。このような構成は、摩擦係数を減少させるための、シリコーン、グリセリン油、PTFE、または親水性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含むのが好ましい。潤滑層は、感染またはアレルギを治療または回避するための医薬剤を含有可能な、ヒドロゲル系のコーティングを更に含んでいてもよい。これらの物質またはそれ以外の親水性コーティング材料は、医療デバイスと伸縮式シースとの間の摩擦係数を減少させるために、拡張可能内側層の内面に塗布するようにしてもよい。
【0046】
ここで、いくつかの態様の細長スリーブの構成に目を向けると、連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料から形成してもよく、その結果、連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料の伸張時に拡張し、エラストマ材料の弛緩時に収縮することができる。好ましくは、適切な材料の選択により、エラストマ材料は、収縮すると、最初の円周の約135%以下の円周まで戻ることができるようにすることが可能となる。一般的には、近位縁部の安静状態の円周が、遠位縁部の安静状態の円周よりも約135%大きく、従って、エラストマ材料は、少なくとも近位開口部の大きさの円周に戻ることができなければならない。エラストマ材料は、収縮すると、その最初の円周の約115%~約120%の範囲の円周に戻ることができるのが更に好ましい。但し、これを約117%としてもよい。
【0047】
更に、適切な材料の選択により、エラストマ材料の伸張の際に、連続するエラストマ外側層が、自身の非拡張時の周囲の約1.35倍以上に必ず拡張できるようにすることが可能である。エラストマ材料の望ましい伸張能力は、通過させることができる医療デバイスのタイプを制限するものでないことが理想的であるので、連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料の伸張の際に、自身の非拡張時の円周の約300%~400%まで拡張可能であることが好ましい。
【0048】
連続するエラストマ外側層は、ニトリルゴム、ポリ塩化ビニル、ネオプレン、ポリプロピレン、及びポリイソプレンを含む、ラテックスゴムまたは非ラテックス代替物からなる群の1つから形成されるのが好ましい。連続するエラストマ外側層は、シリコーン材料またはシリコーン複合材料から形成されるのが好ましい。
【0049】
エラストマ外側層を形成するための好ましい材料は、破裂することなく、拡張可能内側層を収縮させる上で十分な対抗圧力を有する薄さに形成可能な材料から選択される。このようにした場合、使用者は、挿入中に、エラストマ外側層を強制的に拡張させるために、医療デバイスに著しい力を加える必要がなくなり、このようにしなければ、血管に損傷を与える危険性が生じることになる。このため、連続するエラストマ外側層は、約0.2mm以下の厚さを備えるのが好ましい。また、より具体的には、連続するエラストマ外側層が、約0.1mmの厚さを備えるのが好ましい。
【0050】
好ましい態様において、硬質カラーは、止血弁コネクタによって設けられる。止血弁コネクタは、患者が血管の開口部から血液を失うのを防止するための止血弁を備えていてもよい。止血弁コネクタは、医療デバイスを細長いシースの管腔内に導入するための開口部を更に備えていてもよい。また、止血弁コネクタは、患者の血管系に流体を導入するための1つ以上の入口を備えていてもよい。
【0051】
医療処置中におけるX線撮像装置での医療デバイスまたは伸縮式シースの視認性を向上させるために、細長スリーブは、放射線不透過性マーカを備えていてもよい。放射線不透過性マーカは、細長スリーブの遠位端に配置されるのが好ましく、エラストマ外側層または拡張可能内側層に均等に接着してもよい。放射線不透過性マーカは、ニチノールなどの金属ワイヤであってもよく、細長スリーブに接着されるか、または縫い付けられていてもよいし、またタングステン入りのナイロン、ポリエチレン、またはポリウレタンといったポリマ系として、細長スリーブに接着されるようにしてもよい。これに代えて、放射線不透過性マーカは、エラストマ外側層及び拡張可能内側層に接着されるようにして、細長スリーブの遠位端でこれらの層を一緒に結合するようにしてもよい。
【0052】
伸縮式シースを患者に挿入する間、硬質のイントロデューサが拡張可能内側層内に挿入されるようにしてもよい。特定の態様において、伸縮式シースは、細長スリーブの管腔内に、当該細長スリーブの遠位端から突出する硬質のイントロデューサが設けられていてもよい。
【0053】
挿入の際、硬質のイントロデューサは、拡張可能内側層の遠位端から突出するようにしてもよい。硬質のイントロデューサは、先細状の先端部を有するのが一般的である。硬質のイントロデューサは、事前に血管に挿入されたワイヤを通過させるための小さな孔を備えていてもよい。
【0054】
硬質のイントロデューサは、細長スリーブの遠位開口部の直径と整合するように、または細長スリーブの外側輪郭と整合するように、先細状に形成されていてもよい。或いは、硬質のイントロデューサの外面は、拡張可能内側層の遠位内径及び拡張可能内側層の近位内径の両方に合致するように、階段状に形成されていてもよい。
【0055】
伸縮式シースの挿入に続き、硬質のイントロデューサは、別のデバイスが細長スリーブの管腔を通って移動できるように、除去されるようにしてもよい。
【0056】
本発明の態様に係る伸縮式シースの使用は、当該態様に係る伸縮式シースを得るステップと、伸縮式シースの管腔路に硬質のイントロデューサを通すステップと、伸縮式シースを血管内に導入するステップとを備えていてもよい。
【0057】
本発明の態様に係る方法は、硬質のイントロデューサを除去するステップと、伸縮式シースの管腔路に医療デバイスを通すステップとを更に備えていてもよい。
【0058】
本発明の態様に係る伸縮式シースは、態様に対応して記載するような、硬質カラー、エラストマ外側層、及び拡張可能内側層を得るステップと、拡張可能内側層を、近位開口部で硬質カラーに取り付けるステップと、拡張可能内側層を、エラストマ外側層の内側に配置するステップとによって製造されるのが好ましい。
【0059】
これに代え、エラストマ外側層は、硬質カラー内に同時成形されるようにしてもよい。
【0060】
ここで、本発明の広範な実施形態を、詳細な説明に開示した実施例及び好ましい実施形態と併せ、添付の図面を参照して説明する。本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよいものであって、本明細書に記載した実施形態に限定されるものとして解釈すべきではない。これらの実施形態は、本開示が十分で申し分のないものであり、本発明の全範囲及び広さが伝わるようにするべく、例示のみを目的として提示されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】大腿動脈から左右の腸骨動脈を経て腹部動脈に至る経路を示すコンピュータ断層撮影スキャンの画像を示す。
【
図2】本発明の実施形態に係る調節可能なシースの正面斜視図である。
【
図3a】本発明の実施形態に係るシースカラーを示す側面図である。
【
図3b】本発明の実施形態に係るシースカラーを示す背面斜視図である。
【
図3c】本発明の実施形態に係るシースカラーを示す正面斜視図である。
【
図4a】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの側面図である。
【
図4b】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの、断面A-Aにおける断面図である。
【
図4c】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの、断面B-Bにおける断面図である。
【
図4d】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの、断面C-Cにおける断面図である。
【
図5a】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、イントロデューサと共に示す背面斜視図である。
【
図5b】調整可能なシースの管腔を通過するイントロデューサの側面図である。
【
図5c】調整可能なシース及びイントロデューサの、断面D-Dにおける断面図である。
【
図6a】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、外側のエラストマチューブが除去された状態で示すものであって、直線状に切られた内側層を示す正面斜視図である。
【
図6b】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、外側のエラストマチューブが除去された状態で示すものであって、直線状に切られて、更なる切り込み部分を有する内側層を示す正面斜視図である。
【
図6c】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、外側のエラストマチューブが除去された状態で示すものであって、螺旋状に切られた内側層を示す正面斜視図である。
【
図7a】本発明の実施形態に係り、外側のエラストマチューブが取り外されて、拡張した状態にあって、V字状に切られた内側層を示している調整可能シースの正面斜視図である。
【
図7b】本発明の実施形態に係り、拡張した状態、部分的に拡張した状態、及び収縮した状態にある内側層をそれぞれ示す側方断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係り、直線状に切られた、螺旋状に切られた、及びV字状に切られた内側層をそれぞれ有する調整可能なシースについて、シースの曲げ性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明のいくつかの態様について、以下の実施形態で説明する。
【0063】
図1に示したコンピュータ断層撮影スキャンの画像は、大腿動脈から左右の腸骨動脈を経て腹部動脈に至る動脈経路を介し、機械式大動脈弁などの着脱可能または埋め込み可能な医療デバイスを送り込む際に、当該医療デバイスがとるべき通路の経路を示している。右大腿動脈及び左大腿動脈の末端部分は、それぞれ110(a)及び110(b)で示される。右腸骨動脈及び左腸骨動脈は、それぞれ120(a)及び120(b)で示され、腹部動脈は130で示される。大腿動脈に挿入された医療デバイスの、腹部動脈に至る通過経路は、右大腿動脈120(a)を介した進入については左画像に、左大腿動脈120(b)を介した進入については右画像に、それぞれ点線に沿って示される。
【0064】
図1に示す経路の通路の形状は、配置のために求められる位置に到達するために、挿入中に医療デバイスが越えなければならないいくつかの血管湾曲を示している。画像は、2次元のみであるので、骨盤を含む複雑な骨構造の周りを3次元で通らなければならない経路を示すものではない。使用の際、デバイスは、一般的に、血管系に当該デバイスを通して操作するために、細長いイントロデューサに取り付けられ、多くの場合、デバイスを血管の管腔に通すために、かなりの力がイントロデューサに加えられる。この処理の際、血管が最も狭い場所では、血管損傷の最大のリスクが生じる。本明細書に記載する形式のイントロデューサシースは、医療デバイス及び/またはイントロデューサの挿入によって生じる損傷から管腔面を保護する。デバイスの特性、または挿入の位置もしくは送り込む位置に応じ、イントロデューサシースは、血管の開口部の周りへの配置及び保護のための短い構造、及び血管内への短い通路としてもよいし、管腔壁のより長い部分を保護するために、より長い通路が血管の開口部から延在するように長くしてもよい。
【0065】
図2は、上述のようなイントロデューサシースとして使用するのに適した調整可能なシース200を示す。調整可能なシース200は、大まかには硬質で円筒状のカラー210と、細長い先細状のスリーブ220との2つの主要構成要素から構成される。カラー210は、スリーブ220の大きい方の開口部を通ってスリーブ220の内側管腔内に材料を供給可能となるように構成された中空構造である。円筒状のカラー210は、使用者がカラーを取り扱って、物体または材料を通過させることができるように、硬質材料で形成される。このカラー210は、スリーブ220の大きい方の開口部と同様の直径の狭められた開口部で終端しており、スリーブ220をその中に配置して固定可能とすることにより、これら2つの構成要素が接続される。
【0066】
スリーブ220は、患者の血管系に進入するために形成された切開部内への挿入を容易にするために、カラー210から離れるに従って先細になっている。スリーブ220は、血管内へのシースの挿入及び進行を容易にするために、近位端230から先細になり、遠位端240に向かって狭くなっていく、滑らかで可撓性を有した構造となっている。スリーブ220は、より大きなイントロデューサ、弁、またはそれ以外の医療デバイスがスリーブの管腔を通して患者に導入できるように伸縮可能であって、デバイスの周りで拡張することができ、血管を通って移動するときに血管の管腔壁を穏やかに押し、その後にデバイスが除去される際には、デバイスが患者から穏やかに除去できるように、その元の大きさと同様の大きさに収縮することもできる。
【0067】
図3は、カラー210の構造を示す。
図3aは、止血弁(図示せず)を内部に有する弁部310と、血管に進入するための入口または他のコネクタを提供するコネクタ部320と、スリーブ220(図示せず)を内部に固定するための固定部330とを含む、カラー210内に形成された3つの主要部分を示す。
図3bは、弁部310内に配置された止血弁340の配置を示す。止血弁340は、突き刺されるか、または突き通され、デバイスがシースカラーを通ってスリーブの管腔内へ進入できるようにしてもよく、血管からの流体の逆流を防止するために、閉弁状態に戻ることになる。
図3cは、患者に流体を導入するために、医療用流体導管をシースカラーに接続するための入口350の配置を示す。
【0068】
カラー210は、ポリエチレン、ポリエステル、またはポリプロピレンといった硬質ポリマから形成されるが、当業者が意図する目的に適合していると判定された任意の硬質の生体適合性材料から同様に形成してもよい。
【0069】
図4aは、カラー210の外観及びスリーブ220の外面を示す、拡張可能なシース200の側面図である。スリーブ220は、2つの薄い可撓性を有した層である外側エラストマチューブ410及び拡張可能内側層420から形成される。外側エラストマチューブ410は、巻かれて拡張可能内側層420を形成するシートを中に保持する先細の細長いチューブとして形成される。
【0070】
外側エラストマチューブ410は、スリーブの管腔内から圧力が加えられると伸張することができるエラストマ材料から形成されるが、内圧が減じられると、スリーブを実質的に元の直径に戻す。外側エラストマチューブは、弛緩状態では0.2mm未満、好ましくは0.1mm未満の壁厚を有する。外側エラストマチューブ410は、シリコーンから形成されることで、弾性を最大限にすると共に壁厚を最小限とし、それによって、血管系への損障の危険性を最小にする。但し、当業者は、適切な特性を有すると判定すれば、これに使用するために別の材料を選択してもよい。これらの材料には、ラテックスゴム、またはニトリルゴム、ポリ塩化ビニル、ネオプレン、ポリプロピレン、及びポリイソプレンなどを含む非ラテックス代替物などの材料を含めてもよい。
【0071】
図4aは、点A-A、B-B、C-Cにおける断面点を示す。
図4bは、点A-Aにおける切断断面を示しており、スリーブが、近位端230において、最も大きな直径にあって弛緩状態にあり、それによって、外側エラストマチューブ410も、その最も大きな直径にあることを示している。A-A断面では、拡張可能内側層420が、スリーブ220の内周全周にわたって均一の厚みの単一層となっている。
【0072】
図4cは、点B-Bにおける切断断面を示しており、スリーブ220の内部構造が示され、外側エラストマチューブ410が、先細状であって、A-A断面における直径よりも小さい直径を有している。拡張可能内側層420は、当該内側層が2回折り重なる程度に重なり合っているように示されている。一方、
図4dは、点C-Cにおける切断断面を示しており、スリーブ220の内部構造が示され、外側エラストマチューブ410が、スリーブ220の遠位端240において最も小さい状態にある。この点において、拡張可能内側層420は、当該内側層が3回折り重なる程度に重なり合っているように示されている。
【0073】
内側のチューブは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、またはそれ以外のフィルム状の材料などのポリマ材料から形成されてもよい。
【0074】
拡張可能内側層420は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、またはそれ以外のフィルム状材料シートといったポリマ材料のシートとして形成され、外側エラストマチューブ410とほぼ同じ長さで、スリーブ220の遠位端240内において3回巻くのに必要な幅に切断加工される。適切な材料は、遠位端における螺旋ピッチに約1を加えたものに等しいピッチで螺旋状に巻かれたときの剛性に応じて選択される。但し、当業者には周知のとおり、拡張可能内側層420の形成には、いくつかの材料が適合する可能性がある。
【0075】
拡張可能内側層は、丸められたシートまたは巻かれたシートで構成してもよいが、より良好な構成は、押出成形チューブから始め、その後に、その長手方向軸線に沿って切り進め、次に、シート部分を丸めるかまたは巻くものである。適切な材料は、永久変形することのない伸縮を可能にする弾力性と柔軟性とのバランスを有し、座屈やつぶれに抗するものである。好ましい材料の選択肢は、ポリプロピレンまたはポリエチレンである。
【0076】
拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ410は、近位端230において互いに対し固定される。両者は、溶接、接着、もしくはクランプにより、またはそれぞれをカラー210に取り付けることによって結合するようにしてもよい。拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ420は、スリーブ220の長手方向に沿って、互いに対して自由に動くことができる。オイル、グリース、ヒドロゲル、またはそれ以外の低摩擦表面処理剤といった潤滑剤を、拡張可能内側層420と外側エラストマチューブ420との間に塗布し、相互間の移動を容易にしてもよい。スリーブ220の遠位端240において、拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ410は、外側エラストマチューブ410の円周の一部分で互いに結合するようにしてもよい。両者は、溶接、接着、または縫合によって取り付けてもよい。
【0077】
また、拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ410には、感知のために、ステンレス鋼、チタン、ニッケルチタニウム合金、またはそれ以外の金属もしくは金属合金といったX線不透過性材料を縫合またはステープル留めしてもよい。
【0078】
図5a~5cは、調節可能なシース200の内部管腔にイントロデューサデバイス510を通す際の、調節可能なシース200の例示的な使用を示す。血管系への挿入の際、イントロデューサデバイス510は、止血弁340を通過し、シースカラー210の内部管腔を通して押し込み、スリーブ220の拡張可能内側層420(図示せず)を通して挿入することが可能である。
図5bに示すように、イントロデューサデバイス510は、拡張可能内側層420を通り、スリーブ220の遠位端240から突出する。イントロデューサデバイス510の先細状端部520は、外側エラストマチューブ410の遠位端240内に一時的に保持することができる。
図5cは、拡張可能内側層420が徐々に拡張して、自らが重なり合う程度が減少することを示す。
【0079】
更に、拡張可能内側層420を通したデバイスの送り込みの容易性を増すために、その管腔壁の内面は、シリコーン、もしくはグリセリン油、PTFE、親水性ポリマ、またはそれ以外の低摩擦面といった潤滑性コーティングで被覆してもよい。
【0080】
同様に、外側エラストマチューブ410は、外面を低摩擦層で被覆して、血管系への挿入し易さを増大することができる。表面処理には、拡張可能内側層に適用される可能性のあるもののほか、感染またはアレルギを治療または回避するための医薬剤を含有可能なヒドロゲル系のコーティングを含めることができる。
【0081】
イントロデューサデバイス510は、その先端部分に、拡張可能内側層420の内側形状に適合する先細形状を有するように形成される。但し、このイントロデューサデバイス510は、拡張可能内側層420の内径に合致するように、均一な直径で形成されてもよいし、その近位端及び遠位端において、拡張可能内側層420のそれぞれの内径に合致するように、階段状の直径で形成されてもよい。調節可能なシースを血管内に挿入した後、イントロデューサデバイス510を取り外し、調節可能なシース200の内部管腔に別のデバイスを通すことができる。
【0082】
イントロデューサデバイス510は、血管内に事前に挿入されたワイヤの通過を可能にする小さな孔を、その先端部分に備えていてもよい。
【0083】
イントロデューサデバイス510は、複数の部材で構成し、外側を2つ以上の部材の間で一時的にクランプして、使用者が、イントロデューサデバイス510の部材の位置を調整し、外側エラストマチューブ410を解放することができるようにしてもよい。これに代わる実施形態では、外側エラストマチューブ410が、遠位端240の拡張可能内側層420内で折り重ねられてもよく、上述のように、血管挿入中にイントロデューサデバイス510によって保持され、イントロデューサデバイス510を取り外す際に解放された状態になるようにしてもよい。
【0084】
図6a~
図6cは、外側エラストマチューブ410が取り外された状態の調整可能なシース200を示す。
図6aに示すように、拡張可能内側層420は、重なり合うように先細形状に巻かれたときに、単一の長手方向接合線610を有するようにカットされたシートとして形成される。近位端230において、外側エラストマチューブ410は、血管開口部に対する強力なシールを助長するために、先細状でない部分を有する。先細状ではない近位端230は、拡張可能内側層420の残りの部分と円周方向でつながっているが、連続した軸線周りの継ぎ目または接合線を共有している。
【0085】
拡張可能内側層420は、切断されて多くの異なる形状に成形されてもよい。これに代えて、拡張可能内側層420は、その弛緩状態において、先細状ではない円筒を形成するように巻かれてもよく、この場合、その先細形状は、先細状の外側チューブによってもたらされる。
【0086】
図6b及び
図6cは、拡張可能内側層420が、先細部630の遠位端240において、先細部630を非先細部640から分離する切欠部620によって更に特徴付けられるような、任意選択の特徴を示す。切欠部620は、拡張可能内側層420に開口650を形成し、それにより、開口650がスリーブ220の周方向に部分的に延在し、スリーブ220のねじれ及び局所的つぶれを引き起こすことなく、先細部630が非先細部640に連続することを可能にする。また、切欠部620は、挿入されるデバイスが、拡張可能内側層と外側エラストマチューブとの間に誤って送り込まれる危険性を低減することによって、製造の容易性を増大させ得る。また、調整可能なシースの座屈強度及びねじれ強度を向上させることもできる。開口部の形状は、種々の形状、例えば、円形、三角形、卵形、またはT字状といった様々な形状となるように選択することができる。選択された形状は、調整可能なシースの所望の物理的特性についての試行錯誤及び試験によって最適化するようにしてもよい。
【0087】
図6cは、先細部630が不連続であるような別の実施形態を示す。この不連続部分は、先細部630の全長に沿って長方形であるが、先細部の長手方向に沿った重なり合いの程度は、近位端部から遠位端部に向けて増大していき、チューブの長手方向に沿って螺旋状縁部650を生成する。
【0088】
図7aは、別の実施形態を示すものであって、ここでは、拡張状態において、縁部が平行でなく、即ちV字状のカットを形成し、遠位端における内側層の円周が、近位端における内側層の円周よりも小さい。この様な構成により、
図7aに示すように、層の重なりによる材料の厚さの減少によって、より小さい全体的な遠位直径を容易に得ることができる。過剰に拡張した場合、先細部630は、接合線610で分離する。拡張可能内側層420の一方の鈍利な縁部が、拡張可能内側層420の他方の鈍利な縁部に対して楔となる結果として、拡張可能内側層420が、血管内で拡張した状態に固定されるのを防止するため、重なり合う部分の縁部は、丸められるか、または直角ではない角度で切断されるようにしてもよい。
図7bは、直角ではない角度で切断したときに、過剰な拡張の後に収縮したときの、拡張可能内側層420の一方の縁部の他方の縁部に対する移動を示す。縁部の一方が他方に当接すると、外側の縁部710は、拡張可能内側層420が、ほぼ元の位置に巻き戻るまで、内側の縁部710の上を摺動する。
【0089】
別の実施形態において、拡張可能内側層420は、寸法「W」の厚さを特徴とし、「W」と「2W」との間の螺旋ピッチで螺旋状に巻かれた、連続する帯板またはワイヤによって形成される。螺旋状の巻体は、チタン、チタン合金、もしくはステンレス鋼などのワイヤ、またはポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはそれ以外の生体適合性材料などのポリマ材料から形成することができる。螺旋状の巻体は、遠位端から近位端に向けて先細になっている。
【0090】
更に別の実施形態において、拡張可能内側層420は、連続する薄い帯板によって形成され、当該帯板は、直交する方向に巻かれた一連の複数のコイル体が、連続する帯板の一端から当該帯板上に巻き戻るように延在している。巻かれたコイル体は、代表的には1mmから10mmの間の長さであり、それらは0.1mmから10mmの間隔を有する。特定の実施形態において、それぞれのコイル体の直径は、連続する帯板の長手方向に沿って一定であってもよいし、長手方向に沿って直径を変化させることによって、少なくとも遠位端におけるコイル体が、近位端におけるコイル体よりも小さい直径となるようにしてもよい。
【0091】
調節可能なシースを血管系内に挿入する前に、外側エラストマチューブ410と拡張可能内側層420との間に捕われている空気を除去できるようにするため、特定の実施形態では、外側エラストマチューブ410の近位端230に開口部を設け、この開口部が弁(図示せず)で閉鎖されるようにしてもよい。使用に際しては、医療処置の前に、この弁を介し、生理食塩水または滅菌剤などの液体を、内側のチューブと外側のチューブとの間の空間に導入するようにしてもよい。
【0092】
医療処置中にX線撮像装置による調整可能なシースの視認性を向上するために、放射線不透過性マーカを、スリーブ、具体的には遠位端240に組み込んでもよい。このマーカは、チューブに接着または縫合されたニチノールなどの金属ワイヤ、またはチューブに接着されたタングステン入りのナイロン、ポリエチレン、もしくはポリウレタンなどのポリマ系材料、または当業者に公知の同様の構成としてもよい。放射線不透過性マーカは、拡張可能内側層420または外側エラストマチューブ410の任意の数の場所のいずれかに組み込むことができる。
【0093】
<実施形態の予備試験>
[伸縮]
試験内容:シース内にイントロデューサを挿入する前、及びイントロデューサを引き抜いた後に、シースの直径を測定する。元の直径に対するシースの収縮率を報告する。イントロデューサを引き抜くのに必要な力を報告する。
【0094】
判定基準:目標最大収縮率。
【0095】
試験サンプル数:基準シース、直線状に切られた先細状の試作シース、螺旋状に切られた先細状の試作シース、及びV字状に切られた先細状の試作シースの1サンプル。
【0096】
方法:試験したシースの近位外径及び遠位端外径を、イントロデューサの挿入前に測定した。次に、イントロデューサを、遠位端から突出するまで、シースに挿入した。次に、イントロデューサをシースから引き抜き、完全に取り出した。引き抜く際のなんらかの困難性を評価するため、イントロデューサを引き抜くための力を記録した。次に、収縮量またはスプリングバックの量を評価するため、シースの遠位端外径を再度測定した。次に、収縮の比率を、最初の遠位側縮小量に対する比率として計算した。
【0097】
【0098】
全てのサンプルは、イントロデューサの滑らかな挿入を受けるものであって、イントロデューサを挿入するために、なんら過大な力を必要としなかった。全ての調整可能なシースは、イントロデューサがシースの端部から突出した後に、シースの能力の限界まで収縮する特徴を明確に示した。
【0099】
イントロデューサを引き抜いた後、V字状に切られた試料は、切断端部がぶつかり合って、正しく重なり合わなかったため、完全には収縮しなかった。V字状に切られた試料の外側層は、内側層の端部から約4mm引き戻されたが、これは恐らく、イントロデューサに対する摩擦の増加によるものである。
【0100】
結論:全ての試作シースが、イントロデューサを挿入して引き抜いた後に収縮する能力を明確に示した。V字状に切られた試料は、最小の遠位端測定値を示したが、意図した通りには収縮しなかった。直線状に切られた試料、及び螺旋状に切られた試料は、ほぼ同等の性能を示したが、好ましい構成を選択する際には、他の性能特性を考慮すべきである。弁送り込み機構を引き抜くために必要な力は、各構成のいずれについても過大ではなく、使用者に対する問題、または損傷の危険性を引き起こすことにはならない。
【0101】
[曲げ性]
試験内容:イントロデューサなしで、シースを最大30°の角度で曲げるのに必要な力を測定する。
【0102】
判定基準:シースを30°までの角度に曲げる力。この力は、基準となる力を超えてはならない。
【0103】
試験サンプル数:基準シース、直線状に切られた先細状の試作シース、螺旋状に切られた先細状の試作シース、及びV字状に切られた先細状の試作シースの1サンプル。
【0104】
方法:シースを保持するための治具を、200mmの片持梁長さで構築した。手持ち式力ゲージを用いてシースを曲げ、加えた力をグラム単位で表示した。加えた力を、整合のためにNに変換した。
【0105】
結果:以下の表は、各試料を曲げる力をNで示している。
【表2】
【0106】
結論:全ての試作シースが、基準サンプルと比較して、改善された曲げ性を明確に示した。3つの異なる試作シースは、
図8に示すように、異なる曲げ性及び剛性を示した。
【0107】
[シースの捻り特性]
試験内容:シースを捻るのに必要な力、及び捻れが生じる角度を測定する。
【0108】
判定基準:シースを捻るのに必要な角度は、基準を超える必要がある。
【0109】
試験サンプル数:基準シース、直線状に切られた先細状の試作シース、螺旋状に切られた先細状の試作シース、及びV字状に切られた先細状の試作シースの1サンプル。
【0110】
方法:シースを保持するための治具を、200mmの片持梁長さで構築した。手持ち式力ゲージを用いてシースを曲げ、加えた力をグラム単位で表示した。加えた力を、整合のためにNに変換した。捻りに対する角度は、テンプレートを参照して読み取られ、シースの軸線と、曲げ点からシースの遠位端を結ぶ線との間の角度を表す。
【0111】
【0112】
螺旋状に切られた試料、及びV字状に切られた試料は、捻れることなく90度の角度を超えて曲がることができた。これらの試料が試験能力を超えたため、この時点で、試料の試験を停止した。
【0113】
結論:全ての試作デバイスが、基準と比較して、捻りに対する改善された抵抗性を明確に示した。V字状に切られた試料、及び螺旋状に切られた試料は、いずれも、捻れることなく、直線状に切られた試料よりも曲げられた。
【0114】
<実施形態の製造>
調節可能なシースは、拡張可能内側層及び外側エラストマチューブを製造し、これら構成要素の両方を、止血弁を有した市販のカラーに組み付け、接着することによって構成される。
【0115】
拡張可能内側層は、標準的な押出成形技術または射出成形技術に従い、医療品質等級のポリアミドから製造される。直線状に切られた内側層の場合、原材料が、先細状の長い円筒状に押出成形され、成形体の長さ方向に沿って切り込まれる。
【0116】
螺旋状の内側層の場合は、内側層が所望の大きさ及び形状に成形されると、この内側層を所望の直径のモールドの周囲で熱収縮させ、カラーに接着するための円筒部分を形成する。内側層の残りのシート部分は、外側エラストマチューブ内で螺旋状にするのに必要な形状となるよう、斜めの角度で切られる。
【0117】
外側エラストマチューブは、薄いシリコーンシート及び管状構造を成形し硬化させるのに適していることが当業者に知られている樹脂成形技術を用い、シリコーンから所望の先細形状に形成される。外側エラストマチューブの近位部分は、拡張可能内側層の円筒状の部分と同じか、またはわずかに大きい直径に形成される。
【0118】
拡張可能内側層のシート部分は、手作業により、外側エラストマチューブよりも小さい直径で螺旋状に巻かれ、近位端でチューブに整列してから当該チューブ内に配置される。少量の接着剤が、先細状のスリーブの近位端部(即ち、大きい方の端部)に塗布されることにより、接着剤が外側エラストマチューブと拡張可能内側層とに接する。次に、近位端部を、市販の止血弁の開口部の周りに配置し、拡張可能内側層及び外側エラストマチューブの両方を、止血弁のカラーに結合する。接着剤が硬化すれば、シースは使用の準備が整う。
【0119】
本明細書の全体を通し、用語「備える(comprise)」、または「備える(comprises)」もしくは「備えている(comprising)」のような変形は、記載した要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップのグループを包含することを意味しているが、他の要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップのグループの排除を意味するものではないことが理解されよう。
【0120】
用語「固定具」、または「締結」、「連結」、もしくは「封止」は、単独で、または「手段」などの別の語と一緒に使用されるときに、その用語の解釈が、当業者によって別のものと機能的に互換性があると見なされ得る場合、互換性を有して使用されてもよいことが理解されよう。更に、前述の用語のうちの1つの使用は、別の用語が含まれる場合の解釈を排除しない。
【0121】
本明細書に記載されるような、様々な装置及び装置の構成要素は、必要に応じ、様々な大きさ及び/または寸法で設けられてもよい。適切な大きさ及び/または寸法は、接続する構成要素の仕様、または使用分野に応じて変化し、当業者が選択し得るものである。
【0122】
本明細書の一実施形態に関して説明がなされた特徴、要素、及び/または特性は、必要に応じ、本発明の別の実施形態と共に使用してもよいことが理解されよう。
【0123】
本明細書の好ましい実施形態は、例示の目的で開示したが、当業者は、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載の範囲及び趣旨から逸脱することなく、様々な変形、付加、及び置換が可能であると理解されよう。
【0124】
要素または層が、別の要素または層の「上に」または「内部に」あると言及する場合、要素または層が、別の要素または層の上または内部に直接的に存在することが可能であると理解されよう。これに対し、要素が、別の要素または層の「上に直接」または「内部に直接」存在すると言及する場合には、介在する要素または層が存在しないことが理解されよう。
【0125】
本明細書で使用する場合、用語「及び/または」は、一緒に列挙した項目のうちの1つまたは複数の任意の組合せ及び全ての組合せを含むものである。
【0126】
第1、第2、第3などの用語は、様々な要素、構成要素、領域、層、及び/または部分を説明するために本明細書において使用する場合があるが、これらの要素、構成要素、領域、層、及び/または部分は、これらの用語によって限定されるべきではないことが理解されよう。これらの用語は、ある要素、構成要素、領域、層、または部分を、別の領域、層、または部分と区別するためにのみ使用される。従って、本明細書の教示から逸脱することなく、第1の要素、構成要素、領域、層、または部分を、第2の要素、構成要素、領域、層、または部分と呼んでもよい。
【0127】
「下方」、「上方」、「上端」、「下端」、「左側」、「右側」などの空間的に相対的な用語は、本明細書では説明を容易にするために、図に示すように、ある要素または特徴の、別の要素または特徴に対する関係を説明するために使用する場合がある。空間的に相対的な用語は、図に示す向きに加え、使用時または動作時における構成物の異なる向きを包含することが意図されると理解されよう。例えば、図中のデバイスが裏返される場合、他の要素または特徴に対して「下方」と記載される要素は、他の要素または特徴に対して「上方」に位置することになる。従って、例示的な用語「下方」は、上方及び下方の両方の向きを包含し得る。デバイスは、別の方法で方向が定められる場合もあり(90度の回転、またはそれ以外の向き)、本明細書で使用する空間的に相対的な記述語は、それに応じて解釈されるべきである。
【0128】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の限定を意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別段に明確に示さない限り、複数形も含むことが意図される。用語「含む」、「備える」、及び/または「備えている」は、本明細書で使用する場合、記載した特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/または構成要素の存在を特定するが、1つ以上の別の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/またはそれらのグループの存在または付加を排除するものではないことが更に理解されよう。
【0129】
本明細書では、例えば、開示する好ましい実施形態(及び中間の構造)の概要を例示した図及び/または断面図に基づき、実施形態を説明している。このとき、例えば、製造技術及び/または公差に起因して、図示形状からの変形が予測される。従って、開示する実施形態は、本明細書に示した構成要素の特定の形状に限定されると解釈すべきではなく、例えば、製造に起因する形状の誤差を含むものである。
【0130】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本明細書が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。更に、一般的に使用される辞書で定義されるような用語は、関連技術の文脈におけるそれらの用語の意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義しない限り、理想化された、または過度に形式的な意味で解釈すべきではないことが理解されよう。
【0131】
本明細書における「1つの実施形態」、「一実施形態」、「例示的な実施形態」などへの言及は、いずれも、当該実施形態に関して説明した特定の特徴、構成、または特性が、開示した少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所におけるこのような語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているわけではない。更に、特定の特徴、構造、または特性が、いずれかの実施形態に関して記載される場合、そのような特徴、構造、または特性を、実施形態のうちの別のものに関して実施及び/または使用することは、当業者の理解し得る範囲内である。
【0132】
また、実施形態は、上述の記載において開示された要素のいずれかまたは全てについての使用方法及び製造方法を含むか、またはこれら方法までを範囲とすることを意図するものである。
【0133】
上述のとおり、具体的な実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、開示したこれらの実施形態に限定されるものではないと理解すべきである。本明細書の教示を読むことにより、本発明が関係する技術分野の当業者には、本発明の多くの変更及び別の実施形態が想起されるであろうが、それらは、本明細書及び添付の特許請求の範囲の両方によって意図されるものであり、包含されるものである。
【0134】
本明細書で言及する全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている文書、行為、物質、デバイス、物品等のいかなる記述も、単に本発明に関する状況を示すことを目的とするものである。これらの事項のいずれかまたは全てが、本出願の優先権請求の日より前に、オーストラリアまたはそれ以外の場所に存在していたとして、先行技術の根拠の一部を形成し、または本発明の関連分野における周知事項であったことを容認するものとは解釈すべきではない。
【0135】
実際、本発明の範囲は、本明細書及び添付の図面の開示に基づいて当業者が理解するような、添付の特許請求の範囲及びそれらの法的均等物の適切な解釈及び構成によって決定されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の血管または管内への医療デバイスの導入から前記身体の血管または管の管腔面を保護するための伸縮式シースであって、
弁を備える、内部に延在する開口部を画定する内面を有した硬質カラーと、
外側チューブ近位端に位置する外側チューブ近位開口部と、外側チューブ遠位端に位置する外側チューブ遠位開口部とを有し、前記外側チューブ近位開口部と前記外側チューブ遠位開口部との間に外側チューブ管腔路を画定し、前記外側チューブ近位端が前記硬質カラーに固定されている、連続するエラストマ外側チューブと、
外側シート表面と内側シート表面を有する巻かれた不連続なシートから形成され、内側チューブ近位端に位置する内側チューブ近位開口部と、内側チューブ遠位端に位置する内側チューブ遠位開口部とを有し、前記内側チューブ近位開口部と前記内側チューブ遠位開口部との間に内側チューブ管腔路を画定し、前記内側チューブ近位端が前記硬質カラーに固定されている、少なくとも部分的に不連続な内側チューブと、を備え、
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、前記外側チューブ管腔路内に配置され、周方向に伸縮可能な細長スリーブを形成し、前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの一部は、前記連続するエラストマ外側チューブとは独立して移動可能であり、前記外側シート表面は、外側チューブ管腔表面に対して摺動可能である、
伸縮式シース。
【請求項2】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの前記外側シート表面は、前記外側チューブ管腔表面と直接接触し、前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、前記連続するエラストマ外側チューブとは独立して移動可能であり、前記外側シート表面は、外側チューブ管腔表面に対して摺動可能である、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項3】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、少なくとも2つの層の積層から形成された巻かれた不連続なシートであり、第1の層は低摩擦ポリマからなる群から選択される材料を含み、第2の層は構造的生体適合性材料およびシート織り生体適合性メッシュからなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項4】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、少なくとも3つの層の積層から形成された巻かれた不連続なシートであり、第1の層は低摩擦ポリマからなる群から選択される材料を含み、第2の層は構造的生体適合性材料およびシート織り生体適合性メッシュからなる群から選択される材料を含み、第3の層は低摩擦ポリマを含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項5】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、フッ素化ポリマを含む第1の層から形成された巻かれた不連続なシートであり、前記第1の層は前記内側シート表面も提供し、ナイロンを含む第2の層と結合される、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項6】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、フッ素化ポリマを含む第1の層から形成された巻かれた不連続なシートであり、前記第1の層は前記内側シート表面も提供し、ナイロンを含む第2層と結合され、第3の層は長手方向補強要素、軸方向補強要素、または編組補強要素のいずれか1つを含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項7】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、少なくとも第1の巻かれた不連続なシートから形成され、前記第1の巻かれた不連続なシートは前記内側シート表面を提供し、前記部分的に不連続なチューブは第2の不連続なシートをさらに含み、前記第2の不連続なシートは前記外側シート表面を提供し、前記連続するエラストマ外側チューブはエラストマチューブ内面およびエラストマチューブ外面を提供する、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項8】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、少なくとも第1の巻かれた不連続なシートから形成され、前記第1の巻かれた不連続なシートは前記内側シート表面を提供し、前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは第2の不連続なシートをさらに含み、前記第2の不連続なシートは前記外側シート表面を提供し、さらに前記第1の巻かれた不連続なシートと前記第2の不連続なシートとの間に配置された少なくとも1つの中間不連続なシートを含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項9】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、斜めの縁部を有する巻かれた不連続なシートから形成され、前記巻かれた不連続なシートは、前記斜めの縁部に沿って前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの長さの周りに丸められている、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項10】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、斜めの縁部を有する巻かれた不連続なシートから形成され、前記巻かれた不連続なシートは、前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの長さの周りに、前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの長さの約0.3倍から前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの長さの少なくとも2倍までのピッチで、前記斜めの縁部に沿って丸められている、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項11】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、内側シート表面に鋭いエッジを有する斜めの縁部を有する巻かれた不連続なシートから形成され、前記巻かれた不連続なシートは、前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの長さの周りに前記斜めの縁部に沿って巻かれる丸められている、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項12】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、前記内側チューブ近位端の厚さが前記内側チューブ遠位端の厚さよりも大きい、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項13】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、厚さが約0.05mm~0.5mmのチューブ部分を備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項14】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、厚さが約0.1mm~0.4mmのチューブ部分を備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項15】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、厚さが約0.25mm~0.35mmのチューブ部分を備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項16】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、前記内側チューブの遠位端に位置する、金属または放射線不透過性ポリマからなる群から選択される放射線不透過性材料を含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項17】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、実質的に前記内側チューブの長さに沿って配置される、金属または放射線不透過性ポリマからなる群から選択される放射線不透過性材料を含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項18】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、前記内側チューブ近位端の第1の先細チューブ部分と、前記内側チューブ遠位端の第2の先細チューブ部分と、それらの間の非先細部分とを含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項19】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、前記内側チューブ近位端の第1の非先細チューブ部分と、前記内側チューブ遠位端の第2の非先細チューブ部分と、それらの間の先細部分とを含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項20】
前記連続するエラストマ外側チューブは、前記外側チューブ近位端の厚さが前記外側チューブ遠位端の厚さよりも大きい、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項21】
前記連続するエラストマ外側チューブは、長手方向補強要素を含む複合材料から形成される、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項22】
前記連続するエラストマ外側チューブは、第1の厚さを有する第1のチューブ部分と、第2の厚さを有する第2のチューブ部分とを含む、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項23】
前記連続するエラストマ外側チューブは、第1の厚さを有する第1のチューブ部分と、第2の厚さを有する第2のチューブ部分とを含み、前記第1のチューブ部分は前記外側チューブ近位端に位置し、長さが約30mm~100mmである、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項24】
前記連続するエラストマ外側チューブは、前記外側チューブ近位端の硬度が前記外側チューブ遠位端の硬度よりも高い、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項25】
前記連続するエラストマ外側チューブは、前記外側チューブ近位端が前記外側チューブ遠位端よりも10Aから90A硬い、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項26】
外側シート表面、内側シート表面、エラストマチューブ外面、またはエラストマチューブ内面のいずれかに塗布される潤滑層または表面コーティングを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項27】
内側シート表面に塗布される潤滑層または表面コーティングを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項28】
外側シート表面、内側シート表面、エラストマチューブ外面、またはエラストマチューブ内面のいずれかに塗布される、フッ素ポリマ、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリマブレンド、および放射線不透過性添加剤からなる群から選択される潤滑層または表面コーティングを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項29】
内側シート表面に塗布されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の潤滑層または表面コーティングを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項30】
内側シート表面または外側シート表面に塗布されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、硫酸バリウム、酸化チタン、ビスマス化合物、またはオイルの潤滑層または表面コーティングを備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項31】
エラストマチューブ外面に塗布される、紫外線または熱硬化親水性コーティング、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムコーティング、および液体コーティングからなる群から選択される潤滑層を備える、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項32】
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブは、
前記連続するエラストマ外側チューブとは独立して移動可能であり、前記外側シート表面は外側チューブ管腔表面に対して摺動可能であり、
斜めの縁部を有する巻かれた不連続なシートから形成され、前記巻かれた不連続なシートは、前記斜めの縁部に沿って前記少なくとも部分的に不連続な内管の長さの周りに丸められ、
前記内側チューブ近位端の厚さが前記内側チューブ遠位端の厚さよりも大きい、
前記内側チューブの遠位端に位置する、金属または放射線不透過性ポリマからなる群から選択される放射線不透過性材料を含み、および
前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブの前記外側シート表面は、前記外側チューブ管腔表面、および前記少なくとも部分的に不連続な内側チューブと直接接触する、請求項1に記載の伸縮式シース。
【請求項33】
前記連続するエラストマ外側チューブは、長手方向補強要素を含む複合材料から形成される、請求項32に記載の伸縮式シース。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野は、概ね、体内に挿入して様々な医療デバイスに血管内への進入を提供するための調整可能なシースデバイスに関する。これには、全ての動脈及び血管系への進入、腹腔及び胸腔の処置、脳脊髄の処置、泌尿生殖器及び婦人科の処置、並びに上部消化管及び結腸直腸の処置が含まれるが、これらに限定されない。本発明の具現化により、全般的に、医療デバイスがシースを通過するときに血管内で拡張可能であると共に、医療デバイスをシースから除去するときにほぼ元の大きさに戻るように収縮可能な、動的に拡張可能なシースを提供する。
【背景技術】
【0002】
血管用イントロデューサシースは、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)、並びに血管形成術及びステント留置といった血管内処置に一般的なものであって、ワイヤ、バルーン、及び圧力トランスデューサといった着脱可能なデバイスを導入するための、並びに機械式大動脈弁及びステントといった埋め込み可能なデバイスを導入して配置するための、血管系への進入を容易にするものである。
【0003】
血管用イントロデューサシースは、単一の中空で環状のカフ、即ちスリーブからなるのが一般的であり、このイントロデューサシースが挿入され、操作されて、患者の血管系内に配置されると、このスリーブを介し、デバイスを通過させることが可能となる。スリーブは、環状のカラーで一端が終端しており、このカラーは、患者の皮膚の上に置かれ、血管への開口部内に配置される。このカラーは、血管への開口部の周りに一時的なシールを形成するのが一般的であり、患者の血管系内に向け、デバイス及び流体をスリーブの空洞に通すことが可能とするような、1つ以上の入口を備えることがある。
【0004】
また、血管用イントロデューサシースは、特にデバイスが血管の管腔に対して大きい場合に、血管系への医療デバイスの挿入によって生じ得る物理的損傷から血管を保護するように構成される。例えば、TAVRの処置は、大腿動脈を介して行われるのが一般的であり、この大腿動脈は、高齢の患者では、デバイス自体よりも直径が小さい場合が多い。このことは、しばしば、動脈壁とデバイスとの間の剪断力による動脈の損傷を引き起こす。
【0005】
血管内デバイスの安全で妨害のない通過が可能となる十分な大きさになるまで、血管開口部または血管を拡げるために、直径が増大する一連のイントロデューサシースの挿入及び除去が、血管内処置中に一般的に行われている。患者の血管系の大きさに応じ、小さい直径のイントロデューサシースの導入から処置が始められ、開口部及びイントロデューサシースが、着脱可能な、または埋め込み可能なデバイスの送り込みが可能な十分な大きさになるまで、直径を次第に増加させる。
【0006】
例えば、経カテーテル大動脈弁の導入及び送り込みには、一般的に、経カテーテル大動脈弁置換システムを送り込むために必要な大きさに応じ、多くの場合14~20フレンチの間の直径である特定の大きさのシース及びイントロデューサの挿入の前に、動脈への進入部位及び血管系を拡張させるための、より小さい直径のイントロデューサの挿入が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
各イントロデューサシースの挿入及び除去は、全体的な処置時間を増加させ、血管壁への損傷の危険性を増大させる。器具の無菌性を維持し、手術室内で無菌処置を採用する試みがなされているものの、血管内開口の存在と患者への異物の導入だけでも、感染のリスクがもたらされ、このようなリスクは、処置の対象物の数及び処置時間の増加につれて増大する。更に、失血及び患者へのストレスは、処置時間及び患者への物体の導入に伴って増大する。イントロデューサシースが患者に挿入され、患者の血管内に挿入される際に、イントロデューサシースが患者の血管系を通って進行すると、血管の管腔面の擦過による血管損傷や、更には血管自体の破裂が、血管の開口部における重大なリスクとなる。
【0008】
血管内処置中に複数のシースを導入する必要性を最小限に抑える拡張式のイントロデューサシースを設計開発しようとする過去の試みは、ほとんど成功していない。拡張式のシースは、小さい直径に収縮しているときに挿入され、血管内に配置されると拡張され、除去前に再び収縮させて、その直径を減少させるように構成される。但し、多くは、シースの長手方向に延びる拡張部分を有した結合複合材料から生成されている。これらのデバイスは複合シース材の一部分のみが拡張可能であるため、最小限に拡張するものであって、多くの場合、より大きな第2または第3のイントロデューサシースを患者に導入する必要性を減らすほど十分には拡張しない。このような複合構造の構成は、拡張部分が血管系を通って無理に押し進められたときに潰れることにより、血管内のイントロデューサシースの「リッジング」、即ち座屈をもたらすような構造の脆弱化が導入されているので、デバイスの破損がしばしば生じる。更に、拡張式のシースは、一般的に、その元の直径まで収縮することができず、それらの除去の際に、血管または血管の開口部に、しばしば損傷を引き起こす。
【0009】
例えば、大腿動脈の開口部を介して患者の体内に配置する場合、イントロデューサシースは、湾曲した、または複雑な血管経路の部分をイントロデューサまたはデバイスが通過することによって生じ得る損傷または外傷から、患者の周辺の血管系を保護する上で、重要な役割を果たす。しかしながら、イントロデューサシースの多くは、これらの湾曲した複雑な血管系の部分を進行するには硬すぎ、その結果、挿入及び配置の際にねじれて座屈し、故障する可能性があるため、多くの手術の際には、依然としてシースなしの手法が頻繁に実施されている。医師は、デバイス自体が、血管の湾曲部分における管腔面に引っ掛かったり傷をつけたりする傾向があるため、腸骨大腿骨系のような複雑な領域を通過するときのシースの安全性と、シースを用いないデバイスとの間でのトレードオフを行う必要がある。
【0010】
より侵襲的でリスクの高い心臓切開手術に代わる実行可能な代替法をもたらすTAVRのような処置では、周辺の血管系を通るガイドワイヤ、イントロデューサ、及び機械式弁自体の安全な通過が、これらの重要な矯正手術の適用可能性を、そうでなければ適合できないような患者群にまで拡大する上で不可欠である。
【0011】
高齢者のような多くの患者群にとって、大動脈弁の機能的欠陥を修正するための伝統的な心臓手術は、リスクが非常に高すぎる。TAVRは、これらの患者にとって、より安全な代替法を提供する。しかしながら、最新の医療技術と概ね最善となる手法とを用い、オーストラリアで実施されたTAVRの処置は、依然として、患者の5.5%が主要血管合併症を患い、8.5%が大出血を伴い、1.6%が脳卒中を、1.6%が心筋梗塞を患うこととなった。TAVRにおけるこれらの血管損傷で可能性のある原因には、患者の血管径、アテローム性動脈硬化症の存在、導入及び回収されたシースの直径、並びにシースの剛性、及びシースのよじれやすさまたは座屈しやすさの度合を含むシースの特性が含まれる。
【0012】
従って、TAVRの際の、これらの血管損傷の領域のいずれか1つに対処することで、TAVRの処置の安全性が向上し、現在は大動脈置換術に適応できないような更に広範な患者群にまで処置を可能とすることが期待される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
様々な観点において、本発明の態様は、血管内への医療デバイスの導入から血管の管腔面を保護するための伸縮式シースに関し、当該伸縮式シースは、内部に延在する通路を画定する内面を有した硬質カラーを備え、前記硬質カラーは、前記硬質カラーに取り付けられて周方向に伸縮可能な細長スリーブを有し、前記細長スリーブは、近位開口部及び遠位開口部を有して、前記近位開口部と前記遠位開口部との間に管腔路を画定し、前記細長スリーブは、連続するエラストマ外側層と、少なくとも部分的に不連続な拡張可能内側層とを含む2つの別個の層を備え、前記拡張可能内側層の不連続部分は、強制的に巻かれるときに、環状に外向きの抗力を生じるような特性が与えられた硬質ポリマシートを備え、前記硬質ポリマシートは、前記連続するエラストマ外側層が形成する管腔内に巻かれて長手方向に延設され、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置されたときに、前記拡張可能内側層の少なくとも一部を形成し、前記硬質カラーは、周方向に伸縮可能な前記細長スリーブの前記近位開口部で、周方向に伸縮可能な前記細長スリーブに取り付けられる。
【0014】
このように構成された態様は、医療デバイスがシースを通過するときに、血管内で拡張することができると共に、医療デバイスがシースから取り外されるときに、収縮してほぼ元の大きさに戻ることができるような動的に拡張可能なシースを提供する。
【0015】
このような機能は、独特の構成概念から達成され、それによって、エラストマ外側層は細長スリーブの拡張に対し、細長スリーブを収縮させるような対抗圧力を加え、拡張可能内側層は、細長スリーブの収縮に対し少量の対抗圧力を加え、拡張可能内側層内に通路を形成するが、エラストマ外側層の対抗圧力は、拡張可能内側層の対抗圧力よりも大きい。このような構成により、医療デバイスが細長スリーブを通過するときに、細長スリーブの受動的な収縮が生じる。この構成は、伸縮式の外側層または単一の伸縮層を有する従来のイントロデューサシースと著しく異なるものであり、このような層は、一般に、半径方向に均等に伸縮することができず、そのため、シースの座屈を引き起こし、またはシースの安全な除去を可能にするほど十分に元の大きさに近付くまで収縮することができない。
【0016】
イントロデューサシースは、血管路のネットワークを進んでいくのに十分な曲げ性、ねじれ及び座屈を防止するのに十分な剛性、並びに周方向に拡張したときや、意に反して屈曲またはねじれたときに、元に戻るのに十分な弾性を含む特性の均衡を与えるものでなければならないことが十分に理解される。本発明の構成概念は、物理的特性の相補性を提供可能にするものである。細長スリーブの各層は、異なる物理的特性を与え、いずれか単一の材料では提供され得ない物理的特性の相補性を提供する。即ち、本発明の態様の拡張可能内側層が剛性を提供する一方、エラストマ外側層が弾性を提供し、両者は、患者の血管系を進んでいくのに十分な程度の曲げ性を提供する。
【0017】
更に、拡張可能内側層の長手方向に沿った継ぎ目の配向、及び/または拡張可能内側層の重ね合わせの程度を変更し、シースの弾性及び可撓性を調整して最適化することもできる。
【0018】
更に、本発明の態様に係る多層の構成概念は、エラストマ外側層及び拡張可能内側層を形成するための材料のより広範な選択を可能にすることによって、当業者が伸縮式シースの物理的特性を最適化するためのより良い機会を提供可能とし、または当業者が伸縮式シースの所望の物理的特性を見出す機会を提供することができる。
【0019】
適切な材料の選択も、拡張可能なシースまたは細長スリーブの所望の形状に適合するものでなければならない。個々の形状は、特定の態様において必要となるような機能特性を与えるものとしてもよい。
【0020】
例えば、挿入を容易にするため、本発明の態様は、近位開口部と遠位開口部との間で、少なくとも部分的に長手方向に沿って先細にされた細長スリーブを備えてもよい。先細の程度は、特定の用途、例えば、弁が患者の大腿動脈よりもかなり大きくなる可能性が十分あるTAVR処置のために欠かせないものとなる場合があり、先細の程度は、血管の開口部への伸縮式シースの進入のしやすさが増すようにするのが好ましく、この場合、先細状のスリーブの挿入によって、血管の開口部及び血管自体が穏やかに引き伸ばされて拡大されるようにしてもよく、デバイスの進入が、スリーブの大きい方の開口部への挿入によって容易になるようにしてもよい。更に、先細の形状は、先細状ではない拡張可能なシースよりも少ない導入の力で、シースを拡張できるようにするものであってもよい。
【0021】
従って、遠位開口部を画定するスリーブ縁部は、近位開口部の円周を画定するスリーブ縁部よりも少なくとも約20%小さい円周を有するのが好ましい。或いは、より具体的には、遠位開口部を画定するスリーブ縁部は、近位開口部の円周を画定するスリーブ縁部よりも少なくとも約25%小さい円周を有するのが好ましい。TAVRなどの多くの適用の場合は、近位開口部の円周の少なくとも約35%の円周を有する遠位開口部が好ましい。実際には、遠位開口部の好ましい円周が、近位開口部の円周の約35%~40%の範囲にある。
【0022】
先細状のような形状は、エラストマ外側層または拡張可能内側層のうちの1つだけを成形することによって達成するようにしてもよい。例えば、拡張可能内側層は、先細ではない円筒状となるように成形してもよく、細長スリーブの先細形状は、先細状のエラストマ外側層によって与えられる。更に、拡張可能内側層の先細形状は、硬質ポリマシースを先細状に巻くことによって達成してもよい。
【0023】
特定の態様の伸縮式シースの構成は、近位開口部で終端する実質的に円筒状の部分を備えた細長スリーブを備えてもよい。具体的には、拡張可能内側層が、近位開口部で終端する実質的に円筒状の連続部分と、遠位開口部で終端する不連続の硬質ポリマシート部分とを備え、不連続の硬質ポリマシート部分が、連続するエラストマ外側層によって形成された管腔内に巻かれて長手方向に延設され、連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置されるようにしてもよい。
【0024】
好ましい態様において、近位開口部で終端する実質的に円筒状の部分は、血管開口部への強力なシールを助長するような大きさとされる。拡張可能内側層の、このような非先細部分は、軸線方向のシーム、即ち継ぎ目を備えていてもよく、不連続な先細部分と一体的に形成してもよい。好ましくは、巻かれた硬質ポリマシートの不連続な先細部分の重ね合わせは、近位端から遠位端に向かって増大し、細長スリーブの長手方向に沿って螺旋状縁部を形成する。傾斜した縁部は、拡張可能内側層の滑らかな伸縮を助長するようにしてもよい。
【0025】
更に、螺旋状に巻かれた硬質ポリマシートの巻き回数は、硬質ポリマシートの長手方向剛性が、シースの長手方向に沿って弱化、即ち低減されるため、径方向の伸縮に対する抵抗に加え、シースの曲げ性を介して、その特性を変化させる。
【0026】
拡張可能内側層は、細長スリーブの物理的特性、具体的には、細長スリーブの曲げ性、ねじれに対する抵抗、または弾性を改善または変更するために、切り欠き、スリット、及びそれ以外の部分を備えていてもよい。
【0027】
拡張可能内側層は、実質的に円筒状の連続部分と不連続な硬質ポリマシート部分との間に切り込みまたは切り欠きを備えた実質的に均一な硬質ポリマ材料から一体的に形成してもよい。不連続の硬質ポリマシート部分は、弛緩状態で重なりを有した状態で巻かれ、細長スリーブの長手方向軸線周りに螺旋状に巻かれるように構成されてもよい。
【0028】
螺旋状に巻くことは、一般的には不連続な硬質ポリマシート部分の伸縮を容易にすることになるので好ましい。また、これは、導入の際の、低減された捩れやすさと、最も典型的な可撓性との、特性の最良の組み合わせを有したものとなる。
【0029】
具体的には、不連続な硬質ポリマシート部分の縁部が、細長スリーブの長手方向軸線の周りに螺旋状に巻かれるようにしてもよい。不連続な硬質ポリマシート部分は、遠位部分が巻かれる回数に約0.5~約1.5を加えた回数にほぼ等しい回数、シースの長手方向軸線の周りに巻かれるのが好ましい。より具体的には、この巻き回数が、遠位部分が巻かれる回数に約1を加えた数にほぼ等しい。
【0030】
細長スリーブの長手方向軸線の周りに不連続の硬質ポリマシート部分を巻く際の、細長スリーブの長手方向軸線の周りの巻き回数、及び不連続の硬質ポリマシート部分自体の重なりの程度は、いずれも、個別に、または一緒に、シースの性能特性を変化させ得る。シースの長手方向に沿った軸方向剛性は、不連続な硬質ポリマシート部分の重なりの程度が増大するにつれて増加するが、剛性は細長スリーブの長手方向軸線の周りの不連続な硬質ポリマシート部分自体の巻き回数が増加するにつれて減少し得る。
【0031】
シースの長手方向軸線周りに、不連続な硬質ポリマシート部分を巻く回数は、遠位部分を巻く回数に約2を加えた回数にほぼ等しい回数まで増加させてもよい。これは、医療デバイスがシートを通過する際の、シートの環状の抵抗を調整し得るものであり、結果として、患者の血管系の管腔壁を保護するのを補助し得るものである。これとは逆に、遠位部分が巻かれる回数に約0.5を加えた回数にほぼ等しい回数まで巻く回数を減少させることで、硬質ポリマシートの重なりの程度を減少させ、硬質ポリマシートの長手方向の剛性の程度を減じることにより、シースの可撓性を調整するようにしてもよい。
【0032】
切り込みまたは切り欠きの形状は、種々の形状、例えば、円形、三角形、卵形、またはT字状から選択してもよいし、細長スリーブの所望の物理的特性に基づいて選択してもよい。
【0033】
拡張可能内側層は、その長手方向に沿って一連の小さな切り欠きを備えていてもよく、これは、細長スリーブの曲げ性を改善し得るものである。例えば、これには、一連の切り込みまたは一連のスリットを含めてもよい。
【0034】
これに代わる態様において、拡張可能内側層は、連続した薄い帯板から形成されてもよい。帯板は、縁部から突出して長手方向に並ぶ一連のコイル体を更に備えていてもよく、このコイル体は、連続した薄い帯板上に巻き戻される。巻かれたコイル体は、代表的には1mmと10mmとの間の長さであり、コイル体間の間隔は、0.1mmから10mmである。特定の実施形態において、各コイル体の直径は、連続した帯板の長手方向に沿って一定であってもよく、または長手方向に沿って変化する直径とすることによって、少なくとも遠位端のコイル体が近位端のコイル体よりも小さい直径となるようにしてもよい。
【0035】
本発明の態様の硬質ポリマシートは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、これらのコポリマ、またはそれ以外の生体適合性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含む材料から形成してもよい。硬質ポリマシートは、ポリプロピレンから形成されるのが好ましい。
【0036】
特定の材料が採用される場合、重なり合う部分の縁部が互いに当接し、その位置に固定される可能性があるので、拡張可能内側層の不連続部分は、拡張した状態で動かなくなりやすくなる場合がある。このような問題を回避するため、このような縁部に丸みをつけ、縁部を鈍らせ、または直角ではない角度で縁部を切るようにしてもよい。
【0037】
硬質ポリマシートの構成は、少なくとも3つの縁部を備えていてもよく、このとき、少なくとも1つの縁部は、斜めの切断部で終端する。更に、少なくとも2つの実質的に対向する縁部は、遠位開口部を画定する末端または縁部で交差するようにしてもよく、これら2つの縁部のうちの少なくとも1つは、斜めの切断によって形成される。
【0038】
別の実施形態において、拡張可能内側層は、螺旋状に巻かれた連続する帯板またはワイヤから形成されてもよい。この拡張可能内側層は、寸法「W」の厚みの帯板またはワイヤによって特徴付けられてもよく、この場合は、「W」と「2W」との間の螺旋ピッチで巻かれる。
【0039】
螺旋状の帯板のピッチは、長さのそれぞれを分割の軸方向長さとすると、当該長さの約0.5倍から2倍の間であるのが好ましい。より具体的には、好ましい螺旋のピッチが、長さの0.9倍~1.1倍である。
【0040】
螺旋状ワイヤは、チタン、チタン合金、もしくはステンレス鋼、またはポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはそれ以外の生体適合性材料といったポリマ材料から構成されてもよい。螺旋状ワイヤは、細長スリーブの長手方向に沿って先細にしてもよい。
【0041】
従来技術は、2つ以上の層が互いに結合されている多層シースを開示するものである。その具現化されたものの構成に固有の特徴は、各層の物理的特性の組み合わせが、層を一体に結合したときに失われることである。
【0042】
このため、本発明の好ましい態様では、連続するエラストマ外側層と拡張可能内側層とが、互いに対して移動可能である。連続するエラストマ外側層の管腔面と拡張可能内側層の外面とは、互いに対して移動可能であるのが好ましく、低い摩擦係数を有するのが好ましい。許容可能な摩擦係数は当業者には周知であり、従って、十分に低い固有摩擦係数を有した材料の選択は、そのような当業者に周知のことである。
【0043】
但し、内側層と外側層とは、近位端で互いに対して固定されてもよく、これは溶接、接着、またはクランプによる直接の相対的取り付けを介したものであってもよいし、止血弁または同様のデバイスへの両方の管の取り付けを介して達成してもよい。これにより、これらの層は、互いに対して移動可能としながら、所望の位置に保持されることが確実になされる。
【0044】
具体的には、内側層の近位端は、拡張可能内側層の外面の領域を硬質カラーの内面に接着することによって、当該硬質カラーに取り付けてもよい。エラストマ外側層は、弛緩状態の近位側の円周を、硬質カラーの外周の大きさ以下の大きさとすることで、硬質カラーの外面に一旦配置されると、適所に保持されるようにしてもよい。
【0045】
特定の態様において、細長スリーブは、連続するエラストマ外側層の管腔面と拡張可能内側層の外面との間に、潤滑層または表面処理を備えていてもよい。このような構成は、摩擦係数を減少させるための、シリコーン、グリセリン油、PTFE、または親水性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含むのが好ましい。潤滑層は、感染またはアレルギを治療または回避するための医薬剤を含有可能な、ヒドロゲル系のコーティングを更に含んでいてもよい。これらの物質またはそれ以外の親水性コーティング材料は、医療デバイスと伸縮式シースとの間の摩擦係数を減少させるために、拡張可能内側層の内面に塗布するようにしてもよい。
【0046】
ここで、いくつかの態様の細長スリーブの構成に目を向けると、連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料から形成してもよく、その結果、連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料の伸張時に拡張し、エラストマ材料の弛緩時に収縮することができる。好ましくは、適切な材料の選択により、エラストマ材料は、収縮すると、最初の円周の約135%以下の円周まで戻ることができるようにすることが可能となる。一般的には、近位縁部の安静状態の円周が、遠位縁部の安静状態の円周よりも約135%大きく、従って、エラストマ材料は、少なくとも近位開口部の大きさの円周に戻ることができなければならない。エラストマ材料は、収縮すると、その最初の円周の約115%~約120%の範囲の円周に戻ることができるのが更に好ましい。但し、これを約117%としてもよい。
【0047】
更に、適切な材料の選択により、エラストマ材料の伸張の際に、連続するエラストマ外側層が、自身の非拡張時の周囲の約1.35倍以上に必ず拡張できるようにすることが可能である。エラストマ材料の望ましい伸張能力は、通過させることができる医療デバイスのタイプを制限するものでないことが理想的であるので、連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料の伸張の際に、自身の非拡張時の円周の約300%~400%まで拡張可能であることが好ましい。
【0048】
連続するエラストマ外側層は、ニトリルゴム、ポリ塩化ビニル、ネオプレン、ポリプロピレン、及びポリイソプレンを含む、ラテックスゴムまたは非ラテックス代替物からなる群の1つから形成されるのが好ましい。連続するエラストマ外側層は、シリコーン材料またはシリコーン複合材料から形成されるのが好ましい。
【0049】
エラストマ外側層を形成するための好ましい材料は、破裂することなく、拡張可能内側層を収縮させる上で十分な対抗圧力を有する薄さに形成可能な材料から選択される。このようにした場合、使用者は、挿入中に、エラストマ外側層を強制的に拡張させるために、医療デバイスに著しい力を加える必要がなくなり、このようにしなければ、血管に損傷を与える危険性が生じることになる。このため、連続するエラストマ外側層は、約0.2mm以下の厚さを備えるのが好ましい。また、より具体的には、連続するエラストマ外側層が、約0.1mmの厚さを備えるのが好ましい。
【0050】
好ましい態様において、硬質カラーは、止血弁コネクタによって設けられる。止血弁コネクタは、患者が血管の開口部から血液を失うのを防止するための止血弁を備えていてもよい。止血弁コネクタは、医療デバイスを細長いシースの管腔内に導入するための開口部を更に備えていてもよい。また、止血弁コネクタは、患者の血管系に流体を導入するための1つ以上の入口を備えていてもよい。
【0051】
医療処置中におけるX線撮像装置での医療デバイスまたは伸縮式シースの視認性を向上させるために、細長スリーブは、放射線不透過性マーカを備えていてもよい。放射線不透過性マーカは、細長スリーブの遠位端に配置されるのが好ましく、エラストマ外側層または拡張可能内側層に均等に接着してもよい。放射線不透過性マーカは、ニチノールなどの金属ワイヤであってもよく、細長スリーブに接着されるか、または縫い付けられていてもよいし、またタングステン入りのナイロン、ポリエチレン、またはポリウレタンといったポリマ系として、細長スリーブに接着されるようにしてもよい。これに代えて、放射線不透過性マーカは、エラストマ外側層及び拡張可能内側層に接着されるようにして、細長スリーブの遠位端でこれらの層を一緒に結合するようにしてもよい。
【0052】
伸縮式シースを患者に挿入する間、硬質のイントロデューサが拡張可能内側層内に挿入されるようにしてもよい。特定の態様において、伸縮式シースは、細長スリーブの管腔内に、当該細長スリーブの遠位端から突出する硬質のイントロデューサが設けられていてもよい。
【0053】
挿入の際、硬質のイントロデューサは、拡張可能内側層の遠位端から突出するようにしてもよい。硬質のイントロデューサは、先細状の先端部を有するのが一般的である。硬質のイントロデューサは、事前に血管に挿入されたワイヤを通過させるための小さな孔を備えていてもよい。
【0054】
硬質のイントロデューサは、細長スリーブの遠位開口部の直径と整合するように、または細長スリーブの外側輪郭と整合するように、先細状に形成されていてもよい。或いは、硬質のイントロデューサの外面は、拡張可能内側層の遠位内径及び拡張可能内側層の近位内径の両方に合致するように、階段状に形成されていてもよい。
【0055】
伸縮式シースの挿入に続き、硬質のイントロデューサは、別のデバイスが細長スリーブの管腔を通って移動できるように、除去されるようにしてもよい。
【0056】
本発明の態様に係る伸縮式シースの使用は、当該態様に係る伸縮式シースを得るステップと、伸縮式シースの管腔路に硬質のイントロデューサを通すステップと、伸縮式シースを血管内に導入するステップとを備えていてもよい。
【0057】
本発明の態様に係る方法は、硬質のイントロデューサを除去するステップと、伸縮式シースの管腔路に医療デバイスを通すステップとを更に備えていてもよい。
【0058】
本発明の態様に係る伸縮式シースは、態様に対応して記載するような、硬質カラー、エラストマ外側層、及び拡張可能内側層を得るステップと、拡張可能内側層を、近位開口部で硬質カラーに取り付けるステップと、拡張可能内側層を、エラストマ外側層の内側に配置するステップとによって製造されるのが好ましい。
【0059】
これに代え、エラストマ外側層は、硬質カラー内に同時成形されるようにしてもよい。
【0060】
ここで、本発明の広範な実施形態を、詳細な説明に開示した実施例及び好ましい実施形態と併せ、添付の図面を参照して説明する。本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよいものであって、本明細書に記載した実施形態に限定されるものとして解釈すべきではない。これらの実施形態は、本開示が十分で申し分のないものであり、本発明の全範囲及び広さが伝わるようにするべく、例示のみを目的として提示されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】大腿動脈から左右の腸骨動脈を経て腹部動脈に至る経路を示すコンピュータ断層撮影スキャンの画像を示す。
【
図2】本発明の実施形態に係る調節可能なシースの正面斜視図である。
【
図3a】本発明の実施形態に係るシースカラーを示す側面図である。
【
図3b】本発明の実施形態に係るシースカラーを示す背面斜視図である。
【
図3c】本発明の実施形態に係るシースカラーを示す正面斜視図である。
【
図4a】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの側面図である。
【
図4b】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの、断面A-Aにおける断面図である。
【
図4c】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの、断面B-Bにおける断面図である。
【
図4d】本発明の実施形態に係る調整可能なシースの、断面C-Cにおける断面図である。
【
図5a】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、イントロデューサと共に示す背面斜視図である。
【
図5b】調整可能なシースの管腔を通過するイントロデューサの側面図である。
【
図5c】調整可能なシース及びイントロデューサの、断面D-Dにおける断面図である。
【
図6a】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、外側のエラストマチューブが除去された状態で示すものであって、直線状に切られた内側層を示す正面斜視図である。
【
図6b】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、外側のエラストマチューブが除去された状態で示すものであって、直線状に切られて、更なる切り込み部分を有する内側層を示す正面斜視図である。
【
図6c】本発明の実施形態に係る調整可能なシースを、外側のエラストマチューブが除去された状態で示すものであって、螺旋状に切られた内側層を示す正面斜視図である。
【
図7a】本発明の実施形態に係り、外側のエラストマチューブが取り外されて、拡張した状態にあって、V字状に切られた内側層を示している調整可能シースの正面斜視図である。
【
図7b】本発明の実施形態に係り、拡張した状態、部分的に拡張した状態、及び収縮した状態にある内側層をそれぞれ示す側方断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係り、直線状に切られた、螺旋状に切られた、及びV字状に切られた内側層をそれぞれ有する調整可能なシースについて、シースの曲げ性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明のいくつかの態様について、以下の実施形態で説明する。
【0063】
図1に示したコンピュータ断層撮影スキャンの画像は、大腿動脈から左右の腸骨動脈を経て腹部動脈に至る動脈経路を介し、機械式大動脈弁などの着脱可能または埋め込み可能な医療デバイスを送り込む際に、当該医療デバイスがとるべき通路の経路を示している。右大腿動脈及び左大腿動脈の末端部分は、それぞれ110(a)及び110(b)で示される。右腸骨動脈及び左腸骨動脈は、それぞれ120(a)及び120(b)で示され、腹部動脈は130で示される。大腿動脈に挿入された医療デバイスの、腹部動脈に至る通過経路は、右大腿動脈120(a)を介した進入については左画像に、左大腿動脈120(b)を介した進入については右画像に、それぞれ点線に沿って示される。
【0064】
図1に示す経路の通路の形状は、配置のために求められる位置に到達するために、挿入中に医療デバイスが越えなければならないいくつかの血管湾曲を示している。画像は、2次元のみであるので、骨盤を含む複雑な骨構造の周りを3次元で通らなければならない経路を示すものではない。使用の際、デバイスは、一般的に、血管系に当該デバイスを通して操作するために、細長いイントロデューサに取り付けられ、多くの場合、デバイスを血管の管腔に通すために、かなりの力がイントロデューサに加えられる。この処理の際、血管が最も狭い場所では、血管損傷の最大のリスクが生じる。本明細書に記載する形式のイントロデューサシースは、医療デバイス及び/またはイントロデューサの挿入によって生じる損傷から管腔面を保護する。デバイスの特性、または挿入の位置もしくは送り込む位置に応じ、イントロデューサシースは、血管の開口部の周りへの配置及び保護のための短い構造、及び血管内への短い通路としてもよいし、管腔壁のより長い部分を保護するために、より長い通路が血管の開口部から延在するように長くしてもよい。
【0065】
図2は、上述のようなイントロデューサシースとして使用するのに適した調整可能なシース200を示す。調整可能なシース200は、大まかには硬質で円筒状のカラー210と、細長い先細状のスリーブ220との2つの主要構成要素から構成される。カラー210は、スリーブ220の大きい方の開口部を通ってスリーブ220の内側管腔内に材料を供給可能となるように構成された中空構造である。円筒状のカラー210は、使用者がカラーを取り扱って、物体または材料を通過させることができるように、硬質材料で形成される。このカラー210は、スリーブ220の大きい方の開口部と同様の直径の狭められた開口部で終端しており、スリーブ220をその中に配置して固定可能とすることにより、これら2つの構成要素が接続される。
【0066】
スリーブ220は、患者の血管系に進入するために形成された切開部内への挿入を容易にするために、カラー210から離れるに従って先細になっている。スリーブ220は、血管内へのシースの挿入及び進行を容易にするために、近位端230から先細になり、遠位端240に向かって狭くなっていく、滑らかで可撓性を有した構造となっている。スリーブ220は、より大きなイントロデューサ、弁、またはそれ以外の医療デバイスがスリーブの管腔を通して患者に導入できるように伸縮可能であって、デバイスの周りで拡張することができ、血管を通って移動するときに血管の管腔壁を穏やかに押し、その後にデバイスが除去される際には、デバイスが患者から穏やかに除去できるように、その元の大きさと同様の大きさに収縮することもできる。
【0067】
図3は、カラー210の構造を示す。
図3aは、止血弁(図示せず)を内部に有する弁部310と、血管に進入するための入口または他のコネクタを提供するコネクタ部320と、スリーブ220(図示せず)を内部に固定するための固定部330とを含む、カラー210内に形成された3つの主要部分を示す。
図3bは、弁部310内に配置された止血弁340の配置を示す。止血弁340は、突き刺されるか、または突き通され、デバイスがシースカラーを通ってスリーブの管腔内へ進入できるようにしてもよく、血管からの流体の逆流を防止するために、閉弁状態に戻ることになる。
図3cは、患者に流体を導入するために、医療用流体導管をシースカラーに接続するための入口350の配置を示す。
【0068】
カラー210は、ポリエチレン、ポリエステル、またはポリプロピレンといった硬質ポリマから形成されるが、当業者が意図する目的に適合していると判定された任意の硬質の生体適合性材料から同様に形成してもよい。
【0069】
図4aは、カラー210の外観及びスリーブ220の外面を示す、拡張可能なシース200の側面図である。スリーブ220は、2つの薄い可撓性を有した層である外側エラストマチューブ410及び拡張可能内側層420から形成される。外側エラストマチューブ410は、巻かれて拡張可能内側層420を形成するシートを中に保持する先細の細長いチューブとして形成される。
【0070】
外側エラストマチューブ410は、スリーブの管腔内から圧力が加えられると伸張することができるエラストマ材料から形成されるが、内圧が減じられると、スリーブを実質的に元の直径に戻す。外側エラストマチューブは、弛緩状態では0.2mm未満、好ましくは0.1mm未満の壁厚を有する。外側エラストマチューブ410は、シリコーンから形成されることで、弾性を最大限にすると共に壁厚を最小限とし、それによって、血管系への損障の危険性を最小にする。但し、当業者は、適切な特性を有すると判定すれば、これに使用するために別の材料を選択してもよい。これらの材料には、ラテックスゴム、またはニトリルゴム、ポリ塩化ビニル、ネオプレン、ポリプロピレン、及びポリイソプレンなどを含む非ラテックス代替物などの材料を含めてもよい。
【0071】
図4aは、点A-A、B-B、C-Cにおける断面点を示す。
図4bは、点A-Aにおける切断断面を示しており、スリーブが、近位端230において、最も大きな直径にあって弛緩状態にあり、それによって、外側エラストマチューブ410も、その最も大きな直径にあることを示している。A-A断面では、拡張可能内側層420が、スリーブ220の内周全周にわたって均一の厚みの単一層となっている。
【0072】
図4cは、点B-Bにおける切断断面を示しており、スリーブ220の内部構造が示され、外側エラストマチューブ410が、先細状であって、A-A断面における直径よりも小さい直径を有している。拡張可能内側層420は、当該内側層が2回折り重なる程度に重なり合っているように示されている。一方、
図4dは、点C-Cにおける切断断面を示しており、スリーブ220の内部構造が示され、外側エラストマチューブ410が、スリーブ220の遠位端240において最も小さい状態にある。この点において、拡張可能内側層420は、当該内側層が3回折り重なる程度に重なり合っているように示されている。
【0073】
内側のチューブは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、またはそれ以外のフィルム状の材料などのポリマ材料から形成されてもよい。
【0074】
拡張可能内側層420は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、またはそれ以外のフィルム状材料シートといったポリマ材料のシートとして形成され、外側エラストマチューブ410とほぼ同じ長さで、スリーブ220の遠位端240内において3回巻くのに必要な幅に切断加工される。適切な材料は、遠位端における螺旋ピッチに約1を加えたものに等しいピッチで螺旋状に巻かれたときの剛性に応じて選択される。但し、当業者には周知のとおり、拡張可能内側層420の形成には、いくつかの材料が適合する可能性がある。
【0075】
拡張可能内側層は、丸められたシートまたは巻かれたシートで構成してもよいが、より良好な構成は、押出成形チューブから始め、その後に、その長手方向軸線に沿って切り進め、次に、シート部分を丸めるかまたは巻くものである。適切な材料は、永久変形することのない伸縮を可能にする弾力性と柔軟性とのバランスを有し、座屈やつぶれに抗するものである。好ましい材料の選択肢は、ポリプロピレンまたはポリエチレンである。
【0076】
拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ410は、近位端230において互いに対し固定される。両者は、溶接、接着、もしくはクランプにより、またはそれぞれをカラー210に取り付けることによって結合するようにしてもよい。拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ420は、スリーブ220の長手方向に沿って、互いに対して自由に動くことができる。オイル、グリース、ヒドロゲル、またはそれ以外の低摩擦表面処理剤といった潤滑剤を、拡張可能内側層420と外側エラストマチューブ420との間に塗布し、相互間の移動を容易にしてもよい。スリーブ220の遠位端240において、拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ410は、外側エラストマチューブ410の円周の一部分で互いに結合するようにしてもよい。両者は、溶接、接着、または縫合によって取り付けてもよい。
【0077】
また、拡張可能内側層420及び外側エラストマチューブ410には、感知のために、ステンレス鋼、チタン、ニッケルチタニウム合金、またはそれ以外の金属もしくは金属合金といったX線不透過性材料を縫合またはステープル留めしてもよい。
【0078】
図5a~5cは、調節可能なシース200の内部管腔にイントロデューサデバイス510を通す際の、調節可能なシース200の例示的な使用を示す。血管系への挿入の際、イントロデューサデバイス510は、止血弁340を通過し、シースカラー210の内部管腔を通して押し込み、スリーブ220の拡張可能内側層420(図示せず)を通して挿入することが可能である。
図5bに示すように、イントロデューサデバイス510は、拡張可能内側層420を通り、スリーブ220の遠位端240から突出する。イントロデューサデバイス510の先細状端部520は、外側エラストマチューブ410の遠位端240内に一時的に保持することができる。
図5cは、拡張可能内側層420が徐々に拡張して、自らが重なり合う程度が減少することを示す。
【0079】
更に、拡張可能内側層420を通したデバイスの送り込みの容易性を増すために、その管腔壁の内面は、シリコーン、もしくはグリセリン油、PTFE、親水性ポリマ、またはそれ以外の低摩擦面といった潤滑性コーティングで被覆してもよい。
【0080】
同様に、外側エラストマチューブ410は、外面を低摩擦層で被覆して、血管系への挿入し易さを増大することができる。表面処理には、拡張可能内側層に適用される可能性のあるもののほか、感染またはアレルギを治療または回避するための医薬剤を含有可能なヒドロゲル系のコーティングを含めることができる。
【0081】
イントロデューサデバイス510は、その先端部分に、拡張可能内側層420の内側形状に適合する先細形状を有するように形成される。但し、このイントロデューサデバイス510は、拡張可能内側層420の内径に合致するように、均一な直径で形成されてもよいし、その近位端及び遠位端において、拡張可能内側層420のそれぞれの内径に合致するように、階段状の直径で形成されてもよい。調節可能なシースを血管内に挿入した後、イントロデューサデバイス510を取り外し、調節可能なシース200の内部管腔に別のデバイスを通すことができる。
【0082】
イントロデューサデバイス510は、血管内に事前に挿入されたワイヤの通過を可能にする小さな孔を、その先端部分に備えていてもよい。
【0083】
イントロデューサデバイス510は、複数の部材で構成し、外側を2つ以上の部材の間で一時的にクランプして、使用者が、イントロデューサデバイス510の部材の位置を調整し、外側エラストマチューブ410を解放することができるようにしてもよい。これに代わる実施形態では、外側エラストマチューブ410が、遠位端240の拡張可能内側層420内で折り重ねられてもよく、上述のように、血管挿入中にイントロデューサデバイス510によって保持され、イントロデューサデバイス510を取り外す際に解放された状態になるようにしてもよい。
【0084】
図6a~
図6cは、外側エラストマチューブ410が取り外された状態の調整可能なシース200を示す。
図6aに示すように、拡張可能内側層420は、重なり合うように先細形状に巻かれたときに、単一の長手方向接合線610を有するようにカットされたシートとして形成される。近位端230において、外側エラストマチューブ410は、血管開口部に対する強力なシールを助長するために、先細状でない部分を有する。先細状ではない近位端230は、拡張可能内側層420の残りの部分と円周方向でつながっているが、連続した軸線周りの継ぎ目または接合線を共有している。
【0085】
拡張可能内側層420は、切断されて多くの異なる形状に成形されてもよい。これに代えて、拡張可能内側層420は、その弛緩状態において、先細状ではない円筒を形成するように巻かれてもよく、この場合、その先細形状は、先細状の外側チューブによってもたらされる。
【0086】
図6b及び
図6cは、拡張可能内側層420が、先細部630の遠位端240において、先細部630を非先細部640から分離する切欠部620によって更に特徴付けられるような、任意選択の特徴を示す。切欠部620は、拡張可能内側層420に開口650を形成し、それにより、開口650がスリーブ220の周方向に部分的に延在し、スリーブ220のねじれ及び局所的つぶれを引き起こすことなく、先細部630が非先細部640に連続することを可能にする。また、切欠部620は、挿入されるデバイスが、拡張可能内側層と外側エラストマチューブとの間に誤って送り込まれる危険性を低減することによって、製造の容易性を増大させ得る。また、調整可能なシースの座屈強度及びねじれ強度を向上させることもできる。開口部の形状は、種々の形状、例えば、円形、三角形、卵形、またはT字状といった様々な形状となるように選択することができる。選択された形状は、調整可能なシースの所望の物理的特性についての試行錯誤及び試験によって最適化するようにしてもよい。
【0087】
図6cは、先細部630が不連続であるような別の実施形態を示す。この不連続部分は、先細部630の全長に沿って長方形であるが、先細部の長手方向に沿った重なり合いの程度は、近位端部から遠位端部に向けて増大していき、チューブの長手方向に沿って螺旋状縁部650を生成する。
【0088】
図7aは、別の実施形態を示すものであって、ここでは、拡張状態において、縁部が平行でなく、即ちV字状のカットを形成し、遠位端における内側層の円周が、近位端における内側層の円周よりも小さい。この様な構成により、
図7aに示すように、層の重なりによる材料の厚さの減少によって、より小さい全体的な遠位直径を容易に得ることができる。過剰に拡張した場合、先細部630は、接合線610で分離する。拡張可能内側層420の一方の鈍利な縁部が、拡張可能内側層420の他方の鈍利な縁部に対して楔となる結果として、拡張可能内側層420が、血管内で拡張した状態に固定されるのを防止するため、重なり合う部分の縁部は、丸められるか、または直角ではない角度で切断されるようにしてもよい。
図7bは、直角ではない角度で切断したときに、過剰な拡張の後に収縮したときの、拡張可能内側層420の一方の縁部の他方の縁部に対する移動を示す。縁部の一方が他方に当接すると、外側の縁部710は、拡張可能内側層420が、ほぼ元の位置に巻き戻るまで、内側の縁部710の上を摺動する。
【0089】
別の実施形態において、拡張可能内側層420は、寸法「W」の厚さを特徴とし、「W」と「2W」との間の螺旋ピッチで螺旋状に巻かれた、連続する帯板またはワイヤによって形成される。螺旋状の巻体は、チタン、チタン合金、もしくはステンレス鋼などのワイヤ、またはポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはそれ以外の生体適合性材料などのポリマ材料から形成することができる。螺旋状の巻体は、遠位端から近位端に向けて先細になっている。
【0090】
更に別の実施形態において、拡張可能内側層420は、連続する薄い帯板によって形成され、当該帯板は、直交する方向に巻かれた一連の複数のコイル体が、連続する帯板の一端から当該帯板上に巻き戻るように延在している。巻かれたコイル体は、代表的には1mmから10mmの間の長さであり、それらは0.1mmから10mmの間隔を有する。特定の実施形態において、それぞれのコイル体の直径は、連続する帯板の長手方向に沿って一定であってもよいし、長手方向に沿って直径を変化させることによって、少なくとも遠位端におけるコイル体が、近位端におけるコイル体よりも小さい直径となるようにしてもよい。
【0091】
調節可能なシースを血管系内に挿入する前に、外側エラストマチューブ410と拡張可能内側層420との間に捕われている空気を除去できるようにするため、特定の実施形態では、外側エラストマチューブ410の近位端230に開口部を設け、この開口部が弁(図示せず)で閉鎖されるようにしてもよい。使用に際しては、医療処置の前に、この弁を介し、生理食塩水または滅菌剤などの液体を、内側のチューブと外側のチューブとの間の空間に導入するようにしてもよい。
【0092】
医療処置中にX線撮像装置による調整可能なシースの視認性を向上するために、放射線不透過性マーカを、スリーブ、具体的には遠位端240に組み込んでもよい。このマーカは、チューブに接着または縫合されたニチノールなどの金属ワイヤ、またはチューブに接着されたタングステン入りのナイロン、ポリエチレン、もしくはポリウレタンなどのポリマ系材料、または当業者に公知の同様の構成としてもよい。放射線不透過性マーカは、拡張可能内側層420または外側エラストマチューブ410の任意の数の場所のいずれかに組み込むことができる。
【0093】
<実施形態の予備試験>
[伸縮]
試験内容:シース内にイントロデューサを挿入する前、及びイントロデューサを引き抜いた後に、シースの直径を測定する。元の直径に対するシースの収縮率を報告する。イントロデューサを引き抜くのに必要な力を報告する。
【0094】
判定基準:目標最大収縮率。
【0095】
試験サンプル数:基準シース、直線状に切られた先細状の試作シース、螺旋状に切られた先細状の試作シース、及びV字状に切られた先細状の試作シースの1サンプル。
【0096】
方法:試験したシースの近位外径及び遠位端外径を、イントロデューサの挿入前に測定した。次に、イントロデューサを、遠位端から突出するまで、シースに挿入した。次に、イントロデューサをシースから引き抜き、完全に取り出した。引き抜く際のなんらかの困難性を評価するため、イントロデューサを引き抜くための力を記録した。次に、収縮量またはスプリングバックの量を評価するため、シースの遠位端外径を再度測定した。次に、収縮の比率を、最初の遠位側縮小量に対する比率として計算した。
【0097】
【0098】
全てのサンプルは、イントロデューサの滑らかな挿入を受けるものであって、イントロデューサを挿入するために、なんら過大な力を必要としなかった。全ての調整可能なシースは、イントロデューサがシースの端部から突出した後に、シースの能力の限界まで収縮する特徴を明確に示した。
【0099】
イントロデューサを引き抜いた後、V字状に切られた試料は、切断端部がぶつかり合って、正しく重なり合わなかったため、完全には収縮しなかった。V字状に切られた試料の外側層は、内側層の端部から約4mm引き戻されたが、これは恐らく、イントロデューサに対する摩擦の増加によるものである。
【0100】
結論:全ての試作シースが、イントロデューサを挿入して引き抜いた後に収縮する能力を明確に示した。V字状に切られた試料は、最小の遠位端測定値を示したが、意図した通りには収縮しなかった。直線状に切られた試料、及び螺旋状に切られた試料は、ほぼ同等の性能を示したが、好ましい構成を選択する際には、他の性能特性を考慮すべきである。弁送り込み機構を引き抜くために必要な力は、各構成のいずれについても過大ではなく、使用者に対する問題、または損傷の危険性を引き起こすことにはならない。
【0101】
[曲げ性]
試験内容:イントロデューサなしで、シースを最大30°の角度で曲げるのに必要な力を測定する。
【0102】
判定基準:シースを30°までの角度に曲げる力。この力は、基準となる力を超えてはならない。
【0103】
試験サンプル数:基準シース、直線状に切られた先細状の試作シース、螺旋状に切られた先細状の試作シース、及びV字状に切られた先細状の試作シースの1サンプル。
【0104】
方法:シースを保持するための治具を、200mmの片持梁長さで構築した。手持ち式力ゲージを用いてシースを曲げ、加えた力をグラム単位で表示した。加えた力を、整合のためにNに変換した。
【0105】
結果:以下の表は、各試料を曲げる力をNで示している。
【表2】
【0106】
結論:全ての試作シースが、基準サンプルと比較して、改善された曲げ性を明確に示した。3つの異なる試作シースは、
図8に示すように、異なる曲げ性及び剛性を示した。
【0107】
[シースの捻り特性]
試験内容:シースを捻るのに必要な力、及び捻れが生じる角度を測定する。
【0108】
判定基準:シースを捻るのに必要な角度は、基準を超える必要がある。
【0109】
試験サンプル数:基準シース、直線状に切られた先細状の試作シース、螺旋状に切られた先細状の試作シース、及びV字状に切られた先細状の試作シースの1サンプル。
【0110】
方法:シースを保持するための治具を、200mmの片持梁長さで構築した。手持ち式力ゲージを用いてシースを曲げ、加えた力をグラム単位で表示した。加えた力を、整合のためにNに変換した。捻りに対する角度は、テンプレートを参照して読み取られ、シースの軸線と、曲げ点からシースの遠位端を結ぶ線との間の角度を表す。
【0111】
【0112】
螺旋状に切られた試料、及びV字状に切られた試料は、捻れることなく90度の角度を超えて曲がることができた。これらの試料が試験能力を超えたため、この時点で、試料の試験を停止した。
【0113】
結論:全ての試作デバイスが、基準と比較して、捻りに対する改善された抵抗性を明確に示した。V字状に切られた試料、及び螺旋状に切られた試料は、いずれも、捻れることなく、直線状に切られた試料よりも曲げられた。
【0114】
<実施形態の製造>
調節可能なシースは、拡張可能内側層及び外側エラストマチューブを製造し、これら構成要素の両方を、止血弁を有した市販のカラーに組み付け、接着することによって構成される。
【0115】
拡張可能内側層は、標準的な押出成形技術または射出成形技術に従い、医療品質等級のポリアミドから製造される。直線状に切られた内側層の場合、原材料が、先細状の長い円筒状に押出成形され、成形体の長さ方向に沿って切り込まれる。
【0116】
螺旋状の内側層の場合は、内側層が所望の大きさ及び形状に成形されると、この内側層を所望の直径のモールドの周囲で熱収縮させ、カラーに接着するための円筒部分を形成する。内側層の残りのシート部分は、外側エラストマチューブ内で螺旋状にするのに必要な形状となるよう、斜めの角度で切られる。
【0117】
外側エラストマチューブは、薄いシリコーンシート及び管状構造を成形し硬化させるのに適していることが当業者に知られている樹脂成形技術を用い、シリコーンから所望の先細形状に形成される。外側エラストマチューブの近位部分は、拡張可能内側層の円筒状の部分と同じか、またはわずかに大きい直径に形成される。
【0118】
拡張可能内側層のシート部分は、手作業により、外側エラストマチューブよりも小さい直径で螺旋状に巻かれ、近位端でチューブに整列してから当該チューブ内に配置される。少量の接着剤が、先細状のスリーブの近位端部(即ち、大きい方の端部)に塗布されることにより、接着剤が外側エラストマチューブと拡張可能内側層とに接する。次に、近位端部を、市販の止血弁の開口部の周りに配置し、拡張可能内側層及び外側エラストマチューブの両方を、止血弁のカラーに結合する。接着剤が硬化すれば、シースは使用の準備が整う。
【0119】
本明細書の全体を通し、用語「備える(comprise)」、または「備える(comprises)」もしくは「備えている(comprising)」のような変形は、記載した要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップのグループを包含することを意味しているが、他の要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップのグループの排除を意味するものではないことが理解されよう。
【0120】
用語「固定具」、または「締結」、「連結」、もしくは「封止」は、単独で、または「手段」などの別の語と一緒に使用されるときに、その用語の解釈が、当業者によって別のものと機能的に互換性があると見なされ得る場合、互換性を有して使用されてもよいことが理解されよう。更に、前述の用語のうちの1つの使用は、別の用語が含まれる場合の解釈を排除しない。
【0121】
本明細書に記載されるような、様々な装置及び装置の構成要素は、必要に応じ、様々な大きさ及び/または寸法で設けられてもよい。適切な大きさ及び/または寸法は、接続する構成要素の仕様、または使用分野に応じて変化し、当業者が選択し得るものである。
【0122】
本明細書の一実施形態に関して説明がなされた特徴、要素、及び/または特性は、必要に応じ、本発明の別の実施形態と共に使用してもよいことが理解されよう。
【0123】
本明細書の好ましい実施形態は、例示の目的で開示したが、当業者は、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載の範囲及び趣旨から逸脱することなく、様々な変形、付加、及び置換が可能であると理解されよう。
【0124】
要素または層が、別の要素または層の「上に」または「内部に」あると言及する場合、要素または層が、別の要素または層の上または内部に直接的に存在することが可能であると理解されよう。これに対し、要素が、別の要素または層の「上に直接」または「内部に直接」存在すると言及する場合には、介在する要素または層が存在しないことが理解されよう。
【0125】
本明細書で使用する場合、用語「及び/または」は、一緒に列挙した項目のうちの1つまたは複数の任意の組合せ及び全ての組合せを含むものである。
【0126】
第1、第2、第3などの用語は、様々な要素、構成要素、領域、層、及び/または部分を説明するために本明細書において使用する場合があるが、これらの要素、構成要素、領域、層、及び/または部分は、これらの用語によって限定されるべきではないことが理解されよう。これらの用語は、ある要素、構成要素、領域、層、または部分を、別の領域、層、または部分と区別するためにのみ使用される。従って、本明細書の教示から逸脱することなく、第1の要素、構成要素、領域、層、または部分を、第2の要素、構成要素、領域、層、または部分と呼んでもよい。
【0127】
「下方」、「上方」、「上端」、「下端」、「左側」、「右側」などの空間的に相対的な用語は、本明細書では説明を容易にするために、図に示すように、ある要素または特徴の、別の要素または特徴に対する関係を説明するために使用する場合がある。空間的に相対的な用語は、図に示す向きに加え、使用時または動作時における構成物の異なる向きを包含することが意図されると理解されよう。例えば、図中のデバイスが裏返される場合、他の要素または特徴に対して「下方」と記載される要素は、他の要素または特徴に対して「上方」に位置することになる。従って、例示的な用語「下方」は、上方及び下方の両方の向きを包含し得る。デバイスは、別の方法で方向が定められる場合もあり(90度の回転、またはそれ以外の向き)、本明細書で使用する空間的に相対的な記述語は、それに応じて解釈されるべきである。
【0128】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の限定を意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別段に明確に示さない限り、複数形も含むことが意図される。用語「含む」、「備える」、及び/または「備えている」は、本明細書で使用する場合、記載した特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/または構成要素の存在を特定するが、1つ以上の別の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/またはそれらのグループの存在または付加を排除するものではないことが更に理解されよう。
【0129】
本明細書では、例えば、開示する好ましい実施形態(及び中間の構造)の概要を例示した図及び/または断面図に基づき、実施形態を説明している。このとき、例えば、製造技術及び/または公差に起因して、図示形状からの変形が予測される。従って、開示する実施形態は、本明細書に示した構成要素の特定の形状に限定されると解釈すべきではなく、例えば、製造に起因する形状の誤差を含むものである。
【0130】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本明細書が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。更に、一般的に使用される辞書で定義されるような用語は、関連技術の文脈におけるそれらの用語の意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義しない限り、理想化された、または過度に形式的な意味で解釈すべきではないことが理解されよう。
【0131】
本明細書における「1つの実施形態」、「一実施形態」、「例示的な実施形態」などへの言及は、いずれも、当該実施形態に関して説明した特定の特徴、構成、または特性が、開示した少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所におけるこのような語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているわけではない。更に、特定の特徴、構造、または特性が、いずれかの実施形態に関して記載される場合、そのような特徴、構造、または特性を、実施形態のうちの別のものに関して実施及び/または使用することは、当業者の理解し得る範囲内である。
【0132】
また、実施形態は、上述の記載において開示された要素のいずれかまたは全てについての使用方法及び製造方法を含むか、またはこれら方法までを範囲とすることを意図するものである。
【0133】
上述のとおり、具体的な実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、開示したこれらの実施形態に限定されるものではないと理解すべきである。本明細書の教示を読むことにより、本発明が関係する技術分野の当業者には、本発明の多くの変更及び別の実施形態が想起されるであろうが、それらは、本明細書及び添付の特許請求の範囲の両方によって意図されるものであり、包含されるものである。
【0134】
本明細書で言及する全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている文書、行為、物質、デバイス、物品等のいかなる記述も、単に本発明に関する状況を示すことを目的とするものである。これらの事項のいずれかまたは全てが、本出願の優先権請求の日より前に、オーストラリアまたはそれ以外の場所に存在していたとして、先行技術の根拠の一部を形成し、または本発明の関連分野における周知事項であったことを容認するものとは解釈すべきではない。
【0135】
実際、本発明の範囲は、本明細書及び添付の図面の開示に基づいて当業者が理解するような、添付の特許請求の範囲及びそれらの法的均等物の適切な解釈及び構成によって決定されるべきである。
【0136】
本発明の態様は、以下の条項からも理解することができる。
1.血管内への医療デバイスの導入から血管の管腔面を保護するための伸縮式シースであって、
内部に延在する通路を画定する内面を有した硬質カラーを備え、
前記硬質カラーは、前記硬質カラーに取り付けられて周方向に伸縮可能な細長スリーブを有し、前記細長スリーブは、近位開口部及び遠位開口部を有して、前記近位開口部と前記遠位開口部との間に管腔路を画定し、
前記細長スリーブは、連続するエラストマ外側層と、少なくとも部分的に不連続な拡張可能内側層とを含む2つの別個の層を備え、前記拡張可能内側層の不連続部分は、強制的に巻かれるときに、環状に外向きの抗力を生じるような特性が与えられた硬質ポリマシートを備え、前記硬質ポリマシートは、前記連続するエラストマ外側層が形成する管腔内に巻かれて長手方向に延設され、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置されたときに、前記拡張可能内側層の少なくとも一部を形成し、
前記硬質カラーは、周方向に伸縮可能な前記細長スリーブの前記近位開口部で、前記細長スリーブに取り付けられる、
伸縮式シース。
2.前記拡張可能内側層は、前記近位開口部で終端する実質的に円筒状の連続部分と、前記遠位開口部で終端する不連続な硬質ポリマシート部分とを備え、前記不連続な硬質ポリマシート部分が、前記連続するエラストマ外側層によって形成された管腔内に巻かれて長手方向に延設され、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と実質的に接して配置される、条項1に記載の伸縮式シース。
3.前記不連続な硬質ポリマシート部分は、弛緩状態で重なりを有した状態で巻かれ、前記細長スリーブの長手方向軸線の周りに螺旋状に巻かれるように構成される、条項2に記載の伸縮式シース。
4.前記不連続な硬質ポリマシート部分の縁部は、前記細長スリーブの長手方向軸線の周りに螺旋状に巻かれる、条項3に記載の伸縮式シース。
5.前記不連続な硬質ポリマシート部分は、遠位部分が巻かれる回数に約0.5~約1.5を加えた回数にほぼ等しい回数、前記伸縮式シースの長手方向軸線の周りに巻かれる、条項4に記載の伸縮式シース。
6.前記硬質ポリマシートは、少なくとも3つの縁部を備え、少なくとも1つの縁部が斜めの切断部で終端する、条項1に記載の伸縮式シース。
7.前記硬質ポリマシートは、少なくとも3つの縁部を備え、少なくとも2つの実質的に対向する縁部が、前記遠位開口部を画定する点または縁部で交差し、2つの縁部のうちの少なくとも1つが、斜めの切断によって形成される、条項6に記載の伸縮式シース。
8.前記連続するエラストマ外側層と前記拡張可能内側層とは、互いに対して移動可能であり、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と前記拡張可能内側層の外面とは、互いに対して移動可能である、条項1に記載の伸縮式シース。
9.前記細長スリーブは、前記連続するエラストマ外側層の管腔面と前記拡張可能内側層の外面との間に、摩擦係数を低減するための、シリコーン、グリセリン油、PTFE、または親水性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含む潤滑層または表面処理を備える、条項8に記載の伸縮式シース。
10.前記拡張可能内側層は、前記実質的に円筒状の連続部分と前記不連続な硬質ポリマシート部分との間に切り込みまたは切り欠きを備えた実質的に均一な硬質ポリマ材料から一体的に形成される、条項9に記載の伸縮式シース。
11.前記細長スリーブは、前記近位開口部と前記遠位開口部との間で、少なくとも部分的に長手方向に沿って先細になっている、条項1に記載の伸縮式シース。
12.前記遠位開口部を画定する前記細長スリーブの縁部は、前記近位開口部の円周を画定する前記細長スリーブの縁部よりも少なくとも約20%小さい円周を有する、条項11に記載の伸縮式シース。
13.前記遠位開口部を画定する前記細長スリーブの縁部は、前記近位開口部の円周を画定する前記細長スリーブの縁部よりも少なくとも約25%小さい円周を有する、条項12に記載の伸縮式シース。
14.前記硬質ポリマシートは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、PTFE、これらのコポリマ、またはそれ以外の生体適合性ポリマからなる群から選択された少なくとも1つを含む材料から形成される、条項1に記載の伸縮式シース。
15.前記連続するエラストマ外側層は、エラストマ材料からなり、前記連続するエラストマ外側層は、前記エラストマ材料の伸張時に拡張し、前記エラストマ材料の弛緩時に収縮することができ、前記エラストマ材料は、収縮すると、最初の円周の約135%以下の円周に戻ることができる、条項1に記載の伸縮式シース。
16.前記連続するエラストマ外側層は、前記エラストマ材料の伸張時に、拡張していない円周の約1.35倍以上に拡張可能である、条項15に記載の伸縮式シース。
17.前記連続するエラストマ外側層は、シリコーン材料またはシリコーン複合材料から形成され、約0.2mm以下の厚さを備える、条項1に記載の伸縮式シース。
18.前記連続するエラストマ外側層は、約0.1mmの厚さを備える、条項16に記載の伸縮式シース。
19.前記細長スリーブの管腔路内に設けられ、前記細長スリーブの遠位端から突出する硬質イントロデューサを備える、条項1に記載の伸縮式シース。
20.前記細長スリーブは、放射線不透過性マーカを備える、条項1に記載の伸縮式シース。
21.条項1に記載の伸縮式シースを使用する方法であって、
条項1に記載の伸縮式シースを得るステップと、
前記伸縮式シースの管腔路に硬質イントロデューサを通すステップと、
前記伸縮式シースを血管内に導入するステップとを備える、
方法。
22.条項1に記載の伸縮式シースを製造する方法であって、
条項1に記載の硬質カラー、エラストマ外側層、及び拡張可能内側層を得るステップと、
前記拡張可能内側層を、前記近位開口部で前記硬質カラーに取り付けるステップと、
前記拡張可能内側層を、前記エラストマ外側層の内側に配置するステップとを備える、
方法。
【外国語明細書】