IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 群栄化学工業株式会社の特許一覧

特開2024-129990ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法
<>
  • 特開-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法 図1
  • 特開-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法 図2
  • 特開-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法 図3
  • 特開-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129990
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/48 20060101AFI20240920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C07D307/48
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039441
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 和樹
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA41
4H039CA62
4H039CC20
4H039CG10
4H039CG90
(57)【要約】
【課題】ヒドロキシメチルフルフラールを高収率に製造できる製造方法の提供。
【解決手段】アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩、ならびにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、有機液体及び水を媒体として水熱処理する、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であり、前記炭水化物のフラクト分が40モル%以上である、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩、ならびにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、有機液体及び水を媒体として水熱処理する、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であり、
前記炭水化物のフラクト分が40モル%以上である、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項2】
前記炭水化物のフラクト分が100モル%未満である請求項1に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項3】
前記原料を水熱処理する時間が0.5~5時間である請求項1又は2に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物を水熱処理することで、ヒドロキシメチルフルフラールが生成することが知られている。
特許文献1には、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在下、バイオマス由来の炭水化物を含有する原料を、水及び有機液体を媒体として水熱処理するヒドロキシメチルフルフラールの合成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-143046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在によってヒドロキシメチルフルフラールの収率が向上するとされている。しかし、その効果が充分ではないことがある。
本発明は、ヒドロキシメチルフルフラールを高収率に製造できる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩、ならびにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、水及び有機液体を媒体として水熱処理する、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であり、
前記炭水化物のフラクト分が40モル%以上である、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
[2]前記炭水化物のフラクト分が100モル%未満である[1]に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
[3]前記原料を水熱処理する時間が0.5~5時間である[1]又は[2]に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ヒドロキシメチルフルフラールを高収率に製造できる製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1~7、比較例1~4で用いた炭水化物を横軸に、各例のヒドロキシメチルフルフラール(HMF)収率(%)を縦軸にとったグラフ。
図2】実施例1~7、比較例1~4で用いた炭水化物を横軸に、各例のグルコース残量(%)を縦軸にとったグラフ。
図3】実施例1~7、比較例1~4で用いた炭水化物を横軸に、各例のフルクトース残量(%)を縦軸にとったグラフ。
図4】実施例6における反応時間を横軸に、HMF収率、グルコース残量及びフルクトース残量を縦軸にとったグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ヒドロキシメチルフルフラール(以下、「HMF」とも記す。)は、フラン環の2位にホルミル基、5位にヒドロキシメチル基が置換した化合物である。
本発明の一実施形態に係るHMFの製造方法は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩(以下、「アルカリ(土類)金属塩」とも記す。)、ならびにアルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、水及び有機液体を媒体として水熱処理する。これにより、HMFが生成する。
【0009】
(原料)
原料は炭水化物を含む。
炭水化物は、単糖単位を1つ有する化合物(単糖)であってもよく、単糖単位を2つ以上有する化合物(オリゴ糖、デキストリン、フルクタン、デンプン、それらの誘導体等)であってもよく、これらの化合物の2種以上の混合物であってもよい。
【0010】
本実施形態において、原料中の炭水化物は、フラクト分が40モル%以上である。
「フラクト分」とは、炭水化物中の全ての単糖単位の合計に対するフルクトース単位の割合である。例えば炭水化物がスクロースの場合、スクロースは1つのフルクトース単位と1つのグルコース単位とからなるため、フラクト分は50モル%である。
【0011】
フルクトース単位は、フルクトース以外の単糖単位に比べ、水熱処理で高収率にHMFに変換できる。そのため、フラクト分が40モル%以上の炭水化物を用いることで、HMFの収率が向上する。
また、フルクトース単位は、フルクトース以外の単糖単位に比べ、水熱処理でHMFに変換するために必要な反応時間が短い。そのため、フラクト分が40モル%以上の炭水化物を用いることで、反応時間を短くでき、生産性が向上する。また、反応時間が長くなると、生成したHMFの分解や高分子量化が進み、HMFの収率があまり上がらなくなるおそれがあるが、反応時間が短くなることで、HMFの分解や高分子量化を抑制できる。
炭水化物のフラクト分は、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。
炭水化物のフラクト分は100モル%であってもよいが、フルクトース単位のみからなる炭水化物は製造に手間がかかり、高コストになる傾向がある。本実施形態の方法によれば、フラクト分が100モル%でなくても高収率を達成できるので、炭水化物のフラクト分は、100モル%未満が好ましく、90モル%以下がより好ましい。
【0012】
フラクト分が40モル%以上の炭水化物は、フルクトース単位を有する化合物の1種以上からなるものであってもよく、フルクトース単位を有する化合物の1種以上と、フルクトース以外の単糖単位を有し、フルクトース単位を有さない化合物の1種以上とからなるものであってもよい。フルクトース単位を有する化合物は、フルクトース以外の単糖単位をさらに有していてもよい。フルクトース以外の単糖としては、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロース、デオキシリボース等が挙げられる。
【0013】
炭水化物がフルクトース単位を有する化合物の1種からなる場合、フルクトース単位を有する化合物は、全ての単糖単位の合計に対するフルクトース単位の割合が40モル%以上である。炭水化物がフルクトース単位を有する化合物の2種以上からなる場合、それらの全ての前記フルクトース単位の割合が40モル%以上であってもよく、一部の前記フルクトース単位の割合が40モル%超で、一部の前記フルクトース単位の割合が0モル%超40モル%未満であってもよい。
炭水化物がフルクトース単位を有する化合物の1種以上と、フルクトース以外の単糖単位を有し、フルクトース単位を有さない化合物の1種以上とからなる場合、フルクトース単位を有する化合物の少なくとも1種は、全ての単糖単位の合計に対するフルクトース単位の割合が40モル%超である。
【0014】
フルクトース単位を有する化合物としては、例えば、フルクトース、スクロース、フラクトオリゴ糖、フルクタン(イヌリン、レバン等)等が挙げられる。
フルクトース以外の単糖単位を有し、フルクトース単位を有さない化合物としては、例えば、フルクトース以外の単糖、フラクトオリゴ糖以外のオリゴ糖(マルトース、マルトトリオース等)、デキストリン、セルロース、デンプン等が挙げられる。
【0015】
炭水化物は、反応性の観点から、水溶性であることが好ましい。
炭水化物が水溶性であるとは、析出することなく、水に溶解することを意味する。
【0016】
原料は、炭水化物以外の成分を含んでいてもよい。
炭水化物以外の成分としては、例えば水が挙げられる。なお、原料が水を含む場合、原料中の水は、水熱処理の媒体を構成する水の一部である。
【0017】
原料は市販品を用いることができる。
炭水化物及び水を含む原料の市販品の例としては、果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、マルトースシロップ等が挙げられる。
【0018】
(アルカリ(土類)金属塩)
アルカリ(土類)金属塩は水に溶解して塩析効果を発揮する。アルカリ(土類)金属塩の存在下で水熱処理を行うことで、有機液体と水とを相分離させ、水相で生成したHMFが有機液体相に移行させることができる。HMFは水中では不安定で、フミン化又は分解が生じやすいが、有機液体中では比較的安定である。HMFが有機液体相に移行することで、HMFの収率が向上する。
【0019】
アルカリ(土類)金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。これらの中でも、塩析効果に優れる点で、カルシウム塩が好ましい。
アルカリ(土類)金属塩においてアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンと塩を形成するアニオンとしては、F、Cl、Br、I、HSO 、SO 2-、CFSO 、NO 、(CFSO、BF 、PF 、CHCOO、CFCOO、HPO 、及びPO 2-等が挙げられる。これらの中でも、異性化効果に優れる点で、Clが好ましい。
アルカリ(土類)金属塩としては、塩化カルシウムが特に好ましい。
アルカリ(土類)金属塩は、水和物であってもよい。
【0020】
(アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩)
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩は触媒として機能する。アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の存在下で水熱処理を行うことで、HMFの収率が向上する。
【0021】
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩としては、鉄塩、銅塩、アルミニウム塩、鉛塩、亜鉛塩、すず塩、タングステン塩、インジウム塩、モリブデン塩、クロム塩、ゲルマニウム塩、タンタル塩、マグネシウム塩、コバルト塩、カドミウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩、バナジウム塩、ガリウム塩、アンチモン塩、マンガン塩、ニッケル塩、ハフニウム塩、ニオブ塩、ビスマス塩、レニウム塩、及びタリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、反応性に優れる点で、鉄塩が好ましい。
卑金属塩において卑金属イオンと塩を形成するアニオンとしては、F、Cl、Br、I、HSO 、SO 2-、CFSO 、NO 、(CFSO、BF 、PO 3-、PF 、CHCOO、CFCOO、HPO 、及びPO 2-等が挙げられる。これらの中でも、異性化効果に優れる点で、Clが好ましい。
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩としては、塩化鉄が特に好ましい。
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩は、水和物であってもよい。
【0022】
(有機液体)
有機液体は、典型的には、HMFを溶解可能な有機溶剤である。
有機液体の具体例としては、テトラヒドロフラン(以下、「THF」とも記す。)、メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、酢酸エチル、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフィド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
有機液体としては、水に少しだけ溶け、アルカリ(土類)金属塩の存在下で水と相分離できる点で、THF、ジオキサン、ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフィド、メチルエチルケトン等が好ましい。
これらの有機液体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
反応圧力を下げるため、有機液体の一部を、より高沸点の有機液体に置換することができる。例えば、有機液体として、THFと、トルエン等の芳香族炭化水素とを併用すると、THFを単独で用いる場合に比べ、反応圧力を低くできる。
【0023】
(水熱処理)
アルカリ(土類)金属塩及びアルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、水及び有機液体を媒体として水熱処理することで、HMFを含む反応液が得られる。
【0024】
アルカリ(土類)金属塩の使用量は、炭水化物100質量部に対し、40~80質量部が好ましく、60~70質量部がより好ましい。アルカリ(土類)金属塩の使用量が上記下限値以上であれば、塩析の効果により有機液体相と水相の二層に分離させやすい。二層に分離すると、副生成物や固着物の生成が少ない条件で反応を行うことができ、収率も高くなる。上記上限値以下であれば、充分に二相に分離するため、有機液体相の回収及び有機液体相中に溶解するHMFの抽出が容易となる。
【0025】
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の使用量は、炭水化物100質量部に対し、1~20質量部が好ましく、5~10質量部がより好ましい。アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の使用量が上記下限値以上であれば、副生成物の生成を抑えつつ、高収率でHMFに変換することができる。上記上限値以下であれば、更に短い反応時間で且つ高収率でHMFに変換することができる。
【0026】
水の使用量は、炭水化物及び水の合計100質量部に対する炭水化物の割合が、10~50質量部となる量が好ましく、20~40質量部となる量がより好ましい。炭水化物の割合が上記下限値以上であれば、反応後の有機液体相の回収及び有機液体相中に溶解するHMFの抽出が容易となる。上記上限値以下であれば、炭水化物の濃度を低くすることができるため、副生成物の生成を抑えつつ、高収率でHMFに変換することができる。
【0027】
有機液体の使用量は、炭水化物及び水の合計100質量部に対し、200~500質量部が好ましく、300~400質量部がより好ましい。有機液体の使用量が上記下限値以上であれば、有機液体によるHMFの抽出効率が上がるため、副生成物の抑制をすることができ、HMFの収率が向上する。上記上限値以下であれば、反応後の有機液体の除去が容易になる利点があり、それによって、反応後の有機液体の除去の手間が減り、且つ廃液量が少なくなる。
【0028】
水熱処理は、バッチ式、フロー式、パーコレート式等の公知の方法により実施できる。例えばバッチ式の場合、耐圧容器に攪拌子、原料、水、有機液体、アルカリ(土類)金属塩及びアルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩を仕込み、攪拌下で任意の反応温度に昇温し、任意の反応時間保持した後、冷却する方法が挙げられる。
反応温度は、130~160℃が好ましく、140~150℃がより好ましい。反応温度が上記下限値以上であれば、反応時間を短くできる。反応温度が上記上限値以下であれば、反応圧力を低くできる。
反応時間は、0.5~5時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。反応時間が上記下限値以上であれば、フルクトース単位が充分にHMFに変換される。反応時間が上記上限値以下であれば、生成したHMFのフミン化や分解を抑制できる。
反応圧力は、使用する有機液体の沸点、反応温度等に応じた値となるが、例えば0.60~1.3MPaである。
水熱処理後、必要に応じて、抽出、フミン質など副生成物の除去等の処理を行ってもよい。
【実施例0029】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下において「%」は、特に説明のない場合は「質量%」を示す。
ガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
【0030】
[ガスクロマトグラフィー(GC)]
・装置:島津製作所社製「GC2014」
・分析カラム:島津ジーエルシー社製「ZB-5」
・カラム温度:100℃
・キャリアガス:ヘリウム、窒素
・検出器:FID
【0031】
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)]
・装置:島津製作所社製「島津prominence」
・カラム:島津ジーエルシー社製「SCR-101N」
・溶離液:超純水
・カラム温度:35℃
・流速:0.5mL/min
・検出器:RI
【0032】
<実施例1:フルクトース(フラクト分100モル%)を用いたHMFの合成>
以下の手順でHMFの合成を行った。
温度センサー、マグネティックスターラー、圧力計を備えた内容量100mLの反応容器にフルクトース(特級、富士フィルム和光純薬製)2.25gを仕込んだ。次いで、純水3.75g、THF(三菱ケミカル製)20.0gを仕込んだ。次いで、塩化カルシウム・二水和物(特級、富士フィルム和光純薬製)1.50g、塩化鉄・六水和物(特級、富士フィルム和光純薬)0.15gを仕込み、系内を均一に混合させた。次いで、400rpmで攪拌しながら150℃まで昇温させた。150℃に到達後、150℃±1℃で1時間保持し、その後、反応容器に冷却水を循環させることで、30℃以下まで冷却した。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応後の液は、水層及び有機層(THF層)の二層に分離していた。次いで、分液漏斗にTHF50.0g、純水50.0gを添加し、水層及び有機層(THF層)をそれぞれ回収した。有機層(THF層)に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。また、水層に残存するグルコース及びフルクトースの量を高速液体クロマトグラフィーで確認した。
【0033】
<実施例2:高果糖液糖(フラクト分90モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに高果糖液糖(群栄化学工業社製「HF90」、BRIX75)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0034】
<実施例3:イヌリン(フラクト分90モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにイヌリン(フジFF、フジ日本精糖社製)2.25gを用いた以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0035】
<実施例4:果糖ぶどう糖液糖(フラクト分55モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに果糖ぶどう糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガーHF55」、BRIX75)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0036】
<実施例5:フラクトオリゴ糖(フラクト分55モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにフラクトオリゴ糖(明治社製「メイオリゴG」、BRIX75)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0037】
<実施例6:スクロース(フラクト分50モル%)を用いたHMFの合成>
以下の手順でHMFの合成を行った。
温度センサー、マグネティックスターラー、圧力計を備えた内容量100mLの反応容器にスクロース(特級、富士フィルム和光純薬)2.25gを仕込んだ。次いで、純水3.75g、THF(三菱ケミカル製)20.0gを仕込んだ。次いで、塩化カルシウム・二水和物1.50g(特級、富士フィルム和光純薬製)、塩化鉄・六水和物0.15g(特級、富士フィルム和光純薬)を仕込み、系内を均一に混合させた。次いで、400rpmで攪拌しながら150℃まで昇温させた。150℃に到達後、150℃±1℃で所定時間(1時間、2時間、3時間又は5時間)保持し、その後、反応容器に冷却水を循環させることで、30℃以下まで冷却した。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応後の液は、水層及び有機層(THF層)の二層に分離していた。次いで、分液漏斗にTHF50.0g、純水50.0gを添加し、水層及び有機層(THF層)をそれぞれ回収した。有機層(THF層)に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。また、水層に残存するグルコース及びフルクトースの量を高速液体クロマトグラフィーで確認した。
【0038】
<実施例7:ぶどう糖果糖液糖(フラクト分42モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにぶどう糖果糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガー 75FG」、BRIX75)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0039】
<比較例1:グルコース(フラクト分0モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにグルコース(特級、富士フィルム和光純薬製)2.25gを用いた以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0040】
<比較例2:セルロース(フラクト分0モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにセルロース粉末(38μm(400mesh通過)、富士フィルム和光純薬製)2.25gを用いた以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0041】
<比較例3:マルトースシロップ(フラクト分0モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにマルトースシロップ(群栄化学工業社製「KM-55」、BRIX75)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0042】
<比較例4:デキストリン(フラクト分0モル%)を用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにデキストリン(サンエイ糖化社製「NSD500」)2.25gを用いた以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0043】
測定結果を図1~4に示す。
図1は、実施例1~7、比較例1~4で用いた炭水化物を横軸に、各例のHMF収率(%)を縦軸にとったグラフである。
図2は、実施例1~7、比較例1~4で用いた炭水化物を横軸に、各例のグルコース残量(%)を縦軸にとったグラフである。グルコース残量(%)は、炭水化物の全ての単糖単位の合計100モル%に対する割合(モル%)である。
図3は、実施例1~7、比較例1~4で用いた炭水化物を横軸に、各例のフルクトース残量(%)を縦軸にとったグラフである。フルクトース残量(%)は、炭水化物の全ての単糖単位の合計100モル%に対する割合(モル%)である。
図4は、実施例6における反応時間を横軸に、HMF収率、グルコース残量及びフルクトース残量を縦軸にとったグラフである。
【0044】
図1に示すように、フラクト分が40モル%以上の炭水化物を用いた実施例1~7は、フラクト分を含まない炭水化物を用いた比較例1~4に比べ、HMFの収率が高かった。また、実施例1~7のなかでは、フラクト分が比較的多い炭水化物を用いた実施例1~3のHMF収率が特に高かった。
図2~3に示すように、実施例3~7、比較例1~4では1時間の反応後にグルコースが残存しており、炭水化物に由来するグルコースの少なくとも一部はHMFに変換されていなかった。これに対し、実施例1~7、比較例1~4では1時間の反応後にフルクトースが残存しておらず、炭水化物に由来するフルクトースが全てHMFに変換されたと推測される。この結果から、グルコースよりもフルクトースの方が、上記反応においてHMFに変換されやすいことが確認された。
図4に示すように、スクロースに由来するグルコース及びフルクトースのうち、フルクトースは反応時間約1時間で反応系から無くなり、グルコースは反応時間約5時間でも残存していた。この結果からも、グルコースよりもフルクトースの方が、上記反応においてHMFに変換されやすいことが確認された。
また、図4に示すように、フルクトース残量が0%になった後、経時でグルコース残量は減少しているが、HMF収率はグルコース残量の減少量ほどは増えていなかった。生成したHMFが分解したり高分子量化したりして、HMFが減少したと推測される。
よって、原料としてフルクト分の高い炭水化物を用い、反応時間を短くすることが、HMF収率の向上に有効である。
【0045】
<実施例8~9>
フルクトース(フラクト分100モル%)2.25gの代わりに、グルコースとフルクトースとの混合物(フラクト分40%)の水溶液3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
実施例1、8~9における反応条件(反応温度、反応時間、媒体)、HMFの収率を表1に示す。表1中、「F分」はフラクト分を意味する(以下同様)。
表1に示すように、フラクト分が高いほど、収率が高くなる傾向が確認された。
【0046】
【表1】
【0047】
<実施例10~12>
反応温度を160℃、140℃又は130℃に変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
実施例1、10~12における反応条件(反応温度、反応時間、媒体、塩化鉄・六水和物の仕込み量)、HMFの収率、系内の圧力を表2に示す。
表2に示すように、反応温度が低いほど系内の圧力が低くなり、反応温度が高いほど収率が高くなる傾向が確認された。
【0048】
【表2】
【0049】
<実施例13~15>
塩化鉄・六水和物の仕込み量又は/及び反応温度を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
実施例1、13~15における反応条件(反応温度、反応時間、媒体、塩化鉄・六水和物の仕込み量)、HMFの収率、系内の圧力を表3に示す。
表3に示すように、同じ反応温度・反応時間下で触媒量を増やした条件では、収率がわずかに低下することが確認した。収率が低下した理由として、系内のpHが低下したことが要因と考えられる。塩化鉄・六水和物を水中に溶解させると、加水分解反応により酸が発生する。それゆえ、塩化鉄・六水和物の量が増えると、発生する酸の量が増えるため、系内のpHは低下する。今回のHMFへの変換は、酸が触媒となった脱水反応が起きるため、pHが低い系の方が変換率は高い。一方で、HMFは、pH4~5付近下が最も安定な物質で、低いpH下では比較的不安定な物質である。今回、触媒量を増やしたことで、HMFへの変換効率は向上した一方で、生成したHMFの副生成物化が起きたことにより、結果収率が低下したと思われる。各実施例において、反応温度は同じで反応時間を短くした条件の方が収率は良い可能性があると考えられる。
同じ触媒量・反応時間下で、反応温度を下げた条件では、系内の圧力は低下したが、収率が低くなる結果となった。HPLCにて、130℃、140℃、150℃反応後のフルクトース量を確認したが、いずれの反応条件においても系内中にフルクトースは残っていなかった。結果より、HMFへの変換反応は130~150℃程度の温度で充分に進行することが確認された。
【0050】
【表3】
【0051】
<実施例16~18>
純水の仕込み量を表4に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
実施例1、16~18における反応条件(反応温度、反応時間、媒体、純水量)、HMFの収率を表4に示す。
表4に示すように、水の量が多いほど収率が高くなる傾向が確認された。水の量が多いほど、系内の炭水化物の濃度を低下することができるため、フルクトースとHMFの重合化によるフミン化の抑制につながったと推測される。
【0052】
【表4】
【0053】
<実施例19~21>
THFの仕込み量を表5に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
実施例1、19~21における反応条件(反応温度、反応時間、媒体、THF量)、HMFの収率を表5に示す。
表5に示すように、THF量は20gが適正の量であることが確認された。THF量が少ない条件下(10g)では、水相で生成したHMFの抽出効率が低下するため、HMFの副生成物化が起きやすくなり、収率が低下すると考えられる。一方、THF量が多すぎる条件(30g、40g)では、抽出効率が向上する一方、溶液の混和性が低下する。それゆえ、20gの時と収率がそこまで変わらないと考えられる。以上の結果より、今回の系では20gが最も適正である。
【0054】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、HMFを高収率に製造できる製造方法を提供できる。
得られるHMFは、バイオプラスチックのモノマー、生理活性物質等、種々の用途に利用できる。
図1
図2
図3
図4