(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129934
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物、フッ化物イオン検出剤、及びフッ化物イオン検出方法
(51)【国際特許分類】
C07C 327/18 20060101AFI20240920BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20240920BHJP
C07F 9/94 20060101ALI20240920BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20240920BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240920BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07C327/18
G01N31/00 Q
C07F9/94 CSP
C09K11/06
C09K11/06 660
G01N21/64 C
G01N21/78 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039345
(22)【出願日】2023-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウト「高感度・簡易なフッ化物検出に向けたセンサー材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(72)【発明者】
【氏名】松村 吉将
(72)【発明者】
【氏名】薄井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】落合 文吾
【テーマコード(参考)】
2G042
2G043
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA10
2G042CA02
2G042DA08
2G042FA11
2G043AA01
2G043BA06
2G043BA14
2G043CA03
2G043DA08
2G043EA01
2G043EA14
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA01
4H006AA01
4H006AB80
4H050AA01
4H050AB80
4H050BB25
4H050BC10
4H050WA15
4H050WA28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ビスマス-ジチオカルボキシレート錯体構造を有する化合物、前記ビスマス-ジチオカルボキシレート錯体構造を有する化合物を用いることを特徴とし、フッ化物イオンを高選択的に検出できるフッ化物イオン検出剤、及び前記フッ化物イオン検出剤を用いることを特徴としフッ化物イオンを高選択的に検出できるフッ化物イオン検出方法を提供する。
【解決手段】下記構造式で表されるビスマス-ジチオカルボキシレート錯体構造を有する化合物である。
(式(2)中、Ar
3は、アリール基を表し、Ar
4は、置換基を有してもよい1-ナフチル基を表し、2つのAr
4は、互いに異なっていてもよい。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で表されるビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物。
【化1】
(式(2)中、Ar
3は、アリール基を表し、Ar
4は、置換基を有してもよい1-ナフチル基を表し、2つのAr
4は互いに異なっていてもよい。)
【請求項2】
下記式(3)で表される請求項1に記載のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物。
【化2】
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物からなるフッ化物イオン検出剤。
【請求項4】
被検出液、請求項1又は請求項2に記載のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物、及びテトラブチルアンモニウム塩を、低級アルコールに加えてなる溶液1に、l,4-ジオキサンを加えて溶液2を作製し、溶液2の蛍光の測定を行う第1判定工程、及び
前記第1判定工程にて蛍光が検出された場合は、請求項1又は請求項2に記載のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物及びテトラブチルアンモニウム塩を、水溶性飽和環状エーテルに加えてなる溶液を作製し、当該溶液に、被検出液を加え、溶液の呈色の変化を判定する第2判定工程、からなることを特徴とするフッ化物イオン検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水等に含まれるフッ化物イオンの選択的検出に使用できるビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物(ビスマス-ジチオカルボキシレート錯体構造を有する化合物)、当該化合物からなり、高選択的なフッ化物イオンの検出に用いられるフッ化物イオン検出剤、及び当該フッ化物イオン検出剤を用いるフッ化物イオン検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水の水質管理、水道水の水質管理、工場排水の管理、フッ酸による処理を伴う半導体製造における工程管理等において、水等の溶液中のフッ化物イオンの検出が求められる場合がある。そして、フッ化物イオンの検出の方法や、フッ化物イオンの検出に用いることができる化合物については、多くの報告がされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モノアリールボランと芳香族ジインとのハイドロボレーション重合により合成された、ホウ素を含有するπ共役ポリマーが開示されており、又、このホウ素含有ポリマーによるフッ化物検出が報告されている。すなわち、このポリマーは、強い青色蛍光性(λem=438nm)を有し黄色に呈色しているが、フッ化物イオンに触れると、黄色から無色に変化し蛍光が消光する性質を有するので、フッ化物イオンの目視による検出に用いることができる。
【0004】
又、特許文献2には、ビスシリルアミノアントラセン誘導体によるフッ化物イオンの検出方法が報告されている。この方法は、この誘導体がフッ化物イオン添加前後での蛍光色が変化する性質に基づき、フッ化物イオンを検出する方法である。
【0005】
さらに、特許文献3には、下記式(1)で表されるビスマス-ジチオカルボキシレート錯体構造を有するポリマーおよびこのポリマーを含有するフッ化物イオン検出剤が開示されている。
【0006】
【0007】
(式(1)中、Ar1は、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表し、Ar2は1または互いに連結した2以上のアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表し、Rは鎖中に1以上の酸素原子を含んでもよい、炭素原子数1~200の直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルコキシ基を表し、mは0~30の整数を表し、nは1~1000の整数を表す。)
【0008】
しかし、上記公知のフッ化物イオン検出剤はいずれも、フッ化物イオン以外のアニオンも検出する。例えば、上記の式(1)で表されるポリマーは、フッ化物イオンにより蛍光を発光するが、塩化物イオンや酢酸イオンによっても蛍光を発光する。
【0009】
従って、フッ化物イオンとともに他のアニオンが混在している環境では、フッ化物イオンの選択的検出、すなわちフッ化物イオンの存在の確認をすることができない、との問題がある。例えば、水道水中には、消毒液由来の塩化物イオンが含まれている。よって、上記の式(1)で表されるポリマーを用いて水道水中のフッ化物イオンの検出をする場合、塩化物イオンも検出するので、フッ化物イオンの選択的な検出をすることはできない。さらに上記の式(1)で表されるポリマーは溶解性が低いとの問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-255902号公報
【特許文献2】特開2020-91192号公報
【特許文献3】特開2021-138828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、フッ化物イオンの選択的検出に用いることができる化合物、具体的には、ビスマス-ジチオカルボキシレート錯体構造を有する新規な化合物を提供することを課題とする。本発明は、又、このビスマス-ジチオカルボキシレート錯体構造を有する化合物を用いることを特徴とするフッ化物イオン検出剤、及びこのフッ化物イオン検出剤を用いることを特徴とし、フッ化物イオンを選択的に検出できるフッ化物イオン検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、前記の従来技術の問題を解決し、フッ化物イオンとともに他のアニオンが混在している環境でもフッ化物イオンを選択的に検出できる方法を開発するために鋭意検討した結果、特定構造を有する新規なビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物は、特定の溶媒、例えば、エタノール及び1,4-ジオキサンからなる溶媒を用いると、テトラブチルアンモニウムのフッ化物塩又は酢酸塩が存在する場合のみ蛍光を発光し、他のアニオンの塩が存在しても蛍光を発光しないこと、従って、フッ化物イオン及び/又は酢酸イオンの存在の確認が可能であることを見出した。さらに、テトラヒドロフラン(THF)中では、酢酸イオンが存在する場合は溶液の呈色が変化するがフッ化物イオンが存在する場合は、呈色の変化はないことを見出した。従って、これらの2つの現象を組み合わせればフッ化物イオンの選択的検出が可能であること、すなわちフッ化物イオンの存在を確認できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明の第1は、下記式(2)で表されるビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物である。
【0014】
【0015】
(式(2)中、Ar3は、アリール基を表し、Ar4は、置換基を有してもよい1-ナフチル基を表し、2つのAr4は互いに異なっていてもよい。)
【0016】
本発明の第2は、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物(式(2)で表される化合物)からなるフッ化物イオン検出剤である。
【0017】
式(2)で表される錯体化合物は、新規な化合物であって、ビスマス-ジチオカルバメ-ト錯体構造を有するとともに、2つの1-ナフチル基(置換基を有してもよい)を有する化合物である。そして、水溶性エーテル系溶媒(水と混和し、エーテル基を有する化合物からなる溶媒)に溶解し、フッ化物イオンのテトラブチルアンモニウム塩を加えた場合は、蛍光を発光する。特に、先ず、この化合物をエタノール等の低級アルコールに溶解させた溶液に、l,4-ジオキサンを加えた溶液とした場合は、フッ化物イオンまたは酢酸イオンのテトラブチルアンモニウム塩が前記溶液に加えられている場合にのみ蛍光を発光し、他のアニオンの塩が加えられている場合は蛍光を発光しないので、フッ化物イオン及び/又は酢酸イオンの存在の確認に用いることができる。
一方、溶媒としてTHF等の水溶性飽和環状エーテルを用い、前記錯体化合物を加えた溶液の場合は、この溶液に、酢酸イオンのテトラブチルアンモニウム塩を加える場合は、溶液色が黄色からピンク色に変化するが、酢酸イオンを加えずフッ化物イオンのみを加える場合は変色しないので、フッ化物イオンの選択的検出に用いることができる。すなわち、本発明の第1の化合物、すなわち式(2)で表される錯体化合物は、フッ化物イオン検出剤として用いることができ、本発明の第2のフッ化物イオン検出剤を構成する。
【0018】
本発明の第3は、被検出液、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物、及びテトラブチルアンモニウム塩を、低級アルコールに加えてなる溶液1に、l,4-ジオキサンを加えて溶液2を作製し、溶液2の蛍光の測定を行う第1判定工程、及び
前記第1判定工程にて蛍光が検出された場合は、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物及びテトラブチルアンモニウム塩を、水溶性飽和環状エーテルに加えてなる溶液を作製し、当該溶液に被検出液を加え、溶液の呈色の変化を判定する第2判定工程、からなることを特徴とするフッ化物イオン検出方法、である
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物は、エタノール及び1,4-ジオキサンを溶媒として用いる溶液中で、テトラブチルアンモニウムのフッ化物塩又は酢酸塩が存在する場合のみ蛍光を発光し他のアニオンの塩の場合は蛍光を発光せず、又、溶媒をTHF等とした場合は、酢酸イオンが存在する場合は溶液の呈色が変化しフッ化物イオンの場合は呈色の変化はないので、フッ化物イオンの選択的検出に用いることができる。
【0020】
すなわち、従来のフッ化物イオン検出剤は、フッ化物イオン以外のアニオンも検出するためアニオンの種類判別が不可能であったが、本発明の第1の錯体化合物を用いることにより、フッ化物イオンの検出を選択的にすることができる。そして、フッ化物イオンの検出を選択的にすることができるフッ化物イオン検出剤(本発明の第2)及びフッ化物イオン検出方法(本発明の第3)が提供される。
本発明の第3のフッ化物イオン検出方法は、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物の前記の特性によりフッ化物イオンの選択的検出を行うものであり、検出は、蛍光及び溶液の色調変化により行われるので、目視による微量変化を認識しやすい。従来のフッ化物イオン検出剤を用いる検出方法では、消光や色の変化を分光計などの装置を使用して判別して検出を行っているが、本発明では、複雑な装置を必要とせず、目視により簡便に、フッ化物イオンの存在の有無を確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実験2にて測定した蛍光の発光強度と波長との関係を示すグラフである。
【
図2】比較実験2にて測定した蛍光の発光強度と波長との関係を示すグラフである。
【
図3】比較実験3にて測定した蛍光の発光強度と波長との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態についてより具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の形態に限定されない。
【0023】
本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物
このビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物は、前記の式(2)で表される。式(2)中のAr3のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、チエニル基等を挙げることができ、これらは置換基を有していても、有していなくてもよい。Ar3のアリール基が有していてもよい置換基としては、親水性の置換基が好ましく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、オリゴエーテル基、ポリエーテル基等を挙げることができる。
【0024】
Ar4は、1-ナフチル基であり、この1-ナフチル基は置換基を有していても、有していなくてもよいが、好ましくは置換基を有しない1-ナフチル基である。Ar4の1-ナフチル基が有していてもよい置換基としては、親水性の置換基が好ましくヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、オリゴエーテル基、ポリエーテル基等を挙げることができる。式(2)中の2つのAr4は、置換基の有無、置換基の種類が互いに異なっていてもよい。
【0025】
Ar3のアリール基としては、フェニル基が好ましい。又、前記のようにAr4としては、置換基を有しない1-ナフチル基が好ましいので、本発明の第1の化合物としては、以下の式(3)で表される化合物が好ましい。
【0026】
【0027】
(製造方法)
式(2)で表される化合物は、例えば、下記式(4)で表される1-ナフチルマグネシウムブロミドと二硫化炭素を、THF等のエーテル系溶媒中で反応させて下記式(5)で表される化合物を合成した後、さらに、下記式(6)で表されるジクロロフェニルビスムチンを反応させることにより合成することができる。なお、下記式(4)、(5)及び(6)中の、Ar3及びAr4は、前記と同じ意味を表す。
【0028】
【0029】
本発明の第3のフッ化物イオン検出方法では、先ず、被検出液、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物、及びテトラブチルアンモニウム塩が、低級アルコールに加えられて溶解され、溶液1が作製される。
被検出液とは、本発明の方法によりフッ化物イオンの存在(溶解)の有無の判定が求められている水性の液(溶媒が水を主体とする溶液)であり、その例としては、水質管理が求められている地下水、水道水、工場排水、フッ酸による処理を伴う半導体製造工程に使用される水を挙げることができる。
【0030】
テトラブチルアンモニウム塩とは、テトラブチルアンモニウム(カチオン)とフッ化物イオン及び酢酸イオン以外のアニオンの塩である。テトラブチルアンモニウム塩としては、テトラ-n-ブチルアンモニウム塩が好ましい。
低級アルコールとしては、水との混和性に優れるアルコールが用いられ、炭素数1~4のアルコールが好ましいが、中でもエタノールが特に好ましい。
【0031】
低級アルコールに対する、被検出液、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物、及びテトラブチルアンモニウム塩の量は、それぞれ、0.3質量%以上、及び0.1質量%以上が好ましい。又、第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物1モルに対するテトラブチルアンモニウム塩の量は、1モル以上が好ましい。
【0032】
低級アルコールに、被検出液、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物、及びテトラブチルアンモニウム塩が加えられてなる溶液1は、1,4-ジオキサンに加えられる前に、室温にて24時間放置されることが好ましい。
【0033】
低級アルコールに、被検出液、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物、及びテトラブチルアンモニウム塩が加えられ、場合により所定時間放置されてなる溶液1は、その後、1,4-ジオキサンに加えられて溶液2が作製され、溶液2の蛍光の測定が行われる。
【0034】
1,4-ジオキサンに加えられた後、蛍光の測定前に、溶液2を、室温にて24時間放置することが好ましい。
【0035】
蛍光の測定は、1,4-ジオキサンに加えられた後の溶液2に、蛍光を励起する光線を照射し、蛍光の発光を目視又は蛍光測定装置により検出して行われる。蛍光を励起する光線は、通常紫外線であり、波長284nmの紫外線が好ましく用いられる。蛍光測定装置としては、分光蛍光光度計が挙げられるが、本発明は、目視による判定が可能であり、簡便に判定できる点で好ましい。
【0036】
前記の蛍光の測定により、蛍光が検出されない場合は、フッ化物イオンはないと判定され、本発明の第3のフッ化物イオン検出方法は終了する。蛍光が検出された場合は、フッ化物イオン及び/又は酢酸イオンが含まれていると判定され、第2判定工程が行われる。
【0037】
前記第1判定工程にて蛍光が検出された場合に行われる第2判定工程では、先ず、本発明の第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物及びテトラブチルアンモニウム塩を、THFに加えてなる溶液が作製される。テトラブチルアンモニウム塩としては、前記第1判定工程にて用いられたテトラブチルアンモニウム塩と同様なものを用いることができる。このようにして得られた溶液は、黄色に呈色している。
【0038】
水溶性飽和環状エーテルの量に対する第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物及びテトラブチルアンモニウム塩の量は、それぞれ、0.3質量%以上、及び0.1質量%以上が好ましい。又、第1のビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物1モルに対するテトラブチルアンモニウム塩の量は、1モル以上が好ましい。
【0039】
前記のようにして溶液が作製された後、当該溶液に被検出液を加え、溶液の呈色の変化が判定される(第2判定工程)。この判定は目視により行うことができる。当該溶液の量に対する被検出液の量は、特に限定されないが、被検出液の量が少なすぎる場合は、酢酸イオンが含まれている場合であっても呈色の変化が明確に観測できない場合があるので、呈色の変化が明確に観測できる量が好ましい。
【0040】
被検出液を加えたとき、溶液の呈色が、黄色からピンク色に変化したときは、被検出液が酢酸イオンを含む場合である。従って、被検出液中に含まれるアニオンは酢酸イオンであると判定できる。一方、被検出液を加えたとき、溶液の呈色に変化が見られないときは、被検出液が酢酸イオンを含まない場合である。第1判定工程により、被検出液は酢酸イオン及び/又はフッ化物イオンを含むことが確認されているので、第2判定工程により、溶液の呈色に変化が見られないときは、被検出液に含まれるアニオンはフッ化物イオンであると判定することができる。
【実施例0041】
実験1(ビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物の合成)
以下の図(化学反応式)に示す反応により前記式(3)で示すビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物を合成した。具体的には、ナフチルマグネシウムブロミド及び二硫化炭素(モル比1:1)をTHFに溶解して0℃で2時間反応させた後、反応生成物とジクロロフェニルビスムチン(前記反応生成物2モルに対して1モル)を、THF中にて、0℃で2時間反応させることにより、前記式(3)で示すビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物が得られた。
【0042】
【0043】
実験2(第1判定工程)
10mLのエタノールに、実験1で得られたビスマス-チオカルボキシレート錯体化合物を5.0μmol、以下に示すアニオンのいずれかのテトラ-n-ブチルアンモニウム塩を50μmol(錯体化合物に対して10当量)加えて撹拌した後、室温(約25℃)にて24時間放置した。その後、10mLの1,4-ジオキサンを加えて撹拌した後、室温(約25℃)にて24時間放置した。
(アニオン)
F-、Cl-、Br-、AcO-、HSO4
-、ClO4
-、BF4
-、PF6
-
【0044】
前記放置後の溶液に、波長284nmの紫外線を照射し、紫外可視分光光度計UV-2600(島津製作所製)にて、蛍光の発光強度(Emission intensity[a.u.])を測定した。その結果を
図1に示す。
図1より、アニオンが、F
-の場合及びAcO
-の場合は、蛍光の大きな発光があるが、他のアニオンの場合は、蛍光の発光はほとんど測定されないことが示されている。又、目視にても、アニオンがF
-の場合及びAcO
-の場合のみ蛍光の発光が観測され、他のアニオンの場合蛍光は観測されなかった。
この結果より、本発明の第3のフッ化物イオン検出方法の第1判定工程により、被検出液中のフッ化物イオン及び/又は酢酸イオンの有無を確認できることが示されている。
【0045】
実験3(第2判定工程)
10mLのTHF又はジクロロメタン(CH2Cl2)に、実験1で得られたビスマス-チオカルボキシレート錯体化合物5.0μmolを加え、室温にて撹拌した。得られた溶液は黄色に呈色している。その後、F-、Cl-、Br-、又はAcO-のいずれかのアニオンのテトラ-n-ブチルアンモニウム塩を50μmol(錯体化合物に対して10当量)加えて撹拌した。溶媒がTHFであって、AcO-の塩を加えた場合は、溶液は黄色からピンク色に変化したが、F-、Cl-、Br-の塩を加えた場合は、溶液の色調は変化しなかった。すなわち、AcO-とF-では色調の変化は異なっているので、AcO-及び/又はF-が含まれている系でのF-の有無の判定を行うことができる。一方、溶媒がジクロロメタン(CH2Cl2)の場合は、AcO-の塩を加えた場合及びF-の塩を加えた場合のいずれにおいても溶液の色調が変化したので、AcO-及び/又はF-が含まれている系でのF-の有無の判定に使用できないと言える。
【0046】
比較実験1
前記式(3)で示すビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物の代わりに、下記式で表されるビスマス-ジチオカルボキシレート錯体化合物を用い、アニオンとしてF-を用いた以外は、実験1と同様な操作を行い、蛍光の測定を行ったが、蛍光の発光は見られなかった。
【0047】
【0048】
比較実験2
下記の溶媒10mLに、実験1で得られたビスマス-チオカルボキシレート錯体化合物を5.0μmol、テトラ-n-ブチルアンモニウムのフッ化物塩(TBAF)を50μmol(錯体化合物に対して10当量)加えて撹拌した後、室温(約25℃)にて24時間放置した。前記放置後の溶液に、波長388nmの紫外線を照射し、日本分光株式会社製、分光蛍光光度計FP-6100にて、蛍光の発光強度(Emission intensity[a.u.])を測定した。その結果を
図2に示す。
(溶媒)
THF、DMF、DMSO、エタノール、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジクロルメタン、1,4-ジオキサン
【0049】
図2より、溶媒が1,4-ジオキサンの場合のみ、蛍光の大きな発光が測定されるが、他の溶媒の場合は、蛍光の発光は小さいかほとんど見られなかった。
【0050】
比較実験3(実験1においてエタノールへの溶解工程を設けない例)
10mLの1,4-ジオキサンに、実験1で得られたビスマス-チオカルボキシレート錯体化合物を5.0μmol、及び、F
-、Cl
-、AcO
-のいずれかのテトラ-n-ブチルアンモニウム塩を50μmol(錯体化合物に対して10当量)加えて撹拌した後、室温(約25℃)にて24時間放置した。前記放置後の溶液に、波長284nmの紫外線を照射し、日本分光株式会社製、分光蛍光光度計FP-6100にて、蛍光の発光強度(Emission intensity[a.u.])を測定した。その結果を
図3に示す。
図3に示される結果より、上記実験2において、エタノールへの溶解工程を設けず、溶媒として1,4-ジオキサンのみを使用した場合は、Cl
-の場合でもF
-、AcO
-の場合と同様な大きな蛍光が測定され、検出されるアニオンの選択性が低いことが示されている。