(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129952
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039376
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木田 梨歩
(72)【発明者】
【氏名】柴田 祐貴
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE04
5H031HH01
5H031HH06
5H031RR01
5H031RR04
(57)【要約】
【課題】不活性化機能をより良好にする。
【解決手段】不活性化剤は、非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、酸化還元電位がLi基準電位で非水系二次電池の負極活物質よりも高く非水系二次電池の正極活物質よりも低くオルトキノン構造を有するオルトキノン系化合物であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低くオルトキノン構造を有するオルトキノン系化合物であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む、
非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項2】
前記レドックスシャトル剤は、1,2-ナフトキノン構造を有する、請求項1に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項3】
前記レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造の芳香環を形成する炭素原子のうち1以上に電子求引基が結合した構造を有する、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項4】
前記レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造の芳香環を形成する炭素原子のうち1以上にスルホン酸基が結合した構造を有する、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項5】
前記レドックスシャトル剤は、金属塩である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項6】
前記レドックスシャトル剤は、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸ナトリウムである、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項7】
前記レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で3V以上である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項8】
前記非水系溶媒は、スルホキシド系化合物である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項9】
前記レドックスシャトル剤を0.01mol/L以上0.4mol/L以下の範囲で含む、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項10】
前記非水系二次電池の内部に、請求項1又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤を添加する添加工程、を含む、
非水系二次電池の不活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際に、回収電池を不活性化させる不活性化処理が行われている。こうした処理として、例えば、回収電池を充放電装置につないで0Vまで放電させる処理が可能であるが、その場合、放電に時間がかかることがあった。また、回収電池が電流遮断機構(CID)作動後の電池である場合には、放電させること自体ができなかった。そこで、本発明者らは、回収電池の内部に、パラキノン類縁体やフェノチアジン類縁体などのレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む不活性化剤を添加することを提案している(例えば、特許文献1,2参照)。これにより、充放電装置を用いることなく、安全かつ迅速に非水系二次電池の電池電圧を0V付近まで下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-108831号公報
【特許文献2】特開2022-73888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2の不活性化剤を用いると、非水系二次電池の不活性化を図ることができるが、例えば、より迅速に電池電圧を下げたり、不活性化後の電池電圧をより低減させるなど、不活性化機能をより良好にすることが望まれていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、不活性化機能をより良好にすることのできる非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、酸化還元電位がLi基準電位で負極活物質よりも高く正極活物質よりも低くオルトキノン構造を有する化合物であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む不活性化剤を非水系二次電池の内部に添加すると、不活性化がより良好に進行することを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の非水系二次電池の不活性化剤は、
非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低くオルトキノン構造を有する化合物であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む、
ものである。
【0008】
また、本開示の非水系二次電池の不活性化方法は、
前記非水系二次電池の内部に、上述の非水系二次電池の不活性化剤を添加する添加工程、を含む、
ものである。
【発明の効果】
【0009】
この非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法では、非水系二次電池を不活性化する際に、不活性化機能をより良好にすることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。充電状態の非水系二次電池に、酸化還元電位がLi基準電位で正極電位より低く負極電位より高いレドックスシャトル剤を添加すると、正極及び負極とレドックスシャトル剤との電位差を駆動力として、電池の放電が進行し、電池の不活性化を図ることができる。さらに本開示では、レドックスシャトル剤としてオルトキノン系化合物を用いるが、この化合物は、負極表面で還元されてラジカルアニオン又はジアニオンとなった際に、隣り合う2つのケトン基の酸素とリチウムイオンとが配位構造を形成することにより安定化される。その結果、レドックスシャトル剤の還元体であるラジカルアニオンやジアニオンの、分解や二量体の形成等といった副反応が抑制され、不活性化がより良好に進行すると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】非水系二次電池20の構成の概略を表す断面図。
【
図2】非水系二次電池が不活性化するメカニズムを示す説明図。
【
図3】レドックスシャトル剤の酸化還元反応の一例を示す説明図。
【
図4】実験例1~5のサイクリックボルタンメトリー測定結果。
【
図5】実験例6、8、11の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示すグラフ。
【
図6】実験例7、9、12の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示すグラフ。
【
図7】実験例6、13の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示すグラフ。
【
図8】実験例6、10の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の非水系二次電池の不活性化剤は、非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、酸化還元電位がLi基準電位で負極活物質よりも高く正極活物質よりも低くオルトキノン構造を有するオルトキノン系化合物であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含むものである。本明細書において、レドックスシャトル剤とは、正極と負極との間で電荷を繰り返し輸送することができる、酸化及び還元可能な化合物を指す。
【0012】
[非水系二次電池]
まず、不活性化の対象となる非水系二次電池について説明する。非水系二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導する非水系のイオン伝導媒体と、を備えている。キャリアイオンとしては、例えば、第1族元素イオンや第2族元素イオンが挙げられる。第1族元素イオンとしては、例えば、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。第2族元素イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが挙げられる。以下では、説明の便宜のため、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について主に説明する。
【0013】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、Li基準の酸化還元電位が不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤よりも高いものであればよいが、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V超過のものとしてもよく、3.5V以上のものが好ましく、3.8V以上のものがより好ましく、4.0V以上のものがさらに好ましい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn2O4などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、Li(1-x)NiaMnbO2(a+b=1)やLi(1-x)NiaMnbO4(a+b=2)などのリチウムニッケルマンガン複合酸化物、Li(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、LiV2O3などのリチウムバナジウム複合酸化物、V2O5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnPO4などのオリビン型リチウムリン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などのオリビン型リチウムリン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などのオリビン型リチウムリン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnVO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。正極活物質は、ニッケル、マンガン、コバルトのうちの1以上を含む酸化物であることが好ましく、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。
【0014】
正極の導電材としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などを用いることができる。結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0015】
負極は、例えば、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよいし、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよい。負極活物質は、Li基準の酸化還元電位が不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤よりも低いものであればよいが、酸化還元電位がLi基準電位で1.5V未満のものが好ましく、1.0V以下のものがより好ましく、0.5V以下のものがさらに好ましい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、Li4Ti5O12などのリチウムチタン複合酸化物やLiV2O3などのリチウムバナジウム複合酸化物が挙げられる。負極活物質としては、このうち、グラファイト類などの炭素質材料が好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0016】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、例えば、カーボネート化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、フラン化合物、スルホラン化合物及びジオキソラン化合物などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート化合物としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート化合物などが挙げられる。また、エステル化合物としてγ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル化合物、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル化合物などが挙げられる。また、エーテル化合物としてジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどが挙げられ、ニトリル化合物としてアセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられ、アミド化合物としてジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、フラン化合物としてテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどが挙げられ、スルホラン化合物としてスルホラン、テトラメチルスルホランなどが挙げられ、オキソラン化合物として1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどが挙げられる。これらは単独又は混合して用いることができる。このうち、非水系電解液の溶媒としては、例えば、DMC-ECや、DEC-EC、DMC-EMC-ECなど、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との混合液が好ましい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4 などの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、などの有機塩が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。また、イオン伝導媒体としては、液状のイオン伝導媒体の代わりに、イオン伝導性ポリマー、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0017】
この非水系二次電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータは、非水系二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0018】
この非水系二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものとしてもよい。非水系二次電池の一例を
図1に示す。
図1は、コイン型の非水系二次電池20の構成の概略を表す断面図である。
図1に示すように、非水系二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水系二次電池20は、正極22と負極23との間の空間にリチウム塩を溶解したイオン伝導媒体27を備えている。
【0019】
[不活性化剤]
次に、不活性化剤について説明する。不活性化剤は、レドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む。レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造を有するオルトキノン系化合物である。オルトキノン構造とは、6員環の芳香族炭化水素骨格の隣接する2つの炭素上のC-H基を各々C=O基に置き換えた構造をいう。オルトキノン系化合物とは、オルトキノン構造を有する化合物であり、オルトキノン及びその誘導体を含む。オルトキノン誘導体は、6員環の芳香族炭化水素骨格の残りの4つの炭素のうちの1以上に水素以外の置換基を有するものをいう。このオルトキノン系化合物は、式(1)で表されるものとしてもよい。ここで、式(1)のR1~R4としては、例えば、水素のほか、炭化水素基や、スルホン酸基、スルホニル基、カルボン酸基、カルボニル基、アセチル基、アルデヒド基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲノ基(F-、Cl-、Br-等)などのうち1以上の置換基が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、鎖状の炭化水素基や環状の炭化水素基が好ましい。鎖状の炭化水素は、直鎖でもよいし分岐鎖を有していてもよい。鎖状の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基などのアルキル基や、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基などのアルケニル基などが挙げられる。また、環状の炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基や、フェニル基、ナフチル基などのアリール基などが挙げられる。また、これらの炭化水素基は、スルホン酸基、スルホニル基、カルボン酸基、カルボニル基、アセチル基、アルデヒド基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲノ基(F-、Cl-、Br-等)などの置換基を有していてもよい。炭化水素基は、これらのうち、直鎖のアルキル基が好ましく、置換基を有さないものが好ましい。炭化水素基は、各々、炭素数20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0020】
【0021】
レドックスシャトル剤は、多環構造を有するものとしてもよい。例えば、レドックスシャトル剤は、1,2-ナフトキノン構造を有するものとしてもよいし、2,3-ナフトキノン構造を有するものとしてもよいし、フェナントレンキノン構造を有するものとしてもよい。このうち、1,2-ナフトキノン構造を有するものがより好ましい。
【0022】
レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造の芳香環を形成する炭素原子のうち1以上に、レドックスシャトル剤(酸化体)、レドックスシャトル剤の1電子還元体であるラジカルアニオン、レドックスシャトル剤の2電子還元体であるジアニオンのうちの1以上の安定性を向上させる安定化基を有するものとしてもよい。安定化基は、レドックスシャトル剤の1電子還元体であるラジカルアニオンや2電子還元体であるジアニオンの安定性を向上させるものであることが望ましい。安定化基としては、例えば、電子求引基が挙げられる。レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造の芳香環を形成する炭素原子のうち1以上に、電子求引基が結合した構造を有するものであることが好ましい。すなわち、レドックスシャトル剤は、式(1)のR1~R4のうち1以上が電子求引基であることが好ましい。電子求引基としては、スルホン酸基、スルホニル基、カルボン酸基、カルボニル基、アセチル基、アルデヒド基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、ハロゲノ基などが挙げられ、これらのうち、スルホン酸基がより好ましい。レドックスシャトル剤は、式(1)のR2及びR3のうち1以上が電子求引基であるものとしてもよく、R2及びR3のうち1つが電子求引基であるものとしてもよい。
【0023】
レドックスシャトル剤は、金属塩であるものとしてもよい。例えば、レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造を有する有機アニオンと、金属カチオンとからなる金属塩としてもよい。金属塩を構成する金属としては、例えば、Li、Na、Kなどのアルカリ金属や、Be、Mg、Ca、Srなどの第2族金属などが挙げられ、このうち、アルカリ金属が好ましく、Naがより好ましい。
【0024】
レドックスシャトル剤は、式(2)~(14)で表されるものとしてもよい。具体的には、基本骨格としてオルトベンゾキノン(式(2))及びその誘導体(式(4)~(9))、1,2-ナフトキノン(式(3))及びその誘導体(式(10)~(14))などが挙げられる。これらのうち、1,2-ナフトキノン及びその誘導体(式(3)、(10)~(14))などが好ましく、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸ナトリウム(式(12))がより好ましい。
【0025】
【0026】
レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で不活性化の対象となる非水系二次電池の負極活物質よりも高く不活性化の対象となる非水系二次電池の正極活物質よりも低い。レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で3V以上であるものとしてもよい。レドックスシャトル剤の酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリーで求めることができる。具体的には、レドックスシャトル剤の酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリーで求めた酸化側のピーク電位をEpa[V]、還元側のピーク電位をEpc[V]としたときに、E0=(Epa+Epc)/2で求められる値E0[V]とする。サイクリックボルタンメトリーは、非水系溶媒と支持電解質とレドックスシャトル剤と含む測定溶液に対して行うことが好ましい。測定溶液の非水系溶媒は、不活性化剤の非水系溶媒と同種のものとしてもよい。測定溶液の支持電解質としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4 などの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、などの有機塩が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。
【0027】
不活性化剤に含まれる非水系溶媒は、特に限定されるものではなく、例えば、上述した非水系二次電池のイオン伝導媒体の溶媒として例示したものでもよいし、それ以外でもよい。非水系溶媒は、不活性化の対象となる非水系二次電池のイオン伝導媒体に含まれる溶媒と同じでもよいし、異なってもよい。非水系溶媒は、カーボネート化合物とは異なる溶媒であるものとしてもよい。カーボネート化合物とは、上述した環状カーボネート化合物や、鎖状カーボネート化合物などである。この非水系溶媒は、レドックスシャトル剤の溶解度がより高く、且つより安定に溶解できるものが好ましく、例えば、非プロトン性溶媒が好ましく、極性を有する極性非プロトン性溶媒がより好ましい。この非水系溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド系化合物、ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルアセトアミド(DMA)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)などのアミド系化合物、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン、ジオキサン、ジエチルエーテル(DEE)、ジメトキシエタン(DME)、ジグライム(G2)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)などのエーテル系化合物、のうち1以上としてもよい。このうち、非水系溶媒としてはスルホキシド系化合物がより好ましく、DMSOがより好ましい。スルホキシド系化合物を用いた場合、レドックスシャトル剤の酸化体及び還元体が非水系溶媒との相互作用によって安定化され、レドックスシャトル剤がより安定した酸化還元を示すと考えられる。
【0028】
レドックスシャトル剤は、不活性化剤に含まれる非水溶媒に対する20℃での溶解度が0.01mol/L以上であることが好ましく、0.03mol/L以上であることがより好ましく、0.05mol/L以上であることがさらに好ましい。レドックスシャトル剤の溶解度が高いほど不活性化剤のレドックスシャトル剤濃度を高めることが可能であり、不活性化剤のレドックスシャトル剤濃度が高いほど電気自動車(EV)用など高エネルギー密度の電池を短時間で放電させることができるからである。レドックスシャトル剤は、不活性化剤に含まれる非水溶媒に対する20℃での溶解度が1mol/L以下としてもよい。
【0029】
不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤の濃度は、0.01mol/L以上が好ましく、0.03mol/L以上がより好ましく、0.05mol/L以上がさらに好ましい。レドックスシャトル剤の濃度が高いほど、電気自動車(EV)用など高エネルギー密度の電池を短時間で放電させることができるからである。不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤の濃度は、溶解度以下としてもよく、レドックスシャトル剤の拡散性を高めて不活性化をより迅速に進行させる観点などから、1mol/L以下としてもよく、0.5mol/L以下としてもよく、0.4mol/L以下としてもよく、0.3mol/L以下としてもよい。
【0030】
不活性化剤は、レドックスシャトル剤以外の溶質を含むものとしてもよいが、溶質を含まないことが好ましい。不活性化剤は、レドックスシャトル剤以外の溶質を含むとしても、0.1mmol/L未満や0.01mmol/L未満であることが好ましい。不活性化剤において、レドックスシャトル剤以外の溶質が少ないほど、粘度が低い傾向にあるため、不活性化がより迅速に進行するからである。溶質としては、例えば、上述した支持塩などが挙げられる。支持塩は、不活性化の対象となる非水系二次電池のイオン伝導媒体に含まれる支持塩と同じでもよいし、異なってもよい。
【0031】
[不活性化方法]
続いて、上述した不活性化剤を用いて上述した非水系二次電池を不活性化する方法について説明する。この不活性化方法は、非水系二次電池の内部に不活性化剤を添加する添加工程を含む。
【0032】
添加工程では、非水系二次電池の内部に不活性化剤を添加する。具体的には、非水系二次電池の正極及び負極と不活性化剤とが接触するように、不活性化剤を添加する。不活性化剤の添加方法は、特に限定されないが、電池容器を一旦開封して不活性化剤を注入した後再び封止してもよいし、電池容器の外部から注射器によって注入しその後封止してもよい。添加工程は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0033】
不活性化剤の添加量は、例えば、0.1mL以上10mL未満としてもよく、0.5mL以上5.0mL以下としてもよい。不活性化剤の添加量は、例えば、不活性化の対象となる非水系二次電池に含まれるイオン伝導媒体の体積[mL]に対して、0.1%以上500%以下としてもよく、10%以上300%以下としてもよい。
【0034】
添加工程後の非水系二次電池は、例えば、静置して保持してもよいし、加振しながら保持してもよい。保持時間は、不活性化が完了するまでの時間として経験的に定められる時間とすればよいが、例えば、15時間以上500時間以下としてもよく、20時間以上100時間以下としてもよく、30時間以上50時間以下としてもよい。
【0035】
この不活性化方法で非水系二次電池が不活性化するメカニズムは、以下のように推察される。
図2は、非水系二次電池が不活性化するメカニズムを示す説明図である。正極電位より低く負極電位より高い酸化還元電位を示すレドックスシャトル剤(図中のRS)を電池に添加すると、正極あるいは負極とレドックスシャトル剤の電位差を駆動力として、負極からレドックスシャトル剤およびレドックスシャトル剤から正極への電子移動が進行し、電池が放電する。具体的には、レドックスシャトル剤の還元体(図中のRS
(red))が正極に電子を与えて酸化体(図中のRS
(ox))となり、レドックスシャトル剤の酸化体が負極から電子を受け取って還元体となる、という動作が繰り返し進行し、電池が放電する。正極電位あるいは負極電位がレドックスシャトル剤の酸化還元電位に等しくなると、その電極の放電はそれ以上進行しなくなる。従って、正極電位と負極電位は、最終的にはレドックスシャトル剤の電位に等しくなり、不活性化が完了する。なお、「不活性化が完了」とは、少なくとも非水系二次電池のSOC(State of charge)が0%になるまで放電されていることをいうものとしてもよい。SOCが0%になるまで放電されていれば、負極電位が低すぎない(例えばLi基準電位で1.5V超過)ため、イオン伝導媒体(電解液等)の分解によるガス発生が生じにくく、電極自体の安全性も高い。したがって、不活性化後のリサイクルや廃棄を安全に行うことができる。不活性化後の電池電圧は低いほどスパークが起こりにくいため好ましく、例えば、3.0V以下としてもよく、1.2V以下や、1.0V以下、0.5V以下などとすることがより好ましい。
【0036】
図3は、レドックスシャトル剤の酸化還元反応の一例を示す説明図である。
図3Aは、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸ナトリウム(1,2-NQ-SO
3Na)(式(12))、
図3Bは、1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)(式(3))、
図3Cは、1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)(従来例)の酸化還元反応を示す説明図である。
図3に示すように、1,2-NQ-SO
3Na、1,2-NQ及び1,4-NQは、いずれも、電池に添加されると、1電子酸化還元反応又は2電子酸化還元反応を繰り返し、それにより、電池を放電させるものと推察される。
【0037】
以上説明した不活性化剤及び不活性化方法では、非水系二次電池を不活性化する際に、不活性化機能をより良好にすることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。充電状態の非水系二次電池に、酸化還元電位がLi基準電位で正極電位より低く負極電位より高いレドックスシャトル剤を添加すると、正極及び負極とレドックスシャトル剤との電位差を駆動力として、電池の放電が進行し、電池の不活性化を図ることができる。さらに本開示では、レドックスシャトル剤としてオルトキノン系化合物を用いるが、この化合物は、負極表面で還元されてラジカルアニオン又はジアニオンとなった際に、隣り合う2つのケトン基の酸素とリチウムイオンが配位構造を形成することにより安定化される。その結果、レドックスシャトル剤の還元体であるラジカルアニオンやジアニオンの、分解や二量体の形成等といった副反応が抑制され、不活性化がより良好に進行すると推察される。さらに、オルトキノンの芳香環を形成する炭素にスルホン酸基などの電子求引基が結合している場合、キノン骨格上の電子密度が低下するため、還元体であるラジカルアニオンあるいはジアニオンの安定性が更に向上し、不活性化液として用いた際に電池の不活性化がより良好に進行すると推察される。なお、不活性化機能をより良好にするとは、例えば、電池電圧が所定電圧(1.0Vや0.5V、0.1Vなど)以下になるまでの時間をより短縮することとしてもよいし、電池電圧をより低くすることとしてもよい。
【0038】
なお、本開示は、上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0039】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低くオルトキノン構造を有するオルトキノン系化合物であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む、
非水系二次電池の不活性化剤。
[2] 前記レドックスシャトル剤は、1,2-ナフトキノン構造を有する、[1]に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[3] 前記レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造の芳香環を形成する炭素原子のうち1以上に電子求引基が結合した構造を有する、[1]又は[2]に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[4] 前記レドックスシャトル剤は、オルトキノン構造の芳香環を形成する炭素原子のうち1以上にスルホン酸基が結合した構造を有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[5] 前記レドックスシャトル剤は、金属塩である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[6] 前記レドックスシャトル剤は、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸ナトリウムである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[7] 前記レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で3V以上である、請求項[1]~[6]のいずれか1つに記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[8] 前記非水系溶媒は、スルホキシド系化合物である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[9] 前記レドックスシャトル剤を0.01mol/L以上0.4mol/L以下の範囲で含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の非水系二次電池の不活性化剤。
[10] 前記非水系二次電池の内部に、[1]~[9]のいずれか1つに記載の非水系二次電池の不活性化剤を添加する添加工程、を含む、
非水系二次電池の不活性化方法。
【実施例0040】
以下には、本開示の不活性化剤を用いてリチウムイオン二次電池を不活性化した例を実施例として説明する。なお、実験例1~4,6~10が実施例に相当し、5,11~13が比較例に相当する。
【0041】
[サイクリックボルタンメトリー測定]
(実験例1)
レドックスシャトル剤である1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸ナトリウム(以下、1,2-NQ-SO3Na)を、H型セルを用いたサイクリックボルタンメトリーにより評価した。ジメチルスルホキシド(DMSO)に、支持電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を1mol/L、レドックスシャトル剤として1,2-NQ-SO3Naを0.05mol/L溶解させ、測定溶液とした。作用極としてグラッシーカーボン、対極として金属リチウム、参照電極としてニッケル線に金属リチウムを圧着したものを用いた。測定温度は20℃、電位範囲は2.2~3.6V(vs.Li/Li+)、電位掃引速度は50mV/sec.とした。
【0042】
(実験例2)
N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)に、支持電解質としてLiTFSIを1mol/L、1,2-NQ-SO3Naを0.05mol/L溶解させて測定溶液とし、実験例1と同様の測定を行った。
【0043】
(実験例3)
DMSOに、支持電解質としてLiTFSIを1mol/L、1,2-ナフトキノン(以下、1,2-NQ)を0.05mol/L溶解させて測定溶液とし、実験例1と同様の測定を行った。
【0044】
(実験例4)
DMAに、支持電解質としてLiTFSIを1mol/L、1,2-NQを0.05 mol/L溶解させて測定溶液とし、実験例1と同様の測定を行った。
【0045】
(実験例5)
DMSOに、支持電解質としてLiTFSIを1mol/L、レドックスシャトル剤として1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)を0.05mol/L溶解したものに対し、実験例1と同様の測定を行った。なお、電位範囲は2.0~3.5V(vs.Li/Li+)とした。
【0046】
[不活性化挙動測定]
(実験例6)
レドックスシャトル剤として1,2-NQ-SO3Naを用いて、リチウムイオン電池の不活性化挙動を評価した。不活性化液として、DMSOに1,2-NQ-SO3Naを0.1mol/L溶解させたものを用意した。リチウムイオン電池の正極は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O293質量部と、アセチレンブラック4質量部と、ポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合した正極合材をアルミニウム箔に塗工したものとした。負極は、黒鉛98質量部と、カルボキシメチルセルロース1質量部と、スチレンブタジエンゴム1質量部とを混合した負極合材を銅箔に塗工したものとした。電解液は、エチレンカーボネート(EC)3体積部と、ジメチルカーボネート(DMC)4体積部と、エチルメチルカーボネート(EMC)3体積部とを混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/L溶解したものとした。セパレータは、ポリエチレン単層微多孔膜とした。正極と負極を、電解液0.4~0.8mLを浸み込ませたセパレータを介して対向させ、ラミネートフィルム内に封入して、リチウムイオン電池を作製した。得られたリチウムイオン電池に対し、電圧範囲3.0~4.1Vで充放電を2サイクル実施した後、4.1Vまで充電し、満充電状態とした。満充電状態の電池をアルゴン雰囲気で開封して上記の不活性化液を0.634mL注入し、電池を再度封じて温度20℃で電圧変化を測定した。
【0047】
(実験例7)
不活性化液として、DMAに1,2-NQ-SO3Naを0.1mol/L溶解させたものを用いて、実験例6と同様の方法で不活性化挙動を評価した。
【0048】
(実験例8)
不活性化液として、DMSOに1,2-NQを0.1mol/L溶解させたものを用いて、実験例6と同様の方法で不活性化挙動を評価した。
【0049】
(実験例9)
不活性化液として、DMAに1,2-NQを0.1mol/L溶解させたものを用いて、実験例6と同様の方法で不活性化挙動を評価した。
【0050】
(実験例10)
不活性化液として、DMSOに1,2-NQ-SO3Naを0.4mol/L溶解させたものを用いて、実験例6と同様の方法で不活性化挙動を評価した。なお、1,2-NQ-SO3Naの添加量が実験例6と同量になるように、添加液量を0.159mLとした。
【0051】
(実験例11)
不活性化液として、DMSOに1,4-NQを0.1mol/L溶解させたものを用いて、実験例6と同様の方法で不活性化挙動を評価した。
【0052】
(実験例12)
不活性化液として、DMAに1,4-NQを0.1 mol/L溶解させたものを用いて、実験例6と同様の方法で不活性化挙動を評価した。
【0053】
(実験例13)
不活性化液として、1,2-ジメトキシエタン(DME)にフェノチアジン(PTZ)を0.05mol/L溶解させたものを用いて、実験例6と同様の方法で不活性化挙動を評価した。なお、レドックスシャトル剤の添加量が実験例6と同量になるように、添加液量を1.268mLとした。
【0054】
[結果と考察]
図4に、実験例1~5のサイクリックボルタンメトリー測定結果を示した。スルホン酸基の有無によらず、DMSO溶媒を用いた場合は二対の酸化還元ピークが、DMA溶媒を用いた場合は主反応として一対の酸化還元ピークが確認された。これらのピークは1,2-NQ-SO
3Naあるいは1,2-NQの酸化還元に起因すると推察された。このサイクリックボルタンメトリーの酸化側のピーク電位E
pa[V]及び還元側のピーク電位E
pc[V]の値から、酸化還元電位E
0[V]をE
0=(E
pa+E
pc)/2の式を用いて算出した。1,2-NQ-SO
3Naおよび1,2-NQは、いずれの溶媒を用いた場合も同程度の酸化還元電位を示した(
図4A~4D)。
【0055】
1,2-NQ-SO
3Naのサイクリックボルタモグラム(
図4A、4B)では、1,2-NQ-SO
3Naの酸化還元以外の反応(副反応)に起因するピークは確認されず、DMSO溶媒およびDMA溶媒中において1,2-NQ-SO
3Naは安定した酸化還元を示すことが示唆された。一方、1,2-NQのサイクリックボルタンメトリー測定においてDMSO溶媒を用いた場合(
図4C)、主反応である1,2-NQ還元体の酸化を示す2つのピークの間にブロードなピークが確認された。また、1,2-NQの溶媒としてDMAを用いた場合(
図4D)は、電位2.5V(vs.Li/Li
+)以下の領域において、還元反応に起因する電流が確認された。これらは、1,2-NQ還元体の分解や二量体形成等といった副反応に起因すると推測された。さらに、1,4-NQのサイクリックボルタモグラム(
図4E)では、1,4-NQの酸化還元に対応するピーク(2.78V(vs.Li/Li
+))の他に、副反応に起因するピークがより明確に確認された。
【0056】
以上の結果より、酸化還元反応の安定性は、1,2-NQ-SO3Naが最も高く、1,2-NQが2番目に高く、1,4-NQが最も低いと推察された。1,4-NQに比べて1,2-NQあるいは1,2-NQ-SO3Naの方が高い酸化還元安定性を示す理由としては、1,2-NQや1,2-NQ-SO3Naといったオルトキノンでは隣り合う2つのケトン基の酸素とリチウムイオンが配位構造を形成して安定化されるためであると推測された。また、1,2-NQに比べて1,2-NQ-SO3Naの方が高い酸化還元安定性を示す理由としては、1,2-NQ-SO3Naでは芳香環を形成する炭素に電子求引基であるスルホン酸基が結合しているために、キノン骨格上の電子密度が低下し、還元体であるラジカルアニオンあるいはジアニオンの安定性が向上したためであると推察された。
【0057】
ところで、キノンの還元体の分解や二量体の形成等の副反応は、キノンの酸化還元反応の安定性を低下させ、電池不活性化剤として使用した場合に電池の放電速度の低下を引き起こし得る。そこで、1,2-NQ-SO3Na(実験例6、7)、1,2-NQ(実験例8、9)、1,4-NQ(実験例11、12)の不活性化液としての性能を評価した。
【0058】
図5に、実験例6、8、11の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示した。
図6に、実験例7、9、12の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示した。オルトキノン(1,2-NQ-SO
3Naあるいは1,2-NQ)とパラキノン(1,4-NQ)とを比較したところ、オルトキノンの方が放電速度がはやくなる傾向が確認された。さらに、オルトキノンにおいてスルホン酸基の有無による比較を行ったところ、1,2-NQに比べて1,2-NQ-SO
3Naの方が放電末期での放電速度がはやく、電圧0V付近まで迅速に放電した。以上の結果より、レドックスシャトル剤としてオルトキノン(1,2-NQ-SO
3Na、1,2-NQ)を用いた場合、パラキノン(1,4-NQ)を用いた場合に比べて電池の放電速度が向上することがわかった。さらに、オルトキノンの芳香環を形成する炭素にスルホン酸基を結合することにより、放電末期での放電速度が向上し、電圧0V付近まで電池を迅速に放電できることが実証された。これは、サイクリックボルタンメトリー測定で示唆されたように、1,2-NQ-SO
3Naを用いた場合は還元体(ジアニオン)の分解等といった副反応が抑制されるためであると推測された。
【0059】
図7に、実験例6、13の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示した。実験例13は、従来技術であるフェノチアジンを用いた不活性化液である。なお、実験例13は、実験例6とはレドックスシャトル剤濃度、添加液量、溶媒は異なるが、レドックスシャトル剤の添加量は同じ(0.0634mmol)である。不活性化液としてフェノチアジン/DME溶液を用いた場合は、電圧0V付近まで放電するのに25時間かかるのに対し、1,2-NQ-SO
3Na/DMSO溶液を用いた場合の電圧0Vまでの放電時間は15時間であり、フェノチアジンと比較しても放電速度の向上(不活性化処理時間の短縮)が可能であることが示唆された。
【0060】
図8に、実験例6、10の不活性化液注入後の電池電圧の変化を示した。不活性化液は中古電池の限られた空隙に添加する必要があるため、液中のレドックスシャトル剤濃度を高くし、少ない液量で出来るだけ多量のレドックスシャトル剤を電池に添加することが望まれる。そこで、一例として、不活性化液として1,2-NQ-SO
3Na/DMSO溶液を用いた場合において、1,2-NQ-SO
3Naの高濃度化を検討した。
図8に示すように、1,2-NQ-SO
3Na/DMSO溶液において1,2-NQ-SO
3Naの濃度を4倍(0.1Mから0.4M)にし、添加液量を1/4(0.634mLから0.159mL)に減らした場合も、電圧0V付近まで電池が放電することが確認された。