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特開2024-129955圧電素子のクラック検出方法及びその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129955
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】圧電素子のクラック検出方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/20 20060101AFI20240920BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N27/20 Z
H10N30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039382
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000175722
【氏名又は名称】サンコール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】中川 賢史
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA09
2G060AE04
2G060AF03
2G060AF06
2G060AF07
2G060EA07
2G060EB07
2G060HA02
2G060HC15
2G060KA15
(57)【要約】
【課題】誤検出してしまう可能性を低減させることができる圧電素子のクラック検出装置を提供する。
【解決手段】インピーダンスアナライザ3を用いて、圧電素子22に共振周波数の電圧を印加する。そして、電圧の印加による圧電素子22が備える一対の電極22a,22b間のインピーダンス抵抗成分をインピーダンスアナライザ3にて測定する。そしてさらに、算出部43aが、測定したインピーダンス抵抗成分の測定値に対して判定値を算出し、判定部43bが、その算出した判定値を勘案し、予め設定されている閾値に基づいて、圧電素子22にクラックが発生しているか否かを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子に共振周波数の電圧を印加するステップと、
前記電圧の印加による前記圧電素子単体の一対の電極間のインピーダンス抵抗成分を測定するステップと、
前記測定したインピーダンス抵抗成分の測定値に対して以下の数式(1)を用いて判定値を算出するステップと、
前記算出した判定値を勘案し、予め設定されている閾値に基づいて、前記圧電素子にクラックが発生しているか否かを判定するステップと、を含んでなる圧電素子のクラック検出方法。
【数1】
ここで、
Pは前記判定値、iは測定点の数、xiは各測定点の測定値、aiは任意に設定する係数、F(xi,ai)はxi,aiからなる任意の関数を表す。
【請求項2】
前記数式(1)として、以下の数式(2)を用いて判定値を算出してなる請求項1に記載の圧電素子のクラック検出方法。
【数2】
【請求項3】
前記数式(1)として、以下の数式(3)で示すシグモイド関数を用いて判定値を算出してなる請求項1に記載の圧電素子のクラック検出方法。
【数3】
ここで、
biは任意に設定する係数を表す。
【請求項4】
圧電素子に共振周波数の電圧を印加する電圧印加手段と、
前記電圧の印加による前記圧電素子単体の一対の電極間のインピーダンス抵抗成分を測定する測定手段と、
前記測定したインピーダンス抵抗成分の測定値に対して以下の数式(4)を用いて判定値を算出する算出手段と、
前記算出した判定値を勘案し、予め設定されている閾値に基づいて、前記圧電素子にクラックが発生しているか否かを判定する判定手段と、を有してなる圧電素子のクラック検出装置。
【数4】
ここで、
Pは前記判定値、iは測定点の数、xiは各測定点の測定値、aiは任意に設定する係数、F(xi,ai)はxi,aiからなる任意の関数を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子のクラック検出方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子をアクチュエータとして使用する電子部品一般において、特にHDDサスペンションにおいては、近年の薄型化要求に伴い圧電素子にクラックが生じるリスクが高まってきている。しかしながら、このHDDサスペンションに搭載される圧電素子は小型であり、光学的な観察での検出が困難であるという問題があった。
【0003】
そこで、このような問題を解決すべく、特許文献1に記載の技術が提案されている。この特許文献1に記載の発明は、圧電素子に共振周波数の電圧を印加し、該電圧の印加による一対の電極間の誘電正接を測定し、該測定された共振周波数での誘電正接のピークの大小により圧電素子のクラックを検出するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5489968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の検出方法は、誘電正接を測定していることから、誤検出してしまう可能性があるという問題があった。すなわち、図5に例示するように、誘電正接は、共振周波数付近で急峻に変化するという特徴がある。なお、図5では、誘電正接をTanDとした際、共振周波数、6.9MHz付近で、誘電正接(TanD)は急峻に変化している。
【0006】
この点、詳しく説明すると、誘電正接(TanD)は、インピーダンスZ=R+jXとした際、TanD=R/-Xで表される。そのため、分母Xがゼロに近い周波数では、わずかなX値の差異が、誘電正接(TanD)に大きく影響することとなる。それゆえ、図5に示すように、誘電正接(TanD)は、共振周波数(図5では、6.9MHzを例示)付近で急峻に変化することとなる。
【0007】
したがって、測定周波数のわずかなズレによって取得するピーク値が劇的に変わるため、閾値の設定が非常に困難であり、これによって、実施の運用時、誤検出してしまう可能性があるという問題があった。
【0008】
そこで、誘電正接に代え、一対の電極間のインピーダンス抵抗成分を測定することが考えられる。このインピーダンス抵抗成分を測定した例が、図6(a)に示すものである。この図6(a)は、圧電素子として、マイクロPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の圧電セラミックスを使用して測定したものである。
【0009】
かくして、このような圧電素子を使用して、一対の電極間のインピーダンス抵抗成分を測定した際、図6(a)に示すように、共振周波数、7.6MHz付近で、インピーダンス抵抗成分がピーク値(図示では、250Ω付近)となっている波形R1グループと、そうなっていない波形R2グループとで、明確な差異が生じている。すなわち、波形R1グループは、圧電素子にクラックが発生していないグループであることを示し、波形R2グループは、圧電素子にクラックが発生しているグループであることを示しているから、閾値の設定が容易となる。そのため、実施の運用時、誤検出してしまう可能性を低減させることができる。
【0010】
しかしながら、圧電素子として、ミリPZTの圧電セラミックスを使用して測定した際、図6(b)に示すような波形となる可能性がある。すなわち、図6(b)に示すように、波形R1グループと、波形R2グループとで、明確な差異が生じている箇所が存在しない場合がある。この際、閾値の設定が困難となるから、実施の運用時、誤検出してしまう可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、どのような圧電素子であっても、誤検出してしまう可能性を低減させることができる圧電素子のクラック検出方法及びその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
請求項1の発明によれば、圧電素子(22)に共振周波数の電圧を印加するステップと、
前記電圧の印加による前記圧電素子(22)単体の一対の電極(22a,22b)間のインピーダンス抵抗成分を測定するステップと、
前記測定したインピーダンス抵抗成分の測定値に対して以下の数式(1)を用いて判定値を算出するステップと、
前記算出した判定値を勘案し、予め設定されている閾値に基づいて、前記圧電素子(22)にクラックが発生しているか否かを判定するステップと、を含んでなることを特徴としている。
【0014】
【数1】
【0015】
ここで、Pは前記判定値、iは測定点の数、xiは各測定点の測定値、aiは任意に設定する係数、F(xi,ai)はxi,aiからなる任意の関数を表す。
【0016】
請求項2の発明によれば、上記請求項1に記載の圧電素子のクラック検出方法において、前記数式(1)として、以下の数式(2)を用いて判定値を算出してなることを特徴としている。
【0017】
【数2】
【0018】
請求項3の発明によれば、上記請求項1に記載の圧電素子のクラック検出方法において、前記数式(1)として、以下の数式(3)で示すシグモイド関数を用いて判定値を算出してなることを特徴としている。
【0019】
【数3】
【0020】
ここで、biは任意に設定する係数を表す。
【0021】
請求項4の発明によれば、圧電素子(22)に共振周波数の電圧を印加する電圧印加手段(インピーダンスアナライザ3)と、
前記電圧の印加による前記圧電素子(22)単体の一対の電極(22a,22b)間のインピーダンス抵抗成分を測定する測定手段(インピーダンスアナライザ3)と、
前記測定したインピーダンス抵抗成分の測定値に対して以下の数式(4)を用いて判定値を算出する算出手段(算出部43a)と、
前記算出した判定値を勘案し、予め設定されている閾値に基づいて、前記圧電素子(22)にクラックが発生しているか否かを判定する判定手段(判定部43b)と、を有してなることを特徴としている。
【0022】
【数4】
【0023】
ここで、Pは前記判定値、iは測定点の数、xiは各測定点の測定値、aiは任意に設定する係数、F(xi,ai)はxi,aiからなる任意の関数を表す。
【発明の効果】
【0024】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
請求項1及び4に係る発明によれば、インピーダンス抵抗成分の測定値に対して、数式(1)又は(4)を用いて判定値を算出しているから、どのような圧電素子であっても、誤検出してしまう可能性を低減させることができる。
【0026】
この数式(1)又は(4)に関連する数式として、請求項2に係る数式(2)又は請求項3に係る数式(3)を用いることができ、特に、数式(3)を用いれば、誤検出してしまう可能性をさらに低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る圧電素子のクラック検出装置を示す概略構成図である。
図2図6(b)に示す測定値に対して、上記数式2を用いて判定値を算出した場合の波形図である。
図3図6(b)に示す測定値に対して、上記数式3を用いて判定値を算出した場合の波形図である。
図4】解析に使用したサンプル数と検出の精度を比較した結果を示す波形図である。
図5】同実施形態に係る圧電素子の共振周波数での一対の電極間の誘電正接を測定した際の波形図である。
図6】同実施形態に係る圧電素子の共振周波数での一対の電極間のインピーダンス抵抗成分を測定した際の波形図であって、(a)は、圧電素子として、マイクロPZTの圧電セラミックスを使用した際の波形図であり、(b)は、圧電素子として、ミリPZTの圧電セラミックスを使用した際の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る圧電素子のクラック検出装置を、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとする。
【0029】
<圧電素子のクラック検出装置の概略説明>
図1に示す圧電素子のクラック検出装置1は、圧電素子が備える一対の電極間のインピーダンス抵抗成分を測定することによって、圧電素子のクラックを検出することができるものである。この点、具体的に説明すると、図1に示す圧電素子のクラック検出装置1は、被測定対象物であるHDDサスペンション2と、インピーダンスアナライザ3と、判定装置4と、で主に構成されている。以下、各構成について詳しく説明することとする。
【0030】
<HDDサスペンションの説明>
HDDサスペンション2は、従来と同様の構成からなるもので、図1に示すように、被駆動部材としてのロードビーム20と、基部としてのベースプレート21と、圧電素子22と、を主に備えている。このロードビーム20は、図1に示す先端側(図示左側)のヘッド部23に負荷荷重を与えるもので、例えば、ばね性を有するステンレス鋼等の金属製薄板にて形成されている。そして、このようなロードビーム20には、図1に示すように、配線部材としてのフレキシャ24が取り付けられている。
【0031】
フレキシャ24は、図1に示すように、ばね性を有する薄いステンレス鋼圧延板等の導電性薄板24aに、電気絶縁層を介して配線パターン25が形成されているものである。この配線パターン25は、信号伝送用の配線部及び給電用の配線部からなっており、この配線パターン25の両端には、図1に示すように、端子部26a,26bが設けられている。
【0032】
一方、図1に示すように、フレキシャ24の先端側(図示左側)には、ヘッド部23が備えているスライダ27が支持され、このスライダ27は、配線パターン25の一端側(図示左側)の端子部26aに導通接続されている。
【0033】
他方、図1に示すように、ロードビーム20の基端側(図示右側)は、ベースプレート21に支持されている。このベースプレート21は、図1に示すように、略円形状のボス部21aが設けられており、このボス部21aを介して、ベースプレート21は、図示しないキャリッジ側に取り付けられ、ボイスコイルモータによって旋回駆動されるようになっている。なお、このベースプレート21とロードビーム20との間には、図1に示すように、圧電素子22が設けられている。
【0034】
圧電素子22は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミックスからなり、図1に示すように、一対の電極22a,22bを備えている。そして、本実施形態においては、この圧電素子22単体の一対の電極22a,22b間のインピーダンス抵抗成分を測定することにより、圧電素子22のクラックの有無を検出しようとするものである。
【0035】
かくして、上記のように構成される被測定対象物であるHDDサスペンション2は、測定にあたり、図1に示すように、断面視横長矩形状の測定テーブル5に設置されている。そして、図1に示すように、この測定テーブル5の下面には、断面視横長矩形状の絶縁材6が設けられており、この絶縁材6の下面には、断面視横長矩形状の設備装置の土台7が設けられている。
【0036】
<インピーダンスアナライザの説明>
インピーダンスアナライザ3は、上記説明した圧電素子22単体の一対の電極22a,22b間のインピーダンス抵抗成分を測定することができるものである。具体的には、図1に示すように、インピーダンスアナライザ3には、測定信号出力側に2本の第1測定ケーブル30が接続され、測定信号受信側に2本の第2測定ケーブル31が接続されている。そして、この第1測定ケーブル30及び第2測定ケーブル31は、上記説明した配線パターン25の他端側(図示右側)の端子部26bに接続されている。これにより、第1測定ケーブル30を介して、インピーダンスアナライザ3から設定に応じた周波数の測定電圧を被測定対象物であるHDDサスペンション2に印加できることとなる。かくして、このようにすれば、インピーダンスアナライザ3によって、上記説明した圧電素子22に共振周波数の電圧を印加できることとなる。
【0037】
ところで、上記のように圧電素子22に共振周波数の電圧が印加された際、インピーダンスアナライザ3は、第2測定ケーブル31を介して、圧電素子22の共振周波数での一対の電極22a,22b間のインピーダンス抵抗成分を受信し測定できるようになっている。そして、このインピーダンス抵抗成分の測定値は、図1に示す判定装置4に出力されるようになっている。なお、インピーダンスアナライザ3には、図1に示すようにグランドケーブル32が接続されており、このグランドケーブル32は、土台7に接続されている。
【0038】
<判定装置の説明>
判定装置4は、PC(Personal Computer)等で構成されてなるもので、図1に示すように、CPU40と、所定データを判定装置4に入力することができる入力部41と、判定装置4外に所定データを出力することができる出力部42と、所定のアプリケーションプログラム等を格納した書込み可能なフラッシュROM等からなるROM43と、作業領域やバッファメモリ等として機能するRAM44と、ハードディスク等からなる記憶部45と、LCD(Liquid Crystal Display)等からなる表示部46と、で構成されている。
【0039】
かくして、このように構成される判定装置4は、ROM43内に所定のアプリケーションプログラムが格納されていることから、機能ブロックとしての算出部43aと、判定部43bが備えられている。この算出部43aは、インピーダンスアナライザ3によって測定されたインピーダンス抵抗成分の測定値に対して判定値を算出するものである。そして、判定部43bは、算出部43aにて算出された判定値が、記憶部45内に予め記憶されている閾値以上か否かによって圧電素子22にクラックが発生しているか否かを判定するものである。なお、この点、圧電素子のクラック検出装置1の使用例を説明することで、詳しく説明することとする。
【0040】
<圧電素子のクラック検出装置の使用例の説明>
かくして、このように構成される圧電素子のクラック検出装置1は、まず閾値を設定する。具体的には、複数のHDDサスペンション2に対して、上記説明したように、インピーダンスアナライザ3を用いて、圧電素子22に共振周波数の電圧を印加し、圧電素子22の共振周波数での一対の電極22a,22b間のインピーダンス抵抗成分を受信し測定する。そして、このインピーダンス抵抗成分の測定値は、図1に示す判定装置4に出力される。これを受けて、判定装置4の算出部43aは、以下の数式5を用いて判定値を算出する。
【0041】
【数5】
【0042】
ここで、Pは判定値を示し、iは圧電素子22の共振周波数での一対の電極22a,22b間のインピーダンス抵抗成分の測定点の数を示し、xiは、各測定点の測定値を示している。これにより、算出部43aは、インピーダンスアナライザ3より出力されたインピーダンス抵抗成分の各測定点の測定値に対し、上記数式5を用いて判定値を算出する。この際、F(xi,ai)は、任意の関数であり、aiは、任意に設定する係数である。そのため、この係数aiは、図1に示す判定装置4の入力部41を用いて予め入力されており、記憶部45に記憶されている。
【0043】
かくして、算出部43aは、上記数式5を用いて、すなわち、インピーダンスアナライザ3より出力されたインピーダンス抵抗成分の各測定点の測定値に対し、任意に設定された係数aiによって重みづけを行い、判定値を算出することとなる。そして、この算出された判定値に対して閾値を設定する。なお、この閾値は、図1に示す判定装置4の入力部41を用いて入力すると、CPU40にて、記憶部45に記憶されることとなる。
【0044】
かくして、このように閾値を設定しておけば、判定部43bは、上記算出部43aにて算出された判定値が、記憶部45内に予め記憶されている閾値以上か否かを判定する。そして、閾値以上であれば、圧電素子22にクラックが発生していないと判定し、閾値以上でなければ、圧電素子22にクラックが発生していると判定する。これにより、従来技術と同様、光学的な観察をせずとも、圧電素子のクラックを検出することができる。
【0045】
ここで、上記の内容に関し、上記数式5をより具体的な数式にすることで、より詳しく説明する。すなわち、算出部43aは、数式5として、以下に示す数式6を用いることができる。
【0046】
【数6】
【0047】
この点、具体例を用いて説明すると、算出部43aは、図6(b)に示す測定結果に対し、上記数式6を用いて判定値を算出する。かくして、この算出した判定値が、図2に示すグラフ図である。図2に示す波形R1Aが、圧電素子22にクラックが発生していないことを示し、波形R2Aが、圧電素子22にクラックが発生していることを示す波形となっている。そのため、図6(b)と異なり、明確な差異が生じている。それゆえ、閾値として、「-0.3」を設定することができ、これによって、判定部43bは、上記算出部43aにて算出された判定値が、記憶部45内に予め記憶されている閾値(-0.3)以上か否かを判定する。そして、判定部43bは、閾値(-0.3)以上であれば、圧電素子22にクラックが発生していないと判定し、閾値(-0.3)以上でなければ、圧電素子22にクラックが発生していると判定する。これにより、図6(b)に示すように、波形R1グループと、波形R2グループとで、明確な差異が生じている箇所が存在しない場合があったとしても、算出部43aを用いて算出すれば、明確な差異を生じさせることができる。それゆえ、閾値の設定が容易となるから、実施の運用時、誤検出してしまう可能性を低減させることができる。
【0048】
ただ、図2に示す判定値の分布は、波形R1Aと波形R2Aとが隣接していることから、圧電素子22やインピーダンスアナライザ3のバラツキによっては、圧電素子22にクラックが発生していなくとも、閾値(-0.3)以上とならない可能性がある。この場合、判定部43bは、圧電素子22にクラックが発生していると判断してしまうことから、誤検出してしまう可能性も存在している。そこで、算出部43aは、数式5として、以下に示す数式7を用いるようにすることもできる。
【0049】
【数7】
【0050】
ところで、この数式7は、シグモイド関数と称されるもので、biは、任意に設定する係数である。そのため、この係数biは、図1に示す判定装置4の入力部41を用いて予め入力されており、記憶部45に記憶されている。
【0051】
かくして、算出部43aは、図6(b)に示す測定結果に対し、上記数式7を用いて判定値を算出する。この算出した判定値が、図3に示すグラフ図である。図3に示す波形R1Bが、圧電素子22にクラックが発生していないことを示し、波形R2Bが、圧電素子22にクラックが発生していることを示す波形となっている。それゆえ、図6(b)と異なり、明確な差異が生じている。さらには、図2と比べ、波形R1Bと波形R2Bとが隣接していないことから、圧電素子22やインピーダンスアナライザ3のバラツキによって、誤検出してしまう可能性を低減させることができる。
【0052】
かくして、このように算出された判定値に対して、例えば、図3に示す波形R1Bと波形R2Bのほぼ中間に位置する部分を閾値「0.5」として設定することができる。これにより、判定部43bは、上記算出部43aにて算出された判定値が、記憶部45内に予め記憶されている閾値(0.5)以上か否かを判定する。そして、判定部43bは、閾値(0.5)以上であれば、圧電素子22にクラックが発生していないと判定し、閾値(0.5)以上でなければ、圧電素子22にクラックが発生していると判定する。これにより、図6(b)に示すように、波形R1グループと、波形R2グループとで、明確な差異が生じている箇所が存在しない場合があったとしても、算出部43aを用いて算出すれば、明確な差異を生じさせることができる。それゆえ、閾値の設定が容易となるから、実施の運用時、誤検出してしまう可能性を低減させることができる。さらには、波形R1Bと波形R2Bとが隣接していないことから、圧電素子22やインピーダンスアナライザ3のバラツキによって、誤検出してしまう可能性を低減させることができる。
【0053】
したがって、上記説明したように、算出部43aにて、数式5に関連する数式を用いて、判定値を算出させれば、どのような圧電素子であっても、誤検出してしまう可能性を低減させることができる。
【0054】
ところで、上記説明した係数ai,biの設定方法としては、圧電素子22のクラックの有無が既知であるサンプル、及び、その測定データを蓄積することで、最小二乗法や最尤法などの統計的手法によって算出したもので設定することができる。このような統計的手法に基づけば、被解析データ、及び、手法が同じであれば、係数は一意に定まることとなる。それゆえ、図6(b)に示すような波形変化の確認が困難な圧電素子22であっても、エンジニアの技量や気づきに依存せず精度の良い検出を確認することが可能となる。
【0055】
この点、具体例を用いて説明すると、数式7を用いた場合で、係数biとしては、最尤法によって算出したものを設定した場合、解析に使用したサンプル数と検出の精度を比較した結果、図4に示すような結果となった。すなわち、図4に示すように、被解析データ数(サンプル数)が増えることによって、検証スコアが向上している。これにより、被解析データ数(サンプル数)が増えることによって、検出精度が向上することが確認できた。
【0056】
したがって、上記説明した係数ai,biの設定として、統計的手法によって算出したもので設定すれば、精度の良い検出をすることが可能となる。
【0057】
<変形例の説明>
なお、本実施形態において示した形状等はあくまで一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、本実施形態においては、HDDサスペンション2を例示して説明したが、それに限らず、どのような圧電素子にも適用可能である。
【0058】
また、本実施形態においては、算出部43aにて算出された判定値が、記憶部45内に予め記憶されている閾値以上か否かによって圧電素子22にクラックが発生しているか否かを判定する例を示したが、それに限らず、算出部43aにて算出された判定値が、記憶部45内に予め記憶されている閾値以下か否かによって圧電素子22にクラックが発生しているか否かを判定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 圧電素子のクラック検出装置
2 HDDサスペンション
22 圧電素子
22a,22b 電極
3 インピーダンスアナライザ(電圧印加手段、測定手段)
4 判定装置
43a 算出部(算出手段)
43b 判定部(判定手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6