(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129949
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】推進システム、制御プログラムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
B63H 21/38 20060101AFI20240920BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B63H21/38 B
B63B25/16 D
B63B25/16 H
B63B25/16 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039372
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】野上 哲男
(72)【発明者】
【氏名】藤原 重治
(72)【発明者】
【氏名】曽我 泰経
(57)【要約】
【課題】液化ガスを燃料として使用するエンジンを用いた船舶において、ドックへの入渠のための航行時に効率よく液化ガスを消費することができる船舶の推進システム、制御プログラムおよび制御方法を提供する。
【解決手段】制御器は、処理回路を含み、処理回路は、船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、船舶の速度、およびタンク内の液化ガス残量についてのデータを取得し、距離および速度を用いて、船舶がドックまでエンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定し、液化ガス残量から必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出し、ドックに到着する前の所定の時点で液化ガス残量が所定のしきい値以下になるようなエンジンに対する回転数指令値を生成し、発電機が余剰液化ガス量に対応するエンジンの駆動力を用いて発電するように、電力変換器が発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯留するタンクと、
前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、
前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、
前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、
前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の推進システムであって、
前記制御器は、処理回路を含み、
前記処理回路は、
前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量についてのデータを取得し、
前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定し、
前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出し、
前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成し、
前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する、推進システム。
【請求項2】
前記処理回路は、
前記回転数指令値を生成した時点以後の所定の船舶位置における前記液化ガス残量のデータを取得し、
前記回転数指令値に基づいて推定される前記船舶位置での推定液化ガス残量を算出し、
前記船舶位置における前記液化ガス残量と前記推定液化ガス残量との差分に基づいて、前記回転数指令値を補正する、請求項1に記載の推進システム。
【請求項3】
前記電力変換器に電気的に接続される蓄電器を備え、
前記蓄電器は、前記発電機から受け取った電力により充電される、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項4】
前記電力変換器に電気的に接続される船内負荷を備え、
前記船内負荷は、前記発電機から受け取った電力により動作する、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項5】
前記エンジンに機械的に接続された推進プロペラを備え、
前記推進プロペラは、翼角指令値に従って翼角を変更可能な可変ピッチプロペラを含み、
前記処理回路は、停船状態において、前記エンジンを駆動し、かつ、前記可変ピッチプロペラを前進側微小角および後進側微小角の間で交互に変化させるように制御することにより、前記停船状態を保持しつつ前記余剰液化ガス量の少なくとも一部を前記エンジンで生じる駆動力により消費させる、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項6】
前記エンジンに機械的に接続された推進プロペラと、
前記推進プロペラの後方または側方に配置された左右一対の舵と、を備え、
前記処理回路は、停船状態において、前記エンジンを駆動し、かつ、前記左右一対の舵を停船位置とした状態で推進プロペラを回転させるように制御することにより、前記停船状態を保持しつつ前記余剰液化ガス量の少なくとも一部を前記エンジンで生じる駆動力により消費させる、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項7】
前記エンジンに機械的に接続された推進プロペラを備え、
前記推進プロペラは、プロペラの回転軸方向を変更可能な複数の旋回式スラスタを含み、
前記処理回路は、停船状態において、前記エンジンを駆動し、かつ、前記複数の旋回式スラスタの回転軸方向を停船状態を保持する方向に制御することにより、前記停船状態を保持しつつ前記余剰液化ガス量の少なくとも一部を前記エンジンで生じる駆動力により消費させる、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項8】
液化ガスを貯留するタンクと、
前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、
前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、
前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、
前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御プログラムであって、
前記制御プログラムは、前記制御器に、
前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量についてのデータを取得すること、
前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定すること、
前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出すること、
前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成すること、および
前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成することを行わせる、制御プログラム。
【請求項9】
液化ガスを貯留するタンクと、
前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、
前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、
前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、
前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御方法であって、
前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量についてのデータを取得し、
前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定し、
前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出し、
前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成し、
前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船舶の推進システム、制御プログラムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス等の液化ガスを気化して燃料として使用するガスエンジンが船舶のエンジンとして用いられる場合がある。例えば、下記特許文献1には、天然ガスと燃料油とを同時に燃料として使用できるデュアルフューエルエンジンが記載されている。
【0003】
特許文献1には、天然ガスを燃料として使用して駆動するガスモードと、燃料油を燃料として使用して駆動する燃料油モードと、天然ガスと燃料油とを同時に燃料として使用して駆動する燃料分配モードとを切り替え可能である構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、天然ガス等の液化ガスを燃料として用いたエンジンを搭載した船舶が、定期的なメンテナンス等のためにドックに入渠する場合、安全性確保のため、液化ガスを貯留するタンクを空にすることが定められている。上記特許文献1には、ドックへの入渠のための航行時に効率よく天然ガスを消費することは開示されておらず、このような観点において改善の余地がある。
【0006】
本開示は上記に鑑みなされたものであり、液化ガスを燃料として使用するエンジンを用いた船舶において、ドックへの入渠のための航行時に効率よく液化ガスを消費することができる船舶の推進システム、制御プログラムおよび制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る推進システムは、液化ガスを貯留するタンクと、前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の推進システムであって、前記制御器は、処理回路を含み、前記処理回路は、前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量についてのデータを取得し、前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定し、前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出し、前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成し、前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する。
【0008】
本開示の他の態様に係る制御プログラムは、液化ガスを貯留するタンクと、前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御プログラムであって、前記制御プログラムは、前記制御器に、前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量についてのデータを取得すること、前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定すること、前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出すること、前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成すること、および前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成することを行わせる。
【0009】
本開示の他の態様に係る制御方法は、液化ガスを貯留するタンクと、前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御方法であって、前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量についてのデータを取得し、前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定し、前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出し、前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成し、前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、液化ガスを燃料として使用するエンジンを用いた船舶において、ドックへの入渠のための航行時に効率よく液化ガスを消費することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施の形態に係る船舶の推進システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態における航行時の液化ガス残量の時間的変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、
図2に示す液化ガス残量の時間的変化に伴う回転数指令値の時間的変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本実施の形態の変形例における航行時の液化ガス残量の時間的変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図4に示す液化ガス残量の時間的変化に伴う回転数指令値の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施の形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本開示の一実施の形態に係る船舶の推進システムの概略構成を示すブロック図である。本実施の形態においては、船舶として、エンジン3および電動発電機4を推進プロペラ2への駆動力の発生源として使用可能なハイブリッド推進船を例示する。
【0014】
本実施の形態における推進システム1は、推進プロペラ2、エンジン3、タンク30、電動発電機4および電力変換システム20を備えている。推進プロペラ2は、翼角指令値に従って翼角を変更可能に構成された可変ピッチプロペラである。
【0015】
タンク30には、液化天然ガス等の液化ガスが貯留される。エンジン3は、タンク30に貯留された液化ガスを気化させた燃料ガスを含む燃料を用いて駆動力を発生させるガスエンジンである。なお、エンジン3は、液化ガスを気化させた燃料ガスを専焼するガス専焼エンジンでもよいし、燃料ガスと、重油等の液体燃料とを切り替えて燃焼可能なデュアルフューエルエンジンでもよい。燃料ガスは、例えば、天然ガス、水素ガス、アンモニアガス等を含み得る。
【0016】
エンジン3および電動発電機4は、減速機5を介して推進プロペラ2に機械的に接続されている。電動発電機4は、電力変換システム20に電気的に接続される。電力変換システム20は、直流配線6および第1電力変換器7を含む。第1電力変換器7は、直流配線6と電動発電機4との間に介装される。電動発電機4は、直流配線6を通じて供給される電力から動力を発生させることにより、推進プロペラ2に動力を伝達可能である。このとき、第1電力変換器7は、直流配線6における直流電圧を交流電圧に変換して、電動発電機4に出力する。さらに、電動発電機4は、エンジン3の駆動力を利用して発電を行い、直流配線6に電力を供給する発電機としても機能する。このとき、第1電力変換器7は、電動発電機4が発電することにより生じた交流電圧を直流電圧に変換して直流配線6に出力する。
【0017】
さらに、電力変換システム20は、第2電力変換器8および第3電力変換器10を含む。直流配線6には、第2電力変換器8を介して蓄電器9が接続される。蓄電器9は、二次電池またはキャパシタ等である。第2電力変換器8は、直流配線6の直流電圧を所定の直流電圧に変換するDC-DCコンバータである。また、直流配線6には、第3電力変換器10を介して交流配線11が接続される。第3電力変換器10は、直流配線6の直流電圧を交流電圧に変換して、交流配線11に出力し、交流配線11の交流電圧を直流電圧に変換して、直流配線6に出力する。交流配線11には、発電機12および交流の船内負荷13が接続され得る。また、直流配線6には、直流の船内負荷が接続され得る。
【0018】
このような推進システム1によれば、機械的推進部であるエンジン3および電気的推進部である電動発電機4との間で協調的に船舶の推進力を発生させることができる。また、推進システム1によれば、エンジン3により生じた推進力の余剰分を電動発電機4により電力として回収し、船内負荷13に電力を供給したり、蓄電器9に蓄電したりすることができる。
【0019】
推進システム1は、左右一対の舵31を備えている。本実施の形態において、左右一対の舵31は、推進プロペラ2の後方に配置されている。これに代えて、左右一対の舵31は、推進プロペラ2の両側方に配置されてもよい。
【0020】
推進システム1は、制御器14を備えている。制御器14は、各種の信号処理を行う処理回路15を備えている。処理回路15は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ、PLC(Programmable Logic Controller)等のコンピュータを有する。より具体的には、処理回路15は、プロセッサ、記憶器および周辺回路を含む。プロセッサは、例えば、CPUまたはMPU等を含む。記憶器は、ROM、RAM、レジスタ、不揮発性のストレージ等を含む。周辺回路は、入出力インターフェイス等を含む。制御器14は、船舶を操作する操作入力器16に接続される。制御器14は、制御状態を表示するモニタまたは音声出力を行うスピーカ等に接続されてもよい。
【0021】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本明細書において、回路、ユニット、手段、または部は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、ユニット、または手段はハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0022】
制御器14の記憶器には、制御対象を制御するための制御プログラムが記憶される。制御器14は、制御プログラムに基づいて制御対象を制御する。制御器14の制御対象は、推進プロペラ2、エンジン3、および第1電力変換器7を含む。制御器14は、これらの構成2,3,7を制御する1つの制御器として構成されてもよいし、2以上の制御器により構成されてもよい。また、制御器14は、他の電力変換器8,10、発電機12、左右一対の舵31、または、船内負荷13を制御可能に構成されてもよい。
【0023】
制御器14は、翼角指令値に基づいて可変ピッチプロペラである推進プロペラ2の翼角を制御する。翼角指令値は、操作入力器16から入力される。操作入力器16は、例えば、船舶の速度調整および前進と後進との切り替えを操作するための操作レバーまたは操作ハンドルを含み得る。例えば、操作レバーは、第1方向に最大量操作した位置が前進側の最大船速に対応し、第1方向とは反対の第2方向に最大量操作した位置が後進側の最大船速に対応し、中立位置が船速0に対応するように構成されている。
【0024】
操作入力器16は、操作レバーの操作位置に対応する船舶速度が速いほど翼角が大きくなるような翼角指令値を生成する。例えば、操作レバーが第1方向の位置にある場合には、正の翼角となる翼角指令値が生成され、操作レバーが第2方向の位置にある場合には、負の翼角となる翼角指令値が生成される。
【0025】
なお、本実施の形態において、推進システム1は、推進プロペラ2の翼角を検出する翼角センサ17を備えている。制御器14は、翼角センサ17が検出する値を取得し、推進プロペラ2の翼角が翼角指令値になるようにフィードバック制御を行う。
【0026】
さらに、制御器14は、回転数指令値に従ってエンジン3の回転数を制御する。回転数指令値は、制御モードに応じて、固定値として設定されてもよいし、操作入力器16によって変更可能な値に設定されてもよいし、後述するように、制御器14により生成されてもよい。制御器14は、エンジン3の回転数が回転数指令値に対応する回転数を維持するように、エンジン3を制御する。
【0027】
さらに、制御器14は、電力変換指令値に従って第1電力変換器7を制御する。例えば、制御器14は、航行時における通常の制御モードにおいて、電動発電機4で所定の電力を発電し、直流配線6に供給するように制御する。本実施の形態では、通常の航行時における第1電力変換器7に対する制御モードを、第1制御モードと称する。第1制御モードでは、電動発電機4は常時発電を行う。このため、エンジン3に対する回転数指令値は、推進プロペラ2で発生する出力より大きな出力を発生するような回転数に設定される。
【0028】
第1制御モードにおいて、第1電力変換器7から直流配線6に供給された電力は、第3電力変換器10を介して交流配線11に供給され、船内負荷13に供給される。余剰の電力は、第2電力変換器8を介して蓄電器9に供給され、蓄電器9に蓄えられる。第1制御モードにおいて電動発電機4が発電する電力量は、これらの直流配線6で利用される電力量の総和および発電機12で発電される電力量に基づいて定められる。すなわち、直流配線6における電力の不足分を補うように電動発電機4で発電された電力が直流配線6に供給される。
【0029】
蓄電器9の充電率が所定値以上である場合、制御器14は、蓄電器9に蓄えられた電力を船内負荷13または電動発電機4に供給するように第2電力変換器8を制御し得る。この場合、制御器14は、電動発電機4から直流配線6に供給される電力を第1制御モード時より低減させる、または、直流配線6から電動発電機4に供給する制御を行う。
【0030】
本実施の形態では、蓄電器9の放電時における第1電力変換器7に対する制御モードを、第2制御モードと称する。第2制御モードは、エンジン3の駆動力と電動発電機4の駆動力とで推進力を発生させるハイブリッドモードである。
【0031】
船舶は、メンテナンス等のために、定期的に予め定められたドックに入渠する必要がある。この場合、安全性確保のため、ドックへの入渠時には、液化ガスを貯留するタンク30を空にする、いわゆる、ガスフリーにすることが定められている。一般的に、燃料ガスを含む燃料を用いて駆動力を発生させるガスエンジンを備えた船舶には液化ガスを燃焼させるガス燃焼装置が搭載されている。しかし、ガス燃焼装置は時間当たりに焼却できるガス量が限定的であり、タンク30内に液化ガスが多く残存する場合、ドック到着後に一定の処理時間がかかることが問題となる。
【0032】
本実施の形態では、第1電力変換器7に対する制御モードは、上記第1制御モードおよび第2制御モードに加えて、船舶がドックに入渠するための航行時に用いられる第3制御モードを含んでいる。操作入力器16は、第3制御モードの実行を開始するための切り替えボタン等の入力操作子を含む。第3制御モードの実行開始は、ドックへ向けての出港前または出港時であってもよいし、航行中であってもよい。
【0033】
制御器14の処理回路15は、操作入力器16を操作することによる第3制御モードの実行指令を受けた場合に、第3制御モードの実行を開始する。まず、処理回路15は、船舶の位置から入居先のドックまでの距離、船舶の速度、およびタンク30内の液化ガス残量Qtについてのデータを取得する。
【0034】
船舶の位置は、GPS等の全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を用いた船舶位置情報から取得される。なお、船舶の位置は、船舶の現在位置でなくてもよい。例えば、操作入力器16によりユーザが指定した位置が船舶の位置に設定されてもよい。船舶の速度は、対水速度計、方位計および風向風速計等を用いた船舶速度情報から取得される。なお、船舶の速度は、船舶の現在の速度でなくてもよい。例えば、船舶の速度として、当該船舶において想定される航行速度の推定値が用いられてもよい。航行速度の推定値は、予め記憶器に記憶されていてもよいし、操作入力器16により、ユーザが入力可能としてもよい。
【0035】
液化ガス残量Qtは、タンク30に設置されたレベルセンサ32により検出された検出値から取得される。入渠先のドックの位置は、予め記憶器に記憶されている。複数のドックの位置が記憶された地図データが予め記憶器に記憶され、操作入力器16により、何れのドックに入渠するかをユーザの操作入力により選択可能としてもよい。なお、液化ガス残量Qtは、タンク30に貯留された液化ガスの現在の残量でなくてもよい。例えば、操作入力器16によりユーザが指定した量が液化ガス残量Qtとして設定されてもよい。
【0036】
処理回路15は、船舶の位置および入渠先のドックの位置との間の距離を算出する。以下では、算出した距離を到達距離と称する。処理回路15は、到達距離および船舶の速度を用いて、船舶がドックまでエンジン3で航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量Qiを推定する。
【0037】
例えば、必要液化ガス量Qiは、取得した船舶の速度における単位距離当たりの燃料ガスの消費量に、到達距離を掛けた値として算出され得る。到達距離を、等速で航行する区間の第1距離と減速する区間の第2距離とで分けて、取得した船舶の速度における単位距離当たりの燃料ガスの消費量に第1距離を掛けた値と、第2距離において減速に要する燃料ガスの消費量とを加算した値が、必要液化ガス量Qiとして算出されてもよい。また、予定航路における航行条件を考慮して必要液化ガス量Qiが算出されてもよい。例えば、航行条件は、海峡等の特定区間を通過する際の制限速度、天候、波高等を含み得る。
【0038】
処理回路15は、液化ガス残量Qtから必要液化ガス量Qiを差し引いた余剰液化ガス量Qsを算出する。算出される余剰液化ガス量Qsは、ドックに入渠するまでに船舶の推進力として消費される液化ガスとは別に消費しなければならない液化ガス量を意味する。処理回路15は、ドックに到着したときに液化ガス残量Qtが所定のしきい値Th1以下になるようなエンジン3に対する回転数指令値Rtを生成する。
【0039】
図2は、本実施の形態における航行時の液化ガス残量の時間的変化を示すグラフである。
図3は、
図2に示す液化ガス残量の時間的変化に伴う回転数指令値の時間的変化を示すグラフである。
図2および
図3のグラフにおいて、時刻t0が船舶の位置、すなわち、第3制御モードの開始時点を示し、時刻t1がドックに到着する時刻を示す。ガスフリーを達成するために、時刻t0から時刻t1までの間に液化ガス残量Qtをしきい値Th1以下にする必要がある。
【0040】
本例において、時刻t0から時刻t2までは、船舶は、船舶の現在の速度を維持し、時刻t2から減速する。本実施の形態において、推進システム1は、上記の通り、推進プロペラ2として可変ピッチプロペラを備えている。すなわち、船舶の航行中における推進力の変更は、推進プロペラ2の翼角を変更することで行われる。そのため、仮に、電動発電機4を動作させない状態で、かつ、エンジン3の駆動力を船舶の推進力のみに利用する場合のエンジン3の回転数指令値Riは、
図3に示すように、時刻t0から時刻t2までの定速航行期間において一定の値に設定される。
【0041】
時刻t0から時刻t1に達する直前にエンジン3を停止させるまでの減速期間において、上記仮の回転数指令値Riは、漸減する。なお、これに代えて、仮の回転数指令値Riは、階段状に減少してもよい。また、推進プロペラ2の翼角の変化のみで船舶が停止するまで減速する場合には、仮の回転数指令値Riは時刻t2における値から変化しないような制御も可能である。
【0042】
図3の例に示す仮の回転数指令値Riの推移に対応して、
図2に示すように、必要液化ガス量Qiが時間経過に応じて減少する。すなわち、時刻t0から時刻t2までの定速航行期間において単位時間あたりの液化ガスの消費量が一定であるため、必要液化ガス量Qiは、直線的に減少する。時刻t2からの減速期間においては仮の回転数指令値Riが減少することにより、単位時間あたりの液化ガスの消費量が減少するため、必要液化ガス量Qiの減少量は、定速航行期間に比べて緩やかになる。
【0043】
時刻t0における液化ガス残量Qtが必要液化ガス量Qiより大きい場合、液化ガス残量Qtから必要液化ガス量Qiを差し引いた余剰液化ガス量Qsを時刻t1までに船舶の推進力とは別に消費する必要がある。そのため、処理回路15は、ドックに到着したときに液化ガス残量Qtが所定のしきい値Th1以下になるようなエンジン3に対する回転数指令値Rtを生成する。すなわち、時刻t0における液化ガス残量Qtが必要液化ガス量Qiより大きい場合、第3制御モードにおける実際の回転数指令値Rtは、
図3に示すように、船舶の推進力を発生させるための上記仮の回転数指令値Riより大きい値となる。
【0044】
船舶のエンジン3は、頻繁な回転数変動に対する応答性が高くないため、定速航行期間における回転数指令値Rtも仮の回転数指令値Riと同様に一定の値に設定される。時刻t2からの減速期間においては、回転数指令値Rtが時刻t1までに液化ガス残量Qtがしきい値Th1以下になるように設定される。
図3の例では、回転数指令値Rtが単調減少するように設定されるが、減速期間における回転数指令値Rtが、一定の値となるように設定されてもよいし、定速航行期間より増加した値となるように設定されてもよい。
【0045】
また、余剰液化ガス量Qsが時刻t1に達する前にしきい値Th1以下または0になるように回転数指令値Rtが設定されてもよい。すなわち、時刻t0と時刻t1との間において液化ガス残量Qtが必要液化ガス量Qiに一致してもよい。ただし、必要液化ガス量Qiはあくまで推定値であるので、ドックに到着する前に液化ガスがなくなり得る回転数指令値Rtの設定は、電動発電機4等による他の推力発生手段を備えた推進システム1の場合に採用することができる。
【0046】
このようにして設定された回転数指令値Rtに基づくエンジン3の駆動力は、船舶の推進力と、発電用の駆動力とに分配される。すなわち、余剰液化ガス量Qsは、発電を行うことによって消費される。このために、処理回路15は、電動発電機4が余剰液化ガス量Qsに対応するエンジン3の駆動力を用いて発電するように、第1電力変換器7が電動発電機4から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する。
【0047】
これにより、余剰液化ガス量Qsは、エンジン3および電動発電機4により電力に変換される。第1電力変換器7は、電動発電機4から供給された電力を直流に変換する。余剰液化ガス量Qsを用いて発電された電力は、直流配線6に第2電力変換器8を介して接続される第2電力変換器8により蓄電器9に充電される。蓄電器9に蓄えられた電力は、例えば、ドック入渠後における船内電源として用いられる。
【0048】
また、余剰液化ガス量Qsを用いて発電された電力は、直流配線6に第3電力変換器10を介して接続された交流配線11に供給され、交流配線11に接続される船内負荷13が動作することにより消費されてもよい。この場合、制御器14は、交流配線11に接続される発電機12の発電量を減らす、または、停止させるように制御してもよい。船内負荷13は、例えば液化ガスを気化するために利用される蒸気を生成する電気ボイラ等を含む。また、船舶が船内負荷13として電動の可変ピッチプロペラを用いたサイドスラスタを備えている場合には、可変ピッチプロペラの翼角を中立位置にした状態で可変ピッチプロペラを回転させることにより、電力が消費されてもよい。
【0049】
このように、本実施の形態では、ドックに入渠するための船舶の航行時において、ドックに達する時点で液化ガス残量がなくなるようにエンジンの回転数指令値が制御されることにより、液化ガス残量Qtを考慮して、エンジン3で液化ガスが消費される。その上で、エンジン3で発生した駆動力のうち、船舶の推進力として用いられる駆動力を除いた余剰の駆動力が電動発電機4による発電に用いられる。例えば、第1制御モードにおける航行時よりも単位時間あたりの発電量を多くすることにより、単位時間あたりの液化ガスの消費量を多くする。これにより、ドックへ向かう航行中に発電を行いながら効率よく液化ガスを消費することができる。
【0050】
第3制御モードによる航行の結果、ドックの入渠直前、すなわち、時刻t1直前の状態で、実際の液化ガス残量Qtは、0になっているとは限らない。ドックに到着するまで船舶がエンジン3の駆動力を用いて航行するために、液化ガス残量Qtのしきい値Th1が0より大きい値に設定され得るからである。また、必要液化ガス量Qiは、推定値であるため、実際にドックに到着するまでに船舶の推進力を発生させるために必要となる液化ガス量は、実際の航行環境等に応じて変化し得る。また、必要液化ガス量Qi自体もある程度のマージンを含めた値に設定され得る。
【0051】
そこで、ドックの入渠前、例えば、ドックのある港の湾内に船舶が進入した場合等において、必要液化ガス量Qiがタンク30に残っている場合に、処理回路15は、船舶を停船状態としつつ、エンジン3を駆動させることにより液化ガスを消費させるような制御指令を生成する。
【0052】
例えば、処理回路15は、推進プロペラ2への動力伝達を行わずに、エンジン3の駆動力を電動発電機4における発電に用いることにより液化ガスを消費させるような制御指令を生成し得る。発電された電力は、上記と同様に、蓄電器9に充電される、または、船内負荷13の電源として利用される。
【0053】
これに代えて、または、これに加えて、処理回路15は、エンジン3の駆動力により推進プロペラ2を回転させることで液化ガスを消費させるような制御指令を生成してもよい。
【0054】
例えば、処理回路15は、停船状態において、エンジン3を駆動し、かつ、可変ピッチプロペラである推進プロペラ2を前進側微小角および後進側微小角の間で交互に変化させるように制御する。これにより、停船状態を保持しつつ余剰液化ガス量Qsの少なくとも一部をエンジン3で生じる駆動力により消費させる。
【0055】
また、例えば、処理回路15は、停船状態において、エンジン3を駆動し、かつ、左右一対の舵31を停船位置とした状態で推進プロペラ2を回転させるように制御する。これによっても、停船状態を保持しつつ余剰液化ガス量Qsの少なくとも一部をエンジン3で生じる駆動力により消費させる。
【0056】
また、本実施の形態の推進プロペラ2および舵31の構成に代えて、プロペラの回転軸方向を変更可能な複数の旋回式スラスタを備えている場合、処理回路15は、停船状態において、エンジン3を駆動し、かつ、複数の旋回式スラスタの回転軸方向を停船状態を保持する方向に制御してもよい。すなわち、複数の旋回式スラスタが互いの推力を相殺するように動作することにより、推進プロペラ2が駆動されながら、船舶の停止状態が保持される。これによっても、停船状態を保持しつつ余剰液化ガス量Qsの少なくとも一部をエンジン3で生じる駆動力により消費させ得る。
【0057】
本実施の形態によれば、航行時において予め液化ガス残量Qtを考慮した回転数指令値に基づいてエンジン3が駆動することにより、液化ガスが効率的に消費されるため、停船状態における液化ガスの消費量および液化ガス残量Qtを0にするまでの時間を短縮することができる。したがって、環境負荷の低い船舶を実現することができる。
【0058】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0059】
[他の実施の形態]
例えば、処理回路15は、上記実施の形態に従って回転数指令値Rtを生成した時点以後の所定の船舶位置における実際の液化ガス残量Qtの減り具合に応じて回転数指令値Rtを補正してもよい。
【0060】
図4は、本実施の形態の変形例における航行時の液化ガス残量の時間的変化を示すグラフである。
図5は、
図4に示す液化ガス残量の時間的変化に伴う回転数指令値の時間的変化を示すグラフである。
図2および
図3のグラフと同様に、
図4および
図5のグラフにおいて、時刻t0の時点で回転数指令値Rtが生成され、第3制御モードが開始される。
【0061】
処理回路15は、回転数指令値Rtを生成した時点である時刻t0以後の所定の船舶位置Paにおける液化ガス残量Qtaaのデータを取得する。所定の船舶位置Paは、時刻t0からの経過時間によって定められてもよいし、時刻t0における船舶の位置からの距離によって定められてもよいし、時刻t0における船舶の位置からドックまでの航路上に設定されたウェイポイントであってもよい。
図4および
図5において、船舶が船舶位置Paに到達したときの時刻がtPaとして示されている。
【0062】
処理回路15は、回転数指令値Rtに基づいて推定される船舶位置Paでの推定液化ガス残量Qtaeを算出する。推定液化ガス残量Qtaeは、回転数指令値をRtとしたときの液化ガス残量Qtの時間的変化の推定値を示す関数と時刻t0から船舶位置Paに到達するまでの時間とに基づいて算出される。すなわち、
図4におけるグラフVtにおいて時刻tPaのときの液化ガス残量が推定液化ガス残量Qtaeとなる。
【0063】
処理回路15は、船舶位置Paにおける実際の液化ガス残量Qtaaと推定液化ガス残量Qtaeとの差分を算出する。
図4の例においては、推定液化ガス残量Qtaeより実際の液化ガス残量Qtaaの方が多くなっている。すなわち、船舶位置Paにおいて予想より液化ガスが多く残っていると判定される。処理回路15は、船舶位置Paにおける実際の液化ガス残量Qtaaと推定液化ガス残量Qtaeとの差分に基づいて回転数指令値Qtを補正し得る。
図5に示すように、船舶位置Paにおいて、処理回路15は、単位時間あたりの液化ガス消費量を増加させるべく、元の回転数指令値Rtより高い回転数指令値Rtaに補正する。さらに、処理回路15は、補正後の回転数指令値Rtaに基づいて電力変換器指令値を補正する。
【0064】
処理回路15は、元の回転数指令値Rtに所定の係数をかけるまたは改めて上記実施の形態に示したように回転数指令値Rtaを算出する等によって回転数指令値を補正する。
【0065】
所定の船舶位置は、複数設定され得る。本変形例は、第3制御モードの開始後、2つの船舶位置として定められる第1船舶位置Paおよび第2船舶位置Pbで回転数指令値Rtの見直しが行われる。処理回路15は、第2船舶位置Pbにおいても、第1船舶位置Paと同様に、第2船舶位置Pbにおける液化ガス残量Qtbaのデータを取得する。また、処理回路15は、回転数指令値Rtaに基づいて推定される第2船舶位置Pbでの推定液化ガス残量Qtbeを算出する。
【0066】
推定液化ガス残量Qtbeは、回転数指令値をRtaとしたときの液化ガス残量Qtの時間的変化の推定値を示す関数と第1船舶位置Paにおける時刻tPaから時刻tPbに第2船舶位置Pbに到達するまでの時間とに基づいて算出される。すなわち、
図4におけるグラフVtaにおいて時刻tPbのときの液化ガス残量が推定液化ガス残量Qtbeとなる。処理回路15は、第2船舶位置Pbにおける実際の液化ガス残量Qtbaと推定液化ガス残量Qtbeとの差分に基づいて回転数指令値Qtaを補正し得る。
【0067】
図4の例においては、推定液化ガス残量Qtbeより実際の液化ガス残量Qtbaの方が少なくなっている。すなわち、第2船舶位置Pbにおいて予想より液化ガスが多く消費されていると判定される。本変形例において、処理回路15は、
図5に示すように、単位時間あたりの液化ガス消費量を減少させるべく、元の回転数指令値Rtaより低い回転数指令値Rtbに補正する。さらに、処理回路15は、補正後の回転数指令値Rtbに基づいて電力変換器指令値を補正する。
【0068】
これによれば、回転数指令値Rt生成後において実際の液化ガス残量Qtの減り具合に応じて回転数指令値Rtが補正される。このため、回転数指令値Rt生成後の船舶の実際の運航状態が変化しても過不足のない液化ガスの消費を実現することができる。
【0069】
なお、処理回路15は、船舶位置Pa,Pbにおける実際の液化ガス残量Qtaa,Qtbaと推定液化ガス残量Qtae,Qtbeとの差分の大きさが所定の基準値以上である場合に回転数指令値Rtを補正し、差分の大きさが所定の基準値未満の場合、回転数指令値Rtの補正を行わないようにしてもよい。また、本変形例では、時刻t0から時刻t2までの定速航行期間における船舶位置Pa,Pbにおいて回転数指令値Rtが補正される態様を例示したが、時刻t2から時刻t1までの減速期間において回転数指令値Rtが補正されてもよい。
【0070】
また、上記実施の形態においては、船舶として、エンジン3および電動発電機4を推進プロペラ2への駆動力として使用可能なハイブリッド推進船を例示したが、これに限られない。すなわち、本開示の態様は、エンジン3として液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動するエンジンを備えた推進システム1に適用可能である。そのため、推進システムは、推進プロペラ2への駆動力を発生する電動発電機4を備えていなくてもよい。この場合、推進システムは、エンジン3の駆動力を利用して発電可能な発電機を備えていればよい。
【0071】
また、上記実施の形態において、船舶内の制御器14が第3制御モードにおける各種演算を行う処理回路15を備えた態様を例示したが、処理回路15は、船舶の外部において構成されてもよい。例えば、陸上に設置された管理装置と船舶とが通信可能に構成され、管理装置が船舶の推進システム1を構成する制御器14の一部として第3制御モードにおける各種演算を行う処理回路15を備えてもよい。
【0072】
また、上記実施の形態において、エンジン3の回転数指令値を生成するための基準となる液化ガス残量Qtのしきい値は、ドックに到着する直前の液化ガス残量Qtの値、すなわち、時刻t1におけるしきい値Th1として設定されている例を示したが、しきい値以下にすべき時点は、ドックに到着する前の所定の時点であれば、何れの時期でもよい。例えば、しきい値以下にすべき時点が、定速航行期間の終了時点である時刻t2に設定されてもよい。すなわち、処理回路15は、時刻t2の時点で液化ガス残量Qtがしきい値Th2以下になるようなエンジン3に対する回転数指令値を生成してもよい。また、例えば、操作入力器16によりしきい値Th1を設定する位置座標、ドックとの距離またはドック到着時を基準とする時間をユーザが入力可能とし、当該入力した内容に基づいてしきい値Th1以下にすべき時点が設定されてもよい。
【0073】
ただし、しきい値Th1以下にすべき時点をドックに到着する前の所定の時点に設定する場合、しきい値Th1以下にすべき時点における位置とドックの位置との間において船舶が液化ガスを消費することによる航行以外の航行能力を有することが望ましい。すなわち、電動発電機4を備えたハイブリッド推進船またはエンジン3がデュアルフューエルエンジンである場合に、しきい値Th1以下にすべき時点をドックに到着する前の所定の時点に設定してもよい。なお、タグボート、牽引ロープ等の外部の作用によりドックに到着可能な範囲であれば、液化ガスを消費することによる航行以外の航行能力を有しない船舶に対しても、しきい値Th1以下にすべき時点をドックに到着する前の時点に設定可能である。
【0074】
また、上記実施の形態においては、ハイブリッド推進船として、エンジン3および電動発電機4が減速機5を介して推進プロペラ2に並列に接続される構成を例示したが、エンジン3の駆動力を用いて電動発電機4が発電可能である構成であれば、エンジン3および電動発電機4の駆動力を推進プロペラ2に伝達する機構はどのような構成でもよい。
【0075】
[本開示のまとめ]
[項目1]
本開示の一態様に係る推進システムは、液化ガスを貯留するタンクと、前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の推進システムであって、前記制御器は、処理回路を含み、前記処理回路は、前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量を取得し、前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定し、前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出し、前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成し、前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する。
【0076】
上記構成によれば、ドックに入渠するための船舶の航行時において、ドックに達する時点で液化ガス残量がなくなるようにエンジンの回転数指令値が制御されることにより、エンジンで液化ガスが消費される。その上で、エンジンで発生した駆動力のうち、船舶の推進力として用いられる駆動力を除いた余剰の駆動力が発電機による発電に用いられる。これにより、ドックへ向かう航行中に発電を行いながら効率よく液化ガスを消費することができる。
【0077】
[項目2]
項目1の推進システムにおいて、前記処理回路は、前記回転数指令値を生成した時点以後の所定の船舶位置における前記液化ガス残量のデータを取得し、前記回転数指令値に基づいて推定される前記船舶位置での推定液化ガス残量を算出し、前記船舶位置における前記液化ガス残量と前記推定液化ガス残量との差分に基づいて、前記回転数指令値を補正してもよい。これによれば、回転数指令値生成後において実際の液化ガス残量の減り具合に応じて回転数指令値が補正される。このため、回転数指令値生成後の船舶の実際の運航状態が変化しても過不足のない液化ガスの消費を実現することができる。
【0078】
[項目3]
項目1または2の推進システムは、前記電力変換器に電気的に接続される蓄電器を備え、前記蓄電器は、前記発電機から受け取った電力により充電されてもよい。
【0079】
[項目4]
項目1から3の何れかの推進システムは、前記電力変換器に電気的に接続される船内負荷を備え、前記船内負荷は、前記発電機から受け取った電力により動作してもよい。
【0080】
[項目5]
項目1から4の何れかの推進システムは、前記エンジンに機械的に接続された推進プロペラを備え、前記推進プロペラは、前記エンジンに機械的に接続され、翼角指令値に従って翼角を変更可能な可変ピッチプロペラを含み、前記処理回路は、停船状態において、前記エンジンを駆動し、かつ、前記可変ピッチプロペラを前進側微小角および後進側微小角の間で交互に変化させるように制御することにより、前記停船状態を保持しつつ前記余剰液化ガス量の少なくとも一部を前記エンジンで生じる駆動力により消費させてもよい。これによれば、ドックに近づいた段階で液化ガス残量が残っていても船舶を停止した状態で液化ガスを迅速に消費することができる。
【0081】
[項目6]
項目1から5の何れかの推進システムは、前記エンジンに機械的に接続された推進プロペラと、前記推進プロペラの後方または側方に配置された左右一対の舵と、を備え、
前記処理回路は、停船状態において、前記エンジンを駆動し、かつ、前記左右一対の舵を停船位置とした状態で推進プロペラを回転させるように制御することにより、前記停船状態を保持しつつ前記余剰液化ガス量の少なくとも一部を前記エンジンで生じる駆動力により消費させてもよい。
【0082】
[項目7]
項目1から4の何れかの推進システムは、前記エンジンに機械的に接続された推進プロペラを備え、前記推進プロペラは、プロペラの回転軸方向を変更可能な複数の旋回式スラスタを含み、前記処理回路は、停船状態において、前記エンジンを駆動し、かつ、前記複数の旋回式スラスタの回転軸方向を停船状態を保持する方向に制御することにより、前記停船状態を保持しつつ前記余剰液化ガス量の少なくとも一部を前記エンジンで生じる駆動力により消費させてもよい。
【0083】
[項目8]
本開示の他の態様に係る制御プログラムは、液化ガスを貯留するタンクと、前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御プログラムであって、前記制御プログラムは、前記制御器に、前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量を取得すること、前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定すること、前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出すること、前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成すること、および前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成することを行わせる。
【0084】
[項目9]
本開示の他の態様に係る制御方法は、液化ガスを貯留するタンクと、前記液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料で駆動し、回転数指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御方法であって、前記船舶の位置から入渠先のドックまでの距離、前記船舶の速度、および前記タンク内の液化ガス残量を取得し、前記距離および前記速度を用いて、前記船舶が前記ドックまで前記エンジンで航行するために必要な液化ガスの量を示す必要液化ガス量を推定し、前記液化ガス残量から前記必要液化ガス量を差し引いた余剰液化ガス量を算出し、前記ドックに到着する前の所定の時点で前記液化ガス残量が所定のしきい値以下になるような前記エンジンに対する前記回転数指令値を生成し、前記発電機が前記余剰液化ガス量に対応する前記エンジンの駆動力を用いて発電するように、前記電力変換器が前記発電機から受け取る電力を制御するための電力変換器指令値を生成する。
【符号の説明】
【0085】
1 推進システム
2 推進プロペラ
3 エンジン
4 電動発電機(発電機)
7 第1電力変換器(電力変換器)
9 蓄電器
13 船内負荷
14 制御器
15 処理回路
30 タンク
31 舵