IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三五の特許一覧

<>
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図1
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図2
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図3
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図4
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図5
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図6
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図7
  • 特開-筒状体の扱き加工方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129853
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】筒状体の扱き加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/28 20060101AFI20240920BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B21D22/28 A
B21D24/00 K
B21D24/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039208
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 隆太
(72)【発明者】
【氏名】川端 大貴
(72)【発明者】
【氏名】角田 司
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA23
4E137BA02
4E137BB03
4E137BB04
4E137CA07
4E137DA11
4E137EA01
4E137GA02
4E137GA11
4E137HA06
(57)【要約】
【課題】有底又は無底を問わず、筒状のワークの内周面に対する扱き加工において、ワークの内周面とパンチとの間に潤滑油を潤沢に供給して油膜切れを防止することにより、ダイス及び/又はパンチへの凝着並びに温度上昇等の問題を低減する。
【解決手段】ダイスに形成された空洞に保持された有底又は無底の筒状体であるワークの内部にパンチを挿通することによって当該ワークの内周面を均す扱き加工において、ワークの内周面の少なくとも扱き加工を受ける部分である被扱き部分の全体が潤滑油に浸漬している状態においてワークの内部にパンチを挿通させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイスに形成された空洞に保持された有底又は無底の筒状体であるワークの内部にパンチを挿通することによって当該ワークの内周面を均す扱き加工であって、
前記ワークの前記内周面の少なくとも前記扱き加工を受ける部分である被扱き部分の全体が潤滑油に浸漬している状態において前記ワークの前記内部に前記パンチを挿通させる、
ことを特徴とする、筒状体の扱き加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載された筒状体の扱き加工方法であって、
前記パンチの先端部には潤滑油を溜めることができる凹部である潤滑油溜まりが設けられている、
ことを特徴とする、筒状体の扱き加工方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された筒状体の扱き加工方法であって、
前記ダイスに形成された前記空洞の外部へ前記潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路が前記パンチに設けられている、
ことを特徴とする、筒状体の扱き加工方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載された筒状体の扱き加工方法であって、
前記ワークが無底の筒状体であり、
前記ダイスに形成された前記空洞の内部へ前記潤滑油を供給すること及び前記ダイスに形成された前記空洞の外部へ前記潤滑油を排出することが可能なバルブ及び流路が前記ダイスに設けられている、
ことを特徴とする、筒状体の扱き加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載された筒状体の扱き加工方法であって、
前記被扱き部分が浸漬している前記潤滑油を前記ダイスに形成された前記空洞の外部へと排出することが可能なリリーフバルブ及び流路が前記パンチに設けられている、
ことを特徴とする、筒状体の扱き加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状体の扱き加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絞り加工等の塑性加工によって成形された有底又は無底の筒状体であるワーク(中間素材)の内外の表面を円滑化することを目的として、パンチ等の金属部材を摺動させることによりワークの板厚を減少させると共に表面の凹凸を均す所謂「扱き加工」が広く用いられている。特に内部に流体を流すノズル等の部材においては、扱き加工によって内表面を円滑化することが強く求められる。
【0003】
上記のような部材を構成する材料としては、ステンレス鋼(SUS)が昨今多用されているが、SUSは硬く、また前工程(塑性加工)による加工硬化が顕著であるので、扱き加工においては強い面圧が作用する(大きい加工荷重によって表面を均す)こととなる。このため、SUS製のワークの扱き加工においては、ダイス(型)及び/又はパンチへの凝着が発生し易く、扱き加工に伴う温度上昇も大きい。従って、量産時には、これらの問題に対する対処が必要となる。斯かる対処としてはワークの表面にボンデ処理を施した上で扱き加工を行うことが挙げられるが、ボンデ処理に伴う工程及びコストの増大が大きな課題となる。
【0004】
そこで、加工工程においてワークに対して積極的に潤滑を施すことが考えられる。例えば、特許文献1(特開2021-137851号公報)には、板状のワーク(被加工材)とノックアウトとの間にプレスオイル(潤滑油)のオイル溜めを設けるプレス金型が開示されている。これによれば、深絞り加工の際にオイル溜めに油圧が生じてノックアウトとダイとの間の隙間からプレスオイルがリークすることにより板状のワークから成形される有底円筒体の外表面にプレスオイルが供給されて油膜切れが防止され潤滑が確保される。しかしながら、当該技術は有底円筒体の外表面の深絞り加工には有効であるものの、筒状体の内表面の扱き加工には適用することができない。
【0005】
一方、特許文献2(特許第2945824号公報)には、有底円筒体であるワークに潤滑油を供給しつつ行う扱き加工においてワークへのパンチ(ポンチ)の進入により潤滑油と空気とがワークの底部に密封されワークの底面までパンチを十分に到達させることができないという課題を解決する技術が開示されている。具体的には、パンチの内部に設けられた嵌合穴に嵌合された入子に形成された切除部を介して潤滑油及び空気を排出することにより、ワークの底面までパンチを十分に到達させる。即ち、当該技術における潤滑油の供給量はワークの底部に空気と共に溜まる程度の微量であり、ワークの内表面とパンチとの間に潤滑油を積極的に供給して油膜切れを防止して潤滑を確保することは企図されていない。
【0006】
そもそも、上記技術は、上述したように潤滑油と空気とがワークの底部に密封された状態となりワークの底面までパンチを十分に到達させることができないという課題を解決することを目的としており、斯かる課題が存在しない無底の筒状体には適用することができない。
【0007】
以上のように、当該技術分野においては、有底又は無底を問わず、筒状のワークの内周面に対する扱き加工において、ワークの内周面とパンチとの間に潤滑油を潤沢に供給して油膜切れを防止することにより、ダイス及び/又はパンチへの凝着並びに温度上昇等の問題を低減することができる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-137851号公報
【特許文献2】特許第2945824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、当該技術分野においては、有底又は無底を問わず、筒状のワークの内周面に対する扱き加工において、ワークの内周面とパンチとの間に潤滑油を潤沢に供給して油膜切れを防止することにより、ダイス及び/又はパンチへの凝着並びに温度上昇等の問題を低減することができる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、有底又は無底の筒状体であるワークの内周面を均す扱き加工において、ワークの内周面の少なくとも扱き加工を受ける部分の全体が潤滑油に浸漬している状態においてワークの内部にパンチを挿通させることにより上記課題を解決することができることを見出した。
【0011】
具体的には、本発明に係る筒状体の扱き加工方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、ダイスに形成された空洞に保持された有底又は無底の筒状体であるワークの内部にパンチを挿通することによって当該ワークの内周面を均す扱き加工である。更に、本発明方法においては、ワークの内周面の少なくとも被扱き部分の全体が潤滑油に浸漬している状態においてワークの内部にパンチを挿通させる。被扱き部分は、ワークの内周面の扱き加工を受ける部分である。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、本発明方法においては、ワークの内周面の少なくとも被扱き部分の全体が潤滑油に浸漬している状態においてワークの内部にパンチを挿通させる。従って、本発明方法によれば、ワークの内周面とパンチとの間に潤滑油を潤沢に供給して油膜切れを確実に防止することができる。その結果、ダイス及び/又はパンチへの凝着並びに温度上昇等の問題を低減することができる。
【0013】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(第1方法)による扱き加工の開始時点におけるダイス、ワーク、パンチ及び潤滑油の位置関係の一例を示す模式的な断面図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(第2方法)において使用されるパンチの先端部に設けられた潤滑油溜まりの構成の一例を示す模式図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(第3方法)による扱き加工の開始時点におけるダイス、ワーク、パンチ及び潤滑油の位置関係の一例を示す模式的な断面図である。
図4】第3方法において使用されるパンチの構成の一例を示す模式的な断面図である。
図5図3及び図4に例示した構成を有するパンチを使用する第3方法の実行に伴うパンチ及び潤滑油の動きの一例を示す模式的な断面図である。
図6】本発明の第4実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(第4方法)による扱き加工の開始時点におけるダイス、ワーク、パンチ及び潤滑油の位置関係の一例を示す模式的な断面図である。
図7図6に例示した構成を有するダイスを使用する第4方法の実行に伴うパンチ及び潤滑油の動きの一例を示す模式的な断面図である。
図8】本発明の第5実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(第5方法)の実行に伴うパンチ及び潤滑油の動きの一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0016】
〈構成〉
第1方法は、ダイスに形成された空洞に保持された有底又は無底の筒状体であるワークの内部にパンチを挿通することによって当該ワークの内周面を均す扱き加工である。
【0017】
上記のように、ワークの形状は、一端が閉じた有底の筒状体であってもよく、或いは、両端が開いた無底の筒状体であってもよい。また、ワークが有底の筒状体である場合は、開いた側の端部が先端に近付くほど広がるフレア状の形状を有していてもよい。ワークが無底の筒状体である場合は、一方の端部が先端に近付くほど広がるフレア状の形状を有していてもよい。ワークを構成する材料としては、扱き加工が可能である限り、多種多様な材料を採用することができる。従来、ステンレス鋼は扱き加工には適さないとされていたが、第1方法においては、ワークを構成する材料としてステンレス鋼も採用することができる。
【0018】
ダイスに形成される空洞はワークの外周面に対応する内周面を有し、パンチはワークの内周面に対応する形状を有する。ダイス及びパンチは、扱き加工において作用する荷重等の加工条件に耐え得る性質(例えば、機械的強度及び耐久性等)を有する材料によって構成される。また、ワークの内部にパンチを挿通するための駆動機構は、扱き加工に付されるワークを構成する材料の性質(例えば、機械的強度及び硬度等)に応じて、当該技術分野において周知の種々の駆動機構の中から適宜選択することができる。典型的には、例えば油圧式プレス機等のプレス機が駆動機構として採用される。
【0019】
更に、第1方法においては、ワークの少なくとも被扱き部分の全体が潤滑油に浸漬している状態においてワークの内部にパンチを挿通させる。被扱き部分は、ワークの内周面の扱き加工を受ける部分である。「被扱き部分の全体が潤滑油に浸漬している状態」とは、ワークの内部に溜まった潤滑油の液面がワークの内周面の被扱き部分の上端と同じ又は上端よりも高い位置にあり被扱き部分の全体が潤滑油に接触している状態を意味する。従って、潤滑油が溜まる空間であるワークの内部空間又はワークの内部空間に連通する空間はワークの下端側において閉じている必要がある。
【0020】
図1は、第1方法による扱き加工の開始時点におけるダイス、ワーク、パンチ及び潤滑油の位置関係の一例を示す模式的な断面図である。図1に例示するワーク10は、上端部がフレア状の形状を有する筒状体であり、ダイス20に形成された空洞21に挿入され、ダイス20と嵌合することにより保持されている。そして、このように保持されたワーク20の内部にパンチ30が挿通されることにより、ワーク20の内周面が扱き加工によって均される(黒塗りの矢印を参照)。
【0021】
但し、第1方法においては、ワーク10の内部に潤滑油40が溜まっており、ワーク10の被扱き部分(破線L1よりも下側の部分)が潤滑油40に浸漬している状態においてワーク10の内部にパンチ30を挿通する。従って、図示しないが、潤滑油40が溜まる空間であるワーク10の内部空間又はワーク10の内部空間に連通する空間はワーク10の下端側において閉じている。
【0022】
上記のようにワーク10の下端側が閉じた空間に溜まっている潤滑油40は、扱き加工の進行に伴ってパンチ30によって圧縮されて高圧となる。その結果、パンチ30によって扱かれるワーク10の内周面の被扱き部分とパンチ30との間に潤滑油40が積極的に供給され、油膜切れが防止される。即ち、ワーク10の内周面の被扱き部分とパンチ30との間における潤滑が確保される。
【0023】
〈効果〉
以上説明してきたように、第1方法においては、ワークの内周面の少なくとも被扱き部分の全体が潤滑油に浸漬している状態においてワークの内部にパンチを挿通させる。従って、扱き加工の進行に伴ってパンチ30によって圧縮されて潤滑油の圧力が高まる。その結果、ワークの内周面とパンチとの間(摺動面)に潤滑油が潤沢に供給され、油膜切れを確実に防止することができる。即ち、第1方法によれば、ワークを構成する材料がステンレス鋼(SUS)である場合においても、ダイス及び/又はパンチへの凝着並びに温度上昇等の問題を低減することができる。
【0024】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0025】
〈構成〉
第2方法は、前述した第1方法であって、パンチの先端部には潤滑油を溜めること(保油)ができる凹部である潤滑油溜まりが設けられていることを特徴とする、筒状体の扱き加工方法である。
【0026】
図2は、第2方法において使用されるパンチの先端部に設けられた潤滑油溜まりの構成の一例を示す模式図である。図2に例示するパンチ30の先端部の所定の範囲(図2において格子状のハッチングが施された部分を参照)には、例えばショットブラスト等の加工手法によって表面に形成された無数の(例えば数μm乃至数十μm程度の深さを有する)微小な凹みが潤滑油溜まり31として形成されている。しかしながら、潤滑油溜まりの具体的な形状は、潤滑油を溜めることが可能である限り特に限定されない。例えば、潤滑油溜まりは、パンチの先端部に形成された1つ以上の窪みであってもよく、或いは、1本以上の溝であってもよい。
【0027】
〈効果〉
以上のように、第2方法において使用されるパンチの先端部には潤滑油を溜めることができる凹部である潤滑油溜まりが設けられている。従って、第2方法によれば、ワークの内周面の扱き加工においてパンチによって扱かれるワークの内周面の被扱き部分とパンチとの摺動面の面圧が高い場合においても、潤滑油溜まりに保持された潤滑油が摺動面に供給され、油膜切れをより確実に防止することができる。
【0028】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第3実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0029】
第1方法又は第2方法を始めとする本発明に係る筒状体の扱き加工方法(本発明方法)においては、前述したように、潤滑油が溜まる空間であるワークの内部空間又はワークの内部空間に連通する空間はワークの下端側において閉じられている。従って、ワークの下端側が閉じた空間に溜まっている潤滑油は、扱き加工の進行に伴ってパンチによって圧縮されて高圧となる。その結果、パンチによって扱かれるワークの内周面の被扱き部分とパンチとの間に潤滑油が積極的に供給され、油膜切れが防止される。即ち、ワークの内周面の被扱き部分とパンチとの間における潤滑が確保される。
【0030】
しかしながら、上記空間に溜まっている潤滑油の圧力が過度に高くなると、ワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題に繋がる場合がある
【0031】
〈構成〉
そこで、第3方法は、前述した第1方法又は第2方法であって、ダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路がパンチに設けられていることを特徴とする、筒状体の扱き加工方法である。
【0032】
図3は、第3方法による扱き加工の開始時点におけるダイス、ワーク、パンチ及び潤滑油の位置関係の一例を示す模式的な断面図である。また、図4は、第3方法において使用されるパンチの構成の一例を示す模式的な断面図である。図3及び図4に例示するように、第3方法において使用されるパンチ30は、ダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ32及び流路33を備える。
【0033】
図4に例示するように、リリーフバルブ32は止めネジ32a、バネ32b、弁体としてのボール32c及び弁座32dによって構成されている。ボール32cはバネ32bの反発力によってボール32cの図面における下側に設けられた弁座32dに向かって付勢されており、潤滑油40の圧力によってボール32cに作用する図面における上側に向かう応力(以降、「潤滑油応力」と称呼される場合がある。)がバネ32bの反発力よりも小さい場合はボール32cと弁座32dとが当接して流路33が閉じられ、潤滑油応力がバネ32bの反発力よりも大きい場合はボール32cと弁座32dとが離隔して流路33が開かれる。即ち、ボール32c及び弁座32dによってバルブ32eが構成されている。尚、止めネジ32aが類合により固定される位置によってバネ32bの反発力を調節することができる。
【0034】
図5は、以上のような構成を有するパンチを使用する第3方法の実行に伴うパンチ及び潤滑油の動きの一例を示す模式的な断面図である。尚、図5においては、図面を簡潔なものとするため、図3及び図4において示した各部位に付された符号が省略されている。しかしながら、図5に関する以下の説明においては、正確を期すため、図3及び図4において示した符号を使用するので、必要に応じて図3及び図4を参照されたい。
【0035】
図5の(a)は、開口部側の端部にフレア状の形状を有する有底の筒状体であるワーク10が底部側からダイス20に形成された空洞21に挿入されて空洞21と嵌合することにより保持された状態を示している。次に、図5の(b)に例示するようにワーク10の内部に潤滑油40が供給され、図5の(c)に例示するようにワーク10の内周面の被扱き部分11の上端にパンチ30の先端の周縁部が当接するようにパンチ30がセットされる。当該パンチ30の内部には、図3及び図4を参照しながら説明したように、ダイス20に形成された空洞21の外部へ潤滑油40を排出することが可能なリリーフバルブ32及び流路33が設けられている。また、図5の(c)に例示する状態において、潤滑油40の液面はワーク10の内周面の被扱き部分11の上端と同じ位置にあり、被扱き部分11の全体が潤滑油40に接触している。
【0036】
その後、図示しない駆動装置によってパンチ30が押し下げられることにより被扱き部分11に扱き加工が施され、図5の(d)に例示するようにパンチ30の先端が被扱き部分11の下端に到達する。このようにパンチ30が押し下げられるのに伴い、ワーク10の内面及びパンチ30の先端面によって画定される閉じた空間に溜まっている潤滑油40の圧力が上昇する。そして、潤滑油40の圧力によってパンチ30のボール32cに作用する応力(潤滑油応力)がバネ32bの反発力よりも大きくなると、上述したようにボール32cと弁座32dとが離隔してバルブ32が開かれ、流路33を介して潤滑油40が外部へと排出される(図5の(d)に太い実線によって描かれた矢印を参照)。
【0037】
尚、上記説明においては、図3乃至図5を参照しつつ、開口部側の端部にフレア状の形状を有する有底の筒状体であるワークの内周面の被扱き部分に扱き加工を施す場合について述べた。しかしながら、第3方法を適用することが可能なワークの構成は上記に限定されるものではなく、有底又は無底の筒状体である限り、多種多様な形状を有するワークに第3方法を適用することができる。
【0038】
〈効果〉
以上のように、第3方法において使用されるパンチには、ダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路が設けられている。従って、ワークの内部空間又はワークの内部空間に連通する空間に溜まっている潤滑油の圧力が(リリーフバルブを構成する止めネジによって調節可能なバネの反発力に対応する)所定の圧力よりも高くなると、リリーフバルブが開いて流路を介して上記空間から外部へと潤滑油が排出される。その結果、第3方法によれば、潤滑油の圧力が過度に高くなることに起因してワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題を低減することができる。
【0039】
《第4実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第4実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(以降、「第4方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0040】
前述した第3方法においては、ダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路がパンチに設けられており、ワークの内部空間又はワークの内部空間に連通する空間に溜まっている潤滑油の圧力が所定の圧力よりも高くなると、リリーフバルブが開いて流路を介して上記空間から外部へと潤滑油が排出される。その結果、第3方法によれば、潤滑油の圧力が過度に高くなることに起因してワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題を低減することができる。
【0041】
しかしながら、ワークが無底の筒状体である場合は、必ずしもパンチに設けられた流路を介して潤滑油を外部に排出する必要は無く、ダイスに設けられた流路を介して潤滑油を外部に排出することもできる。この場合、ダイスに設けられた流路を介してダイスに形成された空洞の内部へと潤滑油を供給することもできる。
【0042】
〈構成〉
そこで、第4方法は、前述した第1方法又は第2方法であって、ワークが無底の筒状体であること並びにダイスに形成された空洞の内部へ潤滑油を供給すること及びダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なバルブ及び流路がダイスに設けられていることを特徴とする、筒状体の扱き加工方法である。
【0043】
図6は、第4方法による扱き加工の開始時点におけるダイス、ワーク、パンチ及び潤滑油の位置関係の一例を示す模式的な断面図である。図6に例示するワーク10は、開口部側の端部にフレア状の形状を有する無底の筒状体である。また、第4方法において使用されるダイス20にはバルブ22及び流路23が設けられており、流路23の空洞21とは反対側の端部にはタンク24が設けられている。斯かる構成により、第4方法においては、ダイス20に形成された空洞21の内部へ潤滑油40を供給すること及びダイス20に形成された空洞21の外部へ潤滑油40を排出することが可能である。
【0044】
図7は、以上のような構成を有するダイスを使用する第4方法の実行に伴うパンチ及び潤滑油の動きの一例を示す模式的な断面図である。尚、図7においては、図面を簡潔なものとするため、図6において示した各部位に付された符号が省略されている。しかしながら、図7に関する以下の説明においては、正確を期すため、図6において示した符号を使用するので、必要に応じて図6を参照されたい。
【0045】
図7の(a)は、開口部側の端部にフレア状の形状を有する無底の筒状体であるワーク10が底部側からダイス20に形成された空洞21に挿入されて空洞21と嵌合することにより保持された状態を示している。図7の(a)に例示するように、ダイス20に形成された空洞21の内部へ潤滑油40を供給すること及びダイス20に形成された空洞21の外部へ潤滑油40を排出することが可能なバルブ22及び流路23がダイス20に設けられている。更に、流路23の空洞21とは反対側の端部にはタンク24が設けられている。
【0046】
次に、図7の(b)に例示するように、ワーク10の内周面の被扱き部分11の上端にパンチ30の先端の周縁部が当接するようにパンチ30がセットされる。次に、図7の(c)に例示するように、バルブ22が開かれて、ダイス20に形成された空洞21の底部及びワーク10の内部にタンク24から潤滑油40が供給される(図7の(c)に太い実線によって描かれた矢印を参照)。この状態において、潤滑油40の液面はワーク10の内周面の被扱き部分11の上端と同じ位置にあり、被扱き部分11の全体が潤滑油40に接触している。但し、第3方法に関する説明において参照した図5に例示したように、空洞21の底部及びワーク10の内部にタンク24から潤滑油40を供給した後にワーク10の内周面の被扱き部分11の上端にパンチ30の先端の周縁部が当接するようにパンチ30をセットしてもよい。
【0047】
その後、図示しない駆動装置によってパンチ30が押し下げられることにより被扱き部分11に扱き加工が施され、図7の(d)に例示するようにパンチ30の先端が被扱き部分11の下端に到達する。このようにパンチ30が押し下げられるのに伴い、空洞21の底部、ワーク10の内面及びパンチ30の先端面によって画定される閉じた空間に溜まっている潤滑油40の圧力が上昇する。そこで、第4方法においては、ダイス20のバルブ22が開かれ、流路23を介して潤滑油40が外部へと排出される(図7の(d)に太い破線によって描かれた矢印を参照)。これにより、潤滑油の圧力が過度に高くなることに起因してワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題を低減することができる。
【0048】
尚、上記説明においては、図6及び図7を参照しつつ、開口部側の端部にフレア状の形状を有する無底の筒状体であるワークの内周面の被扱き部分に扱き加工を施す場合について述べた。しかしながら、第4方法を適用することが可能なワークの構成は上記に限定されるものではなく、無底の筒状体である限り、多種多様な形状を有するワークに第4方法を適用することができる。
【0049】
〈効果〉
以上のように、第4方法において使用されるダイスには、ダイスに形成された空洞と外部との間において潤滑油を出し入れすることが可能なバルブ及び流路が設けられている。従って、ワークの内部空間及びワークの内部空間に連通する空間に溜まっている潤滑油の圧力が所定の圧力よりも高くなると判断される場合、ダイスに設けられたバルブを開いて流路を介して上記空間から外部へと潤滑油を排出することができる。その結果、第4方法によれば、潤滑油の圧力が過度に高くなることに起因してワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題を低減することができる。
【0050】
《第5実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第5実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(以降、「第5方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0051】
前述した第4方法において使用されるダイスには、ダイスに形成された空洞と外部との間において潤滑油を出し入れすることが可能なバルブ及び流路が設けられている。従って、ワークの内部空間及びワークの内部空間に連通する空間に溜まっている潤滑油の圧力が所定の圧力よりも高くなると判断される場合、バルブを開いて流路を介して上記空間から外部へと潤滑油を排出することができる。その結果、第4方法によれば、潤滑油の圧力が過度に高くなることに起因してワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題を低減することができる。
【0052】
一方、前述した第3方法においては、ダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路がパンチに設けられており、ワークの内部空間又はワークの内部空間に連通する空間に溜まっている潤滑油の圧力が所定の圧力よりも高くなると、リリーフバルブが開いて流路を介して上記空間から外部へと潤滑油が排出される。その結果、第3方法によれば、潤滑油の圧力が過度に高くなることに起因してワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題を低減することができる。
【0053】
しかしながら、ダイスに形成された空洞と外部との間において潤滑油を出し入れすることが可能なバルブ及び流路が設けられたダイスを使用する第4方法において、第3方法において使用されるダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路が設けられたパンチを併用することもできる。
【0054】
〈構成〉
そこで、第5方法は、前述した第4方法であって、ダイスに形成された空洞の外部へと潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路がパンチに設けられていることを特徴とする、筒状体の扱き加工方法である。
【0055】
図8は、第5方法の実行に伴うパンチ及び潤滑油の動きの一例を示す模式的な断面図である。図8は、ダイス20に形成された空洞21の外部へ潤滑油40を排出することが可能なリリーフバルブ32及び流路33がパンチ30に設けられている点を除き、第4方法に関する説明において参照した図7と同様である。即ち、図8に例示するように、第5方法においては、ダイス20に形成された空洞21と外部との間において潤滑油40を出し入れすることが可能なバルブ22及び流路23が設けられたダイス20と、ダイス20に形成された空洞21の外部へ潤滑油40を排出することが可能なリリーフバルブ32及び流路33が設けられたパンチ30とが併用される。
【0056】
第5方法においても、前述した第4方法と同様に、図示しない駆動装置によってパンチ30が押し下げられることにより被扱き部分11に扱き加工が施され、図8の(d)に例示するようにパンチ30の先端が被扱き部分11の下端に到達する。このようにパンチ30が押し下げられるのに伴い、空洞21の底部、ワーク10の内面及びパンチ30の先端面によって画定される閉じた空間に溜まっている潤滑油40の圧力が上昇する。
【0057】
そこで、第5方法においても、ダイス20のバルブ22を開いて、流路23を介して潤滑油40を外部へと排出することができる(図7の(d)に太い破線によって描かれた矢印を参照)。上記に加えて、第5方法においては、潤滑油40の圧力によってパンチ30のボール32cに作用する応力(潤滑油応力)がバネ32bの反発力よりも大きくなるとボール32cと弁座32dとが離隔してバルブ32が開かれ、流路33を介して潤滑油40を外部へと排出することができる(図8の(d)に太い一点鎖線によって描かれた矢印を参照)。
【0058】
〈効果〉
以上のように、第5方法においては、ダイスに形成された空洞と外部との間において潤滑油を出し入れすることが可能なバルブ及び流路が設けられたダイスと、ダイスに形成された空洞の外部へ潤滑油を排出することが可能なリリーフバルブ及び流路が設けられたパンチとが併用される。従って、ワークの内部空間及びワークの内部空間に連通する空間に溜まっている潤滑油の圧力が所定の圧力よりも高くなる場合、ダイスに設けられたバルブを開いてダイスに設けられた流路を介して上記空間から外部へと潤滑油を排出するのみならず、パンチに設けられたリリースバルブが開いてパンチに設けられた流路を介して上記空間から外部へと潤滑油を排出することもできる。その結果、第5方法によれば、潤滑油の圧力が過度に高くなることに起因してワークの内周面の被扱き部分の下端にまでパンチが到達することが困難となったりワーク及び/又はダイスの破損が生じたりする問題をより確実に低減することができる。
【実施例0059】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例に係る筒状体の扱き加工方法(以降、「実施例方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0060】
本実施例においては、前述した本発明の第1実施形態に係る筒状体の扱き加工方法(第1方法)によりワークの内周面の被扱き部分に扱き加工を施した。尚、当該ワークは、炭素の含有量が少ないオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316Lによって構成され且つ開口部側の端部にフレア状の形状を有する有底の筒状体である。
【0061】
実施例方法の実行に伴うパンチ及び潤滑油の動きについては、前述した第3方法乃至第5方法に関する説明において図5図7及び図8を参照しながら詳細に述べたので、ここでの説明は省略する。尚、上記ワークに対して実施例方法により扱き加工を施した結果、ダイス及び/又はパンチへの凝着並びに温度上昇等の問題は認められなかった。
【0062】
また、実施例方法による扱き加工の実行により、ワークの底部側の直管状の部分(フレア状の形状を有する部分ではない部分)の軸方向の長さが僅かに伸びると共に、外周面の粗度が低下した(外周面が平滑化した)。更に、実施例方法による扱き加工の実行により、ワークの内周面の粗度が低下した(外周面が平滑化した)。
【0063】
以上のように、従来から扱き加工には適さないとされていたステンレス鋼によって構成されたワークであっても、実施例方法によれば、ダイス及び/又はパンチへの凝着並びに温度上昇等の問題を低減しつつ、当該ワークに扱き加工を好適に施すことができることが確認された。
【0064】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び実施例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び実施例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0065】
10…ワーク
11…被扱き部分
20…ダイス
21…空洞
22…バルブ
23…流路
30…パンチ
31…潤滑油溜まり
32…リリーフバルブ
32a…止めネジ
32b…バネ
32c…ボール
32d…弁座
32e…バルブ
33…流路
40…潤滑油
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8