IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129945
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】支援方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20240920BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240920BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/389
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039368
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝亦 健治
(72)【発明者】
【氏名】林 邦彦
【テーマコード(参考)】
2G216
【Fターム(参考)】
2G216BA54
2G216CB11
(57)【要約】
【課題】最適な説明変数の値を提案する。
【解決手段】支援方法は、説明変数の決定確率が規定される第1分布を示す分布パラメータAを取得することを備える(ステップS1C)。支援方法は、説明変数の候補である複数の候補値を、決定確率に基づいて決定することを備える(ステップS4C)。支援方法は、複数の候補値から提案値を決定し該提案値をユーザに通知することを備える(ステップS30C)。
【選択図】図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
説明変数の探索を支援する支援方法であって、
前記説明変数の決定確率が規定される第1分布を示す分布パラメータを取得することと、
前記説明変数の候補である複数の候補値を、前記決定確率に基づいて決定することと、
前記複数の候補値から提案値を決定し該提案値をユーザに通知することとを備える支援方法。
【請求項2】
前記支援方法は、さらに、
前記説明変数として用いられる複数の値を取得することと、
前記説明変数に対応する目的変数の範囲を取得すること、
前記複数の値および前記目的変数の範囲に基づいて、前記複数の候補値の各々の第2分布の分散および平均を算出することと、
前記提案値をユーザに通知することは、前記複数の候補値の各々の分散および平均に基づいて、前記複数の候補値から提案値を決定し該提案値をユーザに通知することを含む、請求項1に記載の支援方法。
【請求項3】
前記説明変数は、複数種類あり、
前記第1分布は、前記複数種類の説明変数の多変量正規分布である、請求項1または請求項2に記載の支援方法。
【請求項4】
前記説明変数は、電池の実験に用いられる変数であり、
前記支援方法は、説明変数が入力されることにより目的変数としての値を出力する予測モデルを、前記提案値により示される説明変数と該説明変数に対応する目的変数に基づいて更新することをさらに備え、
前記説明変数は、前記電池の材料に関する変数であり、
前記目的変数は、前記電池の特性に関する変数である、請求項1または請求項2に記載に支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、対象物の製造などのために、様々な実験が行われる。このような実験においては、ユーザにより決定されたパラメータ値を条件とした実験により、観測値を取得する。そして、このパラメータ値および観測値を設計値として、対象物の製造などを行う。特許第6919770号公報(特許文献1)には、ベイズ最適化に基づいて、最適なパラメータ値を探索して該パラメータをユーザに通知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6919770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下では、上記パラメータ値は、「説明変数」とも称され、上記観測値は、「目的変数」とも称される。一般的には、説明変数については、現実的な適正範囲が存在する。しかしながら、特許文献1記載の発明においては、適正範囲外の説明変数が提案されてしまう場合があった。したがって、ユーザが、このように適正範囲外の説明変数で実験を行ったとしても、最適な目的変数を取得することができなかった。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、最適な説明変数の値を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本開示の支援方法は、説明変数の探索を支援する方法である。支援方法は、説明変数の決定確率が規定される第1分布を示す分布パラメータAを取得することを備える。支援方法は、説明変数の候補である複数の候補値を、決定確率に基づいて決定することを備える。支援方法は、複数の候補値から提案値を決定し該提案値をユーザに通知することを備える。
【0007】
(2) (1)に記載の支援方法であって、支援方法は、さらに、説明変数として用いられる複数の値を取得することと、説明変数に対応する目的変数の範囲を取得することと、複数の値および目的変数の範囲に基づいて、複数の候補値の各々の第2分布の分散および平均を算出することとを備える。提案値をユーザに通知することは、複数の候補値の各々の分散および平均に基づいて、複数の候補値から提案値を決定し該提案値をユーザに通知することを含む。
【0008】
(3) (1)または(2)に記載の支援方法であって、説明変数は、複数種類ある。第1分布は、複数種類の説明変数の多変量正規分布である。
【0009】
(4) (1)~(3)のいずれか1項に記載の支援方法であって、説明変数は、電池の実験に用いられる変数である。支援方法は、説明変数が入力されることにより目的変数としての値を出力する予測モデルを、提案値により示される説明変数と該説明変数に対応する目的変数に基づいて更新することをさらに備える。説明変数は、電池の材料に関する変数である。目的変数は、電池の特性に関する変数である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、最適な説明変数の値を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の支援装置、表示装置、および予測装置などを示す図である。
図2】分布パラメータの一例を示す図である。
図3】初期データの一例を示す図である。
図4】支援装置の機能ブロック図である。
図5】候補値組合せを示す図である。
図6】相関行列の相関係数を示す図である。
図7】第1実施形態の支援装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図8】予測モデルの更新処理を示すフローチャートである。
図9】第1実施形態の支援装置の効果を説明するための図である。
図10】試験電池の正極および負極を示す図である。
図11】第1実施形態のシミュレーション結果を示す図である。
図12】第1実施形態のシミュレーション結果を示す図である。
図13】第2実施形態の支援装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図14】閾値Ethを変更することによる有利な効果を説明するための図である。
図15】第2実施形態のシミュレーション結果を示す図である。
図16】第2実施形態のシミュレーション結果を示す図である。
図17】第3実施形態の支援装置の機能ブロック図である。
図18】説明変数が2つの場合の多変量正規分布の一例を示す図である。
図19】第1目的変数および第2目的変数を説明するための図である。
図20】第3実施形態の支援装置の処理を示すフローチャートである。
図21】第3実施形態のシミュレーション結果を示す図である。
図22】説明変数が1種類である場合の所定分布の一例を示す図である。
図23】対数正規分布から正規分布への変換を説明するための図である。
図24】離散型確率分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の支援装置100、表示装置200、および予測装置300などを示す図である。支援装置100は、様々な実験などで使用される説明変数の探索を支援するための装置である。本開示の実験は、電池の製造のための実験である。
【0014】
本開示の説明変数は、電池の材料に関する変数である。本開示において、電池の材料に関する変数は、電池の添加剤C1,C2の濃度である。本開示の目的変数は、電池の特性に関する変数である。本開示において、電池の特性は、電池の抵抗値(IV抵抗値)である。
【0015】
支援装置100および予測装置300は、たとえば、PC(personal computer)、タブレット、およびスマートフォンなどのコンピュータである。表示装置200は、支援装置100に接続されている。表示装置200は、支援装置100から出力される提案値を通知(表示)する通知装置の一例である。「提案値」は、ユーザに提案する説明変数の値である。
【0016】
ユーザは、後述の初期データ(後述の図3)および分布パラメータ(後述の図2)を支援装置100に対して入力する。支援装置100は、後述の演算を実行することにより、提案値を決定する。そして、支援装置100は、提案値を表示装置200に出力する。表示装置200は、支援装置100からの提案値を表示する。
【0017】
図1の例においては、支援装置100は、添加剤C1の濃度としてa%を算出するとともに添加剤C2の濃度としてb%を算出する。該a%およびb%が「提案値」に相当する。表示装置200は、支援装置100が算出した提案値に基づく情報を表示する。図1の例での情報は、「添加剤C1・・・a%、添加剤C2・・・b%で電池の抵抗値を測定する実験をしてください」という情報である。
【0018】
ユーザは、表示装置200に表示された情報を視認することにより、提案された添加剤の濃度値を把握する。そして、ユーザは、提案された濃度値で電池の抵抗値を測定する実験を行う。本実施形態の実験は、DCIR(Direct Current Internal Resistance)測定である。そして、ユーザは、支援装置100により提案された濃度値と、該濃度値での実験による抵抗値との組合わせを教師データとして、予測装置300に入力する。
【0019】
予測装置300は、予測モデル350を保持している。予測装置300は、予測モデル350およびユーザにより入力された値に基づいて、目的となる値を予測する装置である。たとえば、予測装置300は、該予測モデル350に基づいて、ユーザにより入力された説明変数(電池の添加剤C1,C2の濃度)から目的変数(電池のIV抵抗値)を予測する。この予測により、ユーザは、実験をすることなく、電池のIV抵抗値を取得することができる。
【0020】
また、予測装置300は、該予測モデル350に基づいて、ユーザにより入力された目的変数(電池のIV抵抗値)から説明変数(電池の添加剤C1,C2の濃度)を予測するようにしてもよい。この予測により、ユーザは、所望のIV抵抗値となる電池の添加剤のC1,C2の濃度を取得できる。
【0021】
予測装置300は、入力された教師データに基づいて、予測モデル350を学習(更新)することができる。この更新により、予測装置300による予測精度は向上する。なお、図1においては、支援装置100と、予測装置300とは別個である構成が記載されているが、支援装置100と、予測装置300とは一体化していてもよい。
【0022】
本開示の支援装置100の目的は以下の第1目的と第2目的を含む。まず、第1目的を説明する。図1で説明したように、予測装置300は上記の予測を行うことができる。本実施の形態の第1目的は、「予測装置300の予測精度を向上させる」という目的である。
【0023】
次に、第2目的を説明する。たとえば、ユーザは、実験で所望範囲の目的変数を得るための説明変数を探索する場合がある。より具体的には、この場合とは、たとえば、ユーザは、目的変数(IV抵抗値)が所望範囲となる電池が製造される説明変数(添加剤C1および添加剤C2の濃度)を検出する場合である。この場合には、ユーザは、なるべく少ない実験回数で、最適な(ユーザが所望する)目的変数を取得することが好ましい。本開示の支援装置100の第2目的は、「少ない実験回数で所望範囲の目的変数を取得するための説明変数をユーザに提案するという目的」である。
【0024】
第1実施形態および後述の第2実施形態の支援装置は、主に、第1目的を達成するための装置であり、第3実施形態の支援装置は、主に、第2目的を達成するための装置である。
【0025】
支援装置100は、CPU(Central Processing Unit)181と、メモリ182と、インターフェース(I/F:Interface)183とを備える。CPU181は、様々な処理を実行する。インターフェース183は、支援装置100の外部装置と通信するための装置である。外部装置は、たとえば、表示装置200である。
【0026】
ROMは、CPU181にて実行されるプログラムを格納する。RAMは、CPU181におけるプログラムの実行により生成されるデータ、およびインターフェース183を経由して入力されるデータを一時的に格納することができる。RAMは、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能し得る。
【0027】
ROM162に格納されているプログラムは、記録媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通されてもよい。記録媒体は、該記録媒体が記録しているプログラムなどをコンピュータが読取可能な非一時的な媒体である。または、プログラムは、情報提供事業者によって、いわゆるインターネットなどによりダウンロード可能なプロダクトプログラムとして提供されてもよい。支援装置100は、記憶媒体またはインターネットなどにより提供されたプログラムを読み取る。支援装置100は、読み取ったプログラムを所定の記憶領域(例えばROM)に記憶する。CPU181は、当該プログラムを実行することにより、提案値を算出する処理を実行する。
【0028】
[分布パラメータおよび初期データ]
次に、図1で示された分布パラメータおよび初期データを説明する。まず、分布パラメータを説明する。分布パラメータAは、ユーザが決定するパラメータである。分布パラメータAは、M(Mは1以上の整数)種類の説明変数の各々の第1分布を規定するパラメータである。本実施形態においては、第1分布は、正規分布である。分布パラメータAは、該正規分布を規定するためのパラメータであり、分布パラメータAは、平均μ、および標準偏差σである。
【0029】
図2は、分布パラメータAの一例を示す図である。本実施形態においては、説明変数の種類数は、4種類である(M=4)。4種類の説明変数は、4種類の添加剤の濃度により構成される。図2の例での4種類の添加剤は、ビニレンカーボネート(VC:Vinylene Carbonate)、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB:Lithium Bisoxalateborate)、添加剤A、および添加剤Bである。添加剤A、および添加剤Bは、P-F結合含有リチウム塩添加剤である。添加剤Aと添加剤Bとでは、電解液内での分解および電極の被膜形成挙動が異なる。
【0030】
図2の例では、4種類の説明変数の各々の、平均μsおよび標準偏差σsが規定されている。たとえば、VCの平均μ1は、0.85であり、VCの標準偏差σ1は、0.32である旨が規定されている。また、図2の分布パラメータAにより規定される正規分布は、「多変量正規分布」である。
【0031】
図3は、初期データBの一例を示す図である。初期データBは、N(Nは1以上の整数)個の「初期データ組合せ」により構成される。図3の例では、N=18である。初期データ組合せは、M種類の説明変数と、該M種類の説明変数に対応する目的変数との組合せを示す情報である。M種類の説明変数に対応する目的変数は、M種類の説明変数が使用された実験によりユーザにより予め導出された変数である。M種類の説明変数に対応する目的変数は、M種類の説明変数が予測装置300に入力されることにより予め予測された変数としてもよい。
【0032】
図3においては、太線で囲まれている情報が1つの初期データ組合せである。つまり、図3の初期データは、18個の初期データ組合せを含む。図3の例においては、たとえば、VC、LiBOB、添加剤A、および添加剤Bが0%であるという説明変数の目的変数(IV抵抗値)が、111.7mΩであることが規定されている。図3の72(=18×4)個の説明変数の値は、本開示の「複数の値」に対応する。
【0033】
[支援装置の機能ブロック図]
図4は、支援装置100の機能ブロック図である。支援装置100は、取得部102と、候補部104と、分散部106と、距離部108と、確率部110と、決定部112とを備える。また、閾値部114が破線で示されているが、この閾値部114については、第2実施形態で説明する。
【0034】
取得部102は、ユーザにより入力された分布パラメータA(図2参照)および初期データB(図3参照)を取得する。取得部102により取得された分布パラメータAは、候補部104および距離部108に出力される。
【0035】
候補部104は、M種類の説明変数(本実施形態においては4種類の説明変数)のL(Lは2以上の整数)個の候補値組合せを算出する。ここで、「候補値組合せ」は、M種類の説明変数の各々の候補値の組合せである。また、「候補値」は、提案値(図1参照)の候補となる値である。本実施形態においては、L=1000である。
【0036】
図5は、候補値組合せを説明するための図である。図5の例では、候補値組合せの番号、および4種類の説明変数などが示されている。上述のように、L=1000であることから、候補値組合せの番号として、1~1000が規定されている。図5の「・・・」は、候補部104により算出される候補値を示す。また、図5の例の太線で囲まれた情報が、1つの候補値組合せとなる。つまり、候補部104により1000個の候補値組合せが算出されるとともに、4000個(=4×1000)の候補値が算出される。
【0037】
候補部104は、分布パラメータを用いて、候補値を算出する。たとえば、候補部104は、分布パラメータにおける説明変数に対応する平均μs、標準偏差σsに基づく数値範囲で一様乱数により算出する。数値範囲は、たとえば、μs-3σs以上でありμs+3σs以下である範囲である。たとえば、候補部104は、VC(図2参照)についての説明変数を、μ1-3σ1以上であり、μ1+3σ1以下である数値範囲で一様乱数により算出する。本実施形態においては、1000個の候補値組合せSは、分散部106、距離部108および確率部110に出力される。
【0038】
分散部106は、取得部102からの初期データB(図3参照)に基づいて、候補部104からのL個の候補値組合せの各々の第2分布の分散σを算出する。本実施形態においては、第2分布は、正規分布である。分散σは、1000個(L個)の候補値組合せ毎に算出される。以下に、分散部106の処理の詳細を説明する。
【0039】
また、分散部106は、ガウス過程回帰モデルを用いて第2分布の分散σを算出する。まず、分散部106は、初期データB(説明変数と目的変数との双方)を用いてガウス過程回帰モデルを更新(学習)する。そして、分散部106は、更新されたガウス過程回帰モデルにおけるカーネル関数を用いて、分散σを算出する。カーネル関数k(x、x)は、たとえば、以下の式(1)により表される。
【0040】
【数1】
【0041】
ここで、式(1)の左辺のxおよびxは、4種類の説明変数からなるベクトルを示す。また、nおよびmについては、それぞれ、1≦n≦N(=18)、1≦m≦Nとなる変数を示す。
【0042】
式(1)の右辺のγは、予め定められた実数である。γは、たとえば、0<γ≦2の範囲の実数である。本実施形態においては、γ=2である。式(1)の右辺のtは、転置行列とすることを示す。式(1)の右辺のσ(n、m)は、クロネッカーのデルタを示す。
【0043】
式(1)の右辺のθ、θ、θ、θについては、更新(最適化)対象のハイパーパラメータである。ハイパーパラメータθ、θ、θ、θについては、以下の式(2)の左辺で表される確率が初期データBを最も表現できるように、分散部106は調整する。
【0044】
【数2】
【0045】
ここで、式(2)の左辺のXは、x1,...,からなる行列を示す。式(2)のyは、初期データBに含まれるN個の目的変数(IV抵抗値)の値からなるベクトルを示す。Kは、式(1)を(n、m)成分とする行列を示す。
【0046】
また、1つの候補値組合せをxと表現したときにおいて、分散部106は、以下の式(3)により分散σを算出する。
【0047】
【数3】
【0048】
ここで、式(3)の右辺のKは、式(2)のKと同一である。また、式(3)のkは、式(4)で表される。
【0049】
以上、分散部106は、式(1)および式(2)に基づいて、ガウス過程回帰モデルを更新する。そして、分散部106は、更新されたガウス過程回帰モデル、および式(3)、(4)を用いて、L個の候補値組合せ毎の分散σを算出する。算出された分散σは、決定部112に出力される。
【0050】
次に、距離部108の処理を説明する。距離部108は、分布パラメータAに基づいて、L個の候補値組合せ毎のマハラノビス距離Eを算出する。マハラノビス距離Eは、ある局面においては、L個の候補値によるデータ群の重心からの距離である。
【0051】
以下に、距離部108の処理の詳細を説明する。まず、距離部108は、分布パラメータAで規定されているM個の説明変数同士の相関行列Cを所定の演算により設定する。以下に、相関行列Cを構成する相関係数rの算出手法を説明する。距離部108は、初期データBに含まれる数値を以下の式(5)に代入して、相関係数rを算出する。
【0052】
【数4】
【0053】
ここで、式(5)のjおよびkは、それぞれ、相関係数rを算出するための2つの説明変数を示す。2つの説明変数は、初期データに含まれる説明変数であり、たとえば、VCの濃度と、LiBOBの濃度などである。また、式(5)のSjkは、説明変数jと説明変数kとの共分散を示す。式(5)のSは、説明変数jの標準偏差を示す。式(5)のSは、説明変数kの標準偏差を示す。Nは上述の通り、初期データ組合せの数である。iは、変数であり、図3に記載の番号に対応する。jは、i番目の説明変数jの数値を示す。kは、i番目の説明変数kの数値を示す。javgは、N個の説明変数jの平均値を示す。kavgは、N個の説明変数kの平均値を示す。javgは、N個の説明変数jの平均値を示す。相関行列Cは、本開示の「複数種類の説明変数間の相関を示す情報」に対応する。
【0054】
なお、変形例として、距離部108は、分布パラメータA(図2参照)の数値を式(5)に代入して相関係数rを算出してもよい。距離部108は、分布パラメータAのうちの2つの説明変数の平均μsを、それぞれ、(5)のjavgおよびkavgに代入してもよい。また、距離部108は、分布パラメータAのうちの2つの説明変数の標準偏差σsを、それぞれ、式(5)のSおよびSに代入してもよい。
【0055】
図6は、相関行列Cの相関係数を示す図である。図6の例では、たとえば、VCと、LiBOBとの相関係数は0.44であることが示されている。相関行列Cは、M×M(本実施形態においては4×4)の正方行列とされる。なお、相関行列Cは、演算せずに、ユーザにより入力されるようにしてもよい。
【0056】
なお、距離部108が、説明変数の間に相関が無いと判断した場合に、相関行列Cを単位行列とする。相関の有無の判断の手法として様々な手法が適用される。距離部108は、たとえば、相関係数の合計値が所定値未満である場合には、該相関が無いと判断する。また、ユーザが相関の有無を示す情報を支援装置100に入力可能という構成が採用されてもよい。このような構成が採用された場合において、ユーザが相関が無い旨の情報を入力した場合には、距離部108は、該相関が無いと判断する。
【0057】
距離部108は、以下の式(6)、(7)を用いて、L個の候補組合せ毎のマハラノビス距離Eを算出する。
【0058】
Σ=DCD (6)
【0059】
【数5】
【0060】
式(6)の左辺のΣは、説明変数に設定した共分散行列を示す。式(6)の右辺の行列Dは、図2のσ1~σ4を対角成分とする対角行列である。式(7)の右辺のベクトルUは、図2のμ1~μ4を成分とするベクトルである。式(7)の右辺のベクトルXは、候補組合せで規定されている4個の説明変数を成分とするベクトルである。距離部108により算出されたマハラノビス距離Eは、確率部110および決定部112に出力される。
【0061】
次に、確率部110の処理を説明する。確率部110は、L個の候補値組合せ毎に、帰属確率Pを決定する。ここで、帰属確率Pは、上述の第1分布に基づく確率値である。換言すれれば、帰属確率Pは、「図2の分布パラメータAにより規定される正規分布(第1分布)に仮定されるデータ群の重心」と、「帰属確率Pに対応する候補値組合せ」との近さを示す度合いである。帰属確率Pは、本開示の「確率値」に対応する。以下に、確率部110の処理の詳細を説明する。
【0062】
本実施形態においては、説明変数が正規分布(図2参照)に従うと仮定されている。この場合には、マハラノビス距離は、以下の式(8)の確率密度関数f(z)で表されるカイ二乗分布に従う。また、確率部110は、以下の式(9)により、帰属確率Pを算出する。
【0063】
【数6】
【0064】
ここで、式(8)のγ()は、所定のガンマ関数であり、式(8)のkは自由度である。確率部110により算出された確率値Pは、決定部112に入力される。
【0065】
以上のように、決定部112には、分散部106からの1000個の候補組合せの各々の分散σと、距離部108からの1000個の候補組合せの各々のマハラノビス距離Eと、確率部110からの1000個の候補組合せの各々の帰属確率Pとが入力される。
【0066】
決定部112は、1000個の候補組合せの各々の評価値Vを、以下の式(10)に基づいて算出する。
【0067】
評価値V=σ×E×P (10)
ここで、式(10)のa、b、cは、予め定められた実数である。a、b、cは、たとえば、-2以上であり、2以下の範囲の実数である。本実施形態においては、a、b、cは、1であるとする。したがって、決定部112は、1つの候補組合せについて算出された分散σ、マハラノビス距離E、および帰属確率Pを乗算することにより、該1つの候補組合せ評価値Vを算出する。そして、決定部112は、1000個の候補組合せの各々の評価値V(1000個の候補組合せの全ての評価値V)を算出する。
【0068】
そして、決定部112は、1000個の候補組合せの毎の評価値のうち、最大の評価値である候補組合せを提案候補値組合せとして決定する。決定部112は、提案候補値組合せをユーザに通知する(図1の表示装置200の説明参照)。提案候補値組合せは、本開示の「提案値」に対応する。
【0069】
[支援装置の処理の流れ]
図7は、支援装置100の処理の流れを示すフローチャートである。図7の処理は、所定期間(たとえば、1秒)毎に実行される。
【0070】
まず、ステップS1において、支援装置100は、分布パラメータAおよび初期データBが支援装置100に入力されたか否かを判断する。分布パラメータAおよび初期データBが入力されていない場合には(ステップS1でNO)、処理は終了する。分布パラメータAおよび初期データBが入力された場合には(ステップS1でYES)、処理はステップS2に進む。
【0071】
次に、ステップS2において、支援装置100は、初期データBによりガウス過程回帰モデルを学習する(上記式(1)、(2)参照)。次に、ステップS4において、支援装置100は、分布パラメータAに基づいてL個の候補値組合せ(候補値)を算出する。
【0072】
次に、ステップS6において、支援装置100は、学習後のガウス過程回帰モデルに基づいてL個の候補値組合せ毎の分散σを算出する(上記式(3)、(4)参照)。次に、ステップS8において、支援装置100は、分布パラメータAに基づいてL個の候補値組合せ毎のマハラノビス距離Eを算出する(上記式(5)~(7)参照)。次に、ステップS10において、支援装置100は、分布パラメータAに基づいてL個の候補値組合せ毎の帰属確率Pを算出する(上記式(8)、(9)参照)。
【0073】
次に、ステップS12において、支援装置100は、L個の候補値組合せ毎の評価値Vを算出する(上記式(10)参照)。次に、ステップS14において、支援装置100は、評価値が最大である候補組合せ(候補値)を提案候補値組合せ(提案値)として出力する。支援装置100が、提案候補値組合せを出力する処理は、「提案処理」とも称される。
【0074】
また、ユーザは、複数の提案候補値組合せを取得したい場合がある。この場合には、提案候補値組合せを用いたDCIR測定を行い、IV抵抗値を測定する。そして、ユーザは、該提案候補値組合せと該抵抗値とを初期データに加えて、該初期データに基づいて支援装置100に提案処理を実行させる。ユーザは、このような提案処理を支援装置100に複数回実行させることにより、複数の提案候補値組合せを取得できる。
【0075】
図8は、予測モデルの更新を示すフローチャートである。ステップS20において、予測装置300は、ユーザにより入力された教師データ(提案候補値組合せと、該提案候補値組合せに対応する目的変数)に基づいて、予測モデル350を更新する。図8の処理は、本実施形態の支援方法に含まれ得る。
【0076】
[本実施形態の支援装置の作用・効果]
本実施形態の支援装置100は、L個の候補組合せ毎の評価値Vを算出する。評価値Vは、分散σおよび帰属確率Pにより算出される。上述のように、分散σは、候補値組合せの正規分布のばらつき度合いを示す値である。したがって、分散σが大きい候補値組合せは、広い範囲を網羅できる実験結果(目的変数)を期待できる説明変数の組合せである。したがって、分散σのみを用いて評価値を算出する構成(以下、「比較例の構成」と称される。)が考えられる。
【0077】
しかしながら、このような構成においては、分散σが極端に大きい候補値組合せが、提案候補値組合せとして選択されてしまう場合があり、この場合には、適正範囲外(現実的ではない)組合せが選択される場合がある。
【0078】
そこで、本実施形態の支援装置100は、分散σのみならず帰属確率Pも用いて、提案値を決定する。具体的には、支援装置100は、分散σおよび帰属確率Pに基づいて評価値Vを算出する。上述のように、帰属確率Pは、図2の分布パラメータAにより規定される正規分布(第1分布)に仮定されるデータ群の重心との近さを示す度合いである。したがって、帰属確率Pが大きい候補値組合せは、ユーザにより規定された正規分布での確率が大きい候補値組合せであることから、適正範囲内に収まる傾向にある候補値組合せである。よって、分散σおよび帰属確率Pにより算出された評価値Vが大きい候補値組合せは、適正範囲内に収まる傾向にありつつも、広い範囲での候補値組合せとなる。したがって、評価値Vが大きい候補値組合せ(提案候補値組合せ)は、最適な説明変数の組合せとなる。
【0079】
図9は、本実施形態の支援装置100の効果を説明するための図である。図9の例では、説明変数の種類数Mが3である、つまり、第1説明変数、第2説明変数、および第3説明変数について示された図である。
【0080】
図9の例では、上述の比較例の構成による提案候補値組合せは、黒丸で示されており、本実施形態の支援装置100による提案候補値組合せは、白丸で示されている。また、ハッチングで示される領域Rは、上述の多変量正規分布で規定される領域である。上記の帰属確率Pが大きい候補値組合せは、領域αの重心(中央)に近くなる傾向にある。
【0081】
上述の比較例の構成では、図9の黒丸により示される提案候補値組合せのように、適正範囲外(現実的ではない)組合せが選択される場合がある。一方、本実施の形態の支援装置100によれば、提案候補値組合せは、多変量正規分布で規定される領域α内に収まりつつも広い範囲での候補値組合せとなる(図9の白丸参照)。したがって、本実施の形態の支援装置100によれば、最適でかつ散りばめられた説明変数の値をユーザに提案することができる。
【0082】
また、本実施形態においては、説明変数は複数種類(本実施形態においては、4種類)ある。確率部110は、複数種類の説明変数間の相関を示す情報(本実施形態においては、図6の相関行列)に基づいて算出する。したがって、説明変数が複数種類あったとしても、該複数種類の説明変数を反映させた帰属確率Pを算出できる。
【0083】
また、本実施形態においては、決定部112は、分散σおよび帰属確率Pのみならず、マハラノビス距離Eも乗算して評価値Vを算出する。上述のように、マハラノビス距離Eは、L個の候補値によるデータ群の重心からの距離である。したがって、本実施形態の支援装置100は、適正範囲内に収まりつつも、適切に散ばめられた(該重心から離れた)候補値組合せをユーザに提案できる。
【0084】
また、図8などで説明したように、予測装置300は、ユーザにより入力された教師データ(提案候補値組合せと、該提案候補値組合せに対応する目的変数)に基づいて、予測モデル350を更新する。したがって、支援装置100は、予測装置300の予測精度を向上させることに対しても支援できる。
【0085】
[シミュレーション結果]
次に、本実施形態の支援装置100が有利な効果を奏することを示すシミュレーション結果を説明する。まず、シミュレーションに使用された試験電池を説明する。試験電池の正極の正極活物質は、Li(NiCoMn)Oである。正極の導電材は、アセチレンブラックである。正極のバインダは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF:PolyVinylidene DiFluoride)である。正極の分散媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。正極の正極基材:Al箔である。正極の固形分の質量配合比としては、「正極活物質/導電材/バインダ=92.0/7.1/0.9」の正極スラリーが調製され、正極基材の表面(表裏両面)に塗布、乾燥することにより、正極活物質層が形成され、該正極活物質層が圧縮された。以上により正極原反が生成された。
【0086】
次に、試験電池の負極を説明する。負極の負極活物質は黒鉛である。負極のバインダは、CMC(カルボキシメチルセルロース)、およびSBR(スチレンブタジエンゴム)である。負極の分散媒は、水である。負極の負極基材は、Cu箔である。負極の固形分の質量配合比は、「負極活物質/CMC/SBR=98.3/1.0/0.7」である。負極スラリーが、負極基材の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥されることにより、負極活物質層が形成された。さらに負極活物質層が圧縮された。以上により負極原反が生成された。
【0087】
次に試験電池の電解液を説明する。電解液の溶媒の体積比は、EC/DMC/EMC=3/3/4である。支持電解質は、濃度が0.88mоl/LであるLiPF(六フッ化リン酸リチウム)である。また、電解液の添加剤は、図2などで示されたVC、LiBOB、添加剤A、および添加剤Bである。また、溶媒の成分比は、25℃、1気圧における体積に基づいている。
【0088】
また、試験電池のセパレータとして、PP(ポリプロピレン)層およびPE(ポリエチレン)層を含む多層構造を有する部材が使用された。そして、試験電池のセパレータは、該部材が所定の平面サイズに切断されることにより製造される。
【0089】
図10は、シミュレーションで使用された正極210および負極220を示す図である。上記の正極原反が切断されることにより正極210が製造される。上記の負極原反が切断されることにより負極220が製造される。
【0090】
正極210は、Alタブ211と正極活物質層212とを含む。正極活物質層212は、縦43mm×横29mmの平面寸法を有する。Alタブ211は、超音波によって正極活物質層212に接合されている。Alタブ211は、縦7mm×横10mmの平面寸法を有する。
【0091】
負極220は、Cuタブ221と負極活物質層222とを含む。負極活物質層222は、縦46mm×横30mmの平面寸法を有する。Cuタブ221は、超音波によって正極活物質層212に接合されている。Cuタブ221は、縦8mm×横10mmの平面寸法を有する。図10のような正極および負極の製造の詳細は、たとえば、特許7153701号公報に開示されている。
【0092】
さらに、正極、セパレータ、負極をこの順序で積層することにより、電極体が形成された。ドライ環境内でアルミラミネートフィルム製の外装体に電極体を挿入することにより、部材が形成された。その後、この部材は、真空下100度で3時間乾燥された。その後、この部材は、25度まで冷却された後、上記の電解液が注入され、外装体が溶着されて密封された。以上により、試験電池が生成された。
【0093】
試験電池に対して、以下のエージング処理が実行された。エージング処理は、試験電池を400mAで4.1Vまで充電し、その後、400mAで2.5Vまで放電し、60℃の環境下12時間保持するという処理である。そして、エージング処理が施された試験電池が、25度にて200mAで3.7Vまで充電し放電するという充放電を繰り返すことによりDCIR測定が実行された。
【0094】
図11は、シミュレーション結果を示す図である。図11の例では、5個の比較例の結果と、5個の実施例の結果とが示されている。図11においては、これら10個の結果について、VCの濃度、LiBOBの濃度、添加剤Aの濃度、添加剤Bの濃度、分散σ、帰属確率P、マハラノビス距離E、評価値V、およびIV抵抗値が示されている。
【0095】
まず、実施例を説明する。上述のように、支援装置100により提案候補値組合せが決定される。そして、ユーザは、該提案候補値組合せで規定されている複数の説明変数の値で、上述のDCIR測定を実行することによりIV抵抗値(目的変数)が測定される。そして、上記の提案処理が4回繰り返されることにより、5つの実施例の結果が得られた。
【0096】
次に比較例を説明する。比較例においては、ユーザは、初期データを確認して、ユーザの感覚で説明変数の5通りの組合せを決定した。ここでは、ユーザは、図11の比較例で記載されている説明変数の5通りの組合せが、ユーザにより決定されたとする。そして、比較例の説明変数の5通りの組合せにおいても、分散σ、帰属確率P、マハラノビス距離E、評価値V、およびIV抵抗値が算出されたとする。
【0097】
図11の記載からも明らかなように、実施例の分散σの方が、比較例の分散σよりも大きい。したがって、実施例の方が候補値組合せの散らばりの度合いが大きい。よって、ユーザは、より効率的な実験を行うことでき、結果として、予測モデル350(図1参照)の学習効果を高めることができる。
【0098】
次に、予測モデル350の精度に関して、二乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Squared Error)が用いられたシミュレーション結果を説明する。以下に、RMSEの算出の手法を説明する。図11により示された実施例の5組の実験データ(4種類の説明変数と、目的変数との組合せ)が、実施例のデータセットDS1とされる。データセットDS1からランダムに抽出された3組の実験データと、初期データ(図3参照)とが組合されて、予測モデル350の学習用データセットTr1が生成される。データセットDS1の残りの2組の実験データは、予測モデル350の評価用のデータセットValとされる。
【0099】
学習用のデータセットTr1により、予測モデル350が学習された。また、該学習においては、ステップワイズ法により説明変数が選択された。該学習された予測モデル350を用いて、目的変数が予測された。そして、該予測された目的変数と、実験により測定された目的変数との差分をRMSEが算出される。このようなRMSEの算出が3回実行されることにより3個のRMSEが算出され、さらに、該3個のRMSEの平均値が算出された。同様に、図11により示された比較例の5組の実験データを用いて、上記のRMSEの算出の手法により、3個のRMSEの平均値が算出された。
【0100】
図12は、比較例のRMSEの平均値と、実施例のRMSEの平均値とが示された図である。図12の例では、比較例のRMSEの平均値が1となるように規格化された場合の実施例のRMSEの平均値が示されている。図12からも明らかなように、本実施形態の支援装置100により提案された実験変数の組合せにより、予測モデル350の予測精度を向上させることができる。
【0101】
なお、第1実施形態の変形例として、評価値Vは、マハラノビス距離Eが用いられずに算出されてもよい。たとえば、評価値Vは、分散σと帰属確率Pとの乗算値としてもよい。
【0102】
[第2実施形態]
第1実施形態においては、マハラノビス距離Eが用いられた評価値Vが算出される構成が説明された。第2実施形態においては、マハラノビス距離Eが他の手法で用いられる構成が説明される。図4を参照して、第2実施形態の支援装置100Aを説明する。
【0103】
第2実施形態の支援装置100Aは、図4において破線で示される閾値部114を備える。閾値部114は、マハラノビス距離Eの閾値Ethを変更し、該変更された閾値Ethを決定部112に出力する。閾値部114は、ランダムに閾値Ethを変更する。たとえば、閾値部114は、閾値Eth用の正規分布である閾値用の確率密度関数を保持しており、該確率密度関数に基づいて閾値Ethを決定する。
【0104】
図13は、第2実施形態の支援装置100Aの処理の流れを示すフローチャートである。図13においては、図7のステップS12およびステップS14が、ステップS12AおよびステップS14Aに代替され、かつ、ステップS13Aが追加されている。
【0105】
ステップS12Aにおいて、決定部112は、以下の式(11)により、L個の候補値組合せ毎の評価値Vを算出する。
【0106】
V=σ×P (11)
次に、ステップS13Aにおいて、閾値部114は、閾値用確率密度関数に基づいて閾値Ethを決定し、該決定された閾値Ethを決定部112に出力する。そして、ステップS14Aにおいて、決定部112は、ステップS13Aで決定された閾値Ethよりマハラノビス距離が大きくかつ評価値が最大である候補値組合せを、L個の候補値組合せから選択する。そして、決定部112は、該選択した候補値組合せを提案候補値組合せとして出力する。なお、評価値が最大であるということは、本開示の「評価値が基準を満たす」という事項の一例である。
【0107】
以上のように、支援装置100Aは、上記の提案処理を実行する度に、閾値Ethを変更する。図14は、閾値Ethを変更することによる有利な効果を説明するための図である。図14においては、説明変数の種類数が2つの場合、つまり、説明変数が第1説明変数と第2説明変数である場合が示されている。また、図14においては、閾値Ethに対応する輪郭が円で示されている。また、図14においては、決定された提案候補値組合せGが示されている。
【0108】
図14(A)は、1回目の提案候補値組合せを決定するための閾値Ethが、19として決定された場合を示す図である。図14(B)は、2回目の提案候補値組合せを決定するための閾値Ethが、30として決定された場合を示す図である。図14(C)は、3回目の提案候補値組合せを決定するための閾値Ethが、24として決定された場合を示す図である。
【0109】
図14(A)~図14(C)に示すように、マハラノビス距離Eが閾値Ethより大きい提案候補値組合せは上記輪郭の外側に位置する。また、該提案候補値組合せの帰属確率Pが大きいことから、該提案候補値組合せは、輪郭(閾値Eth)の近傍に位置する傾向がある。
【0110】
図14に示すように提案処理毎に、閾値Ethが変更されることから、提案候補値組合せの上記重心からの距離を変更することができる。その結果、提案候補値組合せの散らばりの度合いを高めることができる。なお、閾値Ethの範囲が定められていてもよい。この範囲は、たとえば、10以上であり30以下である。
【0111】
図15は、本実施形態のシミュレーション結果を示す図である。図15は、図11で説明したシミュレーションと同一のシミュレーションが行われた結果である。図11図15とから明らかなように、第2実施形態においては、第1実施形態よりも、分散σ、および評価値Vが増加している。
【0112】
図16は、本実施形態のRMSEを示す図である。図16は、図12で説明したシミュレーションと同一のシミュレーションが行われた結果である。図12図16とから明らかなように、第2実施形態においては、第1実施形態よりも、RMSEが向上している。
【0113】
第2実施形態の変形例として、閾値Ethは、固定値としてもよい。たとえば、閾値Ethは、5以上の固定値としてもよい。また、閾値Ethは、40以下の固定値としてもよい。閾値Ethは、10以上および30以下の固定値としてもよい。
【0114】
<第3実施形態>
第1実施形態および第2実施形態においては、候補部104(図4参照)は、一様乱数により候補値を算出する構成が説明された。第3実施形態の候補部104による候補値の決定手法は、第1実施形態および第2実施形態の候補値の決定手法とは異なる。
【0115】
図17は、第3実施形態の支援装置100Bの機能ブロック図である。図17に示すように、支援装置100Bには、分布パラメータAおよび初期データBの他に、後述の所望範囲Cが入力される。
【0116】
次に、候補部104Bの処理を説明する。候補部104Bは、以下の式(12)により示される確率密度関数g(x)で規定される確率値に基づいて、L個の候補値を決定する。
【0117】
【数7】
【0118】
ここで、式(12)のΣは、上記式(6)で示されており、Eはマハラノビス距離である。図18は、説明変数が2つの場合の多変量正規分布の一例を示す図である。この多変量正規分布は、式(12)の確率密度関数g(x)を示す分布である。図18(A)は、説明変数間の相関が無い場合の図であり、図18(B)は、説明変数間の相関がある場合の図である。なお、Z軸は、候補値の決定確率Qを示す。決定確率Qは、本開示の「説明変数の決定確率」に対応する。候補部104Bにより決定されたL個の候補値組合せは、分散部106Bに出力される。
【0119】
次に、所望範囲Cを説明する。所望範囲Cは、上述のように、ユーザが所望する目的変数の範囲である。本実施形態においては、所望範囲は、IV抵抗値について規定されている。該所望範囲は、たとえば、106mΩ以上108mΩ以下の範囲となる。分散部106Bには、初期データBおよび所望範囲Cが入力される。所望範囲Cは、「目的変数の範囲」に対応する。
【0120】
分散部106Bは、L個の候補値組合せ毎に、分散σ、および平均値μを算出する。まず、分散部106Bは、第1目的変数および第2目的変数を規定する。図19は、第1目的変数および第2目的変数を説明するための図である。
【0121】
図19の例では、第1目的変数として、IV抵抗値が示されている。また、図19の例では、第1目的変数の他に、第2目的変数が示されている。第2目的変数は、たとえば、以下の式(13)により定められる。
第2目的変数=log(第1目的変数-所望範囲の中央値) (13)
式(13)の所望範囲の中央値は、“107”である。分散部106Bは、N個の初期データ毎に、たとえば、式(13)を用いて第2目的変数を算出する。
【0122】
分散部106Bは、上記式(1)、(2)を用いて、ガウス過程回帰モデルを更新する。ただし、式(2)の“y”には、所望範囲が適用された目的変数(第1目的変数、または第2目的変数)が入力される。そして、分散部106Bは、上記式(3)、(4)により、分散σを算出する。
【0123】
さらに、分散部106Bは、以下の式(14)により、候補値組合せ毎の上記の第2分布の平均μを算出する。
【0124】
【数8】
【0125】
分散部106Bにより算出された、候補値組合せ毎の平均μおよび分散σは、決定部112に入力される。決定部112は、平均μおよび分散σの差分に基づいて評価値Vを算出する。具体的には、決定部112は、以下の式(15)に基づいて評価値Vを算出する。なお、本実施形態においては、上記式(10)の評価値Vの算出式は用いられない。
【0126】
評価値V=μ-σ (15)
ここで、第2目的変数が小さい候補点が好ましいことから、式(15)の評価値Vが小さい候補点が好ましい候補点となる。決定部112は、L個の候補値組合せから、評価値Vが最少である候補値組合せを提案候補値組合せとして決定する。そして、決定部112は、該提案候補値組合せをユーザに通知する。
【0127】
図20は、第3実施形態の支援装置100Bの処理を示すフローチャートである。まず、ステップS1Cにおいて、支援装置100Bは、分布パラメータA、初期データB、および所望範囲Cが支援装置100に入力されたか否かを判断する。分布パラメータA、初期データB、および所望範囲Cが入力されていない場合には(ステップS1CでNO)、処理は終了する。分布パラメータA、初期データB、および所望範囲Cが入力された場合には(ステップS1CでYES)、処理はステップS2Cに進む。
【0128】
次に、ステップS2Cにおいて、支援装置100は、初期データBおよび所望範囲Cによりガウス過程回帰モデルを学習する(上記式(1)、(2)参照)。上述のように、式(2)の“y”には、第2目的変数が入力される。
【0129】
次に、ステップS4Cにおいて、支援装置100は、上記式(12)の所定分布(多変量正規分布)に基づく確率密度関数に基づいて、L個の候補値組合せを決定する。次に、ステップS6Cにおいて、支援装置100Bは、式(3)、(4)、(14)に基づいて、L個の候補値組合せ毎の分散σおよび平均μを算出する。次に、ステップS30Cにおいて、支援装置100Bは、ユーザ通知処理を実行する。
【0130】
ステップS30Cは、ステップS12Cと、ステップS14Cとを含む。ステップS12Cにおいて、支援装置100Bは、上記の式(15)により、L個の候補値組合せ毎の評価値Vを算出する。次に、ステップS14Cは、支援装置100Bは、評価値Vが最少である候補値組合せを、L個の候補値組合せから選択する。そして、決定部112は、該選択した候補値組合せを提案候補値組合せとして出力する。
【0131】
図21は、第3実施形態のシミュレーション結果である。図21の例では、比較例の結果と、実施例の結果とが示されている。比較例は、上記の一様乱数により候補値が決定された例であり、実施例は、式(12)の確率密度関数g(x)により候補値が決定された例である。
【0132】
上述のように、支援装置により提案された提案値によりユーザは実験を行う。図21の実験回数は、第1目的変数が、所望範囲Cに属するまで行われた実験の回数である。図21の例では、比較例の実験回数は、18回であるのに対し、実施例の実験回数は、16回である。したがって、第1目的変数が、所望範囲Cに属するまで行われた実験回数が、実施例の方が、比較例よりも少ないことから、ユーザによる実験の負担を軽減できる。なお、図21の例では、実施例の帰属確率Pは、比較例の帰属確率Pよりも高いことが示されている。
【0133】
以上、第3実施形態の支援装置100Bは、ユーザから分布パラメータ(図2参照)を取得する。この分布パラメータにより示される所定分布(多変量正規分布)は、説明変数の決定確率Qが規定されている(図18参照)。支援装置100Bは、この所定分布により規定されている決定確率Qに基づいて、候補値を決定する。したがって、比較例の一様乱数により候補値を決定する構成と比較して、候補値の探索範囲が狭くできる。したがって、支援装置100Bは、より適切な候補値を決定できる。
【0134】
また、支援装置100Bは、L個の候補値毎に平均μおよび分散σの差分に基づいて評価値Vを算出する。したがって、ユーザによる所望範囲Cに属する目的変数に対応する説明変数の提案精度を向上できる。具体的には、支援装置100Bは、図21に示す実験回数を低減できる。
【0135】
また、本実施形態においては、説明変数は複数種類(本実施形態においては、4種類)ある。支援装置100Bは、複数種類の説明変数間の相関を示す情報(本実施形態においては、図6の相関行列)を用いて、L個の候補値組合せを決定する。したがって、説明変数が複数種類あったとしても、該複数種類の説明変数を反映させたL個の候補値を決定できる。
【0136】
本実施形態においては、説明変数が正規分布に従うと仮定される前提であった。しかしながら、説明変数が正規分布とは別の所定分布に従うと仮定される前提である場合には、該別の分布に基づいて候補値は決定される。以下に別の所定分布を説明する。図22は、説明変数が1種類である場合の所定分布の一例である。なお、図22、および後述の図23図24の縦軸は、決定確率Qを示し、横軸は説明変数を示す。
【0137】
所定分布は、図22(A)に示すように正規分布であってもよい。また、所定分布は、図22(B)に示すように対数正規分布であってもよい。たとえば、ガラス棒を落下させてガラス棒の破片の大きさを測定する実験において、本実施形態の支援装置が適用される場合には、所定分布として対数正規分布が適用され得る。また、所定分布は、図22(C)に示すように複数のピーク(図22(C)の例では、2つのピーク)を有する分布であってもよい。なお、特に図示しないが、説明変数が複数種類存在する場合には、該複数種類の正規分布を統合した統合分布が所定分布として適用されてもよい。
【0138】
図23は、図22(B)の対数正規分布から正規分布への変換を説明するための図である。図23に示すように、支援装置100Bは、所定分布が対数正規分布場合には、y=logxとして変換することにより、正規分布に変換してもよい。支援装置100Bは、このように正規分布に変換することにより、上述の手法により提案値を決定できる。
【0139】
図24は、離散型確率分布の一例を示す図である。図24(A)は、2項分布を示し、図24(B)は、ポワソン分布を示す。
【0140】
なお、上述した実施形態および変更例について、明細書内で言及されていない組み合わせを含めて、不都合または矛盾が生じない範囲内で、実施形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。
【0141】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0142】
100,100A,100B 支援装置、102 取得部、104 候補部、106 分散部、108 距離部、110 確率部、112 決定部、114 閾値部、162 ROM、182 メモリ、183 インターフェース、200 表示装置、300 予測装置、350 予測モデル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24