(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012999
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】銅粒子および銅粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/102 20220101AFI20240124BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240124BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240124BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 L
B22F1/05
B22F9/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114886
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】海老沢 陸
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA06
4K017BA05
4K017CA07
4K017CA08
4K017EJ02
4K017FA03
4K017FB01
4K017FB03
4K017FB07
4K018AA03
4K018BA02
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA33
4K018KA58
(57)【要約】
【課題】十分に粒径が小さく、かつ、高温耐酸化性に優れた銅粒子、および、この銅粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】粒子表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜12で被覆された銅粒子10において、一次粒子の平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲内であり、X線回折(XRD)におけるCu
2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が、大気雰囲気150℃で1時間処理の前後で10%未満であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆された銅粒子において、
一次粒子の平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲内であり、
X線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が、大気雰囲気150℃で1時間処理の前後で10%未満であることを特徴とする銅粒子。
【請求項2】
前記銅粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度が10質量ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の銅粒子。
【請求項3】
粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための分散剤及び表面保護剤を用いずに、請求項1または請求項2に記載された銅粒子を製造する銅粒子の製造方法であって、
カルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えて、前記カルボン酸銅の水分散液のpHを3以上10以下に調整する工程と、
pH調整した前記カルボン酸銅の水分散液に酸化還元電位が-1.0V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得る工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記混合液を60℃~80℃の温度に加熱し、1.5時間~3.0時間保持することにより、前記カルボン酸銅を還元して銅粒子が分散した銅粒子分散液を得る工程と、
水の割合が25質量%以下とされた洗浄媒を用いて前記銅粒子分散液を洗浄する洗浄工程と、
を含むことを特徴とする銅粒子の製造方法。
【請求項4】
前記カルボン酸銅が、水に難溶性であって、炭素数が4以上であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩である請求項3記載の銅粒子の製造方法。
【請求項5】
前記pH調整剤がカルボン酸アンモニウムである請求項3記載の銅粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、導電用又は接合用ペーストの原料として用いられる、銅粒子および銅粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品等の電極や電子回路の配線を形成する方法として、接合材料の銅粒子を導電性フィラーとして含有させた導電性ペーストや導電性インク(以下、銅粒子含有ペースト等と称す)を基板に印刷する方法が広く知られている。例えば、上記銅粒子はスラリー状に調製されてから有機物質に混入され、銅粒子含有ペースト等の接合材料として使用される。こうした銅粒子含有ペースト等を例えば、インクジェットプリンター、スクリーン印刷機、又はオフセット印刷機等を用いて直接基板に塗布することで、基板等上に簡便に配線等を形成する方法が近年開発され実用化されている。
【0003】
例えば、積層セラミックコンデンサ等に上述の銅粒子含有ペースト等を用いて電極を形成する場合には、銅粒子含有ペースト等を塗布し、この銅粒子含有ペーストを加熱してペースト中に含まれる銅粒子を焼結することによって電極を形成する。ここで、塗布した銅粒子含有ペーストを加熱処理する際には、一般に窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で実施されるが、雰囲気中に若干の酸素が混入し、銅粒子表面が酸化することがある。
【0004】
例えば、焼結を行う際には、ペースト中の樹脂や溶媒を気化させて除去する脱バインダー工程を実施することがあるが、この脱バインダー工程においてペースト中の樹脂や溶媒の分解生成物(炭素質成分)を確実に除去するために、不活性ガス雰囲気中に酸素を混入し、この酸素によって炭素質成分を燃焼除去させるかまたは分解反応を促進させることがある。このとき、バインダーに含まれる銅粒子の一部も酸化されることがある。
【0005】
銅粒子が酸化され、粒子表面が酸化銅で覆われた場合には、焼結性に影響を与えるおそれがある。また、焼結によって形成された電極等において電気抵抗が増加してしまうおそれがある。このため、上述の脱バインダー処理時においても、容易に酸化しない銅粒子が求められている。
【0006】
そこで、例えば特許文献1,2には、高温耐酸化性の向上を図った銅粒子が提案されている。
特許文献1においては、平均粒径が100μm以下の銅粒子に対して膜厚が100nm以下のSiO2系ゲルコーティング膜として銅粒子表面に被着させることで耐酸化性を担保している。
また、特許文献2においては、平均粒径が0.5~5μmの銅粉に100~2000ppmのSiを表面処理層として被着させることで耐酸化性を担保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3646259号公報
【特許文献2】特許第6159505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、最近では、銅粒子含有ペースト等を用いて形成する電子回路を更に微細化し、又は電子デバイスを更に小型化かつ高密度化することが求められている。その結果、電子回路を形成する上で、より微細な配線パターンが求められている。このため、導電性インク等の原材料である導電性スラリーの一般的な導電性金属材料である銅粒子に対しても、ナノサイズ又はサブミクロンサイズの極小粒径であることが望まれるようになってきている。なお、銅粒子においては、粒径が小さいほど比表面積が大きくなり、より酸化の影響を受けやすくなるため、銅粒子の高温耐酸化性がさらに重要となる。
ここで、上述の特許文献1,2においては、上述のように、粒径が比較的大きく、微細な配線パターンの作成に対応することができなかった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、十分に粒径が小さく、かつ、高温耐酸化性に優れた銅粒子、および、この銅粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、銅粒子の表面に耐熱性に優れた有機保護膜を形成することにより、粒径が十分に小さく、かつ、高温耐酸化性に優れた銅粒子を提供可能であるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の銅粒子は、粒子表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆された銅粒子において、一次粒子の平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲内であり、X線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が、大気雰囲気150℃で1時間処理の前後で10%未満であることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様1の銅粒子によれば、一次粒子の平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲内とされているので、粒径が十分に小さく、微細な配線パターンの作成に対応することが可能となる。また、銅粒子の反応面積が大きく、加熱による反応性が高く、これにより銅粒子を比較的低温で焼結させることができる。
そして、粒子表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆されており、X線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が、大気雰囲気150℃で1時間処理の前後で10%未満とされているので、高温耐酸化性に十分に優れている。
【0013】
本発明の態様2は、態様1の銅粒子において、前記銅粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度が10質量ppm未満であることを特徴としている。
本発明の態様2の銅粒子によれば、前記銅粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度が10質量ppm未満とされているので、銅粒子を配線材料又は接合材料として用いた場合に、金属不純物の拡散により他部材の特性を損なうおそれがない。
【0014】
本発明の態様3は、粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための分散剤及び表面保護剤を用いずに、態様1または態様2の銅粒子を製造する銅粒子の製造方法であって、カルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えて、前記カルボン酸銅の水分散液のpHを3以上10以下に調整する工程と、pH調整した前記カルボン酸銅の水分散液に酸化還元電位が-1.0V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得る工程と、不活性ガス雰囲気下、前記混合液を60℃~80℃の温度に加熱し、1.5時間~3.0時間保持することにより、前記カルボン酸銅を還元して銅粒子が分散した銅粒子分散液を得る工程と、水の割合が25質量%以下とされた洗浄媒を用いて前記銅粒子分散液を洗浄する洗浄工程と、を含むことを特徴としている。
【0015】
本発明の態様3の銅粒子の製造方法によれば、カルボン酸銅という金属化合物を銅イオンの供給源とし、カルボン酸銅の水分散液のpHを3以上10以下に調整しておき、酸化還元電位が-1.0V~-0.5Vのヒドラジン化合物で60℃~80℃の温度で、1.5時間~3.0時間保持することにより、一次粒子の平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲の銅粒子を得ることができる。
また、カルボン酸銅を構成する非金属部分である有機分子が、表面保護膜として、銅粒子の表面を被覆するため、高温耐酸化性に優れる。
【0016】
本発明の態様4は、態様3の銅粒子の製造方法において、前記カルボン酸銅が、水に難溶性であって、炭素数が4以上であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩であることを特徴としている。
本発明の態様4の銅粒子の製造方法によれば、前記カルボン酸銅が、水に難溶性であって、炭素数が4以上であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩とされているので、粒子表面に形成される有機保護膜の耐酸化性がさらに向上することになり、さらに高温耐酸化性に優れた銅粒子を製造することができる。
【0017】
本発明の態様5は、態様3または態様4の銅粒子の製造方法において、前記pH調整剤がカルボン酸アンモニウムであることを特徴としている。
本発明の態様5の銅粒子の製造方法によれば、pH調整剤に、残留金属不純物の要因となる、例えばナトリウムを含む水酸化ナトリウムを用いずに、カルボン酸アンモニウムを用いているので、得られる銅粒子の金属不純物を低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分に粒径が小さく、かつ、高温耐酸化性に優れた銅粒子、および、この銅粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態である銅粒子の一部断面説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態である銅粒子の製造方法のフロー図である。
【
図3】本発明の一実施形態である銅粒子の製造方法のフロー図である。
【
図4】実施例10の銅粒子の集合体を走査型電子顕微鏡で撮影した写真図である。
【
図5】実施例24の銅粒子の集合体を走査型電子顕微鏡で撮影した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態である銅粒子、および、銅粒子の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0021】
〔銅粒子〕
図1に示すように、本実施形態の銅粒子10においては、金属銅からなるコア粒子11の表面が、カルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜12で被覆されている。
また、銅粒子10は、一次粒子の状態で、その平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲とされている。
【0022】
銅粒子10の一次粒子の平均粒径が50nm以下である場合には、銅粒子10を用いてペーストを作製する際に、所定の組成では増粘してしまう不具合がある。また、銅粒子10の一次粒子の平均粒径が400nmを超えると、銅粒子の反応面積が大きくなく、加熱による反応性が低く、これにより比較的低温での焼結ができないおそれがある。
よって、本実施形態の銅粒子10においては、一次粒子の平均粒径を、50nmを超え400nm以下の範囲内としている。
なお、銅粒子10の一次粒子の平均粒径は、70nm以上であることが好ましく、80nm以上であることがより好ましい。一方、銅粒子10の一次粒子の平均粒径は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。
【0023】
ここで、上述の一次粒子の平均粒径は、次の方法により求められる。先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、銅粒子のサイズに応じて倍率を決め、銅粒子のSEM像を撮影する。10000倍から50000倍の範囲で撮影を行うことが好ましい。次いで、画像解析ソフトを用いてSEM像を解析し、1サンプルあたり300個以上の粒子についてHeywood径を求め、Heywood径の算術平均値を一次粒子の平均粒径とする。
【0024】
そして、本実施形態の銅粒子10においては、X線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が、大気雰囲気150℃で1時間処理の前後で10%未満とされている。
上述のように、本実施形態の銅粒子10においては、大気雰囲気150℃での熱処理の前後でX線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が10%未満されていることから、大気雰囲気で熱処理しても酸化物の生成が十分に抑えられていることになり、高温耐酸化性に十分に優れている。
なお、X線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が、大気雰囲気150℃で1時間処理の前後で5%未満であることが好ましく、1%未満であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態である銅粒子10においては、銅粒子10に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度が10質量ppm未満であることが好ましい。
上述の不純物の合計濃度を10質量ppm未満とした場合には、銅粒子を配線材料として用いた場合に、金属不純物の拡散により他部材の特性を損なうことを抑制できる。例えば配線が施される基板等を不純物が汚染して基板等の絶縁性を損なうことを抑制できる。
なお、銅粒子10に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度は、1質量ppm未満であることがより好ましい。
【0026】
なお、銅粒子10に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等が挙げられる。これらの金属の濃度は、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)により測定される。不純物金属として、酸化還元電位が銅より卑な金属とするのは、銅より貴な金、銀等の金属は、酸化還元電位が銅より高いため、還元剤の種類の如何にかかわらず、析出してしまう元素であるからである。
【0027】
有機保護膜12は、カルボン酸銅由来の有機分子で構成されている。この有機保護膜12は、金属銅からなるコア粒子11の表面を被覆し、製造してからペーストになるまでの保管中のコア粒子11の酸化防止の役割を果たす。
【0028】
また、上記カルボン酸銅としては、水に難溶性であって、炭素数が4以上であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩が好ましく用いられる。これを例示すれば、酒石酸銅(炭素数4)、クエン酸銅(炭素数6)、フタル酸銅(炭素数8)、安息香酸銅(炭素数14)等が挙げられる。なお、カルボン酸の炭素数は6以上であることがより好ましい。
炭素数が多いカルボン酸銅に由来した有機分子で構成された有機保護膜12においては、高温耐酸化性にさらに優れることになる。
【0029】
〔銅粒子の製造方法〕
本実施形態の銅粒子10の製造方法においては、カルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えて、この水分散液のpHを3以上10以下に調整し、このpH調整したカルボン酸銅の水分散液に、酸化還元電位が-1.0V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得た後、不活性ガス雰囲気下、前記混合液を60℃~80℃の温度に加熱し、1.5時間~3.0時間保持することにより、カルボン酸銅を還元して銅粒子が分散した銅粒子分散液を得て、この銅粒子分散液を、水の割合が25質量%以下とされた洗浄媒を用いて洗浄し、洗浄後の銅粒子分散液を固液分離し、固相分を乾燥することにより、銅粒子10を得る。
【0030】
出発原料のカルボン酸銅は、市販のカルボン酸銅水和物や工業用硫酸銅とカルボン酸ナトリウム、カルボン酸アンモニウムとを反応させて合成したもの等を用いることができる。また、このカルボン酸銅は、
図2に示すように、カルボン酸塩水溶液と銅電解液とを、大気雰囲気下、反応槽に入れ、60℃~80℃の温度で撹拌して反応させ、カルボン酸銅懸濁液を得た後、洗浄し、固液分離して、固形分を乾燥させて得られた粉末状の高純度のカルボン酸銅を用いてもよい。ここでのカルボン酸塩水溶液は、クエン酸、フタル酸、安息香酸、酒石酸等のカルボン酸のナトリウム塩やアンモニウム塩をイオン交換水、蒸留水等の純水に溶解して調製される。
そして、
図2に示すように、粉末状のカルボン酸銅を室温のイオン交換水、蒸留水等の純水に入れ、均一に分散するように撹拌して、25質量%以上40質量%以下の濃度のカルボン酸銅の水分散液を得る。
【0031】
次に、
図3に示すように、カルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えてこの水分散液のpHを3以上10以下に調整する。pH調整剤としては、金属成分を含まないカルボン酸アンモニウムが好ましい。
pH調整剤によって調整されたカルボン酸銅の水分散液のpHが3未満の場合には、カルボン酸銅からの銅イオンの溶出が遅く、反応が速やかに進行しにくく、目標とする粒子が得にくい。また、pH調整剤によって調整された水分散液のpHが10を超えると、一次粒子の平均粒径が増大するおそれがある。
なお、pH調整剤によって調整されたカルボン酸銅の水分散液のpHは3以上6未満の酸性領域とすることが好ましい。カルボン酸銅の水分散液のpHを6未満とすることで、ヒドラジン化合物でカルボン酸銅を還元するときに、溶出した銅イオンが水酸化銅(II)になって沈殿することを抑制でき、高い収率で銅粒子10を製造することが可能となる。
また、pH調整剤によって調整されたカルボン酸銅の水分散液のpHは4以上、5以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
図3に示すように、このpH調整したカルボン酸銅の水分散液に、雰囲気下で、還元剤として、酸化還元電位が-1.0V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得る。ヒドラジン一水和物をはじめとするヒドラジン系の還元剤は、酸性域とアルカリ域で異なる反応となることが知られている。
ここで、酸化還元電位とは標準水素電極(NHE)に対する電位差の意味である。酸化還元電位が-1.0V未満では、銅との酸化還元電位差が大きくなり、金属不純物を多く含むおそれがあり、-0.5Vを超えると銅との酸化還元電位差が小さくなるため、カルボン酸銅の還元が完了しないおそれがある。好ましい酸化還元電位の範囲は-0.7V~-0.5Vであり、さらに好ましい酸化還元電位の範囲は-0.6V~-0.5Vである。
【0033】
酸化還元電位E(V)は、pH値に基づいて、以下の式(1)で表される。
(酸性域)N2H5
+ = N2 + 5H+ + 4e-
(アルカリ域)N2H4 + 4OH- = N2 + 4H2O + 4e-
酸化還元電位E(V):-0.23 -0.075×pH (1)
例えば、pHが3であるときには、上記式(1)は[-0.23 -0.075×3]となり、酸化還元電位は、-0.455Vとなる。なお、後述する実施例及び比較例における酸化還元電位は、小数点以下第二位を四捨五入して、例えば-0.455Vは-0.5Vで示している。
【0034】
次いで、
図3に示すように、不活性ガス雰囲気下でこの混合液を60℃以上80℃以下の温度に加熱し、1.5時間以上3.0時間以下保持することにより、上記カルボン酸銅を還元してコア粒子11を生成させ、このコア粒子11の表面にカルボン酸銅由来の有機保護膜12を形成して、所望の粒径の銅粒子10の分散液(銅粒子分散液)が作られる。
不活性ガス雰囲気下で加熱保持するのは、コア粒子11の酸化を防止するためである。混合液の加熱温度が60℃未満では、カルボン酸銅の還元力が低すぎて還元反応が完了しない。80℃を超えるか、又は保持時間が3.0時間を超えると、カルボン酸銅からの銅イオンの溶出量が増えて、反応速度が上がるため、金属不純物が多く含まれてしまうとともに、有機保護膜12の被覆量が減少するおそれがある。更に、一次粒子の粒径制御が困難になるおそれがある。また、保持時間が1.5時間未満では、カルボン酸銅が完全に還元せずに所望の粒子が得られないおそれがある。3.0時間を超えると、粒径差によって生じた自由エネルギーを緩和するように微粒子の消失と粗粒子の成長が起こることで粒成長が生じるため、結果として平均粒径が400nm以下の範囲の一次粒子が得られないおそれがある。
好ましい加熱温度は65℃以上75℃以下であり、さらに好ましい加熱温度が65℃以上70℃以下である。また、好ましい保持時間は1.5時間以上2.5時間以下であり、さらに好ましい保持時間は2.0時間以上2.5時間以下である。
【0035】
このカルボン酸銅の還元を不活性ガス雰囲気下で行うのは、液中に溶出する銅の酸化を防止するためである。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。ヒドラジン化合物は、酸性下でカルボン酸銅を還元するときに、還元反応後に残渣を生じないこと、安全性が比較的高いこと及び取扱いが容易であること等の利点がある。このヒドラジン化合物としては、ヒドラジン一水和物、無水ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン等が挙げられる。この中で、硫黄や塩素といった不純物となり得る成分がないことが望ましいため、ヒドラジン一水和物が好ましい。
【0036】
なお、一般的にpH6未満の酸性液中で生成した銅は溶解してしまう。本実施形態において、pH調整剤によって調整されたカルボン酸銅の水分散液のpHを6未満の酸性領域とした場合であっても、還元剤であるヒドラジン化合物を添加混合して、液中にコア粒子11が生成すると、カルボン酸銅から生成したカルボン酸イオン由来の成分がコア粒子11表面を速やかに被覆し、コア粒子11の溶解が抑制される。なお、pH6未満のカルボン酸銅の水分散液は、温度50℃以上70℃以下にしておくことが、還元反応が進行し易く好ましい。
【0037】
そして、本実施形態である銅粒子10の製造方法においては、
図3に示すように、銅粒子分散液を洗浄する。水の割合が25質量%以下の洗浄媒を、銅粒子分散液に添加して攪拌し、静置沈降した後、上澄液を抜き取る。この作業を繰り返し実施し、銅粒子分散液を洗浄する。
ここで、水の割合が25質量%以下の洗浄媒を用いることで、コア粒子11の表面に形成された有機保護膜12を十分に残存させることができる。なお、洗浄媒における水の割合は質量20%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることがより好ましい。
また、洗浄媒の水以外の成分としては、エタノール、アセトン等の各種有機溶媒を用いることができる。
【0038】
次に、洗浄後の銅粒子分散液を、例えば遠心分離機を用いて固液分離した後、固相分を大気雰囲気あるいは窒素雰囲気で熱風乾燥することより、上述したコア粒子11の表面に有機保護膜12が形成された、本実施形態である銅粒子10が得られる。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態である銅粒子10によれば、一次粒子の平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲内とされているので、粒径が十分に小さく、微細な配線パターンの作成に対応することが可能となる。また、銅粒子10の反応面積が大きく、加熱による反応性が高く、これにより銅粒子10を比較的低温で焼結させることができる。
また、コア粒子11の表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜12で被覆されており、X線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化が、大気雰囲気150℃で1時間処理の前後で10%未満とされているので、高温耐酸化性に十分に優れている。
【0040】
本実施形態である銅粒子10において、銅粒子10に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度が10質量ppm未満である場合には、銅粒子10を配線材料又は接合材料として用いた場合に、金属不純物の拡散により他部材の特性を損なうおそれがない。
【0041】
また、本実施形態である銅粒子10の製造方法によれば、カルボン酸銅を銅イオンの供給源とし、カルボン酸銅の水分散液のpHを3以上10以下に調整しておき、酸化還元電位が-1.0V~-0.5Vのヒドラジン化合物で60℃~80℃の温度で、1.5時間~3.0時間保持することにより、一次粒子の平均粒径が50nmを超え400nm以下の範囲の銅粒子10を得ることができる。
また、カルボン酸銅を構成する非金属部分である有機分子が、表面保護膜として、コア粒子11の表面を被覆するため、高温耐酸化性に優れる。
【0042】
本実施形態である銅粒子10の製造方法において、カルボン酸銅が、水に難溶性であって、炭素数が4以上であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩である場合には、コア粒子11の表面に形成される有機保護膜12の耐酸化性がさらに向上することになり、さらに高温耐酸化性に優れた銅粒子10を製造することができる。
【0043】
本実施形態である銅粒子10の製造方法において、pH調整剤がカルボン酸アンモニウムである場合には、得られる銅粒子10の金属不純物をさらに低減することができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態である銅粒子および銅粒子の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、固液分離後の固相分を熱風乾燥して銅粒子を得る構成として説明したが、乾燥方法に限定はなく、凍結乾燥法、減圧乾燥法を用いてもよい。
【実施例0045】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0046】
先ず、実施例と比較例で使用するカルボン酸銅の種類及びその炭素数と、カルボン酸銅に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度と、各金属の不純物濃度とを、以下の表1に示す。また表1の下部に、各カルボン酸銅の製造方法を示す。表1に示す酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度は概算値である。
【0047】
【0048】
<実施例1>
先ず、出発原料であるカルボン酸銅として、表1に示すフタル酸銅を用意した。このフタル酸銅を室温のイオン交換水に入れ、撹拌羽根を用いて撹拌し、濃度30質量%のフタル酸銅の水分散液を調製した。次いで、このフタル酸銅の水分散液にpH調整剤としてのフタル酸アンモニウム水溶液を加えて、上記水分散液のpHが3になるように調整した。次に、pH調整した液を50℃の温度にし、窒素ガス雰囲気下で、pH調整した液に還元剤として、銅イオンを還元できる1.2倍当量分である酸化還元電位が-0.5Vのヒドラジン一水和物水溶液(2倍希釈)を一気に添加し、撹拌羽を用いて均一に混合した。更に、目標とする銅粒子を合成するために、上記水分散液と上記還元剤との混合液を窒素ガス雰囲気下で保持温度の70℃まで昇温し、70℃で2時間保持した。
そして、得られた銅粒子分散液に、エタノール100質量%の洗浄媒を添加して攪拌し、静置沈降した後、上澄液を抜き取る。この作業を3回繰り返し実施し、銅粒子分散液を洗浄した。
洗浄した銅粒子分散液を遠心分離機によって固液分離し、銅粒子分散液中の銅粒子を固形分とした。回収した固形分を150℃の温風乾燥によって乾燥し、実施例1の銅粒子を製造した。
【0049】
<実施例2~44、比較例1~22>
実施例1の出発原料であるフタル酸銅と同一又は異なるカルボン酸銅(表1参照)を用い、調整したpH値を実施例1と同一又は変更し、還元剤の種類及び酸化還元電位を実施例1と同一又は変更し、銅粒子の合成時の保持温度とその保持時間を実施例1と同一又は変更した。そして、得られた銅粒子分散液を、実施例1と同一又は異なる洗浄媒を用いて洗浄した。
それ以外は実施例1と同様にして、実施例2~44、比較例1~22の銅粒子を製造した。なお、比較例6~9では、表1に示す添加剤を添加した。
これらの銅粒子の中で、実施例10及び実施例24で得られた各銅粒子の集合体を走査型電子顕微鏡で撮影した写真図を、
図4及び
図5にそれぞれ示す。また、
図4,5に示すように、実施例10、24においては、粒径が均一な銅粒子が観察されている。
【0050】
実施例1~44の製造条件を下記の表2,3に、また比較例1~22の銅粒子の製造条件を下記の表4に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
<比較評価試験と結果>
実施例1~44及び比較例1~22の銅粒子について、銅粒子の一次粒子の平均粒径、酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度、大気雰囲気150℃で1時間保持の熱処理前後におけるX線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化率を、実施形態に記載した方法でそれぞれ求めた。それらの結果を、以下の表5~7にそれぞれ示す。ここで、酸化還元電位が銅より卑な金属不純物の合計濃度は、各金属不純物を合計した濃度である。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
比較例1~22においては、いずれも銅粒子分散剤を洗浄する際に、水の割合が30質量%以上の洗浄媒を用いており、大気雰囲気150℃で1時間保持の熱処理前後におけるX線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化率が非常に大きくなった。洗浄によって、銅粒子の表面に形成された有機保護膜の一部が除去され、高温耐酸化性が低下したと推測される。また、いずれのカルボン酸銅を銅原料としても同様の傾向であった。
【0059】
これに対して、実施例1~44においては、いずれも銅粒子分散剤を洗浄する際に、水の割合が25質量%以下の洗浄媒を用いており、大気雰囲気150℃で1時間保持の熱処理前後におけるX線回折(XRD)におけるCu2O/Cuの最高ピーク強度の比の変化率が10%未満と小さくなった。洗浄した後も、銅粒子の表面に形成された有機保護膜が十分に残存しており、高温耐酸化性に優れていると推測される。また、いずれのカルボン酸銅を銅原料としても同様の傾向であった。
なお、製造条件を適正化することにより、一次粒子の平均粒径の微細化、および、銅より卑な金属の合計濃度を低減可能であった。
【0060】
以上の確認実験から、本発明によれば、十分に粒径が小さく、かつ、高温耐酸化性に優れた銅粒子、および、この銅粒子の製造方法を提供可能であることが確認された。
本発明の銅粒子は、ファインピッチ用鉛フリーの配線用又は接合用粒子として利用でき、この配線用粒子又は接合用粒子を原料として得られる配線用ペースト又は接合用ペーストは、微細な電子部品の実装に好適に用いることができる。