(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129924
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】エレベーターの側板構造体、エレベーターの乗りかご、及び、エレベーター装置
(51)【国際特許分類】
B66B 11/02 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B66B11/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039324
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊原 哲志
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃寛
(72)【発明者】
【氏名】永尾 章
(72)【発明者】
【氏名】小迫 龍朗
【テーマコード(参考)】
3F306
【Fターム(参考)】
3F306CA19
(57)【要約】
【課題】信頼性、意匠性、及び、生産性の良好なエレベーターの側板構造体を提供する。
【解決手段】表面板と、補強材と、表面板と補強材とを接着により固定する第1の固定材、及び、第2の固定材とを備えるエレベーターの側板構造体を構成する。表面板と補強材との間での第1の固定材の形成面積は、第2の固定材の形成面積以上である。第1の固定材は、第2の固定材に比べて接着強度が高いとともに硬化収縮率が低い。第2の固定材は、第1の固定材に比べて固着時間が短い。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面板と、
補強材と、
前記表面板と前記補強材との間に配置され、前記表面板と前記補強材とを接着により固定する第1の固定材、及び、第2の固定材と、を備えるエレベーターの側板構造体であって、
前記第1の固定材の形成面積は、前記第2の固定材の形成面積以上であり、
前記第1の固定材の接着強度は、前記第2の固定材よりも高く、
前記第1の固定材の硬化収縮率は、前記第2の固定材よりも低く、
前記第2の固定材は、前記第1の固定材に比べて固着時間が短い
エレベーターの側板構造体。
【請求項2】
前記第1の固定材は、メタクリル酸エステルまたはその重合体を主成分とする
請求項1に記載のエレベーターの側板構造体。
【請求項3】
前記第1の固定材は、メタクリル酸メチルより分子量が大きい前記メタクリル酸エステルおよびその重合体を主成分とする
請求項2に記載のエレベーターの側板構造体。
【請求項4】
前記第1の固定材は、二液を混合することで硬化可能な二液性硬化接着剤である
請求項1に記載のエレベーターの側板構造体。
【請求項5】
前記二液性硬化接着剤は、アクリルモノマーを主成分とするA剤と、還元剤を含みアクリルモノマーを主成分とするB剤との混合によって硬化する
請求項4に記載のエレベーターの側板構造体。
【請求項6】
前記第2の固定材は、有機過酸化物を重合開始剤として含み、酸素の遮断下において金属イオンと反応し硬化する嫌気性接着剤である
請求項1に記載のエレベーターの側板構造体。
【請求項7】
表面板と、補強材と、前記表面板と前記補強材との間に配置され、前記表面板と前記補強材とを接着により固定する第1の固定材、及び、第2の固定材とからなる側板構造体を備えるエレベーターの乗りかごであって、
前記側板構造体は、
前記表面板と前記補強材との間での前記第1の固定材の形成面積が、前記第2の固定材の形成面積以上であり、
前記第1の固定材は、前記第2の固定材に比べて接着強度が高いとともに硬化収縮率が低く、
前記第2の固定材は、前記第1の固定材に比べて固着時間が短い
エレベーターの乗りかご。
【請求項8】
乗りかごを備えるエレベーター装置であって、
前記乗りかごは、 表面板と、補強材と、前記表面板と前記補強材との間に配置され、前記表面板と前記補強材とを接着により固定する第1の固定材、及び、第2の固定材とからなる側板構造体を有し、
前記側板構造体は、
前記表面板と前記補強材との間での前記第1の固定材の形成面積が、前記第2の固定材の形成面積以上であり、
前記第1の固定材は、前記第2の固定材に比べて接着強度が高いとともに硬化収縮率が低く、
前記第2の固定材は、前記第1の固定材に比べて固着時間が短い
エレベーター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの側板構造体、この側板構造を有するエレベーターの乗りかご、及び、この乗りかごを備えるエレベーター装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
エレベーターの乗りかごでは、ほうろう板と板体とが接着剤を用いて接合された構成の側板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この文献に記載の側板は、端部が折り曲げられたコの字形の断面を形成するほうろう板と、このほうろう板の裏面に接着固定された板体とを有する。そして、板体の裏面側に、ほうろう板の端部に取り付けられた補強体を有する。この補強体は、コの字形の断面を有するとともに、ほうろう板の短手方向に沿って複数配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、側板と補強材を接合する接着剤の具体的な組成、被着体との組み合わせ、塗布構造、及び、塗布方法については記載されていない。接着剤による側板構造体の組立を行う際には、接合部の強度を長期間に渡って保持することが重要となる。また、側板構造体は、エレベーター乗りかごに乗車した人間が目にする部分であり、外観の意匠性が要求される特徴がある。このため、エレベーター装置やエレベーターの乗りかごには、接着強度の信頼性を長期間に渡って保持可能であるとともに、接着剤の硬化収縮歪みによる側板の意匠性の低下を抑制でき、生産性の良好な側板構造体が求められている。
【0005】
上述した問題の解決のため、本発明においては、信頼性、意匠性、及び、生産性の良好なエレベーターの側板構造体、エレベーターの乗りかご、及び、エレベーター装置を提供する。
【0006】
また、本発明の上記の目的及びその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレベーターの側板構造体は、表面板と、補強材と、表面板と前記補強材との間に配置され、表面板と補強材とを接着により固定する第1の固定材、及び、第2の固定材とを備える。表面板と補強材との間での第1の固定材の形成面積は、第2の固定材の形成面積以上である。第1の固定材は、第2の固定材に比べて接着強度が高いとともに硬化収縮率が低い。第2の固定材は、第1の固定材に比べて固着時間が短い。
【0008】
本発明のエレベーターの乗りかごは、表面板と、補強材と、表面板と補強材との間に配置され、表面板と補強材とを接着により固定する第1の固定材、及び、第2の固定材とからなる側板構造体を備える。側板構造体は、表面板と補強材との間での第1の固定材の形成面積が、第2の固定材の形成面積以上である。第1の固定材は、第2の固定材に比べて接着強度が高いとともに硬化収縮率が低い。第2の固定材は、第1の固定材に比べて固着時間が短い。
【0009】
また、本発明のエレベーター装置は、表面板と、補強材と、表面板と補強材との間に配置され、表面板と補強材を接着により固定する第1の固定材、及び、第2の固定材とからなる側板構造体を有する乗りかごを備える。側板構造体は、表面板と補強材との間での第1の固定材の形成面積が、第2の固定材の形成面積以上である。第1の固定材は、第2の固定材に比べて接着強度が高いとともに硬化収縮率が低い。第2の固定材は、第1の固定材に比べて固着時間が短い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、信頼性、意匠性、及び、生産性の良好なエレベーターの側板構造体、エレベーターの乗りかご、及び、エレベーター装置を提供することができる。
【0011】
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】エレベーター装置の乗りかごの斜視図である。
【
図3】エレベーターの乗りかごに用いられる側板構造体の構成を示す図(正面図)である。
【
図4】エレベーターの乗りかごに用いられる側板構造体の構成を示す図(断面図)である。
【
図5】エレベーターの乗りかごに用いられる側板構造体の構成を示す図(分解図)である。
【
図7】リップ溝形の補強材の断面形状を示す図である。
【
図8】ハット形の補強材の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るエレベーター装置、エレベーターの乗りかご、及び、エレベーターの側板構造体の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。以下で説明する各図において、共通の部材には同一の符号を付している。また、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0014】
[エレベーター装置の構成]
図1に、エレベーター装置の概略構成図を示す。
図1に示すエレベーター装置は、図示しない昇降路内に設置される。エレベーター装置において、巻上機1に巻き掛けた主ロープ2の一方端は、乗りかご3の下部に設けた左右一対のかご下プーリ4A,4Bを通して懸架された後に、昇降路の上方部位置で固定されている。また、主ロープ2の他方端は、釣合錘5のプーリ6を通して懸架された後に、昇降路の上方部位置で固定されている。エレベーター装置は、巻上機1を回転駆動することにより、主ロープの一方に設けられた乗りかご3と、主ロープの他方に設けられた釣合錘とが、昇降路内を上下方向に移動する。
【0015】
[エレベーターの乗りかごの構成]
次に、
図2にエレベーター装置の乗りかご3の斜視図を示す。
図2は、乗りかご3の乗降口側から背面側を見た状態を示している。
エレベーターの乗りかご3は、床板31と、床板31の上方に配置された天板32と、床板31から立ち上がるように設置された幅木33とを備える。また、エレベーターの乗りかご3は、乗降口から正面視した奥行方向であって幅木33の上に設置された複数枚の背面側の側板構造体100と、乗降口から正面視した左右方向であって幅木33の上に設置された側面側の側板構造体100とを備える。
図2に示す乗りかご3では、乗りかご3の背面側を複数枚の側板構造体100で構成しているが、側板構造体100を1枚で構成してもよい。また、側面側の側板構造体100は1枚で構成しているが、側板構造体100を複数枚で構成してもよい。
【0016】
[側板構造体の構成]
次に、
図3、
図4、及び、
図5に、エレベーターの乗りかごに用いられる側板構造体100の構成を示す。
図3は、側板構造体100のエレベーターの内側からの正面図であり、
図4は
図3に示す側板構造体100のA-A線断面図である。
図5は、側板構造体100の分解図である。
【0017】
図3~5に示すように、エレベーターの側板構造体100は、表面板110と、補強材120と、表面板110と補強材120を接着により固定する固定材130とを備える。また、固定材130は、第1の固定材131と、第2の固定材132とを備える。
【0018】
(表面板)
表面板110は、固定材130を介して、補強材120と接合されている。すなわち、表面板110は、第1の固定材131および第2の固定材132を介して、補強材120と接合されている。
【0019】
表面板110は、端部が乗りかご3の外側に向かって直角に折り曲げられている。乗りかご3は、1つの面を複数の表面板110で構成する場合、端部の折り曲げられた部分において隣接する表面板110同士をボルト等で締結してもよい。
【0020】
(補強材)
補強材120は、表面板110の裏面側、すなわち乗りかご3の内側と反対側の面に、接合固定されている。補強材120は、表面板110の全面に形成されている必要は無く、表面板110の一部に接合されていればよい。
図4及び
図5に示すように、補強材120は、一対の縦壁部121、天面部122、及び、一対のフランジ部123を有し、フランジ部123と縦壁部121と天面部122とが連続して形成された、いわゆるハット形の断面形状を有する。補強材120は、表面板110に接合可能な平面を有していればよく、補強材120の形状は特に限定されない。側板構造体100に適用可能な補強材120の形状の例については後述する。
補強材120は、フランジ部123の一方の面(縦壁部121及び天面部122と反対側の面)が、固定材130を介して表面板110の裏面側に接合されている。
【0021】
図3~5では、補強材120は、表面板110の長手方向と補強材120の長手方向とが同じ方向となるように接合されているが、表面板110に対して補強材120を接合する向きは限定されない。表面板110の幅方向が補強材120の長手方向となるように、補強材120が接合されていてもよい。また、
図3~5では、1つの表面板110に対して1つの補強材120が接合されているが、表面板110に接合される補強材120の数も限定されない。側板構造体100において、表面板110や補強材120の大きさ、必要な強度等を考慮して、補強材120の構成を適用することができる。
【0022】
(固定材)
固定材130は、表面板110の裏面側と、補強材120のフランジ部123の一方の面との間に形成されている。固定材130は、表面板110と補強材120とを接合するための部材である。なお、表面板110と補強材120とは、固定材130とともに、ボルト等の接合部材によって接合されていてもよい。
固定材130は、第1の固定材131と、第2の固定材132とから構成される。第1の固定材131と、第2の固定材132とは、それぞれ異なる材料を含んで構成される。
【0023】
固定材130において、第1の固定材131は、表面板110と補強材120との間での形成面積が、第2の固定材132の形成面積以上となるように設けられている。
第1の固定材131は、第2の固定材132に比べて形成面積が大きいため、第1の固定材131が表面板110と補強材120との接着特性を主に決定づける。例えば、表面板110と補強材120と間において、第1の固定材131の形成面積と第2の固定材132との比は、「第1の固定材:第2の固定材=1:1~10000:1」程度の大きさで形成される。また、表面板110の面積と、固定材130の形成面積(第1の固定材131と第2の固定材132との合計面積)との比は、例えば、「表面板:固定材=3:2~100:1」で形成される。
【0024】
また、第1の固定材131は、第2の固定材132よりも接着強度が高い。例えば、第1の固定材131の接着強度は、第2の固定材132よりも高く、10MPa以上であることが好ましい。また、第2の固定材132の接着強度は、1MPa以上であり、第1の固定材131よりも低いことが好ましい。
第1の固定材131及び第2の固定材132の接着強度は、JIS K 6850に準じて測定し、単純重ね合わせ接着試験片を引張試験することによって、試験片が破断する荷重を接着面積で除したもの(引張せん断強度)を接着強度とする。なお、試験片は接着後120h養生したものとする。接着から試験までは常温(20℃)で実施する。
【0025】
第1の固定材131は、第2の固定材132よりも硬化収縮率が低い材料によって構成される。例えば、第1の固定材131の硬化収縮率は、10%以下であり、第2の固定材132よりも低いことが好ましい。また、第2の固定材132の硬化収縮率は、第1の固定材131よりも高く、20%以下であることが好ましい。
第1の固定材131及び第2の固定材132の硬化収縮率は、鋼板上に接着剤を滴下したものを試験片として、硬化前後の体積変化を三次元測定して測定する。なお、120h静置したものを硬化後とする。滴下から測定までは常温(20℃)で実施する。
【0026】
第2の固定材132は、第1の固定材131に比べて、固着時間が短い材料によって構成される。例えば、第2の固定材132の固着時間は、3分以内であり、第1の固定材131よりも短いことが好ましい。また、第1の固定材131の固着時間は、第2の固定材132よりも長く、3分以上24時間以内であることが望ましい。
第1の固定材131及び第2の固定材132の固着時間は、接着後所定の時間経過したのちの単純重ね合わせ試験片を引張試験にかけたとき、引張せん断強度が0.1MPa以上となった最小の時間とする。なお、滴下から測定までは常温(20℃)で実施する。
【0027】
上記構成の第1の固定材131及び第2の固定材132からなる固定材130を用いることにより、表面板110と補強材120とを接合する際に、硬化速度の大きい第2の固定材が仮固定材として機能する。このように、第2の固定材132の固着時間が第1の固定材131よりも短いことにより、高い生産性を実現することができる。
また、形成面積の大きい第1の固定材131の硬化収縮率が低いことにより、固定材130の硬化収縮による意匠性の低下を抑制することができる。さらに、形成面積の大きい第1の固定材131の接着強度が高いことにより、表面板110と補強材120との長期間に渡る強度保持を確保することでき、第1の固定材131が本固定材として機能する。このため、表面板110と補強材120とを上記構成の固定材130で接着することにより、接着強度の信頼性、意匠性、及び、生産性の向上を実現することができる。
【0028】
(第1の固定材)
本固定材として使用される第1の固定材131は、長期に渡る強度と耐久性が要求される。このような用途における構造物の接着接合としては、主に、一液性加熱硬化接着剤、及び、二液性常温硬化接着剤が使用される。一液性加熱硬化接着剤は、溶剤が一液であり、硬化するために加熱を必要とする。二液性常温硬化接着剤は、溶剤が二液であり、二液を混合することで常温においても硬化が可能である。側板構造体100においては、意匠性の観点から、加熱が不要であるために硬化変形が少ない、二液性常温硬化接着剤を使用することが望ましい。
【0029】
二液性常温硬化の構造用接着剤としては、例えば、二液性エポキシ系接着剤、二液性アクリル系接着剤、二液性ウレタン系接着剤、及び、二液性シリコーン系接着剤から選ばれる1種以上を含む接着剤を用いることができる。また、二液性常温硬化の構造用接着剤としては、二液性エポキシ系接着剤、及び、二液性アクリル系接着剤から選ばれる1種以上を含む接着剤を用いることが好ましい。特に、二液性アクリル系接着剤を含む接着剤を用いることが好ましい。二液性アクリル系接着剤は、アクリルモノマーを主成分とし、被着体表面に残留する機械油や作動油などに対する相溶性が高いため、油面接着性に優れる特徴がある。このため、二液性アクリル系接着剤は、被着体への残留油分に対する強度安定性が良く、接着構造の強度と信頼性に優れる。
【0030】
二液性アクリル系接着剤は、アクリルモノマーを主成分として有機過酸化物を添加剤として含むA剤と、アクリルモノマーを主成分として還元剤を添加剤として含むB剤とを混合することによって硬化する。
まず、二液性アクリル系接着剤の硬化としては、ミキシングノズルなどを用いて二液性アクリル接着剤のA剤とB剤を混合し、第1の固定材131として吐出させることが考えられる。
また、二液性アクリル接着剤は反応期間が長く、十分に混合しなくても高い強度を得ることができる。このため、表面板110、及び、補強材120の少なくともいずれかにA剤とB剤をそれぞれビード状に塗布してもよい。この場合、表面板110と補強材120を圧着した際に、A剤とB剤とが混合されて硬化し、第1の固定材131が形成される。この場合、塗布した状態でのA剤とB剤の反応が起こりにくいので、塗布した状態での可使時間を長くする効果が得られる。また、表面板110、及び、補強材120のいずれか一方にA剤を塗布し、他方にB剤を塗布するハネムーン塗布を行ってもよい。この場合も、表面板110と補強材120を圧着した際に、A剤とB剤とが混合されて硬化し、第1の固定材131が形成される。この場合、塗布した状態でのA剤とB剤との反応が起こらないため、塗布した状態での可使時間を長くする効果が得られる。
【0031】
二液性アクリル系接着剤は、アクリルモノマーとしてメタクリル酸メチルを主成分とするものが主流である。一方で、フェノキシエチルメタクリレートや2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリル酸メチルに比べて分子量が大きい、アクリル系オリゴマーを主成分とする二液性アクリル系接着剤が存在する。このような、メタクリル酸メチルよりも分子量が大きいアクリル系オリゴマーとしては、例えば、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル、及び、それらの重合体が挙げられる。
【0032】
メタクリル酸メチルに比べて分子量が大きいメタクリル酸エステルやアクリルオリゴマーを主成分とした二液性アクリル接着剤は、分子量の大きさによって重合した際の硬化収縮が抑制される。このため、第1の固定材131として、メタクリル酸エステルやアクリルオリゴマーを主成分とした二液性アクリル接着剤を用いることにより、接着剤の硬化収縮歪みによる側板構造体100の意匠性を損ないにくくなる。
また、メタクリル酸エステルやアクリルオリゴマーを主成分とした二液性アクリル接着剤は、メタクリル酸メチルのような揮発性の高さによる臭気や低い引火点等の扱いにくい特性が少ない。
【0033】
(第2の固定材)
仮固定材として使用される第2の固定材132は、速硬化性の接着剤が使用される。
第2の固定材132は、加熱による変形を避ける観点から、常温で硬化する接着剤が望ましく、例えば、嫌気性接着剤、シアノアクリレート接着剤(瞬間接着剤)、及び、光硬化性/紫外線硬化性接着剤から選ばれる1種以上を含む接着剤を用いることができる。特に、第2の固定材132としては、油面接着性に優れ、強度安定性がよいため、アクリルモノマーを主成分とする嫌気性接着剤を用いることが好ましい。有機過酸化物を重合開始剤として含む嫌気性接着剤は、酸素の遮断化において、金属イオンと有機過酸化物の反応から供給されるラジカルによってレドックス重合反応を起こし、硬化する。このため、上記嫌気性接着剤を第2の固定材132として用いることにより、表面板110と補強材120とを圧着することによって嫌気性接着剤から酸素が遮断され、嫌気性接着剤が速やかに硬化する。
【0034】
また、上述のように、強度信頼性、及び、意匠性の高い側板構造体100を用いることにより、信頼性が高く、意匠性の高いエレベーターの乗りかご、及び、この乗りかごを備えるエレベーター装置を構成することができる。
【0035】
なお、表面板110と補強材120とは、固定材130のみによって接合されるだけでなく、上述の固定材130に加えて、ねじ、ボルト、ナット等の接合部材や、溶接等の他の手法を用いてもよい。この場合にも、上述の固定材130として。第1の固定材131と第2の固定材132とを用いることにより、上述の効果が得られる。さらに接合部材や溶接を用いることにより、表面板110と補強材120との接合強度を向上させ、信頼性を向上させることができる。
【0036】
[補強材]
側板構造体100に適用可能な補強材の形状の例について、
図6~9を用いて説明する。
図6~9は補強材の断面形状を示したものである。なお、
図6~9に示す補強材の構成は、特段の事情の無い限り
図3~5に示す側板構造体100の構成に適用可能である。
【0037】
図6は断面形状を溝形とする補強材140の構成を示す図である。溝形の補強材140は、
図6に示すように、ウエブ141の両端の曲げ部で直角に折れ曲がるフランジ部152を有し、断面形状においてコの字形の溝が形成されている。溝形の補強材140は、固定材130を形成する面は特に限定されないが、ウエブ141の外面に固定材130を形成することにより側板構造体の剛性が向上しやすい。
【0038】
図7は断面形状をリップ溝形とする補強材150の構成を示す図である。補強材150は、
図7に示すように、ウエブ151の両端の曲げ部で直角に折れ曲がるフランジ部152を有し、フランジ部152の先端の曲げ部で直角に内側に折れ曲がるリップ部153を有する。このため、補強材150は、断面形状が側方に向けて開口したC形断面を有する。リップ溝形の補強材150は、断面形状を溝形とする補強材140に比べ、断面二次モーメントに優れ、剛性が向上する効果を得られる。また、リップ溝形の補強材150は、固定材130を形成する面は特に限定されないが、ウエブ151の外面に固定材130を形成することにより側板構造体の剛性が向上しやすい。
【0039】
図8は断面形状をハット形とする補強材120の構成を示す図である。補強材120は、上述の
図4及び
図5に示す形状の補強材120と同様の構成である。断面をハット形とする補強材120は、幅広のため側板構造体100において、表面板110の面全体における剛性が向上する効果が得られる。
【0040】
図9は断面形状を波形とする補強材160の構成を示す図である。補強材160は、長さ方向の全面にわたって凹部面161と凸部面162とが、縦壁部163を介して連続して形成された形状を有する。また、波形の補強材160は、例えば、縦壁部163が傾斜面であってもよく、凹部面161と凸部面162と長さ(幅)が同じでなくてもよい。断面を波形とする補強材160は、他の形状よりも幅広に形成することができ、剛性の高い接合部のピッチが狭くなる。このため、波形の補強材160を用いることにより、側板構造体100において、表面板110の面全体の剛性が向上し、側板構造体の剛性が均一化する効果が得られる。
【0041】
なお、補強材の断面形状は、上述のように溝形の補強材140、リップ溝形の補強材150、ハット形の補強材120、波形の補強材160などが考えられるが、形状は限定されない。側板構造体100において、表面板110の補強が可能であり、固定材130によって接合可能な形状であればよい。
【0042】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 巻上機、2 主ロープ、4A,4B 下プーリ、5 釣合錘、6 プーリ、31 床板、32 天板、33 幅木、100 側板構造体、110 表面板、120,140,150,160 補強材、121,163 縦壁部、122 天面部、123,152 フランジ部、130 固定材、131 第1の固定材、132 第2の固定材、141,151 ウエブ、153 リップ部、161 凹部面、162 凸部面