(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130008
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電動シリンダ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/138 20060101AFI20240920BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60T13/138 A
B60T8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039469
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠介
(72)【発明者】
【氏名】堀江 勇冶
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB45
3D048CC54
3D048HH15
3D048HH18
3D048QQ07
3D048RR11
3D048RR29
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA22
3D246GC14
3D246HA38A
3D246JB04
3D246JB32
3D246LA15Z
3D246LA52Z
3D246LA63Z
3D246LA75Z
(57)【要約】
【課題】電動シリンダ装置に関して、ピストンの位置を検出する精度を向上させる。
【解決手段】電動シリンダ装置は、電動シリンダ51と制御装置とを備えている。電動シリンダ51は、ピストン512が終点位置EPに位置する場合にピストン512を前進方向Zaに押す力をピストン512に付与する弾性体518を備えている。制御装置は、ピストン512を終点位置EPまで移動させる終点移動処理を実行する。終点移動処理は、ピストン512を後退方向Zbに移動させるべく電気モータ513の回転数を目標回転数にするように電気モータ513を駆動させ、電気モータ513に流れる電流値が判定値よりも増加した場合に、ピストン512が終点位置EPに到達したと判断して電気モータ513の駆動を終了する。上記判定値は、電気モータ513の回転数が目標回転数に追従している際の電気モータ513に流れている電流値よりも増加量だけ大きくした値である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液を貯留するリザーバタンクと、
電気モータの駆動に応じてシリンダ内でピストンを移動させることによって作動液を供給対象に供給するように構成された電動シリンダと、
前記電気モータを制御する制御装置と、を備え、前記供給対象に作動液を供給する電動シリンダ装置であって、
前記電動シリンダは、前記シリンダと前記ピストンとによって前記シリンダ内に区画されている液圧室と、前記リザーバタンクと前記液圧室とを連通させる入力ポートと、前記液圧室の作動液を前記供給対象に向けて吐出する出力ポートと、を有し、
前記ピストンの移動方向のうち前記液圧室の容積を小さくする方向を前進方向として、前記移動方向のうち前記前進方向とは反対方向を後退方向として、
前記制御装置は、前記ピストンを前記後退方向における端部に移動させた位置を終点位置として、該終点位置から前記前進方向に前記ピストンを規定の移動量だけ移動させた位置である原点位置を、前記ピストンを移動させる際に用いて、前記電気モータを駆動させるものであり、
前記電動シリンダは、前記ピストンが前記終点位置に位置する場合に前記ピストンを前記前進方向に押す力を前記ピストンに付与する弾性体を備え、
前記電動シリンダは、前記ピストンが前記原点位置に位置する場合には前記入力ポートが開放されており、且つ、前記原点位置から前記ピストンが前記前進方向に移動すると当該ピストンによって前記入力ポートが閉塞されることで前記液圧室の液圧が増大するように構成されており、
前記制御装置は、前記入力ポートに対する前記ピストンの相対位置を設定するために前記ピストンを前記終点位置まで移動させる終点移動処理を実行し、
前記終点移動処理は、前記ピストンを前記後退方向に移動させるべく前記電気モータの回転数を目標回転数にするように前記電気モータを駆動させ、前記電気モータに流れる電流値が判定値よりも増加した場合に、前記ピストンが前記終点位置に到達したと判断して前記電気モータの駆動を終了するものであり、
前記判定値は、前記電気モータの回転数が前記目標回転数に追従している際の前記電気モータに流れている電流値を基準として該電流値よりも増加量だけ大きくした値である
電動シリンダ装置。
【請求項2】
前記終点移動処理では、前記制御装置は、前記電気モータが動き出してから前記判定値を設定する
請求項1に記載の電動シリンダ装置。
【請求項3】
前記判定値は、第1判定値であり、
前記終点移動処理では、前記制御装置は、前記電気モータが動き出す前に該電気モータに流れる電流値が第2判定値よりも増加した場合には、前記ピストンが前記終点位置に到達したと判断して前記電気モータの駆動を終了するものであり、
前記制御装置は、前記第2判定値よりも小さい値として前記第1判定値を設定する
請求項2に記載の電動シリンダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気モータの駆動に応じてシリンダ内でピストンを移動させる電動シリンダが開示されている。この電動シリンダでは、ピストンを終点位置まで後退させた後に、ピストンを所定量だけ前進させた位置を、液圧を発生させる基点となる原点位置として設定するように構成されている。終点位置は、ピストンが後退方向における端に突き当たることで電気モータの回転角の時間変位が収束した際において、最も後退方向側の回転角を終点位置に対応する回転角とすることで検出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動シリンダにおいてピストンが後退方向における端に突き当たることで後退方向へのピストンの移動が規制されている状態で、電気モータの駆動が継続されていると、電気モータが発生させる回転トルクが過度に大きくなることがある。
【0005】
特許文献1のようにピストンを突き当てることで終点位置を検出しようとすると、電動シリンダにかかる負荷が大きくなるため、電動シリンダを構成する部品の耐久性が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための電動シリンダ装置は、作動液を貯留するリザーバタンクと、電気モータの駆動に応じてシリンダ内でピストンを移動させることによって作動液を供給対象に供給するように構成された電動シリンダと、前記電気モータを制御する制御装置と、を備え、前記供給対象に作動液を供給する電動シリンダ装置であって、前記電動シリンダは、前記シリンダと前記ピストンとによって前記シリンダ内に区画されている液圧室と、前記リザーバタンクと前記液圧室とを連通させる入力ポートと、前記液圧室の作動液を前記供給対象に向けて吐出する出力ポートと、を有し、前記ピストンの移動方向のうち前記液圧室の容積を小さくする方向を前進方向として、前記移動方向のうち前記前進方向とは反対方向を後退方向として、前記制御装置は、前記ピストンを前記後退方向における端部に移動させた位置を終点位置として、該終点位置から前記前進方向に前記ピストンを規定の移動量だけ移動させた位置である原点位置を、前記ピストンを移動させる際に用いて、前記電気モータを駆動させるものであり、前記電動シリンダは、前記ピストンが前記終点位置に位置する場合に前記ピストンを前記前進方向に押す力を前記ピストンに付与する弾性体を備え、前記電動シリンダは、前記ピストンが前記原点位置に位置する場合には前記入力ポートが開放されており、且つ、前記原点位置から前記ピストンが前記前進方向に移動すると当該ピストンによって前記入力ポートが閉塞されることで前記液圧室の液圧が増大するように構成されており、前記制御装置は、前記入力ポートに対する前記ピストンの相対位置を設定するために前記ピストンを前記終点位置まで移動させる終点移動処理を実行し、前記終点移動処理は、前記ピストンを前記後退方向に移動させるべく前記電気モータの回転数を目標回転数にするように前記電気モータを駆動させ、前記電気モータに流れる電流値が判定値よりも増加した場合に、前記ピストンが前記終点位置に到達したと判断して前記電気モータの駆動を終了するものであり、前記判定値は、前記電気モータの回転数が前記目標回転数に追従している際の前記電気モータに流れている電流値を基準として該電流値よりも増加量だけ大きくした値であることをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、終点移動処理を実行した場合に、目標回転数に回転数が追従するように電気モータを駆動してピストンを後退方向に移動させていると、ピストンと弾性体とが接触する。ピストンと弾性体とが接触してからもピストンを後退方向に移動させ続けると、ピストンと弾性体との接触後に弾性体が弾性変形することに伴って徐々にトルクが増加する。このため、ピストンが終点位置に近づくと、電気モータの発生させるトルク、すなわち電気モータに流れる電流値が徐々に大きくなる。そこで上記構成では、ピストンが終点位置に到達したと判定するための判定値を、電気モータの回転数が目標回転数に追従している際の電気モータに流れる電流値を基準として設定している。基準とする電流値から増加量だけ大きい値が判定値とされることによって、ピストンを後退方向に移動させ終わるまでに電流値が過度に大きくなりにくい。これによって、ピストンを終点位置に移動させる際に電動シリンダにかかる負荷が大きくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、電動シリンダ装置の一実施形態を適用する制動装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の電動シリンダ装置が備える電動シリンダの構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の電動シリンダ装置が備える電動シリンダの構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図1の電動シリンダ装置が備える制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図1の電動シリンダ装置において、ピストンを終点位置まで移動させる際の電流値の推移を示すタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、
図1の電動シリンダ装置が備える電動シリンダの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、電動シリンダ装置の一実施形態について、
図1~
図6を参照して説明する。
図1は、電動シリンダ装置を適用する一例として、車両の制動装置20を示す。制動装置20は、車両の車輪に制動力を付与することができる制動部を備えている。制動装置20は、制動部を制御することができる制御装置100を備えている。制動装置20の一例は、制動部として第1制動部50及び第2制動部23を備えている。第1制動部50は、電動シリンダ51を備えている。電動シリンダ装置は、電動シリンダ51と制御装置100とによって構成されている。電動シリンダ装置は、リザーバタンク24を備えている。
【0010】
図1には、車両の車輪として、前輪FL,FR及び後輪RL,RRを示している。車両は、制動操作部材21を備えている。制動操作部材21は、車両の運転者によって操作が可能である。制動操作部材21の一例は、ブレーキペダルである。
【0011】
制御装置100は、車両が備える処理回路の一例である。車両は、制御装置100に限らず、他の処理回路を備えていてもよい。制御装置100が実現する機能の一部は、他の処理回路によって実現されてもよい。車両が備える処理回路同士は、互いに情報の送受信が可能なように接続されているとよい。例えば、車両が備える車載ネットワークに各処理回路が接続されている構成を採用できる。車載ネットワークに接続されている各処理回路は、車載ネットワークを介して相互に通信が可能である。車載ネットワークには、例えば、車両が備える各種センサ等の検出系が接続されていてもよい。
【0012】
<制動装置>
制動装置20は、車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれに対応した制動機構を備えている。制動機構によって、各車輪FL,FR,RL,RRに対して摩擦制動力を付与することができる。各制動機構が車輪FL,FR,RL,RRに付与する摩擦制動力は、制動装置20によって調整することができる。
図1には、制動機構として、車輪のうち前輪FL,FRに対応する前輪制動機構10Aと、車輪のうち後輪RL,RRに対応する後輪制動機構10Bと、を示す。
【0013】
制動装置20の一例は、液圧式の制動装置である。例えば、制動装置20は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク24と、液圧発生装置22と、を備えている。液圧発生装置22の一例は、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式の液圧発生装置である。液圧発生装置22は、制動操作部材21の操作量に応じて液圧を発生させることができる。液圧発生装置22は、マスタ装置30と、第1制動部50と、によって構成されている。マスタ装置30は、第2制動部23にブレーキ液を供給することができる。第1制動部50は、マスタ装置30と第2制動部23とにブレーキ液を供給することができる。
【0014】
<制動機構>
前輪制動機構10A及び後輪制動機構10Bについて説明する。前輪制動機構10Aは、ブレーキ液が供給されるホイールシリンダ11と、車輪と一体に回転する回転板12と、回転板12に対して回転板12の板厚方向に相対移動する摩擦材13と、を有している。前輪制動機構10Aは、ホイールシリンダ11内の液圧であるWC圧Pwcが高いほど、摩擦材13を回転板12に強く押し付けるように構成されている。後輪制動機構10Bは、前輪制動機構10Aと同様に、ホイールシリンダ11、回転板12、及び摩擦材13によって構成されている。制動機構によれば、WC圧Pwcが高いほど、車輪FL,FR,RL,RRに付与する摩擦制動力が大きくされる。
【0015】
<マスタ装置>
マスタ装置30の一例は、マスタシリンダ31と、ストロークシミュレータ32と、マスタシリンダ31に繋がる複数の流路331,332,333と、ブレーキ液の流れを制御する複数の制御弁341,342と、を備えている。ストロークシミュレータ32は、制動操作部材21の操作量に応じた反力を発生させることができる。
【0016】
マスタシリンダ31は、メインシリンダ41とカバーシリンダ42とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43と入力ピストン44とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43を押す力を付与するマスタスプリング45と、入力ピストン44を押す力を付与する入力スプリング46と、を備えている。マスタピストン43及び入力ピストン44は、メインシリンダ41及びカバーシリンダ42に対して相対移動することができる。
【0017】
マスタシリンダ31の一例を、より詳しく説明する。
マスタシリンダ31のメインシリンダ41は、板状の底壁411と、底壁411から底壁411の軸線に沿って延びる第1周壁412と、を有している。さらにメインシリンダ41は、第1周壁412の後端から第1周壁412の軸線に沿って延びる第2周壁413と、第2周壁413の後端から第2周壁413の軸線に向かって延びる第1環状壁414と、を有している。第1周壁412及び第2周壁413の各々は筒状をなしている。第1環状壁414には、後述するマスタピストン43の後端部が挿し込まれている孔が形成されている。第1周壁412の内径は第2周壁413の内径よりも小さくなっている。
【0018】
メインシリンダ41内には、底壁411及び第1周壁412とマスタピストン43とによってマスタ室Rmが区画されている。以降では、マスタシリンダ31において、マスタピストン43の移動方向のうち
図1における左方、すなわちマスタ室Rmの容積を小さくする方向を「前方」という。一方で、マスタピストン43の移動方向のうち前方とは反対方向を「後方」という。後方は、マスタ室Rmの容積を大きくする方向でもある。
【0019】
メインシリンダ41内には、第2周壁413とマスタピストン43とによって第1液室R1が区画されているとともに、第2周壁413及び第1環状壁414とマスタピストン43とによってサーボ室Rsが区画されている。マスタ室Rmは、マスタシリンダ31の前端寄りの位置に形成されている。第1液室R1は、マスタ室Rmよりも後方に形成されている。サーボ室Rsは、第1液室R1よりも後方に形成されている。メインシリンダ41の内部において、マスタ室Rm、第1液室R1及びサーボ室Rsは、互いに接続していない。また、マスタ室Rmの断面積とサーボ室Rsの断面積とは等しくなっている。ここで、サーボ室Rsの断面積とは、マスタピストン43が収容された状態でのサーボ室Rsの断面積である。
【0020】
マスタシリンダ31のカバーシリンダ42は、筒状をなす第3周壁421と、第3周壁421の後端から第3周壁421の軸線に向かって延びる第2環状壁422と、を有している。第3周壁421は、メインシリンダ41の第2周壁413と軸線が一致するように、第1環状壁414に取り付けられている。第2環状壁422には、後述する入力ピストン44の後端部が挿し込まれている孔が設けられている。
【0021】
カバーシリンダ42内には、第3周壁421と第2環状壁422とメインシリンダ41の第1環状壁414とによって第2液室R2が区画されている。マスタシリンダ31において、第2液室R2はサーボ室Rsよりも後方に形成されている。
【0022】
マスタピストン43は、メインシリンダ41の第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、マスタピストン43が軸方向に移動する場合には、マスタピストン43が第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面と摺動する。マスタピストン43の後端部は、第1環状壁414よりも後方に突出して、第2液室R2内に位置している。マスタピストン43の後端部の面積と第1液室R1の断面積とは等しくなっている。ここで、マスタピストン43の後端部の面積は、第2液室R2の液圧により軸方向に力を受ける面積である。第1液室R1の断面積は、マスタピストン43が収容された状態での第1液室R1の断面積である。
【0023】
入力ピストン44は、カバーシリンダ42の第2環状壁422の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、入力ピストン44が軸方向に移動する場合には、入力ピストン44が第2環状壁422の内周面と摺動する。入力ピストン44の後端部は、第2環状壁422よりも後方に突出している。そして、入力ピストン44の後端部に制動操作部材21が連結されている。このため、入力ピストン44は、制動操作部材21の操作量に応じて、マスタピストン43に接近する方向に移動する。また、第2液室R2において、入力ピストン44とマスタピストン43との間には隙間が形成されている。
【0024】
マスタスプリング45は、メインシリンダ41のマスタ室Rmに配置されている。マスタスプリング45は、マスタピストン43を後方に押す力をマスタピストン43に付与する。このため、マスタスプリング45は、マスタピストン43が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0025】
入力スプリング46は、カバーシリンダ42の第2液室R2に配置されている。入力スプリング46は、入力ピストン44を後方に押す力を入力ピストン44に付与する。このため、入力スプリング46は、入力ピストン44が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0026】
マスタシリンダ31において、マスタ室Rmはリザーバタンク24と接続されている。詳しくは、マスタ室Rmの後端寄りの部分がメインシリンダ41の第1周壁412に形成されるポートを介してリザーバタンク24と接続されている。このため、マスタピストン43が
図1に示す初期位置から前方に移動する場合には、マスタ室Rmとリザーバタンク24とが接続しなくなる。その結果、マスタピストン43の前方への移動に伴い、マスタ室Rmの液圧が増大する。例えばサーボ室Rsの液圧が高くなると、サーボ室Rsの液圧によってマスタピストン43が前方に移動する。これにより、マスタ室Rmの液圧が増大する。
【0027】
第1流路331は、マスタ室Rmと第2制動部23とを接続している。すなわち、第1流路331は、複数のホイールシリンダ11のうちの一部とマスタ室Rmとを接続する流路である。詳しくは、第1流路331は、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11とマスタ室Rmとを接続する。第2流路332は、第1液室R1と第2液室R2とを接続している。第3流路333は、リザーバタンク24と第2流路332とを接続している。
【0028】
第1制御弁341は、常閉型の電磁弁である。第2制御弁342は、常開型の電磁弁である。第1制御弁341は、第2流路332における第3流路333との接続点と第2液室R2との間に配置されている。第2制御弁342は、第3流路333に設けられている。制動装置20の制御装置100が稼動している場合には、第1制御弁341は開弁され、第2制御弁342は閉弁される。
【0029】
ストロークシミュレータ32は、第2流路332における第1液室R1と第1制御弁341との間に配置されている。例えば、ストロークシミュレータ32は、内部にスプリングによって背面から押す力を付与されているピストンを有している。この場合、ストロークシミュレータ32は、第2流路332からブレーキ液が流入されることで内部のピストンがスプリングによる力に抗して変位すると、ピストンの変位に応じてブレーキ液に圧力を発生させる。当該ピストンの図示は省略している。具体的には、第1制御弁341が開弁し且つ第2制御弁342が閉弁した状態で、制動操作部材21の操作によって入力ピストン44が前方に移動すると、入力ピストン44が第2液室R2に進入する体積分だけ第2液室R2の容積が減少する。よって、第2液室R2から第2流路332に流出したブレーキ液がストロークシミュレータ32に流入する。この結果、ストロークシミュレータ32によって、第2流路332で繋がった第2液室R2と第1液室R1とに同じ圧力が発生する。第2液室R2内に突出したマスタピストン43の後端部の面積と第1液室R1の断面積とが等しい場合には、第2液室R2と第1液室R1とに同じ圧力が発生している状態では、この圧力によってマスタピストン43が軸方向に動かされることはない。
【0030】
<第1制動部>
第1制動部50は、動力源としての第1電気モータ513を有する電動シリンダ51を備えている。第1制動部50は、第1電気モータ513の駆動量に応じて作動する電動シリンダ51によって、WC圧Pwcを調整することができる。すなわち、第1制動部50は、車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。
【0031】
第1制動部50の一例について説明する。
第1制動部50は、電動シリンダ51と、液圧調整弁551と、チェック弁552とを備えている。
【0032】
第1制動部50は、電動シリンダ51とリザーバタンク24とを接続する第4流路54を備えている。第1制動部50は、第2制動部23と電動シリンダ51とを接続する第6流路58を備えている。第1制動部50は、マスタシリンダ31のサーボ室Rsと第6流路58とを接続する第5流路55を備えている。
【0033】
液圧調整弁551は、第5流路55に設けられている。液圧調整弁551は、第5流路55における液圧調整弁551よりもサーボ室Rs側の部分と、第5流路55における液圧調整弁551よりも電動シリンダ51側の部分との差圧を調整する電磁弁である。すなわち、液圧調整弁551は、サーボ室Rsへのブレーキ液の供給量を調整できる。
【0034】
チェック弁552は、液圧調整弁551に対して並列に、第5流路55に設けられている。チェック弁552は、サーボ室Rsから電動シリンダ51に向かうチェック弁552を通るブレーキ液の流動を許容する。一方で、チェック弁552は、電動シリンダ51からサーボ室Rsの方向へのチェック弁552を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0035】
<電動シリンダ>
第1制動部50が備える電動シリンダ51は、第4流路54と第6流路58との間に設けられている。第4流路54は、電動シリンダ51の入力ポート515に接続されている。第6流路58は、電動シリンダ51の出力ポート516に接続されている。入力ポート515及び出力ポート516については後述する。
【0036】
図1、
図2及び
図3を参照して、電動シリンダ51の構成について説明する。
電動シリンダ51は、シリンダ511と、ピストン512と、第1電気モータ513と、変換機構514と、を備えている。ピストン512は、シリンダ511内に摺動可能な状態で設けられている。第1電気モータ513は、電動シリンダ51の動力源である。変換機構514は、第1電気モータ513の出力軸の回転運動をピストン512の直線運動に変換する。
【0037】
シリンダ511の内部には、シリンダ511の周壁とピストン512とによって、ブレーキ液が導入される液圧室Reが区画されている。シリンダ511の内部でのピストン512の位置は、第1電気モータ513の駆動によって変更できる。以降では、ピストン512の移動方向のうち液圧室Reの容積を小さくする方向を「前進方向Za」という。ピストン512の移動方向のうち前進方向Zaとは反対方向を「後退方向Zb」という。後退方向Zbは、ピストン512の移動方向のうち液圧室Reの容積を大きくする方向でもある。
【0038】
ピストン512を移動させる際に、制御装置100は、終点位置EP及び原点位置OPを用いる。
図2は、ピストン512が終点位置EPに位置する状態の電動シリンダ51を示す。終点位置EPは、ピストン512を後退方向Zbにおける端部に移動させた位置である。
図3は、ピストン512が原点位置OPに位置する状態の電動シリンダ51を示す。原点位置OPは、終点位置EPから前進方向Zaにピストン512を規定の移動量Xmだけ移動させた位置である。原点位置OPは、電動シリンダ51によって液圧を発生させる際の基点となる。
【0039】
図2及び
図3に示すように、電動シリンダ51は、弾性体518を備えている。弾性体518は、ピストン512が終点位置EPに位置する場合にピストン512を前進方向Zaに押す力をピストン512に付与する。弾性体518は、弾性体518へのピストン512の接触によって、ピストン512が後退方向Zbへ移動することを規制するように配置されている。例えば、弾性体518は、
図2及び
図3に示すように、シリンダ511の後方内壁511aに接触するように配置されている。例えば、弾性体518は、
図2に示すように、終点位置EPに位置するピストン512の後退方向Zbにおける端面に接触するように配置されている。
【0040】
弾性体518の一例は、皿ばねである。弾性体518としては、板ばね、コイルばね等を採用することもできる。弾性体518としては、エラストマ、ゴム等の弾性材料によって成形されている弾性部材を採用することもできる。なお、
図2、
図3、
図6には、弾性体518として、平坦な板状まで変形可能な皿ばねを図示している。
【0041】
ピストン512が後退方向Zbに移動することによってピストン512が弾性体518に接触した後、ピストン512がさらに後退方向Zbに移動する場合には、弾性体518が弾性変形する。弾性体518を弾性変形させながらピストン512をさらに後退方向Zbに移動すると、やがて弾性変形の限界に達する。終点位置EPは、弾性体518が弾性変形し始めるピストン512の位置から弾性体518が限界まで変形するピストン512の位置までの間の位置として設定されている。
図2に例示している弾性体518は、一例として弾性変形し始めた状態を示している。
【0042】
シリンダ511の周壁には、液圧室Reと外部とを接続するポートとして、入力ポート515及び出力ポート516が形成されている。ピストン512には貫通孔517が形成されている。貫通孔517は、ピストン512が終点位置EPに位置するときに入力ポート515と液圧室Reとを連通させることのできる位置に形成されている。これによって、ピストン512が終点位置EPに位置する場合には、シリンダ511の液圧室Reは、入力ポート515及び貫通孔517を介して第4流路54と連通する。すなわち、シリンダ511の液圧室Reは、入力ポート515と貫通孔517とを介して、リザーバタンク24に連通する。
図2及び
図3に示すように、入力ポート515は、ピストン512が終点位置EPから原点位置OPまでの間に位置する際には開放されている。電動シリンダ51は、原点位置OPからピストン512が前進方向Zaに移動するとピストン512によって入力ポート515が閉塞されるように構成されている。このように入力ポート515がピストン512によって閉塞された後に、ピストン512がさらに前進方向Zaに移動する場合には、液圧室Reの液圧が増大する。
【0043】
シリンダ511の出力ポート516は、第6流路58を介して第2制動部23及び第5流路55に接続されている。出力ポート516は、ピストン512の位置にかかわらず、常時開放されている。このため、入力ポート515がピストン512に閉塞されている場合に、ピストン512が前進方向Zaに移動すると、液圧室Reのブレーキ液が出力ポート516からシリンダ511外に吐出される。
【0044】
なお、制動装置20が備える電動シリンダ51は、
図1~
図3に示すように、ピストン512を後退方向Zbに押す力を付与するスプリングを備えていない。電動シリンダ51としては、ピストン512を後退方向Zbに押す力を付与するスプリングを備えていてもよい。
【0045】
図1に示すように、第1制動部50は、解放流路56と、解放流路56に配置されている解放弁57と、を備えている。解放流路56は、電動シリンダ51を迂回するようにリザーバタンク24とホイールシリンダ11とを接続する流路である。解放流路56の第1端部が第4流路54に接続されている一方、解放流路56の第2端部が第6流路58に接続されている。具体的には、解放流路56は、第4流路54におけるリザーバタンク24と入力ポート515との間と、第6流路58における出力ポート516と第2制動部23との間と、を接続している。解放弁57は常閉型の電磁弁である。そのため、解放弁57を開弁する制御が行われていない場合、解放流路56は閉塞されている。
【0046】
<第2制動部>
図1に示すように、第2制動部23は、動力源としての第2電気モータ64を備えている。第2制動部23は、第2電気モータ64の駆動量に応じて車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。第2制動部23は、第1制動部50とホイールシリンダ11との間に介在している。
【0047】
第2制動部23の一例について説明する。
第2制動部23は、各車輪FL,FR,RL,RRのWC圧Pwcを個別に調整することができる制動アクチュエータである。第2制動部23は、ブレーキ液を吐出するポンプ631,632を備えている。ポンプ631,632は、第2電気モータ64によって駆動される。
【0048】
第2制動部23は、第1制動部50によって調圧されたブレーキ液の液圧を増大させることなくWC圧Pwcを増大させることができる。制動装置20は、第1制動部50を上流側として第2制動部23を下流側とした冗長構成を有している。
【0049】
第2制動部23は、2系統の液圧回路611,612を有している。第1液圧回路611には、前輪FL,FR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。第2液圧回路612には、後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。
【0050】
第1液圧回路611は、第1流路331及びマスタ室Rmを介してリザーバタンク24に接続されている。第1液圧回路611において、第1流路331との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第1差圧調整弁621が設けられている。当該液路には、第1差圧調整弁621に対してチェック弁が並列に設けられている。当該チェック弁は、第1流路331からホイールシリンダ11の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を許容する。一方、当該チェック弁は、ホイールシリンダ11から第1流路331の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0051】
第2液圧回路612は、第4流路54と電動シリンダ51と第6流路58とを介してリザーバタンク24に接続されている。第2液圧回路612において、第6流路58との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第2差圧調整弁622が設けられている。当該液路には、第2差圧調整弁622に対してチェック弁が並列に設けられている。当該チェック弁は、第6流路58からホイールシリンダ11の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を許容する。一方、当該チェック弁は、ホイールシリンダ11から第6流路58の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0052】
ポンプ631は、第1液圧回路611に設けられている。ポンプ631は、第1差圧調整弁621とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。ポンプ631から当該液路までの間には、チェック弁が直列に配置されている。このチェック弁は、ポンプ631から吐出される方向にブレーキ液が流動することを許容する。一方、当該チェック弁は、ポンプ631から吐出されたブレーキ液がポンプ631に戻る方向にブレーキ液が流動することを規制する。
【0053】
ポンプ632は、第2液圧回路612に設けられている。ポンプ632は、第2差圧調整弁622とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。ポンプ632から当該液路までの間には、チェック弁が直列に配置されている。このチェック弁は、ポンプ632から吐出される方向にブレーキ液が流動することを許容する。一方、当該チェック弁は、ポンプ632から吐出されたブレーキ液がポンプ632に戻る方向にブレーキ液が流動することを規制する。
【0054】
液圧回路611において第1差圧調整弁621よりもホイールシリンダ11側には、液圧回路611に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65a,65bが設けられている。同様に、液圧回路612において第2差圧調整弁622よりもホイールシリンダ11側には、液圧回路612に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65c,65dが設けられている。そして、複数の経路65a~65dには、ホイールシリンダ11の液圧の増大を規制する際に閉弁される保持弁66と、当該液圧を減少させる際に開弁される減圧弁67とが設けられている。すなわち、差圧調整弁621,622よりもホイールシリンダ11側の液路に保持弁66が配置されている。なお、複数の保持弁66は常開型の電磁弁であり、複数の減圧弁67は常閉型の電磁弁である。
【0055】
複数の経路65a~65dの各々には、保持弁66に対してチェック弁が並列に設けられている。当該チェック弁は、ホイールシリンダ11から差圧調整弁621,622の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を許容する。一方、当該チェック弁は、差圧調整弁621,622からホイールシリンダ11の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0056】
複数の液圧回路611,612には、減圧弁67が開弁しているときにホイールシリンダ11から減圧弁67を介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ681,682が接続されている。複数のリザーバ681,682は、吸入用流路691,692を介してポンプ631,632に接続されている。
【0057】
リザーバ681は、第1差圧調整弁621とマスタ室Rmとを繋ぐ液路にタンク側流路701を介して接続されている。リザーバ682は、第2液圧回路612における第6流路58との接続点と第2差圧調整弁622とを繋ぐ液路にタンク側流路702を介して接続されている。
【0058】
複数のポンプ631,632は、リザーバ681,682を介してリザーバタンク24内のブレーキ液を汲み取ることができる。複数のポンプ631,632は、汲み取ったブレーキ液を差圧調整弁621,622と保持弁66との間の液路に吐出する。当該液路とポンプ631,632との間の液路を、「中間液路711,712」という。
【0059】
<制動装置の検出系>
図1に示すように、制動装置20の検出系は複数のセンサを備えている。センサの検出信号は、制動装置20の制御装置100に入力される。
図1には、複数のセンサとして、マスタ液圧センサ351、入力液圧センサ352、制御圧センサ353、ストロークセンサSE1、回転角センサSE2、及び電流センサSE3を示している。
【0060】
マスタ液圧センサ351は、マスタ室Rm内の液圧を検出する。例えば、マスタ液圧センサ351は第1流路331に設けられている。マスタ液圧センサ351の検出値に基づいたマスタ室Rm内の液圧を「マスタ圧」という。
【0061】
入力液圧センサ352は、第2液室R2内の液圧を検出する。例えば、入力液圧センサ352は、第2流路332における第1制御弁341と第2液室R2との間の位置に接続されている。入力液圧センサ352の検出値に基づいた第2液室R2の液圧を「入力液圧」という。
【0062】
制御圧センサ353は、電動シリンダ51から供給されるブレーキ液の液圧を検出する圧力センサである。例えば、制御圧センサ353は、電動シリンダ51における出力ポート516の近くに設けられている。一例として
図1には、解放流路56における解放弁57と出力ポート516との間に制御圧センサ353が接続されている構成を示している。制御圧センサ353の検出値に基づいた電動シリンダ51の吐出液圧を「圧力P」という。
【0063】
ストロークセンサSE1は、制動操作部材21の操作量を検出する。
回転角センサSE2は、電動シリンダ51の動力源である第1電気モータ513の回転角を検出する。回転角センサSE2の検出値に基づいた第1電気モータ513の回転角を「回転角θ」という。回転角θに基づいて、ピストン512の位置を推定することができる。回転角θに基づいて、第1電気モータ513の回転数Sを算出できる。
【0064】
電流センサSE3は、第1電気モータ513に流れる電流値を検出することができる。電流センサSE3の検出値に基づいた第1電気モータ513の電流値を「電流値T」という。
【0065】
<制動装置の制御装置>
制御装置100は、液圧発生装置22が備えている各種の電磁弁341,342,551,57及び第1電気モータ513と、第2制動部23が備えている各種の電磁弁621,622,66,67及び第2電気モータ64と、を制御することができる。
【0066】
制御装置100は、ピストン位置設定処理を実行することができる。ピストン位置設定処理は、電動シリンダ51の制御に関して、入力ポート515に対するピストン512の相対位置を設定する処理である。
【0067】
ピストン位置設定処理は、ピストン512を終点位置EPまで移動させる終点移動処理と、ピストン512を終点位置EPから前進方向Zaに移動量Xmだけ移動させる原点移動処理とを含む。原点移動処理は、終点移動処理によってピストン512を終点位置EPまで移動させた後に実行することができる。
【0068】
図4を用いて、ピストン位置設定処理について説明する。
図4は、制御装置100が実行する処理の流れを示す。例えば、制御装置100は、制動装置20を起動する際に本処理ルーチンを実行することができる。制動装置20は、例えば、車両のスタートスイッチがオフからオンにされた場合に起動する。
【0069】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101において、制御装置100は、後退方向Zbにピストン512を移動すべく第1電気モータ513の駆動を開始する。このとき制御装置100は、第1電気モータ513の回転数Sを目標回転数STに追従させるようにフィードバック制御を行う。目標回転数STは、例えば、予め設定されている一定の値である。第1電気モータ513の駆動を開始すると、制御装置100は、処理をステップS102に移行する。
【0070】
ステップS102では、制御装置100は、ピストン512が終点位置EPに到達しているか否かを判定する。ここでは、制御装置100は、例えば電流値Tが第2判定値Tth2よりも大きく且つ回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さい場合に、ピストン512が終点位置EPに到達していることを検出する。
【0071】
第1しきい値Sth1は、第1電気モータ513の回転が止まっているか否かを判定するためのしきい値として設定される。例えば、第1しきい値Sth1以上であった回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さくなると、第1電気モータ513の回転が止まったと判定できる。
【0072】
第2判定値Tth2は、例えば、第1電気モータ513の駆動を開始する際における突入電流よりも大きい値として設定できる。
制御装置100は、第1電気モータ513の回転が止まっており、且つ突入電流よりも大きな電流値Tが検出されている場合には、ピストン512が終点位置EPに到達していると判定する。
【0073】
ステップS102の処理において、ピストン512の終点位置EPへの到達が検出されている場合には(S102:YES)、制御装置100は、処理をステップS111に移行する。
【0074】
ステップS111では、制御装置100は、第1電気モータ513の駆動を一旦停止する。このとき、制御装置100は、第1電気モータ513の駆動を停止した時点における回転角θを、終点回転角θepとして取得してもよい。終点回転角θepは、ピストン512が終点位置EPまで移動したときの回転角θに対応する。第1電気モータ513の駆動を停止すると、制御装置100は、処理をステップS121に移行する。
【0075】
一方、ピストン512の終点位置EPへの到達が検出されていない場合には(S102:NO)、制御装置100は、処理をステップS103に移行する。ステップS103では、制御装置100は、回転数Sが第2しきい値Sth2よりも大きいか否かを判定する。
【0076】
第2しきい値Sth2は、第1電気モータ513が動き出したか否かを判定するためのしきい値として設定される。第2しきい値Sth2は、第1しきい値Sth1よりも大きい値である。例えば、第2しきい値Sth2以下であった回転数Sが第2しきい値Sth2よりも大きくなると、第1電気モータ513が動き出したと判定できる。ここでは、第1電気モータ513が動き出すことは、ピストン512が後退方向Zbに移動し始めることを意味する。
【0077】
回転数Sが第2しきい値Sth2以下である場合には(S103:NO)、制御装置100は、処理を再びステップS102に移行する。一方で、回転数Sが第2しきい値Sth2よりも大きい場合には(S103:YES)、制御装置100は、処理をステップS104に移行する。
【0078】
ステップS102及びステップS103では、ステップS103の処理によって、回転数Sが第2しきい値Sth2よりも大きくなるまで、すなわち第1電気モータ513が動き出すまでは、ステップS102の処理が繰り返し実行される。
【0079】
さらに言えば、第1電気モータ513が動き出す前において、回転数Sが第1しきい値Sth1以上であること、及び電流値Tが第2判定値Tth2以下であることのうち少なくとも一方が成立している場合には、次のように処理が行われる。ステップS102において否定判定されるとともにステップS103において否定判定されることで、ステップS102の処理が繰り返し実行される。一方、第1電気モータ513が動き出す前に、電流値Tが第2判定値Tth2よりも大きく且つ回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さい場合には、ピストン512が既に終点位置EPに到達しているとして、処理がステップS111に移行される。この結果、第1電気モータ513の駆動が一旦終了される。
【0080】
なお、上記「少なくとも一方が成立している場合」とは、以下のことを意味する。回転数Sが第1しきい値Sth1以上であり且つ電流値Tが第2判定値Tth2よりも大きい。または、回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さく且つ電流値Tが第2判定値Tth2以下である。あるいは、回転数Sが第1しきい値Sth1以上であり且つ電流値Tが第2判定値Tth2以下である。
【0081】
ステップS104では、制御装置100は、回転数Sが目標回転数STに到達しているか否かを判定する。
回転数Sが目標回転数STに到達していない場合には(S104:NO)、制御装置100は、処理をステップS104に移行する。すなわち、制御装置100は、回転数Sが目標回転数STに到達するまで回転数Sが目標回転数STに到達しているか否かの判定を繰り返し行う。この間、第1電気モータ513のフィードバック制御が継続されることで、時間の経過に伴って回転数Sと目標回転数STとの差が小さくなる。制御装置100は、例えば、回転数S及び目標回転数STに基づいて、回転数Sが目標回転数STに到達しているか否かを判定できる。回転数Sが目標回転数STに到達しているか否かの判定は、回転数Sが第2しきい値Sth2よりも大きい状態が継続している継続時間に基づいて行うこともできる。例えば、回転数Sが第2しきい値Sth2よりも大きい継続時間が予め実験等により算出された回転数判定時間よりも長い場合に、回転数Sが目標回転数STに到達していると判定されてもよい。
【0082】
回転数Sが目標回転数STに到達している場合、すなわち回転数Sが目標回転数STに追従するように第1電気モータ513が回転している場合には(S104:YES)、制御装置100は、処理をステップS105に移行する。ステップS105では、制御装置100は、第1判定値Tth1を設定する。制御装置100は、第1電気モータ513が動き出してから、回転数Sが目標回転数STに追従している際に第1電気モータ513に流れている電流値Tに基づいて、第1判定値Tth1を設定する。
【0083】
第1判定値Tth1について、より詳細に説明する。
第1判定値Tth1は、ピストン512が終点位置EPまで移動したことを判定するために設定される値である。制御装置100は、第1電気モータ513の回転数Sが目標回転数STに追従している際の電流値Tを基準として第1判定値Tth1を設定する。また、第1判定値Tth1は、第2判定値Tth2よりも小さい値として設定される。
【0084】
例えば、第1判定値Tth1は、回転数Sが目標回転数STに追従している際の電流値Tよりも増加量dだけ大きくした値として算出することができる。増加量dは、弾性体518が有する弾性に基づいて設定される所定量である。弾性体518を備える電動シリンダ51では、弾性体518に接触する位置まで移動したピストン512が弾性体518を弾性変形させながら後退方向Zbに移動することで、電流値Tは徐々に増加する。第1判定値Tth1は、弾性体518を弾性変形させながらピストン512を終点位置EPまで移動させた際の電流値Tに相当する値である。例えば、増加量dは、弾性体518が弾性変形しにくいほど大きい値とすることができる。
【0085】
第1判定値Tth1を設定すると、制御装置100は、処理をステップS106に移行する。
ステップS106では、制御装置100は、電流値Tが第1判定値Tth1よりも大きいか否かを判定する。電流値Tが第1判定値Tth1よりも大きい場合には(S106:YES)、制御装置100は、処理をステップS110に移行する。一方、電流値Tが第1判定値Tth1以下である場合には(S106:NO)、制御装置100は、処理をステップS107に移行する。
【0086】
ステップS107では、制御装置100は、回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さいか否かを判定する。回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さい場合、すなわち第1電気モータ513の回転が止まっている場合には(S107:YES)、制御装置100は、処理をステップS110に移行する。例えば、電流値Tが第1判定値Tth1よりも大きくなったことを検出する前に、第1電気モータ513の回転が止まった場合には、ステップS107の処理において肯定判定がなされて処理がステップS110に移行される。一方、回転数Sが第1しきい値Sth1以下である場合、すなわち第1電気モータ513の回転が止まっていない場合には(S107:NO)、制御装置100は、処理をステップS108に移行する。
【0087】
ステップS108では、制御装置100は、ピストン512を後退方向Zbに移動させるように第1電気モータ513を駆動させている時間、すなわち後退時間が判定時間よりも長いか否かを判定する。判定時間は、予め実験等によって算出されている値である。判定時間は、例えば、目標回転数STで第1電気モータ513を駆動させた際に、ピストン512を前進方向Zaにおける端から後退方向Zbにおける端BEまで移動させるために要する時間として設定できる。すなわち、第1電気モータ513を駆動させている時間が、判定時間よりも長いことは、異常が発生していることを意味する。後退方向Zbにおける端BEまでピストンが移動している状態は、ピストン512を後退方向Zbに動かしたときに、最大の駆動力を発生させてもピストン512がそれ以上後退できない状態である。あるいは、後退方向Zbにおける端BEまでピストンが移動している状態は、ピストン512を後退方向Zbに動かしたときに、機械的にピストン512がそれ以上後退できない状態である。
図6を用いて説明する。
【0088】
図6には、ピストン512が終点位置EPよりも後退方向Zbに移動して、弾性体518を挟んでピストン512がシリンダ511の後方内壁511aに突き当たっている状態の電動シリンダ51を例示している。このときの弾性体518としての皿ばねは、限界まで変形しているため、平坦な板状になっている。例えば、
図6に示すように、ピストン512が弾性体518を介して後方内壁511aに突き当たる状態では、ピストン512の後退方向Zbにおける端面が後退方向Zbにおける端BEまで移動している。なお、仮に弾性体を備えていない構成においては、ピストンの後退方向における端面が後方内壁に接触している状態が、ピストンが後退方向における端まで移動した状態に対応する。
【0089】
図4に戻り、ステップS108において後退時間が判定時間よりも長い場合には(S108:YES)、制御装置100は、処理をステップS109に移行する。ステップS109では、制御装置100は、終点位置EPの検出に異常が発生したと判定する。例えば、制御装置100は、異常が発生したことを履歴としてメモリ等の記憶媒体に記憶してもよい。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。一方、後退時間が判定時間以下である場合には(S108:NO)、制御装置100は、処理を再びステップS106に移行する。
【0090】
ステップS106、S107及びS108の処理をまとめると、次のようにいえる。すなわち、後退時間が判定時間以下である間に、電流値Tが第1判定値Tth1よりも大きいこと、及び、回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さいことのうちいずれか一方が成立している場合には、ステップS110の処理が実行される。後退時間が判定時間以下である間に、電流値Tが第1判定値Tth1よりも大きいこと、及び、回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さいことのうちいずれも成立していない場合には、第1電気モータ513の駆動が継続される。
【0091】
ステップS110では、制御装置100は、第1電気モータ513の駆動を一旦停止する。すなわち、制御装置100は、電流値Tが第1判定値Tth1よりも増加した場合に、ピストン512が終点位置EPに到達したと判断して第1電気モータ513の駆動を終了する。または、制御装置100は、回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さくなった場合に、ピストン512が終点位置EPに到達したと判断して第1電気モータ513の駆動を終了する。
【0092】
さらに、ステップS110では、制御装置100は、ピストン512が終点位置EPに到達した時点の回転角θを終点回転角θepとして取得する。例えば、制御装置100は、電流値Tが第1判定値Tth1よりも増加した時点の回転角θを終点回転角θepとして取得する。例えば、制御装置100は、回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さくなった時点の回転角θを終点回転角θepとして取得する。ステップS110の処理を行った後、制御装置100は、処理をステップS121に移行する。
【0093】
ステップS121では、制御装置100は、ピストン512を前進方向Zaに移動すべく第1電気モータ513の駆動を開始する。制御装置100は、ピストン512を規定の移動量Xmだけ前進方向Zaに移動させると、第1電気モータ513の駆動を終了する。移動量Xmは、終点位置EPから原点位置OPまでのピストン512の移動量として、予め実験等によって算出されている値である。
【0094】
制御装置100は、終点回転角θepと、ピストン512を前進方向Zaに移動量Xmだけ移動するための回転角と、に基づいて、ピストン512を前進方向Zaに移動させるように第1電気モータ513を駆動する。
【0095】
言い換えれば、制御装置100は、終点回転角θepに対応するピストン512の位置を基点として、基点から前進方向Zaに移動量Xmだけ離れた位置までピストン512を移動させる。このため、ピストン512を前進方向Zaに移動すべく第1電気モータ513の駆動を開始した時点からピストン512が前進方向Zaに実際に移動する量は、移動量Xmに等しいとは限らない。
【0096】
なお、制御装置100は、ステップS111の処理に続いてステップS121の処理を実行する場合もある。この場合には、制御装置100は、ピストン512を前進方向Zaに移動すべく第1電気モータ513の駆動を開始した時点から前進方向Zaに移動量Xmだけピストン512を移動させるように第1電気モータ513を駆動してもよい。
【0097】
ステップS121の処理においてピストン512を前進方向Zaに移動させると、制御装置100は、処理をステップS122に移行する。
ステップS122では、制御装置100は、圧力Pが閉塞判定値Pthよりも小さいか否かを判定する。
【0098】
閉塞判定値Pthは、圧力Pが閉塞判定値Pth以上である場合には、入力ポート515がピストン512によって閉塞されていることを示す値として、予め実験等によって算出された値が設定されている。このため、圧力Pが閉塞判定値Pthよりも小さいことは、入力ポート515がピストン512によって閉塞されていないことを示す。すなわち、入力ポート515がピストン512によって閉塞される位置よりも後退方向Zbにピストン512が位置していることを示す。
【0099】
圧力Pが閉塞判定値Pthよりも小さい場合には(S122:YES)、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。制御装置100は、このときのピストン512の位置を原点位置OPとして取得する。例えば、制御装置100は、メモリ等の記憶媒体に記憶されている原点位置OPを新たに取得した原点位置OPに更新する。原点位置OPは、例えば、第1電気モータ513の回転角θとして取得できる。
【0100】
一方、圧力Pが閉塞判定値Pth以上である場合には(S122:NO)、制御装置100は、処理をステップS123に移行する。圧力Pが閉塞判定値Pth以上であることは、ピストン512が前進方向Zaに移動しすぎていると推定できる。
【0101】
ステップS123では、制御装置100は、原点位置OPの検出に異常が発生したと判定する。例えば、制御装置100は、異常が発生したことを履歴としてメモリ等の記憶媒体に記憶してもよい。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。
【0102】
以上説明した
図4に示す処理の流れにおいて、ステップS101~S111までの処理が終点移動処理に対応する。ステップS121~S123までの処理が原点移動処理に対応する。
【0103】
ステップS110の処理において取得する終点回転角θepは、ピストン位置設定処理を終了する際に消去してもよいし、終点位置EPに対応する回転角θとして記憶することでピストン位置設定処理の終了後に保持してもよい。
【0104】
<作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
図5を用いて、電動シリンダ装置において制御装置100がピストン位置設定処理を行う際の一例を説明する。
【0105】
図5に示す例では、タイミングt1からピストン位置設定処理が開始されている。言い換えれば、タイミングt1から終点移動処理が開始されている。
図5の(a)に示すように、タイミングt1において電流値Tが増加し始めている。タイミングt1以降では一時的に突入電流が発生している。なお、
図5の(a)には、第2判定値Tth2を例示している。
【0106】
図5の(b)に示すように、タイミングt1からタイミングt2までの間において、回転数Sが増加し始めている。タイミングt2において、回転数Sが第2しきい値Sth2まで増加している。なお、
図5の(b)には、第2しきい値Sth2よりも小さい値である第1しきい値Sth1を例示している。
【0107】
その後、タイミングt3において、
図5の(b)に示すように、回転数Sが目標回転数STに達している。これによって、第1判定値Tth1を設定する処理が行われる(S105)。タイミングt3を過ぎると、
図5の(a)に示すように、突入電流が発生する期間を過ぎて電流値Tが一定の値で推移している。
図5では、このときの電流値Tを基準電流値Txと表示している。制御装置100は、基準電流値Txよりも増加量dだけ大きくした値を第1判定値Tth1として設定している。
【0108】
タイミングt3以降では、回転数Sが目標回転数STに追従している。このため、推定されるピストン512の位置は、
図5の(c)に示すように、一定の速度で終点位置EPに近づくように推移している。
【0109】
タイミングt4において、
図5の(a)に示すように、電流値Tが基準電流値Txよりも増加し始める。このとき、
図5の(b)に示すように、回転数Sが減少し始める。これは、タイミングt4においてピストン512が弾性体518に接触したことによるものである。弾性体518が弾性変形するにつれて、電流値Tが増加するとともに回転数Sが減少している。
【0110】
タイミングt5において、
図5の(a)に示すように、電流値Tが第1判定値Tth1よりも大きくなる。このため、第1電気モータ513の駆動が停止される(S110)。さらに、制御装置100は、この時点における回転角θを終点回転角θepとして取得する。
【0111】
ここで仮に、ピストンを後退方向における端に突き当てるように移動させようとすると、電気モータにかかる負荷が大きくなることで電流値が過度に大きくなるおそれがある。このような場合には、電気モータの負荷が大きくなるだけでなく、ピストンが突き当てられることに伴って、電動シリンダを構成する部品のうち電気モータ以外にも過度な負荷がかかることがある。
【0112】
この点、本実施形態の電動シリンダ装置によれば、基準電流値Txよりも増加量dだけ大きい値を第1判定値Tth1としていることによって、電流値Tが過度に大きくなる前に終点位置EPに到達したことを判定できる。言い換えれば、ピストン512を後退方向Zbに移動させ終わるまでに電流値Tが過度に大きくなりにくい。このため、電流値Tが過度に大きくなる前に、第1電気モータ513の駆動を停止することができる。これによって、電動シリンダ51に過度な負荷がかかることを抑制できる。
【0113】
本実施形態の電動シリンダ装置では、弾性体518を備えていることで、ピストン512の後退方向Zbへの移動によって弾性体518を弾性変形させている間の電流値Tの変化率が比較的小さい。例えば、上記変化率は、弾性体を備えていない電動シリンダ装置においてピストンを後退方向における端に突き当てた場合と比較して、緩やかである。このため、終点位置EPを検出する際に、電流値Tが急峻に増加することを抑制できる。これによって、電流値Tが過度に大きくなることを抑制できる。また、本実施形態の電動シリンダ装置によれば、弾性体518が弾性変形している状態で終点位置EPを検出できる。このように、本実施形態の電動シリンダ装置では、ピストン512を後退方向Zbにおける端BEに突き当てることなく終点位置EPを検出できる。
【0114】
図5に示すタイミングt5以降、すなわち終点移動処理を終了した後には、原点移動処理を実行できる。原点移動処理が実行される結果として、終点回転角θepに対応する位置から前進方向Zaに移動量Xmだけ離れた位置にピストン512が移動する。これによって、制御装置100は、終点回転角θepと移動量Xmとに基づいて原点位置OPを設定することができる。
【0115】
タイミングt5において第1電気モータ513の駆動が終了されることで、ピストン512も後退方向Zbへの移動を停止する。
図5の(c)に示す例では、タイミングt5よりも後におけるピストン512の位置は、タイミングt5時点におけるピストン512の位置から移動している。
【0116】
このように、終点位置EPに到達したと判断して第1電気モータ513の駆動を一旦終了してからも、第1電気モータ513の駆動によらずピストン512が移動することがある。例えば、第1電気モータ513を停止してからの応答遅れによってピストン512が後退方向Zbに移動することがある。例えば、弾性体518によって前進方向Zaにピストン512が押されることでピストン512が移動することがある。終点移動処理によってピストン512を移動させ終えてからピストン512がさらに移動すると、原点位置OPを設定する際の誤差が生じ得る。
【0117】
この点、本実施形態の電動シリンダ装置は、終点位置EPに到達したときの回転角θを終点回転角θepとして取得することで、ピストン512を前進方向Zaに移動させる際に、終点回転角θepに基づいて第1電気モータ513を駆動させるように構成している。このため、終点位置EPとして検出した位置から正確に移動量Xmだけピストン512を移動させることができる。これによって、原点位置OPを精度よく設定することができる。
【0118】
ところで、電動シリンダ51では、ピストン512を移動させる際の動摩擦抵抗が変動することがある。例えば、電動シリンダ51を構成する部品の膨張、収縮、経年変化等によって動摩擦抵抗が変動することがある。ピストン512を移動させる際の動摩擦抵抗が変動している場合には、動摩擦抵抗に応じて第1電気モータ513の発生させるトルクが変動する。このため、例えば回転数Sを目標回転数STに追従させている際における第1電気モータ513に流れる電流値Tが変動する。ピストン512が終点位置EPに到達したことを電流値Tの変化に基づいて検出しようとする構成において仮に動摩擦抵抗の変動を考慮していない場合には、動摩擦抵抗の変動は、終点位置EPに到達したことを判定する精度が低下する要因になりうる。
【0119】
この点、本実施形態の電動シリンダ装置は、回転数Sが目標回転数STに追従している際の電流値Tを基準電流値Txとして第1判定値Tth1を設定する。例えば、回転数Sが目標回転数STに追従している際の電流値Tが比較的大きければ第1判定値Tth1も大きくされる。例えば、回転数Sが目標回転数STに追従している際の電流値Tが比較的小さければ第1判定値Tth1も小さくされる。このため、上記のように動摩擦抵抗が変動している場合でも、終点位置EPに到達したことを判定する精度を確保することができる。これによって、推定する終点位置EPのばらつきを軽減できる。終点位置EPを精度よく検出できることで、原点位置OPを精度よく設定することができる。
【0120】
本実施形態の電動シリンダ装置によれば、原点位置OPを精度よく設定することができるため、電動シリンダ51を制御することによって液圧を発生させる際の応答性がよくなる。
【0121】
本実施形態の電動シリンダ装置では、ピストン512が移動し始める前に既に終点位置EPに到達していると判定した場合には、その時点のピストン512の位置を終点位置EPとすることができる(S111)。これによって、ピストン512が後退方向Zbにおける端BEまで移動しているにもかかわらず第1電気モータ513を駆動させ続けることを抑制できる。
【0122】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0123】
・上記実施形態では、
図4におけるステップS109の処理を実行した後に処理ルーチンを終了するように構成している。これに替えて、ステップS109の処理を実行した後に、ピストン512を前進方向Zaに移動させる処理を行ってもよい。例えば、ステップS109の処理を実行した後に、処理をステップS121に移行してもよい。この場合には、例えば、ステップS108の処理において肯定判定された時点におけるピストン512の位置から移動量Xmだけ前進方向Zaにピストン512を移動させる。
【0124】
・上記実施形態では、ステップS102として、電流値Tが第2判定値Tth2よりも大きく且つ回転数Sが第1しきい値Sth1よりも小さい場合に、ピストン512が終点位置EPに到達していることを検出する例を示した。これに替えて、ステップS102の処理としては、回転数Sによらず、ピストン512が終点位置EPに到達しているか否かを判定することもできる。例えば、ステップS102では、電流値Tが第2判定値Tth2以下である場合にはステップS103へ処理を移行する一方で、電流値Tが第2判定値Tth2よりも大きい場合にはステップS111へ移行するようにしてもよい。
【0125】
・上記実施形態は、ステップS111の後にステップS121へ処理を移行することで、ステップS121~S123の原点移動処理を実行するように構成している。これに替えて、ステップS111の後に、下記のリトライ処理を実行するようにしてもよい。例えば、リトライ処理では、ステップS111の処理として第1電気モータ513の駆動を停止した後に、所定のリトライ距離だけピストン512を前進方向Zaに移動させる。その後、ステップS101に戻って、ピストン位置設定処理を再度開始する。このように構成した場合には、ステップS111の処理及びリトライ処理が繰り返し実行されることがある。例えばピストン位置設定処理を開始してからリトライ処理が所定の最大回数実行された際には、異常が発生していると判定してリトライ処理を行わないようにしてもよい。リトライ処理を行わない場合には、例えばステップS111からステップS121へ処理を移行することで、原点移動処理を実行するようにしてもよい。
【0126】
・上記実施形態において例示したブレーキ液は、作動液の一例である。上記実施形態における後輪RL,RR用のホイールシリンダ11は、電動シリンダ51が供給する作動液の供給対象の一例である。マスタシリンダ31は、電動シリンダ51が供給する作動液の供給対象の一例である。前輪FL,FR用のホイールシリンダ11には、マスタシリンダ31を介して電動シリンダ51が吐出するブレーキ液が供給される。このため、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11も、電動シリンダ51が供給する作動液の供給対象の一例といえる。
【0127】
・弾性体に関して、例えば過度に大きな荷重が加えられたり荷重が過度に繰り返し加えられたりすることによって弾性体が塑性変形すると、弾性が変化する現象、いわゆるへたりが発生することがある。
【0128】
仮に弾性体518にへたりが発生すると、シリンダ511の後退方向Zbにおける端部まで移動したピストン512が弾性体518によって前進方向Zaに押される力が小さくなる。このような場合には、ピストン512を終点位置EPに移動させる際に、
図6に示すようにシリンダ511の後方内壁511aに弾性体518を挟んでピストン512が突き当たるおそれがある。そこで、仮に弾性体518にへたりが発生している場合でもシリンダ511の後方内壁511aに弾性体518を挟んでピストン512が突き当たる前にピストン512が終点位置EPまで移動したと判定されるように、増加量dを設定することが好ましい。すなわち、増加量dは、弾性体518に生じ得るへたりを考慮して設定した値でもよい。さらに、基準電流値Txから増加量dだけ大きくした電流値が流れるように第1電気モータ513を駆動させる場合のピストン512による押圧力が、以下のようになるように増加量dを設定してもよい。増加量dは、ピストン512に押されることによる弾性体518の変形が所定回数繰り返されても、弾性体518のへたりが許容される範囲内に収まるような押圧力が発揮されるように設定されてもよい。
【0129】
・制御装置100等の処理回路は、以下のように構成できる。処理回路は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路として構成できる。処理回路は、各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路として構成できる。処理回路は、各種処理のうち一部の処理を実行する一つ以上のプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する一つ以上のハードウェア回路とを組み合わせた回路として構成できる。
【0130】
プロセッサは、CPU等の処理装置を備える。プロセッサは、RAM及びROM等のメモリを備える。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。ハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。ハードウェア回路の他の例としては、FPGA等がある。
【符号の説明】
【0131】
24…リザーバタンク
51…電動シリンダ
100…制御装置
511…シリンダ
512…ピストン
513…第1電気モータ
515…入力ポート
516…出力ポート
518…弾性体
Re…液圧室
OP…原点位置
EP…終点位置
Za…前進方向
Zb…後退方向