(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129835
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】分散剤、それにより表面修飾された複合体及び磁性複合体、並びに分散液
(51)【国際特許分類】
C09K 23/40 20220101AFI20240920BHJP
C01G 23/047 20060101ALI20240920BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20240920BHJP
C01B 32/921 20170101ALI20240920BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09K23/40
C01G23/047
C01B21/064 M
C01B32/921
C01G49/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039180
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】原 秀太
(72)【発明者】
【氏名】池原 飛之
【テーマコード(参考)】
4D077
4G002
4G047
4G146
【Fターム(参考)】
4D077AA01
4D077AC05
4D077DC04X
4D077DC13X
4D077DC48X
4D077DC66X
4G002AA03
4G002AD04
4G047CA02
4G047CB08
4G047CD05
4G146MA09
4G146MB02
4G146MB07
4G146PA12
4G146PA18
(57)【要約】
【課題】カテコール骨格に基づく優れた分散効果を備えた化合物を応用しつつ、適用対象が金属や金属酸化物に限られず、しかも機能性を備えた複合分散体を得ることへの応用も可能な新しいタイプの分散剤を提供すること。
【解決手段】本発明の分散剤は、下記一般式(1)で表す化合物により表面修飾された金属又は金属酸化物粒子からなる分散剤である。下記一般式(1)で表す化合物は、それ自体が金属に対する優れた分散剤だが、この化合物で表面修飾を受けることにより分散された金属又は金属酸化物粒子もまた、粒子を分散させるための優れた分散剤となる。そして、その分散剤の分散対象は、金属又は金属酸化物粒子に限られない。なお、下記一般式において、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基又はフェニル基であり、Aは、リン原子又は窒素原子であり、X
-は、カウンターアニオンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表す化合物により表面修飾された金属又は金属酸化物粒子からなる分散剤。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基又はフェニル基であり、Aは、リン原子又は窒素原子であり、X
-は、カウンターアニオンである。)
【請求項2】
一般式(1)におけるAがリン原子である請求項1記載の分散剤。
【請求項3】
前記金属又は金属酸化物粒子の粒子径が10nm~100nmである請求項1記載の分散剤。
【請求項4】
前記金属又は金属酸化物粒子が、TiO2、Fe2O3、CoFe2O4、ZnO、CuO及びFe3O4から選択される少なくとも1つである請求項1記載の分散剤。
【請求項5】
請求項1記載の分散剤により表面修飾された粒子からなる複合体。
【請求項6】
請求項1記載の分散剤であって、前記金属酸化物粒子がFe2O3、Fe3O4又はCoFe2O4であるものに表面修飾された粒子からなる磁性複合体。
【請求項7】
請求項5又は6記載の複合体又は磁性複合体と溶媒とを含む分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤、それにより表面修飾された複合体及び磁性複合体、並びに分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子を溶媒に分散させるに際しては、粒子と溶媒の両方に対して親和性のある化合物を用いて、粒子の表面を修飾することが広く行われている。例えば、金属ナノ粒子を溶媒に分散させる分散剤としては、オレイン酸、オレイルアミン、クエン酸、ドーパミン等が用いられている。また、金属ナノ粒子を溶媒に分散させる分散剤として、例えば、特許文献1に記載の粒子分散剤が提案されている。
【0003】
上記に挙げた分散剤のうち、ドーパミンのようにカテコール骨格を備えた化合物では、カテコール骨格に含まれる2つの水酸基が金属粒子や金属酸化物粒子の表面に強く結合することが知られている。このように、金属粒子や金属酸化物粒子の表面に強く結合するカテコール骨格と、溶媒に対して親和性を示すホスホニウムイオン部位とを併せ持つ、特許文献2記載の化合物が、金属ナノ粒子を広範囲の溶媒に分散させることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-69092号公報
【特許文献2】国際公開WO2019/177042号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載された化合物は、分散剤として優れた特性を備え、特に金属や金属酸化物のナノ粒子の分散において非常に高い潜在能力を備える。しかしながら、特許文献2に記載された化合物は、カテコール骨格に含まれる2つの水酸基が金属粒子や金属酸化物粒子の表面に強く結合するという特性に基づいて分散剤としての機能を発現するため、金属粒子や金属酸化物粒子でない分散対象、すなわちカテコール骨格に含まれる2つの水酸基が強く結合しない分散対象に対しての分散効果はあまり期待できないか、分散させるために多量の分散剤を用いる必要が生じることになる。また、特許文献1に記載された、磁性等の特性を備えたナノ粒子分散体を、より大きなサイズの粒子表面に付着させて複合体とすることで、こうした特性を備えたナノ粒子の使用量を節約したり、より広範な用途へ展開したりすることも期待されるが、今度は、そうして得られた複合体自体の分散性を確保するという問題も生じ得る。
【0006】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、カテコール骨格に基づく優れた分散効果を備えた化合物を応用しつつ、適用対象が金属や金属酸化物に限られず、しかも機能性を備えた複合分散体を得ることへの応用も可能な新しいタイプの分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以上の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特許文献2に記載された分散剤を用いて分散させたナノ粒子は、それ自体が他の粒子に対する分散剤となり、しかも、当該他の粒子が金属粒子や金属酸化物粒子でなくとも優れた分散性を示すことを見出した。そして、分散剤となるナノ粒子(以下、「ナノ粒子分散剤」とも呼ぶ。)として、磁性を備えた金属酸化物を選択する等、特性を備えたものを選択することにより、この分散剤により分散された粒子にナノ粒子分散剤由来の特性を付与できることや、こうしたナノ粒子分散剤を用いて非金属性の粒子を分散させた場合、特許文献2記載の分散剤(以下、「化合物分散剤」とも呼ぶ。)そのものを用いて分散させたときよりも、化合物分散剤の使用量を削減できることを見出した。本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、次のようなものを提供する。
【0008】
(1)本発明は、下記一般式(1)で表す化合物により表面修飾された金属又は金属酸化物粒子からなる分散剤である。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基又はフェニル基であり、Aは、リン原子又は窒素原子であり、X
-は、カウンターアニオンである。)
【0009】
(2)また本発明は、一般式(1)におけるAがリン原子である(1)項記載の分散剤である。
【0010】
(3)また本発明は、上記金属又は金属酸化物粒子の粒子径が10nm~100nmである(1)項又は(2)項記載の分散剤である。
【0011】
(4)また本発明は、上記金属又は金属酸化物粒子がTiO2、Fe2O3、CoFe2O4、ZnO、CuO及びFe3O4から選択される少なくとも1つである(1)項~(3)項記載の分散剤である。
【0012】
(5)本発明は、(1)項~(4)項のいずれか1項記載の分散剤により表面修飾された粒子からなる複合体でもある。
【0013】
(6)本発明は、(1)項~(4)項のいずれか1項記載の分散剤であって、上記金属酸化物粒子がFe2O3、Fe3O4又はCoFe2O4であるものに表面修飾された粒子からなる磁性複合体でもある。
【0014】
(7)本発明は、(5)項又は(6)項記載の複合体又は磁性複合体と溶媒とを含む分散液でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カテコール骨格に基づく優れた分散効果を備えた化合物を応用しつつ、適用対象が金属や金属酸化物に限られず、しかも機能性を備えた複合分散体を得ることへの応用も可能な新しいタイプの分散剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の分散剤の一実施形態、複合体の一実施形態、磁性複合体の一実施形態及び分散液の一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲で変更を加えて実施をすることができる。
【0017】
<分散剤>
まずは、本発明の分散剤について説明する。本発明の分散剤は、下記一般式(1)で表す化合物により表面修飾された金属又は金属酸化物粒子からなる。下記一般式(1)で表す化合物のうち、Aがリン原子であるものは、上記特許文献2に記載された分散剤と同様の化合物であり、それ自体が金属ナノ粒子のための優れた分散剤である。本発明者らの検討によれば、下記一般式(1)で表す化合物で表面修飾を受けることにより分散された金属又は金属酸化物粒子が、意外にも、粒子を分散させるための優れた分散剤として機能することを見出し、しかも、その分散対象は、下記一般式(1)で表す化合物の場合とは異なり、金属や金属酸化物粒子に限られない。なお、上記の通り、本明細書では誤解を避けるため、金属や金属酸化物に対する分散能を備えた下記一般式(1)で表す化合物を「化合物分散剤」と呼び、当該化合物分散剤により表面修飾を受けて、自身の分散能を獲得するだけでなく、他の粒子を分散させる能力を獲得した金属又は金属酸化物粒子のことを「ナノ粒子分散剤」と呼ぶ。すなわち、下記一般式(1)で表す化合物分散剤で表面修飾を受けたナノサイズの金属又は金属酸化物粒子が、ナノ粒子分散剤となる。そして、このナノ粒子分散剤が本発明の分散剤となる。
【0018】
【0019】
上記一般式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基又はフェニル基である。このようなアルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐していてもよいし、環式であってもよい。こうしたアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等を好ましく挙げることができるが、ブチル基をより好ましく挙げることができる。
【0020】
上記一般式(1)中、Aは、リン原子又は窒素原子であり、中でもリン原子を好ましく挙げることができる。リン原子や窒素原子は、いずれも周期表の第15族に属する原子であり、四級化を受けることによりカチオンを形成する。このカチオンが、溶媒に対して親和性を示し、分散対象である金属又は金属酸化物粒子の溶媒に対する分散性を付与するのに寄与する。このように、上記一般式(1)におけるAが四級カチオンの形態を取れることが機能上重要なので、Aがリン原子であるか窒素原子であるかにかかわらず、本発明所定の効果を得ることができる。
【0021】
X-は、四級カチオンのカウンターとなるアニオンである。X-としては、Cl-、Br-、I-、ヘキサフルオロフォスフェートアニオン(PF6
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(Tf2N-)、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン(BETI-)、(2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメタンスルホニル)アセトアミドアニオン(TSAC-)等が好ましく挙げられ、これらの中でも、合成の容易性の観点からはCl-を好ましく挙げることができる。なお、X-は、分散体が分散される溶媒の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0022】
上記一般式(1)を合成するための一例としては、特に限定されないが、アクリルドーパミンに有機ホスホニウムイオンや有機アンモニウムイオンを共有結合させる方法を挙げることができる。
【0023】
具体的には、アクリルドーパミンと三置換ホスフィン化合物又は三置換アミン化合物とを酸性条件下で反応させて得た反応物と、所望の陰イオンを生成する化合物とを反応させる方法が挙げられる。三置換ホスフィン化合物とは、ホスフィン(PH3)に含まれる3個の水素原子をアルキル基やフェニル基で置換したものであり、三置換アミン化合物とは、アンモニア(NH3)に含まれる3個の水素原子をアルキル基やフェニル基で置換したものである。このような三置換ホスフィン化合物や三置換アミン化合物としては、上記一般式(1)中のR1~R3に対応する有機基を備えたものが用いられる。例えば、上記一般式(1)中のR1~R3がいずれもn-ブチル基であって、Aがリン原子であるものを合成する場合には、トリブチルホスフィンが用いられ、上記一般式(1)中のR1~R3がいずれもエチル基であって、Aが窒素原子であるものを合成する場合には、トリエチルアミンが用いられる。
【0024】
なお、X-としてCl-であるものを合成する場合、塩酸を用いて酸性条件としてから上記の反応を行えばよい。X-がCl-以外のものを合成する場合には、例えば、X-がCl-であるものを合成してから、所望のアニオンを含むリチウム塩等を用いて公知の方法でアニオン交換すればよい。
【0025】
上記一般式(1)で表す化合物は、上記「化合物分散剤」であり、カテコール骨格に含まれる2つの水酸基により金属又は金属酸化物粒子に対して結合し、また、A+で表す四級カチオンの存在により当該金属又は金属酸化物粒子を広範囲の溶媒に分散させる分散剤となる。
【0026】
金属又は金属酸化物粒子は、ナノ粒子の状態で上記の化合物分散剤の処理を受けることにより、ナノ粒子分散剤となる。すなわち、金属又は金属酸化物粒子は、上記の化合物分散剤で処理されることでその表面に化合物分散剤が結合し、溶媒への分散性を獲得するとともに、他の粒子を分散させるためのナノ粒子分散剤となる。このため、金属又は金属酸化物粒子は、ナノ粒子サイズであることが求められ、その径としては10nm~100nmが好ましく挙げられる。なお、金属又は金属酸化物粒子は、球形であってもよいし、針状等のような異方性のあるものであってもよい。異方性のある形状の場合、その最も長い径が上記の範囲であることが好ましい。
【0027】
金属又は金属酸化物粒子としては、チタン、ジルコニウム、スズ、ハフニウム、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、銅、銀、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、イリジウム、白金、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム等、及びこれら金属の一種又は複数種を含む酸化物を挙げることができる。このような酸化物の好ましい例として、CoFe2O4、CuO、Fe3O4、Fe2O3、TiO2、ZnO、SnO2、ITO(酸化インジウムスズ)、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛及び酸素から構成される複合酸化物)等を挙げることができる。これらの中でも、TiO2、Fe2O3、CoFe2O4、ZnO、CuO及びFe3O4から選択される少なくとも1つを好ましく挙げることができる。また、これら酸化物の中からCoFe2O4、Fe3O4、Fe2O3等のような磁性酸化物を選択すれば、磁性を備えたナノ粒子分散剤とすることができ、それにより分散された粒子に磁性を付与することができる。また、これら酸化物の中からITOやIGZO等のような導電性複合酸化物を選択すれば、導電性を備えたナノ粒子分散剤とすることができ、それにより分散された粒子に導電性を付与することができる。このように、所望の機能を備えた金属又は金属酸化物粒子を選択してナノ粒子分散剤を調製することにより、そのナノ粒子分散剤により分散された粒子に所望の機能を付与することができる。
【0028】
金属又は金属酸化物粒子を上記化合物分散剤で処理してナノ粒子分散剤に転換するには、上記のようなナノサイズの金属又は金属酸化物粒子を、化合物分散剤及び適切な溶媒の存在下でビーズミルにより処理することを挙げることができる。このような溶媒としては、25℃での比誘電率が4.8~80であるものを好ましく挙げられ、25℃での比誘電率が4.8~70である溶媒をより好ましく挙げられる。このような溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO;25℃での比誘電率48.9)、エチレングリコール(25℃での比誘電率38.7)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF;25℃での比誘電率38)、アセトニトリル(25℃での比誘電率37)、アセトン(25℃での比誘電率21)、テトラヒドロフラン(THF;25℃での比誘電率7.5)、クロロホルム(25℃での比誘電率4.8)、イソプロパノール(IPA;25℃での比誘電率18)、エタノール(25℃での比誘電率24)、メタノール(25℃での比誘電率33)、水(25℃での比誘電率80)等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
金属又は金属酸化物粒子に対する上記化合物分散剤の添加量としては、処理対象となる金属又は金属酸化物粒子の質量に対して、5質量%~20質量%程度を好ましく挙げることができる。
【0030】
<複合体>
次に、本発明の複合体について説明する。本発明の複合体は、上記本発明の分散剤であるナノ粒子分散剤により表面修飾された粒子である。既に説明した通り、本発明の分散剤であるナノ粒子分散剤は、それ自体が化合物分散剤で表面修飾を受けた分散体であるが、同時に他の粒子を表面修飾してそれを分散させる分散剤でもある。したがって、本発明の複合体は、液体に対する高い分散性を備える。
【0031】
ナノ粒子分散剤が分散対象とする粒子は、金属や金属酸化物に限定されない。この点で、上記化合物分散剤が金属や金属酸化物粒子を対象とするのと異なる。分散対象となる粒子としては、上記の金属や金属酸化物に加え、TiC、窒化ホウ素、各種の顔料等を挙げることができる。
【0032】
ナノ粒子分散剤が処理対象とする粒子の径としては30nm~100μm程度が好ましく挙げられ、50nm~10μm程度がより好ましく挙げられる。なお、この粒子は、球形であってもよいし、針状等のような異方性のあるものであってもよい。異方性のある形状の場合、その最も長い径が上記の範囲であることが好ましい。
【0033】
処理対象となる粒子をナノ粒子分散剤で処理して複合体に転換するには、処理対象となる粒子を、ナノ粒子分散剤及び適切な溶媒の存在下でビーズミルにより処理することを挙げることができる。このような溶媒としては、25℃での比誘電率が4.8~80である溶媒を好ましく挙げられ、25℃での比誘電率が4.8~70である溶媒をより好ましく挙げられる。このような溶媒としては、上記の通り、DMSO、エチレングリコール、DMF、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、イソプロパノール、エタノール、メタノール、水等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
粒子をナノ粒子分散剤で処理するに際してのナノ粒子分散剤の添加量としては、処理対象となる粒子の質量に対して、5質量%~30質量%程度を好ましく挙げることができる。ここで、特筆すべき点は、上記一般式(1)で表す化合物分散剤が表面処理を苦手とする非金属粒子を分散させる際に、当該化合物分散剤のみを用いてこれを分散させる場合に比べて、当該化合物分散剤で表面修飾を受けたナノ粒子分散剤を用いて分散させたほうが、化合物分散剤の使用量を全体として低減できる点を挙げることができる。例えば、非金属粒子であるTiC粒子を分散させる場合、上記一般式(1)で表す化合物分散剤のみでこれを分散させようとすれば、TiC粒子に対して20質量%以上の化合物分散剤が必要になるが、ナノ粒子分散剤を用いてこれを分散させる場合には、5質量%の化合物分散剤で処理されたナノ粒子分散剤を、分散対象となるTiC粒子に対して10質量%添加して表面修飾すればこれを分散させることができる。
【0035】
<磁性複合体>
次に、本発明の磁性複合体について説明する。本発明の磁性複合体は、上記本発明のナノ粒子分散剤のうち、Fe2O3、Fe3O4又はCoFe2O4の粒子に上記一般式(1)で表す化合物分散剤で表面修飾されたものを用いて、表面修飾された粒子である。すなわち、磁性を備えたナノ粒子分散剤により表面修飾された粒子が、本発明の磁性複合体となる。この磁性複合体は、原料となる被処理粒子が磁性を持たないものであったとしても、磁性を備えたナノ粒子分散剤と複合化されることにより、磁性を獲得する。それと同時に、この磁性複合体は、ナノ粒子分散剤で表面修飾されることで分散性も獲得する。
【0036】
なお、本発明の磁性複合体については、磁性を備える点を除いて上記本発明の複合体と同様のものであるから、ここでの説明を省略する。
【0037】
<分散液>
本発明の分散液は、上記本発明の複合体又は磁性複合体と溶媒を含み、この溶媒にこれらの複合体が分散されたものである。この分散液に含まれる溶媒としては、25℃での比誘電率4.8~80の溶媒を用いることが好ましく、具体的には、上述したナノ粒子分散剤において金属又は金属酸化物粒子を分散させる溶媒として挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0038】
本発明の分散液は、磁性等の機能を備えた液体として用いることができる他、物体の表面に各種の機能を付与するためのコーティング剤等としても用いることができる。
【実施例0039】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[化合物分散剤の調製]
3-ヒドロキシチラミン塩酸塩(0.0g、52.8mmol)及びトリエチルアミン(7.31mL、52.7mmol)をメタノール(100mL)に溶解し、原料溶液とした。この原料溶液を氷浴上で冷却し、pH9に維持しながら、トリエチルアミン(11.0mL、79.1mmol)、塩化アクロイル(5.11mL、63.2mmol)及びメタノール(11mL)の混合溶液と、テトラヒドロフラン(THF、5mL)とを交互に滴下した後、室温で1時間撹拌して反応させた。反応溶液から溶媒を留去し、残渣を酢酸エチルに溶解し、1mol/Lの塩酸と飽和食塩水とを用いて洗浄した。洗浄後の溶液を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去し、アクリルドーパミンを得た。
【0041】
得られたアクリルドーパミン(3g、14.4mmol)をジオキサン(20mL)に溶解し、酢酸(1.73g、288mmol)及びトリブチルホスフィン(2.91g、14.4mmol)を添加し、室温で1時間反応させた。反応溶液に1mol/Lの塩酸(30mL)を添加し、ヘキサン(30mL)で2回洗浄した後、溶媒を留去した。残渣をメタノール(20mL)及び1mol/Lの塩酸(20mL)の混用溶液に溶解させて80℃で3時間保持した後、溶媒を留去し、白色固体からなる化合物分散剤Aを得た(収率70%)。この化合物分散剤Aは、上記一般式(1)において、R1、R2及びR3がブチル基であり、Aがリン原子であり、X-が塩化物イオンとなる化合物である。
【0042】
[ナノ粒子分散剤(TiO2)の調製]
循環型の湿式ビーズミルに、循環溶媒であるメタノール(300mL)とTiO2の球状ナノ粒子(0.20g)と、化合物分散剤A(0.04g)とを仕込み、ミル内流量35mL/分、周速14.0m/sで2時間処理を行った。なお、ビーズミルにはZrO2ビーズ(粒子径0.05mm)を粉砕室容量に対して40%となるように充填した。得られた処理物を3000rpmで遠心分離して上澄みを回収し、さらにその上澄みを7000rpmで遠心分離を行い、その上澄みを回収することで、ナノ粒子分散剤(TiO2)を得た。ナノ粒子分散剤(TiO2)は、表面が化合物分散剤Aで修飾されたTiO2の球状ナノ粒子である。
【0043】
[ナノ粒子分散剤(Fe2O3)の調製]
TiO2の球状ナノ粒子(0.20g)に代えて、Fe2O3(0.20g)のナノ粒子を用いたことを除いて、上記「ナノ粒子分散剤(TiO2)の調製」と同様の手順でナノ粒子分散剤(Fe2O3)を得た。ナノ粒子分散剤(Fe2O3)は、表面が化合物分散剤Aで修飾されたFe2O3のナノ粒子である。
【0044】
[Ti3C2MXene粒子の分散]
ナノ粒子分散剤不使用、ナノ粒子分散剤(TiO2)使用、及びナノ粒子分散剤(Fe2O3)使用のそれぞれの条件にて、市販のTi3C2MXene(マキシン)粒子の分散を行った。なお、Ti3C2MXene粒子は、グラフェンのようなシート状の構造を備え、Ti(チタン)3層とC(炭素)2層からなる平均粒径8.0μmの板状粒子である。循環型の湿式ビーズミルに、循環溶媒であるメタノール(300mL)、ナノ粒子分散剤(0.04g)及びTi3C2MXene(0.20g)を仕込み、ミル内流量35mL/分、周速11.3m/sで2時間処理を行った。なお、ビーズミルにはZrO2ビーズ(粒子径0.05mm)を粉砕室容量に対して40%となるように充填した。得られた処理物を3000rpmで遠心分離して上澄みを回収し、さらにその上澄みを7000rpmで遠心分離を行い、その上澄みを回収することで、Ti3C2MXene粒子の分散液を得た。それぞれの条件のもとで得られた分散液の状態を目視し、表1に結果を示す。
【0045】
[窒化ホウ素(BN)粒子の分散]
ナノ粒子分散剤不使用、ナノ粒子分散剤(TiO2)使用、及びナノ粒子分散剤(Fe2O3)使用のそれぞれの条件にて、窒化ホウ素(BN)粒子(平均粒子径5000nm)の分散を行った。循環型の湿式ビーズミルに、循環溶媒であるメタノール(300mL)、ナノ粒子分散剤(0.04g)及びBN粒子(0.20g)を仕込み、ミル内流量35mL/分、周速11.3m/sで2時間処理を行った。なお、ビーズミルにはZrO2ビーズ(粒子径0.05mm)を粉砕室容量に対して40%となるように充填した。得られた処理物を3000rpmで遠心分離して上澄みを回収し、さらにその上澄みを7000rpmで遠心分離を行い、その上澄みを回収することで、BN粒子の分散液を得た。それぞれの条件のもとで得られた分散液の状態を目視し、表1に結果を示す。
【0046】
[TiO2針状粒子の分散]
ナノ粒子分散剤不使用、ナノ粒子分散剤(TiO2)使用、及びナノ粒子分散剤(Fe2O3)使用のそれぞれの条件にて、TiO2針状粒子(平均粒子径100×20nm)の分散を行った。循環型の湿式ビーズミルに、循環溶媒であるメタノール(300mL)、ナノ粒子分散剤(0.04g)及びTiO2針状粒子(0.20g)を仕込み、ミル内流量35mL/分、周速11.3m/sで2時間処理を行った。なお、ビーズミルにはZrO2ビーズ(粒子径0.05mm)を粉砕室容量に対して40%となるように充填した。得られた処理物を3000rpmで遠心分離して上澄みを回収し、さらにその上澄みを7000rpmで遠心分離を行い、その上澄みを回収することで、TiO2針状粒子の分散液を得た。それぞれの条件のもとで得られた分散液の状態を目視し、表1に結果を示す。
【0047】
【0048】
表1に示す通り、本発明のナノ粒子分散剤によれば、被処理粒子が金属又は金属酸化物であるか否かを問わず、それを分散させることができることが示された。そして、磁性を備えたFe2O3をベースとしたナノ粒子分散剤も良好な分散性を備えたことから、本発明のナノ粒子分散剤によれば、被処理粒子に磁性といった機能を付与しつつ、同時に分散性も付与できることが理解できる。