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特開2024-129831結晶膜、積層構造体、半導体装置、電子機器、システム及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129831
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】結晶膜、積層構造体、半導体装置、電子機器、システム及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20240920BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240920BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20240920BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 33/28 20100101ALI20240920BHJP
【FI】
C30B29/22 Z
B32B9/00 A
C30B25/02 Z
C23C16/40
H01L21/368
H01L21/31 B
H01L33/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039170
(22)【出願日】2023-03-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本結晶成長学会 第14回ナノ構造・エピキタシャル成長講演会予稿集 第7ペイジ(Fr-P07) 〔刊行物等〕 第70回応用物理学会 春季学術講演会予稿集 [15a-E102-2] 〔刊行物等〕 日本結晶成長学会 第14回ナノ構造・エピキタシャル成長講演会に係る発表会ポスター(導電性発現をめざした岩塩構造MgZnO薄膜の成長)
(71)【出願人】
【識別番号】723001900
【氏名又は名称】Patentix株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 知紀
(72)【発明者】
【氏名】菊池 瑛嗣
(72)【発明者】
【氏名】服部 太政
(72)【発明者】
【氏名】衣斐 豊祐
【テーマコード(参考)】
4F100
4G077
4K030
5F045
5F053
5F241
【Fターム(参考)】
4F100AA18A
4F100AA18B
4F100AA25A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DD07A
4F100EH66A
4F100GB41
4F100JA11A
4F100JA11B
4F100JG10A
4F100JN28
4G077AA03
4G077AB03
4G077AB09
4G077BC60
4G077BD20
4G077DB01
4G077DB12
4G077EA02
4G077ED06
4G077HA06
4K030AA14
4K030BA01
4K030BA21
4K030BA42
4K030BB01
4K030BB12
4K030CA05
4K030EA01
4K030FA10
4K030LA12
5F045AA00
5F045AB22
5F045AC00
5F045AC11
5F045AD11
5F045AF09
5F045BB16
5F045CA10
5F045DA53
5F045DA54
5F045DA58
5F045DP07
5F045DQ06
5F045EE02
5F045EF02
5F045EK06
5F053AA50
5F053BB60
5F053DD20
5F053FF02
5F053GG01
5F053GG02
5F053GG03
5F053HH05
5F053LL02
5F053RR11
5F241AA31
5F241CA41
5F241CA67
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】n型キャリア制御が容易な岩塩構造を有するMgZnO結晶膜及び積層構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有し、また、膜厚が0.1μm以上であり、100mm以上の面積を有する結晶膜が、例えば、深紫外発光素子などの半導体装置に有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有していることを特徴とする結晶膜。
【請求項2】
前記金属元素中Znが、60原子%以上含まれている請求項1記載の結晶膜。
【請求項3】
100mm以上の面積を有する請求項1記載の結晶膜。
【請求項4】
単結晶である請求項1記載の結晶膜。
【請求項5】
半導体である請求項1記載の結晶膜。
【請求項6】
膜厚が0.1μm以上である請求項1記載の結晶膜。
【請求項7】
表面粗さ(RMS)が0.1μm以上である請求項6記載の結晶膜。
【請求項8】
前記結晶性酸化物のバンドギャップが、5.50eV以上である請求項1記載の結晶膜。
【請求項9】
結晶基板上にMg及びZnを含む結晶性酸化物膜を主成分とする積層構造体であって、前記結晶基板が岩塩構造を有しており、前記結晶性酸化物膜が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、岩塩構造単相膜であることを特徴とする積層構造体。
【請求項10】
前記結晶基板がMgO基板である請求項9記載の積層構造体。
【請求項11】
前記金属元素中Znが、60原子%以上含まれている請求項9記載の積層構造体。
【請求項12】
前記結晶性酸化物膜が、100mm以上の面積を有する請求項9記載の積層構造体。
【請求項13】
前記結晶性酸化物膜が単結晶である請求項9記載の積層構造体。
【請求項14】
前記結晶性酸化物膜の膜厚が0.1μm以上である請求項9記載の積層構造体。
【請求項15】
前記結晶性酸化物膜の表面粗さ(RMS)が0.1μm以上である請求項14記載の積層構造体。
【請求項16】
前記結晶性酸化物膜のバンドギャップが、5.50eV以上である請求項9記載の積層構造体。
【請求項17】
結晶膜を含む半導体装置であって、前記結晶膜が請求項1記載の結晶膜である半導体装置。
【請求項18】
深紫外線発光素子である請求項17記載の半導体装置。
【請求項19】
半導体装置を含む電子機器であって、前記半導体装置が請求項17記載の半導体装置であることを特徴とする電子機器。
【請求項20】
電子機器を含むシステムであって、前記電子機器が、請求項17記載の電子機器であることを特徴とするシステム。
【請求項21】
岩塩構造を有する結晶基板上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む薄膜を製造する方法であって、前記結晶基板上に、Mgに対するZnの濃度が上昇するように積層されている金属酸化物の濃度勾配層を形成した後、前記濃度勾配層上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有している結晶膜を前記薄膜として製膜することを特徴とする方法。
【請求項22】
前記の薄膜の製膜を、ミストCVD法により行う請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記の濃度勾配層の形成を、ミストCVD法により行う請求項21記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深紫外線発光素子に有用な結晶膜に関する。
【背景技術】
【0002】
医療施設、学校、役所、劇場、ホテル、飲食店等、頻繁に人が集まったり人が出入りしたりする施設は、バクテリアやカビ等の微生物が繁殖しやすく、またウイルスが蔓延しやすい環境にある。特に、上記施設における狭い空間(病室、トイレ、エレベータ内などの閉鎖空間)や人が密集するような空間では、このような傾向が顕著となる。
例えば、有害で感染性の高い微生物やウイルスは、当該ウイルス等に感染した人が施設内の所定の空間を出入りすることにより、当該空間における床や壁等の表面上で増殖したり、当該空間内を浮遊したりする。そのため、その空間に入った次の人にウイルス等が感染し、場合によっては感染症が施設内で蔓延することもある。
【0003】
以上のような状況を改善するために、人(場合によっては動物)が集まったり出入りしたりする施設においては、上記したような有害な微生物(例えば、感染性微生物)を消毒したり、ウイルスを不活化したりする措置が求められる。
床や壁等の上記空間を取り囲む表面については、例えば、作業員によってアルコール等の消毒剤を散布する、消毒剤を染み込ませた布等で拭き取る、あるいは殺菌紫外線を照射する等の除染作業が行われる。また、空間内を浮遊する微生物やウイルス等については、例えば、紫外線照射による殺菌・不活化が行われる。
深紫外線発光素子として期待される材料として、岩塩構造を有するMgZnOが近年注目を集めている。岩塩構造を有するMgZnOはワイドバンドギャップ半導体であり、真空紫外・固体発光素子の実現が期待されている。
【0004】
特許文献1には、発光層が、Zn1-xMgO(x>0である。)を主成分として含み、前記主成分が岩塩構造を有している深紫外線発光素子が記載されている(特許文献1)。しかしながら、従来のミストCVD法では、膜中におけるZnの含有率が30%前後と低く、n型キャリア制御が困難であった。また、n型キャリア制御を容易にする目的で、Znの含有率を上げることが考えられるが、Znの含有率を上げることがそもそも困難であり、工業上実用可能な面積などを有するものを得ることが、できなかった。また、MgとZnの混晶比が拮抗してくると、結晶構造が非常に不安定になるため、岩塩構造単相の結晶膜を得ることが困難になり、岩塩構造とウルツ鉱構造との混合相になってしまう問題があった。混合相になってしまうと、異なる結晶構造が混じるため、結晶性も非常に低下し、表面平滑性も悪化するといった問題があった。特に、Znを56%以上含ませると混合相になり、従来法ではZnを56%以上含ませた岩塩構造単相結晶膜を得ることが困難であった。そのため、Znの含有量が56%以上の岩塩構造単相結晶膜を得ることができる方策が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-204642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、n型キャリア制御が容易な岩塩構造を有するMgZnO結晶膜及び積層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、岩塩構造を有する結晶基板上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む薄膜を製造する際に、前記結晶基板上に、Mgに対するZnの濃度が上昇するように積層されている金属酸化物の濃度勾配層を形成した後、前記薄膜を製膜すると、前記濃度勾配層上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有している結晶膜を容易に製造することができることを知見し、このような結晶膜が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有していることを特徴とする結晶膜。
[2] 前記金属元素中Znが、60原子%以上含まれている前記[1]記載の結晶膜。
[3] 100mm以上の面積を有する前記[1]記載の結晶膜。
[4] 単結晶である前記[1]記載の結晶膜。
[5] 半導体である前記[1]記載の結晶膜。
[6] 膜厚が0.1μm以上である前記[1]記載の結晶膜。
[7] 表面粗さ(RMS)が0.1μm以上である前記[6]記載の結晶膜。
[8] 前記結晶性酸化物のバンドギャップが、5.50eV以上である前記[1]記載の結晶膜。
[9] 結晶基板上にMg及びZnを含む結晶性酸化物膜を主成分とする積層構造体であって、前記結晶基板が岩塩構造を有しており、前記結晶性酸化物膜が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、岩塩構造単相膜であることを特徴とする積層構造体。
[10] 前記結晶基板がMgO基板である前記[9]記載の積層構造体。
[11] 前記金属元素中Znが、60原子%以上含まれている前記[9]記載の積層構造体。
[12] 前記結晶性酸化物膜が、100mm以上の面積を有する前記[9]記載の積層構造体。
[13] 前記結晶性酸化物膜が単結晶である前記[9]記載の積層構造体。
[14] 前記結晶性酸化物膜の膜厚が0.1μm以上である前記[9]記載の積層構造体。
[15] 前記結晶性酸化物膜の表面粗さ(RMS)が0.1μm以上である前記[14]記載の積層構造体。
[16] 前記結晶性酸化物膜のバンドギャップが、5.50eV以上である前記[9]記載の積層構造体。
[17] 結晶膜を含む半導体装置であって、前記結晶膜が前記[1]記載の結晶膜である半導体装置。
[18] 深紫外線発光素子である前記[17]記載の半導体装置。
[19] 半導体装置を含む電子機器であって、前記半導体装置が前記[17]記載の半導体装置であることを特徴とする電子機器。
[20] 電子機器を含むシステムであって、前記電子機器が、前記[17]記載の電子機器であることを特徴とするシステム。
[21] 岩塩構造を有する結晶基板上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む薄膜を製造する方法であって、前記結晶基板上に、Mgに対するZnの濃度が上昇するように積層されている金属酸化物の濃度勾配層を形成した後、前記濃度勾配層上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有している結晶膜を前記薄膜として製膜することを特徴とする方法。
[22] 前記の薄膜の製膜を、ミストCVD法により行う前記[21]記載の方法。
[23] 前記の濃度勾配層の形成を、ミストCVD法により行う前記[21]記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の本発明の結晶膜及び積層構造体は、n型キャリア制御が容易な岩塩構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明において好適に用いられる成膜装置(ミストCVD)の概略構成図である。
図2】実施例1におけるXRD解析結果を示す図である。
図3】実施例1におけるSEM像を示す図である。
図4】実施例1におけるAFM像を示す図である。
図5】実施例1におけるTaucプロットを示す図である。
図6】実施例2におけるXRD解析結果を示す図である。
図7】実施例2におけるTaucプロットを示す図である。
図8】本発明における積層構造体の好適な一例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の結晶膜は、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有していれば特に限定されない。また、本発明の積層構造体は、結晶基板上にMg及びZnを含む結晶性酸化物膜を主成分とする積層構造体であって、前記結晶基板が岩塩構造を有しており、前記結晶性酸化物膜が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、岩塩構造単相膜であれば特に限定されない。本明細書においては、「膜」を「層」と読み替えることができる。「積層構造体」とは、一層以上の結晶層を含む構造体であり、結晶層以外の層(例:アモルファス層)を含んでいてもよい。また、結晶層は、単結晶層であることが好ましいが、多結晶層であってもよい。
【0012】
本発明において、前記結晶膜及び前記結晶性酸化物膜の面積は、100mm以上の面積を有しているのが好ましい。また、本発明において、前記結晶膜及び前記結晶性酸化物膜は、単結晶であるのが好ましく、また、半導体であるのも好ましい。また、前記結晶膜及び前記結晶性酸化物膜の膜厚は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、本発明においては、0.1μm以上であるのが好ましく、0.2μm以上であるのがより好ましい。また、前記結晶膜及び前記結晶性酸化物膜の表面粗さ(RMS)は、0.1μm以上であるのが好ましい。これら好ましい範囲によれば、耐圧をより良好なものとすることができる。
【0013】
本発明において、前記金属元素Znは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、56原子%以上含まれているのが好ましく、60原子%以上含まれているのがより好ましい。前記結晶性酸化物のバンドギャップは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、5.00eV以上であるのが好ましく、5.50eV以上であるのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、より小型化、より低消費電力、非有害物質によるデバイス作製が可能となる。なお、バンドギャップは、例えば、島津製作所製紫外可視分光光度計「UV-1850」を用いて測定できる。
【0014】
前記積層構造体において用いられる結晶基板は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、岩塩構造を有しているのが好ましく、MgO基板であるのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、バンドギャップにおいてより優れた効果を奏することができる。
【0015】
本発明の結晶膜及び積層構造体は、岩塩構造を有する結晶基板上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む薄膜を製造する方法において、前記結晶基板上に、Mgに対するZnの濃度が上昇するように積層されている金属酸化物の濃度勾配層を形成した後、前記濃度勾配層上に、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有している結晶膜を前記薄膜として製膜することにより容易に得ることが可能である。
【0016】
例えば、超格子構造を有するバッファ層を作製するミストCVD法において、図8に示すように、Znの組成を徐々に増加させていくことが好適に上げられ、より具体的には、2分毎にZnの仕込み量を5%ずつ上げるように前駆体溶液に滴下し、前記結晶性酸化物中のZnの含有量が、原子比でMgより多く、前記結晶基板上に、Mgに対するZnの濃度が上昇するように積層されている金属酸化物の濃度勾配層を形成した後、前記濃度勾配層上に、前記薄膜を製膜することなどが好適な例として挙げられる。図8は、本発明の積層構造体の好適な一例を模式的に示す図である。図8の積層構造体は、薄膜100、超格子バッファ層101及び基板102を含む。基板102は、例えば、MgO基板からなり、超格子バッファ層101は、結晶成長中の原料溶液に異なる仕込み比の原料溶液を複数回分けて滴下し、成長途中に前駆体溶液の仕込み比を徐々に変化させて形成した超格子バッファ層であり、Mgに対するZnの濃度が上昇するように濃度勾配を有している。また、薄膜100は、Mg及びZnを含む結晶性酸化物を主成分として含む結晶膜であって、前記結晶性酸化物が、金属元素中Znを56原子%以上含んでおり、単相の岩塩構造を有している結晶膜である。
【0017】
前記結晶膜又は前記積層構造体は、そのままで又は基板の剥離等の公知の加工処理手段が施された後に、公知の手段を用いて、深紫外線発光素子等の半導体装置などに適用される。前記半導体装置は、不活化装置等の電子機器などに用いられ、例えば、公知の励起光源を用いて前記結晶膜及び前記積層構造体を蛍光体に使用して常法に従って製造される。前記電子機器は常法に従い、センサーと共にシステムとして用いられる。
【実施例0018】
(実施例1)
図1を用いて、本実施例で用いたCVD装置19を説明する。CVD装置19は、下地基板等の被成膜試料20を載置する試料台21と、キャリアガス3を供給するキャリアガス源22と、キャリアガス源22から送り出されるキャリアガス3の流量を調節するための流量調節弁23と、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる成膜室27と、成膜室27の周辺部に設置されたヒータ28を備えている。試料台21は、石英からなり、被成膜試料20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室27と試料台21をどちらも石英で作製することにより、被成膜試料20上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。
【0019】
次に、被成膜試料20として、1辺が10mmの正方形で厚さ600μmのMgO基板を試料台21上に設置させ、ヒータ28を作動させて成膜室27内の温度を750℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23を開いてキャリアガス源22からキャリアガスを成膜室27内に供給し、成膜室27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を4L/minに調節した。キャリアガスとしては、酸素ガスを用いた。
【0020】
次に、超音波振動子26を振動させ、その振動を水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって原料溶液24aを微粒子化させて原料微粒子を生成した。この原料微粒子が、キャリアガスによって成膜室27内に導入され、成膜室27内で反応して、被成膜試料20の成膜面でのCVD反応によって被成膜試料20上に濃度勾配層を形成した。前記濃度勾配層は、結晶成長中の原料溶液24aに、2分毎に原料溶液24aとは異なる濃度比の溶液を滴下して、原料溶液24aのZnの仕込み量を5%ずつ増加させることで形成した。なお、Znの仕込み量は30%になるまで増加させた。その後、前記濃度勾配層上に上記と同様にして、Znの仕込み量が35%である原料溶液24aを用いて製膜を行うことで薄膜を本発明の結晶膜として得た。なお、膜厚は0.1μmであった。
【0021】
得られた薄膜を、X線回折装置(2θ-ω)を用いて、薄膜を測定した。図2にXRD解析結果を示す。MgO基板上に良好な結晶性を有するMgZnO結晶が形成されていた。また、図2から明らかなように、得られた薄膜は岩塩構造の単相膜であり、MgZnOの単結晶であった。また、XRD回折結果から得られた格子定数値によってベガード則を適用したところ、得られた薄膜のZn組成は56原子%であった。
【0022】
また、得られた薄膜の表面を、SEMを用いて観察した。図3にSEM像を示す。図3から明らかなように、表面平滑性に優れ、良好な結晶性を有するMgZnO結晶が形成されていた。
【0023】
得られた薄膜をAFMにて観察した。図4にAFM像を示す。表面粗さ(RMS)は0.373nmであった。図4から明らかなように、表面平滑性により優れているMgZnO結晶が形成されていた。
【0024】
得られた薄膜を、島津製作所製紫外可視分光光度計「UV-1850」にて測定し、得られた吸収スペクトルからTaucプロットにより求めたものを図5に示す。前記薄膜のバンドギャップは、5.95eVであった。図5から、明らかなように、バンドギャップにより優れているMgZnO結晶が形成されていた。
【0025】
(実施例2)
Znの仕込み量を2分毎に5%ずつ増加させて、つまり、Znの仕込み量を5%から45%まで増加させて濃度勾配層を形成したこと及びZnの仕込み量を50%にして薄膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして本発明の結晶膜を得た。得られた結晶膜を、X線回折装置(2θ-ω)を用いて測定した。図6にXRD解析結果を示す。MgO基板上に良好な結晶性を有するMgZnO結晶が形成されていた。また、図6から明らかなように、得られた薄膜は岩塩構造の単相膜であり、MgZnOの単結晶であった。また、XRD回折結果から得られた格子定数値によってベガード則を適用したところ、得られた薄膜のZn組成は71原子%であった。得られた薄膜を、島津製作所製紫外可視分光光度計「UV-1850」にて測定し、得られた吸収スペクトルからTaucプロットにより求めたものを図7に示す。得られた薄膜のバンドギャップは、5.77eVであった。図7から、明らかなように、バンドギャップにより優れているMgZnO結晶が形成されていた。なお、膜厚は0.1μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の結晶膜及び積層構造体は、例えば、深紫外発光素子などに有用である。
【符号の説明】
【0027】
19 CVD装置
20 被成膜試料
21 試料台
22 キャリアガス源
23 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 成膜室
28 ヒータ
100 薄膜
101 超格子バッファ層
102 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8