(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130030
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】開閉器
(51)【国際特許分類】
H01H 50/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01H50/18 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039511
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【弁理士】
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 孝幸
(57)【要約】
【課題】動作の安定性を阻害せずに閉極動作初期における吸引力を確保する。
【解決手段】第1の方向に複数の鋼板を積層して形成された固定鉄心8と、固定鉄心8の複数の鋼板の端面と対向して設けられた可動鉄心7と、を備える。可動鉄心7は、磁力によって固定鉄心8に対して相対的に変位する。複数の鋼板は、第1の鋼板20と第2の鋼板21とを含み、第1の鋼板20と可動鉄心7との距離は第2の鋼板21と可動鉄心7との距離より短い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に複数の板を積層して形成された第1の鉄心と、
前記第1の鉄心の端面と対向して設けられた第2の鉄心と、を備え、
前記第2の鉄心は、磁力によって前記第1の鉄心に対して相対的に変位し、
前記複数の板は、第1の板と第2の板とを含み、
閉極動作前、前記第1の板と前記第2の鉄心との距離は前記第2の板と前記第2の鉄心との距離より短い開閉器。
【請求項2】
前記閉極動作前、前記第1の板と前記第2の鉄心との距離は、前記複数の板に含まれる各板と前記第2の鉄心との距離のうち最も短いことを特徴とする請求項1に記載の開閉器。
【請求項3】
前記第1の板は、前記複数の板のうち最も外側に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項4】
前記閉極動作前、前記第2の鉄心の吸着面が形成される面と前記第1の板との距離は、前記第1の鉄心の吸着面が形成される面と前記第2の鉄心の吸着面が形成される面との距離以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項5】
前記第1の鉄心は、前記第1の鉄心の吸着面が形成される面に対して前記第2の鉄心側に突出しているバイパス部を有し、
前記第1の方向における前記バイパス部の厚さは、前記第1の方向における前記第2の板の厚さより厚いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項6】
前記第2の鉄心の変位方向における前記第1の板の全体長は、前記変位方向における前記第2の板の全体長より長いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項7】
前記第1の方向における前記第1の鉄心の吸着面が形成される面の長さは、前記第1の方向における前記第2の鉄心の吸着面が形成される面の長さ以上であることを請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項8】
前記第1の鉄心の吸着面が形成される面は、前記第2の板で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項9】
前記複数の板は、第3の板を含み、
前記閉極動作前、前記第3の板と前記第2の鉄心との距離は、前記第1の板と前記第2の鉄心との距離より長く、前記第2の板と前記第2の鉄心との距離より短いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項10】
前記第2の鉄心の変位方向に対して垂直な方向は前記第1の方向であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【請求項11】
前記変位方向および前記第1の方向に対して垂直な方向は、重力方向であることを特徴とする請求項10に記載の開閉器。
【請求項12】
前記第1の鉄心は固定鉄心であり、前記第2の鉄心は可動鉄心であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の開閉器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、開閉器に関し、特に、磁力によって接点を開閉する開閉器に関する。
【背景技術】
【0002】
磁力によって接点を開閉する開閉器では、電圧印加時に働く可動鉄心と固定鉄心との間の磁力による吸引力を利用して閉極動作を行う。
【0003】
特許文献1には、磁力によって接点を開閉する開閉器の一例である電磁接触器に用いられる電磁石が記載されている。特許文献1に記載の電磁石は、電磁コイルが装着された固定鉄心と、電磁コイルの励磁により固定鉄心に吸引される可動鉄心とを備えており、さらに固定鉄心および可動鉄心の一方または双方に、相手側の鉄心の側方に隙間を介して延びる磁気漏れ部が一体に突出形成されている。このような磁気漏れ部を備えることによって、吸引動作時に電磁コイルの磁束の一部を磁気漏れ部に導き、鉄心同士が接極する間際の吸引力を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁力によって接点を開閉する開閉器では、閉極動作の際に、無印加時に可動鉄心と固定鉄心とが近づかないよう可動鉄心に閉極時の変位方向とは逆の方向の力を加える開放ばねの力を超える吸引力が必要となる。この可動鉄心に働く吸引力は、可動鉄心と固定鉄心との間の空隙が大きいほど小さくなる。したがって、閉極指令を受けてから閉極を完了するまでにかかる時間を短縮することを考えた場合、空隙が大きい閉極動作初期において、開放ばねによる力を上回る吸引力をいかに確保するかが課題になる。
【0006】
特許文献1に記載の電磁石は、磁気漏れ部を備えることにより、接極間際の吸引力の一部を可動鉄心の移動方向外へ向けて全体の吸引力を抑制させることにより、鉄心同士の衝突速度を低下させるものであって、吸引力の早期確保すなわち閉極動作初期における吸引力の確保については何ら考慮されていない。例えば、特許文献1の段落0009には、電磁接触器の可動接点が固定接点との接触を開始するストロークまでの吸引力は従来と同じとなるように設定される旨が記載されている。なお、ここでいう従来とは、磁気漏れ部がない構成である。
【0007】
さらに、特許文献1に記載の電磁石は、以下に示す点で別の課題を有している。特許文献1に記載の電磁石は、磁気漏れ部を形成するために、積層鋼板をリベットで締結して構成された固定鉄心の各鋼板に対して、相手側の鉄心の側方に伸びた突出形状加工をする必要があり、各鋼板の製造が容易ではない。さらに、そのような突出形状を有する鋼板を積層して固定鉄心を形成するには、各鋼板の位置決めに高い精度を要するため、固定鉄心の製造が容易ではない。各鋼板における製造誤差や、固定鉄心を組み立てる際の位置決め誤差が生じると、例えば吸着面に凹凸ができ異物が混入しやすくなったり、閉極動作時に固定鉄心と可動鉄心とが意図せず接触するなどして摩耗劣化したりと、開閉動作の安定性を阻害する原因になる。長期間安定した開閉動作を行うことが求められる開閉器においては、複雑な加工や高精度な位置決めが必要でないなど製造が容易である点や、動作中の劣化を抑止する点は重要である。
【0008】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、動作の安定性を阻害せずに閉極動作初期における吸引力を確保することができる開閉器を得ることを目的とする。
【0009】
本開示に係る開閉器は、第1の方向に複数の板を積層して形成された第1の鉄心と、第1の鉄心の端面と対向して設けられた第2の鉄心と、を備える。第2の鉄心は、磁力によって第1の鉄心に対して相対的に変位する。複数の板は、第1の板と第2の板とを含み、閉極動作前、第1の板と第2の鉄心との距離は第2の板と第2の鉄心との距離より短い。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、動作の安定性を阻害せずに閉極動作初期における吸引力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る開閉器の開極状態を示す断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る開極状態での電磁石部を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る開極状態での電磁石部を示す側面図である。
【
図4】実施の形態1に係る開極状態での電磁石部の積層構造を示す側面図である。
【
図5】実施の形態1に係る開極状態での磁束の流れを示す斜視図である。
【
図6】実施の形態1に係る閉極状態での磁束の流れを示す側面図である。
【
図7】実施の形態1に係る可動鉄心に働く吸引力を示す図である。
【
図8】実施の形態2に係る開極状態での電磁石部を示す斜視図である。
【
図9】実施の形態3に係る開極状態での電磁石部の積層構造を示す側面図である。
【0012】
以下に、本開示の実施の形態に係る開閉器を図面に基づいて詳細に説明する。本開示において、可動側と固定側とを区別することなく、特に、対向する位置に設けられた2つの鉄心に対して、後述するバイパス部を有する鉄心を第1の鉄心、第1の鉄心とは別の鉄心を第2の鉄心と呼ぶ場合がある。なお、開閉器としては、例えば、電磁接触器や電磁開閉器等が含まれる。
【0013】
本開示において、板は板形状である。ここで、板形状とは、1つまたは複数の側面でつながれた2つの表面を有する形状のことである。以下、板形状の側面および板形状の表面に相当する面を、端面という。
【0014】
実施の形態1.
まず実施の形態1に係る開閉器100の構成を説明する。
図1は実施の形態1に係る開閉器100の開極状態を示す断面図である。
図1において、紙面の手前から奥に向かう方向を+X方向、右方向を+Y方向、下方向を+Z方向とする。
【0015】
図1において、開閉器100は、トップケース1およびボトムケース2によって構成される筐体3を備える。トップケース1は、可動接触子4、固定接触子5A、5Bおよび接圧ばね6を収容する。ボトムケース2は、可動鉄心7、固定鉄心8、コイル9、コイルボビン10、開放ばね11を収容する。クロスバー12は、トップケース1とボトムケース2とに跨がって配置されている。トップケース1とボトムケース2とは、ねじまたは両ケースに形成された係合用の凹凸によって固定される。
【0016】
また、可動鉄心7、固定鉄心8、コイル9および開放ばね11は電磁石部50を構成している。なお、図示形態はあくまで一例であって、電磁石部50の収容方法は上記例に限定されない。
【0017】
図1では、可動鉄心7の変位方向をZ方向として示している。可動鉄心7が固定鉄心8に近づく方向を+Z方向、可動鉄心7が固定鉄心8に近づく方向を-Z方向と示している。また、後述する鋼板積層構造の鉄心における各鋼板の積層方向をX方向として示している。積層方向を第1の方向ということも可能である。なお、実施の形態1では、第1の鉄心として固定鉄心8を、第2の鉄心として可動鉄心7を備えた開閉器100を例に用いて説明する。
【0018】
本例における第1の鉄心である固定鉄心8は、複数の板を積層して形成される。
図1では、固定鉄心8はX方向に複数の鋼板を積層して形成されている。本例の鋼板は板形状である。固定鉄心8は、例えば、複数の鋼板をリベット13で締結されている。なお、リベットによる締結位置は特に限定されないが、複数個所であることが好ましい。本例では、リベット13A、13B、13C、13Dの4つを用いて積層された複数の鋼板同士を固定することで、一体化された鋼板の積層構造として固定鉄心8が形成される。
【0019】
図1では、固定鉄心8が、相手側鉄心である可動鉄心7の方に延びる3つの脚部を有するE字形状である例を示している。ここで、脚部は、対となる2つの鉄心の少なくとも一方の鉄心において、相手側鉄心の方向に延伸する部位をいう。後述するように、脚部には吸着面が形成される。なお、固定鉄心8の形状や脚部の数は図例に限定されない。例えば、固定鉄心8全体が1つの脚部を形成していてもよい。なお、吸着面が形成される部位を脚部とみなすことも可能である。
【0020】
以下、積層構造の鉄心において、板が積層される方向(図中のX方向)を厚み方向という場合がある。また、以下、特に断りなく該鉄心の形状といった場合、該鉄心の正面形状、より具体的には、積層構造の鉄心において最も外側に配置されている板の形状をいう。以下、最も外側に配置されている板の表面を、該鉄心の表面という場合がある。なお、複数板の積層構造においては、2つある表面のうちの一方を正面、他方を背面といってもよい。また、鉄心の正面に対して横の面を側面または端面といい、本例では、複数の板のそれぞれの端部によって構成される面をいう。以下、便宜的に、正面視において、変位方向を縦方向、変位方向と直交する方向を横方向という場合がある。
【0021】
図1に示す例において、各鋼板はE字形状をしており、該鋼板の積層構造である固定鉄心8もE字形状となる。固定鉄心8は、具体的には、脚部である中央脚8Aとその両横に設けられる一対の端脚8B、8Cとを備えたE字形状となる。固定鉄心8およびそれを構成する複数の板の詳細な形状については、後述する。固定鉄心8は、積層方向が変位方向と直交する方向となるように配置される。
【0022】
固定鉄心8の相手側鉄心である可動鉄心7は、複数の板を積層して形成された固定鉄心8の端面と対向して設けられる。より具体的には、可動鉄心7は、固定鉄心8を構成する複数の板のそれぞれの端部によって構成される面である端面に対向して設けられる。また、可動鉄心7は、固定鉄心8に対して変位可能に設けられる。本例では、Z方向に変位可能に設けられる。ここで、Z方向は、固定鉄心8の脚部、例えば、中央脚8A、端脚8B、8Cの伸延方向ということも可能である。または、Z方向は、後述する固定鉄心吸着面31の法線方向ということも可能である。
【0023】
コイル9は、コイルボビン10に巻回され、コイルボビン10に巻回された状態で固定鉄心8の中央脚8Aに設置される。コイル9に電圧を印加して通電するとコイル9の内部に磁束が発生する。
【0024】
開放ばね11は、コイルボビン10と可動鉄心7との間に配置され、可動鉄心7に固定鉄心8から引き離す方向である-Z方向に押す力を作用させる。
【0025】
固定接触子5A、5Bは、ボトムケース2に固定されて、可動接触子4と対向して配置されている。固定接触子5A、5Bの-Z方向側の面には、固定接点15A、15Bがそれぞれロウ付けされている。
【0026】
可動接触子4は、固定接触子5A、5Bよりも可動鉄心7側、すなわち-Z方向側に、固定接触子5A、5Bと対向して設けられている。可動鉄心7は、可動側ピン14によってクロスバー12の一端と連結されている。クロスバー12の他端には、可動接触子4が支持されている。可動鉄心7がZ方向に変位することによって、可動鉄心7と連結されたクロスバー12が変位し、クロスバー12に固定されている可動接触子4が可動鉄心7の変位方向であるZ方向に変位するようになっている。可動接触子4の下側の面、すなわち+Z方向側の面には、可動接点16A、16Bがロウ付けされている。可動接触子4の上側の面、すなわち-Z方向側の面には、接圧ばね6が連結されている。
【0027】
接圧ばね6は、クロスバー12の内空間に配置されている。接圧ばね6は、圧縮された状態で可動接触子4をクロスバー12との間にはさみ、可動接触子4を支持している。接圧ばね6は、+Z方向側の一端は可動接触子4を介して、クロスバー12の内空間で移動範囲を規制されており、-Z方向側の他端はクロスバー12の内空間に接触している。
クロスバー12と連結した可動鉄心7が+Z方向に変位すると、クロスバー12に固定されている可動接触子4が固定接触子5A、5Bと接触する。すなわち、可動接点16A、16Bと固定接点15A、15Bとが接触する。さらに、可動鉄心7が+Z方向に変位し続けると、可動接点16A、16Bと固定接点15A、15Bとが接触したまま、内空間に配置された接圧ばね6は圧縮される。ここで、可動接点16A、16Bと固定接点15A、15Bとの接点間に電流が流れると、接点同士を遠ざけようとする電磁反発力が発生する。この電磁反発力により、可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bから遠ざかる方向に可動しようとするが、圧縮された接圧ばね6により接点同士が浮かないよう圧接されている。
【0028】
開閉器100は、可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bに接触している閉極状態および可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bに接触していない開極状態のいずれかの状態をとる。開極状態から、可動鉄心7が固定鉄心8に近づく方向、すなわち+Z方向に変位すると、可動接触子4も+Z方向に変位し、やがて可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bに接触し、閉極状態になる。可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bに接触した状態から可動鉄心7がさらに+Z方向に、すなわち固定鉄心8に向かって変位し続けると、やがて可動鉄心7は固定鉄心8に接触する。可動鉄心7が固定鉄心8に接触した状態を、閉極状態の中でも特に吸着状態という。開閉器100が閉極状態から開極状態に移行することを開極動作といい、開極状態から閉極状態に移行することを閉極動作という。また、無通電で可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bに接触していない開極状態のことを閉極動作前といってもよい。
【0029】
図1に示す例について、接点間に異物が引っかからないようにするため、開閉器100の固定接点15A、15Bと可動接点16A、16Bとの接触面は重力方向と平行になるように設置されている。また、固定接点15A、15Bと可動接点16A、16Bとの接触面と同様に、鉄心の吸着面に異物が引っかからないように、開閉器100の固定鉄心8と可動鉄心7との吸着面が重力方向と平行になるように設置されている。ここで、開閉器100のY方向を重力方向と呼ぶ。
【0030】
なお、重力方向の向きは固定接点15A、15Bと可動接点16A、16Bとの接触面に対して平行であることに限らなくてもよい。例えば、固定接点15A、15Bと可動接点16A、16Bとの接触面に対して重力方向は垂直や、固定接点15A、15Bと可動接点16A、16Bとの接触面に対して重力方向は傾いていてもよい。また、重力方向の向きは鉄心の吸着面に対して平行であることに限らなくてもよい。例えば、鉄心の吸着面に対して重力方向は垂直でもよい。また、鉄心の吸着面に対して重力方向は傾いていてもよい。また、開閉器100はあくまで一例であるため、固定接点15A、15Bと可動接点16A、16Bとの接触面と鉄心の吸着面の向きは必ず同一方向でなくともよい。
【0031】
次に、電磁石部50の特に固定鉄心8の構成についてより詳細を説明する。
図2は実施の形態1に係る開極状態での電磁石部50を示す斜視図である。
図3は実施の形態1に係る開極状態の電磁石部50を示す側面図である。
図4は実施の形態1に係る開極状態の電磁石部50における固定鉄心8の積層構造を示す側面図である。なお、
図2、
図3および
図4では、コイル9およびコイルボビン10の図示を省略している。また、固定鉄心8は複数の鋼板を積層して形成されているが、
図2および
図3では当該積層構造の図示を省略している。なお、
図2、
図3および
図4では、開極状態の特にコイル9に無通電の状態を図示している。
【0032】
固定鉄心8は、変位方向における鋼板の全体長が異なる2種類の鋼板、すなわち第1の鋼板20と第2の鋼板21を積層して形成されている。ここで、本例の固定鉄心8は第1の鋼板20と、第2の鋼板21と、第2の鋼板21と同じ形状の複数の鋼板と、を積層した構造になっている。
【0033】
第1の鋼板20の変位方向であるZ方向における全体長は、第2の鋼板21の変位方向における全体長より長い。また、積層方向であるX方向における第1の鋼板20の厚さは、積層方向における第2の鋼板21の厚さと同じである。第1の鋼板20は、固定鉄心8の積層構造のうち最も+X方向側と最も-X方向側に配置されている、すなわち、第1の鋼板20は、複数の鋼板の積層方向であるX方向において複数の鋼板のうち最も外側に配置されている。第2の鋼板21は、固定鉄心8の積層構造の第1の鋼板20より内側に配置されている。
【0034】
可動鉄心7が固定鉄心8に接触した状態である吸着状態は、固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41とが接触している。本例の固定鉄心吸着面31は、吸着状態で固定鉄心8が可動鉄心7と接触している範囲の面のみに限らず、可動鉄心7と接触する面を含んだ固定鉄心の端面である。すなわち、固定鉄心吸着面31は、固定鉄心の吸着面が形成される面のことである。本例の固定鉄心吸着面31は、第1の鋼板20を除いた第2の鋼板21および第2の鋼板21同じ形状の複数の鋼板で形成された可動鉄心7側、すなわち-Z方向側の端面で形成されている。
【0035】
本例の可動鉄心吸着面41は、吸着状態で可動鉄心7が固定鉄心8と接触している範囲の面のみに限らず、固定鉄心8と接触する面を含んだ可動鉄心の端面である。すなわち、可動鉄心吸着面41は、可動鉄心7の吸着面が形成される面のことである。
【0036】
固定鉄心8は、固定鉄心8の吸着面が形成される面に対して-Z方向側、すなわち可動鉄心7側に突出しているバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを有する。本例でいうバイパス部とは、第2の鋼板21よりも変位方向の全体長が長い第1の鋼板20を積層構造の最も外側に配置することによって、第2の鋼板21を含んだ複数の鋼板で形成された固定鉄心吸着面31に対して-Z方向側に突出している部分のことである。バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fは、XZ平面における固定鉄心8の側面形状についてX方向の両端部分が-Z方向側に突出した形状になる。開閉器100における固定鉄心8は脚部にバイパス部が設けられている。固定鉄心8の中央脚8Aには、-X方向側の固定鉄心端面32Aに30A、+X方向側の固定鉄心端面32B側にバイパス部30Dが設けられている。固定鉄心8の端脚8Bには、-X方向側の固定鉄心端面32Aに30B、+X方向側の固定鉄心端面32B側にバイパス部30Eが設けられている。固定鉄心8の端脚8Cには、-X方向側の固定鉄心端面32Aに30C、+X方向側の固定鉄心端面32B側にバイパス部30Fが設けられている。よって、本例の固定鉄心8は合計6つのバイパス部を有している。
【0037】
積層方向におけるバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fの厚さとは、吸着面が形成される面に対して可動鉄心7側に突出した部分の積層方向における厚さである。
図4では、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fは、第1の鋼板20によって形成されているため、積層方向におけるバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fの厚さは、バイパス部を形成している鋼板の厚さ、つまり第1の鋼板20である。
【0038】
閉極動作前、すなわち無通電の状態における電磁石部50の構成間の距離の関係を説明する。ここで、ある構成とある構成との距離とは、ある構成とある構成との間の最小距離を示すものとする。バイパス部内側33A、33Bと可動鉄心吸着面41との距離、すなわち第1の鋼板20と可動鉄心7との距離L1は、固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41との距離、すなわち第2の鋼板21と可動鉄心7との距離L2より短い。なお、距離L2は、固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41との距離と言い換えることもできる。第1の鋼板20と可動鉄心7との距離L1は、固定鉄心8を構成する複数の鋼板に含まれる各板と可動鉄心7との距離のうち最も短い。複数の鋼板の積層方向であるX方向における固定鉄心吸着面31の長さL3は、X方向における可動鉄心吸着面41の長さL4より長い。固定鉄心吸着面31に対するバイパス部先端34A、34Bの高さ、すなわち固定鉄心吸着面31と第1の鋼板20との距離L5は、固定鉄心吸着面31に対する可動鉄心吸着面41の高さ、すなわち固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41との距離L2と同じである。
【0039】
次に、電磁石部50における磁束の流れを説明する。
図5は実施の形態1に係る開極状態の電磁石部50における磁束の流れを示す斜視図である。なお、固定鉄心8は複数の鋼板を積層して形成されているが、
図5では当該積層構造の図示を省略している。また、
図5では、コイル9およびコイルボビン10の図示を省略している。コイル9に電圧を印加すると、コイル9の内部に磁束60Aが発生する。コイル9に交流電圧を印加した場合、磁束60Aの方向は電流の正負によって周期的に反転するが、ここでは固定鉄心8の中央脚8Aを-Z方向に磁束60Aが流れている状態について説明する。
【0040】
固定鉄心8の中央脚8Aを-Z方向に流れた磁束60Aは、2つの磁束601A、602Aに分流する。磁束601A、602Aは、固定鉄心8の中央脚8Aのバイパス部30A、30Dにそれぞれ流れる。そして、2つの磁束601A、602Aは、バイパス部30Aと可動鉄心7の中央脚7Aの可動鉄心端面42Aの間の空隙、バイパス部30Dと可動鉄心7の中央脚7Aの可動鉄心端面42Bの間の空隙をそれぞれ介して可動鉄心7の中央脚7Aに流れて合流し、1つの磁束60Aになる。次に、可動鉄心7の中央脚7Aを-Z方向に流れた磁束60Aは、2つの磁束60B、60Cに分流する。磁束60B、60Cは、可動鉄心7の中央脚7Aから端脚7B、7Cにそれぞれ流れる。
【0041】
磁束60Bは、可動鉄心7の+Y方向側の端脚7Bを+Z方向に流れ、2つの磁束601B、602Bに分流する。そして、磁束601B、602Bは、可動鉄心7の端脚7Bから空隙を介して固定鉄心8の+Y方向側の端脚8Bのバイパス部30B、30Eにそれぞれ流れる。バイパス部30B、30Eを+Z方向に流れた磁束601B、602Bは、合流して1つの磁束60Bになる。一方、磁束60Cは、可動鉄心7の-Y方向側の端脚7Cを+Z方向に流れ、2つの磁束601C、602Cに分流する。そして、磁束601C、602Cは、可動鉄心7の端脚7Cから空隙を介して固定鉄心8の-Y方向側の端脚8Cのバイパス部30C、30Fにそれぞれ流れる。バイパス部30C、30Fを+Z方向に流れた磁束601C、602Cは、合流して1つの磁束60Cになる。固定鉄心8の端脚8B、8Cを+Z方向に流れた磁束60B、磁束60Cは、それぞれ固定鉄心8の中央脚8Aに向けて流れ、中央脚8Aで合流する。
【0042】
ここで、磁束が固定鉄心8から可動鉄心7にあるいは可動鉄心7から固定鉄心8に流れる際にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを経由して流れる理由を説明する。一つの理由は、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fが鉄製であることである。鉄の比透磁率は空気よりも大きい。鉄の比透磁率は材料や使用条件によって変化するが、例えば、空気の100~10000倍程度である。磁気抵抗は比透磁率に反比例することから、空気よりも磁気抵抗が小さいバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fに磁束601A、601B、601C、602A、602B、602Cが流れやすくなる。
【0043】
もう一つの理由は、可動鉄心7とバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fとの距離が可動鉄心吸着面41と固定鉄心吸着面31との距離より短いことである。固定鉄心8と可動鉄心7の間の空隙を磁束が流れる場合、空隙が小さいほど磁気抵抗が小さくなる。可動鉄心7とバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fとの空隙が、可動鉄心吸着面41と固定鉄心吸着面31との空隙よりも小さいことで、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fに磁束601A、601B、601C、602A、602B、602Cが流れやすくなる。
【0044】
続いて、開閉器100の閉極動作について説明する。コイル9に通電すると磁束が発生し、上記のように固定鉄心8と可動鉄心7に磁束が流れる。可動鉄心7には、固定鉄心8側、すなわち+Z方向に引き付ける吸引力が働く。一方、可動鉄心7に連結された開放ばね11は、可動鉄心7を-Z方向に押す力を加えている。したがって、可動鉄心7に働く吸引力が開放ばね11の力を上回ることで、可動鉄心7が固定鉄心8に向かって変位を開始する。
【0045】
さらに、吸引力によって可動鉄心7が+Z方向に変位すると、連結した可動接触子4も+Z方向に変位し、やがて可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bと接触する。可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bと接触したまま可動鉄心7が+Z方向に変位すると、圧縮された接圧ばね6によって可動鉄心7に-Z方向の力が働く。このため、可動鉄心7には-Z方向に開放ばね11の力と接圧ばね6の力との合力が働く。
【0046】
可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bと接触するまでは可動鉄心7に働く吸引力が開放ばね11の力を上回ることで、+Z方向に変位する。そして、可動接点16A、16Bが固定接点15A、15Bと接触して以降は、加速した可動鉄心7の慣性力と吸引力によって、開放ばね11と接圧ばね6を圧縮し続けることで、可動鉄心7は閉極状態からさらに+Z方向に変位し続け、やがて可動鉄心7は固定鉄心8に吸着する。
【0047】
図6は、実施の形態1に係る閉極状態の磁束の流れを示す側面図である。なお、
図6は、閉極状態の特に吸着状態直前の状態において端脚7B、8Bを+Y方向側から-Y方向側に向けて見た図である。なお、固定鉄心8は複数の鋼板を積層して形成されているが、
図6では当該積層構造の図示を省略している。
図6に示すように、閉極状態においても、バイパス部30A、30Dに磁束601B、602Bは流れるが、磁束の大部分は可動鉄心吸着面41から固定鉄心吸着面31に流れる磁束60Bとなる。これは、可動鉄心吸着面41と固定鉄心吸着面31との空隙が極めて小さい状態であるために、磁気抵抗が小さくなるためである。
【0048】
図7は実施の形態1に係る可動鉄心7に働く吸引力を示す図である。
図7において、曲線70は実施の形態1に係る開閉器100のデータを、曲線80は比較例の開閉器のデータを示している。比較例の開閉器は、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを備えない固定鉄心8を備えている。
図7において、横軸は可動鉄心吸着面41と固定鉄心吸着面31との距離、縦軸は可動鉄心7に働く吸引力を示している。
図7より、可動鉄心吸着面41と固定鉄心吸着面31との距離が大きい領域、すなわち閉極動作初期の領域において、実施の形態1に係るバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを備えた開閉器100の方が、比較例の開閉器よりも可動鉄心7に働く吸引力が大きいことが分かる。
【0049】
以上のように、実施の形態1に係る開閉器100は、第1の方向に複数の鋼板を積層して形成された固定鉄心8と、固定鉄心8の端面と対向して設けられた可動鉄心7と、を備え、可動鉄心7は、磁力によって固定鉄心8に対して相対的に変位する。この複数の鋼板は、第1の鋼板20と第2の鋼板21とを含み、閉極動作前では、第1の鋼板20と可動鉄心7との距離L1は第2の鋼板21と可動鉄心7との距離L2より短い。すなわち、第1の鋼板20は-Z方向に突出したバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを有している。これにより、閉極動作初期における吸引力を確保することができる。また、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fが固定鉄心8の長手方向であるY方向に延びるように設けられているので、固定鉄心8の各鋼板の可動鉄心7と対向する端面に突出形状を加工する必要がない。よって、各鋼板の製造が容易である。さらに、各鋼板に突出形状が無いので、各鋼板を積層して固定鉄心8を製造する際に位置決めが容易であり、固定鉄心8の製造が容易である。すなわち、実施の形態1に係る開閉器100は製造性が良い。
【0050】
バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを設けて閉極動作初期に可動鉄心7に働く吸引力を増大させることで、材料の使用量の低減および電源容量の低減を実現できる。直流電磁石の場合、可動鉄心7に働く吸引力は可動鉄心7および固定鉄心8の磁束に対して垂直となる断面積に比例することから、吸引力が増加する分だけ可動鉄心7および固定鉄心8の断面積を小さくすることで材料の使用量を低減できる。また、可動鉄心7の吸引力が増加する分だけコイル9の巻数を減らすことで材料の使用量を低減できる。また、可動鉄心7の吸引力が増加する分だけ、電流を小さくすることで電源容量を低減できる。
【0051】
複数の鋼板の積層方向であるX方向において複数の鋼板のうちバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを形成する第1の鋼板20が最も外側に配置されていることで、可動鉄心吸着面41がバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fに接触しにくい。これより、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fが可動鉄心吸着面41に接触して破損してしまう可能性を低くすることができる。
【0052】
固定鉄心吸着面31とバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを形成する第1の鋼板20との距離L5は、固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41との距離L2と同じであることで、固定鉄心8と可動鉄心7との間に磁束が流れる際にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを経由して磁束がより流れやすくなる。これにより、閉極動作初期における吸引力をより大きくすることが可能である。
【0053】
可動鉄心7の変位方向であるZ方向における第1の鋼板20の全体長が、Z方向における第2の鋼板21の全体長より長いことで、固定鉄心8の製造時にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを形成するための位置決めが容易である。例えば、第2の鋼板21の全体長に比べて第1の鋼板20の全体長が長いと、+Z方向側の端面で各鋼板の位置決めをすることで、第2の鋼板21よりも第1の鋼板20が-Z方向側に突出するため位置決めが容易である。また、一方の端面で各鋼板の位置決めをすることにより、固定鉄心8のその一方の端面が平滑な面になり、他部品との組み立て等が容易になる。
【0054】
複数の鋼板の積層方向であるX方向における固定鉄心吸着面31の長さL3は、X方向における可動鉄心吸着面41の長さL4より長いことで、吸着状態において可動鉄心7の側面と固定鉄心8のバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fとの間に隙間ができる。よって、固定鉄心8と可動鉄心7の位置決めに高い精度を必要としない。また、製造のばらつきまたは開極動作および閉極動作によって可動鉄心7の位置がX方向にずれても、可動鉄心7とバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fとが接触しにくい。
【0055】
開閉器100は、可動鉄心7の変位方向をZ方向、Z方向に対して垂直な方向である固定鉄心8の複数の鋼板の積層方向をX方向、Z方向およびX方向に対して垂直な方向をY方向と定義した場合に、Y方向が重力方向になるように設置される。バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fは、鋼板の積層方向に対して垂直な方向であるY方向に延びるように設けられている。よって、重力の影響によって重力方向に可動鉄心7の位置がずれたとしても、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fが可動鉄心7と接触する可能性は低い。
【0056】
また、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30FをZ方向に延びるように+X方向、-X方向側にバイパス部を設けたことにより、YZ平面において固定鉄心吸着面31とバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fとによって凹凸形状は形成されない。例えば、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30FをZ方向に延びるように+X方向、-X方向側に設けた場合、YZ平面において固定鉄心吸着面31とバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fとによって凹凸形状が形成され、Y方向を重力方向とすると、この凹凸形状が形成されていることによって固定鉄心吸着面31に異物が噛みこむ恐れがある。バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30FをZ方向に延びるように+X方向、-X方向側に設けたことにより、固定鉄心吸着面31に異物が噛みこむ可能性を低くできる。
【0057】
また、可動接点16A、16Bの変位方向であるZ方向に対して垂直な方向であるY方向を重力方向としたことにより、異物が重力方向に落下しても固定接点15A、15Bおよび可動接点16A、16Bに異物が付着しにくい。
【0058】
実施の形態1では、複数の鋼板を積層して固定鉄心8を形成したが、例えば、鉄材を切削加工等で削り出して固定鉄心8を形成してもよい。
【0059】
実施の形態1では、鉄材を切削加工等で削り出して可動鉄心7を形成したが、複数の鋼板を積層して可動鉄心7を形成してもよい。
【0060】
実施の形態1では、第1の鋼板20の変位方向における全体長は、第2の鋼板21の変位方向における全体長より長いが、第1の鋼板20の変位方向における全体長は第2の鋼板21の変位方向における全体長と同じでもよい。また、第1の鋼板20のみで積層して鉄心を形成してもよい。その場合、例えば、吸着面を形成する面に対して鋼板を変位方向にずらして配置し、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを形成する。
【0061】
実施の形態1では、可動鉄心7および固定鉄心8を鉄製としたが、例えば、ケイ素等を含む電磁鋼あるいは鉄以外の磁性材料を使用してもよい。
【0062】
実施の形態1では、E字形状の可動鉄心7および固定鉄心8を用いたが、例えばI字形状やU字形状の可動鉄心7および固定鉄心8を用いてもよい。ここで、実施の形態1と同様に、I字形状やU字形状では、対となる2つの鉄心の少なくとも一方の鉄心における脚部の少なくとも1つにバイパス部を有する。例えば、I字形状の鉄心では変位方向に延びる1つの脚があり、その脚にバイパス部を有する。また、例えば、U字形状の鉄心では変位方向に延びる2つの脚があり、その脚の少なくとも1つにバイパス部を有する。
【0063】
実施の形態1では、固定鉄心8にコイル9を装着したが、可動鉄心7にコイル9を装着してもよい。また、可動鉄心7および固定鉄心8の両方にコイル9を装着してもよい。
【0064】
実施の形態1では、固定鉄心8の中央脚8Aのみにコイル9を設けたが、例えば、端脚のどちらか1つまたは端脚のどちらともに設けてもよい。つまり、鉄心の脚の少なくとも1つ以上にコイル9を設けてもよい。
【0065】
実施の形態1では、コイル9に電圧を印可することで磁束を発生させたが、コイル9以外の磁束発生手段を用いて磁束を発生させてもよい。例えば、永久磁石を用いてもよい。
【0066】
可動鉄心7が固定鉄心8に吸着しているときの異音を防止するため、固定鉄心8にクマトリコイルが組み込まれていてもよい。
【0067】
実施の形態1では、固定鉄心8にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを設けたが、可動鉄心7にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを設けてもよい。すなわち、バイパス部を有する第1の鉄心として可動鉄心7を、第2の鉄心として固定鉄心8を備えた開閉器であってもよい。また、固定鉄心8と可動鉄心7の両方にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを設けてもよい。この場合は、固定鉄心8のバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fと可動鉄心7の30A、30B、30C、30D、30E、30Fとが互いに接触しないように設計することが好ましい。
【0068】
実施の形態1では、複数の鋼板の積層方向であるX方向において複数の鋼板のうちバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを形成する第1の鋼板20を最も外側に配置した。しかし、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを形成する第1の鋼板20は必ずしも最も外側でなくてもよく、より内側に配置されていてもよい。
【0069】
実施の形態1では、バイパス部30A、30B、30Cおよびバイパス部30D、30E、30Fを第1の鋼板20の1つで形成したが、積層方向において第1の鋼板20にさらに鋼板を積層してバイパス部30A、30B、30Cおよびバイパス部30D、30E、30Fを形成してもよい。これにより、複数の鋼板で形成されるバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fはより強度を確保することが可能である。
【0070】
また、実施の形態1では、複数の鋼板の積層方向であるX方向における第1の鋼板20の厚さと第2の鋼板21の厚さを同じにしたが、積層方向における第1の鋼板20の厚さは、積層方向における第2の鋼板21の厚さより厚くしてもよい。これにより、厚さが厚い第1の鋼板20で形成されるバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fはより強度を確保することが可能である。
【0071】
実施の形態1では、バイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fが固定鉄心8の中央脚8Aおよび端脚8B、8Cのすべてに設けられているが、固定鉄心8の中央脚8Aおよび端脚8B、8Cの少なくともいずれか1つに設けられていれば一定の効果は得られる。
【0072】
実施の形態1では、複数の鋼板の積層方向であるX方向における固定鉄心吸着面31の長さL3は、X方向における可動鉄心吸着面41の長さL4より長い。しかし、X方向における固定鉄心吸着面31の長さL3は、X方向における可動鉄心吸着面41の長さL4と同じであれば開閉器100は動作可能である。すなわち、複数の鋼板の積層方向であるX方向における固定鉄心吸着面31の長さL3は、X方向における可動鉄心吸着面41の長さL4以上であればよい。
【0073】
実施の形態1では、開極状態の特にコイル9に無通電の状態において、固定鉄心吸着面31と第1の鋼板20との距離L5は、固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41との距離L2と同じである。しかし、固定鉄心吸着面31と第1の鋼板20との距離L5は、固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41との距離L2より長くても同様の効果が得られる。すなわち、固定鉄心吸着面31と第1の鋼板20との距離L5は、固定鉄心吸着面31と可動鉄心吸着面41との距離L2以上であればよい。
【0074】
実施の形態1では、Y方向が重力方向となるように開閉器100を設置したが、設置の仕様や開閉器100を取り付けた装置の状態によって、Y方向以外の方向が重力方向になるように開閉器100を設置してもよい。例えば、X方向やZ方向、その他の方向を重力方向としてもよい。
【0075】
実施の形態2.
次に、実施の形態2について説明する。
図8は実施の形態2に係る開極状態での電磁石部51を示す斜視図である。なお、実施の形態1と同一の構成には同一符号を付してその説明を省略する。
【0076】
実施の形態2の開閉器200は、固定鉄心81の-X方向側にのみバイパス部35A、35B、35Cを設けている点が実施の形態1と相違している。
【0077】
実施の形態2の開閉器200は、固定鉄心81の-X方向側のみにバイパス部35A、35B、35Cを設けたことで、固定鉄心8の+X方向側および-X方向側にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを設けた実施の形態1の開閉器100と比べて、バイパス部35A、35B、35Cと可動鉄心7との干渉を避けるための固定鉄心81と可動鉄心7の位置決めの精度がより低くてもよい。よって、製造がより容易になる。
【0078】
一般的に、電磁石部50、51を設計する際には、各鋼板の板厚のばらつきや固定鉄心8、81と可動鉄心7の位置決め精度等を考慮して公差設計する必要がある。実施の形態1の開閉器100は、固定鉄心8の+X方向側および-X方向側にバイパス部30A、30B、30C、30D、30E、30Fを設けているため、-X方向側のバイパス部30A、30B、30Cと+X方向側のバイパス部30D、30E、30Fの両方を考慮して電磁石部50の寸法等を設計する必要がある。一方、実施の形態2の開閉器200は、固定鉄心81の-X方向側のみにバイパス部35A、35B、35Cを設けたことで、-X方向側のバイパス部30A、30B、30Cのみを考慮して電磁石部51の寸法等を設計すればよい。そのため、公差による電磁石部51の寸法拡大を抑えることができる。
【0079】
実施の形態1の開閉器100を+X方向に重力が働くように設置する場合において、重力の影響によって可動鉄心7の位置が+X方向にずれると、可動鉄心7がバイパス部30D、30E、30Fと意図せず接触する恐れがある。しかし、実施の形態2の開閉器200は、-X方向側のみにバイパス部35A、35B、35Cを設けたことで、重力の影響によって可動鉄心7の位置が+X方向にずれたとしても、可動鉄心7とバイパス部35A、35B、35Cが干渉することを回避することができる。
【0080】
なお、実施の形態2では、固定鉄心81の-X方向側のみにバイパス部35A、35B、35Cを片側だけに設けたが、固定鉄心81の+X方向側のみにバイパス部を設けてもよい。
【0081】
実施の形態3.
次に、実施の形態3について説明する。
図9は実施の形態3に係る開極状態での電磁石部52の積層構造を示す側面図である。なお、実施の形態1と同一の構成には同一符号を付してその説明を省略する。
【0082】
実施の形態3の開閉器300は、固定鉄心82を形成するために、第1の鋼板20と第2の鋼板21に加えて、さらに第3の鋼板22も使用する点が実施の形態1と相違している。第3の鋼板22の変位方向の全体長は、第1の鋼板20の変位方向の全体長より短く、第2の鋼板21の変位方向の全体長より長い。また、第3の鋼板22と可動鉄心7との距離は、第1の鋼板20と可動鉄心7との距離より長く、第2の鋼板21と可動鉄心7との距離より短い。第3の鋼板22は、第1の鋼板20と第2の鋼板21の間に配置される。これにより、固定鉄心82には階段状にバイパス部が形成される。
【0083】
実施の形態3の開閉器300は、固定鉄心82の複数の板は、第3の鋼板22を含み、第3の鋼板22と可動鉄心7との距離は、第1の鋼板20と可動鉄心7との距離より長く、第2の鋼板21と可動鉄心7との距離より短いことで、バイパス部が階段状に設けられる。これにより、可動鉄心7が固定鉄心吸着面36に近づくにつれて段階的に吸引力を増加させることが可能である。
【0084】
なお、実施の形態3では、第1の鋼板20、第2の鋼板21および第3の鋼板22の合計3種類の鋼板で固定鉄心82を形成したが、4種類以上の鋼板で固定鉄心82を形成してもよい。
【0085】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0086】
(付記1)
第1の方向に複数の板を積層して形成された第1の鉄心と、
前記第1の鉄心の端面と対向して設けられた第2の鉄心と、を備え、
前記第2の鉄心は、磁力によって前記第1の鉄心に対して相対的に変位し、
前記複数の板は、第1の板と第2の板とを含み、
閉極動作前、前記第1の板と前記第2の鉄心との距離は前記第2の板と前記第2の鉄心との距離より短い開閉器。
(付記2)
前記閉極動作前、前記第1の板と前記第2の鉄心との距離は、前記複数の板に含まれる各板と前記第2の鉄心との距離のうち最も短いことを特徴とする付記1に記載の開閉器。
(付記3)
前記第1の板は、前記複数の板のうち最も外側に配置されていることを特徴とする付記1または付記2に記載の開閉器。
(付記4)
前記閉極動作前、前記第2の鉄心の吸着面が形成される面と前記第1の板との距離は、前記第1の鉄心の吸着面が形成される面と前記第2の鉄心の吸着面が形成される面との距離以下であることを特徴とする付記1から付記3のいずれか1項に記載の開閉器。
(付記5)
前記第1の鉄心は、前記第1の鉄心の吸着面が形成される面に対して前記第2の鉄心側に突出しているバイパス部を有し、
前記第1の方向における前記バイパス部の厚さは、前記第1の方向における前記第2の板の厚さより厚いことを特徴とする付記1から付記4のいずれか1項に記載の開閉器。
(付記6)
前記第2の鉄心の変位方向における前記第1の板の全体長は、前記変位方向における前記第2の板の全体長より長いことを特徴とする付記1から付記5のいずれか1項に記載の開閉器。
(付記7)
前記第1の方向における前記第1の鉄心の吸着面が形成される面の長さは、前記第1の方向における前記第2の鉄心の吸着面が形成される面の長さ以上であることを付記1から付記6のいずれか1項に記載の開閉器。
(付記8)
前記第1の鉄心の吸着面が形成される面は、前記第2の板で形成されていることを特徴とする付記1から付記7のいずれか1項に記載の開閉器。
(付記9)
前記複数の板は、第3の板を含み、
前記閉極動作前、前記第3の板と前記第2の鉄心との距離は、前記第1の板と前記第2の鉄心との距離より長く、前記第2の板と前記第2の鉄心との距離より短いことを特徴とする付記1から付記8のいずれか1項に記載の開閉器。
(付記10)
前記第2の鉄心の変位方向に対して垂直な方向は前記第1の方向であることを特徴とする付記1から付記9のいずれか1項に記載の開閉器。
(付記11)
前記変位方向および前記第1の方向に対して垂直な方向は、重力方向であることを特徴とする付記10に記載の開閉器。
(付記12)
前記第1の鉄心は固定鉄心であり、前記第2の鉄心は可動鉄心であることを特徴とする付記1から付記11のいずれか1項に記載の開閉器。
【符号の説明】
【0087】
1 トップケース、2 ボトムケース、3 筐体、4 可動接触子、5A,5B 固定接触子、6 接圧ばね、7 可動鉄心、7A 中央脚、7B,7C 端脚、8,81,82 固定鉄心、8A 中央脚、8B,8C 端脚、9 コイル、10 コイルボビン、11 開放ばね、12 クロスバー、13A,13B,13C,13D リベット、14 可動側ピン、15A,15B 固定接点、16A,16B 可動接点、20 第1の鋼板、21 第2の鋼板、22 第3の鋼板、30A,30B,30C,30D,30E,30F,35A,35B,35C バイパス部、31,36 固定鉄心吸着面、32A,32B 固定鉄心端面、33A,33B バイパス部内側、34A,34B バイパス部先端、41 可動鉄心吸着面、42A,42B 可動鉄心端面、50,51,52 電磁石部、60A,60B,60C,601A,601B,601C,602A,602B,602C 磁束、70,80 曲線、100,200,300 開閉器