(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130012
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 41/00 20060101AFI20240920BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240920BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20240920BHJP
F04B 39/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F04B41/00 A
H02M7/48 Z
F04B39/00 Z
F04B39/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039475
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】手島 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】横山 修
【テーマコード(参考)】
3H003
3H076
5H770
【Fターム(参考)】
3H003AA01
3H003AB05
3H003AC03
3H003CD01
3H003CE06
3H003CF01
3H076AA33
3H076BB40
3H076CC07
3H076CC47
5H770BA05
5H770QA01
5H770QA28
5H770QA31
5H770QA33
5H770QA37
(57)【要約】
【課題】加工の際のクランプによる変形量を効果的に低減させる。
【解決手段】電動圧縮機1は、ハウジング40の一端に設けられインバータ30が収容されるインバータケース50を含む。インバータケース50は、ハウジング40の一端に取り付けられる底壁51a、及び底壁51aの縁部からハウジング40とは反対側に延びインバータ収容口50aを形成する側壁51bを有するケース本体51と、ケース本体51のインバータ収容口50aを塞ぎ、側壁51bの環状端面である本体シール面511に対向するカバーシール面521を有するケースカバー52と、を有する。ケース本体51は、側壁51bの外面から突出し本体シール面511と直交する方向からクランプされる本体側クランプ片53を有し、ケースカバー52は、自身の外縁52bから突出しカバーシール面521と直交する方向からクランプされるカバー側クランプ片54を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータによって駆動される圧縮機構と、前記電動モータを駆動するインバータと、前記電動モータ及び前記圧縮機構が収容されるハウジングと、を有する、電動圧縮機であって、
前記ハウジングの一端に設けられ前記インバータが収容されるインバータケースを、
含み、
前記インバータケースは、
前記ハウジングの前記一端に取り付けられる底壁、及び前記底壁の縁部から前記ハウジングとは反対側に延びインバータ収容口を形成する側壁を有するケース本体と、
前記ケース本体の前記インバータ収容口を塞ぐケースカバーであって、前記側壁の環状端面である本体シール面に対向するカバーシール面を有するケースカバーと、
を有し、
前記ケース本体は、前記側壁の外面から突出し前記本体シール面と直交する方向からクランプされる本体側クランプ片を有し、
前記ケースカバーは、自身の外縁から突出し前記カバーシール面と直交する方向からクランプされるカバー側クランプ片を有する、電動圧縮機。
【請求項2】
前記本体側クランプ片は、前記側壁の周方向に離隔した少なくとも3箇所に設けられ、
前記カバー側クランプ片は、前記外縁における周方向に離隔した少なくとも3箇所に設けられている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記本体側クランプ片は、前記側壁の外面における前記本体シール面側の縁から離れた位置に形成され、
前記カバー側クランプ片は、前記外縁における前記カバーシール面側の縁から離れた位置に形成されている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記ハウジングの前記一端に向かって視た平面視で、前記カバー側クランプ片の形成位置は、前記本体側クランプ片の形成位置と重なる位置に設定されている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記インバータケースに形成され該インバータケースを所定の対象物に取り付けるための取付部を、含み、
前記本体側クランプ片及びカバー側クランプ片のそれぞれは、前記インバータケースにおける前記取付部の形成位置を避けた位置に形成されている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記インバータは、複数の電子部品が実装され、前記インバータ収容口の開口縁に沿う外形を有した一枚の回路基板を有する、請求項1から5のいずれか一つに記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータを一体に有する電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置などで冷媒の圧縮に用いられる電動圧縮機の多くは、インバータを一体に有し、インバータによって、車載バッテリなどからの直流電力を交流電力に変換すると共に圧縮機構を駆動する電動モータへの給電を制御している(電動モータを駆動している)。電動圧縮機の一例として特許文献1に開示された電動圧縮機は、電動モータと、電動モータにより駆動される圧縮機構と、電動モータを駆動するインバータと、電動モータ及び圧縮機構が収容されるハウジングと、を有し、ハウジングの一端には、カバーが取り付けられ、カバーとハウジングとによりインバータを収容する密閉空間が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気自動車において高電圧化が進む中、インバータの回路基板における絶縁距離確保などのために回路基板の大型化が進み、これに伴い、インバータ収容部分も大型化している。その結果、インバータ収容部分の剛性が低くなり易く、インバータ収容部分における合わせ面に対するフライス加工などの加工の際に、加工機械側のクランパーによって、加工対象物(ワーク)としてのカバーなどが変形し易くなるといった問題がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回路基板が大型化しても、加工時のクランプによる変形量を効果的に低減させることのできる構造を有した電動圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動圧縮機は、電動モータと、前記電動モータによって駆動される圧縮機構と、前記電動モータを駆動するインバータと、前記電動モータ及び前記圧縮機構が収容されるハウジングと、を有する。前記電動圧縮機は、前記ハウジングの一端に設けられ前記インバータが収容されるインバータケースを、含み、前記インバータケースは、前記ハウジングの前記一端に取り付けられる底壁、及び前記底壁の縁部から前記ハウジングとは反対側に延びインバータ収容口を形成する側壁を有するケース本体と、前記ケース本体の前記インバータ収容口を塞ぐケースカバーであって、前記側壁の環状端面である本体シール面に対向するカバーシール面を有するケースカバーと、を有し、前記ケース本体は、前記側壁の外面から突出し前記本体シール面と直交する方向からクランプされる本体側クランプ片を有し、前記ケースカバーは、自身の外縁から突出し前記カバーシール面と直交する方向からクランプされるカバー側クランプ片を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回路基板が大型化しても、加工時のクランプによる変形量を効果的に低減させることのできる構造を有した電動圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動圧縮機の分解斜視図である。
【
図3】電動圧縮機が設置対象物に取り付けられたときの状態の一例を説明するための概念図である。
【
図4】電動圧縮機のケース本体をケースカバー側から視た平面図である。
【
図5】電動圧縮機のケース本体をハウジング側から視た平面図である。
【
図6】電動圧縮機のケースカバーをハウジング側から視た平面図である。
【
図7A】ケースカバーのカバーシール面の加工例を説明するための概念図である。
【
図7B】カバーシール面の加工例を説明するための別の概念図である。
【
図8A】ケース本体のハウジング側シール面の加工例を説明するための概念図である。
【
図8B】ハウジング側シール面の加工例を説明するための別の概念図である。
【
図9A】ケース本体の本体シール面の加工例を説明するための概念図である。
【
図9B】本体シール面の加工例を説明するための別の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る電動圧縮機の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1から
図3は本発明の一実施形態に係る電動圧縮機1を説明するための図である。具体的には、
図1は電動圧縮機1の分解斜視図であり、
図2は電動圧縮機1の斜視図、
図3は電動圧縮機1が所定の対象物Cに取り付けられたときの状態の一例を説明するための概念図である。なお、
図3では、部分的に概略的な断面図として示されている。
【0011】
電動圧縮機1は、例えば、車両用空調装置の一部として車両に搭載され、空調用の冷媒を吸入し、圧縮して吐出する装置として用いられる。電動圧縮機1は、例えば、車両の車体の一部に取り付けられる。つまり、電動圧縮機1が取り付けられる対象物Cは車体の一部である。特に限定されるものでは、車両は電気自動車である。
【0012】
図1及び
図2を参照すると、本実施形態では、電動圧縮機1は、電動モータ10と、電動モータ10によって駆動される圧縮機構20と、電動モータ10を駆動するインバータ30と、電動モータ10及び圧縮機構20が内部に収容されるハウジング40と、インバータ30が内部に収容されるインバータケース50と、取付部60とを含む。電動圧縮機1は、いわゆるインバータ一体型の電動圧縮機として構成されている。
【0013】
図3を参照すると、電動モータ10は、ステータ11と、ロータ12と、ステータ11に巻回される図示省略されたコイルとを有する。電動モータ10としては、例えば、三相交流モータが適用される。ステータ11は、例えば、互いに積層された複数のケイ素鋼板により構成される。ロータ12は、ステータ11の径方向内側に配置され、複数の磁極(図示省略)を有する。ロータ12の径方向中央に形成された貫通孔に嵌め込まれた回転軸10aの各端部は、ハウジング40の内部で回転可能に支持される。インバータ30からの給電により、ステータ11に磁界が発生すると、ロータ12に回転力が作用し、これにより、回転軸10aが回転駆動される。回転軸10aの一方の端部は、圧縮機構20を駆動可能に圧縮機構20に連結されている。
【0014】
圧縮機構20は、電動モータ10によって駆動され冷媒を圧縮する。圧縮機構20及び電動モータ10は、ハウジング40の内部で直列に配置されている。圧縮機構20としては、スクロール型圧縮機構などの適宜タイプの圧縮機構が採用され得る。
【0015】
インバータ30は、例えば、車両のバッテリ(図示省略)からの直流電流を交流電流に変換し、この交流電流を電動モータ10に供給し、電動モータ10への給電を制御することで、電動モータ10を駆動する。インバータ30は、各種の複数の電子部品と、複数の電子部品が実装された回路基板CBとを有する。電子部品としては、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などの複数のパワースイッチング素子、インバータに入力される直流電力の電圧を平滑化する電圧平滑素子(平滑コンデンサともいう)、及び、ノイズを抑制するコンデンサやコイルなどのノイズフィルタ素子などがある。
【0016】
ハウジング40は、電動圧縮機1の主な外殻を構成するものである。ハウジング40の内部には、電動モータ10及び圧縮機構20が収容される。ハウジング40は、電動モータ10が収容されるモータハウジング41と圧縮機構20が収容される圧縮機構ハウジング42とを有している。ハウジング40には、冷媒配管(図示省略)が接続される吸入ポート40a及び吐出ポート40bが形成されている。電動圧縮機1は、前記車両用空調装置の冷媒(低圧冷媒)を吸入ポート40aから吸入して圧縮機構20により圧縮し、圧縮した冷媒(高圧冷媒)を吐出ポート40bから吐出する。
【0017】
インバータケース50は、ハウジング40の一端に設けられ、インバータ30が内部に収容されるケースであり、ケース本体51とケースカバー52とを有する。つまり、インバータケース50の内部には、回路基板CBが収容されている。
【0018】
取付部60は、インバータケース50に形成されこのインバータケース50を所定の対象物C(ここでは、車体)に取り付けるためのものである。取付部60は、インバータケース50(この例ではケース本体51)と一体に形成される。また、電動圧縮機1は、ハウジング用取付部70も有している。ハウジング用取付部70は、ハウジング40(この例では圧縮機構ハウジング42)と一体に形成されハウジング40を所定の対象物Cに取り付けるためのものである。電動圧縮機1は、取付部60及びハウジング用取付部70を介して対象物Cに取り付けられる。
【0019】
ところで、電気自動車において回路基板CBの大型化が進み、電動圧縮機1におけるインバータ30を収容するインバータ収容部分も大型化している。その結果、インバータ収容部分の剛性が低くなりがちであり、インバータ収容部分が加工時のクランプにより変形し易くなるといった問題がある。これに対し、電動圧縮機1は、以下で説明する構造を有している。
【0020】
次に、
図1から
図6を参照して、電動圧縮機1について詳しく説明する。
図4はインバータケース50のケース本体51をケースカバー52側から視た平面図であり、
図5はケース本体51をハウジング40側から視た平面図であり、
図6はケースカバー52をハウジング40側から視た平面図である。
【0021】
図1から
図3を参照すると、電動圧縮機1において、インバータ30を収容する部分は、インバータケース50である。このインバータケース50は、ハウジング40とは別に設けられた部材である。
【0022】
ハウジング40は、前述のように、モータハウジング41と圧縮機構ハウジング42とを有している。つまり、ハウジング40及びインバータケース50からなる圧縮機ボディー(圧縮機ケーシング)は、少なくとも、モータハウジング41と圧縮機構ハウジング42とケース本体51とケースカバー52とに分離されている。これらの部材(41,42,51,52)は、例えば、主に鋳造により形成されている。各部材(41,42,51,52)がボルトなどの締結手段によって一体的に締結されることで、前記圧縮機ボディーが構成される。
【0023】
モータハウジング41は、圧縮機構ハウジング42とインバータケース50(ケース本体51)との間に設けられる。モータハウジング41は、電動モータ10の周囲を囲むように概ね円筒状に形成された第1筒部411を有する。第1筒部411の一端面(換言するとハウジング41の一端面)である第1端面411aはインバータケース50(ケース本体51)の端面に臨み、第1筒部411の円環状の他端面である第2端面411bは圧縮機構ハウジング42の端面(後述する第3端面421a)に臨んでいる。そして、吸入ポート40aは、第1筒部411におけるインバータ側の部分に設けられている。
【0024】
圧縮機構ハウジング42は、圧縮機構20の周囲を囲むように概ね円筒状に形成された第2筒部421を有する。第2筒部421における一方の開口は塞がれる。圧縮機構ハウジング42の第2筒部421における開口側端面である第3端面421aがモータハウジング41の第2端面411bに対するシール面を構成している。そして、吐出ポート40b及びハウジング用取付部70は、第2筒部421に設けられている。
【0025】
インバータケース50は、前述のように、ケース本体51と、ケースカバー52と、を有する。インバータケース50は、電動モータ10の回転軸10aの中心軸線Xと直交する方向(図では上下方向)に長い概ね箱状に形成されている。
【0026】
インバータケース50において、ケース本体51はハウジング40とは反対側に開放されインバータ30の大半又は全部が収容される凹部を有し、ケース本体51の凹部の開口(後述のインバータ収容口50a)がケースカバー52により塞がれている。そして、ケース本体51の凹部底面に、インバータ30を構成する回路基板CBが固定されている。
【0027】
インバータケース50がモータハウジング41に固定された状態で、インバータケース50の長手方向の一端側部分(図では上部)がハウジング40の外面に対して外側に張り出し(突出し)、インバータケース50の長手方向の他端側部分(図では下部)もハウジング40の外面に対して外側に張り出している(突出している)。インバータケース50の短手方向の幅はハウジング40の外径よりも大きく、インバータケース50は自身の短手方向についてもハウジング40の外面に対して外側に突出している。そして、インバータケース50のうちの他端側部分(下部)の一部は、ケースカバー52とは反対側に突出している。換言すると、インバータケース50の前記凹部のうちの下側の部分は、前記凹部のうちの上側の部分よりも深く凹んでいる。この深く凹んだ部分には、インバータ30の複数の電子部品のうちのコンデンサやコイルなどのサイズの比較的大きな要素が配置されている。
【0028】
ケース本体51は、ハウジング40の一端(この例ではモータハウジング41の第1端面411a)に取り付けられる底壁51aと、底壁51aの縁部からハウジング40とは反対側に延びインバータ収容口50aを形成する側壁51bとを有する。
【0029】
図1から
図5を参照すると、ケース本体51の底壁51aは、平面視で概ね矩形状に形成されており、側壁51bは底壁51aに向かって視た平面視で概ね矩形の環状に形成されている。そして、側壁51bの先端の環状端面は、ケース本体51におけるケースカバー52に対するシール面としての本体シール面511を構成している。
【0030】
底壁51aにおけるモータハウジング41の第1端面411aに対向する部分は、ケース本体51におけるハウジング40(モータハウジング41)に対するシール面としてのハウジング側シール面512を構成している。底壁51aは側面視で階段状に形成されており、底壁51aのうちの下側部分はケースカバー52とは反対側にオフセットしている。そして、底壁51aにおける上側部分の一部がハウジング側シール面512を構成している。インバータケース50の短手方向の幅は前述のように円筒状のハウジング40の外径より大きいので、底壁51aのうちの上側部分には、モータハウジング41の第1端面411aに対向せずハウジング側シール面512を構成しない部分がある。
【0031】
ケースカバー52は、ケース本体51のインバータ収容口50aを塞ぐカバーである。この例では、ケースカバー52は、平面視で概ね矩形の平板状に形成されている。ケースカバー52は、ケース本体51のインバータ収容口50aを塞ぐようにケース本体51にボルトなどにより固定される。
【0032】
具体的には、ケースカバー52におけるケース本体51のインバータ収容口50aに臨む部分には、ケースカバー52の板厚方向に僅かに凹むカバー側凹部52aが形成されている。そして、カバー側凹部52aとケース本体51の前記凹部とで、インバータ30を収容する収容空間が構成されている。
【0033】
図1から
図3及び
図6を参照すると、ケースカバー52は、ケース本体51の側壁51bの環状端面である本体シール面511に対向するカバーシール面521を有する。
【0034】
図示を省略するが、例えば、本体シール面511とカバーシール面521との間に、円環状のシール部材が挟まれた状態で、ケースカバー52がケース本体51にボルトなどによって締結され、これにより、ケース本体51とケースカバー52との合わせ面(本体シール面511とカバーシール面521との合わせ面)におけるシール(封止)が図られている。なお、これに限らず、本体シール面511又はカバーシール面521に環状リングなどのシール部材が嵌まり込むシール溝が形成され、このシール溝に嵌め込まれたシール部材によって、前記合わせ面におけるシール(封止)が図られてもよい。また、同様に、ハウジング側シール面512とモータハウジング41の第1端面411aとの間にシール部材が設けられ、モータハウジング41の第2端面411bと圧縮機構ハウジング42の第3端面421aとの間にもシール部材が設けられている。
【0035】
図1から
図5を参照すると、ケース本体51は、側壁51bの外面から突出し本体シール面511と直交する方向からクランプされる本体側クランプ片53を有する。そして、ケースカバー52は、自身の外縁52bから突出しカバーシール面521と直交する方向からクランプされるカバー側クランプ片54を有する。本体側クランプ片53は側壁51bと一体に形成され、カバー側クランプ片54は外縁52bと一体に形成される。
【0036】
本体側クランプ片53は、底壁51aの板厚と同程度又は該板厚より厚い板厚を有し、側壁51bの外面に沿って底壁51aと平行に延びている。同様に、カバー側クランプ片54は、カバー側凹部52aの底壁の板厚と同程度又は該板厚より厚い板厚を有し、外縁52bに沿ってカバー側凹部52aの底壁と平行に延びている。換言すると、本体側クランプ片53は底壁51aの板厚方向の力でクランプされ、カバー側クランプ片54はケースカバー52の板厚方向(さらに言うと、カバー側凹部52aの底壁の板厚方向)の力でクランプされる。
【0037】
本実施形態では、取付部60はケース本体51に設けられ、ハウジング用取付部70は圧縮機構ハウジング42に設けられている。
【0038】
具体的には、取付部60は、インバータケース50の上面、つまり、側壁51bのうちの対象物Cに臨む幅方向に延びる上側壁の外面に設けられている。ハウジング用取付部70は、圧縮機構ハウジング42の第2筒部421における対象物C側の頂部に設けられている。取付部60及びハウジング用取付部70のそれぞれは、対象物Cに向かって直線的に延伸している。例えば、取付部60の個数(本数)は二個(二本)であり、ハウジング用取付部70の個数(本数)は一個(一本)である。ハウジング40を上方から視た平面視において、ハウジング用取付部70は中心軸線Xと重なるように第2筒部421の頂部に配置され、二個の取付部60はインバータケース50の側壁51bの上面において中心軸線Xと直交する方向に互いに離隔するように設けられている。
【0039】
本実施形態では、本体側クランプ片53は、ケース本体51の側壁51bの周方向に離隔した少なくとも3箇所に設けられ、カバー側クランプ片54はケースカバー52の外縁52bにおける周方向に離隔した少なくとも3箇所に設けられている。この例では、本体側クランプ片53及びカバー側クランプ片54はそれぞれ3箇所に設けられている。本体側クランプ片53及びカバー側クランプ片54のそれぞれは、インバータケース50における取付部60の形成位置を避けた位置に形成されている。
【0040】
具体的には、この例では、前述のように、取付部60は、ケース本体51の側壁51bのうちの上側壁の外面に設けられている。そして、本体側クランプ片53及びカバー側クランプ片54は、インバータケース50における取付部60の形成位置である上側壁を避けた位置に形成されている。
【0041】
本実施形態では、ハウジング40の一端(この例ではモータハウジング41の第1端面411a)に向かって視た平面視で、カバー側クランプ片54の形成位置は、本体側クランプ片53の形成位置と重なる位置に設定されている。
【0042】
具体的には、本体側クランプ片53は、側壁51bのうちの上下方向に延び互いに対向する左側壁及び右側壁と、側壁51bのうちの幅方向に延びる下側壁とに、一個ずつ形成されている。左側壁の本体側クランプ片53及び右側壁の本体側クランプ片53はケース本体51の長手方向(上下方向)の一端側に寄せた位置(この例では概ね中心軸線Xと重なる高さ位置)に位置し、下側壁の本体側クランプ片53はケース本体51の短手方向(左右方向)について概ね中心位置に位置している。
【0043】
カバー側クランプ片54は、外縁52bのうちの上下方向に延び互いに対向する左縁部及び右縁部と、外縁52bのうちの幅方向に延びる下縁部とに、一個ずつ形成されている。左縁部のカバー側クランプ片54及び右縁部のカバー側クランプ片54はケースカバー52の長手方向(上下方向)の一端側に寄せた位置(この例では概ね中心軸線Xと重なる高さ位置)に位置し、下縁部のカバー側クランプ片54はケースカバー52の短手方向(左右方向)について概ね中心位置に位置している。
【0044】
本実施形態では、本体側クランプ片53は側壁51bの外面における本体シール面511側の縁(エッジ)から離れた位置に形成され、カバー側クランプ片54は外縁52bにおけるカバーシール面521側の縁(エッジ)から離れた位置に形成されている。具体的には、本体側クランプ片53は自身の板厚方向についてケースカバー52側の面である第1面53aとハウジング40側の面である第2面53bとを有し、同様に、カバー側クランプ片54は自身の板厚方向についてケース本体51側の面である第3面54aとケース本体51とは反対側の第4面54bとを有する。そして、本体側クランプ片53の第1面53aは側壁51bにおいて板厚方向について本体シール面511から離れる方向にずれており(後退しており)、右側壁及び左側壁の本体側クランプ片53の第2面53bは側面視でハウジング側シール面512と一致している。カバー側クランプ片54の第3面54aは外縁52bにおいて板厚方向についてカバーシール面521から離れる方向にずれており(後退しており)、カバー側クランプ片54の第4面54bは側面視でケースカバー52のカバーシール面521とは反対側の面と一致している。
【0045】
本実施形態では、インバータ30の回路基板CBは、インバータ収容口50aの開口縁に沿う外形を有した一枚の回路基板である。この一枚の回路基板CBは、高電圧化に伴う絶縁距離確保のために従来よりも大サイズで形成されている。そして、インバータケース50は大サイズの一枚の回路基板CBを内部に収容すべく従来よりも大サイズで形成されている。
【0046】
次に、
図7Aから
図9Bを参照して、インバータケース50の加工方法の一例について説明する。
図7A及び
図7Bはケースカバー52のカバーシール面521の加工例を説明するための概念図であり、
図8A及び
図8Bはケース本体51のハウジング側シール面512の加工例を説明するための概念図であり、
図9A及び
図9Bはケース本体51の本体シール面511の加工例を説明するための概念図である。
図7A、
図8A及び
図9Aは各加工工程における側面図、
図7B、
図8B及び
図9Bは加工工程における上面図である。
【0047】
図7A及び
図7Bを参照すると、ケースカバー52は、カバー側凹部52aの開口を上方に開放させた姿勢でフライス盤などの加工機械MCのワークベンチWB上に載置される。そして、ケースカバー52の各カバー側クランプ片54がワークベンチWBに固定されたクランパーGによって上方から押し付けられることで、ケースカバー52がワークベンチWBの上面に固定される。この状態で、加工機械MCの正面フライスカッターTによって、カバー側凹部52aの周囲の端面部分(
図7Bでは斜線を付した部分)がフライス加工され、その結果、環状のカバーシール面521が形成される。
【0048】
図8A及び
図8Bを参照すると、ケース本体51は、最初に、インバータ収容口50aを下方に向けた姿勢でワークベンチWB上に載置される。そして、ケース本体51の各本体側クランプ片53がクランパーGによって上方から押し付けられることで、ケース本体51がワークベンチWBの上面に固定される。この状態で、正面フライスカッターTによって、ケース本体51の底壁51aにおけるハウジング側シール面形成部分(
図8Bでは斜線を付した部分)がフライス加工され、その結果、例えば、円形のハウジング側シール面512が形成される。
【0049】
図9A及び
図9Bを参照すると、ケース本体51は、インバータ収容口50aを上方に開放させた姿勢でワークベンチWB上に載置される。例えば、ケース本体51の下面がワークベンチWBに当接した状態で、高さ方向に伸縮自在な高さ調整治具JがワークベンチWBとケース本体51のハウジング側シール面512との間に配置され、調整治具Jの上部がハウジング側シール面512を下方から支持している。そして、ケース本体51の各本体側クランプ片53がクランパーGによって上方から押し付けられることで、ケース本体51がワークベンチWBの上面に固定される。この状態で、正面フライスカッターTによって、側壁51bの端面部分(
図9Bでは斜線を付した部分)がフライス加工され、その結果、環状の本体シール面511が形成される。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る電動圧縮機1では、インバータ30を収容する部分であるインバータケース50はハウジング40とは別に設けられた部材である。したがって、インバータケース50が大型化したとしても、加工の際に、インバータ30を収容する部分(インバータケース50)をハウジング40とは別にハンドリングすることができる。そのため、ワークハンドリングの形態の自由度が高まり、加工時のクランプによる変形を低減させる構造を容易に構築できるようになり、インバータケース50についての加工精度の向上も図られ得る。
【0051】
また、ケース本体51の本体側クランプ片53がクランパーGによって本体シール面511と直交する方向(換言すると、底壁51aの板厚方向)の力でワークベンチWBに押し付けられた状態で、本体シール面511の加工がなされる。したがって、加工の際に、ケース本体51には、側壁51bを内向き(ケース本体51の凹部内側)に倒すクランプ力は作用していない。そして、ケースカバー52のカバー側クランプ片54がクランパーGによってカバーシール面521と直交する方向(換言すると、カバー側凹部52aの底壁の板厚方向)の力でワークベンチWBに押し付けられた状態で、カバーシール面521の加工がなされる。したがって、加工の際に、ケースカバー52には、ケースカバー52を外縁52bから内向きに圧縮するクランプ力は作用していない。これらにより、ケース本体51及びケースカバー52が回路基板CBの大型化に伴って大型化したとしても、クランプによるケース本体51及びケースカバー52の変形量は効果的に低減され、又は、クランプによるケース本体51及びケースカバー52の変形が防止される。そして、クランプ解除によるケース本体51及びケースカバー52の形状変化が効果的に低減又は防止され、良好な精度のインバータケース50が製造され得る。このように、電動圧縮機1は、回路基板CBが大型化しても、加工時のクランプによる変形量を効果的に低減させることのできる構造を有している。
【0052】
本実施形態では、本体側クランプ片53は側壁51bの周方向に離隔した少なくとも3箇所に設けられ、カバー側クランプ片54は外縁52bにおける周方向に離隔した少なくとも3箇所に設けられている。その結果、加工の際に少なくとも3点支持によるワーク固定がなされ、ワーク加工が安定した保持状態でなされ、加工精度の向上が図られ得る。
【0053】
本実施形態では、カバー側クランプ片54の形成位置は本体側クランプ片53の形成位置と重なる位置に設定されているので、ワークベンチWBにおけるクランパーGの位置がケース本体51とケースカバー52とで同一になり、加工の段取り作業の効率化が図られる。また、本体側クランプ片53及びカバー側クランプ片54のそれぞれは、インバータケース50における取付部60の形成位置を避けた位置に形成されているので、加工のツールパスの設定が容易になされ得る。
【0054】
本実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…電動圧縮機、10…電動モータ、20…圧縮機構、30…インバータ、40…ハウジング、50…インバータケース、50a…インバータ収容口、51…ケース本体、51a…底壁、51b…側壁、511…本体シール面、512…ハウジング側シール面、52…ケースカバー、521…カバーシール面、53…本体側クランプ片、54…カバー側クランプ片、60…取付部、C…対象物、CB…回路基板