(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130020
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/48 20060101AFI20240920BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C07D307/48
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039492
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 和樹
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA41
4H039CA62
4H039CC20
4H039CG10
4H039CG90
(57)【要約】
【課題】反応系内の圧力が低く、かつヒドロキシメチルフルフラールの収率に優れるヒドロキシメチルフルフラールの製造方法の提供。
【解決手段】アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩の存在下又は不在下、かつアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、有機液体及び水を媒体として水熱処理する、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であり、前記有機液体が、沸点70℃以上の極性溶剤を含む、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩の存在下又は不在下、かつアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、有機液体及び水を媒体として水熱処理する、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であり、
前記有機液体が、沸点70℃以上の極性溶剤を含む、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項2】
前記極性溶剤の25℃における水への溶解度が1.0×104mg/L以上である請求項1に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項3】
前記極性溶剤がジメチルスルホキシドである請求項1又は2に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項4】
前記炭水化物のフラクト分が40モル%以上である請求項1又は2に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項5】
前記原料を水熱処理する温度が130~160℃である請求項1又は2に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項6】
前記原料を水熱処理する時間が0.5~5時間である請求項1又は2に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物を水熱処理することで、ヒドロキシメチルフルフラールが生成することが知られている。
特許文献1には、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在下、バイオマス由来の炭水化物を含有する原料を、水及び有機液体を媒体として水熱処理するヒドロキシメチルフルフラールの合成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法は、反応系内の圧力が高圧になる問題がある。
特許文献1には、有機液体として用いられているテトラヒドロフラン(THF)の一部をトルエンに置換することで、反応系内の圧力を下げられる一方、トルエンの置換量が増えるにつれて、ヒドロキシメチルフルフラールの収率が低下することが記載されている。
本発明は、反応系内の圧力が低く、かつヒドロキシメチルフルフラールの収率に優れるヒドロキシメチルフルフラールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩の存在下又は不在下、かつアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、有機液体及び水を媒体として水熱処理する、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であり、
前記有機液体が、沸点70℃以上の極性溶剤を含む、ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
[2]前記極性溶剤の25℃における水への溶解度が1.0×104mg/L以上である[1]に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
[3]前記極性溶剤がジメチルスルホキシドである[1]又は[2]に記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
[4]前記炭水化物のフラクト分が40モル%以上である[1]~[3]のいずれかに記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
[5]前記原料を水熱処理する温度が130~160℃である[1]~[4]のいずれかに記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
[6]前記原料を水熱処理する時間が0.5~5時間である[1]~[5]のいずれかに記載のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、反応系内の圧力が低く、かつヒドロキシメチルフルフラールの収率に優れるヒドロキシメチルフルフラールの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ヒドロキシメチルフルフラール(以下、「HMF」とも記す。)は、フラン環の2位にホルミル基、5位にヒドロキシメチル基が置換した化合物である。
本発明の一実施形態に係るHMFの製造方法は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩(以下、「アルカリ(土類)金属塩」とも記す。)の存在下又は不在下、かつアルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、水及び有機液体を媒体として水熱処理する。これにより、HMFが生成する。
【0008】
(原料)
原料は炭水化物を含む。
炭水化物は、単糖単位を1つ有する化合物(単糖)であってもよく、単糖単位を2つ以上有する化合物(オリゴ糖、デキストリン、フルクタン、デンプン、それらの誘導体等)であってもよく、これらの化合物の2種以上の混合物であってもよい。
単糖としては、例えばフルクトース、グルコース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロース、デオキシリボース等が挙げられる。
単糖単位を2つ以上有する化合物における2つ以上の単糖単位は同じでもよく異なっていてもよい。
【0009】
本実施形態において、原料中の炭水化物は、フラクト分が40モル%以上であることが好ましい。
「フラクト分」とは、炭水化物中の全ての単糖単位の合計に対するフルクトース単位の割合である。例えば炭水化物がスクロースの場合、スクロースは1つのフルクトース単位と1つのグルコース単位とからなるため、フラクト分は50モル%である。
【0010】
フルクトース単位は、フルクトース以外の単糖単位に比べ、水熱処理で高収率にHMFに変換できる。そのため、フラクト分が40モル%以上の炭水化物を用いることで、HMFの収率が向上する。
また、フルクトース単位は、フルクトース以外の単糖単位に比べ、水熱処理でHMFに変換するために必要な反応時間が短い。そのため、フラクト分が40モル%以上の炭水化物を用いることで、反応時間を短くでき、生産性が向上する。また、反応時間が長くなると、生成したHMFの分解や高分子量化が進み、HMFの収率があまり上がらなくなるおそれがあるが、反応時間が短くなることで、HMFの分解や高分子量化を抑制できる。
炭水化物のフラクト分は、60モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
炭水化物のフラクト分は100モル%であってもよいが、フルクトース単位のみからなる炭水化物は製造に手間がかかり、高コストになる傾向がある。本実施形態の方法によれば、フラクト分が100モル%でなくても高収率を達成できるので、炭水化物のフラクト分は、100モル%未満が好ましく、90モル%以下がより好ましい。
【0011】
フラクト分が40モル%以上の炭水化物(以下、「高F炭水化物」とも記す。)は、フルクトース単位を有する化合物の1種以上からなるものであってもよく、フルクトース単位を有する化合物の1種以上と、フルクトース以外の単糖単位を有し、フルクトース単位を有さない化合物の1種以上とからなるものであってもよい。フルクトース単位を有する化合物は、フルクトース以外の単糖単位をさらに有していてもよい。フルクトース以外の単糖としては、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロース、デオキシリボース等が挙げられる。
【0012】
高F炭水化物がフルクトース単位を有する化合物の1種からなる場合、フルクトース単位を有する化合物は、全ての単糖単位の合計に対するフルクトース単位の割合が40モル%以上である。高F炭水化物がフルクトース単位を有する化合物の2種以上からなる場合、それらの全ての前記フルクトース単位の割合が40モル%以上であってもよく、一部の前記フルクトース単位の割合が40モル%超で、一部の前記フルクトース単位の割合が0モル%超40モル%未満であってもよい。
高F炭水化物がフルクトース単位を有する化合物の1種以上と、フルクトース以外の単糖単位を有し、フルクトース単位を有さない化合物の1種以上とからなる場合、フルクトース単位を有する化合物の少なくとも1種は、全ての単糖単位の合計に対するフルクトース単位の割合が40モル%超である。
【0013】
フルクトース単位を有する化合物としては、例えば、フルクトース、スクロース、フラクトオリゴ糖、フルクタン(イヌリン、レバン等)等が挙げられる。
フルクトース以外の単糖単位を有し、フルクトース単位を有さない化合物としては、例えば、フルクトース以外の単糖、フラクトオリゴ糖以外のオリゴ糖(マルトース、マルトトリオース等)、デキストリン、セルロース、デンプン等が挙げられる。
【0014】
炭水化物は、反応性の観点から、水溶性であることが好ましい。
炭水化物が水溶性であるとは、析出することなく、水に溶解することを意味する。
【0015】
原料は、炭水化物以外の成分を含んでいてもよい。
炭水化物以外の成分としては、例えば水が挙げられる。なお、原料が水を含む場合、原料中の水は、水熱処理の媒体を構成する水の一部である。
【0016】
原料は市販品を用いることができる。
炭水化物及び水を含む原料の市販品の例としては、果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、マルトースシロップ等が挙げられる。
【0017】
(アルカリ(土類)金属塩)
アルカリ(土類)金属塩は水に溶解して塩析効果を発揮する。アルカリ(土類)金属塩は必ずしも必須ではないが、有機液体が、それ自体は水にわずかに溶解するようなものであっても、アルカリ(土類)金属塩の存在下で水熱処理を行うことで、有機液体と水とを相分離させ、水相で生成したHMFが有機液体相に移行させることができる。HMFは水中では不安定で、フミン化又は分解が生じやすいが、有機液体中では比較的安定である。HMFが有機液体相に移行することで、HMFの収率が向上する。
なお、有機液体がジメチルスルホキシド(DMSO)である場合、DMSOは水への溶解度が極めて高いため、アルカリ(土類)金属塩の存在下であっても、有機液体と水とが二層に分離しないことがある。理由は明らかではないが、有機液体がDMSOの場合は、有機液体と水とが二層に分離しなくてもHMFの収率が良好となる。
【0018】
アルカリ(土類)金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。これらの中でも、塩析効果に優れる点で、カルシウム塩が好ましい。
アルカリ(土類)金属塩においてアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンと塩を形成するアニオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-、HSO4
-、SO4
2-、CF3SO3
-、NO3
-、(CF3SO2)2N-、BF4
-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、HPO4
-、及びPO4
2-等が挙げられる。これらの中でも、異性化効果に優れる点で、Cl-が好ましい。
アルカリ(土類)金属塩としては、塩化カルシウムが特に好ましい。
アルカリ(土類)金属塩は、水和物であってもよい。
【0019】
(アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩)
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩は触媒として機能する。アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の存在下で水熱処理を行うことで、HMFの収率が向上する。
【0020】
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩としては、鉄塩、銅塩、アルミニウム塩、鉛塩、亜鉛塩、すず塩、タングステン塩、インジウム塩、モリブデン塩、クロム塩、ゲルマニウム塩、タンタル塩、マグネシウム塩、コバルト塩、カドミウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩、バナジウム塩、ガリウム塩、アンチモン塩、マンガン塩、ニッケル塩、ハフニウム塩、ニオブ塩、ビスマス塩、レニウム塩、及びタリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、反応性に優れる点で、鉄塩が好ましい。
卑金属塩において卑金属イオンと塩を形成するアニオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-、HSO4
-、SO4
2-、CF3SO3
-、NO3
-、(CF3SO2)2N-、BF4
-、PO4
3-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、HPO4
-、及びPO4
2-等が挙げられる。これらの中でも、異性化効果に優れる点で、Cl-が好ましい。
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩としては、塩化鉄が特に好ましい。
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩は、水和物であってもよい。
【0021】
(有機液体)
有機液体は、典型的には、HMFを溶解可能な有機溶剤である。
本実施形態において、有機液体は、沸点70℃以上の極性溶剤(以下、「高沸点極性溶剤」とも記す。)を含む。沸点は、常圧における値である。
極性溶剤は、スルフィニル基、エーテル基、水酸基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基等の極性部位を有するため、水との親和性に優れる。そのため、水相で生じたHMFが有機液体相へ移行しやすく、HMFの収率が向上する。また、沸点が70℃以上の極性溶剤を用いることで、テトラヒドロフラン(THF)のような低沸点の極性溶剤を用いる場合に比べ、水熱処理時の反応系内の圧力が低くなる。
高沸点極性溶剤の沸点は、反応系内の圧力を低くする観点から、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。高沸点極性溶剤の沸点の上限は特に限定されないが、減圧濃縮等でHMFの精製が容易になる観点では、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。上記下限値及び上記上限値は適宜組み合わせることができる。例えば70~300℃であってよく、80~250℃であってよい。
【0022】
高沸点極性溶剤は、25℃における水への溶解度が1.0×104mg/L以上であることが好ましく、1.0×105mg/L以上であることがより好ましく、1.0×106mg/L以上であることがさらに好ましい。水への溶解度が上記下限値以上であると、HMFの収率が高くなる傾向がある。その理由の一つとしては、水相で生じたHMFが有機液体相へ移行しやすくなることが考えられる。水への溶解度は高い程好ましく、上限は特に限定されない。
高沸点極性溶剤は、発火点が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。水熱処理は130~160℃程度の高温で行われるため、発火点が高い方が、安全に反応を行うことができる。発火点は、常圧における値である。
【0023】
高沸点極性溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」とも記す。)、メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル、エタノール、1-ブタノール、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。これらの中でも、HMFの収率の観点から、DMSO、1,4-ジオキサンが好ましく、DMSOが特に好ましい。
これらの高沸点極性溶剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
有機液体は、高沸点極性溶剤以外の他の有機液体をさらに含んでいてもよい。
他の有機液体としては、例えば、非極性溶剤、沸点70℃未満の極性溶剤等が挙げられる。他の有機液体の具体例としては、テトラヒドロフラン(以下、「THF」とも記す。)、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサン、ジメチルスルフィド、アセトン、トルエン等が挙げられる。これらの他の有機液体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。他の有機液体は、高沸点極性溶剤と混和可能であることが好ましい。HMFの収率の点では、有機液体は、トルエン等の芳香族炭化水素を含まないことが好ましい。
【0025】
有機液体の総質量に対する高沸点極性溶剤の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0026】
(水熱処理)
アルカリ(土類)金属塩の存在下又は不在下、かつアルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の存在下で、炭水化物を含む原料を、水及び有機液体を媒体として水熱処理することで、HMFを含む反応液が得られる。
【0027】
アルカリ(土類)金属塩の使用量は、炭水化物100質量部に対し、40~80質量部が好ましく、60~70質量部がより好ましい。アルカリ(土類)金属塩の使用量が上記下限値以上であれば、塩析の効果により有機液体相と水相の二層に分離させやすい。二層に分離すると、副生成物や固着物の生成が少ない条件で反応を行うことができ、収率も高くなる。上記上限値以下であれば、充分に二相に分離するため、有機液体相の回収及び有機液体相中に溶解するHMFの抽出が容易となる。
【0028】
アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の使用量は、炭水化物100質量部に対し、1~20質量部が好ましく、5~10質量部がより好ましい。アルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩の使用量が上記下限値以上であれば、副生成物の生成を抑えつつ、高収率でHMFに変換することができる。上記上限値以下であれば、更に短い反応時間で且つ高収率でHMFに変換することができる。
【0029】
水の使用量は、炭水化物及び水の合計100質量部に対する炭水化物の割合が、10~50質量部となる量が好ましく、20~40質量部となる量がより好ましい。炭水化物の割合が上記下限値以上であれば、反応後の有機液体相の回収及び有機液体相中に溶解するHMFの抽出が容易となる。上記上限値以下であれば、炭水化物の濃度を低くすることができるため、副生成物の生成を抑えつつ、高収率でHMFに変換することができる。
【0030】
有機液体の使用量は、炭水化物及び水の合計100質量部に対し、200~500質量部が好ましく、300~400質量部がより好ましい。有機液体の使用量が上記下限値以上であれば、有機液体によるHMFの抽出効率が上がるため、副生成物の抑制をすることができ、HMFの収率が向上する。上記上限値以下であれば、反応後の有機液体の除去が容易になる利点があり、それによって、反応後の有機液体の除去の手間が減り、且つ廃液量が少なくなる。
【0031】
水熱処理は、バッチ式、フロー式、パーコレート式等の公知の方法により実施できる。例えばバッチ式の場合、耐圧容器に攪拌子、原料、水、有機液体、アルカリ(土類)金属塩及びアルカリ(土類)金属塩以外の卑金属塩を仕込み、攪拌下で任意の反応温度に昇温し、任意の反応時間保持した後、冷却する方法が挙げられる。
反応温度は、130~160℃が好ましく、140~150℃がより好ましい。反応温度が上記下限値以上であれば、反応時間を短くできる。反応温度が上記上限値以下であれば、反応圧力を低くできる。
反応時間は、0.5~5時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。反応時間が上記下限値以上であれば、フルクトース単位が充分にHMFに変換される。反応時間が上記上限値以下であれば、生成したHMFのフミン化や分解を抑制できる。
反応圧力は、使用する有機液体の沸点、反応温度等に応じた値となるが、例えば0.1~0.3MPaである。
水熱処理後、必要に応じて、抽出、フミン質など副生成物の除去等の処理を行ってもよい。
【実施例0032】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下において「%」は、特に説明のない場合は「質量%」を示す。
ガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
【0033】
[ガスクロマトグラフィー(GC)]
・装置:島津製作所社製「GC2014」
・分析カラム:島津ジーエルシー社製「ZB-5」
・カラム温度:100℃
・キャリアガス:ヘリウム、窒素
・検出器:FID
【0034】
<実施例1:DMSOを用いたHMFの合成>
以下の手順でHMFの合成を行った。
温度センサー、マグネティックスターラー、圧力計を備えた内容量100mLの反応容器にフルクトース(特級、富士フィルム和光純薬製、フラクト分100モル%)の2.25gを仕込んだ。次いで、純水の3.75g、DMSO(特級、富士フィルム和光純薬製)の20.0gを仕込んだ。次いで、塩化カルシウム・二水和物(特級、富士フィルム和光純薬製)の1.50g、塩化鉄・六水和物(特級、富士フィルム和光純薬製)の0.15gを仕込み、系内を均一に混合させた。次いで、400rpmで攪拌しながら150℃まで昇温させた。150℃に到達後、150℃±1℃で1時間保持し、その後、温度調節を止め、反応容器に冷却水を循環させることで、30℃以下まで冷却した。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応液は均一な溶液であった。次いで、分液漏斗にDMSOの50.0g、純水の50.0gを添加した。得られた溶液に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0035】
<実施例2:DMSOを用いたHMFの合成>
塩化カルシウム・二水和物を使用しなかった以外は実施例1と同様にして反応を行った。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応液は均一な溶液であった。次いで、分液漏斗にDMSO50.0g、純水50.0gを添加し、得られた溶液に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0036】
<実施例3:1,4-ジオキサンを用いたHMFの合成>
DMSOの代わりに1,4-ジオキサンを用い、反応温度を150℃から130℃に変更した以外は実施例1と同様にして反応を行った。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応液は、水層及び有機層(1,4-ジオキサン層)の二層に分離していた。次いで、分液漏斗に1,4-ジオキサン50.0g、純水50.0gを添加し、水層及び有機層をそれぞれ回収した。有機層に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0037】
<実施例4:1-ブタノールを用いたHMFの合成>
DMSOの代わりに1-ブタノールを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応液は、水層及び有機層(1-ブタノール層)の二層に分離していた。次いで、分液漏斗に1-ブタノール50.0g、純水50.0gを添加し、水層及び有機層をそれぞれ回収した。有機層に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0038】
<実施例5:メチルイソブチルケトンを用いたHMFの合成>
DMSOの代わりにメチルイソブチルケトンを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応後の液は、水層及び有機層(メチルイソブチルケトン層)の二層に分離していた。次いで、分液漏斗にメチルイソブチルケトン50.0g、純水50.0gを添加し、水層及び有機層をそれぞれ回収した。有機層に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0039】
<比較例1:THFを用いたHMFの合成>
DMSOの代わりにTHFを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応後の液は、水層及び有機層(THF層)の二層に分離していた。次いで、分液漏斗にTHF50.0g、純水50.0gを添加し、水層及び有機層をそれぞれ回収した。有機層に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0040】
<比較例2:メタノールを用いたHMFの合成>
DMSOの代わりにメタノールを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応液は均一な溶液であった。次いで、分液漏斗にメタノール50.0g、純水50.0gを添加し、得られた溶液に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0041】
<比較例3:トルエンを用いたHMFの合成>
DMSOの代わりにトルエンを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。冷却後の反応液を回収し、分液漏斗に移した。反応後の液は、水層及び有機層(トルエン層)の二層に分離していた。次いで、分液漏斗にトルエン50.0g、純水50.0gを添加し、水層及び有機層をそれぞれ回収した。有機層に含まれるHMF量をガスクロマトグラフィーで確認し、HMFの収率を求めた。
【0042】
表1に、実施例1~5及び比較例1~3における有機液体(種、沸点、水への溶解度)、反応温度、系内の圧力、HMFの収率を示す。
表1に示すとおり、沸点が70℃未満の極性溶剤を用いた比較例1~2は、系内の圧力が高かった。非極性溶剤であるトルエンを用いた比較例3は、HMFの収率が低かった。これに対し、実施例1~5は、比較例1~2よりも系内の圧力が低く、かつ比較例3よりも収率が高かった。
【0043】
【0044】
<実施例6:DMSOを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにイヌリン(フジFF、フジ日本精糖社製、フラクト分90モル%)2.25gを用いた以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0045】
<実施例7:DMSOを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに果糖ぶどう糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガーHF55」、BRIX75、フラクト分55モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0046】
<実施例8:DMSOを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにぶどう糖果糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガー 75FG」、BRIX75、フラクト分42モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0047】
<実施例9:DMSOを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに30%フルクトース水溶液(フルクトース0.675g(特級、富士フィルム和光純薬)、グルコース1.575g(特級、富士フィルム和光純薬)、BRIX37.5、フラクト分30モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。
【0048】
表2に、実施例1、6~9における原料、反応温度、反応時間、有機液体、HMFの収率、系内の圧力を示す。
表2に示すとおり、原料のフラクト分が高いほど、HMFの収率が高くなっていた。
【0049】
【0050】
<実施例10:1,4-ジオキサンを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにイヌリン(フジFF、フジ日本精糖社製、フラクト分90モル%)2.25gを用いた以外は実施例3と同様にしてHMFの合成を行った。
【0051】
<実施例11:1,4-ジオキサンを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに果糖ぶどう糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガーHF55」、BRIX75、フラクト分55モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例3と同様にしてHMFの合成を行った。
【0052】
<実施例12:1,4-ジオキサンを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにぶどう糖果糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガー 75FG」、BRIX75、フラクト分42モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例3と同様にしてHMFの合成を行った。
【0053】
<実施例13:1,4-ジオキサンを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに30%フルクトース水溶液(フルクトース0.675g(特級、富士フィルム和光純薬)、グルコース1.575g(特級、富士フィルム和光純薬)、BRIX37.5、フラクト分30モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例3と同様にしてHMFの合成を行った。
【0054】
表3に、実施例3、10~13における原料、反応温度、反応時間、有機液体、HMFの収率、系内の圧力を示す。
【0055】
【0056】
<実施例14:1-ブタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにイヌリン(フジFF、フジ日本精糖社製、フラクト分90モル%)2.25gを用いた以外は実施例4と同様にしてHMFの合成を行った。
【0057】
<実施例15:1-ブタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに果糖ぶどう糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガーHF55」、BRIX75、フラクト分55モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例4と同様にしてHMFの合成を行った。
【0058】
<実施例16:1-ブタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにぶどう糖果糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガー 75FG」、BRIX75、フラクト分42モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例4と同様にしてHMFの合成を行った。
【0059】
<実施例17:1-ブタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに30%フルクトース水溶液(フルクトース0.675g(特級、富士フィルム和光純薬)、グルコース1.575g(特級、富士フィルム和光純薬)、BRIX37.5、フラクト分30モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は実施例4と同様にしてHMFの合成を行った。
【0060】
表4に、実施例4、14~17における原料、反応温度、反応時間、有機液体、HMFの収率、系内の圧力を示す。
【0061】
【0062】
<比較例4:メタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにイヌリン(フジFF、フジ日本精糖社製、フラクト分90モル%)2.25gを用いた以外は比較例2と同様にしてHMFの合成を行った。
【0063】
<比較例5:メタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに果糖ぶどう糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガーHF55」、BRIX75、フラクト分55モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は比較例2と同様にしてHMFの合成を行った。
【0064】
<比較例6:メタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりにぶどう糖果糖液糖(群栄化学工業社製「スリーシュガー 75FG」、BRIX75、フラクト分42モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は比較例2と同様にしてHMFの合成を行った。
【0065】
<比較例7:メタノールを用いたHMFの合成>
フルクトース2.25gの代わりに30%フルクトース水溶液(フルクトース0.675g(特級、富士フィルム和光純薬)、グルコース1.575g(特級、富士フィルム和光純薬)、BRIX37.5、フラクト分30モル%)3.0gを用い、純水の仕込み量を3.75gから3.0gに変更した以外は比較例2と同様にしてHMFの合成を行った。
【0066】
表5に、比較例2、4~7における原料、反応温度、反応時間、有機液体、HMFの収率、系内の圧力を示す。
【0067】